特許第6553448号(P6553448)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6553448
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】ドラム式洗濯機
(51)【国際特許分類】
   D06F 33/02 20060101AFI20190722BHJP
   D06F 39/08 20060101ALI20190722BHJP
   D06F 37/26 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   D06F33/02 J
   D06F39/08 301B
   D06F37/26
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-161536(P2015-161536)
(22)【出願日】2015年8月19日
(65)【公開番号】特開2017-38750(P2017-38750A)
(43)【公開日】2017年2月23日
【審査請求日】2018年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(72)【発明者】
【氏名】上甲 康之
(72)【発明者】
【氏名】会田 修司
(72)【発明者】
【氏名】菅原 道太
(72)【発明者】
【氏名】上野 真司
【審査官】 村山 睦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−215796(JP,A)
【文献】 特開2010−273713(JP,A)
【文献】 特開2006−136730(JP,A)
【文献】 米国特許第05987935(US,A)
【文献】 特開2010−264307(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0182685(US,A1)
【文献】 特開2009−82491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06F 33/02
D06F 37/26
D06F 39/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を溜める外槽と、該外槽内に回転可能に設けた洗濯兼脱水槽であるドラムと、該ドラムを回転駆動するモータと、外郭を構成する筐体と、前記モータを制御する制御装置と、前記外槽の振動を検出するための振動検出手段と、前記外槽を防振支持する複数のサスペンションと、を備えた洗濯機において、
前記サスペンションは、前記ドラムの回転軸に対して減衰力が左右で異なって配され、
脱水工程で、前記ドラムが目標回転数に向かって回転する際に、前記振動検出手段で検出した振動値が、予め決めた閾値以上ならば、前記回転の方向を変えるものであって、
脱水工程で、最初に実行する前記回転の方向は、前記ドラムの回転軸に対して前記サスペンションの減衰力の小さい方向とすることを特徴とするドラム式洗濯機。
【請求項2】
請求項1において、
前記外槽に給水するための給水ホースを備えており、給水ホースが前記外槽の外周面あるいは背面に略垂直に接続されることを特徴とするドラム式洗濯機。
【請求項3】
請求項1において、
前記外槽の下部に突出した水受け部と、前記水受け部と前記ドラムとの間に壁部を備えており、該壁部の略中央で前記ドラムの外周面と前記水受け部の内側底面とが対面することを特徴とするドラム式洗濯機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラム式洗濯機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
洗濯機は、筐体内に水を溜める外槽が防振支持され、その外槽内には洗濯兼脱水槽であるドラムがモータを介して回転自在に支持された機械である。脱水工程時には、ドラムを高速回転させることにより、そのドラム内に収容された洗濯物の脱水が行われる。このとき、ドラム内の洗濯物の片寄り(アンバランス)が発生すると、遠心力の不釣合いにより加振力が生じる。この加振力は、ドラムから外槽、さらには外槽から防振支持構造を介して筐体へと伝達し、振動や騒音をもたらす場合がある。そこで、この種のドラム式洗濯機は、アンバランスが過大と判断した場合に、一旦ドラムの回転を停止し、アンバランスを修正して、再度脱水を行うことで、振動や騒音が発生するのを防いでいる。
【0003】
従来技術として特許文献1には、「ドラム、水槽、モータ等からなる振動系の水槽ユニットの下側を、2本の支持ダンパー、及び2本の支持ダンパーよりも配設角度が倒れる方向に設けた防振ダンパーにて揺動自在に弾性支持した洗濯機筺体」を備え、「所定回数の脱水起動のやり直し動作を行い、脱水起動のやり直し動作がこの所定回数を超えた時に、回転ドラムを逆回転方向に回転させて、脱水起動のやり直しを行う構成としたことにより、特に少量衣類を脱水した時に、アンバランス異常によって脱水起動できなくなり、工程を途中で中止するということはなく、最後まで工程進行して終了することができる」と記載されている。
【0004】
また特許文献1には、「少量衣類で左回転の場合には、回転ドラムにより右上に一気に衣類が持ち上がり易いので、水槽ユニットが、正面から見て左下から右上の長手楕円形態に振動する傾向にあり、防振ダンパーが利きにくい。これに対して、少量衣類で右回転にすると、回転ドラムにより左上に一気に持ち上がり易く、水槽ユニットが、正面から見て右下から左上の長手楕円形態に振動する傾向に変わるので、防振ダンパーの減衰が利きやすくなり、起動しやすくなる」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−170684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1で開示された技術では、特に衣類が多い場合において、回転ドラムを標準の左回転とは逆方向に回転させても、衣類が回転ドラムにより左上に一気に持ち上がり難く、水槽ユニットの振動が右下から左上の長手楕円形態にならず、防振ダンパーの減衰が利きにくいことから、脱水のやり直し回数が低減できないという課題を有していた。
【0007】
また上記特許文献1は、脱水起動のやり直し動作が所定回数を超えて、ドラムを逆方向に回転させるとき、定常回転数よりも低い回転数で一旦ドラムを停止させ、再度標準脱水回転方向に戻しているが、この方法では一度解消したアンバランスが再度発生する場合がある。したがって、小さいアンバランスとなる機会を逃す場合があり、特に衣類同士が絡みやすくアンバランスになり易い場合は、脱水のやり直し回数が低減できないという課題も有していた。
【0008】
したがって上記特許文献1は、布量が多い場合や布量同士が絡みやすい場合など衣類状態によっては、脱水のやり直し回数が低減できず、脱水のやり直しでドラムが一方向に回転する時間が長くなることで、衣類もドラム回転方向に捻じれてアンバランスとなり易く、最終的には脱水時間の延長をもたらす場合がある。
【0009】
加えて上記特許文献1は、少量衣類を回転ドラムにより左上に一気に持ち上げて、支持ダンパーの他に備えた防振ダンパーで制振しているが、この方法では大きなアンバランスのままドラム回転上昇させており、さらに防振ダンパーで水槽ユニットと筐体との振動伝達が大きくなるため、筐体が振動し易いという課題も有していた。
【0010】
本発明の目的は、前記従来の課題を解決するもので、脱水工程において筐体の振動を抑制すると共に、衣類状態によらず脱水のやり直し回数が低減できるドラム式洗濯機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、水を溜める外槽と、該外槽内に回転可能に設けた洗濯兼脱水槽であるドラムと、該ドラムを回転駆動するモータと、外郭を構成する筐体と、前記モータを制御する制御装置と、前記外槽の振動を検出するための振動検出手段と、前記外槽を防振支持する複数のサスペンションと、を備えた洗濯機において、前記サスペンションは、前記ドラムの回転軸に対して減衰力が左右で異なって配され、脱水工程で、前記ドラムが目標回転数に向かって回転する際に、前記振動検出手段で検出した振動値が、予め決めた閾値以上ならば、前記回転の方向を変えるものであって、脱水工程で、最初に実行する前記回転の方向は、前記ドラムの回転軸に対して前記サスペンションの減衰力の小さい方向とすることを特徴とするドラム式洗濯機。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、脱水のやり直しで脱水回転方向を変え、振動が小さければ回転方向によらずそのまま脱水を完了させるため、衣類が一方向に捻じれてアンバランスとなるのを抑制すると共に、小さなアンバランスとなる機会を逃すことなく脱水を行うことから、外槽の振動低減のための減衰を大きくする必要がなく、衣類が多い場合や絡みやすい場合においても脱水のやり直し回数低減と筐体の振動低減が両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施の形態例に係るドラム式洗濯機の内部構造を示す右側面図である。(実施例1)
図2】本実施の形態例に係るドラム式洗濯機の内部構造を示す正面図である。(実施例1)
図3】本実施の形態例に係るドラム式洗濯機のブロック回路図である。(実施例1)
図4】本実施の形態例に係るドラム式洗濯機の脱水工程の制御フローチャートである。(実施例1)
図5】本実施の形態例に係るドラム式洗濯機の脱水工程におけるドラム回転パターンの一例である。(実施例1)
図6】本実施の形態例に係るドラム式洗濯機の内部構造を示す正面図である。(実施例2)
図7】本実施の形態例に係るドラム式洗濯機の内部構造を示す正面図である。(実施例3)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態例について、適宜図を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
<実施例1>
図1は本実施の形態例におけるドラム式洗濯機の内部構造を示す右側面図、図2はドラム式洗濯機の内部構造を示す正面図である。図1に示すように、ドラム式洗濯機は、外郭を構成する筐体1の略中央に、洗濯物を出し入れするための投入口1aが設けられており、この投入口1aにはドア2を開閉自在に取り付けてある。筐体1の上部にある操作パネル3は、運転を逐次制御するための制御装置4と電気的に接続されており、運転コースの設定や運転状態の表示を行う。
【0016】
筐体1の内部には、水を溜める外槽23が右側サスペンション24aと左側サスペンション24b(図2)と補助ばね25によって防振支持されており、洗濯物を収納するためのドラム21を内包する。右側サスペンション24aと左側サスペンション24bの最大減衰力は同じでも良いが、外槽23から筐体1への振動伝達を低減するために、後述するドラム21の標準の回転方向に合せて右側サスペンション24aを若干小さくする方が望ましい。
【0017】
衣類を収納するためのドラム21は、開口部21aと背面とを有する略円筒形に形成され、外槽23に内包されている。ドラム21の背面にあるシャフト22aは、外槽23の背面に取り付けたモータ22が連結され、このモータ22によりドラム21は標準の回転方向である左回転(ドラム21の正面から見て反時計回り)と、標準とは逆の回転方向である右回転(ドラム21の正面から見て時計回り)の両方向に回転駆動される。
【0018】
ドラム21内周壁には、洗濯物を持ち上げるためのリフタ21bと、脱水のための貫通孔21cが複数設けられている。また、ドラム21の前端には、円筒状の流体バランサ21dが設けられている。なお、ドラム21は回転軸が水平、または前側が後側よりも高くなるように傾斜されて設けられている。
【0019】
外槽23は、前面と背面を有する略円筒に形成され、外槽23の振動を検出するための振動検出手段27を備えている。外槽23の下部は、外槽23の外周部が外側に突出した水受け部23bが設けられており、衣類から脱水した水を集められるようになっている。水受け部23bとドラム21との間には、外槽23の内周壁が延伸した壁部23cが、外槽23の正面から見て右側にある排水口13aの上側を覆うように配されている。
【0020】
外槽23の下側には、経路に排水弁13bを有する排水ホース13が排水口13aに接続されている。また、外槽23の正面から見て左側には、給水弁10bと洗剤容器12を経路に有する給水ホース10が接続されており、給水弁10bを開くことで、図2の矢印で示すように、給水口10a(図2)から外槽23内に水の供給が可能となっている。なお、外槽23内の水量は、水位検出手段14によって検出可能となっている。
【0021】
外槽23の前面にある開口部23aは、環状のパッキンであるベローズ26で筺体1の投入口1aと接続されており、ドア2を閉めることで水封される。また、筐体1の投入口1a、外槽23の開口部23a、ドラム21の開口部21aは連通しており、ドア2を開くことでドラム21内への洗濯物の出し入れが可能となっている。
【0022】
ここで、図2の矢印は、給水ホース10から給水される水の流れと、排水口13aに向かう水の流れを示す。図2より、矢印の方向は、ドラム21が標準回転方向(左回転)に回転した時のドラム21外周面の速度成分に対して略平行となっている。すなわち、ドラム21が標準回転方向(左回転)に高速回転した場合は、ドラム21の外周面と外槽23の内周面との隙間を流れる水と空気も、ドラム21と同じ回転方向に流れるため、給水口10aから給水される水の流れと、排水口13aに向かう水の流れに対して、抵抗となりにくい。なお、給水口10aと排水口13aの位置が左右反対の場合、ドラム21の標準回転方向は右回転が望ましく、以下で説明する制御も右回転と左回転とが逆になる。
【0023】
ここで図3は、本発明の実施形態例におけるドラム式洗濯機のブロック図である。図3より、入力設定手段30、水位検出手段14、温度検出手段31、布量検出手段32、回転数検出手段33、アンバランス検出手段34、振動検出手段27の信号が、電気的に接続された制御装置4に入力される。そして、演算処理に基づき、操作パネル3、モータ22、給水弁10b、排水弁13bを制御する。布量検出手段32とアンバランス検出手段34は、モータ22の回転数変動やトルク電流を予め設定した閾値と比較することで、布量とアンバランス量を推定するものである。閾値は、上記検出手段ごとに複数記録されている。なお、以下ではアンバランス検出手段34で検出したアンバランス量と、振動検出手段27で検出した振動量をまとめて振動値とする。
【0024】
上記構成において、その動作を説明する。ドア2を開いてドラム21内に洗濯物を投入し、洗剤容器12内に所定量の洗剤を投入した後、運転を開始させると、まず、洗い工程を実行する。洗い工程において、給水弁10bが開き給水された水は、洗剤容器12および給水ホース10を介して、洗剤と共に外槽23内に入る。この動作を所定時間実行した後、ドラム21が右回転、停止、左回転、停止を繰り返す攪拌動作を所定時間実行する。このとき、ドラム21内に収容された洗濯物は、ドラム21内周壁に設けられたリフタ21bによって回転方向に持ち上げられ、持ち上げられた高さ位置から落下する攪拌動作が繰り返されるため、洗濯物にはたたき洗いの作用が働いて洗われる。
【0025】
この動作を所定時間行った後、洗い工程を終了し、脱水工程を実行する。ここで、脱水工程のフローチャートを図4に示す。この脱水工程においては、脱水工程開始(ステップS101)後、まず排水弁13bが開き、外槽23内の水が排水ホース13を介して機外に排水される(ステップS102)。そして、衣類同士の絡みをほぐすために、ドラム21が右回転、停止、左回転、停止を繰り返す攪拌動作を所定時間実行するほぐし動作を行う(ステップS103)。このほぐし動作は、右回転と左回転を交互に繰り返しても良いし、右回転あるいは左回転のどちらか一方を連続して回転させても良いし、どちらか一方向にのみ回転させても良い。望ましくは、次のステップS105の回転方向と逆方向に回転した状態でほぐし動作を終了し、ステップS105の回転方向と逆方向に衣類を捻っておくことで、ステップS105で衣類を均一に張り付けながら回転を上昇させるときに、衣類の捻れが解消されながら広がりやすくアンバランスになりにくい効果が得られる。なお、洗い工程で衣類同士の絡みも少ない場合(特に少量の衣類)は、ステップS103のほぐし動作自体がなくても良い。
【0026】
ステップS103のほぐし動作が完了すると、一度ドラム21の回転を停止(ステップS104)し、ドラム21を標準回転方向の左回転で回転上昇させる(ステップS105)。ドラム21の回転上昇方法は、単純増加で上昇させてもよく、途中で減速あるいは一定回転を含むような断続的な上昇でもよい。このとき、外槽23の振動が過大となるのを防ぐために、アンバランス検出手段34あるいは振動検出手段27で検出した振動値と、予め設定した閾値とを比較する(ステップS106)。
【0027】
ステップS106において、前記振動値が閾値よりも小さい場合、水抜き回転数(例えば100r/min)までドラム21の回転を上昇(ステップS107)させ、水抜き回転数でT1秒間一定回転させる(ステップS108)。この水抜き回転数における一定回転(ステップS108)は、衣類からの脱水量が多い200〜400r/minよりも低い回転数で、時間を掛けて徐々に衣類から水を抜くための動作である。これによれば、衣類からの脱水量が多い回転数域よりも前に衣類から水を抜くことが出来るため、水受け部23bに流入する水量が急増するのを抑制し、水受け部23bで一時的に集められた水が壁部23cを超えてドラム21側に溢れるのを防いでいる。なお、本実施の形態例ではステップS108のドラム21の回転を一定回転としたが、ステップS105のドラム21の回転上昇よりも低い加速率で加速、または加速と減速をT1秒間繰り返しても、水が抜ける時間を確保出来るため、一定回転と同様の効果が得られる。また、排水ホース13の排水流量が十分に確保されている場合は、ステップS108は必ずしも行う必要は無い。
【0028】
ステップS108でT1秒間経過後、ステップS105及びステップS106と同様に、振動値と閾値を比較(ステップS110)しながら、目標回転数(例えば、900r/min)まで回転数を上昇させる(ステップS109及びステップS111)。目標回転数に到達後、所定時間経過するまで一定回転させる(ステップS112及びステップS113)ことで、脱水を行う。そして、ドラム21の回転を停止させ(ステップS114)、脱水工程を終了する(ステップS228)。
【0029】
一方、ステップS106またはステップS110において、振動値が閾値以上の場合、外槽23の振動が過大と判定して、ドラム21の回転を停止する(ステップS116)。このとき、遠心力でドラム21の内壁に片寄って張り付いた衣類は、重力で剥がれ落ちる。
【0030】
ステップS117では、布量検出手段32で検出した布量と、予め設定した閾値とを比較する。布量が閾値よりも小さい場合(例えば5kg以下)、衣類から脱水される水の量が少ないと判定し、ドラム21を標準回転方向とは逆の右回転に回転上昇させる。(ステップS118)。一方、布量が閾値以上の場合、衣類から脱水される水の量が多いと判定し、ほぐし動作を実施(ステップ115)した後、再びステップS104からやり直す。これによれば、脱水される水の量が少ない場合のみドラム21を右回転で回転させるため、前述したように、排水口13aが外槽23の右側に配されていても、水受け部23bから水が溢れるのを防止することが出来る。なお、水受け23bの体積や排水口13aの径が大きく排水流量を確保出来る場合は、ステップS117を行わず、布量に関係なくドラム21を右回転させてもよい。
【0031】
ステップS118では、ステップS105と同様に、ドラム21の回転数を単純増加で上昇させてもよく、途中で減速あるいは一定回転を含むように断続的に上昇させてもよい。このときステップS106と同様に、外槽23の振動が過大となるのを防ぐために、振動検出手段27で検出した振動値と、予め設定した閾値とを比較(ステップS119)しながら、水抜き回転数(例えば100r/min)まで上昇させる(ステップS120)。
【0032】
水抜き回転数に到達後、ステップS108のT1秒よりも長いT2秒の間、ステップS108と同様の一定回転を実施する(ステップS121)。これによれば、予め時間を掛けて衣類から徐々に脱水するため、衣類からの脱水量が多い回転数域で、水受け部23bに一度に流入する水の量がステップS108よりも少なくなる。したがって、標準回転方向とは逆の右回転とすることで、ドラム21の回転で生じる水と空気の流れが排水口13aに向かう水の流れと逆行する条件となったとしても、滞りなく排水口13aから排水できる。
【0033】
ステップS121でT2秒間経過後、ステップS105及びステップS106と同様に、振動値と閾値を比較(ステップS123)しながら、目標回転数(例えば、ステップS111よりも低い700r/min)まで回転数を上昇させる(ステップS122及びステップS124)。目標回転数に到達後、所定時間経過するまで一定回転させる(ステップS125及びステップS126)ことで、脱水を行う。そして、ドラム21の回転を停止させ(ステップS127)、脱水工程を終了する(ステップS228)。なお、ステップS124の目標回転数は、ステップS111の目標回転数よりも低く、ステップS126の所定時間は、ステップS113の所定時間より短い方が望ましい。これによれば、衣類からの脱水量は少なくなるが、ドラム21を標準回転方向と逆の右回転で回転させても、ドラム21の回転で生じる水と空気の流れの速度が遅く、また時間も短くなるため、給水ホース10への水と空気の逆流を防止出来る。
【0034】
一方、ステップS119またはステップS123において振動値が閾値以上となった場合、ステップS116と同様に、ドラム21の回転を停止する(ステップS104)。そして、ステップS118で右回転に捻じれていた衣類状態を解消するために、今度は左回転で上昇させる(ステップS105)。ただし、アンバランスが解消できず、振動値が閾値よりも大きい状態が連続して何度も発生する場合、このままでは脱水できないと判定して、脱水工程を途中で終了させ、操作パネル3で報知しても良い。
【0035】
ここで、ドラム21の回転パターンの一例を図5に示す。排水後、標準回転方向の左回転と右回転が順に行われるほぐし動作を実施する。このほぐし動作中の回転数は、衣類に作用する重力と遠心力の釣り合い回転数よりも高く、外槽23の第1共振回転数よりも低く設定している。次に、ドラム21を標準回転方向の左回転で回転させるが、アンバランス検出手段34あるいは振動検出手段27で検出した振動値が、P101で閾値以上と判定し、ドラム21の回転を停止する。そして、今度は右回転でドラム21を回転させるが、P102でも振動値が閾値以上と判定し、ドラム21の回転を停止する。同様に、P103でも振動値が閾値以上と判定し、P104で初めて振動値が閾値より小さいと判定する。このとき、標準回転方向とは逆の右回転であるが、振動値が閾値よりも小さいならば、700r/minで所定時間回転させ、そして脱水工程を終了する。なお、図5はあくまでも一例であるため、P104以外で振動値が閾値より小さくなり、そのまま脱水を完了する場合も有り得る。
【0036】
以上の脱水工程を実施後、給水弁10bが開き給水され、その水は洗剤容器12および給水ホース10を通り、外槽23内に注水され、すすぎ工程が実施される。このすすぎ工程においては、前述した洗い工程と同様に、右回転、休止、左回転転、休止の動作を繰り返す攪拌動作を所定時間実行する。このとき、洗濯物がドラム21の内周壁に設けられたリフタ21bによって回転方向に持ち上げられ、持ち上げられた高さ位置から落下する攪拌動作が繰り返されるため、洗濯物に含まれる洗剤成分が希釈され、すすぎが行われる。その後、前述した脱水工程およびすすぎ工程を所定回数繰り返し、最終脱水工程に移行する。この最終脱水工程における脱水時間は、前述の脱水工程より長く設定してある。
【0037】
以上のように本実施の形態例においては、発生したアンバランスで脱水のやり直しに至ったとしても、その度に脱水方向を変えるため、衣類が一方向に捻じれてアンバランスが発生し易い状態となるのを防止できる。加えて、振動値の大小に拘らずドラム21を一旦停止させるほぐし動作と異なり、振動値が小さい場合は回転方向によらずそのまま脱水を完了させるため、小さなアンバランスとなる機会を逃すことがないことから、脱水のやり直し回数が低減できる。そして、小さなアンバランスになる確率が高ければ、外槽23の振動も大きくなり難いため、右側サスペンション24aと左側サスペンション24bの減衰を小さくすることが可能となり、外槽23から筐体1へ伝達する振動も小さくなる。
【0038】
したがって、衣類が多い場合や絡みやすい場合においても、衣類の捻じれによるアンバランスの発生を抑え、小さなアンバランスで脱水を行うことから、外槽23の振動を抑制するための大きな減衰が不要となり、脱水のやり直し回数低減と筐体の振動低減が両立できる。
【0039】
なお、本実施の形態例においてはドラム式洗濯機について述べたが、ドラム21の回転軸が略水平であれば同様の衣類状態となるため、乾燥機能を有するドラム式洗濯機や、外槽23が別の手段で弾性支持された場合においても同様の効果が得られる。また、ドラム21の回転方向を左右交互に行っているが、絡みにくい少量の衣類ならば、ドラム21を一方向に回転させても絡んでアンバランスになり難いため、回転方向を変えるまでの脱水のやり直し回数を2回以上としても、同様の効果が得られる。
【0040】
<実施例2>
図6は、第2の実施の形態例におけるドラム式洗濯機の正面の内部構造を示す模式図である。図6には、ドラム21の回転中心Oを通る線分OO´を一点鎖線で、ドラム21が右回転で高速回転した場合にドラム21と外槽23との隙間を流れる水と空気の流れを実線の矢印で示す。なお、他の構成と運転制御は、実施例1と同じであり、同一符号を付して説明を省略する。
【0041】
外槽23には、給水ホース50が給水口50aで接続されており、給水ホース50の給水口50a近傍は線分OO´と平行となるように配されている。給水口50aは、外槽23の内周面に設けられ、線分OO´と略垂直に交わる開口部であり、給水ホース50から供給される水が通る。すなわち、ドラム21が右回転で高速回転した場合にドラム21と外槽23との隙間を流れる水と空気の流れは、給水口50aを横切るように流れる。
【0042】
上記構成によれば、標準回転方向とは逆の右回転でドラム21が高速回転する場合でも、水や空気が給水口50aを横切るように流れるため、水や空気が給水ホース50に流れ込むのを防止出来る。すなわち、図4のステップS124の目標回転数をより高い値(例えば、左回転と同じ900r/min)に設定可能となり、衣類からより多くの水を抜くことが出来る。
【0043】
なお、給水ホース50をドラム21の後側から配する場合は、線分OO´に関係なく、給水口50aがドラム21の背面の方を向くように、外槽23の背面に給水ホース50を接続する方法でもよい。これによれば、ドラム21の回転方向に関係なく、ドラム21と外槽23との隙間を流れる水と空気が給水口50aを横切るように流れるため、同様の効果が得られる。
【0044】
<実施例3>
図7は、第3の実施の形態例におけるドラム式洗濯機の正面の内部構造を示す模式図である。外槽23下部の水受け部23bは、排水口13aとドラム21との間に第一壁部70aと第二壁部70bが設けられている。第一壁部70aは排水口13aの上を覆う様に配され、第二壁部70bは外槽23の正面から見て排水口13aと左右反対の位置に配されている。第一壁部70aと第二壁部70bは、外槽23の内周面が水受け部23bに延伸して形成されている。すなわち、水受け部23bの内側底面は、第一壁部70aと第二壁部70bの間で、ドラム21の外周面と直接対面するように構成されている。なお、他の構成と運転制御は、実施例1と同じであり、同一符号を付して説明を省略する。
【0045】
上記構成によれば、衣類量が多く多量の水が短時間に水受け部23bに流入しても、水受け部23bに流入した水は第一壁部70aまたは第二壁部70bでせき止められるため、水受け部23bから溢れてドラム21側に溢れるのを防止出来る。したがって、図4のステップS117において、布量の閾値をより高く設定(例えば7kg)することが出来る。また、図4のステップS121において、水抜きの一定回転の時間T2を短縮することが出来る。
【0046】
なお、本実施の形態例では、排水口13aは外槽23の正面から見て右側に設けてあるが、標準の回転方向を右回転として、排水口13aを外槽23の正面から見て左側に設けた場合も同様の効果が得られる。また、第一壁部70aと第二壁部70bの間に排水口13aを設けても、同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0047】
1 筐体 22 モータ
4 制御装置 23 外槽
21 ドラム 27 振動検出手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7