特許第6553936号(P6553936)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6553936包装容器用アルミニウム合金板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6553936
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】包装容器用アルミニウム合金板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/07 20060101AFI20190722BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20190722BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20190722BHJP
   B65D 8/16 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   C23C22/07
   C23C28/00 Z
   B32B15/08 FZAB
   B32B15/08 Z
   B65D8/16
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-92428(P2015-92428)
(22)【出願日】2015年4月28日
(65)【公開番号】特開2016-211012(P2016-211012A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2017年8月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(73)【特許権者】
【識別番号】000208455
【氏名又は名称】大和製罐株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】315006377
【氏名又は名称】日本ペイント・サーフケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 智子
(72)【発明者】
【氏名】太田 陽介
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 巧児
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 歩
(72)【発明者】
【氏名】内川 美和
(72)【発明者】
【氏名】安田 和史
【審査官】 ▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−317162(JP,A)
【文献】 特開平09−020984(JP,A)
【文献】 特開2005−336605(JP,A)
【文献】 特開2002−120002(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00 − 22/86
C23C 28/00
B32B 15/08
B65D 8/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイル状とされ、マグネシウムを含有するアルミニウム合金板を連続通板しつつジルコニウム及びリン酸を含む化成処理を行って化成皮膜を形成する包装容器用アルミニウム合金板の製造方法であって、
前記化成皮膜は、界面活性剤を含む水溶液での脱脂処理、pHが11を超えるアルカリ水溶液でのエッチング処理が順次施された後、硝酸濃度が500ppm以上4000ppm以下のジルコニウム化成処理液で化成処理することによって形成するものであり、
更に、前記アルミニウム合金板に含有されているマグネシウムの含有量から算出される前記化成皮膜中のマグネシウムとジルコニウムの含有量の比がMg/Zrで0.01以上8.5以下、且つ、
前記化成皮膜の皮膜量は、ジルコニウムが0.5mg/m2以上20mg/m2以下、リンが0.1mg/m2以上7mg/m2以下である
ことを特徴とする包装容器用アルミニウム合金板の製造方法
【請求項2】
前記化成処理後に樹脂皮膜形成処理が行われ、前記化成皮膜上に厚さが1μm以上25μm以下の樹脂皮膜形成ることを特徴とする請求項1に記載の包装容器用アルミニウム合金板の製造方法
【請求項3】
前記樹脂皮膜が、塗料、プライマー、及びフィルムのうちの少なくとも一種を用いた一層又は二層以上でなり、且つ、
前記樹脂皮膜は、ポリエステル樹脂、及びエポキシ樹脂のうちの少なくとも一種を用いて形成ることを特徴とする請求項2に記載の包装容器用アルミニウム合金板の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包装容器用アルミニウム合金板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金板は、軽量で適度な強度を有しているだけでなく、毒性もなく、加工性及びリサイクル性にも優れているため、飲料品や食料品の包装容器に広く用いられている。
【0003】
飲料品や食料品の包装容器として用いられる包装容器用アルミニウム合金板は、一般的に、樹脂皮膜を形成した後の耐食性及び密着性を向上させるために化成処理が施され、アルミニウム合金板の表面に化成皮膜が形成される。従来、化成皮膜としてクロメート化成皮膜が形成されることが多かった。しかし、昨今では環境保護の観点からクロメート化成皮膜が敬遠されるようになり、替わりにクロムを用いないノンクロメート化成皮膜が形成されることが多くなった。
【0004】
ノンクロメート化成皮膜として、例えば、ジルコニウム化成処理によって形成されたジルコニウム化成皮膜がある。しかしながら、ジルコニウム化成皮膜を形成したアルミニウム合金板における樹脂皮膜形成後の耐食性及び密着性は、クロメート化成皮膜を形成したものと比較すると劣る傾向にある。
【0005】
樹脂皮膜形成後の耐食性及び密着性に優れたジルコニウム化成皮膜を形成することを目的とした発明が、例えば、特許文献1、2に開示されている。
具体的に、この特許文献1には、アルミニウム合金板の少なくとも片側表面に、ジルコニウム化合物をジルコニウム原子換算で2〜20mg/m、リン化合物をリン原子換算で1〜10mg/m、特定の有機化合物を炭素原子換算で5〜60mg/m含有する有機−無機複合表面処理層を有し、さらにその上に熱可塑性樹脂層を有する、耐食性、密着性に優れる樹脂被覆シームレスアルミニウム缶が開示されている。
【0006】
また、この特許文献1には、アルミニウム合金板の処理が行われる前には、まずアルミニウム合金板を酸で洗浄する工程が行われることが好ましく、さらに酸で洗浄する工程の前にアルミニウム合金板をアルカリで洗浄する工程が行われることが好ましく、最も好ましい態様は、アルカリ洗浄→水洗→酸洗浄→水洗→ノンクロム金属表面処理→水洗→乾燥の各工程を順次行う方法であると記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、アルミニウム板又はアルミニウム合金板からなる基材と、当該基材の少なくとも一方の表面に形成した化成皮膜と、当該化成皮膜上に形成した樹脂被覆膜とを備えた樹脂被覆アルミニウム板であって、前記化成皮膜に含有されるアルミニウム水和酸化物の量が100mg/m以下であることを特徴とする樹脂被覆アルミニウム板が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−76012号公報
【特許文献2】特開2007−107033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1、2に開示されている発明などにより、ジルコニウム化成皮膜を形成したアルミニウム合金板における樹脂皮膜形成後の耐食性及び密着性の向上が図られつつある。
しかしながら、産業界からは、樹脂皮膜形成後の耐食性及び密着性がさらに優れた包装容器用アルミニウム合金板の開発が望まれている。
【0010】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、樹脂皮膜形成後の耐食性及び密着性に優れた包装容器用アルミニウム合金板の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決した本発明に係る包装容器用アルミニウム合金板の製造方法は、コイル状とされ、マグネシウムを含有するアルミニウム合金板を連続通板しつつジルコニウム及びリン酸を含む化成処理を行って化成皮膜を形成する包装容器用アルミニウム合金板の製造方法であって、前記化成皮膜は、界面活性剤を含む水溶液での脱脂処理、pHが11を超えるアルカリ水溶液でのエッチング処理が順次施された後、硝酸濃度が500ppm以上4000ppm以下のジルコニウム化成処理液で化成処理することによって形成するものであり、更に、前記アルミニウム合金板に含有されているマグネシウムの含有量から算出される前記化成皮膜中のマグネシウムとジルコニウムの含有量の比がMg/Zrで0.01以上8.5以下、且つ、前記化成皮膜の皮膜量は、ジルコニウムが0.5mg/m2以上20mg/m2以下、リンが0.1mg/m2以上7mg/m2以下であることとしている。
【0012】
このように、本発明に係る包装容器用アルミニウム合金板の製造方法は、界面活性剤を含む水溶液で脱脂処理るので、アルミニウム合金板表面の油分を除去することができる。そのため、その後の表面処理性が向上し、仕上がり(外観)を綺麗にすることができる。また、本発明に係る包装容器用アルミニウム合金板の製造方法は、pHが11を超えるアルカリ水溶液でエッチング処理るので、アルミニウム合金板表面の緻密な酸化皮膜を除去することができるとともに、表面粗度を高くすることができる。そのため、樹脂皮膜形成後の密着性が向上する。さらに、本発明に係る包装容器用アルミニウム合金板の製造方法は、前記したようにして順次処理された後、硝酸濃度が前記範囲にあるジルコニウム化成処理液で化成処理を行うことでスマットを除去しつつ、化成皮膜を形成することができる。つまり、脱スマット処理を省略して化成皮膜を形成することができる。さらに、この化成処理は、アルミニウム合金板の表面を粗面化する効果もあるため、樹脂皮膜形成後の密着性を向上させることができる。そして、本発明に係る包装容器用アルミニウム合金板の製造方法は、前記した化成処理を行うことによって、化成皮膜中のマグネシウムとジルコニウムの含有量の比(Mg/Zr)を所定の範囲としつつ、化成皮膜の皮膜量を所定の条件とすることができるので、耐食性及び密着性に優れたものとすることができる。
【0013】
本発明に係る包装容器用アルミニウム合金板の製造方法は、前記化成処理後に樹脂皮膜形成処理が行われ、前記化成皮膜上に厚さが1μm以上25μm以下の樹脂皮膜形成るのが好ましい。
【0014】
このように、本発明に係る包装容器用アルミニウム合金板の製造方法は、化成皮膜上に厚さが1μm以上25μm以下の樹脂皮膜形成るので、樹脂皮膜形成後の耐食性及び密着性により優れたものとすることができる。
【0015】
本発明に係る包装容器用アルミニウム合金板の製造方法は、前記樹脂皮膜が、塗料、プライマー、及びフィルムのうちの少なくとも一種を用いた一層又は二層以上でなり、且つ、前記樹脂皮膜は、ポリエステル樹脂、及びエポキシ樹脂のうちの少なくとも一種を用いて形成るのが好ましい。
【0016】
このように、本発明に係る包装容器用アルミニウム合金板の製造方法は、樹脂皮膜を前記した態様としているので、樹脂皮膜形成後の耐食性及び密着性により確実に優れたものとすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る包装容器用アルミニウム合金板の製造方法は、所定の処理を行った後に所定の条件の化成処理を行い、所定の皮膜量の化成皮膜を形成している。そのため、本発明に係る包装容器用アルミニウム合金板の製造方法は、樹脂皮膜形成後の耐食性及び密着性に優れたものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1実施形態に係る包装容器用アルミニウム合金板に対して行う各処理と構成を説明する概略図である。
図2】本発明の第1実施形態の好ましい態様を説明する概略図である。
図3】本発明の第2実施形態に係る包装容器用アルミニウム合金板に対して行う各処理と構成を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、適宜図面を参照して、本発明に係る包装容器用アルミニウム合金板の実施形態について詳細に説明する。
【0020】
[包装容器用アルミニウム合金板]
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る包装容器用アルミニウム合金板に対して行う各処理と構成を説明する概略図である。
図1に示すように、本発明の第1実施形態に係る包装容器用アルミニウム(Al)合金板1は、基材となるAl合金板2と、当該Al合金板2の表面に形成された化成皮膜3と、を有する。
なお、図1では、化成皮膜3をAl合金板2の片面のみに形成した態様を示しているが、化成皮膜3をAl合金板2の両面に形成したものであってもよい(図示せず)。
【0021】
(包装容器)
ここで、包装容器は、飲料品又は食料品を内部に収納することのできるものであればよく、どのような態様のものも含まれる。包装容器の態様としては、例えば、2ピース缶、3ピース缶、いわゆるニューボトル缶などが挙げられる。なお、2ピース缶とは、DI(Drawing and Ironing)成形により得られる缶胴と、缶蓋と、の2部品で構成される缶をいう。3ピース缶とは、缶胴と、缶蓋と、缶底と、の3部品で構成されている缶をいう。また、ニューボトル缶とは、キャップと、缶胴と、缶底と、で構成されている缶をいう。本実施形態に係る包装容器用Al合金板1は、これらの缶に用いられる板材として特に好適である。なお、包装容器の態様を如何様にするかはユーザーの要望に応じて任意に設定されるものであり、これら以外の態様とすることもできる。また、包装容器の形状は、略円筒状とすることができるが、角筒状などとすることもできる。
【0022】
(Al合金板)
Al合金板2は、化学成分としてマグネシウム(Mg)を含有するものであれば、どのようなものも用いることができる。例えば、Al合金板2としては、JIS H 4000:2014に規定されている3000系(Al−Mn系)、5000系(Al−Mg系)などを好適に用いることができるが、これらに限定されるものではなく、2000系から8000系のAl合金で形成されたAl合金板であって、Mgを含有するものであればどのようなものも適用可能である。なお、3000系の中でも3004、3014などは缶蓋及び缶底に好適に用いることができ、5000系の中でも5052、5082、5182などは缶胴に好適に用いることができる。
【0023】
(化成皮膜)
包装容器用Al合金板1は、図1に示すように、コイル状とされたAl合金板2を連続通板しつつ、ジルコニウム(Zr)及びリン酸を含む化成処理を行って化成皮膜3を形成したものである。
この化成皮膜3は、図1に示すように、所定の脱脂処理及びエッチング処理が順次施された後、化成処理することによって形成されたものである。
【0024】
(脱脂処理)
脱脂処理では、界面活性剤を含む水溶液(脱脂処理液)でAl合金板2の表面を脱脂する。このようにすると、Al合金板2表面の油分を除去することができるため、その後の表面処理性が向上し、仕上がりが綺麗になる(すなわち、包装容器用Al合金板1の外観が優れたものとなる。)。また、Al合金板2の表面に油分が残っていると表面処理薬剤とAl合金板2が接触しないので、化成処理の反応性の低下や外観不良の原因となるが、前記脱脂処理を行うことでそのような不具合を防止することができる。
【0025】
他方、このような脱脂処理を行わない場合、前記した効果を得ることができないため、包装容器用Al合金板1の外観が悪くなるだけでなく、樹脂皮膜4(図3参照)形成後の耐食性及び密着性も悪くなる。なお、樹脂皮膜4については後に説明する。
【0026】
界面活性剤を含む脱脂処理液として最も好ましくは、日本ペイント社製サーフクリーナーEC370を挙げることができるが、これに限定されるものではない。界面活性剤を含む脱脂処理液として日本ペイント社製サーフクリーナーEC370を使用した場合における脱脂処理の処理条件としては、例えば、濃度2〜3%、温度60〜70℃、処理時間3〜10秒とすることが挙げられる。
界面活性剤を含む水溶液における界面活性剤の濃度や処理条件(例えば、処理時間や処理温度など)は、Al合金板2の表面を脱脂することができればよく、適宜設定することができる。
【0027】
(エッチング処理)
エッチング処理では、pHが11を超えるアルカリ水溶液でAl合金板2の表面をエッチングする。このようにすると、Al合金板2表面の緻密な酸化皮膜が除去されるので、それ以降の処理の反応性が良くなる。そのため、樹脂皮膜4(図3参照)形成後の耐食性を向上させることができる。また、このエッチング処理を行うことによって表面粗度が高くなるので、化成皮膜3と、当該化成皮膜3の上に形成した樹脂皮膜4との密着性を向上させることができる。
【0028】
他方、このようなエッチング処理を行わない場合、前記した効果を得ることができないため、樹脂皮膜4形成後の耐食性及び密着性が悪くなる。
また、pHが11以下のアルカリ水溶液では、エッチング力が不足するため、Al合金板2表面の緻密な酸化皮膜を十分に除去することができず、また、表面粗度を高くすることができない。
なお、緻密な酸化皮膜のより確実な除去を行う観点から、エッチング処理で用いるアルカリ水溶液のpHは12.0とするのが好ましく、12.5とするのがより好ましい。
【0029】
pHが11を超えるアルカリ水溶液として最も好ましくは、例えば、日本ペイント社製サーフクリーナー420N−2を挙げることができるが、これに限定されるものではない。pHが11を超えるアルカリ水溶液として日本ペイント社製サーフクリーナー420N−2を用いた場合におけるエッチング処理の処理条件としては、例えば、濃度2〜3%、温度60〜70℃、処理時間3〜10秒とすることが挙げられるがこれに限定されるものではない。前記したように、Al合金板2表面の緻密な酸化皮膜を十分に除去することができ、表面粗度を高くすることができればよく、使用する薬剤に応じて前記した処理条件は適宜変更することができる。
【0030】
(脱スマット処理)
本実施形態においては、化成処理で用いるジルコニウム化成処理液硝酸濃度が、後記するように250ppm以上4000ppm以下であるので、一般的に行われる脱スマット処理を省略して化成皮膜3を形成することができる。
しかしながら、そのような場合であっても、本実施形態の好ましい態様として図2に示すように、エッチング処理(及びその水洗)と化成処理の間で脱スマット処理を行うことができる。脱スマット処理は、例えば、pH5以下の水溶液でアルミ合金板2の表面を洗浄するとよい。このようにすることで、エッチング処理で生成したスマットをより確実に除去することができる。そのため、次工程の化成処理の反応性を向上させることができる。
pHが5以下の水溶液としては、例えば、硝酸水溶液、硫酸水溶液、リン酸水溶液、クエン酸水溶液などを挙げることができる。
【0031】
(化成処理)
化成処理では、硝酸濃度が250ppm以上4000ppm以下のZr化成処理液でAl合金板2の表面を化成し、化成皮膜3を形成する。このように、硝酸濃度が前記範囲にあるZr化成処理液を用いて化成処理することでスマットを除去しつつ、化成処理の反応性を向上させることができる。つまり、脱スマット処理を省略して化成皮膜を形成することができる。そのため、包装容器用Al合金板1の耐食性を向上させることができる。これに加えて、この化成処理は、Al合金板2の表面を粗面化する効果もあるため、樹脂皮膜4(図3参照)形成後の密着性を向上させることができる。
なお、一般的には、Zr化成処理液を用いて形成される化成皮膜によって得られる樹脂皮膜形成後の密着性の向上効果は、Zr化成処理液に有機成分を加えて有機−無機複合皮膜にすることで達成している。しかしながら、Zr化成処理液に有機成分を加えた場合には、色むらが発生したり、有機成分が凝集するといった問題がある。これに対し、本発明では、Zr化成処理液の硝酸濃度の範囲を規定することでそのような問題を生じさせることなく、樹脂皮膜4形成後の密着性を向上させることができる。
【0032】
前記した化成処理を行わない場合、前記した効果を得ることができないため、樹脂皮膜4形成後の耐食性及び密着性が悪くなる。
他方、Zr化成処理液の硝酸濃度が250ppm未満であると、硝酸濃度が低過ぎるため、スマットの除去が不十分となる。そのため、化成皮膜3が十分に形成されない。この場合、外観が悪くなる。また、硝酸濃度が低過ぎるので、Al合金板2の表面の粗面化も不十分となり、樹脂皮膜4形成後の耐食性及び密着性が悪くなる。
また、Zr化成処理液の硝酸濃度が4000ppmを超えると、硝酸濃度が高過ぎるため、硝酸根により密着性が低下してしまい、耐食性が悪くなる。
より確実なスマットの除去と、化成処理の反応性の向上を図る観点から、ジルコニウム化成処理液の硝酸濃度は500ppm以上とするのが好ましい。また、同様の理由からジルコニウム化成処理液の硝酸濃度は2000ppm以下とするのが好ましく、1300ppm以下とするのがより好ましい。
【0033】
Zr化成処理液として最も好ましくは、ジルコニウムを20〜600ppm含有し、リン酸を10〜200ppm含有する化成処理浴であり、リン酸はHPOであり、ジルコニウムはジルコニウムフッ化水素酸より提供される。処理浴中のリン酸含有量は、前記リン酸に由来するものに限定され、処理条件としては、温度を室温〜60℃、処理時間を3〜60秒、処理浴pHが2.0〜2.7である。
【0034】
前記した化成処理を行うことによって、本実施形態に係る包装容器用Al合金板1は、Al合金板2に含有されているMgの含有量から算出される化成皮膜3中のMgとZrの含有量の比をMg/Zrで0.01以上8.5以下とすることができる。
さらに、前記した化成処理を行うことによって、本実施形態に係る包装容器用Al合金板1は、化成皮膜3の皮膜量(付着量)をZrが0.5mg/m2以上20mg/m2以下、リン(P)が0.1mg/m2以上7mg/m2以下とすることができる。
これらについては後に説明する。
【0035】
前記した脱脂処理、エッチング処理、脱スマット処理、及び化成処理はスプレーや浸漬などの一般的な設備及び条件で行うことができる。
各処理後は、図1〜3に示すように、常法により水洗工程を行う。
以上に説明したとおり、本実施形態における化成皮膜3は、脱スマット処理を行わずに形成させることができる。すなわち、従来と比較して工程数を省くことができるため、迅速に包装容器用Al合金板1を製造することが可能であり、また、低コスト化を図ることも可能である。
【0036】
(化成皮膜中のMgとZrの含有量の比)
本発明においては、前記した化成処理を行うことによってAl合金板2の表面に化成皮膜3を形成しており、形成された化成皮膜3中のMgとZrの含有量の比をMg/Zrで0.01以上8.5以下としている。化成皮膜3中のMgとZrの含有量の比(Mg/Zr)がこの範囲にある場合、スマットの除去とAl合金板2の表面の粗面化が確実に行われていることを意味しており、樹脂皮膜4形成後の耐食性及び密着性を向上させることができる。
【0037】
なお、化成皮膜3中のMgとZrの含有量の比がMg/Zrで8.5を超えると、エッチングが強過ぎたことを意味している。エッチングが強過ぎると、エッチングで生成したMgスマットが化成皮膜3中に残存する量が増えるため、樹脂皮膜4形成後の耐食性が悪くなる。
より優れた耐食性及び密着性を得る観点から、化成皮膜3中のMgとZrの含有量の比はMg/Zrで0.10以上とするのが好ましく、4.32以下とするのが好ましい。
【0038】
化成皮膜3中のMgとZrの含有量の比(Mg/Zr)は、エッチング処理及び化成処理を前記した条件とすることによって制御することができる。
【0039】
化成皮膜3中のMgとZrの含有量の比(Mg/Zr)は、例えば、グロー放電発光分析法(Glow Discharge-Optical Emission Spectroscopy;GD−OES)で化成皮膜3の表面を定量分析して得たMgとZrの原子%からMg/Zr比を求めることができる。
【0040】
(化成皮膜の皮膜量)
前記したように、本発明においては、前記化成処理を行うことによってAl合金板2の表面に化成皮膜3を形成している。
そして、本発明では、形成された化成皮膜3の皮膜量は、Zrが0.5mg/m2以上20mg/m2以下、Pが0.1mg/m2以上7mg/m2以下としている。化成皮膜3の皮膜量をこのようにすると、Al合金板2の表面を十分に覆うことができる。従って、包装容器用Al合金板1は、樹脂皮膜4形成後の耐食性及び密着性に優れたものとなる。なお、化成皮膜3中におけるZrは、Zr(OH)、ZrF4−n(OH)、ZrF4−3m−n(PO(OH)、ZrF4−nn/2、ZrF4−3m−nn/2(PO、ZrFxOy,ZrF(POなどのZr化合物の形態で存在していてもよい。化成皮膜3中におけるPは、AlFx−3m(PO(OH)3−x、AlF(3−x)/2、AlFx−3m(3−x)/2(PO、AlF(POなどのP化合物の形態で存在していてもよい。これらのZr化合物及びP化合物は、前記したZr化成処理液に含まれているものである。なお、m、n、x、yはそれぞれ整数を表す。
【0041】
他方、化成皮膜3の皮膜量について、Zrが0.5mg/m2未満であると、化成皮膜3がAl合金板2を十分に覆うことができないため、樹脂皮膜4形成後の耐食性及び密着性が悪くなる。化成皮膜3の皮膜量について、Pが0.1mg/m2未満である場合もZrと同様の理由で樹脂皮膜4形成後の耐食性及び密着性が悪くなる。
また、化成皮膜3の皮膜量について、Zrが20mg/m2を超えると、化成皮膜3の皮膜量が多過ぎるため、例えば、加工時などにおいて化成皮膜3内部での凝集破壊を起こし易くなり、密着性が悪くなる。また、化成皮膜3の皮膜量が多過ぎるため、外観に望まない変化が生じたり、コストが高くなったりする。化成皮膜3の皮膜量について、Pが7mg/m2を超える場合もZrと同様の理由で密着性が悪くなったり、外観に望まない変化が生じたり、コストが高くなったりする。
より優れた耐食性及び密着性を得、さらに外観を得る観点から、化成皮膜3の皮膜量は、Zrが1.7mg/m2以上、Pが0.4mg/m2以上とするのが好ましく、Zrが14.8mg/m2以下、Pが6.3mg/m2以下とするのが好ましい。
【0042】
化成皮膜3の皮膜量、すなわち、Zrの付着量及びPの付着量は、例えば、蛍光X線分析法(X-ray Fluorescence Analysis;XRF)で化成皮膜3を定量分析することによって求めることができる。
【0043】
(第2実施形態)
図3は、本発明の第2実施形態に係る包装容器用Al合金板に対して行う各処理と構成を説明する概略図である。
図3に示すように、本実施形態に係る包装容器用Al合金板10は、基材となるAl合金板2と、当該Al合金板2の表面に形成された化成皮膜3と、化成皮膜3の上に形成された樹脂皮膜4と、を有する。
【0044】
なお、第2実施形態に係る包装容器用Al合金板10と、第1実施形態に係る包装容器用Al合金板1とは、包装容器用Al合金板10が樹脂皮膜4を有している点で相違し、他の構成要素は同一である。以下、第2実施形態に係る包装容器用Al合金板10について説明するが、図1に示す第1実施形態に係る包装容器用Al合金板1と同一の構成要素については同一の符号を付して該当する構成要素に関する説明を援用することとし、ここでの説明は省略する。
【0045】
(樹脂皮膜)
樹脂皮膜4は、図3に示すように、化成処理後に行う樹脂皮膜形成処理によって、Al合金板2の化成皮膜3上に形成される。
この樹脂皮膜4の厚さは、例えば、1μm以上25μm以下とすることが好ましい。樹脂皮膜4の厚さをこの範囲とすれば、樹脂皮膜4形成後の耐食性及び密着性をより向上させることができる。
樹脂皮膜4の厚さが1μm未満であると、皮膜厚さが薄いので十分な耐食性及び密着性を得ることができないおそれがある。また、樹脂皮膜4の厚さが25μmを超えると、皮膜厚さが厚いのでかえって密着性が悪くなる場合がある。
樹脂皮膜4形成後の耐食性及び密着性をさらに向上させる観点から、樹脂皮膜4の厚さは、例えば、3μm以上とするのが好ましく、20μm以下とするのがより好ましい。
樹脂皮膜4の厚さは、当該樹脂皮膜4を形成するものが塗料である場合はその塗布量を調節することによって制御することができ、樹脂皮膜4を形成するものがフィルムである場合は、フィルムの厚さを調節することによって制御することができる。
加えて、基材(Al合金板2)と被覆樹脂(樹脂皮膜4)の密着性を表現する一つの指標として水素結合パラメーターがあることは従来より知られている。本発明において形成される化成皮膜3は、従来のクロメート処理材よりも、水素結合成分の多い樹脂皮膜4と親和性が高く、密着性が向上する傾向にある。故に、高耐食性を得ることができる。例えば、化成皮膜3の表面自由エネルギーの水素結合成分は15N/m程度であり、従来のクロメート処理材の水素結合成分は7N/m程度である。一方で樹脂皮膜4において、溶解度パラメーターの水素結合成分は、塩化ビニルが1.2(cal/cm1/2程度であり、ポリエステルが5.1(cal/cm1/2程度となり、化成皮膜3に対して、塩化ビニルよりポリエステルの方が耐食性が向上する傾向がみられた。樹脂皮膜4は化成皮膜3との密着性を向上させるため、溶解度パラメーターの水素結合成分が3.0〜5.0(cal/cm1/2であることが好ましい。
【0046】
樹脂皮膜4は、例えば、塗料、プライマー、及びフィルムのうちの少なくとも一種を用いた一層又は二層以上でなるのが好ましい。また、この樹脂皮膜4は(すなわち、前記した塗料、プライマー、及びフィルムはいずれも)、例えば、ポリエステル樹脂、及びエポキシ樹脂のうちの少なくとも一種を用いて形成されるのが好ましい。このようにすると、樹脂皮膜4形成後の耐食性と密着性に優れた包装容器用Al合金板1を得ることができる。
【0047】
樹脂皮膜4が塗料(上塗塗装塗料)及びプライマー(下塗塗料)である場合の樹脂皮膜形成処理は、例えば、当該塗料をロールコーター、ダイコーター、ナイフコーター、バーコーター、グラビアコーター、スプレーコーターなどを用いてAl合金板2の表面に塗布した後、熱処理や紫外線照射などを行って樹脂を硬化させることにより形成することなどが挙げられる。
【0048】
樹脂皮膜4がフィルムである場合の樹脂皮膜形成処理は、例えば、公知のラミネーターを用いて化成皮膜3を形成したAl合金板2の表面にフィルムをラミネートすることによって行うことができる。
【実施例】
【0049】
次に、本発明の効果を奏する実施例とそうでない比較例とを参照して、本発明の内容について具体的に説明する。
【0050】
表1のNo.1〜25に示すJIS H 4000:2014に規定されている品種のAl合金板(板厚0.26mm)に対して、脱脂処理、エッチング処理、化成処理を適宜行い、サンプルを製造した。なお、幾つかのサンプルについては、エッチング処理と化成処理の間で脱スマット処理を行った。
【0051】
製造したサンプルに含有されているMgの含有量から算出される化成皮膜中のMgとZrの含有量の比をMg/Zr(化成皮膜中のMg/Zr比という。)として求めた。また、サンプルの化成皮膜の皮膜量(Zr付着量及びP付着量)を求めるとともに、外観、耐食性、密着性を評価した。
なお、脱脂処理、エッチング処理、酸洗処理、Zr化成処理の各処理は下記の薬剤等を用い、いずれもスプレーで行った。
【0052】
(脱脂処理)
・薬剤:サーフクリーナーEC370(日本ペイント社製)
・濃度:1質量%
・温度:70℃
・処理時間:5秒
【0053】
(エッチング処理)
・薬剤:サーフクリーナー420N−2(日本ペイント社製)
・濃度:2.0質量%
・pH:表1に記載
・温度:表1に記載
・処理時間:表1に記載
【0054】
(脱スマット処理)
・5%硝酸(pH0.24)
・0.07mol/Lクエン酸(pH1)
・温度:40℃
・処理時間:9秒
なお、5%硝酸、クエン酸は、表1に示すように、択一的に用いた。
【0055】
(化成処理)
・薬剤:アルサーフST550(日本ペイント社製)
・硝酸濃度:表1に記載
・pH:表1に記載
・Zr濃度:表1に記載
・リン酸濃度:表1に記載
・濃度:5質量%
・温度:60℃
・処理時間:4秒
【0056】
(化成皮膜中のMg/Zr比)
化成皮膜中のMg/Zr比は、GD−OESを用いて化成皮膜の表面を定量分析して得たMgとAlの原子%から求めた。
【0057】
(化成皮膜の皮膜量)
化成皮膜の皮膜量(Zr付着量及びP付着量)は、XRFで化成皮膜の表面を定量分析することによって求めた。
【0058】
(耐食性)
製造したサンプルの化成皮膜上に塩ビゾル塗料を塗布し、PMT(Peak Metal Temperature)が260℃、焼付けオーブン通過時間が30秒という条件で塗装焼付けして樹脂皮膜を形成した塗装材を製造した(樹脂皮膜の膜厚:130mg/dm2)。
そして、塗装材に対して4mmφの円筒金型を用いて張出し高さ2mmで張出し加工し、コカ・コーラ(登録商標、日本コカ・コーラ社製)に浸漬して、炭酸が抜けないように密封し、60℃で1週間保持した。顕微鏡で観察し、腐食のないものはOK、腐食したものはNGと判定した。
【0059】
(密着性)
耐食性で述べたのと同じ条件で樹脂皮膜を形成した塗装材を製造した。
そして、塗装材をオートクレーブ中で121℃、30分処理した後、T型剥離試験を実施した。リン酸クロメート処理材と比較評価を行い、リン酸クロメート処理と同等以上の剥離強度を示したものをOK、リン酸クロメートよりも剥離強度が弱い場合はNGと判定した。
【0060】
(外観)
製造したサンプル(すなわち、樹脂皮膜形成前のサンプル)の外観を目視で検査し、サンプルの表面に異常がないものをOK、異常があったものをNGとした。
【0061】
表1に、Al合金板の品種、脱脂処理、エッチング処理、洗浄処理、化成処理の各条件、化成皮膜中のMg/Zr比、耐食性の評価結果、密着性の評価結果、及び外観の評価結果を示す。なお、表1中の下線は、本発明の発明特定事項を満たしていないことを示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1に示すように、No.1〜16のサンプルは、本発明の発明特定事項を満たしていたので、耐食性及び密着性が優れているとともに、外観も優れていた。
これに対し、No.17〜25のサンプルは、本発明の発明特定事項のうちのいずれかを満たしていなかったので、耐食性及び密着性のうちのいずれかが劣っており、外観が劣っているものもあった。具体的には、以下のようになった。
【0064】
No.17のサンプルは、化成皮膜中のMg/Zr比が高過ぎたので、耐食性に劣っていた。
No.18のサンプルは、化成処理の時間を長くすることによって化成皮膜のZr付着量及びP付着量を多くしたものである。No.18のサンプルは、化成皮膜のZr付着量及びP付着量がともに多過ぎたので、樹脂皮膜形成後の密着性が劣っていた。
No.19のサンプルは、脱脂処理を行わなかったので、化成皮膜が形成されなかった。つまり、化成皮膜のZr付着量が下限値未満となるとともに、P付着量が下限値未満となった。そのため、No.19のサンプルは、耐食性及び密着性に劣っており、外観も劣っていた。
【0065】
No.20のサンプルは、エッチング処理を行わなかったので、耐食性及び密着性に劣っていた。
No.21のサンプルは、エッチング処理で用いたアルカリ水溶液のpHが低過ぎたので、耐食性に劣っていた。
【0066】
No.22のサンプルは、化成処理で用いたZr化成処理液の硝酸濃度が低過ぎた、すなわち、化成処理液の濃度が低すぎたので、化成皮膜が形成されず、耐食性及び密着性に劣っており、外観も劣っていた。
No.23のサンプルは、化成処理で用いたZr化成処理液の硝酸濃度が高過ぎたので、耐食性、密着性に劣っていた。
【0067】
No.24のサンプルは、前記した特許文献2(特開2007−107033号公報)の実施例7相当の前処理を行ったものである。No.24のサンプルは、エッチング処理を行っていないので、耐食性及び密着性に劣っていた。
【0068】
No.25のサンプルは、前記した特許文献2(特開2007−107033号公報)の実施例4相当の前処理を行ったものである。No.25のサンプルもエッチング処理を行っていないので、耐食性及び密着性に劣っていた。
【符号の説明】
【0069】
1 包装容器用アルミニウム合金板(包装容器用Al合金板)
2 アルミニウム合金板(Al合金板)
3 化成皮膜
4 樹脂皮膜
図1
図2
図3