【実施例】
【0047】
以下の実施例において、以下の式Iを有する化合物をEDO-S101と称する。
【0048】
【化3】
【0049】
EDO-S101を、WO-A-2010/085377の実施例6に記載の通りに調製した。EDO-S101をDMSO(100×母液)に溶解し、使用当日に培養液に懸濁するまでは4℃で保管した。
【0050】
(実施例1)
スプラーグドーリーラットにおけるEDO-S101のCNS薬物動態分析
CNS薬物動態をラットにおいてEDO-S101を40mg/kg尾静脈注射した後に決定した。微小透析液の試料を血液及び脳室から、微小透析プローブ経由で18個の時間間隔で収集した。UV検出を用いたキャピラリー電気泳動(CE-UV)によってこれらの試料の薬物濃度を決定した後、様々な薬物動態パラメータを算出した。
【0051】
6匹のラットをガス状イソフルラン(20%酸素及び80%窒素ガスの混合物中1%イソフルラン)で麻酔し、定位フレーム(KOPF Instruments社、Tujunga、CA)で動かないようにした。全手順を通じて麻酔を維持した。各々のガイドカニューレ(CMA Microdialysis Inc.社、Acton、MA)を定位的に側脳室に移植し(ブレグマ及び頭蓋骨に対してAP-0.9、L1.6、V3.4)、次いでスクリュー及び歯科用セメントで頭蓋骨に固定した。手術後、各ラットを、カニューレ挿入手術から回復させるため、3日間別々に収容し自由に餌及び水を摂らせた。意識を有する自由行動ラットに対して、微小透析実験を行った。実験当日に、ガイドカニューレ内のスタイレットを微小透析プローブ(4mm[0]の膜を有するCMA/11、CMA Microdialysis Inc.社、Acton、MA)に置き換え、血管の微小透析プローブ(4mm[0]の膜を有するCMA/20、CMA Microdialysis Inc.社、Acton、MA)を頸静脈に移植した。これらのプローブは、人工脳脊髄液(146mM NaCl、1.2mM CaCl
2、3mM KCl、1mM MgCl
2、1.9mM Na
2HPO
4、0.1mM NaH
2PO
4、pH7.4)を脳室に送達し、ダルベッコのリン酸緩衝食塩水(D-PBS)を0.5μl/分の流量で血液に送達するためのシリンジに接続するインレットチューブを有していた。4℃で微小透析液を収集するために、アウトレットチューブを微小フラクションコレクターに接続した。ラットを投薬前に少なくとも24時間回復させた。EDO-S101(静脈)注射後、3時間に渡り18個の試料を収集した。脳脊髄液(CSF)及び血液中のEDO-S101の濃度を決定するために、全ての試料を、UV検出を用いたキャピラリー電気泳動(CE-UV)にかけた。ラットは実験後、CO
2吸入を使って屠殺した。各実験の終了時点に、目視検査によりプローブの位置を検証した。
【0052】
CE-UV(Agilent 3D CE)により、微小透析液中のEDO-S101を測定した。簡潔に述べると、1Mの水酸化ナトリウムで2分間、水で2分間、ランニング緩衝液[100mmol/l酢酸アンモニウム(酢酸でpH3.1に調整)-アセトニトリル溶液(50:50、v/v)]で3分間、キャピラリーの前準備を行った。試料を0.7psiの圧力で5秒間注入し、注入量はおよそ5nlだった。注入後、EDO-S101を、50μm I.D.及び長さ50/65cm(有効長/全長)の溶融シリカキャピラリーにおいて15kv及び25℃で分離させた。EDO-S101からの吸光度を300nMのUVで検出した。光電子増倍管(PMT)上で放射を収集した。
【0053】
データの統計解析を行うため、二方向の反復測定ANOVAをチューキーの検定の前に使用した。P<0.05を有意とみなした。CNS透過は、CSF及び血液の曲線下面積(AUC)の比として決定する。
【0054】
結果を分析すると、EDO-S101はCNS透過が16.5%で、血液脳関門をよく通ることが見出された(
図1を参照されたい)。EDO-S101は、11.2μMというC
maxで高いCNS濃度を達成することができる。このため、EDO-S101は脳腫瘍における治療的使用に理想的である。また、EDO-S101は血液中で約6分及び脳内で約9分という非常に短い半減期を有することも示された。UV波長300nMでのEDO-S101の吸光度に基づき薬物濃度を決定したので、全ての測定値は未代謝のEDO-S101に基づく。結果を以下のようにTable 1(表1)に概括する。
【0055】
【表1】
【0056】
(実施例2)
様々なMGMT陽性及びMGMT陰性細胞株に対する、EDO-S101及び公知の化合物のin vitro活性試験
MGMT陰性及びMGMT陽性腫瘍細胞を代表する一連のGBM細胞株を使用するin vitro実験を考案した。
【0057】
化合物:1〜100μM EDO-S101、1〜50μMテモゾロミド(TMZ)、1〜50μMテモゾロミド+500nMボリノスタット、1〜40μMベンダムスチン、1〜40μMベンダムスチン及び500nMボリノスタット。
【0058】
細胞株:A172、LN229、SNB19、SW1783、U251、U373及びU87:MGMT陰性細胞株;LN18、Mz54、T98G、U138、U118:MGMT陽性細胞株
【0059】
グレードIII及びIV神経膠胞腫を代表し、異なるMGMT発現、薬物及び放射線療法の感受性を有する12種の神経膠芽細胞腫の細胞株並びに、5種の患者由来神経膠芽細胞腫の幹細胞を使用した(上記を参照されたい)。Calgary大学医学部Hotchkiss Brain Institute(Calgary、Alberta、Canada)のJ. Gregory Cairncross氏及びSamuel Weiss氏の厚意で提供を受けた4種の患者由来の神経膠芽細胞腫幹細胞、並びにBicocca大学(Milan)のAngelo Vescovi教授の厚意で提供を受けた1種のルシフェラーゼ遺伝子導入PTC#8を、規定の無血清培養培地(SFM)及び非接着性スフェア培養で培養した。20ng/ml上皮成長因子(Sigma-Aldrich社)、20ng/ml塩基性線維芽細胞成長因子(Sigma-Aldrich社)、B-27サプリメント1X(Gibco、Life Technologies社)及び抗生物質を補充したDMEM/F12無血清培地中に、細胞を再懸濁した。幹細胞培地を用いて3×10
3細胞を96ウエルプレートに蒔いた直後に、EDO-S101での処理を加えた。処理5日後に、倒立顕微鏡下で倍率x4にてスフェアをカウントした。スフェアは、少なくとも15個の細胞を有している場合にカウントした。
【0060】
細胞を、24ウエルプレートに2×10
4細胞/mlの密度で播種した。細胞を5%FCS DMEMで24時間付着及び成長させた。この後、細胞を適切な培養条件で維持した。毎日、細胞のトリプシン処理及びカウントの前に、倒立位相差顕微鏡写真機(Nikon社Diaphot、Tokyo、Japan)を用いて、形態的制御を行った。細胞生存能力を評価するために、トリプシン処理し1.0ml食塩水中に再懸濁した細胞を、NucleoCounterTM NC-100(自動セルカウンターシステム、Chemotec社、Cydevang、DK)を使ってカウントした。全ての実験を三重で行った。IC
50値は、GraFit法(Erithacus Software Limited社、Staines、UK)によって算出した。細胞生存能力は、3-(4,5ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT;Sigma-Aldrich社)アッセイを用いて測定した。
【0061】
ベンダムスチン及びボリノスタットに対する12種の細胞株全てのIC
50及びIC
20の値も、上に記載のように決定した。次に、ボリノスタットの用量(IC
20値)を固定しベンダムスチンの用量を変動させた組合せアッセイを行った。ボリノスタットと組み合わせた場合のベンダムスチンの新たなIC
50値を算出した。
【0062】
図2から理解できるように、U251、U373、SW1783、A172及びU87のGBM細胞株は、TMZに対して高度に感受性であり、一方LN229、SNB19及びU138は中程度に感受性である。しかし、MGMT陽性GBM細胞株のLN18、Mz54、T98G及びU118はTMZに抵抗性である。
【0063】
別の実験では、500nMボリノスタットとの組合せでTMZを使用した。GBM細胞株においてボリノスタットがTMZと相乗性を有することは公知である。
図3から理解できるように、MGMT陽性GBM細胞株のLN18及びU118はこの組合せに対して感受性であり、一方T98G及びMz54は依然として非常に抵抗性であった。T98GのIC
50は減少したが、ヒトにおいて達成可能な用量範囲ではない。
【0064】
図4は、ベンダムスチンに対して高度に感受性なGBM細胞株はなく、一方LN18、LN229、SNB19、U138、U251、U373、SW1783及びU87のGBM細胞株はベンダムスチンに対して中程度に感受性であったが、A172、Mz54、T98G及びU118はベンダムスチンに対して抵抗性であったことを示している。
図5から理解できるように、ベンダムスチンを500nMボリノスタットと組み合わせた場合は、TMZ及びボリノスタットでの結果に非常に類似する結果が得られたが、これはすなわち、Mz54及びT98Gを除く全ての細胞株が高度に感受性であり、T98GのIC
50は減少したがヒトにおいて達成可能な用量範囲ではないということである。
【0065】
他の単一化合物及び組合せと比較して、12種の被試験細胞株の
図6におけるIC
50曲線は、全てのMGMT陽性細胞株を含めた12種の細胞株全てがEDO-S101に対して高度に感受性であったことを実証している。このことは、EDO-S101が、MGMT陰性GBM及びMGMT陽性GBMの両方に対して、高度に有望な治療剤であることを実証している。
【0066】
種々の細胞株についてのIC
50値の概要を、以下のTable 2(表2)に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
(実施例3)
多形性神経膠芽細胞腫マウスモデルにおけるEDO-S101のin vivo評価
GBMに対するマウス脳腫瘍モデルにおいて、生物発光イメージングにより決定される腫瘍成長及びカプラン・マイヤー分析により決定される生存分析に基づき、EDO-S101の治療活性を決定した。
【0069】
定位プラットフォームを使用して、麻酔下の無胸腺マウスにおいて3×10
5ルシフェラーゼ遺伝子導入GBM12細胞を大脳内に注射することにより、マウス脳腫瘍モデルを作製した。GBM12は、MGMT陰性腫瘍細胞株である。手術前に、8週齢の無胸腺マウスに最低7日間の順化/隔離をさせた。手術は、無菌条件下の層流フード内で行った。鎮痛用にタイレノール300mg/kgのPOを手術24時間前に与え、術後48時間鎮痛を持続させた。イソフルラン1〜2%吸入により麻酔を達成した。マウスは、よく麻酔がかかった後にKopf社の定位装置に配置した。手術中の感染及び角膜の損傷を防ぐため、マウスの目に少量のBNP抗菌クリーム(バシトラシン、ネオマイシン及びポリミキシンの混合物)を塗抹した。手術中の過度な熱損失を防ぐため、マウスの身体及び尾に一片の柔らかい布地を掛けた。頭皮部分を2%ベタジン溶液で洗浄し、綿棒で拭いた。頭皮において正中矢状方向の切開を行った。
【0070】
Franklin及びPaxinosのマウス脳地図を参照することによって決定する座標(AP:0.5mm、LM:2.5mm)に従って、頭蓋骨の左側に手術用ドリル(Kopf社)又はDremel社製ドリルで小穿頭孔を開けた。硬膜を外科的に露出し、26Sゲージの斜めに切られた針を有する10μlのHamilton社製シリンジを、左大脳半球に3mmの深さまで下げ、5μlの3×10
5ルシフェラーゼ遺伝子導入GBM12腫瘍細胞をゆっくり注入した(0.5μl/分)。逆流を防ぐために針を5分間留置し、次いでゆっくり除去した。皮膚を創傷クリップで閉じた。手術後、マウスを暖かい環境で回復させ、運動活性が戻ったらケージに戻した。回復中に体温損失を最小限にするために、ヒーティングパッド上にケージを置いた。マウスは術後、少なくとも1日に2回、5日間又は回復が完了するまで監視した。EDO-S101(60mg/kg体重)又はベンダムスチン(50mg/kg体重)を、大脳内への腫瘍細胞移植後4日目から尾静脈経由で投与し、次いで11日目及び18日目に引き続き行った。四肢麻痺を生存分析のエンドポイントとした。
【0071】
GBM細胞を大脳内に注射した後、リアルタイムでのin vivoの腫瘍成長を監視するため、全てのマウスに生物発光イメージング(BLI)を1週間に2回、大脳への注射後4日目から受けさせた。Xenogen Lumina光イメージングシステム(Caliper Life Sciences社、Hopkinton、MA)を使ってBLIを行った。イソフルランでマウスに麻酔をかけてから、ルシフェラーゼ酵素の飽和基質濃度をもたらし150mg/kgの用量でルシフェリンを腹腔内に注射した。ルシフェリン注射から10分後にピーク発光シグナルを記録した。Living Imageソフトウェア(Xenogen社、Alameda、CA)を使って、シグナルの脳内部分を包含する目的領域を規定し、合計光子数/秒/ステラジン/cm2を記録した。
【0072】
各時点での実験群間の差の統計的有意性を決定するためにANOVAを使用した。Prism4ソフトウェア(GraphPad Software社、LaJolla、CA)を使ってカプラン・マイヤー生存曲線を生成し、ログランクテストを用いて曲線間の統計的差を導出した。P<0.05を有意とみなした。
【0073】
このGBM(GBM12)についての患者由来異種移植片モデルにおいて、週1回、大脳内への腫瘍細胞移植後4日目、11日目、18日目に、EDO-S101をIVに60mg/kg投与した(MTD用量)。ベンダムスチンは、週1回、4日目、11日目、18日目にIVに50mg/kg与えた(MTD用量)。EDO-S101は、ベンダムスチンの場合の58日間、無治療対照における52日間に比して、生存期間中央値が66日間であり、腫瘍成長の抑制及び生存期間の延長に関して著しい治療活性を有することが見出された(
図7a及び
図7bを参照されたい)。EDO-S101は、このMGMT陰性多形性神経膠芽細胞腫に対して優れた治療活性を有する。
【0074】
細胞株U87G及びU251Gを使って、同様に上記の手順に従った。再び、EDO-S101(60mg/kg)を尾静脈経由で静脈内に投与したが、これらの実験においては1日目、8日目及び15日目に投与した。比較として、ベンダムスチンの代わりにTMZを16mg/kg、連続5日間、poで投与した。マウスは、28日後に屠殺した。
【0075】
図8における、移植U251腫瘍を有するマウスについての時間に対する無進行期間(TTP)確率(%)のプロットは、EDO-S101で治療したマウスのTTPが、対照マウス及びTMZで治療したマウスの両方で観測されたTTPよりも著しく長かったことを示している。TTPにおける同様の著しい増加は、移植U87腫瘍を有するマウスについても観測され、EDO-S101の場合、対照及びTMZの両方よりも著しく長いTTPを有していた(
図9を参照されたい)。
【0076】
(実施例4)
多形性神経膠芽細胞腫マウスモデルにおける、放射線療法及びテモゾロミド(単独又は組合せ)に対してのEDO-S101(単独又は放射線療法との組合せ)のin vivo評価
第1の実験では、U251、U87及びT98G細胞株を、放射線療法単独で、又は放射線療法及びEDO-S101で処理した。
【0077】
クローン原性生存のため、指数関数的に成長する細胞(70%コンフルエンス)を通常の培地で培養して、適切な濃度のEDO-S101又はビヒクル(最終DMSO濃度0.1%)で処理し24時間培養した。臨床的に校正された30×30cmの照射野を使用する6MVリニアアクセレレータElekta Synergyを使って腫瘍細胞照射を行った。ビルドアップ効果を補償するために、完全に培地で満たされた細胞培養フラスコの上下に2cm厚のパースペックス製プレートを配置した。非照射対照は、放射線曝露以外で照射される細胞と同一に扱った。処理後、細胞を適切な濃度(1,000細胞)に希釈し、新たな100mm組織培養シャーレに再播種し(三重で)、14日間インキュベートした。14日目に培地を除去し、コロニーをメタノール:酢酸(10:1、v/v)で固定し、クリスタルバイオレットで染色した。50を超える細胞を含有するコロニーをカウントした。観測されるコロニーの数/蒔いた細胞の数として、平板効率(PE)を算出した。処理されたシャーレにおいて形成されたコロニーの数を対照において形成された数と比較して生残率を算出した。SPSS社(Chicago、IL)の統計ソフトウェアを使って、重みづけされ、層別化した、線形回帰によるデータ適合によって、線形二次式:S(D)/S(O)=exp-(aD+bD2)に従って、生存曲線を分析した。
【0078】
MGMT陰性のU251MG神経膠芽細胞腫細胞株については、EDO-S101のIC
50測定値は6.60μMだった(これに比して、ベンダムスチンは30μM、テモゾロミドは20μMだった)。
【0079】
MGMT陰性のU87G神経膠芽細胞腫細胞株については、EDO-S101のIC
50測定値は1.36μMだった(これに比して、ベンダムスチンは50μM、テモゾロミドは20μMだった)。
【0080】
MGMT陽性のT98G神経膠芽細胞腫細胞株については、EDO-S101のIC
50測定値は7.70μMだった(これに比して、ベンダムスチンは52μM、テモゾロミドは>100μMだった)。
【0081】
図10から理解できるように、放射線療法をEDO-S101の用量(2.5μM又は5μM)と組み合わせて使用した場合は、3種のGBM細胞株全てにおいて放射線療法単独と比して、神経膠芽細胞腫細胞の%生存率が相当に減少した。
【0082】
次に、実施例3の手順を採用し、GBM細胞株U251及びU87を使って、マウスにおけるs.c. GBMの異種移植片モデルを用意した。
【0083】
上記のように用意したU251マウスに、放射線療法(2Gyを連続5日間)、EDO-S101での治療(60mg/kgを静脈内に治療サイクルの1日目、8日目及び15日目に)又は対照のみ、のいずれかを受けさせた。照射の前に、ケタミン(25mg/ml)/キシラジン(5mg/ml)の混合物でマウスを麻酔した。麻酔された担腫瘍マウスは、2Gyの用量で連続5日間局所的照射を受けた。照射は、X線リニアアクセレレータを使って200cGy/分の線量率で室温にて送達した。特別設計された鉛装置で全てのマウスを遮蔽し、右後肢に照射できるようにした。全ての照射が終わるまで、マウスをこれらの条件下で保持した。
【0084】
実施例3の手順に従い、GBMの進行について研究を行った。時間に対する無進行期間確率(%)のプロットを
図11に示す。このことから、EDO-S101で治療したマウスの無進行期間が、放射線治療した腫瘍で観測されたものよりも相当に長いことが明らかである。
【0085】
追跡実験において、同じ方法で用意したU251マウスに、現状の最高水準治療である放射線療法及びテモゾロミド(2Gyを連続5日間、及び16mg/kgを連続5日間、po)、EDO-S101での治療(60mg/kgを静脈内に治療サイクルの1日目、8日目及び15日目に)、EDO-S101及び放射線療法での治療(2Gyを連続5日間、60mg/kgを静脈内に治療サイクルの1日目、8日目及び15日目に)、又は対照、のうちいずれかを受けさせた。時間に対する無進行期間確率(%)のプロットを
図12に示す。このことから、EDO-S101及び放射線療法で治療したマウスの無進行期間が、EDO-S101単独で治療した腫瘍で観測されたものよりも著しく長いことが明らかである。更に、放射線療法及びEDO-S101の組合せの場合の無進行期間は、現状の最高水準治療である放射線療法及びテモゾロミドで治療した腫瘍で観測されたものよりも著しく長かった。
【0086】
同じシーケンスの実験を次に行ったが、今度はGBM細胞株U87を使って用意したマウスにおけるs.c. GBMの異種移植片モデルで行った。第1の実験では、上記のように用意したU87マウスに、放射線療法(2Gyを連続5日間)、EDO-S101での治療(60mg/kgを静脈内に治療サイクルの1日目、8日目及び15日目に)又は対照のみ、のいずれかを受けさせた。GBMの進行について研究を行った。時間に対する無進行期間確率(%)のプロットを
図13に示す。このことから、EDO-S101(
図13ではNL101と称されている)で治療したマウスの無進行期間が、放射線治療した腫瘍で観測されたものよりも相当に長いことが明らかである。
【0087】
U251マウスに使ったものと同様の追跡実験において、同じ方法で用意したU87マウスに、現状の最高水準治療である放射線療法及びテモゾロミド(2Gyを連続5日間、及び16mg/kgを連続5日間、po)、EDO-S101での治療(60mg/kgを静脈内に治療サイクルの1日目、8日目及び15日目に)、EDO-S101及び放射線療法での治療(2Gyを連続5日間、及び60mg/kgを静脈内に治療サイクルの1日目、8日目及び15日目に)、又は対照、のうちいずれかを受けさせた。時間に対する無進行期間確率(%)のプロットを
図14に示す。このことから、EDO-S101及び放射線療法で治療したマウスの無進行期間が、EDO-S101単独で治療した腫瘍で観測されたものよりも著しく長いことが明らかである。更に、放射線療法及びEDO-S101の組合せの場合の無進行期間は、現状の最高水準治療である放射線療法及びテモゾロミドの場合に観測されたものよりも著しく長かった。EDO-S101単独で治療したU87マウスについて観測された無進行期間は、放射線療法及びテモゾロミドを組み合わせた治療で得られた無進行期間よりも実際に長かったことにも留意されたい。
【0088】
U251Gマウス異種移植片モデルの対照ではおよそ17〜18日間である腫瘍の無進行期間が、放射線療法及びテモゾロミドの組合せで42日間、EDO-S101単独で50日間超(有意性P=0.924)、EDO-S101及び放射線療法の組合せで有意に50日間超(有意性P=0.0359)に増加した。
【0089】
U87Gマウス異種移植片モデルの対照ではおよそ15日間である腫瘍の無進行期間が、放射線療法及びテモゾロミドの組合せで35日間、EDO-S101単独で40日間(有意性P=2372)、EDO-S101及び放射線療法の組合せで有意に50日間超(有意性P=0.0001)に増加することが見出された。
【0090】
(実施例5)
腫瘍の組織学的評価:U251-ルシフェラーゼ遺伝子導入細胞の同所性モデル
実施例3の手順に従ってU251-ルシフェラーゼで同位体的に遺伝子導入したマウスを、放射線療法(2Gyを連続5日間)、テモゾロミド(16mg/kgを連続5日間、po)、放射線療法及びテモゾロミド(2Gyを連続5日間、及び16mg/kgを連続5日間、po)、EDO-S101(60mg/kgを静脈内に治療サイクルの1日目、8日目及び15日目に)、又は対照ビヒクルで治療した。
【0091】
Hamamatsuイメージングシステム(Caliper Life Sciences社、Hopkinton、MA、USA)を用いて脳内の腫瘍成長を監視した。マウスを2%〜4%イソフルラン(Baxter社、Deerfield、IL、USA)で麻酔した後、腹腔内に150mg/kgのd-ルシフェリン(In Vivo Imaging Solutions社)を注射した。5匹の動物を同時に測定し、発光カメラは、露出1分、medium binning、1f/stop、blocked excitation filter、open emission filterに設定した。写真用カメラは、露出2秒、medium binning、8f/stopに設定した。視野を22cmに設定し、5匹のマウスを同時にキャプチャーした。同一の設定を使って連続的画像を週1回撮影した。Living Imageソフトウェア(Caliper Life Sciences社)を使って生物発光強度を定量化した。
【0092】
照射の前に、ケタミン(25mg/ml)/キシラジン(5mg/ml)の混合物でマウスを麻酔した。麻酔された担腫瘍マウスは、2Gyの用量で連続5日間局所的照射を受けた。照射は、X線リニアアクセレレータを使って200cGy/分の線量率で室温にて送達した。特別設計された鉛装置で全てのマウスを遮蔽し、右後肢に照射できるようにした。全ての照射が終わるまで、マウスをこれらの条件下で保持した。
【0093】
全ての画像は、横断面で以下のシーケンスを使って得た:横断T2強調ターボスピンエコー(TSE)シーケンス(繰り返し時間[TR]msec/エコー時間[TE]msec 6766/120、取得シグナル数4、マトリックス192×192)を断面厚0.9mm、交差ギャップ0.0mm、及びフリップ角160°で適用。視野は36×60mm
2で腫瘍の全貌を含み、結果的なボクセルサイズは0.3×0.3×1.0mm
3だった。
【0094】
連続変数は、平均及び標準偏差(SD)として、又は中央値及び中央値の95%CIとして概括した。正規分布していない連続変数については、クラスカル・ワリス検定を行うことにより、対照群と治療群との間の統計的比較を確立した。正規分布している連続変数については、ANOVA検定又はスチューデントt検定を不対のデータに対して行うことにより、対照群と治療群との間の統計的比較を確立した(2つの比較)。
【0095】
種々の治療体制開始から50日後、マウスを屠殺し、対照、EDO-S101、テモゾロミド、並びに放射線療法及びテモゾロミドでの治療を受けたマウスにおける最終的な脳内の病変を視覚化した。結果を
図15及び
図16に示す。EDO-S101及びテモゾロミドの両方の研究について同様な結果が得られ、いずれかのグレードの腫瘍を有したのは対照では11匹中8匹(72.7%)だったのと比べて、共に13匹のマウス中5匹(38.5%)だった。しかし、EDO-S101治療マウスでは13匹中わずか1匹が大きな病変を示し、一方テモゾロミド治療マウスでは13匹中2匹が大きな病変を示した。放射線療法及びテモゾロミドの研究では、11匹のマウス中で研究終了時点において病変を示したのは、いずれもが大きな病変ではあったがわずか2匹(18.2%)のみだった。このことから、EDO-S101はGBMの拡散予防において高度に有効であると結論づけることができる。
【0096】
GBMの拡散予防におけるEDO-S101の有効性は、時間(日数)に対する生存確率(%)のプロットを示す
図17で更に強調される。EDO-S101で治療されたマウスの生存確率は、放射線療法又はテモゾロミドのいずれかで治療されたマウスの生存確率よりも著しく高かった。放射線療法及びテモゾロミドの組合せで治療したマウスのみが、EDO-S101単独よりも高い全体的生存確率を示した。
【0097】
(実施例6)
原発性CNSリンパ腫マウスモデルにおけるEDO-S101のin vivo評価
原発性CNSリンパ腫モデル作製のために、1×10
5ルシフェラーゼ遺伝子導入OCI-LY10Bリンパ腫細胞を用いてマウスモデルを作製した以外は実施例3の手順を繰り返した。OCI-LY10Bリンパ腫細胞を大脳内に移植後4日目、11日目及び18日目に、試験マウスの別々の群に、EDO-S101(60mg/kg体重)、ベンダムスチン(50mg/kg体重)及び対照を尾静脈経由で静脈内に投与した。EDO-S101及びベンダムスチンの両方が、著しく腫瘍成長を抑制し生存期間を延長し、生存期間中央値は無治療対照で48日間だったのに比して、それぞれ62日間及び54日間だった(
図18a及び
図18bを参照されたい)。従って、EDO-S101は、原発性CNSリンパ腫に有望な治療であると思われる。
【0098】
(実施例7)
脳のトリプルネガティブ転移性乳がんマウスモデルにおけるEDO-S101のin vivo評価
原発性CNSリンパ腫モデル作製のために、1×10
5ルシフェラーゼ遺伝子導入MB-468乳がん細胞を用いてマウスモデルを作製した以外は実施例3の手順を繰り返した。MB-468乳がん細胞を大脳内に移植後4日目に、試験マウスの別々の群に、EDO-S101(60mg/kg体重)、ベンダムスチン(50mg/kg体重)及び対照を、単回用量で、尾静脈経由で静脈内に投与した。EDO-S101は、腫瘍成長の抑制及び生存期間の延長に有意な治療活性を示し、生存期間中央値は、ベンダムスチンで62日間、無治療対照で55日間だったのに比して、71日間だった(
図19a及び
図19bを参照されたい)。従って、EDO-S101は、転移性乳がんに特に有望な治療であると思われる。
【0099】
結論として、EDO-S101の血液脳関門を通過する能力が非常に良好であることを実験は証明している。これにより、EDO-S101は脳がん治療に有望な候補となる。実験データは、EDO-S101がMGMT陰性GBMに対してのみならずMGMT陽性GBMに対しても活性を有することを更に示し、これにより、またMGMT陽性GBM及び他のMGMT陽性星細胞系脳腫瘍の治療法が未だ開発されていないことにより、EDO-S101はこれらの治療のための治療薬として高度に有望となる。また、EDO-S101は、原発性CNSリンパ腫及び転移性脳がんの両方の症例において生存期間中央値を著しく延長することも示しており、これによりまたしても、EDO-S101は両方の条件について非常に有望な治療薬候補となる。データはまた、EDO-S101がGBMの治療において放射線療法と組み合わせて投与されると、EDO-S101単独に比して著しく向上した活性を示すことも示している。