特許第6553900号(P6553900)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6553900
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】プラント部材の破断面評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/20 20190101AFI20190722BHJP
【FI】
   G01N33/20
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-48490(P2015-48490)
(22)【出願日】2015年3月11日
(65)【公開番号】特開2016-169972(P2016-169972A)
(43)【公開日】2016年9月23日
【審査請求日】2018年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】星川 貴信
(72)【発明者】
【氏名】橋本 建太郎
【審査官】 高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−018514(JP,A)
【文献】 特開平10−293049(JP,A)
【文献】 特開平09−264854(JP,A)
【文献】 特開平03−253555(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0167014(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00−33/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラント設備内の部材の破断面を評価するプラント部材の破断面評価方法であって、
プラント運転の終了後に、検査対象部材を内部より取り出す部材取り出し工程と、
取り出した検査対象部材に破断面がある場合、その破断面の変質層を評価する変質層評価工程とを有し、
前記変質層評価工程において、検査対象部材の破断部又はき裂先端部に運転時に生成される変質層の進展が存在する場合に、当該検査対象部材の当該破断が運転時に発生したものであると判定し、
前記検査対象部材の破断部に運転時に生成される変質層の進展が存在しない場合に、部材の当該破断が部材取り出し時に発生したものであると判定すると共に、
前記変質層の進展度合いを、プラント内部環境を基に検量線として予め求めておき、前記破断部の進展度合いを前記検量線から判断することを特徴とするプラント部材の破断面評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラント部材の破断面評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、プラントの破断等の損傷調査および保守管理の観点から機器等の部材に破断が生じた場合、同様の破断でも時期が違えば破断要因が異なる可能性があるため、破断した時期を推定又は把握することが必要である。
【0003】
このため、従来においては、化学プラントや発電プラントにおける配管等の破断を非破壊的手法で検査する技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−123106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、現状の機器点検に際し、プラント設備の構造においては、破断の程度を非破壊で確認できない場合には、破断の疑いの大きい機器等の部材を破壊手法、例えば内部より検査対象部材を引っ張る等により取り出して判断することも少なくない。
【0006】
このような場合、運転中に発生した破断と、取り出し時に発生した破断との区別が困難な場合がある。
【0007】
このため、プラント装置の内部から検査対象部材を破壊せずに、取り出すことを簡易に行うように構造変更する場合には、プラント設備の大幅な設計変更が余儀なくされ、問題となる。
【0008】
よって、プラント設備の装置の構造には変更がなく、破壊手法で検査対象部材を取り出した場合であっても、破断時期を把握し、破断原因をより正確に評価する技術の確立が切望されている。
【0009】
本発明は、前記問題に鑑み、破断時期を把握し、破断原因をより正確に評価することができるプラント部材の破断面評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、プラント設備内の部材の破断面を評価するプラント部材の破断面評価方法であって、プラント運転の終了後に、検査対象部材を内部より取り出す部材取り出し工程と、取り出した検査対象部材に破断面がある場合、その破断面の変質層を評価する変質層評価工程とを有し、前記変質層評価工程において、検査対象部材の破断部又はき裂先端部に運転時に生成される変質層の進展が存在する場合に、当該検査対象部材の当該破断が運転時に発生したものであると判定し、前記検査対象部材の破断部に運転時に生成される変質層の進展が存在しない場合に、部材の当該破断が部材取り出し時に発生したものであると判定することを特徴とするプラント部材の破断面評価方法にある。
【0011】
第2の発明は。第1の発明において、前記変質層の進展度合いを、プラント内部環境を基に検量線として予め求めておき、前記破断部の進展度合いを前記検量線から判断することを特徴とするプラント部材の破断面評価方法にある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、破断時期を把握し、破断原因をより正確に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施例1に係るプラント部材の破断面評価方法のフロー図である。
図2図2は、運転時に変質層が表面(環境側との境界面)から生成/進展を有する部材の概略図である。
図3図3は、プラント運転時に破断が発生する場合の部材の内部構造を示す図である。
図4図4は、プラント運転終了後の取り出し時に破断が発生する場合の部材の内部構造を示す図である。
図5図5は、部材に対して運転時破断部と運転後破断部とが存在する一例を示す概略図である。
図6図6は、プラント運転時間と変質層の進展深さとの関係の一例を示す検量線図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照して、本発明の好適な実施例を詳細に説明する。なお、この実施例により本発明が限定されるものではなく、また、実施例が複数ある場合には、各実施例を組み合わせて構成するものも含むものである。
【実施例1】
【0015】
本実施例に係るプラント部材の破断面評価方法は、プラント運転の終了後に、検査対象部材を内部より取り出す部材取り出し工程と、取り出した検査対象部材に破断面がある場合、その破断面の変質層を評価する変質層評価工程とを有し、変質層評価工程において、検査対象部材の破断部(亀裂部、割れ部等)又はき裂先端部に運転時に生成される変質層の進展が存在する場合に、当該検査対象部材の当該破断が運転時に発生したものであると判定し、検査対象部材の破断部(亀裂部)に運転時に生成される変質層の進展が存在しない場合に、部材の当該破断が部材取り出し時に発生したものであると判定するものである。
【0016】
図1は、実施例1に係るプラント部材の破断面評価方法のフロー図である。以下、図1のプラント部材の破断面評価方法のフロー図を参照して、プラント部材の破断面評価方法を詳述する。
図1に示すように、本実施例に係るプラント設備内の部材の破断面を評価するプラント部材の破断面評価方法は、プラント運転の終了後に、検査対象部材を内部より取り出す部材取り出し工程(S−11)と、取り出した検査対象部材に破断面がある場合、その破断面の変質層を評価する変質層評価工程(S−12)と、変質層評価工程(S−12)での破断部の変質層有無を判断する変質層判断工程(S−13)と、変質層判断工程(S−13)の結果により、検査対象部材の破断部(亀裂部)に運転時の変質層の進展が存在する場合(Yes)に、当該検査対象部材の当該破断が運転時に発生したものであると判定する第1判定工程(S−14)と、検査対象部材の破断部(亀裂部)に運転時の変質層の進展が存在しない場合(No)に、部材の当該破断が部材取り出し時に発生したものであると判定する第2判定工程(S−15)と、を有している。
【0017】
部材取り出し工程(S−11)は、検査対象部材をプラント内部より取り出す工程であり、プラント運転の終了後に行う。例えば反応容器を一例とすると、内部に挿入された例えば挿入部材に例えばしきり板等が周囲に付設されており、反応容器の取り出し口が小さい場合には、このしきり板がその取り出しの際に、破断により変形することがある。
この変形が、プラント運転時における例えば圧力変動による破断による変形と外見上判断が困難となる。
【0018】
変質層評価工程(S−12)は、取り出した検査対象部材に破断面がある場合、その破断面の変質層を評価するものである。評価方法は、変質層を評価する公知の評価方法による。
ここで、変質層とは、プラント運転時において、内部環境に応じて、部材として鋼板を例とすると、鋼板の表面近傍に、そのプラント運転内部雰囲気に応じて、発生する化学変化層をいう。例えば変質層としては、窒化層、浸炭層、酸化層、浸食層等を例示することができる。
一般的には、プラント運転時間が増えるのに従い、変質層の形成領域も曝露表面から深くなる。ただし変質層の深さ以外にもプラント稼働時間の経過に伴い変化する性質があるような場合には、その変化を判断材料とするようにしてもよい。
【0019】
変質層としては、例えば加熱炉の場合には、例えば酸化層、硫化層、浸炭層、V(バナジウム)アタック層等が発生する。また、脱硫装置の場合には、硫化層、水素浸食層等が発生する。また、水蒸気改質装置の場合には、浸炭層、水素浸食層、V(バナジウム)アタック層等が発生する。またアンモニア合成装置の場合には、窒化層、水素浸食層が発生する。また、ハロゲン化装置の場合には、ハロゲン化腐食層等が発生する。また、過熱器、再熱器の場合には、水蒸気酸化層、V(バナジウム)アタック層、アルカリ硫酸塩腐食層等が発生する。また、廃熱回収器の場合には、アルカリ硫酸塩腐食層が発生する。また、蒸気発生器の場合には、Naによる脱炭層、浸炭層等が発生する。また、熱交換器の場合には、酸化層、浸炭層、脱炭層等が発生する。排ガス浄化装置の場合には、酸化層、鉛(Pb)腐食層等が発生する。また、焼却炉熱交換器の場合には、塩化物−硫酸塩による腐食層等が発生する。
【0020】
例えば変質層として、浸炭層を評価する場合を説明する。浸炭層の評価手法としては、例えば検査対象部材の破断面を研磨し、その後腐食液(例えば塩化第2鉄と塩酸との混合液)に接触させ、その腐食状況を観察して、浸炭層の進展度合いを判断する。
【0021】
また、これらの変質層(浸炭層)は,調査対象の母材と比べて硬さなどの機械的性質が異なることが多い。そのため、断面肉厚方向に特定のピッチで硬さ測定を実施し、硬さの分布から変質層の進展度合いを評価することが一般的である。窒化層についても同じことが言える。
【0022】
変質層判断工程(S−13)は、変質層評価工程(S−12)での破断部における変質層の進展の有無の状況を判断する。
判断は、破断部の破断先端部(溝部の底部)において、変質層があるか否かを判断する。
【0023】
第1判定工程(S−14)は、変質層判断工程(S−13)の結果により、検査対象部材の破断部(亀裂部)に運転時の変質層の進展(破断部変質層)が存在する場合(Yes)に、当該検査対象部材の当該破断が運転時に発生したものであると判定する。
【0024】
第2判定工程(S−15)は、変質層判断工程(S−13)の結果により、検査対象部材の破断部(亀裂部)に運転時の変質層が存在しない場合(No)に、部材の当該破断が部材取り出し時に発生したものであると判定する。
【0025】
図2は、運転時に変質層が表面(環境側との境界面)から生成/進展を有する部材の概略図である。図2に示すように、プラント運転前は、部材11の表面には、変質層は存在しない(図2中、左側参照)。
しかし、プラント運転後は、プラント運転時の内部雰囲気環境において、部材11の表面には母材変質層12が発生する。この母材変質層12は、部材11の表面から所定深さだけ、プラント運転時間に応じて進展が一様に生じる。
【0026】
図3は、プラント運転時に破断が発生する場合の部材の内部構造を示す図である。
図3に示すように、プラント運転時に破断部が発生する場合には、その破断発生までには、すでに運転により母材変質層12が形成されている(図3中、「破断前」)。この際には、深さD1の母材変質層12が、表面から生成/進展する。
【0027】
その後、運転中において破断が発生すると、部材11の表面に発生している母材変質層12を破って、運転時破断部21が発生する(図3中、「破断発生時」)。
【0028】
この状態において、プラント運転を継続し、運転が終了すると、運転時破断部21の亀裂の近傍に母材変質層12がさらに進展すると共に、運転時破断部21の亀裂の深さ方向にも所定の運転時の破断部変質層12aが発生する(図3中、「運転終了後」)。これは、亀裂内部の表面から運転時の破断部変質層12aが深さD2だけ変質層が形成されることによる。なお、母材変質層12の進展深さD3は進展深さD1とD2との合計となる。
【0029】
図4は、プラント運転終了後の取り出し時に破断が発生する場合の部材の内部構造を示す図である。図4に示すように、プラント運転終了後には、プラント運転時に発生した進展深さD3の母材変質層12が部材11に発生しているのみである(図4中、「運転終了後」)。そして、プラント終了後の取り出しの際に、破断部が発生する場合には、部材11の表面に発生している進展深さD3の母材変質層12を破って、運転後破断部22が発生する(図4中、「取り出し後」)。この結果、プラント終了後の取り出しの際においては、部材11の表面に発生した運転後破断部22には、プラント運転により発生した進展深さD3の母材変質層12のみが存在し、図3に示すような運転時破断部21の亀裂部分の深さ方向には所定の運転時の破断部変質層12aが存在しない。
【0030】
図5は、部材に対して運転時破断部と運転後破断部とが同一部材で存在する一例を示す概略図である。図5の上段の図に示すように、運転前は、部材11の表面には母材変質層は存在しない。
【0031】
運転中に部材11の上側に破断が発生する場合には、図5の中段の図に示すように、運転時破断部21の発生がある。
【0032】
その後、運転を継続すると、図5の下段の図に示すように、プラント運転後には、その運転時間に応じて、部材上側に形成された運転時破断部21の深さ方向には、運転時の破断部変質層12aが進展する。
【0033】
これに対して、プラント運転後の取り出し時の引張の際に、部材の下側に破断が発生する場合には、図5の下段の図に示すように、運転時破断部21が発生する。しかし、この運転後破断部22の深さ方向には、部材11の上側に運転中に形成された運転時破断部21のような運転時の破断部変質層12aが形成されない。
【0034】
このように、プラントの運転に伴い窒化や浸炭等の変質層が生成する場合、プラント運転時間と一定の関係をもった深さの変質層が形成される。
【0035】
よって、変質層判断工程(S−13)において、変質層評価工程(S−12)での破断部における変質層の進展の有無の状況を判断することで、破断部の破断先端部(溝部の底部)において、運転時の破断部変質層12aがあるか否かを判断することで、運転中に発生した破断か、取り出し時に発生した破断かの区別を判断することができることとなる。
【0036】
このように、プラント運転稼働中に破断などの損傷により製品本来の表面以外に、運転時破断部21が生成されると、その破断部の進展方向の領域においても運転時の破断部変質層12aの生成が始まる。
【0037】
よって、プラント運転中に発生した運転時破断部21においては、通常形成される母材変質層12と、運転時の破断部変質層12aの生成量(表面からの深さ等)が異なるため、運転時断面部21の運転時の破断部変質層12aの様相(進展程度)を比較することで、破断部の発生した時期を把握することが出来る。
【0038】
プラント装置から機器を取り出す際には、一般的にはプラントは運転を停止している。このため、プラント運転終了後の取り出し時に、例えば過大な応力を受けて破断した場合、この運転後破断部22の破断面には運転時の破断部変質層12aは生成されない。
【0039】
よって、これらを確認することにより、おおよその破断時期を把握できる。これにより、より正確な破断調査を行うことが出来る。
【実施例2】
【0040】
実施例2は、実施例1において、さらに、運転時変質層をもとにして、おおよその破断の発生時間を把握するものである。
【0041】
実施例2では、事前に運転環境を模擬した雰囲気で試験を行い変質層の性質(層深さや硬さなど)と運転時間の相関を取得するものである。
図6は、プラントの運転時間(h)と変質層の進展深さとの関係の一例を示す検量線図である。
【0042】
図6において、変質層評価工程(S−12)での検査結果により、運転時の破断部変質層12aの進展深さの計測結果が例えば深さDとすると、その計測した深さ(D2)に対応する運転時間(t2)を求めることができる。
【0043】
これにより、破断後に進展した運転時の破断部変質層12aの進展深さからプラント運転時間t2が推定されるので、総プラント運転時間(T)から求めた運転時間(t2)を引くことで、破断部の発生時間を推定することができる。
【0044】
このように、本実施例によれば、変質層の進展度合いを、プラント内部環境を基に検量線として予め求めておき、実際の破断部の進展度合いを検量線から判断することで、破断部の発生時間を推定することができる。
【符号の説明】
【0045】
11 部材
12 母材変質層
12a 運転時の破断部変質層
21 運転時破断部
22 運転後破断部
図1
図2
図3
図4
図5
図6