特許第6553885号(P6553885)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6553885表面被覆無機粒子及びその製造方法、表面被覆剤、並びに、水硬性組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6553885
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】表面被覆無機粒子及びその製造方法、表面被覆剤、並びに、水硬性組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20190722BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20190722BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20190722BHJP
   C04B 24/22 20060101ALI20190722BHJP
   C04B 22/16 20060101ALI20190722BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   C04B28/02
   C04B18/14 Z
   C04B18/08 Z
   C04B24/22 A
   C04B22/16 A
   C04B22/06 A
   C04B18/14 A
【請求項の数】10
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2015-23492(P2015-23492)
(22)【出願日】2015年2月9日
(65)【公開番号】特開2016-145133(P2016-145133A)
(43)【公開日】2016年8月12日
【審査請求日】2017年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川上 宏克
【審査官】 西垣 歩美
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6072259(JP,B2)
【文献】 特表2008−512268(JP,A)
【文献】 特開2011−068134(JP,A)
【文献】 特開平06−115987(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性無機粒子及びポゾラン活性無機粒子からなる群より選択される少なくとも1種の無機粒子の表面の一部又は全部が有機系分散剤で被覆されてなり、
粒子表面のケイ素(Si)及びカルシウム(Ca)に対する炭素(C)の相対表面濃度をXPSによって測定したときに、炭素(C)の相対表面濃度が0.50〜50であり、かつ粒子表面から1〜2nmにおける深さの平均の炭素(C)の相対表面濃度が0.25〜50であって、
該有機系分散剤は、スルホン酸基含有化合物及び/又はリン酸基含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする表面被覆無機粒子。
【請求項2】
前記表面被覆無機粒子は、粒子表面における、有機系分散剤単位量あたりのケイ素(Si)及びカルシウム(Ca)に対する炭素(C)の相対表面濃度をXPSによって測定したときに、炭素(C)の相対表面濃度が0.6〜10であり、かつ有機系分散剤単位量あたりの、粒子表面から1〜2nmにおける深さの平均の炭素(C)の相対表面濃度が0.25〜5であることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆無機粒子。
【請求項3】
前記表面被覆無機粒子は、水和度が0.1以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面被覆無機粒子。
【請求項4】
前記無機粒子は、セメント、シリカフューム、フライアッシュ及びスラグからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の表面被覆無機粒子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の表面被覆無機粒子を含有することを特徴とする水硬性粒子。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の表面被覆無機粒子を用いることを特徴とする水硬性組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の表面被覆無機粒子を製造する方法であって、
該製造方法は、水硬性無機粒子及びポゾラン活性無機粒子からなる群より選択される少なくとも1種の無機粒子を、有機系分散剤を含む溶媒に分散させた後、該溶媒を留去し、粉末化する工程を含み、
該有機系分散剤は、スルホン酸基含有化合物及び/又はリン酸基含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする表面被覆無機粒子の製造方法。
【請求項8】
前記溶媒は、有機溶媒を含むことを特徴とする請求項7に記載の表面被覆無機粒子の製造方法。
【請求項9】
前記溶媒は、水を含むことを特徴とする請求項7に記載の表面被覆無機粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれかに記載の表面被覆無機粒子を得るために使用される無機粒子の表面被覆剤であって、
該無機粒子は、水硬性無機粒子及びポゾラン活性無機粒子からなる群より選択される少なくとも1種であり、
該表面被覆剤は、スルホン酸基含有化合物及び/又はリン酸基含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする表面被覆剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面被覆無機粒子及びその製造方法、表面被覆剤、並びに、水硬性組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水硬性粒子には、水の存在下で水和反応が生じるような狭義の水硬性粒子の他、水だけでは水和しないものの、刺激剤と称される少量の物質の存在下で水和反応が生じるような潜在水硬性粒子がある。
【0003】
一般に、水硬性粒子は、分散剤、水、及び、必要に応じて細骨材や粗骨材等と併用され、セメントペーストやモルタル、コンクリート等の水硬性組成物を得るために使用される。例えば、フレッシュな(生)コンクリートを製造するには、ミキサーの中に、セメント等の狭義の水硬性粒子、分散剤、水、細骨材や粗骨材、及び、必要に応じてシリカフューム、高炉スラグ、フライアッシュ等の微粉末を投入した後、一定時間混合し、分散剤がペーストを分散させ流動性が一定になるまで、つまり流動性が安定するまで混練する手法が行われている。分散剤は、通常は予め水と混合されて、水硬性粒子に添加される。このように水硬性粒子に(分散剤入りの)水を加えた後、流動性が安定化するまでの時間を、混練時間又は練上がりまでの時間と称するが、流動性が安定化するまでには一定の時間を要するのが通常である。
【0004】
分散剤を含む水硬性組成物としては、例えば、特許文献1に、所定の物性値を示すカルシウムアルミネート化合物と減水剤とを含有するセメント混和材が開示されている。この文献では、減水剤は、水に減水剤成分が溶解した液状のものや粉末状のものを使用することができる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−100469号公報
【特許文献2】特開2011−068134号公報
【特許文献3】特表2008−503432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、混練時間には一定時間を要するのが通常である。特に、水/水硬性粒子の質量比率が低い超高強度コンクリートほど、流動性が安定化するまでの時間、すなわち混練時間は長くなる傾向にある。これを改善して混練時間を短縮することができれば、例えば、コンクリート製造工場での1バッチあたりの製造時間等を短縮することができ、生産性向上に大きく寄与できる。しかし、このような課題を充分に解決できる技術は、まだ見いだされていないのが現状である。なお、特許文献1に記載の技術において、分散剤を粉末化して使用しても混練時間の短縮には寄与しない。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、混練時間を著しく短縮することができ、流動性に優れる水硬性組成物を生産性よく与えることができる表面被覆無機粒子及びその製造方法を提供することを目的とする。本発明はまた、このような表面被覆無機粒子を得るために特に好適な表面被覆剤、及び、この表面被覆無機粒子を用いた水硬性組成物の製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、水硬性組成物の生産技術について種々検討の結果、水硬性組成物の製造に、水硬性無機粒子の表面の一部又は全部が有機系分散剤で被覆されてなり、かつ粒子表面又は表面近辺の炭素含有比率(炭素濃度)が所定範囲にある表面被覆無機粒子を用いると、流動性が安定化するまでの混練時間を著しく短縮でき、高い流動性を示す水硬性組成物を与えることができることを見いだした。また、これと同様の現象が、ポゾラン活性無機粒子を用いた表面被覆無機粒子についても生じることを見いだした。水/水硬性粒子の質量比率が低い場合であっても、このような表面被覆無機粒子を用いれば、高い流動性を示す水硬性組成物を短時間で容易に得ることができるため、生産性に非常に優れることになる。また、スルホン酸基含有化合物及び/又はリン酸基含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む表面被覆剤は、水硬性無機粒子やポゾラン活性無機粒子への吸着性、及び、吸着後(すなわち表面被覆後)の粒子分散性が良好であるため、これら無機粒子用の表面被覆剤としての用途に適することも見いだした。そして、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達した。
【0009】
ここで、上述した特許文献2には、添加剤であるコンクリート流動化剤13で被覆されたセメント粒子(例えば、図中の粒子コーティング22等)が記載されているが、コンクリート流動化剤13は、少量の水と一緒に噴霧により供給されるため、流動化剤13がセメント表面を充分に被覆することができず、また、添加する水の量が少ないため、表面被覆時にセメント粒子を充分に分散することができない。特許文献3には、所定構造のポリマーAを含有する水性組成物を、セメント粉砕助剤として使用することが記載されている。このセメント粉砕助剤は、少量の水を必須に含む水性組成物としてクリンカー(セメント原料)に添加されるため、この場合もセメント粉砕時に表面を充分に被覆することができず、粉砕時にセメント粒子を充分に分散することができない。また、特許文献2、3の技術は、溶媒に水を使用したり、粒子表面が充分に分散剤で被覆されていないため、流動化剤の分散性が発揮されない。したがって、これら特許文献2、3の技術によっては、流動性の向上と混練時間のより一層の短縮とを図ることはできない。
【0010】
すなわち本発明は、水硬性無機粒子及びポゾラン活性無機粒子からなる群より選択される少なくとも1種の無機粒子の表面の一部又は全部が有機系分散剤で被覆されてなり、粒子表面のケイ素(Si)及びカルシウム(Ca)に対する炭素(C)の相対表面濃度をXPSによって測定したときに、炭素(C)の相対表面濃度が0.35〜50であり、かつ粒子表面から1〜2nmにおける深さの平均の炭素(C)の相対表面濃度が0.17〜50であって、該有機系分散剤は、スルホン酸基含有化合物及び/又はリン酸基含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種である表面被覆無機粒子である。
本発明はまた、上記表面被覆無機粒子を含有する水硬性粒子でもある。
本発明はまた、上記表面被覆無機粒子を用いる水硬性組成物の製造方法でもある。
【0011】
本発明は更に、上記表面被覆無機粒子を製造する方法であって、該製造方法は、水硬性無機粒子及びポゾラン活性無機粒子からなる群より選択される少なくとも1種の無機粒子を、有機系分散剤を含む溶媒に分散させた後、該溶媒を留去し、粉末化する工程を含み、該有機系分散剤は、スルホン酸基含有化合物及び/又はリン酸基含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種である表面被覆無機粒子の製造方法でもある。
本発明はそして、上記表面被覆無機粒子を得るために使用される無機粒子の表面被覆剤であって、該無機粒子は、水硬性無機粒子及びポゾラン活性無機粒子からなる群より選択される少なくとも1種であり、該表面被覆剤は、スルホン酸基含有化合物及び/又はリン酸基含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む表面被覆剤でもある。
以下に本発明を詳述する。なお、以下に記載される本発明の個々の好ましい形態を2又は3以上組み合わせた形態も本発明の好ましい形態である。
【0012】
本明細書中、「混練時間」とは、水硬性無機粒子及び/又はポゾラン活性無機粒子に水を加えた後、流動性が安定化するまでの時間を意味する。「流動性が安定化する」とは、水硬性無機粒子及び/又はポゾラン活性無機粒子と水とを含むペーストの柔らかさが均一になることを意味し、均一であるか否かは、目視で判断することができる。混練時間は、練り上がりまでの時間とも称される。
【0013】
〔表面被覆無機粒子〕
本発明の表面被覆無機粒子は、所定の無機粒子の表面の一部又は全部が有機系分散剤で被覆された形態からなる。
上記表面被覆無機粒子は、例えば、平均粒径として0.01〜100μmの範囲であることが好適である。このような範囲にあることで、混練時間をより短縮することができるとともに、得られる水硬性組成物により均質な流動性を与えることが可能になる。より好ましくは0.05〜75μm、更に好ましくは0.1〜50μmの範囲である。
【0014】
(粒径測定法)
本明細書中、粒子の粒径は、市販の粒度分布測定装置を用いて測定することができる。例として、HORIBA社製、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−910を用いて、試料をエタノールで超音波分散させた後、相対屈折率1.10の条件で測定することができる。
【0015】
上記表面被覆無機粒子を得るための無機粒子は、水硬性無機粒子及びポゾラン活性無機粒子からなる群より選択される少なくとも1種である。これら無機粒子は、例えば、平均粒径として、0.001〜100μmの範囲であることが好適である。好ましくは0.01〜100μm、より好ましくは0.05〜75μmの範囲である。
なお、上記水硬性無機粒子及びポゾラン活性無機粒子は、未だ水和(硬化)していない状態にあること、すなわち未水和であることが好適である。
【0016】
上記水硬性無機粒子において、「水硬性」とは、水の存在下で水和反応が生じ、固体として硬化していくような狭義の「水硬性」の他、水だけでは水和しないものの、刺激剤と称される少量の物質の存在下で水和反応が生じ、固体として硬化していくような「潜在水硬性」をも意味する。
【0017】
上記水硬性無機粒子としては、例えば、セメント、アルミナ等の狭義の水硬性無機粒子;スラグ等の潜在水硬性無機粒子;等が挙げられ、これらの1種又は2種以上からなるものであってもよい。中でも、セメント、高炉スラグが好ましく、これにより、混練時間を短縮するという本発明の作用効果をより充分に発揮することが可能となる。
【0018】
上記セメントとして具体的には、ポルトランドセメント(普通、早強、超早強、低熱、中庸熱、耐硫酸塩及びそれぞれの低アルカリ形)、各種混合セメント(高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント)、白色ポルトランドセメント、アルミナセメント、超速硬セメント(1クリンカー速硬性セメント、2クリンカー速硬性セメント、リン酸マグネシウムセメント)、グラウト用セメント、油井セメント、低発熱セメント(低発熱型高炉セメント、フライアッシュ混合低発熱型高炉セメント、ビーライト高含有セメント)、超高強度セメント、セメント系固化材、エコセメント(都市ごみ焼却灰、下水汚泥焼却灰の一種以上を原料として製造されたセメント)等が挙げられる。
【0019】
上記ポゾラン活性無機粒子とは、ポゾラン活性を有する無機粒子を意味し、例えば、シリカフューム、フライアッシュ、シンダーアッシュ、ハスクアッシュ、火山灰等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。中でも、シリカフューム、フライアッシュが好ましく、これにより、混練時間を短縮するという本発明の作用効果をより充分に発揮することが可能となる。
【0020】
上記無機粒子として特に好ましくは、セメント、シリカフューム、フライアッシュ及びスラグからなる群より選択される少なくとも1種である。これにより、混練時間を短縮するという本発明の作用効果をより充分に発揮することが可能となる。このように上記無機粒子が、セメント、シリカフューム、フライアッシュ及びスラグからなる群より選択される少なくとも1種である形態は、本発明の好適な形態の1つである。
【0021】
本発明ではまた、セメント表面の一部又は全部が有機系分散剤で被覆された表面被覆無機粒子と、シリカフューム、フライアッシュ及び/又はスラグの表面の一部又は全部が有機系分散剤で被覆された表面被覆無機粒子とを、併用することが特に好適である。通常、シリカフュームやフライアッシュ等の無機粒子は、粒子径が細かいため、該無機粒子をこのまま(すなわち被覆処理を施さずに)水硬性組成物の製造に使用した場合には、混練時間が長くなり生産性が充分ではない。しかし、これらの無機粒子の表面の一部又は全部を有機系分散剤で被覆した後、このような表面被覆無機粒子を混合して得られる粒子を使用すれば、水と混合したときに、混練時間を著しく短縮し、高い流動性を有するシリカフュームセメントやフライアッシュセメント、高炉スラグセメントを与えることができる。
【0022】
上記無機粒子の表面の一部又は全部が有機系分散剤で被覆された形態とは、上記無機粒子の表面に有機系分散剤が吸着又は付着していることを意味する。有機系分散剤は炭素原子を有するため、無機粒子中に有機系分散剤が存在し、表面(又は表面付近)の炭素含有率(炭素濃度)が向上していれば、無機粒子の表面に有機系分散剤が吸着又は付着している、すなわち、無機粒子の表面の一部又は全部が有機系分散剤で被覆されていると推測される。
なお、粒子表面に有機系分散剤が吸着又は付着していることは、例えば、X線光電子分光法等を用いて粒子表面の炭素含有率(炭素濃度)を測定すること等により確認することができる。
【0023】
X線光電子分光法とは、高真空下で軟X線により固体表面を励起し、表面より放出される光電子を測定する分析方法である(以下、XPS分析法又はXPSと称する)。本分析法により、表面近傍数ナノメートルに存在する元素の酸化状態や濃度等に関する情報が得られ、表面のSi(ケイ素)、Ca(カルシウム)に対するC(炭素)の相対濃度を特定できると考えられる。
【0024】
(XPS分析法)
本発明では、表面被覆無機粒子におけるSi及びCaに対するCの相対表面濃度を測定する。Si及びCaに対するCの相対表面濃度は、縦軸が毎秒あたりのカウント数、横軸が結合エネルギーを示すXPSのチャートから、C1sのピーク面積をC1sの感度係数で除した値を、Si2pのピーク面積をSi2pの感度係数で除した値と、Ca2pのピーク面積をCa2pの感度係数で除した値との合計値で、除した値であり、下記数式(1)で表される。
【0025】
【数1】
【0026】
上記C1s、Si2p及びCa2pのピーク面積は、以下の手順により測定し算出することができる。
測定装置:ULVAC−PKI社製、PHI Quantera SXMを用い、X線源はAlKα、ビーム径は100μm、ビーム出力は25W−15kVとする。
試料調整法:SUS社製φ3ワッシャー内に、測定試料である粒子粉末を充填後、スパチュラを用いて指圧で固定化する。それをSUS社製の冶具でサンプル台にセットする。カーボンテープ等のカーボン種の冶具は一切使用しない。
深さ方向の分析方法:Arイオン(2kV−25mA)によって、SiO換算で8nm/分の速度でエッジングを行い、深さ方向分析を行う。
Si2p、Ca2p、C1sの測定では、パスエネルギーを280eV、エネルギーステップを0.5eVに設定する。
Si2pのピーク面積は100eV付近のピークを14回積算した後、Shirley法によりバックグラウンド除去して算出する。
Ca2pのピーク面積は345〜350eV付近のピークを14回積算した後、Shirley法によりバックグラウンド除去して算出する。
1sのピーク面積は285eV付近のピークを14回積算した後、Shirley法によりバックグラウンド除去して算出する。
なお、感度係数は測定装置固有の値であり、当該装置のSi2p、Ca2p、C1sの感度係数は、それぞれ119.676、597.269及び87.799である。したがって、本明細書でいう「相対表面濃度」とは、ULVAC−PKI社製の測定装置「PHI Quantera SXM」を用いて求められる値である。
【0027】
上記表面被覆無機粒子は、その粒子表面のSi及びCaに対するCの相対表面濃度をXPSによって測定したときに、粒子表面(深さ0nm)のSi及びCaに対するCの相対表面濃度が0.35〜50であり、かつ粒子表面から1〜2nmにおける深さの平均のCの相対表面濃度が0.17〜50である。これにより、混練時間をより短縮することができ、流動性に優れる水硬性組成物を生産性よく与えることが可能になる。粒子表面(深さ0nm)のSi及びCaに対するCの相対表面濃度の下限値は、より好ましくは0.4以上、更に好ましくは0.5以上、特に好ましくは0.8以上である。また、上限値は、より好ましくは30以下、更に好ましくは10以下、特に好ましくは5以下、最も好ましくは3以下である。粒子表面から1〜2nmにおける深さの平均のCの相対表面濃度の下限値は、より好ましくは0.18以上、更に好ましくは0.20以上、特に好ましくは0.25以上、一層好ましくは0.3以上である。また上限値は、より好ましくは30以下、更に好ましくは10以下、特に好ましくは5.0以下、最も好ましくは3.0以下である。
【0028】
上記「粒子表面から1〜2nmにおける深さの平均のCの相対表面濃度」とは、表面から1nmにおける深さでのCの相対表面濃度と、表面から2nmにおける深さでのCの相対表面濃度との平均値を意味する。粒子表面(深さ0nm)の炭素含有比率には表面汚れによる影響が存在し得るが、表面から1nm以上の深さの部分では、その影響が低減されるため、粒子表面に有機系分散剤が吸着又は付着していることをより正確に確認することができる。
【0029】
また無機粒子中に有機系分散剤が存在していることを確認する方法としては、有機系分散剤で一部又は全部が被覆された粒子に水やアルコール等の溶媒を加え、所定時間撹拌した後、遠心分離等によって上澄み液を分離し、上澄み液を乾燥させ、NMR等で分析することで、確認することもできる。
【0030】
本発明では、有機系分散剤として、スルホン酸基含有化合物及びリン酸基含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種を用いる。これらは、分散性能を有し、かつ水硬性無機粒子やポゾラン活性無機粒子の表面への吸着性も良好であるため、本発明の作用効果を発揮することが可能となる。
なお、1分子中にスルホン酸基及びリン酸基の両方を有する化合物も、本発明の有機系分散剤に含まれる。
【0031】
本明細書中、スルホン酸基にはスルホン酸塩基も含むものとし、リン酸基にはリン酸塩基も含むものとする。これら塩基を構成する塩は特に限定されないが、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、有機アンモニウム塩等が挙げられる。
【0032】
−スルホン酸基含有化合物−
スルホン酸基含有化合物は、分子中にスルホン酸基を有する化合物であり、一般にスルホン酸系分散剤として水硬性無機粒子に使用されている化合物を1種又は2種以上を使用することができる。中でも、分子中に芳香族基を有する化合物であることが好ましい。
具体的には、例えば、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アントラセンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のポリアルキルアリールスルホン酸塩;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミンホルマリン樹脂スルホン酸塩;アミノアリールスルホン酸−フェノール−ホルムアルデヒド縮合物等の芳香族アミノスルホン酸塩;リグニンスルホン酸塩、変性リグニンスルホン酸塩等のリグニンスルホン酸塩;ポリスチレンスルホン酸塩;等が挙げられる。
【0033】
上記スルホン酸基含有化合物としてより好ましくは、ナフタレン構造を有する縮合物(塩であってもよい)である。中でも、分散性や流動保持性、強度発現性等の観点で、下記一般式(1)で表されるナフタレンスルホン酸系化合物とアルデヒド化合物との縮合物が特に好ましい。なお、縮合度の異なる2以上の縮合物の混合物を用いてもよい。
【0034】
【化1】
【0035】
一般式(1)中、Rは、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。Mは、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基又は置換アルキルアンモニウム基を表す。
【0036】
上記一般式(1)で表されるナフタレンスルホン酸系化合物としては、例えば、ナフタレン、メチルナフタレン、イソプロピルナフタレン等が挙げられ、1種又は2種以上を使用することができる。
【0037】
上記アルデヒド化合物としては、アルデヒド基(−C(=O)H)を有する化合物であれば特に限定されず、1種又は2種以上を使用することができる。例えば、ホルムアルデヒド、グリオキシル酸、ベンズアルデヒド又はその誘導体等が挙げられる。ベンズアルデヒド誘導体としては、例えば、ベンズアルデヒドカルボン酸、ベンズアルデヒドスルホン酸、ベンズアルデヒドジスルホン酸、ベンズアルデヒドホスホン酸等の酸誘導体の他、ベンズアルデヒド塩が挙げられ、塩として、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、有機アンモニウム塩等が挙げられる。中でも、ホルムアルデヒドが好ましい。
【0038】
上記縮合物の塩は特に限定されず、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、有機アンモニウム塩等が挙げられる。中でも、アルカリ金属塩が好ましく、その中でもナトリウム塩が好ましい。
【0039】
上記縮合ではまた、ナフタレンスルホン酸系化合物とアルデヒド化合物とに加え、ビスフェノール化合物のスルホン化物を添加してもよい。すなわち上記縮合物は、ビスフェノール化合物のスルホン化物とアルデヒド化合物との縮合物(塩であってもよい)を含んでもよい。
【0040】
上記ビスフェノール化合物としては、化合物1分子中に、2個のヒドロキシフェニル基を有する化合物であればよい。例えば、2個のヒドロキシフェニル基が、任意の2価の基を介して結合した構造の化合物が好適である。2価の基は特に限定されず、例えば、−CH−、−C(Me)−、−C(Me)(Et)−、−C(Ph)−、−O−、−S(=O)−等が挙げられる(Meはメチル基、Etはエチル基、Phはフェニル基を表す)。また、ヒドロキシフェニル基は、アルキル基やアリール基等の置換基を有してもよい。
【0041】
上記ビスフェノール化合物として具体的には、ビス(ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(ヒドロキシフェニル)ブタン、ジヒドロキシジフェニルメタン、ジヒドロキシジフェニルエーテル、ジヒドロキシジフェニルスルホン等が挙げられる。
なお、ビスフェノール化合物のスルホン化は特に限定されず、通常のスルホン化剤(例えば、硫酸、クロルスルホン酸、三酸化イオウ等)の存在下、通常の手法で行えばよい。
【0042】
上記縮合反応は特に限定されず、通常の手段を用いればよい。
上記ナフタレンスルホン酸系化合物とアルデヒド化合物との縮合反応では、これらの比率(ナフタレンスルホン酸系化合物/アルデヒド化合物;モル%)を、10〜90/90〜10とすることが好ましい。より好ましくは10〜50/50〜90である。また、更に、ビスフェノール化合物のスルホン化物を添加して縮合反応を行う場合、ナフタレンスルホン酸系化合物とビスフェノール化合物のスルホン化物との総量100モル%中、ナフタレンスルホン酸系化合物を50〜99モル%とすることが好ましい。より好ましくは30〜90モル%である。
【0043】
上記スルホン酸基含有化合物の重量平均分子量(Mw)は、水硬性無機粒子やポゾラン活性無機粒子への結合性(吸着性)や、これらの無機粒子の凝集作用、得られる水硬性組成物の流動保持性等を考慮すると、重量平均分子量(Mw)が3000〜50万であることが好適である。より好ましくは5000〜30万、更に好ましくは7000〜20万、特に好ましくは8000〜10万である。
スルホン酸基含有化合物の重量平均分子量は、例えば、以下の測定条件(1)の下、ポリスチレンスルホン酸を標準物質として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPCとも称す)により測定することができる。
【0044】
(GPC測定条件(1))
装置:Waters社製、Waters Alliance(2695)
解析ソフト:Waters社製、Empowerプロフェッショナル+GPCオプション
使用カラム:東ソー社製、TSK guard column SWXL+TSKgelG4000SWXL+G2000SWXL
検出器:多波長可視紫外(PDA)検出器(Waters 2996)
溶離液:30mM CH3COONa/CH3CN=6/4
較正曲線作成用標準物質:創和科学社製ポリスチレンスルホン酸[ピークトップ分子量(Mp)976000、356000、77900、15650、4600]
較正曲線:上記ポリスチレンスルホン酸のMp値と溶出時間とを基礎にして3次式で作成
流量:0.7mL/min
カラム温度:40℃
測定時間:45分
試料液注入量:100μL(試料濃度0.5質量%の溶離液調製溶液)
【0045】
−リン酸基含有化合物−
リン酸基含有化合物は、分子中にリン酸基を有する化合物であり、一般にリン酸系分散剤として水硬性無機粒子に使用されている化合物を1種又は2種以上を使用することができる。中でも、分散性能により優れる観点から、ポリアルキレングリコールを含むリン酸系重合体、リン酸系縮合物が好ましい。
【0046】
上記ポリアルキレングリコールを含むリン酸基含有化合物の重量平均分子量(Mw)は、水硬性無機粒子やポゾラン活性無機粒子への結合性(吸着性)や、これらの無機粒子の凝集作用、得られる水硬性組成物の流動保持性等を考慮すると、重量平均分子量(Mw)が3000〜50万であることが好適である。より好ましくは5000〜30万、更に好ましくは7000〜20万、特に好ましくは8000〜10万である。
なお、重量平均分子量は、例えば、以下の測定条件(2)の下、ポリエチレングリコールを標準物質として、GPCにより測定することができる。
【0047】
(GPC測定条件(2))
装置:Waters社製、Waters Alliance(2695)
解析ソフト:Waters社製、Empowerプロフェッショナル+GPCオプション
使用カラム:東ソー社製、TSK guard column SWXL+TSKgelG4000SWXL+G3000SWXL+G2000SWXL
検出器:示差屈折率計(RI)検出器(Waters社製、Waters 2414)
溶離液:水10999g及びアセトニトリル6001gの混合溶媒に酢酸ナトリウム三水和物115.6gを溶解し、更に酢酸でpH6.0に調整した溶液
較正曲線作成用標準物質:ポリエチレングリコール[ピークトップ分子量(Mp)300000、200000、107000、50000、27700、11840、6450、1470]
較正曲線:上記ポリエチレングリコールのMp値と溶出時間とを基礎にして3次式で作成流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
測定時間:45分
試料液注入量:100μL(試料濃度0.5質量%の溶離液調製溶液)
【0048】
(i)リン酸系重合体
リン酸系重合体は、リン酸基を含む重合体であればよいが、例えば、下記一般式(2)で表される(ポリ)アルキレングリコール系単量体と、下記一般式(3)で表されるリン酸系単量体とを含む単量体成分を重合して得られる重合体であることが好ましい。
【0049】
【化2】
【0050】
一般式(2)中、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、メチル基又は−COO(AO)−Rを表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。nは、AOで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、同一又は異なって、1〜300の数である。Rは、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜18の炭化水素基を表す。
【0051】
【化3】
【0052】
一般式(3)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。AO(「OA」とも表記される)は、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。mは、AOで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜300の数である。M及びMは、同一又は異なって、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基又は置換アルキルアンモニウム基を表す。M及びMのいずれかは、CH=C(R)−CO−(OA−を表してもよい。
【0053】
上記一般式(2)中、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、メチル基又は−COO(AO)−Rを表すが、少なくともRは、水素原子を表すことが好ましい。また、R及びRとしては、Rが水素原子であり、かつRがメチル基であることが好適である。
【0054】
Oは、炭素数2〜18のオキシアルキレン基(オキシアルキレン基にはオキシスチレン基も含むものとする。)を表すが、この炭素数は2〜8が好ましく、より好ましくは2〜4、更に好ましくは2、すなわちオキシエチレン基である。特に、オキシアルキレン基の総数100モル%に対し、オキシエチレン基が70モル%であることが好ましく、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、特に好ましくは100モル%、すなわち(AO)で表される(ポリ)アルキレングリコール鎖が(ポリ)エチレングリコール鎖であることである。
なお、2種以上のオキシアルキレン基が存在する場合、その付加形態は、ランダム付加、ブロック付加、交互付加等のいずれの付加形態であってもよい。
【0055】
nは、AOで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜300の数であるが、好ましくは3〜200、より好ましくは4〜120である。このような範囲であることにより、(ポリ)アルキレングリコール系単量体の重合反応性及び得られる重合体の親水性がより充分なものとなるため、本発明の作用効果をより充分に発揮することが可能となる。
【0056】
は、水素原子又は炭素数1〜18の炭化水素基を表す。
が炭化水素基を表す場合、得られる重合体の親水性をより向上させる観点から、その炭素数(炭素原子数)は1〜12が好ましく、より好ましくは1〜4、特に好ましくは1〜2である。炭化水素基としては、例えば、アルキル基(直鎖、分岐鎖又は環状)、フェニル基、アルキル置換フェニル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基等が好適であり、中でもアルキル基(直鎖、分岐鎖又は環状)が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0057】
上記一般式(2)で表される(ポリ)アルキレングリコール系単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸(ポリ)アルキレングリコールエステル系化合物が好ましく、中でも、(アルコキシ)(ポリ)アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(ヒドロキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0058】
上記(アルコキシ)(ポリ)アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートとしては、例えば、アルコール類に炭素数2〜18のアルキレンオキシド基を2〜300モル付加したアルコキシ(ポリ)アルキレングリコール類が好適である。より好ましくは、エチレンオキシドが主体であるアルコキシ(ポリ)アルキレングリコール類と、(メタ)アクリル酸とのエステル化物である。
【0059】
上記アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、ノニルアルコール、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール等の炭素数1〜30の脂肪族アルコール類;シクロヘキサノール等の炭素数3〜30の脂環族アルコール類;(メタ)アリルアルコール、3−ブテン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等の炭素数3〜30の不飽和アルコール類;等が挙げられる。
【0060】
上記エステル化物として具体的には、以下に示す(アルコキシ)(ポリ)エチレングリコール(ポリ)(炭素数2〜4のアルキレングリコール)(メタ)アクリル酸エステル類、(ヒドロキシ)(ポリ)エチレングリコール(ポリ)(炭素数2〜4のアルキレングリコール)(メタ)アクリル酸エステル類等が好適である。
【0061】
ヒドロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、メトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、メトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、メトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、エトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、エトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、プロポキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、プロポキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、プロポキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、プロポキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ブトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、ブトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、ブトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート等。
【0062】
上記一般式(3)中、AOは、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表すが、この炭素数は2〜12が好ましく、より好ましくは2〜8、更に好ましくは2〜4、特に好ましくは2、すなわちオキシエチレン基である。特に、オキシアルキレン基の総数100モル%に対し、オキシエチレン基が70モル%であることが好ましく、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、特に好ましくは100モル%、すなわち(AO)で表される(ポリ)アルキレングリコール鎖が、(ポリ)エチレングリコール鎖であることである。
なお、2種以上のオキシアルキレン基が存在する場合、その付加形態は、ランダム付加、ブロック付加、交互付加等のいずれの付加形態であってもよい。
【0063】
mは、AOで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜300の数であるが、好ましくは1〜30、より好ましくは1〜20、更に好ましくは1〜10、特に好ましくは1〜5である。
【0064】
上記一般式(3)で表されるリン酸系単量体は、例えば、リン酸モノ(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリル酸エステル、リン酸ジ−{(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリル酸}エステル、(ポリ)アルキレングリャールモノ(メタ)アクリレートアシッドリン酸エステル等が好ましい。中でも、製造のし易さや品質安定性の観点から、リン酸モノ(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸エステル、リン酸ジ−{(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸}エステルが特に好ましい。
【0065】
上記単量体成分はまた、(ポリ)アルキレングリコール系単量体及び/又はリン酸系単量体と共重合可能な単量体として、その他の単量体(他の単量体とも称す)を1種又は2種以上含んでもよい。他の単量体を含む場合、その含有量は、単量体成分の総量100モル%中、30モル%以下が好ましく、より好ましくは20モル%以下、更に好ましくは10モル%以下、特に好ましくは0モル%である。
【0066】
上記他の単量体としては特に限定されないが、例えば、国際公開第2014/010572号公報〔0023〕〜〔0027〕に例示された不飽和アルコールポリアルキレングリコール付加物;同公報〔0032〕〜〔0033〕、〔0036〕に例示された不飽和カルボン酸系単量体等の他、同公報〔0041〕〜〔0042〕に例示された、各種ジエステル類;ジアミド類;ハーフアミド類;(ポリ)アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類;多官能(メタ)アクリレート類;(ポリ)アルキレングリコールジマレート類;不飽和スルホン酸類及びその塩;メチル(メタ)アクリルアミド等のアミド類;ビニル芳香族類;アルカンジオールモノ(メタ)アクリレート類;ジエン類;不飽和アミド類;不飽和シアン類;不飽和エステル類;不飽和アミン類;ジビニル芳香族類;シアヌレート類;シロキサン誘導体;等が挙げられる。
【0067】
上記(ポリ)アルキレングリコール系単量体とリン酸系単量体との重合反応では、これらの比率((ポリ)アルキレングリコール系単量体/リン酸系単量体;モル%)を、5〜95/95〜5とすることが好ましい。より好ましくは10〜90/90〜10である。ここでは、リン酸系単量体は、酸型の化合物であるとして計算する。
【0068】
上記(ポリ)アルキレングリコール系単量体とリン酸系単量体とを含む単量体成分の重合方法は特に限定されず、通常の重合手段を用いればよい。例えば、特開2006−52381号公報に記載の方法が挙げられる。
【0069】
(ii)リン酸系縮合物
リン酸系縮合物は、例えば、リン酸エステルとアルデヒド化合物との縮合物が好適である。リン酸エステルとしては、リン酸類(塩であってもよい)と、水酸基含有化合物とのエステル化物であれば特に限定されず、1種又は2種以上を使用することができる。なお、リン酸モノエステル、リン酸ジエステル、リン酸トリエステルのいずれであってもよい。
【0070】
上記リン酸類とは、リン酸基を有する化合物であればよく、例えば、リン酸の他、炭化水素骨格に−PO又は−OPO等が結合した構造からなる化合物が挙げられる。ここでの炭化水素骨格は特に限定されず、アルキル鎖(例えば、炭素数1〜30の直鎖、分岐鎖又は環状アルキル基)、芳香環(例えば、炭素数6〜10の芳香環)、複素環(例えば、5〜10員環の複素環)等が挙げられる。複素環は、ヘテロ原子(好ましくは、O、N、S及び/又はP)を1〜5個有するものが好ましく、より好ましくは1〜3個、更に好ましくは1〜2個である。具体的には、例えばフェニルホスホン酸等が挙げられる。
なお、リン酸塩類が塩である場合は、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、有機アンモニウム塩等が挙げられる。
【0071】
上記水酸基含有化合物は、芳香環を有するものが好ましい。例えば、フェノール、フェノキシアルコール、フェノキシ(ポリ)アルキレングリコール、ナフトール、ナフトキシアルコール、ナフトキシ(ポリ)アルキレングリコール等が挙げられる。フェノキシアルコールやナフトキシアルコールを構成するアルコールは、例えば、炭素数1〜10のアルコールが好ましく、また、フェノキシ(ポリ)アルキレングリコールやナフトキシ(ポリ)アルキレングリコールを構成する(ポリ)アルキレングリコール鎖は、(ポリ)エチレングリコールが好ましく、(ポリ)アルキレングリコール鎖の平均鎖長は、1〜300が好ましい。
上記リン酸類と水酸基含有化合物のエステル化物の具体例として、例えば、フェノキシエタノールをリン酸でエステル化したフェノキシエタノールホスフェート等が挙げられる。
【0072】
上記アルデヒド化合物としては、アルデヒド基(−C(=O)H)を有する化合物であれば特に限定されず、1種又は2種以上を使用することができる。例えば、ホルムアルデヒド、グリオキシル酸、ベンズアルデヒド又はその誘導体等が挙げられる。ベンズアルデヒド誘導体としては、例えば、ベンズアルデヒドカルボン酸、ベンズアルデヒドスルホン酸、ベンズアルデヒドジスルホン酸、ベンズアルデヒドホスホン酸等の酸誘導体の他、ベンズアルデヒド塩が挙げられ、塩として、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、有機アンモニウム塩等が挙げられる。
【0073】
上記縮合ではまた、リン酸エステルとアルデヒド化合物とに加え、(ポリ)アルキレングリコール鎖を有する芳香族化合物及び/又は複素環式化合物を1種又は2種以上添加してもよい。これにより、分散性及び分散保持性をより付与又は向上することができる。
(ポリ)アルキレングリコール鎖を有する芳香族化合物及び/又は複素環式化合物としては、例えば、芳香環を含む化合物及び/又は複素環を含む化合物に、(ポリ)アルキレングリコール鎖が結合した構造を有することが好ましい。
芳香環を含む化合物は、炭素数6〜10の芳香環を含むことが好適である。
複素環を含む化合物は、5〜10員環の複素環を含むことが好ましく、また、ヘテロ原子を1〜5個有するものが好ましく、より好ましくは1〜3個、更に好ましくは1〜2個である。ヘテロ原子として好ましくは、O、N、S及び/又はPである。
【0074】
上記芳香環を含む化合物及び複素環を含む化合物は、置換基を1又は2以上有してもよい。置換基としては特に限定されないが、例えば、−OH、−OR、−COOH、−SOH、−PO、−OPO、−NH、−N(H)R、−NR、炭素数1〜10のアルキル基等が挙げられる(式中、R及びRは、同一又は異なって、炭化水素基を表し、この炭素数は1〜4が好ましい。)。炭素数1〜10のアルキル基は、更に、フェニル基又はヒドロキシフェニル基を有していてもよい。
【0075】
上記芳香環を含む化合物及び複素環を含む化合物としては、例えば、フェノール、クレゾール、レソルシノール、ノニルフェノール、メトキシフェノール、ナフトール、メチルナフトール、ブチルナフトール、ビスフェノールA、アニリン、メチルアニリン、ヒドロキシアニリン、メトキシアニリン、フルフリルアルコール等が挙げられる。
【0076】
上記(ポリ)アルキレングリコール鎖は、例えば、炭素数2〜18のオキシアルキレン基から構成されるものであることが好ましい。オキシアルキレン基の炭素数は2〜12が好ましく、より好ましくは2〜8、更に好ましくは2〜4、特に好ましくは2又は3、すなわちオキシエチレン基、オキシプロピレン基である。
なお、(ポリ)アルキレングリコール鎖中に2種以上のオキシアルキレン基が存在する場合、その付加形態は、ランダム付加、ブロック付加、交互付加等のいずれの付加形態であってもよい。
【0077】
上記(ポリ)アルキレングリコール鎖の平均鎖長は、1〜300モルであることが好ましい。すなわちオキシアルキレン基の平均付加モル数が1〜300であることが好適である。下限値としてより好ましくは2以上、更に好ましくは4以上、特に好ましくは5以上、最も好ましくは10以上であり、また、上限値としてより好ましくは280以下、更に好ましくは200以下である。
【0078】
上記リン酸エステルとアルデヒド化合物との縮合反応では、これらの比率(リン酸エステル/アルデヒド化合物;モル%)を、10〜1/1〜10とすることが好ましい。また、更に、(ポリ)アルキレングリコール鎖を有する芳香族化合物及び/又は複素環式化合物を添加して縮合反応を行う場合は、アルデヒド化合物100モル%に対し、該芳香族化合物及び/又は複素環式化合物とリン酸エステルとの総量が、1〜1000モル%となるようにすることが好ましい。より好ましくは10〜800モル%である。
【0079】
上記縮合反応は特に限定されず、通常の手段を用いればよい。例えば、特表2008−517080号公報に記載の方法が挙げられる。
【0080】
上記重合により得られたリン酸系重合体や上記縮合により得られたリン酸系縮合物は、そのまま水硬性無機粒子やポゾラン活性無機粒子用の表面被覆剤として用いることができるが、必要に応じて、重合体をアルカリ性物質で中和して用いてもよい。アルカリ性物質としては、一価金属又は二価金属の水酸化物や炭酸塩等の無機塩;アンモニア;有機アミンが好適である。また、反応終了後、必要ならば濃度調整を行うこともできる。
【0081】
本発明の表面被覆無機粒子はまた、粒子表面(深さ0nm)における、有機系分散剤単位量あたりのケイ素(Si)及びカルシウム(Ca)に対する炭素(C)の相対表面濃度が、0.6〜10であることが好適である。これにより、混練時間を著しく短縮することができ、流動性に優れる水硬性組成物を生産性よく与えることができるという本発明の作用効果をより充分に発揮することが可能となる。より好ましくは0.7〜10、更に好ましくは0.8〜8、特に好ましくは0.9〜7、一層好ましくは1.0〜6、最も好ましくは1.1〜5である。更に、同様の方法で求められる、有機系分散剤単位量あたりの、粒子表面から1〜2nmにおける深さの平均の炭素(C)の相対表面濃度が0.2〜5であることが好適である。これにより、本発明の作用効果をより充分に発揮することが可能となる。より好ましくは0.2〜4、更に好ましくは0.25〜3、特に好ましくは0.3〜3、一層好ましくは0.35〜2.5である。
【0082】
ここで、「有機系分散剤単位量あたりのケイ素(Si)及びカルシウム(Ca)に対する炭素(C)の相対表面濃度」は、以下の方法で求められる値である。
1、まず表面被覆無機粒子(すなわち、表面の一部又は全部が有機系分散剤で被覆されている、水硬性無機粒子及び/又はポゾラン活性無機粒子を意味する。)内に存在する有機系分散剤の量を求める。この「表面被覆無機粒子内に存在する有機系分散剤の量」とは、該表面被覆無機粒子を電気炉の中で加熱して求められる、150℃における強熱減量率(これを(p)とする)と、450℃における強熱減量率(これを(q)とする)との差(=p−q)である。ここでの各温度の強熱減量率は、各温度に加熱後の質量残存率(質量%)を意味する。
2、次に、表面被覆無機粒子のXPSを測定してケイ素(Si)及びカルシウム(Ca)に対する炭素(C)の相対表面濃度の値(これを(x)とする)を求めた後、該表面被覆無機粒子を電気炉の中で加熱し、550℃で3時間加熱した後の無機粒子のXPSを測定してケイ素(Si)及びカルシウム(Ca)に対する炭素(C)の相対表面濃度の値(これを(y)とする)を求め、これらの差(=x−y)を算出する。
3、上記2で求めた相対表面濃度の差(x−y)を、上記1で求めた表面被覆無機粒子内に存在する有機系分散剤の量(p−q)で除す。このように「(x−y)/(p−q)」により求められる値を、「有機系分散剤単位量あたりのケイ素(Si)及びカルシウム(Ca)に対する炭素(C)の相対表面濃度(z)」とする。
【0083】
本発明では特に、粒子表面における、有機系分散剤単位量あたりのケイ素(Si)及びカルシウム(Ca)に対する炭素(C)の相対表面濃度をXPSによって測定したときに、炭素(C)の相対表面濃度が0.6〜10であり、かつ粒子表面から1〜2nmにおける深さの平均の炭素(C)の相対表面濃度が0.2〜5であることが好適である。これによって、混練時間を著しく短縮することができ、流動性に優れる水硬性組成物を生産性よく与えることができるという本発明の作用効果を更に一層発揮することが可能となる。
【0084】
本発明の表面被覆無機粒子はまた、水和度が0.1以下であることが好適である。これにより、水硬性無機粒子の水和特性を損なうことなく、水和活性の高い水硬性粒子を得ることができ、本発明の作用効果をより充分に発揮することが可能となる。より好ましくは0.08以下、更に好ましくは0.06以下である。水和度の下限は、0であることが好ましい。すなわち水和度は0〜0.1であることが好ましく、より好ましくは0〜0.08、更に好ましくは0〜0.06である。
【0085】
本明細書中、「水和度」とは、以下の方法で測定される値を意味する。
表面被覆無機粒子(すなわち、表面の一部又は全部が有機系分散剤で被覆されている、水硬性無機粒子及び/又はポゾラン活性無機粒子を意味する。)を電気炉の中で加熱し、450℃における強熱減量率(これを(q)とする)と、550℃における強熱減量率(これを(r)とする)との差(=q−r)を、水和度とする。
ここでの各温度の強熱減量率とは、各温度に加熱後の質量残存率(質量%)を意味する。
【0086】
〔水硬性粒子〕
本発明はまた、上述した本発明の表面被覆無機粒子を含有する水硬性粒子でもある。このような水硬性粒子は、例えば、上記表面被覆無機粒子とともに、表面が被覆されていない水硬性無機粒子及び/又はポゾラン活性無機粒子を含むものが挙げられる。この場合、上記表面被覆無機粒子による作用効果をより充分に発現させるため、無機粒子の総量100質量%に対し、上記表面被覆無機粒子が2質量%以上であることが好ましく、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上、特に好ましくは20質量%以上、一層好ましくは30質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0087】
特に、表面被覆無機粒子がシリカフュームである場合、この表面被覆無機粒子は、当該表面被覆無機粒子と表面が被覆されていない無機粒子との合計量100質量%に対して、2〜15質量%含まれるのが好ましく、5〜10質量%含まれるのが更に好ましい。
表面被覆無機粒子がフライアッシュやスラグである場合、この表面被覆無機粒子は、当該表面被覆無機粒子と表面が被覆されていない無機粒子との合計量100質量%に対して、10〜70質量%含まれるのが好ましく、更に好ましくは20〜60質量%であり、一層好ましくは30〜50質量%である。
【0088】
表面被覆無機粒子が狭義の水硬性無機粒子である場合(この表面被覆無機粒子を「表面被覆水硬性無機粒子」とも称す)、この表面被覆無機粒子に、表面が被覆されていないシリカフュームやフライアッシュ、スラグを混合することができる。
この混合系において、表面が被覆されていない無機粒子がシリカフュームである場合、表面被覆水硬性無機粒子と表面が被覆されていない無機粒子との合計量100質量%に対して、表面被覆水硬性無機粒子は、2〜15質量%含まれるのが好ましく、5〜10質量%含まれるのが更に好ましい。
また上記混合系において、表面が被覆されていない無機粒子がフライアッシュやスラグである場合、表面被覆水硬性無機粒子と表面が被覆されていない無機粒子との合計量100質量%に対して、表面被覆水硬性無機粒子は、10〜70質量%含まれるのが好ましく、更に好ましくは20〜60質量%であり、一層好ましくは30〜50質量%である。
【0089】
〔表面被覆無機粒子の製造方法〕
本発明の表面被覆無機粒子は、水硬性無機粒子及びポゾラン活性無機粒子からなる群より選択される少なくとも1種の無機粒子を、有機系分散剤を含む溶媒に分散させた後、該溶媒を留去し、粉末化する工程を含む製造方法により得られるものが好ましく、このような製造方法は、本発明の1つである。なお、上記製造方法は、通常の製造手段で採用される他の工程(例えば、洗浄工程等)を更に含んでもよい。
【0090】
上記製造方法ではまず、上記無機粒子を、有機系分散剤と溶媒とに加え、スラリー状態になるまで溶媒に分散させる(分散工程とも称す)。分散手段としては特に限定されず、通常行われる撹拌(混練)等の手法を用いることが好適である。
なお、上記無機粒子については、上述したとおりである。
【0091】
上記溶媒は、有機系分散剤を含み、かつ上記無機粒子が分散することができるものであればよい。例えば、有機溶媒又は水を含むことが好適である。このように上記溶媒が有機溶媒を含む形態、及び、上記溶媒が水を含む形態は、いずれも、本発明の好適な形態である。中でも、上記無機粒子の水和を制御するためにも、上記溶媒が有機溶媒を含むことが好ましい。
なお、上記溶媒が水と有機溶媒とを含む場合、上記溶媒中の有機溶媒と水との総量100質量%に対し、水が50質量%以下であることが好適である。これにより、水硬性無機粒子の水和を制御することが可能になる。有機溶媒と水との総量100質量%に対する水の割合としてより好ましくは30質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下、一層好ましくは1質量%以下、最も好ましくは水を実質的に含まないこと、すなわち有機溶媒を用いる場合は水を実質的に含まないことが最も好ましい。
【0092】
上記有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、グリセリン等のアルコール類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3−メトキシブチルアセテート等のエステル類;トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;クロロホルム;ジメチルホルムアルデヒド等のアミド類;等の1種又は2種以上を使用することができる。好ましくは、アルコール類、エーテル類、ケトン類、エステル類を用いることであり、より好ましくは、アルコール類、又は、アルコール類と他の有機溶媒との混合溶媒である。
【0093】
上記分散工程において、溶媒の量は、有機系分散剤を含み、かつ上記無機粒子が分散することができる量であることが好適である。具体的には、表面被覆される無機粒子100重量部に対し、溶媒を5〜2000重量部用いることが好適である。より好ましくは10重量部以上、更に好ましくは14重量部以上であり、また、より好ましくは300重量部以下、更に好ましくは200重量部以下、特に好ましくは100重量部以下、最も好ましくは50重量部以下である。なお、溶媒の量が少ないと、無機粒子を充分に分散することができず、無機粒子同士が凝集を防止できないため、混練時間の短縮が望めない。溶媒の量が多すぎると、溶媒を留去するためのエネルギーや時間が多く必要となり、経済的ではない。
また、溶媒の量は、表面被覆無機粒子中の有機系分散剤の量100重量部に対して、500〜100000重量部とすることが好適である。より好ましくは1000重量部以上、更に好ましくは1400重量部以上、特に好ましくは2000重量部以上、最も好ましくは2300重量部以上であり、また、より好ましくは50000重量部以下、更に好ましくは30000重量部以下、特に好ましくは20000重量部以下である。
【0094】
上記有機系分散剤の使用量は、上記無機粒子の物性や、得られる表面被覆無機粒子の分散性等を考慮して適宜決定すればよいが、例えば、上記無機粒子100重量部に対し、0.01〜10重量部とすることが好適である。この範囲内であれば、上記無機粒子をより充分に、かつ効率的に被覆することができるとともに、得られる表面被覆無機粒子の分散性がより充分に発揮される。より好ましくは0.01〜5重量部、更に好ましくは0.05〜4重量部、特に好ましくは0.05〜3重量部である。
【0095】
上記製造方法では、上記分散工程後に、溶媒を留去し、粉末化を行う(粉末化工程とも称す)。溶媒の留去手段は特に限定されず、例えば、加熱や乾燥により溶媒を揮発させてもよいし、また、減圧条件下で溶媒を留去することも好適である。粉末化手段も特に限定されず、原料粉砕機等を用いて粉砕を行ってもよい。
なお、粉末化工程後に、篩(例えば、JIS試験篩等)を用いて、得られる表面被覆無機粒子の粒径を調整することが好適である。
【0096】
〔表面被覆剤〕
本発明はまた、上記表面被覆無機粒子を得るために使用される無機粒子の表面被覆剤であって、該無機粒子は、水硬性無機粒子及びポゾラン活性無機粒子からなる群より選択される少なくとも1種であり、該表面被覆剤は、スルホン酸基含有化合物及び/又はリン酸基含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む表面被覆剤でもある。
スルホン酸基含有化合物及びリン酸基含有化合物は、上述したとおり、水硬性無機粒子やポゾラン活性無機粒子の表面への吸着性が良好で、しかも表面被覆後に分散性を付与することができるため、上記表面被覆無機粒子を得るための表面被覆剤として適している。
上記スルホン酸基含有化合物及びリン酸基含有化合物については上述したとおりである。
【0097】
上記表面被覆剤はまた、無機粒子の表面被覆作用とともに、無機粒子の粉砕を助ける作用も有する。したがって、無機粒子製造時の粉砕工程における粉砕助剤として、上述した表面被覆剤を使用することも好適である。しかし、本発明を達成するためには、無機粒子の粉砕時に粒子同士が分散することが必要であり、上記一定量の溶媒を含んだ形態で粉砕することが好ましい。
【0098】
〔水硬性組成物〕
本発明の表面被覆無機粒子は、水と混合されることで、水硬性組成物を与えることができる。このような上記表面被覆無機粒子及び水を含む水硬性組成物は、本発明の好適な実施形態の1つである。水硬性組成物としては、例えば、セメントペースト、モルタル、コンクリート、プラスター等が挙げられる。
【0099】
上記水硬性組成物は、必要に応じて、細骨材(砂等)や粗骨材(砕石等)等の骨材を含んでもよい。具体的には、例えば、砂利、砕石、水砕スラグ、再生骨材等の他、珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質等の耐火骨材も使用可能である。
【0100】
上記水硬性組成物はまた、必要に応じて、分散剤を含んでもよい。本発明の表面被覆無機粒子は、その表面の一部又は全部が有機系分散剤で被覆されているため、これを含む水硬性組成物は、別途分散剤を含まなくても充分な流動性を示すことができるが、必要に応じて、更に分散剤を含んでもよい。分散剤としては、通常使用されるものを1種又は2種以上使用することができる。具体例は上述したとおりである。
【0101】
上記水硬性組成物は更に、必要に応じて、上記表面被覆無機粒子に加えて、表面が被覆されていない水硬性無機粒子及び/又はポゾラン活性無機粒子を含んでもよい。この場合、上記表面被覆無機粒子による作用効果をより充分に発現させるため、無機粒子の総量100質量%に対し、上記表面被覆無機粒子が2質量%以上であることが好ましく、より好ましくは5質量%以上である。また、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは30質量%以上、特に好ましくは50質量%以上、一層好ましくは80質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0102】
上記水硬性組成物において、その1mあたりの単位水量、水硬性粒子(Bと称す)の総量(使用B量)、及び、水/B比(質量比)は、単位水量=100〜185kg/m、使用B量=250〜800kg/m、水/B比=0.1〜0.7とすることが好ましい。より好ましくは、単位水量=120〜175kg/m、使用B量=270〜800kg/m、水/B比=0.1〜0.65であり、貧配合〜富配合まで幅広く使用可能であるが、単位水量が500kg/m以上の高強度コンクリートや、900kg/m以上の超高強度コンクリートにも非常に有効である。また、本発明では、水/B比が低い水硬性組成物においても、混練時間が速く、かつ優れた流動性を発揮することができるという効果を有するが、このような効果は、例えば、水/B比が0.5以下の形態でより充分に確認することができる。水/B比としてより好ましくは0.4以下、より更に好ましくは0.35以下、更に好ましくは0.3以下、特に好ましくは0.25以下、最も好ましくは0.2以下である。
【0103】
上記水硬性組成物はまた、例えば、レディーミクストコンクリート、コンクリート2次製品(プレキャストコンクリート)用のコンクリート、遠心成形コンクリート、振動締め固めコンクリート、蒸気養生コンクリート、吹付けコンクリート等に有効であり、更に、中流動コンクリート(スランプ値が22〜25cmのコンクリート)、高流動コンクリート(スランプ値が25cm以上で、スランプフロー値が50〜70cmのコンクリート)、自己充填性コンクリート、セルフレベリング材等の高い流動性を要求されるモルタルやコンクリートにも有効である。
【0104】
上記水硬性組成物は更に、通常、セメント添加剤(材)として使用されているものを1種又は2種以上含んでもよい。例えば、国際公開第2014/010572号〔0066〕〜〔0072〕に例示された、水溶性高分子物質;高分子エマルジョン;遅延剤;早強剤・促進剤;鉱油系消泡剤;油脂系消泡剤;脂肪酸系消泡剤;脂肪酸エステル系消泡剤;オキシアルキレン系消泡剤;アルコール系消泡剤;アミド系消泡剤;リン酸エステル系消泡剤;金属石鹸系消泡剤;シリコーン系消泡剤;AE剤;その他界面活性剤;防水剤;防錆剤;ひび割れ低減剤;膨張材;セメント湿潤剤;増粘剤;分離低減剤;凝集剤;乾燥収縮低減剤;強度増進剤;セルフレベリング剤;防錆剤;着色剤;防カビ剤;等が挙げられる。
【0105】
〔水硬性組成物の製造方法〕
上記表面被覆無機粒子を用いる水硬性組成物の製造方法もまた、本発明の好適な実施形態の1つである。この製造方法は、例えば、上記表面被覆無機粒子と、水と、上述した必要に応じて添加される他の成分とを混合する工程を含むことが好適であり、その他の工程は特に限定されない。本発明では、上記表面被覆無機粒子を用いることにより、高い流動性を示す水硬性組成物を短時間で容易に得ることができるため、このような水硬性組成物の製造方法は、水硬性組成物を使用する技術分野において極めて有用である。
なお、本発明の技術は、石膏等の水と反応して硬化する無機粒子にも適用でき、発明の範囲である。
【発明の効果】
【0106】
本発明の表面被覆無機粒子は、上述のような構成であるので、混練時間を著しく短縮することができ、水硬性組成物の生産性を大幅に向上することができるものである。また、このような表面被覆無機粒子を用いた水硬性組成物は、極めて流動性に優れるものであるため、コンクリートを取り扱う土木・建設分野等で多大の貢献をなすものである。更に、スルホン酸基含有化合物及び/又はリン酸基含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む表面被覆剤は、水硬性無機粒子やポゾラン活性無機粒子への吸着及び付着性、並びに、吸着及び付着後(すなわち表面被覆後)の粒子分散性に極めて優れるため、水硬性無機粒子又はポゾラン活性無機粒子用の表面被覆剤としての用途に特に適する。
【図面の簡単な説明】
【0107】
図1】試験例4−1において、セメント及び水投入時を0秒(s)とし、撹拌を停止するまでの水硬性組成物の状態を20〜60秒(s)ごとに撮影した写真である。
図2】試験例4−6において、セメント及び水投入時を0秒(s)とし、撹拌を停止するまでの水硬性組成物の状態を経時的に撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0108】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、調製例で得た重合体の重量平均分子量は、上述したGPC測定方法にて測定し、粒子の粒径、及び、表面Si2p及びCa2pに対するC1sの相対表面濃度は、上述した方法にて測定した。また、下記の製造例1〜4及び試験例4−1〜4−6では、Hobert社製のミキサー(N−50;以下、Hobertミキサーとも称す)を用い、1速(139rpm)で混練を行った。試験例で得たセメントペーストのフロー値測定は、以下のように行った。
【0109】
<フロー値の測定>
調製したペーストを、水平なテーブル上に置いた直径55mm、高さ50mmの中空円筒の容器に詰め、次いで、この中空円筒の容器を垂直に持ち上げた後、テーブルに広がったペーストの直径を縦横2方向について測定し、この平均値をフロー値とした。
【0110】
調製例1(リン酸系分散剤(1)の調製)
温度計、撹拌機、滴下ロート、窒素導入管及び還流冷却器を備えたガラス製反応容器に、イオン交換水200gを仕込み、撹拌下に反応装置を窒素置換し、80℃に昇温した。次に、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(エチレンオキシドの付加モル数:23モル)65.9g、リン酸モノ(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸エステルとリン酸ジ−〔(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸〕エステルの混合物(ライトエステルP−1M、共栄社化学社製)40.6g、3−メルカプトプロピオン酸1.7gをイオン交換水97.0gで溶解させた水溶液を1.5時間かけて滴下した。それと同時に、イオン交換水45gに過硫酸アンモニウム4.7gを溶解させた水溶液を1.5時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃にて1時間攪拌を続けた後、イオン交換水15gに過硫酸アンモニウム2.4gを溶解させた水溶液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃にて1.5時間攪拌を続けた後、重合反応を終了し、重量平均分子量(Mw)が20000であるリン酸系共重合体の水溶液を得た。得られたリン酸系共重合体水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を加え、pH7まで中和した後、50℃にて減圧(50mmHg)乾燥し、粉砕して、JIS試験篩メッシュ換算表における70メッシュを通過する粉末状のリン酸系共重合体に調製した。これをリン酸系分散剤(1)と称す。
【0111】
調製例2(リン酸系分散剤(2)の調製)
温度計、撹拌機、滴下ロート、窒素導入管及び還流冷却器を備えたガラス製反応容器に、イオン交換水13.8g、ポリエチレングリコール(エチレンオキシドの付加モル数:120モル)モノフェニルエーテル250.0g、フェニルホスホン酸29.7g及び硫酸9.2gを仕込み、撹拌下に反応装置を窒素置換し、100℃に昇温した。次に、ホルムアルデヒド4.23gをイオン交換水7.86gで希釈した水溶液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、100℃にて1時間攪拌を続け、重縮合反応を終了し、重量平均分子量(Mw)が25000であるリン酸系縮合体の水溶液を得た。得られたリン酸系縮合体水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を加え、pH7まで中和した後、50℃にて減圧(50mmHg)乾燥し、粉砕して、JIS試験篩メッシュ換算表における70メッシュを通過する粉末状のリン酸系縮合物に調製した。これをリン酸系分散剤(2)と称す。
【0112】
製造例1(表面被覆無機粒子(1)の製造)
宇部三菱セメント社製シリカフュームセメント700gをHobertミキサー(N−50)に投入し、乾燥させて粉末化したスルホン酸系分散剤(マイティ150、花王社製)を14g(セメント固形分に対して2.0質量%)溶解させた水溶液119g(水は105g、水/セメント質量比=0.15)をミキサー内に投入した。投入後、1速にて300秒撹拌した後、撹拌を停止し、30秒かけて容器壁面に付着するペーストを掻き落とした。水溶液を投入してから330秒後に2速に切替え、撹拌を再開し、90秒間撹拌した後、撹拌を停止した。得られたペーストをバットに移し、50℃条件下で減圧乾燥(50mmHg)を行い、水を完全に留去した(一部結合水として残存)。乾燥後、粉砕を行い、JIS試験篩メッシュ換算表における70メッシュに相当する篩を用いて粒径を調整し、スルホン酸系分散剤で表面を被覆したシリカフュームセメント(表面被覆無機粒子(1)とも称す)を得た。
【0113】
製造例2(表面被覆無機粒子(2)の製造)
宇部三菱セメント社製シリカフュームセメント700gをHobertミキサー(N−50)に投入し、1速にて300秒撹拌した。撹拌と同時に、乾燥させて粉末化したスルホン酸系分散剤(マイティ150、花王社製)を14g(セメント固形分に対して2.0質量%)溶解させた水溶液35g(水は21g、水/セメント質量比=0.03)をミキサー内のセメントに300秒かけてスプレー噴霧し、セメント粒子にスルホン酸系分散剤を被覆させた。撹拌を停止し、得られた粉末をバットに移し、50℃条件下で減圧乾燥(50mmHg)を行い、蒸発可能な水を完全に留去した(一部結合水として残存)。乾燥後、JIS試験篩メッシュ換算表における70メッシュに相当する篩を用いて粒径を調整し、スルホン酸系分散剤で表面を被覆したシリカフュームセメント(表面被覆無機粒子(2)とも称す)を得た。
【0114】
製造例3(表面被覆無機粒子(3)の製造)
宇部三菱セメント社製シリカフュームセメント700gをHobertミキサー(N−50)に投入し、調製例1で得たリン酸系分散剤(1)を7g(セメント固形分に対して1.0質量%)溶解させた水溶液112g(水は105g、水/セメント質量比=0.15)をミキサー内に投入した。投入後、1速にて300秒撹拌した後、撹拌を停止し、30秒かけて容器壁面に付着するペーストを掻き落とした。水溶液を投入してから330秒後に2速に切替え、撹拌を再開し、90秒間撹拌した後、撹拌を停止した。得られたペーストをバットに移し、50℃条件下で減圧乾燥(50mmHg)を行い、水を完全に留去した(一部結合水として残存)。乾燥後、粉砕を行い、JIS試験篩メッシュ換算表における70メッシュに相当する篩を用いて粒径を調整し、リン酸系分散剤で表面を被覆したシリカフュームセメント(表面被覆無機粒子(3)とも称す)を得た。
【0115】
製造例4(表面被覆無機粒子(4)の製造)
宇部三菱セメント社製シリカフュームセメント700gをHobertミキサー(N−50)に投入し、調製例2で得たリン酸系分散剤(2)を3.5g(セメント固形分に対して0.5質量%)溶解させた水溶液108.5g(水は105g、水/セメント質量比=0.15)をミキサー内に投入した。投入後、1速にて300秒撹拌した後、撹拌を停止し、30秒かけて容器壁面に付着するペーストを掻き落とした。水溶液を投入してから330秒後に2速に切替え、撹拌を再開し、90秒間撹拌した後、撹拌を停止した。得られたペーストをバットに移し、50℃条件下で減圧乾燥(50mmHg)を行い、水を完全に留去した(一部結合水として残存)。乾燥後、粉砕を行い、JIS試験篩メッシュ換算表における70メッシュに相当する篩を用いて粒径を調整し、リン酸系分散剤で表面を被覆したシリカフュームセメント(表面被覆無機粒子(4)とも称す)を得た。
【0116】
試験例1−1〜1−4
製造例1〜4で得た表面被覆無機粒子のそれぞれについて、粒子表面のSi2p及びCa2pに対するC1sの相対表面濃度をXPSにより測定した。結果を表1に示す。
【0117】
試験例1−5
市販品である宇部三菱セメント社製シリカフュームセメントについて、粒子表面のSi2p及びCa2pに対するC1sの相対表面濃度をXPSにより測定した。結果を表1に示す。
【0118】
試験例1−6
乾燥させて粉末化したスルホン酸系分散剤(マイティ150、花王社製)0.14gを、宇部三菱セメント社製シリカフュームセメント7gに混合したプレミックスセメントについて、粒子表面のSi2p及びCa2pに対するC1sの相対表面濃度をXPSにより測定した。結果を表1に示す。
【0119】
【表1】
【0120】
試験例2−1〜2−6
製造例1〜4で得た表面被覆シリカフュームセメント(表面被覆無機粒子(1)〜(4))、表面被覆されていない宇部三菱セメント社製シリカフュームセメント、又は、乾燥させて粉末化したスルホン酸系分散剤(マイティ150、花王社製)0.14gを宇部三菱セメント社製シリカフュームセメント7gに混合したプレミックスセメント、をそれぞれ坩堝内に精密天秤を使用し、小数点第4位まで秤量(5g程度)した。電気炉(ADVANTEC社製KM−600)に、秤量したシリカフュームセメントを含む坩堝を入れ、150℃、窒素雰囲気下(流量2L/分)で2時間加熱した。2時間後、電気炉から坩堝を取り出し、デシケーターの中で室温になるまで放冷し、該シリカフュームセメントを精密天秤で、小数点第4位まで秤量し、仕込み量と残存量との比から加熱後の残存率(p)を測定した。続いて、同じ坩堝を再び電気炉に入れ、450℃、窒素雰囲気下(流量2L/分)で、2時間加熱した。2時間後、同様にデシケーター内で放冷し、450℃における加熱後の残存率(q)を測定した。150℃の残存率(p)と450℃の残存率(q)との差から、シリカフュームセメント中の有機系分散剤の含有量(=p−q)を計算した。
続いて、同じ坩堝を再び電気炉に入れ、550℃、窒素雰囲気下(流量2L/分)で2時間加熱した。2時間後、同様にデシケーター内で放冷し、550℃における加熱後の残存率(r)を測定した。450℃の残存率(q)と550℃の残存率(r)との差から、シリカフュームセメント中の化学結合水の水和度(=q−r)を計算した。結果を表2に示す。
【0121】
【表2】
【0122】
試験例3−1
試験例2−1で最終的に得られた表面被覆無機粒子(1)(550℃強熱減量後;y)について、その粒子表面のSi2p及びCa2pに対するC1sの相対表面濃度をXPSにより測定した。結果を表3に示す。また、加熱前の表面被覆無機粒子(1)(強熱減量前;x)の当該相対表面濃度、及び、表2に示す「(p−q)」値も、表3に併記する。
これらの結果から、有機系分散剤単位量あたりのケイ素(Si)及びカルシウム(Ca)に対する炭素(C)の相対表面濃度(z)を算出した。結果を表3に示す。
試験例3−2〜3−6も同様に分析した。結果を表3に示す。
【0123】
【表3】
【0124】
試験例4−1
製造例1で得たシリカフュームセメント(表面被覆無機粒子(1))500gをHobertミキサー(N−50)に投入し、水75gをミキサーに投入した(水/セメント質量比=0.15)。投入後、1速にて300秒撹拌した後、撹拌を停止し、30秒かけて容器壁面に付着するペーストを掻き落とした。水投入後330秒後に、2速で撹拌を再開し、更に90秒間撹拌を継続した。セメント及び水投入時を0秒とし、ペーストの軟らかさが目視で一定になるまでの時間を「混練時間」として表4に記載した。また、撹拌時の状態を経時的に撮影した写真を図1に示す。得られたペーストについて、フロー値を測定した結果を表4に示す。
【0125】
試験例4−2
製造例2で得たシリカフュームセメント(表面被覆無機粒子(2))500gをHobertミキサー(N−50)に投入し、水75gをミキサーに投入した(水/セメント質量比=0.15)。投入後、1速にて300秒撹拌した後、撹拌を停止し、30秒かけて容器壁面に付着するペーストを掻き落とした。水投入後330秒後に、2速で撹拌を再開し、更に90秒間撹拌を継続した。セメント及び水投入時を0秒とし、ペーストの軟らかさが目視で一定になるまでの時間を「混練時間」として表4に記載した。得られたペーストについて、フロー値を測定した結果を表4に示す。
【0126】
試験例4−3
製造例3で得たシリカフュームセメント(表面被覆無機粒子(3))500gをHobertミキサー(N−50)に投入し、水75gをミキサーに投入した(水/セメント質量比=0.15)。投入後、1速にて300秒撹拌した後、撹拌を停止し、30秒かけて容器壁面に付着するペーストを掻き落とした。水投入後330秒後に、2速で撹拌を再開し、更に90秒間撹拌を継続した。セメント及び水投入時を0秒とし、ペーストの軟らかさが目視で一定になるまでの時間を「混練時間」として表4に記載した。得られたペーストについて、フロー値を測定した結果を表4に示す。
【0127】
試験例4−4
製造例4で得たシリカフュームセメント(表面被覆無機粒子(4))500gをHobertミキサー(N−50)に投入し、水75gをミキサーに投入した(水/セメント質量比=0.15)。投入後、1速にて300秒撹拌した後、撹拌を停止し、30秒かけて容器壁面に付着するペーストを掻き落とした。水投入後330秒後に、2速で撹拌を再開し、更に90秒間撹拌を継続した。セメント及び水投入時を0秒とし、ペーストの軟らかさが目視で一定になるまでの時間を「混練時間」として表4に記載した。得られたペーストについて、フロー値を測定した結果を表4に示す。
【0128】
試験例4−5
宇部三菱セメント社製シリカフュームセメント500gをHobertミキサーに投入し、乾燥させて粉末化したスルホン酸系分散剤(マイティ150:花王社製)を10g(セメント固形分に対して2.0質量%)溶解させた水溶液85g(水は75g、水/セメント質量比=0.15)をミキサー内に投入した。投入後、1速にて300秒撹拌した後、撹拌を停止し、30秒かけて容器壁面に付着するペーストを掻き落とした。水投入後330秒後に、2速で撹拌を再開し、更に90秒間撹拌を継続した。セメント及び水投入時を0秒とし、ペーストの軟らかさが目視で一定になるまでの時間を「混練時間」として表4に記載した。また、得られたペーストについて、フロー値を測定した結果を表4に示す。
【0129】
試験例4−6
乾燥させて粉末化したスルホン酸系分散剤(マイティ150:花王社製)14gを、宇部三菱セメント社製シリカフュームセメント700gに混合し、粉末状スルホン酸系分散剤を含有するプレミックスセメントを得た。このプレミックスセメント500gをHobertミキサー(N−50)に投入し、水75gをミキサー内に投入した(水/セメント質量比=0.15)。投入後、試験例4−1と同様にしてセメントペーストを作製した。セメント及び水投入時を0秒とし、ペーストの軟らかさが目視で一定になるまでの時間を「混練時間」として表4に記載した。また、撹拌時の状態を経時的に撮影した写真を図2に示す。得られたペーストについて、フロー値を測定した結果を表4に示す。
【0130】
【表4】
【0131】
上記表4より、以下のことを確認した。
なお、試験例4−1〜4−6では、水/セメント質量比(W/C)が0.15(15%)と、非常に低い条件で行った。なお、一般的なコンクリートではW/C=0.45〜0.6(45〜60%)であり、高強度コンクリートでもW/C=0.3(30%)である。
【0132】
試験例4−1、4−3、4−4は、所定の相対表面濃度が本発明で規定した範囲内となる表面被覆無機粒子(1)、(3)、(4)をそれぞれ用いた例であるが(表1参照)、この場合、W/Cが非常に低い条件下にも関わらず、一定の流動性を発現するまでに要した時間は80〜90秒程度となり、著しい混練時間の短縮を達成できたことが分かった。これに対し、試験例4−5は、通常のシリカフュームセメントを用いた例であり、このセメントは、所定の相対表面濃度が本発明で規定した範囲内を下回る(表1参照)。この場合、セメントペーストが一定の流動性を発現するまで(つまり流動性が安定化するまで)に240秒要した。
なお、製造例1で表面被覆無機粒子(1)を得る際にセメント粒子の表面被覆剤として使用した有機系分散剤は、試験例4−5でセメントに投入された分散剤と同じものであることから、試験例4−1で確認された混練時間の短縮効果は、セメント粒子表面の炭素含有比率の差に起因することが分かった。
【0133】
試験例4−6は、製造例1、試験例4−5で用いたのと同じ有機系分散剤を、粉末のままセメント粒子と混合して得たプレミックスセメントを用いた例であり、このプレミックスセメントは、所定の相対表面濃度が本発明で規定した範囲内を下回る(表1参照)。この場合、試験例4−5よりも混練時間が更に長くなった。したがって、有機系分散剤を粉末化しても混練時間の短縮には寄与せず、むしろ混練時間は長時間化することが分かった。
【0134】
試験例4−2は、製造例2で得たシリカフュームセメント(表面被覆無機粒子(2))、すなわち分散剤を含む水溶液をセメントに噴霧して得た表面被覆セメントを用いた例である。この例の結果から、表面被覆無機粒子(2)のように少量の水溶液を噴霧して被覆する方法では、分散剤がセメント表面に充分に被覆されていないため、セメント粒子の凝集を防ぐことができず、混練時間の短縮が認められなかったものと考えられる。
【0135】
なお、試験例4−1〜4−4では、製造例1〜4において固体状の表面被覆無機粒子を各々得た後に、水を投入してペーストを調製している。一般に、セメント粒子等の無機粒子は固体状で流通されるため、この流通に供される状態のもの(固体状の表面被覆無機粒子)を得るまでに要した時間は、混練時間には含まない。本発明の表面被覆無機粒子は、これを用いるだけで、水硬性組成物を得るための製造時間を大幅に短縮できるという点で、格別顕著な効果を奏する。
【0136】
図1及び2より、以下のことを確認した。
試験例4−1では、有機系分散剤が無機粒子に被覆されているため、水投入直後、無機粒子同士の凝集は発生しなかった。無機粒子の凝集体が構築されないため、水が速やかに無機粒子に行き渡り、短時間(90秒)で分散と凝集との平衡状態に達した。これに対し、試験例4−6では、図2で示されるように、有機系分散剤入りの水を投入直後、無機粒子同士の凝集が瞬時に起こり、凝集体の中に分散剤入りの水が拘束され、ダマの状態になり、分散と凝集が平衡状態に達するまで、300秒を要した。
図1
図2