特許第6553907号(P6553907)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井精機工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6553907-工作機械 図000005
  • 特許6553907-工作機械 図000006
  • 特許6553907-工作機械 図000007
  • 特許6553907-工作機械 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6553907
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】工作機械
(51)【国際特許分類】
   B23Q 15/18 20060101AFI20190722BHJP
   G05B 19/404 20060101ALI20190722BHJP
   B23Q 17/00 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   B23Q15/18
   G05B19/404 K
   B23Q17/00 A
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-60679(P2015-60679)
(22)【出願日】2015年3月24日
(65)【公開番号】特開2016-179525(P2016-179525A)
(43)【公開日】2016年10月13日
【審査請求日】2018年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000174987
【氏名又は名称】三井精機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098279
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 聖
(72)【発明者】
【氏名】浅井 岳見
【審査官】 牧 初
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−071979(JP,A)
【文献】 特開2012−240137(JP,A)
【文献】 特開平08−047842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 15/00−15/28
G05B 19/18−19/416
G05B 19/42−19/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に取り付けられ該回転軸により回転される工具により被工作物を加工する工作機械において、少なくとも該工作機械の所定の位置に設置され第1の物理量を計測する第1のセンサと、該工作機械の前記所定の位置とは異なる他の位置に設置され前記第1の物理量とは異なる第2の物理量を計測する第2のセンサを備え、前記第1、第2のセンサの出力をそれぞれ1次遅れ要素・2次遅れ要素ないしより高次の遅れ要素により残留させてできる派生信号を組み合わせ工作機械の熱変位分の補正に利用し、かつそれら同士の積を求め、該積も組み合わせて工作機械の熱変位分の補正に利用することを特徴とする工作機械。
【請求項2】
請求項1に記載の工作機械において前記第1、第2のセンサの出力またはその派生信号の一部もしくは全部が、ある範囲を超えて変化したとき、関数もしくは表を利用して補正係数の一部もしくは全部を動的に切り替えることを特徴とする工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械に関し、特に、工作機械において稼働中に発生する熱変位により、被工作物の加工寸法が変化することを防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械において稼働中に発生する熱変位により、被工作物の加工寸法が変化するという問題があり、一般には機械の運転状態の変化から熱分布の変化が生じ安定状態に到達するまではかかる変化を続ける。特に、発熱状態の変化については、変化からの整定時間が数十分からときに数時間と長くなりがちである。そこで、従来、加工開始までの時間をとる、いわゆる暖気運転を行う、または、粗加工と仕上げ加工の回転数などを近いものにし、仕上げ加工には変位の影響が小さくなるような工夫をする等の対策が取られている。
【0003】
一方、暖機運転などの時間を許容できない場合や、特に高い精度が要求される場合には、従来、工作機械の熱変位による工作物の加工寸法への影響を低減するため、熱変位に応じて工作機械の工具の送り量を補正するようにしている。(例えば、特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−141883
【特許文献2】特開平9−70739
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】2012年度精密工学会秋季大会学術講演会論文集 J34, 677
【0006】
例えば、特許文献1記載の従来例(第1の従来例)では、機械に温度計を複数配置し、温度変化と加工寸法との関係を重回帰分析したデータを用いて工具の送り量を補正する。即ち、工作機械の複数部位の温度と工作物の加工寸法を測定し、測定した複数部位の温度の変化と工作物の加工寸法の変化の相関関係を重回帰分析により求め、この重回帰分析により得られた相関関係値が所定値より高い工作機械の部位を選択し、選択された工作機械の部位の温度の変化と工作物の加工寸法の変化の関係式を重回帰分析から求め、この関係式から工作物の加工寸法を予測し、予測された工作物の加工寸法に基づいて工作機械の送り量を補正するようにしている。
【0007】
また、特許文献2記載の従来例(第2の従来例)では、事前の変位測定に基づき補正を行う方法が提案されており、具体的には、予め対象の加工機械においてある回転数RPMにおける時間経過毎の加工部位における熱変位や回転停止後における時間経過毎の熱変位を測定しその熱変位補正テーブルを制御部に記録しておき、実際の加工において、回転数や経過時間および回転停止、回転数変化を求め、前記テーブルを基にしてリアルタイムの補正を行うようにしている。
【0008】
一方、非特許文献1記載の従来例(第3の従来例)のように、複数個の温度計を組み込みつつ、刃先変位への影響を有限要素法など数値計算手法により逐次計算させる高度な補正を行っているものもある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1記載の従来例(第1の従来例)では、多数の温度計が必要となるので、コストが高くなり、測定する温度計が少ない場合には、直前までの動作による熱が測定していない部分に残留して熱変位を生じせしめるという問題がある。また、特許文献2記載の従来例(第2の従来例)では、事前に測定調査した加工サイクルとは異なるサイクルの加工を実施する場合には、変位の推定の偏差が発生してしまうことは免れない。
【0010】
また、非特許文献1記載の従来例(第3の従来例)では、上述したように、複数個の温度計を組み込みつつ、刃先変位への影響を有限要素法など数値計算手法により逐次計算させるが、自由度の大きな計算はある程度の計算能力を要するため、簡略化のために工夫を要する。
【0011】
このため、工作機械の熱変位を、より高精度にもしくは低コストに補正することができる装置又は方法の開発が切望されており、また、事前に測定調査した加工サイクルとは異なるサイクルの加工を実施する場合でも、センサ出力によるフィードバック機能等により補正性能の向上が図れる技術が開発されれば大変有益である。
【0012】
本発明は、以上のような事情から為されたものであり、その目的は、工作機械の熱変位を、より高精度にもしくは低コストに補正することができる技術を提供することにある。また、事前に測定調査した加工サイクルとは異なるサイクルの加工を実施する場合でも、センサ出力によるフィードバック機能等により補正性能の向上が図れる工作機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上述したように、工作機械の熱変位を、より高精度にもしくは低コストに補正する機能を奏する技術の可能性について様々な観点から鋭意研究した結果、直前までの計測器の出力を1次遅れ要素・2次遅れ要素ないしより高次の遅れ要素により残留させてできる派生信号を組み合わせ補正に利用することにより、高性能な熱変位補正が可能となることを見出した。
【0014】
即ち、本発明では、回転軸に取り付けられ該回転軸により回転される工具により被工作物を加工する工作機械において、少なくとも該工作機械の所定の位置に設置され第1の物理量を計測する第1のセンサと、該工作機械の前記所定の位置とは異なる他の位置に設置され前記第1の物理量とは異なる第2の物理量を計測する第2のセンサを備え、前記第1、第2のセンサの出力をそれぞれ1次遅れ要素・2次遅れ要素ないしより高次の遅れ要素により残留させてできる派生信号を組み合わせ工作機械の熱変位分の補正に利用し、かつそれら同士の積を求め、該積も組み合わせて工作機械の熱変位分の補正に利用することを特徴としている。
【0015】
また、本発明では、回転軸に取り付けられ該回転軸により回転される工具により被工作物を加工する工作機械において、少なくとも該工作機械の第1の所定位置に設置され第1の物理量を計測する第1のセンサと、前記第1の所定位置とは離間した第2の所定位置に設置され前記第1の物理量を計測する第2のセンサを備え、前記第1のセンサ出力と第2のセンサ出力の派生信号も含めそれらの積も利用して、工作機械の熱変位分の補正に利用することを特徴としている。この、「積も利用する」ということで、「任意の滑らかな関数は任意の点近傍でテイラー展開可能」となる原理から、高次の項を無視し近似式を生成することができ、積を利用しない補正式よりもより高性能の補正式を得ることが可能となる。なお、「近傍」とは要求する近似精度との関係で決定される概念であり一定の範囲をさしているわけではない。尚、本発明は、必ずしも変位の補償をする必要はなく、変位の安定を推定する用途に利用しても良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、工作機械の熱変位を、より高精度にもしくは低コストに補正することができる。また、事前に測定調査した加工サイクルとは異なるサイクルの加工を実施する場合でも、センサ出力によるフィードバック機能等により補正性能の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】変位信号に施す信号処理を表すブロック線図である。
図2】温度計設置の例である。
図3】本発明の実施形態を説明するための図である。
図4】本発明の実施形態のうち係数を動的に変更する部分のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、図1を参照して、本発明の概要を説明する。本発明は、直前までの計測器の出力を1次遅れ要素・2次遅れ要素ないしより高次の遅れ要素により残留させてできる派生信号を組み合わせ補正に利用するものであり、例えば、ある温度・変位・ひずみいずれかのタイプのセンサ(計測器)の出力をそれぞれ一次遅れ要素を通過させて得られた出力の派生信号に対し、直前までの計測器の出力を1次遅れ要素により残留させてできる派生信号を組み合わせて補正係数として利用する。図1にこの出力算出のブロック線図を示す。
【0019】
図1中のS10、S20、S30はある温度・変位・ひずみいずれかのタイプのセンサ1、2、3の出力である。S11、S21、S31はセンサ1、2、3の出力を一次遅れ要素を通過させて得られた出力の派生信号である。例として1次遅れ要素を適用しているが、2次遅れ要素または高次遅れ要素を使用してもよい。また、変位センサ(変位計)のひとつとしてフィードバック制御用のリニアスケールやロータリスケールが使用されていてもよいことは言うまでもない。センサの総数に制限もないことも言うまでもない。
【0020】
図2に、工作機械のコラム201の構造を示す。この図2では二次元に描いているが、奥行き方向に大きさがあることは言うまでもない。工具を回すための主軸頭202を搭載しており、先端につけた工具203を使用してテーブル205にのった工作物204に切り込みを与える。このようなコラムに温度計211および212を図に示すように配置した場合、211の出力θ1が上昇方向に変化し212の出力θ2が低下方向に変化する場合、211のみ出力が上昇した場合に比べ刃先の204に遠ざかる方向の変位が大きくなる。このような効果を表現するために、次に示す式(1)のような項も考える。
【0021】
【数1】
【0022】
ただし、出力はある時点の出力を基準とした基準からの変化分のみを計算に使用する。
【0023】
センサ出力と変位の関係を事前のサイクルで測定する。
【0024】
係数や時定数を変数として、多重回帰分析によりこれら変数の組み合わせを推定し、このようなセンサ出力の変化とそれらを遅れ要素を通過させたもののそれぞれについて累乗ないし交互に積を取ったものの係数および時定数などを決定する。
【0025】
実加工サイクルにおいては事前に用意された係数の組を利用して各出力およびその派生信号から推定関数を使用し工具送りを補正する。この方法は、直動3自由度 回転3自由度すべてに使用できることは言うまでもない。
【0026】
例として、温度センサ1つと機械の送り軸のフィードバック制御に使用しているスケールの出力1つとひずみ計1つを使用する場合を考える。各センサの出力をs10,s20,s30とし一次遅れ信号s11,s21,s31まで派生させることを考える。また、各出力・派生出力の2次の項まで考える場合、その変位δ推定関数は以下のようになる。
【0027】
【数2】
【0028】
ただし、aijは係数である。当然出力を派生させる際に一次遅れなので、次遅れ時定数を定義する必要がありそれぞれ1つずつT1,T2,T3とする。2次遅れなら係数はそれぞれ2つである。
【0029】
試しのサイクルにおいては例えば、X−Y−Zの3方向の非接触変位計を使用し、工具の送り軸を停止させた状態で、工具のX−Y−Zの変位と各センサ出力と派生出力を同時に収録する。図3に実施例を示す。401は非接触の変位計であり。311はフィードバック用のスケールを211は温度計を表している。
【0030】
多重回帰分析により式(2)による推定と実変位の偏差の時間についての微分係数が最小になるように、例えば偏差の時間についての微分係数の二乗和を用いた数値最適化の計算を行い、aijとT1,T2,T3を決め、CNCもしくはその付属装置のプログラマブルコントローラなどに保存する。ここで、あえて微分係数を計算し使用しなくとも良いことは言うまでもない。しかし、通常マシニングセンタの工具ホルダは回転数により変形が0でないため、微分係数を計算して使用するほうが良好な補正が期待できる。
【0031】
実加工時においては、出力を収録し、それをプログラマブルコントローラなどが受け取れるようにし、計算を持って熱変位を推定する。場合によっては、その推定値を用いて変位を補正するように送りを調整する。
【0032】
2次までの近似の場合には、リニアスケールの出力ように1メートルや2メートルの変化を示すセンサの場合には、十分な近似精度が得られない可能性がある。その場合、3次までの近似とするか、表1のようにリニアスケールの出力範囲と係数の対応表を作成し、図4のフローチャートに示すような操作を逐次実行し係数を逐次調整することも考えられる。この方法について述べる。表1は、本発明の実施形態のうち係数を動的に変更する場合の係数表の一例である。
【0033】
【表1】
図4は、本実施形態のうち係数を動的に変更する部分のフローチャートである。即ち、図4に示すように、まず、係数の確認を開始し(S401)、出力S30(図1参照)を確認する(S402)。そして、この出力S30の範囲番の境界を越えたか否かを判断し(S403)、越えていなければ(S403でNO)、係数の確認を完了する(S407)。越えている場合には(S403でYES)、係数表(上記表1参照)を読み出し(S404)、この係数表に従って係数を変更する(S405)。即ち、出力S30の新しい範囲番号を記録し(S406)、係数の確認を完了する(S407)。
【0034】
本発明によれば、工作機械の熱変位を、より高精度にもしくは低コストに補正することができる。また特許文献2の例のように事前に調査したサイクルと違うものを実施するとしてもセンサ出力によるフィードバックがあり若干補正性能の向上が図れる。
図1
図2
図3
図4