特許第6553683号(P6553683)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6553683
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】誘導近接センサ
(51)【国際特許分類】
   G01B 7/00 20060101AFI20190722BHJP
   G01D 5/20 20060101ALI20190722BHJP
   H01H 36/00 20060101ALN20190722BHJP
【FI】
   G01B7/00 101E
   G01D5/20 K
   !H01H36/00 R
【請求項の数】17
【外国語出願】
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-146870(P2017-146870)
(22)【出願日】2017年7月28日
(65)【公開番号】特開2018-72319(P2018-72319A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2017年12月11日
(31)【優先権主張番号】10 2016 115 015.0
(32)【優先日】2016年8月12日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591005615
【氏名又は名称】ジック アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サッシャ トス
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ぺーター
(72)【発明者】
【氏名】オラフ マッフル
【審査官】 九鬼 一慶
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2016/0076912(US,A1)
【文献】 特開2001−041703(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/00−7/34
G01D 5/20−5/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体(2)を検出するための誘導型近接センサであって、少なくとも1つのコイル(3)と物体確認信号(8)を出力するための制御及び評価ユニット(7)とを備え、該制御及び評価ユニット(7)により前記コイルに少なくとも1つの発信電流パルスを印加可能なセンサにおいて、
前記制御及び評価ユニット(7)が、前記発信電流パルスにより前記コイル(3)上に生成可能な少なくとも1つの誘導電圧パルス(9)を、少なくとも一部において、前記発信電流パルスの印加時点又はそれより後の時点から前記誘導電圧パルス(9)の完全な減衰時点までサンプリングしてサンプリング値(10)を生成するように構成されており、これにより前記誘導電圧パルス(9)がデジタル化され、また前記制御及び評価ユニット(7)が金属製の物体(2)の距離測定のために少なくとも2つの誘導電圧パルス(9)のサンプリング値(10)を評価するように構成されており、サンプリング点(20)が前記誘導電圧パルス(9)の開始点に対して互いにずれていること
を特徴とする誘導型近接センサ。
【請求項2】
前記誘導電圧パルス(9)が前記発信電流パルスの印加時点から該誘導電圧パルス(9)の完全な減衰時点までデジタル化されることを特徴とする請求項1に記載の誘導型近接センサ。
【請求項3】
発信コイル(4)としての第1のコイル(3)と受信コイル(12)としての第2のコイル(11)を備え、前記発信電流パルスが前記発信コイル(4)を流れ、前記誘導電圧パルス(9)により生じるパルス電圧が前記受信コイル(12)上で測定可能であることを特徴とする請求項1又は2に記載の誘導型近接センサ。
【請求項4】
スイッチング手段が設けられ、前記第1のコイル(3)と前記第2のコイル(11)を並列に接続可能又は前記第1のコイル(3)と前記第2のコイル(11)を直列に接続可能であることを特徴とする請求項3に記載の誘導型近接センサ。
【請求項5】
前記誘導電圧パルス(9)をサンプリングするためのA/D変換器(16)が設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の誘導型近接センサ。
【請求項6】
前記誘導電圧パルス(9)をサンプリングするための時間デジタル変換器が設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の誘導型近接センサ。
【請求項7】
前記制御及び評価ユニット(7)が2つの誘導電圧パルス(9)の間の少なくとも1つの電圧値をサンプリングしてサンプリング値(10)を生成するように構成され、更に該制御及び評価ユニット(7)がこのサンプリング値(10)から低周波ノイズとオフセットの補償を行うように構成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の誘導型近接センサ。
【請求項8】
前記コイル(3)と前記A/D変換器(16)の間にインピーダンス変換とレベル適合化を行うための増幅器(17)が設けられていることを特徴とする請求項に記載の誘導型近接センサ。
【請求項9】
少なくとも前記コイル(3)と前記制御及び評価ユニット(7)がメタルケーシング(18)内に配置され、前記コイル(3)を有する少なくとも1つの前面が金属製の前面となっており、該前面が金属製の外被と結合されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の誘導型近接センサ。
【請求項10】
前記制御及び評価ユニット(7)が、物体の特性を計算するために、少なくとも1つの誘導電圧パルス(9)から得た少なくとも1つのサンプリング値(10)を考慮するように構成されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の誘導型近接センサ。
【請求項11】
前記制御及び評価ユニット(7)が、距離信号(21)を生成するために、前記誘導電圧パルス(9)乃至電流パルスの開始時点又はそれより後の時点以降の一定の時間窓においてデジタル積分を行うように構成されていることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の誘導型近接センサ。
【請求項12】
前記制御及び評価ユニット(7)が、メモリ(19)に保存された少なくとも1つの基準値と少なくとも1つのサンプリング値(10)の差の符号を求めて評価することで前記物体(2)が強磁性であるか否かを確認するように構成されていることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の誘導型近接センサ。
【請求項13】
前記制御及び評価ユニット(7)が前記誘導電圧パルス(9)のパルス波高、パルス幅及び/又はゼロ交差を評価するように構成されており、これにより該制御及び評価ユニット(7)が距離信号(21)を発生させることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の誘導型近接センサ。
【請求項14】
前記制御及び評価ユニット(7)が、時間的に連続して記録された2つの誘導電圧パルス(9)の差を求め、その差から前記距離信号(21)を発生させるように構成されていることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の誘導型近接センサ。
【請求項15】
電流パルスを発生させるために電圧源とスイッチが用いられていることを特徴とすることを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の誘導型近接センサ。
【請求項16】
前記制御及び評価電子機器(7)を破壊から守るべく前記誘導電圧パルス(9)の波高を制限するために、抵抗が前記コイル(3)に並列に接続されていることを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載の誘導型近接センサ。
【請求項17】
少なくとも1つのコイル(3)と物体確認信号を出力するための制御及び評価ユニット(7)とを備え、該制御及び評価ユニット(7)を通じて前記コイル(3)に少なくとも1つの発信電流パルスが印加される誘導型近接センサを用いて物体(2)を検出する方法において、
前記発信電流パルスにより前記コイル(3)上に生成される少なくとも1つの誘導電圧パルス(9)が、少なくとも一部において、前記発信電流パルスの印加時点又はそれより後の時点から該誘導電圧パルス(9)の完全な減衰時点までサンプリングされてサンプリング値(10)が生成され、これにより前記誘導電圧パルス(9)がデジタル化され、また前記制御及び評価ユニット(7)が金属製の物体(2)の距離測定のために少なくとも2つの誘導電圧パルス(9)のサンプリング値(10)を評価するように構成されており、サンプリング点(20)が前記誘導電圧パルス(9)の開始点に対して互いにずれていることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は請求項1のプレアンブルに記載の物体検出用の誘導型近接センサ及び請求項16のプレアンブルに記載の物体検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導型近接センサは過酷な環境下で非接触スイッチとして用いられる。その際、到達可能な最大スイッチング距離が品質上の重要な特徴となる。
【0003】
誘導型センサの品質上の重要な特徴として、鋼鉄に対して定義される定格スイッチング距離SNの他に、他の材料の場合に達せられる実際のスイッチング距離の大きさがある。これらのスイッチング距離はいわゆる低減係数(Reduktionsfaktor)により決まる。スイッチング距離乃至低減係数は大きいほど良い。理想的にはセンサはどの金属に対しても等しく大きなスイッチング距離を有する。この場合、低減係数は最大値1を有しており、ゆえに係数1センサ(Faktor 1-Sensor)又はF1センサ(F1-Sensor)とも呼ばれる。
【0004】
普通の誘導型センサは単にスイッチング距離が2重になっていることがほとんどで、F1特性を有していない。更に、プラスチック製の前面を有するメタルケーシングを有するものがほとんどである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、非常に過酷な環境下で使用可能であり、非常に大きなスイッチング距離を有し、また異なる合金から成る様々な金属製の物体に対して「係数1」の挙動を示す誘導型近接センサを提供することにある。
【0006】
本発明の別の課題は、それぞれ異なる材料から成る様々なセンサケーシングに収納可能な誘導型近接センサを提供することにある。
【0007】
本発明の更に別の課題は、用途の広い誘導型近接センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題は請求項1に記載の物体検出用の近接センサにより解決される。該センサは少なくとも1つのコイルと物体確認信号を出力するための制御及び評価ユニットとを備え、前記制御及び評価ユニットを通じて前記コイルに少なくとも1つの発信電流パルスを印加可能であり、前記制御及び評価ユニットが、前記発信電流パルスにより前記コイル上に生成可能な少なくとも1つの誘導電圧パルスを、少なくとも一部において、前記発信電流パルスの印加時点又はそれより後の時点から前記電圧パルスの完全な減衰時点までサンプリングしてサンプリング値を生成するように構成されており、これにより前記電圧パルスがデジタル化され、また前記制御及び評価ユニットが金属製の物体の距離測定のために少なくとも2つの電圧パルスのサンプリング値を評価するように構成されている。
【0009】
また、前記課題は請求項16に記載の物体検出方法により解決される。該方法では、少なくとも1つのコイルと物体確認信号を出力するための制御及び評価ユニットとを備える誘導型近接センサが使用され、前記制御及び評価ユニットを通じて前記コイルに少なくとも1つの発信電流パルスが印加され、該発信電流パルスにより前記コイル上に生成される少なくとも1つの誘導電圧パルスが、少なくとも一部において、前記発信電流パルスの印加時点又はそれより後の時点から該電圧パルスの完全な減衰時点までサンプリングされてサンプリング値が生成され、これにより前記電圧パルスがデジタル化され、また前記制御及び評価ユニットが金属製の物体の距離測定のために少なくとも2つの電圧パルスのサンプリング値を評価するように構成されている。
【0010】
本発明では、電圧パルス乃至は該電圧パルスの一部がデジタル化される。その大きな利点は、デジタル化により電圧パルスからより多くの情報を得ることができるため、情報の中身を最大限にデジタル的に利用できるということである。これにより誘導型近接センサのスイッチング距離が大きくなる。
【0011】
物体をより遠くで早めに検出できるという明らかな利点の他に、スイッチング距離の増大には別の利点がある。センサのスイッチング距離が大きくなれば、物体を検出可能な距離もそれだけ大きくできる。これにより機械的な破壊の確率が低くなる。
【0012】
スイッチング距離の増大の別の利点は取り付け公差が大きくなることである。従って、技術者がセンサの取り付け時にさほど高い精度で作業を行う必要がないため、時間と費用が節約されるとともに、本センサを備えるシステムの利用可能性が高まる。
【0013】
更に別の利点は小型化が可能になることである。センサ径が一定の場合はより大きなスイッチング距離を実現することができ、スイッチング距離が一定の場合はセンサ径を小さくできる。これにより構造的な利点が得られる。
【0014】
本発明の発展形態では、前記電圧パルスが前記発信電流パルスの印加時点から該電圧パルスの完全な減衰時点までデジタル化される。これにより、電圧パルス全体がサンプリングされ、サンプリング値が各サンプリング点において生成される。
【0015】
パルス応答全体の解析により、異なる物体をその都度互いに識別できる。従って、物体を分類し、例えば異なる物体確認信号を出力することができる。もっとも、予め規定された特定の物体の場合にのみ物体確認信号を出力し、他の物体の場合には物体確認信号を出力しないようにしてもよい。
【0016】
一実施形態では、誘導型近接センサが発信コイルとしての第1のコイルと受信コイルとしての第2のコイルを備え、前記発信電流パルスが発信コイルを流れ、前記電圧パルスにより生じるパルス電圧が受信コイル上で測定される。
【0017】
この有利な実施形態の特徴は、単一のコイルではなく発信コイルと受信コイルを用いる点にある。この場合、発信コイルにのみ発信電流パルスが印加され、受信コイル上で電圧パルスが測定される。この発展形態によれば巻線比を用いてSN比を最適化できる。
【0018】
本発明の発展形態ではスイッチング手段が設けられ、第1のコイルと第2のコイルを並列に接続可能又は第1のコイルと第2のコイルを直列に接続可能である。
【0019】
例えば、発信の際に両コイルを並列に接続し、受信の際に両コイルを直列に接続することができる。これによりセンサの感度を更に高めることができる。
【0020】
また、発信の際に1本のコイルだけを使用し、受信の際に両方のコイルを直列に接続してもよい。これによってもセンサの感度を高めることができる。
【0021】
スイッチング手段は制御及び評価ユニットにより制御される。その場合、スイッチング手段は例えばトランジスタ回路により又は制御及び評価ユニット自身により形成される。
【0022】
本発明の好ましい実施形態では、制御及び評価ユニットが金属製の物体の距離測定のために少なくとも2つの電圧パルスのサンプリング値を評価するように構成されており、サンプリング点が電圧パルスの開始点に対して互いにずれていることで、電圧パルスの時間分解能がそのずれと重ね合わせにより高められる。
【0023】
重要な点は、連続して記録された複数の電圧パルスのサンプリング値が互いに組み合わされるということにある。複数の電圧パルスのサンプリング点乃至サンプリング時点が互いに僅かにずらされることで、時間分解能がサンプリング速度により予め決まるナイキスト速度を超えるレベルまで高められる。
【0024】
これにより、アナログ積算ではフィルタ作用により失われてしまうような非常に高い周波数の情報でも電圧パルスから得ることができる。
【0025】
更に、利用可能なサンプリング点が多数あるため、より強力なフィルタ処理が可能となる。これによりSN比が改善され、振幅分解能が高まる。
【0026】
本発明の発展形態では前記電圧パルスをサンプリングするためのA/D変換器が設けられる。A/D変換器は例えばマイクロコントローラに直接接続される。A/D変換器は制御及び評価ユニットの一部である。制御及び評価ユニットは例えばマイクロコントローラ、デジタル信号プロセッサ、デジタル信号コントローラ等を備えるものとすることができる。
【0027】
一発展形態では、前記電圧パルスをサンプリングするための時間デジタル変換器(Time-to-Digital Converver)が設けられる。いわゆる時間デジタル変換器は非常に短い時間間隔を測定してデジタル値に変換する電子モジュールである。例えば、1ナノ秒から時間間隔を測定することができる。
【0028】
ある発展形態では、制御及び評価ユニットが2つの電圧パルスの間の少なくとも1つの電圧値をサンプリングしてサンプリング値を生成するように構成され、更に該制御及び評価ユニットがこのサンプリング値から低周波ノイズとオフセットの補償を行うように構成される。
【0029】
本発明の発展形態では、前記コイルと前記A/D変換器の間にインピーダンス変換とレベル適合化を行うための増幅器が設けられる。
【0030】
前記増幅器は例えば受信コイルとA/D変換器の間に装入される。増幅器の使用には少なくとも3つの利点がある。
【0031】
第1に、この増幅器を用いてインピーダンス変換を行うことで受信コイルを高い抵抗で測定することができる。このようにすれば受信コイルに電流が全く又はわずかしか流れないため、物体への反作用が生じない。更に、バッファとなる増幅器を用いれば、サンプリング回路がA/D変換器の入力において受信電圧を妨害しなくなる。
【0032】
第2に、この増幅器が低域通過性を有していれば、該増幅器をA/D変換器用のアンチエイリアスフィルタのように利用することもできる。
【0033】
第3の利点は、この増幅器がバッファリングと前置増幅を行うように構成されていることにより、SN比が改善され、その結果、到達可能な最大スイッチング距離も大きくなるということにある。
【0034】
本発明の好ましい実施形態では、少なくとも前記コイルと前記制御及び評価ユニットがメタルケーシング内に配置され、前記コイルを有する少なくとも1つの前面が金属製の前面となっており、該前面が金属製の外被と結合されている。
【0035】
このようにすれば、センサの機械的な頑強性、つまり耐衝撃性、耐圧性又は摩耗若しくは擦り傷に対する耐性が高まる。更に、金属製のケーシングにより化学的な耐性も改善される。例えばV4A等のステンレス鋼を使用すれば塩水及びほとんどの洗剤に対する耐性が得られる。前記結合によりセンサヘッドは固く密閉された状態となる。
【0036】
前記金属製の前面は、例えば強固な接着、溶接、ネジ止め、押し込み又は類似の結合技術で結合することができる。
【0037】
本発明の発展形態では、制御及び評価ユニットが、物体の特性を計算するために、少なくとも1つの電圧パルスから得た少なくとも1つのサンプリング値を考慮するように構成される。
【0038】
これにより、例えば検出された物体がどの金属から成るかを確認することができる。例えば、その物体が鋼鉄、ステンレス鋼、アルミニウム又は例えば非鉄金属から成るかを区別することができる。
【0039】
本発明の発展形態では、制御及び評価ユニットが、距離信号を生成するために、前記電圧パルス乃至電流パルスの開始時点又はそれより後の時点以降の一定の時間窓においてデジタル積分を行うように構成される。
【0040】
前記距離信号はそれ自身が物体の距離に関する情報を含んでいるため、この距離データを後続の制御部で処理することができる。距離信号は物体確認信号そのものであってもよいが、物体確認信号とは別に追加の距離信号を出力するようにしてもよい。
【0041】
パルスのデジタル的なサンプリングとデジタル的な後処理では、同一の電圧パルスに対していくつかの部分的に重なり合う積分窓を用いることもできる。
【0042】
本発明の好ましい実施形態では、制御及び評価ユニットが、メモリに保存された少なくとも1つの基準値と少なくとも1つのサンプリング値の差の符号を求めて評価することで前記物体が強磁性であるか否かを確認するように構成されている。
【0043】
例えば材料の識別を行うことができる。アルミニウム及び鋼鉄から成る物体の場合に「係数1」の信号を発生させることができるデジタル積分の他、強磁性の物体であるか否か判定することもできる。
【0044】
そのために、電圧パルスのサンプリング値と保存された基準値との差が求められる。その結果の符号によって対象物が強磁性か否か判定することができる。
【0045】
本発明の発展形態では、制御及び評価ユニットが電圧パルスのパルス波高、パルス極大、パルス極大の時点、パルス幅及び/又はゼロ交差を特定して評価するように構成されており、これにより該制御及び評価ユニットが前記距離信号を発生させる。
【0046】
これによりスイッチング距離をより一層大きくすることができる。なぜなら、前記のような電圧パルスの諸特性から、複数の評価方法を実行するための複数の特徴量が得られるからである。
【0047】
ある発展形態では、制御及び評価ユニットが、時間的に連続して記録された2つの電圧パルスの差を求め、その差から前記距離信号を発生させるように構成されている。
【0048】
発信電流パルスを発生させるために、誘導型センサは例えば電圧源に接続される。もっとも、誘導型センサをバッテリで駆動することもできる。
【0049】
電圧源と例えば精密抵抗とを用いて発信電流パルスを発生させると有利になる可能性がある。なぜなら、この組み合わせによれば非常に正確で温度安定性のある電流が発生し得るからである。そのためには、電圧源をスイッチ及び直列抵抗を介して制御及び評価ユニットを通じて前記コイルと接続する。その後、電圧源をコイルから切り離す。これにより非常に大きな時間当たりの電流変化(di/dt)が生じ、それにより強い磁場変化が生じ、更にこれによりセンサの検出領域にある伝導性の物体内に渦電流が誘導される。そしてこの渦電流が受信コイル内に電圧を誘導し、該電圧が評価ユニットによりデジタル化される。
【0050】
本発明の発展形態では、前記電圧パルスの波高を制限して制御及び評価電子機器を破壊から守るために、抵抗が前記コイルと並列に接続される。
【0051】
コイルに対する並列抵抗の使用には他にも利点がある。この処置により電圧パルスの波高及び形状を変えることができる。これにより、まず制御及び評価ユニットを過電圧による破壊から守ることができ、更に電圧パルスの周波数成分に影響を及ぼすことが可能になる。メタルケーシングの場合、例えばパルスが低周波成分をより多く含んでいると有利である。なぜなら、低周波成分はセンサケーシングの金属製の前面即ちメタルフロントを貫通できるからである。この挙動は比較的抵抗の小さい並列抵抗で実現できる。
【0052】
以下、本発明について、更なる利点及び特徴をも考慮しつつ、添付の図面を参照しながら実施例に基づいて詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】本発明に係る誘導型近接センサ。
図2】電圧パルス。
図3】連続する2つの電圧パルス。
図4】サンプリング値を組み合わせた電圧パルス。
図5】2つの電圧パルスと1つの基準値。
図6】メタルケーシングに収納された誘導型近接センサ。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下の図において、同一の部分には同一の符号が付されている。
【0055】
図1は物体検出用の誘導型センサ1を示している。このセンサは少なくとも1つのコイル3を備えている。コイル3には制御及び評価ユニット7により少なくとも1つの発信電流パルスが印加される。制御及び評価ユニット7は物体確認信号8を出力するためのものであって、発信電流パルスによりコイル3上に生成される少なくとも1つの誘導電圧パルスを、少なくとも一部において、発信電流パルスの印加時点又はそれより後の時点から電圧パルスの完全な減衰時点までサンプリングしてサンプリング値を生成するように構成されており、これにより電圧パルスがデジタル化される。
【0056】
図2に電圧パルス9を示す。図2のように、電圧パルス9は発信電流パルスの印加時点又はそれより後の時点から電圧パルス9の完全な減衰時点までデジタル化される。こうして電圧パルス9全体がサンプリングされ、各サンプリング点20乃至サンプリング時点においてサンプリング値10が得られる。
【0057】
図1のように、誘導型近接センサ1は発信コイル4としての第1のコイル3と受信コイル12としての第2のコイル11を備えており、発信電流パルスが発信コイル4を流れ、電圧パルスにより生じるパルス電圧が前記受信コイル12上で測定される。
【0058】
この場合、発信コイル4にのみ発信電流パルスが印加され、受信コイル12上で電圧パルスが測定される。
【0059】
図1のように、電圧パルスをサンプリングするためのA/D変換器16が設けられている。例として、A/D変換器16は制御及び評価ユニット7のマイクロコントローラ6に直接接続されている。制御及び評価ユニット7は、例えばマイクロコントローラ6の代わりにデジタル信号プロセッサ、デジタル信号コントローラ等を備えていてもよい。
【0060】
図1において、制御及び評価ユニット7は、2つの電圧パルスの間の電圧値をサンプリングしてサンプリング値を生成するように構成され、更に該制御及び評価ユニット7はこのサンプリング値から低周波ノイズとオフセットの補償を行うように構成されている。
【0061】
図1のように、コイル3とA/D変換器16の間にはインピーダンス変換とレベル適合化を行うための増幅器17が設けられている。また、例えば抵抗や受信コイル等の他の部品も同様にコイル3とA/D変換器16の間に配置されている。
【0062】
例として、増幅器17は受信コイル12とA/D変換器16の間に装入されている。ゲインは抵抗R1及びR2で調整できる。抵抗R2とコンデンサC1の組み合わせで、形成される低域通過フィルタの遮断周波数が決まる。
【0063】
第1に、増幅器17を用いてインピーダンス変換を行うことで受信コイル12を高い抵抗で測定することができる。このようにすれば受信コイル12に電流が全く又はわずかしか流れないため、物体への反作用が生じない。更に、バッファとなる増幅器17を用いれば、サンプリング回路がA/D変換器16の入力において受信電圧を妨害しなくなる。
【0064】
第2に、増幅器17が低域通過性を有していれば、該増幅器17をA/D変換器16用のアンチエイリアスフィルタのように利用することもできる。
【0065】
第3の利点は、増幅器17がバッファリングと前置増幅を行うように構成されていることにより、SN比が改善され、その結果、到達可能な最大スイッチング距離も大きくなるということにある。
【0066】
図1において、制御及び評価ユニット7は、物体の特性を計算するために、少なくとも1つの電圧パルスから得た少なくとも1つのサンプリング値を考慮するように構成されている。
【0067】
図1において、制御及び評価ユニット7は、距離信号21を生成するために、電圧パルス乃至電流パルスの開始時点以降の一定の時間窓においてデジタル積分を行うように構成されている。
【0068】
距離信号21はそれ自身が物体の距離に関する情報を含んでいるため、この距離データを後続の制御部で処理することができる。
【0069】
図1のように、発信電流パルスを発生させるために抵抗RSとスイッチ23が設けられている。
【0070】
パルス生成に電流源を用いる以外に、電圧供給源と精密抵抗とを用いて発信電流パルスを発生させると有利になる可能性がある。なぜなら、この組み合わせによれば非常に正確で温度安定性のある電流が発生し得るからである。そのために、電圧供給源がスイッチ23及び直列抵抗RSを介してコイル3と接続される。その後、電圧供給源をコイル3から切り離す。これにより非常に大きな時間当たりの電流変化(di/dt)が生じ、それにより強い磁場変化が生じ、更にこれによりセンサの検出領域にある伝導性の物体内に渦電流が誘導される。そしてこの渦電流が受信コイル12内に電圧を誘導し、該電圧が制御及び評価ユニット7によりデジタル化される。
【0071】
図1のように、電圧パルスの波高を制限するために抵抗RPがコイル3に並列に接続されている。この処置により電圧パルスの波高及び形状を変えることができる。これにより、まず制御及び評価ユニット7を過電圧による破壊から守ることができ、更には電圧パルスの周波数成分に影響を及ぼすことが可能になる。
【0072】
図3のように、制御及び評価ユニットは金属製の物体の距離測定のために少なくとも2つの電圧パルス9のサンプリング値10を評価するように構成されている。サンプリング点20乃至サンプリング時点は、図4に描いたように電圧パルス9の開始点に対して互いにずれている。これにより、電圧パルス9の時間分解能がそのずれと重ね合わせによって高められている。
【0073】
図4のように、連続して記録された複数の電圧パルス9のサンプリング値10が互いに組み合わされる。複数の電圧パルス9のサンプリング点20乃至サンプリング時点が互いに僅かにずらされることで、時間分解能がサンプリング速度により予め決まるナイキスト速度を超えるレベルまで高められる。
【0074】
図6のように、少なくともコイルと制御及び評価ユニットがメタルケーシング18内に配置され、コイルを有する少なくとも1つの前面24が金属製の前面24となっており、該前面が金属製の外被と結合されている。物体2が誘導型近接センサ1の前にある。
【0075】
これにより、誘導型近接センサ1の機械的な頑強性、つまり耐衝撃性、耐圧性又は摩耗若しくは擦り傷に対する耐性が高まる。更に、金属製のケーシング即ちメタルケーシング18により頑強性と化学的な耐性が改善される。結合によりセンサヘッドは固く密閉された状態となる。
【0076】
図5は3本の曲線を示している。曲線Aは物体が検出されていないときの基準値の曲線である。曲線BとCはそれぞれ異なる物体を検出したときのサンプリング値の曲線である。
【0077】
図5のように、制御及び評価ユニットは、メモリに保存された少なくとも1つの基準値25と少なくとも1つのサンプリング値10の差の符号を求めて評価することで、物体が強磁性であるか否かを確認するように構成されている。
【0078】
そのために、電圧パルス9のサンプリング値10と保存された基準値25との差が求められる。その結果の符号によって対象物が強磁性か否か判定することができる。
【0079】
図5のように、制御及び評価ユニットは電圧パルス9のパルス波高、パルス極大、パルス極大の時点、パルス幅及び/又はゼロ交差を特定して評価するように構成されており、これにより制御及び評価ユニットが距離信号を発生させる。
【0080】
図5のように、制御及び評価ユニットは、時間的に連続して記録された2つの電圧パルス9の差を求め、その差から距離信号を生成するように構成されている。
【符号の説明】
【0081】
1…誘導型近接センサ
2…物体
3…コイル(第1のコイル)
4…発信コイル
6…マイクロコントローラ
7…制御及び評価ユニット
8…物体確認信号
9…電圧パルス
10…サンプリング値
11…第2のコイル
12…受信コイル
16…A/D変換器
17…増幅器
18…メタルケーシング
20…サンプリング点
21…距離信号
23…スイッチ
24…前面
25…基準値
図1
図2
図3
図4
図5
図6