(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6553725
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】燃料噴射装置
(51)【国際特許分類】
F02M 61/14 20060101AFI20190722BHJP
F02M 61/16 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
F02M61/14 320A
F02M61/14 320P
F02M61/16 K
F02M61/16 L
【請求項の数】12
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-532067(P2017-532067)
(86)(22)【出願日】2015年10月26日
(65)【公表番号】特表2018-500500(P2018-500500A)
(43)【公表日】2018年1月11日
(86)【国際出願番号】EP2015074702
(87)【国際公開番号】WO2016096204
(87)【国際公開日】20160623
【審査請求日】2017年6月15日
(31)【優先権主張番号】102014225976.2
(32)【優先日】2014年12月16日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100147991
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 健一
(72)【発明者】
【氏名】バイヤー、ヨハン
(72)【発明者】
【氏名】ラインハルト、ヴィルヘルム
【審査官】
稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−067663(JP,A)
【文献】
特表2000−517032(JP,A)
【文献】
特表2008−523316(JP,A)
【文献】
特開2010−127193(JP,A)
【文献】
特開2006−283831(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/079609(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0265767(US,A1)
【文献】
特開2010−138810(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 39/00−71/04,
F16D 3/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃料噴射システムの燃料噴射装置であって、前記燃料噴射装置は、少なくとも1つの燃料噴射弁(1)と、前記燃料噴射弁(1)のための収容孔(20)と、を備え、分離要素(25)が、前記燃料噴射弁(1)の弁ハウジング(22)と、前記収容孔(20)の内壁と、の間に導入される、前記燃料噴射装置において、
前記分離要素(25)は、止め輪(29)が前記分離要素(25)の下方の前記燃料噴射弁(1)の外周面に、前記分離要素(25)及び前記収容孔(20)の内壁から離されて取り付けられており、前記止め輪(29)が閉じたプラスチックリングであることで、脱落不能に前記燃料噴射弁(1)に配置されていることを特徴とする、燃料噴射装置において、
前記止め輪(29)は、様々な方向に突出する機能領域を有する中実の構成要素であり、
径方向に最も内側に存在する前記機能領域は、取付領域(30)であり、前記取付領域(30)は、前記弁ハウジング(22)に作り込まれた溝(31)と対応しており、
前記取付領域(30)を起点として、前記分離要素(25)の方向を指す傾斜領域(32)が設けられ、前記傾斜領域(32)は、事前位置決めのための挿入傾斜部を備える、
ことを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項2】
内燃機関の燃料噴射システムの燃料噴射装置であって、前記燃料噴射装置は、少なくとも1つの燃料噴射弁(1)と、前記燃料噴射弁(1)のための収容孔(20)と、を備え、分離要素(25)が、前記燃料噴射弁(1)の弁ハウジング(22)と、前記収容孔(20)の内壁と、の間に導入される、前記燃料噴射装置において、
前記分離要素(25)は、止め輪(29)が前記分離要素(25)の下方の前記燃料噴射弁(1)の外周面に、前記分離要素(25)及び前記収容孔(20)の内壁から離されて取り付けられており、前記止め輪(29)が閉じたプラスチックリングであることで、脱落不能に前記燃料噴射弁(1)に配置されていることを特徴とする、燃料噴射装置において、
前記止め輪(29)は、様々な方向に突出する機能領域を有する中実の構成要素であり、
下方に向かって突出する前記機能領域は、環状カラー形状に実現されたセンタリング領域(34)である、
ことを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項3】
内燃機関の燃料噴射システムの燃料噴射装置であって、前記燃料噴射装置は、少なくとも1つの燃料噴射弁(1)と、前記燃料噴射弁(1)のための収容孔(20)と、を備え、分離要素(25)が、前記燃料噴射弁(1)の弁ハウジング(22)と、前記収容孔(20)の内壁と、の間に導入される、前記燃料噴射装置において、
前記分離要素(25)は、止め輪(29)が前記分離要素(25)の下方の前記燃料噴射弁(1)の外周面に、前記分離要素(25)及び前記収容孔(20)の内壁から離されて取り付けられており、前記止め輪(29)が閉じたプラスチックリングであることで、脱落不能に前記燃料噴射弁(1)に配置されていることを特徴とする、燃料噴射装置において、
前記止め輪(29)は、様々な方向に突出する機能領域を有する中実の構成要素であり、
前記止め輪(29)は、その上側及び下側にそれぞれ複数の部分環状のウェブ領域(42)を有し、前記ウェブ領域(42)は、互いに間隔を取って前記止め輪全体に亘って形成される、
ことを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項4】
前記部分環状のウェブ領域(42)は、各平面上の突出部が互いにずれて形成されており、従って、一の面上の前記ウェブ領域(42)間の空所に対して常に、他の面上の前記ウェブ領域(42)が対向することを特徴とする、請求項3に記載の燃料噴射装置。
【請求項5】
径方向に最も外側に存在する前記機能領域は、保持領域(33)であり、前記保持領域(33)は、前記収容孔(20)に前記燃料噴射弁(1)を組み込む前に前記分離要素(25)が前記燃料噴射弁(1)から滑り落ちることが排除される程度にまで、径方向に前記分離要素(25)を下から把持することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の燃料噴射装置。
【請求項6】
内燃機関の燃料噴射システムの燃料噴射装置であって、前記燃料噴射装置は、少なくとも1つの燃料噴射弁(1)と、前記燃料噴射弁(1)のための収容孔(20)と、を備え、分離要素(25)が、前記燃料噴射弁(1)の弁ハウジング(22)と、前記収容孔(20)の内壁と、の間に導入される、前記燃料噴射装置において、
前記分離要素(25)は、止め輪(29)が前記分離要素(25)の下方の前記燃料噴射弁(1)の外周面に、前記分離要素(25)及び前記収容孔(20)の内壁から離されて取り付けられており、前記止め輪(29)が閉じたプラスチックリングであることで、脱落不能に前記燃料噴射弁(1)に配置されていることを特徴とする、燃料噴射装置において、
前記分離要素(25)は、リング状のリング部として実現され、前記リング部は、前記収容孔(20)の肩部(23)に載置される下方の端面(26)を有し、及び、前記リング部は、上方の端面(27)を有し、前記上方の端面(27)は、径方向の外側から径方向の内側に向かって円錐状に上昇しつつ延びており、及び、前記燃料噴射弁(1)の前記弁ハウジング(22)の、球面状に湾曲した肩部端面(21)と接触する、
ことを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項7】
前記リング部は、閉じたリング部であることを特徴とする、請求項6に記載の燃料噴射装置。
【請求項8】
前記分離要素(25)は、射出成形されたプラスチック要素、又は、冷間成形されたアルミニウム要素であることを特徴とする、請求項6又は7に記載の燃料噴射装置。
【請求項9】
前記分離要素(25)は、前記燃料噴射弁(1)の方向へ径方向に内側に向かって内方遊隙が存在し、前記収容孔(20)の前記内壁の方向へ径方向に外側に向かって外方遊隙が存在するように、組み込まれており、前記外方遊隙が前記内方遊隙よりも小さいことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の燃料噴射装置。
【請求項10】
前記分離要素(25)は、円錐状に延びるその上方の端面(27)の領域で、公差補正のために、前記燃料噴射弁(1)との変向可能又は傾動可能な連結を行うことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の燃料噴射装置。
【請求項11】
前記燃料噴射弁(1)のための前記収容孔(20)は、シリンダヘッド(9)の内部に形成され、前記収容孔(20)は肩部(23)を有し、前記肩部(23)は、前記収容孔(20)の伸張に対して直交して延びており、前記肩部(23)には前記分離要素(25)が載置されることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の燃料噴射装置。
【請求項12】
前記燃料噴射装置は、前記内燃機関の燃焼室に燃料を直接噴射するための燃料噴射装置であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の燃料噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立請求項の前提部に記載の燃料噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図1には、従来技術で公知の燃料噴射装置が例示されており、ここでは、内燃機関のシリンダヘッドの収容孔の中に組み込まれた燃料噴射弁に、平坦な中間要素が設けられている。公知のやり方で、このような中間要素が、平座金の形態による支持要素として、シリンダヘッドの収容孔の肩部に載置される。このような中間要素によって、製作公差及び組立公差が補正され、燃料噴射弁が軽く傾いた際にも、横方向の力が掛からない支持が保証される。燃料噴射装置は、特に、混合気圧縮型の火花点火式内燃機関の燃料噴射システムでの使用に適している。
【0003】
燃料噴射装置のための簡素な中間要素の他の形態が、既に独国特許出願公開第10108466号明細書に開示されている。中間要素は、環状の横断面を有する座金であり、この座金は、燃料噴射弁とシリンダヘッドの内部の収容孔の内壁とが切頭円錐状に延びる領域内に配置されており、燃料噴射弁の支承及び支持のための補正要素として機能する。
【0004】
より複雑で製造時に明らかにより多くのコストが掛かる、燃料噴射装置のための中間要素が、独国特許出願公開第10027662号明細書、独国特許出願公開第10038763号明細書、及び欧州特許出願公開第1223337号明細書に開示されている。上記中間要素は、これらが全て、複数の構成要素から構成され又は多層に構成されており、部分的にはシール機能及び緩衝機能を果たすという点で卓越している。独国特許出願公開第10027662号明細書に開示された中間要素は、ベース支持体を備え、このベース支持体では、燃料噴射弁のノズル本体が貫通するシール手段が使用されている。独国特許出願公開第10038763号明細書には、多層の補正要素が開示されており、この補正要素は、2つの硬いリング部と、その間にサンドイッチ状に配置された弾性の中間リング部と、で構成される。この補正要素によって、比較的大きな角度範囲に亘る収容孔の軸線に対する燃料噴射弁の傾動が可能となり、さらに、収容孔の中心軸線からの燃料噴射弁の径方向の変位が可能となる。
【0005】
同じように多層の中間要素が、欧州特許出願公開第1223337号明細書にも開示されており、ここでは、上記中間要素は、緩衝材から成る複数の平座金で構成されている。その際に、燃料噴射弁の駆動により生じる振動及び騒音の騒音緩衝が可能となるように、金属、ゴム、又はPTFE(polytetrafluoroethylene、ポリテトラフルオロエチレン)から成る緩衝材が選択されて設計されている。しかしながら、中間要素は、所望の緩衝効果を得るために、4〜6層を含んでいる必要がある。
【0006】
騒音放出を低減するために、米国特許出願公開6009856号明細書ではさらに、燃料噴射弁をスリーブで包囲し、発生した隙間の空間を、弾性の騒音緩衝材で充填することが提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
但し、この形態による騒音緩衝には、非常に費用が掛り、組立に手間が掛り、さらに高コストである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の固有の特徴を備えた本発明に係る燃料噴射装置には、以下のような利点があり、即ち、非常に簡単にかつ低コストで、分離要素のための脱落防止部を燃料噴射弁に取り付けることが可能であり、これにより、収容孔に燃料噴射弁を挿着する前に分離要素が滑り落ちることが排除される。コンパクトかつ中実で、精巧な細工が施された止め輪であって、分離要素の下方の燃料噴射弁の外周面に配置された上記止め輪が、本発明に基づいて、上記脱落防止部としての機能を果たす。
【0009】
止め輪は、非常に簡素で容易に製造可能なその幾何学的形状及び輪郭にも関わらず、特に高次の機能統合により卓越している。なぜならば、中実の構成要素である止め輪には、様々な方向に突出する機能領域が形成されるからであり、この機能領域は、保持、固定、センタリング、事前センタリング、並びに、損傷が生じない挿入及び取り付けのために役立つ。
【0010】
従属請求項に記載された措置によって、請求項1に示された燃料噴射装置の有利な発展形態及び改善策が可能である。
【0011】
分離要素は、低い全高により卓越しており、これにより、設置空間が小さい際にも分離要素が使用されうる。さらに、分離要素は、高温でも耐疲労性が高い。分離要素は、製造技術的には非常に簡単かつ低コストで製造可能である。さらに燃料噴射弁及び分離要素から成るシステムの全ての実装が、簡単かつ迅速に取り付けられ又は取り外されうる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本発明の実施例が、図面に簡素化されて示されており、以下の明細書の記載において詳細に解説される。
【
図1】ディスク状の中間要素を含む公知の実現による燃料噴射弁を部分的に示す。
【
図2】通常のばね−質量−緩衝系を表した、燃料直接噴射におけるシリンダヘッド内での燃料噴射弁の支持の機械的な等価回路図を示す。
【
図3】共振振動数f
Rの範囲内の低い振動数での増幅と、分離振動数f
Eを上回る分離範囲と、が示された、
図2に示されたばね−質量−緩衝系の伝達特性を示す。
【
図4】燃料噴射弁の近傍の、
図1に示されたディスク状の中間要素の領域に組み込まれた状態での本発明の実施形態に係る燃料噴射装置の断面図を示す。
【
図6】本発明の実施形態に係る止め輪の代替的な実現を示し、
図5に類似した図で組み込み状況を示している。
【
図7】本発明の実施形態に係る止め輪の代替的な実現を示し、一構成要素としての止め輪を斜めから見た上面図で示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の理解のために、以下では
図1を用いて、公知の実施形態による燃料噴射装置を詳細に説明する。
図1には、一実施例として、混合気圧縮型の火花点火式内燃機関の燃料噴射システムのための噴射弁1の形態による弁の側面図が示されている。燃料噴射弁1は、燃料噴射装置の構成要素である。下流側の末端では、内燃機関の燃焼室25へと燃料を直接噴射する直噴用噴射弁の形態により実現された燃料噴射弁1が、シリンダヘッド9の収容孔20の中に組み込まれている。特にテフロン(登録商標)製のガスケット2によって、シリンダヘッド9の収容孔20の内壁に対する燃料噴射弁1の最適な密封がもたらされる。
【0014】
弁ハウジング22の付設部21と、収容孔20の、例えば当該収容孔20の長手方向の伸長に対して直交して延びる肩部23と、の間には、平座金の形態による支持要素として実現された平坦な中間要素24が挿入されている。このような中間要素24によって、製作公差及び組立公差が補正され、燃料噴射弁1が軽く傾いた際にも横方向の力が掛からない支持が保証される。
【0015】
燃料噴射弁1は、その入り口側の末端3に、燃料分配管(燃料レール)4への差込接続部を有し、差込み接続部は、燃料分配管4の、断面が示された接続管片6と、燃料噴射弁1の入口管片7と、の間のガスケット5によって密封されている。燃料噴射弁1は、燃料分配管4の接続管片6の収容開口部12に差し込まれている。その際に、接続管片6は、元の燃料分配管4から例えば一体に出ており、収容開口部12の上流側には、直径がより小さな流れ開口部15を有し、この流れ開口部15を介して、燃料噴射弁1への燃料の流入が起きる。燃料噴射弁1は、燃料噴射弁1を操作するための電気接触のための電気コネクタ8を有する。
【0016】
径方向の力が掛からないように、燃料噴射弁1と燃料分配管4との互いの間隔を十分に取り、燃料噴射弁1をシリンダヘッドの収容孔に確実に押さえつけるために、押さえ部10が、燃料噴射弁1と接続管片7との間に設けられる。押さえ部10は、U字状の構成要素として、例えばプレス曲げ加工部として実現される。押さえ部10は、部分環状のベース要素11を有し、このベース要素11から湾曲して、押さえ付け湾曲部13が延びている。押さえ付け湾曲部13は、組み込まれた状態で、燃料分配管4の接続管片6の下流側の端面14に接触する。
【0017】
公知の中間要素による解決策に対して、一方では、簡単なやり方で中間要素24の合目的的な設計及び幾何学的形状によって、改善された騒音緩衝が達成され、特に騒音が酷いアイドル駆動時の事態が解消され、他方では、1°までの燃料噴射弁の傾動を許容する公差補正と、温度による影響下での横方向の力が掛からない駆動と、が簡単かつ低コストで可能にされる。直接的な高圧噴射における燃料噴射弁1の決定的な騒音源は、弁の駆動中にシリンダヘッド9へと導入された力(固体伝播音)であり、この力が、シリンダヘッド9への構造的刺激に繋がり、シリンダヘッド9から空気伝播音として発せられる。従って、騒音改善を達成するために、シリンダヘッド9に導入される力を最小にすることが目指される。このことは、噴射に起因する力の低減の他に、燃料噴射弁1とシリンダヘッド9との間の伝達特性に影響を与えることによっても達成されうる。
【0018】
機械的な意味では、シリンダヘッド9の収容孔20内のパッシブな(passiv)中間要素24での燃料噴射弁1の支承は、
図2に示すように、通常のばね−質量−緩衝系として表される。ここでは、シリンダヘッド9の質量Mは、燃料噴射弁1の質量mに対して、第一次近似では無限に大きいと仮定されうる。このような系の伝達特性は、共振振動数f
Rより低い範囲内の振動数での増幅と、分離振動数f
Eを上回る範囲での分離と、により特徴付けられる(
図3参照)。
【0019】
環形状に、特に閉じたリング部として実現され断面がクッション状に実現された本実施形態に係る分離要素25の小さいばね定数cを利用した、シリンダヘッド9からの燃料噴射弁1の分離は、狭い設置空間の他に、エンジン稼働中の燃料噴射弁1の許容される最大移動の制限によって困難となる。車両では、典型的に、以下のような準静的負荷状態が発生する。即ち、
1.組み立ての後に押さえ部10により印加される静的な押さえ力F
NH、
2.アイドル作動圧力で存在する力F
L、及び、
3.公称システム圧力で存在する力F
Sys
【0020】
燃料直接噴射の典型的な境界条件(小さな設置空間、大きな力、燃料噴射弁1の小さな軸方向総移動量)下での騒音遮断対策を、簡単で安価なやり方で実施しうるために、分離要素25は、そのリング状の形状に沿ってクッション状の断面を有しながら、以下のように形成されており、即ち、例えばほぼ平坦な下方の端面26であって、シリンダヘッド9の内部の収容孔20の肩部23に載置される上記下方の端面26が設けられ、及び、径方向に外側から径方向に内側に向かって円錐状に上昇しつつ延びる上方の端面27であって、燃料噴射弁1の弁ハウジング22の、球面状に湾曲した肩部端面21と接触する上記上方の端面27が設けられるように、形成されている。
【0021】
図4は、燃料噴射弁1の近傍の、
図1に示されたディスク状の中間要素24の領域に組み込まれた状態での、係る分離要素25の断面図を示しており、ここでは、中間要素24が、本実施形態に係る分離要素25と置換されている。
【0022】
本発明に基づいて、分離要素25は、止め輪29が分離要素25の下方の燃料噴射弁1の外周面に取り付けられることで、脱落不能に(verliergesichert)燃料噴射弁1に配置されている。ここでは、止め輪29は、閉じたプラスチックリングである。止め輪29は、小さくコンパクトに実現され及び様々な方向に突出する機能範囲を有する中実の構成要素として卓越している。OEM(original equipment manufacturer)製造業者で、内燃機関のシリンダヘッド9内で燃料噴射弁1及び分離要素25を一緒に取り付け及び取り外すことを可能とするために、分離要素25を、脱落不能に燃料噴射弁1に固定する必要がある。このようにして、OEM製造業者は、アセンブリ全体を取り扱うだけでよい。
【0023】
図5では、
図4からの抜粋部分Vとして、分離要素25及び止め輪29が拡大された詳細図で示されている。径方向に最も内側に存在する機能領域は、取付領域30であり、この取付領域30は、弁ハウジング22に作り込まれた溝31と対応している。取付領域30を起点として、分離要素25の方向を指す傾斜領域32が伸びており、この傾斜領域32は、事前位置決め機能を果たす挿入傾斜部を備えている。径方向に最も外側に存在する機能領域は、保持領域33であり、この保持領域33は、収容孔20に燃料噴射弁1を組み込む前に分離要素25が燃料噴射弁1から滑り落ちることが排除される程度にまで、径方向に分離要素25を(少なくとも組み込まれた状態において軸方向に小さな間隔を取って)下から把持する。下方に向かって突出する機能範囲は、センタリング領域34であり、このセンタリング領域34は、環状カラー形状に実現されており、隙間嵌めにより弁ハウジング22に隣接する。
【0024】
本発明に基づいて、燃料噴射弁1が歪んだ場合/傾動した場合にシリンダヘッド9の収容孔20の内壁と止め輪29との接触が生じないように、止め輪29はコンパクトにその外形寸法が形成されている。このことは、他方では、燃料噴射弁1への横方向の力の入力に繋がり、これにより、望まれぬたわみが生じることになるであろう。さらに、全寿命に渡る、燃料噴射弁1での止め輪29の確実な固定がもはや保証されないであろう。
燃料噴射弁2への装着の前に、プラスチック製の止め輪29にはコンディショニング(状態調整)処理が施される。その際には、プラスチックに合目的的に、膨潤のために例えば水が添加される。これにより、その延性が向上し、その際に、特にプラスチック構造に亀裂が生じることがない。続いて、止め輪29が、弁ハウジング22のフランジ部37を介して引き伸ばされる。その際に発生する負荷は、止め輪29のために特別にコンディショニング処理された状態により、差し障りがない。装着プロセスを確実に、信頼性高く実行しうるために、燃料噴射弁1は、そのフランジ部37に、例えば30°の挿入傾斜部を有する。その際に、挿入傾斜部の上方に設けられた、フランジ部37の短い円筒状の部分が、装着時の止め輪29の反転を確実に防止する助けとなる。止め輪29の径方向の事前位置決めを可能とするために、止め輪には、例えば45°の挿入傾斜部を有する傾斜領域32が備えられる。弁ハウジング22に作り込まれた溝31によって、傾斜領域32に連接する取付領域30が受け止められ、従って組み込まれた状態において、分離要素25との接触が生じず又は座部が分離要素25の「ブロック」に存在することが防止される。そうでなければ、燃料噴射弁1の変向可能性が著しく制限されるであろう。装着された状態において、止め輪29は、圧入により溝31に敷設され、即ち、止め輪29の最大内径は、弁ハウジング22の溝底部の最小外径よりも小さい。アセンブリ、即ち燃料噴射弁1/分離要素25/止め輪29が収容孔20へと挿着された後で、プラスチックの含水率が再び元の規模にまで下げられ、これにより、燃料噴射弁1での締り嵌めが再び強められる。
【0025】
示される実施例では、分離要素25は、その上側に、円錐状又はコーン状に延びる端面27を有し、この端面27は、組み込まれた状態において、燃料噴射弁1の弁ハウジング22の肩部端面21であって、ボール状若しくは球面状に実現され凸面状に湾曲した上記肩部端面21と対応している。その際に、弁ハウジング22の肩部端面21は、径方向に外側に向かって伸びる肩部28に形成されている。弁ハウジング22の肩部端面21は、一貫して球面状に湾曲して延びている必要はない。即ち、そのような成形は、分離要素25の円錐状に延びる端面27との接触領域内に施すだけで十分である。分離要素25の2つの内側及び外側のリング状外被面への上方の端面27及び下方の端面26の各移行部は、丸く面取りされうる。弁ハウジング22の球面状に湾曲した肩部端面21と、分離要素25の円錐状又はコーン状に延びる端面27と、に設けられた湾曲部の、鈍角又は大きな半径という幾何学的形状が、径方向に内側への燃料噴射弁1との比較的大きな遊隙及び径方向に外側への収容孔20の内壁との小さな遊隙と関連して、射出成形可能なプラスチック要素又は冷間成形されたアルミニウム要素の使用を可能にする。このような分離要素25は、安価で製造され、所望のやり方で固体伝播音を遮断する。
【0026】
弁ハウジング22の僅かに凸面状に湾曲した肩部端面21と協働して、公差補正のための変向可能又は傾動可能な連結が生じる。許容される製造変動の枠組みにおいて、燃料噴射弁1と収容孔20との間にずれが生じた際には、燃料噴射弁1が軽く傾いたポジションとなりうる。燃料噴射弁1と分離要素25との間の変向可能な連結によって、燃料噴射弁1が傾いた際の横方向の力がほぼ回避される。分離要素25に設けられたカラー部38であって、収容孔20の肩部23を超えて止め輪29の方向に突出しており、傾斜を付けて実現された上記カラー部38によって、傾動の場合の分離要素25のより良好な安定化がもたらされ、又は、止め輪29の径方向の寸法が小さくても分離要素25がカラー部38の領域内で既に確実に下から把持されるため、止め輪29の非常にコンパクトな実現が可能となる。
【0027】
図6及び
図7には、本実施形態に係る止め輪29の代替的な実現が示されており、
図6は、組込み状況を示しており、
図7は、一構成要素としての止め輪29を斜めから見た上面図を示している。本実現による止め輪29も、コンパクトで中実の、閉じたプラスチックリングである。この変形例による止め輪29によって、有利に、燃料噴射弁1の製造工場での、方向付けが行われない装着の可能性がもたらされる。
図4及び
図5に示した実現の場合、止め輪29は、傾斜領域32として形成された自身の事前位置決め鋭角面により方向付けられた形で組立ラインに供給され、これにより、或る程度誤りが生じやすくなる。
【0028】
止め輪29は、その上側及び下側がほぼ対称的に実現される。従って、燃料噴射弁1のどの位置に止め輪29が装着されても構わない。止め輪29は、両方の組み込み方向において、装着及び機能に関して同じように振る舞う。第1の実施例による環状カラー形状のセンタリング領域34と同様に、止め輪29の基体から上方及び下方に向かって、部分環状のウェブ領域42が突出しており、このウェブ領域42に関して、例えば6個のウェブ領域42が互いに間隔を取って止め輪全体に亘って形成されている。その際に、止め輪29の上側及び下側は、ほぼ対称的に構成されている。というのは、ほぼ台形状の断面をした一続きのウェブ領域42が、例えば30°ずつずらして配置されており、1の側のウェブ領域42間の空所に対して常に、他の側のウェブ領域42が対向している。このような形成には、強度技術の面でも、射出成形技術の面でも利点がある。