特許第6553354号(P6553354)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6553354
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】空気入りラジアルタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 15/00 20060101AFI20190722BHJP
   B60C 15/06 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   B60C15/00 A
   B60C15/06 N
   B60C15/06 B
   B60C15/06 F
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-258629(P2014-258629)
(22)【出願日】2014年12月22日
(65)【公開番号】特開2016-117411(P2016-117411A)
(43)【公開日】2016年6月30日
【審査請求日】2017年9月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仲俣 常隆
【審査官】 岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−015961(JP,A)
【文献】 特開平07−117419(JP,A)
【文献】 特開2011−051568(JP,A)
【文献】 特開平10−211806(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0154956(US,A1)
【文献】 特開2014−024408(JP,A)
【文献】 特開平03−010914(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 15/00、15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビード部に埋設されたビードコアと、前記ビードコアのタイヤ径方向外側に配置されたビードフィラーと、前記ビードフィラーを挟み込むように前記ビードコアの周りでタイヤ幅方向の内側から外側に巻き上げられたカーカスプライと、前記ビード部の前記カーカスプライの外方に沿って配置され、前記ビードコアの周りでタイヤ幅方向の内側から外側に巻き上げられたスチール保護層と、前記ビード部の前記スチール保護層の外方に沿って配置され、前記ビードコアの周りでタイヤ幅方向の内側から外側に巻き上げられた有機繊維保護層とを備える空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記カーカスプライの巻き上げ端は、前記スチール保護層の巻き上げ端よりもタイヤ径方向内側に配置され、
前記ビードフィラーは、前記ビードコアに隣接して配置された第1ビードフィラーと、前記第1ビードフィラーのタイヤ幅方向外側に配置された第2ビードフィラーとで構成され、
前記第1ビードフィラーのゴム硬度は、前記第2ビードフィラーのゴム硬度よりも高く、
前記第2ビードフィラーのタイヤ幅方向外側に、前記スチール保護層の巻き上げ端及び前記有機繊維保護層の巻き上げ端を挟み込むようにして補強ゴムが設けられており、
前記第2ビードフィラーのゴム硬度と前記補強ゴムのゴム硬度は同じであり、
前記スチール保護層は、タイヤ径方向に対して傾斜する方向に配列した複数のスチールコードをゴムで被覆して形成されており、
前記スチール保護層の巻き上げ端から、タイヤ内面までの、前記スチール保護層の巻き上げ端を通るタイヤ内面の法線に平行な方向の幅Aと、前記スチール保護層の巻き上げ端から、タイヤ外面までの、前記法線に平行な方向の幅Bとが、1≦A/B≦2の関係を満たし、
前記カーカスプライの巻き上げ端は、プライカバー部材で覆われており、
前記プライカバー部材と前記第1ビードフィラーの間に位置する前記第2ビードフィラーの厚みCと、前記プライカバー部材と前記スチール保護層との間に位置する前記補強ゴムの厚みDとが、0.8≦D/C≦1.2の関係を満たすことを特徴とする空気入りラジアルタイヤ。
【請求項2】
前記スチール保護層の巻き上げ端は、U字状のスチール保護層カバー部材で覆われており、
前記スチール保護層の巻き上げラインに対して垂直で前記スチール保護層の巻き上げ端を通る線上において、前記スチール保護層カバー部材のタイヤ幅方向内側に位置する前記補強ゴムの厚みEと、前記有機繊維保護層のタイヤ幅方向外側に位置する前記補強ゴムの厚みFとが、0.8≦F/E≦1.2の関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項3】
前記プライカバー部材のゴム硬度は、前記第2ビードフィラー及び前記補強ゴムのゴム硬度よりも高く、かつ前記カーカスプライのトッピングゴムのゴム硬度よりも低いことを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項4】
前記プライカバー部材は、前記カーカスプライの巻き上げ端を覆うU字状の被覆部と、この被覆部からタイヤ径方向外側に向かって延びる延出部とを有し、
前記延出部の先端は、前記スチール保護層の巻き上げ端よりもタイヤ径方向外側に配置されることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビード部の構造に特徴を有する耐久性の高い空気入りラジアルタイヤに関し、特に重荷重用空気入りラジアルタイヤとして有用である。
【背景技術】
【0002】
従来、特に産業車両や建設車両などの重量が重い車両に使用される空気入りラジアルタイヤでは、ビードコアの回りで巻き上げられたカーカスプライの巻き上げ端を起点として、セパレーションなどの故障を起こす心配があった。これに対し、特許文献1〜3に記載のように、ビード部のカーカスプライの外方に沿って保護層を配置し、ビード部の耐久性を向上する手法が公知である。しかし、国や地域によっては、非常に高い内圧で使用される場合があり、ビード部の耐久性を更に向上することが必要となる。
【0003】
カーカスプライの巻き上げ端での故障を抑制するうえでは、特許文献1等に開示されるような、スチールコードを含んだスチール保護層が適している。しかしながら、このようなスチール保護層を配置した場合、スチール保護層の端部を起点として故障を生じる恐れがあり、これを改善する余地があることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−24408号公報
【特許文献2】特開2014−113920号公報
【特許文献3】特開平7−117419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、カーカスプライの巻き上げ端だけでなく、スチール保護層の端部での故障をも抑制して、ビード部の耐久性に優れる空気入りラジアルタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、下記の如き本発明により達成することができる。
即ち、本発明の空気入りラジアルタイヤは、ビード部に埋設されたビードコアと、前記ビードコアのタイヤ径方向外側に配置されたビードフィラーと、前記ビードフィラーを挟み込むように前記ビードコアの周りでタイヤ幅方向の内側から外側に巻き上げられたカーカスプライと、前記ビード部の前記カーカスプライの外方に沿って配置され、前記ビードコアの周りでタイヤ幅方向の内側から外側に巻き上げられたスチール保護層と、前記ビード部の前記スチール保護層の外方に沿って配置され、前記ビードコアの周りでタイヤ幅方向の内側から外側に巻き上げられた有機繊維保護層とを備える空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記ビードフィラーは、前記ビードコアに隣接して配置された第1ビードフィラーと、前記第1ビードフィラーのタイヤ幅方向外側に配置された第2ビードフィラーとで構成され、
前記第2ビードフィラーのタイヤ幅方向外側に、前記スチール保護層の巻き上げ端及び前記有機繊維保護層の巻き上げ端を挟み込むようにして補強ゴムが設けられており、
前記スチール保護層の巻き上げ端から、タイヤ内面までの、前記スチール保護層の巻き上げ端を通るタイヤ内面の法線に平行な方向の幅Aと、前記スチール保護層の巻き上げ端から、タイヤ外面までの、前記法線に平行な方向の幅Bとが、1≦A/B≦2の関係を満たし、
前記カーカスプライの巻き上げ端は、プライカバー部材で覆われており、
前記プライカバー部材と前記第1ビードフィラーの間に位置する前記第2ビードフィラーの厚みCと、前記プライカバー部材と前記スチール保護層との間に位置する前記補強ゴムの厚みDとが、0.8≦D/C≦1.2の関係を満たすものである。
【0007】
本発明の空気入りラジアルタイヤでは、スチール保護層の巻き上げ端を補強ゴムで挟み込んでいるため、スチール保護層の端部を起点とした故障を抑制できる。さらに、スチール保護層の巻き上げ端からタイヤ内面までの幅Aとタイヤ外面までの幅Bを上記の関係を満たすようにすることで、タイヤ内面及びタイヤ外面からスチール保護層までの距離を確保できるのでスチール保護層の端部を起点とした故障を効果的に抑制できる。また、カーカスプライの巻き上げ端をプライカバー部材で覆うことで、カーカスプライの巻き上げ端を起点とした故障を抑制できる。さらに、このプライカバー部材を両側から挟み込む第2ビードフィラーの厚みCと補強ゴムの厚みDを上記の関係を満たすようにすることで、カーカスプライの巻き上げ端を起点とした故障を効果的に抑制できる。
【0008】
本発明の空気入りラジアルタイヤにおいて、前記スチール保護層の巻き上げ端は、U字状のスチール保護層カバー部材で覆われており、前記スチール保護層の巻き上げラインに対して垂直で前記スチール保護層の巻き上げ端を通る線上において、前記スチール保護層カバー部材のタイヤ幅方向内側に位置する前記補強ゴムの厚みEと、前記有機繊維保護層のタイヤ幅方向外側に位置する前記補強ゴムの厚みFとが、0.8≦F/E≦1.2の関係を満たすことが好ましい。
【0009】
この構成によれば、スチール保護層の巻き上げ端をスチール保護層カバー部材で覆うことで、スチール保護層の端部を起点とした故障を抑制できる。また、スチール保護層を両側から挟み込む補強ゴムの厚みE,Fを上記の関係を満たすようにすることで、スチール保護層の端部を起点とした故障を効果的に抑制できる。
【0010】
本発明の空気入りラジアルタイヤにおいて、前記プライカバー部材のゴム硬度は、前記第2ビードフィラー及び前記補強ゴムのゴム硬度よりも高く、かつ前記カーカスプライのトッピングゴムのゴム硬度よりも低いことが好ましい。
【0011】
この構成によれば、カーカスプライの周囲のゴムのゴム硬度を徐々に変化させていることで、カーカスプライの巻き上げ端でのひずみを低減させることができるため、カーカスプライの巻き上げ端を起点とした故障を抑制できる。
【0012】
本発明の空気入りラジアルタイヤにおいて、前記プライカバー部材は、前記カーカスプライの巻き上げ端を覆うU字状の被覆部と、この被覆部からタイヤ径方向外側に向かって延びる延出部とを有し、前記延出部の先端は、前記スチール保護層の巻き上げ端よりもタイヤ径方向外側に配置されることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、プライカバー部材の延出部によってスチール保護層の巻き上げ端を保護できるため、スチール保護層の巻き上げ端を起点とした故障を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の空気入りラジアルタイヤの一例を示すタイヤ子午線断面図
図2図1のタイヤのビード部を拡大して示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。図1に示すタイヤTは、本発明に係る空気入りラジアルタイヤの一例であり、標準リム装着時におけるタイヤ子午線断面が示されている。標準リム装着時は、タイヤサイズに対応してJATMAに規定されるリムにタイヤを装着し、空気圧50kPaの空気を充填した状態を指す。図2は、そのタイヤTのビード部1を拡大して示す断面図である。
【0016】
このタイヤTは、一対のビード部1と、ビード部1からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向外側端に連なるトレッド部3とを備える。ビード部1にはビードコア11が埋設され、ビードコア11のタイヤ径方向外側にはビードフィラー12が配置されている。
【0017】
また、タイヤTは、トレッド部3からサイドウォール部2を経てビード部1に至り、ビードフィラー12を挟み込むようにビードコア11の周りでタイヤ幅方向の内側から外側に巻き上げられたカーカスプライ4を備える。
【0018】
ビードコア11は、ゴムで被覆したワイヤを積層巻回した収束体により構成され、タイヤ周方向に沿って環状に形成されている。ビードフィラー12は、タイヤ径方向外側に向けて先細りとなる形状を有し、その先端は、カーカスプライ4の巻き上げ端4Eよりもタイヤ径方向外側に配置されている。
【0019】
ビードフィラー12は、ビードコア11に隣接して配置された第1ビードフィラー121と、第1ビードフィラー121のタイヤ幅方向外側に配置された第2ビードフィラー122とで構成されている。第1ビードフィラー121は、断面が略三角形状であり、第2ビードフィラー122は、第1ビードフィラー121の外側に隣接して配置されており、ビードフィラー12は、断面が全体として略三角形状である。第1ビードフィラー121は、第2ビードフィラー122よりも高硬度となっている。例えば、第1ビードフィラー121のゴム硬度は110以上であり、第2ビードフィラー122のゴム硬度は100以下である。なお、本発明におけるゴム硬度は、JISK6253のデュロメータ硬さ試験(タイプA)に準じて測定した硬度を意味する。
【0020】
カーカスプライ4は、トレッド部3からサイドウォール部2を経てビード部1に至る本体部41に、ビードコア11及びビードフィラー12のタイヤ幅方向外側に配置される巻き上げ部42を一連に設けてある。巻き上げ端4Eは、巻き上げ部42の端部である。カーカスプライ4は、タイヤ周方向に対して略直交する方向に配列した複数のカーカスコードをゴムで被覆して形成されている。カーカスコードの材料には、スチール等の金属や、ポリエステル、レーヨン、ナイロン、アラミド等の有機繊維が好適に使用される。
【0021】
また、タイヤTは、スチールコードを含んだスチール保護層6を備える。スチール保護層6は、ビード部1のカーカスプライ4の外方に沿って配置され、ビードコア11の周りでタイヤ幅方向の内側から外側に巻き上げられている。換言すると、スチール保護層6は、本体部41のタイヤ幅方向内側に位置する内側部61に、巻き上げ部42のタイヤ幅方向外側に位置する外側部62を一連に設けてある。内側端61Eは、タイヤ幅方向内側に位置するスチール保護層6(内側部61)の端部であり、外側端62E(スチール保護層6の巻き上げ端に相当)は、タイヤ幅方向外側に位置するスチール保護層6(外側部62)の端部である。
【0022】
スチール保護層6は、タイヤ径方向に対して傾斜する方向に配列した複数のスチールコードをゴムで被覆して形成されている。この複数のスチールコードは相互に平行に配列されており、タイヤ径方向に対する傾斜角度は、例えば50〜80°に設定される。スチール保護層6は、カーカスプライ4を包むようにして、カーカスプライ4に外方から接している。スチールコードのエンド数(コード幅方向1インチあたりのコード本数)は10本/インチ以上が好ましく、スチールコードのコード径は0.9mm以上が好ましい。
【0023】
更に、タイヤTは、有機繊維コードを含んだ有機繊維保護層7を有する。有機繊維保護層7は、ビード部1のスチール保護層6の外方に沿って配置され、ビードコア11の周りでタイヤ幅方向の内側から外側に巻き上げられている。換言すると、有機繊維保護層7は、内側部61のタイヤ幅方向内側に位置する内側部71に、外側部62のタイヤ幅方向外側に位置する外側部72を一連に設けてある。内側端71Eは、タイヤ幅方向内側に位置する有機繊維保護層7(内側部71)の端部であり、外側端72E(有機繊維保護層7の巻き上げ端に相当)は、タイヤ幅方向外側に位置する有機繊維保護層7(外側部72)の端部である。
【0024】
有機繊維保護層7は、タイヤ径方向に対して傾斜する方向に配列した複数の有機繊維コードをゴムで被覆して形成されている。この複数の有機繊維コードは相互に平行に配列されており、タイヤ径方向に対する傾斜角度は、例えば30〜60°に設定される。有機繊維コードの材料としては、ナイロンやポリエステル、レーヨン、アラミド等が例示される。有機繊維保護層7は、スチール保護層6を包むようにして、スチール保護層6に外方から接している。有機繊維コードのエンド数は15本/インチ以上が好ましく、有機繊維コードのコード径は0.4mm以上が好ましい。
【0025】
第2ビードフィラー122のタイヤ幅方向外側には、スチール保護層6の外側端62E及び有機繊維保護層7の外側端72Eをタイヤ幅方向の両側から挟み込むようにして補強ゴム8が設けられている。補強ゴム8は、第2ビードフィラー122のタイヤ幅方向外側に隣接して配置されている。カーカスプライ4の巻き上げ端4Eは、第2ビードフィラー122と補強ゴム8によって挟まれている。
【0026】
第1ビードフィラー121の上端121Eは、スチール保護層6の外側端62Eよりもタイヤ径方向外側に配置されている。また、カーカスプライ4の巻き上げ端4Eは、スチール保護層6の外側端62Eよりもタイヤ径方向内側に配置されている。
【0027】
また、有機繊維保護層7の外側端72Eは、スチール保護層6の外側端62Eよりもタイヤ径方向外側に配置され、有機繊維保護層7の内側端71Eは、スチール保護層6の内側端61Eよりもタイヤ径方向外側に配置されている。
【0028】
上記の如く端部を配置したスチール保護層6により、カーカスプライ4の巻き上げ端4Eを起点としたセパレーションなどの故障を抑制できる。更には、上記の如く端部を配置した有機繊維保護層7により、スチール保護層6の内側端61E及び外側端62Eを起点としたセパレーションなどの故障を抑制できる。
【0029】
有機繊維保護層7は少なくとも二層で構成されることが好ましく、本実施形態の有機繊維保護層7は、タイヤ径方向に対する有機繊維コードが相互に逆向きに傾斜するように重ねられた二層で構成されている。上述した有機繊維保護層の端部の位置関係は、その有機繊維保護層を構成する複数の層のうち少なくとも1層により満たされていればよいが、本実施形態のように全ての層により満たされていることが好ましい。
【0030】
幅Aは、スチール保護層6の巻き上げ端62Eからタイヤ内面までの法線NL1に平行な方向の距離である。法線NL1は、スチール保護層6の巻き上げ端62Eを通るタイヤ内面の法線である。幅Bは、スチール保護層6の巻き上げ端62Eからタイヤ外面までの法線NL1に平行な方向の距離である。幅Aと幅Bとは、1≦A/B≦2の関係を満たしている。これにより、タイヤ内面及びタイヤ外面からスチール保護層6までの距離を確保できるのでスチール保護層6の端部を起点とした故障を効果的に抑制できる。
【0031】
カーカスプライ4の巻き上げ端4Eは、プライカバー部材43で覆われている。これにより、カーカスプライ4の巻き上げ端4Eを起点とした故障を抑制できる。プライカバー部材43は、ナイロンコードなどの有機繊維コードにゴム引きして構成されている。
【0032】
プライカバー部材43のゴム硬度は、第2ビードフィラー122及び補強ゴム8のゴム硬度よりも高く、かつカーカスプライ4のトッピングゴムのゴム硬度よりも低いことが好ましい。カーカスプライ4の周囲のゴムのゴム硬度を外側へ向かって徐々に減少させることで、カーカスプライ4の巻き上げ端4Eでのひずみを低減させることができるため、カーカスプライ4の巻き上げ端4Eを起点とした故障を抑制できる。例えば、プライカバー部材43のゴム硬度は101〜103であり、第2ビードフィラー122及び補強ゴム8のゴム硬度は100以下であり、カーカスプライ4のトッピングゴムのゴム硬度は104〜106である。第2ビードフィラー122と補強ゴム8のゴム硬度は、同じであってもよいが、補強ゴム8のゴム硬度は、第2ビードフィラー122のゴム硬度よりも低くして、発熱しにくくすることもできる。また、スチール保護層6のトッピングゴムのゴム硬度は104〜106である。
【0033】
プライカバー部材43は、カーカスプライ4の巻き上げ端4Eを覆うU字状の被覆部431と、この被覆部431からタイヤ径方向外側に向かって延びる延出部432とを有し、この延出部432の先端432Eは、スチール保護層6の巻き上げ端62Eよりもタイヤ径方向外側に配置されることが好ましい。これにより、プライカバー部材43の延出部432によってスチール保護層6の巻き上げ端62Eを保護できるため、スチール保護層6の巻き上げ端62Eを起点とした故障を抑制できる。延出部432は、第2ビードフィラー122と補強ゴム8の境界部分に沿って配置されている。延出部432は、スチール保護層6の巻き上げ端62Eを確実に保護できるように、10mm以上が好ましい。
【0034】
プライカバー部材43と第1ビードフィラー121の間に位置する第2ビードフィラー122の厚みCと、プライカバー部材43とスチール保護層6との間に位置する補強ゴム8の厚みDとは、0.8≦D/C≦1.2の関係を満たしている。これにより、カーカスプライ4を同程度の厚みの第2ビードフィラー122と補強ゴム8とで両側から挟み込むことができるため、カーカスプライ4の巻き上げ端4Eを起点とした故障を効果的に抑制できる。なお、厚みC及び厚みDは、カーカスプライ4の巻き上げラインに対して垂直で巻き上げ端4Eを通る線上における厚みである。
【0035】
スチール保護層6の巻き上げ端62Eは、U字状のスチール保護層カバー部材63で覆われている。これにより、スチール保護層6の巻き上げ端62Eを起点とした故障を抑制できる。スチール保護層カバー部材63は、ナイロンコードなどの有機繊維コードにより構成されている。
【0036】
線NL2は、スチール保護層6の巻き上げラインに対して垂直でスチール保護層6の巻き上げ端62Eを通る線である。この線NL2上において、スチール保護層カバー部材63のタイヤ幅方向内側に位置する補強ゴム8の厚みEと、有機繊維保護層7のタイヤ幅方向外側に位置する補強ゴム8の厚みFとが、0.8≦F/E≦1.2の関係を満たすことが好ましい。これにより、スチール保護層7を同程度の厚みの補強ゴム8で両側から挟み込むことができるため、スチール保護層7の巻き上げ端62Eを起点とした故障を効果的に抑制できる。
【0037】
本発明の空気入りラジアルタイヤは、ビード部を上記の如く構成すること以外は、通常の空気入りラジアルタイヤと同等であり、従来公知の材料、形状、構造、製法などが何れも本発明に採用することができる。上記の如きビード構造は、少なくとも片側のビード部に適用されていればよいが、両側のビード部に適用することが好ましい。
【0038】
本発明に係る空気入りラジアルタイヤは、ビード部の耐久性に優れるため、トラックやバス、産業車両、建設車両などの車両重量が重い車両に使用される重荷重用空気入りラジアルタイヤとして有用である。
【実施例】
【0039】
本発明の構成と効果を具体的に示すため、ビード部の耐久性試験を行ったので、以下に説明する。試験に供したタイヤのサイズは11.00R20であり、8.00Vのリムに装着した。
【0040】
耐久性試験では、内圧830kPa、荷重3350kgf(24時間ごとに10%増加)、速度25km/hの条件において、直径1700mmのドラム上で、ビード部が故障するまでタイヤを走行させた。そして、その走行距離に対し、比較例1の結果を100としたときの指数で評価した。また、試験走行後のタイヤに対し、スチール保護層の巻き上げ端とカーカスプライの巻き上げ端でのクラック(セパレーションが進展したもの)の有無を確認した。
【0041】
各例のビード構造と評価結果を表1に示す。カーカスコードは、ワイヤ構造が3+9+15×0.175、エンド数が15本/インチである。スチールコードは、ワイヤ構造が3+9+15×0.175、エンド数が14本/インチ、タイヤ径方向に対する傾斜角度が60°である。有機繊維保護層は、有機繊維コードとしてナイロンコードを含み、エンド数が18本/インチ、コード径が0.6mm、タイヤ径方向に対する傾斜角度が50°である。
【0042】
【表1】
【0043】
表1に示すように、比較例2〜4は、故障を起こすまでの走行距離が比較例1に比べて長かったものの、カーカスプライの巻き上げ端にクラックが確認された。比較例5及び6では、故障を起こすまでの走向距離が比較例1に比べて短く、カーカスプライの巻き上げ端又はスチール保護層の端部にクラックが確認された。実施例1は、故障を起こすまでの走向距離が比較例1に比べて長く、カーカスプライの巻き上げ端、スチール保護層の端部の何れにもクラックが確認されなかった。以上より、実施例1は、比較例1〜6に比べてビード部の耐久性に優れている。
【符号の説明】
【0044】
1 ビード部
2 サイドウォール部
3 トレッド部
4 カーカスプライ
4E 巻き上げ端
6 スチール保護層
7 有機繊維保護層
図1
図2