特許第6553428号(P6553428)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6553428
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】穿刺器具
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/151 20060101AFI20190722BHJP
【FI】
   A61B5/151 200
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-131709(P2015-131709)
(22)【出願日】2015年6月30日
(65)【公開番号】特開2017-12393(P2017-12393A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2018年3月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100105407
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(72)【発明者】
【氏名】福沢 眞彦
【審査官】 北島 拓馬
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/037207(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0299398(US,A1)
【文献】 国際公開第2006/118224(WO,A1)
【文献】 特開2004−057489(JP,A)
【文献】 特表2008−535585(JP,A)
【文献】 国際公開第2003/005907(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/06 − 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
穿刺要素を有する穿刺移動体および該穿刺移動体を収容するカートリッジケースを具備する穿刺カートリッジと、
前記穿刺カートリッジが装填される本体ケースおよび前記本体ケースに取り付けられているとともに前記穿刺移動体を穿刺対象に向けて移動させるための弾性力を発揮する弾性部材を具備する器具本体と、を備える穿刺器具であって、
前記穿刺移動体は、移動側係合部を有しており、
前記カートリッジケースは、前記移動側係合部と係合することにより前記穿刺移動体を前記カートリッジケースに対して固定する固定側係合部を有しており、
前記器具本体は、前記穿刺カートリッジを前記本体に装填する装填方向において、前記穿刺カートリッジによる前記弾性部材の弾性変形が開始する弾性変形開始位置よりも前記装填方向奥側に設定された係合解除位置に至るまでの区間に前記穿刺カートリッジが位置した際に、前記移動側係合部と前記固定側係合部との係合を維持する係合維持部を有
前記移動側係合部および前記固定側係合部は、前記穿刺方向と交差する方向において一方の一部が他方に進入しており、
前記係合維持部は、前記カートリッジケースの一部が前記穿刺方向と交差する方向に変形することを阻止することにより、前記移動側係合部と前記固定側係合部との係合を維持する穿刺器具。
【請求項2】
穿刺要素を有する穿刺移動体および該穿刺移動体を収容するカートリッジケースを具備する穿刺カートリッジと、
前記穿刺カートリッジが装填される本体ケースおよび前記本体ケースに取り付けられているとともに前記穿刺移動体を穿刺対象に向けて移動させるための弾性力を発揮する弾性部材を具備する器具本体と、を備える穿刺器具であって、
前記穿刺移動体は、移動側係合部を有しており、
前記カートリッジケースは、前記移動側係合部と係合することにより前記穿刺移動体を前記カートリッジケースに対して固定する固定側係合部を有しており、
前記器具本体は、前記穿刺カートリッジを前記本体に装填する装填方向において、前記穿刺カートリッジによる前記弾性部材の弾性変形が開始する弾性変形開始位置よりも前記装填方向奥側に設定された係合解除位置に至るまでの区間に前記穿刺カートリッジが位置した際に、前記移動側係合部と前記固定側係合部との係合を維持する係合維持部を有し、
前記移動側係合部および前記固定側係合部は、前記穿刺方向と交差する方向において一方の一部が他方に進入しており、
前記係合維持部は、前記移動側係合部が前記穿刺方向と交差する方向に変形することを阻止することにより、前記移動側係合部と前記固定側係合部との係合を維持する穿刺器具。
【請求項3】
穿刺要素を有する穿刺移動体および該穿刺移動体を収容するカートリッジケースを具備する穿刺カートリッジと、
前記穿刺カートリッジが装填される本体ケースおよび前記本体ケースに取り付けられているとともに前記穿刺移動体を穿刺対象に向けて移動させるための弾性力を発揮する弾性部材を具備する器具本体と、を備える穿刺器具であって、
前記穿刺移動体は、移動側係合部を有しており、
前記カートリッジケースは、前記移動側係合部と係合することにより前記穿刺移動体を前記カートリッジケースに対して固定する固定側係合部を有しており、
前記器具本体は、前記穿刺カートリッジを前記本体に装填する装填方向において、前記穿刺カートリッジによる前記弾性部材の弾性変形が開始する弾性変形開始位置よりも前記装填方向奥側に設定された係合解除位置に至るまでの区間に前記穿刺カートリッジが位置した際に、前記移動側係合部と前記固定側係合部との係合を維持する係合維持部を有し、
前記係合維持部は、前記移動側係合部と係合する係合姿勢と、前記移動側係合部と係合しない非係合姿勢と、をとる係合可動要素と、前記穿刺カートリッジが前記係合解除位置に至るまでの期間に前記係合可動要素に前記係合姿勢をとらせるガイド要素と、を有する穿刺器具。
【請求項4】
前記穿刺カートリッジによって前記弾性部材を弾性変形させる力は、前記移動側係合部と前記固定側係合部との係合部位を介して伝達される、請求項1ないし3のいずれかに記載の穿刺器具。
【請求項5】
前記係合維持部は、前記弾性変形開始位置よりも前記装填方向手前側に位置する係合維持開始位置から前記係合解除位置に至る区間において、前記移動側係合部と前記固定側係合部との係合を維持する、請求項1ないし4のいずれかに記載の穿刺器具。
【請求項6】
前記器具本体は、前記係合維持部が前記移動側係合部と前記固定側係合部との係合を維持しない状態となった後に、前記弾性部材の弾性変形を一時的に維持するラッチ部を有する、請求項1ないしのいずれかに記載の穿刺器具。
【請求項7】
前記穿刺カートリッジは、前記穿刺要素を覆うとともに前記穿刺移動体と連結されたキャップ部を有しており、
前記器具本体は、前記係合解除位置よりも前記穿刺方向手前側において前記キャップ部に当接することにより、前記キャップ部を前記穿刺移動体から分離する分離部を有する、請求項1ないしのいずれかに記載の穿刺器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液等の体液の採取に用いられる穿刺器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、血液等の体液に含まれるグルコースやコレステロール等の特定成分の測定を行う測定器が使用されている。この測定に際しては、患者の血液等の体液を所定量だけ採取する必要がある。この体液の採取を行う器具として、穿刺要素を有する穿刺器具が提案されている。特許文献1に開示された穿刺器具は、穿刺要素を有する穿刺カートリッジと、この穿刺カートリッジが装填される器具本体とを備える。穿刺カートリッジは、1回または所定回の採取を行った後に廃棄される、いわゆるディスポーザブルタイプとして構成されている。
【0003】
穿刺カートリッジは、穿刺要素を器具本体に対して所望の位置に正確に配置する機能と、穿刺要素を患者の身体に穿刺すべく移動させる際には穿刺要素の固定を適切に解除する機能とが求められる。すなわち、器具本体には、穿刺要素を穿刺する際の推進力を発揮する弾性部材などが設けられている。穿刺カートリッジが器具本体に装填されるまでは、穿刺カートリッジにおいて穿刺要素が固定されていることが望ましい。一方、弾性部材からの推進力によって穿刺要素が穿刺する際には、穿刺カートリッジにおいて穿刺要素が移動しやすい状態となることが望ましい。穿刺カートリッジにおける固定が強固に過ぎると、穿刺要素を移動しやすい状態におくことが困難となる。一方、穿刺カートリッジにおける固定が弱すぎると、穿刺要素に弾性部材からの推進力が確実に伝わらないおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−121380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、装填時には、穿刺カートリッジにおける穿刺要素の位置をより正確に規定しつつ、穿刺時には、穿刺カートリッジにおいて穿刺要素を適切に移動させうる穿刺器具を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によって提供される穿刺器具は、穿刺要素を有する穿刺移動体および該穿刺移動体を収容するカートリッジケースを具備する穿刺カートリッジと、前記穿刺カートリッジが装填される本体ケースおよび前記本体ケースに取り付けられているとともに前記穿刺移動体を穿刺対象に向けて移動させるための弾性力を発揮する弾性部材を具備する器具本体と、を備える穿刺器具であって、前記穿刺移動体は、移動側係合部を有しており、前記カートリッジケースは、前記移動側係合部と係合することにより前記穿刺移動体を前記カートリッジケースに対して固定する固定側係合部を有しており、前記器具本体は、前記穿刺カートリッジを前記本体に装填する装填方向において、前記穿刺カートリッジによる前記弾性部材の弾性変形が開始する弾性変形開始位置よりも前記装填方向奥側に設定された係合解除位置に至るまでの区間に前記穿刺カートリッジが位置した際に、前記移動側係合部と前記固定側係合部との係合を維持する係合維持部を有する。
【0007】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記穿刺カートリッジによって前記弾性部材を弾性変形させる力は、前記移動側係合部と前記固定側係合部との係合部位を介して伝達される。
【0008】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記係合維持部は、前記弾性変形開始位置よりも前記装填方向手前側に位置する係合維持開始位置から前記係合解除位置に至る区間において、前記移動側係合部と前記固定側係合部との係合を維持する。
【0009】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記移動側係合部および前記固定側係合部は、前記穿刺方向と交差する方向において一方の一部が他方に進入しており、前記係合維持部は、前記カートリッジケースの一部が前記穿刺方向と交差する方向に変形することを阻止することにより、前記移動側係合部と前記固定側係合部との係合を維持する。
【0010】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記移動側係合部および前記固定側係合部は、前記穿刺方向と交差する方向において一方の一部が他方に進入しており、前記係合維持部は、前記移動側係合部が前記穿刺方向と交差する方向に変形することを阻止することにより、前記移動側係合部と前記固定側係合部との係合を維持する。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記係合維持部は、前記移動側係合部と係合する係合姿勢と、前記移動側係合部と係合しない非係合姿勢と、をとる係合可動要素と、前記穿刺カートリッジが前記係合解除位置に至るまでの期間に前記係合可動要素に前記係合姿勢をとらせるガイド要素と、を有する。
【0012】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記器具本体は、前記係合維持部が前記移動側係合部と前記固定側係合部との係合を維持しない状態となった後に、前記弾性部材の弾性変形を一時的に維持するラッチ部を有する。
【0013】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記穿刺カートリッジは、前記穿刺要素を覆うとともに前記穿刺移動体と連結されたキャップ部を有しており、前記器具本体は、前記係合解除位置よりも前記穿刺方向手前側において前記キャップ部に当接することにより、前記キャップ部を前記穿刺移動体から分離する分離部を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、前記穿刺カートリッジが前記係合解除位置よりも装填方向手前側にある場合、前記係合維持部によって前記移動側係合部と前記固定側係合部との係合が維持される。このため、前記穿刺カートリッジの装填に伴う力が前記穿刺移動体に作用しても、前記カートリッジケースに対して前記穿刺移動体の位置が適切に固定されている。一方、前記穿刺カートリッジが前記係合解除位置に到達すると、前記係合維持部が前記移動側係合部と前記固定側係合部との係合を維持しない状態となり、前記移動側係合部と前記固定側係合部との係合が解除される。これにより、前記穿刺移動体は、前記カートリッジケースによって拘束されることなく、スムーズな移動が可能となる。したがって、装填時には、前記穿刺カートリッジにおける前記穿刺要素の位置をより正確に規定しつつ、穿刺時には、前記穿刺カートリッジにおいて前記穿刺要素を適切に移動させることができる。
【0015】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1実施形態に基づく穿刺器具を示す斜視図である。
図2図1のII−II線に沿う断面における穿刺カートリッジと器具本体を分離した状態の断面図である。
図3図1の穿刺器具において穿刺カートリッジの装填を示す断面図である。
図4図1の穿刺器具において穿刺カートリッジが弾性変形開始位置にある状態を示す断面図である。
図5図1の穿刺器具において穿刺カートリッジが係合解除位置にある状態を示す断面図である。
図6図1の穿刺器具において穿刺準備が整った状態を示す断面図である。
図7図1の穿刺器具において穿刺を行う状態を示す断面図である。
図8】本発明の第2実施形態に基づく穿刺器具の穿刺カートリッジと器具本体を分離した状態の断面図である。
図9図8の穿刺器具の係合維持部を示す正面図である。
図10図8の穿刺器具において穿刺カートリッジの装填を示す断面図である。
図11図8の穿刺器具において穿刺カートリッジが弾性変形開始位置にある状態を示す断面図である。
図12図8の穿刺器具において穿刺カートリッジが係合解除位置にある状態を示す断面図である。
図13図8の穿刺器具において穿刺準備が整った状態を示す断面図である。
図14図8の穿刺器具において穿刺を行う状態を示す断面図である。
図15】本発明の第3実施形態に基づく穿刺器具の穿刺カートリッジと器具本体を分離した状態の断面図である。
図16図15の穿刺器具において穿刺カートリッジの装填を示す断面図である。
図17図15の穿刺器具において穿刺カートリッジが係合開始位置にある状態を示す断面図である。
図18図15の穿刺器具において穿刺カートリッジが弾性変形開始位置にある状態を示す断面図である。
図19図15の穿刺器具において穿刺カートリッジが係合解除位置にある状態を示す断面図である。
図20図15の穿刺器具において穿刺準備が整った状態を示す断面図である。
図21図15の穿刺器具において穿刺を行う状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0018】
図1および図2は、本発明の第1実施形態に基づく穿刺器具を示している。本実施形態の穿刺器具A1は、器具本体1および穿刺カートリッジ2を備えている。穿刺器具A1は、たとえば簡易血糖測定器(self monitoring of blood glucose:SMBG)の測定対象検体である血液を、患者の指先などから採取するためのものである。
【0019】
図2において、図中上下方向が、装填方向Nであり、図中下方を装填方向N奥側、図中上方を装填方向N手前側と定義する。また、本実施形態においては、後述する穿刺移動体3が穿刺の際に移動する方向が、装填方向Nに沿った方向となっており、装填方向N手前側に向かって移動する。なお、本発明において、装填方向と穿刺方向とは、互いに一致してもよいし、異なる方向であってもよい。
【0020】
穿刺カートリッジ2は、器具本体1に装填されることにより穿刺器具A1による穿刺を可能とするカートリッジである。本実施形態の穿刺カートリッジ2は、穿刺移動体3、カートリッジケース4およびキャップ部5によって構成されている。穿刺カートリッジ2は、1回または所定回の穿刺の後に廃棄される、いわゆるディスポーザブルとして構成されている。
【0021】
カートリッジケース4は、穿刺移動体3およびキャップ部5を収容しており、穿刺カートリッジ2の外観のほとんどをなしている。カートリッジケース4の形状、大きさおよび材質は特に限定されない。本実施形態においては、カートリッジケース4は、穿刺移動体3およびキャップ部5を内蔵する空間を規定する略筒状とされている。筒状の具体形態としては、たとえば角筒状や円筒状を採用しうる。カートリッジケース4の材質としては、たとえば樹脂が挙げられる。
【0022】
カートリッジケース4には、固定側係合部41、穿刺口42およびストッパ部43が形成されている。固定側係合部41は、穿刺移動体3の一部と係合することにより、穿刺移動体3をカートリッジケース4に対して固定する機能を担う。本実施形態においては、固定側係合部41は、筒状とされたカートリッジケース4の内側面に設けられており、図中左右方向において凹む凹部とされている。
【0023】
穿刺口42は、カートリッジケース4の装填方向N手前側端部に設けられており、装填方向Nに貫通する開口である。穿刺口42は、穿刺移動体3の後述する穿刺要素31を外部に突出させるために設けられている。
【0024】
ストッパ部43は、カートリッジケース4の装填方向N手前側端部付近に設けられており、図中左右方向においてカートリッジケース4の内側面よりも内方に突出している。このストッパ部43は、穿刺移動体3の一部と衝突することにより、意図しない状態で穿刺移動体3が穿刺可能な状態に移動することを阻止するためのものである。
【0025】
穿刺移動体3は、穿刺器具A1による穿刺において、体液を採取すべき患者の身体の一部に向けて移動する部位である。本実施形態においては、穿刺移動体3は、穿刺要素31および保持部32を有する。穿刺要素31は、身体に穿刺される要素であり、たとえば金属からなる針や刃などである。穿刺要素31は、装填方向N手前側(穿刺方向前方)に向かって尖った形状となっており、好適には針が用いられる。
【0026】
保持部32は、穿刺要素31を保持する部位であり、たとえば樹脂からなる。保持部32は、穿刺要素31の先端に対して装填方向N奥方(穿刺方向後方)に位置している。本実施形態の保持部32は、移動側係合部321、後端突起322および張り出し部323を有している。
【0027】
移動側係合部321は、カートリッジケース4の固定側係合部41と係合することにより、穿刺移動体3をカートリッジケース4に対して固定する機能を担う。本実施形態においては、移動側係合部321は、保持部32のうち装填方向Nと交差する方向である図中左右方向に突出する部位によって構成されている。また、移動側係合部321の先端は、凹部とされた固定側係合部41に対して、装填方向Nと交差する方向である図中左右方向において進入している。
【0028】
なお、移動側係合部321と固定側係合部41との係合は、本実施形態の態様に限定されない。たとえば、移動側係合部321の先端が凹部とされることにより、固定側係合部41の先端が移動側係合部321に進入する構成であってもよい。
【0029】
後端突起322は、装填方向N奥側に向けて突出している。後端突起322は、後述する器具本体1の一部に連結する部位である。
【0030】
張り出し部323は、保持部32のうち図中左右方向に張り出す部位によって構成されている。より具体的には、本実施形態の張り出し部323は、図中左斜め上方に延びる部分と、この部分の先端から装填方向N手前側に延びる部分とを有している。張り出し部323は、たとえば使用後において廃棄された際などに、穿刺移動体3の穿刺要素31が穿刺カートリッジ2から意図せず突出することを阻止するためのものである。すなわち、図2に示すように穿刺カートリッジ2が器具本体1に装填されていない状態においては、穿刺移動体3が装填方向N手前側(穿刺方向前方)に移動しようとすると、穿刺要素31が穿刺口42から外部に突出する前に、張り出し部323の先端がカートリッジケース4のストッパ部43に衝突する。これにより、穿刺移動体3の移動が阻止され、穿刺要素31が誤って突出してしまうことを防止することができる。
【0031】
キャップ部5は、未使用時の穿刺要素31を覆うことにより、穿刺要素31を無菌状態に保つためのものである。本実施形態のキャップ部5は、連結部51を介して穿刺移動体3の保持部32に連結されている。さらに、本実施形態においては、保持部32、連結部51およびキャップ部5が、金型に穿刺要素31を配置した状態で樹脂成形するいわゆるインサート成形によって一体的に形成されている。連結部51は、未使用時において保持部32とキャップ部5とを確実に連結するとともに、後述する工程においてキャップ部5を保持部32から適切に分離させるべく破断可能な大きさおよび形状とされている。
【0032】
なお、穿刺要素31と保持部32とが一体的に形成された穿刺移動体3を採用してもよい。この場合、穿刺移動体3は、金属によって形成されてもよいし、穿刺要素31による穿刺が適切に行いうることを条件に樹脂によって形成されてもよい。
【0033】
器具本体1は、穿刺カートリッジ2が装填されるものであり、穿刺器具A1の外観の大部分を占めている。本実施形態の器具本体1は、本体ケース6、弾性部材7およびラッチ部81を有する。
【0034】
本体ケース6は、弾性部材7などを保持するものであり、装填された穿刺カートリッジ2を支持する部位である。本実施形態においては、本体ケース6は、全体として装填方向N手前側に開口する筒状に形成されており、その内部空間に向けて穿刺カートリッジ2が装填される。ただし、本体ケース6の構成はこれに限定されず、装填される穿刺カートリッジ2を適切に保持しうる構成であればよい。本体ケース6は、たとえば樹脂からなる。
【0035】
本体ケース6は、係合維持部63およびガイド部62を有している。
【0036】
係合維持部63は、本体ケース6の一部あるいは本体ケース6に取り付けられた別部材によって構成されている。係合維持部63は、装填方向Nにおいて、穿刺カートリッジ2による弾性部材7の弾性変形が開始する弾性変形開始位置よりも装填方向N奥側に設定された係合解除位置に至るまでの区間に穿刺カートリッジ2が位置した際に、移動側係合部321と固定側係合部41との係合を補強し、維持する。本実施形態においては、係合維持部63は、装填方向Nに沿う図中左側面を有する部材である。
【0037】
ガイド部62は、装填方向Nに沿って延びる部材であり、本体ケース6の一部あるいは本体ケース6に取り付けられた別部材によって構成されている。ガイド部62は、穿刺カートリッジ2の装填において、張り出し部323を図中右方に収縮させ、且つ収縮させた張り出し部323が摺動する面を提供する部位である。また、ガイド部62は、分離部621を有している。分離部621は、穿刺カートリッジ2の装填における後述する工程において、穿刺カートリッジ2のキャップ部5と当接することにより、保持部32からキャップ部5を分離させる機能を果たす。
【0038】
弾性部材7は、穿刺カートリッジ2の穿刺移動体3を穿刺方向前方(装填方向N手前側)へと移動させる弾性力を発揮するものである。弾性部材7の具体的構成は特に限定されず、本実施形態においては、いわゆる弦巻ばねが採用されている。弾性部材7の装填方向N奥方端は、本体ケース6に対して固定されている。本実施形態においては、弾性部材7の装填方向N手前側端に、連結部71が設けられている。連結部71は、穿刺移動体3の後端突起322と連結することにより、穿刺移動体3と弾性部材7とを一時的に一体化させる機能を担う。連結部71は、たとえば金属や樹脂からなる。
【0039】
連結部71には、連結凹部711およびラッチ凹部712が形成されている。連結凹部711は、装填方向N奥側に凹んでおり、穿刺移動体3の後端突起322が嵌り込む部分である。ラッチ凹部712は、連結凹部711の一部が装填方向Nと交差する方向である図中左右方向に凹んだ部位である。
【0040】
ラッチ部81は、弾性部材7が弾性力を発揮しうる状態で、連結凹部711を所望に位置において一時的に停止させるためのものである。ラッチ部81の具体的構成は特に限定されず、本実施形態においては、図中左方に尖った部材からなる。このラッチ部81は、使用者の操作によって、連結凹部711を停止させる位置が設定可能とされていてもよい。後述する工程において、ラッチ部81は、連結部71のラッチ凹部712に進入することにより、連結部71を停止させる。ラッチ凹部712とラッチ部81とを備える構成は、連結部71を一時的に停止させる具体的構造の一例に過ぎず、同様の目的を達成させる構造として、既知の様々な構造を採用しうる。
【0041】
次に、穿刺器具A1を用いた穿刺について、図2図7を参照しつつ、以下に説明する。
【0042】
図2は、穿刺器具A1の使用開始状態を示している。穿刺カートリッジ2は、未だ使用されていないものである。このため、穿刺移動体3の移動側係合部321とカートリッジケース4の固定側係合部41とが緩やかに係合しており、穿刺移動体3がカートリッジケース4に対して固定されている。また、キャップ部5は、連結部51を介して保持部32と一体的に形成されている。穿刺カートリッジ2を器具本体1の装填方向N手前側に配置し、必要な場合、穿刺カートリッジ2の器具本体1に対する角度などを合わせる。
【0043】
次いで、器具本体1に対する穿刺カートリッジ2の装填を開始する。具体的には、器具本体1に対して穿刺カートリッジ2を装填方向N奥側へと移動させる。典型的な装填方法としては、使用者の一方の手によって器具本体1の本体ケース6を挟持することにより固定し、他方の手によって穿刺カートリッジ2のカートリッジケース4を挟持しつつ穿刺カートリッジ2を装填方向N奥側に向かって移動させる。
【0044】
装填が進行すると、図3に示す状態となる。同図に示す状態においては、器具本体1の係合維持部63とカートリッジケース4の図中右下方部分とが、互いに隣接する位置関係となる。これにより、カートリッジケース4の図中右下方部分、すなわち固定側係合部41が設けられた部分の図中左右方向外側への変形が、係合維持部63によって阻止される。これにより、移動側係合部321と固定側係合部41との係合が維持される。
【0045】
また、同図においては、器具本体1のガイド部62の分離部621が穿刺カートリッジ2のキャップ部5に当接する。この際、穿刺カートリッジ2は、後述する係合解除位置よりも装填方向N手前側に位置している。また、本実施形態においては、器具本体1の弾性部材7は、いまだ弾性力を発揮していない状態である。カートリッジケース4を挟持しつつ穿刺カートリッジ2を装填方向N奥側に移動させる場合、使用者の手から加えられる力は、カートリッジケース4から固定側係合部41と移動側係合部321との係合部位を経由して穿刺移動体3の保持部32へと伝えられる。このため、図3に示す状態から、穿刺カートリッジ2を装填方向N奥側へとさらに移動させようとすると、ガイド部62(分離部621)によってキャップ部5が装填方向N奥側への移動が阻止された状態で、保持部32が装填方向N奥側へと移動することとなる。これにより、保持部32とキャップ部5とを連結する連結部51に顕著に大きな応力が発生し、連結部51が破断する。これにより、キャップ部5が保持部32から分離される。
【0046】
図4は、穿刺カートリッジ2が装填方向N奥側へとさらに移動し、弾性変形開始位置にある状態を示している。弾性変形開始位置は、穿刺カートリッジ2の装填に伴って弾性部材7の弾性変形が開始する位置である。本実施形態においては、穿刺カートリッジ2の穿刺移動体3の後端突起322が連結部71の連結凹部711に嵌り込むことにより、穿刺移動体3が連結部71を装填方向N奥側へと押し得る状態となる位置が弾性変形開始位置である。なお、上述した分離部621とキャップ部5との当接に先立って、穿刺カートリッジ2が弾性変形開始位置に到達する構成であってもよい。
【0047】
また、図3に示した状態から図4に示した状態に進行する過程においては、キャップ部5は、ガイド部62(分離部621)によって装填方向N奥側への移動が阻止されたままである。このため、キャップ部5は、穿刺移動体3およびカートリッジケース4に対して装填方向N手前側に相対的に移動する格好となる。この穿刺移動体3およびカートリッジケース4に対する相対的な移動において、たとえばカートリッジケース4に所定のガイドが設けられているなどの既知の構造を採用することにより、キャップ部5は、この後の穿刺における穿刺移動体3(穿刺要素31)の穿刺起動から退避する構成とされている。なお、キャップ部5の退避は、カートリッジケース4の構造によって実現されるものに限定されず、たとえばいずれかのタイミングで使用者が取り去る構成であってもよい。
【0048】
図4に示した状態から穿刺カートリッジ2を装填方向N奥側へとさらに移動させると、移動距離(装填距離)に応じて弾性部材7が弾性変形することにより弾性部材7の弾性力が増大する。この移動過程(装填過程)において穿刺カートリッジ2を装填方向N奥側へと移動させるには、使用者の手から穿刺カートリッジ2のカートリッジケース4へと、弾性部材7の弾性力に抗しうる力が加えられる。この力は、穿刺移動体3の移動側係合部321とカートリッジケース4の固定側係合部41との係合部位に付加される格好となる。移動側係合部321と固定側係合部41との係合部位は、係合維持部63によるカートリッジケース4の変形阻止によって、弾性部材7の弾性力以上の力が付加されても、係合状態を維持される。
【0049】
そして、図5に示すように、穿刺カートリッジ2が係合解除位置に到達する。この係合解除位置は、係合維持部63が移動側係合部321と固定側係合部41との係合を維持しない状態となることにより移動側係合部321と固定側係合部41との係合が解除される位置である。本実施形態においては、穿刺カートリッジ2が装填方向N奥側へと移動させられた結果、カートリッジケース4のうち固定側係合部41が設けられた図中右下側部分が、係合維持部63の装填方向N奥側端よりも装填方向N奥側に位置する。このため、カートリッジケース4の図中右下側部分の変形が許容され、当該部分が図中左右方向外側に変形する。この結果、移動側係合部321と41との係合が解除される。
【0050】
係合が解除されると、穿刺移動体3は、弾性部材7の弾性力を受けることにより装填方向N手前側(穿刺方向前方)へと移動しようとする。本実施形態においては、図6に示すように、穿刺カートリッジ2が係合解除位置にあった際に穿刺移動体3があった位置よりも、穿刺移動体3が装填方向N手前側(穿刺方向前方)へと移動すると、ラッチ部81が連結部71のラッチ凹部712へと嵌り込み、連結部71および穿刺移動体3の移動を一時的に阻止する。ラッチ部81の装填方向Nにおける位置は、使用者の任意により変更可能であってもよい。また、ラッチ部81がラッチ凹部712へと嵌り込む動作は、図示しない既知の機構によって自動的に実行されてもよいし、使用者の操作によって実行されてもよい。これにより、穿刺器具A1は、穿刺が可能な状態となる。
【0051】
この後は、カートリッジケース4の穿刺口42を、血液等の体液を採取すべき身体の箇所に近接させる。次いで、たとえば器具本体1に備えられた操作部(図示略)を操作することにより、ラッチ部81による連結部71の移動阻止を解除する。これにより、図7に示すように、穿刺移動体3は、弾性部材7の弾性力によって、連結部71とともに装填方向N手前側(穿刺方向前方)へと急速に移動する。そして、カートリッジケース4の穿刺口42から穿刺移動体3の穿刺要素31が突出すると、穿刺要素31の先端が身体の所定箇所に穿刺される。以上の工程により、穿刺器具A1を用いた穿刺が完了する。この後は、穿刺によって得られた血液等の体液を対象として、たとえばSMBGなどの測定を行う。
【0052】
次に、穿刺器具A1の作用について説明する。
【0053】
本実施形態によれば、図3および図4に示すように、穿刺カートリッジ2が係合解除位置よりも装填方向N手前側にある場合、係合維持部63によって移動側係合部321と固定側係合部41との係合が維持される。このため、穿刺カートリッジ2の装填に伴う力が穿刺移動体3に作用しても、カートリッジケース4に対して穿刺移動体3の位置が適切に固定されている。一方、穿刺カートリッジ2が係合解除位置に到達すると、図5に示すように、係合維持部63が移動側係合部321と固定側係合部41との係合を維持しない状態となり、移動側係合部321と41との係合が解除される。これにより、穿刺移動体3は、カートリッジケース4によって拘束されることなく、スムーズな移動が可能となる。したがって、装填時には、穿刺カートリッジ2における穿刺要素31の位置をより正確に規定しつつ、穿刺時には、穿刺カートリッジ2において穿刺要素31を適切に移動させることができる。
【0054】
図5に示す係合解除位置は、図4に示す弾性変形開始位置よりも装填方向N奥側に位置している。このため、図4の弾性変形開始位置から図5に示す係合解除位置に穿刺カートリッジ2が到達するまでの間は、移動側係合部321と固定側係合部41との係合部位に弾性部材7の弾性力に相当する力が付与される。移動側係合部321と固定側係合部41との係合は、係合解除位置に至るまでの区間において係合維持部63によって確実に維持されている。この結果、係合解除位置に到達するまでは、移動側係合部321と固定側係合部41との係合が誤って解除されることなく、弾性部材7を確実に弾性変形させることができる。また、係合維持部63が移動側係合部321と固定側係合部41との係合を維持しない状態への移行は、たとえば弾性部材7を弾性変形させるのに要する力を過度に超える大きな力を必要としない。したがって、穿刺器具A1の使用者が、穿刺カートリッジ2を装填するに際し、穿刺要素31を穿刺させるのに必要な弾性力を弾性部材7に蓄積させるのに必要な力を過度に超える大きな力を、穿刺カートリッジ2に加える必要がない。これは、使用者の穿刺に要する作業負担を軽減するのに好ましい。
【0055】
移動側係合部321が固定側係合部41に対して装填方向Nと交差する方向に進入する構成であり、係合維持部63による係合維持は、カートリッジケース4の一部が装填方向Nと交差する方向に変形することを阻止することによってなされる。このような構成は、係合維持に要する力を抑制するとともに、移動側係合部321と固定側係合部41との係合を確実に解除するのに好ましい。
【0056】
係合解除位置において移動側係合部321と固定側係合部41との係合が解除されると、図6に示すように、穿刺移動体3および連結部71の移動がラッチ部81によって速やかに阻止される。これにより、使用者は、穿刺が可能な程度に弾性部材7を弾性変形させることを完了した後に、ラッチ部81によって穿刺移動体3の移動が阻止された状態の穿刺器具A1を、穿刺に適した姿勢に余裕を持って移行させることができる。
【0057】
穿刺カートリッジ2の装填開始後、弾性変形開始位置に到達する前に、キャップ部5を保持部32から分離することにより、未使用状態の穿刺カートリッジ2において誤って穿刺要素31が外部に突出するなどに事態を防止することができる。また、キャップ部5の分離に要する力は、移動側係合部321と固定側係合部41との係合部位を経由して伝達される。移動側係合部321と固定側係合部41との係合力を高めやすい構成であることにより、キャップ部5の分離をスムーズに行うことが可能であるとともに、キャップ部5の分離に際して、誤って移動側係合部321と固定側係合部41との係合が解除されてしまうことを回避することができる。
【0058】
図8図13は、本発明の他の実施形態を示している。なお、これらの図において、上記実施形態と同一または類似の要素には、上記実施形態と同一の符号を付している。
【0059】
図8は、本発明の第2実施形態に基づく穿刺器具を示している。本実施形態の穿刺器具A2は、図8に示すように、器具本体1の穿刺移動体3の移動側係合部321の具体的構成が上述した実施形態と異なっている。また、器具本体1の係合維持部63の具体的構成が上述した実施形態と異なっている。これらの相違により、本実施形態においては、移動側係合部321と固定側係合部41とが維持および解除される際の具体的挙動が、上述した実施形態と異なっている。
【0060】
本実施形態においては、移動側係合部321は、全体として、保持部32の図中左右方向中心から外側(図中右側)へと突出している。そして、移動側係合部321は、鍔部321aを有している。鍔部321aは、移動側係合部321の長手方向(図中左右方向)中間部分が、周囲部分よりも幅広あるいは太径とされた部位である。
【0061】
図9は、移動側係合部321および係合維持部63を示す要部正面図であり、図8における図中左方から見た図である。係合維持部63は、本実施形態においては、維持スリット631および解除スリット632を有している。維持スリット631は、相対的に装填方向N手前側に位置しており、装填方向Nに沿っている。維持スリット631の幅は、鍔部321aよりも小であり、移動側係合部321のうち鍔部321aの周囲部分よりも大である。解除スリット632は、維持スリット631に対して装填方向N奥側に繋がっている。解除スリット632の幅は、鍔部321aよりも大である。また、係合維持部63の装填方向N手前側端部には、傾斜面が設けられている。
【0062】
図9に示す鍔部321aは、円形状とされているがこれは一例であり、矩形状、多角形状など維持スリット631よりも大である形状であればよい。
【0063】
次に、穿刺器具A2を用いた穿刺について、図8図14を参照しつつ、以下に説明する。
【0064】
図8に示す状態から穿刺カートリッジ2を装填方向N奥側へと移動させると、図9に示すように、移動側係合部321が係合維持部63の維持スリット631に進入する(図9上側に示す鍔部321a)。この際、図10に示すように、移動側係合部321の鍔部321aは、係合維持部63よりも図中右方に位置している。このため、移動側係合部321に外力などが作用しても、移動側係合部321が図中左方へ変形する挙動が係合維持部63によって阻止される。
【0065】
また、図10に示すように、キャップ部5と分離部621とを当接させる。さらに穿刺カートリッジ2を移動させると、穿刺器具A1における場合と同様に、キャップ部5が保持部32から分離する。次いで、図11に示すように、保持部32の後端突起322が連結部71の連結凹部711に嵌り込むことにより、保持部32と連結部71とが連結される。上述した穿刺器具A1における場合と同様に、この際の穿刺カートリッジ2の位置が、弾性変形開始位置である。
【0066】
さらに穿刺カートリッジ2を装填方向N奥側へと移動させると、図12に示すように、穿刺カートリッジ2が本実施形態の係合解除位置に到達する。本実施形態においては、移動側係合部321の鍔部321aが、係合維持部63の解除スリット632に到達した状態である(図9下側に示す鍔部321a)。鍔部321aが解除スリット632に進入したことにより、移動側係合部321が図中左方へと変形することが許容される。移動側係合部321と固定側係合部41との係合部位には、弾性部材7の弾性力に相当する力が付加されている。したがって、移動側係合部321は、その先端が図中左方に移動するような変形挙動を示す。この結果、移動側係合部321と固定側係合部41との係合が解除される。
【0067】
この後は、図13に示すように、ラッチ部81による連結部71と穿刺移動体3との一時的な移動阻止状態を経て、図14に示すように、穿刺移動体3の穿刺要素31による穿刺が実行される。
【0068】
このような実施形態によっても、装填時には、穿刺カートリッジ2における穿刺要素31の位置をより正確に規定しつつ、穿刺時には、穿刺カートリッジ2において穿刺要素31を適切に移動させることができる。また、使用者の穿刺に要する作業負担を軽減することが可能である。
【0069】
また、本実施形態においては、係合維持部63の維持スリット631は、移動側係合部321の変形を阻止する機能に加えて、図14に示す穿刺工程においては、穿刺移動体3をガイドする機能が期待できる。
【0070】
図15は、本発明の第3実施形態に基づく穿刺器具を示している。本実施形態の穿刺器具A3は、図15に示すように、器具本体1の穿刺移動体3の移動側係合部321および固定側係合部41の具体的構成が上述した実施形態と異なっている。また、器具本体1の係合維持部63の具体的構成が上述した実施形態と異なっている。これらの相違により、本実施形態においては、移動側係合部321と固定側係合部41とが維持および解除される際の具体的挙動が、上述した実施形態と異なっている。
【0071】
本実施形態においては、移動側係合部321は、穿刺器具A1における移動側係合部321と同様の形状とされている。一方、固定側係合部41は、装填方向N奥側に位置する突起によって構成されている。また、カートリッジケース4には、貫通孔44が形成されている。貫通孔44は、固定側係合部41の突起に対して装填方向N手前側に隣接する位置に設けられており、装填方向Nにおいて移動側係合部321よりも手前側に位置する部分を有する。
【0072】
係合維持部63は、係合可動要素633、ガイド要素634およびベース要素635を有している。ベース要素635は、本体ケース6に対して、装填方向Nに沿って往復動可能な支持部材である。ベース要素635は、図示しない弾性付勢手段によって図15に示す位置に自律的に復帰する構成でもよいし、使用者の操作によって復帰する構成であってもよい。
【0073】
係合可動要素633は、ベース要素635に対して回動可能に支持された屈曲形状の部材である。本実施形態においては、係合可動要素633の装填方向N奥側端部がベース要素635に対して回動可能に連結されている。また、係合可動要素633とベース要素635とに連結されたばね633aが設けられている。ばね633aは、係合可動要素633を図中右方に開かせる機能を果たす。
【0074】
ガイド要素634は、本体ケース6に対して固定されており、本体ケース6の一部あるいは本体ケース6に取り付けられて別部材によって構成されている。ガイド要素634は、装填方向N手前側に位置する傾斜面と、この傾斜面に対して装填方向N奥側に位置する装填方向Nに沿った内側面とを有している。
【0075】
次に、穿刺器具A3を用いた穿刺について、図15図21を参照しつつ、以下に説明する。
【0076】
図15に示す状態から穿刺カートリッジ2を装填方向N奥側へと移動させると、図16に示すように、穿刺カートリッジ2のカートリッジケース4の装填方向N奥側端が、器具本体1のベース要素635に当接する。この状態からさらに穿刺カートリッジ2を装填すると、穿刺カートリッジ2とともにベース要素635および係合可動要素633が装填方向N奥側に移動する。そして、係合可動要素633がガイド要素634の傾斜面に当接すると、係合可動要素633が図中左方に旋回させられる。そして、さらに装填を進めると、図17に示すように、ガイド要素634の内側面によって係合可動要素633が装填方向Nに沿って直立した姿勢となる。この際に、係合可動要素633の先端がカートリッジケース4の貫通孔44を貫通し、固定側係合部41とともに移動側係合部321を挟む格好となる。これにより、係合維持部63による移動側係合部321と固定側係合部41との係合維持が開始される。この位置を便宜上、係合開始位置と呼ぶ。なお、係合可動要素633の先端部の形状を変更することにより、係合可動要素633のみで移動側係合部321と係合することも可能である。
【0077】
また、さらに穿刺カートリッジ2を移動させると、穿刺器具A1,A2における場合と同様に、キャップ部5が保持部32から分離する。次いで、図18に示すように、保持部32の後端突起322が連結部71の連結凹部711に嵌り込むことにより、保持部32と連結部71とが連結される。上述した穿刺器具A1,A2における場合と同様に、この際の穿刺カートリッジ2の位置が、弾性変形開始位置である。
【0078】
さらに穿刺カートリッジ2を装填方向N奥側へと移動させると、図19に示すように、穿刺カートリッジ2が本実施形態の係合解除位置に到達する。本実施形態においては、係合可動要素633の装填方向N手前側端がガイド要素634の内側面の装填方向N奥側端よりも装填方向N奥側に位置することにより、ガイド要素634の内側面による係合可動要素633の回動阻止が解除される。このため、ばね633aの弾性力によって係合可動要素633が図中右方に回動し、係合可動要素633の先端が貫通孔44から離脱する。この結果、移動側係合部321と固定側係合部41との係合が解除される。
【0079】
この後は、図20に示すように、ラッチ部81による連結部71と穿刺移動体3との一時的な移動阻止状態を経て、図21に示すように、穿刺移動体3の穿刺要素31による穿刺が実行される。
【0080】
このような実施形態によっても、装填時には、穿刺カートリッジ2における穿刺要素31の位置をより正確に規定しつつ、穿刺時には、穿刺カートリッジ2において穿刺要素31を適切に移動させることができる。また、使用者の穿刺に要する作業負担を軽減することが可能である。
【0081】
また、本実施形態においては、係合可動要素633の貫通孔44への進入および離脱によって、移動側係合部321と固定側係合部41との係合状態を顕著に異ならせることが可能である。したがって、係合を維持すべき状態においては、移動側係合部321と固定側係合部41とをより確実に係合させるとともに、係合を解除すべき状態においては、移動側係合部321と固定側係合部41との係合を即座に解除することができる。また、穿刺カートリッジ2を本体ケース6に装填する際に要する力を軽減させることができ、非力な使用者であっても容易に穿刺カートリッジ2を装填することが可能となる。
【0082】
本発明に係る穿刺器具は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る穿刺器具の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0083】
A1〜A3 穿刺器具
1 器具本体
2 穿刺カートリッジ
3 穿刺移動体
31 穿刺要素
32 保持部
321 移動側係合部
321a 鍔部
322 後端突起
323 張り出し部
4 カートリッジケース
41 固定側係合部
42 穿刺口
43 ストッパ部
44 貫通孔
5 キャップ部
51 連結部
6 本体ケース
62 ガイド部
621 分離部
63 係合維持部
631 維持スリット
632 解除スリット
633 係合可動要素
633a ばね
634 ガイド要素
635 ベース要素
7 弾性部材
71 連結部
711 連結凹部
712 ラッチ凹部
81 ラッチ部
N 装填方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21