【文献】
糖尿病と創傷治癒,[online],2007年,[平成30年8月17日検索],インターネット<URL:http://www.ekinan-clinic.com/ishikaihou/28.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
創傷を患う被験体の、創傷を治療するか、創傷治癒を増強するか、又は創傷の進行を防止若しくは遅延させるための医薬組成物であって、ここで当該医薬組成物はVEGF−Bシグナル伝達を阻害する化合物を含み、ここで当該VEGF−Bシグナル伝達を阻害する化合物は、VEGF−Bに特異的に結合する抗体又はその断片であって、配列番号3に示される配列を含んでなる重鎖可変領域(VH)の相補性決定領域(CDR)及び配列番号4に示される配列を含んでなる軽鎖可変領域(VL)の相補性決定領域(CDR)を含み、そして前記被験体が肥満及び/又は糖尿病を患う被験体である、当該医薬組成物。
創傷を患う糖尿病被験体の、創傷治癒を増強若しくは誘導するための、又は糖尿病被験体の創傷の進行を低下させるか若しくは防止するための医薬組成物であって、当該医薬組成物はVEGF−Bシグナル伝達を阻害する化合物を含み、ここで当該VEGF−Bシグナル伝達を阻害する化合物は、VEGF−Bに特異的に結合する抗体又はその断片であって、配列番号3に示される配列を含んでなる重鎖可変領域(VH)の相補性決定領域(CDR)及び配列番号4に示される配列を含んでなる軽鎖可変領域(VL)の相補性決定領域(CDR)を含み、そして前記被験体が肥満及び/又は糖尿病を患う被験体である、当該医薬組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
現在の創傷ケア療法は、手術や医療的手法を含む。薬物療法は、感染症を予防、虚血及び浮腫を予防し、痛みを軽減し、及び代謝状態を改善することを目的とする。局所的治療は、例えば増殖因子及び多血小板血漿の局所適用と、例えばハイドロコロイド及びヒドロゲルの創傷手当て用品を含む。外科的介入は、血管形成、皮膚移植、及び圧力を低下させるための機械的支持を含む。各治療法は、例えば正しい治癒段階で介入することの絶対的必要性、期待はずれの効力、及び高いコストなどの独自の欠点を有する。従って、当該分野には、改良された創傷治療に対するニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の開発において本発明者らは、創傷、例えば糖尿病性創傷の一般に認められたマウスモデルにおける血管内皮増殖因子B(VEGF−B)のシグナル伝達を阻害する効果を研究した。本発明者らは、創傷が誘導されていた糖尿病マウスにVEGF−Bの拮抗物質(例えばアンタゴニスト抗体)を投与することにより、前記増殖因子の効果を研究した。本発明者らは、VEGF−Bの阻害が、著しく迅速な創傷閉鎖と治癒をもたらすことを見いだした。本発明者らはまた、この改良された創傷治癒が、創傷閉鎖 (wound closure)の初期段階、例えば創傷が最大で開いている時に、特に顕著であることを見いだした。ある場合には(例えば本明細書に記載の実験において)、糖尿病患者の血中グルコースレベルへの穏やかな作用にもかかわらず創傷治癒の変化が起き、これは、VEGF−Bを阻害することが、血中グルコースコントロールに加えて又はそれ以外の経路を介して、創傷治癒効果を与えることを示している。
【0010】
本発明者らによる知見は、VEGF−Bシグナル伝達を阻害することにより被験体の創傷を誘導又は増強するための、創傷を治療するための、又は創傷の合併症を遅延若しくは予防するための、方法の基礎を与える。例えば本開示は、被験体の創傷を治療するための方法であって、VEGF−Bシグナル伝達を阻害する化合物を被験体に投与することを含む方法を提供する。
【0011】
別の例において本開示は、VEGF−Bシグナル伝達を阻害する化合物を被験体に投与することを含む、被験体の創傷治癒を誘導又は増強するための方法を提供する。
【0012】
創傷治癒の評価は、創傷領域の減少割合、又は完全な創傷閉鎖により決定することができる。創傷領域は、定量分析により、例えば創傷の面積測定、創傷の測面トレーシングなどにより測定することができる。完全な創傷閉鎖は、例えば排水や手当て用品の必要の無い皮膚閉鎖により測定することができる。創傷の写真、創傷の理学的検査なども、創傷治癒を評価するために使用することができる。創傷治癒の加速は、加速割合で表わすか、又は治癒までの時間としてのハザード比で表わすことができる。
【0013】
別の例において本開示は、VEGF−Bシグナル伝達を阻害する化合物を被験体に投与することを含む、創傷の進行又は創傷の合併症を防止又は遅延するための方法を提供する。
【0014】
ある例において、創傷は急性又は通常の創傷であり、例えば熱的傷害(例えば熱傷)、外傷、手術、広範な皮膚癌の切除、重症の真菌や細菌感染症、血管炎、又は強皮症である。
【0015】
別の例において、創傷は慢性である。例えば創傷は、動脈性潰瘍、糖尿病性創傷、糖尿病性潰瘍、褥瘡、又は静脈性潰瘍である。
【0016】
ある例において、創傷は皮膚の創傷である。
【0017】
ある例において、被験体は、肥満及び/又は糖尿病に罹患している。
【0018】
例えば被験体は、糖尿病、例えばI型又はII型糖尿病に罹患している。このような場合、創傷は糖尿病性創傷(すなわち糖尿病患者の創傷)又は糖尿病性潰瘍(すなわち糖尿病患者の潰瘍)と呼ばれる。例えば創傷は、糖尿病性足部潰瘍又は糖尿病性下肢潰瘍である。
【0019】
ある例において、創傷は褥瘡性潰瘍である。
【0020】
ある例において、被験体は、神経障害(例えば糖尿病性神経障害)、末梢血管疾患、血中グルコースコントロール不良、前足潰瘍又は切断、腎症(又は糖尿病性腎症)、大小血管の虚血、もしくは貧弱視力の1つ以上に罹患している。
【0021】
ある例において、被験体は創傷を有する。
【0022】
別の例において、被験体は、創傷(例えば慢性創傷)を発症する危険性があり、例えば手術前に化合物を投与される(創傷が誘導される場合)。例えば本開示は、創傷、例えば誘導された創傷、例えば手術により誘導された創傷の重症度を低下させる方法を提供する。
【0023】
本明細書に例示されるように、VEGF−Bシグナル伝達の阻害は、糖尿病性創傷の治療に有効である。すなわちある例において本開示は、VEGF−Bシグナル伝達を阻害する化合物を被験体に投与することを含む、糖尿病患者の創傷を治療する方法を提供する。
【0024】
本開示は、創傷を患う糖尿病患者に、VEGF−Bシグナル伝達を阻害する化合物を被検体に投与することを含む、前記糖尿病患者における創傷治癒を増強又は誘導するための方法を提供する。
【0025】
ある例において、被験体は創傷が進行するリスクがある。例えば被験体は、糖尿病を患っている。例えば被験体は、糖尿病、及び糖尿病性神経障害、末梢血管疾患、血中グルコースコントロール不良、前足潰瘍又は切断、腎症(又は糖尿病性腎症)、大小血管の虚血、もしくは貧弱視力の1つ以上に罹患している。
【0026】
ある例において本開示は、VEGF−Bシグナル伝達を阻害する化合物を糖尿病患者に投与することを含む、前記患者における創傷の進行を低下させるか又は防止するための方法を提供する。
【0027】
別の例において本開示は、VEGF−Bシグナル伝達を阻害する化合物を被験体(例えば糖尿病患者)に投与することを含む、創傷を患う前記被験体が切断手術を必要とするリスクを低下させるための方法を提供する。
【0028】
ある例において本化合物は、以下の効果の1つ以上を有するのに有効な量で投与される:
・本化合物が投与されていない被験体(糖尿病と創傷とを患っている被験体)の速度と比較して、創傷閉鎖の速度を上昇させる、及び/又は
・本化合物が投与されていない被験体(糖尿病と創傷とを患っている被験体)の割合と比較して、ある特定の時点(例えば治療開始後)における創傷閉鎖の量を増加させる、及び/又は
・本化合物が投与されていない被験体(糖尿病と創傷とを患っている被験体)と比較して、被験体の血管成熟を向上させる。
【0029】
本開示はまた、創傷(及び、任意選択的に糖尿病)を患う被験体に、VEGF−Bシグナル伝達を阻害する化合物を投与することを含む、前記被験体において以下の効果の1つ以上を有するための方法を提供する:
・本化合物が投与されていない被験体の速度と比較して、創傷閉鎖の速度を上昇させる、及び/又は
・本化合物が投与されていない被験体の割合と比較して、ある特定の時点における創傷閉鎖の量を増加させる、及び/又は
・本化合物が投与されていない被験体と比較して、被験体の血管成熟を向上させる。
【0030】
ある例においてVEGF−Bシグナル伝達を阻害する化合物は、VEGF−Bシグナル伝達を特異的に阻害する。これは、本開示の方法が、複数のVEGFタンパク質のシグナル伝達の阻害することを包含しないことを意味するのではなく、VEGF−Bシグナル伝達を阻害する化合物(又はその一部)がVEGF−Bに特異的であること、例えばVEGF蛋白質の一般的な阻害剤ではないことを意味するだけである。この用語はまた、1つ(又はそれ以上)の結合ドメインによりVEGF−Bシグナル伝達を特異的に阻害することができ、別の結合ドメインにより別のタンパク質のシグナル伝達を特異的に阻害することができる、2重特異的抗体又はその結合ドメインを含むタンパク質を排除するものではない。
【0031】
ある例においてVEGF−Bシグナル伝達を阻害する化合物は、VEGF−Bに結合する。例えば前記化合物は、VEGF−Bにに結合するか又は特異的に結合し、VEGF−Bシグナル伝達を中和する、抗体の可変領域を含むタンパク質である。
【0032】
ある例において化合物は抗体模倣物(antibody mimetic)である。例えば前記化合物は、免疫グロブリンの抗原結合ドメインを含むタンパク質、例えば、IgNAR、ラクダ抗体(camelid antibody)、又はT細胞受容体である。
【0033】
ある例において化合物は、ドメイン抗体(例えば、VEGF−Bに結合する重鎖可変領域のみ又は軽鎖可変領域のみを含む)、又は重鎖のみの抗体(例えば、ラクダ抗体又はIgNAR)、又はその可変領域である。
【0034】
ある例において、化合物はFvを含むタンパク質である。例えば前記タンパク質は、以下からなる群から選択される:
(i)1本鎖Fv断片(scFv);
(ii)二量体scFv (dimeric scFv)(di−scFv);又は
(iv)二重特異性抗体 (diabody);
(v)三重特異性抗体 (triabdy);
(vi)四重特異性抗体 (tetrabody);
(vii)Fab:
(viii)F(ab')
2;
(ix)Fv;又は
(x)抗体の定常領域であるFc、又は重鎖定常ドメイン(C
H)2及び/又はC
H3に連結した(i)〜(ix)の1つ。
【0035】
別の例において化合物は抗体である。典型的な抗体は、完全長及び/又は裸の抗体である。
【0036】
ある例において化合物は、組換えタンパク質、キメラタンパク質、CDR移植タンパク質、同時ヒト化(synhumanized)タンパク質、霊長類化タンパク質、脱免疫化タンパク質、又はヒトタンパク質である。
【0037】
ある例において化合物は、VEGF−Bへの抗体2H10の結合を競合的に阻害する抗体の可変領域を含むタンパク質である。ある例において 前記タンパク質は、配列番号3で示される配列を含む重鎖可変領域(V
H)と、配列番号4で示される配列を含む軽鎖可変領域(V
L)とを含む。
【0038】
ある例において前記化合物は、抗体2H10のヒト化可変領域を含むタンパク質である。例えばこのタンパク質は、抗体2H10のV
H及び/又はV
Lの相補性決定領域(CDR)を含む可変領域を含む。例えばこのタンパク質は以下を含む:
(i)V
Hであって、
(a)配列番号3のアミノ酸25〜34で示される配列を含むCDR1;
(b)配列番号3のアミノ酸49〜65で示される配列を含むCDR2;及び
(c)配列番号3のアミノ酸98〜108で示される配列を含むCDR3、を含むV
H、及び/又は
(ii)V
Lであって、
(a)配列番号4のアミノ酸23〜33で示される配列を含むCDR1;
(b)配列番号4のアミノ酸49〜55で示される配列を含むCDR2;及び
(c)配列番号4のアミノ酸88〜96で示される配列を含むCDR3、を含むV
L。
【0039】
ある例において前記化合物は、抗体2H10のヒト化可変領域であるV
H及びV
Lを含むタンパク質である。例えばこのタンパク質は以下を含む:
(i)V
Hであって、
(a)配列番号3のアミノ酸25〜34で示される配列を含むCDR1;
(b)配列番号3のアミノ酸49〜65で示される配列を含むCDR2;及び
(c)配列番号3のアミノ酸98〜108で示される配列を含むCDR3、を含むV
H、及び/又は
(ii)V
Lであって、
(a)配列番号4のアミノ酸23〜33で示される配列を含むCDR1;
(b)配列番号4のアミノ酸49〜55で示される配列を含むCDR2;及び
(c)配列番号4のアミノ酸88〜96で示される配列を含むCDR3、を含むV
L。
【0040】
ある例において、前記段落のすべてにおいて可変領域すなわちV
Hは、配列番号5で示される配列を含む。
【0041】
ある例において、前記段落のすべてにおいて可変領域すなわちV
Lは、配列番号6で示される配列を含む。
【0042】
ある例において、化合物は抗体である。
ある例において、化合物は、配列番号5で示される配列を含むV
Hと、配列番号6で示される配列を含むV
Lとを含む抗体である。
【0043】
ある例において、タンパク質又は抗体は、前記タンパク質若しくは抗体をコードする核酸、又は前記タンパク質若しくは抗体(例えば、翻訳後修飾されたタンパク質又は抗体を含む)を発現する細胞、によりコードされる、任意の形態のタンパク質又は抗体である。
【0044】
ある例において、前記タンパク質又は抗体は以下を含む:
(i)V
Hであって、
(a)配列番号11を含む核酸によりコードされる配列、又は配列番号17のアミノ酸配列、を含むCDR1;
(b)配列番号12を含む核酸によりコードされる配列、又は配列番号18のアミノ酸配列、を含むCDR2;及び
(c)配列番号13を含む核酸によりコードされる配列、又は配列番号19のアミノ酸配列、を含むCDR3、を含むV
H、及び/又は
(i)V
Lであって、
(a)配列番号14を含む核酸によりコードされる配列、又は配列番号20のアミノ酸配列、を含むCDR1;
(b)配列番号15を含む核酸によりコードされる配列、又は配列番号21のアミノ酸配列、を含むCDR2;及び
(c)配列番号16を含む核酸によりコードされる配列、又は配列番号22のアミノ酸配列、を含むCDR3、を含むV
L。
【0045】
ある例において、前記タンパク質又は抗体は以下を含む:
(i)V
Hであって、
(a)配列番号23を含む核酸によりコードされる配列、又は配列番号29のアミノ酸配列、を含むCDR1;
(b)配列番号24を含む核酸によりコードされる配列、又は配列番号30のアミノ酸配列、を含むCDR2;及び
(c)配列番号25を含む核酸によりコードされる配列、又は配列番号31のアミノ酸配列、を含むCDR3、を含むV
H、及び/又は
(i)V
Lであって、
(a)配列番号26を含む核酸によりコードされる配列、又は配列番号32のアミノ酸配列、を含むCDR1;
(b)配列番号27を含む核酸によりコードされる配列、又は配列番号33のアミノ酸配列、を含むCDR2;及び
(c)配列番号28を含む核酸によりコードされる配列、又は配列番号34のアミノ酸配列、を含むCDR3、を含むV
L。
【0046】
ある例において、前記タンパク質又は抗体は以下を含む:
(i)V
Hであって、
(a)配列番号35を含む核酸によりコードされる配列、又は配列番号41のアミノ酸配列、を含むCDR1;
(b)配列番号36を含む核酸によりコードされる配列、又は配列番号42のアミノ酸配列、を含むCDR2;及び
(c)配列番号37を含む核酸によりコードされる配列、又は配列番号43のアミノ酸配列、を含むCDR3、を含むV
H、及び/又は
(i)V
Lであって、
(a)配列番号38を含む核酸によりコードされる配列、又は配列番号44のアミノ酸配列、を含むCDR1;
(b)配列番号39を含む核酸によりコードされる配列、又は配列番号45のアミノ酸配列、を含むCDR2;及び
(c)配列番号40を含む核酸によりコードされる配列、又は配列番号46のアミノ酸配列、を含むCDR3、を含むV
L。
【0047】
ある例において、化合物は組成物内にある。例えば前記組成物は、抗体可変領域すなわちV
H又はV
L、又は本明細書に記載の抗体を含むタンパク質を含む。ある例において前記組成物は、前記タンパク質又は抗体の1種以上の変種(例えば、翻訳後修飾された変種)をさらに含む。例えば、これは、コードされたC末端リジン残基が欠如した変種、脱アミド化変種、及び/又はグリコシル化変種、及び/又は、例えばタンパク質のN末端にピログルタミン酸を含む変種、及び/又は抗体又はV領域のN末端残基、例えばN末端グルタミン酸が欠如した変種、及び/又は分泌シグナルのすべて又は一部を含む変種を含む。コードされたアスパラギン残基の脱アミド化変種は、生成されるイソアスパラギン酸及びアスパラギン酸を与えることができるか、又は隣接アミノ酸残基を含むスクシンアミドさえ与えることができる。コードされたグルタミン酸残基の脱アミド化変種は、グルタミン酸を与えることができる。特定のアミノ酸配列が参照される時、このような配列と変種の異種混合物を含む組成物が含まれることが意図される。
【0048】
ある例において、VEGF−Bシグナル伝達を阻害する化合物は、VEGF−Bの発現を阻害又は防止する。例えば、この化合物は、アンチセンス、siRNA、RNAi、リボザイム、及びDNAザイムからなる群から選択される。
【0049】
ある例において、VEGF−Bは哺乳動物VEGF−B、例えばヒトVEGF−Bである。
【0050】
ある例において、被験体は哺乳動物、例えば霊長類、例えばヒト、である。
【0051】
本明細書に記載の糖尿病性創傷又は潰瘍の治療法は、創傷の更なる治療を施すことをさらに含むことができる。
本明細書に記載の糖尿病性創傷又は潰瘍の治療法は、糖尿病を治療又は予防(又はその進行を遅延)するための更なる化合物を投与することをさらに含むことができる。典型的な化合物は本明細書に記載される。
【0052】
別の例において本開示は、被験体の創傷治癒を誘導又は増強するための、及び/又は被験体の創傷又は創傷の合併症の進行を予防又は遅延させるための、VEGF−Bシグナル伝達を阻害する化合物を提供する。
【0053】
別の例において本開示は、被験体の創傷治癒を誘導又は増強するための、及び/又は被験体の創傷又は創傷の合併症の進行を予防又は遅延させるための薬剤の製造における、VEGF−Bシグナル伝達を阻害する化合物の使用を提供する。
【0054】
本開示はまた、創傷の治療又は予防及び/又は本開示の方法で使用される説明書とともにパッケージされた、VEGF−Bシグナル伝達を阻害する化合物を含むキットを提供する。
【0055】
代表的な創傷及び化合物は本明細書に記載されており、前記3つの段落に示された本開示の例に準用されると理解すべきである。
【0056】
本開示の例は、創傷治癒の改善、又は再発若しくは創傷(例えば糖尿病性潰瘍)の再発の可能性の低下、又は創傷治癒の促進に準用されると理解すべきである。
【発明を実施するための形態】
【0058】
配列リストの説明
配列番号1は、21アミノ酸のN末端シグナル配列を含むヒトVEGF−B
186アイソフォームのアミノ酸配列である。
配列番号2は、21アミノ酸のN末端シグナル配列を含むヒトVEGF−B
167アイソフォームのアミノ酸配列である。
配列番号3は、抗体2H10のV
Hからのアミノ酸配列である。
配列番号4は、抗体2H10のV
Lからのアミノ酸配列である。
配列番号5は、ヒト化型の抗体2H10のV
Hからのアミノ酸配列である。
配列番号6は、ヒト化型の抗体2H10のV
Lのアミノ酸配列である。
配列番号7は、抗体4E12のV
Hからの アミノ酸配列である。
配列番号8は、抗体4E12のV
Lのアミノ酸配列である。
配列番号9は、抗体2F5のV
Hからのアミノ酸配列である。
配列番号10は、抗体2F5のV
Lのアミノ酸配列である。
配列番号11は、抗体2H10のV
L CDR1からのヌクレオチド配列である。
配列番号12は、抗体2H10のV
L CDR2からのヌクレオチド配列である。
配列番号13は、抗体2H10のV
L CDR3からのヌクレオチド配列である。
配列番号14は、抗体2H10のV
H CDR1からのヌクレオチド配列である。
配列番号15は、抗体2H10のV
H CDR2からのヌクレオチド配列である。
配列番号16は、抗体2H10のV
H CDR3からのヌクレオチド配列である。
配列番号17は、抗体2H10のV
L CDR1からのアミノ酸配列である。
配列番号18は、抗体2H10のV
L CDR2らのアミノ酸配列である。
配列番号19は、抗体2H10のV
L CDR3からのアミノ酸配列である。
配列番号20は、抗体2H10のV
H CDR1からのアミノ酸配列である。
配列番号21は、抗体2H10のV
H CDR2からのアミノ酸配列である。
配列番号22は、抗体2H10のV
H CDR3からのアミノ酸配列である。
配列番号23は、抗体2F5のV
L CDR1からのヌクレオチド配列である。
配列番号24は、抗体2F5のV
L CDR2からのヌクレオチド配列である。
配列番号25は、抗体2F5のV
L CDR3からのヌクレオチド配列である。
配列番号26は、抗体2F5のV
H CDR1からのヌクレオチド配列である。
配列番号27は、抗体2F5のV
H CDR2からのヌクレオチド配列である。
配列番号28は、抗体2F5のV
H CDR3からのヌクレオチド配列である。
配列番号29は、抗体2F5のV
L CDR1からのアミノ酸配列である。
配列番号30は、抗体2F5のV
L CDR2からのアミノ酸配列である。
配列番号31は、抗体2F5のV
L CDR3からのアミノ酸配列である。
配列番号32は、抗体2F5のV
H CDR1からのアミノ酸配列である。
配列番号33は、抗体2F5のV
H CDR2からのアミノ酸配列である。
配列番号34は、抗体2F5のV
H CDR3からのアミノ酸配列である。
配列番号35は、抗体4E12のV
L CDR1からのヌクレオチド配列である。
配列番号36は、抗体4E12のV
L CDR2からのヌクレオチド配列である。
配列番号37は、抗体4E12のV
L CDR3からのヌクレオチド配列である。
配列番号38は、抗体4E12のV
H CDR1からのヌクレオチド配列である。
配列番号39は、抗体4E12のV
H CDR2からのヌクレオチド配列である。
配列番号40は、抗体4E12のV
H CDR3からのヌクレオチド配列である。
配列番号41は、抗体4E12のV
L CDR1からのアミノ酸配列である。
配列番号42は、抗体4E12のV
L CDR2からのアミノ酸配列である。
配列番号43は、抗体4E12のV
L CDR3からのアミノ酸配列である。
配列番号44は、抗体4E12のV
H CDR1からのアミノ酸配列である。
配列番号45は、抗体4E12のV
H CDR2からのアミノ酸配列である。
配列番号46は、抗体4E12のV
H CDR3からのアミノ酸配列である。
【0059】
詳細な説明
総論
本明細書を通して、特に別の指定がなければ又は文脈がそうでないことを要求しない限りは、単一の工程、組成物、工程の群、又は組成物の群への言及は、これらの工程、組成物、工程の群、又は組成物の群の、1つ及び複数(すなわち、1つ又はそれ以上)を包含すると解釈すべきである。
【0060】
当業者は、本開示が、具体的に記載されたもの以外の変更や修飾を受けやすいことを理解するであろう。本開示は、そのようなすべての変更及び修飾を含むことを理解すべきである。本開示はまた、本明細書で言及又は記載されている工程、特徴、組成物、及び化合物のすべてを、個々に又は集合的に含み、前記工程又は特徴の任意かつすべての組合せ又は任意の2種以上を含む。
【0061】
本開示は、本明細書に記載の具体的な実施例により範囲を限定されるものではなく、これらの例は単に例示目的のためである。機能的に同等の製品、組成物、及び方法は、明らかに本開示の範囲内である。
【0062】
本明細書の本開示の例は、特に別の指定がなければ、本開示の任意の他の例に準用されると理解すべきである。
【0063】
特に別の指定がなければ、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、当該分野(例えば、細胞培養、分子遺伝学、免疫学、免疫組織化学、タンパク質化学、及び生化学)の当業者により一般的に理解されているものと同じ意味を有すると理解すべきである。
【0064】
特に別の指定がなければ、本開示で使用される組換えタンパク質、細胞培養、及び免疫学的技術は、当業者に周知の標準的方法である。そのような方法は、J. Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning, John Wiley and Sons (1984)、J. Sambrook et al. Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)、T.A. Brown (編者), Essential Molecular Biology: A Practical Approach, Volumes 1 and 2, IRL Press (1991)、D.M. Glover and B.D. Hames (編者), DNA Cloning: A Practical Approach, Volumes 1-4, IRL Press (1995 and 1996)、及びF.M. Ausubel et al. (編者), Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience (1988, 現在までのすべての更新を含む), Ed Harlow and David Lane (編者) Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, (1988), 及び J.E. Coligan et al. (編者) Current Protocols in Immunology, John Wiley & Sons (現在までのすべての更新を含む)などの情報源中の文献により、記載され説明されている。
【0065】
種々の領域及びそれらの部分、免疫グロブリン、抗体、及びそれらの断片の説明及び定義は、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest, National Institutes of Health, Bethesda, Md., 1987 and 1991, Bork et al., J Mol. Biol. 242, 309-320, 1994, Chothia and Lesk J. Mol Biol. 196:901 -917, 1987, Chothia et al. Nature 342, 877-883, 1989、及び/又は Al-Lazikani et al., J Mol Biol 273, 927-948, 1997 中の考察により、さらに明確にされる。
【0066】
本明細書のタンパク質又は抗体のすべての考察は、製造及び/又は保存中に産生されるタンパク質又は抗体のすべての変種を含むと理解されるであろう。例えば、製造又は保存中に、抗体は脱アミド化(例えば、アスパラギン又はグルタミン残基で)することができるか、及び/又は改変されたグリコシル化を有するか、及び/又はピログルタミンに変換されたグルタミン残基を有するか、及び/又は除去されたか又は「抜き出された」N末端又はC末端残基を有するか、及び/又は不完全に処理されたシグナル配列の一部又はすべてを有し、その結果、抗体の末端で維持される。特定のアミノ酸配列を含む組成物は、記載の又はコードされた配列の異種混合物及び/又は記載の又はコードされた配列の変種でもよい。
【0067】
用語「及び/又は」例えば「X及び/又はY」は、「XとY」又は「X又はY」のいずれかを意味すると理解すべきであり、両方の意味又は片方の意味の明確な支持を与えると理解すべきである。
【0068】
本明細書を通して用語「含む (comprise)」又はその変種である「含む (comprises)」又は「含んでなる (comprising)」は、記載の要素、整数、若しくは工程、又は要素、整数、若しくは工程の群を含むことを意味するが、その他の要素、整数、若しくは工程、又は要素、整数、若しくは工程の群を排除するものではないと理解されるであろう。
【0069】
本明細書において用語「から誘導される (derived from)」は、その供給源から直接的ではなくても、その供給源から特定の整数が得られることを示すと、理解すべきである。
【0070】
選択された定義
VEGF−Bは、VEGF−B
186とVEGF−B
167と呼ばれる2つの主要なアイソフォーム (isoform)を示すことが知られている。限定目的ではなく命名の目的のみのために、ヒトVEGF−B
186の配列は、NCBI Reference Sequence(NP_003368.1)に、NCBIタンパク質受け入れ番号NP_003368、P49765、及びAAL79001に、及び配列番号1に、記載されている。本開示の文脈において、VEGF−B
186の配列は、21個のアミノ酸のN末端シグナル配列(例えば、配列番号1のアミノ酸1〜21にに示されるように)を欠くことがある。限定目的ではなく命名の目的のみのために、ヒトVEGF−B
167の配列は、NCBI Reference Sequence(NP_001230662.1)に、NCBIタンパク質受け入れ番号AAL79000、及びAAB06274に、及び配列番号2に記載されている。本開示の文脈において、VEGF−B
167の配列は、21個のアミノ酸のN末端シグナル配列(例えば、配列番号2のアミノ酸1〜21にに示されるように)を欠くことがある。VEGF−Bの追加の配列は、本明細書に記載の配列及び/又は公に利用可能なデータベース中の配列を使用して決定できるか、及び/又は標準物質方法(例えば、Ausubel et al., (編者), Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience (1988, 現在までの更新を含む)、又は Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989) を参照)を使用して決定することができる。ヒトVEGF−Bへの言及は、hVEGF−Bと略すことがある。ある例において、VEGF−Bへの言及は、VEGF−B
167アイソフォームである。
【0071】
本明細書中でVEGF−Bへの言及はまた、国際公開第2006/012688号に記載されているように、VEGF−B
10-108ペプチドを包含する。
【0072】
用語「創傷 (wound)」は、被験体の組織が損傷された(例えば、裂けた、穴があいた、切れた、又は壊れた)任意の傷害を意味すると解釈されるであろう。
【0073】
本明細書において用語「皮膚創傷 (dermal wound)」病変は、被験体の皮膚の1つ以上の層への病変を意味すると理解すべきであり、例えば、病変は1つ以上のアポトーシス皮膚細胞及び/又は1つ以上の壊死皮膚細胞を含む。用語「皮膚創傷」は、被験体の表皮細胞及び/又は被験体の皮膚層及び/又は被験体の皮下層に、影響を与える創傷を含むと理解すべきである。
【0074】
用語「慢性創傷 (chronic wound)」は、通常の段階の集合や予測可能な時間では治癒しない創傷を指す。一般的に3ヶ月以内に治癒しない創傷は慢性と見なされる。慢性創傷は、特に限定されないが、例えば動脈性潰瘍、糖尿病性潰瘍、褥瘡、静脈性潰瘍などを含む。急性創傷は、慢性創傷に発展することがある。
【0075】
用語「急性創傷 (acute wound)」又は「通常の創傷 (normal wound)」は、正常な創傷治癒修復を受ける創傷を指す。
【0076】
用語「創傷の進行 (progression of a wound)」は、創傷の悪化、例えば、サイズ及び/又は深さの上昇、より進行した段階への進行、及び/又は感染症の出現を意味すると理解されるであろう。
【0077】
本開示の文脈において用語「治癒 (healing)」は、化合物が投与された時から、顕著な又は完全な創傷閉鎖(完全な創傷収縮)までの時間の促進及び加速である。
【0078】
用語「組織」は、特定の機能を生成するために集まる、人体の細胞集団を指す。組織には、特に限定されないが、皮膚、軟骨、及び結合組織が挙げられる。
【0079】
用語「組換え体 (recombinant)」は、人工的な遺伝子組換えの生成物を意味すると理解すべきである。従って、抗体の可変領域を含む組換えタンパク質の文脈において、この用語は、B細胞成熟中に起きる自然の組換えの産物である、被験体の体内の天然に存在する抗体を包含しない。しかし、そのような抗体が単離されている場合は、それは、抗体可変領域を含む単離されたタンパク質とみなすべきである。同様に、タンパク質をコードする核酸が単離され、組換え手段を使用して発現される場合は、得られるタンパク質は抗体可変領域を含む組換えタンパク質である。組換えタンパク質はまた、それが、発現される細胞、組織、又は被験体の中にある場合、人工的な組換え手段により発現されるタンパク質を包含する。
【0080】
用語「タンパク質」は、単一のポリペプチド鎖、すなわち、ペプチド結合により連結された一連の連続したアミノ酸、又は互いに共有結合又は非共有結合で連結された一連のポリペプチド鎖(すなわち、ポリペプチド複合体)を含むと理解すべきである。例えば一連のポリペプチド鎖は、適切な化学結合又はジスルフィド結合を用いて共有結合することができる。非共有結合の例には、水素結合、イオン結合、ファンデルワールス力、及び疎水性相互作用が挙げられる。
【0081】
用語「ポリペプチド」又は「ポリペプチド鎖」は、前項から、ペプチド結合により連結された一連の連続したアミノ酸を意味すると理解されるであろう。
【0082】
当業者は、「抗体」が、複数のポリペプチド鎖、例えば、軽鎖可変領域(V
L)を含むポリペプチドと重鎖可変領域(V
H)を含むポリペプチドと、から構成された、可変領域を含むタンパク質であると一般に見なされていることを承知しているであろう。抗体はまた一般に、その一部を構成して定常領域にすることができる定常ドメインを含み、これは重鎖の場合、定常断片又は結晶性断片(Fc)を含む。V
HとV
Lは相互作用して、1つ又は数個の密接に関連した抗原に特異的に結合することができる抗原結合領域を含むFvを形成する。一般的に哺乳動物由来の軽鎖は、κ軽鎖又はλ軽鎖のいずれかであり、哺乳動物由来の重鎖は、α、δ、ε、γ、又はμである。抗体は、任意のタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、及びIgY)、任意のクラス(例えば、IgG
1、IgG
2、IgG
3、IgG
4、IgA
1、及びIgA
2)、又は任意のサブクラスであってもよい。 用語「抗体」はまた、ヒト化抗体、霊長類化抗体、ヒト抗体、ヒト抗体、同時ヒト化(synhumanized)抗体、及びキメラ抗体を包含する。
【0083】
抗体の抗原結合断片とは対照的に、用語「完全長抗体 (full-length antibody)」、「無傷の抗体 (intact antibody)」、又は「全抗体 (whole antibody)」は、その実質的に無傷の形態の抗体を指すために互換的に使用される。具体的には、全抗体は、重鎖と軽鎖を有するものであり、Fc領域を含むものである。定常ドメインは、野生型配列定常ドメイン(例えば、ヒト野生型配列定常ドメイン)、又はそのアミノ酸配列変種でもよい。
【0084】
本明細書において「可変領域」は、抗原と特異的に抗原に結合することができ、相補性決定領域(CDR)(すなわちCDR1、CDR2、及びCDR3)及びフレームワーク領域(FR)のアミノ酸配列を含む、本明細書に記載の抗体の軽鎖及び/又は重鎖の部分を指す。典型的な可変領域は、3つ又は4つのFR(例えば、FR1、FR2、FR3、任意選択的に任意FR4)を3つのCDRとともに含む。IgNARから誘導されるタンパク質の場合、タンパク質はCDR2が欠如してもよい。V
Hは重鎖の可変領域を指す。V
Lは軽鎖の可変領域を指す。
【0085】
本明細書において用語「相補性決定領域」(CDR、すなわちCDR1、CDR2、及びCDR3)は、その存在が抗原結合のために必要な抗体可変ドメインのアミノ酸残基を指す。各可変ドメインは典型的には。CDR1、CDR2及びCDR3として特定される3つのCDR領域を有する。CDR及びFRに割り当てられるアミノ酸位置は、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest, National Institutes of Health, Bethesda, Md., 1987 and 1991、又は本開示の実施における他の番号付けシステム、例えば、Chothia and Lesk J. Mol Biol. 196: 901-917, 1987; Chothia et al. Nature 342, 877-883, 1989; 及び/又は Al-Lazikani et al., J Mol Biol 273: 927-948, 1997 の番号付けシステム;Lefranc et al., Devel. And Compar. Immunol., 27: 55-77, 2003 のIMGT番号付けシステム;又は Honnegher and Plukthun J. Mol. Biol., 309: 657-670, 2001 のAHO番号付けシステムに従って定義することができる。
【0086】
「フレームワーク領域」(FR)は、CDR残基以外の可変ドメイン残基である。
【0087】
本明細書において用語「Fv」は、複数のポリペプチド又は単一のポリペプチドからなっていても、そのV
LとV
Hが結合して、抗原に特異的に結合できる抗原結合部位を有する複合体を形成する、任意のタンパク質を意味する理解すべきである。抗原結合部位を形成するV
H及びV
Lは、単一ポリペプチド鎖又は種々のポリペプチド鎖中であってもよい。さらに、本開示のFv(ならびに本開示の任意のタンパク質)は、同じ抗原に結合してもしなくてもよい複数の抗原結合部位を有していてもよい。この用語は、抗体から直接誘導される断片、ならびに組換え手段を用いて製造されるそのような断片に対応するタンパク質、を包含すると理解すべきである。いくつかの例において、V
Hは重鎖定常ドメイン(C
H)1に連結しておらず、及び/又はV
Lは軽鎖定常ドメイン(C
L)に連結していない。典型的なFv含有ポリペプチド又はタンパク質は、Fab断片、Fab' 断片、F(ab')断片、scFv、ダイアボディ、三重特異性抗体、四重特異性抗体、又はより高次の複合体、又はその定常領域若しくはドメインに連結された上記のいずれか、例えばC
H2若しくはC
H3ドメイン、例えばミニボディが挙げられる。「Fab断片」は、抗体の一価の抗原結合断片から構成され、抗体全体をパパインで消化することにより製造されて、無傷の軽鎖と、重鎖の一部からなる断片を得るか、又は組換え手段を用いて製造することができる。抗体の「Fab' 断片」は、ペプシンで抗体全体を処理し、次に還元して、無傷の軽鎖とV
H及び単一の定常ドメインを含む重鎖の一部とからなる分子を得ることにより得ることができる。このように処理された抗体ごとに2つのFab' 断片が得られる。Fab' 断片はまた、組換え手段により産生することもできる。抗体の「F(ab')2断片」は、2つのジスルフィド結合により一緒にされた2つのFab' 断片の二量体からなり、全抗体分子を酵素ペプシンで処理し、その後の還元無しで得られる。「Fab
2」断片は、例えばロイシンジッパー又はC
H3ドメインを使用して連結された2つのFab断片を含む組換え断片である。「単鎖Fv」すなわち「scFv」は、抗体の可変領域断片(Fv)を含む組換え分子であり、ここで軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域は、適切な可撓性ポリペプチドリンカーにより共有結合されている。
【0088】
本明細書において、タンパク質又はその抗原結合部位と抗原との相互作用に関して用語「結合する (binds)」は、その相互作用が、抗原上の特定の構造(例えば、抗原決定基又はエピトープ)の存在に依存することを意味する。例えば、抗体は一般的にタンパク質に結合するのではなく、特定のタンパク質構造を認識し結合する。抗体がエピトープ「A」に結合する場合、エピトープ「A」を含有する分子(又は遊離の非標識「A」)の存在は、標識された「A」とタンパク質を含有する反応において、抗体に結合される標識された「A」の量を減少させるであろう。
【0089】
本明細書において用語「特異的に結合する」は、本開示のタンパク質が、別の抗原又は細胞に対するよりも、特定の抗原又はこれを発現する細胞に対して、より高頻度に、より迅速に、より長い期間、及び/又はより大きな親和性で、反応又は結合することを意味すると理解すべきである。例えばタンパク質は、他の増殖因子や、多反応性自然抗体(すなわち、ヒトで天然に存在する種々の抗原に結合することが知られている天然に存在する抗体)により通常認識される抗原に対するよりも、VEGF−Bに対して、著しく大きな親和性(例えば、20倍又は40倍又は60倍、又は80倍〜100倍、又は150倍又は200倍)で結合する。一般に、必ずしもそうではないが、結合への言及は特異的な結合を意味し、各用語は他の用語に対する明示的な支持を提供すると理解すべきである。
【0090】
本明細書において用語「中和する」は、タンパク質が、VEGF−R1を介して、細胞内のVEGF−Bシグナル伝達を阻止、低下、又は防止することが可能であることを意味すると理解すべきである。中和を測定するための方法は、当技術分野で公知であるか及び/又は本明細書に記載されている。
【0091】
本明細書において用語「予防している」、「予防する」、又は「予防」は、本開示の化合物を投与し、こうして、症状の少なくとも1つの徴候の出現を停止又は妨害することを含む。
【0092】
本明細書において用語「治療している」、「治療する」、又は「治療」は、本明細書に記載のタンパク質を投与し、こうして特定の疾患又は症状の少なくとも1つの徴候を低下させるか又は排除するか、又はその疾患若しくは症状の進行を遅らせることを含む。
【0093】
本明細書において用語「被験体 (subject)」は、ヒトを含む任意の動物、例えば哺乳動物を意味すると理解すべきである。典型的な被験体は、特に限定されないが、ヒト及び非ヒト霊長類を含む。例えば、被験体はヒトである。
【0094】
創傷の治療
本開示は、VEGF−Bシグナル伝達を阻害する化合物を投与することにより、創傷の治癒を加速及び/又は改善及び/又は増強するための方法を提供する。例えば、ある方法は、被験体の創傷に又は被験体に全身的に前記化合物を投与することを含む。
【0095】
ある例において、被験体は創傷を患っている。創傷は、慢性、急性、又は通常の創傷でもよい。ある例において、創傷は慢性である。ある例において、治療される創傷は、表1に記載されるように、ステージ0Aの創傷、又はステージ1Aの創傷、又はステージ2Aの創傷、又はステージ3Aの創傷である。ある例において、治療される創傷は、表1に記載されるように、ステージ0Bの創傷、又はステージ1Bの創傷、又はステージ2Bの創傷、又はステージ3Bの創傷である。ある例において、治療される創傷は、表1に記載されるように、ステージ0Cの創傷、又はステージ1Cの創傷、又はステージ2Cの創傷、又はステージ3Cの創傷である。ある例において、治療される創傷は、表1に記載されるように、ステージ0Dの創傷、又はステージ1Dの創傷、又はステージ2Dの創傷、又はステージ3Dの創傷である。
【0097】
ある例において、被験体は、感染しているか及び/又は虚血性である創傷を患っている。
【0098】
ある例において、創傷は全層創傷である。
【0099】
ある例において、創傷は、糖尿病性潰瘍、例えば糖尿病性足部潰瘍である。糖尿病性潰瘍は、表1に記載されたシステムを使用して分類することができる。別の例において、潰瘍は、表2に記載されたようなワーグナー潰瘍分類システム(Wagner Ulcer Classification System)に従って分類される。
【0101】
糖尿病性足部潰瘍の危険因子のいくつかの例は、足の運動及び感覚機能の両方に影響を与える末梢神経障害、制限された関節の動き、足の変形、足圧の異常分布、反復的な軽度の外傷、及び視力障害を含む。末梢感覚神経障害が、主要な要因である。すべての糖尿病性潰瘍の約45%〜60%は神経因性であるが、最大45%は、神経因性成分及び虚血性成分の両方を有する。無感覚足を有するため、患者は、例えば日常生活の歩行や活動中の適切ではない履物に引き起こされる、足への繰り返し損傷を知覚することができない。神経障害は、歩行の変化した生体力学と組み合わさって、反復性鈍的外傷と足の脆弱な部分にと異常に高いストレス負荷の分布を引き起こし、これがカルス形成と皮膚の浸食につながる。潰瘍が形成されると、多くの場合治癒が遅く、拡大し続けることがあり、局所又は全身感染の機会を提供し、治癒を促進するために包括的な医療や外科的ケアを必要とする。
【0102】
ある例において創傷は、本明細書に記載の化合物を投与する前に少なくとも約2週間、被験体に存在しているか又は存在したことがある。ある例において創傷は、本明細書に記載の化合物を投与する前に少なくとも約4週間、被験体に存在しているか又は存在したことがある。ある例において創傷は、本明細書に記載の化合物を投与する前に少なくとも約6週間、被験体に存在しているか又は存在したことがある。
【0103】
本開示の方法はまた、創傷治癒を遅延させるか又は無効な創傷治癒を提供する治療を受けているか、又は受けたことがある被験体にも適用可能である。治療は、特に限定されないが、薬物療法、放射線療法、免疫系の抑制を引き起こす治療などを含むことがあり得る。ある例において被験体は、創傷治癒を遅延させるか又は無効な創傷治癒を提供する前記2次症状を有する。2次症状には、特に限定されないが、例えば糖尿病、末梢血管疾患、感染症、自己免疫障害、又はコラーゲン血管障害、免疫系の抑制を引き起こす疾患状態などを含む。
【0104】
定量分析は創傷治癒を評価するために使用され、例えば、創傷面積又は完全な創傷閉鎖の減少%が測定される(例えば、排液又は手当て用品の必要の無い皮膚閉鎖により測定される)。創傷面積は、当業者に公知の方法による治療の前、治療中、又は治療後に評価される。例えば評価は、例えば定量的面積測定、写真、理学的検査などにより測定することができる。創傷面積は、治療の前、その最中、又は後に測定することができる。ある例において創傷面積は、創傷の長さL、端から端までの最大の長さ(例えばcmで)、及び幅W、Lに対して直角の端から端までの最大の幅(例えばcmで)を測定し、これらを掛け合わせて(L×W)推定表面積(cm)を得ることにより推定することができる。治療のための創傷の大きさは変化してもよい。本発明のある例において、治療前の創傷面積は、約0.4cm
2 以上、又は約1.0cm
2 以上、又は約0.4cm
2 〜約10cm
2 、又は約1cm
2 〜約10cm
2 、又は約1cm
2 〜約7cm
2 、又は約1cm
2 〜約5cm
2 、又は4.0cm
2 超である。この面積は、創面切除の前又は後に測定することができる。
【0105】
創傷治癒の加速は、創傷治癒の加速%及び/又はハザード比により説明することができる。例えば化合物の投与は、対照と比較して創傷治癒を、50%超、60%またはそれ以上、70%またはそれ以上、74%またはそれ以上、75%またはそれ以上、80%またはそれ以上、85%またはそれ以上、90%またはそれ以上、95%またはそれ以上、100%またはそれ以上、110%またはそれ以上、加速する。
【0106】
本開示の方法は、被験体の集団において、創傷治癒を加速及び/又は改善及び/又は増強することを含む。例えば本方法は、集団の被験体に化合物を投与することを含み、ここで、化合物の投与は、対照と比較して集団中の創傷治癒を、10%超(又は、12%超、又は14%超、又は15%超、又は17%超、又は20%超、又は25%超、又は30%超、又は33%超、又は35%超、又は40%超、又は45%超、又は50%超又はそれ以上)改善させる。
【0107】
創傷(又は潰瘍)の再発を低下させるための方法もまた、本開示により提供される。例えば本方法は、潰瘍再発の発生率を低下させるように、被験体に化合物を投与することを含む。
【0108】
例えば手術を受けるはずである(創傷が誘発される場合)創傷(例えば慢性創傷)を発症するリスクのある被験体の、創傷の重症度を低下させるための方法も提供される。
【0109】
別の例において本開示は、被験体の創傷から生じる瘢痕を低下させるための方法であって、VEGF−Bシグナル伝達を阻害する化合物を被験体に投与することを含む方法を提供する。
【0110】
さらに別の例において本開示は、創傷(すなわち、新しい創傷)の形成を防止する方法であって、VEGF−Bシグナル伝達を阻害する化合物を被験体に投与することを含む方法を提供する。
【0111】
VEGF−Bシグナル伝達阻害剤
抗体可変領域を含むタンパク質
典型的なVEGF−Bシグナル伝達阻害剤は、抗体可変領域を含み、例えばVEGF−Bに結合しVEGF−Bシグナル伝達を中和する、抗体又は抗体断片である。
ある例において、抗体可変領域は、VEGF−Bに特異的に結合する。
【0112】
適切な抗体及びその可変領域を含むタンパク質は、当該分野で知られている。
例えば、抗VEGF−B抗体及びその断片は、国際公開第2006/012688号に記載されている。
【0113】
ある例において、抗VEGF−B抗体又はその断片は、VEGF−Bへの2H10の結合を競合的に阻害する抗体又はその抗原結合断片である。ある例において、抗VEGF−B抗体又はその断片は、抗体2H10であるか、又はそのキメラ、CDR移植、又はヒト化バージョン、又はその抗原結合断片である。この点に関して、抗体2H10は、配列番号3で示される配列を含むV
Hと、配列番号4で示される配列を含むV
Lとを含む。この抗体の典型的なキメラ化及びヒト化バージョンは、国際公開第2006/012688号に記載されている。
【0114】
ある例において、抗VEGF−B抗体又はその断片は、配列番号5で示される配列を含むV
Hと、配列番号6で示される配列を含むV
Lとを含む。
【0115】
ある例において、抗VEGF−B抗体又はその断片は、VEGF−Bへの4E12の結合を競合的に阻害する抗体又はその抗原結合断片である。ある例において、抗VEGF−B抗体又はその断片は、抗体4E12であるか、又はそのキメラ、CDR移植、又はヒト化バージョン、又はその抗原結合断片である。この点に関して、抗体4E12は、配列番号7で示される配列を含むV
Hと、配列番号8で示される配列を含むV
Lとを含む。
【0116】
ある例において、化合物は、抗体4E12のヒト化可変領域を含むタンパク質である。例えば、タンパク質は、抗体4E12のV
H及び/又はV
Lの相補性決定領域(CDR)を含む可変領域を含む。例えば、タンパク質は以下を含む:
(i)V
Hであって、
(a)配列番号7のアミノ酸25〜34で示される配列を含むCDR1;
(b)配列番号7のアミノ酸49〜65で示される配列を含むCDR2;
(c)配列番号7のアミノ酸98〜105で示される配列を含むCDR3、を含むV
H、及び/又は
(ii)V
Lであって、
(a)配列番号8のアミノ酸24〜34で示される配列を含むCDR1;
(b)配列番号8のアミノ酸50〜56で示される配列を含むCDR2;
(c)配列番号8のアミノ酸89〜97で示される配列を含むCDR3、を含むV
L。
【0117】
ある例において、抗VEGF−B抗体又はその断片は、VEGF−Bへの2F5の結合を競合的に阻害する抗体又はその抗原結合断片である。ある例において、抗VEGF−B抗体又はその断片は、抗体2F5であるか、又はそのキメラ、CDR移植、又はヒト化バージョン、又はその抗原結合断片である。この点に関して、抗体2E5は、配列番号9で示される配列を含むV
Hと、配列番号10で示される配列を含むV
Lとを含む。
【0118】
ある例において、化合物は、抗体2F5のヒト化可変領域を含むタンパク質である。例えば、タンパク質は、抗体2F5のV
H及び/又はV
Lの相補性決定領域(CDR)を含む可変領域を含む。例えば、タンパク質は以下を含む:
(i)V
Hであって、
(a)配列番号9のアミノ酸25〜34で示される配列を含むCDR1;
(b)配列番号9のアミノ酸49〜65で示される配列を含むCDR2;
(c)配列番号9のアミノ酸98〜107で示される配列を含むCDR3、を含むV
H、及び/又は
(ii)V
Lであって、
(a)配列番号10のアミノ酸24〜34で示される配列を含むCDR1;
(b)配列番号10のアミノ酸50〜56で示される配列を含むCDR2;
(c)配列番号10のアミノ酸89〜96で示される配列を含むCDR3、を含むV
L。
【0119】
別の例において、抗体又はその可変領域を含むタンパク質は、標準的な方法、例えば当該分野で公知の又は本明細書に簡単に記載された方法を使用して製造される。
【0120】
免疫化に基づく方法 (Immunization-based Methods)
抗体を作成するために、VEGF−B又はその断片又はその一部を有するエピトープ又はその改変形態、又はこれ(「免疫原」)をコードする核酸であって、任意の適切な又は所望のアジュバント及び/又は医薬的に許容し得る担体を用いて任意選択的に調製されたものが、注射可能な組成物の形態で被験体(例えば、ヒト以外の動物の被験体、例えばマウス、ラット、ニワトリなど)に投与される。典型的な非ヒト動物は、ネズミ科動物などの哺乳動物(例えばラット又はマウス)である。注射は、鼻腔内、筋肉内、皮下、静脈内、皮内、腹腔内、又は他の既知の経路によってもよい。任意選択的に、免疫原は多数回投与される。抗体を調製し性状解析する方法は、当該分野で公知である(例えば、Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988 を参照)。マウスで抗VEGF−B抗体を産生するための方法は、国際公開第2006/012688号に記載されている。
【0121】
ポリクローナル抗体の産生は、免疫後の様々な時点で免疫動物の血液をサンプリングすることにより追跡することができる。所望の抗体力価を達成することが必要な場合、第2の追加免疫注射をしてもよい。適切な力価が達成されるまで、追加免疫及び力価測定が繰り返される。免疫原性の所望のレベルが得られると、免疫した動物から採血し、血清を単離し保存し、及び/又は動物を使用してモノクローナル抗体(mAb)が生成される。
【0122】
モノクローナル抗体は、本開示により企図される典型的な抗体である。一般にモノクローナル抗体の産生は、抗体産生細胞を刺激するのに十分な条件下で、被験体(例えばげっ歯類、例えばマウス又はラット)を免疫原でを免疫することを含む。いくつかの例において、ヒト抗体を発現しマウス抗体タンパク質を発現しないように遺伝子操作されたマウスは、抗体を産生するために免疫される(例えば、PCT/US2007/008231号、及び/又はLonberg et al., Nature 368 (1994): 856-859 に記載されている)。免疫後、抗体産生体細胞(例えばBリンパ球)は、不死化細胞、例えば不死化骨髄腫細胞と融合される。そのような融合細胞(ハイブリドーマ)を産生するための種々の方法は当該分野で公知であり、例えば、Kohler and Milstein, Nature 256, 495-497, 1975 に記載されている。次にハイブリドーマ細胞は、抗体産生に十分な条件下で培養することができる。
【0123】
本開示は、抗体を産生するための他の方法、例えばABL−MYC技術(例えば、Largaespada et al, Curr. Top. Microbiol. Immunol, 166, 91-96. 1990 に記載されている)を企図する。
【0124】
ライブラリーに基づく方法 (Library-based Methods)
本開示はまた、VEGF−B結合抗体又はその可変領域を含むタンパク質を同定するための、抗体又はその抗原結合ドメインを含む(例えば、その可変領域を含む)タンパク質のライブラリーのスクリーニングを包含する。
【0125】
本開示により企図されるライブラリーの例は、ナイーブなライブラリー(抗原刺激を受けていない被験体から)、免疫化ライブラリー(抗原で免疫された被験体から)、又は合成ライブラリーを含む。抗体又はその領域(例えば、可変領域)をコードする核酸は、従来技術(例えば、Sambrook and Russell, eds, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd Ed, vols. 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001 に開示されたもの)によりクローン化され、当該分野で公知の方法を使用してタンパク質をコードし表示するのに使用される。タンパク質のライブラリーを産生するための他の方法は、例えばUS6300064号(例えば、HuCAL library of Morphosys AG);US5885793号;US6204023号;US6291158号;又はUS6248516号に記載されている。
【0126】
本開示のタンパク質は、可溶性の分泌タンパク質でも、又は細胞又は粒子(例えば、ファージ又は他のウイルス、リボゾーム又は胞子)の表面上の融合タンパク質として提示されてもよい。当該分野において、種々のライブラリーフォーマットが公知である。例えばライブラリーは、インビトロ表示ライブラリー(例えば、リボゾーム表示ライブラリー、共有表示ライブラリー、又はmRNA表示ライブラリー、例えばUS7270969号に記載されたもの)でもよい。さらに別の例において表示ライブラリーは、例えば、US6300064号;US5885793号;US6204023号;US6291158号;又はUS6248516号に記載されているような、抗体の抗原結合ドメインを含むタンパク質がファージ上で発現される、ファージ表示ライブラリーである。他のファージ表示法は当該分野で公知であり、本開示により企図される。同様に細胞表示の方法が本開示により企図され、例えば、US5516637号に記載されている細菌表示ライブラリー、例えばUS6423538号に記載されている酵母表示ライブラリー、又は哺乳動物表示ライブラリーが挙げられる。
【0127】
表示ライブラリーをスクリーニングする方法は、当技術分野で公知である。ある例において本開示の表示ライブラリーは、例えばScopes(Protein purification: principles and practice, Third Edition, Springer Verlag, 1994 中)に記載されているように、親和性精製を用いてスクリーニングされる。親和性精製の方法は典型的には、ライブラリーにより表示される抗原結合ドメインを含むタンパク質に標的抗原(例えばVEGF−B)を接触させ、次に洗浄し、抗原に結合しているドメインを溶出することを含む。
【0128】
スクリーニングにより同定される任意の可変領域又はscFvは、所望であれば、容易に完全な抗体に変更される。可変領域又はscFvを完全な抗体に修飾又は再フォーマットするための典型的な方法は、例えば Jones et al., J Immunol Methods. 354:85-90, 2010; 又は Jostock et al., J Immunol Methods, 289: 65-80, 2004 に記載されている。 あるいは又はさらに、例えば Ausubel et al (Current Protocols in Molecular Biology. Wiley Interscience, ISBN 047 150338, 1987 中)、及び/又は Sambrook et al (Molecular Cloning: Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratories, New York, Third Edition 2001 中)に記載されているように、標準的クローニング方法が使用される。
【0129】
脱免疫、キメラ、ヒト化、同時ヒト化、霊長類化、及びヒトタンパク質
本発明のタンパク質は、ヒト化タンパク質であってもよい。
【0130】
用語「ヒト化タンパク質」は、ヒト抗体からのFRに移植又は挿入された非ヒト種(例えば、マウス、ラット、又は非ヒト霊長類)の抗体からのCDRを含む、ヒト様可変領域を含むタンパク質を指すと理解すべきである(この種の抗体は「CDR移植抗体」と呼ばれる)。ヒト化タンパク質はまた、ヒトタンパク質の1つ以上の残基が1つ以上のアミノ酸置換基により置換されているか、及び/又はヒトタンパク質の1つ以上のFR残基が、対応する非ヒト残基により置換されているタンパク質を含む。ヒト化タンパク質はまた、ヒト抗体又は非ヒト抗体のいずれにも見出されない残基を含んでもよい。このタンパク質の任意の追加の領域(例えばFc領域)は、一般的にヒト由来である。ヒト化は、当技術分野で公知の方法、例えば、US5225539号、US6054297号、US7566771号、又はUS5585089号を用いて行うことができる。用語「ヒト化タンパク質」はまた、例えばUS7732578号に記載されているように、超ヒト化タンパク質を包含する。
【0131】
本開示のタンパク質は、ヒトタンパク質であってもよい。本明細書において用語「ヒトタンパク質」は、ヒトに、例えばヒト生殖細胞系又は体細胞中に存在する、可変領域及び任意選択的に定常抗体領域を有するタンパク質、又はそのような領域を使用して産生されるライブラリーからのタンパク質を指す。「ヒト」抗体は、ヒト配列によりコードされないアミノ酸残基、例えばランダム変異又はインビトロの部位特異的突然変異誘発(特に、タンパク質の残基少数の残基、例えば1、2、3、4、又は5個の残基中の保存的置換又は変異を含む突然変異)により導入される変異体を含むことができる。これらの「ヒト抗体」は、必ずしもヒトの免疫応答の結果として生成される必要は無く、むしろ、これらは、組換え手段(例えば、ファージ表示ライブラリーのスクリーニング)を使用して、及び/又はヒト抗体定常及び/又は可変領域をコードする核酸を含むトランスジェニック動物(例えばマウス)により、及び/又は誘導選択(例えばUS5565332号に記載されるように)を使用して生成することができる。この用語はまた、このような抗体の親和性成熟形態を包含する。本開示の目的のために、ヒトタンパク質はまた、ヒト抗体由来のFR又はヒトFRのコンセンサス配列からの配列を含むFRを含み、US6300064号及び/又はUS6248516号に記載されているように1つ以上のCDRがランダム又はセミランダムである、タンパク質を含むと見なされる。
【0132】
本開示のタンパク質は、同時ヒト化タンパク質でもよい。用語「同時ヒト化タンパク質」は、国際公開第2007/019620号に記載の方法により調製されたタンパク質を指す。同時ヒト化タンパク質は、抗体の可変領域を含み、ここで可変領域は、非新世界霊長類抗体の可変領域からのFRと新世界霊長類抗体の可変領域からのCDRを含む。例えば、同時ヒト化タンパク質は、抗体の可変領域を含み、ここで可変領域は、新世界霊長類抗体の可変領域からのFRとマウス又はラット抗体のCDRとを含む。
【0133】
本発明のタンパク質は、霊長類化タンパク質でもよい。「霊長類化タンパク質」は、非ヒト霊長類(例えばカニクイザル)の免疫により作製した抗体からの可変領域を含む。任意選択的に、非ヒト霊長類抗体の可変領域はヒト定常領域に連結されて、霊長類抗体が産生される。霊長類化抗体を産生するための典型的な方法は、US6113898号に記載されている。
【0134】
ある例において、本開示のタンパク質はキメラタンパク質である。用語「キメラタンパク質」は、抗原結合ドメインが特定の種(例えば、マウス又はラットなどのネズミ科)由来であるか、又は特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属し、一方、タンパク質の残りは、別の種(例えば、ヒト又は非ヒト霊長類)由来であるか又は別の抗体クラス又はサブクラスに属する、タンパク質を指す。ある例においてキメラタンパク質は、非ヒト抗体(例えば、マウス抗体)由来のV
H及び/又はV
Lを含み、抗体の残りの部分がヒト抗体由来であるキメラ抗体である。このようなキメラタンパク質の産生は、当技術分野で知られており、標準的な手段(例えば、US6331415号、US5807715号、US4816567号、及びUS4816397号に記載のように)により達成することができる。
【0135】
本開示はまた、例えば国際公開第2000/34317号及び国際公開第2004/108158号に記載のような、脱免疫化タンパク質を意図する。脱免疫化抗体及びタンパク質は、1つ以上のエピトープ、例えばB細胞エピトープ又はT細胞エピトープが除去(すなわち変異)されて、それにより被験体が、抗体又はタンパク質に対して免疫応答を惹起する可能性は低下させる。
【0136】
抗体の可変領域を含む他のタンパク質
本開示はまた、抗体の可変領域又は抗原結合ドメインを含む他のタンパク質,例えば以下を企図する:
(i)単一ドメイン抗体、これは、抗体のV
H又はV
Lのすべてまたは一部を含む単一ポリペプチド鎖である(例えば、US6248516号を参照);
(ii)二重特異性抗体、三重特異性抗体、及び四重特異性抗体、例えばUS5844094号及び/又はUS2008152586号に記載されているもの;
(iii)scFv、例えばUS5260203号に記載されているもの;
(iv)ミニボディ (minibodies)、例えばUS5837821号に記載されているもの;
(v)US5731168号に記載されている「キーとホール」二重特異性タンパク質;
(vi)ヘテロ結合体タンパク質、例えばUS4676980号に記載されているもの;
(vii)化学的架橋剤を用いて製造されるヘテロ結合体タンパク質、例えばUS4676980号に記載されているもの;
(viii)Fab' −SH断片、例えば、Shalaby et al, J. Exp. Med., 175: 217-225, 1992 に記載されているもの;又は
(ix)Fab
3(例えば、EP19930302894号に記載されるもの)。
【0137】
定常ドメイン融合体
本開示は、抗体の可変領域、及び定常領域又はFc又はそのドメイン、例えばC
H2及び/又はC
H3ドメインを含むタンパク質を包含する。適切な定常領域及び/又はドメインは、当業者には明らかであり、及び/又はそのようなポリペプチドの配列は、公的に利用可能なデータベースから容易に入手可能である。Kabat らはまた、いくつかの適切な定常領域/ドメインの説明を提供する。
【0138】
定常領域及び/又はそのドメインは、二量体化、例えばFcRn(胎児性Fc受容体)に結合することによる血清半減期の延長、抗原依存性細胞障害(ADCC)、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗原依存性細胞食作用(ADCP)などの生物活性を提供するのに有用である。
【0139】
本開示はまた、例えばUS7217797号、US7217798号、又はUS20090041770号(延長された半減期を有する)、又はUS2005037000号(ADCCの上昇)に記載されているように、変異定常領域又はドメインを含むタンパク質を企図する。
【0140】
安定化タンパク質 (Stabiilzed Proteins)
本開示の中和タンパク質は、IgG4定常領域又は安定化IgG4定常領域を含むことができる。用語「安定化されたIgG4定常領域」は、Fabアーム交換、又はFabアーム交換を受ける傾向、又は半抗体の形成、又は半抗体を形成する傾向を、低下させるように修飾されたIgG4定常領域を意味すると理解されるであろう。「Fabアーム交換」は、IgG4重鎖と結合した軽鎖(半分子)とが、別のIgG4分子からの重鎖−軽鎖対と交換される、ヒトIgG4のタンパク質の修飾のタイプを指す。従ってIgG4分子は、2つの異なる抗原(2重特異的分子を生じる)を認識する二つの異なるFabアームを取ることができる。Fabアーム交換は、インビボで自然に発生し、例えば、精製された血液細胞又は還元型グルタチオンのような還元剤によりインビトロで誘導することができる。IgG4抗体が解離して、それぞれが単一の重鎖と単一の軽鎖とを含む2つの分子を形成すると、「半抗体」が形成される。
【0141】
ある例において、安定化IgG4定常領域は、Kabat(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, Washington DC, アメリカ合衆国保健福祉(United States Department of Health and Human Services), 1987及び/又は1991)のシステムによれば、ヒンジ領域の241位にプロリンを含む。この位置は、EU番号付けシステム(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest Washington DC, アメリカ合衆国保健福祉省(United States Department of Health and Human Services), 2001 及び Edelman et al., Proc. Natl. Acad. USA, 63, 78-85, 1969)にうおれば、ヒンジ領域の228位に対応する。ヒトIgG4では、この残基は一般的にセリンである。セリンをプロリンで置換後に、IgG4ヒンジ領域は配列CPPCを含む。この点において当業者は、「ヒンジ領域」が、抗体の2つのFabアームに可動性を付与するFcとFab領域を連結する、抗体の重鎖定常領域のプロリンに富む部分であることを承知しているであろう。ヒンジ領域は、重鎖間ジスルフィド結合に関与するシステイン残基を含む。これは一般に、Kabatの番号付けシステムによれば、ヒトIgG1のGlu226からPro243に延びると定義される。他のIgGアイソタイプのヒンジ領域は、同じ位置に重鎖間ジスルフィド(S−S)結合を形成する最初と最後のシステイン残基を配置することにより、IgG1配列と整列させることができる(例えば、国際公開第2010/080538号を参照)。
【0142】
追加のタンパク質に基づくVEGF−Bシグナル伝達阻害剤
VEGF−Bとその受容体との生産的相互作用を妨害し得る他のタンパク質は、変異VEGF−Bタンパク質を含む。
【0143】
ある例において阻害剤は、VEGF−Bに結合する(及び、例えば実質的にVEGF−Aに結合しない)VEGF−R1の1つ以上のドメインを含む可溶性タンパク質である。ある例においてこの可溶性タンパク質は、抗体、例えばIgG1抗体、の定常領域をさらに含む。例えば可溶性タンパク質は、Fc領域及び任意選択的に抗体、例えばIgG1抗体のヒンジ領域をさらに含む。
【0144】
ある例においてタンパク質の阻害剤は、抗体模倣体、例えば抗体と同様に標的タンパク質に結合する可変領域を含むタンパク質足場(scaffold)である。典型的な抗体模倣体の説明は次のとおりである。
【0145】
免疫グロブリン及び免疫グロブリン断片
本開示の化合物の例は、T細胞受容体又は重鎖免疫グロブリン(例えば、IgNAR、ラクダ抗体)などの免疫グロブリンの可変領域を含むタンパク質である。
【0146】
重鎖免疫グロブリン
重鎖免疫グロブリンは、重鎖を含む限り、他の多くの形態の免疫グロブリン(例えば、抗体)とは構造的に異なるが、軽鎖は含まない。従ってこれらの免疫グロブリンは、「重鎖のみの抗体」とも呼ばれる。重鎖免疫グロブリンは、例えばラクダ科動物及び軟骨魚類の中で発見された(IgNARとも呼ばれる)。
【0147】
天然の重鎖免疫グロブリン中に存在する可変領域は、通常の4鎖抗体中に存在する重鎖可変領域(「V
Hドメイン」と呼ばれる)から、及び通常の4鎖抗体中に存在する軽鎖可変領域(「V
Lドメイン」と呼ばれる)から、区別するために、一般的にラクダ科動物Ig中の「VH
Hドメイン」及びIgNAR中のV−NARと呼ばれる。
【0148】
重鎖免疫グロブリンは、関連する抗原に高い親和性かつ高い特異性で結合するのに、軽鎖の存在を必要としない。これは、単一ドメイン結合性断片が、発現しやすく一般的に安定かつ可溶性である重鎖免疫グロブリンに由来することができること、を意味する。
【0149】
ラクダ科動物の重鎖免疫グロブリンとその可変領域の一般的説明、及びその産生及び/又は単離及び/又は使用のための方法は、特に国際公開第94/04678号、国際公開第97/49805号、及び国際公開第97/49805号の文献中に見いだされる。
【0150】
軟骨魚類由来の重鎖免疫グロブリン及びその可変領域の一般的な説明、及びその産生及び/又は単離及び/又は使用のための方法は、特に国際公開第2005/118629号に見出される。
【0151】
V様タンパク質 (V-Like Protiens)
本開示の化合物の例は、T細胞受容体である。T細胞受容体は2つのVドメインを有し、これらは組み合わさって抗体のFvモジュールと同様の構造になる。Novotny et al., Proc Natl Acad Sci USA 88: 8646-8650, 1991 は、T細胞受容体の2つのVドメイン(アルファ及びベータと呼ばれる)が如何に融合し、1本鎖ポリペプチドとして発現されるのか、及びさらに、如何に表面残基を改変して、抗体のscFvに直接類似した疎水性を減少させるかを説明している。2つのV−アルファ及びV−ベータドメインを含む、1本鎖T細胞受容体又は多量体T細胞受容体の産生を記載する他の刊行物は、国際公開第1999/045110号又は国際公開第2011/107595号が挙げられる。
【0152】
抗原結合ドメインを含む他の非抗体タンパク質は、一般に単量体であるV様ドメインを有するタンパク質が挙げられる。このようなV様ドメインを含むタンパク質の例としては、CTLA−4、CD28、及びICOSが挙げられる。このようなV様ドメインを含むタンパク質のさらなる開示は、国際公開第1999/045110号に含まれている。
【0153】
アドネクチン (Adnectins)
ある例において、本開示の化合物はアドネクチンある。アドネクチンは、ヒトフィブロネクチンの第10フィブロネクチンIII方(
10Fn3)ドメインに基づき、ここで、ループ領域は抗原結合を付与するように変更されている。例えば、
10Fn3ドメインのβ−サンドイッチの一端の3つのループは、アドネクチンが抗原を特異的に認識することを可能にするように操作することができる。更なる詳細については、US20080139791号又は国際公開第2005/056764号を参照されたい。
【0154】
アンチカリン (Anticalins)
さらなる例において、本開示の化合物はアンチカリンである。アンチカリンはリポカリンに由来し、リポカリンは、ステロイド、ビリン、レチノイド、及び脂質などの小疎水性分子を輸送する細胞外タンパク質のファミリーである。リポカリンは、抗原に結合するように操作することができる円錐形の構造体の開口端に、複数のループを有する、剛性β−シート2次構造を有する。このような操作されたリポカリンは、アンチカリンとして知られている。アンチカリンのさらなる説明については、US7250297B1号又はUS20070224633号を参照されたい。
【0155】
アフィボディ (Affibodies)
さらなる例において、本開示の化合物はアフィボディである。アフィボディは、抗原に結合するように操作することができる、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のプロテインAのZドメイン(抗原結合ドメイン)に由来する足場である。Zドメインは、約58個のアミノ酸の3らせん束からなる。表面残基のランダム化によりライブラリーが生成されている。詳細についてはEP1641818号を参照されたい。
【0156】
アビマー (Avimers)
さらなる例において、本開示の化合物はアビマーである。アビマーは、Aドメイン足場ファミリー由来のマルチドメインタンパク質である。約35個のアミノ酸の未変性ドメインは、明確なジスルフィド結合構造を取る。A−ドメインのファミリーにより示される自然変動のシャッフリングにより、多様性が生成される。詳細については国際公開第2002088171号を参照されたい。
【0157】
ダルピン(DARPin)
さらなる例において、本開示の化合物は、設計されたアンキリンリピートタンパク質(Designed Ankyrin Repeat Protein)(DARPin)である。ダルピンは、細胞骨格への内在性膜タンパク質の結合を仲介するタンパク質のファミリーであるアンキリンに由来している。単一のアンキリンリピートは、2つのα−らせんとβ−ターンとからなる33残基のモチーフである。これらは、各リピートの最初のα−らせんとβ−ターン中の残基をランダム化することにより、異なる標的抗原に結合するように操作することができる。これらの結合界面は、モジュール数を増やす(親和性成熟の方法)ことにより増加させることができる。更なる詳細については、US20040132028号を参照されたい。
【0158】
タンパク質を産生する方法
組み換え発現
組換えタンパク質の場合、これをコードする核酸は発現ベクター中にクローニングすることができ、次にこれらの発現ベクターは、本来は抗体を産生しない大腸菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞、又は例えばサルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ヒト胎児腎臓(HEK)細胞、又は骨髄腫細胞などの哺乳動物細胞などの宿主細胞にトランスフェクトされる。本開示のタンパク質を発現するために使用される典型的な細胞は、CHO細胞、骨髄腫細胞、又はHEK細胞である。これらの目的を達成するための分子クローニング技術は当技術分野で公知であり、例えば、Ausubel et al., (編者), Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience(1988、現在までのすべての更新を含む)、又は Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989) に記載されている。広範囲のクローニング及びインビトロ増幅方法が、組換え核酸の構築に適している。組換え抗体を産生する方法も、当技術分野で公知である。US4816567号又はUS5530101号を参照されたい。
【0159】
単離後、核酸は、さらなるクローニング(DNAの増幅)のために、又は無細胞系若しくは細胞中の発現のために、発現構築体又は発現ベクター中のプロモーターに機能できる形で連結して挿入される。
【0160】
本明細書において用語「プロモーター」は、その最も広い文脈で解釈すべきであり、ゲノム遺伝子の転写制御配列を含み、この転写制御配列は、例えば成長刺激及び/又は外部刺激に応答して又は組織特異的な様式で、核酸の発現を変化させる追加の調節要素(例えば、上流の活性化配列、転写因子結合部位、エンハンサー及びサイレンサー)の有無にかかわらず、正確な転写開始に必要とされるTATAボックス又はイニシエーター要素を含む。本文脈において用語「プロモーター」はまた、それが機能できる形で連結された核酸の発現を付与、活性化、又は増強する、組換え、合成、若しくは融合核酸、又は誘導体を記述するためにも使用される。典型的なプロモーターは、前記核酸の発現を増強するか、及び/又は空間的発現及び/又は一時的発現を改変するための、1つ又はそれ以上の特異的調節要素のさらなるコピーを含むことができる。
【0161】
本明細書において用語「機能できる形で結合している (operably linked to)」は、核酸の発現がプロモーターにより制御されるように、核酸に対してプロモーターを配置することを意味する。
【0162】
細胞中での発現のための多くのベクターが利用可能である。ベクター成分は、特に限定されないが、一般的に、シグナル配列、抗体をコードする配列(例えば、本明細書に提供される情報から得られる)、エンハンサー要素、プロモーター、及び転写停止配列の1つ以上を含む。当業者は、抗体の発現のための適切な配列を認識しているであろう。典型的なシグナル配列は、原核生物の分泌シグナル(例えば、pelB、アルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、lpp、又は熱安定性エンテロトキシンII)、酵母分泌シグナル(例えば、インベルターゼリーダー、α因子リーダー、又は酸性ホスファターゼリーダー)、又は哺乳動物分泌シグナル(例えば、単純ヘルペスgDシグナル)が挙げられる。
【0163】
哺乳動物細胞において活性なプロモーターの例は、サイトメガロウイルス前初期プロモーター(CMV−IE)、ヒト伸長因子1−αプロモーター(EF1)、小核RNAプロモーター(U1aとU1b)、α−ミオシン重鎖プロモーター、シミアンウイルス40プロモーター(SV40)、ラウス肉腫ウイルスプロモーター(RSV)、アデノウイルス主要後期プロモーター、β−アクチンプロモーター;CMVエンハンサー/β−アクチンプロモーター又は免疫グロブリンプロモーター又はその活性断片を含むハイブリッド調節要素を含む。有用な哺乳動物宿主細胞株の例は、SV40により形質転換されたサル腎臓CV1株(COS−7、ATCC CRL 1651);ヒト胚腎臓株(293細胞又は懸濁培養での増殖のためにサブクローン化された293細胞);ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL 10);又はチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)である。
【0164】
例えば、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、サッカロミセス・セレビッシェ(Saccharomyces cerevisiae)、及びエス・ポンベ(S. pombe)を含む群から選択される酵母細胞における発現に適した典型的なプロモーターには、特に限定されないが、ADH1プロモーター、GAL1プロモーター、GAL4プロモーター、CUP1プロモーター、PHO5プロモーター、nmtプロモーター、RPR1プロモーター、又はTEF1プロモーターが挙げられる。
【0165】
単離された核酸又はこれを含む発現構築体を、発現用の細胞内に導入するための手段は、当業者に公知である。所定の細胞について使用される技術は、既知の成功した技術に依存する。細胞に組換えDNAを導入するための手段は、特に、微量注入法、DEAE−デキストラン仲介トランスフェクション、例えば、リポフェクタミン(Gibco, MD, USA)及び/又はセルフェクチン(Gibco, MD, USA)を使用するなどのリポソーム仲介トランスフェクション、PEG介在DNA取り込み、電気穿孔法、及び例えばDNA被覆タングステン又は金粒子 (Agracetus Inc., WI, USA) を使用する微粒子衝撃を含む。
【0166】
抗体を産生するために使用される宿主細胞は、使用する細胞の種類に応じて、種々の培地で培養することができる。例えばHam’s Fl0 (Sigma)、最小必須培地(MEM、 Sigma) 、RPML−1640 (Sigma) 、及びダルベッコー改変イーグル培地(DMEM、Sigma)などの市販の培地は、哺乳動物細胞を培養するのに適している。本明細書に記載の他の種類の細胞を培養するための培地は、当技術分野で公知である。
【0167】
タンパク質精製
本開示のタンパク質は、産生/発現後、当技術分野で公知の方法を用いて精製される。このような精製は、非特異的タンパク質、酸、脂質、炭水化物などを実質的に含まない本開示のタンパク質を提供する。ある例において、本タンパク質は、製剤中の約90%(例えば95%、98%、又は99%)超のタンパク質が本開示のタンパク質である調製物中にあるであろう。
【0168】
本開示の単離されたタンパク質を得るために、ペプチド精製の標準的な方法が使用され、これは、特に限定されないが、種々の高圧(又は高性能)液体クロマトグラフィー(HPLC)及び非HPLCポリペプチドの単離プロトコール、例えばサイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、混合モードクロマトグラフィー、相分離法、電気泳動分離、沈殿法、塩溶/塩析法、免疫クロマトグラフィー、及び/又は他の方法を含む。
【0169】
ある例において、親和性精製は、標識を含む融合タンパク質を単離するのに有用である。親和性クロマトグラフィーを用いてタンパク質を単離する方法は当技術分野において公知であり、例えば、Scopes(Protein purification: principles and practice, Third Edition, Springer Verlag, 1994 中)に記載されている。例えば、標識に結合する抗体又は化合物(ポリヒスチジンタグの場合、これは例えば、ニッケルNTAでもよい)は、固体支持体上に固定化される。次にタンパク質を含む試料は、結合が起きるのに充分な時間及び条件下で、固定化抗体又は化合物に接触させる。未結合又は非特異的に結合したタンパク質を除去するための洗浄に続いて、タンパク質が溶出される。
【0170】
抗体のFc領域を含むタンパク質の場合、親和性精製のために、プロテインA、又はプロテインG、又はこれらの修飾型を使用することができる。プロテインAは、ヒトγ1、γ2、又はγ4重鎖Fc領域を含む精製されたタンパク質を単離するのに有用である。全てのマウスFcアイソタイプ及びヒトγ3について、プロテインGが推奨される。
【0171】
核酸に基づくVEGF−Bシグナル伝達阻害剤
本開示のある例において、本開示の任意の例に従う本明細書に記載の治療及び/又は予防方法は、VEGF−Bの発現を低下させることを含む。例えばこのような方法は、核酸の転写及び/又は翻訳を低下させる化合物を投与することを含む。ある例において、本化合物は、核酸、例えばアンチセンスポリヌクレオチド、リボザイム、PNA、干渉RNA、siRNA、又はマイクロRNAである。
【0172】
アンチセンス核酸
用語「アンチセンス核酸」は、本開示の任意の例において本明細書に記載のポリペプチドをコードする特異的mRNA分子の少なくとも一部に相補的であり、mRNA翻訳などの転写後イベントに干渉することができる、DNA又はRNA又はその誘導体(例えば、LNA又はPNA)、又はこれらの組み合わせを意味すると理解すべきである。アンチセンス法の使用は、当技術分野で公知である(例えば、Hartmann and Endres (編者), Manual of Antisense Methodology, Kluwer (1999) を参照)。
【0173】
本開示のアンチセンス核酸は、生理学的条件下で標的核酸にハイブリダイズするであろう。アンチセンス核酸は、構造遺伝子若しくはコード領域に対応する配列、又は遺伝子発現若しくはスプライシングを制御する配列を含む。例えばアンチセンス核酸は、VEGF−B、又は5’−非翻訳領域(UTR)若しくは3’−UTR、又はこれらの組み合わせの、標的化コード領域に対応することができる。これはイントロン配列に部分的に相補的であってもよく、このイントロン配列は転写中又は転写後にスプライス除去されて、例えば標的遺伝子のエクソン配列のみにする。アンチセンス配列の長さは、VEGF−Bをコードする核酸の、少なくとも19個の連続したヌクレオチド、例えば少なくとも50ヌクレオチド、例えば少なくとも100、200、500、又は1000ヌクレオチドであるべきである。全遺伝子転写体に相補的な完全長配列を使用してもよい。その長さは100〜2000ヌクレオチドであることができる。標的となる転写体に対するアンチセンス配列の同一性の程度は、例えば少なくとも90%、例えば95〜100パーセントであるべきである。
【0174】
VEGF−Bに対する典型的なアンチセンス核酸は、例えば国際公開第2003/105754号に記載されている。
【0175】
触媒性核酸 (Catalytic Nucleic Acid)
用語「触媒性核酸」は、明確な基質を特異的に認識し、この基質の化学修飾を触媒する、DNA分子又はDNA含有分子(「デオキシリボザイム」又は「DNAザイム」としても知られている)、又はRNA若しくはRNA含有分子(「リボザイム」又は「RNAザイム」としても知られている)を指す。触媒性核酸中の核酸塩基は、塩基A、C、G、T(及び、RNA用のU)であることができる。
【0176】
典型的には、触媒性核酸は、標的核酸の特異的認識のためのアンチセンス配列と、核酸切断酵素活性(「触媒性ドメイン」とも呼ばれる)とを含有する。本開示において有用なタイプのリボザイムは、ハンマーヘッド型リボザイム及びヘアピン方リボザイムである。
【0177】
RNA干渉
RNA干渉(RNAi)は、特定のタンパク質の産生を特異的に阻害するのに有用である。理論に拘束されるつもりはないが、この技術は、目的の遺伝子のmRNA又はその一部と基本的に同一の配列を含有するdsRNA分子(この場合は、VEGF−BをコードするmRNA)の存在に依存する。便利なことにdsRNAは、組換えベクター宿主細胞中で単一のプロモーターから産生することができ、ここで、センス及びアンチセンス配列は無関係な配列によりフランキングされ、これは、センス及びアンチセンス配列がハイブリダイズしてdsRNA分子を形成し、前記無関係な配列がループ構造を形成する、ことを可能にする。本開示の適切なdsRNA分子の設計と産生は、特に国際公開第99/32619号、国際公開第99/53050号、国際公開第99/49029号、及び国際公開第01/34815号を考慮すると、当業者の能力の範囲内である。
【0178】
ハイブリダイズするセンス及びアンチセンス配列の長さはそれぞれ、少なくとも19の連続したヌクレオチド、例えば少なくとも30又は50ヌクレオチド、例えば少なくとも100、200、500、又は1000ヌクレオチドであるべきである。全体の遺伝子転写体に対応する完全長配列を使用することができる。その長さは100〜2000ヌクレオチドであることができる。標的転写体に対するセンス及びアンチセンス配列の同一性の程度は、少なくとも85%、例えば少なくとも90%、例えば95%〜100%であるべきである。
【0179】
典型的な小干渉RNA (small interfering RNA)(「siRNA」)分子は、標的mRNAの約19〜21個の連続したヌクレオチドと同一であるヌクレオチド配列を含む。例えばsiRNA配列は、ジヌクレオチドAAで始まり、約30〜70%(例えば30〜60%、例えば40〜60%、例えば約45%〜55%)のGC含量を含み、それが導入される哺乳動物のゲノム中の標的以外の任意のヌクレオチド配列に対して高い同一性パーセント(例えば、標準的BLAST検索により測定される)を持たない。VEGF−Bの発現を低下させる典型的なsiRNAは、Santa Cruz Biotechnology 又は Novus Biologicals から市販されている。
【0180】
VEGF−Bの発現を低下させる短鎖ヘアピンRNA(shRNA)も当技術分野で公知であり、Santa Cruz Biotechnology から市販されている。
【0181】
スクリーニングアッセイ
VEGF−Bシグナル伝達を阻害する化合物は、例えば、以下に記載されるように当該分野で公知の技術を用いて同定することができる。同様に、本明細書に記載される方法での使用に適したVEGF−Bシグナル伝達阻害剤の量は、例えば、以下に説明されるように当該分野で公知の技術を用いて決定又は推定することができる。
【0182】
中和アッセイ
VEGF−Bに結合しシグナル伝達を阻害する化合物について、中和アッセイを使用することができる。
【0183】
ある例において、中和アッセイは、検出可能に標識された可溶性VEGF−R1の存在下又は非存在下で、VEGF−Bに化合物を接触させるか、VEGF−R1を発現する細胞又は可溶性VEGF−R1の存在下又は非存在下で、検出可能に標識されたVEGF−Bに化合物を接触させることを含む。次に、VEGF−R1に結合したVEGF−Bのレベルが評価される。化合物の非存在下に比較して、化合物の存在下で結合したVEGF−Bレベルの低下は、化合物がVEGF−R1へのVEGF−Bの結合を阻害し、結果としてVEGF−Bシグナル伝達を阻害することを示す。
【0184】
別の中和アッセイが、国際公開第2006/012688号に記載され、固体支持体上に固定化された第2のIg様ドメインを含むVEGF−R1の断片に、化合物でプレインキュベートした半飽和濃度の組換えVEGF−Bを接触させることを含む。洗浄して未結合のタンパク質を除去後、固定化されたタンパク質は抗VEGF−B抗体と接触され、結合した抗体(固定化されたVEGF−Bを示す)の量が測定される。化合物の非存在下でのレベルと比較して、結合した抗体のレベルを低下させる化合物は、VEGF−Bシグナル伝達の阻害剤であると考えられる。
【0185】
別の例において、VEGF−Bシグナル伝達を阻害する化合物は、増殖のためにVEGF−Bシグナル伝達に依存する細胞を使用して、例えば、国際公開第2006/012688号に記載されるように、ヒトエリスロポエチン受容体の細胞内ドメイン及びVEGF−R1の細胞外ドメインを取り込むキメラ受容体を発現するように改変されたBaF3細胞を使用して、同定される。細胞は、VEGF−Bの存在下でかつ化合物の存在下又は非存在下で培養される。次に、細胞増殖は、標準的な方法、例えばコロニー形成アッセイ、チミジン取り込み、又は細胞増殖の他の適切なマーカーの取り込み(例えば、MTS色素還元アッセイ)を使用して評価される。VEGF−Bの存在下で増殖のレベルを低下させる化合物は、VEGF−Bシグナル伝達の阻害剤であると考えられる。
【0186】
化合物はまた、標準的な方法を用いて、VEGF−Bに結合する能力について評価することもできる。タンパク質への結合を評価するための方法は、例えば Scopes (Protein purification: principles and practice, Third Edition, Springer Verlag, 1994 中)に記載されているように当該分野で公知である。このような方法は、一般に化合物を標識し、これを固定化VEGF−Bに接触させることを含む。洗浄して未特異結合化合物を除去後、標識の量、その結果として、結合した化合物が検出される。もちろん、化合物を固定化することができ、VEGF−Bは標識することができる。パニング型アッセイを使用することもできる。あるいは又はさらに、表面プラズモン共鳴アッセイを使用することができる。
【0187】
発現アッセイ
VEGF−Bの発現を低下させるか又は防止する化合物は、細胞に化合物を接触させ、VEGF−Bの発現のレベルを決定することにより同定される。核酸レベルで遺伝子発現を測定するための適切な方法は当技術分野で公知であり、例えば、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)又はマイクロアレイアッセイが挙げられる。タンパク質レベルでの発現を測定するための適切な方法も当技術分野で公知であり、例えば、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、蛍光結合免疫吸着アッセイ(FLISA)、免疫蛍光、又はウエスタンブロットが挙げられる。
【0188】
インビトロアッセイ
創傷治癒を評価するために、多数のインビトロアッセイが記載されており、内皮細胞又は線維芽細胞の培養物を掻き取って、無細胞領域を生成し、この無細胞領域の閉鎖速度が化合物の存在下又は非存在下で評価される、掻き取り又は引っかきアッセイが含まれる。
他のアッセイは、鶏卵絨毛尿膜(chick chorioallantoic membrane:CAM)モデルがある。
【0189】
インビボアッセイ
創傷治癒を評価するための多数のインビボアッセイがある。例えば本発明者らは、糖尿病動物が傷害され(例えば、全層創傷が生成される)、創傷閉鎖の速度及び/又は量が、試験化合物の存在下又は非存在下で経時的に評価されるモデルを使用した。
【0190】
慢性創傷の他のモデルには、例えば、ウサギの耳「潰瘍」モデル、皮膚フラップモデル、褥瘡モデル(例えば、キャストを使用してグレイハウンドの足に圧力を印加する)、又は皮下アドリアマイシン投与を含む。
【0191】
急性創傷のモデルは、例えば、切開モデル、切除モデル、及び熱傷モデルを含む。
創傷は、他の欠陥、例えば代謝欠陥(例えば、本明細書に記載されているように、又はストレプトゾトシンの投与により)に患う動物で産生することができる。
【0192】
創傷の様々なモデルは、例えば Demling et al., WOUNDS. 13 (1 Suppl A):5-14, 2001 及び「慢性皮膚潰瘍と熱傷のFDAガイドライン(the FDA Guidelines for Chronic Cutaneous Ulcer and Burn Wounds)」に記載されている。
【0193】
医薬組成物及び治療方法
VEGF−Bシグナル伝達を阻害する化合物(活性成分)は、予防的又は治療的処置のための、非経口、局所、経口、又は局所投与、エアロゾル投与、又は経皮投与のために有用である。ある例において本化合物は、非経口的に、例えば皮下又は静脈内に投与される。
【0194】
投与すべき化合物の調製は、選択される投与経路及び製剤(例えば、溶液、エマルジョン、カプセル)に応じて変化するであろう。投与される化合物を含む適切な医薬組成物は、医薬的に許容し得る担体中で調製することができる。溶液又はエマルジョンの場合、適切な担体には、例えば水性、又はアルコール性/水性溶液、エマルジョン又は懸濁液が挙げられ、例えば生理食塩水及び緩衝媒体を含む。非経口ビヒクルには、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロース、及び塩化ナトリウム、乳酸リンゲル液、又は固定油を含むことができる。適切な種々の水性担体が、当業者に公知であり、水、緩衝水、緩衝食塩水、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール)、デキストロース溶液、及びグリシンが挙げられる。静脈内ビヒクルは、種々の添加剤、防腐剤、又は液体、栄養物質、又は電解質補給剤を含めることができる(一般には、Remington's Pharmaceutical Science, 16th Edition, Mack, Ed. 1980 参照)。組成物は、適切な生理的条件にするために必要とされる医薬的に許容し得る補助物質、例えば、pH調整及び緩衝剤、毒性調整剤、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、及び乳酸ナトリウムなどを任意選択的に含むことができる。化合物は、当技術分野で公知の凍結乾燥及び再構成技術に従って、貯蔵のために凍結乾燥し、使用前に適切な担体中で復元することができる。
【0195】
ある例において本開示は、本開示の化合物を含む局所製剤を提供する。ある例において化合物は、局所製剤に適した担体を用いて製剤化される。適切な担体は、必ずしも皮膚の外層ではなく1つ以上の皮膚層への適用に適しており、他の状況で使用するのに適している、化合物又はその混合物を含む。本開示の局所用組成物に有用な担体及び賦形剤は、一般に、活性化合物の関連する生物活性を大きくは阻害せず、例えば前記担体又は賦形剤は、VEGF−Bシグナル伝達に関して活性化合物の阻害活性を大きくは阻害しないであろう。例えば前記担体又は賦形剤は、適切なpHで化合物を維持するための緩衝作用を提供し、こうしてその生物活性を発揮するものであり、例えば前記担体又は賦形剤はリン酸緩衝生理食塩水である。あるいは又はさらに、前記担体又は賦形剤は、阻害剤の取り込みを増強し、及び/又は阻害剤の経皮送達を増強する化合物を含む。例えば、担体又は賦形剤は、例えば、ジプロピレングリコール及び/又はオレイルアルコールのような皮膚浸透増強剤を含む。あるいは又はさらに、前記担体又は賦形剤は、細胞取り込みを容易にするためのリポソームを含む。
【0196】
あるいは又はさらに、前記担体又は賦形剤は、化合物の活性を増強及び/又は化合物の阻害を減少させる化合物、例えば、プロテアーゼ阻害剤及び/又はDNase阻害剤及び/又はRNase阻害剤を含み、こうして阻害剤の安定性を増強する。
【0197】
選択した媒体中の活性成分の最適濃度は、当業者に公知の手順に従って経験的に決定することができ、所望の最終的な製剤処方に依存するであろう。
【0198】
本開示化合物の投与のための用量範囲は、所望の効果をもたらすのに十分に大きいものである。例えば組成物は、治療的又は予防的に有効な量の化合物を含む。
【0199】
本明細書において用語「有効量」は、被験体におけるVEGF−Bシグナル伝達を阻害/低下/防止するのに十分な化合物の量を意味すると理解すべきである。当業者は、このような量が、例えば化合物及び/又は特定の被験体、及び/又は治療される創傷の種類及び/又は重症度に応じて変動することを承知しているであろう。従ってこの用語は、化合物の具体的な量、例えば、重量又は数を限定するものと解釈すべきではない。
【0200】
本明細書において用語「治療有効量」は、創傷治癒を増強又は誘導するのに十分な化合物の量を意味すると理解すべきである。
【0201】
本明細書において用語「予防有効量」は、創傷の進行を予防又は阻害又は遅延させるのに十分な化合物の量を意味すると理解すべきである。
【0202】
投与量は、高粘度症候群、肺水腫、うっ血性心不全などの有害な副作用を引き起こすほど大きいものであってはならない。一般に投与量は、患者の年齢、状態、性別、及び疾患の程度に応じて変動し、当業者が決定することができる。投与量は、任意の合併症事象において、個々の医師が調整することができる。
【0203】
投与量は、1日に1回以上の投与で、1日又は数日間、約0.1mg/kg〜約300mg/kg、例えば約0.2mg/kg〜約200mg/kg、例えば、約0.5mg/kg〜約20mg/kgで変動することができる。
【0204】
いくつかの例において化合物は、その後の量(維持用量)よりも多い用量の初期(又は負荷)用量で投与される。例えば化合物は、約1mg/kg〜約30mg/kgの初期用量で投与される。次に化合物は、約0.0001mg/kg〜約1mg/kgの維持用量で投与される。維持用量は、7〜35日毎に、例えば14又は21又は28日毎に投与してもよい。
【0205】
いくつかの例において、用量増加計画が使用され、ここで、化合物はまず、以後の用量で使用されるよりも低い用量で投与される、この投与計画は、被験体の最初に有害事象を患っている場合に有用である。
【0206】
治療に適切に応答しない被験体の場合には、週に複数回の用量を投与することができる。あるいは又はさらに、増加する用量を投与してもよい。
【0207】
被験体は、2回以上の服用又は投与セット、例えば少なくとも約2回の化合物の服用、例えば、約2〜60回の服用、さらに詳しくは約2〜40回の服用、最も詳しくは約2〜20回の服用により、化合物を用いて再治療してもよい。
【0208】
別の例において、任意の再治療は定義された間隔で行ってもよい。例えば、以後の服用は、例えば、約24〜28週、又は48〜56週、又はそれ以上の、様々な間隔で行うことができる。例えばそのような服用は、約24〜26週間、又は約38〜42週、又は約50〜54週間の間隔で行われる。
【0209】
本開示の方法はまた、本開示に係る少なくとも1つの化合物と、創傷及び/又は糖尿病の予防又は治療のための他の治療的に有効な薬剤の投与と一緒の同時投与を含んでもよい。
【0210】
ある例において、本開示の化合物は、糖尿病の予防又は治療のために現在使用されているか又は開発中である、少なくとも1つの追加の既知の化合物と組み合わせて使用される。そのような既知の化合物の例としては、特に限定されないが、一般的な抗糖尿病薬、例えばスルホニル尿素(例えばグリカジド、グリピジド)、メトホルミン、グリタゾン(例えばロシグリタゾン、ピオグリタゾン)、食事グルコース放出剤(例えばレパグリニド、ナテグリニド)、アカルボース及びインスリン(天然の、合成の、及び改変型のインスリン、例えばヒト、ウシ又はブタ起源のインスリン;例えば、イソフェン又は亜鉛に懸濁されたインスリン、及びその誘導体、例えばインスリングルリジン、インスリンリスプロ、インスリンリスプロプロタミン、インスリングラルギン、インスリンデテミル、又はインスリンアスパルト)を含む。
【0211】
ある例において本開示の化合物は、創傷を治療するために有用であることが知られている化合物と共に投与される。例えば化合物は、抗感染薬(例えば、抗生物質又は抗真菌剤)、VEGF−A、IGF−1、IGF−2、PDGF、TGF−β、EGF、又は幹細胞(例えば、間葉系幹細胞又は前駆細胞又は内皮幹細胞)と組み合わせて投与される。
【0212】
ある例において本開示の化合物は、例えば、創傷のための別の治療、手当て用品及び/又は移植物及び/又は負圧を用いて投与される。
【0213】
本開示に係る化合物と同時投与することができる薬剤のさらなる例は、コルチコステロイド及び免疫抑制薬である。
【0214】
以上から明らかなように、本開示は、第1の化合物と第2の化合物の有効量を、必要とする被験体に投与することを含む、被験体の同時治療的処置の方法であって、前記薬剤が本開示の化合物(すなわち、VEGF−Bシグナル伝達の阻害剤)であり、第2の薬剤が、創傷又は糖尿病の予防又は治療のためのものである上記方法を提供する。
【0215】
本明細書において用語「同時治療的処置 (concomitant therapeutic treatment)」中の用語「同時」は、第2の薬剤の存在下で第1の薬剤を投与することを含む。同時治療的処置方法は、第1、第2、第3、又はさらなる薬剤が同時投与される方法を含む。同時治療的処置の方法はまた、第1薬剤又は追加の薬剤が、第2薬剤又は追加の薬剤の非存在下で投与される方法を含み、ここで、第2薬剤又は追加の薬剤は、例えばあらかじめ投与されていてもよい。同時治療的処置の方法は、異なる行為者により段階的に実行されてもよい。例えば、1人の行為者が被験体に第1薬剤を投与し、第2の行為者が被験体に第2薬剤を投与することができ、第1の薬剤(及び/又は追加薬剤)が、第2の薬剤(及び/又は追加薬剤)の存在下での投与後である限り、投与工程は、同時に、又はほぼ同時に、又は離れた時間に実行することができる。行為者と被験体とは、同じ存在(例えばヒト)でもよい。
【0216】
ある例において本開示はまた、本方法は、被験体の創傷を治療又は予防するための方法であって、被験体に、本開示の少なくとも1つの化合物を含む第1の医薬組成物と、1つ以上の追加の化合物を含む第2の医薬組成物とを、投与することを含む方法を提供する。
【0217】
ある例において、本開示の方法は、創傷(例えば、糖尿病性潰瘍)を患い、別の治療(例えば、糖尿病用)を受けている被験体に、VEGF−Bシグナル伝達の阻害剤を投与することを含む。
【0218】
キット及び他の組成物
本開示の別の例は、上記したように創傷の治療に有用な化合物を含むキットを提供する。
【0219】
ある例において、本キットは、(a)任意選択的に医薬的に許容し得る担体又は希釈剤中に、本明細書に記載のVEGF−Bシグナル伝達を阻害する化合物を含む容器と、(b)被験体の創傷を治療するための説明を有する添付文書とを含む。
【0220】
本開示のこの例によれば、添付文書は、容器上にあるか又は容器に付随している。適切な容器は、例えばボトル、バイアル、シリンジ等を含む。容器は、ガラス又はプラスチックなどの様々な材料から形成することができる。容器は、創傷を治療するのに有効な組成物を保持するか又は含有し、無菌アクセスポートを有してもよい(例えば容器は、静脈注射用の溶液バッグ、又は皮下注射針により貫通可能なストッパーを有するバイアルでもよい)。組成物中の少なくとも1つの活性物質は、VEGF−Bシグナル伝達を阻害する化合物である。ラベル又は添付文書は、組成物が、治療対象である被験体、例えば創傷を有するか又はこれにかかりやすい素因を有する被験体を、化合物の投与量及び投与間隔及び提供される他の任意の薬剤に関する具体的なガイダンスを用いて、治療するのに使用されることを示す。キットはまた、注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンガー溶液、及び/又はデキストロース溶液などの、医薬的に許容し得る希釈緩衝液を含む追加の容器をさらに含んでもよい。キットはさらに、他の緩衝剤、希釈剤、フィルター、針、及びシリンジなどの、商業的見地及び使用者の見地から望ましい他の材料を含んでもよい。
【0221】
キットはさらに、第2の薬剤を含む容器を含み、ここで、VEGF−Bシグナル伝達を阻害する化合物は第1の薬剤であり、この物品はさらに、有効量で又は創傷の別の治療法で、第2薬剤を用いて被験体を治療するための添付文書に使用説明を含む。第2の薬剤は、上記のいずれであってもよい。
【0222】
本開示はまた、本明細書に開示された化合物を、その中に含浸するか固定化(例えば、その中に可逆的に固定化)している、創傷の手当て用品を提供する。典型的な手当て用品には包帯が含まれ、例えば、布包帯又はプラスチック包帯又はガーゼ包帯、又はガーゼ手当て用品又は外傷手当て用品を含む。あるいは又はさらに、手当て用品は、足場、例えば生分解性足場を含む。例えば足場は、コラーゲン及び/又はポリ(乳)酸及び/又はポリ(グリコール)酸及び/又はフィブリンを含む。このような足場は、多孔性又は非多孔性、又はこれらの混合物であってもよい。このような足場の利点は、これらが創傷の形状に適合し、創傷部位へ治療化合物を送達することである。さらに、創傷が治癒すると、足場は分解され、それにより生物学的廃棄物が減少することである。
【0223】
本開示は、以下の非限定的な例を含む。
【実施例】
【0224】
実施例1
中和抗VEGF−B抗体は糖尿病マウスの創傷を治療する
VEGF−Bの抗体介在阻害は糖尿病性db/db//BKSマウスの血中グルコース値に適度に影響を与える
自家飼育した雄のC57BKS/Leprdb(db/db/BKS)マウスは、Jackson Laboratoryから購入した。創傷前及び実験中、1つのケージに1匹のマウスを収容した。動物施設は12時間の明/暗サイクルを有し、食餌と水は自由に与えた。強化材料は、ストレスを軽減するために、ラットのトンネルとネスティング材料を含んでいた。db/db/BKS雄マウス(8週齢)を400μgのVEGF−B抗体(2H10)又はアイソタイプ一致対照抗体(BM4)を用いて、創傷形成前4週間、週に2回(腹腔内)前処理した。創傷形成後、マウスを屠殺するまで、同じ治療計画を継続した。実験前及び実験中に、体重及び血中グルコースを追跡した。血中グルコース値は、血中グルコース計(Countour stick, Bayer)を用いて尾から分析し、体重を実験室規模で測定した。
【0225】
図1に示すようにこの実験では、抗VEGF−B処置は、重症の糖尿病db/db BKSマウス又は非糖尿病のdb/
+ BKSマウスにおける血中グルコース値及び体重増加を変化させなかった。
【0226】
2H10を用いるVEGF−Bの薬理学的阻害は、重症の糖尿病マウスモデルにおける創傷閉鎖を増強する
15mM超の非空腹時血中グルコース値に達した後、2H10又はBM4(対照)処置されたdb/dbの又はdb/
+ は、創傷形成前にさらに2週間飼育された。これは、創傷形成時に重症の糖尿病動物を得るために行なった。創傷形成は、イソフルラン吸入による全身麻酔下で行なった。首の後ろの毛を、電気バリカンと脱毛クリーム(Veet)の塗布により除去した。皮膚を70%エタノールで消毒し、次に6mmの生検パンチを使用して、皮膚と皮筋層を貫通する2つの対をなす円形全層創傷形成を行なった。創傷形成後の最初の2日間、マウスに1日2回、0.05〜0.1mg/kgのブプレノルフィンを皮下麻酔注射した。創傷の大きさと治癒の進行は、創傷形成後直接デジタル写真で追跡し、次に実験中は1日おきに追跡した。創傷面積は、Image J ソフトウェアを使用して各創傷について2回測定した。カメラと創傷との距離は、創傷の大きさを、すべての画像に含まれる基準物の大きさと比較して、補正した。1つの傷(動物当たり2個)は、単一の実験データ点として処理した。
【0227】
図2に示すように、糖尿病マウスモデル(db/db BKS)を抗VRGF−B抗体で処理すると、創傷閉鎖が顕著に増強される。
【0228】
抗VEGF−B処置は、糖尿病マウスモデルにおいて創傷閉鎖及び治癒の速度を増加させた。抗VEGF−B処置の最も顕著な効果は、創傷閉鎖の初期段階(4日目と6日目)に検出された。これはさらに
図3で示され、ここで抗VEGF−B処置は、血中グルコース値に差が無いにもかかわらず、最初の4日間の創傷治癒を促進している。
【0229】
本明細書に提示されるデータは、糖尿病自体の高血糖症は、傷害された創傷された治癒過程の主な理由ではないことを示唆している。
【0230】
2H10を用いる抗VEGF−B処置は、創傷治癒において上方制御される遺伝子の発現を低下させる
雄のdb/db及びdb/+マウス(上記のように処置し、16日目に屠殺した)を発現分析のために使用した。創傷を切開し、ドライアイス上で急速凍結した。製造業者の指示に従ってRNeasyミニキット(Qiagen)を用いて創傷から総RNAを抽出し、精製した。0.5〜1μgの総RNAから iScript cDNA synthesis kit (Bio-Rad) を用いて、第1鎖cDNAを合成した。Rotor-Gene Q (Qiagen) リアルタイムPCRサーマルサイクラー中の KAPA SYBR FAST qPCR Kit Master Mix (2x) Universal (KAPA Biosystems) を使用して、製造業者の指示に従ってリアルタイム定量PCRを行なった。発現レベルは、L19の発現に対して標準化した。
【0231】
図4に示すように、db/dbマウスにおける抗VEGF−B処置は、糖尿病性創傷形成中に上方制御されるいくつかの遺伝子の発現を低下させる。
【0232】
2H10を用いる抗VEGF−B処置は血管の形態に影響を与えるが、細胞増殖を促進しない
免疫学的分析のために、雄のdb/dbマウス(上記のように処置し、16日目に屠殺した)を使用した。創傷を切開し、4℃で24時間パラホルムアルデヒド中で固定し、70%エタノール中で水和し、パラフィンに包埋し、断面の厚さ3μmの切片にした。抗原回収溶液をpH6(DAKO)を用い、切片を+98℃に10分間加熱して、抗原回収を行なった。適切な1次抗体(BrDU、CD45、CIV及びCD31、1〜5μg/mlに希釈)を用いて、切片を+4℃で12時間インキュベートした。一致する蛍光標識した2次抗体(Invitrogen, Alexa fluor、1:1000に希釈)を適用し、切片を室温(RT)で1時間インキュベートし、次に、これらを顕微鏡観察のために調製した。AxioVision 顕微鏡 (Carl Zeiss) を20×倍率で使用して、切片を写真撮影した。次に、AxioVision Run wizardプログラム(pixels2)を用いて、切片を評価し定量した。BrdU染色強度は、DAPIの対比染色強度に対して定量し、他のすべての染色は全画素領域について定量した。
【0233】
図5に示すように、抗VEGF−B処置は、糖尿病性創傷治癒中の血管の成熟を促進する。
【0234】
VEGF−Bシグナル伝達経路は糖尿病性創傷で上方制御される
対照抗体(BM4)で処置したdb/db又はdb/+を基本的に上記したように創傷形成させ、創傷形成後16日目に屠殺した。発現と組織学的分析のために、6ミリメートル生検パンチを用いて創傷を取った。組織を液体窒素中で凍結させ、さらなる処理まで−80℃で保存した。製造業者の説明書に従って TRIzol 試薬(Invitrogen)及び QIAGEN RNeasy (Qiagen) を用いてRNAを単離した。総RNA(500ng)を製造業者の説明(iScript cDNA synthesis kit, Bio-Rad)に従って逆転写した。Platinum SYBR green SuperMix (Invitrogen) と反応あたり25ngのcDNAを用いて、qPCRを行なった。発現レベルはTUBB5(チューブリン、ベータ5クラスI)の発現に対して標準化した。
【0235】
図6に示すように、創傷における Vegfb 及びVEGF−B結合受容体である Vegfr1 の発現は、糖尿病及び肥満で増加する。これらのデータは、VEGF−Bシグナル伝達経路が、糖尿病性創傷を治療するための適切な標的であることを示している。
【0236】
2H10を用いた抗VEGF−B処理はdb/dbマウスにおける皮膚の脂質蓄積を低下させる
オイルレッドO (Oil red O)(ORO)分析のために、雄のdb/db及びdb/+マウス(上記のように処理された)を使用した。創傷を切開し、ドライアイス上で急速凍結し、クライオスタット (cryostat)の金型上で Tissue-Tek(登録商標)(Sakura)に直接包埋した。凍結切片(12μm)を、オイルレッドO作業溶液(400mlの99%イソプロパノールに溶解した2.5gオイルレッドO(Sigma-Aldrich)を、水でさらに6:10希釈し、22μmフィルター(Corning)で濾過した)中に12分間浸漬し、さらに水道水で20分間すすいだ後、これらをマウントした。染色した切片を40×倍率で明視野顕微鏡(Axio Vision 顕微鏡 Carl Zeiss)で観察し、ウス1匹あたり少なくとも4フレームをキャプチャーした。画像は、創傷の中央領域からキャプチャーした。脂肪滴の定量のために、各フレーム内の赤色の画素の量を、Axio Vision Run ウィザードプログラムを用いて総ORO染色(ピクセル、a.u)について 定量した。
【0237】
図7に示すように、2H10を用いる抗VEGF−B処置は、雄のdb/dbマウスにおける創傷形成後の皮膚における脂質蓄積を低下させる。
開示の要約
項1 創傷を患う被験体の、創傷を治療するか、創傷治癒を増強するか、又は創傷の進行を防止若しくは遅延させるための方法であって、VEGF−Bシグナル伝達を阻害する化合物を被験体に投与することを含む、方法。
項2 創傷が急性又は通常の創傷である、項1に記載の方法。
項3 創傷が慢性である、項1に記載の方法。
項4 創傷が皮膚創傷である、項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
項5 被験体が肥満及び/又は糖尿病を患っている、項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
項6 創傷を患う糖尿病被験体の、創傷治癒を増強若しくは誘導するための、又は糖尿病被験体の創傷の進行を低下させるか若しくは防止するための方法であって、VEGF−Bシグナル伝達を阻害する化合物を前記被験体に投与することを含む、方法。
項7 前記化合物が、以下の効果:
(a)前記化合物が投与されていない被験体(例えば、糖尿病と創傷とを患っている被験体)における創傷閉鎖の速度と比較して、創傷閉鎖の速度を上昇させること、及び/又は
(b)前記化合物が投与されていない被験体(例えば、糖尿病と創傷とを患っている被験体)の割合と比較して、ある特定の時点(例えば治療開始後)における創傷閉鎖の量を増加させること、及び/又は
(c)前記化合物が投与されていない被験体(例えば、糖尿病と創傷とを患っている被験体)と比較して、被験体の血管成熟を向上させること、
の1つ以上を有するために有効な量で投与される、項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
項8 VEGF−Bシグナル伝達を阻害する前記化合物がVEGF−Bに結合する、項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
項9 前記化合物が抗体模倣物である、項8に記載の方法。
項10 前記化合物が、VEGF−Bに結合するか又は特異的に結合し、VEGF−Bシグナル伝達を中和する、抗体の可変領域を含むタンパク質である、求項8に記載の方法。
項11 前記化合物がFvを含むタンパク質である、項10に記載の方法。
項12 前記タンパク質が、以下の(i)〜(x):
(i)1本鎖Fv断片(scFv);
(ii)二量体scFv(di−scFv);又は
(iv)二重特異性抗体;
(v)三重特異性抗体;
(vi)四重特異性抗体;
(vii)Fab:
(viii)F(ab')
2;
(ix)Fv;又は
(x)抗体の定常領域であるFc、又は重鎖定常ドメイン(C
H)2及び/又はC
H3に連結した(i)〜(ix)の1つ
からなる群から選択される、項11に記載の方法。
項13 前記タンパク質が抗体である、項11に記載の方法。
項14 前記化合物が、(配列番号3で示される配列を含む重鎖可変領域(V
H)と、配列番号4で示される配列を含む軽鎖可変領域(V
L)とを含む)抗体2H10のVEGF−Bへの結合を競合的に阻害する、項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
項15 前記化合物が、抗体2H10のヒト化可変領域を含むタンパク質である、項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
項16 前記タンパク質が、抗体2H10のV
H及び/又はV
Lの相補性決定領域(CDR)を含む可変領域を含む、項15に記載の方法。
項17 前記タンパク質が、
(i)V
Hであって、
(a)配列番号3のアミノ酸25〜34で示される配列を含むCDR1;
(b)配列番号3のアミノ酸49〜65で示される配列を含むCDR2;及び
(c)配列番号3のアミノ酸98〜108で示される配列を含むCDR3、を含むV
H、及び/又は
(ii)V
Lであって、
(a)配列番号4のアミノ酸23〜33で示される配列を含むCDR1;
(b)配列番号4のアミノ酸49〜55で示される配列を含むCDR2;及び
(c)配列番号4のアミノ酸88〜96で示される配列を含むCDR3、を含むV
L
を含む、項16に記載の方法。
項18 前記タンパク質が、配列番号5で示される配列を含むV
Hと、配列番号6で示される配列を含むV
Lとを含む抗体である、項17に記載の方法。
項19 前記化合物がVEGF−Bの発現を阻害するか又は防止する、項1〜7のいずれか1項に記載の方法。