(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記コントローラーが、前記第1電気信号及び前記第2電気信号を発生するための指令でプログラムされたパルス発生機を含むことを特徴とする、請求項1記載のシステム。
前記コントローラーが、約3,000 Hzから約10,000 Hzの範囲の周波数に第2電気信号を規定するための指令を有することを特徴とする、請求項1記載のシステム。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、患者の脊髄SCの全体解剖形態に対して配置される、慢性疼痛緩和を実現するための、代表的治療システム100を模式的に示す。この治療システム100は、患者の皮下に埋設されるコントローラー(例えば、パルス発信機101)を含むことが可能である。このパルス発信機101は、リード本体102を介して、脊髄SCのごく近くに埋設される、電極アレイ103、またはその他の脊髄出力デバイスに付着される。電極アレイ103は、支持基板によって担持される、複数電極、または電極接点を含んでもよい。パルス発信機101またはその他のコントローラーは、リード本体102を介して、電極アレイ103に指令および電源を伝達し、それらは、患者の神経線維に対し、該神経を上方調整(例えば、刺激)するか、および/または、下方調整(例えば、ブロックまたは部分的ブロック)するように、治療信号(例えば、電気パルス)を印加するのに使用される。したがって、パルス発信機101は、それらの指令を含む、コンピュータ読み取り可能な媒体を含んでもよい。システム100のパルス発信機101および/または他の要素は、一つ以上のプロセッサー、メモリー、および/または、入出力デバイスを含んでもよい。パルス発信機101は、例えば、複数の信号出力パラメータにしたがって信号を振り分けるための複数部分を、単一筐体の中に(
図1に示すように)、または複数の筐体の中に収めて含んでもよい。
【0022】
ある実施態様では、パルス発信機101は、治療信号を発生するための電力を外部電源105から取得してもよい。患者に対して外部に配置されるこの外部電源105は、電磁誘導(例えば、RF信号)を用いて埋設パルス発信機101に伝達される。例えば、外部電源105は、埋設可能パルス発信機101内の対応コイル(図示せず)と交信する外部コイル106を含んでもよい。外部電源105は、使用の便利のためにポータブルであってもよい。
【0023】
別の実施態様では、パルス発信機101は、治療信号を発するための電力を、内部電源から取得してもよい。例えば、埋設されるパルス発信機101は、電力を供給するために、再充電不能バッテリー、または再充電可能バッテリーを含んでもよい。内部電源が、再充填可能バッテリーを含む場合、外部電源105は、このバッテリーの再充電のために使用されてもよい。次に、この外部電源105は、適当な電源、例えば、標準的電源プラグ107を介して充電されてもよい。
【0024】
さらに別の実施態様では、外部プログラマー(図示せず)は、電磁誘導を介して埋設可能パルス発信機101と交信してもよい。したがって、施術者は、パルス発信機101によって供給される治療指令を最新のものに改めることが可能である。必要に応じてさらに、患者が、少なくともいくつかの治療機能、例えば、パルス発信機101の起動および/または停止に対する制御を有していてもよい。
【0025】
図2は、別の治療システム200を示す。このシステムでは、埋設可能パルス発信機101は、経皮リード体108および109に接続され、これらは次に電極110に接続される。リード108、109、および電極110は、二つの電極110が、各リード108、109によって担持される、双極型として示される。しかしながら、他の実施態様では、リード108、109はそれぞれ、治療信号を印加するために、もっとたくさんの電極110(例えば、3、4、5、8個、またはそれ以上の電極)を含んでもよい。前述の実施態様のいずれにおいても、これらの電極は(例えば、電極アレイ103、または経皮リード108、109の電極110)、さらに下記に詳述するように、種々のタイプの治療の適用を可能とするように、患者の内部の種々の神経線維の近くに配置されていてもよい。
【0026】
図3は、本開示のいくつかの実施態様による代表的リード108(リード108a-108dとして示される)のために選ばれた代表的部位と共に掲げる、脊髄SCおよび近傍脊椎骨VTを含む脊髄領域SR(全体として、Crossman and Neary,“Neuroanatomy(「神経解剖学」),”1995 (Churchill Livingstoneによって出版)に基づく)の断面図である。脊髄SCは、腹側に位置する椎体VVBと、背側に位置する椎体DVBであって、横突起198および棘突起197を含む椎体の間に位置づけられる。矢印VおよびDは、それぞれ、腹側および背側方向を特定する。特定実施態様では、椎骨VTおよびリードは、T10またはT11(例えば、軸的に低い背部痛または脚痛の場合)にあってもよいし、他の実施態様では、リードは、他の部位に設置されてもよい。脊髄SCそのものは、硬膜DMの中に位置する。硬膜はまた、後根DR、後根神経節G、および前根VRを含む、脊髄SCから出る神経部分を取り囲む。脊髄SCは、上行経路区域APおよび下行経路区域DPを含む、求心性および遠心性線維から成る、特定可能区域を有するものとして描かれる。
【0027】
リードは、一般に、触覚線維は刺激するが、侵害受容性の痛み伝達に関わる線維の刺激は回避するように位置づけられる。ある特定実施態様では、リード108a(例えば、第1リード)は、脊髄SCの後柱DCに対して信号を直接供給するために、側部方向の中心(例えば、脊髄中央線MLと整列する)に位置づけられてもよい。別の実施態様では、第1リードは、中央線MLから側方に位置づけられてもよい。例えば、単一またはペア電極は、後柱DCに信号を供給するように、脊髄中央線MLを少し外れて位置づけられる(リード108bによって示されるように)。他の、一つ以上のリード(例えば、第2リード)は、後根DRまたは後根進入ゾーンDREZの近くに(例えば、リード108cによって一般的に示されるように、脊髄中央線MLから1-4 mm離れて)、および/または、後根神経節Gの近くに(リード108dによって示されるように)位置づけられてもよい。第2電極のための他の適切な場所としては、同様に、中央線MLの側方に配置される「溝」が挙げられる。さらに別の実施態様では、リード108は、脊髄SCの近くで、および/または、他の標的神経集団の近くの他の場所、例えば、中央線MLの側方で、後根神経節194の内側の場所を有していてもよい。例えば、リードは、硬膜辺縁ではなく、中央線リード108aおよび中央線外リード108bにおいて破線で示されるように、硬膜下に配置されてもよい。施術者は、特定の患者の要求および病態に応じて、前記場所の種々の組み合わせの内から任意のものを選択してよい。少なくともある実施態様では、施術者は、二つのリードを、それぞれが、患者の脊髄SCの異なる標的部位(例えば、神経集団)に対して信号を振り向けるように位置づけられるように設置してもよい。別の実施態様では、信号リードは、2ヶ所以上の標的部位に位置づけられる電極を有していてもよい。いずれの場合も、個々の電極は、患者に対し有益な作用を実現するために、異なる神経集団に対し異なる特徴を持つ信号を配送してもよい。
【0028】
A.
治療選択肢
一般に、異なる作用を及ぼすために、種々のタイプの治療信号が、患者の神経線維に印加されてよい。例えば、患者の神経線維に対する低周波(LF)治療信号の印加は、該神経線維を刺激して、当該技術分野において「感覚異常」と呼ばれる作用を生み出す可能性があり、この作用は、患者において痺れ感覚を引き起こす。この感覚異常作用は、慢性疼痛をマスクし、患者に対し緩和を提供する可能性がある。このような治療信号の印加は、一般に、脊髄刺激(SCS)療法として知られる。本開示のある特定実施態様では、LF信号は、最大約1,500 Hzの範囲の周波数、および、信号周期の半分以下のパルス幅を持つことが可能である。ある特定実施態様では、LF信号は、約40 Hzから約500 Hzの範囲の周波数を持つことが可能である。
【0029】
神経に対する高周波(HF)治療信号の印加は、その神経をブロックまたは部分的にブロックする。したがって、本開示において使用する場合、「ブロック」という用語は、一般に、少なくとも部分的ブロック(例えば、部分的または完全ブロック)を指し、「ブロック信号」という用語は、一般に、少なくとも部分的ブロックを引き起こす信号を指す。さらに、ブロックとは、神経信号の伝達を抑制または阻止すると考えられているが、患者に対する所望の作用(例えば、疼痛低減)は、必ずしもその機序だけに限定されるものではなく、少なくともある実施態様では、疼痛低減は、他の、一つ以上の機序によって実現されてもよい。このブロックは、興奮性反応が、患者の脳に達するのを抑制および/または阻止する。通常、HF治療信号は、二相性信号を含む。ある特定実施態様では、HF治療信号は、50%稼動サイクルと、約2,500 Hzから約100,000 Hzの範囲内の周波数を有する二相性(交流)信号である。特定実施態様では、HF信号は、約2,500 Hzから約20,000 Hzの範囲内、別の特定実施態様では、約3,000 Hzから約10,000 Hzの範囲内に周波数を持ってもよい。
【0030】
後柱DC(
図3)に印加することが可能な、HF信号波形の代表的例を、
図4および5に示す。
図4に示す信号波形は、二相性、電荷平衡型、方形波パルスを含む。図示の例では、第1波形400は、第1信号チャンネルC1に印加され、第2波形450は、第2信号チャンネルC2に印加される。ある特定実施態様では、信号400、450間の相互作用を最小にするために、第1信号チャンネルC1上の波形は、第2信号チャンネル上の波形と互い違いに交差される。この選択肢は、一般に、HF信号の稼動サイクルが50%未満である場合、第1チャンネルC1と第2チャンネルC2の間で共有される一つ以上の接点を用いて利用することが可能である。HF信号が50%稼動サイクルを持つ場合、第1および第2チャンネルC1およびC2それぞれについて、この二つのチャンネル間の干渉を避けるために、別々の専用接点を用いることが可能である。さらに別の実施態様では、
図4に示すもの以外の信号波形を使用することも可能である。例えば、
図5は、それぞれ、第1および第2信号チャンネルC1、C2を介して印加することが可能な、二相性、電荷平衡型、正弦波パルス500、550を示す。
【0031】
慢性疼痛の管理において治療信号を投与するための詳細な治療過程を下記に説明する。
ある実施態様では、医師、または他の施術者は、慢性疼痛管理のために治療を実施するに際し、後述する治療過程の内の二つ以上を組み合わせるように選択することが可能である。異なる種類の療法の組み合わせは、複数の患部において疼痛緩和を実行することを可能とするから、患者に対しより広範な治療が提供される。例えば、一実施態様によれば、複数の治療過程を、ある患者に対し同時に与えることが可能である。別の実施態様では、複数の療法を、時間的に間を置いて、または外して組み合わせる(これが有利となる場合がある)ことも可能である。例えば、後に詳述するように、一治療信号を、別の治療信号の始動および/または維持を促進するために使用してもよい。
【0032】
1.
後柱におけるブロック作用
慢性疼痛管理用治療実施の代表的第1治療過程は、患者の後柱DCに対し直接HFブロック信号を印加することを含む。例えば、
図6は、後柱DCに対して印加される、代表的HFブロック信号600の模式図である。このHFブロック信号は、感覚異常によって与えられる疼痛緩和に取って代わるように、LF刺激信号の代わりに、後柱DCに印加してもよい。
【0033】
一般に、HF刺激ブロック信号600は、後柱DCにおいて、患者によって感じられる慢性疼痛をブロックするのに十分な、部分的または総合的神経ブロックを確立するために後柱DCに印加される。HF治療信号は、比較的低いデルマトームからの痛み信号の伝達をブロックするために、後柱DCの一つ以上の選択領域(例えば、脊椎レベル)に対して印加してもよい。HFブロック信号は、その選択領域に対応するデルマトームにおける痛み感覚を抑制または阻止すること(例えば、麻酔を実行すること)が可能である。
【0034】
2.
後根および/または後根神経節におけるブロック作用
慢性疼痛管理用治療実施の代表的第2治療過程では、HFブロック信号は、後柱DCに対して直接的に行う代わりに、患者の、一つ以上の後根DRおよび/または後根神経節(単数または複数)Gに対して印加される。
図7は、後根DRに対して印加される例示のHFブロック信号700の模式図である。後根DRおよび/または後根神経節Gにおけるブロックは、生体の一つ以上の領域と関連する感覚信号のブロックを促進する。一方、後柱DCにおけるブロックは、一般に、触覚および固有受容器信号のみを、一般に、ブロック電極よりも下位に位置する、該後柱DCのセクションと関連する全てのデルマトームにおいてブロックする。
【0035】
後根DRおよび/または後根神経節Gに電極(例えば、
図1に示すアレイ103によって担持される電極、または
図2に示す電極110)を配置することによって、治療信号の範囲および有効性を強調することが可能である。このような場所では、CSF液層が、後柱DCにおけるほど厚くはないので、脊髄領域により多くの電流が流れることを可能とする。CSF液層は、後柱DCに近づけば近づくほど厚くなり、これは、電流が後柱DCに達する前に、電流の多くをシャントする可能性がある。電極を後柱DCから遠ざけることによって、神経線維の電気的ブロックが、より少ない電力で確立される可能性のあることが期待される。
【0036】
さらに、感覚神経反応は、通常、後根DRを通って後柱DCへ進み、一方、運動神経反応は、前根VR(
図3参照)を通って脊髄SCへと進む。したがって、治療信号を後根DRに対して印加することは、運動制御インパルスを低下させたり、排除することなく、感覚反応(例えば、痛み)のブロックを促進することが可能である。
【0037】
3.
抹消神経におけるブロック作用
慢性疼痛管理用治療実施の第3治療過程では、HFブロック信号は、患者の末梢神経(例えば、脊髄SCの遠位の神経)に印加してもよい。例えば、HFブロック信号は、患者の体性神経に印加してもよい。別の実施態様では、HFブロック信号は、患者の自律神経に印加することも可能である。抹消神経にHFブロックを印加することによって、電極を、脊髄SCおよび脊髄液から遠ざけて設置することが可能となり、したがって、脊髄機能に対する干渉の危険性が低くなる可能性がある。
【0038】
4.
刺激治療によるブロック作用の組み合わせ
慢性疼痛管理用治療実施の他の治療過程では、HFブロック信号の印加は、感覚異常を誘発するための、患者の後柱DCに対するLF刺激信号の印加と組み合わされる。一般に、HFブロック信号は、LF刺激信号の印加に由来する患者の不快を緩和することによって、感覚異常の誘発を促進する可能性がある。
【0039】
後柱DCに対するLF刺激信号の印加は、電極(単数または複数)と脊髄の間の距離(例えば、中間の脳脊髄液層の厚み)に応じて、感覚異常を誘発するか、および/または、患者の不快を誘発する。本明細書で用いる「不快」という用語は、一般に、不愉快な、望ましからざる、具合の悪い、および/または好ましくない感覚、またはその他の反応を指す。
この用語は、痛みを含むが、ただし痛みに限定されない。通常、通例のSCS治療では、患者の不快は、電極(単数または複数)によって引き起こされる電場が、思いがけず近くの後根DRに印加されることから生じる。一般に、電極と脊髄の間の距離が大きければ大きいほど、信号振幅が増すにつれて、電場が、後根DRと相互作用を持ち、後根DRにおいて痛み感覚を刺激し、したがって、不快および/または痛みを引き起こす可能性が高くなる。
【0040】
図8は、電極と脊髄の間の間隔の関数として表した、感覚異常(閾値曲線T
pによって表される)を誘発すると考えられるLF刺激信号の振幅、および、患者の不快を誘発すると考えられるLF刺激信号の振幅(閾値曲線T
D)を模式的に示す。
図8は、間隔の関数として振幅を正確にプロットすることを意図したものではなく、むしろ、感覚異常閾値T
p、患者不快閾値T
D、および間隔の間の一般的関係を描くことを意図したものである。
【0041】
図8に示すように、電極が、脊髄に対し比較的接近して置かれている場合(例えば、距離が、約距離Xよりも小さい場合)、電極(単数または複数)によって創出される電場は、不快を引き起こす前に感覚異常を誘発する。一方、電極が、脊髄から遠く離れている場合(例えば、距離が、約距離Xよりも大きい場合)、LF刺激信号は、感覚異常を誘発するのに十分なレベルで後柱線維を刺激する前に、後根DR線維を刺激する可能性があり、したがって、不快を招く可能性がある。感覚異常閾値T
p、および患者の不快閾値T
Dは、電極間隔距離Xにおいて交わり、それは、少なくともある実施態様では約2 mmであり、信号出力パラメータを含む要因に応じて変動する可能性がある。電極間隔、感覚異常、および疼痛間の関係に関するさらなる詳細は、例えば、Effectiveness of Spinal Cord Stimulation in the Management of Chronic Pain: Analysis of Technical Drawbacks and Solutions(「慢性疼痛の管理における脊髄刺激の有効性:技術的欠点および解決の分析」) by Jan Holsheimer (Neurosurgery, Vol. 40, No. 5, May 1997)中に見出すことができる。
なお、この開示の全体を引用により本明細書に含める。
【0042】
慢性疼痛管理治療実施に関する開示の実施態様にしたがう、ある併用治療過程は、LF信号振幅が不快閾値T
Dに達したときに引き起こされる不快感覚を抑制するために、HFブロック信号を使用し、それによって、LF信号の振幅をさらに感覚異常閾値T
pまで高めることを可能とする。これは次に、仮令、該LF信号が、通常であれば、さらに不快を招かずに感覚異常を引き起こすには、標的神経領域(例えば、後柱)から離れすぎていると考えられる電極によって供給される場合でも、該LF信号が有効となることを可能とする。後述するように、他の併用治療過程も、脊髄領域の異なるセクションをブロックすることによって実現される疼痛緩和によって、感覚異常によって実現される疼痛緩和を増大させる。
【0043】
a.
後根におけるブロック作用
慢性疼痛管理用治療実施の第4の代表的治療過程は、HFブロック信号を後根DR(および/または後根神経節G)に印加し、一方では、LF刺激信号を、後柱DCに印加することである。本開示で用いる「後根」という用語は、後根そのもの、後根進入ゾーン、および脊髄円錐を含むことが可能である。
図9は、患者の後根DRに印加されるHFブロック信号900、および後柱DCに印加されるLF刺激信号950の模式図である。HF信号は、後根DRにおいてブロックを確立し、これは、LF刺激信号の電場によって誘発される痛み感覚の、脳への伝達を抑制する。
【0044】
ある実施態様では、HFブロック信号900は、LF刺激信号950が後柱DCに印加される前に、後根DRに印加される。一方、別の実施態様では、HFブロック信号900は、LF刺激信号950が後柱DCに印加されるのとほぼ同時か、またはその後で印加することが可能である。一実施態様では、LF刺激信号950は、低レベル振幅で開始し、その後傾斜上昇して適切な動作振幅に達することが可能である。
【0045】
別の実施態様では、後根DRに印加されるHFブロック信号は、感覚異常によって実現される疼痛緩和を増大させる。例えば、後根DRのブロックは、抹消性疼痛(例えば、任意の末梢性疼痛)が、後根DRを介して伝達されるのをブロックすることが期待される。これは、LF信号によって引き起こされる不快だけでなく、LF信号が対処することを期待される疼痛を含むことが可能である。
【0046】
b.
後柱におけるブロック作用
慢性疼痛管理用治療実施の第5の代表的治療過程は、後根DCの第1セクションにHFブロック信号を印加し、一方、後柱DCの第2セクションにLF刺激信号を印加する。LF刺激信号は、後柱DCの第2セクション、およびそれより下方のセクション(例えば、全ての下方セクション)に関連するデルマトーム(例えば、全てのデルマトーム)において感覚異常の感覚を誘発すると期待される。HFブロック信号は、第1セクション、およびそれより下方のセクションにおいて引き起こされる興奮性反応が、脳へ達するのをブロックすることが期待される。
【0047】
ある実施態様では、HFブロック信号は、LF刺激信号が後柱DCに印加される前に、後柱DCに印加される。一方、別の実施態様では、HFブロック信号は、LF刺激信号が印加されるのと事実上同時か、またはその後で印加することが可能である。一実施態様では、LF刺激信号は、低レベル振幅で開始し、その後傾斜上昇して適切な動作振幅に達することが可能である。
【0048】
別の実施態様では、後柱DCに印加されるHFブロック信号は、感覚異常によって実現される疼痛緩和を増大させる。例えば、LF刺激信号は、疼痛感覚を抑制する神経反応を発射することが可能であり、HFブロック信号は、痛み信号を脳へ伝達する神経反応を抑制することが可能である。
【0049】
一般に、HF信号は、LF信号が印加される部位よりも上(上位)または下(下位)の後柱DCに印加することが可能である。後柱DCに印加される信号は、標的感覚信号経路にそって両方向に、例えば、脳に向かう方向(順行)、および脳から遠ざかる方向(逆行)に活動電位を誘発する傾向がある。もしも、順行性LF信号が、標的疼痛をマスクする、痺れなどの快適(または少なくとも嫌悪を招くものではない)感覚を引き起こすのであれば、後柱DCに印加されるHF信号は必要ないかも知れない。一方、もしも、LF信号が不快感覚(順行信号)を引き起こし、対応する逆行信号が標的疼痛を緩和するように作用するのであれば、HF信号は、該順行信号によって引き起こされる不快感覚は抑制するが、一方、有益な逆行信号に対してはまったく作用を及ぼすことがないように、LF刺激の上位に印加されてもよい。さらに、患者は、後柱における電気接点と結合するLF信号発信機、および、該後柱DCに対して上位に位置する電気接点と結合するHF信号発信機を含むデバイスを装着することが可能である。特定実施態様では、もしも(a)LF信号によって引き起こされる感覚異常が患者にとって嫌悪をもよおすものであり、かつ、(b)LF信号によって引き起こされる逆行活動電位が標的疼痛を抑えるものであるならば、HF信号発信機が活性化される。
【0050】
別の実施態様では、HF信号は、LF信号が印加される場所よりも下位の場所の後柱DCに印加することが可能である。この場合、LF信号によって引き起こされる逆行信号は、標的疼痛の低減には寄与しない(または有意に寄与しない)と仮定される。したがって、このような逆行信号をブロックすることが期待される、下位部位におけるHF信号の印加は、LF信号の有効性、例えば、順行性感覚異常作用に対して影響を及ぼさないと予想される。さらに、近年の証拠に基づけば、痛みは脊髄視床路を通るとする比較的古いモデルとは対照的に、後柱DC線維が痛みを伝達することが仮定される。この仮定に基づけば、後柱を通る順行性痛み信号をブロックすることは、標的疼痛を低減することが期待される。
【0051】
B.
治療パラメータ
一般に、前述の治療選択肢、またはそれらの一つ以上の組み合わせを用い、患者に対し、慢性疼痛管理を提供するには、治療システム100、200(
図1および2)を利用することが可能である。下記の治療パラメータは、特定実施態様による治療パラメータを表す。
【0052】
1.
信号パラメータ
一般に、HFブロック信号は、約2,500 Hzから約100,000 Hzの範囲の周波数を持つことが可能である。ある特定実施態様では、HFブロック信号は、約2,500 Hzから約20,000 Hz、別の実施態様では、約3,000 Hzから約10,000 Hzの範囲の周波数を持つ。別の特定実施態様では、HF信号は、10,000 Hzを超える周波数を持つ。10,000 Hzを上回る周波数では、移行時間が短くなる、例えば、ブロックを確立するのに必要な時間よりも短くなることがある。HFブロック信号の電流は、一般に、約2 mAから約20 mAの範囲にあってよい。ある特定実施態様では、代表的HFブロック信号の電流は、約5-10 mAである。
【0053】
2.
始動後の信号振幅変調
HFブロック信号を始動した後、該ブロック信号の振幅を、患者の感覚体験に影響を及ぼすことなく、第1動作レベルから、より低い第2動作レベルに下げることが可能である。例えば、特定実施態様では、始動後、HFブロック信号の振幅を、確立されたブロックに影響をおよぼすことなく、約10-30%下げることが可能である。この結果によって、治療システム100、200(
図1および2)を操作するのに必要な電力を有利に下げることが可能となる。
例えば、動作電力の低減は、パルス発信機101のバッテリー寿命を延長するか、または、その他電源消耗の低減を可能とする。
【0054】
3.
オン/オフ時間の変調
ある実施態様では、治療は、不連続的に、すなわち、稼動サイクルにしたがって、治療が与えられる期間、および、治療が停止される期間を含むように印加することが可能である。種々の実施態様では、治療印加時間は、数秒から数時間の範囲に亘ることが可能である。別の実施態様では、治療信号の稼動サイクルは、数ミリ秒に亘ることが可能である。
【0055】
C.
ブロック信号の始動
最初にHFブロック信号が神経線維に印加されると、ブロックが効果を発揮する前に、患者は開始反応を体験する。開始反応は、神経線維の短時間の活性化によって誘発され、突然の痛み、および/または、不随意の筋収縮をもたらす。このような開始反応は、治療信号が、患者の後柱DC、後根DR、後根神経節G、または末梢神経に印加されたかどうかとは無関係に起こることが可能である。
【0056】
この症状を和らげるために、後述のような、種々の始動手順を使用することが可能である。例えば、ブロック信号を始動することによって引き起こされる神経の活性化は、該ブロック信号の信号パラメータ(例えば、振幅および/または周波数)を調整することによって緩和することが可能である。それとは別に、開始反応によって引き起こされる患者の不快は、さらに別の疼痛管理治療を適用することによってマスクすることが可能である。
【0057】
1.
開始反応の緩和
本開示で用いる場合、開始反応の緩和とは、一般に、他のやり方では、ブロック信号が印加される神経にもたらす活性化が減少することを指す。
【0058】
a.
振幅の傾斜上昇
患者の開始反応を緩和するための最初の始動手順は、神経に印加されるブロック信号の振幅を徐々に傾斜上昇させることを含む。本開示で用いる場合、ブロック信号の振幅とは、該信号の電流振幅および/または電圧振幅を指してもよい。なぜならば、ブロック信号の電流と電圧の間には直接的関係が存在するからである。
【0059】
比較的低い振幅で信号を始めることによって、最初は、比較的少数の線維が影響され、刺激される。振幅が増大するにつれ、以前の神経線維においてブロックが確立されるときには、さらに新たな神経線維が刺激される。したがって、一時に活性化される神経線維の全数は、非傾斜性始動刺激に比べると、減少する。同様に、刺激線維によって引き起こされる患者の不快も緩和することが期待される。
【0060】
例えば、
図10では、代表的ブロック信号1000の振幅および/または周波数は、ある有限期間において、徐々に増して動作振幅OAに達する。一実施態様では、波形1000の振幅は、数秒の期間に亘って増大する。一方、別の実施態様では、振幅および/または周波数は、それよりも長いか、または短い期間(例えば、数分または数ミリ秒)に亘って増大することも可能である。さらに別の実施態様では、振幅および/または周波数は、
図11A-11Cを参照しながら後述するように、経時的に減少させることが可能である。
【0061】
b.
振幅および周波数変調
図11A-11Cを参照すると、治療に対する開始反応を抑えるための、第2の始動手順は、少なくとも二つの相を含む。一つは、印加される周波数および/または振幅は、一般動作レベルを上回るものであり、一つは、周波数および/または振幅は低減されて、動作レベルに達するものである。これらの相、およびさらに別の相(ある場合には、必要に応じて選ばれる相)を下記に説明する。
【0062】
ある実施態様では、第2始動手順は、選択的開始相P0を含む。この相では、ブロック信号の周波数は一定レベルF1に維持されるが(
図11A参照)、ブロック信号の振幅は、低振幅A1から、高振幅A2へと傾斜上昇される(
図11B参照)。
【0063】
第1相P1では、一般的動作周波数FO1および動作振幅AO1よりも大きい周波数F1および振幅A2を持つブロック信号が神経に印加される。例えば、約2,500 Hzから約20 kHzの範囲の周波数、および最大約20mAの振幅を持つブロック信号を、第1相P1において印加することが可能である。
【0064】
ある実施態様では、極めて高い周波数F1および高い振幅A2を有するブロック信号の印加は、神経に対し速やかにブロックをもたらす。一方、別の実施態様では、第2始動手順は、ブロックが確立される(すなわち、その間に、信号の強度が閾値T1を超える)選択的移行相P2を含んでもよい。しかしながら、移行相P2を利用する場合でも、このブロック信号は、単純に動作周波数および動作振幅を有するだけの信号で実現されると考えられるものよりも速やかに神経においてブロックを確立する。
【0065】
移行相P2の間、ブロック信号の周波数は、極めて高い周波数F1から、周波数F2に減少する(
図11A参照)。周波数F2は、周波数F1よりも低いが、それでも依然として、動作周波数FOよりも有意に高い。周波数を下げることは、相当たりの電荷を増し、したがって、ブロック信号当たりの強度を増す(
図11C参照)。周波数は、信号強度が、ブロック強度T1と交わるまで低減される。一実施態様では、振幅を、移行相P2の間、さらに増大させてもよい。
【0066】
続く相P3において、ブロック信号の周波数および振幅は、ブロックが確立されたレベルから、第1動作レベル(例えば、FO1、
図11Bに示すAO1)に減少させることが可能である。
一実施態様では、ブロック信号の相あたりの電荷が、ブロック閾値T1を超えるとブロックが確立される(
図11C参照)。ブロック信号の振幅を下げると、電源の消耗が減る。周波数の低下は、振幅の低下を補償するために、相当たりの電荷(例えば、神経線維に印加される刺激)を増す。一実施態様では、施術者は、周波数と振幅を同時に傾斜下降させる。
一方、別の実施態様では、振幅および周波数を、別々の時間に傾斜下降させることも可能である。
【0067】
ある実施態様では、選択相P4は、ブロックが確立された後、信号の振幅を、第1動作レベルAO1から異なる動作レベルAO2へ下げることを含む(
図11B参照)。振幅を減らすことは、相当たりの電荷を下げる(
図11C参照)。仮令、相当たりの電荷が第1閾値T1より下降しても、相当たりの電荷が、第2閾値T2よりも低く下降しない限り、ブロックを維持することは可能である(
図11C参照)。通常、閾値T2は、閾値T1よりも10-30%低い。
【0068】
図12は、最初に高い周波数F1(例えば、約30-50 KHz)および高い振幅A2(例えば、約15-20 mA)を持つ、例示のブロック信号1200の模式図である。図示の例では、ブロック信号1200は、二相性、電荷平衡型、方形波である。一方、別の実施態様では、ブロック信号1200は、好みのいずれの波形を含んでもよい。神経に対するブロックが確立されると、ブロック信号1200の振幅は、適切な操作レベルAO(例えば、約5-10 mA)に傾斜下降される。
図12にさらに示されるように、ブロック信号1200の周波数も、適切な操作レベルFO(例えば、約3-10 KHz)に下げることが可能である。
【0069】
図13は、1200aにおいて示される、初期の傾斜上昇相(その間に、信号振幅は増して最大振幅MAに達する)を持つブロック信号1200を示す。信号振幅を傾斜上昇させることによって、患者の不快を低減させるか、または無いものとして、信号を安全に始動することが可能となる。一方、他の実施態様では、開始相P0を飛び越して、ブロック信号の極めて高振幅A2を最初から印加することも可能である。
【0070】
2.
開始反応のマスキング
本開示で用いる場合、開始反応のマスキングという用語は、一般に、ブロック信号が印加される神経の活性化に影響を及ぼすことなく、他のやり方であれば開始反応から生じるはずの患者の不快が低下することを指す。
【0071】
a.
感覚異常の誘発
図14を参照すると、後柱DCに印加されるLF刺激信号によって誘発される感覚異常は、後根DRに印加されるHFブロック信号の開始反応を緩和することが可能である。低レベル感覚異常は、患者の慢性疼痛をコントロールするには十分な強くはないものの、HFブロック信号の始動による、患者の体験する不快のいくらか、またはその全てを緩和することが可能である。治療信号の、相対的タイミングの例を
図14に示す。
【0072】
図14に示すように、低振幅および低周波数(例えば、約40 Hzから約250 Hzの範囲の)を持つLF刺激信号1450が、感覚異常を誘発するために、患者の後柱DCに印加される。次に、高周波数(例えば、約2,500から約Hz 100,000Hz、およびある特定実施態様では、約2,500 Hzから約20,000 Hz、およびさらに別の特定実施態様では、約2,500 Hzから約10,000 Hz)を持つHFブロック信号1400が、患者の後根DRに印加される。後柱DCを刺激することによって誘発される感覚異常は患者の安楽を強調し、一方、部分的または完全なHFブロックは後根DRにおいて確立される。代表的例では、LF信号は、HF信号の印加前、数秒間、少なくとも不快および/または痛みを引き起こす振幅以下の振幅で、後柱DCに印加される。特定実施態様では(例えば、HFブロック信号自体が、十分な治療効果を有する場合)、HF信号が確立され、開始反応を経験する期間が過ぎ去った時点で、LF信号を停止することも可能である。代表的実施態様では、この期間は、約5秒から約5分であってもよい。次に、HF信号が再び開始反応を抑制または除去するために始動された時点で、LF信号を短期間再度確立してもよい。このようにして、連続的(したがって、電力消費的)LF信号を要することなく、開始反応をコントロールすることが可能である。この配置は、LF信号が、HF信号部位よりも上位の部位に印加される場合、例えば、LFおよびHF信号の両方が後柱DCに印加される場合、またはLF信号が、HF信号が印加される後根DR部位よりも上の後柱DCに印加される場合に、使用することが可能である。
【0073】
b.
薬理学的麻酔剤
さらに、痛みの神経伝達シナプスまたは神経筋接合部に影響を及ぼす、一つ以上の製剤を、HFブロック信号などの治療信号を開始する前に、患者に対し投与することが可能である。例えば、これに関連して、硬膜外に注入する場合、ブピバカインおよび/またはその他の適切な局所麻酔剤を使用してよい。硬膜外および脊髄ブロックのために使用される、多種クラスの鎮痛剤としては、局所麻酔剤、オピオイド、アドレナリン作用剤、およびコリン様作用剤が挙げられる。局所麻酔剤は、軸索のナトリウムチャンネルのコンダクタンスを可逆的にブロックすることによって神経伝導を抑制する。オピオイドは、脊髄の後角におけるオピオイド受容体に可逆的に結合することによってその作用を及ぼす。アルファ-2アドレナリン様因子は、脊髄のアルファ-2アドレナリン様受容体と相互作用を持ち、コリン様作用剤は、脊髄後角表面層のムスカリン様およびニコチン様受容体近傍のアセチルコリン濃度を増すことによって鎮痛作用を発揮する。製剤は、電気信号を供給するものと同じデバイスから送達してもよいし、または薬剤は、別のデバイスから送達してもよい。
ある特定実施態様では、薬剤を滲出させるために、PLGAまたは別の適切なポリマーの使用が可能である。
【0074】
D.
電極構成
図15-18は、四つの電極を持つ電極アレイを含む、異なる設計の変異態様を示す。別の実施態様では、アレイは、同じまたは別のパターンに配置される、もっと大きいか、またはもっと小さい数の電極を含むことも可能である。ある特定の実施態様では、アレイは、三つの電極を含むことが可能である。さらに別の実施態様では、アレイは、最大16個またはそれ以上の電極を含むことが可能である。電極の数を増すことは、治療中利用することが可能なチャンネルベクトルの数を増すことになり、これによって、施される治療の種類、および/または、治療が施される領域が拡大される。
【0075】
図15は、脊髄SCに埋設される四つの電極115、116、117、118を含む例示の電極アレイ119を示す。
図15に示す実施態様では、第1治療信号(例えば、後柱DCにおいて感覚異常に影響を及ぼすため)が、後柱DCにそって延び、第1ペア電極116、117を含むことが可能な、アレイ119の第1出力チャンネルC1(模式的に示す)を介して印加される。第2治療信号(例えば、後根DRにおいて痛みをブロックするため)は、第1出力チャンネルC1に対しある角度(例えば、10°、30°、60°、90°、120°など)で延び、第2ペア電極115、116を含むことが可能な、アレイ119の第2出力チャンネルC2(模式的に示す)を介して伝達される。
【0076】
この構成では、電極116および電極117の間の第1チャンネルC1を介して印加される電気刺激のベクトルは、電極116および電極115の間の第2チャンネルC2を介して印加される電気刺激のベクトルに対して傾く。角度付き(例えば、直角)信号チャンネルC1、C2を実現するように電極を配置することによって、チャンネルC1、C2間の、電場相互作用を、低減または最小化することが可能である。さらに、第1チャンネルC1は、後柱DCと整列するように、第2チャンネルC2は、後根DRと整列するように方向づけることが可能である。例えば、第2チャンネルC2は、脊椎骨の胸椎領域の近くでは全体として直角に、腰椎領域に近づくにつれてより鋭角的に配置することが可能である。
【0077】
残余の電極118は、治療信号を印加するための他のチャンネルを創出するのに使用することが可能である。例えば、もしも後根が、第2ペア電極115、116の上で電極アレイ119を横切るのであれば、第2治療信号は、該後根DRをブロックするために、電極117、118間の第3チャンネル(図示せず)にそって印加することが可能である。別の実施態様では、残余電極118は、治療をさらに最適なものとするために、後柱DC用の他の刺激ベクトルを提供することが可能である。
【0078】
第1電極の内の一方(例えば、第1電極116)が、第1チャンネルC1および第2チャンネルC2両方の一部を形成する、前述の配置は、両チャンネルC1、C2に印加される信号が相互に交差される場合に適切である可能性がある。例えば、この配置は、第2チャンネルC2に印加されるHF信号が、50%未満の稼動サイクルを持ち、第1チャンネルC1に印加されるLF信号がこのHF信号と交差される場合適切である可能性がある。別の実施態様では(
図15において破線で示される)別の第1電極116aが、第1チャンネルC1のために電極117と組み合わせて使用され、電極115、116は、別の第2チャンネルC2を形成する。この配置は、一方の、または両方のチャンネルC1、C2に対して印加される稼動サイクルが50%である場合、使用することが可能である。見易くするために図示はしないが、同様の配置は、他の図面、例えば、
図16および18に示す実施態様にも適用することが可能である。
【0079】
a.
側方間隔
図16は、
図15に示す電極アレイ119の変異態様である電極アレイ120を示す。電極アレイ120は、
図14に示す対応電極115から側方にずれ、したがって、長さを延長させた第2出力チャンネルC2aを形成する、電極123を含む。チャンネルC2aの延長した長さは、より広いカバー範囲を持つ電場を創出する。患者の特異的解剖特徴の場合、電場の増大は、例えば、より多くの数の線維をブロックすることが望ましい場合有利である場合がある。一般に、電場が大きければ大きいほど、治療信号の影響を受ける神経線維の数は増大する。後柱DCにそって印加されると、大きな電場は、より深く、より側方において後柱DCの中に浸透し、そのため、生体の広い領域に亘って痛みが抑制される(例えば、複数のデルマトームをカバーすることによって)。
【0080】
一方、前述したように、神経線維の広い領域に影響を及ぼすことは必ずしも望ましいことではない。例えば、後柱DCに印加される比較的大きな電場は、後根DRまたは前根上の隣接線維により「漏洩」しやすくなる。さらに、比較的大きい電場は、運動制御信号を輸送する線維(例えば、前根)を刺激またはブロックする可能性がある。大きな電場は、これらの運動神経細胞に影響を及ぼしやすく、治療に対し有害な副作用を引き起こしやすい。
したがって、少なくともこのようなある場合では、
図15に示すアレイ119は、比較的適切であると考えられる。
【0081】
b.
軸方向間隔
電極アレイ中の電極はまた、後柱DCにそう浸透を増すために軸方向に隔てることが可能である。例えば、
図17に示す配置では、電極アレイ121は、電極116、117と軸方向に整列されるが、電極116に対し軸方向に下位の部位に配される電極124を含む。
【0082】
ある実施態様では、チャンネルは、該チャンネルの長さを増すために、非隣接電極間に形成することも可能である。例えば、
図17に示す実施態様では、電極124は、電極117と第1チャンネルC1aを形成することが可能である。一方、別の実施態様では、チャンネル長は、隣接電極間の間隔を増すことによって延長する。
【0083】
c.
非直角方向
ある実施態様では、電極アレイは、患者の解剖形態を反映する、電極刺激のためのベクトルを提供するように構成することが可能である。例えば、
図18に示す電極アレイ122は、電極アレイ119と関連して上述した対応電極と、全体として類似の電極115、116、117を含む。さらに、電極アレイ122は、電極115から軸方向に隔たった電極125を含む。図示の例では、電極125は、電極115に対し、軸方向に隔てられて、下位の部位にある。電極125は、アレイ119の電極118の代わりに含めることが可能である。
【0084】
電極アレイ122は、一般に、脊髄SCの椎間孔において後柱DCを離脱する後根DRが辿る方向に一致して走るチャンネルベクトル(例えば、チャンネルC2b)を提供すると有利である可能性がある。脳の近位側では、後根DRは、後柱DCに対し、全体として直角に後柱DCから枝分かれする。一方、脳の遠位側では、後根DRは、次第に下方角度において後柱DCから枝分かれする。したがって、
図18に示すタイプのアレイは、脳の遠位の応用に対して特に適切である可能性がある。
【0085】
3.
経皮リード構成
アレイ電極の構成に関しては色々の詳細がすでに記載されている。これから
図19A-21に関連して説明するように、同じ電極構成の多くのものは、双極性または多極性経皮リードによって実現することも可能であることが了解されるであろう。通常、経皮リードの要求する浸襲的手術の度合いは少なく、したがって、電極アレイよりも埋設するのに好都合である。
【0086】
a.
双極性リード
図19Aに示すリード構成140は、第2経皮リード130と共に患者の体内に埋設される、第1経皮リード126を含む。第1経皮リードは、それぞれ、第1および第2電極127、129を持ち、第2経皮リード130は、それぞれ、第1および第2電極131、133を持つ。電極127、129、131、133は、全体として、脊髄SCにそって整列される。通常、第1リード126の電極127、129は、第2リード130の電極131、133に対し平行に整列されるが、それらから側方に外れている。
【0087】
治療信号は、一方、または両方のリード126、130を用いて発生させることが可能である。後柱DCに治療信号を印加するには、該治療信号は、通常、単一リード(例えば、第1リード126)にそって配される電極によって発生される。後根DRに治療信号を印加するには、該治療信号は、通常、二つ以上の異なるリード上の電極(例えば、第1リード126の第1電極129と、第2リード130の第2電極133)によって発生される。図示の例では、LF刺激信号は、第1リード126を介して後柱DCに印加することが可能であり、HFブロック信号は、それぞれ、第1および第2リード126、130の電極129、133を介して後根DRに印加することが可能である。
【0088】
別の実施態様では、他のタイプの治療信号を、第1および第2リード126、130を介して印加することが可能である。例えば、HFブロック信号を、第2リード130の電極131、133を介して後柱DCに印加することが可能である。
【0089】
図19Bは、第2リード130aが後根DRにそって位置づけられ、第1リード126aが後柱DCにそって位置づけられる、別の実施態様を示す(
図19B参照)。本実施態様の一局面では、上方調整(例えば、感覚異常誘発性)信号は、後柱DCにおいて第1リード126aに印加することが可能であり、下方調整(例えば、ブロック)信号は、後根DRにおいて第2リード130aに印加することが可能である。
【0090】
図19Cは、腰椎下部および仙椎、および関連神経根を含む、脊椎の下位部分を示す。信号(例えば、HF信号)は、これらの神経根だけに、または、上位の後柱に印加される信号と組み合わせて印加することが可能である。特定実施態様では、リード、またはペアリードは、リードの数よりも多数の神経根に信号を供給するように、隣接根の間に位置づけることが可能である。例えば、それぞれ電極または電極接点160を有するリード152a、154bの第1ペアは、少なくともS2、S3、およびS4根に信号を供給するように、S3根の対向側面にそって位置づけられてもよい。別の代表的例では、リード152b、154bの第2ペアは、L5根、S1根、および必要に応じてL4根にも信号を供給するように、L5根と並べて設置される。別の実施態様では、同様の(または、別の)構造を有するリードを、他の根にそって設置することが可能である。上述の配置の利点は、少数のリードを用いて、比較的多数の根に対して信号を印加することが可能となるということである。
【0091】
b.
マルチチャンネルリード配置
図20および21は、患者に複数の治療信号を出力するように構成される第1および第2リード152、154を有する、マルチチャンネル経皮リード配置150を示す。
図20は、一般に、後柱DCに治療を印加するために、どのようにリード配置150を使用することが可能であるかを示す。
図21は、一般に、後根DRに治療を印加するために、どのようにリード配置150を使用することが可能であるかを示す。種々の実施態様において、患者の後柱DCおよび/または後根DRに複数タイプの治療信号を供給するために、リード152、154を協調させることが可能である。
【0092】
リード配置150の各リード152、154は、電極の第1配置155、電極の第2配置157、および電極の第3配置159を含む。図示の例では、第1および第3配置155、159は、双極電極を含む。第2配置157は、3極性電極配置(例えば、中央に陰極で、両側に陽極)。このような実施態様では、電流を独立に制御して、電極対神経の位置取りに合わせて治療を調整することが可能である。一方、別の実施態様では、リード152、154は、他の電極配置を含むことが可能である。図示の例では、リード配置150の各リード152、154は、7個の電極を含む。
一方、別の実施態様では、リードは、1個、2個、3個、4個、5個、またはそれ以上の電極を含むことが可能である。
【0093】
一般に、一方の、または両方のリード152、154における電極の第1配置155は、感覚異常を誘発するために後柱DCにLF刺激信号を印加することが可能である。通常、刺激信号の電場は、電場が後柱DCの長さにそう方向性を持つように、単一リードの電極によって発生させることが可能である。例えば、
図20では、第1リード152の第1配置155の電極が、後柱DCに電場を創出して感覚異常感を誘発する。
【0094】
一実施態様では、リード152、154の一方の第2配置157の電極は、後柱DCにおいてHFブロック信号の電場を発生し、後柱DCにおいてブロックを確立することが可能である。例えば、第2配置157の電極は、
図20に示すように、3極構成を形成し、HFブロック信号を産出することが可能である。別の構成では、第2配置157の電極よりも多数の、または少数の電極を用いてHFブロック信号を発生させることが可能である。
【0095】
別の実施態様では、HFブロック信号は、両リード152、154の第2配置157の電極の内少なくとも若干数にそって後根DRに印加することが可能である。例えば、
図21において、両リード152、154の第2配置157の中央の電極が協調して電場を形成することが可能である。この電場は、
図20の3極性電極配置から生じる電場形状に対して、全体として、直角の方向性を持つ。
【0096】
別の実施態様では、両リード152、154の一方における第2配置157の別電極が協調して電場を形成することが可能である。例えば、
図21はさらに、第1電極157aおよび第2電極157bの間の治療信号チャンネルを示す。この治療チャンネルは、リード152、154に対して角度を持つ。このような角度は、後根DRの長さにそう治療信号の印加を、該根は後柱DCから枝分かれするので、やり易くする。
【0097】
上記パラグラフでは、治療の組み合わせ、すなわち、後柱の低周波刺激および/または高周波ブロック、後根の高周波ブロック、および抹消神経高周波ブロックを含む、いくつかの組み合わせを説明した。治療開始相および後続相における患者の不快を回避するための手段も論じた。別の実施態様では、治療は、前述のパラメータ、時間変動、および治療相から成る、他の順列および組み合わせにしたがって実行することが可能である。
【0098】
(実施例1)
前述の治療選択肢の理解を助けるために、下記の例示の応用を提供する。
図22は、第1治療信号2610が、患者の後柱DCの神経に印加されるところを示す。第1治療信号2610は、感覚異常感を誘発するために、後柱DCの神経を上方調整するように構成されるLF信号であり、
図1の参照下に前述したパルス発信機101の第1部分によって供給することが可能である。
【0099】
第2治療信号2620は、第1治療信号2610の始動後、患者の後根DRに印加される。この第2治療信号2620は、後根DRの神経を下方調整し、該神経においてブロックを確立するように構成されるHF信号であり、
図1の参照下に前述したパルス発信機101の第2部分によって供給することが可能である。第1治療信号2610によって誘発される感覚異常は、第2治療信号2620が始動されるときに患者の体験する開始反応を少なくとも部分的にマスクする。
【0100】
図示のように、第3治療信号2630が、第2治療信号2620の始動後、後柱DCに印加される。
ある特定実施態様では、第3治療信号2630は、第2治療信号2620が後根DRにおいてブロックを確立した後、後柱DCに印加される。第3治療信号2630は、後柱DCの上にブロックを確立するように構成される。
【0101】
(実施例2)
別の代表的例では、施術者は、患者の脊髄領域に、複数電極を、該電極の少なくとも一つは、脊髄刺激を実行するように位置づけられ、該電極の少なくとも一つは、後根または後根神経節に信号を印加するように位置づけられる複数電極を埋設することが可能である。次に、施術者は、第1電極にLF信号を印加して感覚異常を誘発し、患者が悩まされる痛みに対処する。少なくともいくつかの場合において、この感覚異常は、患者の痛み症状に対処するのに十分であり、したがって、HF信号の、第2電極に対する印加が必要とされないこともある。しかしながら、別の例では、第1電極に印加される最初のLF信号は、患者の痛みに十分対処しない場合がある。そのような場合、第1電極に供給される信号の振幅は、感覚異常を引き起こすように増大させてもよい。この増加は、第1電極の部位が最適でないため、および/または、患者特有の生理的作用のために必要とされる場合がある。
これらの実施態様のいずれにおいても、第1電極に印加される信号振幅の増大は、感覚異常を誘発するのと同時に、別に患者の不快を招く場合がある。したがって、施術者は、第1電極の部位を改めることを要せず患者の不快をブロックするために、第2電極に対しHF信号を印加することが可能である。したがって、この配置は、埋設手術の浸襲性を抑えることが可能である。
【0102】
(実施例3)
別の例では、患者は、下位の背部痛(腰痛)に苦しむ場合がある。この腰痛は、脊髄の末端以下の、L5椎骨において脊柱管に入る求心性神経線維にそって伝達される可能性がある。したがって、施術者は、より高い脊髄水準、例えば、T10椎骨においてLF脊髄刺激を印加してもよい。少なくともいくつかの例では、このようなLF信号によって得られる感覚異常は、完全ではないがある程度痛みを抑える場合がある。したがって、施術者は、比較的下位の背部痛覚をブロックするために、L5部位においてさらにHF信号を印加してもよい。この例では、HF信号は、低周波信号とは別の脊髄水準に印加される。
【0103】
(実施例4)
さらに別の例では、患者は、L1において(例えば、脊髄円錐において)脊柱に入る、いくつかの神経経路にそって伝達される痛みに苦しむ場合がある。施術者は、脊髄円錐に対するHF信号を、より高位の脊髄水準(例えば、T8、T9、またはT10)におけるLF信号と組み合わせて、印加してもよい。これは、脊髄円錐を、埋設/刺激部位として故意に回避する、いくつかの既存の刺激技術とは異なる。
【0104】
前記から、本開示の特異的実施態様は、本開示において例示のために説明されるものであること、しかしながら、本開示から逸脱することなく、種々の改変の実行が可能であることが了解されよう。例えば、LF信号は、ある実施態様では、全体として連続的に供給されてもよく、別の実施態様では自動的に、さらに別の実施態様では患者の要求に応じて、スイッチオンおよびオフされてもよい。ある実施態様では、指示および/または指令は、パルス発信機との関連において記載され、別の実施態様では、それらの指示および/または指令は、他のコントローラー要素によって処理されてもよい。特定実施態様との関連において記載される本開示のある局面は、別の実施態様では、組み合わされても、または排除されてもよい。例えば、HFおよびLF信号は、腰痛との関連において論じられ、種々の脊髄水準に印加されるが、別の実施態様では、それらの信号は、他の患者の痛み症状に対処するために異なる脊髄水準に印加されてもよい。さらに、ある実施態様に関連する利点は、該実施態様の背景において記載されるが、他の実施態様も同じ利点を発揮する場合がある。本開示の範囲内に入るためには、必ずしも全ての実施態様が、これらの利点を発揮する必要はない。したがって、本開示は、図示されない、記述されない他の実施態様も含むことが可能である。