(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
フッ化物イオンを含まない、又は前記フッ化物イオンを0mg/L超8mg/L未満含む溶液であって、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素のイオンを含む前記溶液であり、かつ前記元素の濃度が1×10−2mg/L以上1340mg/L以下の前記溶液と、絶縁層によって表面の全部又は一部が覆われていない粒子状のシリコンとを接触させ、前記シリコン上に、前記元素からなる金属を析出させる析出工程と、
前記シリコン上に析出した前記元素からなる金属を回収する回収工程を含む、
金属の回収方法。
フッ化物イオンを含まない、又は前記フッ化物イオンを0mg/L超8mg/L未満含む溶液であって、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素のイオンを含む前記溶液であり、かつ前記元素の濃度が1×10−2mg/L以上1340mg/L以下の前記溶液と、絶縁層によって表面の全部又は一部が覆われていない粒子状のシリコンとを接触させ、前記シリコン上に、前記元素からなる金属を析出させる析出工程と、
前記溶液から前記元素からなる金属が析出したシリコンを除去する除去工程を含む、
溶液の再生方法。
フッ化物イオンを含まない、又は前記フッ化物イオンを0mg/L超8mg/L未満含む溶液であって、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素のイオンを含む前記溶液であり、かつ前記元素の濃度が1×10−2mg/L以上1340mg/L以下の前記溶液と、絶縁層によって表面の全部又は一部が覆われていない粒子状のシリコンとを接触させる反応槽と、
接触させた前記反応槽内の前記溶液と前記シリコンの混合液を前記反応槽から排出する排出部と、
排出された前記混合液を固液分離する固液分離手段と、
分離された前記シリコン上に析出した前記元素からなる金属を回収する回収部とを備える、
金属回収システム。
フッ化物イオンを含まない、又は前記フッ化物イオンを0mg/L超8mg/L未満含む溶液であって、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素のイオンを含む溶液であり、かつ前記元素の濃度が1×10−2mg/L以上1340mg/L以下の前記第1の溶液と、絶縁層によって表面の全部又は一部が覆われていない粒子状のシリコンとを接触させる収容槽と、
接触させた前記反応槽内の第2の溶液と前記シリコンの混合液を前記収容槽から排出する排出部と、
排出された前記混合液を固液分離する固液分離手段と、
分離された前記シリコン上に析出した前記元素からなる金属を回収する回収部とを備え、
前記固液分離手段によって得られた第3の溶液を再度利用する、
溶液の再利用システム。
フッ化物イオンを含まない、又は前記フッ化物イオンを0mg/L超8mg/L未満含むアルカリ性の溶液であって、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素のイオンを含む前記溶液と、絶縁層によって表面の全部又は一部が覆われていない粒子状のシリコンとを接触させ、前記シリコン上に、前記元素からなる金属を析出させる析出工程と、
前記シリコン上に析出した前記元素からなる金属を回収する回収工程を含む、
金属の回収方法。
フッ化物イオンを含まない、又は前記フッ化物イオンを0mg/L超8mg/L未満含むアルカリ性の溶液であって、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素のイオンを含む前記溶液と、絶縁層によって表面の全部又は一部が覆われていない粒子状のシリコンとを接触させ、前記シリコン上に、前記元素からなる金属を析出させる析出工程と、
前記溶液から前記元素からなる金属が析出したシリコンを除去する除去工程を含む、
溶液の再生方法。
フッ化物イオンを含まない、又は前記フッ化物イオンを0mg/L超8mg/L未満含むアルカリ性の溶液であって、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素のイオンを含む前記溶液と、絶縁層によって表面の全部又は一部が覆われていない粒子状のシリコンとを接触させる反応槽と、
接触させた前記反応槽内の前記溶液と前記シリコンの混合液を前記反応槽から排出する排出部と、
排出された前記混合液を固液分離する固液分離手段と、
分離された前記シリコン上に析出した前記元素からなる金属を回収する回収部とを備える、
金属回収システム。
フッ化物イオンを含まない、又は前記フッ化物イオンを0mg/L超8mg/L未満含むアルカリ性の溶液であって、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素のイオンを含む第1の溶液と、絶縁層によって表面の全部又は一部が覆われていない粒子状のシリコンとを接触させる収容槽と、
接触させた前記反応槽内の第2の溶液と前記シリコンの混合液を前記収容槽から排出する排出部と、
排出された前記混合液を固液分離する固液分離手段と、
分離された前記シリコン上に析出した前記元素からなる金属を回収する回収部とを備え、
前記固液分離手段によって得られた第3の溶液を再度利用する、
溶液の再利用システム。
フッ化物イオンを含まない、又は前記フッ化物イオンを0mg/L超8mg/L未満含む溶液であって、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素のイオンを含む前記溶液と、絶縁層によって表面の全部又は一部が覆われていない粒子状のシリコンとを接触させる反応槽と、
接触させた前記反応槽内の前記溶液と前記シリコンの混合液を前記反応槽から排出する排出部と、
排出された前記混合液を固液分離する固液分離手段と、
分離された前記シリコン上に析出した前記元素からなる金属を回収する回収部とを備え、
前記溶液中の前記元素の価数と、前記元素のイオン濃度に応じて供給する前記シリコンの量を制御する供給シリコン量制御手段をさらに備え、
前記供給シリコン量制御手段が、それぞれの前記元素の価数、前記元素のイオン濃度、及び前記シリコンの粒径に基づいて算出される表面積基準の前記シリコンの量を制御する、
金属回収システム。
フッ化物イオンを含まない、又は前記フッ化物イオンを0mg/L超8mg/L未満含む溶液であって、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素のイオンを含む第1の溶液と、絶縁層によって表面の全部又は一部が覆われていない粒子状のシリコンとを接触させる収容槽と、
接触させた前記反応槽内の第2の溶液と前記シリコンの混合液を前記収容槽から排出する排出部と、
排出された前記混合液を固液分離する固液分離手段と、
分離された前記シリコン上に析出した前記元素からなる金属を回収する回収部とを備え、
前記固液分離手段によって得られた第3の溶液を再度利用し、
前記第1の溶液中の前記元素の価数と、前記元素のイオン濃度に応じて供給する前記シリコンの量を制御する供給シリコン量制御手段をさらに備え、
前記供給シリコン量制御手段が、それぞれの前記元素の価数、前記元素のイオン濃度、及び前記シリコンの粒径に基づいて算出される表面積基準の前記シリコンの量を制御する、
溶液の再利用システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
貴金属の回収方法の一例として、例えば特許文献1が挙げられる。この文献には、使用済み触媒から白金族金属を溶解抽出する技術が開示されている。具体的には、まず、外気を遮断できる密閉容器中において無機酸及び酸化剤を廃触媒とともに封入する。次に、該無機酸の濃度を上昇させる工程が行われ、その後、60℃から180℃の温度で加熱抽出する方法が開示されている。
【0008】
特許文献1は、密閉容器中に、通常(大気圧)では存在しない高濃度状態の腐食性の無機酸を存在させる方法が開示されている。このため、耐腐食性の容器が必要となる。したがって、設備コストの低減には限界がある。
【0009】
また、電解法の場合、溶液中に溶解している金属濃度が低い場合には、電流効率が極端に低い。このため、回収に要する時間が長くなってしまうという問題がある。また、回収された金属が電極に付着するため、電極表面から付着した金属を回収する工程を必要とする。
【0010】
また、イオン交換法の場合、イオン交換樹脂の単位容積あたりの金属保持量が少なく、高濃度の金属溶液には適さない。また、処理速度が低く、設備が大きくなるなどの問題もある。さらに、イオン交換樹脂への吸着が飽和した場合に、多量のイオン交換樹脂の交換、再生が必要となり、コスト的に問題がある。
【0011】
また、置換法の場合、回収すべき金属が卑な金属の表面を覆うと反応が停止する。このため、反応効率を向上させるために粉末状の卑な金属を用いることになる。しかしながら、反応が激しくなり、装置化が難しいという問題があった。これを解決するために、反応槽中に卑な金属の粒子同士を摺り合わせて、卑な金属の粒子に析出した金属を回収する装置が提供されている(例えば、特許文献2参照)。
【0012】
また、特許文献2に記載の発明は、置換法を用いて貴な金属を回収する。このため、回収に用いた溶液を再利用するという思想は存在しない。
【0013】
また、従来の貴金属の回収方法においては、通常、貴金属濃度が1mg/L程度になるまで貴金属が回収される。しかしながら、溶液中の貴金属濃度が1mg/Lよりもさらに低濃度に至る広範な濃度の貴金属を含有する溶液の場合、それを回収するためには、別途、溶液を濃縮する工程などが必要となる。
【0014】
なお、本発明者らは、高濃度から1mg/Lよりもさらに低濃度にわたる広範な濃度の貴金属溶液から、貴金属を回収する技術の1つとして、フッ化物イオンを含む溶液中に、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、イリジウム、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属廃棄物と、シリコンを混合させて、シリコン上に希少金属を析出させることにより、希少金属を回収する技術を開示している(特許文献3)。
【0015】
しかしながら、上述の特許文献3の技術においては、回収工程の中にフッ化物イオンが存在する。このため、回収工程後の溶液を廃棄・または再利用する場合に、回収処理後に残存するフッ化物イオンを除去する必要がある。特に、電解液中の希少金属を回収するに当って、フッ化物イオンとシリコンを混合させて希少金属を回収する方法においては、金属回収後の溶液中にフッ化物イオンが共存するため、金属回収後の溶液を電解液として再利用することができなくなる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
シリコンの表面上には、通常、外気に触れることによって絶縁層が形成されている。本発明者らは、シリコン絶縁層によって表面の全部又は一部が覆われていないシリコンを用いることにより、特定の金属を回収することができることを見出した。シリコン絶縁層によって表面の全部又は一部が覆われていないシリコンを用いれば、特定の金属を含む複数種の金属イオンが存在する溶液から特定の金属を効率よく選択的に回収する回収工程においてフッ化水素酸に代表されるフッ化物イオンを含む溶液を用いなくとも、特定の金属を効率よく選択的に回収することができる。加えて、本発明者らは、フッ化物イオンを含む溶液を用いない場合には、該金属の回収工程を採用することにより、該溶液が再生されること及び/又は再利用することができることも併せて見出した。
【0017】
本発明における特定の金属の析出は、その特定の金属イオンの還元反応によってなされる。本発明においては、下記式(1)に示すように、溶液(例えば、水溶液)中に溶解している特定の金属(M)のイオン(例えば、金属イオン、金属錯体、または金属錯体イオンなどを含む。以下、総称して「金属イオン」ともいう)の還元反応が起こる。
この還元反応によりシリコン中に生じた正孔(h
+)と、シリコン絶縁層の全部または一部が除去された部位に存在するシリコンと水とが反応して酸化シリコンを生成する。本説明においては、シリコンの酸化を4電子反応による二酸化シリコンの生成とする。
式(2)に示すように、シリコンの酸化反応には、4個の正孔が関与する。また、式(3)に示すように、全反応においては、シリコン1原子に対して、(4/n)個の金属原子が関与する。なお、本明細書中において用いる「水溶液」という用語には、アルコールなどが含まれていてもよい。
M
n+→M+nh
+ (1)
Si+2H
2O+4h
+→SiO
2+4H
+ (2)
Si+(4/n)M
n++2H
2O→(4/n)M+SiO
2+4H
+ (3)
(式中、nは回収または除去する金属イオンの価数を、h
+は正孔を示す。)
【0018】
例えば、金(Au)の回収をする場合においては、金は3価(3+)であるので、金1原子が還元されると、シリコンに3個の正孔が生じる。すなわち、シリコン1原子の酸化に、4/3の金原子が関与することがわかる。
【0019】
このように、本発明の金属の回収方法は、回収工程においてフッ化物イオンが存在しない状態においても、特定の金属を十分に回収することができる。回収工程においてフッ化物イオンが存在しない状態においては、フッ化物イオンを除去する工程を必要としないので、特に産業上、その回収処理が極めて容易であるとともに、回収のための装置構成を非常に簡素化できることは特筆に値する。
【0020】
本発明の金属の回収方法は、フッ化物イオンが存在しない水溶液中であっても、シリコン絶縁層によって表面の全部又は一部が覆われていないシリコンの表面に、特定の金属の金属イオン、金属錯体、及び/又は金属錯体イオン等が接触することによって行われる。本発明の具体的な金属の回収方法は、以下のとおりである。
【0021】
本発明の1つの金属の回収方法は、フッ化物イオンを含まない、又は前記フッ化物イオンを0mg/L超8mg/L未満含む溶液であって、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素のイオンを含む前述の溶液と、絶縁層によって表面の全部又は一部が覆われていない粒子状のシリコンとを接触させ、そのシリコン上に、前述の元素からなる金属を析出させる析出工程と、そのシリコン上に析出した元素からなる金属を回収する回収工程を含む。
【0022】
上述の金属の回収方法を用いれば、以下の金属の回収システムを構築することができる。
【0023】
本発明の1つの金属の回収システムは、フッ化物イオンを含まない、又はそのフッ化物イオンを0mg/L超8mg/L未満含む溶液であって、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素のイオンを含む前述の溶液と、絶縁層によって表面の全部又は一部が覆われていない粒子状のシリコンとを接触させる反応槽と、接触させたその反応槽内の前述の溶液とそのシリコンの混合液を前述の反応槽から排出する排出部と、排出された前述の混合液を固液分離する固液分離手段と、分離された前述のシリコン上に析出した前述の元素からなる金属を回収する回収部とを備える。
【0024】
上述のとおり、本発明の各金属の回収システムにおいては、該シリコンと該溶液とを接触させた後の混合液は、フッ化物イオンを含まない、あるいは含んでいても極微量の溶液である。したがって、上述の固液分離手段を用いて分離された溶液は、フッ化物イオンを除去する必要がないため、そのまま再利用することができる。具体的には、この回収システムによれば、上述の固液分離手段を用いて分離された溶液に、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属廃棄物又は低品位鉱物を溶解させた後、特定の金属を回収することができる。
【0025】
また、本発明の1つの溶液の再生方法は、フッ化物イオンを含まない、又は前記フッ化物イオンを0mg/L超8mg/L未満含む溶液であって、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素のイオンを含む前述の溶液と、絶縁層によって表面の全部又は一部が覆われていない粒子状のシリコンとを接触させ、そのシリコン上に、前述の元素からなる金属を析出させる析出工程と、前述の溶液から前述の元素からなる金属が析出したシリコンを除去する除去工程を含む。
【0026】
より具体的には、電解処理後の溶液(代表的には、電解溶液)を上述の金属の回収方法と同様の反応機構を用いて処理することにより、シリコン上に金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素を析出させる。特定の元素からなる金属が除去された溶液と特定の元素からなる金属が析出した前述のシリコンを分離する工程(分離工程)を経ることによって、前述の各元素からなる金属が除去された、上述の(2)式のH
+イオンにより置換された溶液を得ることができる。したがって、この溶液をそのまま再利用する、又は必要に応じて他の薬剤等を導入することによって調製した後、利用することが可能となる。
【0027】
なお、本発明において、金属の回収方法と溶液の再生方法とは、その方法を実行する目的が異なるが、いずれも同様の反応機構を用いた処理を採用している。金属の回収を目的とする場合は金属の回収方法となり、溶液の再生を目的とする場合は溶液の再生方法となる。したがって、金属の回収と溶液の再生を共に目的とする場合もあり得る。この場合には、金属の回収と溶液の再生とを共に行う。
【0028】
本発明の1つの溶液の再利用システムは、フッ化物イオンを含まない、又は前記フッ化物イオンを0mg/L超8mg/L未満含む溶液であって、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素のイオンを含む第1の溶液と、絶縁層によって表面の全部又は一部が覆われていない粒子状のシリコンとを接触させる反応槽と、接触させたその反応槽内の第2の溶液と前述のシリコンの混合液をその反応槽から排出する排出部と、排出された前述の混合液を固液分離する固液分離手段と、分離された前述のシリコン上に析出した前述の元素からなる金属を回収する回収部とを備え、前述の固液分離手段によって得られた第3の溶液を再度利用する。
【0029】
この溶液の再利用システムは、溶液の廃液中から、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属を析出させる。また、該シリコンと該溶液とを接触させた後の混合液を固液分離することにより、析出した金属を含む固形物と金属が除去された溶液とを分離する。この溶液の再利用システムにより、前述の分離された溶液を再生ないし再利用する。
【0030】
なお、再生した溶液は、再度、電解処理等に用いることができる。例えば、再生した溶液を電解処理に再利用するに際しては、新しい電解液を補充したり、酸等の特定の成分を補充することも可能である。また、再生した溶液を用いて電解処理した溶液を、再度、溶液の再利用システムにおいて再利用することもできる。加えて、上述の溶液の再生方法、あるいは上述の溶液の再利用システムは、見方を変えれば、残留するシリコンを再度、必要に応じてシリコン絶縁層の少なくとも一部を除去した上で、該溶液の廃液等の中に供給することによって金属の回収を実現することも可能であることから、上述の各発明は、シリコンの再利用の方法又は装置を提供することにもつながるものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明の1つの金属の回収方法及び本発明の金属の回収システムによれば、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属イオンおよびシリコンを含有する混合液内から、酸化還元反応により、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属を析出させることができる。この方法及びシステムは、実質的にフッ化物イオンが存在しなくても、混合・析出を行うことができるので、回収処理が極めて容易であるとともに、回収のための装置構成を非常に簡素化できる。また、安全性も格段に向上する。さらに、この酸化還元反応は、常温であっても反応が進行する。したがって、特段の温度制御をする必要がない。さらに、回収される金属は、粉状物、粒状物、又は鱗片状物である。このため、回収された金属を容易に利用することができる。
【0032】
また、本発明の1つの溶液の再生方法及び溶液の再利用システムによれば、上述の金属の回収方法及び金属の回収システムを採用する結果として得られる溶液として、当初の溶液から該金属が取り除かれたものが得られる。従って、その溶液を必要に応じて薬剤等を導入することによって調製した後で利用し、あるいはその溶液をそのまま再利用することによって電解処理等をすることができる。さらに必要に応じて、再生された溶液を用いて電解処理等を行った溶液から、再度、上述の金属を回収することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の実施形態を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。尚、この説明に際し、全図にわたり、特に言及がない限り、共通する部分には共通する参照符号が付されている。また、図中、本実施形態の要素は必ずしもスケール通りに示されていない。また、各図面を見やすくするために、一部の符号が省略され得る。
【0036】
[本実施形態を実現するための基本原理]
本実施形態においては、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素のイオンを含む溶液(代表的には、水溶液)と、表面の絶縁層の全部または一部が除去されたシリコンとを接触させることにより、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属がそのシリコン上に析出することになる。より具体的には、本実施形態は、上述したように、該溶液中の金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属イオンがシリコンから電子を奪い金属に還元されることによってシリコン上に析出する反応機構を開示する。また、シリコンは水と反応して酸化被膜で覆われ、同時に発生した水素イオンは該溶液中の金属イオンと置換することになるため、その置換反応後の溶液を再利用することができると考えられる。
【0037】
(処理対象物)
本実施形態で処理対象物となるのは、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、ルテニウム、及び/又はオスミウムを含む物体である。処理対象物は、これらの元素を含むものであれば、特に限定されない。該処理対象物の例は、通信機器や電子機器などの工業製品の廃棄物、低品位鉱物などの固体、または電解処理等を行った溶液などの液体である。上述の元素は、単独であっても、2種以上含むものであってもよい。なお、本実施形態において、前述の1種又は2種以上の特定の金属とその他の金属(例えば、卑な金属)とを区別して、選択的に該特定の金属を回収し得ることは、産業上、特に有用である。
【0038】
本実施形態の処理に際し、上述の元素はイオンの状態で水中に存在させる必要がある。本実施形態では、上述の特定の金属のイオンの還元反応を用いるためである。工業製品の廃棄物や低品位鉱物に含まれる金属は、公知の薬剤(例えば、王水など)で溶解した溶液(以下、「第1の溶液」という場合がある)として用いる。また、必要に応じて、水などで希釈して第1の溶液としてもよい。また、電解処理等の後の溶液などの場合は、そのまま第1の溶液とすることもできる。なお、第1の溶液中の金属の濃度は、金属の種類、用いるシリコンの量とシリコン表面の絶縁層の除去の程度により変動するが、例えば、1×10
−2mg/L以上、好ましくは1×10
−1mg/L以上であればよい。なお、本願において、上述の特定の金属元素がイオンの状態で存在するとは、例えば、金属イオン、金属錯体、または金属錯体イオンなどの状態で存在することを意味する。また、前述の第1の溶液は、フッ化物イオンを含まない、又はそのフッ化物イオンを0mg/L超8mg/L未満含む溶液であることが好ましい。フッ化物イオンが8mg/L未満含まれる溶液を採用すれば、仮にそのような溶液を特段の除害処理を施すことなく系外に排出したとしても、環境への影響が無い又は無視することができる程度であるからである。
【0039】
(シリコン)
本実施形態において用いるシリコンは、代表的には、ダイヤモンド構造の共有結晶であり、その表面が絶縁層によって表面の全部又は一部が覆われていないものをいう。通常、シリコンの表面は、大気中で酸素により酸化され、酸化シリコンの層(絶縁層)が形成されている。本実施形態においては、表面の絶縁層の全部または一部を除去したシリコンが用いられる。ここで、絶縁層を除去した表面には、絶縁層で被覆されていないシリコンが露出している。本実施形態は、このシリコンが水と金属イオンとの酸化反応を起こすことを利用する。
【0040】
なお、シリコン上への金属の析出反応の進み易さという観点から言えば、純度の高いシリコンを用いるほうが好ましい。しかし、シリコンの使用量が多くなる、あるいは金属の回収効率が若干低下する可能性はあるが、シリコン純度の低いシリコンを用いてもよい。前述の観点から言えば、例えば、シリコン純度が99.99%以上のシリコンを用いると、非常に好ましい。
【0041】
シリコン表面が備える絶縁層の除去方法は、特に制限されない。例えば、薬剤を用いるウェットプロセスまたはプラズマエッチングなどのドライプロセスによって行うことができる。代表的な薬剤は、フッ化水素酸(HF)、又はフッ化アンモニウム(NH
4F)などの水溶液のようなフッ化物イオンを含む水溶液、あるいはフッ化物イオンを含まないアルカリ性水溶液などである。また、シリコンの粒状物又は塊状物を粉砕することにより、絶縁層で被覆されない新しい表面を露出させる粉砕方式も有効な方法である。
【0042】
特に、フッ化水素酸を用いる場合は、シリコン表面の絶縁層を全部除去することができるので、回収効率・除去効率の点から好ましい。シリコンを、フッ化物イオンを含む水溶液で処理する場合には、処理後のシリコンを十分に水洗してフッ化物イオンを含まないシリコンを得る必要がある。ただし、特定の金属の回収工程を行う際に、金属の析出反応に影響しない程度であれば、フッ化物イオンが残存していてもよい。
【0043】
フッ化物イオンを含まないアルカリ性水溶液の例は、アルカリ金属の水酸化物の水溶液(例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液など)、アルカリ土類金属の水酸化物の水溶液(例えば、水酸化カルシウム水溶液など)などの無機アルカリ塩の水溶液、テトラアルキルアミン類の水溶液(例えば水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウムの水溶液など)、又はグアニジン水溶液などの有機アルカリ塩の水溶液などである。
【0044】
フッ化水素酸以外の物質を用いて絶縁層を除去する場合、シリコン表面の絶縁層の全ては除去されない場合が多い。しかし、無機アルカリ塩の水溶液、又は有機アルカリ塩の水溶液を用いる場合は、フッ化物イオンを除去する必要がない。したがって、そのような溶液を採用することは、取り扱い容易性を向上させる観点から好ましい。
【0045】
シリコン表面が備える絶縁層の一部又は全部を除去することの意味には、絶縁層の緻密さを低下させること、及び/又は緻密層の厚みを減少させる(薄膜化)ことが含まれる。表面の絶縁層の一部が除去されたシリコン表面の、絶縁層の除去率は、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、ルテニウム、及び/又はオスミウムの回収率から類推できる。実際は、析出した金属量からシリコン表面の絶縁層の一部が除去されたシリコンの表面積の除去率が理論的には計算される。実際の使用に関しては、上述する特定の金属を回収することができる程度の除去率であればよい。
【0046】
このような表面の絶縁層の全部または一部が除去されたシリコンは、酸化反応が進むにつれて、表面に酸化シリコンの薄膜が形成される。したがって、この場合に、再度表面の酸化シリコンを除去する処理を行ってもよい。この際に、最初の除去処理によって除去されなかった絶縁層も一部は除去され得る。表面の酸化シリコンを除去する処理方法は、上述と同様である。
【0047】
本実施形態で用いるシリコンの形状は、特に制限されない。例えば、粉状又は粒状(以下、総称して、「粉状」という)のシリコンは他の態様(例えば、塊状や板状など)と比較して表面積を大きくすることができるため、好適な一態様である。すなわち、粉状のシリコンであれば、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、ルテニウム、及び/又はオスミウムとの接触の機会がより多いからである。
【0048】
なお、シリコンの粒径に関しては、上述のシリコンの表面積の値から適した粒径を逆算することができる。例えば、粉状のシリコンを用いた場合、シリコンの粒径が小さくなれば反応効率は上がるが、取り扱いが難しくなる。特に、シリコンを充填した槽などに第1の溶液を流通させる流通法を用いる場合や、固液分離の際にフィルターを用いる場合は、目詰まりの原因となり得る。一方、粒径が1mm程度のものであっても、反応効率は低下するが、用いることはできる。したがって、粉状のシリコンの粒径は、特に限定されないが、通常は、反応効率と処理の容易さから、本願出願時の技術を用いて最も細粒化し得る粒径以上であって、100μm以下、好ましくは50μm以下、さらに好ましくは30μm以下のシリコンを用いるとよい。なお、粒径の下限は特に限定はされないが、上述のとおり、フィルターの目詰まりを避け得る粒径以上の粒径を採用することは好適な一態様である。
【0049】
また、本実施形態で用いる絶縁層によって表面の全部又は一部が覆われていないシリコンの表面に他の金属等を付けたものを使用してもよい。例えば、イリジウムについては、シリコンのみを用いて回収することは比較的困難であるが、シリコン表面にあらかじめ銀粒子又は金粒子を付けたものを用いると、回収率が向上する。
【0050】
なお、本実施形態で金属を析出する際の溶液としては、フッ化物イオンを含有していない水溶液が好ましいが、析出反応に影響を与えない程度であれば、フッ化物イオンを含有していてもよい。また、フッ化物イオンを含有する水溶液を用いる場合、金属が析出したシリコンを分離した後の溶液(例えば、水溶液)から、フッ化物イオンを除去する工程を必要としない程度の低濃度のフッ化物イオンを含有する溶液であることは好適な一態様である。より具体的には、前述の溶液は、フッ化物イオンを含まない、又はそのフッ化物イオンを0mg/L超8mg/L未満含む溶液であることが好ましい。フッ化物イオンが8mg/L未満含まれる溶液を採用すれば、仮にそのような溶液を特段の除害処理を施すことなく系外に排出したとしても、環境への影響が無い又は無視することができる程度であるからである。
【0051】
ここで、該溶液中の金属イオンをできるだけ少ないシリコン量によって効率良く回収するためには、シリコンの供給量を対象とする該溶液中のそれぞれの金属イオン濃度及びイオン価数に応じたシリコンの表面積あたりの処理能力を勘案した上で、シリコンを供給することが望ましい。
【0052】
本発明者らは、シリコンの処理能力を示す具体的な一例として、後述の実施例において示すように、該溶液中のそれぞれの金属の価数、濃度、及び供給するシリコン粒子の平均粒子径から算出した幾何学的表面積を考慮して算出された値が、一つの指標とし得るとの知見を得た。
【0053】
(金属の回収・除去)
上述の金属が析出したシリコンは、フッ化水素酸と硝酸の混合液、またはアルカリ性水溶液に接触させることによってシリコンを溶解させた後、その析出した金属粒子を回収することができる。なお、前述のアルカリ性水溶液の例は、上述のシリコン表面が備える絶縁層の除去方法の説明において例示したアルカリ性水溶液である。
【0054】
上述した金属は、1回の工程で、1種または2種以上回収することができる。また、2種以上の金属を同時に析出させた場合は、絶縁層によって表面の全部又は一部が覆われていないシリコンに、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、イリジウム、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも2種の元素を含む金属が付着している複合材料が得られる。さらに、2種以上回収する場合、金属の析出速度の相違を利用することにより、1回の工程で、複数の種の金属を分離回収することもできる。
【0055】
本実施形態は、常温・常圧下において反応が進行する。したがって、特段の温度制御・圧力制御は必要としない。しかしながら、本実施形態において温度制御・圧力制御がされることも、採用し得る他の一態様である。
【0056】
(金属回収方法)
<第1の実施形態>
この実施形態は、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素を含む(以下、「特定の金属」ということもある)第1の溶液と、絶縁層によって表面の全部又は一部が覆われていないシリコンとを混合する場合に適する実施形態である。
【0057】
図1は、本実施形態における金属の回収装置100の構成の一例を示す概略図である。
図1の例では、金属の回収装置100は、反応槽21を有する混合・析出処理部10に加えて、特定の金属を溶解した第1の溶液を収容する第1の溶液槽13と絶縁層によって表面の全部又は一部が覆われていないシリコン14を供給する供給部11と、混合・析出処理が終了した特定の金属が析出したシリコンを排出する排出部16と、特定の金属が析出したシリコンから特定の金属を回収する回収部12とを備える。
【0058】
本実施形態においては、特定の金属が第1の溶液中に溶解している。すなわち、第1の溶液の一例は、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属がイオンの状態で存在する水溶液である。なお、金属の回収装置100は、ポンプなど、液を供給する通常の供給手段を用いて第1の溶液を混合・析出処理部10に供給する。
【0059】
一方、金属の回収装置100は、供給部11を介して、投入するなどして、シリコンを混合・析出処理部10に供給する。
【0060】
本実施形態は、常温・常圧下において行われる。したがって、混合・析出処理部10は水槽のような開放系のものであってもよく、密閉系であってもよい。
【0061】
シリコン上で特定の金属が効率よく析出するためには、混合・析出処理部10内で特定の金属のイオンとシリコンとが十分に接触することが必要である。このため、混合・析出処理部10には攪拌手段15が設けられていると好ましい。
図1の例では、攪拌手段15として攪拌翼を備えている。攪拌手段15は、攪拌翼に限られず、エアレーションなどの公知の攪拌手段を用いることができる。
【0062】
混合・析出処理が終了した溶液は、排出部16から排出され回収部12でシリコン上に析出した特定の元素からなる金属を回収する。この場合に、図示しない混合・析出処理部10と回収部12との間に、固液分離手段を設けておくと好ましい。固液分離手段は、濾過、脱水などの公知の固液分離手段を用いることができる。
【0063】
回収部12において、特定の元素からなる金属が析出したシリコンを、上述したフッ化水素酸と硝酸の混合液、またはアルカリ性水溶液に接触させることにより、シリコンを溶解させ、金属粒子を回収する。
【0064】
固液分離手段で分離した液体は、第1の溶液または懸濁液の液体成分として利用することができる。
【0065】
<第1の実施形態の変形例>
図1の例において、絶縁層によって表面の全部又は一部が覆われていないシリコンは、1回の処理に用いられる。一方、第1の実施形態の変形例においては、上述した固液分離手段で分離された特定の金属が析出したシリコン上の絶縁層を再度除去するための絶縁層除去部が設けられてもよい。この構成によって再度絶縁層が除去されたシリコンは、供給部11を介して、混合・析出部10に供給される。
【0066】
<第2の実施形態>
この実施形態は、特定の金属を含む第1の溶液をシリコンのスラリーと混合する場合に適した実施形態である。また、この実施形態は、連続処理を可能とする構成である。
【0067】
図2は、本実施形態における金属の回収装置100の構成の別の一例を示す概略図である。
図2の例では、金属の回収装置100は、反応槽21を有する混合・析出処理部10に加えて、特定の金属を溶解した第1の溶液を収容する第1の溶液槽13と、絶縁層によって表面の全部又は一部が覆われていないシリコンが懸濁された懸濁液(シリコンのスラリー)を収容する懸濁液槽14’から第1の溶液と、懸濁液とを供給する供給部11と供給部11’と、混合・析出処理が終了した特定の金属が析出したシリコンを含む液を排出する排出部16と、特定の金属が析出したシリコンから特定の金属を回収する回収部12とを備える。
【0068】
図2の例では、第1の溶液と懸濁液とを混合するので、特定の金属のイオンとシリコンとが効率よく接触することができる。第1の溶液と懸濁液とは、ポンプなどの公知の供給手段で供給する。なお、リサイクルの点からは、懸濁液は溶液など、特定の金属を除去した後の第1の溶液と同様の成分を含むものを用いればよい。また、
図2の例では、供給部11と供給部11’は別個の構成としている。しかし、第1の溶液と懸濁液との混合液を、同一の供給部11に導き、混合・析出処理部10に供給することとしてもよい。この場合に、第1の溶液と懸濁液とは、別個に供給してもよく、図示しない混合部を設けて、混合したものを供給部11に導入することとしてもよい。
【0069】
図2の例においても、混合・析出処理部内には、特定の金属のイオンとシリコンとの接触効率を向上させるために、攪拌手段15を備える。
図2の例においては、例えばポンプなどの強制混合手段を設けるなどして、第1の溶液と懸濁液とが混合され、十分に接触できる条件であれば、攪拌手段15を設けなくてもよい。
【0070】
図2の例では、第1の溶液と懸濁液とは混合・析出処理部10の下部から導入される。両液の混合液は、特定の金属のイオンとシリコンとが接触し、金属の析出を行いながら混合・析出処理部10の下部から上部へと移動する。そして、両液の混合液体は、混合・析出処理部10の上部に設けた排出部16から排出される。この結果、
図2の例では、連続処理を可能とする。
【0071】
一方、第1の溶液と懸濁液との導入を混合・析出処理部10の上部から行う構成も可能である。この場合は、連続処理には適しにくいが、第1の溶液と懸濁液とを混合する効果を得ることは可能である。
【0072】
混合・析出処理が終了した溶液は、排出部16から排出され回収部12でシリコン上に析出した特定の元素からなる金属を回収する。この場合に、図示しない混合・析出処理部10と回収部12との間に、固液分離手段を設けておくと好ましい。固液分離手段は、濾過、脱水などの公知の固液分離手段を用いることができる。
【0073】
回収部12において、特定の金属が析出したシリコンを、上述したフッ化水素酸と硝酸の混合液、またはアルカリ性水溶液に接触させることにより、シリコンを溶解させ、金属粒子を回収する。
【0074】
固液分離手段で分離した液体は、第1の溶液または懸濁液の液体成分として利用することができる。
【0075】
<第2の実施形態の変形例>
図2の例では、絶縁層によって表面の全部又は一部が覆われていないシリコンは、1回の処理に用いられる。上述した固液分離手段で分離された特定の金属が析出したシリコン上の絶縁層を、再度除去する絶縁層除去部を設けてもよい。このようにして再度絶縁層が除去されたシリコンは、懸濁液にして供給部11’を介して、混合・析出部10に供給される。
【0076】
<第3の実施形態>
この実施形態は、特定の金属を含む第1の溶液を、シリコンを充填する収容槽に通過させる実施形態である。また、この実施形態においては、固液分離手段を必要としない構成が採用されている。さらに、この実施形態を用いると、組み合わせにより、処理量に応じた装置構成を可能とする構成になる。
【0077】
図3は、本実施形態における金属の回収装置100の構成のさらに別の一例を示す概略図である。本実施形態の金属の回収装置100は、絶縁層によって表面の全部又は一部が覆われていないシリコンを収容したカラム状の反応槽21に加えて、特定の金属を溶解した第1の溶液を収容する第1の溶液槽13からの第1の溶液を供給する供給部11と、反応槽21を通過した液を排出する排出部18と、シリコン収容部17を通過した液を回収する液回収部19とを備える。
【0078】
なお、
図3の例においては、第1の溶液は上部から供給する。また、この例においては、重力を利用して液体が流通するため、流通手段を設ける必要がない。ただし、排出部18付近にシリコン収容槽内を減圧することによって流通を促進する、ポンプなどの流通手段などを設けることも採用し得る他の一態様である。
【0079】
本実施形態においては、例えば
図4のように、反応槽21の下部に供給部11を設けることも可能である。この図の例においては、第1の溶液は、特定の金属を溶解した第1の溶液を収容する第1の溶液槽13から第1の溶液を供給する供給部11を経由して、カラム状の反応槽21の下部から供給する。この場合は、例えばポンプなどの流通手段20を用いて強制的に第1の溶液を反応槽21に供給することにより、第1の溶液がシリコン収容部17内を通過することになる。その結果、反応槽21においてシリコン収容部17の上部に設けた排出部から析出処理後の第1の溶液を排出する。
【0080】
反応槽21は、シリコンを充填することができるものであれば、
図3、4の例に示すようにカラム状でなくてもよい。例えば、カートリッジ内にシリコンを充填した構造(図示せず)も採用し得る他の一態様である。
【0081】
本実施形態の場合、特定の金属が除去された第2の溶液が反応槽21から排出部18を介して排出される。なお、本実施形態の場合、1度の操作で、特定の金属をすべて回収出来ない場合は、液回収部19で回収された液を第1の溶液として用いることによる、1回または複数回の追加的な処理を行うことも可能である。
【0082】
なお、本実施形態の場合、シリコン上の絶縁層をさらに除去する場合には、例えば導入部から上述の絶縁層を除去する薬剤を導入して処理をすることもできる。この場合に、フッ化物イオンを含む薬剤を用いる場合は、処理後に十分に反応槽21を洗浄する必要がある。
【0083】
本実施形態の場合、全処理が終了した時点で、シリコンから特定の金属を回収する。なお、本実施形態の場合には、特定の金属が析出したシリコンを他の容器等に移してからシリコンを溶解する薬剤を加えて該金属を回収してもよく、また、反応槽21に上述のシリコンを溶解する薬剤を導入して金属回収処理をすることもできる。
【0084】
上述した本実施形態は、1個の反応槽21を用いる例を記載している。しかし、本実施形態のそのような例には限定されない。例えば、カラム状又はカートリッジ状の反応槽21を複数個連結して用いる態様も採用し得る。カラム状又はカートリッジ状の反応槽21を、直列及び/又は並列に連結して用いることにより、処理量の変動に応じて、適切な処理をすることが可能となる。
【0085】
(金属回収システム)
<第4の実施形態>
本実施形態の金属回収システムは、上述した金属回収方法を用いて、金属回収システムを構築するものである。この金属回収システムは、金属の析出工程および回収工程において、フッ化物イオンを含まない、又はそのフッ化物イオンを0mg/L超8mg/L未満含む溶液であるので、金属を回収することを簡易な装置で行うことができ、さらには処理後の第1の溶液を再利用することができる。
【0086】
本実施形態は、上述の各実施形態の回収装置を用いた金属回収システムである。
図5は、本実施形態の金属回収システムの一例を示す金属回収システムの概略図である。
図5に示すように、本実施形態の金属回収システムは、供給部11と、反応槽21と、混合・析出処理部10と、排出部16と、固液分離手段22,27と、回収部12、絶縁層除去槽23、及び水溶液生成槽24とを備える。
【0087】
なお、本実施形態の金属回収システムは、上述の実施形態1ないし3の構成により、処理内容が多少相違する。
【0088】
具体的には、上述の実施形態1を用いた金属回収システムの場合は、まず、絶縁層除去槽23において、例えば、絶縁層を溶解する薬剤(処理液)を用いて、粒子状のシリコンの周囲に存在する絶縁層の全部または一部を除去する。次に、特定の金属から選択される少なくとも1種の元素を含む第1の溶液を貯留する水溶液生成槽24から送給される第1の溶液と、絶縁層除去槽23から送給される前述の絶縁層の全部または一部が除去されたシリコンとが、供給部11を介して、反応槽21に供給される。反応槽21内の混合・析出部において第1の溶液とシリコンとを混合し、特定の金属を析出させる。混合・析出処理の終わった混合液(但し、特定の金属が析出したシリコン、及び未だ特定の金属が析出していないシリコンを含む)は、排出部16から固液分離手段22に送られる。
【0089】
固液分離手段22において特定の金属が析出したシリコンと、濾液とに分離された後、分離された濾液は水溶液生成槽24に、また、特定の金属が析出したシリコンは回収部12にそれぞれ送られる。固液分離手段22から水溶液生成槽24まで送られる間に、例えば濾液の一部は廃液として処理され、その他は水溶液生成槽24に戻される。なお、この溶液生成槽24においては、例えば新しい薬剤が一部添加されることにより、水溶液生成槽24の溶液は金属溶解用の溶液として再利用し得る。なお、金属溶解用の溶液として再利用する場合は、反応槽21内における特定の金属のイオンの濃度が低下しないように、追加的に該金属を投入することが好適な一態様である。他方、水溶液生成槽24内の溶液を
図5に示す金属回収システムにおける反応槽21内に戻さずに、別途、同様の金属回収システムにおいて該溶液を利用する態様(いわゆる、バッチ処理として運用する態様)も、採用し得る他の一態様である。加えて、濾液の一部を金属回収システム外に廃棄することも採用し得る他の一態様である。
【0090】
回収部12においては、上述の各実施形態と同様に、フッ化水素酸と硝酸の混合液、又は上述のアルカリ性水溶液に接触させることにより、シリコンの少なくとも一部を溶解させる。回収部12から送られる前述のシリコンを溶解させる各溶液と回収対象の金属は、固液分離手段27を用いて分離されることにより、特定の金属の粒子等の回収を実現することができる。
【0091】
なお、第4の実施形態の好適な変形例においては、固液分離手段27に送られた上述のシリコンが上述の金属回収のために再利用される。具体的には、回収部12において該金属が回収された後、固液分離手段27に送られた上述のシリコンが、
図5のXに示す矢印のルートを経由し、絶縁層除去槽23に送られる。その結果、該シリコンが金属回収のために再利用され得る。
【0092】
この金属回収システムを用いると、1回の操作で第1の溶液中の特定の金属をすべて回収できなくても、複数回の操作で回収することができる。
【0093】
また、固液分離手段で回収された金属が析出したシリコンに絶縁層が多く残存している場合は、この金属が析出したシリコンを絶縁層除去槽23に導入して、絶縁層を除去したものを再利用することができる。
【0094】
また、上述の実施形態2を用いた金属回収システムの場合は、図示しない懸濁液作製槽を用いて、絶縁層除去槽23によって、絶縁層の全部または一部を除去したシリコンを例えば第1の溶液を構成する液体内にあらかじめ懸濁した懸濁液を作製する。この懸濁液を供給部11から反応槽21に供給する。
【0095】
なお、上述の実施形態2の他の構成は、上述の実施形態1を用いた金属回収システムの各構成と同様であるので説明を省略する。
【0096】
また、上述の実施形態3を用いた金属回収システムの場合は、絶縁層除去槽23内に絶縁層の全部または一部を除去したシリコンを反応槽21にあらかじめ充填する。その後、第1の溶液を供給部11から反応槽21に供給する。また、この金属回収システムの場合には、反応槽21から排出されるのは、特定の金属の少なくとも1部が除かれた水溶液である。したがって、上述の実施形態3を用いた金属回収システムの場合には、反応槽21が固液分離手段22の機能をも果たす。
【0097】
また、上述の実施形態3を用いた金属回収システムの場合は、カラム状またはカートリッジ状の反応槽21を採用し得る。したがって、反応槽21内において、シリコン表面の絶縁層の全部または一部を除去する処理を行うことができる。その結果、カラム状またはカートリッジ状の反応槽21を採用した場合は、反応槽21が絶縁層除去槽23の機能も果たす。
【0098】
なお、上述の実施形態3の他の構成は、上述の実施形態1を用いた金属回収システムの各構成と同様であるので説明を省略する。
【0099】
(溶液の再生方法及び溶液の再利用システム)
溶液の再生方法及び溶液の再利用システムの各実施形態において、基本的な原理及び構成は上述の金属の回収方法及び装置の実施形態と同様であるため、異なる点を以下に述べる。
【0100】
<第5実施形態>
本実施形態の溶液の再利用システムの構成は、
図1において、金属を回収する回収部12の代わりに、固液分離手段を用いる。第5の実施形態においては、処理に用いる第1の溶液は金属を含む溶液を再生するため、混合・析出部10の排出部16が固液分離手段(図示しない)に連結されている。固液分離して得られた水溶液(「第3の溶液」ともいう)は、電解処理等の装置に送られて溶液として再生された後、再利用され得る。この再生される工程に用いられる再生手段は特に限定されないが、例えば、必要な電解物質を加える、または水で希釈することが、該再生手段に含まれてもよい。再生された溶液は、電解処理等の装置を用いて電解処理等のために用いることができる。したがって、電解処理等の後の溶液を再び第1の溶液として利用することができる。
【0101】
<第6の実施形態>
本実施形態の溶液の再利用システムの構成の別の一例として、第2の実施形態又は第5の実施形態の構成と同様の構成を本実施形態の再利用システムとして採用し得る。
【0102】
<第7の実施形態>
本実施形態の溶液の再利用システムの構成の別の一例として、第3の実施形態又は第5の実施形態の構成と同様の構成を本実施形態の再利用システムとして採用し得る。
【0103】
(溶液の再利用システム)
<第8の実施形態>
本実施形態における溶液の再利用システムは、上述の金属の回収システム及び上述の第5ないし第7の実施形態と同様である。したがって、異なる点のみを説明する。
【0104】
本実施形態における溶液の再利用システムは、
図5に示す水溶液生成槽24の代わりに、電解処理装置26を備える。また、金属回収部12において回収される金属は、貴金属などのように利用価値のあるもののほかに、銅などのように電解処理等の後の溶液に含有する状態で廃棄できない金属をも回収対象とする。金属回収部12で回収処理を行われた後の液は、回収金属と廃液とに固液分離される。
【0105】
[実施例]
以下に本実施形態を実施例に基づいて説明するが、本実施形態は各実施例に限るものではない。
【0106】
(実施例1)
(絶縁層の除去)
絶縁層を有するシリコン粒子(高純度化学研究所(株)製、純度99.99%、粒径45μm以下)を以下のような条件で処理(前処理)することにより絶縁層を除去した。所定量のシリコン粒子を秤量し、水洗した。水洗後のシリコン粒子を、それぞれ、7.3M(mol/L,以下、濃度の単位として表記する場合は同じ)のフッ化水素酸(HF)水溶液、7.3Mのフッ化アンモニウム(NH
4F)水溶液、7.3Mの塩酸(HCl)水溶液、及び1Mの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液の群から選択されるいずれか1種を用いて約15分処理をした。処理後、濾過をした後、処理に用いた薬剤が残留しないように水で数回に分けて洗浄した。
【0107】
(析出工程)
上述の各実施形態(代表的には、
図1に示す構成の回収装置100)を用い、恒温槽において液温25℃(298K)に保った撹拌・析出処理部10に、貴金属を含む金属イオンの溶液として1mMのテトラクロロ金酸水溶液100mL(ミリリットル)と、上述の処理後のシリコン粉末5.6g(溶液1L(リットル)に対して2mol相当)を添加した。また、コントロールとして未処理のシリコン粒子を用いた。これらの混合液を、200rpmで継続的に撹拌した。処理開始から5分経過後、10分経過後、15分経過後、及び20分経過後の混合液をサンプリングし、金の回収率を求めた。結果を
図6に示す。
金の回収率は以下の式を用いて計算した。
【数1】
【0108】
図6は、HF、NH
4F、HCl及びNaOHを用いて処理したシリコン粒子、並びに未処理のコントロールを用いて、時間ごとの金の回収率を求めたグラフである。
図6の横軸は時間(min)を、縦軸は回収率(Recovery)(%)を示す。
【0109】
図6に示すように、HFを用いて前処理(絶縁層除去処理)したシリコンは処理開始、すなわち、金属を析出させる析出工程の開始から5分後に金を完全に回収したことがわかる。また、NaOHを用いて前処理したシリコンは、該析出工程の開始から5分経過後に約65%の金を回収し、該析出工程の開始から20分経過後に約78%の金を回収したことがわかる。NH
4Fを用いて前処理したシリコンは、該析出工程の開始から5分経過後に約50%の金を回収し、該析出工程の開始から20分経過後に約60%の金を回収したことがわかる。上述の各結果から、前処理に用いる薬剤(処理液)の種類によって金の回収に対するシリコンの活性が変動し得ることが明らかとなった。これは、シリコン上の絶縁層の残留の割合に応じて金の回収の収率が変動し得ることを示しているといえる。また、シリコン上の絶縁層が完全に除去されていなくても、金の回収ができることがわかった。
【0110】
(実施例2)
(シリコンの添加量及びシリコン飽和点の検証)
析出工程において、フッ化水素酸(HF)を用いて処理したシリコンの混合液中の濃度を、0.25M、0.50M、0.75M、1.0M、2.0Mにした以外は、実施例1と同様にして金の回収を行った。結果を
図7に示す。
図7は、シリコン濃度を変えた場合の時間ごとの金の回収率を求めたグラフである。
図7の横軸は時間(分(min.))を、縦軸は回収率(Recovery)(%)を示す。
【0111】
図7に示すように、シリコンが1.0M以上であれば、より迅速な金の回収と、金の回収率の向上を実現し得ることがわかった。なお、21g/L(0.75M)以上のシリコンを加えると、197mg/L(1mM)の金を完全に回収することができることがわかった。このことから、金197mg(1mM)を回収するために用いるシリコンの一例は、約3.4m
2以上の表面積を有するシリコンである。
【0112】
(実施例3)
(金回収の最低濃度の検証)
析出工程において、金の初期濃度を197mg/L(1mM)として、混合液中のフッ化水素酸(HF)を用いて処理したシリコンの濃度を、0.25M、0.50M、0.75M、1.0Mについて、回収処理時間(min)に対する濾液の金濃度(mg/L)を評価した。結果を
図8に示す。
図8は、回収処理時間(min)に対する濾液の金濃度(mg/L)を示すグラフである。なお、このグラフにおいて、濾液の金濃度(mg/L)は、金の質量を溶液の容量で割った値である。また、
図8において、ブランクとは、金属イオンを含まない純水を測定した際の値である。
【0113】
図8に示すように、上述の各実施形態を採用すれば、シリコン濃度が低くなるにしたがって、金イオンとの接触頻度が減少するので、金の回収に時間を要することがわかる。このことから、処理時間に応じて、供給するシリコンの量ないし濃度を適切に調整することが好ましいといえる。
【0114】
(実施例4)
(金属種を変えた単独水溶液からの金属回収の検証)
金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、イリジウム、ルテニウム、及びオスミウムの塩をそれぞれ単独に溶解した水溶液からの金属の回収を評価した。金属種以外は、実施例1と同様に処理をした。用いた金属塩は、Au:HAuCl
4、Ag:AgNO
3、Pd:PdCl
2、Rh:RhCl
3、Pt:H
2PtCl
6、Os:K
2OsCl
6又はOsCl
3、Ru:RuCl
3、Ir:K
2IrCl
6である。
以下に実験に用いた金属のイオンの濃度を示す。
Pt、Au、Ag、Cu、Ru、Ir:1mM
Pd:26mg/L(≒0.25mM)
Rh:353mg/L(1mM超)
Os:1340mg/L(≒7mM)
【0115】
図9は、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、イリジウム、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択されるいずれか1種の元素のイオンを含む水溶液からの処理時間ごとの金属の回収を示すグラフである。
図9から、金(Au)とパラジウム(Pd)は全量回収可能であることがわかる。ロジウム(Rh)は、30mg/Lを回収することができた。また、オスミウム(Os)は、70mg/L回収することができた。回収率が比較的悪い元素が確認された理由は、それらが高濃度のためと考えられる。一方、イリジウム(Ir)は、その溶液の色彩は変化したが、その濃度は変化しなかった。また、銅(Cu)は6mg/L回収された。これは、2価イオンが1価イオンに還元された後に反応が停止したためと考えられる。
【0116】
(実施例5)
(金属種を変えた混合水溶液からの金属回収の検証)
図10は、金(Au)、白金(Pt)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)の各金属イオンの混合水溶液からの処理時間ごとの金属の回収率を示すグラフである。
図10に示すように、金(Au)と白金(Pt)とは回収され得ることがわかる。また、鉄(Fe)、コバルト(Co)、及びニッケル(Ni)は回収されなかった。このことから、他の金属を含む金属廃棄物や低品位鉱物から、特定の金属のみを選択的に回収することができることがわかった。
【0117】
なお、この実施例においては、テトラクロロ金(III)酸(HAuCl
4)、ヘキサクロロ白金(IV)酸(H
2PtCl
6)、硫酸第1鉄(FeSO
4)、硫酸第1コバルト(CoSO
4)、硫酸ニッケル(NiSO
4)を、それぞれ1mM溶解した混合水溶液からの金属の回収を評価した。金属種以外は、実施例1と同様に処理をした。
【0118】
(実施例6)
(回収対象となる金属の価数とシリコンの表面積あたりの処理能力との相関性)
本発明者による更なる研究と分析の結果、回収対象となる金属の価数とシリコンの表面積あたりの処理能力との間に、ある程度の相関性を確認することができた。この相関性を把握することは、処理対象となる溶液中の金属イオンをできるだけ少ないシリコンを用いた効率の良い回収の実現に大きく貢献し得る。すなわち、シリコンの供給量(投入量)を、回収対象である溶液中の各金属イオン濃度及びイオン価数に応じたシリコンの表面積あたりの処理能力を勘案した上で、シリコンを供給することが、効率的な金属回収システムないし溶液の再生システムの運用を実現することができるため好ましい。
【0119】
本実施例における具体的なシリコンの処理能力の算出方法は次の通りである。処理対象となる溶液中の各金属の価数と濃度(mM)の積から算出される値を、シリコン表面積(より具体的には、回収対象の溶液の単位容積(1L)中に含まれるシリコン濃度に相当するシリコンの表面積)(m
2/L)で割った値を、シリコンの処理能力とした。なお、該シリコン表面積は、供給する(投入する)シリコン粒子の平均粒子径から該シリコンが球状であると仮定して算出した幾何学的表面積を採用している。
【0120】
以下に示す表1は、価数が1〜4である回収対象の一部の金属についての、シリコンの処理能力を示している。なお、表1の各結果は、実施例2と同様に、析出工程において、フッ化水素酸(HF)を用いて処理したシリコンの混合液を用いた結果である。
【0121】
表1(特に、最も右の欄の「価数・mmol/m
2」)に示すように、価数がぞれぞれ
1、2、4である、Ag,Pd,Ptについては、シリコンの処理能力の値が、いずれも約0.3という数値であることが確認された。これは、回収対象となる金属の価数とシリコンの表面積あたりの処理能力との間に、ある程度の相関性があることを示している。したがって、シリコンの投入量を考慮する場合、処理対象となる溶液中に含まれる各金属のイオン価数と濃度の積の総和に対して、例えば0.3(価数・mmol/m
2)で割った値の表面積に相当するシリコンを供給することによって、無駄のない又は無駄の少ないシリコンの供給を実現することができる。換言すれば、上述のシリコンの処理能力の値を利用することにより、供給するシリコンの量が少なすぎるために十分な回収ができないといった問題を解消することも可能となる。
【0122】
したがって、上述の結果を踏まえれば、上述の各実施形態の供給部を制御する供給シリコン量制御手段を採用することが、さらに好適な一態様となる。この態様における供給シリコン量制御手段は、上述の処理対象となる溶液中の元素の価数と、その元素のイオン濃度に応じて投入するシリコンの量を制御する。より具体的には、その供給シリコン量制御手段は、それぞれの元素の価数、その元素のイオン濃度、及びシリコンの粒径に基づいて算出される表面積基準のシリコンの量を制御した上で、該シリコンを供給する。この供給シリコン量制御手段を採用することにより、上述のとおり、適切な量のシリコンを供給することが可能となるため、極めて効率を高めた金属の回収処理、ないし溶液の再生処理を実現することができる。
【0123】
他方、非常に興味深いことに、3価の金属である金(Au)は、他の価数の金属よりも顕著に値が大きくなることが分かった。具体的には、シリコンの処理能力の値が、0.87以上であることが分かった。したがって、この実施例のシリコンの金を回収する能力は、他の金属と比較して特異的に高いことから、金は、他の金属と比較して非常に少ないシリコンの供給量であっても回収され得ることが確認された。なお、金が特異的な結果を示す理由は未だ明確ではないが、シリコン上での析出核発生に対する金の活性が高いことが理由の一つとして考えられる。
【0124】
なお、上述の「0.87」というシリコンの処理能力の値は、上述の実施例2における「0.75M」の条件と同じ条件を用いた場合の値である。ここで、実施例2における「0.75M」の条件は100%の回収率を達成しているため、この数値が実際のシリコンの表面積あたりの処理能力(つまり、実力値)を正確に表していない可能性がある。というのも、シリコンの供給量が「0.25M」又は「0.50M」の場合、表1に示すように、シリコンの処理能力の値が、いずれも1.00以上、換言すれば、他の価数の各金属の結果に比べて3倍以上となっているためである。すなわち、シリコンの投入量21g/Lという値が、金197mg/L(1mM)を回収するために十分な数値であることは分かるが、この値が最下限値ではないことを、表1の結果は示唆している。
【表1】
【0125】
<その他の実施形態(1)>
ところで、上述の各実施形態の金属回収システム及び溶液の再利用システムにおいては、第1の溶液の液性は問われないが、本実施形態の第1の溶液(以下、説明の便宜上、本実施形態の第1の溶液を「第4の溶液」という)はアルカリ性である。本発明者らは、アルカリ性である第1の溶液を採用することによって、アルカリ性ではない第1の溶液の場合と比較して、より迅速、かつ多量に回収することが可能となるとの知見を得た。具体例の1つは次のとおりである。
【0126】
(実施例7)
第1の溶液が非アルカリ性(例えば、pH値が約3(酸性))である場合の金(Au)の回収率と、第4の溶液(例えば、pH値が約13)である場合の金(Au)の回収率との比較をすることによって、本発明者らは液性による影響を調査した。
図11は、第1の実施形態とこの実施形態とを比較するための、金(Au)イオンの水溶液からの処理時間ごとの金属の回収率を示すグラフである。なお、この例においては、水酸化ナトリウムを用いてアルカリ性の第4の溶液が作製された。
【0127】
具体的には、
図1に示される態様において、フッ化水素酸(HF)を用いてシリコン粉末表面の少なくとも一部の絶縁膜を除去したシリコン粉末を用いて、以下の(1)〜(4)の条件を同一にした上で、第1の溶液及び第4の溶液中の金属濃度を測定することにより、各金属イオンの混合水溶液からの処理時間ごとの金属の回収状況が調べられた。
(1)平均粒径が45μm以下のシリコン粉末の供給量7.0g/L(0.25M)
(2)処理前の第1の溶液及び第4の溶液中の金(Au)(一例として、金属塩であるHAuCl
4)の濃度200mg/L(1mM)
(3)該溶液の温度(298K)
(4)撹拌速度(200rpm)
なお、第4の溶液をアルカリ性にするための薬剤の代表例は、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムである。
【0128】
その結果、
図11に示すように、アルカリ性である第4の溶液を採用することにより、非アルカリ性(酸性)である第1の溶液の場合の回収能力よりも、迅速、かつ多量に回収可能な回収能力を発揮し得ることが明らかとなった。
【0129】
より詳細に調べると、
図11において、非アルカリ性の第1の溶液の場合、当初の金(Au)の濃度は211mg/Lであったが、シリコン粉末導入から15分経過後の金(Au)の濃度は132mg/Lであった。すなわち、回収率は、約37%であった。一方、アルカリ性の第4の溶液の場合、当初の金(Au)の濃度は233mg/Lであったが、シリコン粉末導入から15分経過後の金(Au)の濃度は0.05mg/Lにまで減少していた。すなわち、回収率は99%以上、より具体的には99.9%以上、更に具体的には約99.98%であった。従って、シリコン粉末表面の少なくとも一部の絶縁膜を除去したシリコン粉末は、アルカリ性の第4の溶液を採用することによって、格段に優れた回収能力を発揮し得ることが明らかとなった。
【0130】
さらに本発明者らによる別の分析によれば、金(Au)イオンの代わりに、銅(Cu)イオンを用いた場合であっても、アルカリ性の第4溶液(pHの一例は11)を採用すれば、非アルカリ性の第1の溶液を用いた場合と比較して、銅(Cu)を確度高く、迅速、かつ多量に回収することができることが確認されている。
【0131】
なお、本発明者の知見によれば、より確度高く、迅速、かつ多量に回収する観点から言えば、pH値が9以上の第4溶液(第1溶液)を採用することが好ましい。さらに好ましいpH値の範囲は、11以上である。なお、pH値の上限値は特に限定されない。しかしながら、工業上の取り扱いの容易さの観点から言えば、pH値は14以下であることが好ましい。
<その他の実施形態(2)>
また、上述の各実施形態の金属回収システム及び溶液の再利用システムにおいて絶縁層除去槽が採用されている例が開示されているが、各金属回収システム及び溶液の再利用システムがその絶縁層除去槽を備えていない態様も、採用し得る他の一態様である。したがって、あらかじめ絶縁層の全部又は一部が取り除かれた粒子状のシリコンを用いれば、絶縁層除去槽を備えていない前述の各金属回収システム及び溶液の再利用システムも、上述の各実施形態の回収システムの効果のうち、シリコンの再利用を除いた効果と同等の効果を奏し得る。
【0132】
なお、上述の各実施形態の開示は、それらの実施形態の説明のために記載したものであって、本発明を限定するために記載したものではない。加えて、各実施形態の他の組み合わせを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。