特許第6553541号(P6553541)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6553541
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】深紫外発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/24 20100101AFI20190722BHJP
   H01L 33/32 20100101ALI20190722BHJP
【FI】
   H01L33/24
   H01L33/32
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-95537(P2016-95537)
(22)【出願日】2016年5月11日
(65)【公開番号】特開2017-204568(P2017-204568A)
(43)【公開日】2017年11月16日
【審査請求日】2018年11月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】酒井 遥人
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 紀隆
(72)【発明者】
【氏名】稲津 哲彦
(72)【発明者】
【氏名】ペルノ シリル
【審査官】 村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−216352(JP,A)
【文献】 特開2003−347589(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/008792(WO,A1)
【文献】 特開2013−30817(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/24
H01L 33/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光取出面と、
前記光取出面上に設けられるn型半導体層と、
前記n型半導体層上に設けられるn側電極と、
前記n型半導体層上の前記n側電極が設けられる領域とは異なる領域に設けられ、バンドギャップが3.4eV以上の活性層と、
前記活性層上に設けられるp型半導体層と、
前記活性層の側面を被覆し、前記活性層が発する深紫外光に対して透明な保護層と、を備え、
前記活性層が発する深紫外光は、前記光取出面から外部へ出力され、
前記活性層の側面は、前記n型半導体層と前記活性層の界面に対して傾斜し、その傾斜角が15度以上50度以下であり、
前記n型半導体層の側面は、前記n型半導体層と前記n側電極の界面から前記光取出面までの範囲において、前記n型半導体層と前記活性層の界面に対して垂直であることを特徴とする深紫外発光素子。
【請求項2】
前記光取出面を有するサファイア基板を備え、
前記n型半導体層、前記活性層および前記p型半導体層はAlGaN系の半導体層であることを特徴とする請求項1に記載の深紫外発光素子。
【請求項3】
前記保護層は、酸化シリコン(SiO)、酸窒化シリコン(SiON)、窒化シリコン(SiN)、酸化アルミニウム(Al)、または、窒化アルミニウム(AlN)を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の深紫外発光素子。
【請求項4】
前記活性層の側面の傾斜角θaは、前記活性層の屈折率nを用いて、次式の関係を満たすことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の深紫外発光素子。
【数1】
【請求項5】
前記活性層の側面の傾斜角は、20度以上40度以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の深紫外発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、深紫外発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、青色光を出力する発光ダイオードやレーザダイオード等の半導体発光素子が実用化されており、さらに波長の短い深紫外光を出力する発光素子の開発が進められている。深紫外光は高い殺菌能力を有することから、深紫外光の出力が可能な半導体発光素子は、医療や食品加工の現場における水銀フリーの殺菌用光源として注目されている。このような深紫外光用の発光素子は、基板上に順に積層される窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系のn型クラッド層、活性層、p型クラッド層などを有する。
【0003】
深紫外発光素子では、例えば、p型クラッド層上の第1領域にp電極が形成され、第1領域と異なる第2領域において活性層およびp型クラッド層を除去してn型クラッド層が露出され、第2領域のn型クラッド層上にn電極が形成される。活性層が発する深紫外光は、基板の光取出面から出力される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5594530号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Applied Physics Letters 84,5264 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
AlGaNを用いる深紫外発光素子では、AlN組成比によりAlGaN結晶の光学特性が変化し、その特有の偏光特性に起因して光取出効率が低下するという課題が指摘されている(例えば、非特許文献1参照)。特に、活性層のAlN組成比を高めてより短波長の深紫外光が出力可能な構成とした場合、活性層の界面に沿った方向に伝搬する光成分が増加し、活性層の界面と交差する方向に伝搬して基板の光取出面から外部に取り出し可能な光量が低下してしまう。
【0007】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的のひとつは、深紫外発光素子の光取出効率を高める技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の深紫外発光素子は、光取出面と、光取出面上に設けられるn型半導体層と、n型半導体層上に設けられ、バンドギャップが3.4eV以上の活性層と、活性層上に設けられるp型半導体層と、を備える。活性層が発する深紫外光は、光取出面から外部へ出力される。活性層の側面は、n型半導体層と活性層の界面に対して傾斜し、その傾斜角が15度以上50度以下である。
【0009】
この態様によると、活性層の側面を傾斜させることで、活性層の界面に沿った方向に伝搬する深紫外光を活性層の側面で反射させ、活性層の界面と交差する方向に伝搬方向を変化させることができる。特に、側面の傾斜角を15度以上50度以下とすることにより、活性層の側面で反射された深紫外光の伝搬方向を光取出面から外部へ出力可能な方向に変化させることができる。これにより、光取出面から出力される深紫外光の光量を増やし、光取出効率を高めることができる。
【0010】
光取出面を有するサファイア基板を備え、n型半導体層、活性層およびp型半導体層はAlGaN系の半導体層であってもよい。
【0011】
活性層の側面を被覆し、活性層が発する深紫外光に対して透明な保護層をさらに備えてもよい。
【0012】
活性層の側面の傾斜角θaは、活性層の屈折率nを用いて、次式の関係を満たしてもよい。
【数1】
【0013】
活性層の側面の傾斜角は、20度以上40度以下であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、深紫外発光素子の光取出効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施の形態に係る深紫外発光素子の構成を概略的に示す断面図である。
図2】深紫外発光素子の製造工程を概略的に示す断面図である。
図3】深紫外発光素子の製造工程を概略的に示す断面図である。
図4】深紫外発光素子の製造工程を概略的に示す断面図である。
図5】深紫外発光素子の製造工程を概略的に示す断面図である。
図6】比較例に係る深紫外発光素子のシミュレーション結果を示す図である。
図7】実施例に係る深紫外発光素子のシミュレーション結果を示す図である。
図8】側面の傾斜角と光取出面からの光出力量の関係を示すグラフである。
図9】実施の形態に係る深紫外発光素子が奏する効果を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、説明の理解を助けるため、各図面における各構成要素の寸法比は、必ずしも実際の発光素子の寸法比と一致しない。
【0017】
図1は、実施の形態に係る深紫外発光素子10の構成を概略的に示す断面図である。深紫外発光素子10は、基板12、第1ベース層14、第2ベース層16、n型クラッド層18、活性層20、電子ブロック層22、p型クラッド層24、p側電極26、n側電極28、保護層30を備える。深紫外発光素子10は、中心波長が約355nm以下となる「深紫外光」を発するように構成される半導体発光素子である。このような波長の深紫外光を出力するため、活性層20は、バンドギャップが約3.4eV以上となる窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系半導体材料で構成される。本実施の形態では、特に、中心波長が約310nm以下の深紫外光を発する場合について示す。
【0018】
本明細書において、「AlGaN系半導体材料」とは、主に窒化アルミニウム(AlN)と窒化ガリウム(GaN)を含む半導体材料のことをいい、窒化インジウム(InN)などの他の材料を含有する半導体材料を含むものとする。したがって、本明細書にいう「AlGaN系半導体材料」は、例えば、In1−x−yAlGaN(0≦x+y≦1、0≦x≦1、0≦y≦1)の組成で表すことができ、AlN、GaN、AlGaN、窒化インジウムアルミニウム(InAlN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、窒化インジウムアルミニウムガリウム(InAlGaN)を含むものとする。
【0019】
また「AlGaN系半導体材料」のうち、AlNを実質的に含まない材料を区別するために「GaN系半導体材料」ということがある。「GaN系半導体材料」には、主にGaNやInGaNが含まれ、これらに微量のAlNを含有する材料も含まれる。同様に、「AlGaN系半導体材料」のうち、GaNを実質的に含まない材料を区別するために「AlN系半導体材料」ということがある。「AlN系半導体材料」には、主にAlNやInAlNが含まれ、これらに微量のGaNが含有される材料も含まれる。
【0020】
基板12は、サファイア(Al)基板である。基板12は、結晶成長面12aと、光取出面12bとを有する。結晶成長面12aは、例えば、サファイア基板の(0001)面であり、結晶成長面12aの上に第1ベース層14および第2ベース層16が積層される。第1ベース層14は、AlN系半導体材料で形成される層であり、例えば、高温成長させたAlN(HT−AlN)層である。第2ベース層16は、AlGaN系半導体材料で形成される層であり、例えば、アンドープのAlGaN(u−AlGaN)層である。
【0021】
基板12、第1ベース層14および第2ベース層16は、n型クラッド層18から上の層を形成するための下地層(テンプレート)として機能する。またこれらの層は、活性層20が発する深紫外光を外部に取り出すための光取出基板として機能し、活性層20が発する深紫外光を透過する。したがって、活性層20が発する深紫外光は基板12の光取出面12bから外部に出力される。光取出面12bは、平坦面ではなく、サブミクロンないしサブミリ程度の微小な凹凸構造が形成されたテクスチャ面であってもよい。光取出面12bにテクスチャ構造を形成することにより、光取出面12bにおける反射ないし全反射を抑制して光取出効率を高めることができる。
【0022】
n型クラッド層18は、第2ベース層16の上に設けられるn型半導体層である。n型クラッド層18は、n型のAlGaN系半導体材料で形成され、例えば、n型の不純物としてシリコン(Si)がドープされるAlGaN層である。n型クラッド層18は、活性層20が発する深紫外光を透過するように組成比が選択され、例えば、AlNのモル分率が40%以上、好ましくは、50%以上となるように形成される。n型クラッド層18は、活性層20が発する深紫外光の波長よりも大きいバンドギャップを有し、例えば、バンドギャップが4.3eV以上となるように形成される。n型クラッド層18は、100nm〜300nm程度の厚さを有し、例えば、200nm程度の厚さを有する。
【0023】
n型クラッド層18の第1領域W1の上にはn側電極28が形成される。n型クラッド層18の第1領域W1とは異なる領域(第2領域W2および第3領域W3)の上には活性層20が形成される。
【0024】
n側電極28は、n型クラッド層18の上に設けられ、第1領域W1に形成される。n側電極28は、例えば、チタン(Ti)/Al/Ti/Auの積層構造により形成される。各金属層の厚さは、例えば、第1のTi層が20nm程度であり、Al層が100nm程度であり、第2のTi層が50nm程度であり、Au層が100nm程度である。
【0025】
なお、n型クラッド層18とn側電極28の接触抵抗を下げるために、n型クラッド層18とn側電極28の間にn型コンタクト層が設けられてもよい。n型コンタクト層は、n型クラッド層18よりもAl含有率が低くなるように組成比が選択されるn型のAlGaN系半導体材料またはGaN系半導体材料で構成されてもよい。n型コンタクト層は、AlNのモル分率が20%以下であることが好ましく、AlNのモル分率が10%以下であることがより望ましい。
【0026】
活性層20は、n型クラッド層18の上に設けられる。活性層20は、AlGaN系半導体材料で形成され、n型クラッド層18と電子ブロック層22に挟まれてダブルヘテロ接合構造を構成する。活性層20は、単層もしくは多層の量子井戸構造を構成してもよい。このような量子井戸構造は、例えば、n型のAlGaN系半導体材料で形成されるバリア層と、アンドープのAlGaN系半導体材料で形成される井戸層とを積層させることにより形成できる。活性層20は、波長355nm以下の深紫外光を出力するためにバンドギャップが3.4eV以上となるように構成され、例えば、波長310nm以下の深紫外光を出力できるように組成比が選択される。
【0027】
電子ブロック層22は、活性層20の上に設けられるp型半導体層である。電子ブロック層22は、p型のAlGaN系半導体材料で形成される層であり、例えば、MgドープのAlGaN層である。電子ブロック層22は、活性層20、p型クラッド層24よりもAlNのモル分率が高くなるように組成比が選択され、例えば、AlNのモル分率が40%以上、好ましくは、50%以上となるように形成される。電子ブロック層22は、AlNのモル分率が80%以上となるように形成されてもよく、実質的にGaNを含まないAlN系半導体材料で形成されてもよい。電子ブロック層22は、1nm〜10nm程度の厚さを有し、例えば、2nm〜5nm程度の厚さを有する。
【0028】
p型クラッド層24は、電子ブロック層22の上に設けられるp型半導体層である。p型クラッド層24は、p型のAlGaN系半導体材料で形成される層であり、例えば、MgドープのAlGaN層である。p型クラッド層24は、活性層20よりもAlNのモル分率が高く、電子ブロック層22よりもAlNのモル分率が低くなるように組成比が選択される。p型クラッド層24は、300nm〜700nm程度の厚さを有し、例えば、400nm〜600nm程度の厚さを有する。
【0029】
p側電極26は、p型クラッド層24の上に設けられ、第2領域W2に形成される。p側電極26は、p型クラッド層24との間でオーミック接触が実現できる材料で形成され、例えば、ニッケル(Ni)/金(Au)の積層構造により形成される。各金属層の厚さは、例えば、Ni層が60nm程度であり、Au層が50nm程度である。
【0030】
なお、p型クラッド層24とp側電極26の接触抵抗を下げるために、p型クラッド層24とp側電極26の間にp型コンタクト層が設けられてもよい。p型コンタクト層は、p型クラッド層24よりもAl含有率が低くなるように組成比が選択されるp型のAlGaN系半導体材料またはGaN系半導体材料で構成されてもよい。p型コンタクト層は、AlNのモル分率が20%以下であることが好ましく、AlNのモル分率が10%以下であることがより望ましい。
【0031】
活性層20、電子ブロック層22およびp型クラッド層24は、側面32(メサ面)が傾斜するように構成されている。この傾斜した側面32は、n側電極28が形成される第1領域W1とp側電極26が形成される第2領域W2の間の第3領域W3に位置する。側面32は、n型クラッド層18と活性層20の界面19に対して傾斜角θaを有するように形成される。側面32を傾斜させることにより、活性層20(例えば点S)が発する深紫外光Lを側面32で反射させ、基板12の光取出面12bに向かうようにする。
【0032】
側面32の傾斜角θaは、15度以上50度以下となるように構成され、好ましくは20度以上40度以下となるように構成される。側面32の傾斜角θaをこのような角度範囲に設定することにより、光取出面12bから出力される深紫外光の光量を増やし、光取出効率を高めることができる。このような角度範囲が好ましい理由については、別途後述する。
【0033】
側面32は、保護層30により被覆される。保護層30は、活性層20が発する深紫外光に対して透明な絶縁材料で構成される。保護層30として、例えば、酸化シリコン(SiO)、酸窒化シリコン(SiON)、窒化シリコン(SiN)、酸化アルミニウム(Al)、窒化アルミニウム(AlN)などを用いることができる。保護層30は、深紫外光に対する屈折率が低い材料で構成されることが好ましく、上記材料の中ではSiO(屈折率1.4)が好ましい。保護層30の屈折率を低くし、活性層20との屈折率差を大きくすることで、側面32にて全反射が生じる角度範囲を大きくして側面32での深紫外光の反射率を高めることができる。また、保護層30に透明材料を用いることで、保護層30が深紫外光を吸収することによる損失を低減できる。
【0034】
つづいて、図2図5を参照しながら深紫外発光素子10の製造方法について述べる。まず、図2に示すように、基板12の上に第1ベース層14、第2ベース層16、n型クラッド層18、活性層20、電子ブロック層22、p型クラッド層24を順に積層させる。AlGaN系半導体材料で形成される第2ベース層16、n型クラッド層18、活性層20、電子ブロック層22およびp型クラッド層24は、有機金属化学気相成長(MOVPE)法や、分子線エピタキシ(MBE)法などの周知のエピタキシャル成長法を用いて形成できる。
【0035】
次に、図3に示すように、p型クラッド層24の上にマスク層40を形成する。マスク層40は、p型クラッド層24の第2領域W2および第3領域W3の上に形成される。マスク層40は、第3領域W3において所定の傾斜角θbを有するように形成される。マスク層の傾斜角θbは、レジストを露光してマスクパターンを形成した後のレジストのポストベーク温度を制御することにより調整できる。例えば、レジストのポストベーク温度を低くすることでマスク層40の傾斜角θbを大きくでき、レジストのポストベーク温度を高くすることでマスク層40の傾斜角θbを小さくできる。使用するレジストの材料にもよるが、例えば、ポストベーク温度を100℃〜200℃の間で調整することにより、マスク層40の傾斜角θbを70度〜20度の間で調整できる。
【0036】
つづいて、図4に示すように、マスク層40の上から活性層20、電子ブロック層22およびp型クラッド層24をエッチングする。図4では、エッチング前の構造を破線で示し、エッチング後の構造を実線で示している。マスク層40および各半導体層は、反応性イオンエッチングやプラズマ等を用いてドライエッチングされ、マスク層40の傾斜角θbに対応した傾斜角θaを有する側面32が形成される。このドライエッチング工程は、n型クラッド層18の上面18aが露出するまで行われる。n型クラッド層18の上面18aは、n型クラッド層18と活性層20の界面19と同じ高さとなるように形成されてもよいし、界面19よりも低い位置となるように形成されてもよい。後者の場合、n型クラッド層18の一部がこのエッチング工程により除去されてもよい。
【0037】
側面32の傾斜角θaは、マスク層40の傾斜角θb、マスク層40および半導体層のエッチング速度により決定される。例えば、各半導体層よりもマスク層40のエッチング速度が相対的に大きい場合、側面32の傾斜角θaはマスク層40の傾斜角θbよりも小さくなる。その結果、マスク層40の傾斜角θbを20度〜70度の範囲で調整することにより、側面32の傾斜角θaが15度〜50度の範囲内で調整することができる。なお、傾斜角θaが15度未満となるような均一な側面32を形成することは製造上難しく、均一な傾斜角θaを有する側面32を形成するためには、傾斜角θaを15度以上とする必要があり、20度以上とすることが好ましい。
【0038】
次に、p型クラッド層24の上に残るマスク層40を除去した後、図5に示すように、保護層30が形成される。保護層30は、少なくとも、活性層20、電子ブロック層22およびp型クラッド層24の側面32を被覆するように設けられる。保護層30は、側面32にて深紫外光を好適に反射ないし全反射できる程度に厚く形成されることが好ましく、例えば、20nm〜300nm程度の厚さとすることができる。
【0039】
保護層30は、第1領域W1および第3領域W3に設けたマスクの上から形成することにより、側面32の上に選択的に形成してもよい。その他、n型クラッド層18の上面18a、側面32、p型クラッド層24の上面24aの全面を被覆するように保護層を形成した後に、第1領域W1および第3領域W3に対応する部分を除去してもよい。後者の場合、例えば、プラズマ等を用いたドライエッチングにより保護層の一部を除去してもよいし、フッ化水素酸(HF)等を用いたウェットエッチングにより保護層の一部を除去してもよい。
【0040】
つづいて、第1領域W1に露出するn型クラッド層18の上面18aの上にn側電極28が形成され、第2領域W2に露出するp型クラッド層24の上面24aの上にp側電極26が形成される。なお、n型クラッド層18の上面18aにn型コンタクト層を形成し、n型コンタクト層の上にn側電極28を形成してもよい。同様に、p型クラッド層24の上面24aの上にp型コンタクト層を形成し、p型コンタクト層の上にp側電極26を形成してもよい。以上の工程により、図1に示す深紫外発光素子10ができあがる。
【0041】
つづいて、本実施の形態に係る深紫外発光素子10が奏する効果について説明する。
図6は、比較例に係る深紫外発光素子のシミュレーション結果を示す図であり、側面32の傾斜角θaが70度の場合の光線追跡の結果を示す。図示されるように、側面32に向かう光線の多くが保護層30の外面30aから外に漏れ出しており、側面32に反射された後にn型クラッド層18に向かう光線の割合が極めて小さいことが分かる。このように、側面32の傾斜角θaが大きい場合には、側面32に向かう深紫外光を基板12の光取出面12bから取り出すことができない。
【0042】
図7は、実施例に係る深紫外発光素子のシミュレーション結果を示す図であり、側面32の傾斜角θaが30度の場合の光線追跡の結果を示す。図示されるように、側面32に向かう光線の一部は保護層30の外面30aから外に漏れ出すものの、側面32に向かう光線の多くは側面32または保護層30の外面30aにおいて反射され、n型クラッド層18に向かっている。また、n型クラッド層18と活性層20の界面19に入射する光線の入射角が小さいため、基板12の光取出面12bにて全反射されることなく外部に取り出すことができる。このように、側面32の傾斜角θaを小さくすることによって、側面32に向かう深紫外光の一部を基板12の光取出面12bから取り出すことができる。
【0043】
図8は、側面32の傾斜角θaと光取出面12bの光出力量の関係を示すグラフである。このグラフは、上述の深紫外発光素子10の構造を模したモデルに対して光線追跡によるシミュレーションを実行し、光取出面12bからの光出力量を計算して求めた。計算モデルとして、400μm厚のサファイア基板(屈折率1.83)、2μm厚のAlNベース層(屈折率2.1)、2μm厚のn型AlGaN層(屈折率2.3)、500nm厚の活性層(屈折率2.56)を積層させ、活性層の上にp型半導体層を模した全吸収体を境界層として配置した。活性層の側面を傾斜させ、傾斜面の上に酸化シリコン層(屈折率1.4)を配置した。活性層の側面の傾斜角θaを20度〜90度の範囲で変化させ、サファイア基板から出力される光出力量を求めた。グラフの縦軸は、傾斜角θa=70度のときの光出力量を1とした相対値である。
【0044】
図示されるように、傾斜角θaが60度〜90度の範囲では、光出力量が相対的に低い一方で、傾斜角θaが20度〜50度の範囲では、光出力量が5%〜8%程度増加していることが分かる。このシミュレーション結果より、活性層20の側面32の傾斜角θaを50度以下とすることにより、光取出効率を高めることができることが分かる。
【0045】
図9は、実施の形態に係る深紫外発光素子10が奏する効果を模式的に示す図であり、活性層20から生じる深紫外光が伝搬する様子を模式的に示す。以下、本図を用いながら、傾斜角θaが50度以下となる場合に光取出効率が高められる理由について考察する。
【0046】
活性層20の任意の地点Sで生じる深紫外光は、主にn型クラッド層18と活性層20の界面19または活性層20と電子ブロック層22の界面に向かう。n型クラッド層18と活性層20の界面19に入射する深紫外光の一部は、基板12の光取出面12bに向かって伝搬し、光取出面12bから外部へ出力される。また、界面19に入射する深紫外光の別の一部は、界面19で反射して活性層20の内部を伝搬し、側面32に向かう。
【0047】
このとき、活性層20で生じる深紫外光がどの方向に伝搬されるかは、主に波源Sでの出射方向と深紫外発光素子10を構成する各層の屈折率により決まる。n型クラッド層18と活性層20の界面19に入射する深紫外光の入射角をθとし、活性層20の屈折率をnとすると、θ<sin−1(1/n)=θC1の関係を満たす深紫外光であれば、光取出面12bから深紫外発光素子10の外部に出力される。このときの臨界角θC1(以下、第1臨界角θC1ともいう)は、活性層20がAlGaN系半導体材料であり、屈折率n=2.4〜2.6程度であれば、第1臨界角θC1=22〜25度程度である。この第1臨界角θC1よりも入射角θが小さければ、光取出面12bにおいて全反射が生じずに深紫外光が光取出面12bから外に出力される。
【0048】
n型クラッド層18と活性層20の界面19では全反射が生じるため、所定範囲の入射角θを有する深紫外光は、界面19からn型クラッド層18に出力されない。AlGaN系半導体材料の屈折率は、AlN組成比が高い(つまり、バンドギャップが高い)ほど屈折率が低くなる傾向にあり、AlN組成比が相対的に低い活性層20の屈折率nよりもAlN組成比が相対的に高いn型クラッド層18の屈折率nの方が低い。例えば、AlN組成比が40%以上のn型クラッド層18であれば、その屈折率n=2.2〜2.3程度である。この値を用いれば、界面19における臨界角θC2(以下、第2臨界角θC2ともいう)は、θC2=sin−1(n/n)=58〜73度程度となる。
【0049】
以上より、界面19に入射する深紫外光の入射角θが第1臨界角θC1よりも小さい場合、光線Lで示されるように、光取出面12bから外に深紫外光が出力される。一方、界面19に入射する深紫外光の入射角θが第2臨界角θC2より大きい場合には界面19にて全反射し、光線Lで示されるようにして側面32に向かう。このとき、側面32に入射する深紫外光の入射角θは、界面19での入射角(または反射角)θと側面32の傾斜角θaを用いて、幾何学的にθ=|θ−θa|と表すことができる。
【0050】
側面32にて反射される深紫外光は、側面32の傾斜角θaに応じて向きを変え、光線Lで示されるように界面19に入射角θで再入射する。また、光線Lで示されるように、側面32にて反射されずに保護層30を透過し、保護層30の外面30aで反射される深紫外光も同じ入射角θで界面19に再入射する。このときの再入射角θは、界面19での最初の入射角(または反射角)θと側面32の傾斜角θaを用いて、幾何学的にθ=|θ−2θa|と表すことができる。
【0051】
このとき、界面19への再入射角θが上述の第1臨界角θC1よりも小さい場合、光線Lで示すように、光取出面12bから外に深紫外光が出力される。つまり、|θ−2θa|<θC1の条件(以下、光取出条件ともいう)を満たす最初の入射角θが存在するような傾斜角θaであれば、活性層20の側面32に向かう深紫外光を光取出面12bから外部に取り出すことができるようになる。このような傾斜角θaの条件は、以下の式(1)により表すことができる。
【数2】
【0052】
上記式(1)の右辺を屈折率n=2.4〜2.6として計算すれば、56〜58度程度となる。したがって、この上限角よりも傾斜角θaを小さくすれば、上述の光取出条件を満たす深紫外光を生じさせることができ、さらに、傾斜角θaをより小さくすることで、光取出条件を満たすこととなる入射角θの角度範囲を広げることができる。以上の考察より、側面32の傾斜角θaは、50度以下とすることが好ましく、40度以下とすることがより好ましいと言える。例えば、傾斜角θa=40度の場合、入射角θが63度以上となる深紫外光、つまり、界面19にて全反射される深紫外光の大部分を第1臨界角θC1よりも小さい再入射角θで界面19に入射させることができる。
【0053】
活性層20にて生じる深紫外光の出力方向は、活性層20のAlN組成比により異なる。特に短波長の深紫外光(310nm以下)を出力するために活性層20のAlN組成比を高めると、界面19に垂直な方向の光成分が減少し、界面19に沿った方向の光成分が増加する傾向にある。本実施の形態によれば、側面32の傾斜角θaを適切に設定することで、界面19により反射ないし全反射されてしまうために光取出面12bに向かうことのできない深紫外光の向きを適切に変化させることができる。したがって、本実施の形態によれば、特に短波長の深紫外光を出力する深紫外発光素子10において、光取出面12bからの光取出効率を高めることができる。
【0054】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施の形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0055】
10…深紫外発光素子、12…基板、12b…光取出面、18…n型クラッド層、19…界面、20…活性層、22…電子ブロック層、24…p型クラッド層、26…p側電極、28…n側電極、30…保護層、32…側面、W1…第1領域、W2…第2領域。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9