特許第6553605号(P6553605)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6553605血管新生抑制活性を有するペプチド、及びそれを含む組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6553605
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】血管新生抑制活性を有するペプチド、及びそれを含む組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/10 20060101AFI20190722BHJP
   A23L 29/281 20160101ALI20190722BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20190722BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20190722BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20190722BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20190722BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20190722BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20190722BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20190722BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20190722BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20190722BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20190722BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20190722BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20190722BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20190722BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20190722BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20190722BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20190722BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20190722BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20190722BHJP
   C12N 9/12 20060101ALN20190722BHJP
【FI】
   A61K38/10
   A23L29/281
   A61P9/00
   A61P35/00
   A61P35/04
   A61P27/02
   A61P27/06
   A61P17/06
   A61P19/02
   A61P9/10
   A61P17/02
   A61P29/00 101
   A61P29/00
   A61P1/04
   A61P1/16
   A61P13/12
   A61P37/06
   A61P7/02
   A61P3/10
   A61P25/00
   A61P43/00 105
   !C12N9/12ZNA
【請求項の数】8
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2016-533182(P2016-533182)
(86)(22)【出願日】2014年11月21日
(65)【公表番号】特表2016-539121(P2016-539121A)
(43)【公表日】2016年12月15日
(86)【国際出願番号】KR2014011280
(87)【国際公開番号】WO2015076621
(87)【国際公開日】20150528
【審査請求日】2017年11月21日
(31)【優先権主張番号】10-2013-0142897
(32)【優先日】2013年11月22日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2014-0020605
(32)【優先日】2014年2月21日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514286826
【氏名又は名称】ジェムバックス アンド カエル カンパニー,リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100164563
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 貴英
(72)【発明者】
【氏名】キム サン チェ
【審査官】 横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/167299(WO,A1)
【文献】 特表2002−520293(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0027769(US,A1)
【文献】 Cancer Treatment Reviews, 2013 Aug, Vol.39, p.444-456
【文献】 化学と生物, 2010, Vol.48 No.10, p.713-719
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00
A61P
C12N 9/00
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチド、または前記ペプチドと90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するペプチドを含む血管新生抑制用組成物であって、前記組成物は、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、角膜移植拒絶、新生血管緑内障、紅色症、増殖性網膜症、乾癬、黄斑変性、血友病性関節、アテローム性動脈硬化プラーク内での毛細管増殖、ケロイド、怪我顆粒化、血管接着、リウマチ関節炎、慢性炎症、骨関節炎、自己免疫疾患、クローン病、再発狭窄症、アテローム性動脈硬化、腸管接着、キャットスクラッチ疾患、潰瘍、肝硬変、糸状体腎炎、糖尿病性腎臓病症、悪性腎硬化症、血栓性微小血管症、器官移植拒絶、腎糸球体病症、糖尿病、あるいは、炎症または神経変性の非調節性血管新生関連疾病または疾患の予防または治療用である、組成物
【請求項2】
過剰な血管新生関連性の眼科疾患の予防または治療用である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記眼科疾患は、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、角膜移植拒絶、新生血管緑内障、紅色症、増殖性網膜症、乾癬である、請求項に記載の組成物。
【請求項4】
配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチド、または前記ペプチドと90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するペプチドを含む血管新生抑制用組成物であって、前記組成物は、腫瘍増殖及び転移の予防または治療用であり、前記組成物は、血管内皮細胞の増殖または管形成を抑制し、前記腫瘍は低酸素状態であり、そして、前記組成物は、前記腫瘍におけるHIF−1aの生産、ならびに、HSP70タンパク質レベル及びHSP90タンパク質レベルを減少させる、組成物。
【請求項5】
前記組成物は、血管内皮細胞の増殖、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)により誘導される管形成、及び血管内皮細胞の浸透を抑制することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物は、VEGF−A(血管内皮細胞増殖因子−A)による血管内皮細胞の増殖、管形成、または血管内皮細胞の浸透を抑制する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物は、医薬組成物である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物は、食品組成物である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管新生抑制効能を有するペプチド、及びそれを含む薬剤学的組成物に関し、さらに具体的には、テロメラーゼに由来したペプチドであって、血管新生抑制効能を有するペプチド、及びそれを含む血管新生抑制用薬剤学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
体内恒常性維持のための細胞及び組織の増殖、分化及び消滅は、細胞外マトリックス(ECM)に存在する多様な細胞刺激因子と細胞との相互作用の均衡によって調節される。かような調節に不均衡が起これば、細胞死滅、増殖抑制信号に対する無反応、持続的な血管新生による栄養供給、周囲組織への浸潤及び転移によって表現される悪性腫瘍など各種疾患が発生する。
【0003】
血管新生(angiogenesis)とは、細胞基底膜分解、細胞移動、細胞外マトリックスの浸湿、細胞増殖、毛細管内腔形成及び血管周辺細胞形成などの全過程を含む。それを抑制する方法としては、血管内皮細胞を標的にする直接的な方法と、血管新生誘導因子を生成する癌細胞または周辺細胞を標的にする間接的な方法がある。主に、血管新生誘導因子の活性を阻害する抗体タンパク質開発、またはその受容体の作用を遮断する低分子物質開発研究を中心に進められてきた。
【0004】
血管新生は、血管壁を形成する内皮細胞の移動段階及び分裂段階を含む一連の順次的な段階を介して起こる。内皮細胞の成長及び移動を活性化するタンパク質としては、約15種が知られており、かような因子によって、血管新生が調節される。それにより、新生血管の形成は、アンジオジェニン(angiogenin)、表皮成長因子、エストロゲン、纎維母細胞成長因子、インターロイキン(interleukin)8、プロスタグランジンE1及びE2、腫瘍懐死因子、血管内皮成長因子またはG−CSF(granulocyte colony-stimulating factor)のような活性化タンパク質を抑制する抑制剤によって抑制される。
【0005】
熱衝撃タンパク質(HSP:heat shock protein)とは、タンパク質の恒常性を維持するのに核心的な役割を行う分子的シャペロンである。HSPは、低酸素症のようなストレス状況において、細胞の生存において重要である。HSP、特に、HSP90とHSP70は、広範囲の腫瘍[Morano KA, Annals of the New York Academy of Sciences, 1113: 1-14, 2007; Calderwood SK et al, Trends in biochemical sciences, 31: 164-72, 2006]で多く発現される。いくつかのHSP発現は、いくつかの癌において、腫瘍細胞の増殖、分化、アポトーシス(apoptosis)と相関関係があるということが明かされており、それは、HSPがそれ自体が有する細胞保護役割のために、癌細胞生存に重要な役割を行うと見られる。HSP70の過多発現は、ラット纎維肉腫細胞の腫瘍形成を誘発し、遺伝子導入されたラットのT−細胞内HSP70が過多発現されれば、そのラットのT細胞リンパ種の増加を誘発する[Jaattela M, International journal of cancer Journal international du cancer, 60: 689-93, 1995; Seo JS et al, Biochemical and biophysical research communications, 218: 582-7, 1996; Volloch VZ et al, Oncogene, 18: 3648-51, 1999; Murphy ME, Carcinogenesis, 34: 1181-8, 2013]。特に、HSP70は、アポトーシスから細胞を保護する重要な役割を行うと知られている。それだけではなく、HSP発現の増加は、血管形成、浸湿、転移に関連していると見られる[Calderwood SK et al, Trends in biochemical sciences, 31: 164-72. 2006; Zhou J et al, The Journal of biological chemistry, 279: 13506-13, 2004; Bruns AF et al, PloS one, 7: e48539, 2012; Sun J et al, Arteriosclerosis, thrombosis and vascular biology. 24: 2238-44, 2004; Gong W, et al, Oncology reports, 2013; Eustace BK et al, Cell cycle, 3: 1098-100, 2004; Eustace BK et al, Nature cell biology, 6: 507-14, 2004]。
【0006】
細胞に酸素と栄養分とを供給する血管の生成を遮断すれば、癌の成長及び転移が抑制され、最終的に癌を治療することができるという理論を基盤とする血管新生抑制医薬品の開発は、抗癌剤だけではなく、関節炎、糖尿病性の網膜症及び慢性炎症、虚血性心疾患などに適用することができる標的治療法として活発に研究中である。血管新生抑制治療法は、直接的に腫瘍増殖及び転移を阻害することができるだけではなく、間接的には、腫瘍血管環境を正常化し、生物医薬品または化学療法剤の効率的伝達と、低酸素環境の改善とにより、薬物の治療効果を増進させることができる。
【0007】
従って、悪性腫瘍など各種疾患(関節炎、糖尿病性の網膜症及び慢性炎症、虚血性心疾患など)、過度な血管新生関連腫瘍(癌)、心臓血管疾患(例えば、粥状硬化症(atherosclerosis))、慢性炎症(例えば、リウマチ関節炎またはクローン病(Crohn’s disease))、糖尿病(例えば、糖尿網膜病症)、乾癬、子宮内膜症(endometriosis)を治療または予防するための血管新生抑制医薬品の開発が必要であるという実情である。
かような背景下において、本発明者らは、効果にすぐれ、毒性が少ない血管新生抑制用組成物を開発すべく鋭意努力した結果、本発明の完成に至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一側面による目的は、効果的な血管新生抑制活性を有するペプチド、及びそれを含む血管新生抑制用組成物、並びにそれを利用して血管新生関連疾患を治療する方法を提供するところにある。
【0009】
本発明の他の側面による目的は、効果的に、腫瘍増殖及び転移の抑制が可能な組成物を提供するところにある。
【0010】
本発明の他の側面による目的は、効果的に、血管新生関連疾患の予防及び治療が可能な組成物を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明の一側面においては、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチド、前記アミノ酸配列と80%以上の配列相同性を有するペプチド、またはその断片であるペプチドを含む血管新生抑制用組成物が提供される。
【0012】
本発明の一側面による組成物において、前記断片は、3個以上のアミノ酸から構成された断片でもある。
【0013】
本発明の一側面による組成物において、前記組成物は、血管内皮細胞の増殖または過形成を抑制することを特徴とする。
【0014】
本発明の一側面による組成物において、前記組成物は、VEGF−A(血管内皮細胞増殖因子−A)による血管内皮細胞の増殖、過形成、または血管内皮細胞に対する浸潤を抑制することを特徴とする。
【0015】
本発明の一側面による組成物において、前記組成物は、血管新生に係わる疾患の予防用及び治療用でもある。
【0016】
本発明の一側面による血管新生抑制用組成物において、前記断片は、3個以上のアミノ酸から構成された断片でもある。
【0017】
本発明の一側面による血管新生抑制用組成物において、前記組成物は、腫瘍増殖及び転移、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、角膜移植拒絶、新生血管緑内障、紅色症、増殖性網膜症、乾癬、黄斑変性(macular degeneration)、血友病性関節、アテローム性動脈硬化プラーク内での毛細管増殖、ケロイド、怪我顆粒化、血管接着、リウマチ関節炎、慢性炎症(chronic inflammation)、骨関節炎、自己免疫疾患、クローン病、再発狭窄症、アテローム性動脈硬化、腸管接着、キャットスクラッチ疾患、潰瘍、肝硬変、糸状体腎炎、糖尿病性腎臓病症、悪性腎硬化症、血栓性微小血管症、器官移植拒絶、腎糸球体病症、糖尿病、或いは、炎症または神経変性疾患の非調節性血管新生関連疾病又は疾患の予防または治療用であってもよい。
【0018】
本発明の一側面による血管新生抑制用組成物において、前記組成物は、腫瘍増殖及び転移の予防または治療に利用されるものでもある。
【0019】
本発明の一側面による血管新生抑制用組成物において、前記組成物は、過度な血管新生による眼科疾患の予防または治療に利用されるものでもある。
【0020】
本発明の一側面による血管新生抑制用組成物において、前記眼科疾患は、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、角膜移植拒絶、新生血管緑内障、紅色症、増殖性網膜症、乾癬または黄斑変性でもある。
【0021】
本発明の一側面による血管新生抑制用組成物において、前記組成物は、血管内皮細胞の増殖、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)誘導管形成、及び血管内皮細胞の浸透を抑制するものでもある。
【0022】
本発明の一側面による血管新生抑制用組成物において、前記組成物は、医薬組成物でもある。
【0023】
本発明の一側面による血管新生抑制用組成物において、前記組成物は、食品組成物でもある。
【0024】
本発明の他の側面によれば、前述の組成物を対象に投与する段階を含む血管新生関連疾患の予防方法及び治療方法でもある。
【0025】
本発明の一側面による組成物において、前記血管新生に係わる疾患は、腫瘍増殖及び転移、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、角膜移植拒絶、新生血管緑内障、紅色症、増殖性網膜症、乾癬、黄斑変性、血友病性関節、アテローム性動脈硬化プラーク内での毛細管増殖、ケロイド、怪我顆粒化、血管接着、リウマチ関節炎、慢性炎症、骨関節炎、自己免疫疾患、クローン病、再発狭窄症、アテローム性動脈硬化、腸管接着、キャットスクラッチ疾患、潰瘍、肝硬変、糸状体腎炎、糖尿病性腎臓病症、悪性腎硬化症、血栓性微小血管症、器官移植拒絶、腎糸球体病症、糖尿病、或いは、炎症または神経変性疾患の非調節性血管新生関連疾病または疾患でもある。
【0026】
本発明の他の側面によれば、前記血管新生抑制用組成物を必要とする対象に投与することを特徴とする血管新生関連疾患を治療及び予防する方法が提供される。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、効果的に、血管新生の抑制可能な組成物が提供される。従って、本発明による組成物は、血管新生に係わる疾患の治療及び予防に適用され、特に、腫瘍増殖及び転移の抑制、過度な血管新生による眼科疾患の治療のために使用される。
【0028】
また、本発明による配列番号の配列を有するペプチド、または前記配列と80%の相同性を有する配列を有するペプチド、または断片であるペプチドは、優秀な血管新生抑制効能を有する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】低酸素症が誘導された細胞において、PEP1がHIF−1α生産抑制効果を示した結果を示す写真である。MCF7は、PEP1(20μM)またはビークル(vehicle)で処理し、指定された時間の間低酸素状態で培養した。細胞溶解物は、HIF−1αの量を分析するために、免疫ブロッティングを実施した。
図2】低酸素症が誘導された細胞において、PEP1がHIF−1α生産抑制効果を示した結果を示す写真である。HeLa細胞は、PEP1(20μM)またはビークル(vehicle)で処理し、指定された時間の間低酸素状態で培養した。細胞溶解物は、HIF−1αの量を分析するために、免疫ブロッティングを実施した。
図3】PEP1による低酸素症誘導されたVEGF生産抑制を示したグラフである。MCF7細胞とHeLa細胞は、PEP1(20μM)またはビークルで処理し、指定された時間の間正常酸素状態及び低酸素状態で培養した。細胞培養上層液の分泌されたVEGFの量は、ELISAを介して確認した(mockと比較したとき(versus mock)、*は、p<0.05を示し、**は、p<0.01を示し、Жは、p<0.001をそれぞれ示す)。
図4】癌細胞において、PEP1処理による、HSP70とHSP90との下向き調節(down-regulation)を示した結果である。Jurkat細胞を無血清培地において、上昇する濃度のPEP1、またはスクランブルされた(scrambled)ペプチドで2時間処理した。HSP70及びHSP90のタンパク質の量は、HSP70、HSP90及びGAPDHに対する抗体を使用して免疫ブロッティングで分析した。
図5】癌細胞において、PEP1処理による、HSP70とHSP90との下向き調節(down-regulation)を示した結果である。MCF7細胞を無血清培地において、上昇する濃度のPEP1、またはスクランブルされた(scrambled)ペプチドで2時間処理した。HSP70及びHSP90のタンパク質の量は、HSP70、HSP90及びGAPDHに対する抗体を使用して免疫ブロッティングで分析した。
図6】PEP1による低酸素症誘導されたHSP生産抑制を示した実験結果である。MCF7細胞は、PEP1(20μM)またはビークルで処理し、指定された時間の間低酸素状態で培養した。細胞溶解物は、HSP70、HSP90の量を分析するために免疫ブロッティングを実施した。
図7】PEP1による低酸素症誘導されたHSP生産抑制を示した実験結果である。HeLa細胞は、PEP1(20μM)またはビークルで処理し、指定された時間の間低酸素状態で培養した。細胞溶解物は、HSP70、HSP90の量を分析するために免疫ブロッティングを実施した。
図8】Jurkat細胞及びMCF7細胞に、ビークル、PEP1、17−AAG、KNK437を処理した結果である。Jurkat細胞及びMCF7細胞は、無血清培地において、ビークル、PEP1(5μM for Jurkat and 20μM for MCF7)、17−AAG(1μM)、KNK437(1μM)と2時間処理した。図4に使用された類似の方法によって、細胞溶解物は、免疫ブロッティングで分析した。
図9】MCF7細胞を、MG132(5μM)を含んでいるか、あるいは含んでいない状態のいずれでも、PEP1またはPBSで処理した結果を示している。細胞内のHSPと、細胞表面のHSPは、表面細胞内染色(surface intracellular staining)と細胞表面(surface staining)染色で染色し、前記実験物質及び方法に記載されているように、流細胞分析を利用して分析した(赤色:DMSO;青色:PEP1+DMSO;オレンジ色:PEP1+MG132;緑色:MG132)。
図10】低酸素状態において、PEP1による癌細胞増殖抑制を示したグラフである。MCF7細胞は、普通酸素状態(左側パネル)または低酸素状態(右側パネル)でPEP1を含んでいるか、あるいは含んでいない状態で培養した。培養日2日目、4日目、6日目の細胞数を測定した(データは、平均値±SDで示し、mockと比較したとき、*は、<0.05を示し、1−way t−testを使用)。
図11】低酸素状態において、PEP1による癌細胞増殖抑制を示したグラフである。HeLa細胞は、普通酸素状態(左側パネル)または低酸素状態(右側パネル)でPEP1を含んでいるか、あるいは含んでいない状態で培養した。培養日2日目、4日目、6日目の細胞数を測定した(データは、平均値±SDで示し、mockと比較したとき、*は、<0.05を示し、1−way t−testを使用)。
図12】PEP1が、腫瘍細胞でのTie2+単核球集合に及ぼす効果を示した結果である。Tie2+とCD11b+との単核球集合は、Tie2(green,AlexaFlour488)と、CD11b(red,AelxaFlour633)との感知のために、免疫蛍光染色(immunofluorescence staining)を利用して分析した。DAPI染色を利用して、細胞核を視覚化した。スケールバーは、50μmを示す。拡大されたイメージに示された矢印は、Tie2+ CD11b+を示す。大食細胞は、hpf当たり示した。5個のフィールドは、定量化するのために、各腫瘍組織治療グループの2個のスライドから任意的に選択された(*は、p<0.05を示し、**は、p<0.01を示し、***は、p<0.001を示し、2−way t−testを使用)。
図13】PEP1が、腫瘍細胞でのTie2+単核球集合に及ぼす効果を示した結果である。Tie2+とCD11b+との単核球集合は、Tie2(green,AlexaFlour488)と、CD11b(red,AelxaFlour633)との感知のために、免疫蛍光染色(immunofluorescence staining)を利用して分析した。DAPI染色を利用して、細胞核を視覚化した。スケールバーは、50μmを示す。拡大されたイメージに示された矢印は、Tie2+ CD11b+を示す。大食細胞は、hpf当たり示した。5個のフィールドは、定量化するのために、各腫瘍組織治療グループの2個のスライドから任意的に選択された(*は、p<0.05を示し、**は、p<0.01を示し、***は、p<0.001を示し、2−way t−testを使用)。
図14】PEP1処理による腫瘍のHSP70タンパク質レベルとHSP90タンパク質レベルとの低下を示した結果である。HSP70及びHSP90に対する抗体を利用した免疫ヒストケミカル染色(immunohistochemical staining)を介して、腫瘍セクションのHSP70タンパク質レベルとHSP90タンパク質レベルとを視覚化した。
図15】PEP1処理による腫瘍のHSP70タンパク質レベルとHSP90タンパク質レベルとの低下を示した結果である。Leica Qwinソフトウェアを利用して定量化した。
図16】PEP1処理による腫瘍のHSP70タンパク質レベルとHSP90タンパク質レベルとの低下を示した結果である。それぞれの治療グループの6個のスライドから、10個のフィールドを定量化するために、任意的に選択した(データは、平均値±SDで示し、controlと比較したとき、*は、p<0.05を示し、2−way T−testを使用)。腫瘍から抽出したタンパク質抽出物は、HSP70、HSP90、GRP78及びGAPDHに対する抗体を利用して、免疫ブロッティングを実施した。
図17】PEP1の血液内分泌するHSP70レベルに及ぼす影響を示した結果である。HSP70レベル(左側パネル)とHSP90(右側パネル)は、PEP1(50μg/kg)またはPBS(10mice per group;n=20)を処理したマウスモデルから獲得した血清を利用して、ELISA実施して確認した。
図18】PEP1の血液内分泌するHSP70レベルに及ぼす影響を示した結果である。血液のHSP70レベルと、腫瘍重量(左側パネル)または腫瘍サイズ(右側パネル)の関連性を分析した(R2=1、腫瘍重量と比較したとき、HSP70において、P=0.037を示し、腫瘍サイズと比較したとき、HSP70において、p=0.039を示し、2−way t−testを使用)。
図19】PEP1による生体内腫瘍成長抑制を示している。MC38細胞を、BALB/cアスミック(athymic)(Nu/Nu)ラット(10匹当たり1グループ;n=20)モデルに皮下に注射した。腫瘍を有したマウスモデルに、2日1回PEP1またはPBSを腹腔内注射した。腫瘍の直径が10mmに達したとき、PEP1またはPBSを腫瘍内注射した。腫瘍の体積は、2日に1回測定した(ビークルと比較したとき、*は、p<0.05を示し、**は、p<0.01を示し、2−way t−test使用)。
図20】PEP1による生体内腫瘍成長抑制を示している。MC38細胞を、BALB/cアスミック(athymic)(Nu/Nu)ラット(10匹当たり1グループ;n=20)モデルに皮下に注射した。腫瘍を有したマウスモデルに、2日1回PEP1またはPBSを腹腔内注射した。腫瘍の直径が10mmに達したとき、PEP1またはPBSを腫瘍内注射した。腫瘍の重さは、14日目、マウスを犠牲にした後で測定した(ビークルと比較したとき、*は、p<0.05を示し、2−way t−test使用)。
図21】PEP1による生体内腫瘍成長抑制を示している。MC38細胞を、BALB/cアスミック(athymic)(Nu/Nu)ラット(10匹当たり1グループ;n=20)モデルに皮下に注射した。腫瘍を有したマウスモデルに、2日1回PEP1またはPBSを腹腔内注射した。腫瘍の直径が10mmに達したとき、PEP1またはPBSを腫瘍内注射した。除去された腫瘍を図21に示した(ビークルと比較したとき、*は、p<0.05を示し、**は、p<0.01を示し、2−way t−test使用)。
図22】PEP1投与マウス腫瘍の組織学的検査結果を示している。PEP1処理またはビークル処理された腫瘍を有したマウスモデルで獲得した腫瘍細胞は、免疫ヒストケミストリのために準備した。パラフィン固定されたセクションは、H&E染色法で染色し、顕微鏡で観察した。
図23】PEP1投与マウス腫瘍の組織学的検査結果を示している。PEP1処理またはビークル処理された腫瘍を有したマウスモデルで獲得した腫瘍細胞は、免疫ヒストケミストリのために準備した。細胞死滅は、セクションを利用して、TUNELアッセイを介して分析した。
図24】PEP1投与マウス腫瘍の組織学的検査結果を示している。PEP1処理またはビークル処理された腫瘍を有したマウスモデルで獲得した腫瘍細胞は、免疫ヒストケミストリのために準備した。増殖する細胞は、PCNA(proliferating cell nuclear antigen)に対する抗体と、免疫ヒストケミカル(immunohistochemical)で分析した。10個のフィールドは、それぞれの処理グループの6個のスライドから任意的に選択され、定量化するのために、Leica Qwinソフトウェアで分析した。
図25a】PEP1の血管新生抑制効能を評価するための実験であり、血管内皮細胞(human umbilical vein endothelial cell)に、PEP1を、濃度別(0.05、0.5、5μM)に処理した後、細胞増殖を測定し、血管内皮細胞増殖抑制効果を観察した結果を示している。
図25b】PEP1の血管新生抑制効能を評価するための実験として、血管内皮細胞(human umbilical vein endothelial cell)に、PEP1を、濃度別(0.05、0.5、5μM)に処理した後、細胞生存率を測定し、血管内皮細胞増殖抑制効果を観察した結果を示している。
図26a】PEP1の血管新生抑制効能を評価するための実験として、血管内皮細胞に、PEP1を、濃度別(0.05、0.5、5μM)に処理した後で観察した結果である。
図26b】PEP1の血管新生抑制効能を評価するための実験として、血管内皮細胞に、PEP1を、濃度別(0.05、0.5、5μM)に処理した後で観察した結果をグラフ化し、血管内皮細胞過形成抑制効果を示している。
図27a】PEP1の血管新生抑制効能を評価するための試験として、血管新生誘導因子であるVEGF−A(血管内皮細胞増殖因子−A)で誘導された血管内皮細胞に、PEP1を、濃度別(0.05、0.5、5μM)に処理した後、細胞増殖を測定して血管内皮細胞増殖抑制効果を観察した結果を示す。
図27b】PEP1の血管新生抑制効能を評価するための試験として、血管新生誘導因子であるVEGF−A(血管内皮細胞増殖因子−A)で誘導された血管内皮細胞に、PEP1を、濃度別(0.05、0.5、5μM)に処理した後、細胞生存率を測定して血管内皮細胞増殖抑制効果を観察した結果を示す。
図28a】PEP1の血管新生抑制効能を評価するための試験として、血管新生誘導因子であるVEGF−A(血管内皮細胞増殖因子−A)で誘導された血管内皮細胞に、PEP1を、濃度別(0.05、0.5、5μM)で処理した後、観察した結果を示したものである。
図28b】PEP1の血管新生抑制効能を評価するための試験として、血管新生誘導因子であるVEGF−A(血管内皮細胞増殖因子−A)で誘導された血管内皮細胞に、PEP1を、濃度別(0.05、0.5、5μM)で処理した後、観察した結果をグラフ化し、血管内皮細胞過形成抑制効果を示したものである。
図29】トレンスウェルインサート(transwell insert)を設けた大略的な模式図である。
図30a】PEP1の血管新生抑制効能を評価するための試験として、血管新生誘導因子であるVEGF−A(血管内皮細胞増殖因子−A)で誘導された血管内皮細胞に、PEP1を、濃度別(0.05、0.5、5μM)に処理した後、インサートをメタノールで固定させ、インサート上部の浸潤していない細胞を除去した結果である。
図30b】PEP1の血管新生抑制効能を評価するための試験として、血管新生誘導因子であるVEGF−A(血管内皮細胞増殖因子−A)で誘導された血管内皮細胞に、PEP1を、濃度別(0.05、0.5、5μM)に処理した後、インサートをメタノールで固定させ、インサート上部の浸潤していない細胞を除去した結果グラフ化、血管内皮細胞浸潤抑制効果を観察した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、多様な変換を加えることができ、さまざまな実施例を有することができるが、以下、本発明についてさらに具体的に説明する。しかし、それは、本発明を特定の実施形態について限定するものではなく、本発明の思想及び技術範囲に含まれる全ての変換、均等物ないし代替物を含むものであると理解されなければならない。本発明の説明において、関連公知技術に係わる具体的な説明が、本発明の要旨を不明確にすると判断される場合、その詳細な説明を省略する。
【0031】
テロメア(telomere)は、染色体の末端に反復的に存在する遺伝物質であって、当該染色体の損傷や、他の染色体との結合を防止すると知られている。細胞が分裂するたびに、テロメアの長さは少しずつ短くなるが、一定回数以上の細胞分裂があれば、テロメアは非常に短くなり、その細胞は、分裂を止めて死ぬ。一方、テロメアを長くすれば、細胞の寿命が延長されると知られており、その例として、癌細胞では、テロメラーゼ(telomerase)という酵素が分泌され、テロメアが短くなることを防ぐために、癌細胞が死なずに、続けて増殖すると知られている。本発明者らは、テロメラーゼに由来するペプチドが、血管新生抑制に効果的であるということを確認し、本発明に完成に至った。
【0032】
過度な新生血管の成長は、癌(cancer)、年齢関連黄斑変性(age-related macular degeneration)、リウマチ関節炎(rheumatoid arthritis)、乾癬(psoriasis)のような疾患と関連する。かような疾患がある場合、過度な血管成長によって、疾患がある組織に新生血管が供給され、正常組織が破壊される。癌の場合には、新生血管が腫瘍細胞を循環させ、他の組織に寄生させもする。
【0033】
かような血管新生関連疾患としては、前述の腫瘍増殖及び転移を始めとして、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、角膜移植拒絶、新生血管緑内障、紅色症、増殖性網膜症、乾癬、黄斑変性(macular degeneration)、血友病性関節、アテローム性動脈硬化プラーク内での毛細管増殖、ケロイド、怪我顆粒化、血管接着、リウマチ関節炎、慢性炎症(chronic inflammation)、骨関節炎、自己免疫疾患、クローン病、再発狭窄症、アテローム性動脈硬化、腸管接着、キャットスクラッチ疾患、潰瘍、肝硬変、糸状体腎炎、糖尿病性腎臓病症、悪性腎硬化症、血栓性微小血管症、器官移植拒絶、腎糸球体病症、糖尿病、炎症または神経変性の非調節性血管新生関連疾病または疾患を例として挙げることができるが、それらに限定されるものではない。
【0034】
このように、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、黄斑変性症、血管新生緑内障、網膜静脈閉塞症、網膜動脈閉塞症、翼状片、ルベオーシス、角膜新生血管症、固形腫瘍、血管腫、腫瘍増殖及び転移などの治療剤として有用な血管新生抑制活性を有する化合物を探索することは、広い範囲の疾病の治療に適用が可能な薬物を探索する意味があるといえる。
【0035】
HSP90は、細胞生存及び腫瘍成長において、重要なクライアントタンパク質を調節することにより、腫瘍形成と非常に密接した関連を有する[Calderwood SK, Trends in biochemical sciences. 31, 164-72, 2006; Garcia-Carbonero R et al, The lancet oncology, 14, e358-69, 2013]。かようなクライアントタンパク質の目録には、チロシンキナーゼ受容体、信号伝逹タンパク質、細胞周期タンパク質、抗細胞消滅タンパク質などが含まれている[Garcia-Carbonero R et al., The lancet oncology. 14, e358-69, 2013]。該タンパク質のうち、HIF−1α(alpha)は、低酸素条件下で、血管形成を誘導するのに中心的な役割を行う。すなわち、HSP90の過多発現は、腫瘍血管形成が増加するように誘発する[Sun J et al , Arteriosclerosis, thrombosis, and vascular biology., 24: 2238-44, 2004; Pfosser A et al, Cardiovascular research. 65: 728-36. 2005]。HSP70及びHSP90のいずれもの細胞外間隙と原形質膜内とで局所的に発見されるが[Ferrarini M et al, International journal of cancer Journal international du cancer. 51: 613-9. 1992; Vanbuskirk A et al, The Journal of experimental medicine. 170: 1799-809, 1989]、特に、腫瘍から放出されたHSP70は、何種類かの腫瘍進行と良好ではない予後とに非常に密接に係わっており[Yeh CH et al, Leukemia research, 34: 605-9, 2010; Kocsis J et al, Cell stress & chaperones , 15: 143-51, 2010]、HSP70血清数値は、HSP70の内部数値と関連があると明らかにされた[Dempsey NC et al, Journal of leukocyte biology, 87: 467-76, 2010]。また、HSP90の抑制は、血管形成の低減と、癌細胞に対する直接的な細胞変性効果とを導く[Ganji PN et al, Angiogenesis, 16: 903-17, 2013; Bohonowych JE et al, BMC cancer, 11: 520, 2011]。HSP70も、薬学的治療の目標になって来て、いくつかの候補が開発された[Evans C G et al, Journal of medicinal chemistry, 53: 4585-602, 2010; Powers M V et al, Cell cycle, 9: 1542-50, 2010]。
【0036】
本発明においては、癌細胞成長、並びに正常酸素状態及び低酸素状態の条件下でのHIF−1α数値及びVEGF数値に対するPEP1の効果を見い出し、PEP1の生体内(in vivo)効能を、異種移植ラットモデルを利用して評価する実験を進めた。
【0037】
本発明においては、癌細胞にPEP1を処理すれば、低酸素状態において、HIF1−αとVEGFとの生産を減少させるということを確認し、癌細胞にPEP1の処理を行えば、HSP70タンパク質及びHSP90タンパク質のレベルを低くするという事実を確認した。
【0038】
本発明の一側面で、配列番号1のペプチド、配列番号1の断片であるペプチド、または前記ペプチド配列と80%以上の配列相同性を有するペプチドは、テロメラーゼ、具体的には、ヒト(Homo sapiens)テロメラーゼに由来したペプチドを含む。
【0039】
本明細書に開示されたペプチドは、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上の配列相同性を有するペプチドも含む。また、本明細書に開示されたペプチドは、配列番号1を含むペプチドまたはその断片と、1個以上のアミノ酸、2個以上のアミノ酸、3個以上のアミノ酸、4個以上のアミノ酸、5個以上のアミノ酸、6個以上のアミノ酸または7個以上のアミノ酸が変化したペプチドと、を含んでもよい。
【0040】
本発明の一側面において、アミノ酸変化は、ペプチドの物理化学的特性を変更させる性質に属する。例えば、ペプチドの熱安定性を向上させ、基質特異性を変更させ、最適のpHを変化させるようなアミノ酸変化が行われる。
【0041】
本明細書において「アミノ酸」というのは、自然にペプチドに統合される22個の標準アミノ酸だけではなく、D−アイソマー及び変形されたアミノ酸を含む。それにより、本発明の一側面においてペプチドは、D−アミノ酸を含むペプチドでもある。一方、本発明の他の側面においてペプチドは、翻訳後の変形(post-translational modification)が行われた非標準アミノ酸なども含む。翻訳後の変形例は、リン酸化(phosphorylation)、糖化(glycosylation)、アシル化(acylation)(例えば、アセチル化(acetylation)、ミリストイル化(myristoylation)及びパルミトイル化(palmitoylation)を含む)、アルキル化(alkylation)、カルボキシル化(carboxylation)、ヒドロキシル化(hydroxylation)、糖化反応(glycation)、ビオチニル化(biotinylation)、ユビキチニル化(ubiquitinylation)、化学的性質の変化(例えば、ベータ除去脱イミド化、脱アミド化)及び構造的変化(例えば、二硫化物ブリッジの形成)を含む。また、ペプチドコンジュゲートを形成するための架橋剤(crosslinker)との結合過程で起こる化学反応によって生ずるアミノ酸の変化、例えば、アミノ基、カルボン酸基、または側鎖での変化のようなアミノ酸の変化を含む。
【0042】
本明細書に開示されたペプチドは、自然そのままの供給源から同定されて分離された野生型ペプチドでもある。一方、本明細書に開示されたペプチドは、配列番号1の断片であるペプチドと比較し、1以上のアミノ酸が置換、欠失及び/または挿入されたアミノ酸配列を含む、人工変異体でもある。人工変異体だけではなく、野生型ポリペプチドでのアミノ酸変化は、タンパク質のフォールディング(folding)及び/または活性に、有意の影響を及ぼさない保存性アミノ酸置換を含む。保存性置換の例は、塩基性アミノ酸(アルギニン、リシン及びヒスチジン)、酸性アミノ酸(グルタミン酸及びアスパラギン酸)、極性アミノ酸(グルタミン及びアスパラギン)、疎水性アミノ酸(ルシン、イソロイシン及びメチオニン)、芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシン)、及び小アミノ酸(グリシン、アラニン、セリン及びトレオニン)の群の範囲内にある。一般的に、特異的活性を変更させないアミノ酸置換が、本分野に公知されている。最も一般的に発生する交換は、Ala/Ser、Val/Ile、Asp/Glu、Thr/Ser、Ala/Gly、Ala/Thr、Ser/Asn、Ala/Val、Ser/Gly、Tyr/Phe、Ala/Pro、Lys/Arg、Asp/Asn、Leu/Ile、Leu/Val、Ala/Glu及びAsp/Gly、並びにそれらと反対のものである。保存的置換の他の例は、次の表1の通りである。
【0043】
【表1】
【0044】
ペプチドの生物学的特性における実在的な変形は、(a)置換領域内のポリペプチド骨格の構造、例えば、シートまたは螺旋立体構造の維持におけるそれらの効果、(b)標的部位での前記分子の電荷または疎水性の維持におけるそれらの効果、または(c)側鎖のバルク維持におけるそれらの効果がかなり異なる置換部を選択することによって行われる。天然残基は、通常の側鎖特性に基づいて、次のグループに区分される:
(1)疎水性:ノルロイシン、met、ala、val、leu、ile;
(2)中性親水性:cys、ser、thr;
(3)酸性:asp、glu;
(4)塩基性:asn、gln、his、lys、arg;
(5)鎖配向に影響を及ぼす残基:gly、pro;及び
(6)芳香族:trp、tyr、phe。
【0045】
非保存的置換は、それら部類のうち1つの構成員を他の部類に交換することによって行われる。ペプチドの適切な立体構造の維持と関連性のないいかなるシステイン残基も、一般的にセリンで置換され、前記分子の酸化的安定性を向上させ、異常な架橋結合を防止することができる。逆に言えば、システイン結合を前記ペプチドに加え、その安定性を向上させることができる。
【0046】
ペプチドの他類型のアミノ酸変異体は、抗体のグリコシル化パターンが変化したものである。変化という意味は、ペプチドで発見された1以上の炭水化物残基の欠失、及び(または)ペプチド内に存在しない1以上のグリコシル化部位の付加を示す。
【0047】
ペプチドのグリコシル化は、典型的にN連結されるか、あるいはO連結されたものである。N連結されているということは、炭水化物残基が、アスパラギン残基の側鎖に付着したことをいう。トリペプチド配列アスパラギン−X−セリン及びアスパラギン−X−トレオニン(ここで、Xは、プロリンを除いた任意のアミノ酸)は、炭水化物残基をアスパラギン側鎖に酵素的に付着させるための認識配列である。従って、それらトリペプチド配列のうち一つがポリペプチドに存在することによって、潜在的なグリコシル化部位が生成される。O連結されたグリコシル化は、糖N−アセチルガラクトサミン、ガラクトースまたはキシロースのうち一つを、ヒドロキシアミノ酸、最も一般的には、セリンまたはトレオニンに付着させることを意味するが、5−ヒドロキシプロリンまたは5−ヒドロキシリシンを使用することもできる。
【0048】
ペプチドへのグリコシル化部位の付加は、1以上の前述のトリペプチド配列を含むように、アミノ酸配列を変化させることによって便利に行われる(N連結されたグリコシル化部位の場合)。そのような変化は、1以上のセリン残基またはトレオニン残基を、最初の抗体の配列に付加するか、それら残基で置換することによって行われる(O連結されたグリコシル化部位の場合)。
【0049】
また、本発明の一側面による配列番号1の配列を有するペプチド、配列番号1の配列の断片であるペプチド、または前記ペプチド配列と80%以上の配列相同性を有するペプチドは、細胞内毒性が低く、生体内安定性が高いという長所を有する。本発明での配列番号1は、テロメラーゼ由来ペプチドであり、下記のように、16個のアミノ酸からなるペプチドである。
【0050】
配列番号1に記載されたペプチドは、下記表1のとおりである。下記表2の「名称」は、ペプチドを区別するために命名されたものである。本発明の一側面において、配列番号1に記載されたペプチドは、ヒトテロメラーゼの全体ペプチドを示す。本発明の他の一側面において、配列番号1の配列を有するペプチド、配列番号1の配列の断片であるペプチド、または前記ペプチド配列と80%以上の配列相同性を有するペプチドは、テロメラーゼに含まれたペプチドのうち、当該位置のペプチドを選別して合成した「合成ペプチド」を含む。配列番号2は、全体テロメラーゼのアミノ酸配列を示している。
【0051】
【表2】
【0052】
本発明の一側面においては、配列番号1のアミノ酸配列を含む(comprising)ペプチド、前記アミノ酸配列と80%以上の配列相同性を有するペプチド、またはその断片である血管新生抑制効能を有するペプチドを、有効成分として含む薬剤学的組成物を提供する。
【0053】
本発明の一側面による血管新生抑制用組成物は、一側面においては、配列番号1医アミノ酸配列を含むペプチド、前記アミノ酸配列と80%以上の配列相同性を有するペプチド、またはその断片であるペプチドを、0.01g/Lないし1kg/L、具体的には、0.1g/Lないし100g/L、さらに具体的には、1g/Lないし10g/Lの含量で含んでもよいが、用量による効果の違いを示す場合、それを適切に調節することができる。前記範囲、またはそれ以下の範囲で含む場合、本発明の意図した効果を示すのに適切であるだけではなく、組成物の安定性及び安全性をいずれも満足することができ、コスト対比の効果の側面でも、前記範囲で含むことが適切である。
【0054】
本発明の一側面による組成物は、ヒト、犬、ニワトリ、豚、牛、羊、ギニアピッグまたは猿を含む全ての動物に適用される。
【0055】
本発明の一側面において組成物は、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチド、前記アミノ酸配列と80%以上の配列相同性を有するペプチド、またはその断片である血管新生抑制効能を有するペプチドを含む医薬組成物を提供する。本発明の一側面による医薬組成物は、経口、直腸、経皮、静脈内、筋肉内、腹腔内、骨髄内、硬膜内または皮下などに投与される。
【0056】
経口投与のための剤形は、錠剤、丸剤、軟質または硬質のカプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤または乳濁剤でもあるが、それらに制限されるものではない。非経口投与のための剤形は、注射剤、点滴剤、ローション、軟膏、ゲル、クリーム、懸濁液剤、乳剤、坐剤、パッチまたは噴霧剤でもあるが、それらに制限されるものではない。
【0057】
本発明の一側面による医薬組成物は、必要によっては、希釈剤、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、緩衝剤、分散剤、界面活性剤、着色剤、香料または甘味剤などの添加剤も含む。本発明の一側面による医薬組成物は、当業界の一般的な方法によって製造される。
【0058】
本発明の一側面による医薬組成物の有効成分は、投与される対象の年齢、性別、体重、病理状態及びその深刻度、投与経路、または処方者の判断によって異なる。かような因子に基づいた適用量決定は、当業者のレベル内にあり、その1日投与用量は、例えば、10ng/kg/日ないし10mg/kg/日、具体的には、0.1μg/kg/日ないし1mg/kg/日、さらに具体的には、1μg/kg/日ないし100μg/kg/日、一層具体的には、2μg/kg/日ないし50μg/kg/日にもなるが、用量による効果の違いを示す場合、それを適切に調節することができる。本発明の一側面による医薬組成物は、1日1回ないし3回投与されてもよいが、それに制限されるものではない。
本発明の一側面において組成物は、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチド、前記アミノ酸配列と80%以上の配列相同性を有するペプチド、またはその断片であるペプチドを有効成分で含む血管新生抑制用食品組成物を提供する。
【0059】
本発明の一側面による食品組成物の剤形は、特別に限定されるものではないが、例えば、錠剤、顆粒剤、粉末剤、液剤、固形製剤などに剤形化される。各剤形は、有効成分以外に、当該分野で一般的に使用される成分を、剤形目的または使用目的によって、当業者が困難さなしに、適宜選定して配合することができ、他の原料と同時に適用する場合、相乗効果が起こることが可能である。
【0060】
本明細書において使用された用語は、特定具体例について説明するための目的だけに意図されたものであり、本発明を限定する意図ではない。名詞の前に個数が省略された用語は、数量を制限するものではなく、言及された名詞物品が一つ以上存在するということを示すのである。用語「含む」、「有する」及び「含有する」というのは、開かれた用語として解釈される(すなわち、「含むが、それに限定されるものではない」という意味)。
【0061】
数値範囲の言及は、単にその範囲内に属するそれぞれの別個の数値を個別的に言及することの代わりをする容易な方法であるために、そうではないということが明示されていない限り、各別個の数値は、まさしく個別的に明細書に言及されているように、本明細書に統合される。全範囲の終値は、その範囲内に含まれ、独立して組み合わせ可能である。
【0062】
本明細書に言及された全ての方法は、取り立てて明示されているか、あるいは文脈によって明白に矛盾しない限り、適切な手順によって遂行される。ある一実施例及び全ての実施例、または例示的言語(例えば、「〜のような」)の使用は、特許請求の範囲に含まれていない限り、単に本発明をさらに良好に記述するためものであり、本発明の範囲を制限するものではない。明細書のいかなる言語も、いかなる非請求構成要素を、本発明の実施に必須なものであると解釈されることがあってはならない。取り立てての定義がない限り、本明細書に使用される技術的及び科学的な用語は、本発明が属する技術分野で当業者によって、一般的に理解されるような意味を有する。
【0063】
本発明の望ましい具体例は、本発明を実施するために発明者に知られた最適のモードを含む。望ましい具体例の変動は、先行する記載に触れれば、当業者に明白になるであろう。本発明者らは、当業者がかような変動を適切に利用するということを期待し、本発明者らは、本明細書の記載と異なる方式で本発明が実施されるということを期待する。従って、本発明は、特許法によって許容されているように、特許請求の範囲で言及された発明の要旨の均等物及び全ての変形を含む。さらに、全ての可能な変動内で、前述の構成要素のいかなる組み合わせも、ここで異なって明示されるか、あるいは文脈上明白に矛盾しない限り、本発明に含まれるものである。本発明は、例示的な具体例を参照して具体的に示されて記述されたが、当業者は、特許請求の範囲によって定義される発明の精神及び範囲を外れずとも、形態及びディテールにおいて、多様な変化が行われるということを十分に理解するであろう。
【0064】
下記の実施例においては、ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC:human umbilical vein endothelial cell)を介して、ペプチドPEP1の血管内皮細胞の増殖、過形成及び細胞浸潤において直接的な抑制効能を確認するものである。
【0065】
以下、実施例及び実験例を挙げ、本発明の構成及び効果についてさらに具体的に説明する。しかし、下記の実施例及び実験例は、本発明に係わる理解の一助とするために、例示の目的にのみ提供されたものであり、本発明の範疇及び範囲は、それらによって制限されるものではない。
【実施例】
【0066】
実施例1:ペプチドの合成
配列番号1のペプチド(以下「PEP 1」とする)を従来に知られた固相ペプチド合成法(SPPS:solid phase peptide synthesis)によって製造した。具体的には、ペプチドは、ASP48S(Peptron、Inc.,大韓民国・大田)を利用して、Fmoc固相合成法を介して、C末端からアミノ酸一つずつカップリングすることによって合成した。次のように、ペプチドのC末端の最初のアミノ酸が樹脂に付着されたものを使用した。例えば、次の通りである:
【0067】
NH2−Lys(Boc)−2−chloro−Trityl Resin
NH2−Ala−2−chloro−Trityl Resin
NH2−Arg(Pbf)−2−chloro−Trityl Resin
【0068】
ペプチド合成に使用した全てのアミノ酸原料は、N−termがFmocで保護(protection)され、残基はいずれも酸で除去される、Trt、Boc、t−Bu(t−butyl ester)、Pbf(2,2,4,6,7−pentamethyl dihydro−benzofuran−5−sulfonyl)などで保護されたものを使用した。例えば、次の通りである:
【0069】
Fmoc−Ala−OH、Fmoc−Arg(Pbf)−OH、Fmoc−Glu(OtBu)−OH、Fmoc−Pro−OH、Fmoc−Leu−OH、Fmoc−Ile−OH、Fmoc−Phe−OH、Fmoc−Ser(tBu)−OH、Fmoc−Thr(tBu)−OH、Fmoc−Lys(Boc)−OH、Fmoc−Gln(Trt)−OH、Fmoc−Trp(Boc)−OH、Fmoc−Met−OH、Fmoc−Asn(Trt)−OH、Fmoc−Tyr(tBu)−OH、Fmoc−Ahx−OH、Trt−Mercaptoacetic acid。
【0070】
カップリング試薬(Coupling reagent)としては、HBTU[2−(1H−Benzotriazole−1−yl)−1,1,3,3−tetamethylaminium hexafluorophosphate]/HOBt[N−Hydroxybenzotriazole]/NMM[4−Methylmorpholine]を使用した。Fmoc除去は、20%のDMF内で、ピペリジン(piperidine in DMF)を利用した。合成されたペプチドをResinから分離し、残基の保護基除去には、切断カクテル(Cleavage Cocktail)[TFA(trifluoroacetic acid)/TIS(triisopropylsilane)/EDT(ethanedithiol)/H2O=92.5/2.5/2.5/2.5]を使用した。
【0071】
アミノ酸保護基が結合された出発アミノ酸が固相支持体に結合されている状態を利用して、ここに当該アミノ酸をそれぞれ反応させ、溶媒で洗浄した後、脱保護する過程を反復することにより、各ペプチドを合成した。合成されたペプチドを樹脂から切り取った後、HPLCで精製し、合成いかんをMSで確認して凍結乾燥させた。
【0072】
本実施例に使用されたペプチドに対して、高性能液体クロマトグラフィ結果、全てのペプチドの純度は、95%以上であった。
【0073】
PEP 1製造に係わる具体的な過程について説明すれば、次の通りである。
1)カップリング
NH2−Lys(Boc)−2−chloro−Trityl Resinで保護されたアミノ酸(8当量)と、カップリング試薬HBTU(8当量)/HOBt(8当量)/NMM(16当量)とをDMFに溶解させて添加した後、常温で2時間反応させ、DMF、MeOH、DMFの順に洗浄した。
【0074】
2)Fmoc脱保護
20%のDMF中のピペリジン(piperidine in DMF)を加え、常温で5分間2回反応させ、DMF、MeOH、DMFの順に洗浄した。
【0075】
3)1及び2の反応を反復して行い、ペプチド基本骨格NH2−E(OtBu)−A−R(Pbf)−P−A−L−L−T(tBu)−S(tBu)−R(Pbf)L−R(Pbf)−F−I−P−K(Boc)−2−chloro−Trityl Resin)を作った。
【0076】
4)切断(Cleavage):合成が完了したペプチドResinに、切断カクテル(Cleavage Cocktail)を加え、ペプチドをResinから分離した。
【0077】
5)得られた混合物に、Cooling diethyl etherを加えた後、遠心分離して得られたペプチドを沈澱させる。
【0078】
6)Prep−HPLCで精製した後、LC/MSで分子量を確認して凍結させ、パウダーに製造した。
【0079】
実施例2:細胞株培養及び分析方法
細胞株培養
ヒト乳癌細胞株MCF7(human breast adenocarcinoma cell line)、ヒトTリンパ球細胞株(Jurkat)及びMC38(murine colon adenocarcinoma)細胞株は、10%ウシ胎児血清(FBS:fetal bovine serum)と、100U/mlペニシリン(penicillin)及びストレプトマイシン(streptomycin)を添加したRPMI1460培地に維持した。HeLa(human cervical adenocarcinoma)細胞株は、10%ウシ胎児血清、100U/mlペニシリン及びストレプトマイシンを添加したDMEM(Dulbecco’s modified Eagle’smedium)培地で維持した。
【0080】
低酸素状態でのタンパク質発現及び細胞成長の確認
低酸素状態において、PEP1がHSPのレベルに及ぼす影響を試験するために、MCF7細胞とHeLa細胞とを20μMのPEP1で処理した後、低酸素状態及び正常酸素状態において培養した。90分内に触媒反応を起こし、酸素を感知することができないレベルに低下させるBBL GasPak(Becton Dickinson)を使用して、無酸素症を誘導した。培養時間は、2〜24時間範囲であった。前述のように、細胞は、収去後、α−HSP70,α−HSP90,α−HIF−1α,orα−GAPDH抗体を使用して、免疫ブロッティングを実施した。α−GAPDHは、タンパク質の定量(protein quantification)のために、HSP70/90の量を、GAPDHの量に標準化(normalization)させるために使用したのである。
【0081】
PEP1が、低酸素状態において、癌細胞の成長に及ぼす影響を調査するために、MCF7細胞とHeLa細胞とを、96ウェルプレートに、ウェル当たり1x104セルになるように接種した後、10% FBSが添加された完全培地(complete media)に、37℃、5% CO2の条件で培養した。2時間の血清飢餓処理後、PEP1(20μM)を含んでいるか、あるいは含んでいない完全培地のいずれにおいても培養した。前述のように、細胞を1日から6日間、低酸素状態または正常酸素状態において培養した。生存可能な細胞の数は、トリパンブルー除外染色(tryphan blue exclusion)方法を使用して毎日測定した。全ての計算実験は、重複して行った。
【0082】
免疫ブロッティングを介したHSP70タンパク質レベル及びHSP90タンパク質レベルの分析方法
Jurkat細胞及びMCF7細胞(5x105)を12時間接種して培養した。OPTI−MEM培地を入れ、2時間飢餓状態処理(starvation)を施した後、図面に示されているように、細胞を、異なる濃度のPEP1、スクランブル(スクランブルされた)ペプチド、及び17−AAG(1μM)またはKNK437(1μM)で処理した。2時間の培養後、細胞を収去した後、細胞溶解バッファ(cell lysis buffer,Thermo Scientific,IL、米国)を利用して溶解した。ブラッドフォードタンパク質アッセイ(Bradford Protein Assay,Bio−Rad、米国)を利用して、タンパク質濃度を定量した後、サンプルを、α−HSP70(sc−32239及びsc−66048,Santa Cruz,CA、米国),α−HSP90(ab1429,abcam、米国),α−GRP78(sc−13968),α−HIF−1a(sc−10790)またはα−GAPDH(sc−25778)抗体を使用して、SDS−PAGEと免疫ブロッティングを実施した。免疫反応性バンドは、強化された化学発光法キット(chemiluminescence kit)(iNtRoN Biotechnology,INC、韓国)を使用して視覚化し、ImageQuantTM LAS−4000(GE Healthcare Life Science,NJ、米国)を使用して分析した。
【0083】
流細胞分析を介したHSP70タンパク質レベル及びHSP90タンパク質レベルの分析方法
MCF7細胞は、PEP1処理または対照群処理を行った。プロテアソーム抑制テスト(proteasome inhibition test)を実施するために、培養する間、細胞を5μMのプロテアソーム抑制剤MG132(Calboicam)で処理した。トリプシンを使用して細胞を分離し、冷たいPBSとFACSバッファ(PBS含有1% BSA及び0.1% NaN3)で洗浄した。細胞内染色のために、細胞を製造メーカーの指針により、透過バッファ(permeabilization buffer,eBioscience,CA、米国)で処理した。細胞は、4℃で30分間、α−HSP70−FITC(ab61907,Abcam)またはα−HSP90−PE(ab65171,Abcam)と反応させた。FACScan flow cytometer(Becton Dickinson Co.,CA、米国)を利用して、流細胞分析を実施した。データは、FlowjoTMソフトウェア(version 10.0.5,Tree Star Inc.,OR、米国)を使用して分析した。
【0084】
PEP1が生体内腫瘍成長に及ぼす影響の評価方法
7週齢BALB/cアスミック(Nu/Nu)マウス(10mice per group;n=20,female,Orient Bio Co.,京畿道、韓国)に対して、murine colon carcinoma MC38(5x105cells/ml in 200μl PBS per site)細胞を皮下接種した後、任意に2つのグループに分けた。マウスは、2日に1回、腹腔内にPEP1(50μg/kg in 100μl 0.9% NaCl solution)またはPBSを注射した。腫瘍の大きさが10mmに達したとき、PEP1またはPBSを腫瘍内注射で投与した。腫瘍の大きさは、2日に1回測定し、腫瘍の体積は、次のような式を利用して計算した(volume(mm3)=((width2xlength)/2)。実験14日目、マウスを犠牲し、腫瘍の重さを測定した。全ての動物実験は、The Institute for Experimental Animals,College o fMedicine,Seoul National University at Seoul、韓国によって承認された。
【0085】
腫瘍セクションの増殖細胞及び細胞死滅に対する評価
腫瘍のアポトーシス細胞死滅を評価するために、ホルマリンに固定され、パラフィンに包埋された腫瘍組織セクション(formalin-fixed and paraffin-embedded tumor sections)を使用したTUNELアッセイを介して、DNA断片化(DNA fragmentation)を分析した。製造メーカーの指針により、腫瘍セクションは、ApopTag Peroxidase In Situアポトーシス検出キット(Millipore)を使用して染色した。腫瘍内増殖細胞は、PCNA(proliferating cell nuclear antigen)を使用して感知した。抗原検索のために、組織セクションは、40分間10μMクエン酸(pH6.0)バッファにおいて脱パラフィンさせ、水和させて加熱した。組織は、抗マウスPCNAモノクローナル抗体(anti-mouse PCNA monoclonal antibody,ab29,Abcam)を使用して染色した。二次抗体処理して開発した後、H&E染色方法を利用して、組織セクションを対照染色した。その後、フィールドは、それぞれの処理グループの6個スライドから任意に選択し、フィールドは、定量のためにLeica Qwinソフトで分析した。
【0086】
腫瘍でのHSP発現免疫ブロッティング分析
PCNA染色法と類似した方法で、免疫ヒストケミカル染色を使用して、腫瘍のHSP70タンパク質及びHSP90タンパク質の発現を評価した。熱衝撃タンパク質(HSP70;sc−7298、HSP90;ab1429)に対する抗体を、一次抗体として使用した。腫瘍によるHSP70タンパク質及びHSP90タンパク質の発現は、腫瘍溶解物(tumor lysate)を利用する免疫ブロッティングを介して評価した。液体酸素を利用して凍結させた後、腫瘍は、乳鉢(mortar)を使用してつぶし、抽出バッファ(extraction buffer:20mM HEPES,pH7.5;100mM NaCl,0.05%;Triton X−100,1mM DTT;0.5mM sodium orthovanadate;1mM EDTA,0.5mM PMSF;10μg/ml aprotinin;5μg/ml leupeptin;2μg/ml pepstatin)で均質化させた。反復遠心分離後、前述のように上層液は、SDS−PAGE及び免疫ブロッティングを実施した。
【0087】
ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)分析
癌細胞のVEGF分泌は、ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)を介して確認した。MCF7細胞とHeLa細胞は、24時間、PEP1またはビークルを添加した後、低酸素状態または正常酸素状態において培養した。細胞上層液のVEGF量は、製造メーカーの指針により、human VEGF免疫分析キット(R&D Systems、米国)を使用して確認した。血液内のHSP70濃度及びHSP90濃度を分析するために、腫瘍を有しているマウスモデルから血液を採取した。血清準備後、血液内のHSP70及びHSP90の濃度は、免疫分析キット for HSP70(R&D Systems、米国)及び免疫分析キット for HSP90(Cusabio Biotech Co.,Ltd,DE、米国)を使用して確認した。
【0088】
共焦点顕微鏡の分析
スライスした腫瘍セクションは、常温で、4%パラホルムアルデヒド(paraformaldehyde)で15分間固定させた。PBSで2回洗浄した後、10分間0.25% Triton X−100を含んだPBSで培養した後、PBSでさらに3回洗浄した。1% BSA−PBSTで組織を30分間遮断した後、マウス抗Tie2(557039,BD Pharmigen)と、ラット抗CD11b抗体(rat anti−CD11b antibodies,ab8878,abcam)との混合物と共に、4℃ウェットチャンバで培養した。洗浄後、組織は、AlexaFlour 488 goat anti-mouse IgG及びAelxaFlour 633 goat anti-rat IgGの混合物と共に培養した。細胞核を視覚化させるために、DAPI(Sigma Aldrich)と1分間培養した後、共焦点顕微鏡で分析した。
【0089】
統計分析方法
対照群と、処理されたグループとの統計的比較は、student’s t−testを利用した。P−valueの値が、0.05と同じであるか、あるいはそれ以下であるとき(p≦0.05)、有意的であると見なした。
【0090】
実施例3:低酸素症から誘導されたHIF−1α及びVEGFの生産抑制確認
HIF−1α(hypoxia inducible factor−1 alpha)は、低酸素刺激、さまざまな成長因子及びサイトカインに反応して活性化される物質であり、虚血組織内新生血管形成に重要な役割を行うと知られている。また、血管内皮細胞成長因子(VEGF:vascular endothelial growth factor)は、HIF−1αの調節を受け、新生血管形成を直接刺激する因子である。
【0091】
本実施例では、本発明においては、低酸素条件において、HIF−1αのタンパク質数値に対するPEP1の効果を調査し、HIF−1αが、低酸素条件において、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の生産を調節するという事実が知られてきたために、PEP1の処理が、低酸素条件によって誘導されたVEGFの合成に影響を与えるか否かということを確認した。
【0092】
HIF−1αの発現レベルは、MCF7細胞内及びHeLa細胞内において、HIF−1αの量が、低酸素条件から経時的に減少した(図1及び図2参照)。すなわち、何も処理していない対照群(mock treated control)では、HIF−1αの発現が、低酸素症によって増加したが、PEP1の処理を行った細胞では、非常に減少したということを確認することができた。
実験の結果、分泌されたVEGFの量は、漸次的に低酸素条件の誘導によって増加した。しかし、低酸素条件において、MCF7とHeLaとから分泌されたVEGFの量は、PEP1処理によって、相当に減少したということを確認することができた。(図3参照)。
【0093】
実施例4:PEP1処理によるHSP70及びHSP90の発現抑制確認
新生血管形成に影響を及ぼすHIF−1αは、HSPのクライアントタンパク質と知られているために、本実施例においては、PEP1が、HSP70とHSP90とのタンパク質数値に影響を及ぼすか否かということについて確認した。図4及び図5から分かるように、PEP1を2時間処理すれば、Jurkat T細胞リンパ腫細胞内及びMCF7乳癌細胞内のHSP70及びHSP90をいずれも相当なレベルで減少させた。Jurkat細胞を利用した実験において、5μMのPEP1は、HSP70及びHSP90を50%以上減少させた。
【0094】
MCF7細胞においては、PEP1を5μM処理した群において、HSP90は、対照群と比較するとき、最大20%まで減少した。PEP1を20μM処理した群においては、HSP70は、対照群に比べ、約50%ほどの減少を示した。しかし、PEP1と類似しているが、他の配列を有したスクランブルされたペプチドを処理した場合には、HSP70とHSP90との数値に何の影響も及ぼさなかった(図4及び図5参照)。
【0095】
また、実施例3において、HIF−1αに対して実施した低酸素条件において、経時的なPEP1の影響を調べる実験と同一の実験を、HSP70及びHSP90に対しても実施した。その結果は、図6及び図7に示した。図6及び図7から確認することができるように、何も処理していない対照群(mock treated control)では、HSP70及びHSP90の発現が経時的に影響を受けていないが、PEP1の処理を行った細胞においては、非常に減少したということを、MCF7細胞及びHeLa細胞のいずれにおいても確認することができた。それは、PEP1の処理がHSPの分解を引き起こし、その後、それらのクライアントタンパク質を調節することができるということをさらに確実に確認させる(図1図2図6及び図7参照)。かような結果は、PEP1が低酸素条件に係わる多様な細胞の反応に、HSPのタンパク質数値を減少させることにより、影響を与える可能性があることを示唆する。
【0096】
次に、PEP1がHSPを抑制する活性と、HSP90及びHSP70のそれぞれの抑制剤として周知の17−AAG及びKNK437がHSPを抑制する活性とを比較した。17−AAGは、HSP90のATPアーゼ(ATPase)の活性を抑制することにより、HSP90の作用を直接的に抑制する[Uehara Y, Current cancer drug targets, 3: 325-30, 2003]。KNK437は、ストレスから誘導されたHSPの合成を抑制する。実験の結果、PEP1のみが、Jurkat細胞及びMCF7細胞において、HSP90及びHSP70いずれのレベルも低下させた(図8参照)。
【0097】
Jurkat細胞においては、PEP1のみが、HSP70とHSP90とのタンパク質数値を低下させ、17−AAGとKNK437は、HSP90の量は減少させたが、HSP70の数値を低下させることがなかった。MCF7細胞の場合には、PEP1とKNK437とが、HSP90及びHSP70いずれの量も減少させた一方、17−AAGは、HSP90とHSP70との数値に非常に弱い影響しか与えていない。
【0098】
PEP1による、HSP90とHSP70との減少は、流細胞分析法(flow cytometric analysis)によって、さらに確実に確認することができる。HSP90とHSP70との表面染色と細胞内染色とを介して、PEP1の処理が、細胞表面のHSPに及ぼす影響が、細胞質のHSPに及ぼす影響より小さかったが、細胞内と細胞質とのHSP90とHSP70とを減少させるということを示した(図9参照)。PEP1と、プロテアソーム抑制剤であるMG132とを共に処理した場合、PEP1による作用がなくなったが、それは、PEP1が、HSP90とHSP70とのプロテアソーム依存的な分解を誘発するということを提示する(図9参照)。
【0099】
実施例5:低酸素条件(hypoxia)及び正常酸素条件(normoxia)での腫瘍細胞成長確認
前記実施例3及び4のような脈絡において、低酸素条件(hypoxia)と正常酸素条件(normoxia)とにおいて、腫瘍細胞成長に対するPEP1の効果について調査した。PEP1は、普通条件(正常酸素条件(normoxia))において、MCF7細胞とHeLa細胞との成長に弱い抑制効果を示したが、PEP1の抑制効果は、低酸素条件において非常に増進された(図10及び図11参照)。
【0100】
実施例6:腫瘍内のTie2+モノサイト(Tie2+ monocytes)誘引(recruitment)におけるPEP1の効果
Tie2は、血管形成開始に核心的な役割を行う[Du R et al., Cancer cell, 13: 206-20, 2008]。PEP1がHSPを不安定化させ、HIF−1αとVEGFとの腫瘍細胞内発現を抑制することができることの確認を基に、PEP1が、腫瘍にTEM(Tie2発現単核白血球、Tie2 expressing monocytes)を誘引(recruitment)するのに影響を及ぼすか否かということに係わる実験を行った。免疫ヒストケミカル染色(immunohistochemial staining)結果、PEP1処理したラットから採取した腫瘍のTie2+ CD11b+単核白血球の数は、対照群ラットから採取した腫瘍より著しく少なかったということを確認することができた(図12及び図13参照)。それは、PEP1によるHIF−1αとVEGFとの発現抑制が、血管形成に重要なTEM誘引に影響を及ぼし、顕著に抑制するということを示す。
【0101】
実施例7:PEP1処理による腫瘍内HSP70とHSP90との減少
PEP1が、生体内(in vivo)実験条件において、HSP70とHSP90との発現を抑制するか否かということを確認するために、α−HSP70抗体またはα−HSP90抗体を利用した免疫組織化学染色を実施した。癌細胞株から得るデータと一貫して、PEP1が処理された群から採取された腫瘍部分は、PBS処理した対照群と比較するとき、弱い染色パターンを示した(図14参照)。PEP1処理されたサンプルにおいて、陽性に染色された部分は、対照群比較するとき、非常に小さい(図15参照)。
【0102】
PEP1処理された腫瘍サンプルの減少したHSP70タンパク質とHSP90タンパク質との数値は、腫瘍溶解物(tumor lysates)を介した免疫ブロッティング実験によっても確認される。HSP70とHSP90との減少が、3つのいずれのPEP1処理した腫瘍サンプルにおいても観察された(図16参照)。特に、HSP90は、PEP1を処理したサンプル内において、ほとんど見い出されなかった。HSPの他のファミリメンバー(family member)と見られるGRP78も、PEP1処理したサンプルにおいて減少した。総合すれば、かような結果は、PEP1がHSPを、生体内システム内で減少させ、腫瘍増殖を抑制する能力があるということを示す。
【0103】
実施例8:血液内分泌されたHSP70のレベルにPEP1が及ぼず影響
HSP70及びHSP90いずれも腫瘍細胞から分泌され、最近の研究は、腫瘍形成及び抗腫瘍反応にいくつかの役割を行っている。HSP90とHSP70との分泌において、PEP1の役割についてさらに詳細に説明するために、腫瘍を有したラットの血液から、HSP70とHSP90との濃度を測定した。たとえPEP1処理群と対照群との間に、分泌されたHSP90の数値に変化がないにしても、PEP1処理したラットのHSP70数値が対照群より低く示された(図17参照)。
【0104】
また、低いHSP70の数値は、腫瘍量及び腫瘍重量と相関関係がある(図18参照)。
【0105】
実施例9:PEP1による生体内腫瘍成長の抑制
前記実施例の結果は、PEP1のHSP90機能及びHSP70機能に対する抑制役割を示し、それを介して、他のHSP抑制剤と共に、PEP1が潜在的な腫瘍抑制機能も有するということを示唆するともいえる。
【0106】
それにより、本実施例においては、ラットモデルを利用して、PEP1の生体内腫瘍抑制効果について調査した。MC38ラット癌細胞(MC38 murine cancer cell)にPEP1を処理したものと、そうではないものとの皮下の生体内(in vivo)腫瘍成長を分析した。PEP1処理を行ったグループと対照群との間に、腫瘍量の相当な差が観察された(図19参照)。注入後18日になる時点で、対照群の平均腫瘍量が、PEP1処理群の量より約3倍ほどであるということが観察された。一貫して、対照群の腫瘍の重さが、PEP1処理群の腫瘍重量よりはるかに大きく、それは、PEP1が生体内腫瘍成長を抑制する能力があることを示す(図20及び図21参照)。
【0107】
実施例10:PEP1を処理したラットから採取した腫瘍の組織学的検査
ヘマトキシリン−エオシン(H&E:hematoxylin and eosin)染色を介した組織学的検査は、PEP1処理したラットの組織セクションが、対照群ラットにおいてよりも、さらに多くの空きスペースを示している。それは、PEP1処理したラットの腫瘍において、多くの細胞死滅が発生したということを示唆する(図22参照)。また、PEP1処理したラットから採取した腫瘍において、さらに少ない血管が発見されたが、それは、PEP1が他のHSP抑制剤とともに、血管形成を抑制する機能を有するということを示しているといえる(図22参照)。TUNEL染色(TUNEL staining)によって、細胞がアポトーシス細胞死滅を進めるように見られるが、それは、PEP1の抗癌効果をさらに確実に確認させる。図23から分かるように、対照群腫瘍の場合と比較するとき、PEP1を処理した腫瘍サンプルにおいて、相当な程度に高い数値の細胞死滅が観察された。また、細胞核抗原(PCNA)の増殖を測定するための腫瘍部分の染色は、PEP1を処理した群の腫瘍部分において、細胞増殖の減少を明らかに示している(図24参照)。
【0108】
実施例11:血管内皮細胞を介したPEP1の細胞増殖、過形成の抑制効能確認
1)細胞培養
本実施例は、ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(human umbilical vein endothelial cell)をEGM−2培地で培養し、2ないし5継代間の血管内皮細胞のみを実験に使用した。
【0109】
2)試験物質
試験物質であるヒト臍帯静脈血管内皮細胞は、Lonza(Walkersville,MD、米国)から購入し、VEGF−A(血管内皮細胞増殖因子−A)は、Merck Millipore(Billerica、MA、米国)からそれぞれ購入して使用した。PEP1は、PBS(pH7.4)に溶解して使用した。
【0110】
3)血管内皮細胞の増殖と生存率との分析及び効果
血管内皮細胞を、6ウェルプレート(BD Biosciences,Bedford,MA、米国)に、それぞれ1x105cells/ウェルでプレーティングした。血清及び血管新生誘導因子がない基本EBM−2培地(Lonza)で、細胞をG1/G0 phaseで同期化した後、PEP1を、濃度別(0.05,0.5,5μM)に処理し、EGM−2培地で24時間刺激し、細胞増殖抑制効果を観察した。
【0111】
細胞増殖の検出は、trypan blue stain溶液(Invitrogen,Carlsbad,CA、米国)を利用して、顕微鏡(x100)で直接計数し、細胞生存率は、Muse(商標) analyzerを利用して、viability assay kit(Merck Millipore社)で分析した。
【0112】
PEP1は、多様な血管新生誘導因子を含むEGM−2培地に刺激された血管内皮細胞の増殖を濃度依存的に抑制し(図25a)、細胞生存率には何の影響も及ぼさないということを確認することができた(図25b)。それは、PEP1が、血管内皮細胞の細胞増殖に細胞毒性なしに増殖を抑制する効果があるということを提示する。
【0113】
4)血管内皮細胞の過形成分析及び効果
Matrigrl(登録商標) basement membrane matrix(10.4mg/mL,BD Biosciences)を、24ウェルプレートに、200μlずつコーティング(37℃で30分)した後、血管内皮細胞(4x104cells/ウェル)をプレーティングし、基本EBM−2培地で2時間、serum-starvationした。PEP1を、濃度別(0.05,0.5,5μM)に処理し、EGM−2培地で6時間刺激した。過形成変化は、Olympus CKX41 inverted microscope(CAchN 10/0.25php objective,Olympus Optical Co.,Tokyo、日本)と、ToupTek Toupview software(version x86、3.5.563,Hangzhou ToupTek Photonics Co.,Zhejiang、中国)を利用して観察した(図26a)。
【0114】
PEP1は、多様な血管新生誘導因子を含むEGM−2培地に刺激された血管内皮細胞の過形成を濃度依存的に抑制することにより(図26b)、血管内皮細胞の移動及び分化による血管形成を抑制することができるということを提示する。
【0115】
実施例12:VEGF−Aによる血管内皮細胞を介したPEP1細胞の増殖、過形成及び浸潤の抑制効能確認
1)VEGF−Aによる血管内皮細胞の増殖と生存率との分析及び効果
血管内皮細胞を、6ウェルプレート(BD Biosciences,Bedford,MA、米国)に、それぞれ1x105cells/ウェルでプレーティングした。血清及び血管新生誘導因子がない基本EBM−2培地(Lonza)で、細胞をG1/G0 phaseに同期化した後、PEP1を、濃度別(0.05,0.5,5μM)に処理し、VEGF−A(10ng/mL)で24時間刺激し、細胞増殖抑制効果を観察した。
【0116】
細胞増殖の検出は、trypan blue stain溶液(Invitrogen,Carlsbad,CA、米国)を利用して、顕微鏡(x100)で直接計数し、細胞生存率は、Muse(商標) analyzerを利用して、viability assay kit(Merck Millipore社)で分析した。
PEP1は、多様な血管新生誘導因子を含むEGM−2条件と類似して、VEGF−Aによる血管内皮細胞の増殖を、濃度依存的に抑制し(図27a)、細胞生存率には、影響を及ぼさないということを確認した(図27b)。
【0117】
2)VEGF−Aによる血管内皮細胞の過形成分析及び効果
Matrigrl(登録商標) basement membrane matrix(10.4mg/mL、BD Biosciences)を、24ウェルプレートに200μlずつコーティング(37℃で30分)した後、血管内皮細胞(4x104cells/ウェル)をプレーティングし、基本EBM−2培地で2時間serum-starvationした。PEP1を、濃度別(0.05,0.5,5μM)に処理し、VEGF−A(10ng/mL)で6時間刺激した。過形成変化は、Olympus CKX41 inverted microscope(CAchN 10/0.25php objective,Olympus Optical Co.,Tokyo、日本)と、ToupTek Toupview software(version x86,3.5.563,Hangzhou ToupTek Photonics Co.,Zhejiang、中国)を利用して観察した(図28a)。
【0118】
PEP1が、VEGF−Aによる血管内皮細胞の過形成を濃度依存的に抑制するということを確認した(図28b)。
【0119】
3)VEGF−Aによる血管内皮細胞の浸潤分析及び効果
基本EBM−2培地で2時間、serum-starvationさせた血管内皮細胞を、100mL(4x105cells/mL)ずつ、Matrigel(登録商標)(1mg/mL,BD Biosciences)コーティングされたトランスウェルインサート(Costar,6.5mm径)にプレーティングし、下側ウェルには、基本EBM−2培地を600μl入れた。図29には、インサートを設けた大略的な模式図が図示されている。
【0120】
PEP1を濃度別(0.05,0.5,5μM)に処理し、VEGF−A(10ng/mL)で18時間刺激させた後、インサートをメタノールで固定させ、cotton-tipped swabを利用して、インサート上部の浸潤していない細胞は除去した。Giemsa stain溶液(Sigma-Aldrich Co.,St.Louis,MO、米国)で染色し、顕微鏡(x200)で互いに異なる6ヵ所を観察し、浸潤細胞を顕微鏡で直接計数した(図30a)。
【0121】
PEP1がVEGF−Aによる細胞浸潤を強力に抑制するということを確認した(図30b)。
【0122】
実験結果の統計学的有意性は、student’s t−testで分析し、p−valueが0.05未満である場合、統計的に有意であると判定した。
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図25b
図26a
図26b
図27a
図27b
図28a
図28b
図29
図30a
図30b
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]