(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記分散ノズルを先端に取り付けた枝管は、当該枝管を接続した第1の本管を介して第2の本管に集合され、この第2の本管は、運転停止時の前記充填材層の表面より上方に立ち上がっていることを特徴とする請求項3に記載の上向流式反応装置。
【背景技術】
【0002】
近年、浄水分野では処理水水質の向上(処理水濁度の低減、クリプトスポリジウム等の除去)や運転管理の簡便化等を目的として、膜ろ過技術が普及しつつある。膜ろ過は非常に高い除濁性能を有していることから、膜ろ過技術を浄水処理の最終工程に採用した場合、前段の前処理においては、除濁を行う必要がなくなる。
【0003】
一方、触媒を充填した触媒充填塔に原水(被処理水)を通水する方法としては、原水を塔上部から通水して処理水を塔下部から採水する下向流式と、原水を塔下部から通水して処理水を塔上部から採水する上向流式とがあるが、浄水処理において上記膜ろ過と触媒充填塔とを併用する場合には、上向流式の触媒充填塔を使用するのが一般的、かつ合理的である。何故なら、下向流式の場合は一般に、原水中の懸濁物質を触媒充填層で除去するろ過機能を有するが、その分原水の通水速度は遅いのに対し、上向流式の場合は一般に、原水の通水に伴って触媒を流動化させて運転するので原水中の懸濁物質は触媒充填層で捕捉されない分原水の通水速度は速く、従って触媒充填塔の後段に上記膜ろ過のような除濁手段を設置する場合は、上向流式の触媒充填塔を使用するのが合理的だからである。
【0004】
ここで従来の上向流式の触媒充填塔として、例えば特許文献1には、触媒充填塔下部に多孔板等からなる分散装置を設置し、その上に砂利等の支持材を敷設した上で、活性炭等の触媒を配置する構成が開示されている。
【0005】
また特許文献2には、触媒充填塔底部にチャンバー室を配置し、その上面に垂直上向のノズル本体を設置し、且つノズル本体の上部に傘部を被せることで、支持砂利層を不要とした分散装置が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に示す構造の上向流式触媒充填塔では、分散装置を構成する多孔板や、支持材を構成する砂利層に、原水中の夾雑物(濁質)が蓄積し、これによって触媒充填塔内に偏流が生じるだけでなく、砂利層の閉塞、さらには、砂利層の不陸を生じ、結果として充填材が多孔板の下部に落下し、適切な運転ができなくなる等の課題がある。
【0008】
この対策として、分散装置の下部に作業員の出入りができるスペースを設け、定期的に清掃する等の対策がとられているが、この場合、充填塔(装置)の高さが高くなり維持管理性が低下する等の課題がある。
【0009】
一方、特許文献2の構成の場合、多孔板や砂利層を用いないので、上記特許文献1における課題は解消できる。マンガン触媒のチャンバー室への落下は、ノズル本体の上方に備えられた、下端がノズル本体の上端よりも下方に延長された傘部を備えることで防ぐことができるとされている。しかし、例えば特許文献2の
図2の矢印で示されているように、原水の流れは、ノズル本体から上向きに噴出した後に傘部によって下方向に向けられ、さらにすり鉢状凹部によって再び上方に向けられ、マンガン触媒充填層へ流入するという複雑な流れなので、その流れに乱れが生じ易く、この乱れによって、流動するマンガン触媒が、すり鉢状凹部に入り込む恐れがあり、さらに、ノズル本体内(一次側)にも混入する恐れがあり、マンガン触媒のチャンバー室への落下防止に対して十分な構成ではなかった。加えて、すり鉢状凹部の底(ノズル本体を突出したその根元周囲の部分)は原水がほとんど流動しない領域なので、ここに溜まったマンガン触媒はそのまま滞留する。またノズル本体内に混入してチャンバー室内に入り込んだマンガン触媒は、チャンバー室の底に沈殿してそのまま滞留してしまう。これら滞留したマンガン触媒は、作業員などによって除去する必要があり、メンテナンスが煩雑になってしまう。
【0010】
さらに、特許文献2の分散装置では、チャンバー室とノズル本体と傘部とすり鉢状凹部とが必要で部品点数が多く、特に傘部の取り付けはその位置の設定が難しく、これらのことから構造が複雑で、設置も煩雑であるという問題もあった。
【0011】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡単な構成で、被処理水の均一な流れを得ることができ、またこの分散装置の下流側(上側)に充填した充填材が分散装置の一次側(上流側)へ逆流することを効果的に防止することができる分散装置及びこれを具備する上向流式反応装置とその運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明にかかる分散装置は、噴出口先端が下向きに開口し、その開口から被処理水を下向きに噴出させる分散ノズルと、前記分散ノズルから噴出された被処理水の流れを上向きに転換させる窪みを有する分散体と、を備え、前記分散ノズルの噴出口は下向きに拡開しており、前記分散体の窪みは上向きに拡開して
いて当該窪みの底部は円形平面状に形成されており、
前記分散ノズルの噴出口の先端は、前記窪みの上面よりも下方に位置し、且つ前記窪みの底部との間の間隔は1cm以上であり、前記分散ノズルから噴き出した際の被処理水の流速より、反転後に前記分散体の開口から噴き出す被処理水の流速を遅くするように、〔前記分散ノズル下端の開口直径L1〕:〔前記分散体上端の開口直径L2〕=〔1〕:〔1.4〜3.3〕の比の関係に設定したことを特徴としている。
本発明によれば、分散ノズルと分散体によって分散装置が構成されるので、分散装置(さらにはこの分散装置を設置する上向流式反応装置等の各種機器)の構造の簡素化、小型化を図ることができる。
また分散ノズルから下向きに噴出した被処理水を分散体の窪みによって上向きに転換するが、被処理水の流れ方向の転換は一度だけであって複雑な流れにはならない。このため、被処理水のスムーズで均一な流れを得ることができる。また上述のように、被処理水の流れはスムーズで乱れが生じ難く、且つ分散ノズルの噴出口は下向きに開口しているので、この分散装置の下流側(上側)に充填した充填材の分散装置側(一次側、即ち分散ノズル内)への逆流を効果的に防止することができる。
さらに、分散ノズルが接続される母管(第2の本管)を上向流式反応装置の外側で、槽内に充填される充填材の運転停止時の積層高さよりも高い位置まで立ち上げておけば(例えば
図1参照)、仮に分散ノズル内に充填材が逆流しても、逆流は立ち上がり配管内までとなり、前段の処理工程まで逆流することは無い。
立ち上がり配管内まで逆流した充填材は運転開始とともに、再度下流(反応器等)に戻ることができる。さらに上述のように、分散ノズルから噴出した被処理水は、分散体の窪みに向けて噴射されるので、この窪み内にその下流側の充填材が入り込んでも再び下流側に押し流されて、分散体の窪みでの充填材の滞留を抑制することができる。
【0013】
また分散ノズルの噴出口と分散体の窪みを何れも拡開させたので、分散ノズルから噴出した被処理水はスムーズに分散体内に均一に拡散し、さらに分散体で上向き流れとなった被処理水はその開口からスムーズに下流側に均一に拡散していく。これによって、分散ノズルの噴出口や分散体の窪みを拡開させない場合に比べ、分散装置からその下流側に流出させた被処理水に、より効果的に偏流を生じさせなくでき、より均一な流れとすることができる。ここで拡開とは、開口の内部から先端に向かって開口の内径を広くしていく構成をいうものとする。
【0014】
また本発明は、前記分散ノズルと分散体とを複数組設置し、前記各分散ノズルはそれぞれ
第1の本管に接続された枝管の先端に取り付けられており、各枝管には、前記複数の分散ノズルから噴出する被処理水の噴出量が均等となるように調整する絞り部を備えたことを特徴としている。
ここで絞り部は、オリフィスで構成しても良いし、細い配管で構成しても良い。
絞り部を設けたので、各分散ノズルから噴出する被処理水の流量を容易に均一にすることができる。また絞り部は枝管に設置するので、その設置や取り替え作業を容易に行うことができる。
【0015】
また本発明は、前記分散ノズルの先端が、前記分散体の窪みの上面よりも下方に位置するこ
とによって、分散ノズルの噴出口と分散体の底部間の距離を短くできるので、分散ノズルから噴出した流体が確実に分散体底部に到達することが可能となり、その後、分散体の側面に沿った流れを構成することを可能としている。また、拡開形状の分散ノズルによって、分散体の開口の中央部分を塞ぐことでその周囲のリング状の隙間の開口面積を小さく、噴出できる場所を狭めているので、整流効果をより生じさせることができる。これによって、被処理水を、より均一にスムーズに充填材に供給することができる。
分散ノズルの先端を、確実に分散体の窪み内に挿入させるには、前記分散ノズルの先端の長辺の長さを、前記分散体の窪み上面の開口の短辺の長さよりも短くすることが好ましい。
【0016】
また本発明にかかる上向流式反応装置は、充填材と、前記充填材を充填する反応器と、前記反応器内の前記充填材の下方に設置される前記分散装置と、を備えることを特徴としている。
これによって、上記各効果を発揮する分散装置を有する上向流式反応装置を構成することができる。
【0017】
また本発明は、前記分散ノズルを先端に取り付けた枝管が、
当該枝管を接続した第1の本管を介して第2の本管に集合され、この
第2の本管は運転停止時の前記充填材層の表面より上方に立ち上がっていることを特徴としている。
これによって、例え運転停止時に分散ノズル内に充填材が侵入したとしても、侵入した充填材が
第2の本管の立ち上げ部分よりも上流側に逆流することを防止することができる。
【0018】
また本発明にかかる上向流式反応装置の運転方法は、前記分散ノズルから噴出する被処理水が、一定の線速度での常用運転を行うと共に、前記常用運転の途中に、一定間隔毎に、前記常用運転時の線速度よりも早い線速度での高速運転を行うことを特徴としている。
定期的に高速運転を行うことで、流動しにくい一部の充填材(特に分散体の窪みの周囲の充填材)を流動させることが可能となり、特定の充填材のみが流動せずに固着することを防止することができる。
また本発明にかかる上向流式反応装置の運転方法は、充填材を充填する反応器と、噴出口先端が下向きに開口し、その開口から被処理水を下向きに噴出させる分散ノズルと、前記分散ノズルから噴出された被処理水の流れを上向きに転換させる窪みを有する分散体とを有し、前記反応器内の前記充填材の下方に設置される分散装置と、を備え、前記分散ノズルの噴出口は下向きに拡開しており、前記分散体の窪みは上向きに拡開して
いて当該窪みの底部は円形平面状に形成されており、
前記分散ノズルの噴出口の先端は、前記窪みの上面よりも下方に位置し、且つ前記窪みの底部との間の間隔は1cm以上であり、前記転換後の前記分散体の開口から噴き出す被処理水の流速は、前記分散ノズルから噴き出した際の被処理水の流速に比べて、1/1〜1/10となるように設定したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、簡単な構成で、被処理水の均一な流れを得ることができ、またこの分散装置の下流側(上側)に充填した充填材が分散装置の一次側(上流側)へ逆流することを効果的に防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態にかかる分散装置50を用いて構成された上向流式反応装置1の一例を示す要部概略側断面図、
図2は
図1のA−A断面矢視図(但し、充填材20とグリッド100の記載を省略)、
図3は
図1のB−B断面矢視図(但し、充填材20の記載を省略)である。これらの図に示す上向流式反応装置1は、マンガン含有水の処理に用いる装置であり、触媒接触塔(反応器)10内の下部に、原水(被処理水)を分散供給する分散装置50を設置し、この分散装置50が埋没するようにその上部に充填材20を充填して構成されている。この上向流式反応装置1は、浄水場などに設置される。この上向流式反応装置1は、充填材20と分散装置50の間に、充填材20を支持する砂利等の充填材支持層を保有しない構造である。
【0022】
触媒接触塔10は四角筒状であって、その上部に処理水を排出する排水路11を設置している。排水路11は、触媒接触塔10からオーバーフロー(越流)する処理水を導入し、導入した処理水を次の処理工程(例えば膜ろ過による除濁工程)に移送する。
【0023】
充填材20には、浄水場のろ過池で一般的に採用されるマンガン触媒(マンガン砂:有効径0.45〜0.6mm)を用いている。マンガン触媒は、原水中に含まれるマンガンイオンを不溶性マンガンとして析出させ、原水中から除去する作用を有する。
【0024】
分散装置50は、対となる分散ノズル51と分散体(以下「分散ブロック」という)81を、複数組(9組)併設して構成されている。即ち、各組の分散ノズル51と分散ブロック81は、縦横水平方向に3組ずつ等間隔に設置されている。分散装置50は、分散ノズル51と分散ブロック81によって構成されるので、分散装置50(さらにはこの分散装置50を設置する上向流式反応装置1)の構造の簡素化を図ることができる。
【0025】
図4は一組の分散ノズル51と分散ブロック81近傍部分を示す要部断面拡大図である。同図に示すように、分散ノズル51は円錐筒形状(傘形状)であって、その噴出口53の先端(下端)は、垂直下向きに開口している。即ち、噴出口53は下向きに拡開するように、円錐状に広がる形状となっている。ここで分散ノズル51の噴出口53の先端部分の直径L1は、大きすぎると分散ノズル51から噴出する原水の流速が低下しすぎて充填材20が流動し難くなる。一方、上記直径L1が小さすぎると分散ノズル51から噴出する流速が上昇し過ぎ、且つ原水の多くが分散ノズル51から真下方向に噴出されるために分散ノズル51、1つあたりが充填材20を流動させることができるエリア(受持面積)が小さくなって、分散ノズル51の設置個数を多くしなければならなくなる。以上のことから、噴出口53の直径L1と傾斜角θ1は、これらを勘案して、最適な寸法に設定する必要がある。具体的に、前記傾斜角θ1は、好ましくは10°以上80°以下、より好ましくは20°以上70°以下、さらに好ましくは30°以上60°以下である。
【0026】
また分散ノズル51の上端は、枝管59に接続されている。枝管59内には、各々の枝管59の流量を均一にするための絞り部(以下「オリフィス」という)55が取り付けられている。ここで各枝管59に取り付けるオリフィス55の直径は、小さいほど分散ノズル51から噴出する原水の流量を均一にできるが、圧力損失が高くなるため、例えばポンプで加圧して分散ノズル51に通水する場合にはエネルギー効率が低下する。以上のことからオリフィス55の直径は、これらを勘案して、最適な寸法に設定する必要がある。
【0027】
分散ブロック81は、分散ノズル51から噴出された原水の流れを反転、整流させるため、分散ノズル51、1つに対して1つ設けられ、分散ノズル51の中心(中心軸)と分散ブロック81の中心(中心軸)が一致するように配置されている。分散ブロック81は、その上面の前記分散ノズル51の噴出口53に対向する位置に窪み83を設けて構成されている。窪み83は円形のすり鉢状、即ち円錐台形状に形成され、中央に円形平面状の底部85を有し、底部85の周囲に円錐形状の側壁部87を設け、これによって分散ブロック81の窪み83を上向きに拡開する形状に形成されている。言い換えれば、分散ブロック81の窪み83の底部85の面積が、窪み83上部の開口面積より小さく、底部85周辺部をつなぐ側壁部87の傾斜が傾斜角90度以上(θ2>90°)となるように形成されている。具体的に、前記傾斜角θ2は、好ましくは90°以上170°以下、より好ましくは100°以上160°以下、さらに好ましくは110°以上150°以下である。
【0028】
分散ノズル51の噴出口53の先端部分の長さ(直径)L1は、分散ブロック81の窪み83の上面部分の長さ(直径)L2よりも短く形成されている。そして分散ノズル51の先端部分(下端部分)を、分散ブロック81の窪み83の上面(上端部分)よりも下方に位置するように、窪み83内に挿入している。分散ノズル51の噴出口53の先端と、窪み83の底部85間の間隔は、1cm以上であることが好ましい。
【0029】
ここで、分散ノズル51から噴き出した際の原水の流速より、反転後に分散ブロック81の開口から噴き出す原水の流速を遅くする方が、より効果的な整流効果を得るためには有効である。しかしあまり分散ブロック81の開口を広くし過ぎる(=流速を遅くし過ぎる)と、逆に整流効果を望めなくなる(通過可能な場所が広くなりすぎて、逆に偏流する)。これらのことから、分散ブロック81の開口からの流速は、分散ノズル51からの流速に比べて、1/1〜1/10とするのが好ましい。その計算方法の一例として、例えば、分散ノズル51の下端と、分散ブロック81の上端とを同一高さとした場合は、分散ノズル51から噴き出した原水の流速と、分散ブロック81と分散ノズル51の間の隙間S1を通過する際の流速との比が、1/1〜1/10となるようにするため、面積比の関係から、
〔分散ノズル51下端の開口直径L1〕:〔分散ブロック81上端の開口直径L2〕
=1:1.4〜3.3
とすればよい。
【0030】
一方、分散ノズル51を接続した各枝管59は、それらの上方において第1の本管61に接続されている。第1の本管61は、
図2に示すように、3本で構成され、各第1の本管61は同一水平面上に平行に配置され、それぞれ3つずつ分散ノズル51の枝管59を接続している。各第1の本管61の一端は、触媒接触塔10の外部に引き出され、上向きに屈曲され、それぞれに開閉バルブ63を接続し、さらに各開閉バルブ63の上流側において1本の第2の本管65に接続されている。第2の本管65の前記3本の第1の本管61を接続する部分は水平に設置され、その上流側部分を屈曲することで上方向に向け、これによって第2の本管65を、前記充填材20の層表面(運転停止時に到達する充填材20の表面高さ)より上方まで立ち上げている。この例の場合、さらに各開閉バルブ63も前記充填材20の層表面より上方に位置している。またこの例では、第2の本管65のさらに上流側は、少なくともその水面が触媒接触塔10の水面(オーバーフロー面)より高い位置となっている図示しない原水貯水槽に接続され、自然流下によって触媒接触塔10に原水を導入する構成となっている(もちろん、途中にポンプを設置することで触媒接触塔10に原水を強制的に導入しても良い)。なお、第1の本管61から分岐する枝管59の本数は、分散ノズル51の圧力損失に応じて任意で良いが、分散性や圧力損失を考慮すると最大5ないし6本程度が好ましい。
【0031】
図11(a),(b),(c)はそれぞれ分散板(整流板)100(100A,100B,100C)を示す一部拡大平面図である。同図に示すように、分散板100Aは、例えば鋼板からなる板の内部に多数の穴101Aを形成して構成されており、また分散板100Bは鋼板を網状に組むことで格子状の穴101Bを形成して構成されており、また分散板100Cは鋼板を等間隔の平行線状に組むことで細長い格子状の穴101Cを形成して構成されている。充填材20中にこれらの分散板100A,100B,100Cを設置すれば、さらに整流効果(流体の均一分散効果)を高めることができる。即ち、分散板100A,100B,100Cの多数の穴101A,101B,101Cを通過させることで、更なる整流効果が望める。鋼材で構成した分散板100A,100B,100Cの場合、穴101A,101B,101Cの寸法は10mm〜300mmが好ましく、20mm〜200mmが更に好ましく、50mm〜150mmが更に好ましい。分散板100B,100Cを鋼材で構成する場合は、分散板100B,100Cに高さ方向の厚みを持たせた方が、より整流効果を発揮するため、分散板の高さは、10mm〜500mmが好ましく、20mm〜300mmがより好ましく、50mm〜150mmがさらに好ましい。
【0032】
以上のように構成された上向流式反応装置1において、全ての開閉バルブ63を開くと、図示しない原水貯水槽から第2の本管65と各第1の本管61を通して、各枝管59に原水が供給され、それらに接続した各分散ノズル51の噴出口53から原水が下向きに噴出される。各分散ノズル51からの原水の噴出量は、前述のようにオリフィス55の作用により、より均一になっている。このとき噴出口53は拡開されているので、原水は広がりながら噴出され、分散ブロック81の窪み83内に導入される。
【0033】
窪み83内に導入された原水は、窪み83の内面形状に沿うようにその進行方向を変えて上向きに転換され、窪み83の側壁部87と分散ノズル51の先端辺の間のリング状の隙間S1を通って、斜め上向きに触媒接触塔10の充填材20内に供給される。即ち、分散ノズル51から下向きに噴出した原水は分散ブロック81の窪み83によって上向きに転換されるが、原水の流れ方向の転換は一度だけであって複雑な流れにはならない。このため、原水のスムーズで均一な流れを得ることができる。これによって、原水を均一にスムーズに充填材20に供給することができる。このとき本実施形態のように、分散板100が設置されていれば、さらに整流効果を高めることができる。そして、原水中のマンガンイオンは、充填材20の触媒作用によって、不溶性マンガンとして析出され、原水中から除去される。マンガンイオンが除去された処理水は、排水路11から排出され、次の処理工程に移送される。
【0034】
またこの実施形態においては、上述のように、分散ノズル51の先端が、分散ブロック81の窪み83の上面よりも下方に位置しているので、分散ノズル51の噴出口53と分散ブロック81の底部85間の距離を短くでき、このため、分散ノズル51から噴出した流体が確実に分散ブロック81の底部85に到達することが可能となり、その後、分散ブロック81の側壁部87に沿った流れを構成することを可能としている。また、傘形状の分散ノズル51によって、分散ブロック81の開口の中央部分を塞ぐことでそのリング状の隙間S1の開口面積を小さくして噴出できる場所を狭めているので、整流効果をより生じさせることができる。これによって、原水をより均一にスムーズに充填材20に供給することができる。
【0035】
さらにこの実施形態においては、上述のように、分散ノズル51の噴出口53と、分散ブロック81の窪み83とを何れも拡開しているので、両者の組み合わせによって、分散ノズル51から噴出した原水をスムーズに分散ブロック81内に均一に拡散でき、さらに分散ブロック81でスムーズに上向きの流れへと転換でき、原水をその開口から下流側に均一に拡散させていくことができる。また、この実施形態においては、上述のように、底部85に対する側壁部87の傾斜角θ2を90度以上に形成しているので、傾斜角θ2を90度とした場合に比べてこの屈曲部分に充填材20が流動しないで滞留することを軽減できる。
【0036】
図5は、
図4に示す分散ノズル51と分散ブロック81を用いた上向流式反応装置1と、
図6に示す分散ノズル51−2と分散ブロック81−2を用いた上向流式反応装置1−2のそれぞれにおいて、分散性について行った飽和塩水によるトレーサ試験の結果を示す図である
。図6において、前記
図1〜
図4に示す実施形態と同一又は相当部分には同一符号を付す(但し、各符号に「−2」を付す)。なお以下で説明する事項以外の事項については、前記
図1〜
図4に示す実施形態と同じである。
図6に示す分散ノズル51−2及び分散ブロック81−2において、
図4に示す分散ノズル51及び分散ブロック81と相違する点は、分散ノズル51−2の噴出口53−2を拡開せず、直線状に形成している点のみである(
図4に示すθ1=0°)。
【0037】
この試験は、分散ノズル51,51−2から塩水を供給し始める実験開始時から、充填材20の表層から一定の高さで処理水の電気伝導度を測定することで、その高さにどの程度の時間で塩水が到達したかを測定する試験である。なお、測定したのは電気伝導度であるが、
図5では電気伝導度計から出力された電圧値で表示している。
【0038】
同図に示すように、分散装置50−2では、実験開始から経過時間50秒程度で塩水の到達が検出されている。一方、分散装置50では、実験開始から経過時間90秒程度で塩水の到達が検出されている。実験装置の滞留時間や実験条件から理論的に算出される予想到達時間が94秒であることから、分散装置50−2に比べて分散装置50は予想到達時間に近く、より均一な流れが形成されていることを確認できた。なお、分散装置50に比べれば偏流が生じていてその均一化の効果が劣る分散装置50−2においても、従来の分散装置に比べれば、偏流が少なく、均一化が向上していることは、上記各説明からも明らかである。そして上記実験結果から、分散ノズル51の噴出口53や分散ブロック81の窪み83を拡開させない場合に比べ、両者を拡開する相乗効果により、分散装置50からその下流側に流出させた原水を、より効果的に偏流のない、より均一な流れとすることができることがわかる。
【0039】
ところで上述のように、原水の流れはスムーズで乱れが生じ難く、且つ分散ノズル51の噴出口53は下向きに開口しているので、この分散装置50の下流側(上側)に充填した充填材20の分散装置50側(一次側、即ち分散ノズル51内)への逆流を効果的に防止することができる。また上述のように、分散ノズル51から噴出した原水は、分散ブロック81の窪み83に向けて噴射されるので、この窪み83内にその下流側の充填材20が入り込んでも再び下流側に押し流されて、分散ブロック81の窪み83での充填材20の滞留を抑制することができる。さらに例え分散ノズル51内に充填材20が浸入したとしても(流体の移動が安定しない原水噴出停止時に浸入する恐れがある)、第2の本管65を運転停止時の充填材20の層表面より上方まで立ち上げているので、浸入した充填材20が第2の本管65の立ち上げ部分よりも上流側に逆流することはない。なお、この例の場合、開閉バルブ63も運転停止時の充填材20の層表面より上方まで立ち上げているので、これら開閉バルブ63にも充填材20が浸入することはなく、開閉バルブ63が詰まることを防止できる。
【0040】
ところで、上記上向流式反応装置1は、上述のように、充填材(マンガン触媒)20を支持する砂利層(支持層)を省略した反応器であり、原水の充填材20への均等な分配は分散装置50に依っている。各分散ノズル51と分散ブロック81の組は、原水の均等分散を目標としつつ、且つ、最小のコストで達成するために、最適な間隔で配置される。しかし、均等分配を目標としつつも、一部流動しない充填材20が発生してしまうことがある。
図7は、一部流動しない充填材20が発生してしまう状態を示す要部断面拡大図(
図3に示す四角形状の1つの分散ブロック81を対角線で斜めに切断した断面図)である。同図に示すように、分散ブロック81の窪み83の周囲を囲む面89上は、比較的原水が流れにくいことがあるので、この部分に流動しない充填材20が発生してしまう場合がある。それでも洗浄工程を有する場合は、洗浄時に流動しなかった充填材20も流動させて、入れ替えを行うことができるが、洗浄工程を有さない場合は、流動しない充填材20は常に流動せず、固着していく恐れがある。
【0041】
そこで、この実施形態では、上向流式反応装置1の運転方法として、分散ノズル51から噴出する原水を、一定の線速度で常用運転すると共に、前記常用運転の途中に、一定間隔毎に、前記常用運転時の線速度よりも早い線速度で高速運転することとしている。即ち、分散ノズル51から噴出する原水を、一定の線速度で常用運転すると、
図7に示すように、面89上に流動しない充填材20が滞留してしまう場合があるが、定期的に上記線速度を上げることにより、
図8に示すように、流動していなかった充填材20を流動させることが可能となり、特定の充填材20のみが流動せずに固着することを防ぐことが可能となる。
【0042】
図9は、線速度と充填材20の流動状態の関係を示す図である。同図に示すように、例えば常用線速度500(m/日)で運転している場合は、一定期間毎(例えば、常用運転6時間毎)に、1000〜2000(m/日)で所定時間(例えば、高速運転5分間)運転することが好ましく、また例えば常用線速度1000(m/日)で運転している場合は、一定期間毎に、1500〜2000(m/日)で運転することが好ましい。上記に示す一定期間と高速運転時間は一例であり、最適値は状況によって異なる。
【0043】
図10は、本発明の
参考例にかかる一組の分散ノズル51−3と分散ブロック81−3近傍部分を示す要部断面拡大図である。同図において、前記
図1〜
図4、
図6〜
図9に示す実施形態と同一又は相当部分には同一符号を付す(但し、各符号に「−3」を付す)。なお以下で説明する事項以外の事項については、前記
図1〜
図9に示す実施形態と同じである。同図に示す実施形態において、前記
図4に示す実施形態と相違する点は、分散ブロック81−3の底部85−3の中央に、上方向に向かって突出する分散凸部(以下「分散棒」という)91を設けた点のみである。この実施形態では、分散棒91は円柱状であり、その先端は分散ノズル51−3の噴出口53−3の中心位置でその内部に入り込んでいる(但し、入り込んでいるのは分散ノズル51−3の拡開している部分内のみであり、その上の直管部分には至らない)。
【0044】
この実施形態のように分散棒91を設置すれば、分散ノズル51−3の噴出口53−3から噴出される原水は、拡開した噴出口53−3の形状に沿って拡大し易くなり、本発明に用いて好適となる。なお、分散凸部は棒形状のものに限らず、円錐形状等、他の各種形状であっても良い。
【0045】
なお、上記実施形態では、分散ブロック81の窪み83を円錐台形状に形成したが、その代りに、底部85を下方向に突出する緩やかなR形状としても良い。また窪み83を円錐形状(即ち横断面V字形状)に形成しても良い。また窪み83は、平面視で四角形状等の多角形状であっても良い。即ち、窪み83は、要は、分散ノズル51から噴出された原水の流れを上向きに転換させる形状であればよい。
【0046】
さらに、分散ノズル51や窪み83の形状は、平面視で楕円形状やその他の各種形状であっても良い。そのような各種形状であっても、分散ノズル51の先端の長辺(最も長い辺)の長さを、窪み83上面の開口の短辺(最も短い辺)の長さよりも短く形成すれば、分散ノズル51の先端を、確実に窪み83内に挿入することができる。
【0047】
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。なお直接明細書及び図面に記載がない何れの形状や構造であっても、本願発明の作用・効果を奏する以上、本願発明の技術的思想の範囲内である。例えば、上記例では、充填材としてマンガン触媒を用いたが、粒状活性炭(有効径0.4〜2.4mm)等、他の各種充填材を用いても良い。また絞り部は、オリフィスで構成する以外にも、例えば細い配管等で構成しても良い。
【0048】
また上記例では、分散装置として、分散ノズルの噴出口と分散ブロックの窪みの開口とが何れも拡開したものと、分散ブロックの窪みの開口のみが拡開したものの2種類を示したが、本発明は、分散ノズルのみが拡開したものや、何れも拡開していないもの等も含む。即ち、要は、噴出口先端が下向きに開口し、その開口から被処理水を下向きに噴出させる分散ノズルと、分散ノズルから噴出された被処理水の流れを上向きに転換させる窪みを有する分散体とを具備する分散装置であれば、どのような構成のものであってもよい。
【0049】
さらに上記例では、分散ノズルから噴出された被処理水を上向きに転換して分散する分散体として分散ブロックを用いたが、例えば平板を屈曲変形させて窪みを設けた板状の分散板等、他の各種構造の分散体であっても良い。要は分散ノズルから噴出された被処理水の流れを上向きに転換する窪みを有する分散体であれば、どのような構成、形状、材質であっても良い。