特許第6553752号(P6553752)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6553752
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】繊維強化複合体
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20190722BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20190722BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20190722BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20190722BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20190722BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20190722BHJP
   C08K 7/04 20060101ALI20190722BHJP
   B29C 70/10 20060101ALI20190722BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   C08J5/04CES
   C08L23/10
   C08L23/26
   C08K7/02
   C08K7/14
   C08K7/06
   C08K7/04
   B29C70/10
   B29C45/00
【請求項の数】15
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-567130(P2017-567130)
(86)(22)【出願日】2016年7月13日
(65)【公表番号】特表2018-522102(P2018-522102A)
(43)【公表日】2018年8月9日
(86)【国際出願番号】EP2016066665
(87)【国際公開番号】WO2017009380
(87)【国際公開日】20170119
【審査請求日】2018年2月23日
(31)【優先権主張番号】15176672.2
(32)【優先日】2015年7月14日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511114678
【氏名又は名称】ボレアリス エージー
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】イェラベック ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】シュトックライター ヴォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】ルンマーストーファー トーマス
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/033017(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0281630(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04
B29C 45/00
B29C 70/10
C08K 7/02
C08K 7/04
C08K 7/06
C08K 7/14
C08L 23/10
C08L 23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリプロピレン組成物(PPC)と、
(b)繊維(F)と、
(c)接着促進剤(AP)としての極性変性ポリプロピレンと
を含む繊維強化複合体であって、
前記ポリプロピレン組成物(PPC)は、少なくとも3種の半結晶性ポリプロピレン(PP1)、(PP2)、(PP3)を含み、かつ前記ポリプロピレン組成物(PPC)は、単相であり、
(a1)前記半結晶性ポリプロピレン(PP1)は、ISO1133に従って測定されたメルトフローレートMFR(230℃)が1.0〜60.0g/10minの範囲であり、かつ半結晶性ポリプロピレン(PP1)、(PP2)及び(PP3)の総計に基づく半結晶性ポリプロピレン(PP1)の量は、10〜50重量%の範囲であり、
(a2)前記半結晶性ポリプロピレン(PP2)は、ISO1133に従って測定されたメルトフローレートMFR(230℃)が40〜120g/10minの範囲であり、かつ半結晶性ポリプロピレン(PP1)、(PP2)及び(PP3)の総計に基づく半結晶性ポリプロピレン(PP2)の量は、30〜80重量%の範囲であり、
(a3)前記半結晶性ポリプロピレン(PP3)は、ISO1133に従って測定されたメルトフローレートMFR(230℃)が180〜1,000g/10minの範囲であり、かつ半結晶性ポリプロピレン(PP1)、(PP2)及び(PP3)の総計に基づく半結晶性ポリプロピレン(PP3)の量は、5〜45重量%の範囲であり、
ただし、前記半結晶性ポリプロピレン(PP1)のメルトフローレートMFR(230℃)が前記半結晶性ポリプロピレン(PP2)のメルトフローレートMFR(230℃)よりも低い、
繊維強化複合体。
【請求項2】
(a)前記半結晶性ポリプロピレン(PP1)は、ISO1133に従って測定されたメルトフローレートMFR(230℃)が1.0〜55g/10minの範囲であり、
(b)前記半結晶性ポリプロピレン(PP2)は、ISO1133に従って測定されたメルトフローレートMFR(230℃)が56〜120g/10minの範囲である、
請求項1に記載の繊維強化複合体。
【請求項3】
前記組成物が、
(a)前記繊維強化複合体に基づいて29.0〜60.0重量%の前記ポリプロピレン組成物(PPC)と、
(b)前記繊維強化複合体に基づいて39.0〜70.0重量%の繊維(F)と、
(c)前記繊維強化複合体に基づいて0.5〜5.0重量%の接着促進剤(AP)としての前記極性変性ポリプロピレンと
を含む、請求項1又は2に記載の繊維強化複合体。
【請求項4】
(a)前記繊維(F)と前記ポリプロピレン組成物(PPC)の重量比[(F)/(PPC)]が0.7〜2.0の範囲であり、ただし、好ましくは、前記繊維強化複合体中の前記繊維(F)と前記ポリプロピレン組成物(PPC)の合計が前記繊維強化複合体の総重量に基づいて少なくとも80重量%である、
及び/又は
(b)前記繊維(F)と前記極性変性ポリプロピレンの重量比が10〜50の範囲である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の繊維強化複合体。
【請求項5】
前記ポリプロピレン組成物(PPC)がα核化されている、請求項1から4のいずれか一項に記載の繊維強化複合体。
【請求項6】
(a)前記ポリプロピレン組成物(PPC)は、ISO1133に従って測定されたメルトフローレートMFR(230℃)が25〜165g/10minの範囲である、
及び/又は
(b)前記強化複合体は、ISO1133に従って測定されたメルトフローレートMFR(230℃)が1.0〜10g/10minの範囲である、
請求項1から5のいずれか一項に記載の繊維強化複合体。
【請求項7】
(a)前記半結晶性ポリプロピレン(PP2)と前記半結晶性ポリプロピレン(PP1)及び(PP3)の合計との重量比[(PP2)/((PP1)+(PP3))]が0.4〜3.0の範囲である、
及び/又は
(b)前記半結晶性ポリプロピレン(PP3)と前記半結晶性ポリプロピレン(PP1)の重量比[(PP3)/(PP1)]が0.5〜4.0の範囲である、
請求項1から6のいずれか一項に記載の繊維強化複合体。
【請求項8】
前記半結晶性ポリプロピレン(PP1)、(PP2)、(PP3)がプロピレンホモポリマー(H−PP1)、(H−PP2)、(H−PP3)である、請求項1からのいずれか一項に記載の繊維強化複合体。
【請求項9】
前記半結晶性ポリプロピレン(PP2)及び(PP3)がプロピレンホモポリマー(H−PP2)及び(H−PP3)であり、前記半結晶性ポリプロピレン(PP1)がプロピレンコポリマー(R−PP1)である、請求項1からのいずれか一項に記載の繊維強化複合体。
【請求項10】
前記繊維(F)が、ガラス繊維、金属繊維、セラミック繊維、炭素繊維及びグラファイト繊維からなる群から選択され、好ましくは前記繊維(F)がガラス繊維である、請求項1からのいずれか一項に記載の繊維強化複合体。
【請求項11】
前記繊維(F)の平均直径が5.0〜20.0μmである、請求項1から10のいずれか一項に記載の繊維強化複合体。
【請求項12】
前記繊維(F)の平均長さが2〜8mmである、請求項1から11のいずれか一項に記載の繊維強化複合体。
【請求項13】
前記接着促進剤(AP)が、無水マレイン酸によって官能性を持たせたポリプロピレンである、請求項1から12のいずれか一項に記載の繊維強化複合体。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載の繊維強化複合体を含む射出成形品。
【請求項15】
自動車部品である、請求項14に記載の射出成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子量の異なる少なくとも3種のポリプロピレンを含むポリプロピレン組成物を含む新しい繊維強化複合体を対象とする。本発明は、前記新しい繊維強化複合体を含む射出成形品も対象とする。
【背景技術】
【0002】
一般に、繊維強化複合体においては、剛性及び強度のような機械的性能は、繊維含有量で調節される。繊維含有量を増やすと、剛性及び強度が増加する。高添加量の繊維に関連した問題は、平均繊維長が繊維含有量とともに減少することである。加工温度における基材樹脂粘度は、繊維破損の原因である局所的剪断力の大きさを決定する。換言すれば、易流動性材料は、繊維破損を防止するが、こうした材料を含む最終複合体の機械的性質に劣るという欠点がある。
【0003】
さらに、繊維強化複合体においては、表面品質は、特に自動車産業においては、重要な側面である。通常、ガラス繊維含有量が増加すると、特徴的な艶消し粗面を形成する溶融物中の固形成分の割合が増加するので、表面品質が低下する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明の目的は、バランスのとれた性質プロファイル、すなわち、良好な加工性及び優れた外観と共に高い剛性及び強度を有する複合体を作製することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の知見は、繊維(F:fiber)含有量が少なくとも35重量%であり、分子量の異なる少なくとも3種のポリプロピレンを含むポリプロピレン組成物を含む、繊維強化複合体を提供することである。
【0006】
したがって、本発明は、
(a)ポリプロピレン組成物(PPC:polypropylene composition)と、
(b)繊維(F)と、
(c)接着促進剤(AP:adhesion promotor)としての極性変性ポリプロピレンと
を含む繊維強化複合体であって、前記ポリプロピレン組成物(PPC)は、ISO1133に従って測定されたそれらのメルトフローレートMFR(230℃)が異なる少なくとも3種の半結晶性ポリプロピレン(PP1)、(PP2)、(PP3)を含み、好ましくは、
(a1)前記半結晶性ポリプロピレン(PP1)は、ISO1133に従って測定されたメルトフローレートMFR(230℃)が1.0〜60g/10minの範囲であり、
(a2)前記半結晶性ポリプロピレン(PP2)は、ISO1133に従って測定されたメルトフローレートMFR(230℃)が40〜120g/10minの範囲であり、
(a3)前記半結晶性ポリプロピレン(PP3)は、ISO1133に従って測定されたメルトフローレートMFR(230℃)が180〜1,000g/10minの範囲であり、
ただし、半結晶性ポリプロピレン(PP1)のメルトフローレートMFR(230℃)が半結晶性ポリプロピレン(PP2)のメルトフローレートMFR(230℃)よりも低い、
繊維強化複合体を対象とする。
【0007】
好ましくは、繊維(F)とポリプロピレン組成物(PPC)の重量比[(F)/(PPC)]は0.7〜2.0の範囲であり、ただし、好ましくは、繊維強化複合体中の繊維(F)とポリプロピレン組成物(PPC)の合計が繊維強化複合体の総重量に基づいて少なくとも80重量%である。
【0008】
好ましくは、繊維(F)と極性変性ポリプロピレンの重量比は10〜50の範囲である。
【0009】
より好ましくは、本発明は、
(a)繊維強化複合体に基づいて29.5〜60.0重量%のような29.0〜60.0重量%のポリプロピレン組成物(PPC)と、
(b)繊維強化複合体に基づいて39.5〜70.0重量%のような39.0〜70.0重量%の繊維(F)と、
(c)繊維強化複合体に基づいて0.5〜5.0重量%の接着促進剤(AP)としての極性変性ポリプロピレンと
を含む繊維強化複合体であって、
前記ポリプロピレン組成物(PPC)は、少なくとも3種の半結晶性ポリプロピレン(PP1)、(PP2)、(PP3)を含み、
(a1)前記半結晶性ポリプロピレン(PP1)は、ISO1133に従って測定されたメルトフローレートMFR(230℃)が1.0〜60.0g/10minの範囲、好ましくは1.0〜55g/10minの範囲であり、
(a2)前記半結晶性ポリプロピレン(PP2)は、ISO1133に従って測定されたメルトフローレートMFR(230℃)が40.0〜120g/10minの範囲、好ましくは56〜120g/10minの範囲であり、
(a3)前記半結晶性ポリプロピレン(PP3)は、ISO1133に従って測定されたメルトフローレートMFR(230℃)が180〜1,000g/10minの範囲であり、
ただし、前記半結晶性ポリプロピレン(PP1)のメルトフローレートMFR(230℃)が前記半結晶性ポリプロピレン(PP2)のメルトフローレートMFR(230℃)よりも低い、
繊維強化複合体を対象とする。
【0010】
好ましい実施形態においては、ポリプロピレン組成物(PPC)は、α核化されている。
【0011】
さらに、繊維強化複合体は、ISO1133に従って測定されたメルトフローレートMFR(230℃)が1.5〜10.0g/10minの範囲であることが好ましい。
【0012】
さらに、ポリプロピレン組成物(PPC)は、ISO1133に従って測定されたメルトフローレートMFR(230℃)が25〜165g/10minの範囲であることが好ましい。
【0013】
更により好ましくは、半結晶性ポリプロピレン(PP2)と半結晶性ポリプロピレン(PP1)及び(PP3)の合計との重量比[(PP2)/((PP1)+(PP3))]は、0.4〜3.0の範囲である。
【0014】
前段落に加えて、又はその代わりに、半結晶性ポリプロピレン(PP3)と半結晶性ポリプロピレン(PP1)の重量比[(PP3)/(PP1)]は、好ましくは、0.5〜4.0の範囲である。
【0015】
特定の一実施形態においては、ポリプロピレン組成物(PPC)は単相である。
【0016】
更に好ましい実施形態においては、半結晶性ポリプロピレン(PP1)、(PP2)、(PP3)は、プロピレンホモポリマー(H−PP1)、(H−PP2)、(H−PP3)である。更により好ましくは、ポリプロピレン組成物(PPC)は単相であり、半結晶性ポリプロピレン(PP1)、(PP2)、(PP3)はプロピレンホモポリマー(H−PP1)、(H−PP2)、(H−PP3)である。
【0017】
別の好ましい実施形態においては、半結晶性ポリプロピレン(PP2)及び(PP3)はプロピレンホモポリマー(H−PP2)及び(H−PP3)であり、半結晶性ポリプロピレン(PP1)はプロピレンコポリマー(R−PP1)である。
【0018】
好ましくは、繊維(F)は、ガラス繊維、金属繊維、セラミック繊維、炭素繊維及びグラファイト繊維からなる群から選択され、更により好ましくは、繊維(F)はガラス繊維である。
【0019】
好ましい実施形態においては、繊維(F)の平均直径は、5.0〜20.0μmの範囲である。
【0020】
更により好ましくは、繊維(F)の平均長さは、2〜8mmの範囲である。
【0021】
接着促進剤(AP)は、好ましくは、無水マレイン酸によって官能性を持たせたポリプロピレンである。
【0022】
本発明は、本発明において定義された繊維強化複合体を含む、射出成形品、より好ましくは射出成形自動車部品も対象とする。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態の濃淡値と画素数のグラフである。
図2】本発明の一実施形態の濃淡値と画素数のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0025】
繊維強化複合体
上述したように、繊維強化複合体は、ポリプロピレン組成物(PPC)、繊維(F)及び接着促進剤(AP)としての極性変性ポリプロピレンを含む。好ましい実施形態においては、ポリプロピレン組成物(PPC)、繊維(F)及び極性変性ポリプロピレン(AP)が繊維強化複合体の主要部分を構成する。すなわち、好ましい一実施形態においては、繊維強化複合体は、ポリプロピレン組成物(PPC)、繊維(F)及び極性変性ポリプロピレン(AP)を含み、ポリプロピレン組成物(PPC)及び極性変性ポリプロピレン(AP)は、繊維強化複合体における主要ポリマー成分であり、すなわち、繊維強化複合体は、繊維強化複合体の全ポリマーの総量に基づいて10重量%を超える、好ましくは5重量%を超える、ポリプロピレン組成物(PPC)及び極性変性ポリプロピレン(AP)以外のポリマーを含まない。こうした追加のポリマーは、例えば、添加剤(AD:additives)のポリマー担体であり得る。したがって、特定の一実施形態においては、繊維強化複合体は、ポリプロピレン組成物(PPC)、繊維(F)、極性変性ポリプロピレン(AP)、及びポリマー担体を含む添加剤(AD)からなる。
【0026】
本発明は、特に、ポリプロピレン組成物(PPC)が繊維(F)に対するマトリックスである連続相を形成する繊維強化複合体を対象とすることに留意されたい。したがって、繊維強化複合体に含まれるポリマー全体は、繊維強化複合体のマトリックスである連続相を形成することが好ましい。「強化組成物に含まれるポリマー全体は、繊維強化複合体のマトリックスである連続相を形成する」という表現から、本発明は、好ましくは、ポリマー相が繊維に対するマトリックスである連続相を形成する繊維強化複合体を対象とすることが明らかである。したがって、複合体における繊維に対するマトリックスを形成するポリマー、すなわち、ポリプロピレン組成物(PPC)は単相である。繊維強化複合体の所望の機械的性質は、したがって、本質的に、繊維(F)の接着及び挿入を向上させる接着促進剤(AP)と組み合わせてポリプロピレン組成物(PPC)によって調節される。こうした複合体のポリプロピレン組成物(PPC)は、連続相を形成すると考えられる。さらに、同じ機械的性質を向上させようとするエラストマー相の挿入は、好ましくは、除外される。
【0027】
したがって、好ましい一実施形態においては、繊維(F)とポリプロピレン組成物(PPC)の重量比[(F)/(PPC)]は、0.6〜2.0のような0.6〜2.5の範囲、より好ましくは0.8〜2.6の範囲、更により好ましくは1.0〜2.2の範囲のような0.9〜2.4の範囲であり、ただし、好ましくは、繊維強化複合体における繊維(F)とポリプロピレン組成物(PPC)の合計は、繊維強化複合体の総重量に基づいて少なくとも80重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、更により好ましくは少なくとも90重量%、更により好ましくは少なくとも96重量%のような少なくとも95重量%である。
【0028】
好ましくは、繊維(F)と極性変性ポリプロピレンの重量比は、10〜50の範囲、より好ましくは15〜40の範囲、更により好ましくは22〜28の範囲のような20〜30の範囲である。
【0029】
前段落に加えて、又はその代わりに、繊維強化複合体は、好ましくは、
(a)繊維強化複合体に基づいて29.0〜60.0重量%、より好ましくは38.0〜57.0重量%、更により好ましくは45.0〜50.2重量%のような42.5〜53.5重量%のポリプロピレン組成物(PPC)と、
(b)繊維強化複合体に基づいて39.0〜70.0重量%、より好ましくは42.0〜60.0重量%、更により好ましくは48.0〜52.0重量%のような45.0〜55.0重量%の繊維(F)と、
(c)繊維強化複合体に基づいて0.5〜5.0重量%、より好ましくは1.0〜4.0重量%、更により好ましくは1.8〜2.2重量%のような1.5〜3.5重量%の接着促進剤(AP)としての極性変性ポリプロピレンと
を含む。
【0030】
更に別の好ましい実施形態においては、繊維強化複合体は、
(a)繊維強化複合体に基づいて29.0〜60.0重量%、より好ましくは38.0〜57.0重量%、更により好ましくは45.0〜49.0重量%のような42.5〜52.5重量%のポリプロピレン組成物(PPC)と、
(b)繊維強化複合体に基づいて39.0〜70.0重量%、より好ましくは41.0〜60.0重量%、更により好ましくは48.0〜52.0重量%のような45.0〜55.0重量%の繊維(F)と、
(c)繊維強化複合体に基づいて0.5〜5.0重量%、より好ましくは1.0〜4.0重量%、更により好ましくは1.8〜2.2重量%のような1.5〜3.5重量%の接着促進剤(AP)としての極性変性ポリプロピレンと、
(d)繊維強化複合体に基づいて0.5〜8.0重量%、より好ましくは1.0〜5.0重量%、更により好ましくは1.2〜3.0重量%のような1.0〜3.5重量%の添加剤(AD)と
を含み、好ましくはそれらからなる。
【0031】
ポリプロピレン組成物(PPC)、繊維(F)、接着促進剤(AP)としての極性変性ポリプロピレン、任意選択のα核剤(下記考察参照)及び任意選択の添加剤(AD)が繊維強化組成物の主要部分を構成することが好ましい。したがって、好ましい一実施形態においては、ポリプロピレン組成物(PPC)、繊維(F)、接着促進剤(AP)としての極性変性ポリプロピレン、任意選択のα核剤及び任意選択の添加剤(AD)が、繊維強化組成物の少なくとも70重量%、より好ましくは少なくとも80重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、更により好ましくは少なくとも99重量%のような少なくとも95重量%を構成する。特に好ましい実施形態においては、繊維強化複合体は、ポリプロピレン組成物(PPC)、繊維(F)、極性変性ポリプロピレン(AP)、任意選択のα核剤及び任意選択の添加剤(AD)からなる。
【0032】
好ましくは、繊維強化複合体は、ISO1133に従って測定されたメルトフローレートMFR(230℃)が1.0〜10.0g/10minの範囲、より好ましくは1.5〜7.0g/10minの範囲のような1.5〜8.0g/10minの範囲である。
【0033】
更により好ましくは、繊維強化複合体は、
(a)ISO527−2に従って測定された引張弾性率が、少なくとも11,000MPa、より好ましくは12,000〜14,500MPaの範囲のような11,000〜15,000MPaの範囲である、
及び/又は
(b)ISO527−2に従って測定された引張強さが、少なくとも125MPa、より好ましくは130〜170MPaの範囲のような125〜180MPaの範囲である。
【0034】
好ましくは、繊維強化複合体は、ISO1791eAに従って測定されたノッチ付き衝撃強さ(23℃)が、少なくとも10kJ/m、より好ましくは10.0〜20.0kJ/mの範囲、更により好ましくは12.0〜18.0kJ/mの範囲である。
【0035】
以下、繊維強化複合体の個々の成分をより詳細に記述する。
【0036】
ポリプロピレン組成物(PPC)
本発明に係るポリプロピレン組成物(PPC)は、メルトフローレートMFR(230℃)が異なる少なくとも3種の半結晶性ポリプロピレン(PP1)、(PP2)、(PP3)を含まなければならない。
【0037】
「半結晶性」という用語は、ポリマーがアモルファスではないことを示す。したがって、本発明に係る半結晶性ポリプロピレンは、キシレン可溶性画分(XCS:xylene soluble fraction)が10重量%以下であり、半結晶性プロピレンホモポリマーの場合、キシレン可溶性画分(XCS)が更に低い、すなわち6.0重量以下であることが好ましい。
【0038】
好ましくは、本発明に係る半結晶性ポリプロピレンは、融解温度Tmが135℃を超え、より好ましくは140℃を超える。半結晶性プロピレンホモポリマーの場合、融解温度Tmは、少なくとも156℃のように150℃を超える。上の範囲は、165℃以下のような168℃以下である。
【0039】
好ましくは、ポリプロピレン組成物(PPC)は、α核化されており、すなわち、α核剤を含む。より好ましくは、ポリプロピレン組成物(PPC)は、β核剤を含まない。α核剤は、好ましくは、
(i)モノカルボン酸及びポリカルボン酸の塩、例えば、安息香酸ナトリウム又はアルミニウムtert−ブチルベンゾアート、及び
(ii)ジベンジリデンソルビトール(例えば、1,3:2,4ジベンジリデンソルビトール)、及びメチルジベンジリデンソルビトール、エチルジベンジリデンソルビトール、若しくはジメチルジベンジリデンソルビトール(例えば、1,3:2,4ジ(メチルベンジリデン)ソルビトール)などのC〜Cアルキル置換ジベンジリデンソルビトール誘導体、又は1,2,3,−トリデオキシ−4,6:5,7−ビス−O−[(4−プロピルフェニル)メチレン]−ノニトールなどの置換ノニトール誘導体、及び
(iii)リン酸のジエステルの塩、例えば、ナトリウム2,2’−メチレンビス(4,6,−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファート又はアルミニウム−ヒドロキシ−ビス[2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファート]、及び
(iv)ビニルシクロアルカンポリマー又はビニルアルカンポリマー、並びに
(v)それらの混合物
からなる群から選択される。
【0040】
こうした核剤は、市販されており、例えば、「Plastic Additives Handbook」、5版、2001年、Hans Zweifel(967〜990ページ)に記載されている。
【0041】
ポリプロピレン組成物(PPC)のα核剤含有量は、好ましくは、最高5.0重量%である。好ましい実施形態においては、ポリプロピレン組成物(PPC)は、3000ppm以下、より好ましくは1〜2000ppmの、特にジベンジリデンソルビトール(例えば、1,3:2,4ジベンジリデンソルビトール)、ジベンジリデンソルビトール誘導体、好ましくはジメチルジベンジリデンソルビトール(例えば、1,3:2,4ジ(メチルベンジリデン)ソルビトール)、又は1,2,3,−トリデオキシ−4,6:5,7−ビス−O−[(4−プロピルフェニル)メチレン]−ノニトールなどの置換ノニトール誘導体、NA21のようなヒドロキシビス(2,4,8,10−テトラ−tert.ブチル−6−ヒドロキシ−12H−ジベンゾ(d,g)(1,3,2)ジオキサホスホシン6−オキシダート)アルミニウム、ビニルシクロアルカンポリマー、ビニルアルカンポリマー、及びそれらの混合物からなる群から選択されるα核剤を含む。
【0042】
好ましくは、ポリプロピレン組成物(PPC)に含まれるα核剤は、ビニルシクロアルカンポリマー及び/又はビニルアルカンポリマー、より好ましくはビニルシクロヘキサンポリマー(polyVCH:vinylcyclohexane polymer)のようなビニルシクロアルカンポリマーである。ビニルシクロヘキサンポリマー(polyVCH)は、α核剤として特に好ましい。ポリプロピレン組成物(PPC)中のビニルシクロヘキサンポリマー(polyVCH)のようなビニルシクロアルカン及び/又はビニルアルカンポリマー、より好ましくはビニルシクロヘキサンポリマー(polyVCH)の量は、0.1〜500ppmの範囲、好ましくは0.5〜200ppmの範囲、より好ましくは1.0〜100ppmの範囲のような500ppm以下、好ましくは200ppm以下、より好ましくは100ppm以下であることが理解される。さらに、ビニルシクロアルカンポリマー及び/又はビニルアルカンポリマーは、BNT技術によって、すなわち、半結晶性ポリプロピレン(PP1)、(PP2)、(PP3)の1種以上の製造のために、ポリプロピレン組成物(PPC)に導入されることが理解される。BNT技術に関しては、国際公開第99/24478号、国際公開第99/24479号、特に国際公開第00/68315号を参照されたい。この技術によれば、触媒系、好ましくはチーグラー・ナッタ触媒前駆体又はメタロセン触媒を、触媒系の存在下でビニル化合物を重合することによって改変することができ、ビニル化合物は次式を有する。
CH=CH−CHR
【0043】
式中、RとRは、一緒に、5若しくは6員飽和、不飽和若しくは芳香環を形成し、又は独立に、1〜4個の炭素原子を含むアルキル基を表し、改変された触媒は、半結晶性ポリプロピレン(PP1)、(PP2)、(PP3)の1種以上の調製に使用される。重合ビニル化合物は、α核剤として作用する。触媒の改変ステップにおけるビニル化合物と固体触媒成分の重量比は、0.5(1:2)〜2(2:1)の範囲のような好ましくは最高5(5:1)、より好ましくは最高3(3:1)である。
【0044】
好ましくは、ポリプロピレン組成物(PPC)は、少なくとも3種の半結晶性ポリプロピレン(PP1)、(PP2)、(PP3)を含む。より好ましくは、3種の半結晶性ポリプロピレン(PP1)、(PP2)、(PP3)は、ポリプロピレン組成物(PPC)中の唯一の半結晶性ポリプロピレンである。
【0045】
3種の半結晶性ポリプロピレン(PP1)、(PP2)、(PP3)は、それらのメルトフローレートMFR(230℃)が異ならなければならない。
【0046】
したがって、好ましくは、
(a)半結晶性ポリプロピレン(PP2)のメルトフローレートMFR(230℃)と半結晶性ポリプロピレン(PP1)のメルトフローレートMFR(230℃)の比[MFR(PP2)/MFR(PP1)]は、1.5〜40.0の範囲、より好ましくは2.0〜30.0の範囲、更により好ましくは2.5〜25.0の範囲、更により好ましくは3.0〜10.0の範囲のような3.0〜15.0の範囲であり、
(b)半結晶性ポリプロピレン(PP3)のメルトフローレートMFR(230℃)と半結晶性ポリプロピレン(PP2)のメルトフローレートMFR(230℃)の比[MFR(PP3)/MFR(PP2)]は、1.5〜80.0の範囲、より好ましくは2.0〜50.0の範囲、更により好ましくは2.5〜30.0の範囲、更により好ましくは4.0〜20.0の範囲のような3.0〜20.0の範囲であり、
場合によっては、
(c)半結晶性ポリプロピレン(PP3)のメルトフローレートMFR(230℃)と半結晶性ポリプロピレン(PP1)のメルトフローレートMFR(230℃)の比[MFR(PP3)/MFR(PP1)]は、4.5〜500.0の範囲、より好ましくは8.0〜180.0の範囲、更により好ましくは10.0〜150.0の範囲、更により好ましくは15.0〜100.0の範囲のような12.0〜120.0の範囲である。
【0047】
前段落に加えて、又はその代わりに、
(a)半結晶性ポリプロピレン(PP1)は、ISO1133に従って測定されたメルトフローレートMFR(230℃)が1.0〜60.0g/10minの範囲であり、より好ましくは1.0〜55.0g/10minの範囲、更により好ましくは2.0〜50.0g/10minの範囲、更により好ましくは3.0〜40.0g/10minの範囲、更により好ましくは15.0〜25.0g/10minの範囲のような8.0〜30.0g/10minの範囲であり、
(b)前記半結晶性ポリプロピレン(PP2)は、ISO1133に従って測定されたメルトフローレートMFR(230℃)が40.0〜120g/10minの範囲、より好ましくは50.0〜100.0g/10minの範囲、更により好ましくは56.0〜95.0重量%のような55.0〜95.0g/10minの範囲、更により好ましくは60.0〜90.0g/10minの範囲、更により好ましくは65.0〜85.0g/10minの範囲のような60.0〜90.0g/10minの範囲であり、
(c)前記半結晶性ポリプロピレン(PP3)は、ISO1133に従って測定されたメルトフローレートMFR(230℃)が180〜1,000g/10minの範囲、より好ましくは200.0〜800.0g/10minの範囲、更により好ましくは250.0〜650.0g/10minの範囲、更により好ましくは300.0〜600.0g/10minの範囲、更により好ましくは400.0〜500.0g/10minの範囲のような350.0〜550.0g/10minの範囲であり、
ただし、半結晶性ポリプロピレン(PP1)のメルトフローレートMFR(230℃)は、半結晶性ポリプロピレン(PP2)のメルトフローレートMFR(230℃)よりも低い。
【0048】
更により好ましくは、半結晶性ポリプロピレン(PP2)と半結晶性ポリプロピレン(PP1)及び(PP3)の合計との重量比[(PP2)/((PP1)+(PP3))]は、0.4〜3.0の範囲、例えば、0.4〜3.0の範囲、より好ましくは0.5〜2.6の範囲、更により好ましくは0.8〜2.0の範囲、更により好ましくは1.0〜1.5の範囲である。
【0049】
前段落に加えて、又はその代わりに、半結晶性ポリプロピレン(PP3)と半結晶性ポリプロピレン(PP1)の重量比[(PP3)/(PP1)]は、好ましくは0.7〜4.0の範囲、より好ましくは0.8〜3.0の範囲、更により好ましくは0.9〜2.0の範囲、更により好ましくは0.9〜1.5の範囲である。
【0050】
2つの前段落に加えて、又はその代わりに、
(a)半結晶性ポリプロピレン(PP1)、(PP2)及び(PP3)の総計に基づく半結晶性ポリプロピレン(PP1)の量は、10〜50重量%の範囲、より好ましくは15〜46重量%の範囲、更により好ましくは19〜25重量%の範囲のような28〜30重量%の範囲であり、
(b)半結晶性ポリプロピレン(PP1)、(PP2)及び(PP3)の総計に基づく半結晶性ポリプロピレン(PP2)の量は、30〜80重量%の範囲、より好ましくは35〜75重量%の範囲、更により好ましくは45〜70重量%の範囲のような40〜75重量%の範囲であり、
(c)半結晶性ポリプロピレン(PP1)、(PP2)及び(PP3)の総計に基づく半結晶性ポリプロピレン(PP3)の量は、5〜45重量%の範囲、より好ましくは7〜35重量%の範囲、更により好ましくは15〜25重量%の範囲のような10〜30重量%の範囲である。
【0051】
半結晶性ポリプロピレン(PP1)、(PP2)及び(PP3)は、ランダムプロピレンコポリマー又はプロピレンホモポリマーとすることができ、後者が好ましい。
【0052】
本発明で使用されるプロピレンホモポリマーという表現は、実質的にプロピレン単位からなる、すなわちポリプロピレンの総重量に基づいて少なくとも99.5重量%、好ましくは少なくとも99.6重量%、より好ましくは少なくとも99.8重量%のプロピレン単位からなる、ポリプロピレンに関する。本発明の一実施形態においては、プロピレンホモポリマー中のプロピレン単位のみが検出可能である。
【0053】
半結晶性ポリプロピレン(PP1)、(PP2)及び(PP3)がランダムポリプロピレンコポリマー(R−PP1)、(R−PP2)、(R−PP3)である場合、それは、プロピレンと共重合可能なモノマー、すなわちプロピレン以外のα−オレフィン、例えば、エチレン及び/又はC〜C10α−オレフィン、特にエチレン及び/又はC〜Cα−オレフィン、例えば、1−ブテン及び/又は1−ヘキセンなどのコモノマーを含む。好ましくは、ランダムポリプロピレンコポリマー(R−PP1)、(R−PP2)、(R−PP3)は、エチレン、1−ブテン及び1−ヘキセンからなる群由来のプロピレンと共重合可能なモノマーを含み、特に該モノマーからなる。より具体的には、ランダムポリプロピレンコポリマー(R−PP1)、(R−PP2)、(R−PP3)は、プロピレン以外に、エチレン及び/又は1−ブテンから誘導可能な単位を含む。本発明の一実施形態においては、ランダムポリプロピレンコポリマー(R−PP1)、(R−PP2)、(R−PP3)は、エチレン及びプロピレンから誘導可能な単位のみを含む。
【0054】
ランダムポリプロピレンコポリマー(R−PP1)、(R−PP2)、(R−PP3)のコモノマー含有量は、好ましくは比較的低く、すなわち、ランダムポリプロピレンコポリマー(R−PP1)、(R−PP2)及び(R−PP3)の総重量に基づいてそれぞれ5.0重量%未満である。本発明の一実施形態においては、コモノマー含有量は、好ましくは、ランダムポリプロピレンコポリマー(R−PP1)、(R−PP2)及び(R−PP3)の総重量に基づいて、それぞれ0.5重量%〜5.0重量%の間、より好ましくは0.5重量%〜4.0重量%の間である。
【0055】
半結晶性ポリプロピレン(PP2)及び(PP3)は、半結晶性プロピレンホモポリマー(H−PP2)及び(H−PP3)であることが特に好ましい。
【0056】
半結晶性プロピレンホモポリマー(H−PP2)のような半結晶性ポリプロピレン(PP2)は、好ましくは、融解温度Tmが160〜166℃の範囲のような158〜168℃の範囲である。したがって、半結晶性ポリプロピレン(PP2)は、ISO1133に従って測定されたメルトフローレートMFR(230℃)が40.0〜120g/10minの範囲、より好ましくは50.0〜100.0g/10minの範囲、更により好ましくは55.0〜95.0g/10minの範囲、更により好ましくは60.0〜90.0g/10minの範囲、更により好ましくは65.0〜85.0g/10minの範囲のような60.0〜90.0g/10minの範囲の半結晶性プロピレンホモポリマー(H−PP2)であることが好ましい。こうした半結晶性プロピレンホモポリマーは、当該技術分野で公知である。例えば、半結晶性プロピレンホモポリマー(H−PP2)をBorealis AGの市販品HJ120UBとすることができる。
【0057】
半結晶性プロピレンホモポリマー(H−PP3)のような半結晶性ポリプロピレン(PP3)は、やや高いメルトフローレートを有し、したがって高メルトフローポリプロピレンとも呼ばれる。したがって、半結晶性プロピレンホモポリマー(H−PP3)のような半結晶性ポリプロピレン(PP3)は、3種の半結晶性ポリプロピレン(PP1)、(PP2)及び(PP3)のうちで最高のメルトフローレートを有する。こうした高メルトフローポリマーは、幾つかの特許出願(例えば、欧州特許出願公開第0320150号、欧州特許出願公開第0480190号、欧州特許出願公開第0622380号、欧州特許出願公開第1303547号、欧州特許出願公開第1538167号、欧州特許出願公開第1783145号、国際公開第2007/140019号など)に記載の周知のプロセスによって重合反応器中で直接製造することができる。あるいは、こうした高メルトフローレートポリプロピレンは、例えばビスブレーキングを含めて、制御レオロジー(CR:controlled rheology)技術によって得ることができる。ビスブレーキングは、低メルトフローレートのポリマーを反応器後(post−reactor)処理に供することを意味し、ポリマー分子は、溶融状態で、制御された切断を受ける。切断は、機械的剪断、照射及び酸化によって、又は過酸化物を用いて化学的に行うことができる。好ましくは、制御レオロジー処理は、有機過酸化物を用いて行われる。プロピレンポリマー材料をビスブレーキングするプロセスは、当業者によく知られており、幾つかの特許出願に記載されている(例えば、米国特許第3940379号、米国特許第4951589号、米国特許第4282076号、米国特許第5250631号、欧州特許出願公開第0462574号、国際公開第02/096986号、国際公開第2004/113438号など)。制御レオロジー処理の出発化合物として使用されるポリマーは、当該技術分野で公知の任意の重合プロセスによって製造することができる。重合プロセスは、公知の方法を利用する、液相で、場合によっては不活性希釈剤の存在下で、又は気相で、若しくは混合液−ガス技術によって機能する、連続プロセス又はバッチプロセスとすることができる。プロセスは、好ましくは、立体特異性触媒系の存在下で行われる。触媒として、プロピレンポリマーの形成を触媒可能な任意の通常の立体特異性チーグラー・ナッタ触媒又は任意のメタロセン触媒を使用することができる。こうして製造されたポリプロピレンは、高メルトフローを特徴とする。したがって、半結晶性プロピレンホモポリマー(H−PP3)のような半結晶性ポリプロピレン(PP3)は、ISO1133に従って測定されたメルトフローレートMFR(230℃)が180〜1,000g/10minの範囲、より好ましくは200.0〜800.0g/10minの範囲、更により好ましくは250.0〜650.0g/10minの範囲、更により好ましくは300.0〜600.0g/10minの範囲、更により好ましくは400.0〜500.0g/10minの範囲のような350.0〜550.0g/10minの範囲であることが好ましい。こうした高メルトフローポリマーは、当該技術分野で公知である。例えば、半結晶性プロピレンホモポリマー(H−PP2)をBorealis AGの市販品HL504FBとすることができる。
【0058】
半結晶性ポリプロピレン(PP1)は、3種の半結晶性ポリプロピレン(PP1)、(PP2)及び(PP3)のうちで最低のメルトフローレートを有する。好ましくは、半結晶性ポリプロピレン(PP1)は、α核化されており、したがって他のポリマーのα核形成も誘発するポリマーである。
【0059】
半結晶性ポリプロピレン(PP1)は、半結晶性ランダムプロピレンコポリマー(R−PP1)又は半結晶性プロピレンホモポリマー(H−PP1)とすることができ、後者が好ましい。
【0060】
半結晶性プロピレンホモポリマー(H−PP1)は、当該技術分野で公知である。好ましくは、半結晶性プロピレンホモポリマー(H−PP1)は、ISO1133に従って測定されたメルトフローレートMFR(230℃)が1.0〜60.0g/10minの範囲であり、より好ましくは1.0〜55.0g/10minの範囲、更により好ましくは2.0〜50.0g/10minの範囲、更により好ましくは3.0〜40.0g/10minの範囲、更により好ましくは15.0〜25.0g/10minの範囲のような10.0〜30.0g/10minの範囲である。例えば、半結晶性プロピレンホモポリマー(H−PP1)をBorealis AGの市販品HF955MOとすることができる。この市販品は、ポリビニルシクロヘキサン(polyVCH:polyvinyl cyclohexane)の存在によってα核化されている。
【0061】
半結晶性ポリプロピレン(PP1)が半結晶性ランダムプロピレンコポリマー(R−PP1)である場合、半結晶性ランダムポリプロピレンコポリマー(R−PP1)のコモノマー含有量は、好ましくは、比較的低く、すなわち、半結晶性ランダムポリプロピレンコポリマー(R−PP1)の総重量に基づいて5.0重量%未満である。本発明の一実施形態においては、コモノマー含有量は、好ましくは、半結晶性ランダムポリプロピレンコポリマー(R−PP1)の総重量に基づいて、0.5重量%〜5.0重量%の間、より好ましくは0.5重量%〜4.0重量%の間である。好ましくは、半結晶性ランダムポリプロピレンコポリマー(R−PP1)は、プロピレンと共重合可能なモノマー、すなわちプロピレン以外のα−オレフィン、例えば、エチレン及び/又はC〜C10α−オレフィン、特にエチレン及び/又はC〜Cα−オレフィン、例えば、1−ブテン及び/又は1−ヘキセンなどのコモノマーを含む。好ましくは、半結晶性ランダムポリプロピレンコポリマー(R−PP1)は、エチレン、1−ブテン及び1−ヘキセンからなる群由来のプロピレンと共重合可能なモノマーを含み、特に該モノマーからなる。より具体的には、半結晶性ランダムポリプロピレンコポリマー(R−PP1)は、プロピレン以外に、エチレン及び/又は1−ブテンから誘導可能な単位を含む。本発明の一実施形態においては、半結晶性ランダムポリプロピレンコポリマー(R−PP1)は、エチレン及びプロピレンから誘導可能な単位のみを含む。
【0062】
特定の一実施形態においては、ポリプロピレン組成物(PPC)は、単相であり、半結晶性ポリプロピレン(PP1)、(PP2)及び(PP3)を含む。
【0063】
「単相」という用語は、ポリプロピレン組成物(PPC)が、複合体の破断伸びなどの機械的性質を向上させる第二相としての含有物を形成する弾性(コ)ポリマーを含まないことを示す。それに対して、弾性(コ)ポリマーを第二相の挿入物として含むポリマー相は、異相と称され、本発明の一部ではない。第2の相、すなわち、いわゆる含有物の存在は、例えば、電子顕微鏡法若しくは原子間力顕微鏡法のような高分解能顕微鏡法によって、又は動的機械的熱分析(DMTA:dynamic mechanical thermal analysis)によって、見ることができる。特に、DMTAにおいては、多相構造の存在は、少なくとも2つの異なるガラス転移温度の存在によって確認することができる。したがって、本発明の好ましい実施形態においては、こうした繊維強化複合体は、好ましくは、本発明から除外される。したがって、上述したように、本発明に係る繊維強化複合体は、好ましくは、繊維(F)が分散した単相ポリマーマトリックス、すなわち、単相ポリプロピレン組成物(PPC)を含む。
【0064】
したがって、本発明に係る単相ポリプロピレン組成物(PPC)は、ガラス転移温度が−30℃未満、好ましくは−25℃未満、より好ましくは−20℃未満にはないことが好ましい。
【0065】
一方、好ましい一実施形態においては、本発明に係る単相ポリプロピレン組成物(PPC)は、ガラス転移温度が−12〜+8℃の範囲、より好ましくは−10〜+8℃の範囲である。
【0066】
したがって、特定の好ましい実施形態においては、ポリプロピレン組成物(PPC)は、単相であり、半結晶性ポリプロピレン(PP1)、(PP2)及び(PP3)を唯一の半結晶性ポリマーとして含む。例えば、半結晶性ポリプロピレン(PP1)、(PP2)及び(PP3)は、ポリプロピレン組成物(PPC)の少なくとも80重量%、より好ましくは少なくとも95重量%のような少なくとも90重量%を構成する。更により好ましい実施形態においては、ポリプロピレン組成物(PPC)は、単相であり、半結晶性プロピレンホモポリマー(H−PP1)、(H−PP2)及び(H−PP3)を含む。極めて特別な実施形態においては、ポリプロピレン組成物(PPC)は、単相であり、半結晶性プロピレンホモポリマー(H−PP1)、(H−PP2)及び(H−PP3)を唯一の半結晶性ポリマーとして含み、例えば、半結晶性プロピレンホモポリマー(H−PP1)、(H−PP2)及び(H−PP3)は、ポリプロピレン組成物(PPC)の少なくとも80重量%、より好ましくは少なくとも95重量%のような少なくとも90重量%を構成する。例えば、特定の好ましい実施形態においては、ポリプロピレン組成物(PPC)は、単相であり、半結晶性プロピレンホモポリマー(H−PP1)、(H−PP2)及び(H−PP3)からなる。別の好ましい実施形態においては、ポリプロピレン組成物(PPC)は、単相であり、半結晶性ランダムプロピレンコポリマー(R−PP1)並びに半結晶性プロピレンホモポリマー(H−PP2)及び(H−PP3)を含む。好ましくは、ポリプロピレン組成物(PPC)は、単相であり、半結晶性プロピレンホモポリマー(H−PP2)及び(H−PP3)並びに半結晶性ランダムプロピレンコポリマー(R−PP1)を唯一の半結晶性ポリマーとして含み、例えば、半結晶性プロピレンホモポリマー(H−PP2)及び(H−PP3)並びに半結晶性ランダムプロピレンコポリマー(R−PP1)は、ポリプロピレン組成物(PPC)の少なくとも80重量%、より好ましくは少なくとも95重量%のような少なくとも90重量%を構成する。
【0067】
したがって、本発明の特定の一実施形態においては、ポリプロピレン組成物(PPC)は、単相であり、以下を含む。
(a)ポリプロピレン組成物(PPC)の総重量に基づいて5〜40重量%、より好ましくは7〜35重量%の範囲、更により好ましくは15〜25重量%の範囲のような10〜30重量%の範囲の半結晶性プロピレンホモポリマー(H−PP1)、ここで、前記半結晶性プロピレンホモポリマー(H−PP1)は、ISO1133に従って測定されたメルトフローレートMFR(230℃)が1.0〜40.0g/10minの範囲、より好ましくは10.0〜40.0g/10minの範囲、更により好ましくは15.0〜30.0g/10minの範囲、更により好ましくは18.0〜25.0g/10minの範囲である、
(b)ポリプロピレン組成物(PPC)の総重量に基づいて30〜80重量%、より好ましくは35〜75重量%の範囲、更により好ましくは45〜70重量%の範囲のような40〜75重量%の範囲の半結晶性プロピレンホモポリマー(H−PP2)、ここで、前記半結晶性プロピレンホモポリマー(H−PP2)は、ISO1133に従って測定されたメルトフローレートMFR(230℃)が40.0〜120g/10minの範囲、より好ましくは50.0〜100.0g/10minの範囲、更により好ましくは55.0〜95.0g/10minの範囲、更により好ましくは60.0〜90.0g/10minの範囲、更により好ましくは65.0〜85.0g/10minの範囲のような60.0〜90.0g/10minの範囲である、及び
(c)ポリプロピレン組成物(PPC)の総重量に基づいて10〜50重量%、より好ましくは15〜46重量%の範囲、更により好ましくは19〜25重量%の範囲のような28〜30重量%の範囲の半結晶性プロピレンホモポリマー(H−PP3)、ここで、前記半結晶性プロピレンホモポリマー(H−PP3)は、ISO1133に従って測定されたメルトフローレートMFR(230℃)が180〜1,000g/10minの範囲、より好ましくは200.0〜800.0g/10minの範囲、更により好ましくは250.0〜650.0g/10minの範囲、更により好ましくは300.0〜600.0g/10minの範囲、更により好ましくは400.0〜500.0g/10minの範囲のような350.0〜550.0g/10minの範囲である。
【0068】
こうした単相ポリプロピレン組成物(PPC)は、好ましくは、半結晶性プロピレンホモポリマー(H−PP1)、(H−PP2)及び(H−PP3)のような半結晶性ポリプロピレン(PP1)、(PP2)及び(PP3)を機械的にブレンドすることによって得られる。
【0069】
繊維(F)
本繊維強化複合体の必須成分は繊維(F)である。
【0070】
好ましくは、繊維(F)は、ガラス繊維、金属繊維、鉱物繊維、セラミック繊維、炭素繊維及びグラファイト繊維からなる群から選択される。ガラス繊維が好ましい。特に、ガラス繊維は、短繊維又はチョップドストランドとしても知られるカットガラス繊維である。
【0071】
繊維強化組成物に使用されるカットガラス繊維(F)又はガラス短繊維(F)は、好ましくは、平均長さが1〜10mmの範囲、より好ましくは2〜8mmの範囲、更により好ましくは3.0〜4.5mmの範囲のような3〜5mmの範囲である。
【0072】
繊維強化組成物に使用されるカットガラス繊維又はガラス短繊維は、好ましくは、平均直径が8〜20μm、より好ましくは9〜16μm、例えば9〜14μmである。
【0073】
好ましくは、繊維(F)は、アスペクト比が125〜650、好ましくは150〜450、より好ましくは200〜440、更により好ましくは300〜430である。アスペクト比は、繊維の平均長さと平均直径の関係である。
【0074】
接着促進剤(AP)
ポリプロピレン組成物(PPC)と繊維(F)の適合性を向上させるために、好ましくは、接着促進剤(AP)を使用する。
【0075】
接着促進剤(AP)は、好ましくは、変性(官能化)ポリプロピレンのような変性(官能化)ポリオレフィンを含み、より好ましくは、変性(官能化)ポリプロピレンのような変性(官能化)ポリオレフィンである。変性α−オレフィンポリマー、特にプロピレンホモポリマー、及びプロピレンとエチレンのプロピレンコポリマーのようなコポリマーは、繊維強化複合体のポリプロピレン組成物(PPC)との相溶性が高いので、最も好ましい。変性ポリエチレンも使用することができるが、さほど好ましくない。
【0076】
構造の点で、変性(官能化)ポリプロピレンのような変性(官能化)ポリオレフィンは、好ましくは、グラフト又はブロックコポリマーから選択される。
【0077】
この状況においては、特に酸無水物、カルボン酸、カルボン酸誘導体、第一級アミン、第二級アミン、ヒドロキシ化合物、オキサゾリン及びエポキシドからなる群から選択される極性化合物並びにイオン化合物から誘導される基を含む、変性(官能化)ポリプロピレンのような変性(官能化)ポリオレフィンが好ましい。
【0078】
前記極性化合物の具体例は、不飽和環状無水物及びそれらの脂肪族ジエステル、及び二塩基酸誘導体である。特に、無水マレイン酸、並びにC〜C10線状及び分枝マレイン酸ジアルキル、C〜C10線状及び分枝フマル酸ジアルキル、無水イタコン酸、C〜C10線状及び分枝イタコン酸ジアルキルエステル、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸及びそれらの混合物から選択される化合物を使用することができる。
【0079】
無水マレイン酸がグラフトされたプロピレンポリマー、例えばプロピレンホモポリマーを、変性ポリマー、すなわち、接着促進剤(AP)として使用することが特に好ましい。
【0080】
変性(官能化)ポリプロピレンのような変性(官能化)ポリオレフィン、すなわち、接着促進剤(AP)は、例えば欧州特許出願公開第0572028号に開示されたように、例えば(有機過酸化物のような)遊離基発生剤の存在下で無水マレイン酸と一緒に、ポリマーを反応押出しすることによって、簡単に製造することができる。
【0081】
変性(官能化)ポリプロピレンのような変性(官能化)ポリオレフィン、すなわち、接着促進剤(AP)中の極性化合物から誘導される基の好ましい量は、0.5〜4重量%である。
【0082】
変性ポリマー、すなわち、変性(官能化)ポリプロピレンのような変性(官能化)ポリオレフィン、すなわち接着促進剤(AP)のメルトフローレートMFR(230℃)の好ましい値は、1.0〜500g/10minである。
【0083】
添加剤(AD)
ポリプロピレン組成物(PPC)及びしたがって繊維強化複合体も、添加剤(AD)を含むことができる。典型的な添加剤は、酸捕捉剤、酸化防止剤、着色剤、光安定剤、熱安定剤、傷防止剤、加工助剤、潤滑剤、顔料などである。したがって、一実施形態においては、添加剤(AD)は、酸捕捉剤、酸化防止剤、着色剤、光安定剤、熱安定剤、傷防止剤、加工助剤、潤滑剤及び顔料からなる群から選択される。こうした添加剤は、市販されており、例えば、「Plastic Additives Handbook」、6版、2009年、Hans Zweifel(1141〜1190ページ)に記載されている。本発明によれば、α核剤は、添加剤(AD)とみなされず、別に考察される。
【0084】
さらに、本発明に係る「添加剤(AD)」という用語は、担体材料、特にポリマー担体材料も含むが、別に考察されるα核剤を含まない。
【0085】
ポリマー担体材料は、ポリプロピレン組成物(PPC)中の均一な分布を確保する添加剤(AD)の担体ポリマーである。ポリマー担体材料は、特定のポリマーに限定されない。ポリマー担体材料は、エチレンホモポリマー、エチレンとC〜Cα−オレフィンコモノマーなどのα−オレフィンコモノマーから得られるエチレンコポリマー、プロピレンホモポリマー、及び/又はプロピレンとエチレン及び/又はC〜Cα−オレフィンコモノマーなどのα−オレフィンコモノマーから得られるプロピレンコポリマーとすることができる。
【0086】
好ましい実施形態によれば、ポリマー担体材料は、ポリプロピレンホモポリマーである。
【0087】
本繊維強化複合体の個々の成分を混合するために、従来の配合又は調合装置、例えば、バンバリーミキサー、二本ロールゴム用ミル、Bussコニーダー若しくは二軸押出機を使用することができる。好ましくは、混合は、同方向回転二軸押出機において実施される。押出機から回収された繊維強化複合体は、通常、ペレットの形態である。これらのペレットは、次いで、好ましくは、例えば射出成形によって、更に加工されて、本発明の繊維強化組成物の物品及び製品を生成する。
【0088】
物品
本発明は、上で定義した繊維強化組成物を含む、射出成形自動車部品のような射出成形品にも関する。本発明は、特に、少なくとも60重量%、より好ましくは少なくとも80重量%、更により好ましくは少なくとも95重量%又は少なくとも99重量%のような少なくとも90重量%の上で定義した繊維強化組成物を含む、射出成形自動車部品のような射出成形品に関する。特に好ましい実施形態においては、本発明は、上で定義した繊維強化組成物からなる、射出成形自動車部品のような射出成形品に関する。
【0089】
本発明を以下の実施例によって更に詳細に記述する。
【実施例】
【0090】
1.定義/測定法
用語及び測定法の以下の定義は、別段の記載がない限り、本発明の上記概要及び下記実施例に適用される。
【0091】
NMR分光法による微細構造の定量化
定量的核磁気共鳴(NMR:nuclear−magnetic resonance)分光法を使用して、ポリプロピレンホモポリマーのアイソタクティシティ及び位置規則性を定量化する。
【0092】
定量的13C{H}NMRスペクトルを、H及び13Cそれぞれ400.15及び100.62MHzで動作するBruker AdvanceIII400NMR分光計を用いて溶液状態で記録した。全スペクトルを13C最適化10mm拡張温度プローブヘッドを用いて125℃ですべての気圧装置(pneumatics)に窒素ガスを用いて記録した。
【0093】
ポリプロピレンホモポリマーの場合、材料約200mgを1,2−テトラクロロエタン−d(TCE−d:tetrachloroethane−d)に溶解させた。確実に均質溶液にするために、熱ブロック中の最初の試料調製後、NMR管を回転乾燥器中で少なくとも1時間更に加熱した。磁石に挿入し、管を10Hzで回転させた。この設定を、主に立体規則性分布の定量化に必要な高分解能のために選択した(Busico,V.、Cipullo,R.、Prog.Polym.Sci.26(2001)443;Busico,V.;Cipullo,R.、Monaco,G.、Vacatello,M.、Segre,A.L.、Macromolecules30(1997)6251)。標準単一パルス励起をNOE及びバイレベルWALTZ16デカップリングスキームを利用して採用した(Zhou,Z.、Kuemmerle,R.、Qiu,X.、Redwine,D.、Cong,R.、Taha,A.、Baugh,D.Winniford,B.、J.Mag.Reson.187(2007)225;Busico,V.、Carbonniere,P.、Cipullo,R.、Pellecchia,R.、Severn,J.、Talarico,G.、Macromol.Rapid Commun.2007、28、11289)。1回のスペクトル当たり合計8192(8k)のトランジェントを得た。
【0094】
定量的13C{H}NMRスペクトルを処理し、積分し、関連する定量的性質を所有のコンピュータプログラムを用いて積分から求めた。
【0095】
ポリプロピレンホモポリマーの場合、すべての化学シフトは、21.85ppmにおけるメチルアイソタクティックペンタッド(mmmm)を内部基準とする。
【0096】
位置欠陥(Resconi,L.、Cavallo,L.、Fait,A.、Piemontesi,F.、Chem.Rev.2000、100、1253;Wang,W−J.、Zhu,S.、Macromolecules33(2000)、1157;Cheng,H.N.、Macromolecules17(1984)、1950)又はコモノマーに対応する特徴的なシグナルが観察された。
【0097】
立体規則性分布を、対象となる立体配列に無関係な任意の部位を補正して23.6〜19.7ppmの間のメチル領域の積分によって定量化した(Busico,V.、Cipullo,R.、Prog.Polym.Sci.26(2001)443;Busico,V.、Cipullo,R.、Monaco,G.、Vacatello,M.、Segre,A.L.、Macromolecules30(1997)6251)。
【0098】
特に、立体規則性分布の定量化に対する位置欠陥及びコモノマーの影響を、立体配列の特定の積分領域から代表的な位置欠陥及びコモノマーの積分を減算することによって補正した。
【0099】
アイソタクティシティをペンタッドレベルで測定し、すべてのペンタッド配列に対するアイソタクティックペンタッド(mmmm)配列の百分率として報告した。
[mmmm]%=100*(mmmm/すべてのペンタッドの合計)
【0100】
2,1エリスロ位置欠陥の存在は、17.7及び17.2ppmにおける2個のメチル部位の存在によって示され、別の特徴的な部位によって確認された。別のタイプの位置欠陥に対応する特徴的なシグナルは観察されなかった(Resconi,L.、Cavallo,L.、Fait,A.、Piemontesi,F.、Chem.Rev.2000、100、1253)。
【0101】
2,1エリスロ位置欠陥の量を、17.7及び17.2ppmにおける2個の特徴的なメチル部位の平均積分を用いて定量化した。
21e=(Ie6+Ie8)/2
【0102】
1,2一次挿入プロペンの量をメチル領域に基づいて定量化し、この領域内の一次挿入に無関係な部位及びこの領域から除外された一次挿入部位について補正した。
12=ICH3+P12e
【0103】
プロペンの総量を一次挿入プロペン及び存在するすべての他の位置欠陥の合計として定量化した。
total=P12+P21e
【0104】
2,1−エリスロ位置欠陥のモルパーセントをすべてのプロペンに対して定量化した。
[21e]mol%=100*(P21e/Ptotal
【0105】
(Cheng,H.N.、Macromolecules1984、17、1950に記載のように)エチレンの取り込みに対応する特徴的なシグナルが観察され、コモノマー分率をポリマー中のすべてのモノマーに対してポリマー中のエチレン分率として計算した。
【0106】
コモノマー分率を、W−J.Wang及びS.Zhu、Macromolecules2000、33、1157の方法を用いて、13C{H}スペクトルのスペクトル領域全体にわたる複数のシグナルを積分して、定量化した。この方法は、その堅牢性のため、また、必要なときに位置欠陥の存在を説明できるので、選択された。得られるコモノマー含有量の全範囲にわたる妥当性を高めるために積分領域をわずかに調節した。
【0107】
モルパーセントコモノマー取り込みをモル分率から計算した。
【0108】
重量パーセントコモノマー取り込みをモル分率から計算した。
【0109】
密度をISO1183−1−方法A(2004)に従って測定する。試料調製を圧縮成形によってISO1872−2:2007に従って実施する。
【0110】
MFR(230℃)をISO1133に従って測定する(230℃、2.16kg負荷)。
【0111】
MFR(190℃)をISO1133に従って測定する(190℃、2.16kg負荷)。
【0112】
融解温度(T):試料5〜7mgをTA Instrument Q2000示差走査熱量測定(DSC:differential scanning calorimetry)によって測定。DSCをISO11357/パート3/方法C2に従って加熱/冷却/加熱サイクルにおいて走査速度10℃/minで温度範囲−30〜+225℃で行う。融解温度を第2の加熱ステップから測定する。
【0113】
ガラス転移温度Tgを動的機械分析によってISO6721−7に従って測定する。測定をねじれモードで圧縮成形試料(40×10×1mm)に対して−100℃〜+150℃の間で加熱速度2℃/min及び周波数1Hzで行う。
【0114】
キシレン低温可溶分(XCS)含有量を25℃でISO16152、第1版、2005−07−01に従って測定する。
【0115】
引張弾性率、引張破壊歪み(Tensile stain at break)を、EN ISO1873−2に記載の射出成形試料(犬用の骨の形状、厚さ4mm)を用いて、ISO527−2に従って測定する(クロスヘッド速度=破壊歪みの測定の場合50mm/min、引張弾性率の場合1mm/min、23℃)。
【0116】
シャルピー衝撃試験:シャルピー(ノッチ付き)衝撃強さ(シャルピーNIS/IS:(notched)impact strength)をISO179 1eAに従って23℃で、ISO294−1:1996に従って調製した射出成形棒状試験試料80×10×4mmを用いて測定する。
【0117】
ガラス転移温度Tgを動的機械分析によってISO6721−7に従って測定する。測定をねじれモードで圧縮成形試料(40×10×1mm)に対して−100℃〜+150℃の間で加熱速度2℃/min及び周波数1Hzで行う。
【0118】
螺旋流長さ:この方法は、射出成形を使用して、プラスチック材料の流動性を型の冷却効果を考慮して試験する原理を規定するものである。プラスチックを高温シリンダー中でスクリューによって溶融させ、柔軟にする。溶融プラスチックをピストンとして機能するスクリューによって空洞内に特定の速度及び圧力で射出する。空洞は、スチールに印刷された長さ測定用分割目盛りを有する螺旋として成形されている。それによって、流れの長さを射出成形試験螺旋試料上で直接読み取ることができる。
【0119】
螺旋試験をEngel ES1050/250HL射出成形機を用い、螺旋状の型を用い、圧力600、1000又は1400バールで行った。
【0120】
スクリュー直径:55mm
指定射出圧:600、1000又は1400バール
ツール形状:円形螺旋形状;長さ1545mm;断面:台形2.1mm厚さ;断面積20.16mm
プレチャンバ及びダイの温度:230℃
ゾーン2/ゾーン3/ゾーン4/ゾーン5/ゾーン6の温度:230℃/230℃/220℃/220℃/200℃
射出サイクル:保持を含む射出時間:6秒
冷却時間:10秒
スクリュー速度:50mm/s
ツール温度:40℃
【0121】
螺旋流長さを射出操作直後に測定することができる。
【0122】
濃淡値測定。Sybille Frankら、PPS25 Intern.Conf.Polym.Proc.Soc2009又はProceedings of the SPIE、6831巻、68130T−68130T−8ページ(2008)によって記述され、フローマーク評価用に開発された光学測定システムの画像記録部を、表面品質を特徴づける特別な画像解析評価戦略と一緒に使用した。
【0123】
この方法は2つの側面からなる。
【0124】
1.画像記録:
測定システムの基本原理は、プレートに規定の光源(LED)を閉環境で照射し、画像をCCDカメラシステムで記録することである。照明及び/又はカメラの変化を補償するために、露出時間を濃淡基準プレート(濃淡値140に設定)によって較正する。
【0125】
2.画像解析:
試料は片面から照らされ、光の上向きに反射された部分が2個の鏡を介してCCDセンサへと偏向される。幾つかのこうして作成された濃淡値画像は、平均され、平準化され、その結果、測定濃淡値分布に関して分析される。
【0126】
一般に、図の左側に暗い画素の低い濃淡値、図の右側に明るい画素の高い濃淡値を有する濃淡値範囲にわたる、同じ濃淡値の画素の合計を示す、188*50mm画像(約77250画素)から測定された試料のグレースケール分布曲線が報告される。分布曲線の始まりは、25画素の最初の最も暗い濃淡値として定義され、分布曲線の最大は、最大の画素の濃淡値として定義され、分布曲線の終わりは、同様に25画素の最後の最も明るい濃淡値で定義される。
【0127】
良好な試料材料の開発のための目標は、グレースケールの暗い端部に左端として最大を有し、できるだけ低い濃淡値分布、特にグレースケール分布曲線の最大と明るい端部の小さな差を有することである。
【0128】
この評価では、平滑な表面及び1.4mmのフィルムゲートを有する板210×148×3mmを使用し、充填時間1.5秒で製造した。
【0129】
更なる条件:
融解温度:PP−LGFの場合255℃、PP−SGFの場合250℃
型温:PP−LGFの場合55℃、PP−SGFの場合40℃
動圧:1バール水圧
繊維直径をISO1888:2006(E)、方法B、顕微鏡倍率1000で測定する。
【0130】
2.実施例
本発明を以下の実施例によって説明する。
【0131】
【表1】
【0132】
H−PP1は、メルトフローレートMFR(230℃)が20g/10min、密度が908kg/m、ガラス転移温度Tgが+4℃であるBorealis AGの市販プロピレンホモポリマーHF955MOである。プロピレンホモポリマーHF955MOは、ポリビニルシクロヘキサン(polyVCH)によってα核化されている。
【0133】
H−PP2は、メルトフローレートMFR(230℃)が75g/10min、密度が905kg/m、ガラス転移温度Tgが+2℃であるBorealis AGの市販プロピレンホモポリマーHJ120UBである。
【0134】
H−PP3は、メルトフローレートMFR(230℃)が450g/10min、ガラス転移温度Tgが+0℃であるBorealis AGの市販高フロープロピレンホモポリマーHL504FBである。
【0135】
APは、密度0.9g/cm、MFR(190℃)約96g/10min及びMAH含有量1.4重量%のKometra GmbH、ドイツの無水マレイン酸によって官能性を持たせた市販ポリプロピレン「Scona TPPP8112FA」である。
【0136】
GF1は、フィラメント直径10.5μm及びストランド長3mmの日本電気硝子株式会社の市販品ECS03T−480Hである。
【0137】
GF2は、シラン系サイズ剤で被覆されたEガラス繊維、平均長さ4mm及び平均直径13μmである、Johns Manvilleの市販ガラス繊維「Thermo Flow Chopped Strand636 for PP」である。
【0138】
【表2】

図1
図2