【文献】
Gabrielle Brandenberger et al.,Inverse coupling between ultradian oscillations in delta wave activity and heart rate variability during sleep,Clinical Neurophysiology,2001年 5月22日,112,992-996
【文献】
谷田恵子,OSA睡眠調査票による睡眠感と睡眠中の心拍変動パワースペクトル指標との関連,Japanese Journal of Nursing Art and Science,2010年12月20日,Vol.9, No.3,pp 19-26
【文献】
高辻功一,主観的睡眠感と睡眠脳波の関連,大阪府立看護大学紀要,2004年 3月 1日,10巻1号,pp 51-58
【文献】
F. Jurysta et al.,The link between cardiac autonomic activity and sleep delta power is altered in men with sleep apnea-hypopnea syndrome,Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol,2006年 5月 4日,291,R1165-R1171
【文献】
Mina Ako et al.,Correlation between electroencephalography and heart rate variability during sleep,Psychiatry and Clinical Neurosciences,2003年 1月 8日,57,59-65
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記判定は、睡眠の質及び疲労感の各々に対応する各閾値と前記算出された同調性の指標値との比較により、睡眠の質の良し悪し及び疲労感の有無のいずれか一方又は両方を判定する、
請求項2に記載の睡眠感判定方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下の説明では、睡眠時無呼吸症候群(SAHS)や原発性不眠症のような睡眠に関する疾患を持つ人を「患者」と表記し、そのような疾患におかされていない人を「正常睡眠者」と表記する。
【0017】
本発明者は、正常睡眠者においても、睡眠段階と自律神経活動の同調にズレが生じること、即ち脳波のδ波と副交感神経の活性度の指標であるHFの同調がずれることを見出した。更に、本発明者は、睡眠中のδ波と副交感神経の活性度の同調性が正常睡眠者の睡眠感に影響を与えることを見出した。具体的には、同調性が低下した場合には、睡眠感が悪くなることが見出された。そして、本発明者は、睡眠中のδ波のパワーと睡眠中の副交感神経の活性度の同調性を定量化することで、正常睡眠者の睡眠感を客観的に判定する手法を確立した。
【0018】
以下、このような技術思想が具現化された実施形態について説明する。なお、以下に挙げる各実施形態はそれぞれ例示であり、本発明は以下の各実施形態の構成に限定されない。
【0019】
[第一実施形態]
以下、第一実施形態における睡眠感判定方法及び睡眠感判定装置について説明する。
〔睡眠感判定方法〕
図1は、第一実施形態における睡眠感判定方法を示すフローチャートである。第一実施形態における睡眠感判定方法は、後述する睡眠感判定装置のようなコンピュータにより実行される。第一実施形態における睡眠感判定方法は、工程(S11)、工程(S12)、工程(S13)及び工程(S14)を含む。
【0020】
工程(S11)において、コンピュータは、睡眠時の被験者の脳波に含まれるδ波のパワーの時間的推移を示すδ波データを取得する。取得されるδ波データは、睡眠中の脳波から抽出されるδ波のパワーの時系列データである。コンピュータは、このδ波データを他の機器から通信により取得してもよいし、可搬型記録媒体を介して取得することもできる。
【0021】
また、コンピュータは、脳波計により計測された脳波データを処理することにより、このδ波データを取得することもできる。この場合、コンピュータは、その脳波データを脳波計との間の通信により取得してもよいし、可搬型記録媒体を介して取得してもよい。また、そのコンピュータ自体が脳波計としてその脳波データを計測してもよい。脳波データの計測方法については、一般的な脳波計により行われる方法でよいため、ここでは説明を省略する。
【0022】
脳波データは、所定睡眠時間の脳波の時間波形がデジタル化された時間領域のデータである。所定睡眠時間は、入眠から起床までの全時間でも、その全時間から切り出される部分時間でもよい。例えば、コンピュータは、睡眠周期における第一周期から三周期分の脳波データを取得する。コンピュータは、脳波データと共に、脳波により決定される睡眠段階を示す情報を取得し、この情報を用いて、得られた脳波データから当該三周期分の脳波データを切り出してもよい。また、睡眠周期が約90分であるとの知見に基づいて、コンピュータは、入眠から270分(=90分×3)の脳波データを取得してもよい。「入眠」は通常β波の成分割合が一定値以下となった時点で判断される。例えば、β波の成分割合が10%以下となったことにより「入眠」と判断される。但し、「入眠」状態の判断手法には他の手法が利用されてもよい。
【0023】
コンピュータは、取得された脳波データに対して周波数分析を行う。コンピュータは、時間領域の脳波データを周波数領域のデータに変換する。この変換には、例えば、高速フーリエ変換(FFT)が用いられる。その変換によりパワースペクトルが得られる。コンピュータは、得られたパワースペクトルからδ波の周波数帯域についてパワーを積分により算出する。δ波の周波数帯域の情報については周知の情報が利用されればよく、例えば、δ波の周波数帯域は4Hz以下に設定される。このような周波数分析を所定の時間窓に対して行うことで、コンピュータは、δ波のパワーの時間的推移を示すδ波データを取得することができる。
【0024】
また、コンピュータは、標準化されたδ波データを取得してもよい。例えば、各時間幅でのδ波のパワーを所定時間のδ波の平均パワーでそれぞれ除算することで、各時間幅でのδ波のパワーをそれぞれ標準化することができる。この標準化により、年齢によるδ波のパワー値の絶対値の相違の影響や、測定時期や測定装置の違いによる絶対値の相違の影響を軽減することができる。コンピュータは、標準化前のδ波データを取得し、取得されたδ波データに対して上述のような標準化を行ってもよい。以降、標準化されたδ波データも標準化されていないδ波データもδ波データと総称する。
【0025】
工程(S12)において、コンピュータは、睡眠時の当該被験者における副交感神経の活性度の時間的推移を示す自律神経データを取得する。例えば、コンピュータは、心拍変動解析により得られる高周波成分(HF)のパワーの時系列データを自律神経データとして取得する。取得される自律神経データは、所定睡眠時間分の時系列データである。所定睡眠時間は、入眠から起床までの全時間でも、その全時間から切り出される部分時間でもよい。例えば、コンピュータは、睡眠周期における第一周期から三周期分の自律神経データを取得する。
【0026】
また、コンピュータは、標準化された自律神経データを取得してもよい。例えば、コンピュータは、心拍変動解析により得られる低周波成分(LF)及び高周波成分(HF)の総和に対する高周波成分(HF)の比率の時系列データを標準化された自律神経データとして取得する。以降、標準化された自律神経データも標準化されていない自律神経データも自律神経データと総称する。コンピュータは、この自律神経データを他の機器から通信により取得してもよいし、可搬型記録媒体を介して取得することもできる。
【0027】
また、コンピュータは、心電計により計測された心電図データを処理することにより、この自律神経データを取得することもできる。この場合、コンピュータは、その心電図データを心電計との間の通信により取得してもよいし、可搬型記録媒体を介して取得してもよい。また、そのコンピュータ自体が心電計としてその心電図データを計測してもよい。心電図データの計測方法については、一般的な心電計により行われる方法でよいため、ここでは説明を省略する。
【0028】
コンピュータは、心電図データからR波の間隔(RR間隔)の時系列データを算出し、その時系列データに対して周波数分析を行うことで、パワースペクトルを取得する。コンピュータは、得られたパワースペクトルからLF成分及びHF成分についてパワーを積分により算出する。LF成分及びHF成分の周波数帯域の情報については周知の情報が利用されればよく、例えば、LF成分の周波数帯域は0.04から0.15Hzに設定され、HF成分の周波数帯域は0.15から0.4Hzに設定される。このような周波数分析を所定の時間窓に対して行うことで、コンピュータは、副交感神経の活性度の時間的推移を示す自律神経データを取得することができる。
【0029】
工程(S13)において、コンピュータは、(S11)で取得されたδ波データ及び(S12)で取得された自律神経データに基づいて、当該被験者に関する、δ波のパワーと副交感神経の活性度との同調性の指標値を算出する。算出される指標値は、δ波のパワーと副交感神経の活性度との同調の度合いを示す。同調性の指標値の算出には、相互相関解析、コヒーレンス解析等が利用可能である。
【0030】
図2は、δ波データ、自律神経データの例を示す図である。
相互相関解析を用いる場合、コンピュータは、例えば、以下の(式1)を用いて相互相関係数R
xy(j)を算出する。
図2の例では、所定時間幅が30秒の、自律神経データx(i)とδ波データy(i)とを示す。x(上線付)及びy(上線付)はそれぞれの平均値を示す。コンピュータは、以下の式で算出される相互相関係数R
xy(j)の最大値を、当該同調性の指標値として算出する。
【数1】
【0031】
コヒーレンス解析を用いる場合、コンピュータは、例えば、以下の(式2)を用いてコヒーレンスC(f)を算出する。コヒーレンスC(f)は、クロススペクトルを正規化したもので、0以上1以下を満たす。
図2の例では、所定時間幅が30秒に設定されている。P
xy(f)は、標準化HF及び標準化δ波のクロススペクトルを示し、P
xx(f)は、標準化HFのパワースペクトルを示し、P
yy(f)は、標準化δ波のパワースペクトルを示す。コンピュータは、以下の式において、P
xy(f)が最大となる周波数成分fのコヒーレンスC(f)を、当該同調性の指標値として算出する。コヒーレンス解析が用いられる場合には、標準化されたδ波データ及び標準化された自律神経データが用いられることが望ましい。なお、コヒーレンス解析については、上述の非特許文献2にも記載されている。
【数2】
【0032】
工程(S14)において、コンピュータは、(S13)で算出された同調性の指標値に基づいて、当該被験者の睡眠感を判定する。判定される睡眠感は、(S11)で取得されたδ波データ及び(S12)で取得された自律神経データの元となる計測データを得る際の睡眠を評価する指標とみなすこともできるし、被験者が日常生活で平均的にとる睡眠を評価する指標とみなすこともできる。
【0033】
例えば、コンピュータは、睡眠感の良し悪しを判定する。また、コンピュータは、当該睡眠感として、睡眠の質の良し悪し及び疲労感の有無のいずれか一方又は両方を判定することもできる。この場合、コンピュータは、睡眠の質及び疲労感の各々に対応する各閾値と(S13)で算出された同調性の指標値との比較により、睡眠の質の良し悪し及び疲労感の有無のいずれか一方又は両方を判定する。コンピュータは、(S13)で算出された指標値が睡眠の質に対応する閾値よりも小さい場合に、睡眠の質が悪いと判定する。コンピュータは、(S13)で算出された指標値が疲労感に対応する閾値よりも小さい場合に、疲労感が残ると判定する。コンピュータは、各閾値を予め保持する。この各閾値の決定手法については、後述する。
【0034】
コンピュータは、(S14)での判定結果を示す情報を出力することができる。言い換えれば、コンピュータは、判定された睡眠感の内容を示す情報を出力する。例えば、コンピュータは、睡眠の質の良し悪し及び疲労感の有無の少なくとも一方を示す文字列情報やそれに対応する図柄を出力する。コンピュータは、このような判定結果情報に加えて、(S13)で算出された指標値を出力することもできる。この出力方法は、表示、印刷、音声出力、ファイル出力、他装置への送信、記録媒体への記録などの少なくとも一つであり、制限されない。また、コンピュータは、(S13)で算出された指標値と共に、睡眠の質及び疲労感の少なくとも一方の閾値を出力してもよい。この場合、その出力を見た人により、(S14)の判定が行われてもよい。
【0035】
第一実施形態における睡眠感判定方法は、(S14)の判定で用いられる閾値を決定する工程を含んでもよい。
【0036】
この工程では、コンピュータは、複数人の睡眠サンプルの各々に関し、上述の(S11)、(S12)、及び(S13)をそれぞれ実行する。一方で、コンピュータは、各サンプル提供者の睡眠感の評価結果データをそれぞれ取得する。この評価結果データでは、睡眠感の良し悪し(睡眠の質の良し悪し、疲労感の有無等)を示す。例えば、睡眠感の主観的評価は、VAS(Visual Analog Scale)と呼ばれる評価法により実施される。各サンプル提供者に100mmの直線上の位置で睡眠感をそれぞれ評価させ、その測定値(0以上100以下の数値)と基準値との比較により、各サンプル提供者の評価結果が決定される。基準値には、例えば、全てのサンプル提供者の測定値の平均値に標準偏差を加えて値が設定される。
【0037】
コンピュータは、各サンプル提供者について(S13)で算出された指標値及び各サンプル提供者の評価結果データに基づいて、ROC曲線(Receiver Operating Characteristic curve)を作成し、感度、特異度及び有効度の各値に基づいて、(S14)の判定で用いる閾値を決定する。ROC曲線に基づく閾値の決定方法には、感度1及び特異度1の理想的な点からの距離が最も近い関係を用いるディスタンス法やYoudenIndex法等、様々な既知の手法が利用可能である。ROC曲線の生成やROC曲線に基づく閾値の決定は、当該コンピュータに対する人の操作、又はその人自身によって行われてもよい。閾値の具体的な決定方法については、実施例として後述する。
【0038】
第一実施形態における睡眠感判定方法に含まれる各工程の実行順序は、
図1に示される例に限定されない。各工程の実行順序は、内容的に支障のない範囲で変更することができる。例えば、(S11)及び(S12)は、逆の順番で実行されてもよいし、並列に実行されてもよい。
【0039】
〔睡眠感判定装置(判定装置)〕
図3は、第一実施形態における睡眠感判定装置10のハードウェア構成例を概念的に示す図である。以降、睡眠感判定装置10は、判定装置10と略称される場合もある。第一実施形態における判定装置10は、いわゆるコンピュータであり、CPU(Central Processing Unit)1、メモリ2、入出力インタフェース(I/F)3、通信ユニット4等を有する。
【0040】
CPU1には、一般的なCPUに加えて、特定用途向け集積回路(ASIC)、DSP(Digital Signal Processor)、GPU(Graphics Processing Unit)等も含まれる。
メモリ2は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、補助記憶装置(ハードディスク等)である。
【0041】
入出力I/F3は、出力装置5、入力装置6等のユーザインタフェース装置と接続可能である。出力装置5は、表示装置、印刷装置等の少なくとも一つである。表示装置は、LCD(Liquid Crystal Display)やCRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイのような、CPU1等により処理された描画データに対応する画面を表示する装置である。入力装置6は、キーボード、マウス等のようなユーザ操作の入力を受け付ける装置である。表示装置及び入力装置6は一体化され、タッチパネルとして実現されてもよい。
【0042】
通信ユニット4は、他のコンピュータとの通信網(図示せず)を介した通信や、他の機器との信号のやりとり等を行う。通信ユニット4には、可搬型記録媒体等も接続され得る。
判定装置10は、脳波計又は心電計としても動作する場合には、頭部に貼付する電極及びその電極から送られる信号を処理する回路も更に有する。この場合、電極が微弱電圧の時間変化を示す脳波信号又は心電信号を取得し、当該回路がその信号を増幅、アナログデジタル変換等を行うことで、脳波データ又は心電図データが計測される。判定装置10は、図示されていないハードウェア要素を含んでもよく、判定装置10のハードウェア構成は制限されない。
【0043】
図4は、第一実施形態における判定装置10の処理構成例を概念的に示す図である。第一実施形態における判定装置10は、第一取得部11、第二取得部12、算出部13、生成部14、出力処理部15等を有する。これら各処理モジュールは、例えば、CPU1によりメモリ2に格納されるプログラムが実行されることにより実現される。また、当該プログラムは、例えば、CD(Compact Disc)、メモリカード等のような可搬型記録媒体やネットワーク上の他のコンピュータから入出力I/F3又は通信ユニット4を介してインストールされ、メモリ3に格納されてもよい。
【0044】
第一取得部11は、上述の(S11)を実行する。第一取得部11は、δ波データを他の装置から通信ユニット4を介して通信により取得してもよいし、可搬型記録媒体に記録されるδ波データを通信ユニット4を介して取得してもよい。また、第一取得部11は、入出力I/F3又は通信ユニット4に脳波計が接続されている場合には、その脳波計から被験者の脳波データを取得することができる。また、第一取得部11は、可搬型記録媒体、他の装置等から通信ユニット4を経由して当該脳波データを取得することもできる。また、第一取得部11は、判定装置10が脳波計として動作する場合には、上述の信号処理回路により計測された脳波データを取得する。この場合、第一取得部11は、上述のように脳波データに対して周波数分析を行うことで、δ波データを取得する。
【0045】
第二取得部12は、上述(S12)を実行する。第二取得部12は、自律神経データを他の装置から通信ユニット4を介して通信により取得してもよいし、可搬型記録媒体に記録される自律神経データを通信ユニット4を介して取得してもよい。また、第二取得部12は、入出力I/F3又は通信ユニット4に心電計が接続されている場合には、その心電計から被験者の心電図データを取得することができる。また、第二取得部12は、可搬型記録媒体、他の装置等から通信ユニット4を経由して当該心電図データを取得することもできる。また、第二取得部12は、判定装置10が心電計として動作する場合には、上述の信号処理回路により計測された心電図データを取得する。この場合、第二取得部12は、上述のように心電図データからRR間隔の時系列データを算出し、その時系列データに対して周波数分析を行うことで、自律神経データを取得する。
【0046】
算出部13は、上述の(S13)を実行する。具体的には、算出部13は、第一取得部11で取得されたδ波データ及び第二取得部12で取得された自律神経データに基づいて、被験者に関する、δ波のパワーと副交感神経の活性度との同調性の指標値を算出する。同調性の指標値及びその算出手法についても上述したとおりである。
【0047】
生成部14は、算出部13により算出された同調性の指標値に基づいて、当該被験者の睡眠感を示す睡眠感情報を生成する。生成される睡眠感情報は、睡眠感の良し悪しを示す文字列情報又はそれに対応する図柄であってもよいし、それらの組み合わせであってもよい。例えば、生成される睡眠感情報は、睡眠の質の良し悪し及び疲労感の有無のいずれか一方又は両方を示す。この場合、生成部14は、睡眠の質及び疲労感の各々に対応する各閾値をそれぞれ予め保持し、保持される各閾値と算出部13により算出された同調性の指標値との比較により、睡眠の質の良し悪し及び疲労感の有無のいずれか一方又は両方を判定する。生成部14は、算出部13により算出された同調性の指標値と当該閾値とを睡眠感情報としてもよい。
【0048】
出力処理部15は、生成部14により生成された睡眠感情報を出力する。出力処理部15は、睡眠感情報を出力装置5に出力させる。また、出力処理部15は、当該睡眠感情報を可搬型記録媒体や他のコンピュータに通信ユニット4を経由して送ることもできる。
【0049】
また、判定装置10は、上述の閾値を決定する処理モジュールを更に含んでもよい。閾値の決定方法については、上述したとおりである。
【0050】
〔第一実施形態の作用及び効果〕
上述のように第一実施形態では、睡眠時の正常睡眠者(被験者)に関し、δ波のパワーの時間的推移を示すδ波データ及び副交感神経の活性度の時間的推移を示す自律神経データが取得され、その取得されたデータに基づいて、δ波のパワーと副交感神経の活性度との同調性の指標値が算出される。そして、その算出された同調性の指標値と予め決められた閾値との比較により、被験者の睡眠感が判定される。
【0051】
本発明者は、睡眠感に影響を与える要因が、δ波のパワーの増減又は副交感神経の活性度の増減のみではないのではないかと考えた。これは、本発明者による分析により、δ波や副交感神経活動がそんなに増加していないのにも関わらず、疲労感が減少している人や、δ波や副交感神経活動が増加しているのにも関わらず、疲労感が減少していない人が存在することが明らかとなったからである。本発明者は更に分析を進めることで、睡眠正常者の睡眠において、δ波のパワーと副交感神経の活性度との同調性が高いときには、疲労感が減少し、当該同調性が低いときに、疲労感が減少しないことが明らかとなった。そして、本発明者は、睡眠中のδ波のパワーと睡眠中の副交感神経の活性度の同調性を定量化することで、正常睡眠者の睡眠感を客観的に判定する手法を確立した。この手法に基づいて、第一実施形態では、δ波のパワーと副交感神経の活性度との同調性の度合に基づいて、被験者の睡眠感が判定される。
【0052】
従って、第一実施形態によれば、δ波のパワー又は副交感神経の活性度の増減のみによって、疲労感や睡眠の質を判定する手法に比べて、高精度に、被験者の睡眠感を判定することができる。この精度の高い判定結果は、例えば、快適な睡眠がとれるように提供される製品の評価に用いることができる。具体的には、ヘルスケア商品や寝具、夜用の生理用品、睡眠前飲料のような様々な製品の開発時の評価に上記判定結果を用いることができる。
【0053】
また、第一実施形態では、睡眠の質及び疲労感の各々に対応する各閾値が用いられることで、睡眠感として、睡眠の質の良し悪し及び疲労感の有無のいずれか一方又は両方が判定される。このように、第一実施形態によれば、睡眠の質及び疲労感といった具体的な判定対象毎に、高精度な判定結果を得ることができる。
【0054】
[第二実施形態]
疲労感の判定の目的には、状況に応じて複数の目的が存在し得る。例えば、車両の運転手、航空機や船舶の操縦士等のように、疲労がリスクに直結する職業の従事者にとっては、疲労感が残る睡眠状態は、見逃すことなく、できる限り検出されることが望ましい。即ち、そのような職業の従事者の疲労感の有無は、高い感度で検出されることが望まれる。逆に、それ以外の職業の従事者は、疲労感を残さない睡眠を取れていることを確実に知ることを望むと考えられる。そこで、第二実施形態では、疲労感の判定条件の指定を可能とする。以下、第二実施形態における睡眠感判定装置及び睡眠感判定方法について、第一実施形態と異なる内容を中心に説明する。以下の説明では、第一実施形態と同様の内容については適宜省略する。
【0055】
〔睡眠感判定方法〕
図5は、第二実施形態における睡眠感判定方法を示すフローチャートである。第二実施形態における睡眠感判定方法は、睡眠感判定装置のようなコンピュータにより実行される。第二実施形態における睡眠感判定方法は、工程(S51)から工程(S55)を含む。
【0056】
工程(S51)において、コンピュータは、判定条件の指定を受け付ける。受け付けられる判定条件は、複数の判定条件の中から選択された一以上の判定条件を示す。選択候補となる複数の判定条件は、感度、特異度及び有効度の中の優先される指標の組み合わせを示す。具体的には、感度優先、特異度優先、有効度優先、感度及び有効度優先、特異度及び有効度優先といった複数の判定条件が選択候補とされる。感度とは、睡眠感が悪い(睡眠の質が低い、疲労感が有る(残る))人が、本実施形態における睡眠感判定方法により睡眠感が悪いと判定される割合を示す。特異度とは、睡眠感が良い(睡眠の質が高い、疲労感が無い(残らない))人が、本実施形態における睡眠感判定方法により睡眠感が良いと判定される割合を示す。有効度とは、睡眠感が悪い人が、本実施形態における睡眠感判定方法により睡眠感が悪いと判定され、睡眠感が良い人が、本実施形態における睡眠感判定方法により睡眠感が良いと判定される割合を示す。
【0057】
コンピュータは、ユーザ(被験者であってもよい)に判定条件を指定させるための画面を出力装置5に表示してもよい。その画面には、例えば、選択候補を表す文字列が含まれる。その文字列は、上述のような選択候補をそのまま表してもよいし、各選択候補をより分かり易い言葉で表す文字列であってもよい。例えば、表示される文字列として以下の文字列が例示される。
・感度優先を平易に表す文字列:「睡眠感が悪い人を出来る限り逃さない判定」
・特異度優先を平易に表す文字列:「睡眠感が良い人を出来る限り逃さない判定」
・有効度優先を平易に表す文字列:「睡眠感が悪い人及び良い人の両方を出来る限り正しく判定」
【0058】
また、コンピュータは、その画面に、判定条件を間接的に指定させる表示を含めることもできる。例えば、コンピュータは、被験者の職業を指定させる画面を表示する。この場合、コンピュータは、指定された職業に基づいて、判定条件を特定する。例えば、疲労がリスクに直結する職業が指定された場合、コンピュータは、判定条件として、感度優先を特定し、それ以外の職業が指定された場合、コンピュータは、判定条件として、特異度優先を特定する。
【0059】
判定条件の指定の受け付け手法については制限されない。例えば、コンピュータは、上述のような画面に対する、入力装置6を用いたユーザ操作を、入出力I/F3を介して検出することで、指定された判定条件を取得する。また、コンピュータは、入力装置6であるマイクからの得られるユーザの音声から、指定された判定条件を取得してもよい。
【0060】
工程(S52)から工程(S54)は、
図1に示される工程(S11)から工程(S13)と同様である。
【0061】
工程(S55)において、コンピュータは、(S51)で受け付けられた判定条件に対応する閾値と(S54)で算出された同調性の指標値との比較により、その被験者における、当該判定条件の睡眠感を判定する。コンピュータは、判定条件毎に対応する各閾値をそれぞれ予め保持することで、(S51)で受け付けられた判定条件に対応する閾値を特定する。
【0062】
第二実施形態における睡眠感判定方法に含まれる各工程の実行順序は、
図5に示される例に限定されない。各工程の実行順序は、内容的に支障のない範囲で変更することができる。例えば、(S52)及び(S53)は、逆の順番で実行されてもよいし、並列に実行されてもよい。また、(S51)は、(S55)の前であれば、どこで実行されてもよい。
【0063】
〔睡眠感判定装置〕
図6は、第二実施形態における睡眠感判定装置10の処理構成例を概念的に示す図である。第二実施形態における判定装置10は、第一実施形態の構成に加えて、受付部17を更に有する。受付部17は、他の処理モジュールと同様に実現される。
【0064】
受付部17は、上述の(S51)を実行する。受付部17は、ユーザ(被験者であってもよい)に判定条件を直接的又は間接的に指定させるための画面を出力装置5に表示してもよい。
【0065】
生成部14は、判定条件毎に対応する各閾値をそれぞれ予め保持する。生成部14は、受付部17により受け付けられた判定条件に対応する閾値を特定し、その特定された閾値と算出部13により算出された同調性の指標値との比較により、被験者における、判定条件の睡眠感を判定する。生成部14は、その判定結果を示す睡眠感情報を生成する。
【0066】
〔第二実施形態の作用及び効果〕
上述のように第二実施形態では、判定条件の指定が受け付けられ、受け付けられたその判定条件に対応する閾値を用いて、その判定条件での睡眠感の判定が行われる。これにより、第二実施形態によれば、判定の目的に応じた睡眠感の判定を高精度に行うことができる。
【0067】
[変形例]
上述の第二実施形態において、判定条件が指定されなくてもよい。即ち、判定条件の指定無しが受け付けられてもよい。この場合、コンピュータは、各判定条件について睡眠感の判定をそれぞれ実行する。また、判定装置10(生成部14)は、各判定条件での睡眠感の判定結果をそれぞれ示す睡眠感情報を生成する。
【0068】
以下に実施例を挙げ、上述の各実施形態を更に詳細に説明する。上述の各実施形態の内容は、以下の内容に限定されない。
【0069】
[実施例1]
28名の男性の正常睡眠者を対象(サンプル提供者)として、睡眠中の脳波及び自律神経活動、並びに翌朝起床時の睡眠の質及び疲労感の主観的評価が5週間測定された。対象の男性は、土曜及び日曜日が休日の週休2日制で、標準労働時間が7時間30分(8時30分から17時勤務、昼食時1時間休息)の労働者である。脳波及び自律神経活動の測定は、一週間の疲労が蓄積していると推測される木曜日の睡眠中に計測され、主観的評価は、その翌朝(金曜日)の起床時に実施された。結果、89日分の測定データが得られた。
【0070】
疲労感の主観的評価には、日本疲労学会の抗疲労臨床評価ガイドライン第5版(http://www.hirougakkai.com/guideline.pdf)の疲労感VAS(Visual Analogue Scale)検査方法(http://www.hirougakkai.com/VAS.pdf)が利用された。疲労感VAS検査は、睡眠前及び起床時の各対象者に、左端(0mm)を「疲れを全く感じない」感覚とし、右端(100mm)を「何もできないほど疲れきっている」感覚として設定された100mmの直線上に、そのとき感じている疲労感を示してもらう方法で行われた。
睡眠の質の主観的評価も同様にVAS検査方法が利用された。この方法は、起床時の各対象者に、左端(0mm)を「睡眠の質が非常に良かった」感覚とし、右端(100mm)を「睡眠の質が非常に悪かった」感覚として設定された100mmの直線上に、そのとき感じた睡眠の質を示してもらう方法で行われた。
【0071】
上述のように得られた睡眠の質及び疲労感の主観的評価結果に基づいて、各対象者に関し、睡眠の質の良し悪し及び疲労感の有無がそれぞれ次のように判定された。疲労感について、VAS測定値の平均値(42mm)及び標準偏差(15mm)が算出され、その平均値にその標準偏差を加えた57mmが疲労感の基準値に決定された。睡眠の質についても、VAS測定値の平均値(41mm)及び標準偏差(18mm)が算出され、その平均値にその標準偏差を加えた59mmが睡眠の質の基準値に決定された。そして、対象者のVAS測定値が疲労感の基準値以上であれば、その対象者が「疲労有り」と判定され、そのVAS測定値が睡眠の質の基準値以上であれば、その対象者が「睡眠の質が悪い」と判定された。逆に、対象者のVAS測定値が疲労感の基準値未満であれば、その対象者が「疲労無し」と判定され、そのVAS測定値が睡眠の質の基準値未満であれば、その対象者が「睡眠の質が良い」と判定された。
【0072】
睡眠中の脳波は、脳波計(SleepScope、医療機器 認証番号225ADBZX0002000、株式会社スリープウェル)により測定され、30秒間隔(30秒区間 epoch)の睡眠段階と脳波のδ波(0.5から2Hz)パワーが算出された。この睡眠段階の情報に基づいて、入眠から睡眠第三周期までの時間区間が決定された。また、本実施例では、δ波の標準化のために、睡眠第一周期から睡眠第三周期までのδ波パワーの平均で、各30秒区間(epoch)のδ波パワーを除算した値が、δ波データとして取得された。
【0073】
睡眠中の自律神経活動は、心電計(ActiHR4、CamNtech Ltd. 英国)を用いて測定され、心電図のR波の間隔(RR間隔)が算出された。そして、30秒間ずつずらした120秒間(0から120秒、30から150秒、・・・)のRR間隔が最大エントロピー法で周波数解析された(MemCalc/Win、株式会社ジー・エム・エス )。その周波数解析により得られた周波数成分の0.04から0.15Hzの成分が低周波領域(LF(Low Frequency power))のデータとされ、0.15から0.4Hzの成分が高周波領域(HF(High Frequency power))のデータとされた。そして、HFの標準化のために、LFとHFとの総和に対するHFの比率(HF/(LF+HF))が自律神経データとして取得された。
【0074】
このようにして、本実施例における判定装置10は、入眠から睡眠第三周期までの時間区間における、30秒毎の、δ波のパワー(標準化済み)及び副交感神経の活性度(標準化済み=HF/(LF+HF))をδ波データ及び自律神経データとして取得した。そして、判定装置10は、その取得されたδ波データ及び自律神経データに基づいて、δ波パワーと副交感神経の活性度との同調性の指標値を算出した。本実施例では、相互相関解析及びコヒーレンス解析の2つの手法を利用して、各手法についての指標値がそれぞれ算出された。結果、当該同調性の2種の指標値(相互相関係数及びコヒーレンス)、睡眠の質の良し悪しの判定結果、及び疲労感の有無の判定結果の組み合わせが89日分取得された。
【0075】
図7及び
図8は、或る睡眠時における、δ波パワーと副交感神経の活性度との同調性及び睡眠前後の疲労感の回復状況を示す図である。
図7及び
図8の各グラフは、正常睡眠者である同一被験者のデータに基づいている。各図において、上のグラフで、δ波パワーと副交感神経の活性度との同調性が示され、下のグラフで、睡眠前後で実施された疲労感の主観的評価の結果が示されている。
図7によれば、同調性が高い睡眠では、疲労感の回復具合が大きいことが示されている。
図8によれば、正常睡眠者の睡眠であっても、同調性が低い場合があることが示されている。特に、矢印で示されている時間周辺では、δ波パワーが増加しているのにも関わらず、副交感神経の活性度がそれ程増加していないことが確認できる。更に、
図8によれば、同調性が低い睡眠では、疲労感がほとんど回復されないことが示されている。本発明者は、
図7及び
図8に示されるように、上述のように取得されたデータから、正常睡眠者の睡眠においても、脳波のδ波と副交感神経の活性度の指標であるHFの同調がずれることを見出し、更に、同調性が低下した場合には、疲労感の回復が低下し睡眠の質が悪くなることを見出した。
【0076】
図9は、コヒーレンスと起床時の疲労感との関係を示す図である。
図10は、コヒーレンスと起床時の睡眠の質との関係を示す図である。
図11は、相互相関係数と起床時の疲労感との関係を示す図である。
図12は、相互相関係数と起床時の睡眠の質との関係を示す図である。
図9から
図12に示されるように、δ波パワーと副交感神経の活性度との同調性の指標値であるコヒーレンス及び相互相関係数は、起床時の疲労感及び睡眠の質と負の相関を有することが確認された。即ち、コヒーレンス及び相互相関係数が大きくなると(同調性が高くなると)、疲労感が減りかつ睡眠の質が良くなることが確認された。
【0077】
更に、判定装置10は、上述のように得られた、当該同調性の2種の指標値(相互相関係数及びコヒーレンス)、睡眠の質の良し悪しの判定結果、及び疲労感の有無の判定結果の組み合わせに基づいて、疲労感及び睡眠の質の各々について、ROC曲線を作成し、閾値を決定した。
図13から
図16において、上部にROC曲線が示され、下部にそのROC曲線から導出された判定条件毎の閾値及びその閾値を用いた判定の結果の指標が示される。
【0078】
図13は、実施例1における、相互相関係数を用いた疲労感の判定に関するROC曲線及びROC曲線から導出された判定条件毎の閾値を示す図である。
図13の例では、特異度を優先する第一判定条件において閾値が「0.389」に決定され、感度及び有効度を優先する第二判定条件において閾値が「0.438」に決定されている。
図13の例において、第一判定条件が指定される場合、判定装置10は、被験者における同調性の指標値が閾値「0.389」より低い場合に、「疲労感有り」と判定する。第二判定条件が指定される場合、判定装置10は、被験者における同調性の指標値が閾値「0.438」より低い場合に、「疲労感有り」と判定する。
【0079】
図14は、実施例1における、相互相関係数を用いた睡眠の質の判定に関するROC曲線及びROC曲線から導出された判定条件毎の閾値を示す図である。
図14の例では、特異度を優先する第一判定条件において閾値が「0.389」に決定され、感度及び有効度を優先する第二判定条件において閾値が「0.438」に決定されている。
図14の例において、第一判定条件が指定される場合、判定装置10は、被験者における同調性の指標値が閾値「0.389」より低い場合に、「睡眠の質が悪い」と判定する。第二判定条件が指定される場合、判定装置10は、被験者における同調性の指標値が閾値「0.438」より低い場合に、「睡眠の質が悪い」と判定する。
【0080】
図15は、実施例1における、コヒーレンスを用いた疲労感の判定に関するROC曲線及びROC曲線から導出された判定条件毎の閾値を示す図である。
図15の例では、特異度及び有効度を優先する第一判定条件において閾値が「0.472」に決定され、感度を優先する第二判定条件において閾値が「0.665」に決定されている。
図15の例において、第一判定条件が指定される場合、判定装置10は、被験者における同調性の指標値が閾値「0.472」より低い場合に、「疲労感有り」と判定する。第二判定条件が指定される場合、判定装置10は、被験者における同調性の指標値が閾値「0.665」より低い場合に、「疲労感有り」と判定する。
【0081】
図16は、実施例1における、コヒーレンスを用いた睡眠の質の判定に関するROC曲線及びROC曲線から導出された判定条件毎の閾値を示す図である。
図16の例では、特異度を優先する第一判定条件において閾値が「0.464」に決定され、感度及び有効度を優先する第二判定条件において閾値が「0.665」に決定されている。
図16の例において、第一判定条件が指定される場合、判定装置10は、被験者における同調性の指標値が閾値「0.464」より低い場合に、「睡眠の質が悪い」と判定する。第二判定条件が指定される場合、判定装置10は、被験者における同調性の指標値が閾値「0.665」より低い場合に、「睡眠の質が悪い」と判定する。
【0082】
[実施例2]
上述の実施例1では、脳波計により測定されたデータから得られる睡眠段階の情報に基づいて、入眠(第一睡眠周期)から第三睡眠周期までの時間区間が決定された。実施例2では、判定装置10は、睡眠周期の1周期を90分間に固定して3周期分270分間のδ波データ及び自律神経データを取得した。その他については実施例1と同様である。判定装置10は、実施例1と同様の閾値を用いて、疲労感の有無及び睡眠の質の各々について、判定条件毎の判定を行った。
【0083】
図17は、実施例2における、相互相関係数を用いた、判定条件毎の疲労感及び睡眠の質の判定の結果の指標を示す図である。
図18は、実施例2における、コヒーレンスを用いた、判定条件毎の疲労感及び睡眠の質の判定の結果の指標を示す図である。
図17及び
図18によれば、睡眠周期を測定することなく、所定時間分のδ波データ及び自律神経データを用いることで、60%以上の感度、特異度又は有効度で判定を行うことができることが確認された。
【0084】
[実施例3]
実施例3では、判定装置10は、入眠後90分間分のδ波データ及び自律神経データを取得した。その他については実施例1と同様である。但し、実施例3では、当該同調性の指標値として相互相関係数のみが算出された。判定装置10は、実施例1と同様の閾値を用いて、疲労感の有無及び睡眠の質の各々について、判定条件毎の判定を行った。
【0085】
図19は、実施例3における、相互相関係数を用いた、判定条件毎の疲労感及び睡眠の質の判定の結果を示す図である。
図19によれば、入眠後90分間だけのδ波データ及び自律神経データを用いることで、60%程度の有効度で判定を行うことができることが確認された。実施例1及び2に比較すると、感度は若干低下するが、高い特異度の判定を行うことができることも確認された。これにより、高い特異度の判定が望まれる場合には、δ波データ及び自律神経データを90分間程度計測すれば足りることが確認された。
【0086】
[実施例4]
実施例4では、判定装置10は、入眠後60分から180分までの120分間分のδ波データ及び自律神経データを取得した。その他については実施例1と同様である。但し、実施例4でも、当該同調性の指標値として相互相関係数のみが算出された。判定装置10は、実施例1と同様の閾値を用いて、疲労感の有無及び睡眠の質の各々について、判定条件毎の判定を行った。
【0087】
図20は、実施例4における、相互相関係数を用いた、判定条件毎の疲労感及び睡眠の質の判定の結果を示す図である。
図20によれば、入眠後60分から180分までの120分間分のδ波データ及び自律神経データを用いることで、60%程度の有効度で判定を行うことができることが確認された。実施例1及び2に比較すると、感度は若干低下するが、高い特異度の判定を行うことができることも確認された。
【0088】
上述の各実施例で示される感度、特異度及び有効度は次のように算出された。
・感度=TP/(TP+FN)
・特異度=TN/(FP+TN)
・有効度=(TP+TN)/(TP+FN+FP+TN)
TPは、各実施例1の判定装置10が、「疲労感有り」又は「睡眠の質が悪い」との主観的評価を下した人を「疲労感有り」又は「睡眠の質が悪い」と判定したケース。
FPは、各実施例1の判定装置10が、「疲労感無し」又は「睡眠の質が良い」との主観的評価を下した人を「疲労感有り」又は「睡眠の質が悪い」と判定したケース。
FNは、各実施例1の判定装置10が、「疲労感有り」又は「睡眠の質が悪い」との主観的評価を下した人を「疲労感無し」又は「睡眠の質が良い」と判定したケース。
TNは、各実施例1の判定装置10が、「疲労感無し」又は「睡眠の質が良い」との主観的評価を下した人を「疲労感無し」又は「睡眠の質が良い」と判定したケース。
【0089】
[比較例]
上述の特許文献2で提案されている被験者の疲労度を評価する手法と、実施例1での疲労感の判定手法とは、次のように比較される。特許文献2の提案手法は、客観的疲労判定基準値としてLF/HF値が0.0から2.0の範囲を「良好」とし、2.0から5.0の範囲を「注意」とし、5.0以上を「要注意」としている。本発明者は、実施例1で得られたデータに基づいて、LF/HFの平均値を算出し、その算出されたLF/HFの平均値を特許文献2の提案手法での判定基準で評価した。結果、特許文献2で提案される判定の結果は、感度66.7%、特異度31.1%、有効度37.1%となった。一方、実施例1の判定の結果は、感度53.3〜80%、特異度50〜79.7%、有効度53.9〜76.4%となり、実施例1の判定のほうが優れていることが確認された。
【0090】
上述の各実施形態及び変形例は、内容が相反しない範囲で組み合わせることができる。
上述の内容の一部又は全部は、次のようにも特定され得る。但し、上述の内容が以下の記載に制限されるものではない。
【0091】
<1> 睡眠時の被験者の脳波に含まれるδ波のパワーの時間的推移を示すδ波データを取得し、
睡眠時の前記被験者における副交感神経の活性度の時間的推移を示す自律神経データを取得し、
前記取得されたδ波データ及び自律神経データに基づいて、前記被験者に関する、δ波のパワーと副交感神経の活性度との同調性の指標値を算出し、
前記算出された同調性の指標値に基づいて、前記被験者の睡眠感を判定する、
ことを含む睡眠感判定方法。
【0092】
<2> 前記判定は、前記睡眠感として、睡眠の質の良し悪し及び疲労感の有無のいずれか一方又は両方を判定する、
<1>に記載の睡眠感判定方法。
<3> 前記判定は、睡眠の質及び疲労感の各々に対応する各閾値と前記算出された同調性の指標値との比較により、睡眠の質の良し悪し及び疲労感の有無のいずれか一方又は両方を判定する、
<2>に記載の睡眠感判定方法。
<4> 前記判定は、各判定条件に対応する各閾値と前記算出された同調性の指標値との比較により、前記被験者における、判定条件毎の睡眠感を判定する、
<1>から<3>のいずれか1つに記載の睡眠感判定方法。
<5> 判定条件の指定を受け付ける、
ことを更に含み、
前記判定は、前記受け付けられた前記判定条件に対応する閾値と前記算出された同調性の指標値との比較により、前記被験者における、前記判定条件の睡眠感を判定する、
<1>から<4>のいずれか1つに記載の睡眠感判定方法。
<6> 前記取得されるδ波データ及び自律神経データは、睡眠周期における第一周期から三周期分の時系列データである、
<1>から<5>のいずれか1つに記載の睡眠感判定方法。
<7> 前記取得される自律神経データは、心拍変動の周波数解析により得られる低周波成分及び高周波成分の総和に対する高周波成分の比率の時系列データであり、
前記取得されるδ波データは、各時間幅でのδ波のパワーを所定時間のδ波の平均パワーで除算した値の時系列データである、
<1>から<6>のいずれか1つに記載の睡眠感判定方法。
<8> 睡眠時の被験者の脳波に含まれるδ波のパワーの時間的推移を示すδ波データを取得する第一取得手段と、
睡眠時の前記被験者における副交感神経の活性度の時間的推移を示す自律神経データを取得する第二取得手段と、
前記取得されたδ波データ及び自律神経データに基づいて、前記被験者に関する、δ波のパワーと副交感神経の活性度との同調性の指標値を算出する算出手段と、
前記算出された同調性の指標値に基づいて、前記被験者の睡眠感を示す睡眠感情報を生成する生成手段と、
前記睡眠感情報を出力する出力処理手段と、
を備える睡眠感判定装置。
<9> 前記生成手段は、睡眠の質の良し悪し及び疲労感の有無のいずれか一方又は両方を示す前記睡眠感情報を生成する、
<8>に記載の睡眠感判定装置。
<10> 前記生成手段は、睡眠の質及び疲労感の各々に対応する各閾値をそれぞれ保持し、保持される各閾値と前記算出された同調性の指標値との比較により、睡眠の質の良し悪し及び疲労感の有無のいずれか一方又は両方を判定する、
<9>に記載の睡眠感判定装置。
<11> 前記生成手段は、各判定条件に対応する各閾値をそれぞれ保持し、保持される各閾値と前記算出された同調性の指標値との比較により、前記被験者における、判定条件毎の睡眠感を判定する、
<8>から<10>のいずれか1つに記載の睡眠感判定装置。
<12> 判定条件の指定を受け付ける受付手段、
を更に備え、
前記生成手段は、前記受け付けられた前記判定条件に対応する閾値を特定し、特定された閾値と前記算出された同調性の指標値との比較により、前記被験者における、前記判定条件の睡眠感を判定する、
<8>から<11>のいずれか1つに記載の睡眠感判定装置。
<13> 前記取得されるδ波データ及び自律神経データは、睡眠周期における第一周期から三周期分の時系列データである、
<8>から<12>のいずれか1つに記載の睡眠感判定装置。
<14> 前記取得される自律神経データは、心拍変動の周波数解析により得られる低周波成分及び高周波成分の総和に対する高周波成分の比率の時系列データであり、
前記取得されるδ波データは、各時間幅でのδ波のパワーを所定時間のδ波の平均パワーで除算した値の時系列データである、
<8>から<13>のいずれか1つに記載の睡眠感判定装置。
<15> <1>から<7>のいずれか1つに記載の睡眠感判定方法を少なくとも一つのコンピュータに実行させるプログラム。