(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6553867
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】カメラスタビライザ
(51)【国際特許分類】
G03B 17/56 20060101AFI20190722BHJP
B64D 47/08 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
G03B17/56 A
B64D47/08
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-239510(P2014-239510)
(22)【出願日】2014年11月27日
(65)【公開番号】特開2016-102818(P2016-102818A)
(43)【公開日】2016年6月2日
【審査請求日】2017年7月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231073
【氏名又は名称】日本航空電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【弁理士】
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】中谷 聡
【審査官】
高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】
実開平05−075748(JP,U)
【文献】
特開平05−064042(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第00667708(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03B 17/56
B64D 47/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載されるカメラスタビライザであって、
支持部により支持されてエレベーション軸回りに回転駆動されるケースを備え、
前記ケース内にカメラが収容され、前記カメラ用の窓が前記ケースに設けられており、
前記窓が受ける空力荷重により発生する前記エレベーション軸回りの空力トルクをキャンセルするキャンセル面が前記ケースの外面に形成され、
前記キャンセル面は前記ケースの外面の一部を構成し、前記ケースの外面がなす球面と異なる面形状を有し、前記球面に対し凹んでいることを特徴とするカメラスタビライザ。
【請求項2】
請求項1記載のカメラスタビライザにおいて、
前記ケースは前記支持部により支持されるシャフト部と、前記シャフト部を挟んで前記シャフト部の前後に取り付けられるフロントカバーとリアカバーとよりなり、
前記フロントカバーに前記窓が設けられており、
前記シャフト部に前記キャンセル面が形成されていることを特徴とするカメラスタビライザ。
【請求項3】
請求項1記載のカメラスタビライザにおいて、
前記ケースは前記支持部により支持されるシャフト部と、前記シャフト部を挟んで前記シャフト部の前後に取り付けられるフロントカバーとリアカバーとよりなり、
前記フロントカバーに前記窓が設けられており、
前記フロントカバーに前記キャンセル面が形成されていることを特徴とするカメラスタビライザ。
【請求項4】
請求項2記載のカメラスタビライザにおいて、
前記キャンセル面は前記シャフト部の上部及び下部にそれぞれ形成されていることを特徴とするカメラスタビライザ。
【請求項5】
請求項3記載のカメラスタビライザにおいて、
前記キャンセル面は前記フロントカバーの上部及び下部にそれぞれ形成されていることを特徴とするカメラスタビライザ。
【請求項6】
請求項1乃至3記載のいずれかのカメラスタビライザにおいて、
前記ケースの回転に伴い、前記空力トルクが最大となるエレベーション角度において、前記空力トルクをキャンセルするように前記キャンセル面が形成されていることを特徴とするカメラスタビライザ。
【請求項7】
請求項1乃至6記載のいずれかのカメラスタビライザにおいて、
前記キャンセル面が平面であることを特徴とするカメラスタビライザ。
【請求項8】
請求項1乃至6記載のいずれかのカメラスタビライザにおいて、
前記キャンセル面が円筒面であることを特徴とするカメラスタビライザ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は航空機や車両等の移動体に搭載されるカメラスタビライザに関する。
【背景技術】
【0002】
移動体の外側に取り付けられるカメラスタビライザは移動体の移動に伴い、風を受けることになる。このような風の影響を考慮したカメラスタビライザが特許文献1に記載されている。
【0003】
図7は特許文献1に記載されているカメラスタビライザ(特許文献1では空間安定装置と称している)を示したものであり、カメラスタビライザ10は航空機からなる移動体20の底部に取り付けられている。カメラスタビライザ10にはケース11と、ケース11に格納されたジンバル機構12及びペイロード13とが設けられている。ペイロード13は可視カメラ及び赤外線カメラ等によって構成されている。
【0004】
ケース11には移動体20に固定された下部ケーシング11aと、ジンバル機構12によって回転可能に支持された第1及び第2上部ケーシング11b,11cとが設けられている。第1及び第2上部ケーシング11b,11cは下部ケーシング11aに対して旋回方向14に回転可能に設けられており、第2上部ケーシング11cは第1上部ケーシング11bに対して俯仰方向15に回転可能に設けられている。ジンバル機構12は旋回方向14及び俯仰方向15にペイロード13を回転させることでペイロード13の姿勢を制御する。
【0005】
第2上部ケーシング11cの外周には第1及び第2風速検出器16,17が取り付けられている。カメラスタビライザ10に風が吹き付けられると、第1風速検出器16は旋回方向14に沿う風速を検出する。ペイロード13に対して発生する旋回外乱トルクの大きさは旋回方向14に沿う風速に比例する。第2風速検出器17は俯仰方向15に沿う風速を検出する。ペイロード13に対して発生する俯仰外乱トルクの大きさは俯仰方向15に沿う風速に比例する。
【0006】
この例では第1及び第2風速検出器16,17で検出された風速に基づいて旋回方向14及び俯仰方向15に沿う外乱トルクを算出し、算出した外乱トルクに基づいてジンバル機構12の駆動制御を補正するものとなっており、即ち外乱トルクを打ち消すための補正トルクが通常の駆動トルクに付加されるものとなっている。これにより、カメラスタビライザ10への風に応じた駆動制御を実施でき、駆動制御の精度を向上できるものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−52662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、
図7に示した従来のカメラスタビライザでは風の影響による外乱トルクを打ち消すために、補正トルクを通常の駆動トルクに付加するものとなっているため、駆動用のモータにはトルクがより大きいモータが必要であり、つまり大型のモータが必要であり、よってカメラスタビライザも大きくなってしまい、カメラスタビライザを小型に構成することができないといった問題があった。
【0009】
この発明の目的はこの問題に鑑み、小型に構成することができるようにしたカメラスタビライザを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明によれば、移動体に搭載されるカメラスタビライザは、支持部により支持されてエレベーション軸回りに回転駆動されるケースを備え、ケース内にカメラが収容され、カメラ用の窓がケースに設けられており、窓が受ける空力荷重により発生するエレベーション軸回りの空力トルクをキャンセルするキャンセル面がケースの外面に形成され
、キャンセル面はケースの外面の一部を構成し、ケースの外面がなす球面と異なる面形状を有し、球面に対し凹んでいるものとされる。
【0011】
請求項2の発明では請求項1の発明において、ケースは前記支持部により支持されるシャフト部と、シャフト部を挟んでシャフト部の前後に取り付けられるフロントカバーとリアカバーとよりなり、フロントカバーに前記窓が設けられており、シャフト部に前記キャンセル面が形成されているものとされる。
【0012】
請求項3の発明では請求項1の発明において、ケースは前記支持部により支持されるシャフト部と、シャフト部を挟んでシャフト部の前後に取り付けられるフロントカバーとリアカバーとよりなり、フロントカバーに前記窓が設けられており、フロントカバーに前記キャンセル面が形成されているものとされる。
【0013】
請求項4の発明では請求項2の発明において、前記キャンセル面はシャフト部の上部及び下部にそれぞれ形成されているものとされる。
【0014】
請求項5の発明では請求項3の発明において、前記キャンセル面はフロントカバーの上部及び下部にそれぞれ形成されているものとされる。
【0015】
請求項6の発明では請求項1乃至3のいずれかの発明において、ケースの回転に伴い、空力トルクが最大となるエレベーション角度において、空力トルクをキャンセルするように前記キャンセル面が形成されているものとされる。
【0016】
請求項7の発明では請求項1乃至6のいずれかの発明において、前記キャンセル面が平面とされる。
【0017】
請求項8の発明では請求項1乃至6のいずれかの発明において、前記キャンセル面が円筒面とされる。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、エレベーション軸回りの空力トルクを軽減することができるため、エレベーション軸回りの回転駆動用のモータとしてトルクの小さいモータを使用することができ、つまり小型のモータを使用することができるため、その分、カメラスタビライザを小型に構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】この発明の対象となるカメラスタビライザの斜視図。
【
図2】
図1に示したカメラスタビライザの、内部機構の図示を一部省略した断面図。
【
図3】
図1に示したカメラスタビライザのケース構成を説明するための図。
【
図4】窓が受ける空力荷重により発生する空力トルクを説明するための図。
【
図5】エレベーション角度と空力トルクの関係を示すグラフ。
【
図6】この発明によるカメラスタビライザの一実施例を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
まず、最初に、この発明の実施対象であるカメラスタビライザの構成を
図1〜3を参照して説明する。
【0021】
図1はカメラスタビライザの外観を示したものであり、
図2はその断面構造の概略を示したものである。また、
図3は一部を分解して示したものである。
【0022】
カメラスタビライザは防振マウント部30とジンバルユニット40とを備え、防振マウント部30の上面が航空機等の移動体に対する取り付け面31とされる。ジンバルユニット40は第1の支持部41と第2の支持部42とケース43とを備えている。第1の支持部41は防振マウント部30に連結されており、第2の支持部42は第1の支持部41に支持されてアジマス軸回りに回転可能とされている。また、ケース43は第2の支持部42によって挟み込まれて支持され、エレベーション軸回りに回転可能とされている。なお、以下においてはアジマスをAZと記し、エレベーションをELと記す。
【0023】
第2の支持部42をAZ軸回りに回転駆動するモータ(図示せず)は第1の支持部41内に設けられ、ケース43をEL軸回りに回転駆動するモータ(図示せず)は第2の支持部42内に設けられている。なお、
図2中、44,45は軸受を示し、46は軸受44の内輪に取り付けられている第2の支持部42のシャフト部を示す。
【0024】
ケース43は
図3に示したように、第2の支持部42により支持されるシャフト部47と、シャフト部47を挟んでシャフト部47の前後に取り付けられるフロントカバー48とリアカバー49とよりなる。シャフト部47は軸受45の内輪に取り付けられている。
図3中、51はケース43の両側に位置する第2の支持部42の互いの外側部分を構成するサイドカバーを示す。
【0025】
ケース43は全体として球体の左右が平面で切り欠かれたような形状をなし、平面部分が第2の支持部42によって挟み込まれて支持されている。ケース43内には図示を省略しているが、カメラ、レンズ等の光学系及びジンバル機構が収容され、カメラ用の窓がケース43に設けられている。窓はフロントカバー48に2つ設けられている。窓52は可視カメラ用の窓であり、窓53は赤外線カメラ用の窓である。窓52,53は良好な透過性能を得るべく、平板によって構成されている。
【0026】
上記のような構成を有するカメラスタビライザが取り付けられた移動体が移動すると、
図1に示したようにカメラスタビライザは風61を受けることになる。フロントカバー48に設けられている窓52,53の表面はまわりのフロントカバー48の球面と違って平面であるため、窓52,53が受ける空力荷重によって空力トルクが発生する。発生する空力トルクはEL軸回り及びAZ軸回りの外乱トルクとなり、カメラスタビライザの空間安定性に影響する。
【0027】
空力トルクは風が当たっている方向からみた窓52,53の投影面積と、軸(EL軸,AZ軸)から投影面積の中心位置までの距離の積に比例する。そして、ケース43は回転駆動されるため、ケース43の回転に伴い、空力トルクは変化する。
【0028】
ここで、
図1〜3に示したカメラスタビライザにおいて、EL軸回りにケース43が回転した場合のEL角度と空力トルクの関係を調べた結果について説明する。
【0029】
図4はEL角度が0°の状態(可視カメラの光軸が水平方向の状態)のカメラスタビライザを示したものであり、この状態からケース43が矢印a方向に回転された場合のEL角度を正とする。風は
図4Aに示した正面図において正面から当たっているものとする。カメラスタビライザの仕様を以下に示す。
・ケース43の径D : 24cm
・窓52の投影面積S1 : 56.75cm
2
・窓53の投影面積S2 : 28.27cm
2
・窓52の角度位置θ1 : 21°
・窓53の角度位置θ2 : −27°
【0030】
図5は上記のような仕様を有するカメラスタビライザにおいて、風の強さを大,中,小とした場合のEL角度と空力トルクの関係を示したものであり、EL角度が50〜60°の時、空力トルクが最大となっている。
【0031】
この発明では上述したような空力トルクをキャンセルするキャンセル面をケース43の外面に形成する。なお、第2の支持部42を介してケース43をAZ軸回りに回転駆動するモータは第1の支持部41内に設けられるため、設置スペースは比較的大きく、つまり外乱トルク(空力トルク)に負けない大きなモータを使用することができるのに対し、ケース43をEL軸回りに回転駆動するモータは第2の支持部42内に設けられるため、設置スペースは小さく、特にカメラスタビライザの小型化を図る上ではモータも極力小さくする必要があり、このような観点からこの発明ではEL軸回りの空力トルクをキャンセル面によってキャンセルするものとする。
【0032】
図6はこの発明によるカメラスタビライザの一実施例を示したものであり、この例では前述の
図5に示したように空力トルクが最大となるEL角度50〜60°において空力トルクをキャンセルすることができるようにキャンセル面54をケース43の外面に設けている。なお、
図6はEL角度が55°の状態のカメラスタビライザを示しており、キャンセル面54にはハッチングを付している。風は
図6Aに示した正面図において正面から当たっているものとする。キャンセル面54はこの例では平面によって構成されている。
【0033】
図6Aにおいて風が当たっている方向から見た窓52,53及びキャンセル面54の投影面積をS1’,S2’,S3とし、EL軸から投影面積の中心位置までの距離をL1,L2,L3とする時、キャンセル面54は、
S3×L3=S1’×L1+S2’×L2
を満足し、窓52,53により発生する空力トルクと反対方向のトルクを発生するように設けられる。
図6B中、矢印bは窓52,53が受ける空力荷重により発生する空力トルクによるケース43の回転方向を示し、矢印cはキャンセル面54が受ける空力荷重により発生するトルクによるケース43の回転方向を示す。
【0034】
窓52,53が受ける空力荷重により発生する空力トルクはEL角度によって大きく変化するため、このように空力トルクが最大となるEL角度において空力トルクをキャンセルすることができるようにキャンセル面54を設けるのが好ましい。この例ではEL角度が55°の時、
図6Aに示したように風が当たっている方向から見てケース43のシャフト部47が見えるため、キャンセル面54をシャフト部47の外面に形成している。
【0035】
キャンセル面54の形成はシャフト部47に限るものではなく、例えばフロントカバー48に形成してもよい。しかしながら、ケース43を構成するフロントカバー48とリアカバー49は軽量化のため、一般に樹脂製とされ、その厚さも薄いものであるのに対し、シャフト部47は構造上、金属製とされて厚さも厚いため、フロントカバー48やリアカバー49に比べ、シャフト部47の方がキャンセル面54を容易に形成することができる。
【0036】
キャンセル面54は平面に限らず、ケース43がなす球面と異なる面形状であればよく、例えば円筒面であってもよい。また、キャンセル面54の数は1つに限るものではなく、複数設けてもよい。例えば、EL軸回りのケース43の可動範囲(EL角度の設定可能範囲)に応じて、枠形状をなすシャフト部47の上部及び下部にそれぞれキャンセル面54を設けてもよい。また、シャフト部47ではなく、フロントカバー48の上部及び下部にそれぞれキャンセル面54を設けてもよい。さらには、シャフト部47及びフロントカバー48にそれぞれキャンセル面54を設けてもよい。
【0037】
なお、上述した例ではケース43は2つの窓52,53を有するものとなっているが、窓の数は例えば内蔵するカメラの数などによって変わるものであり、窓の数が1つであっても、あるいは3つ以上であっても、この発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0038】
10 カメラスタビライザ 11 ケース
11a 下部ケーシング 11b 第1上部ケーシング
11c 第2上部ケーシング 12 ジンバル機構
13 ペイロード 14 旋回方向
15 俯仰方向 16 第1風速検出器
17 第2風速検出器 20 移動体
30 防振マウント部 31 取り付け面
40 ジンバルユニット 41 第1の支持部
42 第2の支持部 43 ケース
44,45 軸受 46,47 シャフト部
48 フロントカバー 49 リアカバー
51 サイドカバー 52,53 窓
54 キャンセル面 61 風