特許第6553644号(P6553644)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6553644
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】エピダウノルビシンの精製
(51)【国際特許分類】
   C07H 15/252 20060101AFI20190722BHJP
   A61K 31/704 20060101ALN20190722BHJP
   A61P 35/00 20060101ALN20190722BHJP
【FI】
   C07H15/252
   !A61K31/704
   !A61P35/00
【請求項の数】19
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-564967(P2016-564967)
(86)(22)【出願日】2015年4月30日
(65)【公表番号】特表2017-514821(P2017-514821A)
(43)【公表日】2017年6月8日
(86)【国際出願番号】EP2015059441
(87)【国際公開番号】WO2015166016
(87)【国際公開日】20151105
【審査請求日】2018年3月15日
(31)【優先権主張番号】102014208194.7
(32)【優先日】2014年4月30日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】509021650
【氏名又は名称】メダック・ゲゼルシャフト・フューア・クリニッシェ・スペツィアルプレパラーテ・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】medac, Gesellschaft fuer klinische Spezialpraeparate mbH
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】ビンデルナゲル ホルガー
(72)【発明者】
【氏名】クンナリ テロ
【審査官】 神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−525828(JP,A)
【文献】 特表2012−501663(JP,A)
【文献】 特表2013−503826(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
a)エピダウノルビシン、エピフォイドマイシンおよび少なくとも1つのハロゲン含有溶媒を含む混合物を提供する工程と、
b)混合物のpH値を5.0から7.5の範囲に調整する工程と、
c)工程b)の混合物を60〜65℃に加熱する工程と、
d)エピダウノルビシンを精製する工程と
を含み、
工程a)およびb)の混合物中の1〜5個の炭素原子を有するアルコールの含有量が前記混合物の全体積に基づいて多くても5vol%である、
エピダウノルビシンを精製する方法。
【請求項2】
工程a)の混合物中の水の含有量が前記混合物の全体積に基づいて多くても1vol%である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1〜5個の炭素原子を有するアルコールが、メタノール、ブタノール、イソプロパノール、エタノール、プロパノール、ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2,2−ジメチルプロパノールおよびイソブタノールからなる群から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程a)におけるエピダウノルビシンの濃度が、6〜13g/Lである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程a)におけるエピダウノルビシンの濃度が、8〜13g/Lである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ハロゲン含有溶媒が、塩素系溶媒から選択される、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ハロゲン含有溶媒が、クロロホルム(CHCl)である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程b)において前記pH値が、1種以上の酸によって調整される、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程b)において前記pH値が、1種以上の有機酸によって調整される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程b)において前記pH値が、酢酸によって調整される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記酸の量が、前記混合物の全体積に基づいて0.1〜0.3vol%である、請求項8〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記酸の量が、前記混合物の全体積に基づいて0.15〜0.25vol%である、請求項8〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程c)において前記混合物が、多くても48時間、撹拌される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
工程c)において前記混合物が、10〜30時間、撹拌される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
工程c)において前記混合物が、15〜25時間、撹拌される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
工程d)におけるエピダウノルビシンの精製が、水抽出によって実施される、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
工程d)におけるエピダウノルビシンの水抽出が、8〜10のpH値で実施される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
工程d)におけるエピダウノルビシンの水抽出が、8.5〜9.5のpH値で実施される、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
工程d)の後、別の工程e)が追加され、前記工程e)はエピダウノルビシンのクロマトグラフィー精製である、請求項1〜18のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピダウノルビシンを精製する方法、特に、エピダウノルビシンと、エピダウノルビシンの生物工学的生産における副産物として形成されるエピフォイドマイシン(epi−feudomycin)との分離に関する。
【背景技術】
【0002】
エピダウノルビシンはダウノルビシンの4’−エピマーであり、それはグリコシドの群であり、アントラサイクリン系の抗生物質を表す。それは主に、乳がん、非ホジキンリンパ腫、肉腫、胃がんおよび他の固形種のがんの化学療法において細胞増殖抑制剤として使用されるエピルビシンに対する前駆体として使用される。エピダウノルビシンは、合成的、半合成的およびバイオテクノロジーにより産生され得る。バイオテクノロジーによる産生において、種々のストレプトマイセス・ピウセチウス(Streptomyces peucetius)株が使用され、エプダウノルビシンは以下の一般式(I)によって表され得る:
【化1】
【0003】
エピダウノルビシンの微生物合成において、所望の産生物に加えて、とりわけエピフォイドマイシンが、その構造的類似性に起因して副産物として形成され、それはエピダウノルビシンから分離することが非常に難しいという問題が生じている。副産物の存在は、後の処理工程においてエピダウノルビシンから形成されるエピルビシンの収率および純度に悪影響を及ぼす。通常、発酵ブロスからのエピダウノルビシンの分離および精製は、液−液抽出、クロマトグラフィーおよび結晶化によって実施される。
【0004】
しかしながら、エピフォイドマイシンの存在に起因して、これは複雑なプロセスを必要とし、エピダウノルビシンの比較的多くの損失を生じる。
【0005】
特許文献1は、エピダウノルビシンのバイオテクノロジーによる産生に適した異なる微生物菌株を記載している。発酵ブロスからのエピダウノルビシンの分離は、アルカリ性pH値にてクロロホルムを用いた抽出によって実施される。次いで得られた原料混合物を移動相としてクロロホルムを用いたさらなるクロマトグラフィーにより精製する。最後の工程において、エピダウノルビシンはブタノールの添加および酸性pH値の調整によって結晶化される。
【0006】
特許文献2は、アルコール/クロロホルムの混合物からのエピダウノルビシン塩酸塩の結晶化を記載しており、それによってアルコールは60℃の温度で加えられる。
【0007】
特許文献3は、エピダウノルビシンの合成産生物を開示している。
【0008】
特許文献4は、吸着樹脂を用いた発酵ブロスからの13−DHED、エピダウノルビシンおよびエピフォイドマイシンの抽出を記載している。
【0009】
特許文献5は、13−DHED、エピダウノルビシンおよびフォイドマイシンを含有する発酵ブロスからのアグリコンの抽出を記載している。グリコシドはわずかにアルカリ性のpH値にてクロロホルムによって水相から抽出される。pH値は飽和NaHCO溶液によって安定に維持される。
【0010】
発酵ブロスからエピダウノルビシンを精製するための一般的方法は高い技術および費用に関連している。特にエピダウノルビシンおよびエピフォイドマイシンの分離は2つの化合物の構造的類似性に起因して特に困難であるので、エピダウノルビシンの許容可能な純度はかなりの収率の損失を伴って達成され得るだけである。エピフォイドマイシンの困難な分離に起因して、この不純物はまた、エピダウノルビシンに由来する産生物にも見出され得、このことはエピルビシンへの変換にとって特に壊滅的である。一方、高い純度および高い収率がエピダウノルビシンからエピルビシンへの後の変換のために特に重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1990405A1号
【特許文献2】欧州特許第2301943B1号
【特許文献3】欧州特許第0030295B1号
【特許文献4】国際公開第2010/028667号
【特許文献5】欧州特許第2042608B1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、分離および精製工程に起因してエピダウノルビシンの収率を著しく低下させずに所望の産生物であるエピダウノルビシンから副産物であるエピフォイドマイシンの効果的な分離を可能にするプロセスについての必要性が存在する。
【0013】
したがって、本発明の目的は、微生物産生後のエピダウノルビシンおよびエピフォイドマイシンの効果的な分離を可能にする方法であって、精製したエピダウノルビシンの収率が従来技術から公知の一般的な方法で得られたものよりも高い、方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的は独立請求項の主題によって達成される。従属請求項は好ましい実施形態を記載している。
【0015】
本発明の基本的な目的は、以下の工程:
a)エピダウノルビシン、エピフォイドマイシンおよび少なくとも1つのハロゲン含有溶媒を含む混合物を提供する工程と、
b)混合物のpH値を5.0から7.5の範囲に調整する工程と、
c)工程b)の混合物を25℃超に加熱する工程と、
d)エピダウノルビシンを精製する工程と
を含み、
工程a)およびb)の混合物中の1〜5個の炭素原子を有するアルコールの含有量が前記混合物の全体積に基づいて5vol%以下である、エピダウノルビシンを精製するための方法である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
理論によって束縛されずに、本発明による方法の条件下で、エピフォイドマイシンは選択的に分解され、結果として生じる分解産物は所望のエピダウノルビシンから分離することが容易であることが想定される。本発明による方法はまた、反応混合物の変換、それによってエピフォイドマイシンの減少を導くことが想定される。質量分光分析により、糖が分離され、残りの環は芳香族化されることが示唆される。さらに、このことは、エピダウノルビシンの分解産物が検出され得ないのでエピフォイドマイシンの特異的崩壊であると想定される。この点において、本発明による方法における崩壊は、従来のエピダウノルビシンにも当てはまるアントラサイクリンの酸加水分解とは異なる。
【0017】
本発明による方法はいくつかの工程で精製される原材料としてのエピダウノルビシンで開始する。エピダウノルビシンの起源および産生方法は決して限定されない。例えば、他の用途にとって不適切となる、一部のエピフォイドマイシンを含有する市販のエピダウノルビシンが使用されてもよい。
【0018】
本発明による精製方法の好ましい実施形態において、工程a)の混合物のエピダウノルビシンは、バイオテクノロジーによる方法、例えば適切な微生物によって得られる。好ましくは、エピダウノルビシンはエピフォイドマイシンと一緒に発酵ブロス中に存在する。適切な微生物として、例えば、アクチノバクテリアの群の細菌、特にストレプトマイセス種(Streptomyces sp.)、例えば、S.ペウセティウス(S.peucetius)、S.コエルロルイダス(S.coeruloruidus)、S.グリセウス(S.griseus)、ストレプトマイセス種C5(Streptomyces sp.C5)、S.ペウセティウスvar.セシウス(S.peicetius var.caesius)およびS.ビフルカス(S.bifurcus)の群の菌株が挙げられる。改変株または変異が同様に使用されてもよい。
【0019】
好ましくは、本発明による方法の工程a)の混合物のエピダウノルビシンおよびエピフォイドマイシンは、発酵ブロスからの抽出によって得られる。この抽出は、いくつかの工程、例えば、適切なポリマー樹脂による抽出、その後の液体抽出を含んでもよい。混合物a)は、好ましくは、発酵ブロスの液体抽出の濃縮から、および任意にハロゲン含有溶媒を添加することによって得られる。
【0020】
特に好ましい実施形態において、工程a)における開始混合物はアルカリ性pH値を有し、特に好ましいpH値は8〜10.5の範囲である。
【0021】
混合物a)において、エピダウノルビシンは少なくとも1つのハロゲン含有溶媒の存在下で溶解形態で存在する。好ましい実施形態において、ハロゲン含有溶媒は、塩素系溶媒、特にクロロホルム(CHCl)からなる群から選択される。
【0022】
本発明による方法の工程a)およびb)の混合物中の1〜5個の炭素原子を有するアルコールの含有量は混合物の全体積に基づいて多くても5vol%である。
【0023】
驚くべきことに、1〜5個の炭素原子を有する、より多い含有量のアルコールにより、減少した反応速度が導かれ、このことは次にエピダウノルビシンの純度に悪影響を与えたことが見出された。
【0024】
したがって、本発明の一実施形態は、工程a)およびb)の混合物中に1〜5個の炭素原子を有するアルコールの含有量が、常に混合物の全体積に基づいて、多くても4vol%であることが好ましく、特に好ましくは0.1〜4vol%、特には1.0〜3vol%である。本発明におけるアルコール含有量の範囲は、エピダウノルビシンが完全に溶解したままであり、反応が十分にタイムフレーム内で起こることを保証する。
【0025】
1〜5個の炭素原子を有するアルコールが、メタノール、ブタノール、プロパノール、エタノール、イソプロパノール、ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2,2−ジメチルプロパノールおよびイソブタノールからなる群から選択される本発明の一実施形態もまた、好ましい。特に好ましい実施形態において、1〜5個の炭素原子を有するアルコールはメタノールである。
【0026】
さらに、工程a)の混合物中の水の含有量が、混合物の全体積に基づいて多くても1vol%である実施形態が好ましい。
【0027】
さらに驚くべきことに、本発明による方法によって得られたエピダウノルビシンは、工程a)の混合物中のエピダウノルビシンの濃度が13g/L以下である場合、特に高い純度を有することが見出された。
【0028】
したがって、工程a)の混合物中のエピダウノルビシンの濃度が13g/L以下、好ましくは6〜13g/L、特に8〜13g/Lである実施形態が好ましい。工程a)の混合物中のエピダウノルビシンの濃度がこの範囲である場合、望ましくない副反応および反応の崩壊が防がれ得ることが見出された。例えば、エピダウノルビシンの沈殿の危険性は減少し得る。エピダウノルビシンの沈殿は、沈殿したエピダウノルビシンが精製プロセスから取り除かれるので、望ましくない収率の損失を導く。さらに、エピダウノルビシンと一緒に、分離されるべき不純物である、エピフォイドマイシンが同様に沈殿することが観察されたので、沈殿は適切な精製法ではない。
【0029】
エピダウノルビシンの精製のための本発明の方法の工程b)によれば、混合物のpH値は5.0〜7.5に調整される。驚くべきことに、pH値が本発明の範囲を超える場合、エピダウノルビシンが分解することが見出された。pH値が非常に酸性である場合、すなわち5未満の値に調整される場合、エピダウノルビシンの望ましくない部分的プロトン化が起こり、それにより、フォイドマイシンと一緒にエピダウノルビシンの沈殿が導かれるので、それは後のプロセスフローから除去される。
【0030】
好ましくは、混合物のpH値は、ハロゲン含有溶媒、特にクロロホルム中で適切なpKa値および良好な溶解度の両方を示す酸によって5.0〜7.5の範囲に調整される。本発明による方法の好ましい実施形態において、工程b)における混合物のpH値は、1種以上の酸、好ましくは有機酸、特に好ましくは酢酸によって調整される。
【0031】
本発明の方法の別の好ましい実施形態において、酸の量は混合物の全体積に基づいて0.05〜0.3vol%、好ましくは0.1〜0.25vol%である。酸の添加後、反応速度の明確な増加を観察することができる。他方で、酸の含有量が混合物の全体積に基づいて0.3vol%超である場合、溶解度の問題が生じる可能性があり、それにより溶液からエピフォイドマイシンと一緒にエピダウノルビシンの沈殿が導かれるので、それらは後のプロセスフローから除去される。
【0032】
特定の好ましい実施形態において、混合物中のpH値を調整するために使用される酸は、その添加の前に、1〜5個の炭素原子を有するアルコール、好ましくはメタノールに溶解される。これによりエピダウノルビシンの溶解度に関する問題を防ぎ、エピダウノルビシンの沈殿を回避することができることが、驚くべきことに見出された。混合物中の1〜5個の炭素原子を有するアルコール、特にメタノールの総含有量は、混合物の全体積に基づいて5vol%の本発明の値を超えるべきではない。
【0033】
エピダウノルビシンを精製するための本発明の方法の工程c)によれば、pH値を本発明の範囲に調整した後、工程b)の混合物を25℃超に加熱する。驚くべきことに、混合物が25℃超の温度で加熱される場合、沈殿は加速され得ることが見出された。好ましくは、混合物はハロゲン含有溶媒の沸点に相当する温度で加熱される。50℃超の温度にて反応速度の顕著な増加を観察できたので、50℃超の温度が特に適していることが示された。
【0034】
したがって、工程c)の混合物が55〜75℃、好ましくは60〜65℃の範囲の温度で加熱される実施形態が好ましい。
【0035】
好ましい実施形態において、本発明の方法の混合物は、25℃超の温度、好ましくは35℃超の温度、特に60〜65℃の範囲にて特定の時間、撹拌される。時間は、有効および適時に本発明の方法の実施を可能にし、同時にエピダウノルビシンの十分な純度を生じる長さであるべきである。
【0036】
したがって、工程c)の混合物が、多くても48時間、好ましくは10〜30時間、特に好ましくは15〜25時間の期間、撹拌される本発明の方法の実施形態が好ましい。48時間を超える反応時間は手順の観点から不都合であることが見出され、一方、10時間未満の反応時間後、混合物のエピフォイドマイシン含有量の減少が十分であることが見出された。反応時間が48時間を超えない限り、エピフォイドマイシンの全含有量がエピダウノルビシンの全重量に基づいて1wt%未満になるまで、工程c)における混合物を撹拌する実施形態が特に好ましい。混合物中のエピフォイドマイシンの量は、例えば、RP−18 HPLCなどの標準的なクロマトグラフィープロセスによって決定することができる。
【0037】
本発明による方法の工程d)に記載されるように、エピダウノルビシンは精製される。この精製は、好ましくは、エピフォイドマイシンの全含有量が、分析的クロマトグラフィーによって測定して、エピダウノルビシンの重量に基づいて1wt%の閾値未満に低下したときに実施される。工程d)におけるエピダウノルビシンの精製は水抽出によって実施されることがさらに好ましい。
【0038】
工程d)におけるエピダウノルビシンの精製の間、工程d)におけるエピダウノルビシンの水抽出がアルカリ性媒体中で実施される場合に有益であることが見出された。したがって、好ましい実施形態において、本発明の方法の工程d)におけるエピダウノルビシンの水抽出は、8〜10、好ましくは8.5〜9.5のpH値で実施される。pH値は例えばアンモニアによって調整されてもよく、有機相から水相へのエピダウノルビシンの部分的遷移を防ぐために、アンモニアが約0.5〜1.5wt%のNaCl、例えば約1wt%のNaClを含有する場合、特に有益であることが見出された。所望のpH値を調整するのに必要とされるアンモニアの量は変化してもよく、加えられる酸の量に依存する。例えば、必要とされるアンモニアの量は酸の量(グラム)の2.5倍であり得る。
【0039】
エピダウノルビシンの高い純度は、それが収率を増加させるための唯一の手段であるため、エピダウノルビシンのエピルビシンへの後の変換に必須である。したがって、本発明による方法の好ましい実施形態において、工程d)に続いて別の工程e)を行い、工程e)はエピダウノルビシンのクロマトグラフィー精製である。クロマトグラフィー精製は、好ましくは、固定相としてシリカゲル(SiO)を用いて実施され、一方、メタノールとクロロホルムの混合物は、好ましくは、移動相として使用される。このことは、溶媒を変化させる必要がなく、さらに本発明による方法の高い効率に寄与するという点で有益である。
【0040】
驚くべきことに、本発明の方法によって精製したエピダウノルビシンによるクロマトグラフィーカラムの充填率は、分離性能の悪化を生じずに従来のプロセスで精製したエピダウノルビシンと比較して増加し得ることが見出された。このことは本発明による方法のさらに別の利点を表す。なぜなら、同じ分離性能と組み合わせたカラムのより多くの充填率は、より効果的でより経済的なプロセスサイクルを可能にするからである。驚くべきことに、本発明による方法によって精製したエピダウノルビシンでのクロマトグラフィーカラムの充填率は、カラムマトリクスの乾燥重量に基づいて最大7wt%まで増加し得るのに対して、従来のプロセスにおけるカラムの最大充填率は約4wt%であることが見出された。
【0041】
本発明による方法の別の好ましい実施形態において、工程e)のエピダウノルビシンは、さらなる精製プロセス、例えば結晶化に供される。結晶化は、例えば、塩酸塩の形態で実施されてもよい。これに関して、本発明の方法によって精製したエピダウノルビシンの質は、従来技術の従来の分離プロセスを一般に実施する2回目の結晶化工程を必要としない、ただ1回の結晶化工程の後に非常に高くなることが見出された。
【0042】
本発明による方法の特に好ましい実施形態において、方法は以下の工程:
a)エピダウノルビシン、エピフォイドマイシンおよび少なくとも1つのハロゲン含有溶媒、好ましくはクロロホルムを含む混合物を提供する工程であって、フォイドマイシンの含有量はエピダウノルビシンおよびエピフォイドマイシンの全重量に基づいて1wt%超である、工程と、
b)混合物のpH値を5.0から7.5の範囲に調整する工程と、
c)工程b)の混合物を55〜75℃、好ましくは60〜65℃の範囲の温度で加熱する工程と、
d)好ましくは水抽出によってエピダウノルビシンを精製する工程と、
e)工程d)のエピダウノルビシンをクロマトグラフィー精製する工程と、
を含み、
工程a)およびb)の混合物中の1〜5個の炭素原子を有するアルコールの含有量が混合物の全体積に基づいて0.1〜4vol%、好ましくは1.0〜3.0vol%であり、工程a)の混合物中の水の量は混合物の全体積に基づいて多くても1vol%である。
【0043】
別の好ましい実施形態において、本発明による方法は以下の工程:
a)エピダウノルビシン、エピフォイドマイシンおよび少なくとも1つのハロゲン含有溶媒、好ましくはクロロホルムを含む混合物を提供する工程であって、フォイドマイシンの含有量はエピダウノルビシンおよびエピフォイドマイシンの全重量に基づいて1wt%超であり、エピダウノルビシンの濃度は6〜13g/Lの範囲である、工程と、
b)混合物のpH値を5.0から7.5の範囲に調整する工程と、
c)工程bの混合物を55〜75℃、好ましくは60〜65℃の範囲の温度で加熱する工程と、
d)水抽出によってエピダウノルビシンを精製する工程であって、抽出混合物のpH値は8〜10、好ましくは8.5〜9.5の範囲である、工程と、
e)工程d)のエピダウノルビシンをクロマトグラフィー精製する工程と、
を含み、
工程a)およびb)の混合物中の1〜5個の炭素原子を有するアルコールの含有量が混合物の全体積に基づいて0.1〜4vol%、好ましくは1.0〜3.0vol%であり、工程a)の混合物中の水の量は混合物の全体積に基づいて多くても1vol%である。
【0044】
好ましい実施形態において、個々のプロセス工程a)〜e)は交換可能ではない。方法は所与の順序で実施することが特に好ましい。
【0045】
本発明を以下の実施例でより詳細に説明するが、それらは本発明の概念を決して制限するものではない。
【実施例】
【0046】
実施例1:
クロロホルム(CHCl)、エピダウノルビシンおよびエピフォイドマイシンを含む混合物中のエピダウノルビシンの濃度を蒸留によって8〜12g/Lの含有量に設定した。対応する出発混合物は、例えば発酵ブロスからクロロホルム相を分離することによって得ることができる。194gの酢酸(0.15vol%)および2.4kgのメタノール(2vol%)を濃縮溶液(128L)に加え(ここでvol%で与えられる量は溶液の全体積を示す)、それによりpH値を5.0〜7.5の範囲に調整した。得られた溶液を60〜65℃に加熱し、その温度範囲にて17時間撹拌した。次いで混合物を25℃に冷却し、エピダウノルビシンの重量に基づいて、不純物であるエピフォイドマイシンの含有量を分析的HPLC(RP18−HPLC)および測定したピークの積分によって決定した。結果を表1に示す。
【0047】
実施例2は比較例として与え、混合物を60〜65℃の温度で加熱せず、酢酸を添加していない、エピダウノルビシンの従来の精製の結果を示す。エピフォイドマイシンについて与えられているパーセンテージはエピダウノルビシンの量に基づく。
【0048】
【表1】
【0049】
表1から推測され得るように、エピダウノルビシンのより高い純度は、本発明による方法を使用することによって得ることができ、これはより低い含有量のエピフォイドマイシンに反映されている。
【0050】
別の工程において、本発明の方法に従って精製されたエピダウノルビシンを、8〜9のpH値にて水抽出することによってさらに処理し、続いてクロマトグラフィー精製する。異なる充填率のカラムを試験した。クロマトグラフィー精製の間に得られた画分を合わせ、エピダウノルビシンの純度およびエピフォイドマイシンの含有量を決定した。結果を表2に示す。カラムの充填率は、カラムマトリクスの乾燥重量に対するエピダウノルビシンの重量比×100%を示す。
【0051】
【表2】
【0052】
表2から推測され得るように、高い充填率のカラムでさえ、分離性能は変化しないままであるだけでなく、増加さえし得る。
【0053】
表3は、pH値を調整するために使用される酢酸の量を変化させた実験の結果を示す。表3から推測され得るように、酸の量が増加するにつれてエピフォイドマイシンの含有量は減少する。クロロホルムを溶媒として使用した。混合物の各々は1vol%のメタノールを含有し、60℃にて25時間撹拌し、その後、エピフォイドマイシンの量を決定した。出発混合物中のエピフォイドマイシンの量は8.7%であった。実施例6は、酢酸を混合物に加えなかった比較例である。
【0054】
【表3】
【0055】
表3に示されるように、クロロホルム、エピダウノルビシン、エピフォイドマイシンおよび1vol%のメタノールを含む混合物への0.1vol%の酢酸の添加でさえ、60℃の温度で25時間の反応時間にて不純物であるエピフォイドマイシンの顕著な減少が導かれる。したがって、得られるエピダウノルビシンの純度は複雑な精製法に起因する収率の損失を生じずに増加し得る。
【0056】
上記の実施例から推測され得るように、本発明による方法は、従来の精製法と比較してエピダウノルビシンの著しく高い純度を導くだけでなく、少なくとも同じ分離性能と組み合わせて、より高いカラム充填率に起因する精製プロセスの効率性および経済性の増加、ならびに第2の結晶化工程の不必要性などの必要な処理工程の低減も可能にする。