(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6553868
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】樹脂成形用金型装置
(51)【国際特許分類】
B29C 44/00 20060101AFI20190722BHJP
【FI】
B29C44/00
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-241758(P2014-241758)
(22)【出願日】2014年11月28日
(65)【公開番号】特開2016-101722(P2016-101722A)
(43)【公開日】2016年6月2日
【審査請求日】2017年7月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】500318520
【氏名又は名称】有限会社広和製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100105809
【弁理士】
【氏名又は名称】木森 有平
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 公幸
【審査官】
岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−212843(JP,A)
【文献】
特開2013−071248(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/025013(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0193985(US,A1)
【文献】
実開昭52−128673(JP,U)
【文献】
特開2000−280272(JP,A)
【文献】
特開2000−263580(JP,A)
【文献】
実開昭56−169086(JP,U)
【文献】
特開2001−113553(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 44/00−44/60,67/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向して配されて型開閉動作する雄型及び雌型と、雄型が取り付けられた第1のプレートと、雌型が取り付けられた第2のプレートを備え、雄型の背面側と第1のプレートの間に第1の蒸気室が設けられ、雌型の背面側と第2のプレートの間に第2の蒸気室が設けられており、雄型の正面側と雌型の正面側とで形成される成形空間内に発泡性樹脂を充填し、第1の蒸気室と第2の蒸気室に過熱蒸気を送ることで前記成形空間内において発泡性樹脂を加熱融着させて樹脂成形品を成形する金型装置であって、前記第1のプレートに沿って前記第1の蒸気室に過熱蒸気を送る流路が設けられており、前記雄型及び前記雌型はそれぞれ複数配されており、2つ以上の前記雄型に跨って前記流路が配されており、前記流路は開渠となっており、過熱蒸気を送る流路とドレンを排出する流路を兼用していることを特徴とする樹脂成形用金型装置。
【請求項2】
前記第1のプレートには前記第1の蒸気室に過熱蒸気を送るための第1の蒸気管と前記第1の蒸気室からドレンを排出するための第1の排出管が備わっており、前記第2のプレートには前記発泡性樹脂を充填する充填ノズルと前記第2の蒸気室に過熱蒸気を送るための第2の蒸気管と前記第2の蒸気室からドレンを排出するための第2の排出管が備わっていることを特徴とする請求項1記載の樹脂成形用金型装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形用金型装置に関する。
【背景技術】
【0002】
農水産容器や機器の包装材には、一般に、発泡スチロールが用いられている。ビーズ法発泡スチロール(EPS)は、ポリスチレンビーズに炭化水素ガスを吸収させ、これに高温蒸気を当てて樹脂を軟化させると共に圧力を加えて発泡させ、発泡したビーズ同士を融着させ、冷却させて所定の形状とする。発泡スチロール包装材は、軽量で緩衝性、断熱性があり、環境への影響が少ないなどの特徴がある。
【0003】
特許文献1には、従来技術として
図7に示すように「型窩700を形成する内壁体500,600と、蒸気供給管51,61、冷却水管520,620、排出管530,630をそれぞれ接続した箱形の外壁体540,640とをもって構成し、内壁体500,600と外壁体540,640との間全体を蒸気室550,650として形成している(考案の詳細な説明)」との記述があり、そして、従来技術の課題として「金型全体の温度を上げるために余分な蒸気を要することになり、多量の蒸気を使用せねばならないばかりか金型全体の加熱のために成形サイクル時間も長くかかる欠点があった(考案の詳細な説明)」との記述がある。そこで、特許文献1では、発泡樹脂成形用金型装置に関して「型窩を形成する各型部の周囲には各型部との間に間隙を存して略型形状に沿った壁体をそれぞれ蒸気室となす構成(その請求項1)」が提案された。
【0004】
特許文献2には、「凹型とそれを保持する凹型ハウジングとを有し、凹型の背面側において凹型ハウジング内に凹型チャンバを形成した凹型ユニットと、凸型とそれを保持する凸型ハウジングとを有し、凸型の背面側において凸型ハウジング内に凸型チャンバを形成した凸型ユニットとを備え、両ユニットを組み合わせて、凹型と凸型とで形成される成形空間内に発泡性樹脂粒子を充填し、成形空間内において発泡性樹脂粒子を加熱、発泡融着させて成形品を得るようになした型内発泡成形用金型装置であって、前記凹型を凹型ハウジングに対して、該凹型の正面側端部が遊端となるように片持ち状に支持して、前記凹型の遊端部と凹型ハウジング間に凸型ユニット側へ向けて開口する正面開口部を形成し、前記凹型と凸型とを組み合わせた状態で、前記正面開口部を凸型ユニットで閉鎖して、前記凹型チャンバを気密状とした構成(その請求項1)」が記載されている。
【0005】
特許文献3には、「外周をフレームに固定し、対向配置される一対の金型取付プレートの一方には複数の凹金型部材を配設し、他方には、閉型時に成形キャビティを形成するよう対応する複数の凸金型部材を配設して、1サイクルの成形操作で複数個の発泡成形品を得るようにした発泡成形用金型であって、前記凹および凸金型部材の背面に間隔を設けてケーシングを配設して、それぞれ独立した個別用役チャンバを形成し、その個別用役チャンバに用役を個別に供給、排出可能とした構成(その請求項1)」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭52−128673号公報
【特許文献2】特開2010−120336号公報
【特許文献3】特開2010−023499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、既知の樹脂成形用金型装置においては、依然として未解決の問題が多々ある。
【0008】
特許文献1〜3記載の金型装置は、蒸気室を小さくするために、いずれも複雑な型構造となっており、金型コスト及びメンテナンスコストが非常に高くなってしまうという問題点を有する。しかし、型構造を単純化すると
図7に示す従来例のように、多量の蒸気を使用せねばならないばかりか金型全体の加熱のために成形サイクル時間も長くかかる欠点がある。
【0009】
このような実情に鑑みて、本発明の目的は、単純な構造でありながら、蒸気室を小さくして金型の加熱を容易とし成形サイクル時間を短くできる、新規な省エネ構造の樹脂成形用金型装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の樹脂成形用金型装置は、対向して配されて型開閉動作する雄型及び雌型と、雄型が取り付けられた第1のプレートと、雌型が取り付けられた第2のプレートを備え、雄型の背面側と第1のプレートの間に第1の蒸気室が設けられ、雌型の背面側と第2のプレートの間に第2の蒸気室が設けられており、雄型の正面側と雌型の正面側とで形成される成形空間内に発泡性樹脂を充填し、第1の蒸気室と第2の蒸気室に過熱蒸気を送ることで前記成形空間内において発泡性樹脂を加熱融着させて樹脂成形品を成形する金型装置であって、前記第1のプレートに沿って前記第1の蒸気室に過熱蒸気を送る流路が設けられており、前記雄型及び前記雌型はそれぞれ複数配されており、2つ以上の前記雄型に跨って前記流路が配されていることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、複数の前記雄型に跨って過熱蒸気を供給する流路が配されているので、複数の雄型にそれぞれ配管接続する場合と比較して流体回路が単純化され、雄型側の蒸気室(第1の蒸気室)を小さくして金型の加熱を容易とし成形サイクル時間を短くできる。
【0012】
前記流路は直線状であることが好ましい。流路の距離を短くすることで過熱蒸気の流路における熱損失を抑えられるからである。前記流路は、例えば管体に蒸気を放出するための穴が開いている構造とすることができる。
【0013】
本発明は、前記流路は開渠となっており、過熱蒸気を送る流路とドレンを排出する流路を兼用していることを特徴とする。ここで、開渠とは、堀(ditch)のことである。
【0014】
本発明によれば、過熱蒸気を送る流路とドレンを排出する流路を兼用することができるため、より単純な構造となる。そして、流路が開渠となっていることで、過熱蒸気を第2の蒸気室内に放出し易く、かつ、ドレンを機外に排出し易い構成となる。
【0015】
本発明は、前記第1のプレートには前記第1の蒸気室に過熱蒸気を送るための第1の蒸気管と前記第1の蒸気室からドレンを排出するための第1の排出管が備わっており、前記第2のプレートには前記発泡性樹脂を充填する充填ノズルと前記第2の蒸気室に過熱蒸気を送るための第2の蒸気管と前記第2の蒸気室からドレンを排出するための第2の排出管が備わっていることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、発泡性樹脂を充填し易く、金型から成形品を取り出し易い構成となる。
【0017】
前記雄型と前記雌型の材質としては、アルミニウム、鉄、銅、これらの合金等が挙げられる。前記雄型と前記雌型には、ベントホールが形成されている。
前記雄型と前記雌型は、鋳造、鍛造、切削加工、プレス加工、その他既知の加工方法で製造される。
【0018】
前記第1のプレートと前記第2のプレートの材質としては、アルミニウム、鉄、銅、これらの合金等が挙げられる。これらプレートを構成するフレームとしては、鉄系金属が好ましい。アルミニウムと比較して鉄は強度や剛性に優れており、材料コストも廉価である。一方、熱伝導の観点からは、鉄と比較してアルミニウムは低比熱であり、熱伝導率に優れているので、加熱と冷却が円滑になされることとなる。そこで、両者の長所を合わせるために、前記フレームを鉄系金属にアルミニウム溶射することが好ましい。これにより、強度や剛性に優れ、加熱と冷却が円滑になされることとなる。
【0019】
前記雄型と前記雌型は、蒸気圧、油圧、空圧、電動機等の動力によって型閉じ型締めして樹脂注型し樹脂成形後に、型開きする構成となっているものであり、既知の機構が適用できる。
【0020】
前記第2のプレートには成形された樹脂(樹脂成形品)を取り出すためのエジェクト機構が備わっていることが好ましい。前記エジェクト機構としては、油圧、空圧、電動機等の動力によってエジェクトピンを突き出して樹脂成形品を押し出す構成や、エアー吐出力で樹脂成形品を押し出す構成や、前記雄型を微振動させて樹脂成形品を押し出す構成等が挙げられる。前記エジェクト機構としては、既知の機構が適用できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の樹脂成形用金型装置によれば、2つ以上の雌型に跨って過熱蒸気を供給する流路が配されているので、複数の雌型にそれぞれ配管接続する場合と比較して流体回路が単純化され、雌型側の蒸気室(第2の蒸気室)を小さくして金型の加熱を容易とし成形サイクル時間を短くできる、本発明によれば、過熱蒸気を送る流路とドレンを排出する流路を兼用することができるため、より単純な構造となる。そして、流路が開渠となっていることで、過熱蒸気を第2の蒸気室内に放出し易く、かつ、ドレンを機外に排出し易い構成となる。
【0022】
これら本発明によって、単純な構造でありながら、蒸気室を小さくして金型の加熱を容易とし成形サイクル時間を短くできる、新規な省エネ構造の樹脂成形用金型装置となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明を適用した実施形態の樹脂成形用金型装置を示す平面図である。
【
図2】上記実施形態の金型装置を示すA−A断面図である。
【
図3】上記実施形態の金型装置を示す正面図である。
【
図4】上記実施形態の金型装置を示すB−B断面図である。
【
図5】上記実施形態の金型装置を示す右側面図である。
【
図6】上記実施形態の金型装置の動作を示す構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて以下に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明と実質同一又は均等の範囲内において、既知の変更を加えることが可能である。
【0025】
(実施の形態)
図1は、本発明を適用した実施形態の樹脂成形用金型装置を示す平面図である。
図2は、
図1に示す金型装置1のA−A断面図である。
図3は、金型装置1の正面図である。正面図と背面図は同一又は対称になっている。
図4は、
図3に示す金型装置1のB−B断面図である。
図4は、金型装置1の右側面図である。右側面図と左側面図は同一又は対称になっている。
図6は、本実施形態の金型装置1の動作を示す構造図である。
図6は、型開きした状態を示している。
本実施形態の金型装置1は、食品トレーとしての発泡スチロール容器200を樹脂成形するための金型装置である。
図1に示す例では、4個の発泡スチロール容器200を同時成形する構成となっている。なお、2個や6個、8個の発泡スチロール容器200を同時成形する場合もある。
【0026】
本実施形態の金型装置1は、第1のプレート3と第2のプレート2が対向して配されて型開閉動作する構成である。第1のプレート3のフレーム31にはベース301が取付固定されてベース301に雄型35が取付固定されており、第2のプレート2のフレーム21には雌型25が取付固定されている(
図2、
図6)。そして、雄型35の背面側と第1のプレートのベース301の間に第1の蒸気室S31が設けられ、雌型25の背面側と第2のプレート21の間に第2の蒸気室S21が設けられており、雄型35の正面側と雌型25の正面側とで形成される成形空間(キャビティ)内に発泡性樹脂を充填し、第1の蒸気室S31と第2の蒸気室S21に過熱蒸気を送ることでキャビティS1において発泡性樹脂を加熱融着させて樹脂成形品200を成形する(
図2、
図6)。
【0027】
本実施形態では、第1のプレートのベース301はスリットが形成され、当該スリットに合わせて流路304が設けられており、2つの雄型35に跨って直線状の流路304が配されている(
図2、
図4)。そして、前記流路304は開渠となっており、過熱蒸気を送る流路とドレンを排出する流路を兼用している。
図1〜
図6に示す例では、第1のプレート3には第1の蒸気室S31に過熱蒸気を送るための管305が流路304と連結されており、当該管305からドレンが排出される構成となっている。符号306は水冷配管である。そして、第2のプレート2には前記発泡性樹脂を充填する充填ノズル207と第2の蒸気室S21に過熱蒸気を送るための管205が配されており、図示しない排水管によってドレンが排出される。符号206は水冷配管である。なお、この例に限られるものではなく、蒸気管と排水管を別個独立して配する場合がある。
また、充填ノズル207は用役ノズルとなっており、炭化水素ガスなどのガスを注入するためにも用いられる。そして、雄型35と雌型25には、それぞれベントホールが形成されている。また、前記第2のプレート21には成形された樹脂(樹脂成形品)200を取り出すためのエジェクト機構(エジェクトピン208)が備わっている(
図2)。
【0028】
図6(a)は第2のプレート2を示しており、
図6(b)は発泡スチロール容器200を示しており、
図6(c)は第1のプレート3を示している。
本実施形態によれば、複数の雄型35,35に跨って過熱蒸気を供給する流路304が配されているので、流体回路が単純化され、雄型側の蒸気室(第1の蒸気室)S31を小さくして金型の加熱を容易とし成形サイクル時間を短くできる。
図6(c)の例では、第1の蒸気室S31の容積は雄型35の容積に近い大きさまで極力小さくなっている。金型装置1は、例えば、魚箱200を発泡スチロールで成形する(
図6(b))。
【0029】
本実施形態によれば、過熱蒸気を送る流路とドレンを排出する流路がひとつの流路304で済むため、より単純な構造となる(
図2〜
図4)。そして、流路304が開渠となっていることで、過熱蒸気を第2の蒸気室内に放出し易く、かつ、ドレンを機外に排出し易い構成となる。
【0030】
第1のプレートのフレーム31は鉄系金属にアルミニウム溶射しており、これにより、強度や剛性に優れ、加熱と冷却が円滑になされることとなる(
図2)。
図2に示す符号2101、3101、3102は軽量化及び熱容量を小さくするための肉盗み(フレームの切除部分)を示している。
【0031】
雄型35と雌型25は、例えばダイキャストで製造される。雄型35と雌型25は、蒸気圧、油圧、空圧、電動機等の動力によって型閉じ型締めして樹脂注型し樹脂成形後に、型開きする構成となっているおり、既知の機構が適用できる。
【0032】
本実施形態によれば、単純な構造でありながら、蒸気室を小さくして金型の加熱を容易とし成形サイクル時間を短くできる、新規な省エネ構造の樹脂成形用金型装置となる。よって、均質な発泡樹脂成形品を省エネルギーで高効率で製造することができる。
【0033】
以上、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではない。発泡樹脂成形品の取個数は4個のみならず、2個、6個、8個など任意に設定でき、同一のプレートにおける型交換も容易な構造となっている。このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0034】
1 本発明の樹脂成形用金型装置、
2 第2のプレート、S21 第2の蒸気室、
3 第1のプレート、S31 第1の蒸気室、
25 雌型、
35 雄型、
301 ベース、
304 流路(開渠)、
200 樹脂成形品(発泡スチロール容器)