【実施例】
【0073】
異なる世代、分岐部分及び電荷疎水比を含む様々な化合物の第1ライブラリーは構造活性相関(SAR)に関する識見を得るために合成された。ペプチドのC末端から第2位置の荷電したアミノ酸を含むことによる、各世代に荷電し、かつ疎水性のアミノ酸を有することで高い活性のために効果があることが分かった。
【0074】
疎水性側鎖を含むAMPDのライブラリーが合成され、かつ、試験された。鎖の長さがC
6〜C
24のカルボン酸は、分岐部分間のKLモチーフ(motive)を含む第2又は第3世代AMPDのコアに導入されたリジンに結合する(
図4)。疎水性側鎖を含む第2又は第3世代のAMPD(MSt−260〜MSt−267)は、一般的な抗生物質に対する耐性を持つ臨床分離株を含む緑膿菌に対して試験された、最も強力な構造であると考えられた。第3世代のAMPDへの疎水性側鎖の付加は結果として溶血作用の増加をもたらすが、AMPDは溶血発生前の低濃度中で格段に活性が強い。
【0075】
1次又は2次構造のペプチドデンドリマーの活性に関する試験は活性又は不活性の化合物の2次構造は類似であり、かつかなりランダムコイルであることを示した。しかし、活性化合物は疎水性環境と接触するときは広がる傾向にある。中性の脂質小胞ではなく、負に帯電した脂質小胞からの5(6)−カルボキシフルオレセイン(CF)の漏出は活性変化の役割を示す。疎水性側鎖を有する、及び有しないAMPDの反応速度論は、脂質がペプチドデンドリマーに結合する場合のより早い殺菌を示した。
【0076】
材料及び試薬
全ての試薬、塩及びバッファーはAldrich、Fluka、Acros Organics、TCI Europe又はDr.Grogg Chemie AGのいずれかから購入した。PyBOP、アミノ酸及びそれらの誘導体はAdvanced ChemTech(アメリカ合衆国)、NovaBiochem(スイス国)、IRIS Biotech(ドイツ国)、PolyPeptide(フランス国)、GL Biochem(上海)から購入した。アミノ酸は以下の誘導体として使用された:Fmoc−Ala−OH、Fmoc−β−Ala−OH、Fmoc−Arg(Pbf)−OH、Fmoc−D−Arg(Pbf)−OH、Fmoc−Asp(OtBu)−OH、Fmoc−Gln(Trt)−OH、Fmoc−Gly−OH、Fmoc−His(Boc)−OH、Fmoc−Ile−OH、Fmoc−Leu−OH、Fmoc−D−Leu−OH、Fmoc−Lys(Boc)−OH、Fmoc−D−Lys(Boc)−OH、Fmoc−Lys(Fmoc)−OH、Fmoc−D−Lys(Fmoc)−OH、Fmoc−Lys(Alloc)−OH、Fmoc−Phe−OH、Fmoc−Pro−OH、Fmoc−Ser(tBu)−OH、Fmoc−Thr(tBu)−OH、Fmoc−Tyr(tBu)−OH、Fmoc−Val−OH、Fmoc−Dap(Fmoc)−OH、Fmoc−D−Dap(Fmoc)−OH、Fmoc−Dab(Boc)−OH、4−Fmoc−アミノメチル安息香酸(AMBA)、Fmoc−γ−Abu−OH(GABA)。TentaGel S NH
2(荷重:0.32mmol/g)及びTentaGel S RAM(荷重:0.22〜0.26mmol・g
−1)レジンはRapp Polymere(ドイツ国)から購入した。5(6)−カルボキシフルオレセイン(CF)はSigmaから購入した。ベシクル調製に利用される卵ホスファチジルコリン(EPC)、卵ホスファチジルグリセロール(EPG)及びMini−ExtruderはAvanti Polar Lipidsから購入した。ペプチドデンドリマーの合成は、ポリエチレンのフリット、テフロン(登録商標)の栓及びストッパーが取り付けられたポリプロピレンシリンジ内で、手動で行われた。分析RP−UHPLCは、Dionex Acclaim RSLC 120 C18カラム(2.2μm、120Å、3.0×50mm、流速1.2ml・min
−1)を用いたDionex ULTIMATE 3000 Rapid Separation LC System(ULTIMATE−3000RS diode array detector)で実行した。化合物は214nmの紫外線吸収により検出した。データの記録及び処理はDionex Chromeleon Management System Version 6.80(分析RP−HPLC)で行った。予備のRP−HPLCはDr.Maisch Gmbh Reprospherカラム(C18−DE、100×30mm、5μm、孔経100Å、流速40mL・min
−1)を用いたWaters Prep LC2489クロマトグラフィーシステムで実行した。化合物は214nmの紫外線吸収により検出した。RP−HPLCはHPLC級のアセトニトリル及びmQ脱イオン水を用いて実行した。溶出溶液は:A 0.1%TFAを含む水;B 水/アセトニトリル(50:50);C 0.1%TFAを含む水/アセトニトリル(10:90);D 0.1%TFAを含む水/アセトニトリル(40:60)とした。MSスペクトル、アミノ酸分析及びDOSY−NMR測定は、ベルン大学の化学科及び生化学科の質量分析、タンパク質分析及びNMRの設備によってそれぞれ提供された。収率は、他に記載がない限り、定量的なアミノ酸分析(AAA)で決定した。蛍光測定は、攪拌機及び温度制御器(他に記載がない限り25℃での測定)を備えた蛍光分光光度計(Cary Eclipse、Varian)で実行された。
【0077】
デンドリマーの合成
修飾のないペプチドデンドリマー
レジン(TentaGel S RAM)は8mLのジクロロメタンで膨潤させ、そしてDMF中の20%ピペリジン溶液(2×10分)でレジンのFmoc保護基を除去した。さらなる結合として、PyBOP(ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシトリピロリジノホスホニウム)(3当量/G、G=世代)及び約8mLのNMP中のDIPEA(N、N−ジイソプロピルエチルアミン)(5当量/G)の存在下で、レジンを保護されたアミノ酸(3当量/G)の1つでアシル化した。アミノ酸、誘導体又はジアミノ酸は1時間(G0)、2時間(G1)、3時間(G2)、4時間(G3)で結合した。反応の終了は2、4、6−トリニトロベンゼンスルホン酸溶液(TNBS)又は(プロリン用の)クロラニルテストを用いて確認した。ビーズが赤の場合(プロリンは茶色)、いくつかの遊離アミノ基があり、かつレジンテストは陽性であった。それらが無色の場合、遊離アミノ基がなく、かつレジンテストは陰性であった。結合は陽性のテスト後に繰り返された。未反応のペプチド鎖のキャッピングは無水酢酸及びジクロロメタン(1:1v/v)で15分間行われた。各結合後、各シリンジ内のレジンは脱保護され(DMF中の20%ピペリジン、2×10分)、続いてTNBS又はクロラニルテストが行われ(テストは陽性でなければならない)、そして次に保護されたアミノ酸が添加された。合成の終わりに、末端のアミノ基は無水酢酸/ジクロロメタン(1:1)で20分間アセチル化するか、又はアセチル化しないかのいずれかであった。レジンはメタノールで2回洗浄し、真空下で乾燥後、TFA/TIS/水(94:5:1 v/v/v)を用いて4.5時間開裂を行った。システイン又はメチオニンを含むペプチドにおいては、開裂条件はTFA/TIS/水/EDT(94/1/2.5/2.5 v/v/v/v)である。濾過後、ペプチドを50mLの氷冷したtert−ブチルメチルエーテル(TBME)を用いて沈殿させ、4400rpmで15分間遠心分離し、そしてTBMEで2回洗浄した。粗製ペプチドの精製のために、粗製ペプチドをA(100%mQ水、0.1%TFA)に溶解し、予備RP−HPLCに供し、そして凍結乾燥後にTFA塩として得た。記載のない限り、分析HPLCに用いられた勾配は2.2分でA/D=100/0〜0/100、1.2mL・min
−1である。
【0078】
リジン側鎖に結合したカルボン酸を含むペプチドデンドリマー
合成は「修飾のないペプチドデンドリマー」に従って行った。Fmoc−Lys(Alloc)−OHが最初にレジンに結合した。最後のFmoc基の脱保護の前にアリルオキシカルボニル(Alloc)保護基を、5mLの無水DCM及び25当量のフェニルシラン(PhSiH
3)に溶解した0.25当量のテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(Pd(PPh
3)
4を触媒として、乾燥条件下で除去した。該工程は2回繰り返し、間に無水DCMで2回レジンを洗浄した。第2サイクル後、レジンをDCMで1時間洗浄し、そしてTNBSテストで遊離アミン基の検査を行うことによって脱保護を確認した。テストが赤であった場合、最初にHOBt(5当量)、DIC(5当量)及びNMP/DCM(1/1 v/v)中のDIPEA(3当量)を添加したカルボン酸(5当量)をレジンに溶解させ、そして3〜4時間撹拌した。NMP、メタノール、DCMで3回洗浄後、HATU(5当量)及びDMF/DCM(1/1 v/v)中のDIPEA(3当量)を溶解させたカルボン酸(5当量)を用いて結合を一晩繰り返した。最後のFmoc基の脱保護はNMP、メタノール、DCMで3回洗浄後に行い、そしてTNBSテスト(無色)による遊離アミン基の検査の後に行い、続いて「修飾のないペプチドデンドリマー」に記載した開裂及び精製を行った。
【0079】
チオエーテル連結戦略を用いたペプチドデンドリマー合成
チオエーテル連結
コア及び鎖部分のペプチドは上記の手順に従って合成した。固相からのコアペプチドの開裂及び精製の前に、N末端を5mLのDCM中のクロロ酢酸無水物溶液(N末端ごとに10.0当量)で2回、15分間クロロアセチル化した。レジンはNMP、メタノール及びDCMで(それぞれ3回)洗浄した。
【0080】
典型的な実験では、コアペプチド(クロロアセチル基を含む配列、1.0当量)、及びDMF/水(1/1、v/v)中のKI(20.0当量)の溶液(300μL)を5mL線のガラスフラスコに調製した。混合物は10分間アルゴンで脱ガスした。第2の5mL線ガラスフラスコに鎖ペプチド(システイン含有配列、コア配列中のクロロアセチル基ごとに1.5当量)を(溶媒なしに)調製し、そしてフラスコをアルゴン/真空で3回脱ガスした。コアペプチド溶液を気密性シリンジで鎖ペプチドを含むガラスフラスコに移した。DIPEA(55.0当量)を添加し、そして溶液を室温で撹拌した。反応物を続いて分析RP−HPLCに供した(気密性10μLガラスシリンジで採取した1.0μL反応混合物+100μLの溶媒A)。終了後(通常は一晩)、反応物は5mLの溶媒Aを加えてクエンチし、濾過しそして予備RP−HPLCで精製した。収率はアミノ酸分析で補正した。
【0081】
上記の一般的な手順を用いて、出発物質CCS−2:(ClAcKL)
4(KKL)
2KKLNH
2及びCCS−5:(KL)
2KKLCNH
2からCCS−20:(KL)
8(KKLCxKL)
4(KKL)
2KKLNH
2が予備RP−HPLC精製後に白色の泡状固体として得た(11.2mg、1.82μmol、73%)。分析RP−HPLC:t
R=1.51分(2.2分でA/D=100/0〜0/100、λ=214nm)。MS(ESI+):C
290H
556N
80O
53S
4 calc./found.6140.28/6140.3 [M]
+、6240.46/6239 [M+2K+Na]
+。「x」はC末端に隣接するアミノ酸のN末端とアミド結合によって結合する酢酸部分を含むシステイン側鎖のチオエーテル結合を示す。
【0082】
アミノ酸分析
サンプルを、0.1%フェノール(v/v)含有6M塩酸を用いて、窒素真空下で、115℃で22時間加水分解した(チャン、J.−Y.及びクネヒト、R.、1992、Anal.Biochem.、197、52−58)。遊離したアミノ酸はフェニルイソチオシアネート(PITC)と結合し、そして結果として生じるフェニルチオカルバミル(PTC)アミノ酸は自動注入装置(Bidlingmeyer、B.A.ら、1984、Journal of Chromatography B、336、93−104)と共にDionex Summit HPLC装置を用いて、Nova Pack C18カラム(4μm、3.9mm×150mm、Waters)によってRP−HPLCによって分析された。対応する酢酸アンモニウムバッファーがpH6.3、0.14Mの酢酸ナトリウムバッファーと置き換わった。チオエーテルの橋にシステインが含まれた場合、カルボメチルシステイン(CMCys)として検出した。そうでない場合はシステインは加水分解中に崩壊した。加水分解が原因でトリプトファンは該方法では検出し得ず、かつアスパラギン/グルタミンはアスパラギン酸/グルタミン酸とそれぞれ同じ保持時間であった。フェニルアラニン及びDap溶出は同様に同じ保持時間であった。本分析ではセリンの検出量は通常、理論上の期待量より著しく低い。全ての収率、MIC(最小発育阻止濃度)MBC(最小殺菌濃度)及びMHC(最小溶血濃度)は該方法から結果として生じたペプチド含有量に従って補正した。
【0083】
生物学的アッセイ
抗微生物ペプチドIの微量液体希釈法
抗微生物活性は枯草菌(BR151株)、大腸菌(DH5α株)、及び緑膿菌(PAO1株)に対して評価した。微量液体希釈法は最小発育阻止濃度(MIC)を決定するために用いた。細菌のコロニーはLB培地中で、37℃で一晩培養した。濃度は600nmでの吸光度を測定することで定量化し、そしてOD
600=0.1(1×10
8CFU/mL)まで希釈した。サンプルは1mg・mL
−1水溶液を原液として調製し、そして96ウェルのマイクロプレート(Cornstar、ポリプロピレン、未処理)中の栄養素LB培地中で2/3ずつ連続的に希釈した。サンプル溶液(50μL)はOD
600nmが0.001の希釈細菌懸濁液(50μL)と混合した。これにより5×10
5CFU/mLの最終希望植菌が生じた。プレートを37℃で十分な増殖まで(18−24時間)培養した。各テストに対し、プレートの2つのカラムが無菌のコントロール(SC、培養液のみ)及び増殖コントロール(GC、培養液及び細菌種菌、抗体なし)として保持した。MTTの0.1%水溶液を10μLずつ各ウェルに加えた。最小発育阻止濃度(MIC)は肉眼で試験細菌(黄色)の目に見える増殖を阻害した抗菌物質(ペプチドデンドリマー)の最低濃度として定義した。微生物学的な研究のために、直鎖ペプチドLysTyrLysLysAlaLeuLysLysLeuAlaLysLeuLeu(SEQ ID No.1)をリファレンスとして用いた。
【0084】
抗微生物ペプチドIIの微量液体希釈法
抗微生物活性は緑膿菌(PAO1株)、緑膿菌PT1482(A−)、PT1485(A−B−)、PT1149(A−B−C−algC)、PT331(Z61)(LPS変異株)、緑膿菌PEJ2.6、PEJ9.1、ZEM1.A、ZEM9.A(ジュネーヴ大学/大学医療センターからの臨床分離株)、バークホルデリア・セノセパシア(
Burkholderia cenocepacia),黄色ブドウ球菌(MRSA株)及びアシネトバクター・バウマニ(ジュネーヴ大学/大学医療センターからの臨床分離株)に対して評価した。最小発育阻止濃度(MIC)を決定するために、微量液体希釈法を用いた。細菌のコロニーをMH培地で37℃、一晩培養した。サンプルは8mg・mL
−1水溶液の原液として調製し、開始濃度を300μLのMH培地中で32、64、128又は256μg/mLまで希釈し、96ウェルのマイクロプレート(トリフェニルホスフェート(TPP)、未処理)の第1ウェルに添加し、そして1/2ずつ連続的に希釈した。細菌の濃度は600nmでの吸光度を測定することで定量化し、そしてMH培地中でOD
600=0.022まで希釈した。サンプル溶液(150μL)をおよそ5×10
5CFUの最終植菌の4μL希釈バクテリア懸濁液と混合した。プレートを37℃で十分な増殖まで(〜18時間)培養した。各テストに対し、プレートの2つのカラムが無菌のコントロール(SC、培養液のみ)及び増殖コントロール(GC、培養液及び細菌種菌、抗生物質なし)として保持した。最小発育阻止濃度(MIC)は肉眼で試験細菌の目に見える増殖を阻害した抗菌物質(ペプチドデンドリマー)の最低濃度として定義した。微生物学的な研究のために、ポリミキシンをリファレンスとして用いた。
【0085】
溶血アッセイ
最小溶血濃度(MHC)を決定するために、ペプチドデンドリマー水溶液を8mg/mL原液として調製し、そして50μLを96ウェルのプレート(Cornstar又はNunc、ポリスチレン、未処理)中で、50μLのPBS(pH7.4)で1/2ずつ連続的に希釈した。ヒト赤血球(hRBC)を、信頼できる被験者からの全血1.5mLを3000rpmで15分間遠心分離することで得た。血漿を捨て、そしてペレットを15mLのファルコンチューブ内で、最大5mLのPBSで再懸濁した。洗浄を三回繰り返し、そして残余のペレットを10mLのPBSで、最終hRBC濃度が5%となるように再懸濁した。hRBC懸濁液(50μL)を各ウェルに加え、そしてプレートを室温で4時間培養した。最小溶血濃度(MHC)のエンドポイントは溶媒期間後にウェルの目視検査によって決定した。各プレートのコントロールにはブランクの培地のコントロール(50μlPBS+50μlhRBC懸濁液)及び溶血活性コントロール(mQ脱イオン水50μL+50μLhRBC懸濁液)を含んだ。
【0086】
予備の耐性発現アッセイ
枯草菌BR151への化合物のMICは、化合物濃度がMICの値の半分であるウェル(1/2MICウェル)からの細胞を用いて15日間毎日決定した。各化合物において、従前のアッセイプレートからの1/2MICウェルからの細菌はLB培養液で再懸濁され、37℃で2〜4時間培養し、そしてOD
600を決定した。再懸濁液をその後LB培養液で5×10
5cells/mlまで希釈し(OD
600=0.1であり、その後1:100倍に希釈してOD
600=0.001となる)、そして以前これらの細胞を曝したものと同一の化合物のMICを再度決定するために用いた。全てのMICの決定はデュプリケートで行った。
【0087】
生体内研究
動物:生後4〜6週間のオスのウィスター系ラット(体重範囲200〜500g)を毒性実験に用いた。ラットはベルンティアスタール本部(ベルン大学臨床研究部)から得て、そしてケージ毎に4匹収容した。各実験グループは2匹のラットを含む。動物の全ての処置、世話及び取扱いはスイス国、ベルン州の獣医療サービスによって再検討及び承認され、そしてベルン大学の臨床研究部の、ユーグ・アブリエル教授のグループの協力のもと行った。
【0088】
処置:ラットは誘導室内で4%イソフルラン及び1L/min酸素で麻痺させた。ラットが眠っているときにラットを臨床用のドレープの上に移し、そしてマスクによって1〜2%イソフルラン及び0.8l/minの酸素で麻痺させた。尾を温水で温め、そして70%エタノールで消毒した。尾静脈への静脈(i.v.)注射は500μLPBS中の2mg/kgラットのAMPDの単回投与を含んだ。注射前に各ラットを個別に体重を測り、そして正確な投与量を決定した。注射無し及び500μLPBSの静脈注射のコントロールのグループを含む全てのラットについて、2日間の生存及び挙動を観察した。
【0089】
WST−8細胞生存性アッセイ
細胞生存性は緑膿菌(PAO1株)に対して試験した。細菌のコロニーをLB培地で37℃、一晩培養した。濃度は600nmでの吸光度を測定することで定量化し、そしてOD
600=0.1(1×10
8CFU/mL)まで希釈した。サンプルは1mg・mL
−1水溶液を原液として調製し、そして96ウェルのマイクロプレート(TPP、未処理)中で、50μg/mLの濃度までLBで希釈した。サンプル溶液(50μL)はOD
600nmが0.001の希釈細菌懸濁液(50μL)と混合した。これにより5×10
5CFU/mLの最終希望植菌が生じた。プレートを37℃で1、3、6、8及び24時間培養した。各時点で別個のプレートを分析した。各テストに対し、プレートの2つのカラムを無菌のコントロール(SC、培養液のみ)及び増殖コントロール(GC、培養液及び細菌種菌、抗体なし)として保持した。培養後、15μLのWST−8希釈標準溶液(3.31mg/mLのWST−8(Ochem Corporation)、0.074mg/mLのPES(フェナジンエトスルファート))を各ウェルに加え、そして細胞を37℃でGCが希望値になるまで培養した。反応が起こった後、最終吸光度は450nmを示した。計算において、GCの値は細胞生存率100%に設定し、かつネガティブコントロール(細菌なし、SC)の値は細胞生存率0%に設定した。これらの2つの値を用いて較正曲線を作成した。
【0090】
ヒト血清によるペプチド及びペプチドデンドリマーのタンパク質分解安定性
ペプチド及びペプチドデンドリマーを200μMのPBS溶液を原液として調製した。25%ヒト血清(DMEM希釈)を14000rpmで15分遠心分離して脂質を除去し、そして上澄みを回収して、37℃で15分間培養した。タンパク質分解は50μLの試験ペプチド又はペプチドデンドリマーの50μLの血清への添加及び37℃での振とうによって開始した。最終ペプチド濃度は100μMである。反応混合物は0、1、6、24時間後に氷冷した10%トリクロロ酢酸(TCA)を添加して血清タンパクを沈殿させることで分析した。14000rpmで15分遠心分離後に、上澄みをサンプルごとに回収し、そしてSpeedVacで蒸発させた。個体を100μLのmQ水に溶解後、それらをRP−HPLCで分析した(流速:1.2mL/min、勾配:7.5分でA/D=100/0〜0/100)。残余のペプチド及びペプチドデンドリマーの転換は、Chromeleonソフトウェアを用いることによる、214nmでの吸光度の積分によって算出した。
【0091】
細菌存在下のペプチドの検出
ペプチド及びペプチドデンドリマーは200μM水溶液の原液として調製した。細菌のコロニーはLB培地中で、37℃で一晩培養した。濃度は600nmでの吸光度を測定することで定量化し、そしてOD
600=0.2まで希釈した。分解は50μLの試験ペプチド又はペプチドデンドリマーの50μLの細菌懸濁液への添加及び37℃での振とうによって開始した。最終ペプチド濃度は100μMであり、かつ細菌の最終濃度OD
600=0.1(1×10
8CFU/mL)であった。反応化合物は0、1、6、9、24時間後に95℃で5分間加熱し、続いて14000rpmで15分間遠心分離した後に分析した。50μLの上澄みをサンプルごとに回収し、そして50μLのAを加えて濃度を50μMとした。5μLの4−ヒドロキシ安息香酸(標準)を添加した後、RP−HPLCで分析した(流速:1.2mL/min、勾配:7.5分でA/D=100/0〜0/100)。残余のペプチド及びペプチドデンドリマーの転換は、Chromeleonソフトウェアを用いることによる、214nmでの吸光度の積分によって算出した。
【0092】
脂質小胞実験
調製
25mgEggPC又はEggPGの1mLメタノール/トリクロロメタン溶液1/1を、ロータリーエバポレーター(rt)及びその後の一晩真空下で、溶液を蒸発させることで脂質薄膜を調製した。結果物である膜を1mLのバッファー(50mM CF、10mM TRIS、10mM NaCl、pH7.4)で30分水和し、凍結融解サイクル(7回)及びポリカーボネート膜(孔経100nm)を通した押出(15回)に供した。小胞外の成分を10mM TRIS、107mM NaCl、pH7.4によるゲル濾過(Sephadex G−50)によって除去した。最終条件:〜2.5mM Egg PC又はEgg PG;内部:50mM CF、10mM TRIS,、10mM NaCl、pH7.4;外部:10mM TRIS、107mM NaCl、pH7.4。
【0093】
実験
Egg PC又はEgg PGの原液(37.5μL)をバッファー(10mM TRIS、107mM NaCl、pH7.4)で希釈し、恒温蛍光キュベット(25℃)内に入れ、そして緩やかに撹拌した(キュベット内の全容積〜3000μL;最終脂質濃度〜31.25μM)。CF流出は、λ
em517nm(λ
ex492nm)で、t=50秒での最終濃度が1、5、7.5、10、15、20、25、30μg/mLとなる20μLのペプチドデンドリマーのバッファー(10mM TRIS、107mM NaCl、pH7.4)溶液の添加、及びt=300秒でのtritonX−100(30μL、0.012%最終濃度)の添加後の時間関数として測定した。蛍光強度はI(t)=(I
t−I
0)/(I
∞−I
0)(式中、I
0=I
tでペプチドデンドリマーを添加し、I
∞=I
tで溶菌が飽和する)を用いて、部分発光強度I(t)に正規化された。
【0094】
結果論及び考察
分岐部分間に1つ、2つ又は3つのアミノ酸を含む抗微生物ペプチドデンドリマー(AMPD)の設計及び合成
抗微生物作用を有するデンドリマーを特定するために、直鎖抗微生物ペプチドの一般的な特徴を樹状骨格内に組み込んだ(
図1)。リシン及びアルギニンのようなカチオン性アミノ酸はペプチドデンドリマーに変化を起こすために選択し、かつ、ロイシン、イソロイシン、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン及びアラニンは両親媒性を持たせるための疎水性対応物として選択した。
【0095】
78個のペプチドデンドリマーのライブラリー(53個の標準、18個のアルキル鎖を含むもの、7個のG4及びG5、さらに2個の直鎖ペプチド、6個の二量体)を標準のFmoc−SPPS(メリーフィールド、R.ら、1963、Am.Chem.Soc.、85、2149−2154;ケント、S.B.ら、2009、Chem.Soc.Rev.、38、338−51)を用いて、Rink−amideレジン上で合成した(
図2)。コア内に疎水性尾部を含むAMPDにおいて、側鎖の直交保護基としてAllocを含む追加のリジンを合成の第1アミノ酸として配置した。0.25当量のPd(PPh
3)
4及び25当量のPhSiH
3によるAlloc脱保護(グリエコ、P.ら、2001、J.Peptide Res.、57、250−256)の後、6〜24個の範囲の炭素原子である、異なる炭素側鎖をカルボン酸として、DMF中のHATU/DIPEA又はNMP中のHOBt/DIC/DIPEAという古典的なカップリング条件下で結合させた。ペプチドデンドリマーの側鎖の脱保護及び付随する酸分解は最後のFmoc脱保護の後に行われ、続いてRP−HPLC精製を行った。表2〜表7は全ての世代及び分岐部分間のアミノ酸の数が異なる、極めて良好(44〜10%)から良好(10〜1%)な収率である全ての合成されたAMPDを示す。HPLCからの精製留分、合成及び精製に対応する収率は最適化しなかった。第3世代のペプチドデンドリマー及びアルキル鎖が結合した第2世代の構造式は
図4に示す。
【0096】
以下の全ての表において、ペプチドデンドリマーの配列はN末端からC末端までである。1文字表記はアミノ酸に用いられ、大文字はL−エナンチオマーを示し、かつ、小文字はD−エナンチオマーを示す。DabはL−2、3−ジアミノ酪酸であり、かつ、BはL−2、3−ジアミノプロピオン酸である。分岐するジアミノ酸は斜字体で示す。他に記載のない限り、全てのペプチドはC末端でカルボアミド(CONH
2)である。収率を示す所では、これらはTFA塩としてのRP−HPLC精製産物と関係する。
【0097】
MIC(最小発育阻害濃度)及びMHC(最小溶血濃度、ヒト赤血球(hRBC)で決定した)の値はμg/mLの単位である。検出可能な溶血活性が何ら観察されなかった場合、最終測定濃度は治療指数(TI)の算出に用いた。TI(治療指数)=MHC(μg/ml)/MIC(μg/ml)の幾何平均。より大きな値はより強い抗微生物特異性を示す。
【0098】
表2:第3世代AMPDのアミノ酸配列、収率及びMS分析
【表2】
【0099】
AMPDの第1系列は第3世代のペプチドデンドリマーから成った。最初は一般的に天然抗微生物ペプチドとして存在するアミノ酸を樹状構造に組み込んだ。第1段階ではリジン分岐間でロイシン、アラニン、トリプトファン、フェニルアラニン、チロシンの疎水性アミノ酸がリジン又はアルギニンと交代する。より強固に作成するために、より小さな分岐部分のB(L−2、3−ジアミノプロピオン酸)部分が用いられた。第2設計では、荷電及び疎水性を中心又は外圏のいずれかに集中させた。ペプチドデンドリマーは明確に定義された二次構造なしに、非常に柔軟な分子である。機構的な研究及び生理学的条件についてのより高い安定性のために、4つの有望な配列を全てD−エナンチオマーとして合成した。異なるアミノ酸によって正電荷に変化するだけでなく、側鎖の長さが活性に影響を与えるかどうかを確かめるために、側鎖に4つのメチレン基を含むリジンのうち2つのメチレンのみをDab(L−2、3−ジアミノ酪酸)に置換した。
【0100】
表3:第2世代のAMPDのアミノ酸配列、収率及びMS分析を示す。
【表3】
【0101】
広範囲の構造をカバーするため、第2世代のペプチドデンドリマーを調製した。これらの合成は容易かつ迅速であり、かつ、それにより高い収率につながる。第2世代AMPDのMSt−146、MSt−138、MSt−139、MSt−119、MSt−176及びMSt−201は第3世代の類似体と同じ特徴を有するが、分子量は半分に過ぎない。他の構造的可能性を調査するため、第4及び第5世代のペプチドデンドリマー並びに第2世代のペプチド二量体を同様に生成した(表4及び5)。
【0102】
ペプチドデンドリマーのSPPSは最大で第3世代のビーズに限られるため、第4世代及び第5世代のAMPDは公開された手順(ウーリヒ、N.A.ら;Org.Biomol.Chem.2011、9、7084)を用いた収斂接近(convergent approach)によって合成した。従って第2及び第3世代ペプチドデンドリマーはN末端をクロロアセチル基として調製した。チオエーテル連結ではこれらのペプチドデンドリマー及びC末端に追加のシステインを含む第1又は第2世代のペプチドデンドリマーを結合して、第4及び第5世代のAMPDを良好な収率で形成した(表4)。
【0103】
表4:チオエーテル連結戦略によって調製した第4及び第5世代のAMPD。
【表4】
【0104】
表5:システイン(C)によるホモ二量体化によって調製した、分岐部分間に2つのアミノ酸を含むペプチドデンドリマー二量体。
【表5】
【0105】
表6:分岐間に1つのアミノ酸を含む第3世代AMPD。
【表6】
【0106】
表7:分岐間に2つ又は3つのアミノ酸を含む第2及び第3世代AMPD。
【表7】
【0107】
表8:直鎖AMPのアミノ酸配列、収率、及びMS分析
【表8】
【0108】
その上、システイン残基を組み込んだ第1又は第2世代のペプチドデンドリマーはジスルフィド結合の形成によって二量化し、ホモ二量体を良好な収率で得る(表5)。
【0109】
最後の方法では、分岐間のアミノ酸の数の影響をよりよく理解し、かつ、より強固、又はより柔軟のいずれかのAMPDを作成するために、1111(MSt−147、MSt−148、MSt−149)、3333(MIS−02、MIS−03、MIS−04、MIS−06、MIS−08)、2233(YGO−008、YGO−009、YGO−010、YGO−11)AMPDを作成した。1111系列は、グラム陰性緑膿菌に対する活性ではなくグラム陽性枯草菌に対する活性がある前述の1111AMPDと比べて、同じトポロジーを有するが、異なるアミノ酸組成を有する。電荷/疎水性モチーフを入れ替え、かつ、MSt−112と同じアミノ酸分布を有するMSt−117、及び緑膿菌に対する活性があると文献に記載されるRHe−9の、2つの直鎖配列を参考として調製した。
【0110】
表9:疎水性側鎖を含む第3世代AMPDのアミノ酸配列、収率、MS分析
【表9】
【0111】
AMPDの構造を、天然抗微生物ペプチドの反復性成分である疎水性アルキル鎖を結合させることで、第2及び第3世代のペプチドデンドリマーへとさらに変更した。固相ペプチド合成はコアのアルキル鎖の1つのコピー又は複数のコピーをN末端に結合しうるように容易に拡張しうる。6個、8個、10個、12個、16個、18個及び24個の炭素の鎖を有するカルボン酸を用いた。合計で18個の疎水性アルキル鎖を含むAMPDを調製した(表9)。
【0112】
ヒト病原体の緑膿菌に対するAMPDの活性及びヒト赤血球(hRBC)に対するAMPDの毒性
MIC(最小発育阻害濃度)の値を決定するために、液体希釈アッセイ(ウィーガンド、Iら、2008、Nat.Protoc.、3、163−75;臨床・検査標準委員会資料M7−A7、第7版)で、全てのペプチドの緑膿菌PAO1に対する活性を試験した。ペプチドデンドリマーの原液は96ウェルのマイクロタイタープレート内で、栄養素LBで2/3ずつ連続希釈した。細菌を栄養素LB中で一晩、37℃で培養した。希釈後に細菌にペプチドを添加し、そして一晩(18〜24時間)37℃で培養した。全ての合成した第3世代のAMPDのMIC値は、ポリミキシン(2μg/mL)及びトブラマイシン(0.5μg/mL)と同様の範囲の極めて高い活性(2μg/mL)から活性がある(14μg/mL)範囲まで及んだ(表10)。最も効力のある配列は、各世代で交互に並ぶ、荷電した(リジン、アルギニン、L−2、3−ジアミノ酪酸)及び疎水性の(ロイシン、トリプトファン、フェニルアラニン)のアミノ酸を含む。疎水性アミノ酸がC末端から1番目に数えられ、かつ荷電したアミノ酸が2番目の位置にある場合、分岐部分間のアミノ酸の位置は最適であると考えられる。追加の疎水性アミノ酸としてアラニンを導入すると活性が減少する(MSt−120)。荷電したアミノ酸の性質は活性に大きな影響を与えないが、活性の変化を疎水性アミノ酸の変化と比較すると、結果としてロイシンが最善であり、トリプトファン及びフェニルアラニンが続き、一方でチロシンは活性が大幅に減少する傾向となる。分岐部分をリジンからより強固なDap(2、3−ジアミノプロピオン酸)に変更すると活性は著しく減少はしなかった。デンドリマー上の電荷が疎水性アミノ酸と離れ、その結果外圏又はコア部分のいずれかが荷電する場合、活性は大幅に減少する。同様に、分岐部分間で荷電した又は疎水性の領域が集合すると活性の減少に至る一方で、L−アミノ酸をD−アミノ酸に変更すると活性が維持され、活性機構は受容体媒介ではないという仮説に繋がる。非常に効果的なAMPDは天然、非天然及びD−アミノ酸で調製し、そしてそれら全てが非常に高い活性を示した。
【0113】
表10:第3世代AMPDのMIC、MHC及びTIの値
【表10】
【0114】
第3世代のAMPDが新規の抗生物質として有用であり得るかどうかを試験するために、第3世代のAMPDについて、それらのヒト赤血球(hRBC)への溶血活性を試験した(表10)。最小溶血濃度(MHC)の値は1μg/mLから非常に高い900μg/mLまで及ぶ。MHCの値への最も大きい影響は荷電したアミノ酸の性質であると思われる。明らかにリジン又はL−2、3−ジアミノプロピオン酸を含むペプチドはアルギニンを含むペプチドよりも溶血性が低い。疎水性アミノ酸のロイシン、トリプトファン、チロシン又はアラニンは互いに比較してMHCに大きな影響を与えず、かつ、MHCの値はそれらのMICの値より依然としてはるかに高い。
【0115】
TI(治療指数=MHC(μg/mL)/MIC(μg/mL))は異なるAMPDを互いに比較するために有用な手段である。より高いTIはより活性が高く、かつより毒性の低いAMPDである。それ故にTIはさらなる開発、機構の研究において、及び潜在的な抗菌性として非常に興味深い。最も高いTIを有するAMPDひいては最も潜在力の高いペプチドは、MSt−112、MSt−114、MSt−136、MSt−200、MSt−203であり、かつ、さらに評価され、かつ議論されることになる。ここでの焦点は、天然のアミノ酸を含むペプチドデンドリマーは全体的に毒性作用が低いことから、天然のアミノ酸を含むペプチドデンドリマーに当てるべきである。
【0116】
第3世代のAMPDで発見し、かつそれらのMIC及びMHCを評価した、最良のモチーフに従って第2世代のAMPDを合成した(表11)。前述の通り、荷電したアミノ酸をリジンからL−2、3−ジアミノ酪酸又はアルギニンに変更することでの活性の著しい差異は発見し得なかったが、MHCは一般的にリジンからアルギニン、L−2、3−ジアミノ酪酸へと減少した。同様に分岐部分をリジンからL−2、3−ジアミノプロピオン酸へと変更することによる関連する変化は見られなかった。ロイシン又はトリプトファンのチロシン又はアラニンへの置換により結果として活性の喪失が起こった。興味深いことに、第2世代のAMPDのMHCの値は、分子内の正電荷残基の数が少ないことが原因である可能性がある、第3世代の類似体と比較して、非常に高く、より高いTIの値をもたらす。従って第2世代のAMPDは、特にそれらのSPPSからの容易な入手可能性が結果としてもたらすより高い収率のため、さらなる開発及び調査の有望な候補である。
【0117】
一般的な効果を完全に理解するために、MSt−112及びMSt−146のK分岐間にKLモチーフを有する、効果のある配列を含む第1世代及び0世代(ジペプチド)のAMPD類似体のMIC及びMHCもまた試験した。これらの2つのペプチドは溶血活性が低いが、緑膿菌に対する活性がない(表11)。
【0118】
表11:第2世代のAMPDのMIC、MHC及びTIの値
【表11】
【0119】
チオエーテル連結によって合成した第4及び第5世代のAMPDは、それらの第2及び第3世代の類似体と比較してわずかに低い、緑膿菌に対する活性を有する(表12)。それらのより大きいサイズのため、hRBCを溶解する効力は極めて高く、故にTIは相対的に低い。興味深いことにアルギニンの変化は活性が低くなり、かつ、溶血性が高くなり、第3世代のAMPDと同様の効果であることが明らかである。
【0120】
表12:チオエーテル連結によって調製された分岐間に2つのアミノ酸を含む第4及び第5世代のAMPDのMIC、MHC及びTIの値
【表12】
【0121】
容易に入手可能な第1及び第2世代の二量体もまた緑膿菌に対して検査した(表13)。分岐間に2つのアミノ酸を含む第1及び第2世代の二量体は、第2及び第3世代のAMPDと同じくらいの活性(CCS−3)であるか、少し低い活性(CCS−5、CCS−19、CCS−18)である。
【0122】
表13:(システインCによるホモ二量体化によって調製した)分岐間に2つのアミノ酸を含むペプチドデンドリマー二量体のアミノ酸配列、収率及びMS分析
【表13】
【0123】
前述の通り、1111の第3世代のAMPDは枯草菌、グラム陽性細菌に対して活性があったが、緑膿菌に対しては活性がなかった。2222の第3世代のAMPDの成功したモチーフに倣い、新規の1111の第3世代のAMPDを設計し、そしてそれらの溶血活性を液体希釈アッセイで試験した。MSt−147(配列:(L)
8(KK)
4(KL)
2(KK))のみが、非常に低い溶血性(1937μg/mL;TI>160)及び12μg/mLのMICの活性を示した。
【0124】
分岐部分間のアミノ酸の数の減少はAMPDのより高い活性をもたらさず、より高い活性のAMPDを求めて、アミノ酸の数を2から3に増加させることを次に試験した。4つの3333の第2世代のAMPD、2つの3333の第3世代のAMPD及び交互に位置するKLモチーフを含む4つの2233の第3世代のAMPDを緑膿菌に対して試験した。分岐間に非常に高いリジン含有量を含むMIS−03及び分岐点間で離れている高いリジン含有量を含むMIS−05を除いて、全ての配列は2222の第2及び第3世代のAMPDと同等の活性を示した。それらのAMPDは、TIと同等に至る極めて高い溶血値を有する。MIS−06及びMIS−08の、3333の第3世代のAMPDは高い疎水性のため極めて高い溶血性である。
【0125】
表14:分岐間に2つ又は3つのアミノ酸を含む第3世代のAMPDのMIC、MHC及びTIの値
【表14】
【0126】
K分岐間にKLモチーフを含む第2(MSt−260:C
6、MSt−261:C
8、MSt−262:C
10、MSt−263:C
12、MSt−286:C
18、MSt−287:C
24)及び第3(MSt−263:C
6、MSt−265:C
8、MSt−266:C
10、MSt−267:C
12、MSt−301:C
16、MSt−284:C
18、MSt−285:C
24)世代のAMPDのコアへの疎水性炭素側鎖の結合は,結果としてC
6−C
12側鎖において非常に高い活性の配列、及びC
16−C
24側鎖において低い活性をもたらす(表15)。第2世代のAMPDであるMSt−260〜MSt−263は、溶血性が、炭素側鎖がより長くなるにつれて増加するにもかかわらず、高いMHC値をもたらす。MSt−264〜MSt−267への異なるカルボン酸の結合は、溶血性が、炭素側鎖がより長くなるにつれて増加することと同じ効果である非常に低いMHCの値をもたらす。MSt−302、MSt−286、MSt−287、MSt−301、MSt−284、MSt−285は全て低濃度で溶血性を示し、それ故に低いTIである。第2及び第3世代のAMPD(MSt−288、MSt−290)のN末端へのC
6又はC
12カルボン酸の固定、従って炭素鎖の4つ又は8つのコピーのいずれかの導入は、C6の炭素鎖ではAMPDの活性を維持したが、C12の類似体では活性を喪失した。
【0127】
コアにおいてC6〜C12の炭素鎖を持つ第3世代のAMPD及び特に第2世代の類似体であり、類似したTI値を有するデンドリマーは、臨床的単離株及び機構的な研究といった、変異株を用いるさらなる試験にとてもよく適する。
【0128】
表15:疎水性側鎖を含む第3世代のAMPDのMIC、MHC及びTIの値
【表15】
【0129】
枯草菌及び大腸菌に対するAMPDの活性
広い範囲の異なる細菌をカバーするため、グラム陽性細菌である枯草菌BR151、及び別のグラム陰性細菌である大腸菌DH5αに対するAMPDの抗微生物活性をAMPDライブラリーで試験した。枯草菌に対する第3世代のAMPDのMICはすべて1〜10μg/mLの範囲のむしろ良い活性であり、MSt−179はより低い効果である(表16)。従って明確な構造活性相関は全く証明され得なかったが、明らかに疎水性アミノ酸のアラニン及びチロシンは活性の減少に重要な影響を及ぼすと考えられる。第3世代のAMPDを大腸菌に対して用いる場合、それらは緑膿菌と同じ効果の傾向を示す(表10)が、いくつかのペプチド、MSt−199、MSt−114、MSt−120は大幅に活性が低い。
【0130】
表16:第3世代のAMPDのMIC、MHC及びTIの値
【表16】
【0131】
第2世代のAMPDは枯草菌及び大腸菌のどちらにも活性がない一方、第2世代のAMPDは緑膿菌に非常に効果がある(表11)。1つの配列である、アミノ酸としてL−2、3−ジアミノ酪酸及びトリプトファンを含むMSt−176は例外であると考えられる。トリプトファンを含む第2世代のAMPDは枯草菌に対しても同様に活性があり、グラム陽性細菌に対する活性に関する、非常に疎水的なアミノ酸の考えられる作用を示唆する。さらにMSt−139及びMSt−119は16μg/mL及び20μg/mLでわずかに効果的であると考えられる。
【0132】
表17:第2世代のAMPDのMIC、MHC及びTIの値
【表17】
【0133】
より大きい第4及び第5世代のペプチドデンドリマーは、第2世代より枯草菌及び大腸菌に対する活性がずっと高いが、第3世代の類似体は同様の範囲である(表18)。低いMHCの値のため、第4及び第5世代のペプチドデンドリマーのTIは第3世代のAMPDのTIより低い。二量体のMICデータは表19に示す。
【0134】
表18:チオエーテル連結によって調製された、分岐間に2つのアミノ酸を含む第4及び第5世代のAMPDのMIC、MHC及びTIの値。
【表18】
【0135】
表19:(システインCによるホモ二量体化によって調製した)分岐間に2つのアミノ酸を含むペプチドデンドリマー二量体のアミノ酸配列、収率及びMS分析
【表19】
【0136】
既報の通り、1111の第3世代のAMPDは2〜5μg/mLの濃度で枯草菌に対する活性がある。同じトポロジーであるがリジン及びロイシンのみが異なる位置にある、MSt−148及びMSt−149は依然として活性があるが、効果は小さい(表20)。MSt−148及びMSt−149は、それらをアップスケールのための理想的なペプチドにさせるように、よい収率を伴って容易かつ迅速な合成されるにもかかわらず、今までのところMSt−148及びMSt−149は、グラム陰性及びグラム陽性細菌へは他のペプチドデンドリマーと同等の効果は示さなかった。
【0137】
表20:(分岐間に1つのアミノ酸を含む)1111の第3世代のAMPDのMIC及びTIの値
【表20】
【0138】
3333の第2及び第3世代のAMPDであるMIS−02、MIS−03、MIS−04、MIS−06及びMIS−08(表21)は全て枯草菌に対する活性が、0.5〜6μg/mLと非常に効果が高く、MIS−05を除いて緑膿菌よりもずっと良好であった。これらは全て非常に溶血性が高く、故にこれらのTIはMIS−04を除いて非常に低い。MIS−04は一般的なグラム陽性細菌のための、さらなる開発及び調査の有望な候補になるであろう。2233の第3世代のAMPD(YGO−008、YGO−009、YGO−010、YGO−011)は大腸菌についてのみ試験したが、緑膿菌と同等の範囲である、2〜3μg/mLという(表21)優れた活性を示した(表14)。
【0139】
表21:分岐間に2つ又は3つのアミノ酸を含む第3世代のAMPDのMIC、MHC及びTIの値
【表21】
【0140】
比較判断のため選択された2つの直鎖のペプチドであるMSt−117及びRHe−9は、緑膿菌(表12)と比較して、枯草菌及び大腸菌(表22)への活性において同じ傾向を示す。MSt−117は第3世代のAMPDより非常に低い効能であり、かつ非常に溶血性がある。RHe−9はグラム陽性細菌及びグラム陰性細菌の両方に非常に効果があり、かつ、溶血性がなく、結果として第3世代のAMPDと同等のTIである。
【0141】
表22:直鎖のAMPのMIC、MHC及びTIの値
【表22】
【0142】
表23は、ペプチドデンドリマーのC末端に疎水性炭素側鎖を含む、第2及び第3世代のAMPDを枯草菌及び大腸菌に対してリストする。全ての配列はMICが1〜6μg/mLで、両方の細菌に非常に高い効果がある。N末端にC
24の炭素鎖を含むMSt−285及びMSt−287、C
16の炭素鎖を含むMSt−302及びMSt−301、C
6の炭素鎖を含むMSt−260のようなほんの数個の例外があり、全て非常に疎水的であり、かつ緑膿菌に全く活性がない(表15)。それにもかかわらず、より溶血性が高くなると、より疎水的となり、結果としてより低いTIである(表23)が、依然として強力な場合は100より高い、MSt−261、MSt−262、MSt−263、MSt−264、MSt−265、MSt−266、MSt−267、MSt−284、MSt−286、MSt−288、MSt−290のような、依然として非常に効果の高いAMPDがある。従って、MSt−261、MSt−262、MSt−263、MSt−264、MSt−265、MSt−266、MSt−267は3種の試験細菌全てに対して非常に効果が高く、かつ大きな可能性がある。
【0143】
表23:1つ、4つ又は8つの疎水性側鎖を含む第2及び第3世代のAMPDのMIC及びTIの値
【表23】
【0144】
表24:C10アルキルカルボン酸側鎖を含む/含まないG2 AMPDのMH培地中で、ヒト血清存在下でのPAO1に対しての結果−アルキルカルボン酸側鎖のないG2はLB中では活性を示すが、MH中では活性がない;
【表24】
【0145】
表25:MH培地中のDabを含む化合物、及びDABを含まない化合物の、PAO1に対するMICの値。結果はトリプリケートで行った2つの独立した実験(MH培地、12〜18時間)に対してである
【表25】
【0146】
表26:MH培地中のDabを含む化合物、及びDABを含まない化合物の、緑膿菌MDR臨床分離株、黄色ブドウ球菌及びアシネトバクター・バウマニに対するMICの値。結果はトリプリケートで行った2つの独立した実験(MH培地、12〜18時間)に対してである
【表26】
【0147】
表27:緑膿菌及びアシネトバクター・バウマニにの薬剤耐性株に対するG3KLのMICの値
【表27】
【0148】
表28:数個の薬剤耐性病原体に対するG3KLのMICの値
【表28】
【0149】
臨床的な緑膿菌、黄色ブドウ球菌、アシネトバクター・バウマニ単離株に対するAMPDの最小発育阻止濃度及び耐性分析
最も有望な10個の化合物(
図5)について、緑膿菌の4つの単離株(ZEM9.A,ZEM1.A,PEJ2.6,PEJ9.1)、黄色ブドウ球菌の1つの単離株(COL,MRSA参考株)及び1つのアシネトバクター・バウマニ菌株に対する効率(efficiency)を試験した。ジュネーブにおける実験では、ペプチドデンドリマー及び参照化合物(ポリミキシン)はPBSに溶解され、2倍希釈のミューラー・ヒントン(MH)培養液によって分析された。
【0150】
4つの緑膿菌臨床単離株に対して試験をした全てのAMPDは20μg/mlより低い活性を示し、リシン(MSt−242)の代わりにアルギニンと結合した第3世代のデンドリマーのみが、緑膿菌EZM9.Aに対してわずかに高い活性を示した。これらの単離株は、イミペネム、メロペネム、トリメトプリム及びスルホンアミドのような汎用的に使われる抗生物質に対して耐性があり、それ故に代替物として高い可能性を有する。これらのAMPDは、もう1つの病原グラム陰性菌であるアシネトバクター・バウマニに対して6−19μg/mLの範囲の活性を示す。一度耐性を発現すると問題となり得る、グラム陰性菌である黄色ブドウ球菌はまた分析に含められ、第2世代AMPDのMst−176、Mst−263及び第3世代AMPDのMst−242は20μg/mLよりも低い活性を示した。
【0151】
ヒト血清中のAMPDの安定性
ペプチドデンドリマーは、前述のとおり、その直線の類似体と比較してタンパク質分解に非常に安定である。それらの分岐点である開裂部位は、プロテアーゼが作用し難いからである。分岐単位の間のアミノ酸の数もまた、より高い安定性にとって重要である。
【0152】
ペプチドは、プロテアーゼに対するAMPDの安定性を測定するために、最終的なペプチド濃度が100μmになるようにヒト血清(事前にDMEMにより希釈した)と混合され、かつ37℃において0、1、6又は24時間培養された。TCAによってタンパク質を沈殿させた後、溶液を分析的RP−UPLCにより分析した。24時間にわたって、AMPDのMSt−112及びMSt−181のシグナルは一定を維持し、それ故にタンパク質分解は起こらないか、又は少しだけ起こった。ところが、直線状のペプチドRHe−9(SEQ ID 1)は完全に消滅する。これは、このペプチドが24時間にわたり完全にタンパク質分解を起こすことを示唆している。興味深いことに、D−エナンチオマーのMSt−181に比べて、全てのL−エナンチオマーのMst−112は同じ挙動を示す。これは、L−エナンチオマーAMPDは既に十分に安定であり、かつD−エナンチオマーはその可能性としてある毒性は避けることができることを示す。AMPDのMst−114、Mst−136、Mst−138、Mst−139、Mst−140及びMst−176の安定性がまた調べられた。Mst−136、Mst−138及びMst−139は24時間安定であり、しかしながらペプチドデンドリマーMst−114及びMst−139は完全には分解しなかったが、少しの分解を示した。ヒト血清中の、天然L−アミノ酸のみが結合したペプチドデンドリマーの安定性は、天然でない物質が結合したペプチドと比較して、治療薬の開発において著しい優位点を示す。
【0153】
AMPDの安定性を示すもう1つの実験は、緑膿菌PAO1の細菌懸濁液とペプチドとの培養である。細菌をLB中で一晩培養し、OD
600=0.2まで希釈した。100μMの濃度になるようにペプチドを加えた後、サンプルを37℃で0、1、6、9、24時間培養した。懸濁液を95℃で5分加熱し、遠心分離した後、溶液はUPLCに供し、残ったペプチドはChromeleonソフトウェアを用いて分析した。分析は、24時間経った後でさえ、細菌懸濁液はAMPDのMst−112、Mst−114、Mst−136、Mst−138、Mst−139、Mst−140、Mst−176、及びMst−181を減成させないこと、一方で、RHe−9(SEQ ID 1)は9時間後において検出されないことを示した。
【0154】
真核生物及び原核生物の細胞膜にとってのモデル系としての、大規模単層ベシクル(LUVs)とAMPDとの相互作用
細菌膜は、曝されたアニオン性脂質の比較的多くを含む。一方で植物及び動物の膜の外側は、主に正味荷電のない脂質によって構成されている。そのような膜の荷電の構成はリン脂質小胞によって模倣され得る。負の電荷を帯びたPG(ホスファチジルグリセロール)又はPC(ホスファチジルコリン)を含む中性のリン脂質により構成された大規模単層ベシクル(LUVs)が調製され、5(6)−カルボキシフルオレセイン(CF)をカプセル化した。これらのLUVsはAMPDのMst−112、Mst−114、Mst−176、及びMst−181、並びに不活性なペプチドデンドリマーであるMst−138、Mst−139により、それぞれ異なる濃度で処理された。ホスファチジルグリセロールからのLUVs溶液に、50秒で活性のある第3世代のAMPDであるMst−112を加えたところ、蛍光の増加が起こった。Mst−112の濃度が高いほど、CFの漏出が多くなった(
図6A)。ホスファチジルグリセロールLUVsにおける(on)不活性なMst−113は100μm/mLにおいてさえも即座に増加を示すことはなく、時間が経過しても無視できる程度の漏出を示すのみであった(
図6B)。既知の膜攪乱物質であるポリミキシン並びに、全ての活性なAMPD(Mst−114、Mst−176、及びMst−181)は、ペプチドの添加に伴い、同様のCFの即座の漏出を示す。細菌中でのタンパク質の生合成を妨害する抗生物質であるMst−138及びトブラマイシンは、Mst−113のようにCFの漏出を示さない。一方で、同じ濃度における活性なAMPDとは異なって、Mst−139はCFを漏出する。全ての活性なAMPDは負の電荷を帯びた膜と相互作用を起こし、CFを漏出する。それ故に、膜の透過処理及び攪乱は起こりそうに思われるが、一方で、不活性なペプチドはLUVsの脂質と部分的に相互作用するか又は相互作用しない。
【0155】
Mst−112がホスファチジルコリン由来のLUVs溶液に供された場合、MIC値と比較して非常に高い濃度でさえ、CFは漏出しない(
図7A)。他の全ての活性なAMPD及びポリミキシンは同様にふるまう。一方で、高い疎水性の第2世代ペプチドであり、他に比べてより高い溶血性を示す(表11)Mst−176は、CFの漏出を誘発する。Mst−113(
図7B)、Mst−138及びMst−139並びにトブラマイシンはCFを漏出しないという同じ挙動を示す。
【0156】
第2世代(Mst−260、Mst−261、Mst−262、Mst−263)及び第3世代(Mst−264、Mst−265、Mst−266、Mst−267)AMPDに炭素の側鎖を導入した場合は、ホスファチジルグリセロールLUVs溶液に、Mst−112と同様の方法で、50秒でさまざまな濃度でペプチドデンドリマーを添加した後に、CFは即座に漏出する(
図8AのMst−260に示されている)。唯一の違いは、様々な濃度における第2世代及び第3世代AMPDの強度である。1つの追加の世代では、同一の濃度で増加する蛍光はより高い。従って、これらの全てのAMPDは負の電荷を帯びたモデル膜と相互作用し、完全な状態の膜を妨害して、CFを漏出させる。正味荷電が無いモデル膜であるホスファチジルコリンが使用された場合は、CF漏出は高いペプチドデンドリマー濃度においてのみ観察される(
図8BのMst−260)。疎水性側鎖中の炭素原子数の増加に伴って、CF漏出の強度は強くなる。これはhRBCの溶解に一致し、ここでより長い炭素鎖はより低い濃度における溶血を誘発する。
【0157】
殺菌の反応速度論
AMPDの殺菌反応速度論を明らかにするために、AMPDと培養した後の時間関数としての生菌量を測定した。生菌を検知するためのWST−8を用いた分析を使用した(Roehm,N.W.et al.,1991,J.immunol.Methods,142,257−265;Chang,J.−Y.et al.,1991 Anal.Biochem,197,52−58)。それ故緑膿菌は、生菌に比例する、ホルマザンの450nmの吸光度を測定する前に、AMPD又は不活性なペプチドデンドリマーにより、25μm/mLの濃度で、0、1、3、6、8、24時間培養した。
図9は24時間に渡る細菌生存を示す。全てのAMPD(Mst−112、Mst−176、Mst−181)は、ペプチドデンドリマーの添加直後に、細菌の少なくとも60%がまだ生きているという、同じ挙動を示した。ほとんどのAMPDは、完全な殺菌に3時間を要する。参照化合物であり、緑膿菌を即座に殺菌するポリミキシン及びトブラマイシンと比較して、AMPDはより遅く作用するようである。予期されるとおり、不活性なペプチドデンドリマーMst−138及びMst−139は、24時間後に細菌量を減少させることはできなかった。AMPDのMst−114の性能として、それは非常に強いものであるが、他のAMPDとは異なる。24時間後においてのみ、ほぼ全ての細菌が殺菌された。
【0158】
コアにおいてC
8(Mst−261及びMst−263)又はC
12(Mst−265及びMst−267)の炭素側鎖と結合する第2世代及び第3世代AMPDと、Mst−112とを比較すると、異なる挙動が現れた。すなわち添加のすぐ後に60%の細菌が殺菌され、1時間後にその数は既にゼロになった。それ故、炭素側鎖の結合は殺菌の反応速度論を変化させると思われる。この分析は、AMPDの殺菌の反応速度論の第1の示唆を与えるが、生体外での殺菌に要する時間を決定するためには、さらなる実験が必要である。
【0159】
耐性分析
AMPDがどのぐらい早く耐性を発現し得るかの初期の見積りのために、MICを15日連続して繰り返し測定し、測定日毎に決定した。通常の培養液希釈分析法においてMIC値を得た後、1/2MICウェルからの細菌(枯草菌)を2〜5時間培養し、希釈分析を繰り返した。この手順は15日実行され、測定日毎のMICが比較された。MICが増加する場合には、AMPDに対する耐性が示唆される。この実験においては、とても効力の強いMst−112、Mst−176、Mst−181は15日に渡ってそのMIC値は著しく変化することはなかった。これに対して、効力がより弱いMst−114、Mst−139、Mst−140は、5〜10日後において、既に活性の喪失を示した。
【0160】
AMPDの毒性−ラットを用いた予備の生体内試験
KLモチーフ(motive)を含む第3世代のAMPDであるMst−112化合物、Mst−181のD−エナンチオマー類似体、RLモチーフ(motive)を含む第3世代のAMPDであるMst−242、及びリシンの代わりにチロシンを含む第3世代のMst−114が、毒性を査定するための、雄のウィスター系ラットを用いた生体内試験に使用された。これらの化合物は、それらの活性に比べて少なくとも10倍の高さである、高いMHC値及びその効力の強さのために選ばれた。それぞれの化合物(2mg/kgの濃度である)は、AMPDの耐性が十分に発現しているか、又は副作用を引き起こし得るかを観察するために、2匹のラットに対し、尾の静脈注射に適用された。MICより約5〜10倍高い濃度を使用した。AMPDのMst−112及びMst−242を注入した後、ラットは標準的な振る舞いをし、かつ目に見える効果は観察されなかった。AMPDのMst−114及びMst−181の注入により、四肢がわずかに青みを帯びたが、これは約5分の後に治まった。ラットは標準的な振る舞いをした。ラットを2日間観察した結果、ラットの振る舞いに異常は見られず、また生存率は100%であった。500μLのPBSを注入したか、又は注入をしていないコントロールのラットはまた、2日の間に標準的な振る舞いを示し、かつ100%の生存率を示した。それ故、ラットはAMPDによく耐え、目に見えるサイト効果又は傷さえもないように思われた。
【0161】
結論
病原性のグラム陰性菌である緑膿菌に対する、78の化合物のペプチドデンドリマーライブラリーのスクリーニングの後、赤血球の、低い溶血性及び高い活性を持つのいくつかのデンドリマーが発見された。いくつかは第2世代のペプチドデンドリマー(Mst−138、Mst−139、Mst−176)であり、他は第3世代のペプチドデンドリマー(Mst−112、Mst−181、Mst−242)である。グラム陰性菌である大腸菌及びグラム陰性菌である枯草菌に対する追加のスクリーニングによって、Mst−176、Mst−112、Mst−118及びMst−242の幅広い効果が明らかとなった。緑膿菌は一般的な抗生物質に対する耐性を示すが、この臨床単離株によるさらなる研究において、第2世代のAMPDであるMst−176及び第3世代のAMPDであるMst−112、Mst−118及びMst−242は同様に有効であった。グラム陰性菌でアシネトバクター・バウマニに対して、それらはいくらかの活性を示した。
【0162】
C6からC
12の範囲のアルキル鎖を、第2世代のAMPDのコアに結合させることで、より広い殺菌スペクトルを持つ抗菌剤が生成された。これらの配列はまたアシネトバクター・バウマニ及び院内耐性菌に対して有効である。最良の化合物の活性は、クリニックで最後の手段として使用される、効力がとても強いポリミキシンの活性と同じ範囲にある。他のペプチド性化合物と比較した際のAMPDの優位点は、それらのヒト赤血球への低毒性、プロテアーゼによる分解が遅いこと、及び天然のアミノ酸のみが存在することである。集められた証拠は同様に、細胞膜が崩壊し、細胞が溶解し、かつ細菌が死滅する作用機構を指し示す。緑膿菌変異株、LUVs及び殺菌反応速度論の実験は細胞膜崩壊に向けられる。ここで、LPS構造はペプチドデンドリマーを妨害しない。それ故、AMPDを用いた治療は耐性を急速に発現させることはなさそうである。
【0163】
我々の、新種の抗菌剤である、分岐単位の間の2又は3のアミノ酸を含むAMPDは、非毒性であり安定な系である。これは、好収率で容易に合成され、生体外で、ヒト病原体に対して高い効果を示す。活性な配列はアルキル鎖を含む又は含まない(with or without)第3世代、第2世代である可能性がある。ペプチドデンドリマーは、1つの精製工程のみを伴って固相担体上で調製され、より低位の世代の2つのデンドリマー(ccs−20を見よ)から溶液中に集められ、好収率で第3世代のデンドリマーを提供する。構造の柔軟さは、直線又は環状の対応物では見られない、我々のペプチドデンドリマーの比類のない特徴であり、かつ、希望の薬物動態を持つ化合物を得るための更なる適正化に関する優位点を与える。記載された生体外の試験は、今、生体内の試験の枠組みを示し、これはペプチドデンドリマーに基づいた治療薬の開発の目標に向かう工程となるだろう。
【0164】
ヒト血清(MH培地中の30%血清)の存在下での抗菌活性が調べられ、MH培地中で観察された低いMICを維持するためにG3KLが示された。タンパク質分解安定性を測定し、MH培地中で非常に高い活性を示すが、血清中ではタンパク質分解のために効力を失う直線の配列と対照的に、G3KLは血清中で極めて安定であった。
【0165】
他剤耐性病原体の大形のパネル(pannel)を、G3KLにより調べた。デンドリマーは、耐性のメカニズムから独立して試験された緑膿菌及びアシネトバクター・バウマニのほぼ全ての株に対して、非常に高い活性を示した。G3KLのMBCがまた調べられ、これは、デンドリマーがMICと同一又は非常に近いMBCの値で殺菌力を示した。デンドリマーは、延長して暴露した後で、ヒトの細胞に対して非毒性であった。
【0166】
コアG2KLC10において、脂質側鎖C10(CO(CH
2)
8CH
3)を含む第2世代ペプチドデンドリマー及び類似体はまた、緑膿菌(PA)に対して非常に高い活性を示すことが発見された。とりわけ、臨床単離株を含むPAに対して非常に高い活性を示す3つの新しい化合物が特定される可能性がある。加えて、1つのG2C10であるAMPDがMRSAに対して良好な活性を示した。第2世代のデンドリマーは第3世代のデンドリマー(G2KL 17アミノ酸残基及びG2KL 37アミノ酸残基)よりも小さいが、脂質鎖を含むG2デンドリマーは血清の存在下で活性を示し、かつ血清中で良好な安定性を示す(G2KLC10及びTNS−122を見よ)。