【実施例】
【0066】
実施例1:ペプチドの合成
配列番号1のペプチド(以下「PEP 1」とする)を従来に知られた固相ペプチド合成法(SPPS:solid phase peptide synthesis)によって製造した。具体的には、ペプチドは、ASP48S(Peptron、Inc.,大韓民国・大田)を利用して、Fmoc固相合成法を介して、C末端からアミノ酸一つずつカップリングすることによって合成した。次のように、ペプチドのC末端の最初のアミノ酸が樹脂に付着されたものを使用した。例えば、次の通りである:
【0067】
NH
2−Lys(Boc)−2−chloro−Trityl Resin
NH
2−Ala−2−chloro−Trityl Resin
NH
2−Arg(Pbf)−2−chloro−Trityl Resin
【0068】
ペプチド合成に使用した全てのアミノ酸原料は、N−termがFmocで保護(protection)され、残基はいずれも酸で除去される、Trt、Boc、t−Bu(t−butyl ester)、Pbf(2,2,4,6,7−pentamethyl dihydro−benzofuran−5−sulfonyl)などで保護されたものを使用した。例えば、次の通りである:
【0069】
Fmoc−Ala−OH、Fmoc−Arg(Pbf)−OH、Fmoc−Glu(OtBu)−OH、Fmoc−Pro−OH、Fmoc−Leu−OH、Fmoc−Ile−OH、Fmoc−Phe−OH、Fmoc−Ser(tBu)−OH、Fmoc−Thr(tBu)−OH、Fmoc−Lys(Boc)−OH、Fmoc−Gln(Trt)−OH、Fmoc−Trp(Boc)−OH、Fmoc−Met−OH、Fmoc−Asn(Trt)−OH、Fmoc−Tyr(tBu)−OH、Fmoc−Ahx−OH、Trt−Mercaptoacetic acid。
【0070】
カップリング試薬(Coupling reagent)としては、HBTU[2−(1H−Benzotriazole−1−yl)−1,1,3,3−tetamethylaminium hexafluorophosphate]/HOBt[N−Hydroxybenzotriazole]/NMM[4−Methylmorpholine]を使用した。Fmoc除去は、20%のDMF内で、ピペリジン(piperidine in DMF)を利用した。合成されたペプチドをResinから分離し、残基の保護基除去には、切断カクテル(Cleavage Cocktail)[TFA(trifluoroacetic acid)/TIS(triisopropylsilane)/EDT(ethanedithiol)/H
2O=92.5/2.5/2.5/2.5]を使用した。
【0071】
アミノ酸保護基が結合された出発アミノ酸が固相支持体に結合されている状態を利用して、ここに当該アミノ酸をそれぞれ反応させ、溶媒で洗浄した後、脱保護する過程を反復することにより、各ペプチドを合成した。合成されたペプチドを樹脂から切り取った後、HPLCで精製し、合成いかんをMSで確認して凍結乾燥させた。
【0072】
本実施例に使用されたペプチドに対して、高性能液体クロマトグラフィ結果、全てのペプチドの純度は、95%以上であった。
【0073】
PEP 1製造に係わる具体的な過程について説明すれば、次の通りである。
1)カップリング
NH
2−Lys(Boc)−2−chloro−Trityl Resinで保護されたアミノ酸(8当量)と、カップリング試薬HBTU(8当量)/HOBt(8当量)/NMM(16当量)とをDMFに溶解させて添加した後、常温で2時間反応させ、DMF、MeOH、DMFの順に洗浄した。
【0074】
2)Fmoc脱保護
20%のDMF中のピペリジン(piperidine in DMF)を加え、常温で5分間2回反応させ、DMF、MeOH、DMFの順に洗浄した。
【0075】
3)1及び2の反応を反復して行い、ペプチド基本骨格NH
2−E(OtBu)−A−R(Pbf)−P−A−L−L−T(tBu)−S(tBu)−R(Pbf)L−R(Pbf)−F−I−P−K(Boc)−2−chloro−Trityl Resin)を作った。
【0076】
4)切断(Cleavage):合成が完了したペプチドResinに、切断カクテル(Cleavage Cocktail)を加え、ペプチドをResinから分離した。
【0077】
5)得られた混合物に、Cooling diethyl etherを加えた後、遠心分離して得られたペプチドを沈澱させる。
【0078】
6)Prep−HPLCで精製した後、LC/MSで分子量を確認して凍結させ、パウダーに製造した。
【0079】
実施例2:細胞株培養及び分析方法
細胞株培養
ヒト乳癌細胞株MCF7(human breast adenocarcinoma cell line)、ヒトTリンパ球細胞株(Jurkat)及びMC38(murine colon adenocarcinoma)細胞株は、10%ウシ胎児血清(FBS:fetal bovine serum)と、100U/mlペニシリン(penicillin)及びストレプトマイシン(streptomycin)を添加したRPMI1460培地に維持した。HeLa(human cervical adenocarcinoma)細胞株は、10%ウシ胎児血清、100U/mlペニシリン及びストレプトマイシンを添加したDMEM(Dulbecco’s modified Eagle’smedium)培地で維持した。
【0080】
低酸素状態でのタンパク質発現及び細胞成長の確認
低酸素状態において、PEP1がHSPのレベルに及ぼす影響を試験するために、MCF7細胞とHeLa細胞とを20μMのPEP1で処理した後、低酸素状態及び正常酸素状態において培養した。90分内に触媒反応を起こし、酸素を感知することができないレベルに低下させるBBL GasPak(Becton Dickinson)を使用して、無酸素症を誘導した。培養時間は、2〜24時間範囲であった。前述のように、細胞は、収去後、α−HSP70,α−HSP90,α−HIF−1α,orα−GAPDH抗体を使用して、免疫ブロッティングを実施した。α−GAPDHは、タンパク質の定量(protein quantification)のために、HSP70/90の量を、GAPDHの量に標準化(normalization)させるために使用したのである。
【0081】
PEP1が、低酸素状態において、癌細胞の成長に及ぼす影響を調査するために、MCF7細胞とHeLa細胞とを、96ウェルプレートに、ウェル当たり1x10
4セルになるように接種した後、10% FBSが添加された完全培地(complete media)に、37℃、5% CO
2の条件で培養した。2時間の血清飢餓処理後、PEP1(20μM)を含んでいるか、あるいは含んでいない完全培地のいずれにおいても培養した。前述のように、細胞を1日から6日間、低酸素状態または正常酸素状態において培養した。生存可能な細胞の数は、トリパンブルー除外染色(tryphan blue exclusion)方法を使用して毎日測定した。全ての計算実験は、重複して行った。
【0082】
免疫ブロッティングを介したHSP70タンパク質レベル及びHSP90タンパク質レベルの分析方法
Jurkat細胞及びMCF7細胞(5x10
5)を12時間接種して培養した。OPTI−MEM培地を入れ、2時間飢餓状態処理(starvation)を施した後、図面に示されているように、細胞を、異なる濃度のPEP1、スクランブル(スクランブルされた)ペプチド、及び17−AAG(1μM)またはKNK437(1μM)で処理した。2時間の培養後、細胞を収去した後、細胞溶解バッファ(cell lysis buffer,Thermo Scientific,IL、米国)を利用して溶解した。ブラッドフォードタンパク質アッセイ(Bradford Protein Assay,Bio−Rad、米国)を利用して、タンパク質濃度を定量した後、サンプルを、α−HSP70(sc−32239及びsc−66048,Santa Cruz,CA、米国),α−HSP90(ab1429,abcam、米国),α−GRP78(sc−13968),α−HIF−1a(sc−10790)またはα−GAPDH(sc−25778)抗体を使用して、SDS−PAGEと免疫ブロッティングを実施した。免疫反応性バンドは、強化された化学発光法キット(chemiluminescence kit)(iNtRoN Biotechnology,INC、韓国)を使用して視覚化し、ImageQuantTM LAS−4000(GE Healthcare Life Science,NJ、米国)を使用して分析した。
【0083】
流細胞分析を介したHSP70タンパク質レベル及びHSP90タンパク質レベルの分析方法
MCF7細胞は、PEP1処理または対照群処理を行った。プロテアソーム抑制テスト(proteasome inhibition test)を実施するために、培養する間、細胞を5μMのプロテアソーム抑制剤MG132(Calboicam)で処理した。トリプシンを使用して細胞を分離し、冷たいPBSとFACSバッファ(PBS含有1% BSA及び0.1% NaN3)で洗浄した。細胞内染色のために、細胞を製造メーカーの指針により、透過バッファ(permeabilization buffer,eBioscience,CA、米国)で処理した。細胞は、4℃で30分間、α−HSP70−FITC(ab61907,Abcam)またはα−HSP90−PE(ab65171,Abcam)と反応させた。FACScan flow cytometer(Becton Dickinson Co.,CA、米国)を利用して、流細胞分析を実施した。データは、FlowjoTMソフトウェア(version 10.0.5,Tree Star Inc.,OR、米国)を使用して分析した。
【0084】
PEP1が生体内腫瘍成長に及ぼす影響の評価方法
7週齢BALB/cアスミック(Nu/Nu)マウス(10mice per group;n=20,female,Orient Bio Co.,京畿道、韓国)に対して、murine colon carcinoma MC38(5x10
5cells/ml in 200μl PBS per site)細胞を皮下接種した後、任意に2つのグループに分けた。マウスは、2日に1回、腹腔内にPEP1(50μg/kg in 100μl 0.9% NaCl solution)またはPBSを注射した。腫瘍の大きさが10mmに達したとき、PEP1またはPBSを腫瘍内注射で投与した。腫瘍の大きさは、2日に1回測定し、腫瘍の体積は、次のような式を利用して計算した(volume(mm
3)=((width
2xlength)/2)。実験14日目、マウスを犠牲し、腫瘍の重さを測定した。全ての動物実験は、The Institute for Experimental Animals,College o fMedicine,Seoul National University at Seoul、韓国によって承認された。
【0085】
腫瘍セクションの増殖細胞及び細胞死滅に対する評価
腫瘍のアポトーシス細胞死滅を評価するために、ホルマリンに固定され、パラフィンに包埋された腫瘍組織セクション(formalin-fixed and paraffin-embedded tumor sections)を使用したTUNELアッセイを介して、DNA断片化(DNA fragmentation)を分析した。製造メーカーの指針により、腫瘍セクションは、ApopTag Peroxidase In Situアポトーシス検出キット(Millipore)を使用して染色した。腫瘍内増殖細胞は、PCNA(proliferating cell nuclear antigen)を使用して感知した。抗原検索のために、組織セクションは、40分間10μMクエン酸(pH6.0)バッファにおいて脱パラフィンさせ、水和させて加熱した。組織は、抗マウスPCNAモノクローナル抗体(anti-mouse PCNA monoclonal antibody,ab29,Abcam)を使用して染色した。二次抗体処理して開発した後、H&E染色方法を利用して、組織セクションを対照染色した。その後、フィールドは、それぞれの処理グループの6個スライドから任意に選択し、フィールドは、定量のためにLeica Qwinソフトで分析した。
【0086】
腫瘍でのHSP発現免疫ブロッティング分析
PCNA染色法と類似した方法で、免疫ヒストケミカル染色を使用して、腫瘍のHSP70タンパク質及びHSP90タンパク質の発現を評価した。熱衝撃タンパク質(HSP70;sc−7298、HSP90;ab1429)に対する抗体を、一次抗体として使用した。腫瘍によるHSP70タンパク質及びHSP90タンパク質の発現は、腫瘍溶解物(tumor lysate)を利用する免疫ブロッティングを介して評価した。液体酸素を利用して凍結させた後、腫瘍は、乳鉢(mortar)を使用してつぶし、抽出バッファ(extraction buffer:20mM HEPES,pH7.5;100mM NaCl,0.05%;Triton X−100,1mM DTT;0.5mM sodium orthovanadate;1mM EDTA,0.5mM PMSF;10μg/ml aprotinin;5μg/ml leupeptin;2μg/ml pepstatin)で均質化させた。反復遠心分離後、前述のように上層液は、SDS−PAGE及び免疫ブロッティングを実施した。
【0087】
ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)分析
癌細胞のVEGF分泌は、ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)を介して確認した。MCF7細胞とHeLa細胞は、24時間、PEP1またはビークルを添加した後、低酸素状態または正常酸素状態において培養した。細胞上層液のVEGF量は、製造メーカーの指針により、human VEGF免疫分析キット(R&D Systems、米国)を使用して確認した。血液内のHSP70濃度及びHSP90濃度を分析するために、腫瘍を有しているマウスモデルから血液を採取した。血清準備後、血液内のHSP70及びHSP90の濃度は、免疫分析キット for HSP70(R&D Systems、米国)及び免疫分析キット for HSP90(Cusabio Biotech Co.,Ltd,DE、米国)を使用して確認した。
【0088】
共焦点顕微鏡の分析
スライスした腫瘍セクションは、常温で、4%パラホルムアルデヒド(paraformaldehyde)で15分間固定させた。PBSで2回洗浄した後、10分間0.25% Triton X−100を含んだPBSで培養した後、PBSでさらに3回洗浄した。1% BSA−PBSTで組織を30分間遮断した後、マウス抗Tie2(557039,BD Pharmigen)と、ラット抗CD11b抗体(rat anti−CD11b antibodies,ab8878,abcam)との混合物と共に、4℃ウェットチャンバで培養した。洗浄後、組織は、AlexaFlour 488 goat anti-mouse IgG及びAelxaFlour 633 goat anti-rat IgGの混合物と共に培養した。細胞核を視覚化させるために、DAPI(Sigma Aldrich)と1分間培養した後、共焦点顕微鏡で分析した。
【0089】
統計分析方法
対照群と、処理されたグループとの統計的比較は、student’s t−testを利用した。P−valueの値が、0.05と同じであるか、あるいはそれ以下であるとき(p≦0.05)、有意的であると見なした。
【0090】
実施例3:低酸素症から誘導されたHIF−1α及びVEGFの生産抑制確認
HIF−1α(hypoxia inducible factor−1 alpha)は、低酸素刺激、さまざまな成長因子及びサイトカインに反応して活性化される物質であり、虚血組織内新生血管形成に重要な役割を行うと知られている。また、血管内皮細胞成長因子(VEGF:vascular endothelial growth factor)は、HIF−1αの調節を受け、新生血管形成を直接刺激する因子である。
【0091】
本実施例では、本発明においては、低酸素条件において、HIF−1αのタンパク質数値に対するPEP1の効果を調査し、HIF−1αが、低酸素条件において、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の生産を調節するという事実が知られてきたために、PEP1の処理が、低酸素条件によって誘導されたVEGFの合成に影響を与えるか否かということを確認した。
【0092】
HIF−1αの発現レベルは、MCF7細胞内及びHeLa細胞内において、HIF−1αの量が、低酸素条件から経時的に減少した(
図1及び
図2参照)。すなわち、何も処理していない対照群(mock treated control)では、HIF−1αの発現が、低酸素症によって増加したが、PEP1の処理を行った細胞では、非常に減少したということを確認することができた。
実験の結果、分泌されたVEGFの量は、漸次的に低酸素条件の誘導によって増加した。しかし、低酸素条件において、MCF7とHeLaとから分泌されたVEGFの量は、PEP1処理によって、相当に減少したということを確認することができた。(
図3参照)。
【0093】
実施例4:PEP1処理によるHSP70及びHSP90の発現抑制確認
新生血管形成に影響を及ぼすHIF−1αは、HSPのクライアントタンパク質と知られているために、本実施例においては、PEP1が、HSP70とHSP90とのタンパク質数値に影響を及ぼすか否かということについて確認した。
図4及び
図5から分かるように、PEP1を2時間処理すれば、Jurkat T細胞リンパ腫細胞内及びMCF7乳癌細胞内のHSP70及びHSP90をいずれも相当なレベルで減少させた。Jurkat細胞を利用した実験において、5μMのPEP1は、HSP70及びHSP90を50%以上減少させた。
【0094】
MCF7細胞においては、PEP1を5μM処理した群において、HSP90は、対照群と比較するとき、最大20%まで減少した。PEP1を20μM処理した群においては、HSP70は、対照群に比べ、約50%ほどの減少を示した。しかし、PEP1と類似しているが、他の配列を有したスクランブルされたペプチドを処理した場合には、HSP70とHSP90との数値に何の影響も及ぼさなかった(
図4及び
図5参照)。
【0095】
また、実施例3において、HIF−1αに対して実施した低酸素条件において、経時的なPEP1の影響を調べる実験と同一の実験を、HSP70及びHSP90に対しても実施した。その結果は、
図6及び
図7に示した。
図6及び
図7から確認することができるように、何も処理していない対照群(mock treated control)では、HSP70及びHSP90の発現が経時的に影響を受けていないが、PEP1の処理を行った細胞においては、非常に減少したということを、MCF7細胞及びHeLa細胞のいずれにおいても確認することができた。それは、PEP1の処理がHSPの分解を引き起こし、その後、それらのクライアントタンパク質を調節することができるということをさらに確実に確認させる(
図1、
図2、
図6及び
図7参照)。かような結果は、PEP1が低酸素条件に係わる多様な細胞の反応に、HSPのタンパク質数値を減少させることにより、影響を与える可能性があることを示唆する。
【0096】
次に、PEP1がHSPを抑制する活性と、HSP90及びHSP70のそれぞれの抑制剤として周知の17−AAG及びKNK437がHSPを抑制する活性とを比較した。17−AAGは、HSP90のATPアーゼ(ATPase)の活性を抑制することにより、HSP90の作用を直接的に抑制する[Uehara Y, Current cancer drug targets, 3: 325-30, 2003]。KNK437は、ストレスから誘導されたHSPの合成を抑制する。実験の結果、PEP1のみが、Jurkat細胞及びMCF7細胞において、HSP90及びHSP70いずれのレベルも低下させた(
図8参照)。
【0097】
Jurkat細胞においては、PEP1のみが、HSP70とHSP90とのタンパク質数値を低下させ、17−AAGとKNK437は、HSP90の量は減少させたが、HSP70の数値を低下させることがなかった。MCF7細胞の場合には、PEP1とKNK437とが、HSP90及びHSP70いずれの量も減少させた一方、17−AAGは、HSP90とHSP70との数値に非常に弱い影響しか与えていない。
【0098】
PEP1による、HSP90とHSP70との減少は、流細胞分析法(flow cytometric analysis)によって、さらに確実に確認することができる。HSP90とHSP70との表面染色と細胞内染色とを介して、PEP1の処理が、細胞表面のHSPに及ぼす影響が、細胞質のHSPに及ぼす影響より小さかったが、細胞内と細胞質とのHSP90とHSP70とを減少させるということを示した(
図9参照)。PEP1と、プロテアソーム抑制剤であるMG132とを共に処理した場合、PEP1による作用がなくなったが、それは、PEP1が、HSP90とHSP70とのプロテアソーム依存的な分解を誘発するということを提示する(
図9参照)。
【0099】
実施例5:低酸素条件(hypoxia)及び正常酸素条件(normoxia)での腫瘍細胞成長確認
前記実施例3及び4のような脈絡において、低酸素条件(hypoxia)と正常酸素条件(normoxia)とにおいて、腫瘍細胞成長に対するPEP1の効果について調査した。PEP1は、普通条件(正常酸素条件(normoxia))において、MCF7細胞とHeLa細胞との成長に弱い抑制効果を示したが、PEP1の抑制効果は、低酸素条件において非常に増進された(
図10及び
図11参照)。
【0100】
実施例6:腫瘍内のTie2
+モノサイト(Tie2
+ monocytes)誘引(recruitment)におけるPEP1の効果
Tie2は、血管形成開始に核心的な役割を行う[Du R et al., Cancer cell, 13: 206-20, 2008]。PEP1がHSPを不安定化させ、HIF−1αとVEGFとの腫瘍細胞内発現を抑制することができることの確認を基に、PEP1が、腫瘍にTEM(Tie2発現単核白血球、Tie2 expressing monocytes)を誘引(recruitment)するのに影響を及ぼすか否かということに係わる実験を行った。免疫ヒストケミカル染色(immunohistochemial staining)結果、PEP1処理したラットから採取した腫瘍のTie2
+ CD11b
+単核白血球の数は、対照群ラットから採取した腫瘍より著しく少なかったということを確認することができた(
図12及び
図13参照)。それは、PEP1によるHIF−1αとVEGFとの発現抑制が、血管形成に重要なTEM誘引に影響を及ぼし、顕著に抑制するということを示す。
【0101】
実施例7:PEP1処理による腫瘍内HSP70とHSP90との減少
PEP1が、生体内(in vivo)実験条件において、HSP70とHSP90との発現を抑制するか否かということを確認するために、α−HSP70抗体またはα−HSP90抗体を利用した免疫組織化学染色を実施した。癌細胞株から得るデータと一貫して、PEP1が処理された群から採取された腫瘍部分は、PBS処理した対照群と比較するとき、弱い染色パターンを示した(
図14参照)。PEP1処理されたサンプルにおいて、陽性に染色された部分は、対照群比較するとき、非常に小さい(
図15参照)。
【0102】
PEP1処理された腫瘍サンプルの減少したHSP70タンパク質とHSP90タンパク質との数値は、腫瘍溶解物(tumor lysates)を介した免疫ブロッティング実験によっても確認される。HSP70とHSP90との減少が、3つのいずれのPEP1処理した腫瘍サンプルにおいても観察された(
図16参照)。特に、HSP90は、PEP1を処理したサンプル内において、ほとんど見い出されなかった。HSPの他のファミリメンバー(family member)と見られるGRP78も、PEP1処理したサンプルにおいて減少した。総合すれば、かような結果は、PEP1がHSPを、生体内システム内で減少させ、腫瘍増殖を抑制する能力があるということを示す。
【0103】
実施例8:血液内分泌されたHSP70のレベルにPEP1が及ぼず影響
HSP70及びHSP90いずれも腫瘍細胞から分泌され、最近の研究は、腫瘍形成及び抗腫瘍反応にいくつかの役割を行っている。HSP90とHSP70との分泌において、PEP1の役割についてさらに詳細に説明するために、腫瘍を有したラットの血液から、HSP70とHSP90との濃度を測定した。たとえPEP1処理群と対照群との間に、分泌されたHSP90の数値に変化がないにしても、PEP1処理したラットのHSP70数値が対照群より低く示された(
図17参照)。
【0104】
また、低いHSP70の数値は、腫瘍量及び腫瘍重量と相関関係がある(
図18参照)。
【0105】
実施例9:PEP1による生体内腫瘍成長の抑制
前記実施例の結果は、PEP1のHSP90機能及びHSP70機能に対する抑制役割を示し、それを介して、他のHSP抑制剤と共に、PEP1が潜在的な腫瘍抑制機能も有するということを示唆するともいえる。
【0106】
それにより、本実施例においては、ラットモデルを利用して、PEP1の生体内腫瘍抑制効果について調査した。MC38ラット癌細胞(MC38 murine cancer cell)にPEP1を処理したものと、そうではないものとの皮下の生体内(in vivo)腫瘍成長を分析した。PEP1処理を行ったグループと対照群との間に、腫瘍量の相当な差が観察された(
図19参照)。注入後18日になる時点で、対照群の平均腫瘍量が、PEP1処理群の量より約3倍ほどであるということが観察された。一貫して、対照群の腫瘍の重さが、PEP1処理群の腫瘍重量よりはるかに大きく、それは、PEP1が生体内腫瘍成長を抑制する能力があることを示す(
図20及び
図21参照)。
【0107】
実施例10:PEP1を処理したラットから採取した腫瘍の組織学的検査
ヘマトキシリン−エオシン(H&E:hematoxylin and eosin)染色を介した組織学的検査は、PEP1処理したラットの組織セクションが、対照群ラットにおいてよりも、さらに多くの空きスペースを示している。それは、PEP1処理したラットの腫瘍において、多くの細胞死滅が発生したということを示唆する(
図22参照)。また、PEP1処理したラットから採取した腫瘍において、さらに少ない血管が発見されたが、それは、PEP1が他のHSP抑制剤とともに、血管形成を抑制する機能を有するということを示しているといえる(
図22参照)。TUNEL染色(TUNEL staining)によって、細胞がアポトーシス細胞死滅を進めるように見られるが、それは、PEP1の抗癌効果をさらに確実に確認させる。
図23から分かるように、対照群腫瘍の場合と比較するとき、PEP1を処理した腫瘍サンプルにおいて、相当な程度に高い数値の細胞死滅が観察された。また、細胞核抗原(PCNA)の増殖を測定するための腫瘍部分の染色は、PEP1を処理した群の腫瘍部分において、細胞増殖の減少を明らかに示している(
図24参照)。
【0108】
実施例11:血管内皮細胞を介したPEP1の細胞増殖、過形成の抑制効能確認
1)細胞培養
本実施例は、ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(human umbilical vein endothelial cell)をEGM−2培地で培養し、2ないし5継代間の血管内皮細胞のみを実験に使用した。
【0109】
2)試験物質
試験物質であるヒト臍帯静脈血管内皮細胞は、Lonza(Walkersville,MD、米国)から購入し、VEGF−A(血管内皮細胞増殖因子−A)は、Merck Millipore(Billerica、MA、米国)からそれぞれ購入して使用した。PEP1は、PBS(pH7.4)に溶解して使用した。
【0110】
3)血管内皮細胞の増殖と生存率との分析及び効果
血管内皮細胞を、6ウェルプレート(BD Biosciences,Bedford,MA、米国)に、それぞれ1x10
5cells/ウェルでプレーティングした。血清及び血管新生誘導因子がない基本EBM−2培地(Lonza)で、細胞をG1/G0 phaseで同期化した後、PEP1を、濃度別(0.05,0.5,5μM)に処理し、EGM−2培地で24時間刺激し、細胞増殖抑制効果を観察した。
【0111】
細胞増殖の検出は、trypan blue stain溶液(Invitrogen,Carlsbad,CA、米国)を利用して、顕微鏡(x100)で直接計数し、細胞生存率は、Muse(商標) analyzerを利用して、viability assay kit(Merck Millipore社)で分析した。
【0112】
PEP1は、多様な血管新生誘導因子を含むEGM−2培地に刺激された血管内皮細胞の増殖を濃度依存的に抑制し(図
25a)、細胞生存率には何の影響も及ぼさないということを確認することができた(図
25b)。それは、PEP1が、血管内皮細胞の細胞増殖に細胞毒性なしに増殖を抑制する効果があるということを提示する。
【0113】
4)血管内皮細胞の過形成分析及び効果
Matrigrl(登録商標) basement membrane matrix(10.4mg/mL,BD Biosciences)を、24ウェルプレートに、200μlずつコーティング(37℃で30分)した後、血管内皮細胞(4x10
4cells/ウェル)をプレーティングし、基本EBM−2培地で2時間、serum-starvationした。PEP1を、濃度別(0.05,0.5,5μM)に処理し、EGM−2培地で6時間刺激した。過形成変化は、Olympus CKX41 inverted microscope(CAchN 10/0.25php objective,Olympus Optical Co.,Tokyo、日本)と、ToupTek Toupview software(version x86、3.5.563,Hangzhou ToupTek Photonics Co.,Zhejiang、中国)を利用して観察した(図
26a)。
【0114】
PEP1は、多様な血管新生誘導因子を含むEGM−2培地に刺激された血管内皮細胞の過形成を濃度依存的に抑制することにより(図
26b)、血管内皮細胞の移動及び分化による血管形成を抑制することができるということを提示する。
【0115】
実施例12:VEGF−Aによる血管内皮細胞を介したPEP1細胞の増殖、過形成及び浸潤の抑制効能確認
1)VEGF−Aによる血管内皮細胞の増殖と生存率との分析及び効果
血管内皮細胞を、6ウェルプレート(BD Biosciences,Bedford,MA、米国)に、それぞれ1x10
5cells/ウェルでプレーティングした。血清及び血管新生誘導因子がない基本EBM−2培地(Lonza)で、細胞をG1/G0 phaseに同期化した後、PEP1を、濃度別(0.05,0.5,5μM)に処理し、VEGF−A(10ng/mL)で24時間刺激し、細胞増殖抑制効果を観察した。
【0116】
細胞増殖の検出は、trypan blue stain溶液(Invitrogen,Carlsbad,CA、米国)を利用して、顕微鏡(x100)で直接計数し、細胞生存率は、Muse(商標) analyzerを利用して、viability assay kit(Merck Millipore社)で分析した。
PEP1は、多様な血管新生誘導因子を含むEGM−2条件と類似して、VEGF−Aによる血管内皮細胞の増殖を、濃度依存的に抑制し(図
27a)、細胞生存率には、影響を及ぼさないということを確認した(図
27b)。
【0117】
2)VEGF−Aによる血管内皮細胞の過形成分析及び効果
Matrigrl(登録商標) basement membrane matrix(10.4mg/mL、BD Biosciences)を、24ウェルプレートに200μlずつコーティング(37℃で30分)した後、血管内皮細胞(4x10
4cells/ウェル)をプレーティングし、基本EBM−2培地で2時間serum-starvationした。PEP1を、濃度別(0.05,0.5,5μM)に処理し、VEGF−A(10ng/mL)で6時間刺激した。過形成変化は、Olympus CKX41 inverted microscope(CAchN 10/0.25php objective,Olympus Optical Co.,Tokyo、日本)と、ToupTek Toupview software(version x86,3.5.563,Hangzhou ToupTek Photonics Co.,Zhejiang、中国)を利用して観察した(図
28a)。
【0118】
PEP1が、VEGF−Aによる血管内皮細胞の過形成を濃度依存的に抑制するということを確認した(図
28b)。
【0119】
3)VEGF−Aによる血管内皮細胞の浸潤分析及び効果
基本EBM−2培地で2時間、serum-starvationさせた血管内皮細胞を、100mL(4x10
5cells/mL)ずつ、Matrigel(登録商標)(1mg/mL,BD Biosciences)コーティングされたトランスウェルインサート(Costar,6.5mm径)にプレーティングし、下側ウェルには、基本EBM−2培地を600μl入れた。図
29には、インサートを設けた大略的な模式図が図示されている。
【0120】
PEP1を濃度別(0.05,0.5,5μM)に処理し、VEGF−A(10ng/mL)で18時間刺激させた後、インサートをメタノールで固定させ、cotton-tipped swabを利用して、インサート上部の浸潤していない細胞は除去した。Giemsa stain溶液(Sigma-Aldrich Co.,St.Louis,MO、米国)で染色し、顕微鏡(x200)で互いに異なる6ヵ所を観察し、浸潤細胞を顕微鏡で直接計数した(図
30a)。
【0121】
PEP1がVEGF−Aによる細胞浸潤を強力に抑制するということを確認した(図
30b)。
【0122】
実験結果の統計学的有意性は、student’s t−testで分析し、p−valueが0.05未満である場合、統計的に有意であると判定した。