特許第6553952号(P6553952)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6553952炭素/炭素複合材の前駆体の製造方法、およびそれを用いた炭素/炭素複合材の製造方法。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6553952
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】炭素/炭素複合材の前駆体の製造方法、およびそれを用いた炭素/炭素複合材の製造方法。
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/83 20060101AFI20190722BHJP
   D04H 1/4242 20120101ALI20190722BHJP
   D04H 1/43 20120101ALI20190722BHJP
   D04H 1/4258 20120101ALI20190722BHJP
【FI】
   C04B35/83
   D04H1/4242
   D04H1/43
   D04H1/4258
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-108990(P2015-108990)
(22)【出願日】2015年5月28日
(65)【公開番号】特開2016-222482(P2016-222482A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2018年5月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】512064893
【氏名又は名称】株式会社CFCデザイン
(74)【代理人】
【識別番号】100121762
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 直人
(74)【代理人】
【識別番号】100126767
【弁理士】
【氏名又は名称】白銀 博
(72)【発明者】
【氏名】橘 正晴
(72)【発明者】
【氏名】磐瀬 暢
(72)【発明者】
【氏名】池崎 修二
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−197360(JP,A)
【文献】 特開平02−167859(JP,A)
【文献】 特開平03−205360(JP,A)
【文献】 特開2005−104779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
D04H 1/4242,1/4258,1/43
C01B 32/00−32/991
D01F 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素/炭素複合材料の前駆体を製造するための方法であって、
1〜50mmの長さを有する短繊維炭素繊維を使用し、カルボキシメチルセルロース(CMC)、水溶性ポリアクリル樹脂、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエステル、アルギン酸ナトリウム、デキストリン、ゼラチン、ポリビニルアルコールの中から選択された低炭化収率の結合剤のみを含有する炭素繊維不織布を製造するステップと、
次に、当該炭素繊維不織布を積層し、所定の形状に形成するステップと、
次に、所定形状に形成された当該炭素繊維不織布の積層物を400℃以上に加熱するステップと、
からなることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の炭素/炭素複合材料の前駆体を製造するための方法であって、
前記所定形状に形成された炭素繊維不織布の積層物が、平板状、管状、および形鋼状の形状を有することを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の炭素/炭素複合材料の前駆体を製造するための方法であって、
前記炭素繊維不織布を積層し、所定の形状に形成するステップにおいて、炭素繊維不織布の間に、少なくとも1層のポリオレフィン系合成樹脂から成る易消失性合成樹脂フィルムを挿入することを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の方法によって製造された炭素/炭素複合材料の前駆体を使用し、炭素/炭素複合材を製造する方法であって、
前記前駆体に溶融ピッチまたは溶融させた高炭化収率の合成樹脂を含浸するステップと、
当該含浸した前駆体を炭化処理するステップと、
からなる炭素/炭素複合材の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の炭素/炭素複合材を製造する方法であって、
前記溶融ピッチまたは溶融合成樹脂を含浸するステップと、
前記含浸した前駆体を炭化処理するステップとを、更に1又は複数回繰り返すことからなる炭素/炭素複合材の製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の炭素/炭素複合材を製造する方法であって、
炭化処理された前記炭素/炭素複合材を、更に黒鉛化処理することからなる炭素/炭素複合材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素/炭素複合材の前駆体の製造方法、および当該前駆体を用いた炭素/炭素複合材の製造方法に係る。 更に詳細には、炭素/炭素複合材の強度、弾性率における炭素繊維の寄与度を高め、且つ簡便な炭素/炭素複合材の製造方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の炭素/炭素複合材の製造方法は、トウと呼ばれる連続炭素繊維を一方向に引き揃え、フェノール樹脂のような炭化収率の高い熱硬化性合成樹脂をマトリックス材として加熱、加圧硬化させた一方向強化CFRP材や、連続炭素繊維による織物に上記合成樹脂を予め含浸させておき、これを積層したうえで、当該合成樹脂を加熱、加圧硬化させた積層CFRP材を前駆体としていた。
【0003】
そして、このようなCFRP材を高温度で熱処理(炭化処理)し、炭化収率の高い熱硬化性合成樹脂を炭化させた後、更に、熱硬化性合成樹脂の炭化によって生じた気孔に、溶融ピッチを含浸し、これを炭化処理するという方法を繰り返すことにより、炭素/炭素複合材を製造していた。
【0004】
しかしながら、このような従来の炭素/炭素複合材の製造方法においては、炭素繊維は、例えば1000本、3000本、6000本といった非常に多くの繊維からなるトウと呼ばれる連続炭素繊維の束を使用していたため、炭素繊維1本1本の間に前駆体で使用される熱硬化性合成樹脂が入り込み難く、トウの周りを熱硬化性合成樹脂が取り巻くような状態になっていた。
【0005】
また、前駆体で使用される熱硬化性合成樹脂は、より短い工程で炭素/炭素複合材の密度を高めるために、炭化収率の高いものが使用されていたため、前駆体としてのCFRP材を炭化処理すると、炭化処理された前駆体では、マトリックスとしての炭素(熱硬化性合成樹脂が炭化したもの)が炭素繊維の束の周りを取り囲んだ状態となっていた。
【0006】
このため、後で、溶融ピッチを含浸し、これを炭化処理したとしても、溶融ピッチは、炭素繊維1本1本の間に入り込み難く、溶融ピッチは熱硬化性合成樹脂が炭化した際に生じた気孔の中に含浸されるに留まっていた。
【0007】
このような理由により、従来の炭素/炭素複合材の製造方法によって製造された炭素/炭素複合材では、その強度、弾性率に対する炭素繊維の寄与度が低く、高価な炭素繊維が有効に利用されていなかったという問題があった。
【0008】
また、従来の炭素/炭素複合材の製造方法によれば、強度、弾性率を高めるために高密度化を図ることが一般的であったが、前述した理由により、溶融ピッチの含浸工程、炭化工程による密度向上効果が低くいため、溶融ピッチの含浸工程、炭化工程を何回も繰り返すことが必要になり、効率よく炭素/炭素複合材を製造することができなかった。
【0009】
更に、従来の炭素/炭素複合材の製造方法によれば、前駆体としてのCFRP材を炭化処理する際、マトリックス材としての熱硬化性合成樹脂が炭化する際に発生する分解ガスの圧力と、収縮による歪によって前駆体における炭素繊維の層間において剥離(デラミネーション)が生じて当初の形状を保持することができない等の問題が生じていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる観点からなされたものであり、その目的は、炭素/炭素複合材の強度、弾性率における炭素繊維の寄与度を高め、且つ炭素/炭素複合材の製造過程における剥離等の製造不良を無くし、簡便な炭素/炭素複合材の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するため、第1の観点にかかる発明では、炭素/炭素複合材料の前駆体を製造するための方法であって、1〜50mmの長さを有する短繊維炭素繊維を使用し、カルボキシメチルセルロース(CMC)、水溶性ポリアクリル樹脂、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエステル、アルギン酸ナトリウム、デキストリン、ゼラチン、ポリビニルアルコールの中から選択された低炭化収率の結合剤のみを含有する炭素繊維不織布を製造するステップと、次に、炭素繊維不織布を積層し、所定の形状に形成するステップと、次に、所定形状に形成された炭素繊維不織布の積層物を400℃以上に加熱するステップと、
からなる構成の方法とした。
【0012】
また、第の観点にかかる発明では、第1の観点にかかる発明の炭素/炭素複合材料の前駆体を製造するための方法であって、所定形状に形成された炭素繊維不織布の積層物が、平板状、管状、および形鋼状の形状を有する構成の方法とした。
【0013】
また、第の観点にかかる発明では、第1又は第2の観点にかかる発明の炭素/炭素複合材料の前駆体を製造するための方法であって、炭素繊維不織布を積層し、所定の形状に形成するステップにおいて、炭素繊維不織布の間に、少なくとも1層のポリオレフィン系合成樹脂から成る易消失性合成樹脂フィルムを挿入する構成の方法とした。
【0014】
更に、第の観点にかかる発明では、第1乃至第のいずれかの観点にかかる発明の方法によって製造された炭素/炭素複合材料の前駆体を使用し、炭素/炭素複合材を製造する方法であって、前駆体に溶融ピッチまたは溶融させた高炭化収率の合成樹脂を含浸するステップと、含浸した前駆体を炭化処理するステップと、からなる構成の炭素/炭素複合材の製造方法とした。
【0015】
また、第の観点にかかる発明では、第の観点にかかる発明の炭素/炭素複合材を製造する方法であって、溶融ピッチまたは溶融合成樹脂を含浸するステップと、含浸した前駆体を炭化処理するステップとを、更に1又は複数回繰り返す構成の炭素/炭素複合材の製造方法とした。
【0016】
また、第の観点にかかる発明では、第又は第の観点にかかる発明の炭素/炭素複合材を製造する方法であって、炭化処理された炭素/炭素複合材を、更に黒鉛化処理する構成の炭素/炭素複合材の製造方法とした。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかる炭素/炭素複合材の前駆体の製造方法においては、
(1)不織布の積層構造であるため、解繊された短繊維炭素繊維が束になって存在するのではなく、3次元的に分散した状態で存在し、
(2)前駆体を形成するために加熱、加圧する段階においては、炭素繊維を保持している結合剤が炭化して炭素質物質を形成し、これが炭素繊維を保持し続けるので、前駆体の形状が確実に維持され、
(3)しかし、この炭素質物質は、炭化収率の低い結合剤が熱分解して生じたものであるため、個々の炭素繊維の周りに過度に蓄積せず、全ての炭素繊維の周囲がボーラスな炭素質物質によって均一に満たされており、
(4)炭素繊維の周囲がボーラスな炭素質物質によって均一に満たされた状態であるため、従来の炭素/炭素複合材の製造方法と違って、積層構造の層間において剥離等の不具合を発生させることのない前駆体を得ることができる。
【0018】
そして、上述したような前駆体を用いた炭素/炭素複合材の製造方法においては、
(1)前駆体に溶融ピッチまたは溶融させた高炭化収率の合成樹脂を含浸する際に、全ての炭素繊維の周りに溶融ピッチまたは溶融合成樹脂が均一に含浸され、
(2)溶融ピッチまたは溶融合成樹脂の含浸後に行われる炭化処理する工程では、炭素繊維は3次元的に分散した状態で存在しているので、一度取り込んだ含浸ピッチや合成樹脂が流出することもなく、炭素質物質(炭素マトリックス)となるため高密度化が容易に行われると共に、炭素繊維と炭素マトリックスの一体化が確実におこなわれる。
【0019】
その結果、炭素/炭素複合材の強度、弾性率における炭素繊維の寄与度を高め、且つ炭素/炭素複合材の製造過程における剥離等の製造不良を無くし、簡便な炭素/炭素複合材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明に係る炭素/炭素複合材の前駆体の製造プロセスのフローチャートを示したものである。
図2図2は、本発明に係る前駆体を使用し、炭素/炭素複合材の製造プロセスのフローチャートを示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。 なお、ここで説明する本発明の実施の形態は、本発明を例示するものであって、これらによって限定されるものではない。
図1は、本発明に係る炭素/炭素複合材の前駆体の製造プロセスのフローチャートを示したものである。
【0022】
まず、炭素繊維不織布を製造するステップ11について説明する。
本発明で使用される炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル系、レーヨン系、およびピッチ系のいずれのものであってもよく、耐炎化処理糸、炭化処理糸、黒鉛化処理糸のいずれのものでも使用することができる。 本発明においては、炭素繊維は短繊維状であり、1〜50mmの長さであることが好ましく、1〜25mmの長さであれば、更に好ましい。 ただし、炭素繊維の長さはこれらに限定されるものではない。
【0023】
一般に市販されている炭素繊維には、複合材料を形成する際のマトリックス樹脂との接着性を良好なものにするために、炭素繊維表面に、電解表面処理などの表面酸化処理を施したり、炭素繊維を繊維束として集束させるために、エポキシ基、水酸基、アクリレート基、メタクリレート基、カルボキシル基、カルボン酸無水物基などの官能基を有するサイジング剤を、炭素繊維表面に付着させたりしている。
【0024】
本発明で使用する炭素繊維には、ここで述べたような表面処理やサイジング剤が施されていても良い。 もちろん、このような表面処理やサイジング剤の効果を除却した炭素繊維を使用することもできる。
【0025】
本発明において使用される結合剤は、不織布段階においては短繊維炭素繊維同士を結合させるものであり、例えば、不織布段階において5〜30重量%の重量比率となっている。
【0026】
このような結合剤として、カルボキシメチルセルロース(CMC)、水溶性ポリアクリル樹脂、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエステル、アルギン酸ナトリウム、デキストリン、ゼラチン、ポリビニルアルコール、ポリエステル等を使用することができる。
【0027】
この結合剤は高温(例えば、400℃以上の炭化処理)に加熱することにより分解し、炭素質物質となるが、結合剤の炭化収率が低い。 しかし、生成した炭素質物質は、開繊された個々の炭素繊維の周囲に均一に分布すると共に、炭素繊維を互いに結合し合うようになっているため、炭化処理された後の段階においても、前駆体の形状は確実に維持される。
【0028】
また、炭化処理の際、結合剤の大部分はガス化して散逸してしまうため、結合剤の炭化生成物である炭素質物質は、空洞の多いボーラスな状態となって炭素繊維の外周に存在することになる。
【0029】
炭素繊維不織布を製造する際には、開繊した短繊維炭素繊維、結合剤と、水又はアルコール等の有機溶剤からなる分散液を所定配合比で撹拌することにより、短繊維炭素繊維が分散液中に均一に分散された混合溶液が形成される。 短繊維状炭素繊維を混合溶液中に均一に分散させるために、タンク壁に超音波トランスデューサを取り付け、混合溶液に超音波振動を加えるようにしても良い。
【0030】
このように、短繊維炭素繊維が分散混合された混合溶液を、タンクから抄紙装置に圧送して抄紙処理する。 抄紙装置としては、長網抄紙機、円網抄紙機、ヤンキーマシン、ツインワイヤ抄紙機、その他の抄紙機を使用することができ、一般的には、ワイヤーパート、プレスパート、ドライヤーパートの各工程に分かれて処理されるようになっている。
【0031】
ワイヤーパートでは、短繊維状炭素繊維が分散混合された混合溶液を、網(ワイヤー)の上に流して薄く平にすることで、短繊維状炭素繊維がランダムに配向され、互いに絡み合うと共に、短繊維状炭素繊維の周囲には結合剤、および分散液の混合液が存在した状態の連続シートが形成される。 なお、この工程では、分散液が重力によってある程度脱落する。
【0032】
プレスパートでは、分散液を多く含んだ連続シートを種々の方法で圧縮することにより分散液が絞り取られる。
【0033】
そして、ドライヤーパートでは、プレスパートで分散液を搾り取った連続シートを加温して分散液を蒸発させ、最後に残った分散液を除去する。
【0034】
このようにして得られた、ランダムに配向され、互いに絡み合った短繊維炭素繊維と、この炭素繊維の周囲に配置された結合剤とから構成される連続シート状の不織布は、混合溶液に配合された結合剤によって所定のタキネスを持つ。
【0035】
このように、所定のタキネスを有する連続シート状の不織布は、抄紙装置を出たあと、必要に応じて離型紙を間に挟んだ状態で、ロール状に巻き取られるか、あるいは適当なサイズに裁断され炭素繊維不織布が完成する。
【0036】
次に、炭素繊維不織布を積層し、所定の形状に形成するステップ12について説明する。
平板状の炭素/炭素複合材の前駆体を製造する場合には、前述した炭素繊維不織布を所定サイズに裁断し、これを複数枚積層することにより所定形状の平板状積層体を得ることができる。
【0037】
管状の炭素/炭素複合材の前駆体を製造する場合には、例えば丸鋼や鋼管からできた芯型の外周に炭素繊維不織布を所定厚さになるまで巻き付ける。 このとき、後の工程で、加熱、加圧された際に、炭素繊維不織布に波状のシワが生じないようにするために、芯型の外周に配置された1又は複数のローラにより、巻き付けた炭素繊維不織布を芯型に押し付け、炭素繊維不織布のたるみを除去しながら巻き付けることにより、炭素繊維不織布に波状のシワが生じるのを防ぐことができる。
【0038】
また、芯型の外周に炭素繊維不織布を巻き付ける際、炭素繊維不織布の間に、合成樹脂フィルムを挿入することにより、炭素繊維不織布と合成樹脂フィルムとの間の摩擦力が低減され、炭素繊維不織布と合成樹脂フィルムの間が滑りやすくなることから、炭素繊維不織布を芯型に巻き付ける際、炭素繊維不織布のたるみを更に除去することが可能になり、炭素繊維不織布に波状のシワが更に生じにくくなる。
【0039】
このような合成樹脂フィルムは、炭素/炭素複合材の製造工程において、溶融ピッチ等を含浸する際に、含浸性を良好にするために、高温に加熱処理されたときに、ガス化して消失した方が望ましい。 このような易消失性の合成樹脂フィルムとしては、ポリプロピレン等のポリオレフィン系合成樹脂が望ましい。
【0040】
以上述べたように、炭素繊維不織布に波状のシワが生じにくくなるようにして芯型に炭素繊維不織布を巻き付けることにより、所定形状の管状積層体を得ることができる。
【0041】
次に形鋼状の炭素/炭素複合材の前駆体を製造する場合について説明する。 ここで、形鋼状とは、鋼材における形鋼と同様な形状を有することを意味するものであって、H形、L形などの一定の断面形状に成形され、材軸方向に所定長さを有する形状を意味する。
【0042】
形鋼状としてL形断面を有する炭素/炭素複合材の前駆体を製造する場合を例にとって説明する。
L形をした2つの型の間に、炭素繊維不織布を積層し、2つのL形をした型を締め上げることにより、炭素繊維不織布の積層体も型にならってL形に賦形され所定形状の形鋼状の積層体を得ることができる。
【0043】
なお、板状、および形鋼状の積層体を得る場合においても、炭素繊維不織布に波状のシワが生じにくくなるようにするために、上述したように炭素繊維不織布の間に易消失性の合成樹脂フィルムを挟むようにしても良い。
【0044】
次に、炭素繊維不織布の積層物を、加熱するステップ13について説明する。
この工程は、炭素繊維不織布の積層物の形状を維持したまま、炭素繊維不織布の中に含有される有機質の結合材を無機質である炭素質物質に変換させるために行うものである。
【0045】
平板状および形鋼状の炭素/炭素複合材の前駆体を製造する場合には、炭素繊維不織布の積層物をホットプレートの間に挟み込み、ホットプレートによって積層物を加圧すると共に、加圧成形する。 ただし、場合によっては、加圧しないで、加熱処理するだけであっても良い。
【0046】
管状の炭素/炭素複合材の前駆体を製造する場合には、芯型の外周に巻き付けられた炭素繊維不織布を芯型と共に加熱する。 この場合、割型等により、巻き付けられた炭素繊維不織布の外側から、割型等により加圧しながら加熱するようにしても良い。
【0047】
ここで、加圧する温度は、400℃以上であればよく、この温度にまで加熱すれば、結合材を炭素質物質に変換させることが可能となる。
【0048】
次に、本発明にかかる炭素/炭素複合材の前駆体を使用し、炭素/炭素複合材を製造する方法について説明する。
炭素/炭素複合材の前駆体は、短繊維炭素繊維を結合していた結合剤が、炭素質物質に変換されている状態にあって、この炭素質物質が個々の短繊維炭素繊維を結合保持しており、そのため、予め賦形された形状を維持している。
【0049】
そして、もともとの結合剤は、炭化収率の低い物質で構成されていたため、前駆体の製造工程における加熱工程において、結合剤の大部分はガス化して消失し、加熱工程で生成された炭素質物質は、オープンポロシティを多数含む多孔質な物質を形成している。
【0050】
炭素/炭素複合材の前駆体を使用し、炭素/炭素複合材を製造する場合には、このポーラスな炭素質物質、および短繊維炭素繊維の間に生じたミクロな空間に炭素を充填し、ち密なマトリックス組織を形成することが必要になる。
【0051】
このち密なマトリックス組織を形成する方法について図2に基づいて説明する。 図2は、本発明に係る前駆体を使用し、炭素/炭素複合材の製造プロセスのフローチャートを示したものである。
まず、ピッチまたは合成樹脂を溶融し、含浸するステップ21では、容器に入れたピッチまたは合成樹脂の粉末又はチップを加熱し、溶融させる。
【0052】
ここで使用するピッチとしては、コールタール・ピッチまたは石炭ピッチのいずれであっても良く、含浸性がよく、かつ炭化収率の高いものが望ましい。 また、合成樹脂としては、例えば、フェノール樹脂やフラン樹脂のような熱硬化性樹脂であって含浸性がよく、かつ炭化収率の高いものを使用することが望ましいが、ここで例示した樹脂に限定されるものではない。
【0053】
次に、溶融したピッチまたは合成樹脂の入った容器に、炭素/炭素複合材の前駆体を浸漬して、溶融ピッチまたは溶融樹脂を前述したミクロな空間に含浸させる。
このとき、炭素/炭素複合材の前駆体を真空容器内に置き、溶融ピッチまたは溶融樹脂を当該真空容器内へ流し込むことによって溶融ピッチまたは溶融樹脂を含浸させるようにしても良い。 また、炭素/炭素複合材の前駆体を溶融ピッチまたは溶融樹脂の中に浸漬した後、外圧をかけ、溶融ピッチまたは溶融樹脂を前駆体の内部に強制的に圧入するようにしても良い。
【0054】
溶融ピッチまたは溶融樹脂を含浸した前駆体を炭化処理するステップ22では、溶融ピッチまたは溶融樹脂を含浸した前駆体を炭化炉等を使用して、800℃から1500℃程度に加熱し、含浸したピッチ又は樹脂を炭素に変換する。 このとき、前駆体に存在した炭素質物質についても炭素化される。
【0055】
前駆体に含浸された溶融ピッチまたは溶融樹脂が炭素化する際に、溶融ピッチまたは溶融樹脂の一部は、炭素に変換されるものの、一部はガス化して消失するため、溶融ピッチまたは溶融樹脂が含浸されていた空間には、新たにミクロな空孔が生じる。
【0056】
新たにできたミクロな空孔を炭素によって埋めるために、上述したピッチまたは合成樹脂を溶融し、含浸するステップ21および溶融ピッチまたは溶融樹脂を含浸した前駆体を炭化処理するステップ22を更に1回あるいは複数回繰り返すようにしても良い。
以上のような工程により、炭素/炭素複合材を完成させることができる。
【0057】
炭素/炭素複合材を更に黒鉛化処理するステップ23では、必要に応じ、完成した炭素/炭素複合材を更に2000℃〜2800℃程度まで加熱する黒鉛化処理を行うことにより、炭素/炭素複合材の繊維およびマトリックスの炭素を、高度な結晶構造を有する黒鉛に変換することも可能である。
【符号の説明】
【0058】
11 炭素繊維不織布を製造するステップ
12 炭素繊維不織布を積層し、所定の形状に形成するステップ
13 炭素繊維不織布の積層物を、加熱するステップ
21 ピッチまたは合成樹脂を溶融し、含浸するステップ
22 溶融ピッチまたは溶融樹脂を含浸した前駆体を炭化処理するステップ
23 炭素/炭素複合材を黒鉛化処理するステップ
図1
図2