(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
それぞれの量子ビットの強結合は、量子ビットから任意の状態情報を除去するそれぞれの量子ビットの高速リセットを可能とし、それぞれの量子ビットの強分離は、それぞれの量子ビットを前記リード線に結合することなくそれぞれの量子ビット上での動作の実行を可能にしてそれぞれの量子ビットの状態情報の保持を可能とし、それぞれの量子ビットに対する調整可能な中間結合は、量子ビット状態の高忠実度の読み出しを可能とする、請求項1に記載のシステム。
前記各チューナブルカプラは、少なくとも1つのジョセフソン接合を有する超伝導量子干渉素子(SQUID)であり、前記少なくとも1つのジョセフソン接合を流れる電流により、前記SQUIDのインダクタンスと、前記リード線に対するそれぞれの量子ビットの結合強度とが変化する、請求項1に記載のシステム。
前記リード線に対する前記1つまたは複数の量子ビットの結合は、前記1つまたは複数の量子ビットの状態の高忠実度の読み出しを行うための、前記リード線に対する前記1つまたは複数の量子ビットの調整可能な中間結合を含む、請求項11に記載の方法。
前記システムを提供することは、複数の超伝導量子干渉素子(SQUID)を提供することを含み、各SQUIDは、それぞれのBPフィルタ共振部にガルバニック結合されており、当該方法はさらに、前記リード線に対するそれぞれの量子ビットの結合強度を制御する磁束量を各SQUIDにおいて誘導することを備える、請求項11に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示は、概して超伝導回路に関し、より詳しくは、量子ビットの多重読み出しのためのシステムおよび方法に関する。一例において、各量子ビットは、それぞれの量子ビット読み出し共振器に結合される。各量子ビット読み出し共振器は、それぞれ他の量子ビット読み出し共振器に対して異なる周波数で共振する。所与の量子ビット読み出し共振器は、それに関連する量子ビットの状態に基づいてそれぞれの周波数のわずかな変動で共振するため、所与の量子ビット読み出し共振器の読み出しにより、関連する量子ビットの状態を推定することができる。各共振器およびそれに関連する量子ビットは、それぞれのチューナブルカプラを介して、それぞれの帯域通過(BP)フィルタ共振部に結合可能である。各BPフィルタ共振部はリード線を介して互いに結合され、帯域通過フィルタを形成する。帯域通過フィルタの通過帯域は、量子ビット読み出し共振器の周波数の範囲を包含するように設計されている。各BPフィルタ共振部は、複数の直列結合カップリングキャパシタからなるリード線上の異なる点に結合される。BPフィルタ共振部と直列カップリングキャパシタは、フィルタの所望の通過帯域特性、特に、リード線での50オームインピーダンスマッチングを提供するように選択される。
【0009】
リード線は、その入力端子において、読み出し入力信号を受信する。読み出し入力信号は、複数の読み出し共振器にアドレスする周波数を有する単一のトーンまたは複数のトーンを含むことができる。読み出し入力信号は、関連付けられたチューナブルカプラおよび関連付けられたBPフィルタ共振部を介して、1つまたは複数の量子ビットの読み出しを行うことによって変更することができる。読み出し出力信号は、その変更された読み出し入力信号として、リード線の読み出し出力端子に供給される。各チューナブルカプラは、リード線に対する関連する量子ビット読み出し共振器の強結合、リード線に対する関連する量子ビット読み出し共振器の中間結合、またはリード線から量子ビットを分離するための関連する量子ビット読み出し共振器の強分離に調整することができる。量子ビット読み出し共振器をリード線に強結合することにより、量子ビットから状態情報を除去する特定の量子ビットの高速リセットが可能になる。これは、入力信号がない場合にも生じる。また、リード線に対する量子ビットの中間結合を選択することで量子ビット状態の読み出しが可能となる。また、リード線からの量子ビットの強分離により、量子ビットをリード線に結合することなく、量子ビット上での動作の実行を可能にして状態情報を保持することが可能となる。
【0010】
図1は、複数の量子ビットの多重読み出しのためのシステム10の概略的なブロック図を示す。システム10は、複数の帯域通過(BP)フィルタ共振部14(図において、BPフィルタ共振部#1〜#Nで示し、ここで、Nは1よりも大きい整数である)を含む。各BPフィルタ共振部14は、複数の直列結合カップリングキャパシタからなるリード線12(図において、C
1〜C
N+1で示す)上のそれぞれ異なる点に結合されている。第1のカップリングキャパシタC
1は整合入力ポートに結合され、最後のカップリングキャパシタC
N+1は整合出力ポートに結合されている。複数の量子ビット20(図において、量子ビット#1〜#Nで示す)は、N個の量子ビット読み出し共振器18にそれぞれ結合されている。各量子ビット読み出し共振器18は、それぞれ他の量子ビット読み出し共振器18に対して異なる周波数で共振する。所与の量子ビット読み出し共振器18が、関連する量子ビット20の状態に基づいて、それぞれの周波数のわずかな変化で共振することにより、所与の量子ビット読み出し共振器18の読み出しによって、関連する量子ビット20の状態を推定することが可能となる。
【0011】
各量子ビット読み出し共振器18は、複数のチューナブルカプラ16(図において、チューナブルカプラ#1〜#Nで示す)のうちのそれぞれのチューナブルカプラ16を介して、それぞれのBPフィルタ共振部14によりリード線12に結合可能である。複数のBPフィルタ共振部14とカップリングキャパシタC
1〜C
N+1は、BPフィルタの通過帯域にわたってリード線12の50オームインピーダンスマッチングを維持するように構成される。各チューナブルカプラ16は、関連するBPフィルタ共振部14を介して、関連する量子ビット20をリード線12に対して強結合するか、または関連する量子ビット20をリード線12に対して中間結合するか、もしくは関連する量子ビット20をリード線12から分離するべくその量子ビット20を強分離するように調整され得る。上記したように、リード線12に量子ビット20を強結合することによって、その特定の量子ビット20の高速リセットが可能となる。また、リード線12から量子ビット20を強分離することによって、量子ビット20をリード線12に結合することなくその量子ビット20上での動作の実行を可能にして、状態情報の保持を可能とする。また、チューナブルカプラ16を介したリード線12に対する量子ビット20の中間結合を選択することによって読み出しが可能となり、その結合強度を連続的に調整することで各量子ビット20の読み出し忠実度を最適化することができる。
【0012】
結合コントローラ22は、図中、CNTRL
1〜CNTRL
Nで示される制御信号によって、それぞれのチューナブルカプラ16を介して、リード線12への各量子ビット20の結合強度を制御する。この結合コントローラは、単一磁束量子(SFQ)論理(例えば、逆量子(RQL)論理)および/または従来の論理を利用することができる。読み出し入力信号(READ
IN)は読み出し入力ポート24に供給され得る。また、読み出し出力信号(READ
OUT)は読み出し出力ポート26に供給され得る。読み出し入力信号は、関連するチューナブルカプラ16および関連するBPフィルタ共振部14を介した1つまたは複数の量子ビット20の読み出しによって変更される。そして、その変更された読み出し入力信号(READ
IN)が読み出し出力信号(READ
OUT)としてリード線12の読み出し出力ポート26に供給される。この読み出し出力ポート26は、読み出された1つまたは複数の量子ビット20に関連付けられた状態情報を提供する。
【0013】
図2は、複数の量子ビットの多重読み出しのためのシステム30の別の例を示す。
図2の例では、チューナブルカプラは、量子ビット読み出し共振器(TL
1〜TL
4)とリード線32との間のガルバニック結合(galvanic coupling)を介してそれぞれのBPフィルタ共振部に結合されており、非常に強い最大結合を実現し、多重量子ビットのリセットおよび読み出しを容易にする。このシステム30は、キャパシタと並列に接続された一対のシャントインダクタから各々形成された複数のBPフィルタ共振部を含む。各BPフィルタ共振部は、複数の直列結合カップリングキャパシタ(図において、C
26,C
28,C
31,C
32,C
27)からなるリード線32上のそれぞれ異なる点に結合されている。第1のカップリングキャパシタC
26が整合入力ポートに結合されるとともに、最後のカップリングキャパシタC
27が整合出力ポートに結合されることにより、リード線32全体にわたって50オームインピーダンスマッチングが維持されることを保証する。
【0014】
この例示的なシステム30では、BPフィルタを形成する4つのBPフィルタ共振部が存在する。第1のBPフィルタ共振部34は、シャントインダクタL
7と、それに直列のシャントインダクタL
15を含み、双方のシャントインダクタL
7,L
15はキャパシタC
22と並列である。第2のBPフィルタ共振部35は、シャントインダクタL
11と、それに直列のシャントインダクタL
18を含み、双方のシャントインダクタL
11,L
18はキャパシタC
29と並列である。第3のBPフィルタ共振部36は、シャントインダクタL
12と、それに直列のシャントインダクタL
19を含み、双方のシャントインダクタL
12,L
19はキャパシタC
30と並列である。第4のBPフィルタ共振部37は、シャントインダクタL
10と、それに直列のシャントインダクタL
24を含み、双方のシャントインダクタL
10,L
24はキャパシタC
25と並列である。これらのBPフィルタ共振部は、リード線での50オームインピーダンスマッチングを維持するように構成されている。
【0015】
複数の量子ビット(図において、量子ビット#1〜#4で示す)は、それぞれの量子ビット伝送路共振器(図において、TL1〜TL4)に結合されている。各量子ビット読み出し共振器は、それぞれ他の量子ビット読み出し共振器に対して異なる周波数で共振する。所定の量子ビット読み出し共振器が、関連する量子ビットの状態に基づいて、それぞれの周波数のわずかな変化で共振することにより、所与の量子ビット読み出し共振器の読み出しによって、関連する量子ビットの状態を推定することが可能となる。
【0016】
各量子ビット読み出し共振器は、それぞれのチューナブルカプラを介して、それぞれのBPフィルタ共振部によりリード線32に結合可能である。各チューナブルカプラは、RF−SQUIDから形成されている。例えば、第1のチューナブルカプラは、インダクタL
14と、ジョセフソン接合J
13と、第1のBPフィルタ共振部34における1つのシャントインダクタL
15とから形成されている。第2のチューナブルカプラは、インダクタL
16と、ジョセフソン接合J
17と、第2のBPフィルタ共振部35における1つのシャントインダクタL
18とから形成されており、第3のチューナブルカプラは、インダクタL
20と、ジョセフソン接合J
21と、第3のBPフィルタ共振部36における1つのシャントインダクタL
19とから形成されている。第4のチューナブルカプラは、インダクタL
23と、ジョセフソン接合J
22と、第4のBPフィルタ共振部37における1つのシャントインダクタL
24とから形成されている。各チューナブルカプラ(RF−SQUID)は、関連するBPフィルタ共振部を介して関連する量子ビットをリード線32に対して強結合または中間結合するように調整され得るか、もしくは関連する量子ビットをリード線32から分離するようにその量子ビットを強分離するように調整され得る。
【0017】
結合コントローラ(図示略)は、制御信号によって、それぞれのチューナブルカプラを介して、リード線32への各量子ビットの結合強度を制御する。読み出し入力信号(READ
IN)は、リード線32の読み出し入力ポート38に供給され得る。この読み出し入力信号(READ
IN)は、関連するチューナブルカプラとそれぞれのBPフィルタ共振部を介して、同時に1つまたは複数の量子ビットを読み出すことによって変更され得る。そして、この変更された読み出し入力信号が、読み出し出力信号(READ
OUT)としてリード線32の読み出し出力ポート39に供給される。この読み出し出力信号は、読み出された1つまたは複数の量子ビットに関連付けられた状態情報を提供する。なお、
図2は、4つの共振部からなるフィルタを介して多重化される4つの量子ビットのみを示しているが、
図1に示されるように、適切に設計されたN個の共振部からなる帯域通過フィルタを介して任意のN個の数の量子ビットを多重化することができる。
【0018】
図3は、第1の量子ビット(#1)の読み取しに関する
図2のシステムの一部の概略図を示す。
図3に示すように、第1のBPフィルタ共振部34は、キャパシタC
22と並列のインダクタL
7,L
15によって形成されたシャントインダクタを含む。RF−SQUIDによって形成され、接合インダクタンスL
J13とインダクタL
10,L
15とを含むチューナブルカプラは、シャントインダクタンスの一部を共有することによってフィルタの共振部にガルバニック結合されている。例えば、第1の量子ビット読み出し共振器TL1は、キャパシタC
22と並列のインダクタL
7,L
15からなるフィルタの第1のBPフィルタ共振部34に対して、カプラL
14−L
J13−L
15を介して、シャントインダクタL
15によりガルバニック結合されている。全体の最大結合強度は、部分的にはBPフィルタ共振部34の全インダクタンスに対する共有インダクタンスの割合によって決定される。各カプラは、関連するRF−SQUIDループに磁束を印加することによって個別に制御可能である。
【0019】
図3に示すように、制御電流I
CNTLは、インダクタL
14と、ジョセフソン接合J
13のインダクタンスL
13と、第1のBPフィルタ共振部34のインダクタL
15とからなるRF−SQUIDループのインダクタL
15に誘導結合された制御インダクタL
CNTLに印加される。この制御電流は、RF−SQUIDループに磁束を誘導することにより、ジョセフソン接合J
13を流れる電流を誘起する。ジョセフソン接合J
13は、ジョセフソン接合J
13を流れる電流に基づいて変化し得るインダクタンスL
J13を有するため、制御電流I
CNTLによってRF−SQUIDのインピーダンス(例えば、インダクタンス)を制御することができ、これにより、チューナブルカプラのインダクタンスL
13を介して、それぞれのBPフィルタ共振部34に対する量子ビット読み出し共振器TL1の接合強度を制御することができる。ジョセフソン接合J
13を流れる電流は、SQUIDに印加される磁束に基づいて誘起することができる。
【0020】
一実施例において、ジョセフソン接合J
13は、SQUIDに電流が誘起されないとき、またはSQUIDに低い電流が誘起されるときには、第1のインダクタンスを有する。また、ジョセフソン接合J
13は、SQUIDに電流が誘起されるとき、または、例えば、約0.1Φ
0よりも大きく且つ約0.45Φ
0よりも小さい磁束を生成または誘導する所定のしきい値においてSQUIDに高い電流が誘起されるときには、第2のインダクタンスを有する。ここで、Φ
0は、磁束量子に等しい。第1のインダクタンス(例えば、(hバー/2e)×(1/l
C)であり、ここで、hバーは換算プランク定数を表し、プランク定数を2πで割ったものであり、eは電子電荷であり、l
Cはジョセフソン接合の臨界電流である)は、所与の量子ビット読み出し共振器とそれぞれのフィルタ共振部との間の結合をもたらして量子ビットのリセットを可能とする低インダクタンスとすることができる。第2のインダクタンス(例えば、大きなインダクタンス値)は、所与の量子ビット読み出し共振器とそれぞれのフィルタ共振部との間の結合分離をもたらして量子ビットの状態を変化させないまま維持することを可能とするおよび/または量子ビット上での動作を可能とする高インダクタンスとすることができる。また、中間制御信号を選択して中間インダクタンスを提供することにより、量子ビットの状態をリセットすることなくその量子ビットの読み取りを行うことが可能となる。これは、各量子ビット#1〜#4に適用される。
【0021】
図4Aおよび
図4Bは、アジレント(Agilent)ADSソフトウェアを用いた
図2の動作のシミュレーションにおけるフィルタ応答の周波数対Sパラメータのグラフを示す。ジョセフソン接合は、そのジョセフソン接合の動作をシミュレートするためにインダクタによって置き換えられている。量子ビットは省略したため、応答は量子ビット読み出し共振器にのみ関連付けられている。
図4Aは、全てのカプラが「オフ」状態にある場合のフィルタ応答を示した周波数対Sパラメータのグラフ50を示す。第1の波形52は、READ
IN信号が与えられたREAD
OUT信号の応答S
21またはBPフィルタを通じた送信を示す。第2の波形54は、READ
IN信号を反映した応答S
11を示す。
図4Bは、全てのカプラが「オン」状態にあるときのフィルタ応答を示した周波数対Sパラメータのグラフ60を示す。
図4Bでは、4つの共振器フィルタ応答62が示されており、各応答は、それぞれのBPフィルタ共振部との結合による特定の量子ビット読み出し共振器を表している。
【0022】
図5Aおよび
図5Bは、4つの異なるカプラが各々特定の接合設定を有している場合についてアジレントADSソフトウェアを用いた
図2の動作のシミュレーションにおけるフィルタ応答の周波数対送信のグラフを示す。具体的には、カプラの磁束の設定は、カプラ1が完全に「オン」となり、カプラ2が完全に「オフ」となり、カプラ3,4が中間結合状態となるように設定されている。
図5Aは、量子ビットを読み出すために行われる測定と同様、フィルタを介したS
21のフィルタ応答波形のグラフ70を示す。
図5Bは、非常に弱く結合されたポートで観察される量子ビット読み出し共振器の応答を示したグラフ80であって、読み出し共振器の負荷Q値(Quality factor)の尺度を示す。
【0023】
図示されているように、カプラ1に関連付けられた第1の読み出し共振器は、カプラ1が完全にオンしているため大きく減衰している。このカプラ設定は、関連する量子ビット1の高速リセットに対して有用である。カプラ2に関連付けられた読み出し共振器2は、
図5Bの応答において非常に鋭い低下を示しており、これは、カプラ2が本質的にオフであるために高い負荷Q値であることを示している。同じ共振器は
図5Aの応答のフィルタのS
21ではほとんど分からない。このカプラ設定では、50オームのマイクロ波環境への結合により量子ビットのデコヒーレンスが最小化される。この設定により、計算が実行されている間に読み出し回路から量子ビットが完全に分離される。カプラ3,4にそれぞれ関連付けられた共振器3,4は中程度の負荷Q値を示し、
図5Aのグラフでは急峻な低下として現れる。このようなカプラ3,4の設定では、量子ビットは、通常のcQED読み出し技術を用いて読み出すことができる。
【0024】
上記シミュレーション結果は、
図2の回路に対応し、フィルタ共振部のインダクタンスはL
7+L
15=381pH(同様に、L
11+L
18、L
12+L
19、L
10+L
24についても同じ)であり、フィルタ共振部のキャパシタンスはC
22=C
25=0.326pF、C
29=C
30=0.318pFであり、フィルタの直列キャパシタはC
26=C
27=0.318pF、C
28=C
32=0.188pF、C
31=0.158pFである。全シャントインダクタンスに対する共有インダクタンスの割合KKは、KK=L
15/(L
7+L
15)=0.2である。
【0025】
図6は、複数の量子ビットの多重読み出しのためのシステム90のさらに別の例を示す。
図6の例では、フィルタの共振部92,94,96,98は、集中定数素子L,C成分の代わりに、短絡1/4波長伝送線路スタブによって実現されている。第1のBPフィルタ共振部92は、伝送線路スタブTL10と、それに直列の伝送線路スタブTL14とから形成され、第2のBPフィルタ共振部94は、伝送線路スタブTL11と、それに直列の伝送線路スタブTL15とから形成されている。第3のBPフィルタ共振部96は、伝送線路スタブTL12と、それに直列の伝送線路スタブTL16とから形成され、第4のBPフィルタ共振部98は、伝送線路スタブTL13と、それに直列の伝送線路スタブTL17とから形成されている。この実装は、1/4波長スタブが特定の微細加工プロセスで容易に設計できるため有利である。スタブは、ストリップ線路の実現に適した比較的低いインピーダンス(例えば、20オーム)か、またはコプレーナ(coplanar)導波路の実装により適した50オームのインピーダンスで設計することができる。
図6のシステム90は平面的とすることができ、また、単一の金属層を用いて製造することができる。ガルバニック結合は、
図6に示されるように、スタブの短絡端から距離KK(度)離れたノードにカプラを接続することによって提供される。
【0026】
例えば、
図6のストリップ線路及びCPWの実装に適した回路部品の値は、以下の表に示される。一般に、共振部nのスタブ周波数ω
nとインピーダンスZ
nは、n番目の共振部の集中定数素子のインダクタL
nとキャパシタC
nに関連し、それぞれ、ω
n=1/√(L
nC
n)、Zn=π/4ω
nC
nで表される。
【0027】
【表1】
図7Aおよび
図7Bは、アジレントADSソフトウェアを用いた
図6の動作のシミュレーションにおけるフィルタ応答の周波数対Sパラメータのグラフを示す。例示的なSパラメータのフィルタのADSシミュレーションは
図7Bに示されており、ここでは、カプラの磁束の特定の例として、カプラ1,4が読み出し用(中間結合)に設定され、カプラ2が量子ビットのリセット用(強結合)に調整され、カプラ3が量子ビットの記憶/消去の動作用(強分離)に「オフ」状態に調整されている。別のSパラメータの例のフィルタのADSシミュレーションが
図7Bに示されている。
【0028】
要約すると、開示されるような調整可能な結合強度を有する、50オーム環境と共振器との間のガルバニック結合は、cQEDアーキテクチャにおける多重量子ビット読み出しおよびリセットに適しており、非常に有益である。ガルバニック結合は、強い最大結合を可能にし、帯域通過フィルタ回路にカプラ回路を埋め込むことによって容易となる。
【0029】
上述の構造的及び機能的な特徴を考慮して、本発明の種々の態様による方法は、
図8を参照することによってより良く理解され得る。説明を簡略化するために、
図8の方法は、連続的に実行されるものとして示され説明されているが、本発明は、図示した順序に限定されるものではなく、本発明によれば、いくつかの態様では、異なる順序で生じ得ることおよび/または図示され説明されている態様とは別の態様と同時に生じ得ることが理解され得る。さらには、本発明の一態様による方法を実施するために図示された特徴の全てが必要とされるわけではない。
【0030】
図8は、複数の量子ビットの多重読み出しのための方法150の一例を示す。152において、複数の量子ビットの多重読み出しのためのシステムが提供される。このシステムは、帯域通過(BP)フィルタを形成する複数のBPフィルタ共振部を含み得る。各BPフィルタ共振部は、複数の量子ビット読み出し共振器のうちのそれぞれの量子ビット読み出し共振器を介して、リード線上のそれぞれ異なる点と複数の量子ビットのうちのそれぞれの量子ビットとの間に結合される。また、システムは、複数のSQUIDを含み得る。各SQUIDは、リード線に対するそれぞれの量子ビットの結合強度を個々に調整可能である。各SQUIDは、それぞれのBPフィルタ共振部にガルバニック結合され得る。また、各SQUIDは、それぞれのBPフィルタ共振部と共通のインダクタンスを共有する。その後、方法は154に進む。
【0031】
154において、読み出し対象の1つまたは複数の量子ビットがリード線に結合され、その他の量子ビット全てがリード線から分離される。リード線は、互いに直列に結合された複数のカップリングキャパシタを含み得る。1つまたは複数の量子ビットの結合は、その関連する量子ビットの高速リセットを可能にする強結合とすることができる。または、この結合は、読み出しを可能にする中間結合とすることができる。この中間結合は、読み出し忠実度を最適化するように連続的に調整され得る。156において、入力信号がリード線の入力ポートに供給される。158において、入力信号に基づいて、リード線の出力ポートから出力信号が読み出される。160において、読み出される1つまたは複数の量子ビットの状態が入力信号と出力信号との間の変化に基づいて決定される。
【0032】
上記説明は本発明の例示であり、当然のことながら、本発明を説明する目的で構成要素または方法の考えられるすべての組み合わせを説明することは不可能である。当業者であれば、本発明の多くのさらなる組み合わせや置換が可能であることを認識し得る。従って、本発明は、添付の特許請求の範囲を含む本出願の範囲内に含まれるそのような変更、修正、および変形をすべて包含することが意図されている。
本開示に含まれる技術的思想を以下に記載する。
(付記1)
量子ビットの読み出しのためのシステムであって、
リード線上のそれぞれ異なる点に各々結合された複数の帯域通過(BP)フィルタ共振部であって、各BPフィルタ共振部がそれぞれの量子ビット読み出し共振器を介してそれぞれの量子ビットに結合可能な複数のBPフィルタ共振部と、
複数のチューナブルカプラであって、各チューナブルカプラがそれぞれのBPフィルタ共振部と量子ビット読み出し共振器との間に結合された、複数のチューナブルカプラと、
前記各チューナブルカプラのインピーダンスを制御することによって、前記リード線に対する各量子ビットの結合強度を制御する結合コントローラと、
を備えるシステム。
(付記2)
前記各チューナブルカプラのインピーダンスは、前記リード線に対するそれぞれの量子ビットの強結合と、前記リード線に対するそれぞれの量子ビットの強分離と、前記リード線に対するそれぞれの量子ビットの中間結合とのうちの1つを提供するように、前記結合コントローラによって制御可能である、付記1に記載のシステム。
(付記3)
それぞれの量子ビットの強結合は、量子ビットから任意の状態情報を除去するそれぞれの量子ビットの高速リセットを可能とし、それぞれの量子ビットの強分離は、それぞれの量子ビットを前記リード線に結合することなくそれぞれの量子ビット上での動作の実行を可能にしてそれぞれの量子ビットの状態情報の保持を可能とし、それぞれの量子ビットに対する調整可能な中間結合は、量子ビット状態の高忠実度の読み出しを可能とする、付記2に記載のシステム。
(付記4)
前記各チューナブルカプラは、それぞれのBPフィルタ共振部にガルバニック結合されている、付記1に記載のシステム。
(付記5)
前記各チューナブルカプラは、少なくとも1つのジョセフソン接合を有する超伝導量子干渉素子(SQUID)であり、前記少なくとも1つのジョセフソン接合を流れる電流により、前記SQUIDのインダクタンスと、前記リード線に対するそれぞれの量子ビットの結合強度とが変化する、付記1に記載のシステム。
(付記6)
前記各チューナブルカプラとそれぞれのBPフィルタ共振部が共通のインダクタンスを共有する、付記5に記載のシステム。
(付記7)
前記各BPフィルタ共振部が、インダクタとキャパシタとを含む集中定数素子から形成される、付記1に記載のシステム。
(付記8)
前記各BPフィルタ共振部が、1つまたは複数の伝送線路スタブから形成される、付記1に記載のシステム。
(付記9)
前記リード線が、互いに結合された複数の直列結合カップリングキャパシタから形成される、付記1に記載のシステム。
(付記10)
読み出される1つまたは複数の量子ビットが、前記リード線に同時に結合可能である、付記1に記載のシステム。
(付記11)
前記リード線は入力ポートと出力ポートを含み、前記入力ポートに供給される入力信号が1つまたは複数の量子ビットの読み出しによって変更されることにより、その変更された入力信号が、前記1つまたは複数の量子ビットの状態を規定可能な出力信号として出力ポートに供給される、付記10に記載のシステム。
(付記12)
量子ビットの多重読み出しのためのシステムであって、
帯域通過(BP)フィルタを形成する複数のBPフィルタ共振部であって、各BPフィルタ共振部が、リード線上のそれぞれ異なる点と、それぞれの量子ビット読み出し共振器を介したそれぞれの量子ビットとの間に結合された、複数のBPフィルタ共振部と、
複数のチューナブルカプラであって、各チューナブルカプラがそれぞれのBPフィルタ共振部にガルバニック結合され、かつ、各チューナブルカプラが少なくとも1つのジョセフソン接合を有する超伝導量子干渉素子(SQUID)であり、前記SQUIDに誘導される磁束により、前記少なくとも1つのジョセフソン接合のインダクタンスと、前記リード線に対するそれぞれの量子ビットの結合強度とが変化する、複数のチューナブルカプラと、
各SQUIDに誘導される磁束の量を制御することによって、前記リード線に対する各量子ビットの結合強度を制御する結合コントローラと、
を備えるシステム。
(付記13)
前記リード線に対する各量子ビットの結合強度を、強結合、強分離、および中間結合のうちの1つとすることができる、付記12に記載のシステム。
(付記14)
前記各チューナブルカプラとそれぞれのBPフィルタ共振部は共通のインダクタンスを共有する、付記12に記載のシステム。
(付記15)
前記リード線が、互いに結合された複数の直列結合カップリングキャパシタから形成される、付記12に記載のシステム。
(付記16)
前記リード線は入力ポートと出力ポートを含み、前記入力ポートに供給される入力信号が前記複数の量子ビットのうちの1つまたは複数の量子ビットの読み出しによって変更されることにより、その変更された入力信号が、前記1つまたは複数の量子ビットの状態を規定可能な出力信号として出力ポートに供給される、付記12に記載のシステム。
(付記17)
量子ビットの多重読み出しのための方法であって、
帯域通過(BP)フィルタを形成する複数のBPフィルタ共振部を含むシステムを提供することであって、各BPフィルタ共振部が、リード線上のそれぞれ異なる点と、複数の量子ビット読み出し共振器のうちのそれぞれの量子ビット読み出し共振器を介した複数の量子ビットのうちのそれぞれの量子ビットとの間に結合されている、前記システムを提供すること、
前記リード線に対して1つまたは複数の量子ビットを結合しつつ、前記リード線に対して前記複数の量子ビットのうちの他の量子ビットを分離すること、
前記リード線の入力ポートに入力信号を供給すること、
前記リード線の出力ポートから出力信号を読み出すこと、
前記入力信号と前記出力信号との間の変化に基づいて前記1つまたは複数の量子ビットの状態を決定すること、
を備える方法。
(付記18)
前記リード線に対する前記1つまたは複数の量子ビットの結合は、少なくとも1つの量子ビットの状態をリセットするための前記リード線に対する少なくとも1つの量子ビットの強結合と、少なくとも1つの量子ビットの状態を読み出すための前記リード線に対する少なくとも1つの量子ビットの中間結合と、少なくとも1つの量子ビット上で動作を実行可能とするための前記リード線に対する少なくとも1つの量子ビットの強分離とのうちの1つを含む、付記17に記載の方法。
(付記19)
前記リード線に対する前記1つまたは複数の量子ビットの結合は、前記1つまたは複数の量子ビットの状態の高忠実度の読み出しを行うための、前記リード線に対する前記1つまたは複数の量子ビットの調整可能な中間結合を含む、付記17に記載の方法。
(付記20)
前記システムを提供することは、複数の超伝導量子干渉素子(SQUID)を提供することを含み、各SQUIDは、それぞれのBPフィルタ共振部にガルバニック結合されており、当該方法はさらに、前記リード線に対するそれぞれの量子ビットの結合強度を制御する磁束量を各SQUIDにおいて誘導することを備える、付記17に記載の方法。