(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1に記載の既存柱の補強構造において、前記コンクリートパネルは、短繊維により補強したコンクリートまたはレジンコンクリートからなることを特徴とする、既存柱の補強構造。
請求項1または請求項2に記載の既存柱の補強構造において、前記充填材は、モルタル、コンクリート、短繊維により補強したモルタルまたは短繊維により補強したコンクリートであることを特徴とする、既存柱の補強構造。
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の既存柱の補強構造において、平板状の補強鋼材を、積層する前記コンクリートパネルの内面に前記接続鋼材と平行に取り付け、前記コンクリートパネル、前記組立鋼材および前記接続鋼材を前記固定具により固定し、前記補強鋼材により前記柱を平面視矩形に包囲することを特徴とする、既存柱の補強構造。
【背景技術】
【0002】
1995年1月の兵庫県南部地震によって、鉄筋コンクリート構造の柱に多くの損傷が見られて以後、既設柱において、耐震性能を向上させる補強が多く行われている。
このような既設柱の補強工法としては、以下のような工法がある。
<1>既設柱の周りに鋼板を配置し、既設柱と鋼板との間にモルタルや砂を充填する、鋼板巻立て工法
<2>既設柱を表面処理した後、既設柱の周りに鉄筋を配置し、型枠を建て込んでコンクリートを打設する、コンクリート巻立て工法
<3>既設柱にエポキシ樹脂等で連続繊維シートを巻きたてる、繊維巻立て工法
<4>既設柱の周りに帯鉄筋を配置し、吹付けモルタルを施工する、モルタル吹付け工法
<5>プレキャスト型枠を設置し、既設柱とプレキャスト型枠との間にモルタルを充填する、プレキャスト型枠を用いた補強工法
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記した従来の補強工法にあっては、次のような問題点がある。
<1>鋼板巻立て工法は、鋼板の設置に揚重機が必要であり、また、鋼板の接合に溶接が必要である。
<2>コンクリート巻立て工法は、鉄筋の組み立てや型枠の建て込みに重機が必要である。また、かぶりを確保するために、補強構造の断面増厚量が大きくなる。また、コンクリートが現場打設のため、乾燥収縮等により構造の表面にひび割れが発生するおそれがある。
<3>繊維巻立て工法は、連続繊維シートを複数層、既存柱に巻きたてるため、熟練工が必要であり、また、施工手間が増える。
<4>モルタル吹付け工法は、モルタル吹付けの為に面積20m
2程度のプラントが必要となる。また、モルタルが現場打設のため、乾燥収縮等により構造の表面にひび割れが発生するおそれがある。
<5>プレキャスト型枠を用いた補強工法は、モルタル充填時にプレキャスト型枠を支保工により支持する必要がある。
<6>プレキャスト型枠は略コ字状に形成されているため、使用できる既存柱の寸法が限定される。
<7>鋼板巻立て工法およびプレキャスト型枠を用いた補強工法は、鋼板やプレキャスト型枠が単品生産となるため、製作に時間がかかる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためになされた本願の第1発明は、既存の柱の表面と所定の間隔を設けて位置し、前記柱を平面視矩形に包囲する4枚のコンクリートパネルと、前記柱の各角に対応して配置し、隣接する2枚の前記コンクリートパネルを連結する、断面L字状の組立鋼材と、前記コンクリートパネルで包囲した空間に充填する充填材と、からなり、前記コンクリートパネルは、前記柱に沿って高さ方向に積層しており、上下に位置する前記コンクリートパネルを連結する、平板状の接続鋼材を有し、前記コンクリートパネル、前記組立鋼材および前記接続鋼材は、ボルト状の固定具により連結する、既存柱の補強構造を提供する。
本願の第2発明は、第1発明の既存柱の補強構造において、前記コンクリートパネルは、短繊維により補強したコンクリートまたはレジンコンクリートからなることを特徴とする、既存柱の補強構造を提供する。
本願の第3発明は、第1発明または第2発明の既存柱の補強構造において、前記充填材は、モルタル、コンクリート、短繊維により補強したモルタルまたは短繊維により補強したコンクリートであることを特徴とする、既存柱の補強構造を提供する。
本願の第4発明は、第1発明乃至第3発明の何れかの既存柱の補強構造において、平板状の補強鋼材を、積層する前記コンクリートパネルの内面に前記接続鋼材と平行に取り付け、前記コンクリートパネル、前記組立鋼材および前記接続鋼材を前記固定具により固定し、前記補強鋼材により前記柱を平面視矩形に包囲することを特徴とする、既存柱の補強構造を提供する。
本願の第5発明は、第1発明乃至第3発明の何れかの既存柱の補強構造を構築する、既存柱の補強工法であって、4枚の前記コンクリートパネルのうち、2辺分のコンクリートパネルに組立鋼材を前記固定具により接合し、前記組立鋼材を接合した2枚の前記コンクリートパネルを、対面する2辺に設置し、残り2辺の前記コンクリートパネルを、前記組立鋼材に前記固定具により接合して、4枚の前記コンクリートパネルにより既存柱を包囲し、前記コンクリートパネルの上辺に、前記接続鋼材を前記固定具により接合し、前記コンクリートパネルの上段にさらに前記コンクリートパネルを積層し、上段の前記コンクリートパネルを前記固定具によって前記接続鋼材および前記組立鋼材に接合し、前記接続鋼材の接合工程および前記コンクリートパネルの積層工程を繰り返すことによって、既存柱を所定の高さまで前記コンクリートパネルによって包囲し、前記コンクリートパネルと前記柱との間の空間に、前記充填材を充填することを特徴とする、既存柱の補強工法を提供する。
本願の第6発明は、第4発明の既存柱の補強構造を構築する、既存柱の補強工法であって、4枚の前記コンクリートパネルのうち、2辺分のコンクリートパネルに組立鋼材を前記固定具により接合し、前記組立鋼材を接合した2枚の前記コンクリートパネルを、対面する2辺に設置し、残り2辺の前記コンクリートパネルを、前記組立鋼材に前記固定具により接合して、4枚の前記コンクリートパネルにより既存柱を包囲し、前記コンクリートパネルの上辺に、前記接続鋼材を前記固定具により接合し、前記コンクリートパネルの上段にさらに前記コンクリートパネルを積層し、上段の前記コンクリートパネルを前記固定具によって前記接続鋼材および前記組立鋼材に接合し、前記接続鋼材の接合工程および前記コンクリートパネルの積層工程を繰り返すことによって、既存柱を所定の高さまで前記コンクリートパネルによって包囲し、前記コンクリートパネルと前記柱との間の空間に、前記充填材を充填して構築するものであり、前記補強鋼材は、既存柱を包囲する前の4枚の前記コンクリートパネルにあらかじめ取り付けておき、4枚の前記コンクリートパネルにより既存柱を包囲した後に、前記固定具により前記組立鋼材と接合することにより構築する、既存柱の補強工法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、上記した課題を解決するための手段により、次のような効果の少なくとも一つを得ることができる。
<1>表面にコンクリートパネルを配置する構造であるため、構造表面にひび割れが発生せず、品質が安定する。
<2>高強度高靱性コンクリートパネルを使用することで、耐久性が向上する。
<3>溶接作業を必要とせず、既設柱の周囲にコンクリートパネルを配置するものであるため、熟練工が不要である。
<4>コンクリートパネルは平板状であるため、任意の寸法の既存柱に適用することができる。
<5>コンクリートパネルは平板状であり、軽量化することにより、人力施工が可能となる。
<6>人力施工により、狭隘部での施工が可能である。
<7>パネルのコンクリートを現場打設するものではないため、施工の省人化、省力化が図れる。
<8>コンクリートパネルを組立鋼材や接続鋼材と組み合わせて柱を閉合することで、支保工が省略できる。
<9>高強度高靱性コンクリートパネルを使用するため、内部に補強鉄筋を配置する必要がなく、工期が短縮される。
<10>揚重機を使用しないため施工時のCO
2が削減され、施工時の騒音、振動が低減される。
<11>補強用の補強鋼材を追加で配置することにより、補強構造における補強の程度を変化させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0009】
<1>補強構造。
本発明の既設柱の補強構造は、既存の柱Aの表面と所定の間隔を設けて配置して柱Aを平面視矩形に包囲する4枚のコンクリートパネル1と、柱Aの角に対応して配置し、隣接する2枚のコンクリートパネル1を連結する組立鋼材2と、からなる。
コンクリートパネル1は柱Aに沿って高さ方向に積層し、上下のコンクリートパネル1は、接続鋼材3を介して連結する。また、組立鋼材2も積層して構成しても良い。このとき、上下の組立鋼材2はボルト等の連結材によって連結する。
そして、柱Aとコンクリートパネル1との間には、充填材4を充填する。
コンクリートパネル1、組立鋼材2および接続鋼材3は、固定具5によって連結する。
【0010】
<2>コンクリートパネル。
本発明のコンクリートパネル1は、矩形の平板(幅:補強後の既設柱の概略寸法、高さ:500mm、厚さ:10〜50mm)であり、工場で生産された高強度高靱性のプレキャストコンクリートパネルである。(
図2)
高強度高靱性コンクリートパネルは、セメント系材料を短繊維(鋼繊維または合成繊維)により補強したコンクリートまたはレジンコンクリートである。これにより、コンクリートパネル1を軽量化することができる。
コンクリートパネル1は、既設の柱Aの耐震補強のために、4枚を平面視矩形状に連結して柱Aを包囲し、補強構造の表面を形成する(
図3)。補強構造の表面が工場生産されたコンクリートパネル1であるため、コンクリートやモルタルを現場で打設した際のように乾燥収縮等により構造表面にひび割れが発生することがなく、品質が向上する。
コンクリートパネル1は、上辺および下辺に沿って、それぞれ所定の幅の凹部11を設ける。
コンクリートパネル1には、組立鋼材2および接続鋼材3に連結するための固定具5を挿通する挿通孔12を設ける。
高強度高靱性のコンクリートパネル1によって補強するため、耐久性が向上する。
また、コンクリートパネル1内部に補強鉄筋を配置する必要がないため、短工期での構築が可能である。
【0011】
<3>組立鋼材。
組立鋼材2は断面L字状の鋼材であり、山形鋼(幅:120mm、高さ:120mm、厚さ:9mm)を使用することができる。
組立鋼材2は、柱Aの角に対応し、L字の両辺が柱Aの二辺に沿うように配置する。
組立鋼材2はコンクリートパネル1の裏面に接する(
図4)。また、コンクリートパネル1の凹部11においては、接続鋼材3と接する。
組立鋼材2には、固定具5を挿通する挿通孔21を設ける。
組立鋼材2は、補強する既設柱の寸法、高さによって適宜変更する。
【0012】
<4>接続鋼材。
接続鋼材3は矩形の平板状(高さ:200mm、厚さ:9mm)の鋼材である。
接続鋼材3は、積層するコンクリートパネル1のうち、下層のコンクリートパネルの上辺および上層のコンクリートパネルの下辺にそれぞれ設けた凹部11内に亘って配置する。
接続鋼材3には、固定具5を挿通する挿通孔31を設ける。
接続鋼材3は、補強する既設柱の寸法によって、高さを適宜変更する。
【0013】
<5>固定具。
コンクリートパネル1、組立鋼材2および接続鋼材3は、固定具5によって連結する。
固定具5は皿ボルト、丸ボルトまたは六角ボルトとする。
固定具5はコンクリートパネル1および組立鋼材2の高さ方向にわたって複数箇所設ける。
固定具5は、コンクリートパネル1の高さ方向の中央部においては、コンクリートパネル1および組立鋼材2を貫通して連結する。また、コンクリートパネル1の凹部11においては、コンクリートパネル1、接続鋼材3および組立鋼材2を貫通する(
図5)。
固定具5は、構築する補強構造の厚さと略同一の長さとすることが好ましい。このとき、固定具5の先端は柱Aに当接する。
【0014】
<6>充填材。
柱Aとコンクリートパネル1との間に充填する充填材4は、モルタルまたはコンクリートである。このモルタルまたはコンクリートのセメント系材料に短繊維を加えて補強したモルタルまたはコンクリートとすることもできる。
充填材4は、コンクリートパネル1と一体となって柱Aを包囲して補強する。
【0015】
<7>補強工法。
次に、本発明の補強工法について説明する。
【0016】
<7−1>下準備。
柱Aをハイウオッシャー等によって水洗いする。また、柱Aの周囲に補強構造を組み上げていくため、既設基礎天端を水平に仕上げる。
【0017】
<7−2>コンクリートパネルと組立鋼材の組み立て。
構築する補強構造のうち、2辺分のコンクリートパネル1に組立鋼材2を固定具5により接合する。
コンクリートパネル1は平板状で薄いコンクリート製であるため、軽量であり、現場への搬入作業および組み立てにおいて、人力施工が可能である。
固定具5の長さが構築する補強構造の厚さと略同一の場合には、固定具5の頭部がコンクリートパネル1の表面とほぼ同一の表面になるまで螺合し、固定具5は組立鋼材2から突設する。
そして、組み立てたコンクリートパネル1および組立鋼材2を対面する2辺に設置する(
図6)。固定具5の長さが構築する補強構造の厚さと略同一の場合には、組立鋼材2から突設する固定具5の端部を柱Aに当接することにより、コンクリートパネル1および組立鋼材2の柱A方向の位置決めが容易である。
このとき、支持材6により、既設基礎との間に30mm〜50mm程度の空きを設ける。
支持材6は瀝青繊維質、瀝青質、発泡ゴム、発泡樹脂やウレタン等、コンクリートパネル1より柔らかくかつ重量を支持できる素材からなり、補強構造を構築した後にこの支持材6によって補強構造の下端を支持することにより、柱Aが変形した際に追従して支持材6が変形し、補強構造が損傷するのを防止する。支持材6は、充填材4が漏れ出さないように、コンクリートパネル1の下端から柱Aの表面まで敷き詰める。
その後、残り2辺のコンクリートパネル1を組立鋼材2に固定具5により接合する。固定具5はコンクリートパネル1の高さ方向中央と下端付近に設ける。固定具5の長さが構築する補強構造の厚さと略同一の場合には、残り2辺のうちの1辺を接合する際に、固定具5の端部を柱Aに当接することにより、3枚のコンクリートパネル1および4本の組立鋼材2の位置決めができる。
この工程によって、柱Aは4枚のコンクリートパネル1によって包囲される。4枚のコンクリートパネル1は組立鋼材2と接合しているため、あと施工アンカーを打設する必要がない。
【0018】
<7−3>接続鋼材の接合。
4枚のコンクリートパネル1の上辺の凹部11に接続鋼材3を挿入する。
そして、固定具5によって、コンクリートパネル1、接続鋼材3および組立鋼材2を接合する(
図7)。
【0019】
<7−4>上段のコンクリートパネルの接合。
次に上段のコンクリートパネル1の下辺の凹部11を、既に下段のコンクリートパネル1に接合した接続鋼材3に合わせる。
そして、上段のコンクリートパネル1を固定具5によって接続鋼材3および組立鋼材2に接合する。
以後、上述の工程を繰り返して、所定の高さまで、柱Aをコンクリートパネル1によって包囲する。
【0020】
<7−5>充填材の充填。
コンクリートパネル1と柱Aとの間に充填材4を充填する。充填材4はプレミックスとし、現場にて加水、練混ぜを行い、モルタルポンプ等により充填する。
このとき、コンクリートパネル1で包囲された断面正方形の四隅にはL字の組立鋼材2が位置し、また、高さ方向のコンクリートパネル1の接合部には接続鋼材3が位置する。これにより、充填材4が隙間から漏れ出すことがない。
コンクリートパネル1は、組立鋼材2および接続鋼材3に固定具5によって連結した状態で閉合して柱Aを包囲している。このため、充填材4の充填時に支保工を構築する必要がない。
【0021】
本発明の補強工法は、柱Aを包囲する全ての部材を固定具5によって接合するものであり、溶接作業が不要であり、熟練工でなくても容易に組み立てることができるため施工の省人化、省力化が図れる。
また、全ての部材が軽量であるため、人力施工が可能であり、狭隘な場所に位置する柱Aの補強も容易に行うことができる。揚重機を使用しないため、施工時のCO
2が削減され、施工時の騒音、振動が低減される。
【0023】
<1>補強鋼材。
本発明の補強構造は、縦方向に間隔を設けて配置される接続鋼材3と平行に、補強鋼材7を追加配置してもよい。(
図8)
補強鋼材7は、接続鋼材3と同様、矩形の平板状の鋼材であり、上側の接続鋼材3の下端と下側の接続鋼材3の上端(最下段のコンクリートパネル1であって下側の接続鋼材3がない場合にはコンクリートパネル1の下端)の距離を超えない幅とする。
補強鋼材7は、あらかじめコンクリートパネル1の裏面を切り欠いて設けた補強鋼材用凹部13に嵌合して取り付けておき、コンクリートパネル1、補強鋼材7および組立鋼材2を貫通する固定具5により固定し、平面視矩形に柱Aを包囲する(
図9)。
補強鋼材7の配置位置および配置間隔を調整することにより、補強構造における補強の程度を変化させることができる。
【0024】
<2>端部補強鋼材。
また、補強鋼材7と同様に、最下段のコンクリートパネル1の下端に沿って、かつコンクリートパネル1の内側に接合鋼材3と平行に、端部補強鋼材8を配置しても良い。
端部補強鋼材8は、接続鋼材3と同様、矩形の平板状の鋼材であり、補強鋼材7と重ならないように別々に設ける。または、補強鋼材7と端部補強鋼材8を一体として設けても良い。
端部補強鋼材8はコンクリートパネル1の下辺の凹部11に嵌合し、固定具5によって、コンクリートパネル1、端部補強鋼材3および組立鋼材2を接合する。
【0025】
<3>柱の形状。
上述した実施例は、断面正方形状の柱Aの補強であったが、対向するコンクリートパネル1の幅を変更するだけで、任意の寸法の柱Aの補強を行うことができる。