(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(i)の発光層、または、前記(ii)の発光層は、MgO、Al2O3、SiO2、MgF2、CaF2、BaF2、またはLiFで形成された基板上に配置されている請求項1に記載の紫外光源。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本願発明者の行った実験について説明する。なお、以下の実験においては、結晶製造方法として分子線エピタキシー(molecular beam epitaxy; MBE)法を用いる。
【0012】
図1A〜
図1Cは、実験に使用したサンプルの断面を示す概略図である。
【0013】
図1Aにサンプル1の断面を示す。サンプル1は、MgO(100)基板51、及びMgO基板51上に形成されたMgZnO層52を含んで構成される。
【0014】
図1Bにサンプル2及びサンプル3の断面を示す。サンプル2及び3は、MgO(100)基板51、及びMgO基板51上に形成された量子井戸層53を含んで構成される。
【0015】
図1Cに、量子井戸層53の断面を示す。量子井戸層53は、MgO障壁層53bとMgZnO井戸層53wが、交互に積層された構造を有する。サンプル2とサンプル3は、MgZnO井戸層53wの厚さが異なる。
【0016】
サンプル1〜3は、MBEチャンバ内で、MgO基板51に900℃、30分間のサーマルクリーニングを施した後、基板51温度を300℃まで下げ、基板51上にMgZnO層52または量子井戸層53を形成することにより作製した。
【0017】
サンプル1のMgZnO層52は、MgO(100)基板51上に、成長温度300℃で、Mg、Zn、及びOラジカルをそれぞれ分子線で同時に供給し、厚さ約200nmに成長した。Mgビーム量(Mgフラックス)を1.2Å/sec、Znビーム量(Znフラックス)を3.8Å/sec、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O
2流量2.0sccmとした。
【0018】
サンプル2及び3の量子井戸層53は、MgO(100)基板51上に、成長温度300℃で、Mg及びOラジカルをそれぞれ分子線で供給してMgO障壁層53bを、Mg、Zn、及びOラジカルをそれぞれ分子線で供給してMgZnO井戸層53wを、交互に成長して形成した。Mgビーム量を1.2Å/sec、Znビーム量を3.8Å/sec、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O
2流量2.0sccmとした。
【0019】
サンプル2の量子井戸層53形成においては、MgO障壁層53bの成長時間を270sec、MgZnO井戸層53wの成長時間を120secとし、この順に15層ずつ交互に成長した後、最表面にMgO障壁層53bを成長時間270secで成長した。
【0020】
サンプル3の量子井戸層53形成においては、MgO障壁層53bの成長時間を270sec、MgZnO井戸層53wの成長時間を27secとし、この順に15層ずつ交互に成長した後、最表面にMgO障壁層53bを成長時間270secで成長した。
【0021】
図2に、MgO基板51、MgZnO層52、及び、量子井戸層53の反射高速電子回折(reflection high energy electron diffraction; RHEED)像を示す。
図2には上段から順に、MgO基板51表面、サンプル1のMgZnO層52表面、サンプル2の量子井戸層53表面、サンプル3の量子井戸層53表面のRHEEDパターンを示した。左欄は[100]方向、右欄は[110]方向から電子線を入射した場合の像である。なお、結晶が2次元成長し表面が平坦なエピタキシャル成長(単結晶成長)である場合、RHEED像はストリークパターンを示し、結晶が3次元成長し表面が平坦でないエピタキシャル成長(単結晶成長)の場合、RHEED像はスポットパターンを示す。多結晶成長の場合は、RHEED像がリングパターンとなる。
【0022】
MgO基板51だけでなく、本図に示すすべてのRHEED像がストリークパターンを示している。このことから、サンプル1のMgZnO層52、及び、サンプル2、3の量子井戸層53もMgO基板51に対して、平坦性の高い2次元成長によるエピタキシャル成長をしていることがわかる。すなわち、サンプル1のMgZnO層52、及び、サンプル2、3の量子井戸層53は、MgOの結晶構造である岩塩構造(立方晶)を保持して成長していることがわかる。なおMgOが岩塩構造であるのに対し、ZnOはウルツ鉱構造(六方晶)である。
【0023】
図3A〜
図3Cは、順にサンプル1のMgZnO層52、サンプル2の量子井戸層53、サンプル3の量子井戸層53のX線回折(X-ray diffraction; XRD)パターンを示すグラフである。
【0024】
図3Aを参照する。サンプル1のMgZnO層52の回折ピークは、MgO基板の低角側に観測された。Znが入ることにより、格子定数が大きくなることがわかる。このXRDパターンをシミュレーション解析した結果、サンプル1のMgZnO層52のZn組成は18%(Mg
1−xZn
xO表記においてx=0.18)であることがわかった。
【0025】
図3B及び
図3Cを参照する。サンプル2及び3の量子井戸層53においては、MgO基板の低角側に0次の回折ピークが観測され、更に、サテライトピークが明瞭に観測されている。良好な界面を有する積層構造が形成されていることが示唆される。
【0026】
XRDパターンのシミュレーション解析を行ったところ、サンプル2の量子井戸層53(
図3B参照)においては、MgO障壁層53bの厚さが12.1nm、MgZnO井戸層53wの厚さが6.1nm、MgZnO井戸層53wのZn組成が18%(Mg
1−xZn
xO表記においてx=0.18)という結果が得られた。
【0027】
また、サンプル3の量子井戸層53(
図3C参照)においては、MgO障壁層53bの厚さが12.5nm、MgZnO井戸層53wの厚さが1.5nm、MgZnO井戸層53wのZn組成が19%(Mg
1−xZn
xO表記においてx=0.19)という結果が得られた。
【0028】
図4に、サンプル2の量子井戸層53断面の透過型電子顕微鏡(transmission electron microscope; TEM)像、及び、サンプル2の量子井戸層53のエネルギー分散型X線分光法(energy dispersive X-ray spectroscopy; EDX)を用いた分析結果を示す。
【0029】
TEM像(
図4左側)を参照する。界面が良好な積層構造が明瞭に観測される。TEM像中の色の濃い部分がMgZnO井戸層53w、色の薄い部分がMgO障壁層53bである。このTEM像から見積もられる層厚は、MgO障壁層53bが10.5nm、MgZnO井戸層53wが7.1nmであった。
【0030】
TEM−EDXによるMgZnO井戸層53wのZn組成x分析結果(
図4右側)を参照する。3箇所で測定を行い、x=0.184、x=0.167、x=0.169という結果を得た。平均すると、x=0.173となる。XRDパターンのシミュレーション解析で得られた値(x=0.18)と近い値が得られた。
【0031】
図5Aは、サンプル1のMgZnO層52、及び、サンプル2、3の量子井戸層53からのCL(cathodeluminescence)スペクトルを示すグラフであり、
図5Bは、CLスペクトルのピーク波長と半値幅をまとめた表である。
【0032】
図5Aのグラフから明らかなように、サンプル2、3の量子井戸層53からの発光は、サンプル1のMgZnO層52(単膜)からの発光に比べ、強度が高い。量子井戸構造とすることで、発光強度を著しく向上させられることがわかる。
【0033】
図5Bの表もあわせて参照すると、サンプル2、3の量子井戸層53においては、発光強度の増加の他に、発光ピーク波長の短波化、及び、半値幅の減少が観測される。閉じ込め効果が現れているものと考えられる。
【0034】
図6Aに、バンドギャップエネルギー及びCLピークエネルギーのZn組成x依存性を示す。RSは岩塩構造(rocksalt)、WZはウルツ鉱構造(wurtzite)を表す。またバンドギャップエネルギーを実線で示し、円形、菱形のプロットで、それぞれ岩塩構造Mg
1−xZn
xOのCLピークエネルギー、ウルツ鉱構造のMg
1−xZn
xOのPLピークエネルギーを示す。なお円形及び菱形のプロットは、本願発明者らがZn組成xを変化させて行った実験により得られたものであるが、バンドギャップエネルギーを示す実線は、公知の資料(Semicond. Sci. Technol. 20 (2005) “Pulsed laser deposition of thin films and superlattices based on ZnO”by Akira Ohtomo and Atsushi Tsukazaki の Figure 8)に基づいて作成したものである。本願発明者らの実験で得られた数値データ(岩塩構造Mg
1−xZn
xOのZn組成xとCLピークエネルギーE
peakの関係を示す数値データ)を、
図6Bに示す。
【0035】
Zn組成xの増加に伴い、バンドギャップエネルギーは小さくなる。すなわち、量子井戸構造を形成する際は、障壁層より井戸層のZn組成xを高くすることで、キャリアを閉じ込めることが可能となる。なお、サンプル2、3の量子井戸層53においては、障壁層53bは、x=0の岩塩構造Mg
1−xZn
xOで形成され、井戸層53wは、0<xの岩塩構造Mg
1−xZn
xOで形成されている。
【0036】
本願発明者らが、最小二乗法を用いて2次の近似式を求めたところ、岩塩構造(RS)Mg
1−xZn
xOのバンドギャップエネルギーy(実線で図示)は、以下の式(1)
で与えられ、岩塩構造(RS)Mg
1−xZn
xOのCLピークエネルギーy(点線で図示する、円形プロットの近似式)は、以下の式(2)
で与えられることがわかった。
【0037】
図6Aから明らかなように、ウルツ鉱構造のMg
1−xZn
xO結晶においては、PLピークエネルギーとバンドギャップエネルギーの値がほぼ一致している。これに対し、岩塩構造のMg
1−xZn
xO結晶においては、CLピークエネルギーとバンドギャップエネルギーに大きな乖離がある。これはMgZnO層のCL発光のオリジンが、バンド端発光ではなく、Znによる等電子トラップによる発光であるためと考えられる。
【0038】
本願発明者らは、Mg
1−xZn
xO結晶のZn組成xを変化させて行った実験の中で、MgZnOは、MgOに比べ、発光強度が著しく高いという知見を得ている。等電子トラップを利用した発光であるために、不純物レベルの微量のZn添加から組成レベルのZn添加まで高効率の発光に寄与し、MgO結晶に比べ、発光強度が格段に増加したものと考えられる。
【0039】
式(1)、(2)より、Zn組成xが0.55以上となる範囲においては、CLピークエネルギーとバンドギャップエネルギーがほぼ等しくなると予測される。すなわち、0.55≦xであるMg
1−xZn
xO結晶においては、Znは等電子トラップではなく、組成としてのみ働くものと考えられる。したがって、MgZnO結晶においてZnの等電子トラップを利用した高効率の発光を得るためには、Mg
1−xZn
xOのZn組成xが、0<x<0.55である必要があるであろう。このとき、岩塩構造を有するMgO結晶にZnが添加されたMg
1−xZn
xO(0<x<0.55)結晶は、バンドギャップエネルギーより0.1eV以上小さいエネルギー、たとえば0.1eV〜1.4eV程度、低エネルギー側で発光すると考えられる。
【0040】
MgO障壁層と岩塩構造のMgZnO井戸層を積層して形成した量子井戸層においても、Mg
1−xZn
xO井戸層のZn組成xを、0<x<0.55とすることで、高効率の発光が得られると考えられる。
【0041】
また上述したように、障壁層より井戸層のZn組成を高くすることで、キャリアを閉じ込めることが可能となるため、障壁層はMgOに限られず、岩塩構造のMg
1−wZn
wO(0≦w<0.45、w<x)とすることができる。障壁層のZn組成wを0.45未満とするのは、井戸層とのエネルギー差を少なくとも300meV以上確保するためである。たとえば障壁層のZn組成が0.45、井戸層のZn組成が0.55のとき、バンドギャップエネルギーは、式(1)より、それぞれ5.269eV、4.968eVとなり、エネルギー差は約300meVである。
【0042】
なお、本願発明者らの行った他の実験によれば、0<x<0.55のZn組成範囲において、電子線励起により、Mg
1−xZn
xO結晶から、ピーク波長190nm〜260nmの発光が可能となる。また発光スペクトルの裾を勘案すると、波長180nm〜280nmの発光が得られる。ここで発光波長はZn組成xにより制御可能であり、たとえばxが増加すると発光波長は長波化する。
【0043】
岩塩構造のMg
1−xZn
xO(0<x<0.55)で井戸層が、岩塩構造のMg
1−wZn
wO(0≦w<0.45、w<x)で障壁層が形成された量子井戸構造の発光層においても、電子線励起により、ピーク波長190nm〜260nmの発光が、また発光スペクトルの裾を勘案すると、波長180nm〜280nmの発光(真空紫外〜深紫外領域の発光)が得られるであろう。
【0044】
岩塩構造のMg
1−xZn
xO(0<x<0.55)単結晶で形成された井戸層と、岩塩構造のMg
1−wZn
wO(0≦w<0.45、w<x)単結晶で形成された障壁層が交互に積層された量子井戸構造は、たとえばMgZnO単膜に比べて発光強度の強い、真空紫外〜深紫外領域の発光を行う紫外線発光材料として用いることができる。
【0045】
更に、サンプル2、3においては、Mg
1−xZn
xO結晶を用いた量子井戸構造を形成したが、MgO結晶をベースに、Zn以外のII族元素、たとえばBe、Caなどが含まれていてもよい。
【0046】
図7A及び
図7Bに、II族酸化物(BeO、MgO、ZnO、CaO)の格子定数とバンドギャップエネルギーを示す。
図7Aは、格子定数を横軸に、バンドギャップエネルギーを縦軸にとった座標上に、
図7Bの表の値をプロットしたものである。なお本来、MgO及びCaOは岩塩構造(RS)を、BeO及びZnOはウルツ鉱構造(WZ)を有している。このため
図7A、
図7Bにおいて、RS−BeO、RS−ZnO、及びWZ−MgOに関する値は理論値である。
【0047】
たとえば
図7Aを参照すると、RS−MgOを中心に、Zn、Ca、Beのうち、少なくとも1種類の元素が添加されることにより、バンドギャップを大きく変化させられることがわかる。また2種類以上を添加した混晶とすることにより、格子定数を合わせた格子整合性のコヒーレントな結晶成長が可能となる。
【0048】
結晶構造として岩塩構造を維持するためには、Mg組成が50%以上であることが望ましい。すなわち、組成式Be
1−x−y−zMg
yZn
xCa
zOにおいて、0.5≦y≦1、0≦x+z≦0.5であることが好ましい。組成は、格子定数やバンドギャップにより、この範囲で任意に変更可能である。
【0049】
岩塩構造を有するMgOに、Zn、Be、Caのうちの少なくとも1つの元素が添加された、岩塩構造のBe
1−x−y−zMg
yZn
xCa
zO(0.5≦y≦1、0≦x+z≦0.5)単結晶で形成された井戸層と障壁層が交互に積層された量子井戸構造は、発光強度の高い、真空紫外〜深紫外領域の発光を行う紫外線発光材料として用いることができる。
【0050】
この量子井戸構造においては、たとえば井戸層をBe
1−x−y−zMg
yZn
xCa
zO(0.5≦y≦1、0≦x+z≦0.5)単結晶で形成し、障壁層をBe
1−x−y−zMg
yZn
xCa
zO(0.6≦y≦1、0≦x+z≦0.4)単結晶で形成する。井戸層と障壁層の組成は、キャリア(電子)を閉じ込めて効率よく発光させるため、井戸層と障壁層とのエネルギー差を確保するように調整するためである。
【0051】
図8A及び
図8Bは、第1実施例による紫外光源を示す概略的な断面図である。第1実施例による紫外光源は、パネル状光源である。
【0052】
図8Aに示すように、第1実施例による紫外光源は、MgO基板11、MgO基板11上に形成された量子井戸層12、及び、量子井戸層12上に形成されたアノード電極13を含んで構成される。
【0053】
量子井戸層12は、たとえば岩塩構造のMg
1−xZn
xO(0<x<0.55)単結晶で形成された井戸層と、岩塩構造のMg
1−wZn
wO(0≦w<0.45、w<x)単結晶で形成された障壁層が交互に積層された量子井戸層である。量子井戸層12は、発光層として機能する。量子井戸層12の厚さは、たとえば50nm〜1000nmである。アノード電極13は、たとえば厚さ50nm〜100nm程度のAlで形成される。第1実施例による紫外光源においては、量子井戸層12のアノード電極13側から電子線を照射し、量子井戸層12のCL発光(真空紫外〜深紫外発光)をMgO基板11側から得る。
【0054】
図8Bを参照する。第1実施例による紫外光源においては、カソード電極14が、アノード電極13に対向して配置され、カソード電極14上(アノード電極13に対向する面上)に、電子線源15が配置される。また、カソード電極14側(電子線源15近傍)にゲート電極16が配置される。アノード電極13とカソード電極14との間にはスペーサ17が配置され、これによって量子井戸層12と電子線源15とを、たとえば1mm〜3mm隔てる空間が画定される。空間は、真空排気されている。アノード電極13、カソード電極14、電子線源15、及びゲート電極16を含んで、電子(電子線)放出部が構成される。
【0055】
電極13、14に正負の電圧を印加した状態で、電子線源15とゲート電極16との間に電位差を生じさせ、電界放出によって電子線源15から電子(電子線)を放出させる(冷陰極方式)。放出された電子(電界電子18)はアノード電極13側に進行し、量子井戸層12に入射する。電子線放出部から放出された電子線が照射されることで、量子井戸層12から発光が生じる(CL発光)。たとえば波長180nm〜280nmの発光であり、MgZnO単膜からのそれに比べ、強度が著しく高い発光である。
【0056】
電子線源15としては、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノウォール(CNW)、ナノダイヤモンド(ND)、Feなどの金属を内包したメタル内包カーボン、Al:ZnOウィスカーの先端にアモルファス炭素系膜を成膜したウィスカーなどを利用可能である。
【0057】
図9A〜
図9Cは、それぞれ電子線源15として、カーボンナノチューブ、カーボンナノウォール、ナノダイヤモンドを利用した場合の概略図である。
【0058】
図9Aに示すように、先端径が数nm〜100nm程度の配向処理されたカーボンナノチューブを用いたエミッタとすることができる。先端からエミッションする。
【0059】
図9Bに示すように、厚さ数nm〜数十nmの壁状に成長したナノカーボン(カーボンナノウォール)を用いてもよい。カーボンナノチューブと同様に、先端からエミッションする。
【0060】
図9Cに示すように、数μmの膜厚を有し、数百nmピッチで窪みを備えるナノダイヤモンド膜を用いたエミッタとすることも可能である。グラファイトとダイヤモンドが混在した構成を有する点、先端が鋭利ではない点等から、形状劣化によるエミッション特性の変化が少ない。
【0061】
たとえば
図9A〜
図9Cに示すカーボン系材料による冷陰極タイプの電子線源は、ウェット法、転写法、CVD法などで作製可能である。
【0062】
図10は、第2実施例による紫外光源を示す概略的な断面図である。第2実施例による紫外光源は、たとえば特開2012−199174号公報に記載のあるような管球タイプの光源である。
【0063】
第2実施例による紫外光源においては、MgO基板11、MgO基板11上に形成された量子井戸層12、グラファイトナノ針状ロッドよりなる電子放出源25、及び、静電レンズ26が、ガラス管27及びアノード電極13にステムピンを用いて真空封止される。静電レンズ26は、円筒状金属よりなり、電子放出源25から放出される電子線を量子井戸層12上にフォーカスさせる機能を有する。直流電源28は、アノード電極13と電子放出源25との間に、電子から見て低いポテンシャルとなる直流電圧を印加し、直流電源29は、電子放出源25と静電レンズ26との間に、電子から見て高いポテンシャルとなる直流電圧を印加する。第2実施例においては、アノード電極13、電子放出源25、及び静電レンズ26を含んで、電子(電子線)放出部が構成される。
【0064】
第2の実施例においても、電子線放出部から放出された電子線が量子井戸層12に入射し、たとえば波長180nm〜280nmの発光が生じる。
【0065】
第1、第2実施例による紫外光源は、電子(電子線)を放出する電子(電子線)放出部、及び、量子井戸層12を備える。量子井戸層12は、電子線放出部から放出された電子線が入射する位置に配置され、電子線が照射されることで、たとえば波長180nm〜280nmの光を発光する。実施例による紫外光源は、新規な構成を有し、MgZnO単膜からの発光に比べ、発光強度が著しく高い。
【0066】
以上、実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されない。
【0067】
たとえば実施例においては、量子井戸層として多重量子井戸構造(multi quantum well; MQW)を用いたが、単一量子井戸構造(single quantum well; SQW)を用いてもよい。
【0068】
また実施例においては、岩塩構造のMg
1−xZn
xO(0<x<0.55)単結晶で形成された井戸層と、岩塩構造のMg
1−wZn
wO(0≦w<0.45、w<x)単結晶で形成された障壁層が交互に積層された量子井戸構造を用いたが、この際、一例として、Zn組成の異なる井戸層を形成することができる。障壁層のZn組成も異ならせてもよい。複数波長の発光(発光波長の複数選択、及び、広帯域化)が可能な紫外光源を構成することができる。
【0069】
更に発光層として、岩塩構造のBe
1−x−y−zMg
yZn
xCa
zO(0.5≦y≦1、0≦x+z≦0.5)単結晶で形成された井戸層と障壁層が交互に積層された量子井戸層を用いてもよい。たとえば井戸層はBe
1−x−y−zMg
yZn
xCa
zO(0.5≦y≦1、0≦x+z≦0.5)単結晶で形成し、障壁層はBe
1−x−y−zMg
yZn
xCa
zO(0.6≦y≦1、0≦x+z≦0.4)単結晶で形成する。
【0070】
実施例においては、MgO基板11を用いたが、たとえば量子井戸層12からの発光を透過する他の材料で基板を形成することもできる。具体的には、MgOの他、Al
2O
3、SiO
2、MgF
2、CaF
2、BaF
2、LiFを使用することが可能である。
【0071】
図11に、これら基板材料の物性を示した。たとえば「透過範囲」の欄を参照すると、これらの材料は、量子井戸層12から生じる、波長180nm〜280nmの発光を透過することがわかる。
【0072】
種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。