【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題は請求項1に記載の物体検出用の近接センサにより解決される。該センサは少なくとも1つのコイルと物体確認信号を出力するための制御及び評価ユニットとを備え、前記制御及び評価ユニットを通じて前記コイルに少なくとも1つの発信電流パルスを印加可能であり、前記制御及び評価ユニットが、前記発信電流パルスにより前記コイル上に生成可能な少なくとも1つの誘導電圧パルスを、少なくとも一部において、前記発信電流パルスの印加時点又はそれより後の時点から前記電圧パルスの完全な減衰時点までサンプリングしてサンプリング値を生成するように構成されており、これにより前記電圧パルスがデジタル化され、また前記制御及び評価ユニットが金属製の物体の距離測定のために少なくとも2つの電圧パルスのサンプリング値を評価するように構成されている。
【0009】
また、前記課題は請求項16に記載の物体検出方法により解決される。該方法では、少なくとも1つのコイルと物体確認信号を出力するための制御及び評価ユニットとを備える誘導型近接センサが使用され、前記制御及び評価ユニットを通じて前記コイルに少なくとも1つの発信電流パルスが印加され、該発信電流パルスにより前記コイル上に生成される少なくとも1つの誘導電圧パルスが、少なくとも一部において、前記発信電流パルスの印加時点又はそれより後の時点から該電圧パルスの完全な減衰時点までサンプリングされてサンプリング値が生成され、これにより前記電圧パルスがデジタル化され、また前記制御及び評価ユニットが金属製の物体の距離測定のために少なくとも2つの電圧パルスのサンプリング値を評価するように構成されている。
【0010】
本発明では、電圧パルス乃至は該電圧パルスの一部がデジタル化される。その大きな利点は、デジタル化により電圧パルスからより多くの情報を得ることができるため、情報の中身を最大限にデジタル的に利用できるということである。これにより誘導型近接センサのスイッチング距離が大きくなる。
【0011】
物体をより遠くで早めに検出できるという明らかな利点の他に、スイッチング距離の増大には別の利点がある。センサのスイッチング距離が大きくなれば、物体を検出可能な距離もそれだけ大きくできる。これにより機械的な破壊の確率が低くなる。
【0012】
スイッチング距離の増大の別の利点は取り付け公差が大きくなることである。従って、技術者がセンサの取り付け時にさほど高い精度で作業を行う必要がないため、時間と費用が節約されるとともに、本センサを備えるシステムの利用可能性が高まる。
【0013】
更に別の利点は小型化が可能になることである。センサ径が一定の場合はより大きなスイッチング距離を実現することができ、スイッチング距離が一定の場合はセンサ径を小さくできる。これにより構造的な利点が得られる。
【0014】
本発明の発展形態では、前記電圧パルスが前記発信電流パルスの印加時点から該電圧パルスの完全な減衰時点までデジタル化される。これにより、電圧パルス全体がサンプリングされ、サンプリング値が各サンプリング点において生成される。
【0015】
パルス応答全体の解析により、異なる物体をその都度互いに識別できる。従って、物体を分類し、例えば異なる物体確認信号を出力することができる。もっとも、予め規定された特定の物体の場合にのみ物体確認信号を出力し、他の物体の場合には物体確認信号を出力しないようにしてもよい。
【0016】
一実施形態では、誘導型近接センサが発信コイルとしての第1のコイルと受信コイルとしての第2のコイルを備え、前記発信電流パルスが発信コイルを流れ、前記電圧パルスにより生じるパルス電圧が受信コイル上で測定される。
【0017】
この有利な実施形態の特徴は、単一のコイルではなく発信コイルと受信コイルを用いる点にある。この場合、発信コイルにのみ発信電流パルスが印加され、受信コイル上で電圧パルスが測定される。この発展形態によれば巻線比を用いてSN比を最適化できる。
【0018】
本発明の発展形態ではスイッチング手段が設けられ、第1のコイルと第2のコイルを並列に接続可能又は第1のコイルと第2のコイルを直列に接続可能である。
【0019】
例えば、発信の際に両コイルを並列に接続し、受信の際に両コイルを直列に接続することができる。これによりセンサの感度を更に高めることができる。
【0020】
また、発信の際に1本のコイルだけを使用し、受信の際に両方のコイルを直列に接続してもよい。これによってもセンサの感度を高めることができる。
【0021】
スイッチング手段は制御及び評価ユニットにより制御される。その場合、スイッチング手段は例えばトランジスタ回路により又は制御及び評価ユニット自身により形成される。
【0022】
本発明の好ましい実施形態では、制御及び評価ユニットが金属製の物体の距離測定のために少なくとも2つの電圧パルスのサンプリング値を評価するように構成されており、サンプリング点が電圧パルスの開始点に対して互いにずれていることで、電圧パルスの時間分解能がそのずれと重ね合わせにより高められる。
【0023】
重要な点は、連続して記録された複数の電圧パルスのサンプリング値が互いに組み合わされるということにある。複数の電圧パルスのサンプリング点乃至サンプリング時点が互いに僅かにずらされることで、時間分解能がサンプリング速度により予め決まるナイキスト速度を超えるレベルまで高められる。
【0024】
これにより、アナログ積算ではフィルタ作用により失われてしまうような非常に高い周波数の情報でも電圧パルスから得ることができる。
【0025】
更に、利用可能なサンプリング点が多数あるため、より強力なフィルタ処理が可能となる。これによりSN比が改善され、振幅分解能が高まる。
【0026】
本発明の発展形態では前記電圧パルスをサンプリングするためのA/D変換器が設けられる。A/D変換器は例えばマイクロコントローラに直接接続される。A/D変換器は制御及び評価ユニットの一部である。制御及び評価ユニットは例えばマイクロコントローラ、デジタル信号プロセッサ、デジタル信号コントローラ等を備えるものとすることができる。
【0027】
一発展形態では、前記電圧パルスをサンプリングするための時間デジタル変換器(Time-to-Digital Converver)が設けられる。いわゆる時間デジタル変換器は非常に短い時間間隔を測定してデジタル値に変換する電子モジュールである。例えば、1ナノ秒から時間間隔を測定することができる。
【0028】
ある発展形態では、制御及び評価ユニットが2つの電圧パルスの間の少なくとも1つの電圧値をサンプリングしてサンプリング値を生成するように構成され、更に該制御及び評価ユニットがこのサンプリング値から低周波ノイズとオフセットの補償を行うように構成される。
【0029】
本発明の発展形態では、前記コイルと前記A/D変換器の間にインピーダンス変換とレベル適合化を行うための増幅器が設けられる。
【0030】
前記増幅器は例えば受信コイルとA/D変換器の間に装入される。増幅器の使用には少なくとも3つの利点がある。
【0031】
第1に、この増幅器を用いてインピーダンス変換を行うことで受信コイルを高い抵抗で測定することができる。このようにすれば受信コイルに電流が全く又はわずかしか流れないため、物体への反作用が生じない。更に、バッファとなる増幅器を用いれば、サンプリング回路がA/D変換器の入力において受信電圧を妨害しなくなる。
【0032】
第2に、この増幅器が低域通過性を有していれば、該増幅器をA/D変換器用のアンチエイリアスフィルタのように利用することもできる。
【0033】
第3の利点は、この増幅器がバッファリングと前置増幅を行うように構成されていることにより、SN比が改善され、その結果、到達可能な最大スイッチング距離も大きくなるということにある。
【0034】
本発明の好ましい実施形態では、少なくとも前記コイルと前記制御及び評価ユニットがメタルケーシング内に配置され、前記コイルを有する少なくとも1つの前面が金属製の前面となっており、該前面が金属製の外被と結合されている。
【0035】
このようにすれば、センサの機械的な頑強性、つまり耐衝撃性、耐圧性又は摩耗若しくは擦り傷に対する耐性が高まる。更に、金属製のケーシングにより化学的な耐性も改善される。例えばV4A等のステンレス鋼を使用すれば塩水及びほとんどの洗剤に対する耐性が得られる。前記結合によりセンサヘッドは固く密閉された状態となる。
【0036】
前記金属製の前面は、例えば強固な接着、溶接、ネジ止め、押し込み又は類似の結合技術で結合することができる。
【0037】
本発明の発展形態では、制御及び評価ユニットが、物体の特性を計算するために、少なくとも1つの電圧パルスから得た少なくとも1つのサンプリング値を考慮するように構成される。
【0038】
これにより、例えば検出された物体がどの金属から成るかを確認することができる。例えば、その物体が鋼鉄、ステンレス鋼、アルミニウム又は例えば非鉄金属から成るかを区別することができる。
【0039】
本発明の発展形態では、制御及び評価ユニットが、距離信号を生成するために、前記電圧パルス乃至電流パルスの開始時点又はそれより後の時点以降の一定の時間窓においてデジタル積分を行うように構成される。
【0040】
前記距離信号はそれ自身が物体の距離に関する情報を含んでいるため、この距離データを後続の制御部で処理することができる。距離信号は物体確認信号そのものであってもよいが、物体確認信号とは別に追加の距離信号を出力するようにしてもよい。
【0041】
パルスのデジタル的なサンプリングとデジタル的な後処理では、同一の電圧パルスに対していくつかの部分的に重なり合う積分窓を用いることもできる。
【0042】
本発明の好ましい実施形態では、制御及び評価ユニットが、メモリに保存された少なくとも1つの基準値と少なくとも1つのサンプリング値の差の符号を求めて評価することで前記物体が強磁性であるか否かを確認するように構成されている。
【0043】
例えば材料の識別を行うことができる。アルミニウム及び鋼鉄から成る物体の場合に「係数1」の信号を発生させることができるデジタル積分の他、強磁性の物体であるか否か判定することもできる。
【0044】
そのために、電圧パルスのサンプリング値と保存された基準値との差が求められる。その結果の符号によって対象物が強磁性か否か判定することができる。
【0045】
本発明の発展形態では、制御及び評価ユニットが電圧パルスのパルス波高、パルス極大、パルス極大の時点、パルス幅及び/又はゼロ交差を特定して評価するように構成されており、これにより該制御及び評価ユニットが前記距離信号を発生させる。
【0046】
これによりスイッチング距離をより一層大きくすることができる。なぜなら、前記のような電圧パルスの諸特性から、複数の評価方法を実行するための複数の特徴量が得られるからである。
【0047】
ある発展形態では、制御及び評価ユニットが、時間的に連続して記録された2つの電圧パルスの差を求め、その差から前記距離信号を発生させるように構成されている。
【0048】
発信電流パルスを発生させるために、誘導型センサは例えば電圧源に接続される。もっとも、誘導型センサをバッテリで駆動することもできる。
【0049】
電圧源と例えば精密抵抗とを用いて発信電流パルスを発生させると有利になる可能性がある。なぜなら、この組み合わせによれば非常に正確で温度安定性のある電流が発生し得るからである。そのためには、電圧源をスイッチ及び直列抵抗を介して制御及び評価ユニットを通じて前記コイルと接続する。その後、電圧源をコイルから切り離す。これにより非常に大きな時間当たりの電流変化(di/dt)が生じ、それにより強い磁場変化が生じ、更にこれによりセンサの検出領域にある伝導性の物体内に渦電流が誘導される。そしてこの渦電流が受信コイル内に電圧を誘導し、該電圧が評価ユニットによりデジタル化される。
【0050】
本発明の発展形態では、前記電圧パルスの波高を制限して制御及び評価電子機器を破壊から守るために、抵抗が前記コイルと並列に接続される。
【0051】
コイルに対する並列抵抗の使用には他にも利点がある。この処置により電圧パルスの波高及び形状を変えることができる。これにより、まず制御及び評価ユニットを過電圧による破壊から守ることができ、更に電圧パルスの周波数成分に影響を及ぼすことが可能になる。メタルケーシングの場合、例えばパルスが低周波成分をより多く含んでいると有利である。なぜなら、低周波成分はセンサケーシングの金属製の前面即ちメタルフロントを貫通できるからである。この挙動は比較的抵抗の小さい並列抵抗で実現できる。
【0052】
以下、本発明について、更なる利点及び特徴をも考慮しつつ、添付の図面を参照しながら実施例に基づいて詳しく説明する。