【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した反応器は、1つ以上の触媒成分が液体に溶けているか又は液体中に浸出している反応にはあまり適切でないことが発見されている。連続撹拌槽型反応器がこの問題を解決することを今や発見している。
【0013】
したがって、本発明は、炭水化物源と水素との反応によって、炭水化物源からエチレングリコールを調製するための連続法を提供し、この方法では、
水素、炭水化物源、及び液体希釈剤が連続して、触媒システムが存在する連続撹拌槽型反応器中に供給され、その触媒システムはタングステン化合物と、周期律表の第8、9、又は10族から選択される少なくとも1つの水素化分解金属を含み、エチレングリコールへの炭水化物源及び水素のあいだの反応を達成し;
ここで、連続して、エチレングリコールと希釈剤を含む生成物混合物が、連続撹拌槽型反応器から取出され;かつ
連続して又は定期的に、さらに、少なくともタングステン化合物が連続撹拌槽型反応器に添加される。
【0014】
連続撹拌槽型反応器(CSTR)はこの反応に非常に適しており、なぜなら、タングステンの添加(これは均一又は不均一タングステン化合物の添加によるものでありうる)によって、CSTR中で触媒システムから浸出されるタングステンの損失が克服され、反応原料を機械的に撹拌しながらの、反応原料の連続的添加と生成物混合物の連続的取出しを通じて、定常状態の状況を容易に作り出すことができるからである。このことが、反応の着実な高い転化と高い選択性を可能にする。このようにして、タングステンの量が補充される。水素化分解金属はいかなる浸出もほとんど受けないので、CSTRへ追加の水素化分解金属をも添加する必要はないであろう。反応中にいずれかの水素化分解触媒がCSTRから取り除かれるのであればその限度で、それはCSTRへの水素化分解触媒の定期的又は連続的添加によって補充されうる。本発明の方法におけるCSTR使用によるさらなる利点は、後に明らかになるだろう。
【0015】
炭水化物源は様々な原料から選択することができる。適切には、炭水化物源は、多糖類、オリゴ糖類、二糖類、及び単糖類からなる群から選択される炭水化物を含む又は炭水化物のみからなる。適切な例には、セルロース、ヘミセルロース、デンプン、糖類、例えば、スクロース、マンノース、アラビノース、グルコース、及びそれらの混合物などの持続可能資源が含まれる。上の炭水化物を含みうる資源には、紙パルプ流、都市廃水流が含まれ、その他のグルコース単位含有ストリームを同様に使用することができ、例えば、木材廃棄物、紙屑、農業廃棄物、都市廃棄物、紙、段ボール、砂糖きび、砂糖大根、小麦、ライ麦、大麦、その他の農作物、及びそれらの組み合わせである。これらの流れ(ストリーム)は、本発明の方法を妨害する成分、例えば、塩基性フィラー、例えば、古紙中の炭酸カルシウムを除去するための前処理を必要としうる。このようにして、本発明の方法は、天然資源からのものを用いることができるだけでなく、廃水流を改善し、役立つように再使用するためにさえ使用することができる。好ましくは、炭水化物源中の炭水化物は、セルロース、デンプン、グルコース、スクロース、グルコースのオリゴマー、紙屑、及びそれらの組み合わせからなる群から選択され、好ましくはグルコール又はデンプンである。セルロースは、その他の炭水化物源には存在しない困難さを提示するので、炭水化物源は、最も好ましくは、デンプン、ヘミセルロース、及びヘミセルロース糖、グルコース、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0016】
従来技術による公知の方法において示されるように、水素化分解金属は、広範囲の金属から選択することができる。水素化分解金属は、Cu、Fe、Ni、Co、Pt、Pd、Ru、Rh、Ir、Os、及びそれらの組み合わせからなる群から適切には選択できる。好ましくは、水素化分解金属は、貴金属であるPd、Pt、Ru、Rh、Ir、及びそれらの組み合わせから選択される。これらの金属は良好な収率を与えることが発見されている。金属は、適切には、その金属の形態で、又はその水素化物もしくは酸化物として存在することができる。金属酸化物は、水素の存在下で、反応時に還元されると推測される。
【0017】
水素化分解金属又は複数の水素化分解金属の組み合わせは、好ましくは、担体上に担持された触媒の形態で存在する。担体は、広範囲の公知の担体から選択してよい。適切な支持体には、活性炭、シリカ、ジルコニア、アルミナ、シリカ−アルミナ、チタニア、ニオビア、酸化鉄、酸化スズ、酸化亜鉛、シリカ−ジルコニア、ゼオライトアルミノシリケート、チタノシリケート、マグネシア、炭化ケイ素、クレイ、及びそれらの組み合わせが含まれる。当業者は、活性炭が少なくとも800m
2/gの表面積をもつ非晶質の形態の炭素であることを知るであろう。そのような活性炭はしたがって多孔質構造を有する。最も好ましい支持体は、活性炭、シリカ、シリカ−アルミナ、及びアルミナであり、なぜならそれらを用いて優れた結果が得られているからである。さらに好ましくは、触媒は、水素化分解金属としてのルテニウムと支持体として活性炭を含む。
【0018】
適切には、1つ以上の金属が、水素化分解金属を含む触媒成分中に用いられる。適切には、水素化分解金属の組み合わせは、周期律表の第8、9、又は10族からの別の金属と組み合わせて、Pd、Pt、Ru、Rh、及びIrから選択される少なくとも1つの貴金属を含む。この触媒は、好ましくは、Ru、Pt、Pd、Ir、及びRhからなる群の2つ以上の金属の混合物を含む。適切な例は、Ru/Ir、Ru/Pt、Ru/Pdである。2つの金属が用いられる場合、その質量比は適切には0.1:1〜20:1の範囲である。より好ましくは、第一の水素化分解金属はルテニウムであり、第二の水素化分解金属はRh、Pt、Pd、及びIrから選択される。Ruと第二の水素化分解金属の間の質量比は、好ましくは、0.5:1〜10:1の範囲である。
【0019】
触媒システムはまたタングステン化合物を含む。このタングステン化合物は広範囲の化合物から選択できる。タングステンは元素状態であってもよい。通常、タングステン化合物は支持体上に存在する。少なくとも水素化分解金属のための支持体と同様に、支持体は広範囲の公知の支持体から選択してよい。適切な支持体には、活性炭、シリカ、ジルコニア、アルミナ、シリカ−アルミナ、チタニア、ニオビア、酸化鉄、酸化スズ、酸化亜鉛、シリカ−ジルコニア、ゼオライトアルミノシリケート、チタノシリケート、及びそれらの組み合わせが含まれる。活性炭、シリカ、シリカ−アルミナ、及びアルミナが支持体として最も好ましく、なぜなら優れた結果がそれらによって得られているからである。+2以下の酸化状態のタングステン化合物、例えば、その炭化物、窒化物、リン化物の形態のものを用いることも可能である。またこの場合に、タングステン化合物は、担持された触媒成分の形態で存在してもよい。担体は、上で述べた支持体から選択してよい。
【0020】
好ましくは、タングステン化合物は、少なくとも+2の酸化状態を有し、好ましくは+5又は+6の酸化状態を有する。タングステン化合物は、タングステン酸(H
2WO
4)、タングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウム、少なくとも1種の第1又は2族元素を含むタングステン酸塩化合物、少なくとも1種の第1又は2族元素を含むメタタングステン酸塩化合物、少なくとも1種の第1又は2族元素を含むパラタングステン酸塩化合物、酸化タングステン(WO
3)、タングステンのヘテロポリ化合物、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。従来技術においては、ある種のタングステン化合物はそれらの支持体から浸出すること及びそのようなことは不利であると考えられていたことがわかっているのに対して、本発明者は、反応混合物に溶けるタングステン化合物を用いることが有利であることを発見している。タングステン化合物が溶ける場合には、そのタングステン化合物の触媒活性が増大することを発見している。いかなる理論にも束縛されることを望まないが、水素及び炭水化物の存在によって反応ゾーン内で作り出される還元性雰囲気中で、6価のタングステン化合物が5価のタングステンに還元され、その5価のタングステン化合物が希釈剤中に溶けることができると考えられる。この部分的に還元された状態で、タングステンイオンは炭水化物源のなかの炭素−炭素結合を攻撃し、アルキレングリコール前駆体を生成するのに有効である。したがって、CSTR中では、様々な酸化状態をもつタングステンが存在すると考えられる。そのようなタングステン化合物は、上で述べた好ましい化合物を含みうる。その他のタングステン化合物も適しうる。CSTRに連続的又は定期的に添加されるタングステン化合物は、したがって、適切には、少なくとも+2の酸化状態を有する化合物である。より好ましくは、CSTRに連続的又は定期的に添加されるタングステン化合物は、タングステン酸(H
2WO
4)、タングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウム、少なくとも1種の第1又は2族元素を含むタングステン酸塩化合物、少なくとも1種の第1又は2族元素を含むメタタングステン酸塩化合物、少なくとも1種の第1又は2族元素を含むパラタングステン酸塩化合物、酸化タングステン(WO
3)、タングステンのヘテロポリ化合物、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。好ましいタングステン化合物はタングステン酸である。
【0021】
CSTRに添加されるタングステンの量は、好ましくは、CSRT中のタングステンの濃度が実質的に一定となる量である。本明細書において、「実質的に一定」の語は、タングステンの最大量及び最低量の間の差が、CSTR中のタングステンの平均量から10%より大きく変動しないことと理解される。タングステンを定期的に添加することが適している一方で、CSTRへのタングステンの連続的添加をするのが最も便利である。添加する量は、CSTR中で触媒システムから浸出され、かつ生成物混合物とともにCSTRから取り除かれるタングステン量に等しくなるように、適切に調節される。このようにして、CSTRの着実な性能が可能になる。
【0022】
従来技術によれば、少なくとも1つの水素化分解金属とタングステン化合物との比は、広い範囲で変化をもたせうる。従来技術によれば、これらの化合物のあいだの質量比は0.02〜3000のあいだで変化をもたせることができる。本発明においては、少なくとも1つの水素化分解金属に対するタングステンのモル比は、好ましくは、1〜25のかなり狭い範囲内にある。好ましくは、少なくとも1つの水素化分解金属に対するタングステンのモル比は2〜20の範囲、最も好ましくは5〜15の範囲内である。その比がこれらの範囲の限度を超える場合には、エチレングリコール以外のアルキレングリコールの相対的収率が低下する、及び/又は炭水化物の転化が遅くなる。質量で表して、少なくとも1つの水素化分解金属に対するタングステンの質量比は、全て金属として計算して、CSTR中において、好ましくは2〜50w/w、より好ましくは5〜50w/wの範囲である。
【0023】
触媒成分の濃度は、本発明の方法において変化をもたせうる。タングステン化合物の濃度は、非常に広い範囲で変化をもたせることができる。従来技術のバッチ法によるタングステン化合物の濃度は、例えば、反応ゾーンに導入された炭水化物源の質量を基準にして、1〜35質量%の範囲から選択してよい。水素化分解金属(1つ又は複数)の量もまた、変化をもたせることができる。CN102643165に開示されているものよりも高い濃度を適用することが好ましい。この従来技術文献の態様によれば、水素化分解金属、すなわちルテニウムの最高濃度は、ルテニウムの量及び反応器に導入された炭水化物の量に基づいて1:300である。本発明の方法において適用されるCSTR反応器において、水素化分解金属と、CSTRに導入される炭水化物との質量比は、好ましくは、1:25〜1:250wt/wt、好ましくは1:50〜1:200wt/wtの範囲である。いかなる理論にも束縛されることを除くことなしに、そのような比較的高い水素化分解金属の濃度において、フミン(fumin)類の形成が避けられて、炭水化物のグリコール類への転化が高められると考えられる。しかも、転化を定常状態に保つことができる。CSTR内では、定常状態のもとでの高い転化においては、反応混合物中に残っている炭水化物の量は非常に低い。設定された炭水化物の転化に応じて、CSTR中の金属として計算されたタングステン化合物とCSTR中の炭水化物の質量比は、有利には5〜50wt/wtの範囲である。CSTR中の炭水化物源の量は、単位時間当たりCSTRに導入されている炭水化物の量の濃度とは非常に異なる。CSTR中の炭水化物の残存濃度はずっと低い。このことは、従来技術のバッチ及び半バッチ法と本発明の連続法との間の主要な相違である。滞留時間を含めた反応条件を調節することによって、当業者は、炭水化物源の固定した転化のための手はずを整えることができる。この転化は、CSTR内の少量の残存する未転化の炭水化物をもたらす。定常状態条件のもとで、この少ない量は一定に保たれる。
【0024】
炭水化物源及び希釈剤は、両方ともCSTRに導入される。適切には、炭水化物源は、希釈剤の少なくとも一部と一緒に導入される。さらに好ましくは、炭水化物源は、希釈剤に少なくとも部分的に溶解されている。適切には、希釈剤は水性媒体である。糖類、グルコース、及びフルクトースなどの多くの炭水化物は水に可溶である。さらに、セルロース、すなわち非常に適切な出発材料と考えられ且つ水に不溶性である炭水化物は、水溶性であるセロデキストリン類に転化されることができる。あるいは、炭水化物はスラリーの形態で反応ゾーンに導入してもよい。そのようなスラリーのより一般的な例は、水とセルロース及び/又はデンプンの水性混合物である。そのような態様では、水性セルローススラリー、例えば微結晶セルロースを含むスラリーが、うまく使用できる。
【0025】
本発明の方法は、炭水化物源を含む非常に濃縮された供給流(フィードストリーム)の使用を可能にする。濃縮された供給流を用いることによって、プロセス経済の利益になる。しかし、濃縮された供給流を用いる必要はない。そのような供給流は一般に、炭水化物源と、希釈剤の少なくとも一部を含むことになる。炭水化物源と希釈剤を含む供給流は、適切には、その炭水化物源及び希釈剤の質量に基づいて、1〜50質量%の濃度を有する。供給流がこの濃度範囲で用いられる場合、供給流は一般に容易に輸送できる。濃度はこの範囲内の値に限定されない。供給流は、例えば、炭水化物源のみからなることもできる。典型的には、そのような供給流は固体である。所望の供給速度でCSTR中へ固体炭水化物を導入することによって、その炭水化物源は反応混合物中に溶かされ、転化される。
【0026】
従来技術の方法は、ヘキソース、例えばセルロース、デンプン、及びグルコースの転化に重点をおいている。しかし、ヘキソース含有炭水化物だけでなく、ペントース含有炭水化物を用いることが有利であることを発見している。したがって、本発明はまた、炭水化物源が少なくとも1種のペントース含有炭水化物を含む、又は好ましくは炭水化物源が少なくとも1種のペントース含有炭水化物及び少なくとも1種のヘキソース含有炭水化物の組み合わせ物を含む方法も提供する。ペントース含有炭水化物は、多糖類、オリゴ糖類、二糖類、又は単糖類であることができる。ペントース含有炭水化物は、適切には、ペントサン、例えば、キシラン又はアラビナンである。特に、それは適切には少なくとも1つのアラビノース、リボース、リキソース、及びキシロース残基を含む。ヘキソース及びペントース含有炭水化物の組み合わせ物への本発明の方法の適用は、ペントース含有炭水化物が主生成物としてプロピレングリコール及びエチレングリコールの両方を生成し、ヘキソース含有炭水化物はエチレングリコールを大部分生成するという利点を有する。したがって、プロピレングリコールを主成分として考えている場合、出発物質としてペントース含有炭水化物の使用が有利である。ヘキソース及びペントース単位を含む炭水化物源は、単独のヘキソース及び単独のペントース画分を混合することによって得ることができることは明らかである。あるいは、炭水化物源は、ペントース及びヘキソース単位を既に含んでいる天然資源の生産物であってもよい。それは、例えば、加水分解がペントースとヘキソースの両方を生じさせる、リグノセルロースバイオマスの加水分解生成物であることができる。
【0027】
希釈剤中の高濃度の炭水化物は、炭水化物源の溶解度に関する問題を引き起こしうる。大きな問題を避けるために、水が通常は希釈剤として用いられ、なぜなら、炭水化物はほとんどの有機希釈剤に溶けにくい傾向があるからである。それでもなお、水は任意選択により場合によっては、反応原料のいずれかの溶解度に対する有利な効果を有する又は何らか別の利点を有する有機希釈剤で部分的に置き換えられるか又は有機希釈剤と混合されることができる。したがって、希釈剤は、水、スルホキシド類、アルコール類、アミド類、及びそれらの混合物からなる群から選択される1つ以上の化合物を含む。適切には、水と、任意選択により場合によっては上述した有機希釈剤の1つ以上との混合物が用いられる。好適なスルホキシドは、ジメチルスルホキシド(DMSO)であり、アミド類の適切な例はジメチルホルムアミド及びジメチルアセトアミドである。より好ましい有機希釈剤はアルコール類である。アルコール類は、モノアルコール類、特に、水に混和性のモノアルコール類、例えば、C
1〜C
4アルコールであることができる。アルコールはまた、ポリオール、例えば、グリセロール、キシリトール、ソルビトール、又はエリスリトールであることができる。特に好ましい態様では、ポリオールはジオールである。有機希釈剤がアルキレングリコール、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、又はそれらの混合物であることが最も好ましい。
【0028】
アルキレングリコールの使用は部分的には適切であり、なぜなら、アルキレングリコールを含めたポリオールが、希釈剤へのタングステン化合物の溶解を容易にし、それによってタングステン化合物の触媒活性を促進させることが発見されているからである。アルキレングリコール類に対する反応の選択性が、希釈剤中の成分としてアルキレングリコールを用いることによって高められることがさらに発見されている。いかなる理論にも束縛されることを望むことなしに、タングステンはアルキレングリコールと錯体を形成し、それによって副生成物への転化が低減されると考えられる。さらに、希釈剤としてのアルキレングリコールの使用は、反応混合物中への外からの反応剤の導入を引き起こさず、このことはさらなる利点を示している。アルキレングリコールがタングステン化合物の溶解性を手助けする傾向があるので、タングステンをアルキレングリコールとともにCSTR中へ定期的又は連続して導入することが有利である。それは、所望する量のタングステンを添加することが容易に達成できるという利点を伴う。さらに、反応がアルキレングリコール、特にエチレングリコールを作り出すので、そのアルキレングリコールの添加は、CSTR中に無関係な化合物を導入しない。好ましくは、タングステンは、エチレングリコールと一緒にCSTRに導入される。希釈剤成分として用いるためのそのようなアルキレングリコールは、その反応から得ることができる。したがって、本発明の方法において作り出されるアルキレングリコールの一部を、炭水化物及び/又はタングステン触媒成分のための希釈剤としてCSTRにリサイクルすることができる。
【0029】
上で示したように、本発明による方法によるエチレングリコール含有生成物は、一般に、アルキレングリコール類の混合物である。この混合物は適切には精製され、特に、純粋なエチレングリコールが重合目的のために望まれる場合には精製される。ブチレングリコールと形成される共沸混合物は、純粋なエチレングリコールを得ることを困難にしている。
【0030】
分離工程を容易にするためには、出発物質として、ペントース含有炭水化物を単独で、又はヘキソース含有炭水化物に加えて用いることが有利である。ペントース含有炭水化物は、副生成物としてブチレングリコールをほとんど形成しない。したがって、ペントース及びヘキソース含有炭水化物の組み合わせ物の反応生成物中のブチレングルコールの割合は、比較的小さくなる。そのような反応生成物の精製は、したがって、比較的単純である。プロピレングリコール及びエチレングリコールは、分画によって互いから容易に分離することができる。ペントース及びヘキソース含有炭水化物の両方を含む出発物質を用いる反応生成物の分画は、純粋なエチレングリコール、純粋なプロピレングリコール、及び他のグリコール類のうちの1つ又は両方とともにブチレングリコールを含む比較的少量の画分をもたらす。
【0031】
生成物からブチレングリコールを取り除く別の方法は、1つ以上の連行剤を使用することによるものである。連行剤は、共沸蒸留によってアルキレングリコール類の混合物からブチレングリコールを選択的に取り除く。そのような手順は、出発物質がヘキソース含有炭水化物のみを、ペントース含有炭水化物のみを、又はその両方の組み合わせ物を含む方法に適用することができる。連行剤は、適切には、エチルベンゼン、p-キシレン、n-プロピルベンゼン、o-ジエチルベンゼン、m-ジエチルベンゼン、m-ジ-イソプロピルベンゼン、シクロペンタン、メチルシクロヘキサン、3-メチルペンタン、2,3-ジメチルブタン、ヘプタン、1-ヘプテン、オクタン、1-オクテン、2,3,4-トリメチルペンタン、デカン、メチルエチルケトキシム、デカリン、ジシクロペンタジエン、α-ファランドレン、β-ピネン、ミルセン、テルピノレン、p-メンタ-1,5-ジエン、3-カレン、リモネン、及びα-テルピネンから選択される連行剤からなる群から選択することができる。
【0032】
さらに、ポリオール類(higher polyols)、例えば、グリセロール、エリスリトール、又はソルビトールは、連行剤として機能しうる。これらの化合物は、M. Zhengら, Chin. J. Catal., 35 (2014) 602-613に示されているように、炭水化物からエチレングリコールを調製する方法において、副生成物として作り出される傾向がある。これらの化合物は、したがって、本プロセスにリサイクルされることができる。必要な場合、それらが連行剤として使用される場合には、その濃度を高めてそれによって純粋なエチレングリコールを得ることを容易にするために、これらの化合物の1つ以上が本発明の方法の生成物に添加されることもできる。
【0033】
純粋なエチレングリコールの製造のための別の方法では、エチレングリコール、プロピレングリコール、及びブチレングリコールを含む生成物混合物が、カルボニル基含有化合物を用いて転化されて、ジオキソラン類の混合物を形成することができる。これらのジオキソラン類は共沸混合物を形成せず、したがって、蒸留によって比較的容易に分離されうる。別個の画分として純粋なジオキソラン類を得た後、各画分は加水分解されて純粋な対応するアルキレングリコールを生じることができる。カルボニル基含有化合物は適切にはアルデヒド又はケトンである。それは好ましくは少なくとも100℃の沸点を有し、それにより、反応において導入された水は、反応生成物から容易に分離されうる。水とジオキソラン類の間の容易な分離を可能にする別の方法は、生じたジオキソランの少なくともいくらかが水に溶けないように、カルボニル基含有化合物を選択することによるものである。このようにして、生じたジオキソラン類は、相分離によって水から分離してもよい。そのようにすることにより、水溶性の副生成物もまたジオキソラン類から分離される。それを達成するための一つの方法は、それ自身が水に不溶性であるカルボニル基含有化合物を選択することによるものである。非常に便利なカルボニル基含有化合物には、メチルイソブチルケトン、t-ブチルメチルケトン、及びそれらの混合物が含まれる。これらの化合物は、106〜118℃の範囲に適切な沸点を有し、それらは水に不溶性である。これらの化合物を用いて形成されたジオキソラン類もまた水に不溶性であり、それによって水からのこれらの化合物の分離が容易にされる。
【0034】
生成物中のアルキレングリコールとカルボニル基含有化合物の反応は、触媒によって触媒されうる。好適な触媒には、酸触媒が含まれる。均一系酸触媒を用いてもよいが、それらは中和及び/又は分離が厄介になりうるという欠点を有する。したがって、酸触媒は、適切には、固体酸触媒、好ましくは、酸性イオン交換樹脂、酸ゼオライト、及びそれらの組み合わせから選択される。ジオキサンの形成がストリッピングカラム反応器中で行われる場合、固体の製品の使用がまた液体アルキレングリコール混合物とカルボニル基含有化合物との間の接触を容易にし、そこでは、アルキレングリコール混合物が固体酸触媒に沿って通過させられるときに、カルボニル基含有化合物の蒸気が、アルキレングリコール混合物の液体流と対向流で接触させられる。しかし、反応生成物中に均一系酸触媒を含み、この液体混合物にカルボニル基含有化合物の蒸気を通過させることもまた実施できる。
【0035】
ジオキソラン類が形成されている場合、それらは蒸留によって互いに容易に分離されうる。蒸留後、分離したジオキソラン類は加水分解されて、純粋なエチレングリコールを形成することができる。ジオキソラン類の加水分解はまた、適切には、酸触媒を用いて触媒される。この加水分解は、ジオキソラン類の形成と同様の方法で、例えば、ジオキソランの液体流を水の蒸気流と対抗流で接触させることによって達成されうる。酸触媒はジオキソラン液体中に含まれても、あるいは固体酸触媒として提供されてもよい。ジオキサン液体中に含まれる酸触媒は、強い有機酸、例えば、p-トルエンスルホン酸又はメタンスルホン酸であってよい。好ましくは、触媒は、酸性イオン交換樹脂、酸ゼオライト、又はそれらの組み合わせを含む固体触媒である。
【0036】
上で示したように、生成物混合物はまたタングステンを含み、それは不均一系触媒システムから浸出されるか又は均一系タングステン化合物の添加によってもたらされる。生成物混合物からタングステンを回収することが望ましい。これは、典型的には、生成物混合物から様々なアルキレングリコール類を取り除くための蒸留ステップが実施され、蒸留残渣が得られるときに達成されうる。タングステンはポリマー、例えば、ポリクォータニウムー6との錯化とそれに続く限外濾過によって回収されることができ、これはChin. J. Chem. Eng., 20 (2012) 831-836に記載されているとおりである。あるいは、蒸留残渣の少なくとも一部を酸性化、例えば硝酸を用いて酸性化して、タングステン酸の沈殿を刺激してもよい。回収されたタングステン化合物は、適切には、CSTRへリサイクルされることができる。タングステン化合物の別個の回収及び単離なしに、蒸留残渣の少なくとも一部を用いて、タングステンをリサイクルすることも可能である。そのような場合には、残りの部分をCSTRにリサイクルする前に、蒸留残渣から様々なアルコール類及びその他の副生成物を除去することが望ましいことがありうる。
【0037】
本発明によるアルキレングリコールの調製方法は、当技術分野で周知のプロセス条件のもとで実施することができる。その条件には、国際公開第2014/161852号に開示されている条件が含まれる。したがって、反応温度は適切には少なくとも120℃、好ましくは少なくとも140℃、さらに好ましくは少なくとも150℃、最も好ましくは少なくとも160℃である。反応器内の温度は、適切には、最高で300℃、好ましくは最高で280℃、さらに好ましくは最高で270℃、なおさらに好ましくは最高で250℃、もっとも好ましくは最高で200℃である。反応器は、出発物質を添加する前にこれらの範囲内の温度にすることができ、その範囲内の温度に保たれる。
【0038】
本発明による方法は、さらに有利には、従来技術の方法で採用される温度よりも通常はいくらか低い温度で実施されることを発見している。比較的低い温度を採用した場合には、ブチレングリコールの形成が低減されることを発見している。さらに有利な温度範囲は150〜225℃、さらに好ましくは160〜200℃、最も好ましくは165〜190℃である。これは、米国特許第7,960,594号明細書において教示されていることとは相容れず、同明細書では220〜250℃の範囲内の反応温度が最も有用であると記載されていた。
【0039】
本発明の方法は、水素の存在下で行われる。水素は、実質的に純粋な水素として供給することができる。全圧はしたがって水素圧となる。あるいは、水素は、水素と不活性ガスの混合物の形態で供給してもよい。全圧はしたがって水素及びこの不活性ガスの分圧からなる。不活性ガスは、適切には、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、及びそれらの混合物から選択することができる。不活性ガスに対する水素の割合は、広い範囲で変化をもたせてよい。適切には、その割合は非常に低くはなく、なぜなら、水素分圧が十分に高い場合に、反応が良好に進行するからである。したがって、水素と不活性ガスの間の体積比は、1:1〜1:0.01でありうる。さらに好ましくは、水素のみが、本発明による方法においてガスとして用いられる。
【0040】
水素は典型的には分配器(ディストリビューター)、例えば、スパージャーを介してCSTRに供給される。この分配器を介して且つ撹拌機構を通って、水素は反応混合物に溶かされ、それによって触媒システム存在下で、水素と炭水化物の反応が可能にされる。水素は、加圧下でCSTR中に保たれる。水素圧は適切には所望するレベルに保たれる。生成物混合物と同伴されるガス、例えば水素は別にして、いかなるその他のガスもCSTRから出ていくことはない。
【0041】
CSTR内の圧力は、適切には、少なくとも1MPa、好ましくは少なくとも2MPa、さらに好ましくは少なくとも3MPaである。CSTR内の圧力は、適切には、最高で16MPa、さらに好ましくは最高で12MPa、さらに好ましくは最高で10MPaである。当業者は、20℃における圧力は、反応温度における実際の圧力より低くなることを理解する。本方法で適用される圧力は、適切には、20℃で測定して0.7〜8MPaである。この圧力は、水素ガス又は水素含有ガスによってかけてよい。水素含有ガスを用いる場合、その水素含有ガス中の水素含有量は、100体積%以下であり、例えば純粋な水素である。水素含有ガスの残り部分は、適切には、不活性ガス、例えば、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、又はそれらの混合物であってよい。水素がCSTR中で次に加熱されると、反応時の圧力は適切には1〜16MPaの範囲である。反応が進行するにしたがって、いくらか水素が消費される。水素の連続的供給により、水素分圧は、適切には、実質的に一定に保たれる。有利には、反応温度における水素の分圧は1〜6MPaの範囲に保たれる。
【0042】
本発明による方法における反応時間は変化をもたせることができる。適切には、炭水化物源の滞留時間は少なくとも1分間である。好ましくは、滞留時間は、5分〜6時間の範囲、さらに好ましくは5分〜2時間である。本発明の連続法では、滞留時間は、反応ゾーンへ入る炭水化物源の質量流量を、反応ゾーン中の触媒システムの質量流量で割った商であると理解される。一般に、連続法は、金属として表される水素化分解金属の質量当たりの炭水化物源の質量(1時間当たり)として表して0.01〜100hr
−1、好ましくは0.05〜10hr
−1の範囲の重量空間速度(WHSV)で操作される。
【0043】
生成物混合物をCSTRから取り出す場合、それは精製にかけられて、所望するエチレングリコール及び/又はその他の副生成物及び/又はタングステンが単離される。CSTR内での転化があるレベルに設定され、そのレベルでは生成物混合物が、用いられる未転化の炭化水素源のある量を含む場合は、生成物混合物をさらなる反応器中へ供給(フィード)して、そこで生成物混合物中の少なくとも炭水化物源がさらなる触媒と接触させられるようにすることが実行可能である。そのような触媒は、CSTRで用いられる触媒システムと同じであるか又は類似していることができる。そのさらなる反応器は、プラグフロー型反応器、スラリー反応器、沸騰床型反応器、あるいは別のCSTRを含めた任意のタイプの反応器から選択できる。
【0044】
本発明を以下の例によって説明する。
【0045】
例1
撹拌機を備え、3.5mlの容積をもつCSTRに、活性炭上に5質量%ルテニウムを含む100mgの水素化分解触媒を充填した。混合物の質量を基準にして、水及びグリセロール(82質量%の水及び18質量%のグリセロール)の混合物中に5質量%のグルコースを含む原料をCSTRにフィードした。その原料は、混合物1リットル当たり0.8gの水酸化ナトリウムをさらに含んでいた。その原料流はまた、1質量%のタングステン酸(H
2WO
4)を含んでいた。反応温度を200℃に保ち、水素圧は50バールであり、撹拌速度は1000rpmだった。この試験におけるルテニウムに対するタングステンの質量比は2.2wt/wtだった。CSTRに導入したルテニウムとグルコースの質量比は1:115だった。液体原料の流れ(フロー)は0.15ml/分であり、水素流は100ml/分だった。反応器内での液体の滞留時間はしたがって約23.3分だった。グルコースの転化は約98.5%で一定だったようである。流出物を分析し、エチレングリコール(sEG)、プロピレングリコール(sPG)、及びブチレングリコール(sBG)に対する選択率を測定した。選択率は、CSTR中に導入されたグルコースのグラム量で割った反応器流出物中の質量%として計算したエチレングリコール、プロピレングリコール、及びブチレングリコールの量として計算した。
【0046】
様々な実行時間での試験の結果を下の表1に示している。
【0047】
【表1】
【0048】
これらの結果は、この方法が、所望するアルキレングリコール類に対して、特にエチレングリコールに対して優れた一貫性のある選択性を生み出すことを示している。
【0049】
例2
触媒濃度の効果及びグルコース濃度の効果を示すために、一つの試験ではルテニウム触媒の量を100mgに代えて50mgだったことを除いて、例1における方法と同じ方法で試験を行った。その結果、W/Ru比は、4.2wt/wtへと変わり、ルテニウムとCSTR中に導入されたグルコースの質量比は1:230だった。
別の試験では、グルコース濃度を2.5質量%に設定した。そのW/Ru比は2.2wt/wtであり、ルテニウムとCSTRに導入されたグルコースの質量比は1:115だった。
選択率に加えて、グルコース転化率も報告する。結果を表2に示してある。
【0050】
【表2】
【0051】
これらの結果は、低減されたルテニウム含有量において、アルキレングリコールに対する選択率が時間経過とともに低下することを示している。それはフミンが形成されて、これがルテニウム触媒の不活性化を促進するものと思われる。したがって、また、グルコース転化率も時間の経過とともに低下する。
低減されたグルコース濃度においては、転化は実質的に終了している。エチレングリコールに対する選択率は優れている。ブチレングリコールに対する選択率は時間の経過とともに増大する。ブチレングリコールが望ましくない場合には、したがって、より高い炭水化物濃度で作業するのが有利である。