(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記運転状態制御部は、前記補正トルクに比べて前記推定トルクが大きいときに、点火時期を遅角することで、前記運転状態を制御することを特徴とする請求項2に記載の内燃機関制御装置。
【背景技術】
【0002】
近年、二輪自動車等の車両の内燃機関に対しては、コントローラを用いて、内燃機関に対する燃料の供給、空気の供給並びに燃料及び空気から成る混合気への点火を協働させながら内燃機関の運転状態を電子制御する電子制御式の内燃機関制御装置が採用されている。
【0003】
具体的には、かかる内燃機関制御装置は、エアフローセンサ、スロットル開度センサ及び吸気マニホルド負圧センサ等のセンサからの各々の検出信号を用いて得られる内燃機関に対する吸入空気量やクランク角センサからの検出信号を用いて得られる内燃機関回転数等に基づき、内燃機関での適切な空燃比を実現するための燃料噴射量を算出して、この燃料噴射量で内燃機関に対して燃料噴射を実行すると共に、所定の点火時期で吸入空気及び噴射燃料の混合気に対して点火を実行する構成を有する。
【0004】
また、この際、内燃機関制御装置においては、内燃機関におけるMBT(Minimum advance for the Best Torque)及びノック等に関する特性を考慮して、燃料噴射量及び点火時期における限界値が各々設定されている場合もある。また、このような内燃機関制御装置の中には、筒内圧センサ、ノックセンサ及びイオン電流センサ等のセンサからの各々の検出信号を用いて、燃焼室内の燃焼状態に応じた混合気への燃料噴射量及び点火時期の調整を各々実行する構成を有するものもある。
【0005】
かかる状況下で、特許文献1は、エンジンの制御方法に関し、クランク角センサ、酸素濃度センサ、温度センサ、スロットル開度センサ、吸気管圧力センサ、熱線式吸入空気量センサ、吸入空気温度センサ、排気管温度センサ及び触媒温度センサを用いて、筒内温度の上昇によって点火以前に着火が起こるプレイグニッションを防止し、また点火以前に着火が起こってしまったときでも適切に処理を行ないエンジンの破損を防止する構成を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者の検討によれば、特許文献1の構成では、酸素濃度センサ、吸気管圧力センサ、熱線式吸入空気量センサ、排気管温度センサ及び触媒温度センサ等の付加的なセンサを各種設ける必要があり、その構成が煩雑であると共に車両全体のコストが上昇する傾向にあると考えられる。
【0008】
また、本発明者の検討によれば、5〜10kHzの周波数を有すると評価されるノック等の異常燃焼時の燃焼振動をより正確に捕らえるためには、少なくとも100μs以下の周期のデータサンプリングが必要であることから、センサの高応答性や読み込み回路の高速化等が求められるものであり、その構成がより煩雑であると共に車両全体のコストがより上昇する傾向にあると考えられる。
【0009】
また、本発明者の検討によれば、特許文献1の構成では、内燃機関の代表温度によって内燃機関の運転状態を制御するために、内燃機関の個体毎の温度の差の影響を受けることにより、内燃機関の個体毎に制御精度に差が生じる傾向にあると考えられる。また、かかる構成では、内燃機関が暖機途中である場合には、内燃機関の代表温度が収束していないので、内燃機関の燃焼状態を正確に把握することができず、ノックセンサや筒内圧センサ等の他の燃焼状態把握手段を併用する必要があり、その構成が煩雑であると共に車両全体のコストが上昇する傾向にあると考えられる。特に、かかるノックセンサは高価であるため、それを用いずに内燃機関の高回転時の高効率な燃焼制御を可能とする構成を実現することが求められるものである。
【0010】
本発明は、以上の検討を経てなされたものであり、内燃機関の個体差を抑制可能である簡便な構成で、燃焼室内の燃焼状態を検出しその燃焼状態に応じて内燃機関の運転状態を制御可能な内燃機関制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の目的を達成するべく、本発明は、内燃機関の運転状態を制御する内燃機関制御装置において、前記内燃機関の燃焼室を画成する壁部の温度を算出する壁部温度算出部と、前記壁部の温度に基づき前記内燃機関の推定トルクを算出する推定トルク算出部と、前記内燃機関の実トルクを算出するトルク算出部と、前記実トルクと、前記推定トルクと、に応じて、前記運転状態を制御する運転状態制御部と、を備えることを第1の局面とする。
【0012】
本発明は、第1の局面に加えて、前記内燃機関の壁部の伝熱特性を反映した時間遅れを加味して、前記実トルクを補正して補正トルクを算出する補正トルク算出部を更に備え、前記運転状態制御部は、前記補正トルクと、前記推定トルクと、に応じて、前記運転状態を制御することを第2の局面とする。
【0013】
本発明は、第2の局面に加えて、前記運転状態制御部は、前記補正トルクに比べて前記推定トルクが大きいときに、点火時期を遅角することで、前記運転状態を制御することを第3の局面とする。
【0014】
本発明は、第1から第3のいずれかの局面に加えて、前記内燃機関の温度を算出する内燃機関温度算出部を更に備え、前記推定トルク算出部は、前記壁部の温度と前記内燃機関の前記温度とに基づき、前記推定トルクを算出することを第4の局面とする。
【発明の効果】
【0015】
以上の本発明の第1の局面にかかる内燃機関制御装置によれば、内燃機関の燃焼室を画成する壁部の温度を算出する壁部温度算出部と、壁部の温度に基づき内燃機関の推定トルクを算出する推定トルク算出部と、内燃機関の実トルクを算出するトルク算出部と、実トルクと、推定トルクと、に応じて、運転状態を制御する運転状態制御部と、を備えるものであるので、内燃機関の個体差を抑制可能である簡便な構成で、燃焼室内の燃焼状態を検出しその燃焼状態に応じて内燃機関の運転状態を制御することができる。
【0016】
本発明の第2の局面にかかる内燃機関制御装置によれば、内燃機関の壁部の伝熱特性を反映した時間遅れを加味して、実トルクを補正して補正トルクを算出する補正トルク算出部を更に備え、運転状態制御部が、補正トルクと、推定トルクと、に応じて、内燃機関の運転状態を制御するものであるので、内燃機関の燃焼室を画成する壁部の伝熱特性を反映した時間遅れを加味して実トルクを適切に補正することができ、かかる補正値を用いることにより、内燃機関の運転状態をより適切に制御することができる。
【0017】
本発明の第3の局面にかかる内燃機関制御装置によれば、運転状態制御部が、補正トルクに比べて推定トルクが大きいときに、点火時期を遅角するものであるため、燃焼室内の燃焼の乱れを適切に抑止することができ、内燃機関の運転状態をより適切に制御することができる。
【0018】
本発明の第4の局面にかかる内燃機関制御装置によれば、内燃機関の温度を算出する内燃機関温度算出部を更に備え、推定トルク算出部が、壁部の温度と内燃機関の温度とに基づき、推定トルクを算出するものであるため、燃焼室内の燃焼状態を適切に検出しその燃焼状態に応じて内燃機関の運転状態を制御することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を適宜参照して、本発明の実施形態における内燃機関制御装置につき、詳細に説明する。
【0021】
[構成]
まず、
図1を参照して、本実施形態における内燃機関制御装置の構成について説明する。
【0022】
図1は、本実施形態における内燃機関制御装置の構成を示すブロック図である。
【0023】
図1に示すように、本実施形態における内燃機関制御装置1は、二輪自動車等の車両に搭載され、車両の内燃機関の運転状態を制御する。本実施形態における内燃機関制御装置1は、スロットル開度センサ20、クランク角センサ30、壁部温度センサ40、及び冷却水温センサ50に電気的に接続されたECU(Electronic Control Unit)60を備えている。なお、説明の便宜上、車両や内燃機関の構成についての具体的な図示は、省略している。また、内燃機関に適用される燃料としては、原理的には、現在入手可能なものが適用でき、例えば、ガソリン、エタノール及びメタノール等の種別を問わず、ガソリンのオクタン価の種別も問わないものである。
【0024】
スロットル開度センサ20は、内燃機関のスロットル装置の本体部に装着され、スロットルバルブの開度をスロットル開度として検出し、このように検出したスロットル開度を示す電気信号をECU60に入力する。
【0025】
クランク角センサ30は、内燃機関において、リラクタの外周面に形成されている歯部に対向した態様でシリンダブロックの下部に組み付けられたロアケース等に装着され、クランクシャフトの回転に伴って回転する歯部を検出することによって、クランクシャフトの回転速度を内燃機関の回転速度として検出する。クランク角センサ30は、このように検出した内燃機関の回転速度を示す電気信号をECU60に入力する。
【0026】
壁部温度センサ40は、内燃機関の燃焼室を画成する部材、つまりシリンダブロック又はシリンダヘッドの壁部に装着されてその壁部の温度を検出し、このように検出した壁部の温度を示す電気信号をECU60に入力する。
【0027】
冷却水温センサ50は、内燃機関の冷却水通路に侵入した態様でシリンダブロックに装着され、冷却水通路内を流通する冷却水の温度を検出し、このように検出した冷却水の温度を示す電気信号をECU60に入力する。
【0028】
ECU60は、車両が備えるバッテリからの電力を利用して動作する。ECU6は、A/D変換回路601a、601b及び601c、波形成形回路602、スロットル開度算出部603、角速度算出部604、壁部温度算出部605、冷却水温算出部606、トルク算出部607、推定トルク算出部608、RAM609、補正トルク算出部610、運転状態制御部611、並びに駆動回路612a、612b及び612cを備えている。なお、スロットル開度算出部603、角速度算出部604、壁部温度算出部605、冷却水温算出部606、トルク算出部607、推定トルク算出部608、補正トルク算出部610、及び運転状態制御部611は、ECU60の演算処理装置が図示を省略するメモリから必要な制御プログラムを読み出すと共にRAM609から必要な制御データを読み出して運転状態制御処理を実行する際の機能ブロックとして示している。
【0029】
A/D変換回路601aは、スロットル開度センサ20から入力されたアナログ形態の電気信号をデジタル形態に変換してスロットル開度算出部603に入力する。
【0030】
A/D変換回路601bは、壁部温度センサ40から入力されたアナログ形態の電気信号をデジタル形態に変換して壁部温度算出部605に入力する。
【0031】
A/D変換回路601cは、冷却水温センサ50から入力されたアナログ形態の電気信号をデジタル形態に変換して冷却水温算出部606に入力する。
【0032】
波形成形回路602は、クランク角センサ30から入力された電気信号に対してスムージング処理等の成形処理を施した後に電気信号を角速度算出部604に入力する。
【0033】
スロットル開度算出部603は、A/D変換回路601aから入力された電気信号を用いてスロットル開度を算出し、このようにスロットル開度算出部603が算出したスロットル開度は、運転状態制御部611で用いられる。
【0034】
角速度算出部604は、波形成形回路602から入力された電気信号を用いて内燃機関の回転角速度を算出し、このように角速度算出部604が算出した内燃機関の回転角速度は、トルク算出部607で用いられる。
【0035】
壁部温度算出部605は、A/D変換回路601bから入力された電気信号を用いて内燃機関の燃焼室を画成する壁部の温度を算出し、このように壁部温度算出部605が算出した壁部の温度は、推定値算出部608で用いられる。かかる壁部の温度は、内燃機関の燃焼状態を直接的に反映する内燃機関の温度であって、内燃機関のシリンダ内で発生する発生熱量を直接的に反映した温度であると評価され得るものである。
【0036】
冷却水温算出部606は、A/D変換回路601cから入力された電気信号を用いて冷却水の温度を内燃機関の温度(エンジン温度)として算出し、このように冷却水温算出部606が算出したエンジン温度は、推定値算出部608で用いられる。かかる冷却水の温度は、内燃機関の温度を代表的に示す内燃機関の代表温度であって、内燃機関のシリンダを冷却する冷却熱量を反映した温度であると評価され得るものである。なお、かかる内燃機関の代表温度としては、冷却水の温度の他に、内燃機関の潤滑油の温度等を用いてもよい。
【0037】
トルク算出部607は、角速度算出部604が算出した内燃機関の回転角速度を用いて内燃機関の出力トルク(実トルク)を算出し、このようにトルク算出部607が算出した実トルクは、運転状態制御部611で用いられる。かかる実トルクの値は、単位時間において、内燃機関の燃焼室を画成する壁部の温度と、内燃機関の冷却水の温度であるエンジン温度と、の差分値、燃焼室の表面の温度上昇に寄与する熱伝達量と、その残余の熱伝達量と、の熱伝達量比率、熱伝達率、及び燃焼室の表面積の積で表されるものでもある。
【0038】
推定トルク算出部608は、壁部温度算出部605が算出した燃焼室の壁部の温度及び冷却水温算出部606が算出したエンジン温度に基づいて内燃機関の実トルクの推定値を算出し、このように推定トルク算出部608が算出した内燃機関の実トルクの推定値は、運転状態制御部611で用いられる。かかる実トルクの推定値は、内燃機関の燃焼室を画成する壁部の温度と、内燃機関の冷却水の温度であるエンジン温度と、の差分値に比例するものである。
【0039】
RAM609は、不揮発性の記憶装置によって構成され、運転状態制御部611が内燃機関の運転状態を制御する際に用いる各種データ(燃料噴射量の指示値や点火時期等)を記憶する運転状態制御部611のワーキングエリアとして機能する。
【0040】
補正トルク算出部610は、RAM609に記憶されている内燃機関の最新及び過去の実トルクを用いて、内燃機関の燃焼室を画成する壁部の伝熱特性を反映した時間遅れを加味して実トルクの最新値を補正して補正トルクを算出する。補正トルク算出部610がこのように算出した補正トルクは、運転状態制御部611で用いられる。
【0041】
運転状態制御部611は、内燃機関制御装置1全体の動作を制御する。具体的には、運転状態制御部611は、トルク算出部607が算出した内燃機関の実トルク、推定トルク算出部608が算出した内燃機関の実トルクの推定値、及び補正トルク算出部610が算出した内燃機関の実トルクの補正値を用いて内燃機関の点火時期や燃料噴射量を算出する。そして、運転状態制御部611は、このように算出した点火時期及び燃料噴射量等を内燃機関に適用することにより、その運転状態を制御する。
【0042】
ここで、特に、内燃機関の燃焼室を画成する壁部の温度や、燃焼室の壁部の温度と、内燃機関の冷却水の温度であるエンジン温度と、の差分値(壁部温度差分値)は、燃焼室の燃焼の乱れ、つまり燃焼室の表面の受熱の状態に敏感に反応するものであって、燃焼室内に供給される燃料噴射量に応じた内燃機関の出力トルク(実トルク)と概略的に比例関係にあるものである。かかる燃焼室の表面の受熱の状態は、シリンダの内圧レベルやノッキングの発生状態に影響を受けるものであり、かかるシリンダの内圧レベルやノッキングの発生状態は、内燃機関の点火時期に影響を受けるものである。つまり、燃焼室の壁部の温度や壁部温度差分値は、内燃機関の点火時期がそのベストトルクを発生させる点火時期を超えて進角されると、燃焼乱れが増大して燃焼室の表面への熱伝達率が上昇することに起因して、急峻に上昇する。この際、燃焼室の壁部の温度や壁部温度差分値に基づく実トルクの推定値と、実トルクの値と、を比較すると、前者は後者よりも大きくなる特性を呈する。そこで、ボア、ストローク、シリンダ、シリンダヘッド、及び冷却系等が同一である同一設計仕様の内燃機関において最適な出力トルクが得られるような内燃機関、つまり量産における好ましい中央特性の内燃機関個体(マスタエンジン)の最適な点火時期を予め設定して、かかる最適な点火時期に対して、燃焼室の壁部の温度と、内燃機関の実トルクと、の関係や、壁部温度差分値と、内燃機関の実トルクと、の関係を示す特性を予め求めて規定しておく。そして、かかる特性を利用して、点火時期の制御を行えば、内燃機関の個体差等に依存しない均一な燃焼状態を実現して、同一の仕様の内燃機関における性能ばらつきを抑制し、その燃費や出力の向上を実現することが可能となる。この際、実トルクとしては、内燃機関の燃焼室を画成する壁部の伝熱特性を反映した時間遅れを加味して、実トルクを積算、平均化した値(移動平均処理した値)をその補正値として用いてもよい。
【0043】
駆動回路612aは、運転状態制御部611から入力された制御信号に従ってスロットルモータ70を駆動することによってスロットル開度を制御する。
【0044】
駆動回路612bは、運転状態制御部611から入力された制御信号に従って点火栓80を駆動することによって内燃機関の点火時期を制御する。
【0045】
駆動回路612cは、運転状態制御部611から入力された制御信号に従って燃料噴射弁90を駆動することによって内燃機関の燃料噴射量を制御する。
【0046】
このような構成を有する内燃機関制御装置1は、以下に示す運転状態制御処理を実行することによって、内燃機関の個体差を抑制可能である簡便な構成で、燃焼室内の燃焼状態を検出しその燃焼状態に応じて内燃機関の運転状態を制御する。以下、
図2を参照して、この運転状態制御処理を実行する際の内燃機関制御装置1の動作について説明する。
【0047】
〔運転状態制御処理〕
図2は、本実施形態における内燃機関制御装置1が実行する運転状態制御処理の流れを示すフローチャートである。
【0048】
図2に示すフローチャートは、車両のイグニッションスイッチがオフ状態からオン状態に切り替えられてECU60が稼働したタイミングで開始となり、運転状態制御処理はステップS1の処理に進む。かかる運転状態制御処理は、ECU60が稼働状態である間、メモリから必要な制御プログラムを読み出すと共にRAM609から必要な制御データを読み出して所定の制御周期毎に繰り返し実行される。
【0049】
ステップS1の処理では、運転状態制御部611が、トルク算出部607が算出した内燃機関の出力トルク(実トルク)等に基づき内燃機関が運転中であるか否かを判別する。判別の結果、内燃機関が運転中である場合、運転状態制御部611は、運転状態制御処理をステップS2の処理に進める。一方、内燃機関が運転中でない場合には、運転状態制御部611は、一連の運転状態制御処理を終了する。
【0050】
ステップS2の処理では、壁部温度算出部605が、内燃機関の燃焼室を画成する壁部の温度TCCを算出し、このように壁部温度算出部605が算出した壁部の温度TCCは、推定値算出部608で用いられる。これにより、ステップS2の処理は完了し、運転状態制御処理はステップS3の処理に進む。
【0051】
ステップS3の処理では、推定トルク算出部608が、内燃機関の冷却熱量に対する燃焼室での発熱量を考慮して、燃焼室の壁部の温度TCCと冷却水温算出部606が算出したエンジン温度との差分値TCCDを算出する。これにより、ステップS3の処理は完了し、運転状態制御処理はステップS4の処理に進む。
【0052】
ステップS4の処理では、推定トルク算出部608が、量産における好ましい中央特性の内燃機関個体(マスタエンジン)における燃焼室の壁部の温度及び内燃機関の冷却水の温度であるエンジン温度の差分値と出力トルク(実トルク)との関係を示す特性に基づいて、ステップS3の処理において算出された差分値TCCDに応じた内燃機関の実トルクの推定値TQTCCDを算出する。そして、推定トルク算出部608がこのように算出した内燃機関の実トルクの推定値TQTCCDは、運転状態制御部611で用いられる。これにより、ステップS4の処理は完了し、運転状態制御処理はステップS5の処理に進む。
【0053】
ステップS5の処理では、トルク算出部607が、内燃機関の実トルクを算出し、このように算出した内燃機関の実トルクは、運転状態制御部611で用いられる。これにより、ステップS5の処理は完了し、運転状態制御処理はステップS6の処理に進む。
【0054】
ステップS6の処理では、補正トルク算出部610が、内燃機関の燃焼室を画成する壁部の伝熱特性を反映した時間遅れを加味して、内燃機関の実トルクを積算、平均化した値(移動平均処理した値)を内燃機関の実トルクの補正値DCBCPとして算出する。そして、補正値算出部611がこのように算出した補正値DCBCPは、運転状態制御部611で用いられる。これにより、ステップS6の処理は完了し、運転状態制御処理はステップS7の処理に進む。
【0055】
ステップS7の処理では、運転状態制御部611が、実トルクの推定値TQTCCDと補正値DCBCPとの差分値DTQDBPを算出する。これにより、ステップS7の処理は完了し、運転状態制御処理はステップS8の処理に進む。
【0056】
ステップS8の処理では、内燃機関1の運転状態をノッキングの発生を抑制した運転状態にすべく、運転状態制御部611が、ステップS7の処理において算出された差分値DTQDBPが内燃機関のノッキングレベルに対応する閾値(ノッキングしきい値)未満であるか否かを判別する。判別の結果、差分値DTQDBPがノッキングしきい値未満である場合、運転状態制御部611は、運転状態制御処理をステップS9の処理に進める。一方、差分値DTQDBPがノッキングしきい値以上である場合には、運転状態制御部611は、運転状態制御処理をステップS12の処理に進める。
【0057】
ステップS9の処理では、運転状態制御部611が、実トルクの推定値TQTCCDが補正値DCBCP未満であるか否かを判別する。判別の結果、実トルクの推定値TQTCCDが補正値DCBCP未満である場合、運転状態制御部611は、シリンダの内圧が不足していると判断し、運転状態制御処理をステップS10の処理に進める。一方、実トルクの推定値TQTCCDが補正値DCBCP以上である場合には、運転状態制御部611は、燃焼の乱れのレベルが高い、すなわち過進角の状態であると判断し、運転状態制御処理をステップS11の処理に進める。
【0058】
ステップS10の処理では、運転状態制御部611が、シリンダの内圧が不足しているという観点から燃焼室内の混合気への点火時期を進角側に設定して算出すると共に、アクセル開度等を用いて燃料噴射量の指示値及び目標スロットル開度を算出し、それらに応じて駆動回路612b、612c及び612aを介して点火栓80、燃料噴射弁90及びスロットルモータ70を駆動することによって、内燃機関の運転状態を制御する。この際、運転状態制御部611は、このように各々算出した点火時期、燃料噴射量の指示値及び目標スロットル開度をRAM609に記録した後にRAM609からこれらを読み出して内燃機関の運転状態を制御する。これにより、ステップS9の処理は完了し、今回の一連の運転状態制御処理は終了する。
【0059】
ステップS11の処理では、運転状態制御部611が燃焼の乱れが大きく点火時期が過進角であるという観点から点火時期を遅角側に設定して算出すると共に、アクセル開度等を用いて燃料噴射量の指示値及び目標スロットル開度を算出し、それらに応じて駆動回路612b、612c及び612aを介して点火栓80、燃料噴射弁90及びスロットルモータ70を駆動することによって、内燃機関の運転状態を制御する。この際、運転状態制御部611は、このように各々算出した点火時期、燃料噴射量の指示値及び目標スロットル開度をRAM609に記録した後にRAM609からこれらを読み出して内燃機関の運転状態を制御する。これにより、ステップS10の処理は完了し、今回の一連の運転状態制御処理は終了する。
【0060】
ステップS12の処理では、運転状態制御部611が、ノッキングの発生を抑制する観点から点火時期を遅角側に設定して算出すると共に、アクセル開度等を用いて燃料噴射量の指示値及び目標スロットル開度を算出し、それらに応じて駆動回路612b、612c及び612aを介して点火栓80、燃料噴射弁90及びスロットルモータ70を駆動することによって、内燃機関の運転状態を制御する。この際、運転状態制御部611は、このように各々算出した点火時期、燃料噴射量の指示値及び目標スロットル開度をRAM609に記録した後にRAM609からこれらを読み出して内燃機関の運転状態を制御する。これにより、ステップS10の処理は完了し、今回の一連の運転状態制御処理は終了する。
【0061】
以上の説明から明らかなように、本実施形態における内燃機関制御装置1は、内燃機関の燃焼室を画成する壁部の温度を算出する壁部温度算出部605と、壁部の温度に基づき内燃機関の推定トルクを算出する推定トルク算出部608と、内燃機関の実トルクを算出するトルク算出部607と、実トルクと、推定トルクと、に応じて、運転状態を制御する運転状態制御部611と、を備える。これにより、内燃機関の個体差を抑制可能である簡便な構成で、燃焼室内の燃焼状態を検出しその燃焼状態に応じて内燃機関の運転状態を制御することができる。
【0062】
また、本実施形態における内燃機関制御装置1では、内燃機関の壁部の伝熱特性を反映した時間遅れを加味して、実トルクを補正して補正トルクを算出する補正トルク算出部610を更に備え、運転状態制御部611が、補正トルクと、推定トルクと、に応じて、内燃機関の運転状態を制御するものであるので、内燃機関の燃焼室を画成する壁部の伝熱特性を反映した時間遅れを加味して実トルクを適切に補正することができ、かかる補正値を用いることにより、内燃機関の運転状態をより適切に制御することができる。
【0063】
また、本実施形態における内燃機関制御装置1では、運転状態制御部611が、補正トルクに比べて推定トルクが大きいときに、点火時期を遅角するものであるため、燃焼室内の燃焼の乱れを適切に抑止することができ、内燃機関の運転状態をより適切に制御することができる。
【0064】
また、本実施形態における内燃機関制御装置1では、内燃機関の温度を算出する内燃機関温度算出部606を更に備え、推定トルク算出部608が、壁部の温度と内燃機関の温度とに基づき、推定トルクを算出するものであるため、燃焼室内の燃焼状態を適切に検出しその燃焼状態に応じて内燃機関の運転状態を制御することができる。
【0065】
なお、本発明は、部材の種類、形状、配置、個数等は前述の実施形態に限定されるものではなく、その構成要素を同等の作用効果を奏するものに適宜置換する等、発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることはもちろんである。