特許第6553739号(P6553739)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6553739ガス回収装置、ガス回収方法、及び、半導体洗浄システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6553739
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】ガス回収装置、ガス回収方法、及び、半導体洗浄システム
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/22 20060101AFI20190722BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20190722BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   B01D53/22
   B01D69/00 500
   H01L21/304 645Z
   H01L21/304 645A
【請求項の数】20
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2017-551875(P2017-551875)
(86)(22)【出願日】2016年11月15日
(86)【国際出願番号】JP2016083765
(87)【国際公開番号】WO2017086293
(87)【国際公開日】20170526
【審査請求日】2018年1月30日
(31)【優先権主張番号】特願2015-223893(P2015-223893)
(32)【優先日】2015年11月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】305009898
【氏名又は名称】株式会社ルネッサンス・エナジー・リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100114476
【弁理士】
【氏名又は名称】政木 良文
(72)【発明者】
【氏名】岡田 治
(72)【発明者】
【氏名】花井 伸彰
(72)【発明者】
【氏名】清原 八里
(72)【発明者】
【氏名】松尾 英晃
(72)【発明者】
【氏名】宮田 純弥
【審査官】 宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−136860(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/180218(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/007140(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/065387(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0297531(US,A1)
【文献】 国際公開第2012/086836(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 69/00
H01L 21/304
B08B 3/00
B08B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体装置の洗浄工程において洗浄ガスとして使用された後の不活性ガスと二酸化炭素ガスを含む第1被処理ガスから、前記不活性ガスと前記二酸化炭素ガスを各別に分離して回収するガス回収部を備え、
前記ガス回収部は、前記第1被処理ガスから少なくとも前記不活性ガスを分離する第1分離部と、前記第1被処理ガスに水蒸気ガスを混合する水蒸気添加部と、を備え、
前記第1分離部は、
前記第1被処理ガスが供給される第1処理室と、
第2処理室と、
前記第1処理室と前記第2処理室を隔てているとともに前記二酸化炭素の透過率が前記不活性ガスの透過率よりも高い、二酸化炭素と選択的に反応するキャリアが添加された促進輸送膜である第1分離膜と、を備えており、
前記第1被処理ガスが、前記第1被処理ガスより前記不活性ガスの純度が高く前記二酸化炭素ガスの純度が低い前記第1処理室内の第1分離ガスと、前記第2処理室内の第2分離ガスに分離され
前記ガス回収部で回収された前記不活性ガスと前記水蒸気ガスとを含む第1混合ガスから、水蒸気を分離して除去する第1水蒸気分離部と、
前記第1水蒸気分離部で前記第1混合ガスから水蒸気を除去した後の前記不活性ガスと、二酸化炭素ガスを、洗浄ガスとして使用するための所定の混合比率で混合する混合部と、を更に備えていることを特徴とするガス回収装置。
【請求項2】
前記ガス回収部で回収された前記二酸化炭素と前記水蒸気ガスとを含む第2混合ガスから、水蒸気を分離して除去する第2水蒸気分離部を、更に備え、
前記混合部に供給される前記二酸化炭素ガスが、前記第2水蒸気分離部で前記第2混合ガスから水蒸気を除去した後の前記二酸化炭素ガスの少なくとも一部を含むことを特徴とする請求項1に記載のガス回収装置。
【請求項3】
前記第2処理室にスイープガスを供給するガス流路を備えることを特徴とする請求項1または2に記載のガス回収装置。
【請求項4】
前記スイープガスに水蒸気ガスが含まれることを特徴とする請求項に記載のガス回収装置。
【請求項5】
前記ガス回収部が、前記第2分離ガスから少なくとも前記不活性ガスを分離する第2分離部を、さらに備え、
前記第2分離部は、
前記第2分離ガスが供給される第3処理室と、
第4処理室と、
前記第3処理室と前記第4処理室を隔てているとともに前記二酸化炭素の透過率が前記不活性ガスの透過率よりも高い、二酸化炭素と選択的に反応するキャリアが添加された促進輸送膜である第2分離膜と、を備えており、
前記第2分離ガスが、前記第2分離ガスより前記不活性ガスの純度が高く前記二酸化炭素ガスの純度が低い前記第3処理室内の第3分離ガスと、前記第4処理室内の第4分離ガスに分離されることを特徴とする請求項1〜の何れか一項に記載のガス回収装置。
【請求項6】
前記第1被処理ガスに前記第4分離ガスの少なくとも一部が混合されて前記第1処理室に供給される、或いは、前記第2分離ガスに前記第4分離ガスの少なくとも一部が混合されて前記第3処理室に供給されることを特徴とする請求項に記載のガス回収装置。
【請求項7】
前記第1被処理ガスに前記第2分離ガスの少なくとも一部が混合されて前記第1処理室に供給されることを特徴とする請求項1〜の何れか一項に記載のガス回収装置。
【請求項8】
前記ガス回収部が、前記第1分離ガスから少なくとも前記不活性ガスを分離する第3分離部を、さらに備え、
前記第3分離部は、
前記第1分離ガスが供給される第5処理室と、
第6処理室と、
前記第5処理室と前記第6処理室を隔てているとともに前記二酸化炭素の透過率が前記不活性ガスの透過率よりも高い、二酸化炭素と選択的に反応するキャリアが添加された促進輸送膜である第3分離膜と、を備えており、
前記第1分離ガスが、前記第1分離ガスより前記不活性ガスの純度が高く前記二酸化炭素ガスの純度が低い前記第5処理室内の第5分離ガスと、前記第6処理室内の第6分離ガスに分離されることを特徴とする請求項1〜の何れか一項に記載のガス回収装置。
【請求項9】
前記不活性ガスが、ヘリウムガスであることを特徴とする請求項1〜の何れか一項に記載のガス回収装置。
【請求項10】
前記不活性ガスがヘリウムガスであり、
前記ガス回収部が、前記第2分離ガスから少なくとも前記二酸化炭素ガスを分離する第4分離部を、さらに備え、
前記第4分離部は、
前記第2分離ガスが供給される第7処理室と、
第8処理室と、
前記第7処理室と前記第8処理室を隔てているとともに前記ヘリウムガスの透過率が前記二酸化炭素ガスの透過率よりも高い第4分離膜と、を備えており、
前記第2分離ガスが、前記第2分離ガスより前記二酸化炭素ガスの純度が高く前記ヘリウムガスの純度が低い前記第7処理室内の第7分離ガスと、前記第8処理室内の第8分離ガスに分離されることを特徴とする請求項1〜の何れか一項に記載のガス回収装置。
【請求項11】
前記不活性ガスがヘリウムガスであり、
前記ガス回収部が、前記洗浄ガスとして使用された後の前記ヘリウムガスと前記二酸化炭素ガスを含む第2被処理ガスから少なくとも前記二酸化炭素ガスを分離する第5分離部を、さらに備え、
前記第5分離部は、
前記第2被処理ガスが供給される第9処理室と、
第10処理室と、
前記第9処理室と前記第10処理室を隔てているとともに前記ヘリウムガスの透過率が前記二酸化炭素ガスの透過率よりも高い第5分離膜と、を備えており、
前記第2被処理ガスが、前記第2被処理ガスより前記二酸化炭素ガスの純度が高く前記ヘリウムガスの純度が低い前記第9処理室内の第9分離ガスと、前記第10処理室内の第10分離ガスに分離され、
前記第10分離ガスが前記第1被処理ガスとして前記第1処理室に供給されることを特徴とする請求項1〜1の何れか一項に記載のガス回収装置。
【請求項12】
前記混合部が、前記不活性ガスと前記二酸化炭素ガスを、洗浄ガスとして使用するための複数の異なる所定の混合比率で混合することを特徴とする請求項1〜11の何れか一項に記載のガス回収装置。
【請求項13】
半導体装置の洗浄工程において洗浄ガスとして使用された後の不活性ガスと二酸化炭素ガスを含む第1被処理ガスから、前記不活性ガスと前記二酸化炭素ガスを各別に分離して回収するガス回収工程を備え、
前記ガス回収工程は、前記第1被処理ガスから少なくとも不活性ガスを分離する第1工程を備え、
前記第1工程で、前記第1被処理ガスに水蒸気ガスを混合し、前記第1被処理ガスを、前記二酸化炭素ガスの透過率が前記不活性ガスの透過率よりも高い、二酸化炭素と選択的に反応するキャリアが添加された促進輸送膜である第1分離膜に透過させることで、前記第1被処理ガスより前記不活性ガスの純度が高く前記二酸化炭素ガスの純度が低い前記第1分離膜を未透過の第1分離ガスと、前記第1分離膜を透過したガスを含む第2分離ガスに分離し、
前記ガス回収工程で回収された前記不活性ガスと前記水蒸気ガスとを含む第1混合ガスから、水蒸気を分離して除去する第1水蒸気分離工程と、
前記第1水蒸気分離工程で前記第1混合ガスから水蒸気を除去した後の前記不活性ガスと、二酸化炭素ガスを、洗浄ガスとして使用するための所定の混合比率で混合する混合工程と、を更に備えていることを特徴とするガス回収方法。
【請求項14】
前記ガス回収工程で回収された前記二酸化炭素と前記水蒸気ガスとを含む第2混合ガスから、水蒸気を分離して除去する第2水蒸気分離工程を、更に備え、
前記混合工程で使用される前記二酸化炭素ガスに、前記第2水蒸気分離工程で前記第2混合ガスから水蒸気を除去した後の前記二酸化炭素ガスの少なくとも一部が含まれていることを特徴とする請求項13に記載のガス回収方法。
【請求項15】
前記ガス回収工程が、前記第2分離ガスを、前記二酸化炭素ガスの透過率が前記不活性ガスの透過率よりも高い、二酸化炭素と選択的に反応するキャリアが添加された促進輸送膜である第2分離膜に透過させることで、前記第2分離ガスより前記不活性ガスの純度が高く前記二酸化炭素ガスの純度が低い前記第2分離膜を未透過の第3分離ガスと、前記第2分離膜を透過したガスを含む第4分離ガスに分離する第2工程を、さらに備えることを特徴とする請求項13または14に記載のガス回収方法。
【請求項16】
前記第1工程で、前記第1分離膜に透過させる前記第1被処理ガスに前記第4分離ガスの少なくとも一部を混合する、或いは、前記第2工程で、前記第2分離膜に透過させる前記第2分離ガスに前記第4分離ガスの少なくとも一部を混合することを特徴とする請求項1に記載のガス回収方法。
【請求項17】
前記第1工程で、前記第1分離膜に透過させる前記第1被処理ガスに前記第2分離ガスの少なくとも一部を混合することを特徴とする請求項13〜1の何れか一項に記載のガス回収方法。
【請求項18】
前記不活性ガスが、ヘリウムガスであることを特徴とする請求項13〜1の何れか一項に記載のガス回収方法。
【請求項19】
前記混合工程において、前記不活性ガスと前記二酸化炭素ガスを、洗浄ガスとして使用するための複数の異なる所定の混合比率で混合することを特徴とする請求項13〜18の何れか一項に記載のガス回収方法。
【請求項20】
求項1〜12の何れか一項に記載のガス回収装置を備え、
前記混合部で混合されたガスが、前記洗浄ガスとして前記半導体装置の前記洗浄工程を行う装置に供給されることを特徴とする半導体洗浄システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素と不活性ガスを主成分とする混合ガスから、二酸化炭素と不活性ガスを個別に分離し、高純度の二酸化炭素及び高純度の不活性ガスを得ることのできるガス回収装置及びガス回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造工程では、基板上に洗浄ガスを吹き付け、汚物やパーティクルを除去している。洗浄ガスは、窒素やアルゴン、ヘリウム等の不活性ガスが主として用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1及び2では、ヘリウムと二酸化炭素の混合ガスを洗浄に使用している。高圧の二酸化炭素ガスを真空中に吐出させ、断熱膨張によりガス温度がその沸点近傍にまで低下することで、二酸化炭素のナノクラスターが生成される。吹き付け時に生成される二酸化炭素のナノクラスターによって、基板上に存在するパーティクルを飛散させ、除去するものであり、混合するヘリウムガスの割合を変えることにより、ナノクラスターのエネルギーが調節される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−41646号公報
【特許文献2】特開2014−72383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のヘリウム等の不活性ガスや二酸化炭素ガスは、共に、上記の半導体製造分野に限られず、様々な産業用用途で用いられるガスである。半導体製造において、洗浄工程で利用したガスは、回収し、再利用されることが好ましい。
【0006】
近年、不活性ガスは年々高価になってきており、特にヘリウムガスの高騰が著しい。二酸化炭素ガスについても、ヘリウムガスと同様に高騰しているほか、地球温暖化の原因とされており、回収及び再利用の要請がある。
【0007】
したがって、洗浄ガスの回収、再利用に加えて、再利用しようとするガスの回収率を向上させることが重要な課題となる。
【0008】
また、半導体製造の洗浄工程のほか、工業用途としてのヘリウムガスの再利用を想定する場合、99%以上の純度が必要とされる。
【0009】
しかしながら、使用後の洗浄ガスからヘリウムガスを生成する場合、従来の圧縮・冷却を用いた方法では、大型の設備を要し、大電力を必要とする。ガスの純度を高めようとするほど、また回収率を上げようとするほど、設備が大型化し、大エネルギーが必要となり、コスト高要因となる。
【0010】
そこで、本発明は、不活性ガスの高回収率、高純度化が可能で、且つ省エネルギーなガス回収装置及びガス回収方法を提供することをその目的とする。
【0011】
また、本発明は、上記本発明のガス回収装置又はガス回収方法を用い、回収した不活性ガスを半導体装置の洗浄工程において洗浄ガスとして再利用することのできる半導体洗浄システムを実現することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係るガス回収装置は、
半導体装置の洗浄工程において洗浄ガスとして使用された後の不活性ガスと二酸化炭素ガスを含む第1被処理ガスから少なくとも前記不活性ガスを分離する第1分離部を備え、
前記第1分離部は、
前記第1被処理ガスが供給される第1処理室と、
第2処理室と、
前記第1処理室と前記第2処理室を隔てているとともに前記二酸化炭素の透過率が前記不活性ガスの透過率よりも高い第1分離膜と、を備えており、
前記第1被処理ガスが、前記第1被処理ガスより前記不活性ガスの純度が高く前記二酸化炭素ガスの純度が低い前記第1処理室内の第1分離ガスと、前記第2処理室内の第2分離ガスに分離されることを特徴とする。
【0013】
上記特徴の本発明に係るガス回収装置は、更に、
前記第1分離膜が、二酸化炭素と選択的に反応するキャリアが添加された促進輸送膜であることが好ましい。
【0014】
上記特徴の本発明に係るガス回収装置は、更に、
前記第1被処理ガスに水蒸気ガスを混合する水蒸気添加部を、さらに備えることが好ましい。
【0015】
上記特徴の本発明に係るガス回収装置は、更に、前記第2処理室にスイープガスが流されていることが好ましい。
【0016】
上記特徴の本発明に係るガス回収装置は、更に、前記スイープガスに水蒸気ガスが含まれることが好ましい。
【0017】
上記特徴の本発明に係るガス回収装置は、更に、
前記第2分離ガスから少なくとも前記不活性ガスを分離する第2分離部を、さらに備え、
前記第2分離部は、
前記第2分離ガスが供給される第3処理室と、
第4処理室と、
前記第3処理室と前記第4処理室を隔てているとともに前記二酸化炭素の透過率が前記不活性ガスの透過率よりも高い第2分離膜と、を備えており、
前記第2分離ガスが、前記第2分離ガスより前記不活性ガスの純度が高く前記二酸化炭素ガスの純度が低い前記第3処理室内の第3分離ガスと、前記第4処理室内の第4分離ガスに分離されることが好ましい。
【0018】
上記特徴の本発明に係るガス回収装置は、更に、
前記第1被処理ガスに前記第4分離ガスの少なくとも一部が混合されて前記第1処理室に供給される、或いは、前記第2分離ガスに前記第4分離ガスの少なくとも一部が混合されて前記第3処理室に供給されることが好ましい。
【0019】
上記特徴の本発明に係るガス回収装置は、更に、
前記第1分離ガスから少なくとも前記不活性ガスを分離する第3分離部を、さらに備え、
前記第3分離部は、
前記第1分離ガスが供給される第5処理室と、
第6処理室と、
前記第5処理室と前記第6処理室を隔てているとともに前記二酸化炭素の透過率が前記不活性ガスの透過率よりも高い第3分離膜と、を備えており、
前記第1分離ガスが、前記第1分離ガスより前記不活性ガスの純度が高く前記二酸化炭素ガスの純度が低い前記第5処理室内の第5分離ガスと、前記第6処理室内の第6分離ガスに分離されることが好ましい。
【0020】
上記特徴の本発明に係るガス回収装置は、更に、前記不活性ガスが、ヘリウムガスであることが好ましい。
【0021】
上記特徴の本発明に係るガス回収装置は、更に、
前記不活性ガスがヘリウムガスであり、
前記第2分離ガスから少なくとも前記二酸化炭素ガスを分離する第4分離部を、さらに備え、
前記第4分離部は、
前記第2分離ガスが供給される第7処理室と、
第8処理室と、
前記第7処理室と前記第8処理室を隔てているとともに前記ヘリウムガスの透過率が前記二酸化炭素ガスの透過率よりも高い第4分離膜と、を備えており、
前記第2分離ガスが、前記第2分離ガスより前記二酸化炭素ガスの純度が高く前記ヘリウムガスの純度が低い前記第7処理室内の第7分離ガスと、前記第8処理室内の第8分離ガスに分離されることが好ましい。
【0022】
上記特徴の本発明に係るガス回収装置は、更に、
前記不活性ガスがヘリウムガスであり、
前記洗浄ガスとして使用された後の前記ヘリウムガスと前記二酸化炭素ガスを含む第2被処理ガスから少なくとも前記二酸化炭素ガスを分離する第5分離部を、さらに備え、
前記第5分離部は、
前記第2被処理ガスが供給される第9処理室と、
第10処理室と、
前記第9処理室と前記第10処理室を隔てているとともに前記ヘリウムガスの透過率が前記二酸化炭素ガスの透過率よりも高い第5分離膜と、を備えており、
前記第2被処理ガスが、前記第2被処理ガスより前記二酸化炭素ガスの純度が高く前記ヘリウムガスの純度が低い前記第9処理室内の第9分離ガスと、前記第10処理室内の第10分離ガスに分離され、
前記第10分離ガスが前記第1被処理ガスとして前記第1処理室に供給されることが好ましい。
【0023】
上記目的を達成するため、本発明に係るガス回収方法は、
半導体装置の洗浄工程において洗浄ガスとして使用された後の不活性ガスと二酸化炭素ガスを含む第1被処理ガスから少なくとも不活性ガスを分離する第1工程を備え、
前記第1工程で、前記第1被処理ガスを、前記二酸化炭素ガスの透過率が前記不活性ガスの透過率よりも高い第1分離膜に透過させることで、前記第1被処理ガスより前記不活性ガスの純度が高く前記二酸化炭素ガスの純度が低い前記第1分離膜を未透過の第1分離ガスと、前記第1分離膜を透過したガスを含む第2分離ガスに分離することを特徴とする。
【0024】
上記特徴の本発明に係るガス回収方法は、更に、
前記第1分離膜が、二酸化炭素と選択的に反応するキャリアが添加された促進輸送膜であることが好ましい。
【0025】
上記特徴の本発明に係るガス回収方法は、更に、
前記第1工程で、前記第1被処理ガスに水蒸気ガスを混合することが好ましい。
【0026】
上記特徴の本発明に係るガス回収方法は、更に、
前記第2分離ガスを、前記二酸化炭素ガスの透過率が前記不活性ガスの透過率よりも高い第2分離膜に透過させることで、前記第2分離ガスより前記不活性ガスの純度が高く前記二酸化炭素ガスの純度が低い前記第2分離膜を未透過の第3分離ガスと、前記第2分離膜を透過したガスを含む第4分離ガスに分離する第2工程を、さらに備えることが好ましい。
【0027】
上記特徴の本発明に係るガス回収方法は、更に、
前記第1工程で、前記第1分離膜に透過させる前記第1被処理ガスに前記第4分離ガスの少なくとも一部を混合する、或いは、前記第2工程で、前記第2分離膜に透過させる前記第2分離ガスに前記第4分離ガスの少なくとも一部を混合することが好ましい。
【0028】
上記特徴の本発明に係るガス回収方法は、更に、前記不活性ガスがヘリウムガスであることが好ましい。
【0029】
上記目的を達成するため、本発明に係る半導体洗浄システムは、
半導体装置の洗浄工程において洗浄ガスとして使用された後の不活性ガスと二酸化炭素ガスを含む排出ガスから少なくとも前記不活性ガスを分離して回収する上記特徴の本発明に係るガス回収装置と、前記ガス回収装置によって回収された前記不活性ガスに、二酸化炭素ガスを所定の混合比率で混合する混合部と、を備え、
前記混合部で混合されたガスが、前記洗浄ガスとして半導体洗浄装置に供給されてもよい。
【0030】
上記特徴の本発明に係る半導体洗浄システムは、更に、
前記ガス回収装置が、前記排出ガスから前記二酸化炭素ガスを分離して回収するものであり、
前記混合部が前記ガス回収装置によって回収された前記不活性ガスに混合する前記二酸化炭素ガスに、前記ガス回収装置によって回収された前記二酸化炭素ガスの少なくとも一部が含まれていてもよい。
【発明の効果】
【0031】
本発明のガス回収装置及びガス回収方法に依れば、半導体装置の洗浄工程において排出される二酸化炭素と不活性ガスの混合ガスを再利用するに際し、第1分離膜を用いて排出ガス中の二酸化炭素を取り除くことで、純度の高い不活性ガスが得られる。第1分離膜は、二酸化炭素と選択的に反応するキャリアが添加された促進輸送膜が好ましい。
【0032】
上記の膜透過によるガス回収装置は、高純度な分離ガスを得ようとするほど大きな膜面積が必要となるものの、それでも従来の圧縮・冷却による回収装置と比べると省エネルギーである。
【0033】
一方で、促進輸送膜を利用する場合、高い透過速度を得るには水分の存在が不可欠であるため、排出ガスに水蒸気ガスを混合したガスを促進輸送膜に透過させることで、高温環境においても高選択性能で二酸化炭素ガスを透過させることができる。この結果、分離ガスに水蒸気ガスが混じることになるが、水蒸気ガスは冷却、或いは他の選択透過膜を用いて容易に除去される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の第1実施形態に係るガス回収装置の要部構成を示す模式図
図2】本発明の第2実施形態に係るガス回収装置の要部構成を示す模式図
図3】本発明の第3実施形態に係るガス回収装置の要部構成を示す模式図
図4】本発明の第4実施形態に係るガス回収装置の要部構成を示す模式図
図5】本発明の第5実施形態に係るガス回収装置の要部構成を示す模式図
図6】本発明の第6実施形態に係るガス回収装置の要部構成を示す模式図
図7】本発明の第7実施形態に係るガス回収装置の要部構成を示す模式図
図8】促進輸送膜のヘリウムガスに対するCO選択性能を評価した結果を示す表
図9】促進輸送膜のヘリウムガスに対するCO選択性能を評価した結果を示す表
図10】高純度ヘリウムガスの回収に必要な促進輸送膜の膜面積を評価した結果を示す表
図11】本発明の一実施形態に係る半導体洗浄システムの要部を模式的に示す構成ブロック図
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施の形態につき、詳細に説明する。
【0036】
図1に、本発明の第1実施形態に係るガス回収装置1の要部構成を模式的に示す。なお、図1の矢印は、ガスが流れる流路及び向きを簡略化して示したものであり、図1内に示される化学式は、概念的に図面内の矢印の向きに流れるガスに含まれる主たる成分を表している。またガス流路において必要となる3方弁や混合弁の記載は割愛している。以降で説明するガス回収装置の各要部構成図についても同様とする。また、各要部構成図において、同一の構成要素については、同一の符号を付すこととし、その説明を省略することがある。
【0037】
ガス回収装置1は、第1処理室11、第2処理室12が設けられた第1分離部13を備える。第1分離部13の第1処理室11及び第2処理室12は、第1分離膜14によって隔てられている。ガス流路15を介して、少なくとも不活性ガスと二酸化炭素を含む第1被処理ガスの流れが、第1処理室11に供給される。第1分離膜14は、当該第1被処理ガスに含まれる二酸化炭素ガスを、不活性ガスの透過率よりも高い透過率で、選択的に第2処理室12側へ透過させる機能を有している。これにより、第1処理室11内のガスの二酸化炭素の純度は低下し、不活性ガスの純度は上昇する。一方、第2処理室12内のガスの二酸化炭素の純度は上昇する。
【0038】
ここで、ガスの純度とは、当該ガス成分の全ガスに対するモル濃度の比(つまり、全圧に対する当該ガス成分の分圧の比に等しい)を指すものとする。これは以降の説明においても同じとする。
【0039】
第1分離膜14は、促進輸送膜で構成されることが好ましい。促進輸送膜は、特定のガス分子(ここでは、二酸化炭素)と選択的に反応するキャリアを例えばゲル膜中に添加して形成された膜である。当該促進輸送膜の具体的な構成については、後述する。
【0040】
上記のCO促進輸送膜では、COは溶解・拡散機構による物理透過に加えて、キャリアとの反応生成物としても透過するため透過速度が促進される。一方、キャリアと反応しないN、H等のガスは主として物理透過によって透過するため、これらのガスに対するCOの分離係数は極めて大きい。Ar、Heのような不活性ガスについても同様であり、キャリアと反応しないため、COと比較した透過性は極めて小さい。更に、COとキャリアの反応時に発生するエネルギーはキャリアがCO放出するためのエネルギーに利用されるため、外部からエネルギーを供給する必要がなく、本質的に省エネルギープロセスとなる。
【0041】
ここで「キャリア」とは、その物質が膜内に含有されることで、ある特定のガスの透過速度を速くする効果を有する物質である。
【0042】
CO促進輸送膜は、省エネルギー効果が高いだけではなく、非常にコンパクトであり、量産化ができれば、現状の化学吸収法や更に高価なPSA法に比べ、はるかに低コストなCO分離・回収プロセスが構成できるため、前述の脱炭酸プロセスの他、発電排ガス、製鉄排ガス、セメント排ガス等からのCO回収、更に、CTL(Coal to Liquids: 石炭からの液体燃料製造)分野のような次世代型のエネルギープロセスや、既存の脱炭酸分野が適用できなかった小規模な化学プラントや設備にも適用でき、容易にCOを分離・回収できるようになるので、低炭素社会に大いに貢献できると期待されている。
【0043】
第1分離膜14によって、不活性ガスと二酸化炭素ガスを含む第1被処理ガスは、第1被処理ガスより不活性ガスの純度が高く二酸化炭素ガスの純度が低い第1処理室11内の第1分離ガスと、第1被処理ガスよりも二酸化炭素ガスの純度が高く不活性ガスの純度が低い第2処理室12内の第2分離ガスに分離される。第1分離ガスは不活性ガスとして、第2分離ガスは二酸化炭素ガスとしての再利用が可能である。第1分離ガスはガス流路17を介して、第2分離ガスはガス流路18を介して、夫々回収される。
【0044】
ところで、第1分離膜14中に水分が無い場合には二酸化炭素の透過速度は一般に非常に小さいため、高い透過速度を得るには膜内の水分が不可欠である。第1分離膜14内に水分を維持する1つの方法として、ゲル層を保水性の高いハイドロゲルで構成することが挙げられる。これにより、分離機能層内の水分が少なくなる高温下においても、可能な限り膜内に水分を保持することが可能となり、例えば100℃以上の高温において高い選択透過性能を実現できる。
【0045】
別の方法として、第1被処理ガスに水蒸気ガス(スチーム)を混合したガスを被処理ガスとし、第1処理室11に導入するとよい。水蒸気添加部19から供給される水蒸気ガスが第1被処理ガスと混合され、ガス流路15を介し、混合ガスが第1分離部13の第1処理室11に供給される。水蒸気分離部20aが、第1分離膜14を介して第2処理室12に透過した第2分離ガスから水蒸気ガスを除去し、二酸化炭素ガスが分離される。一方、水蒸気分離部20bが、第1分離ガスから水蒸気ガスを除去し、高純度の不活性ガスを得る。除去された水蒸気ガスを回収し、第1被処理ガスに混合して再利用することも可能である。
【0046】
水蒸気分離部20a、20bは、凝縮器を用いるものや、水蒸気透過膜を用いる公知の構成が利用可能である。水蒸気透過膜を用いる場合、水蒸気ガスは冷却された液体状態の水ではなく、気体状態で(潜熱を有した状態で)回収されるため、除去された水蒸気ガスをそのまま水蒸気添加部19に供給し、水蒸気添加部19を介して、第1被処理ガスに水蒸気ガスを導入することができる。
【0047】
水蒸気ガスを混合した第1被処理ガスの相対湿度は、好ましくは30%〜100%、より好ましくは40%〜100%である。
【0048】
水蒸気ガスを混合した第1被処理ガスは、昇圧しても良く、昇温しても良い。昇圧することで透過の推進力である二酸化炭素ガスの分圧差を増加し、二酸化炭素の透過量を増加させることができる。また、昇圧によりスチームの分圧が増加することで、昇温により低下する相対湿度を増加させる効果もある。昇圧する場合、昇圧に要するエネルギーを考慮すると、好ましくは200kPa(A)〜1000kPa(A)、より好ましくは400kPa(A)〜1000kPa(A)である。温度は室温程度の温度であっても良いが、二酸化炭素の透過性能は、温度とともに上昇する傾向があるため、60℃〜160℃が好ましく、80℃〜120℃がより好ましい。
【0049】
第2処理室12内は、透過側の二酸化炭素の分圧を低下させ、選択透過の推進力たる分圧差を得るために、スイープガスを流すことが好ましい。スイープガスは、ガス流路16より供給される。スイープガスは、水蒸気ガスを含むことが好ましい。当該水蒸気ガスは、水蒸気添加部19より供給される。スイープガスとして水蒸気ガスを供給することによって、供給側(第1処理室11)と透過側(第2処理室12)との間の水蒸気ガスの分圧差を小さくし、第1被処理ガス中の水蒸気ガスの透過量を減少させることで、第1被処理ガスの相対湿度の低下を抑制することができる。また、COの回収率が高いほど、透過側での水蒸気ガスの割合が小さくなるため第2処理室12内ガス(第2分離ガス)の相対湿度は低くなるが、スイープガスに含まれる水蒸気ガスの流量を増加させることで、相対湿度の低下を抑制できる。ただし、水蒸気ガスをスイープガスとして用いる場合は、透過側の圧力は使用する温度での飽和水蒸気圧以下になるように制御する必要が生じる。つまり、100℃未満の温度条件で水蒸気ガスのみをスイープガスとして用いる場合、透過側は減圧されている必要がある。
【0050】
ガス回収装置1を、半導体装置の製造工程において洗浄ガスとして使用された後に排出される排出ガスの再利用に用いる場合、当該排出ガスは、ヘリウムガスと二酸化炭素ガスを主成分とする混合ガスとなる。洗浄で生じたパーティクル等の油分や水分は、予め除去しておく。一般的に排出ガスは高々数ppm程度のN,O、及びCHガスを含み、その残りはヘリウム及び二酸化炭素ガスである。
【0051】
排出ガスを含む第1被処理ガスを第1処理室11に供給し、第1分離膜14を介して、第1被処理ガス中の二酸化炭素ガスを、ヘリウムガスよりも高い透過率で透過させることで、第1処理室11には第1被処理ガスよりも不活性ガスの純度が高く二酸化炭素純度の低い第1分離膜14を未透過のガス(第1分離ガス)が残り、第2処理室12内には二酸化炭素ガスを含むがヘリウムガスを殆ど含まない第1分離膜14を透過したガス(第2分離ガス)が得られる。第1分離ガスは純度の高いヘリウムガスとして、第2分離ガスは、スイープガス成分を取り除くことで、純度の高い二酸化炭素ガスとして利用が可能となる。
【0052】
第1分離膜14の性能及び膜面積によっては、第1分離ガスであるヘリウムガスの純度が必ずしも工業用途に再利用できるほど高くない場合もあり得るが、第1分離ガス中のヘリウムガス以外の残りのガスは殆ど二酸化炭素ガスであり、その濃度も予測できる。したがって、第1分離ガスに二酸化炭素ガスを適度に混合することで、不活性ガスと二酸化炭素ガスの濃度比が洗浄ガスとしての利用に適した所定の割合になるようにして、半導体装置の製造工程で用いるための不活性ガスと二酸化炭素の混合ガスを生成することも容易である。
【0053】
なお、第1分離ガスの少なくとも一部を第1被処理ガスに混合することにより、より高純度の不活性ガスを第1処理室11内に得ることができる。
【0054】
図2に、本発明の第2実施形態に係るガス回収装置2の要部構成を模式的に示す。図2に示す構成のガス回収装置2は、図1に示したガス回収装置1において、水蒸気添加部19より供給される水蒸気ガスと第2分離ガスの少なくとも一部とを混合した第1被処理ガスを、第1処理室11に供給する構成としたものである。これにより、第1分離膜14を意図せずに透過した第2分離ガス中の不活性ガスを第1被処理ガスに戻すようにして、不活性ガスの回収率を向上させることができる。
【0055】
図3に、本発明の第3実施形態に係るガス回収装置3の要部構成を模式的に示す。図3に示す構成のガス回収装置3は、第1処理室11と第2処理室12を備えた第1分離部13に加えて、第3処理室21と第4処理室22を備えた第2分離部23を備えてなり、第1分離部13により得られた第2分離ガスが、ガス流路18を介して、さらに第3処理室21に供給されるように構成されている。第2分離部23の第3処理室21及び第4処理室22は、第2分離膜24によって隔てられている。
【0056】
第2分離膜24は、第1分離膜14と同様の機能を有しており、第3処理室21に供給される第2分離ガスに含まれる二酸化炭素ガスを、不活性ガスの透過率よりも高い透過率で、選択的に第4処理室22側へ透過させる。これにより、第3処理室21内のガスの二酸化炭素の純度は低下し、不活性ガスの純度は上昇する。一方、第4処理室22内のガスの二酸化炭素の純度は上昇する。第2分離膜24は、促進輸送膜で構成されることが好ましい。この場合において、第2分離膜24は、第1分離膜14と同様の材料又は膜構造で構成されていてもよいし、されていなくてもよい。
【0057】
第2分離部23の第3処理室21には、第2分離ガスが供給される。これにより、第2分離ガスは、第2分離ガスより不活性ガスの純度が高く二酸化炭素ガスの純度が低い第3処理室21内のガス(第3分離ガス)と、第4処理室22内のガス(第4分離ガス)に分離される。第3分離ガスは不活性ガスとして再利用が可能であり、第1分離ガスと併せて不活性ガスの回収率を向上できる。第3分離ガスはガス流路26を介して水蒸気分離部20cに送られ、第3分離ガスから水蒸気ガスを除去し、高純度の不活性ガスを得る。一方、第4分離ガスは、二酸化炭素ガスを多く含むがヘリウムガスを殆ど含まないガスであり、スイープガス成分を取り除くことで、高純度の二酸化炭素ガスとして利用が可能である。第4分離ガスはガス流路27を介して水蒸気分離部20aに送られ、第4分離ガスから水蒸気ガスを除去し、高純度の二酸化炭素ガスを得る。水蒸気分離部20a、20b、20cで除去された水蒸気ガスを回収し、第1被処理ガスに混合して再利用することも可能である。
【0058】
ガス回収装置1と同様、第2処理室12にはガス流路16を介してスイープガスが供給されている。さらに、ガス流路25を介して、第4処理室22にスイープガスを流すことができる。スイープガスとしては、水蒸気ガスが好ましい。
【0059】
第2分離ガスは、第1分離膜14を透過した二酸化炭素を主成分とし、第1分離膜14を透過した不活性ガスを含むガスである。第2分離ガスを第3処理室21の第2分離膜24に通すことによって、第2分離ガス中の殆どの二酸化炭素は第2分離膜24を透過する一方、不活性ガスは透過せずに残る。したがって、第3分離ガスは、第1分離部13で分離できなかった不活性ガスを主成分とし、二酸化炭素を僅かに含むガスとなる。第3分離ガスに二酸化炭素ガスを適度に混合することで、不活性ガスと二酸化炭素ガスの濃度比が洗浄ガスとしての利用に適した所定の割合になるようにして、半導体装置の製造工程で用いるための不活性ガスと二酸化炭素の混合ガスを生成することも容易である。なお、第3分離ガスの少なくとも一部を第1被処理ガスに混合することで、より高純度の不活性ガスを第1処理室11内に得ることができる。
【0060】
図4に、本発明の第4実施形態に係るガス回収装置4の要部構成を模式的に示す。図4に示す構成のガス回収装置4は、図3に示したガス回収装置3において、第4分離ガスの少なくとも一部を混合した第1被処理ガスを第1処理室11に供給する構成としたものである。これにより、第1分離膜14及び第2分離膜24を透過した第4分離ガス中の不活性ガスを第1被処理ガスに戻し、不活性ガスの回収率を向上させることができる。第2処理室12及び第4処理室22に流すスイープガスは、水蒸気ガスが好ましい。
【0061】
なお、第4分離ガスの少なくとも一部を第1被処理ガスに混合する代わりに、第4分離ガスの少なくとも一部を第2分離ガスに混合して第2分離部23の第3処理室21に供給する構成としてもよい。
【0062】
図5に、本発明の第5実施形態に係るガス回収装置5の要部構成を模式的に示す。図5に示す構成のガス回収装置5は、第1処理室11と第2処理室12を備えた第1分離部13に加えて、第5処理室61と第6処理室62を備えた第3分離部63を備えてなり、第1分離部13により得られた第1分離ガスが、ガス流路17を介して、さらに第5処理室61に供給されるように構成されている。第3分離部63の第5処理室61及び第6処理室62は、第3分離膜64によって隔てられている。
【0063】
第3分離膜64は、第1分離膜14と同様の機能を有しており、第5処理室61に供給される第1分離ガスに含まれる二酸化炭素ガスを、不活性ガスの透過率よりも高い透過率で、選択的に第6処理室62側へ透過させる。これにより、第5処理室61内のガスの二酸化炭素の純度は低下し、不活性ガスの純度は上昇する。一方、第6処理室62内のガスの二酸化炭素の純度は上昇する。第3分離膜64は、促進輸送膜で構成されることが好ましい。この場合において、第3分離膜64は、第1分離膜14と同様の材料又は膜構造で構成されていてもよいし、されていなくてもよい。
【0064】
第3分離部63の第5処理室61には、第1分離ガスが供給される。これにより、第1分離ガスは、第1分離ガスより不活性ガスの純度が高く二酸化炭素ガスの純度が低い第5処理室61内のガス(第5分離ガス)と、第6処理室62内のガス(第6分離ガス)に分離される。第5分離ガスはガス流路66を介して水蒸気分離部20bに送られ、第5分離ガスから水蒸気ガスを除去し、極めて高純度の不活性ガスを得る。一方、第2分離ガス及び第6分離ガスのそれぞれは、スイープガス成分を取り除くことで、二酸化炭素ガスとして利用が可能である。第2分離ガスはガス流路18を介して水蒸気分離部20aに送られ、第2分離ガスから水蒸気ガスを除去し、二酸化炭素ガスを得る。第6分離ガスはガス流路67を介して水蒸気分離部20dに送られ、第6分離ガスから水蒸気ガスを除去し、二酸化炭素ガスを得る。水蒸気分離部20a、20b、20dで除去された水蒸気ガスを回収し、第1被処理ガスに混合して再利用することも可能である。
【0065】
ガス回収装置1と同様、第2処理室12にはガス流路16を介してスイープガスが供給されている。さらに、ガス流路65を介して、第6処理室62にスイープガスを流すことができる。スイープガスとしては、水蒸気ガスが好ましい。
【0066】
なお、図5に示すガス回収装置5において、第2分離ガスの少なくとも一部を第6処理室62に供給してもよい。ただし、図5に示すガス回収装置5のように、第2分離ガスを水蒸気分離部20aに送って二酸化炭素ガスを得る構成にすると、第5処理室61及び第6処理室62における二酸化炭素ガスの分圧差を大きくして第3分離膜64における二酸化炭素ガスの透過率を向上させることで、第5分離ガスにおける不活性ガスの純度を高めることができるため、好ましい。
【0067】
図6に、本発明の第6実施形態に係るガス回収装置6の要部構成を模式的に示す。図6に示す構成のガス回収装置6は、第1処理室11と第2処理室12を備えた第1分離部13に加えて、第7処理室71と第8処理室72を備えた第4分離部73を備えてなり、第1分離部13により得られた第2分離ガスが、ガス流路18を介して、さらに第7処理室71に供給されるように構成されている。第4分離部73の第7処理室71及び第8処理室72は、第4分離膜74によって隔てられている。
【0068】
第4分離膜74は、第1分離膜14とは異なる機能を有しており、第7処理室71に供給される第2分離ガスに含まれる不活性ガスを、二酸化炭素ガスの透過率よりも高い透過率で、選択的に第8処理室72側へ透過させる。これにより、第7処理室71内のガスの不活性ガスの純度は低下し、二酸化炭素ガスの純度は上昇する。一方、第8処理室72内のガスの不活性ガスの純度は上昇する。
【0069】
このガス回収装置6では、第4分離部73に、化学透過をさせ難い不活性ガスが透過し易く二酸化炭素ガスが透過し難い第4分離膜74が必要である。例えば、膜への溶解性や膜中での拡散性の違いに基づいてガスの分離を行う第4分離膜74が必要である。そのため、不活性ガス及び二酸化炭素ガスの選択性をできるだけ高める観点から、二酸化炭素ガスの分子径よりも十分に小さい分子径を有する不活性ガスを使用すると、好ましい。具体的に、不活性ガスとしてヘリウムガスを使用すると、好ましい。この場合、例えば、国際公開第2014/007140号で提案されているような、α−アルミナ多孔質体からなる基部と、Ni元素を含むγ−アルミナ多孔質部とその連通孔の内壁に配されたシリカ膜部とを有しており基部と接合されたガス分離部とを備えたヘリウム分離材を用いて、第4分離膜74を構成してもよい。なお、これは一例に過ぎず、高分子からなる分離材などの周知のヘリウムガス分離材を用いて、第4分離膜74を構成することができる。
【0070】
第4分離部73の第7処理室71には、第2分離ガスが供給される。これにより、第2分離ガスは、第2分離ガスより二酸化炭素ガスの純度が高く不活性ガスの純度が低い第7処理室71内のガス(第7分離ガス)と、第8処理室72内のガス(第8分離ガス)に分離される。第7分離ガスは、二酸化炭素ガスとして再利用が可能である。第7分離ガスはガス流路76を介して水蒸気分離部20eに送られ、第7分離ガスから水蒸気ガスを除去し、高純度の二酸化炭素ガスを得る。一方、第8分離ガスは、不活性ガスを多く含むガスであり、スイープガス成分を取り除くことで不活性ガスとして利用が可能であり、第1分離ガスと併せて不活性ガスの回収率を向上できる。第8分離ガスはガス流路77を介して水蒸気分離部20fに送られ、第8分離ガスから水蒸気ガスを除去し、不活性ガスを得る。水蒸気分離部20b、20e、20fで除去された水蒸気ガスを回収し、第1被処理ガスに混合して再利用することも可能である。
【0071】
ガス回収装置1と同様、第2処理室12にはガス流路16を介してスイープガスが供給されている。さらに、ガス流路75を介して、第8処理室72にスイープガスを流すことができる。スイープガスとしては、水蒸気ガスが好ましい。
【0072】
なお、第8分離ガスに二酸化炭素ガスを適度に混合することで、不活性ガスと二酸化炭素ガスの濃度比が洗浄ガスとしての利用に適した所定の割合になるようにして、半導体装置の製造工程で用いるための不活性ガスと二酸化炭素の混合ガスを生成することも容易である。なお、第8分離ガスを第1被処理ガスに混合することで、より高純度の不活性ガスを第1処理室11内に得ることができる。
【0073】
図7に、本発明の第7実施形態に係るガス回収装置7の要部構成を模式的に示す。図7に示す構成のガス回収装置7は、第1処理室11と第2処理室12を備えた第1分離部13に加えて、第9処理室81と第10処理室82を備えた第5分離部83を備えてなる。第5分離部83の第9処理室81及び第10処理室82は、第5分離膜84によって隔てられている。ただし、ガス回収装置7では、上述のガス回収装置1〜6とは異なり、排出ガスを含む第2被処理ガスがガス流路85を介して第9処理室81に供給される。また、第10処理室82内のガスが、第1被処理ガスとしてガス経路88を介して第1処理室11に供給される。
【0074】
第5分離膜84は、第4分離膜74(図6参照)と同様の機能を有しており、第9処理室81に供給される第2被処理ガスに含まれる不活性ガスを、二酸化炭素ガスの透過率よりも高い透過率で、選択的に第10処理室82側へ透過させる。これにより、第9処理室81内のガスの不活性ガスの純度は低下し、二酸化炭素ガスの純度は上昇する。一方、第10処理室82内のガスの二酸化炭素の純度は上昇する。第5分離膜84には、周知の不活性ガス分離材(例えば、上述の第4分離膜74の説明において例示したヘリウムガス分離材)を用いることができる。
【0075】
第5分離部83の第9処理室81には、第2被処理ガスが供給される。これにより、第2被処理ガスは、第2被処理ガスより二酸化炭素ガスの純度が高く不活性ガスの純度が低い第9処理室81内のガス(第9分離ガス)と、第10処理室82内のガス(第10分離ガス)に分離される。第9分離ガスは、二酸化炭素ガスとして再利用が可能である。第9分離ガスはガス流路87を介して水蒸気分離部20gに送られ、第9分離ガスから水蒸気ガスを除去し、高純度の二酸化炭素ガスを得る。一方、第10分離ガスは、第1処理室11に供給される。水蒸気分離部20a、20b、20gで除去された水蒸気ガスを回収し、第2被処理ガスに混合して再利用することも可能である。
【0076】
ガス回収装置1と同様、第2処理室12にはガス流路16を介してスイープガスが供給されている。さらに、ガス流路86を介して、第10処理室82にスイープガスを流すことができる。スイープガスとしては、水蒸気ガスが好ましい。
【0077】
なお、第1分離ガスを第2被処理ガスに混合することで、より高純度の不活性ガスを第9処理室81内に得ることができる。
【0078】
上記のガス回収装置1〜7を用いることで、不活性ガスの高回収率化、高純度化、且つ省エネルギー化を実現できる。
【0079】
また、上記のガス回収装置1〜7は、矛盾なき限り部分的に組み合わせて実施することが可能である。例えば、上記のガス回収装置3,5を組み合わせて、第1分離部13、第2分離部23及び第3分離部63を備えるガス回収装置を構成してもよい。この場合、第2分離部23及び第3分離部63が並列に配置され、第1分離部13の第1分離ガスが第3分離部63の第5処理室61に供給されるとともに、第1分離部13の第2分離ガスが第2分離部23の第3処理室21に供給される。また例えば、上記のガス回収装置3,6を組み合わせて、第1分離部13、第2分離部23及び第4分離部73を備えるガス回収装置を構成してもよい。この場合、第2分離部23及び第4分離部73が並列に配置され、第1分離部13の第2分離ガスが第2分離部23の第3処理室21及び第4分離部73の第7分離室71のそれぞれに供給される。また例えば、上記のガス回収装置3,7を組み合わせて、第1分離部13、第2分離部23及び第5分離部83を備えるガス回収装置を構成してもよい。この場合、第5分離部83、第1分離部13及び第2分離部23が直列に配置され、第5分離部83の第10分離ガスが第1分離部13の第1処理室11に供給されるとともに、第1分離部13の第2分離ガスが第2分離部23の第3処理室21に供給される。なお、これらは一例に過ぎず、上記の例にならって第1〜第5分離部13,23,63,73,83を任意に並列または直列に組み合わせて配置してもよい。
【0080】
以下に、第1〜第3分離膜14,24,64の構成、及び製造方法を具体的に説明する。
【0081】
〈膜構造〉
第1〜第3分離膜14,24,64は、CO促進輸送膜であり、前述の通り、ゲル膜中にCOと選択的に反応するキャリアを含有させた構造になっている。COキャリアとしては、例えば、炭酸セシウム若しくは炭酸水素セシウム、又は、炭酸ルビジウム若しくは炭酸水素ルビジウム等のアルカリ金属の炭酸塩又は重炭酸塩が挙げられる。同様に、水酸化セシウム又は水酸化ルビジウム等のアルカリ金属の水酸化物も、二酸化炭素と反応して炭酸塩や重炭酸塩が生成されるため、等価物といえる。他には、2,3‐ジアミノプロピオン酸塩(DAPA)、グリシンといったアミノ酸が、高いCO選択透過性能を示すことが知られている。
【0082】
より具体的に、CO促進輸送膜は、上記のキャリアをゲル膜内に含んで構成されたゲル層を、親水性又は疎水性の多孔膜に担持させてなるものとすることができる。ゲル膜を構成する膜材料としては、例として、ポリビニルアルコール(PVA)膜、ポリアクリル酸(PAA)膜、又は、ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸(PVA/PAA)塩共重合体膜が挙げられる。ここで、当業者において、ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸塩共重合体は、ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸共重合体と呼ばれることもある。
【0083】
上記構成のCO促進輸送膜は、高いCO選択透過性能を示すことが知られている。
【0084】
もっとも、かかるCO促進輸送膜は、膜内に水分が無い場合には二酸化炭素の透過速度は一般に非常に小さいため、高い透過速度を得るには膜内の水分が不可欠となる。このため、ゲル膜は、ハイドロゲル膜であることが好ましい。ゲル膜を保水性の高いハイドロゲル膜で構成することにより、ゲル膜内の水分が少なくなる環境下(例えば、100℃以上の高温)においても、可能な限り膜内に水分を保持することが可能となり、高いCOパーミアンスを実現できる。上述の例において、ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸(PVA/PAA)塩共重合体膜は、ハイドロゲル膜である。
【0085】
なお、ハイドロゲルは、親水性ポリマーが化学架橋あるいは物理架橋により架橋することで形成された三次元網目構造物であり、水を吸収することで膨潤する性質を有する。
【0086】
さらに、COキャリアとCOとの反応を速める触媒が膜内に含有されていても良い。そのような触媒として、炭酸脱水酵素やオキソ酸化合物を含むことが好ましく、特に、第14族元素、第15族元素、及び、第16族元素の中から選択される少なくとも1つの元素のオキソ酸化合物を含んで構成されることが好ましい。或いは、当該触媒は、亜テルル酸化合物、亜セレン酸化合物、亜ヒ酸化合物、及び、オルトケイ酸化合物の内の少なくとも何れか1つを含んで構成されることが好ましい。
【0087】
本実施形態において、促進輸送膜は、膜材料の一例として、ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸(PVA/PAA)塩共重合体を使用し、二酸化炭素キャリアとして炭酸セシウム(CsCO)を使用する。また、CO促進輸送膜は、二酸化炭素キャリアを含有するPVA/PAAゲル膜と、それを担持する多孔膜で構成されている。なお、CO促進輸送膜の膜構造としては、この具体例に限られるものではなく、例えば円筒形状の多孔質支持体の外周側面或いは内周側面にキャリアを含んだゲル膜を形成したものであっても構わない。
【0088】
〈膜の製造方法〉
以下に、CO促進輸送膜の製造方法について説明する。
【0089】
先ず、PVA/PAA塩共重合体とキャリア(ここでは、CsCO)を含む水溶液からなる製膜液を作製する(工程1)。より詳細には、PVA/PAA塩共重合体(例えば、住友精化製のSSゲル)を2g、CsCOを4.67g、サンプル瓶に秤取し、これに水80gを加えて室温で4日間攪拌して溶解させてキャスト溶液を得る。次に、工程1で得た製膜液をPTFE多孔膜(例えば、住友電工製HP−010−60)の面上に、アプリケータでキャストする(工程2)。その後、室温で半日程度乾燥させ、製膜液をゲル化させゲル層を形成する(工程3)。
【0090】
〈性能評価結果〉
以下に、上記の製造方法で製膜されたCO促進輸送膜のヘリウムガスに対する選択性の評価結果を示す。なお、以下では、図1に示したガス回収装置1における第1分離膜14にCO促進輸送膜を適用した場合における評価結果を例示する。
【0091】
CO促進輸送膜を構成するCOキャリアとして、上記のCsCOに代えてグリシンを用いた膜(以下、「膜A」と称する)と、CsCOを用いた膜(以下、「膜B」と称する)を用意した。さらに、膜A及び膜Bともに、ハイドロゲル膜としてPVA/PAA塩共重合体にCOキャリアを添加した膜とした。ただし、グリシンやDAPA等のアミノ酸をCOキャリアとして利用する場合、COはNHと反応せず、フリーのNHと反応することによって、COが促進輸送されることが知られている。このため、COキャリアとしてグリシンを用いる膜Aの場合、グリシン(NH−CH−COOH)のアミノ基がプロトン化したNHをNHに変換するための脱プロトン化剤を、アミノ基に対して好ましくは同モル数以上、上記製膜液中に添加する必要がある。当該脱プロトン化剤は、プロトン化したNHからプロトンを奪い、NHに変換できるだけの強塩基性を有するものであれば良く、アルカリ金属元素の水酸化物または炭酸塩を好適に利用できる。ここでは、脱プロトン化剤としてグリシンと同モルのCsOHを製膜液に加え、膜Aを作製し、ガス回収装置1の第1分離膜14とした。また、膜Bでは、COキャリアとCOとの反応を速める触媒として亜テルル酸カリウムを製膜液に加え、膜Bを作製し、ガス回収装置1の第1分離膜14とした。
【0092】
〈性能評価条件−1〉
先ず、温度及び供給側(第1処理室11側)圧力(全圧)を一定とし、被処理ガスのCOとHeの分圧比を変えた3つの条件で膜Aの評価を行った結果を示す。下記の3つの条件では、処理温度を50℃とし、被処理ガスの全圧を大気圧とし、第1処理室11に供給する水蒸気ガスの分圧を一定としながら、第1被処理ガス中のCOとHeの分圧を変化させた。また、透過側(第2処理室12側)に供給するスイープガスの組成として、アルゴンガスと水蒸気ガスの混合ガスを用いた。スイープガスは、第1被処理ガスと同様、全圧を大気圧とした。
【0093】
以下に、3つの条件における第1被処理ガス及びスイープガスの組成比(分圧比)を示す。スイープガスの組成比は、3つの条件において同じである。なお、このときの第1被処理ガス及びスイープガスの相対湿度は、共に58%となる。
・第1被処理ガス組成:
条件1−1: CO:He:HO=43.6:49.0:7.4
(CO:He=47.1:52.9)
条件1−2: CO:He:HO=23.1:69.5:7.4
(CO:He=25.0:75.0)
条件1−3: CO:He:HO=9.3:83.3:7.4
(CO:He=10.0:90.0)
・スイープガス組成:
条件1−1〜1−3共に、Ar:HO=92.6:7.4
【0094】
図8に、上記の条件で促進輸送膜のHeに対するCO選択性能を評価した結果を示す。なお、条件1−1では、Heパーミアンスが非常に小さいため、第1分離膜14を透過した第2分離ガス中のHeの濃度が低すぎてガスクロマトグラフィーによるHeの検出ができず、パーミアンスを算出できなかった。
【0095】
CO/He選択性は、Heパーミアンスに対するCOパーミアンスの比として表すことができる。図8より、膜Aは、50℃の比較的低温においても、少なくとも400を超えるCO/He選択性を有していることが分かる。
【0096】
注目すべき点は、条件1−1〜1−3では被処理ガスのCO分圧を異ならせているが、CO分圧が低いほどCOパーミアンスは高くなることである。ここで、COパーミアンスは、COFlux(膜を透過したCOガス流量を膜面積で割った値)を透過側と供給側の分圧差で割った値である。したがって、CO分圧の低下に伴ってCOパーミアンスが増加しているということは、膜透過の推進力である分圧差がある所定の割合A%だけ減少したとしても、透過COFluxの減少量はA%未満にとどまることを意味する。図8では、条件1−2では条件1‐1と比べて分圧差が1/2近くまで減少し、条件1−3では条件1‐1と比べて分圧差が1/5近くまで減少しているが、これに対してCOFluxの減少量は小さく抑えられている。
【0097】
選択的に透過するガスに対するこのような分圧依存性は、促進輸送膜特有の現象である。ガス回収装置において、ガス流路15から第1処理室11内へ供給された被処理ガスは、第1分離膜14と接触することによってCOが除去され、第1分離ガスとなってガス流路17へ流れ込む。このとき、第1処理室11内のガスのCO分圧は、入口側(ガス流路15の近傍)で高く、出口側(ガス流路17の近傍)で低くなり、第1分離膜14上の位置に応じてCO分圧に分布が生じる。He等の不活性ガスの回収率が高いほど、つまりはCO除去率が高いほど、出口側(ガス流路17の近傍)の位置でのCO分圧が低下するが、促進輸送膜は、特に低いCO分圧条件下での透過性能に優れている。
【0098】
〈性能評価条件−2〉
次に、供給側(第1処理室11側)圧力(全圧)、相対湿度、被処理ガス中のCOとHeの比率を一定とし、処理温度を変えながら、膜A及び膜Bの透過性能を評価した結果を示す。ここでは、半導体洗浄装置から排出された洗浄ガスを昇温、昇圧して被処理ガスとして供給する場合を想定し、被処理ガスの全圧を900kPa(A)とした。また、処理温度として100℃、110℃、120℃の3つの条件を考慮した。処理温度を100℃以上としているのは、一般的に促進輸送膜は100℃〜160℃程度の温度領域において透過性能に優れるためである。また、圧力を900kPa(A)としたのは、膜透過の推進力である分圧差を稼ぐためである。また、透過側(第2処理室12側)に供給するスイープガスとして、アルゴンガスと水蒸気ガスの混合ガスを用いた。スイープガスは、全圧を大気圧とし、相対湿度が一定となるように、温度に応じて水蒸気ガスの分圧を変化させた。
【0099】
以下に、3つの条件における処理温度、第1被処理ガス及びスイープガスの組成比(分圧比)を示す。下記において、第1被処理ガス及びスイープガスの相対湿度は、温度に依らず、夫々、58%及び50%となっている。
・第1被処理ガス組成:
条件2−1: CO:He:HO=23.3:70.1:6.6
(CO:He=25.0:75.0)
条件2−2: CO:He:HO=22.7:68.0:9.3
(CO:He=25.0:75.0)
条件2−3: CO:He:HO=21.8:65.4:12.8
(CO:He=25.0:75.0)
・スイープガス組成:
条件2−1: Ar:HO=49.3:50.7
条件2−2: Ar:HO=28.4:71.6
条件2−3: Ar:HO=0:100
・処理温度:
条件2−1、2−2、2−3の順に、100℃、110℃、120℃
【0100】
図9に、上記の条件で膜A及び膜BのHeに対するCO選択性能を評価した結果を示す。なお、条件2−1〜2−3で第1被処理ガスのCO分圧が異なるが、数%程度の差である。したがって、図9において高温ほどCOパーミアンスが増加しているが、CO分圧の差による影響は軽微であり、COパーミアンスの増加は、主として温度の影響によるといえる。
【0101】
〈必要膜面積〉
上述した条件1‐2、条件2−1〜2−3の膜性能評価結果をもとに、He純度が99%以上のガスを得るために必要な膜面積を計算した結果を図10に示す。図10では、上記各条件における被処理ガス組成、スイープガス組成、及び透過性能をシミュレータに代入し、膜面積及びスイープガスの流量を変えながら、水蒸気ガスを除いた第1分離ガスのHe純度が99%以上で、且つ、被処理ガス及びスイープガスの相対湿度が膜のどの領域においても40%以上を維持することのできる最小の膜面積を求めた。なお、第1処理室11に供給する被処理ガスの流量は、水蒸気ガスを除いたCOガスとHeガスの混合ガス(供給ドライガス)の流量が30l/minとなるようにした。
【0102】
また、COパーミアンスは膜の領域に依らず一定値(図8又は図9に示された値)とした。しかしながら、上述の通り、促進輸送膜は供給側(第1処理室11側)と透過側(第2処理室12側)のCO分圧差が低いほどCOパーミアンスが高くなるという特徴がある。このため、実際は、第1処理室11内CO分圧の膜上の分布によって、膜の入口側(ガス流路15の近傍)から膜の出口側(ガス流路17の近傍)に近づくほどCOパーミアンスは高くなる。したがって、促進輸送膜を用いる場合、実際に必要な膜面積は、図10に示された膜面積よりも少なくて済むと考えられる。
【0103】
図10より、条件1−2の場合に必要な膜面積は120mであり、条件2−1〜2−3と比較して、COパーミアンスが小さいことから比較的大面積を必要とする。しかしながら、複数の膜モジュールを組み合わせることで、ガス回収装置1として十分実現可能である。
【0104】
これに対し、条件2−1〜2−3の場合には、膜A及び膜Bを用いる場合のどちらであっても、必要な膜面積は高々4〜8m程度の小面積であり、一般的な膜モジュール1つだけを用いてガス回収装置1を容易に実現でき、回収装置の小型化が可能である。一般に、分離膜を用いるガス回収方法は、化学吸収法等の他の方法と比べてコンパクトであるという利点が挙げられるが、特に、条件2−1〜2−3の促進輸送膜を用いた回収装置は、半導体製造工場のような設置スペースが限られる場所での使用に適している。
【0105】
以上、上記のガス回収装置及びガス回収方法に依れば、不活性ガスの高回収率、高純度化が可能であり、且つ省エネルギーを実現できる。
【0106】
〈半導体洗浄システム〉
以下に、上記のガス回収装置及びガス回収方法を半導体装置の製造で用いられた洗浄ガスの再利用のために用いる例を示す。本発明の一実施形態に係る半導体洗浄システム100は、図11の構成ブロック図に示すように、上述のガス回収装置1〜7の何れか(ここでは、ガス回収装置1)と、ガス回収装置によって分離回収された不活性ガスに二酸化炭素ガスを混合する混合部52を備えてなる。
【0107】
複数の半導体製造装置50a〜50cの夫々において洗浄ガスとして使用された後の排出ガスが、混合され、混合された排出ガスをガス回収装置1の第1被処理ガスとする。洗浄ガスは、不活性ガスと二酸化炭素ガスの混合ガスが用いられているが、夫々の半導体製造装置中で実行中の具体的な洗浄工程に応じて、不活性ガスと二酸化炭素ガスの濃度比率が異なり得る。混合された排出ガスは、二酸化炭素ガス及び不活性ガスを主成分とするガスである。
【0108】
ガス回収装置1によって、上述の通り、混合された排出ガスは、不活性ガスの純度がより高く二酸化炭素ガスの純度がより低い不活性ガスを主成分とするガス(第1分離ガス)と、二酸化炭素ガスの純度がより高く不活性ガスの純度がより低い二酸化炭素ガスを主成分とするガス(第2分離ガス)に分離回収される。水蒸気ガスを取り除いたうえで、第1分離ガスは不活性ガスとして、第2分離ガスは二酸化炭素ガスとしての再利用が可能である。
【0109】
混合部52は、第1分離ガスから得られる不活性ガスを主成分とするガスに、二酸化炭素ガスを所定の混合比率で混合し、二酸化炭素ガスと不活性ガスの混合ガスを生成する。
【0110】
上記第1分離ガスから得られるガスは、高純度の不活性ガスであり、残りのガスは略二酸化炭素ガスである。したがって、混合部52の混合比率を調整することで、所望の濃度比率の二酸化炭素ガスと不活性ガスの混合ガスを得ることができる。
【0111】
さらに、混合部52で混合する二酸化炭素ガスとして、第2分離ガスから得られる二酸化炭素ガスを主成分とするガスを用いることができる。上記第2分離ガスから得られるガスは、高純度の二酸化炭素ガスであり、残りのガスは不活性ガスであるので、混合部52の混合比率を調整することで、所望の濃度比率の二酸化炭素ガスと不活性ガスの混合ガスを得ることができる。
【0112】
混合部52によって、不活性ガスと二酸化炭素ガスの混合ガスは、半導体製造装置50a〜50cの各洗浄工程に応じた所望の濃度比率になるように調整され、半導体製造装置50a〜50cに洗浄ガスとして供給される。
【0113】
〈別実施形態〉
以下に、別実施形態について説明する。
【0114】
〈1〉上記実施形態のガス回収装置1〜7及びガス回収方法では、CO促進輸送膜が平膜である場合を想定しているが、必ずしもこれに限られるものではなく、円筒形状の多孔膜の内側面又は外側面にキャリアを含むゲル層を担持した曲面形状や、或いは中空糸状の膜であってもよい。同様に、本発明は各分離部内の処理室の配置に依存するものではなく、軸心を共通にする円筒形状の複数の処理室がCO促進輸送膜又は透過膜で分離された構成や、軸心の延長方向に各処理室が直列的に配置される構成を考えることができる。
【0115】
〈2〉また、上記実施形態では、CO促進輸送膜の材料としてポリビニルアルコール−ポリアクリル酸塩共重合体により構成されたゲル膜を利用したが、これは一例であり、CO選択分離能力を発揮する同様の親水性ポリマーの採用が可能である。また、COキャリアについても、実施形態で挙げた材料に限られず、所望のCO選択透過性能を有する限り、他の材料膜を採用してよい。
【0116】
〈3〉図1に示すガス回収装置1において、スイープガスとして水蒸気ガスを用いているが、第1分離部13の第2処理室12内に流すスイープガスとしては、水蒸気ガスに限られるものではない。例えば、スイープガスは、窒素ガスやアルゴンガス等であってもよい。しかしながら、第2分離ガス中に当該ガスが含まれることとなるため、第2分離ガスを二酸化炭素ガスとして再利用するには当該ガスを分離する工程が必要となる。また、図2に示すガス回収装置2のような第2分離ガスの少なくとも一部を第1処理室11内に循環させる構成では、第1分離ガスにスイープガスが含まれることとなるため、第1分離ガスを不活性ガスとして再利用するには当該ガスを分離する工程が必要となる。
【0117】
この点で、第2処理室12内に流すスイープガスは、第1分離ガス中の不活性ガス、及び第2分離ガス中の二酸化炭素ガスから容易に分離できるものであることが好ましく、水蒸気ガスが好適である。第2分離ガスの一部に水蒸気ガスを混合し、混合ガスをスイープガスとして再利用してもよい。
【0118】
同様に、図3に示すガス回収装置3において、第4処理室22内に流すスイープガスは、水蒸気ガス以外の他のガスであってもよいが、第4分離ガス中の二酸化炭素ガスから容易に分離できるものが好ましい。また、図4に示すガス回収装置4において、第2処理室12及び第4処理室22内に流すスイープガスは、第4分離ガス中の二酸化炭素ガスのほか、第1及び3分離ガス中の不活性ガスから容易に分離できるものが好ましい。この点で、水蒸気ガスが好適である。第2分離ガスの少なくとも一部と水蒸気ガスを混合した混合ガスを第2処理室12に供給するスイープガスとして、又は第4分離ガスの少なくとも一部と水蒸気ガスを混合した混合ガスを第2処理室12又は第4処理室22に供給するスイープガスとして再利用してもよい。さらに、図5図7に示すガス回収装置5〜7も同様であり、スイープガスとして水蒸気ガスを用いると好ましく、第2,第6,第7分離ガスの少なくとも一部と水蒸気ガスを混合した混合ガスを第2処理室12又は第6処理室62に供給するスイープガスとして再利用してもよい。
【0119】
〈4〉また、上記実施形態では、半導体製造で用いられた洗浄ガスの再利用のために、本発明に係るガス回収装置及びガス回収方法を利用するものであるが、本発明によって分離された二酸化炭素ガス及びヘリウムガスは、その純度次第で他の工業的用途にも再利用することが可能である。
【0120】
〈5〉図6に示したガス回収装置6と図7に示したガス回収装置7は、不活性ガスを選択的に透過する分離膜を備えた分離部(第4分離部43、第5分離部53)と二酸化炭素ガスを選択的に透過する分離膜を備えた分離部(第1分離部13)の両方を備えているという点では共通しているが、両者の位置は異なっている。具体的に、図6に示したガス回収装置6では、第1分離部13の下流側に第4分離部43が設けられているが、図7に示したガス回収装置7では、第1分離部13の上流側に第5分離部53が設けられている。ここで、一般的に濃度が薄い方のガスを選択的に除去する方が膜面積を小さくすることができるということや、CO促進輸送膜を用いた場合は供給側における二酸化炭素ガスの分圧が低くても十分な透過性能を発揮することができること(図8参照)を考慮すると、分離対象のガスにおける不活性ガスの純度の方が大きい場合は、図6に示したガス回収装置6(第1分離部13が上流側)を採用すると、好ましい。
【0121】
〈6〉 図1〜7に示したガス回収装置1〜7において、得られたガスをフィードバックする構成を採用する場合(例えば、図2に示すガス回収装置2において第2分離ガスを第1処理室11に供給する場合や、図4に示すガス回収装置4において第4分離ガスを第1処理室11に供給する場合など)、フィードバックすべきガスの濃度及び流量の少なくとも一方に基づいてフィードバックするガスの流量を制御してもよい。これにより、ガス回収装置1〜7の各部におけるガスの濃度や流量のゆらぎを抑制することが可能になる。なお、この場合、フィードバックすべきガスの濃度及び流量の少なくとも一方を測定するためのセンサや、フィードバックするガスの流量を制御するコントローラが必要である。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明は、二酸化炭素と不活性ガスを主成分とする混合ガスから、二酸化炭素と不活性ガスを個別に分離し、高純度の二酸化炭素及び高純度の不活性ガスを得るガス回収装置及びガス回収方法に利用可能である。具体的に、半導体製造で用いられる洗浄ガスを再利用するための半導体洗浄システムとしての利用が可能である。
【符号の説明】
【0123】
1〜7: ガス回収装置
13: 第1分離部
11: 第1処理室
12: 第2処理室
14: 第1分離膜
15〜18: ガス流路
19: 水蒸気添加部
20a〜20g: 水蒸気分離部
23: 第2分離部
21: 第3処理室
22: 第4処理室
24: 第2分離膜
25〜27: ガス流路
50a〜50c:半導体製造装置
52: 混合部
63: 第3分離部
61: 第5処理室
62: 第6処理室
64: 第3分離膜
65〜67: ガス流路
73: 第4分離部
71: 第7処理室
72: 第8処理室
74: 第4分離膜
75〜77: ガス流路
83: 第5分離部
81: 第9処理室
82: 第10処理室
84: 第5分離膜
85〜88: ガス流路
100: 半導体洗浄システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11