(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0011】
図1は本発明の実施形態に係る車両用空調装置100の構成図である。
【0012】
車両用空調装置100は、冷凍サイクル1と、冷却水循環サイクル3と、HVAC(Heating Ventilation and Air Conditioning)ユニット7と、エンジン冷却水循環サイクル8と、から構成される。
【0013】
冷凍サイクル1は、冷媒の流れる冷媒流路60と、冷媒流路60上に設けられ冷媒を気液分離するアキュムレータ10と、冷媒を圧縮するコンプレッサ20と、高圧となった冷媒の熱を放出する水冷媒熱交換器30と、冷媒と外気との間で熱交換を行う室外熱交換器40と、冷媒に周囲の空気の熱を吸収させるエバポレータ50と、を備える。冷媒には、例えばHFC−134aが用いられる。
【0014】
アキュムレータ10は、冷媒流路60を流れる冷媒を、気相冷媒と液相冷媒とに気液分離する。アキュムレータ10からは、分離した気相冷媒のみがコンプレッサ20へと流される。
【0015】
コンプレッサ20は、アキュムレータ10を通過した後の冷媒を吸入し圧縮する。コンプレッサ20は、内部のモータの消費電力に応じて出力が変化する出力可変型の圧縮機である。気相冷媒は、コンプレッサ20にて圧縮されることで温度が高くなる。
【0016】
水冷媒熱交換器30は、内部を流れる冷却水を用いて、コンプレッサ20を通過した後の冷媒を凝縮させる凝縮器である。水冷媒熱交換器30は、冷媒と冷却水との間で熱交換を行い、車室内空調に利用する空気を加熱するための熱源を確保する。
【0017】
室外熱交換器40は、冷媒と外気との間で熱交換を行う熱交換器である。室外熱交換器40には、車両の走行や室外ファン41の回転によって、外気が導入される。室外ファン41は、内部のモータの周波数設定に応じて回転数が変化する。
【0018】
エバポレータ50は、室外熱交換器40を通過した後の冷媒を蒸発させる蒸発器である。エバポレータ50は、車室内空調に利用する空気の熱を冷媒に吸収させて、空気を冷却する。エバポレータ50によって蒸発した冷媒は、アキュムレータ10へ流れる。
【0019】
冷媒流路60には、水冷媒熱交換器30と室外熱交換器40との間に、第1膨張弁61が配置される。
【0020】
第1膨張弁61は、暖房運転時に水冷媒熱交換器30から流れてくる冷媒を減圧膨張させる。第1膨張弁61には、例えばオリフィスやキャピラリーチューブなどの固定絞りが用いられる。水冷媒熱交換器30の上流のコンプレッサ20によって圧縮され高温高圧となった冷媒は、第1膨張弁61の小さな孔を通過することによって減圧膨張して霧状の低温の冷媒となる。なお、第1膨張弁61として弁の開度を調整可能な開度調整弁を用いてもよい。
【0021】
冷媒流路60は、水冷媒熱交換器30及び第1膨張弁61をバイパスしてコンプレッサ20と室外熱交換器40とを接続する第1バイパス流路60aを有する。第1バイパス流路60aには、開閉によって冷媒の流れを切り替える第1開閉弁62が設置される。
【0022】
第1開閉弁62は、暖房運転時には閉じられ、除霜運転時や冷房運転時には開かれる。暖房運転時には、第1開閉弁62が閉じられることで、コンプレッサ20によって圧縮された冷媒は、水冷媒熱交換器30へと流れて水冷媒熱交換器30内の冷却水と熱交換を行う。その後、冷媒は、第1膨張弁61を通過して減圧膨張して室外熱交換器40へと流れる。他方で、除霜運転時又は冷房運転時には、第1開閉弁62が開かれることで、コンプレッサ20によって圧縮された冷媒は、第1開閉弁62を通過して減圧膨張せずに高圧のまま室外熱交換器40へと流れる。
【0023】
冷媒流路60には、室外熱交換器40とエバポレータ50との間に、第2開閉弁63と第2膨張弁64とが直列に配置される。また、冷媒流路60は、第2膨張弁64とエバポレータ50とをバイパスして室外熱交換器40とアキュムレータ10とを接続する第2バイパス流路60bを有する。第2バイパス流路60bには、開閉によって流れを切り替える第3開閉弁65が設置される。
【0024】
第2開閉弁63は、エバポレータ50への冷媒の流れを切り替える弁である。第3開閉弁65は、第2バイパス流路60bへの冷媒の流れを切り替える弁である。暖房運転時や除霜運転時には、第2開閉弁63が閉じられて第3開閉弁65が開かれる。このため、室外熱交換器40から流れてくる冷媒は、第2バイパス流路60bを通過してそのままアキュムレータ10へと流れる。他方で、冷房運転時には、第2開閉弁63が開かれて第3開閉弁65が閉じられる。このため、室外熱交換器40から流れてくる冷媒は、第2膨張弁64及びエバポレータ50へと流れる。
【0025】
第2膨張弁64は、冷房運転時に第2開閉弁63から流れてくる冷媒を減圧膨張させてエバポレータ50へと流す。第2膨張弁64は、第1膨張弁61と同様に、例えばオリフィスやキャピラリーチューブなどの固定絞りが用いられる。室外熱交換器40で放熱した高圧の冷媒は、第2膨張弁64中の小さな孔を通過することによって減圧膨張してさらに低温の霧状となる。なお、第2膨張弁64として弁の開度を調整可能な開度調整弁を用いてもよい。
【0026】
冷却水循環サイクル3は、冷却水の流れる冷却水流路34を備える。冷却水には、例えば不凍液が用いられる。冷却水流路34には、水冷媒熱交換器30と、ウォータポンプ31と、ヒータコア32と、温水ヒータ33と、が接続されている。
【0027】
ウォータポンプ31は、冷却水流路34内の冷却水を送液して循環させる。ウォータポンプ31は、内部のモータの周波数設定に応じて回転数が変化して、冷却水の送液量を調整する。
【0028】
温水ヒータ33は、通過する冷却水を加熱する。冷却水は、水冷媒熱交換器30で冷却水が冷媒から十分に吸熱できない場合に、温水ヒータ33によって加熱される。
【0029】
ヒータコア32は、加熱された冷却水の熱を用いて車室内に送風する空気を暖める。
【0030】
HVACユニット7には、車室内に送風する空気が導入される。HVACユニット7内には、エバポレータ50とヒータコア32とが配置される。車室内に送風する空気は、図示しないブロワによって送風されてエバポレータ50やヒータコア32を通過する際に、エバポレータ50内を流れる冷媒やヒータコア32内を流れる冷却水との間で熱交換を行う。HVACユニット7は、ヒータコア32の上流側にエアミックスドア70を備える。
【0031】
エアミックスドア70は、開度が制御されることによって、ヒータコア32を通過する空気の量を調整する。例えば、暖房運転時には、エアミックスドア70は、ヒータコア32に空気が導かれるように開かれる。エアミックスドア70が開かれることで、ブロワから送風される空気は、ヒータコア32へと案内されて、ヒータコア32内の冷却水との間で熱交換を行う。
【0032】
エンジン冷却水循環サイクル8は、エンジン冷却水が流れるエンジン冷却水流路83を備える。エンジン冷却水流路83には、エンジン80と、エンジンウォータポンプ81と、ラジエータ82と、が接続されている。
【0033】
エンジン80は、燃料を燃焼させて車両の駆動力を得る。エンジン80は、内部で燃料が燃焼することによって熱が発生する。
【0034】
エンジンウォータポンプ81は、エンジン冷却水流路83のエンジン冷却水を循環させるポンプである。循環するエンジン冷却水は、エンジン80を冷却する際に加熱される。
【0035】
ラジエータ82は、室外熱交換器40の車両後方側に配置され、エンジン冷却水の熱を外気に放出する。
【0036】
車両用空調装置100には、室外熱交換器出口温センサ91と、外気温センサ92と、吐出温度センサ93と、吐出圧センサ94と、吸入圧センサ95と、温水ヒータ出口温センサ96と、吹出し温度センサ97と、エバポレータ温度センサ98と、日射センサ99と、が設置されている。
【0037】
室外熱交換器出口温センサ91は、室外熱交換器40の出口付近の冷媒流路60に設置され、室外熱交換器40を通過した冷媒の温度(出口側冷媒温度To)を検出する。なお、室外熱交換器出口温センサ91は、室外熱交換器40の出口部に設置されてもよい。
【0038】
外気温センサ92は、室外熱交換器40に取り込まれる前の外気の温度(外気温Ta)を検出する。
【0039】
吐出温度センサ93及び吐出圧センサ94は、コンプレッサ20の吐出側の冷媒流路60に設置される。吐出温度センサ93は、コンプレッサ20に圧縮された冷媒の温度(吐出温度Td)を検出する。吐出圧センサ94は、コンプレッサ20に圧縮された冷媒の圧力(吐出圧Pd)を検出する。
【0040】
吸入圧センサ95は、コンプレッサ20の吸入側の冷媒流路60に設置される。吸入圧センサ95は、コンプレッサに吸入される冷媒の圧力(吸入圧Ps)を検出する。
【0041】
温水ヒータ出口温センサ96は、温水ヒータ33の出口部に設置され、温水ヒータ33を通過した冷却水の温度を検出する。
【0042】
吹出し温度センサ97は、HVACユニット7の出口付近に設置され、車室内に送風される空気の吹出し温度を検出する。
【0043】
エバポレータ温度センサ98は、HVACユニット7のエバポレータ50の空気流れ下流側に設置され、エバポレータ50を通過した空気の温度を検出する。
【0044】
日射センサ99は、車室内に設置され、車室内の日射状態を検出する。
【0045】
図2は、車両用空調装置100のコントローラ90の空調制御に関する電気回路のブロック図である。
【0046】
コントローラ90は、CPU、ROM、RAMなどによって構成され、ROMに記憶されたプログラムをCPUによって読み出すことで、車両用空調装置100に各種機能を発揮させる。
【0047】
図2に示すように、コントローラ90には、各種センサ92〜99からの信号が入力される。コントローラ90は、入力された信号に基づいて、コンプレッサ20と、ウォータポンプ31と、エンジンウォータポンプ81と、温水ヒータ33と、室外ファン41と、の出力をそれぞれ設定する。また、コントローラ90は、入力された信号に基づいて、第1開閉弁62と、第2開閉弁63と、第3開閉弁65と、の開閉制御を実行する。さらに、コントローラ90は、エアミックスドア70の開度制御を実行する。
【0048】
ここで、車両用空調装置100が実行する空調制御について説明する。車両用空調装置100では、コントローラ90は、図示しない車室内の空調操作スイッチからの信号などに基づいて車室内の冷房要求、暖房要求、又は除湿暖房要求を判定し、空調制御を実行する。
【0049】
例えば、車室内の暖房要求に応じて暖房運転を行う場合には、コントローラ90は、
図3に示すように第1開閉弁62及び第2開閉弁63を閉じて、第3開閉弁65を開く。
図3は、暖房運転時の冷媒の流れを示す図である。
図3に太実線で示すように、暖房運転時にコンプレッサ20によって圧縮された冷媒は、水冷媒熱交換器30、第1膨張弁61、室外熱交換器40、第3開閉弁65、及びアキュムレータ10を順番に通過してコンプレッサ20へと戻る。
【0050】
暖房運転時には、冷媒は、コンプレッサ20によって圧縮されてから、水冷媒熱交換器30の冷却水との間で熱交換を行うことで冷やされる。水冷媒熱交換器30の冷却水は、冷媒と熱交換を行うことで暖房熱源を確保する。その後、水冷媒熱交換器30を通過した冷媒は、第1膨張弁61で減圧膨張して低温の冷媒となって室外熱交換器40へと流れる。低温の冷媒は、室外熱交換器40に導入される外気から吸熱し蒸発する。室外熱交換器40に導入される外気と低温の冷媒との間で正常に熱交換が行われると、室外熱交換器40の出口側冷媒温度Toは外気温Taに近くなる。
【0051】
このとき、室外熱交換器40周囲の外気中の水蒸気が、低温の冷媒によって露点温度以下まで冷やされることで、結露して室外熱交換器40に付着する。低温の冷媒によって結露水が氷点下以下まで冷やされると、凍結して室外熱交換器40に着霜が発生することがある。室外熱交換器40に着霜が発生すると、着霜によって室外熱交換器40内を流れる冷媒と外気との間で行われる熱交換が阻害されるので、車両用空調装置100の暖房効率が低下するおそれがある。
【0052】
そこで、車両用空調装置100のコントローラ90は、室外熱交換器40に着霜が発生した場合に以下の除霜運転制御を実行し、室外熱交換器40の着霜を取り除くようにする。
図4は、コントローラ90が実行する暖房運転時の累積着霜度算出制御のフローチャートである。
図5は、コントローラ90が実行する車両停止時の除霜運転制御のフローチャートである。コントローラ90は、暖房運転中に
図4のフローチャートに沿って累積着霜度算出制御を実行し、車両が停止すると
図5のフローチャートに沿って除霜運転制御を実行する。
【0053】
まず、
図4を参照して、累積着霜度Sを算出してRAMに記録するためにコントローラ90が実行する累積着霜度算出制御について説明する。
【0054】
ステップS101では、コントローラ90は、外気温Taと室外熱交換器40の出口側冷媒温度Toとの温度差ΔTを算出する。外気温Taは、外気温センサ92からの信号に基づいて検出され、室外熱交換器40の出口側冷媒温度Toは、室外熱交換器出口温センサ91からの信号に基づいて検出される。室外熱交換器40に着霜が発生していない場合には、冷媒と外気との間で正常に熱交換が行われるので、温度差ΔTは小さくなる。他方で、室外熱交換器40に着霜が発生した場合には、冷媒と外気との間で正常に熱交換を行えず低温のまま冷媒が室外熱交換器40の出口を通過することとなるので、温度差ΔTは、室外熱交換器40に着霜が発生し得る着霜温度差以上に大きくなる。このように、コントローラ90は、車両用空調装置100の温度差算出部として機能する。なお、室外熱交換器40の出口側冷媒温度Toが0℃よりも高い場合には、温度差ΔTが着霜温度差以上に大きくなっても、室外熱交換器40の表面に生じた結露水が凍結しないので、着霜は発生しない。
【0055】
ステップS102では、コントローラ90は、温度差ΔTと通過風速Vaとに基づいて着霜予測時間tfを設定する。通過風速Vaは、室外熱交換器40を通過する外気の速度であり、室外ファン41の回転数と車速とに基づいて算出される。着霜予測時間tfは、室外熱交換器40の着霜が熱交換性に影響を及ぼす時間であり、具体的には、ある設定条件で暖房運転を続けた場合に、室外熱交換器40の全体に着霜が発生すると予測される時間である。当該設定条件を変更せずに暖房運転を着霜予測時間tfまで続けることで、累積着霜度Sが1になり、室外熱交換器40の全体に着霜が発生して、冷媒と外気との間で熱交換が行えなくなる。
【0056】
着霜予測時間tfは、例えば、
図6に示す着霜予測時間特性テーブルを参照して設定される。
図6は、温度差ΔTに応じて変化する通過風速Vaと着霜予測時間tfとの関係を示す。
図6では、横軸が通過風速Vaであり、縦軸が着霜予測時間tfである。
図6に示すように、着霜予測時間tfは、通過風速Vaが増大するほど水蒸気を含む外気が次々と室外熱交換器40周囲に導入されるので短くなる。また、着霜予測時間tfは、温度差ΔTが大きくなるほど室外熱交換器40の出口付近で外気がより冷やされるので短くなる。
【0057】
ここで、ある設定条件で暖房運転が実行されることで、温度差ΔTが第1温度差ΔT1になり、通過風速Vaが第1通過風速V1になったとする。このとき、コントローラ90は、
図6に示す着霜予測時間特性テーブルを参照して第1温度差ΔT1と第1通過風速V1とに基づいて点Aを特定し、着霜予測時間tfが第1着霜予測時間tf1であると設定する。
【0058】
また、暖房運転の設定条件が変化して、温度差ΔTが第1温度差ΔT1よりも大きな第2温度差ΔT2となり、通過風速Vaが第1通過風速V1より速い第2通過風速V2となったとする。このとき、コントローラ90は、
図6に示す着霜予測時間特性テーブルを参照して第2温度差ΔT2と第2通過風速V2とに基づいて点Bを特定し、着霜予測時間tfが第1着霜予測時間tf1よりも短い第2着霜予測時間tf2であると設定する。
【0059】
上記のように、コントローラ90は、着霜予測時間を推定した後に、
図4の累積着霜度算出制御のフローチャートに戻ってステップS103の処理を実行する。
【0060】
ステップS103では、コントローラ90は、室外熱交換器40に発生する着霜の度合として着霜度Fを推定する。始めに、コントローラ90は、着霜度Fを推定するために、RAMに記録された経過時間tnを呼び出す。経過時間tnは、外気と低温の冷媒との温度差ΔTが着霜温度差以上となる設定条件で暖房運転を実行した場合の暖房運転の連続時間である。経過時間tnは、当該設定条件で暖房運転を開始した場合に0からカウントアップされ、RAMに記録される。また、経過時間tnは、暖房運転が当該設定条件とは別の設定条件に変更された場合に再度0からカウントアップされる。
【0061】
次に、コントローラ90は、着霜予測時間tfに対する経過時間tnの比率に基づいて着霜度Fを推定する。着霜度Fは、経過時間tnを着霜予測時間tfで除算することで推定される(F=tn/tf)。
【0062】
例えば、経過時間tnが1分であり、ステップS102で設定された第1着霜予測時間tf1が5分である場合には、コントローラ90は、着霜度Fが0.2であると推定する(F=1/5=0.2)。また、暖房運転条件が変更された場合には、コントローラ90は、着霜度Fを更新する。例えば、経過時間tnが2分であり、ステップS102で新たに設定された第2着霜予測時間tf2が4分である場合には、コントローラ90は、着霜度Fが0.5であると推定する(F=2/4=0.5)。このように、コントローラ90は、車両用空調装置100の着霜度推定部として機能する。
【0063】
ステップS104では、コントローラ90は、室外熱交換器40の着霜状態を判定するために累積着霜度Sを算出する。累積着霜度Sは、コントローラ90が累積着霜度算出制御を実行する毎に更新される着霜度Fを積算することで算出される。累積着霜度Sは、RAMに記録された前回までの累積着霜度Sに、今回のステップS103で新たに推定された着霜度Fを加算することで算出される(S=ΣF=S+F)。
【0064】
例えば、前回までの累積着霜度Sが0であり、今回新たに推定された着霜度Fが0.2である場合には、コントローラ90は、累積着霜度Sが0.2であると算出する。また、暖房運転条件が変更された場合には、コントローラ90は、当該暖房運転条件の変更後に更新された着霜度Fを用いて新たに累積着霜度Sを算出する。例えば、前回までの累積着霜度Sが0.2であり、今回新たに推定された着霜度Fが0.5である場合には、コントローラ90は、新たに累積着霜度Sが0.7であると算出する。
【0065】
ステップS105では、コントローラ90は、算出した累積着霜度SをRAMに記録する。その後、コントローラ90は、累積着霜度算出制御を終了する。
【0066】
次に、
図5を参照して、累積着霜度Sを用いてコントローラ90が実行する車両停止時の除霜運転制御について説明する。
【0067】
ステップS201では、コントローラ90は、RAMに記録された累積着霜度Sを呼び出す。累積着霜度Sは、室外熱交換器40に発生した着霜の状態を表す値である。
【0068】
ステップS202では、コントローラ90は、RAMから呼び出した累積着霜度Sが0より大きいか否かを判定することによって、除霜運転を開始するか否かを判定する。例えば、累積着霜度Sが0である場合には、室外熱交換器40は、着霜が全く発生していない状態である。他方で、累積着霜度Sが0より大きい場合には、室外熱交換器40は、着霜が発生している状態である。特に、累積着霜度Sが1まで大きくなった場合には、室外熱交換器40は、全体に着霜が発生した状態であり、室外熱交換器40を流れる冷媒は、外気との間で熱交換を行えなくなる。コントローラ90の処理は、累積着霜度Sが0である場合には除霜運転制御の実行を終了し、累積着霜度Sが0より大きい場合には除霜運転を開始するためにステップS203に進む。
【0069】
ステップS203では、コントローラ90は、室外ファン41を停止させる。車両停止時に室外ファン41が停止することによって、室外熱交換器40周囲の外気はそのまま滞留し、新たな外気が室外熱交換器40に導入されなくなる。
【0070】
ステップS204では、コントローラ90は、除霜終了判定開始時間teを設定する。除霜終了判定開始時間teは、除霜運転が実行されることによって室外熱交換器40の着霜の大半が取り除かれた状態となる除霜運転の終了間際の時間であり、コントローラ90が除霜運転の終了判定を開始する時間である。除霜終了判定開始時間teは、累積着霜度Sの大きさに応じて長くなるように設定される。
【0071】
ステップS205では、コントローラ90は、除霜運転を開始する。また、コントローラ90は、除霜運転の開始と同時に除霜運転の継続時間として除霜運転時間tmの計測を開始する。
【0072】
コントローラ90は、除霜運転を開始する際に、
図3の暖房運転時には閉じられていた第1開閉弁62を
図7に示すように開く。
図7は、除霜運転時の冷媒の流れを示す図である。
図7に太実線で示すように、除霜運転時にコンプレッサ20によって圧縮された冷媒は、第1開閉弁62が開かれることで第1バイパス流路60aを通過する。
【0073】
ここで、
図8及び
図9を参照して、除霜運転時に冷媒が第1バイパス流路60aを通過することで、急激に値が変化し始める冷媒の温度と圧力とについて説明する。
【0074】
図8は、除霜運転時の室外熱交換器40の出口側冷媒温度Toとコンプレッサ20の吐出温度Tdとの時間変化を示すグラフである。
図8では、横軸が除霜運転時間tmであり、縦軸が冷媒の温度である。
【0075】
図8の時刻t0は、
図5のステップS205の処理で除霜運転時間tmの計測が開始された時間である。コントローラ90は、時刻t0において、
図5のステップS203及びステップS205の処理によって、室外ファン41を停止させるとともに冷媒の流れを切り替えている。時刻t0の付近では、出口側冷媒温度To及び吐出温度Tdは、除霜運転の開始に伴い流路が切り替えられて冷媒の流れが安定していないので、
図8に示すように急激に値が変化している。除霜運転時間tmが増加すると、出口側冷媒温度To及び吐出温度Tdは、安定して徐々に上昇するようになる。
【0076】
図9は、除霜運転時のコンプレッサ20の吐出圧Pdと吸入圧Psとの時間変化を示すグラフである。
図9では、横軸が除霜運転時間tmであり、縦軸が冷媒の圧力である。
【0077】
図9の時刻t0は、
図5のステップS205の処理で除霜運転時間tmの計測が開始された時間である。コントローラ90は、時刻t0において、室外ファン41を停止させるとともに冷媒の流れを切り替えている。時刻t0の付近では、吐出圧Pd及び吸入圧Psは、冷媒の流れが安定していないので、
図9に示すように急激に値が変化している。除霜運転時間tmが増加するにつれて、吐出圧Pd及び吸入圧Psは、安定して徐々に上昇するようになる。
【0078】
図5のステップS206では、コントローラ90は、除霜運転時間tmが除霜終了判定開始時間te以上であるか否かを判定する。コントローラ90は、除霜運転時間tmが除霜終了判定開始時間te以上である場合には、除霜運転の終了判定を行うために処理をステップS207へ進める。他方で、コントローラ90は、除霜運転時間tmが除霜終了判定開始時間te未満である場合には、除霜運転を継続するためにステップS206の処理を繰り返す。
【0079】
ステップS207では、コントローラ90は、除霜運転を終了するか否かを判定する。コントローラ90は、除霜終了判定開始時間teの経過後、冷媒の温度又は圧力に基づいて、室外熱交換器40に発生した着霜が全て取り除かれたか否かを判定する。具体的には、コントローラ90は、室外熱交換器40の出口側冷媒温度To、コンプレッサ20の吐出温度Td、吐出圧Pd、及び吸入圧Psの少なくともいずれか一つが上昇しているか否かを判定する。コントローラ90は、上記条件のいずれか一つが上昇している場合には、除霜運転を終了するために処理をステップS208へ進める。他方で、コントローラ90は、上記条件のいずれも上昇していない場合には、除霜運転を継続するためにステップS207の処理を繰り返す。
【0080】
例えば、
図8及び
図9の時刻te1では、コントローラ90は、
図5のステップS206の処理によって、除霜運転時間tmが時刻te1以上になったと判定して、ステップS207の処理に進み除霜運転の終了判定を開始する。時刻te1は、ステップS204の処理で累積着霜度Sに基づいて除霜終了判定開始時間teとして設定された時間である。
【0081】
コンプレッサ20によって圧縮され高温になった冷媒は、第1バイパス流路60aを通過して室外熱交換器40へと流れて室外熱交換器40に発生した着霜を溶かす。除霜運転が継続されて除霜運転時間tmが時刻t0から時刻te1に近づくにつれて、室外熱交換器40に発生した着霜は、コンプレッサ20によって圧縮された高温の冷媒と熱交換を行うことで溶かされて徐々に少なくなる。
【0082】
室外熱交換器40の着霜が全て取り除かれると、コンプレッサ20によって圧縮された冷媒は、着霜に熱を奪われなくなる。また、除霜運転時には車両が停止しており、室外ファン41も停止されているので、コンプレッサ20によって圧縮された冷媒は、室外熱交換器40に新たに導入される外気によって熱を奪われない。このため、除霜運転が正常に実行され、時刻te1の経過後に室外熱交換器40に発生した着霜が全て取り除かれた後には、
図8に示すように出口側冷媒温度To及び吐出温度Tdは、徐々に上昇する。また、時刻te1の経過後、
図9に示すように吐出圧Pd及び吸入圧Psは、冷媒の熱交換対象がなくなることで冷媒のエンタルピーが上昇してコンプレッサ20前後の気相冷媒の過熱度が高くなるので、徐々に上昇するようになる。
【0083】
コントローラ90は、時刻te1の経過後に実行するステップS207の処理において、
図8及び
図9に示すように室外熱交換器の出口側冷媒温度To、コンプレッサ20の吐出温度Td、吐出温度、及び吸入圧Psの少なくともいずれか一つが時刻te1時の値よりも上昇したと判定する。当該判定が成立することで、コントローラ90は、除霜運転を終了するために処理をステップS208へ進める。
【0084】
なお、
図5のステップS207の処理では、室外熱交換器40の出口側冷媒温度To、コンプレッサ20の吐出温度Td、吐出圧Pd、及び吸入圧Psの少なくともいずれか一つが上昇したか否かを判定した。当該判定に代えて、コントローラ90は、出口側冷媒温度To、吐出温度Td、吐出圧Pd、及び吸入圧Psの少なくともいずれか一つが所定値まで上昇したか否かを判定してもよい。この場合の所定値は、例えば室外熱交換器40に発生した着霜が完全に溶けたときに到達する冷媒の温度又は圧力として予め定められた値である。
【0085】
ステップS208では、コントローラ90は、除霜運転を終了する。コントローラ90は、室外ファン41の運転状態や第1開閉弁62の開閉状態を除霜運転が開始される前の状態に戻す。
【0086】
また、コントローラ90が除霜運転を実行することで、室外熱交換器40の全体に発生していた着霜は取り除かれる。除霜運転が実行され室外熱交換器40の着霜が取り除かれることで、コントローラ90は、累積着霜度Sを0にリセットする。コントローラ90は、除霜運転終了時に除霜運転時間tm及び除霜終了判定開始時間teも0にリセットする。なお、車両が停止した後にイグニッションがオフにされた場合には、コントローラ90は、室外ファン41を停止したままにしてもよい。コントローラ90は、外気温Taが十分に高い温度である場合や、冷房運転が所定の時間継続された場合などにも、室外熱交換器40の着霜が取り除かれるので、累積着霜度Sを0にリセットしてもよい。
【0087】
上記した本発明の実施形態に係る車両用空調装置100によれば、以下の効果を得ることができる。
【0088】
車両用空調装置100は、冷媒を圧縮するコンプレッサ20と、外気と冷媒との間で熱交換を行う室外熱交換器40と、室外熱交換器40に着霜が発生している場合に、コンプレッサ20によって圧縮された冷媒を室外熱交換器40に導いて除霜運転を実行する除霜運転実行部として機能するコントローラ90と、を備える。除霜運転実行部としてのコントローラ90は、車両停止時に、除霜運転を開始してから所定の除霜終了判定開始時間teが経過した後に、室外熱交換器40の出口側冷媒温度To、コンプレッサ20の吐出温度Td、吐出圧Pd、及び吸入圧Psの少なくともいずれか一つが上昇した場合、若しくは所定値に達した場合に除霜運転を終了する。
【0089】
車両用空調装置100によれば、除霜運転実行部としてのコントローラ90は、室外熱交換器40に着霜が発生している場合に、コンプレッサ20によって圧縮された冷媒を室外熱交換器40に導いて除霜運転を実行する。コントローラ90は、車両停止時に、除霜運転を開始してから所定の除霜終了判定開始時間teが経過した後に、室外熱交換器40の出口側冷媒温度To、コンプレッサ20の吐出温度Td、吐出圧Pd、及び吸入圧Psの少なくともいずれか一つが上昇した場合、若しくは所定値に達した場合に除霜運転を終了するので、着霜の程度に応じた必要な時間だけ除霜運転を実行することができる。したがって、必要以上に除霜運転を行うことがなく、かつ、除霜が不十分となって室外熱交換器40に着霜の残ることのない車両用空調装置100を提供することができる。
【0090】
なお、本実施形態では、除霜運転を開始してから所定の除霜終了判定開始時間teが経過した後に、室外熱交換器40の出口側冷媒温度To、コンプレッサ20の吐出温度Td、吐出圧Pd、及び吸入圧Psの少なくともいずれか一つが上昇した場合、若しくは所定値に達した場合に、室外熱交換器40の着霜が完全に取り除かれたと推定したが、完全に取り除くことに限定されず、室外熱交換器40がその機能を果たすために十分な表面積において着霜が取り除かれたと推定してもよい。つまり、室外熱交換器40の一部に着霜が残っていたとしても、大部分が除霜されたと推定して、除霜運転を終了させてもよい。
【0091】
車両用空調装置100は、室外熱交換器40に外気を導入する室外ファン41をさらに備える。室外ファン41は、コントローラ90が除霜運転を実行しているときには停止される。
【0092】
車両用空調装置100によれば、除霜運転を実行しているときには車両が停止しており、かつ、室外ファン41が停止されているので、コンプレッサ20によって圧縮された冷媒は、室外熱交換器40に新たに導入される外気に熱を奪われることを回避できる。このため、除霜運転を開始してから所定の除霜終了判定開始時間teを経過した後に、コントローラ90は、室外熱交換器40に発生した着霜が全て取り除かれたか否かを、冷媒と外気との熱交換の影響を除外しつつ判定することができる。また、コンプレッサ20によって圧縮された冷媒は、外気とは熱交換を行わずに室外熱交換器40の着霜とだけ熱交換を行うので、効率よく除霜運転を実行することができる。
【0093】
車両用空調装置100では、コントローラ90は、室外熱交換器40に生じた着霜の度合として着霜度Fを推定する着霜度推定部としてさらに機能する。コントローラ90は、推定した着霜度Fに基づいて除霜終了判定開始時間teを設定する。
【0094】
車両用空調装置100によれば、室外熱交換器40に生じた着霜の度合として着霜度Fが推定され、着霜度Fに基づいて除霜終了判定開始時間teが設定されるので、着霜の程度に応じて除霜運転の終了判定を開始する時間を調整することができる。
【0095】
車両用空調装置100では、コントローラ90は、室外熱交換器40の出口側冷媒温度Toと外気の外気温Taとの温度差ΔTを算出する温度差算出部としてさらに機能する。コントローラ90は、算出された温度差ΔTが室外熱交換器40に着霜が発生する着霜温度差以上になっている状態の経過時間tnを計測し、室外熱交換器40の着霜が熱交換性に影響を及ぼす着霜予測時間tfを設定し、着霜予測時間tfに対する経過時間tnの比率に基づいて、着霜度Fを推定する。また、車両用空調装置100では、コントローラ90は、算出された温度差ΔTが大きいほど、着霜予測時間tfを短く設定する。
【0096】
車両用空調装置100によれば、経過時間tnは、温度差ΔTが室外熱交換器40に着霜が発生する着霜温度差以上になっている状態のときだけ計測されるので、着霜が発生しない状態のときを含むことがない。そして、着霜が熱交換性に影響を及ぼす着霜予測時間tfが設定され、着霜予測時間tfに対する経過時間tnの比率に基づいて着霜度Fがより正確に推定されるので、コントローラ90は、信頼性の高い着霜度Fに基づいて除霜終了判定開始時間teを精度よく設定することができる。具体的には、温度差ΔTが大きいときほど着霜が発生しやすい状態であることを加味して着霜予測時間tfが短く設定されるので、コントローラ90は、着霜度Fを高く推定することができる。
【0097】
車両用空調装置100では、コントローラ90は、経過時間tn毎に、着霜予測時間tfに対する経過時間tnの比率に基づいて着霜度Fを推定し、経過時間tn毎に推定される着霜度Fを積算して積算値である累積着霜度Sを算出する。
【0098】
車両用空調装置100によれば、経過時間tn毎に推定される着霜度Fを積算して算出した累積着霜度Sに基づいて着霜判定を行うので、経過時間tn毎の着霜の進行状態を全て加味して着霜判定を行える。このため、経過時間tn毎に車両の走行場面の変化に応じて着霜予測時間tfが都度変わっても、着霜がどの程度進行しているかを的確に判定して過不足なく除霜運転を実行することができる。
【0099】
車両用空調装置100では、コントローラ90は、除霜運転を終了したときに、算出した累積着霜度Sをリセットする。
【0100】
車両用空調装置100によれば、除霜運転が終了したときに累積着霜度Sがリセットされるので、改めて累積着霜度Sを算出できるようになる。このため、室外熱交換器40に着霜が発生していない場合に、累積着霜度Sが0より大きいと誤判定されることがなく、精度よく除霜運転を実行できる。
【0101】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0102】
例えば、上記実施形態では室外熱交換器40の出口側冷媒温度Toを
図5のステップS207の除霜運転終了条件の判定に用いたが、コンプレッサ20の吐出温度Td、吐出圧Pd、及び吸入圧の少なくともいずれか一つのみを判定に用いてもよい。このように、コンプレッサの吐出温度Td、吐出圧Pd、及び吸入圧Psの少なくともいずれか一つのみを用いれば、着霜度推定を行わない場合に、室外熱交換器出口温センサ91を設ける必要がなくなるのでコストダウンを図ることができる。
【0103】
また、除霜運転の実行中に、温水ヒータ33を熱源として用いて暖房運転を適宜実行してもよい。温水ヒータ33を用いて暖房運転を実行する場合には、コントローラ90は、コンプレッサ20によって圧縮された冷媒の温度が、温水ヒータ33で加熱された冷却水の温度を超えないように、コンプレッサ20の出力を制御する。このようにすることで、除霜運転の実行中も、車室内の暖房要求を満たすように暖房運転を実行することができる。
【0104】
さらに、車両が走行を開始して除霜運転が途中で中止された場合には、コントローラ90は、除霜終了判定開始時間teに対する除霜運転時間tmの比率に基づいて、除霜運転中止時の累積着霜度Sを新たに算出してもよい(S=(1−tm/te)×S)。例えば、除霜運転開始時の累積着霜度Sが0.7であり、除霜終了判定開始時間teが10分であるとする。除霜運転の開始後、除霜運転時間tmが5分に到達したときに除霜運転が中止されたとすると、コントローラ90は、除霜運転時の累積着霜度Sが0.35であると算出する(S=(1−5/10)×0.7=0.35)。このようにすることで、コントローラ90は、算出し直した累積着霜度Sに基づいて、次回の車両停止時に着霜の程度に応じた時間だけ過不足なく適切に除霜運転を実行することができる。