特許第6553092号(P6553092)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6553092
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】脳がんを治療するための化合物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4184 20060101AFI20190722BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20190722BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20190722BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20190722BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20190722BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20190722BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20190722BHJP
   A61K 31/55 20060101ALI20190722BHJP
   A61K 31/502 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   A61K31/4184
   A61P35/00
   A61P35/04
   A61P25/00
   A61K45/00
   A61P43/00 111
   A61K39/395 T
   A61P43/00 121
   A61K31/55
   A61K31/502
【請求項の数】19
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-569405(P2016-569405)
(86)(22)【出願日】2015年3月26日
(65)【公表番号】特表2017-516781(P2017-516781A)
(43)【公表日】2017年6月22日
(86)【国際出願番号】EP2015056667
(87)【国際公開番号】WO2015180865
(87)【国際公開日】20151203
【審査請求日】2018年3月26日
(31)【優先権主張番号】1409471.8
(32)【優先日】2014年5月28日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】599108792
【氏名又は名称】ユーロ−セルティーク エス.エイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・メーリング
(72)【発明者】
【氏名】クラウディオ・フェストゥッチャ
【審査官】 磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/040286(WO,A1)
【文献】 特表2012−515776(JP,A)
【文献】 J Neurooncol, 2014/3, Vol.118, p.155-162
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/4184
A61K 31/502
A61K 31/55
A61K 39/395
A61K 45/00
A61P 25/00
A61P 35/00
A61P 35/04
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MGMT陽性星細胞系脳腫瘍、転移性脳がん及び原発性CNSリンパ腫から選択される脳がんの治療のための式I
【化1】
の化合物又は薬理学的に許容されるその塩を含む組成物
【請求項2】
MGMT陽性多形性神経膠芽細胞腫の治療のための式I
【化2】
の化合物又は薬理学的に許容されるその塩を含む組成物
【請求項3】
MGMT陽性星細胞系脳腫瘍が、びまん性(WHOグレードII)星細胞腫、及び退形成(WHOグレードIII)星細胞腫から選択される、請求項1に記載の組成物
【請求項4】
転移性脳がんが、転移した乳がん、転移した全身性リンパ腫、転移した肺がん、転移した黒色腫、転移した肉腫及び転移した胃腸がんから選択される、請求項1に記載の組成物
【請求項5】
転移性脳がんが、転移した乳がんである、請求項1に記載の組成物
【請求項6】
薬理学的に許容される式Iの化合物の塩が、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硫酸水素塩、スルファミン酸塩、硝酸塩、リン酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、トリフルオロ酢酸塩、グルタミン酸塩、グルクロン酸塩、グルタル酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、トシル酸塩、サリチル酸塩、乳酸塩、ナフタレンスルホン酸塩又は酢酸塩である、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物
【請求項7】
それを必要とする患者に、0.1mg/kg〜70mg/kg患者体重の投薬量レベルで静脈内に投与することに適合させた、請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物
【請求項8】
それを必要とする患者に、0.5mg/kg〜50mg/kg患者体重の投薬量レベルで静脈内に投与することに適合させた、請求項7に記載の組成物
【請求項9】
それを必要とする患者に、治療サイクルの1日目、8日目及び15日目、治療サイクルの1日目及び8日目、又は治療サイクルの1日目のみに静脈内に投与することに適合させた、請求項7又は請求項8に記載の組成物
【請求項10】
それを必要とする患者が、前記組成物を用いた前記脳がんの治療の前又は後のいずれかに放射線療法を受ける、脳がんの治療のための請求項1から9のいずれか一項に記載の組成物
【請求項11】
それを必要とする患者が、前記組成物を用いた前記脳がんの治療の前に放射線療法を受ける、脳がんの治療のための請求項10に記載の組成物
【請求項12】
それを必要とする患者が、式Iの化合物又は薬理学的に許容されるその塩及び放射線療法で治療される、脳がんの治療のための請求項1から9のいずれか一項に記載の組成物
【請求項13】
放射線療法の治療が、1〜5Gyの用量で5日間連続して、好ましくは2Gyで5日間連続して提供される、請求項10から12のいずれか一項に記載の組成物
【請求項14】
治療が、血管内皮成長因子(VEGF)阻害剤の投与を更に含み、式Iの化合物又は薬学的に許容されるその塩及び血管内皮成長因子(VEGF)阻害剤が同時、逐次、又は別々に投与され得る、脳がんの治療のための請求項1から13のいずれか一項に記載の組成物
【請求項15】
前記血管内皮成長因子(VEGF)阻害剤が、ベバシズマブである、請求項14に記載の組成物
【請求項16】
治療が、ポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)阻害剤の投与を更に含み、式Iの化合物又は薬学的に許容されるその塩及びポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)阻害剤が同時、逐次、又は別々に投与され得る、脳がんの治療のための請求項1から13のいずれか一項に記載の組成物
【請求項17】
前記ポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)阻害剤が、ルカパリブ、オラパリブ及びベリパリブから選択される、請求項16に記載の組成物
【請求項18】
治療が、PD-1/PDL-1(免疫チェックポイント)阻害剤の投与を更に含み、式Iの化合物又は薬学的に許容されるその塩及びPD-1/PDL-1(免疫チェックポイント)阻害剤が同時、逐次、又は別々に投与され得る、脳がんの治療のための請求項1から13のいずれか一項に記載の組成物
【請求項19】
前記PD-1/PDL-1(免疫チェックポイント)阻害剤が、イピリムマブである、請求項18に記載の組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、これまで特に治療に耐性のあった脳がん、すなわち、星細胞系脳腫瘍、転移したがんである脳がん、及び原発性CNSリンパ腫の新規の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
がんは、最も生命を脅かす疾患の1つである。がんは、身体の一部の細胞が制御不能に増殖する状態である。米国がん協会の最新データによれば、2014年の米国における新たながん患者は167万人存在したと推定される。がんは米国における死亡原因の第2位であり(心臓疾患に次ぐ)、2014年にはがんで585,000人超の生命が奪われたと推定される。実際、米国に住む全男性の50%及び全女性の33%が生涯に何らかのタイプのがんになると推定される。従って、がんは米国において、公衆衛生において大きな負担を占め、大変なコストとなっている。これらの数字は、全世界規模で他のほとんどの国でも同様であるが、がんのタイプ及びがんにかかっている人口の相対的割合は、遺伝子及び食事を含む多くの種々の因子によって様々である。
【0003】
世界保健機関(WHO)は、原発性脳腫瘍を4つのカテゴリーに分類している。WHOグレードI及びIIは低グレード神経膠腫であり、退形成星細胞腫及び退形成乏突起膠腫(WHOグレードIII)に加え神経膠芽細胞腫(GBM)(WHOグレードIV)は、総称して悪性神経膠腫と称される。有効な治療剤が欠如しているため、ほとんどの原発性及び続発性脳腫瘍の予後は極めて悪い。これらは、小児における固形腫瘍による死亡原因の第1位であり、15〜34才の青年及び成人におけるがんによる死亡原因の第3位である(Jemalら、CA Cancer J Clin 59巻 2009年 225〜249頁)。
【0004】
悪性神経膠腫の中で、GBMは最も一般的且つ致命的な新生物であり、全ての神経膠腫のおよそ50%に相当する。GBMは非常に悪い予後を有するため、新規の治療方針の必要性が際立っている。手術の後にアルキル化剤であるテモゾロミド(TMZ)及び放射線療法の併用療法を行うのが、GBMを患う患者のための標準的治療である。TMZの主要な作用機構は、DNA塩基、特にDNAのO6-メチルグアニンの異常なメチル化によって開始する(Verbeekら、Br Med Bul、85巻、2008年、17〜33頁)。しかし、多くの患者が抵抗性であるか、又はTMZに対して弱い反応を示すのみであり、これは、O6-メチルグアニン-DNAメチルトランスフェラーゼ(MGMT)が媒介するミスマッチ修復(MMR)によって付与されたものであることが示されている(Wellerら、Nat Rev Neurol、6巻、2010年、39〜51頁を参照されたい)。この修復系を有する患者は、「MGMT陽性GBM」を有する。mTOR/DNAPKC経路の活性化もまた関与していると考えられている。MGMT陽性GBMに対して活性を有する化学療法剤は、これまでのところ開発されていない。MGMTの活性は、他の星細胞系脳腫瘍、すなわち、びまん性星細胞種(WHOグレードII)及び退形成星細胞腫(WHOグレードIII)においても重要である。これらのGBMへの進行は、主にMGMTによるメチル化によって媒介される。従って、MGMT陽性星細胞腫に対して活性を有する治療剤は、これらのびまん性及び退形成星細胞腫がGBMへと進行するのを防ぐ上で望ましいであろうと考えることができる。
【0005】
従って、MGMT陰性GBMに対してのみならずMGMT陽性GBM(加えて他の星細胞系脳腫瘍)に対しても優れた抗新生物性の活性を有し、優れたCNS透過を示し、許容できる毒性プロファイルを有する新規の治療剤を緊急に開発することが不可欠である。
【0006】
転移性脳腫瘍は、身体の他の部位のがんとして始まり、脳へと広がる。乳がん、肺がん、黒色腫、大腸がん及び腎臓がんは、通常転移する。転移性脳腫瘍は、しばしば原発性腫瘍の前に発見される。転移性脳腫瘍は、成人における全ての脳腫瘍のうち、最も一般的なものである。毎年最大170,000件の新たな症例があり得ると推定される。転移性脳がんの予後は、GBMよりは少々良好ではあるが、一般的には不良である。ここでもまた、手術、療法及び化学療法の組合せが採用されるが、これらの選択肢の中からの的確な組合せは、転移性がんの性質及び進行のステージ(加えて患者の健康状態)に依存する。手術(可能な場合)及び放射線療法が、適用される標準的治療である。時として化学療法が用いられる。残念ながら、これまでのところ大きな成果を上げているものはない。この理由は、一部には、化学療法剤が優れたCNS透過を(加えて、もちろん、優れた抗新生物活性及び許容できる毒性プロファイルも)示す必要があるからである。多くの既存の化学療法剤が示す血液脳関門の透過は不十分である。これらの問題に対処する新規の治療剤が緊急に必要とされている。
【0007】
原発性中枢神経系(CNS)リンパ腫はリンパ球で発生するが、その位置が脳内のみであり且つ治療上の諸難題が他の脳腫瘍に似ているため、脳腫瘍とみなすべきである。特に、薬物送達が血液脳関門によって損なわれ、且つ脳毒性が現状の治療での使用を制限している。ほとんどのCNSリンパ腫は、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫である(約90%)。これは相対的には稀であるが、発生率及び罹患率は増加している。現状、既存の治療体制での生存率中央値は、44か月である。この状態に対する特に有効な治療体制は、まだ確立されていない。現状の好ましい化学療法剤は、メトトレキセートである。しかし、その血液脳関門の透過は満足のいくものではなく、非常に高用量で投与しなければならない。放射線療法との併用療法は成果を改善することができるが、副作用が非常に深刻なものとなり得る。従って、より高い血液脳関門の透過能力を有し、原発性CNSリンパ腫に対して優れた抗新生物活性も示す、改善された化学療法剤が必要とされている。
【0008】
WO-A-2010/085377において、下記の式Iの化合物が開示されている。これは、HDAC経路を強力に阻害する、ファーストインクラスの二重機能性アルキル化HDACi融合分子である。
【0009】
【化1】
【0010】
生物学的アッセイでは、式Iの化合物がクラス1及びクラス2のHDAC酵素(例えば、9nMのHDAC1 IC50)を強力に阻害し(例えば、9nMのHDAC1 IC50)、複数の骨髄腫細胞株に対して優れたin vitro活性を有することが示された。その上、式Iの化合物は、おそらくはHDAC6及びHDAC8阻害に関連するFANCD2、BRCA1、BRCA2、及びTS(チミジル酸シンテターゼ)の著しい下方制御によりDNA修復を抑制する。NCI-60細胞株における細胞毒性アッセイでは、式Iの化合物の中央値IC50はベンダムスチンの72μMに比して2.2μMであり、非常に強力な抗がん活性を有することが示された。WO-A-2013/113838には、式Iの化合物(本明細書中ではNL-101と称される)の、一部の神経膠芽細胞腫細胞株を含めた複数の細胞株に対する活性を実証するデータが含まれている。しかし、該当する細胞株の各々は、MGMT陰性GBM腫瘍細胞株である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO-A-2010/085377
【特許文献2】WO-A-2013/113838
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Jemalら、CA Cancer J Clin 59巻 2009年 225〜249頁
【非特許文献2】Verbeekら、Br Med Bul、85巻、2008年、17〜33頁
【非特許文献3】Wellerら、Nat Rev Neurol、6巻、2010年、39〜51頁
【非特許文献4】E. W. Martin「Remington's Pharmaceutical Sciences」
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様において、MGMT陽性星細胞系脳腫瘍、転移性脳がん及び原発性CNSリンパ腫から選択される脳がんの治療で使用するための、式I:
【0014】
【化2】
【0015】
の化合物又は薬理学的に許容されるその塩が提供される。
【0016】
式Iの化合物は、in vitro及びin vivoの前臨床試験において、MGMT陰性GBM腫瘍に対してのみならず、MGMT陽性GBM腫瘍に対しても活性を有することが示された。このことから、他のMGMT陽性星細胞系腫瘍に対しても活性を有するであろうと予想することもできる。また、式Iの化合物は、血液脳関門を非常に良く透過することができ、それにより、MGMT陽性星細胞系腫瘍の治療的使用のみならず、他の脳腫瘍の治療的使用にも理想的であることが見出された。特に、転移性脳がんに対しても原発性CNSリンパ腫に対しても非常に良好な活性を有することが、更に見出された。
【0017】
本発明の第2の態様において、MGMT陽性星細胞系脳腫瘍、転移性脳がん及び原発性CNSリンパ腫から選択される脳がんの治療のための医薬の製造における、式Iの化合物又は薬理学的に許容されるその塩の使用が提供される。
【0018】
本発明の第3の態様において、それを必要とする患者における、MGMT陽性星細胞系脳腫瘍、転移性脳がん及び原発性CNSリンパ腫から選択される脳がんを治療する方法であって、式Iの化合物又は薬理学的に許容されるその塩を前記患者に投与することを含む方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】脳脊髄液及び血液におけるEDO-S101濃度(μM)対時間のプロットである。
図2】テモゾロミド投与後の12種の被試験GBM細胞株のIC50のプロットである。
図3】テモゾロミド及びボリノスタット投与後の12種の被試験GBM細胞株のIC50のプロットである。
図4】ベンダムスチン投与後の12種の被試験GBM細胞株のIC50のプロットである。
図5】ベンダムスチン及びボリノスタット投与後の12種の被試験GBM細胞株のIC50のプロットである。
図6】12種の被試験細胞株の各々についての、EDO-S101の濃度(μM)に対する細胞生存のパーセンテージのプロットである。
図7a】注射後のGBM12細胞の成長尺度としての、時間に対する発光のプロットである。
図7b】ベンダムスチン及び対照に対してEDO-S101の生存が延長されたことを示す、パーセント生存対時間のプロットである。
図8】EDO-S101で治療された移植U251腫瘍を有するマウスにおける、時間に対する無進行期間(TTP)確率(%)のプロットである。
図9】EDO-S101で治療された移植U87腫瘍を有するマウスにおける、時間に対する無進行期間(TTP)確率(%)のプロットである。
図10】放射線療法単独、放射線療法及び2.5μMのEDO-S101(図ではNL-101として示されている)、並びに5μMのEDO-S101で処理したU251、U87及びT98G細胞についての、放射線療法の用量(Gy)に対する生残率のプロットである。
図11】対照、放射線療法及びEDO-S101で治療された移植U251腫瘍を有するマウスにおける、時間に対する無進行期間(TTP)確率(%)のプロットである。
図12】対照、放射線療法及びテモゾロミド、EDO-S101、並びに放射線療法及びEDO-S101で治療された移植U251腫瘍を有するマウスにおける、時間に対する無進行期間(TTP)確率(%)のプロットである。
図13】対照、放射線療法及びEDO-S101で治療された移植U87腫瘍を有するマウスにおける、時間に対する無進行期間(TTP)確率(%)のプロットである。
図14】対照、放射線療法及びテモゾロミド、EDO-S101、並びに放射線療法及びEDO-S101で治療された移植U87腫瘍を有するマウスにおける、時間に対する無進行期間(TTP)確率(%)のプロットである。
図15】対照ビヒクル、EDO-S101、テモゾロミド、並びに放射線療法及びテモゾロミドで治療した後の、同所性ルシフェラーゼ遺伝子導入U251 GBMマウスの生物発光画像である。
図16】対照ビヒクル、EDO-S101、テモゾロミド、並びに放射線療法及びテモゾロミドで治療した後の、同所性ルシフェラーゼ遺伝子導入U251 GBMマウスの生物発光画像である。
図17】対照ビヒクル、放射線療法、EDO-S101、テモゾロミド、並びに放射線療法及びテモゾロミドで治療した後の、同所性ルシフェラーゼ遺伝子導入U251 GBMマウスにおける、時間に対する生存確率(%)のプロットである。
図18】対照、ベンダムスチン及びEDO-S101で治療された移植OCI-LY10 CNSリンパ腫を有するマウスにおける、時間に対するパーセント生存のプロットである。
図19】MB-468乳がん細胞で遺伝子導入後トリプルネガティブ転移性乳がんを脳に有し、それを対照、ベンダムスチン及びEDO-S101で治療されたマウスにおける、時間に対するパーセント生存のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明において、複数の一般的な用語及びフレーズが用いられているが、それらは以下のように解釈すべきである。
【0021】
星細胞系腫瘍は、脳における星形のグリア細胞(星細胞)に由来する腫瘍である。これは、低グレード(I及びII)並びに高グレード(III及びIV)に分けられる。グレードII星細胞系腫瘍は、びまん性星細胞腫として知られる。これは相対的に成長が遅いが、原発性悪性腫瘍に発達し得る。グレードIII星細胞系腫瘍は、退形成星細胞腫として知られる。これは悪性腫瘍であり、より急速に成長し、付近の健康な組織に浸潤する傾向がある。グレードIV星細胞系腫瘍は、多形性神経膠芽細胞腫(GBM)として知られる。これは高度に悪性であり、急速に成長し、付近の組織に容易に広がるものであり、従来の治療法を用いて治療することは非常に困難である。
【0022】
現状の標準的な化学療法の治療は、テモゾロミド(TMZ)を用いる。しかし、多くの患者は抵抗性であるか、又は弱い反応を示すのみであり、これは、O6-メチルグアニン-DNAメチルトランスフェラーゼ(MGMT)が媒介するミスマッチ修復(MMR)によって付与さたものであることが示されている(Wellerら、Nat Rev Neurol、6巻、2010年、39〜51頁を参照されたい)。この修復系を有する患者は、「MGMT陽性GBM」を有する。従って、GBMは、MGMT遺伝子を発現するかどうかに応じて、MGMT陰性GBM及びMGMT陽性GBMに分けられる。本発明の式Iの化合物又は薬理学的に許容されるその塩は、MGMT陰性GBMに対してのみならずMGMT陽性GBMに対しても活性を有することが示されている。
【0023】
MGMTの活性は、他の星細胞系脳腫瘍、すなわちびまん性星細胞腫(WHOグレードII)及び退形成星細胞腫(WHOグレードIII)においても重要である。これらのGBMへの進行は、主にMGMTによるメチル化によって媒介される。従って、式Iの化合物及び薬理学的に許容されるその塩がMGMT陽性星細胞腫に対して活性を有するため、これらのびまん性及び退形成星細胞腫がGBMへと進行するのを防ぐことも可能であろうと考えることができる。
【0024】
転移性脳腫瘍は、身体の他の部位のがんとして始まり、脳へと広がる脳腫瘍である。乳がん、肺がん、黒色腫、全身性リンパ腫、肉腫、大腸がん、胃腸がん及び腎臓がんは、通常転移する。
【0025】
本発明の文脈における原発性CNSリンパ腫は、脳内のリンパ球において生じるリンパ腫であり、前記リンパ球から形成される悪性細胞である。その位置及び治療上の諸難題が他の脳腫瘍に似ているため、故にそれは脳腫瘍とみなされる。
【0026】
「薬学的に許容される塩」は、上記で定義されるように薬学的に許容可能であり、所望の薬理学的活性を有する、本発明の化合物の塩を意味する。そのような塩には、無機酸又は有機酸で形成される酸付加塩が含まれる。薬学的に許容される塩には、存在する酸性プロトンが無機塩基又は有機塩基と反応可能な場合に形成され得る塩基付加塩も含まれる。一般的には、そのような塩は、例えば、水又は有機溶媒又はその2つの混合液中で、この化合物の遊離酸又は遊離塩基の形態を、化学量論的量の適切な塩基又は酸と反応させることによって調製される。一般的には、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール、又はアセトニトリルのような非水性媒体が好ましい。酸付加塩の例としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硫酸水素塩、スルファミン酸塩、硝酸塩、リン酸塩のような鉱酸付加塩、並びに、例えば、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、サリチル酸塩、トシル酸塩、乳酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、リンゴ酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩及びp-トルエンスルホン酸塩のような有機酸付加塩、が挙げられる。アルカリ付加塩の例としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩及びアンモニウム塩のような無機塩、並びに、例えば、エチレンジアミン塩、エタノールアミン塩、N,N-ジアルキレンエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩及び塩基性アミノ酸塩のような有機アルカリ塩、が挙げられる。
【0027】
本発明において、薬理学的に許容される式Iの化合物の塩は、好ましくは、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硫酸水素塩、スルファミン酸塩、硝酸塩、リン酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、トリフルオロ酢酸塩、グルタミン酸塩、グルクロン酸塩、グルタル酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、トシル酸塩、サリチル酸塩、乳酸塩、ナフタレンスルホン酸塩又は酢酸塩であってよく、より好ましくは酢酸塩であってよい。
【0028】
本発明において、式Iの化合物又は薬理学的に許容されるその塩がMGMT陽性星細胞系脳腫瘍の治療に用いられる場合、このMGMT陽性星細胞系脳腫瘍は、好ましくはMGMT陽性多形性神経膠芽細胞腫、びまん性(WHOグレードII)星細胞腫及び退形成(WHOグレードIII)星細胞腫から選択され、最も好ましくはMGMT陽性多形性神経膠芽細胞腫である。
【0029】
本発明において、式Iの化合物又は薬理学的に許容されるその塩が転移性脳がんの治療で使用するためのものである場合、この転移性脳がんは、好ましくは転移した乳がん、転移した全身性リンパ腫、転移した肺がん、転移した黒色腫、転移した肉腫及び転移した胃腸がんから選択され、最も好ましくは転移した乳がんである。
【0030】
本発明の第1、第2及び第3の態様に従って患者に投与する、式Iの化合物又は薬理学的に許容される塩及びそれを含む医薬の治療有効量は、任意の医学的治療に適用できる合理的な利益/リスクの比で、本発明に従った治療効果を治療対象に与える量である。治療効果は、客観的(すなわち、何らかのテスト又はマーカーによって測定可能である)であっても、主観的(すなわち、対象が、効果の兆候を示す、又は効果を感じる)であってよい。本発明に従った式Iの化合物又は薬理学的に許容されるその塩の有効量は、式Iの化合物又は薬理学的に許容されるその塩が、0.1〜70mg/kg患者体重の投薬量範囲(例えば、0.5〜50mg/kg体重、例えば1、5、10、20、30、40又は50mg/kg体重)で含まれるものと考えられる。
【0031】
任意の特定の患者に対する具体的な治療有効用量レベルは、治療する障害及び障害の重症度;用いる具体的な化合物の活性;用いる具体的な組成物;患者の年齢、体重、全体的な健康状態、性別及び食事;投与時間、投与経路、及び用いる具体的な化合物の排泄率;治療持続期間;用いる具体的な化合物と組み合わせて又は同時期に使用する薬物;並びに医学分野で周知の類似因子を含めた、様々な因子に依存する。
【0032】
本発明の第1、第2、及び第3の態様に従った、式Iの化合物又は薬理学的に許容されるその塩及びそれを含む医薬の投与形態の好適な例としては、限定するものではないが、経口、局所、非経口、舌下、直腸内、膣内、眼部、及び鼻腔内が挙げられる。非経口投与には、皮下注射、静脈内、筋肉内、胸骨内の注射又は注入手法が含まれる。好ましくは、式Iの化合物又は薬理学的に許容されるその塩及びそれを含む医薬は、非経口的に投与する、最も好ましくは静脈内に投与する。
【0033】
好ましくは、式Iの化合物又は薬理学的に許容されるその塩は、それを必要とする患者に、0.1mg/kg〜70mg/kg患者体重の、それを必要とする患者にとっての投薬量レベルで静脈内に投与され、最も好ましくは、それを必要とする患者に0.5mg/kg〜50mg/kg患者体重の投薬量レベルで静脈内に投与される。
【0034】
本発明の第1、第2及び第3の態様において、式Iの化合物若しくは薬理学的に許容されるその塩又はそれを含む医薬は、それを必要とする患者に、治療サイクルの1日目、8日目及び15日目、治療サイクルの1日目及び8日目、又は治療サイクルの1日目のみに好ましくは投与できることが見出された。
【0035】
本発明の第1、第2及び第3の態様の別の好ましい実施形態において、驚くべきことに、式Iの化合物及び薬理学的に許容されるその塩は、放射線療法と組み合わせて投与する場合、相当により有効であり、in vitro及びin vivoの両方の研究において実際に放射線療法と相乗性を有すると思われることが見出された。結果として、本発明の第1、第2及び第3の態様において、式Iの化合物若しくは薬理学的に許容されるその塩又はそれを含む医薬は、それを必要とする患者が、式Iの化合物若しくは薬理学的に許容されるその塩又はそれを含む医薬を用いた脳がんの治療の前又は後のいずれかに放射線療法も受ける場合に、それを必要とする患者の治療に使用することができる。好ましくは、患者は、式Iの化合物若しくは薬理学的に許容されるその塩又はそれを含む医薬を用いた治療の前に、放射線療法の治療を受ける。放射線療法は、1〜5Gyの用量で5日間連続して、好ましくは2Gyの用量で5日間連続して受けることができる。
【0036】
本発明の第1、第2及び第3の態様の更に好ましい一実施形態において、治療は、それを必要とする患者に血管内皮成長因子(VEGF)阻害剤及び式Iの化合物又は薬理学的に許容されるその塩を投与することを更に含み、血管内皮成長因子(VEGF)阻害剤が同時、逐次、又は別々に投与され得、好ましくは同時に投与され得る。好ましくは、血管内成長因子(VEGF)阻害剤は、ベバシズマブである。
【0037】
本発明の第1、第2及び第3の実施形態の更に好ましい一実施形態において、治療は、それを必要とする患者に、ポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)阻害剤及び式Iの化合物又は薬理学的に許容されるその塩を投与することを更に含み、ポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)阻害剤が同時、逐次、又は別々に投与され得、好ましくは同時に投与され得る。好ましくは、ポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)阻害剤は、ルカパリブ、オラパリブ及びベリパリブから選択される。
【0038】
本発明の第1、第2及び第3の実施形態の更に好ましい一実施形態において、治療は、それを必要とする患者に、PD-1/PDL-1(免疫チェックポイント)阻害剤及び式Iの化合物又は薬理学的に許容されるその塩を投与することを更に含み、PD-1/PDL-1(免疫チェックポイント)阻害剤が同時、逐次、又は別々に投与され得、好ましくは同時に投与され得る。好ましくは、PD-1/PDL-1(免疫チェックポイント)阻害剤は、イピリムマブである。
【0039】
経口投与を対象にする場合、本発明の第1、第2及び第3の態様の式Iの化合物若しくは薬理学的に許容されるその塩又はそれを含む医薬は、固体又は液体の形態であってよく、半固体、半液体、懸濁液及びゲルの形態が、本明細書において固体又は液体のいずれかとしてみなされる形態のうちに含まれる。
【0040】
本発明の第1、第2及び第3の態様の式Iの化合物若しくは薬理学的に許容されるその塩又はそれを含む医薬は、医薬分野で周知の方法を使って投与のために調製することができる。好適な医薬製剤及び担体の例は、E. W. Martin「Remington's Pharmaceutical Sciences」に記載されている。
【0041】
経口投与のための固体組成物として、本発明の第1、第2及び第3の態様の式Iの化合物若しくは薬理学的に許容されるその塩又はそれを含む医薬は、粉剤、粒剤、圧縮錠剤、丸剤、カプセル剤、チューインガム、カシェ剤等の形態に製剤化することができる。このような固体組成物は、全ての活性剤を含む単一錠剤として、又は複数の別々の固体組成物であって、各々が本発明の組合せの単一活性剤を含む固体組成物として(キットの場合)、典型的には1つ又は複数の不活性な賦形剤を含有する。加えて、以下のうち1つ又は複数が存在してよい:カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、微結晶性セルロース、又はゼラチンのような結合剤;デンプン、ラクトース又はデキストリンのような添加剤、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、トウモロコシデンプン等のような崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤;コロイド状二酸化ケイ素のような流動化剤;スクロース又はサッカリンのような甘味剤;ペパーミント、サリチル酸メチル又はオレンジ香料のような香味剤;及び着色剤。
【0042】
本発明の第1、第2及び第3の態様の式Iの化合物若しくは薬理学的に許容されるその塩又はそれを含む医薬がカプセル剤の形態(例えば、ゼラチンカプセル)である場合、上記タイプの物質に加えて、ポリエチレングリコール、シクロデキストリン又は脂肪油のような液体の担体を含有してよい。
【0043】
本発明の第1、第2及び第3の態様の式Iの化合物若しくは薬理学的に許容されるその塩又はそれを含む医薬は、液体の形態、例えば、エリキシル剤、シロップ剤、溶液、乳剤又は懸濁液剤、であってよい。この液体は、経口投与又は注射による送達に有用であり得る。経口投与を対象にする場合、本発明の第1、第2及び第3の態様の式Iの化合物若しくは薬理学的に許容されるその塩又はそれを含む医薬は、1つ又は複数の甘味剤、保存料、色素/着色料及び調味料を含むことができる。注射による投与のための、本発明の第1、第2及び第3の態様の式Iの化合物若しくは薬理学的に許容されるその塩又はそれを含む医薬において、1つ又は複数の界面活性剤、保存料、湿潤剤、分散剤、懸濁剤、緩衝液、安定剤及び等張剤を含むこともできる。
【0044】
好ましい投与経路は、限定するものではないが、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、鼻腔内、大脳内、心室内、髄腔内、膣内又は経皮を含めた、非経口投与である。好ましい投与様式は、実施者の自由裁量に委ねられ、部分的には疾患の部位(例えば、がんの部位)に依存する。より好ましい一実施形態において、本発明の第1、第2及び第3の態様の式Iの化合物若しくは薬理学的に許容されるその塩又はそれを含む医薬は、静脈内に投与される。
【0045】
本発明の第1、第2及び第3の態様の式Iの液体化合物若しくは薬理学的に許容されるその塩又はそれを含む医薬は、溶液であっても、懸濁液剤であっても、他の類似形態であっても、以下のうち1つ又は複数を含むこともできる:注射用水、食塩溶液、好ましくは生理食塩水、リンゲル溶液、等張食塩水のような滅菌賦形剤、合成モノ又はジグリセリド類、ポリエチレングリコール類、グリセリン、又は他の溶媒のような不揮発性油;ベンジルアルコール又はメチルパラベンのような抗菌剤;及び、塩化ナトリウム又はデキストロースのような浸透圧調整剤。非経口の組合せ又は組成物は、ガラス製、プラスチック製又は他の素材製の、アンプル、使い捨てシリンジ又は多回用量のバイアルに封入することができる。生理食塩水は、好ましいアジュバントである。
【0046】
本発明の第1、第2及び第3の態様の式Iの化合物若しくは薬理学的に許容されるその塩又はそれを含む医薬は、任意の好都合な経路により、例えば、注入又はボーラス注射により、上皮又は皮膚粘膜の内層を通しての吸収により、好ましくはボーラス注射により投与され得る。
【実施例】
【0047】
以下の実施例において、以下の式Iを有する化合物をEDO-S101と称する。
【0048】
【化3】
【0049】
EDO-S101を、WO-A-2010/085377の実施例6に記載の通りに調製した。EDO-S101をDMSO(100×母液)に溶解し、使用当日に培養液に懸濁するまでは4℃で保管した。
【0050】
(実施例1)
スプラーグドーリーラットにおけるEDO-S101のCNS薬物動態分析
CNS薬物動態をラットにおいてEDO-S101を40mg/kg尾静脈注射した後に決定した。微小透析液の試料を血液及び脳室から、微小透析プローブ経由で18個の時間間隔で収集した。UV検出を用いたキャピラリー電気泳動(CE-UV)によってこれらの試料の薬物濃度を決定した後、様々な薬物動態パラメータを算出した。
【0051】
6匹のラットをガス状イソフルラン(20%酸素及び80%窒素ガスの混合物中1%イソフルラン)で麻酔し、定位フレーム(KOPF Instruments社、Tujunga、CA)で動かないようにした。全手順を通じて麻酔を維持した。各々のガイドカニューレ(CMA Microdialysis Inc.社、Acton、MA)を定位的に側脳室に移植し(ブレグマ及び頭蓋骨に対してAP-0.9、L1.6、V3.4)、次いでスクリュー及び歯科用セメントで頭蓋骨に固定した。手術後、各ラットを、カニューレ挿入手術から回復させるため、3日間別々に収容し自由に餌及び水を摂らせた。意識を有する自由行動ラットに対して、微小透析実験を行った。実験当日に、ガイドカニューレ内のスタイレットを微小透析プローブ(4mm[0]の膜を有するCMA/11、CMA Microdialysis Inc.社、Acton、MA)に置き換え、血管の微小透析プローブ(4mm[0]の膜を有するCMA/20、CMA Microdialysis Inc.社、Acton、MA)を頸静脈に移植した。これらのプローブは、人工脳脊髄液(146mM NaCl、1.2mM CaCl2、3mM KCl、1mM MgCl2、1.9mM Na2HPO4、0.1mM NaH2PO4、pH7.4)を脳室に送達し、ダルベッコのリン酸緩衝食塩水(D-PBS)を0.5μl/分の流量で血液に送達するためのシリンジに接続するインレットチューブを有していた。4℃で微小透析液を収集するために、アウトレットチューブを微小フラクションコレクターに接続した。ラットを投薬前に少なくとも24時間回復させた。EDO-S101(静脈)注射後、3時間に渡り18個の試料を収集した。脳脊髄液(CSF)及び血液中のEDO-S101の濃度を決定するために、全ての試料を、UV検出を用いたキャピラリー電気泳動(CE-UV)にかけた。ラットは実験後、CO2吸入を使って屠殺した。各実験の終了時点に、目視検査によりプローブの位置を検証した。
【0052】
CE-UV(Agilent 3D CE)により、微小透析液中のEDO-S101を測定した。簡潔に述べると、1Mの水酸化ナトリウムで2分間、水で2分間、ランニング緩衝液[100mmol/l酢酸アンモニウム(酢酸でpH3.1に調整)-アセトニトリル溶液(50:50、v/v)]で3分間、キャピラリーの前準備を行った。試料を0.7psiの圧力で5秒間注入し、注入量はおよそ5nlだった。注入後、EDO-S101を、50μm I.D.及び長さ50/65cm(有効長/全長)の溶融シリカキャピラリーにおいて15kv及び25℃で分離させた。EDO-S101からの吸光度を300nMのUVで検出した。光電子増倍管(PMT)上で放射を収集した。
【0053】
データの統計解析を行うため、二方向の反復測定ANOVAをチューキーの検定の前に使用した。P<0.05を有意とみなした。CNS透過は、CSF及び血液の曲線下面積(AUC)の比として決定する。
【0054】
結果を分析すると、EDO-S101はCNS透過が16.5%で、血液脳関門をよく通ることが見出された(図1を参照されたい)。EDO-S101は、11.2μMというCmaxで高いCNS濃度を達成することができる。このため、EDO-S101は脳腫瘍における治療的使用に理想的である。また、EDO-S101は血液中で約6分及び脳内で約9分という非常に短い半減期を有することも示された。UV波長300nMでのEDO-S101の吸光度に基づき薬物濃度を決定したので、全ての測定値は未代謝のEDO-S101に基づく。結果を以下のようにTable 1(表1)に概括する。
【0055】
【表1】
【0056】
(実施例2)
様々なMGMT陽性及びMGMT陰性細胞株に対する、EDO-S101及び公知の化合物のin vitro活性試験
MGMT陰性及びMGMT陽性腫瘍細胞を代表する一連のGBM細胞株を使用するin vitro実験を考案した。
【0057】
化合物:1〜100μM EDO-S101、1〜50μMテモゾロミド(TMZ)、1〜50μMテモゾロミド+500nMボリノスタット、1〜40μMベンダムスチン、1〜40μMベンダムスチン及び500nMボリノスタット。
【0058】
細胞株:A172、LN229、SNB19、SW1783、U251、U373及びU87:MGMT陰性細胞株;LN18、Mz54、T98G、U138、U118:MGMT陽性細胞株
【0059】
グレードIII及びIV神経膠胞腫を代表し、異なるMGMT発現、薬物及び放射線療法の感受性を有する12種の神経膠芽細胞腫の細胞株並びに、5種の患者由来神経膠芽細胞腫の幹細胞を使用した(上記を参照されたい)。Calgary大学医学部Hotchkiss Brain Institute(Calgary、Alberta、Canada)のJ. Gregory Cairncross氏及びSamuel Weiss氏の厚意で提供を受けた4種の患者由来の神経膠芽細胞腫幹細胞、並びにBicocca大学(Milan)のAngelo Vescovi教授の厚意で提供を受けた1種のルシフェラーゼ遺伝子導入PTC#8を、規定の無血清培養培地(SFM)及び非接着性スフェア培養で培養した。20ng/ml上皮成長因子(Sigma-Aldrich社)、20ng/ml塩基性線維芽細胞成長因子(Sigma-Aldrich社)、B-27サプリメント1X(Gibco、Life Technologies社)及び抗生物質を補充したDMEM/F12無血清培地中に、細胞を再懸濁した。幹細胞培地を用いて3×103細胞を96ウエルプレートに蒔いた直後に、EDO-S101での処理を加えた。処理5日後に、倒立顕微鏡下で倍率x4にてスフェアをカウントした。スフェアは、少なくとも15個の細胞を有している場合にカウントした。
【0060】
細胞を、24ウエルプレートに2×104細胞/mlの密度で播種した。細胞を5%FCS DMEMで24時間付着及び成長させた。この後、細胞を適切な培養条件で維持した。毎日、細胞のトリプシン処理及びカウントの前に、倒立位相差顕微鏡写真機(Nikon社Diaphot、Tokyo、Japan)を用いて、形態的制御を行った。細胞生存能力を評価するために、トリプシン処理し1.0ml食塩水中に再懸濁した細胞を、NucleoCounterTM NC-100(自動セルカウンターシステム、Chemotec社、Cydevang、DK)を使ってカウントした。全ての実験を三重で行った。IC50値は、GraFit法(Erithacus Software Limited社、Staines、UK)によって算出した。細胞生存能力は、3-(4,5ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT;Sigma-Aldrich社)アッセイを用いて測定した。
【0061】
ベンダムスチン及びボリノスタットに対する12種の細胞株全てのIC50及びIC20の値も、上に記載のように決定した。次に、ボリノスタットの用量(IC20値)を固定しベンダムスチンの用量を変動させた組合せアッセイを行った。ボリノスタットと組み合わせた場合のベンダムスチンの新たなIC50値を算出した。
【0062】
図2から理解できるように、U251、U373、SW1783、A172及びU87のGBM細胞株は、TMZに対して高度に感受性であり、一方LN229、SNB19及びU138は中程度に感受性である。しかし、MGMT陽性GBM細胞株のLN18、Mz54、T98G及びU118はTMZに抵抗性である。
【0063】
別の実験では、500nMボリノスタットとの組合せでTMZを使用した。GBM細胞株においてボリノスタットがTMZと相乗性を有することは公知である。図3から理解できるように、MGMT陽性GBM細胞株のLN18及びU118はこの組合せに対して感受性であり、一方T98G及びMz54は依然として非常に抵抗性であった。T98GのIC50は減少したが、ヒトにおいて達成可能な用量範囲ではない。
【0064】
図4は、ベンダムスチンに対して高度に感受性なGBM細胞株はなく、一方LN18、LN229、SNB19、U138、U251、U373、SW1783及びU87のGBM細胞株はベンダムスチンに対して中程度に感受性であったが、A172、Mz54、T98G及びU118はベンダムスチンに対して抵抗性であったことを示している。図5から理解できるように、ベンダムスチンを500nMボリノスタットと組み合わせた場合は、TMZ及びボリノスタットでの結果に非常に類似する結果が得られたが、これはすなわち、Mz54及びT98Gを除く全ての細胞株が高度に感受性であり、T98GのIC50は減少したがヒトにおいて達成可能な用量範囲ではないということである。
【0065】
他の単一化合物及び組合せと比較して、12種の被試験細胞株の図6におけるIC50曲線は、全てのMGMT陽性細胞株を含めた12種の細胞株全てがEDO-S101に対して高度に感受性であったことを実証している。このことは、EDO-S101が、MGMT陰性GBM及びMGMT陽性GBMの両方に対して、高度に有望な治療剤であることを実証している。
【0066】
種々の細胞株についてのIC50値の概要を、以下のTable 2(表2)に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
(実施例3)
多形性神経膠芽細胞腫マウスモデルにおけるEDO-S101のin vivo評価
GBMに対するマウス脳腫瘍モデルにおいて、生物発光イメージングにより決定される腫瘍成長及びカプラン・マイヤー分析により決定される生存分析に基づき、EDO-S101の治療活性を決定した。
【0069】
定位プラットフォームを使用して、麻酔下の無胸腺マウスにおいて3×105ルシフェラーゼ遺伝子導入GBM12細胞を大脳内に注射することにより、マウス脳腫瘍モデルを作製した。GBM12は、MGMT陰性腫瘍細胞株である。手術前に、8週齢の無胸腺マウスに最低7日間の順化/隔離をさせた。手術は、無菌条件下の層流フード内で行った。鎮痛用にタイレノール300mg/kgのPOを手術24時間前に与え、術後48時間鎮痛を持続させた。イソフルラン1〜2%吸入により麻酔を達成した。マウスは、よく麻酔がかかった後にKopf社の定位装置に配置した。手術中の感染及び角膜の損傷を防ぐため、マウスの目に少量のBNP抗菌クリーム(バシトラシン、ネオマイシン及びポリミキシンの混合物)を塗抹した。手術中の過度な熱損失を防ぐため、マウスの身体及び尾に一片の柔らかい布地を掛けた。頭皮部分を2%ベタジン溶液で洗浄し、綿棒で拭いた。頭皮において正中矢状方向の切開を行った。
【0070】
Franklin及びPaxinosのマウス脳地図を参照することによって決定する座標(AP:0.5mm、LM:2.5mm)に従って、頭蓋骨の左側に手術用ドリル(Kopf社)又はDremel社製ドリルで小穿頭孔を開けた。硬膜を外科的に露出し、26Sゲージの斜めに切られた針を有する10μlのHamilton社製シリンジを、左大脳半球に3mmの深さまで下げ、5μlの3×105ルシフェラーゼ遺伝子導入GBM12腫瘍細胞をゆっくり注入した(0.5μl/分)。逆流を防ぐために針を5分間留置し、次いでゆっくり除去した。皮膚を創傷クリップで閉じた。手術後、マウスを暖かい環境で回復させ、運動活性が戻ったらケージに戻した。回復中に体温損失を最小限にするために、ヒーティングパッド上にケージを置いた。マウスは術後、少なくとも1日に2回、5日間又は回復が完了するまで監視した。EDO-S101(60mg/kg体重)又はベンダムスチン(50mg/kg体重)を、大脳内への腫瘍細胞移植後4日目から尾静脈経由で投与し、次いで11日目及び18日目に引き続き行った。四肢麻痺を生存分析のエンドポイントとした。
【0071】
GBM細胞を大脳内に注射した後、リアルタイムでのin vivoの腫瘍成長を監視するため、全てのマウスに生物発光イメージング(BLI)を1週間に2回、大脳への注射後4日目から受けさせた。Xenogen Lumina光イメージングシステム(Caliper Life Sciences社、Hopkinton、MA)を使ってBLIを行った。イソフルランでマウスに麻酔をかけてから、ルシフェラーゼ酵素の飽和基質濃度をもたらし150mg/kgの用量でルシフェリンを腹腔内に注射した。ルシフェリン注射から10分後にピーク発光シグナルを記録した。Living Imageソフトウェア(Xenogen社、Alameda、CA)を使って、シグナルの脳内部分を包含する目的領域を規定し、合計光子数/秒/ステラジン/cm2を記録した。
【0072】
各時点での実験群間の差の統計的有意性を決定するためにANOVAを使用した。Prism4ソフトウェア(GraphPad Software社、LaJolla、CA)を使ってカプラン・マイヤー生存曲線を生成し、ログランクテストを用いて曲線間の統計的差を導出した。P<0.05を有意とみなした。
【0073】
このGBM(GBM12)についての患者由来異種移植片モデルにおいて、週1回、大脳内への腫瘍細胞移植後4日目、11日目、18日目に、EDO-S101をIVに60mg/kg投与した(MTD用量)。ベンダムスチンは、週1回、4日目、11日目、18日目にIVに50mg/kg与えた(MTD用量)。EDO-S101は、ベンダムスチンの場合の58日間、無治療対照における52日間に比して、生存期間中央値が66日間であり、腫瘍成長の抑制及び生存期間の延長に関して著しい治療活性を有することが見出された(図7a及び図7bを参照されたい)。EDO-S101は、このMGMT陰性多形性神経膠芽細胞腫に対して優れた治療活性を有する。
【0074】
細胞株U87G及びU251Gを使って、同様に上記の手順に従った。再び、EDO-S101(60mg/kg)を尾静脈経由で静脈内に投与したが、これらの実験においては1日目、8日目及び15日目に投与した。比較として、ベンダムスチンの代わりにTMZを16mg/kg、連続5日間、poで投与した。マウスは、28日後に屠殺した。
【0075】
図8における、移植U251腫瘍を有するマウスについての時間に対する無進行期間(TTP)確率(%)のプロットは、EDO-S101で治療したマウスのTTPが、対照マウス及びTMZで治療したマウスの両方で観測されたTTPよりも著しく長かったことを示している。TTPにおける同様の著しい増加は、移植U87腫瘍を有するマウスについても観測され、EDO-S101の場合、対照及びTMZの両方よりも著しく長いTTPを有していた(図9を参照されたい)。
【0076】
(実施例4)
多形性神経膠芽細胞腫マウスモデルにおける、放射線療法及びテモゾロミド(単独又は組合せ)に対してのEDO-S101(単独又は放射線療法との組合せ)のin vivo評価
第1の実験では、U251、U87及びT98G細胞株を、放射線療法単独で、又は放射線療法及びEDO-S101で処理した。
【0077】
クローン原性生存のため、指数関数的に成長する細胞(70%コンフルエンス)を通常の培地で培養して、適切な濃度のEDO-S101又はビヒクル(最終DMSO濃度0.1%)で処理し24時間培養した。臨床的に校正された30×30cmの照射野を使用する6MVリニアアクセレレータElekta Synergyを使って腫瘍細胞照射を行った。ビルドアップ効果を補償するために、完全に培地で満たされた細胞培養フラスコの上下に2cm厚のパースペックス製プレートを配置した。非照射対照は、放射線曝露以外で照射される細胞と同一に扱った。処理後、細胞を適切な濃度(1,000細胞)に希釈し、新たな100mm組織培養シャーレに再播種し(三重で)、14日間インキュベートした。14日目に培地を除去し、コロニーをメタノール:酢酸(10:1、v/v)で固定し、クリスタルバイオレットで染色した。50を超える細胞を含有するコロニーをカウントした。観測されるコロニーの数/蒔いた細胞の数として、平板効率(PE)を算出した。処理されたシャーレにおいて形成されたコロニーの数を対照において形成された数と比較して生残率を算出した。SPSS社(Chicago、IL)の統計ソフトウェアを使って、重みづけされ、層別化した、線形回帰によるデータ適合によって、線形二次式:S(D)/S(O)=exp-(aD+bD2)に従って、生存曲線を分析した。
【0078】
MGMT陰性のU251MG神経膠芽細胞腫細胞株については、EDO-S101のIC50測定値は6.60μMだった(これに比して、ベンダムスチンは30μM、テモゾロミドは20μMだった)。
【0079】
MGMT陰性のU87G神経膠芽細胞腫細胞株については、EDO-S101のIC50測定値は1.36μMだった(これに比して、ベンダムスチンは50μM、テモゾロミドは20μMだった)。
【0080】
MGMT陽性のT98G神経膠芽細胞腫細胞株については、EDO-S101のIC50測定値は7.70μMだった(これに比して、ベンダムスチンは52μM、テモゾロミドは>100μMだった)。
【0081】
図10から理解できるように、放射線療法をEDO-S101の用量(2.5μM又は5μM)と組み合わせて使用した場合は、3種のGBM細胞株全てにおいて放射線療法単独と比して、神経膠芽細胞腫細胞の%生存率が相当に減少した。
【0082】
次に、実施例3の手順を採用し、GBM細胞株U251及びU87を使って、マウスにおけるs.c. GBMの異種移植片モデルを用意した。
【0083】
上記のように用意したU251マウスに、放射線療法(2Gyを連続5日間)、EDO-S101での治療(60mg/kgを静脈内に治療サイクルの1日目、8日目及び15日目に)又は対照のみ、のいずれかを受けさせた。照射の前に、ケタミン(25mg/ml)/キシラジン(5mg/ml)の混合物でマウスを麻酔した。麻酔された担腫瘍マウスは、2Gyの用量で連続5日間局所的照射を受けた。照射は、X線リニアアクセレレータを使って200cGy/分の線量率で室温にて送達した。特別設計された鉛装置で全てのマウスを遮蔽し、右後肢に照射できるようにした。全ての照射が終わるまで、マウスをこれらの条件下で保持した。
【0084】
実施例3の手順に従い、GBMの進行について研究を行った。時間に対する無進行期間確率(%)のプロットを図11に示す。このことから、EDO-S101で治療したマウスの無進行期間が、放射線治療した腫瘍で観測されたものよりも相当に長いことが明らかである。
【0085】
追跡実験において、同じ方法で用意したU251マウスに、現状の最高水準治療である放射線療法及びテモゾロミド(2Gyを連続5日間、及び16mg/kgを連続5日間、po)、EDO-S101での治療(60mg/kgを静脈内に治療サイクルの1日目、8日目及び15日目に)、EDO-S101及び放射線療法での治療(2Gyを連続5日間、60mg/kgを静脈内に治療サイクルの1日目、8日目及び15日目に)、又は対照、のうちいずれかを受けさせた。時間に対する無進行期間確率(%)のプロットを図12に示す。このことから、EDO-S101及び放射線療法で治療したマウスの無進行期間が、EDO-S101単独で治療した腫瘍で観測されたものよりも著しく長いことが明らかである。更に、放射線療法及びEDO-S101の組合せの場合の無進行期間は、現状の最高水準治療である放射線療法及びテモゾロミドで治療した腫瘍で観測されたものよりも著しく長かった。
【0086】
同じシーケンスの実験を次に行ったが、今度はGBM細胞株U87を使って用意したマウスにおけるs.c. GBMの異種移植片モデルで行った。第1の実験では、上記のように用意したU87マウスに、放射線療法(2Gyを連続5日間)、EDO-S101での治療(60mg/kgを静脈内に治療サイクルの1日目、8日目及び15日目に)又は対照のみ、のいずれかを受けさせた。GBMの進行について研究を行った。時間に対する無進行期間確率(%)のプロットを図13に示す。このことから、EDO-S101(図13ではNL101と称されている)で治療したマウスの無進行期間が、放射線治療した腫瘍で観測されたものよりも相当に長いことが明らかである。
【0087】
U251マウスに使ったものと同様の追跡実験において、同じ方法で用意したU87マウスに、現状の最高水準治療である放射線療法及びテモゾロミド(2Gyを連続5日間、及び16mg/kgを連続5日間、po)、EDO-S101での治療(60mg/kgを静脈内に治療サイクルの1日目、8日目及び15日目に)、EDO-S101及び放射線療法での治療(2Gyを連続5日間、及び60mg/kgを静脈内に治療サイクルの1日目、8日目及び15日目に)、又は対照、のうちいずれかを受けさせた。時間に対する無進行期間確率(%)のプロットを図14に示す。このことから、EDO-S101及び放射線療法で治療したマウスの無進行期間が、EDO-S101単独で治療した腫瘍で観測されたものよりも著しく長いことが明らかである。更に、放射線療法及びEDO-S101の組合せの場合の無進行期間は、現状の最高水準治療である放射線療法及びテモゾロミドの場合に観測されたものよりも著しく長かった。EDO-S101単独で治療したU87マウスについて観測された無進行期間は、放射線療法及びテモゾロミドを組み合わせた治療で得られた無進行期間よりも実際に長かったことにも留意されたい。
【0088】
U251Gマウス異種移植片モデルの対照ではおよそ17〜18日間である腫瘍の無進行期間が、放射線療法及びテモゾロミドの組合せで42日間、EDO-S101単独で50日間超(有意性P=0.924)、EDO-S101及び放射線療法の組合せで有意に50日間超(有意性P=0.0359)に増加した。
【0089】
U87Gマウス異種移植片モデルの対照ではおよそ15日間である腫瘍の無進行期間が、放射線療法及びテモゾロミドの組合せで35日間、EDO-S101単独で40日間(有意性P=2372)、EDO-S101及び放射線療法の組合せで有意に50日間超(有意性P=0.0001)に増加することが見出された。
【0090】
(実施例5)
腫瘍の組織学的評価:U251-ルシフェラーゼ遺伝子導入細胞の同所性モデル
実施例3の手順に従ってU251-ルシフェラーゼで同位体的に遺伝子導入したマウスを、放射線療法(2Gyを連続5日間)、テモゾロミド(16mg/kgを連続5日間、po)、放射線療法及びテモゾロミド(2Gyを連続5日間、及び16mg/kgを連続5日間、po)、EDO-S101(60mg/kgを静脈内に治療サイクルの1日目、8日目及び15日目に)、又は対照ビヒクルで治療した。
【0091】
Hamamatsuイメージングシステム(Caliper Life Sciences社、Hopkinton、MA、USA)を用いて脳内の腫瘍成長を監視した。マウスを2%〜4%イソフルラン(Baxter社、Deerfield、IL、USA)で麻酔した後、腹腔内に150mg/kgのd-ルシフェリン(In Vivo Imaging Solutions社)を注射した。5匹の動物を同時に測定し、発光カメラは、露出1分、medium binning、1f/stop、blocked excitation filter、open emission filterに設定した。写真用カメラは、露出2秒、medium binning、8f/stopに設定した。視野を22cmに設定し、5匹のマウスを同時にキャプチャーした。同一の設定を使って連続的画像を週1回撮影した。Living Imageソフトウェア(Caliper Life Sciences社)を使って生物発光強度を定量化した。
【0092】
照射の前に、ケタミン(25mg/ml)/キシラジン(5mg/ml)の混合物でマウスを麻酔した。麻酔された担腫瘍マウスは、2Gyの用量で連続5日間局所的照射を受けた。照射は、X線リニアアクセレレータを使って200cGy/分の線量率で室温にて送達した。特別設計された鉛装置で全てのマウスを遮蔽し、右後肢に照射できるようにした。全ての照射が終わるまで、マウスをこれらの条件下で保持した。
【0093】
全ての画像は、横断面で以下のシーケンスを使って得た:横断T2強調ターボスピンエコー(TSE)シーケンス(繰り返し時間[TR]msec/エコー時間[TE]msec 6766/120、取得シグナル数4、マトリックス192×192)を断面厚0.9mm、交差ギャップ0.0mm、及びフリップ角160°で適用。視野は36×60mm2で腫瘍の全貌を含み、結果的なボクセルサイズは0.3×0.3×1.0mm3だった。
【0094】
連続変数は、平均及び標準偏差(SD)として、又は中央値及び中央値の95%CIとして概括した。正規分布していない連続変数については、クラスカル・ワリス検定を行うことにより、対照群と治療群との間の統計的比較を確立した。正規分布している連続変数については、ANOVA検定又はスチューデントt検定を不対のデータに対して行うことにより、対照群と治療群との間の統計的比較を確立した(2つの比較)。
【0095】
種々の治療体制開始から50日後、マウスを屠殺し、対照、EDO-S101、テモゾロミド、並びに放射線療法及びテモゾロミドでの治療を受けたマウスにおける最終的な脳内の病変を視覚化した。結果を図15及び図16に示す。EDO-S101及びテモゾロミドの両方の研究について同様な結果が得られ、いずれかのグレードの腫瘍を有したのは対照では11匹中8匹(72.7%)だったのと比べて、共に13匹のマウス中5匹(38.5%)だった。しかし、EDO-S101治療マウスでは13匹中わずか1匹が大きな病変を示し、一方テモゾロミド治療マウスでは13匹中2匹が大きな病変を示した。放射線療法及びテモゾロミドの研究では、11匹のマウス中で研究終了時点において病変を示したのは、いずれもが大きな病変ではあったがわずか2匹(18.2%)のみだった。このことから、EDO-S101はGBMの拡散予防において高度に有効であると結論づけることができる。
【0096】
GBMの拡散予防におけるEDO-S101の有効性は、時間(日数)に対する生存確率(%)のプロットを示す図17で更に強調される。EDO-S101で治療されたマウスの生存確率は、放射線療法又はテモゾロミドのいずれかで治療されたマウスの生存確率よりも著しく高かった。放射線療法及びテモゾロミドの組合せで治療したマウスのみが、EDO-S101単独よりも高い全体的生存確率を示した。
【0097】
(実施例6)
原発性CNSリンパ腫マウスモデルにおけるEDO-S101のin vivo評価
原発性CNSリンパ腫モデル作製のために、1×105ルシフェラーゼ遺伝子導入OCI-LY10Bリンパ腫細胞を用いてマウスモデルを作製した以外は実施例3の手順を繰り返した。OCI-LY10Bリンパ腫細胞を大脳内に移植後4日目、11日目及び18日目に、試験マウスの別々の群に、EDO-S101(60mg/kg体重)、ベンダムスチン(50mg/kg体重)及び対照を尾静脈経由で静脈内に投与した。EDO-S101及びベンダムスチンの両方が、著しく腫瘍成長を抑制し生存期間を延長し、生存期間中央値は無治療対照で48日間だったのに比して、それぞれ62日間及び54日間だった(図18a及び図18bを参照されたい)。従って、EDO-S101は、原発性CNSリンパ腫に有望な治療であると思われる。
【0098】
(実施例7)
脳のトリプルネガティブ転移性乳がんマウスモデルにおけるEDO-S101のin vivo評価
原発性CNSリンパ腫モデル作製のために、1×105ルシフェラーゼ遺伝子導入MB-468乳がん細胞を用いてマウスモデルを作製した以外は実施例3の手順を繰り返した。MB-468乳がん細胞を大脳内に移植後4日目に、試験マウスの別々の群に、EDO-S101(60mg/kg体重)、ベンダムスチン(50mg/kg体重)及び対照を、単回用量で、尾静脈経由で静脈内に投与した。EDO-S101は、腫瘍成長の抑制及び生存期間の延長に有意な治療活性を示し、生存期間中央値は、ベンダムスチンで62日間、無治療対照で55日間だったのに比して、71日間だった(図19a及び図19bを参照されたい)。従って、EDO-S101は、転移性乳がんに特に有望な治療であると思われる。
【0099】
結論として、EDO-S101の血液脳関門を通過する能力が非常に良好であることを実験は証明している。これにより、EDO-S101は脳がん治療に有望な候補となる。実験データは、EDO-S101がMGMT陰性GBMに対してのみならずMGMT陽性GBMに対しても活性を有することを更に示し、これにより、またMGMT陽性GBM及び他のMGMT陽性星細胞系脳腫瘍の治療法が未だ開発されていないことにより、EDO-S101はこれらの治療のための治療薬として高度に有望となる。また、EDO-S101は、原発性CNSリンパ腫及び転移性脳がんの両方の症例において生存期間中央値を著しく延長することも示しており、これによりまたしても、EDO-S101は両方の条件について非常に有望な治療薬候補となる。データはまた、EDO-S101がGBMの治療において放射線療法と組み合わせて投与されると、EDO-S101単独に比して著しく向上した活性を示すことも示している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7a
図7b
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19