(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
板材等の構造体を連結固定するために、一般にボルトとナットで固定が行われている。
【0003】
大きな構造体にあっては、これを締結固定するために多数のボルト若しくは、ボルトとナットの組が用いられる。
【0004】
一般に、構造体をボルトで複数箇所を固定する際は、仮締めを行い、構造体を所定形態に維持し、その後ボルトの本締め作業が行われる。
【0005】
かかる場合、ボルトの数が多くある場合、ボルトの本締めが忘れられる可能性がある。かかる場合は、構造体の固定が十分でなく構造物として信頼性を欠くものとなる。
【0006】
たとえば、鉄道線路に沿って障害壁として鋼材を取り付けるようなケースでは、仮締めのまま鋼材が取り付け状態となっている場合、列車の風圧により鋼材が脱落して事故に繋がるという危惧もある。このために、ボルトによる構造体の固定作業の後、全てについて本締めが完了していることを確認する作業が必要である。
【0007】
これまでは、確認作業として、ボルト締め付け者自身がマーキングして締め付けの確認をし、更には監督員等が締め付けの二次チェックを行う等を行ってきた。
【0008】
しかし、ボルトによる締め付け作業箇所が多数になると、確認作業は大変な作業となり、確認見落としの可能性もある。
【0009】
かかる点に鑑みて、ボルト締め忘れについて、これを防止する発明が種々提案されている(特許文献1−10)。
【0010】
特許文献1に記載の発明は、ボルトとナットなら成るネジ締着物と、これにより締着される被締着部の相対面の周縁部に軸方向に空く切欠き孔を設け、その切欠き孔の近傍に軟質材料を配し、前記相対面が締結により狭圧されたとき、前記軟質材料が膨出して前記切欠き孔から軟質材料を目視できるようにして、ネジの締結を確認するものである。
【0011】
特許文献2に記載の発明は、環板状弾性体を座金とボルトとの間に挟み、環板状弾性体が、締め付け時に変形されて膨出して周囲に広がる状態により締め付け完了を確認するものである。
【0012】
特許文献3に記載の発明は、着色フィルムをナットとバネ座金を覆うように配置し、本締めにより、バネ座金と被締結物との間に狭まれた状態で、着色フィルムを切断するようにしている。着色フィルムの切断剥離した状態により本締めを確認するようにしている。
【0013】
特許文献4に記載の発明は、特許文献1の発明と同様にゴムなどの軟質材料から成る円環状の部材を挿入して、ボルト締めが行われると、前記軟質材料が、変形されて外側に突出する様にして締結を確認するようにしている。
【0014】
特許文献5に記載の発明は、凸面を対向させた一対の色塗装された皿バネを通してネジ締めしたとき、色塗装された皿バネ同士が変形して、塗装面を隠す状態によりネジ締めを確認する。
【0015】
特許文献6に記載の発明は、色塗装された皿バネを通してネジ締めしたとき、色塗装された皿バネが変形して、塗装面を隠す状態によりネジ締めを確認する。
【0016】
特許文献7に記載の発明は、塗装面を有する皿状の座金を用い、本ネジ締めしたとき、座金から塗料が剥離した状態にして、ネジ締めを確認する。
【0017】
特許文献8に記載の発明は、座金に塗装をして締め付け時に,座金の変形により塗装を剥離した状態にして、締め付けを確認する。
【0018】
特許文献9に記載の発明は、円錐台形状のチェック部材を本ネジ締めしたときに押し広げるようにして変形させ、座金の外側に出た部分の視認により、ネジ締めを確認する。
【0019】
特許文献10に記載の発明は、着色したジャバラ部材を介してネジ締めし、ジャバラ部材を収縮してネジ締めを確認する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
上記の先行技術は、ネジ締め防止を確認する手段として、ネジ締めが完了したときに、ネジ締め前にあった部分(塗装部分)が隠れるように、或いは塗装部分を剥離するように部材を用いる技術(特許文献3,5,6,7,8,10)と、ネジ締めが完了したときに座金から部材を見える状態にする技術に分類される(特許文献1,2,4,9)。
【0022】
新幹線等の鉄道路の防風柵にあっては、列車の頻繁な通行により風圧及び、振動が加えられ、定期的な鋼板の取り替え作業が必要になる。ネジ締め対象が、このような鉄道施設である場合、その管理、補修作業を考慮すると、列車等が運行していない夜間の時間帯、或いは、列車等の走行の合間の短時間を縫って行われることが多い。かかる場合は、より簡便な工程により、本締めを確認する作業が要求される。
【0023】
特許文献3,5,6,7,8,10に分類される技術にあっては、塗装の隠れた状態を確認することに主眼があり、特に夜間作業においては、識別が困難となるおそれがある。
【0024】
一方、特許文献1,2,4,9に分類される技術にあっては、色の部分が現れた状態を確認する技術であるが、特許文献1,2の発明にあっては、締め力で変形する軟質材料を座金と被締結体との間に介在する必要がある。したがって、ネジ締め作業において、金属とは異なる材質の部材を扱うことが必要であり、作業効率の面で不利であるとともに、軟質材料の経年劣化による締め付け力の低下のおそれがある。
【0025】
さらに、後者に分類される技術である特許文献9に記載の発明では、円錐台形のチェック部材に形成した切り込みを、押し圧で分離して広げるようにして円錐台形を変形させる構造である。しかし、かかる切込みについては、円錐台形の上辺と下辺とを繋ぐ切り込みが示されるだけであって、締め付けの仕方により、或いは円錐台形の押し広げる大きさによっては、円錐台形の好ましい変形が得られず、締め付け力が不安定となるおそれがある。
【0026】
したがって、本願発明の目的は、上記従来技術に鑑みて、確実に本締めが行われているか否かの確認を容易とするボルト締め忘れ防止部材、及びこれを用いるボルト締め忘れ防止方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記本発明の課題を解決する第1の側面は、座金を介してボルトにより被締結構造体を締結する際のボルトの締め忘れを防止するボルト締め忘れ防止部材であって、前記ボルトのネジ部が挿入される通し窓を有する中央部と、前記中央部に連なり、少なくとも先端部にカラー塗装がされている延伸部を有し、前記座金と前記被締結構造体との間に挿入され、前記ボルトにより前記被締結構造体を締結する際、前記延伸部が延伸されて、前記カラー塗装されている延伸部の先端部が、前記座金の周辺より外側に広げられるように構成されたことを特徴とする。
【0028】
上記本発明の課題を解決する第1の側面において、第1の態様として、前記中央部と両側の延伸部とのつながり部分は、Rを有して円弧状に形成され、前記Rを有して円弧状の前記つながり部分が延伸されるように構成されたことを特徴とする。
【0029】
上記本発明の課題を解決する第1の側面において、第2の態様として、前記中央部は、平坦矩形状を成し、前記延伸部は、断面が略V字状を成す延伸部を有し、前記ボルトとナットにより前記被締結構造体を締結する際、前記略V字状の延伸部が延伸されるように構成されたことを特徴とする。
【0030】
上記本発明の課題を解決する第1の側面において、第3の態様として、前記中央部の通し窓の内側に前記ボルトの溝に係合する突起を有することを特徴とする。
【0031】
上記本発明の課題を解決する第1の側面において、第4の態様として、前記延伸部の端辺にRを有する凹み部が形成されていることを特徴とする。
【0032】
上記本発明の課題を解決する第1の側面において、第5の態様として、前記前記延伸部に切り込み筋を有することを特徴とする。
【0033】
上記本発明の課題を解決する第1の側面において、第6の態様として、前記延伸部の先端部のカラー塗装は、蛍光塗料による塗装であることを特徴とする。
【0034】
上記本発明の課題を解決する第1の側面において、第7の態様として、さらに、前記中央部の両辺部と前記延伸部との境界部分、及び前記延伸部の略V字状を成す折れ曲がり部分に、複数の切欠き窓を有することを特徴とする。
【0035】
上記本発明の課題を解決する第1の側面において、第8の態様として、前記延伸部の先端部のカラー塗装は、蛍光塗料による塗装であることを特徴とする。
【0036】
上記本発明の課題を解決する第2の側面は、座金を介してボルトとナットにより被締結構造体を締結する際のボルトの締め忘れを防止するボルト締め忘れ防止部材であって、上下に異なる大きさの開口を有して、円錐台状をなし、前記円錐台状の下側円周辺上に第1の間隔で、第1の長さの複数の切り込み部と、前記第1の間隔の間に、前記第1の長さより短い第2の長さの複数の切り込み部を有し、更に前記円錐台状の上側円周辺上に前記第2の長さの複数の切り込み部に対応する間隔で、複数の切り込み部を有し、前記円錐台状の少なくとも下側円周辺部はカラー塗装がされていて、前記座金と前記被締結構造体との間に挿入され、前記ボルトとナットにより前記被締結構造体を締結する際、前記円錐台状が広げられて、前記カラー塗装されている前記下側円周辺部が、前記座金の周辺より外側に広げられるように構成されたことを特徴とする。
【0037】
さらに、上記本発明の課題を解決する第3の側面は、座金を介してボルトにより被締結構造体を締結する際のボルトの締め忘れを防止する方法であって、前記ボルトのネジ部が挿入される通し窓を有する中央部と、前記中央部の対向する両辺部のそれぞれに連なり、少なくとも先端部は、カラー塗装がされている延伸部を有するボルト締め忘れ防止部材を前記座金と被締結構造体との間に挿入し、前記ボルトとナットにより前記被締結構造体を締結する際に、前記延伸部を延伸させて、前記延伸部の先端部を前記座金の周辺より外側に広げて、前記カラー塗装を視認可能にすることを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下図面に従い、本発明の実施例を説明する。図面は、本発明の理解のためのものであり、本発明の保護の範囲は、かかる図示された実施例に限定されず、特許請求の範囲の記載及びその均等物に及ぶ。
【0040】
図1は、本発明に従うボルト締め忘れ防止部材1の第1の実施例を説明する図である。
図1において、(1)は、ボルト締め忘れ防止部材1の斜視図写真である。
【0041】
ボルト締め忘れ防止部材1は、(2)に示す形状の抜き打ち鋼材を、(3)に側面を示す様にプレス加工により断面がJ字を反転して繋げた形状(あるいはRを有するW字形状と表記)に変形して作られる。
【0042】
図1(2)に示す形状の抜き打ち鋼材は、長辺側と短辺側を有し、長辺側に長さが沿う略長円形のボルト通し孔2を中央部に有する。ボルト通し孔2は、Rを有するW字形状にプレス加工されると平面から見て略正円に近い形状になる(
図1,(3))。短辺側は、それぞれRを有する切込み3a,3bが形成された端面の左右の延伸部3A,3Bを有する。
【0043】
さらに、ボルト通し孔2の内側には、突起4a,4bを有する。
【0044】
図2は、本発明のボルト締め忘れ防止部材1を用いたネジ締めの過程を説明する図である。ネジ締めの際の仮止め状態I,本締め途中の状態II,及び本締め完了の状態IIIを並べて示している。
図2(1)は上面側写真、
図2(2)は側面写真である。
【0045】
被締結構造体に相応する板材10はボルト20のネジ部に対応する雌ネジ溝を有している。ボルト20は、スプリングワッシャー21、座金22、更に本発明に従う
図1に示したボルト締め忘れ防止部材1のボルト通し孔2を通して、ボルト20の先端側ネジ部を板材10に形成されている雌ネジ溝に嵌合して、ネジ締めを行う。
【0046】
被締結構造体に対する実際のネジ止め工事の際は、先に全てのネジ止め個所に対して仮止め状態Iにする。ついで、本締めが行われる。
【0047】
図2において、仮止め状態Iではボルト締め忘れ防止部材1は、何ら変形されていない状態であるが、ボルト20のネジ部を板材10の雌ネジ溝に締結していくと、本締め途中の状態IIからボルト締め忘れ防止部材1の延伸部3A,3Bが、座金22の押し圧で延伸されて平坦になった状態で、本締めが完了する(
図2,III)。
【0048】
この時、両短辺側の先端部分5が座金22からはみ出した状態になる。ボルト締め忘れ防止部材1の延伸部3A,3Bの先端部5にはカラー塗装が施されているので、正面から座金22からはみ出した状態を容易に視認して本締め完了の状態が確認できる。
【0049】
また、延伸部3A,3Bの先端部5のカラー塗装を蛍光塗装とすることで、夜間作業での確認も容易である。
【0050】
ここで、上記した第1の実施例では、
図1(4)に示す様に横方向から見た形態が、Rを有するW字形状であり、板材10、即ち被締結部材に接するボルト締め忘れ防止部材1の部位にRを有している。これにより、締結時に被締結部材に傷が付くことが避けられる。
【0051】
図3は、上記したボルト20によるネジ締めによりボルト締め忘れ防止部材1が、座金22の押し圧により平坦化する状態を示す図である。
【0052】
図3において、(1)は、座金22と板材10との間に置かれたボルト締め忘れ防止部材1を横方向から見た模式図である。(2)、(3)は、本締めされた状態のボルト締め忘れ防止部材1の形態を横方向から見た模式図である。
【0053】
図3(2)に示す状態は、ボルト締め忘れ防止部材1の両延伸部3A,3Bがバランス良く座金22の押し圧により、平坦に延伸変形された状態である。両側の延伸部3A,3Bの先端部5が座金22の外側に露出されている。
【0054】
一方、
図3(3)に示す状態は、延伸部3A,3Bの一方のみが平坦化され、他方側には、十分な押し圧が与えられていない状態である。
図4は本締めされたときの、ボルト締め忘れ防止部材1の実際の状態例を示す写真であり、
図3(3)に示すように両延伸部3A,3Bの一方のみが平坦化され、他方側は、十分な押し圧が与えられず、先端部5が立ち上がった状態の様子が、
図4の実際の写真にも現れている。
【0055】
この様に、ボルト締め忘れ防止部材1の両延伸部3A,3Bの一方側には十分な押し圧が与えられず、先端部5が立ち上がった状態のままであると、容易に緩解してしまうというおそれがある。
【0056】
このように延伸部3A,3Bの一方のみが平坦化され、他方側は、十分な押し圧が与えられず、立ち上がった状態のままとなる理由は、押し圧が与えられるに際に、ボルト締め忘れ防止部材1が一方の短辺側方向に偏移動することが原因である。
【0057】
したがって、
図1に示した本発明に従うボルト締め忘れ防止部材1には、かかる短辺側方向に偏移動することを防ぐ構造を有している。
【0058】
その第1の特徴は、ボルト締め忘れ防止部材1のボルト通し孔2の内側に突起4a,4bを形成している。かかる場合、ボルト20のネジ溝に突起4a,4bが係合した状態で、ボルト20によるネジ締めが進むために、ボルト締め忘れ防止部材1が一方の短辺側に偏ることが防止できる。
【0059】
さらに、第2の特徴として、両短辺側のそれぞれにRを有する切れ込み(凹み部)3a,3bを有している。これにより延伸部3A,3Bのそれぞれの辺は、凹み部3a,3bのそれぞれの両側の2点で、座金22と対応することになり、座金22により押し圧が与えられたとき、バランス良く延伸部3A,3Bが潰れ易くなる。これにより、一方側のみに押し圧が掛かり、
図4のように一方の延伸部3Aのみ潰れた状態となることを防ぐことができる。
【0060】
図5,
図6は、両延伸部3A,3Bのそれぞれが、本締めの際、一方の延伸部の潰れが不十分となることを防ぐ更に別の構成を示し、
図5,
図6の(1)、(2)、(3)は、それぞれ
図1の(2)、(3)、(4)に対応する。
【0061】
特徴として、両延伸部3A,3Bの凹み部3a,3bを結ぶ方向に切り込み筋5a、5bを有している。
図5では、突起4a,4bを有さず、切り込み筋5a、5bのみを有している。
図6では、突起4a,4bとともに切り込み筋5a、5bを有する構成である。
【0062】
かかる切り込み筋5a、5bの存在により、いずれも座金22により押し圧が与えられたとき、凹み部3a,3bと協働してバランス良く延伸部3A,3Bを潰れ易くすることができる。
【0063】
上記第1の実施例の特徴を纏めると、ボルト締め防止部在1の板材10への鋭角的な接触がなく、ネジ締めにより板材10を傷つけることを少なくできる。同時に、両延伸部3A,3Bの一方のみが平坦化されることが回避できる。
【0064】
ここで、新幹線等の鉄道線路に沿う防護壁等の敷設を想定すると、常に大きな振動と風圧が与えられる。防護壁をボルトナット締めにより固定する場合、振動による緩解トルク低下が問題となる。緩解トルク低下率の基準値を超えることがボルト締めに要求される。本発明者等は、第1の実施例のボルト締め忘れ防止部材1を用いた場合の緩解トルク低下率を測定して、第1の実施例の適用可能性を検討した。
【0065】
測定サンプルとして、
図7に示す形状を測定対象とした。
図7(1)に示すサンプルは、
図1に対応し、ボルト通し孔2の内側に突き出る突起4a、4bを有するものである。そして突起4a、4bの幅tとして異なる値を有する、即ち1.5mmのサンプルと、0.8mmのサンプルを用意した。
【0066】
さらに、
図7(2)に示すサンプルは、突起4a,4bの幅tとして1.5mmであって、ボルト通し孔2の領域と左右の延伸部3A,3Bを繋ぐ境界に切欠き窓6を有するサンプルを用意した。
【0067】
これらサンプルを
図7に示す様に座金22(平Wと表示)との位置関係で4つの組(a),(b),(c),(d)を構成して、基準構成(s)[=スプリングワッシャー(SWと表示)と平Wとの組み合わせ]の測定結果と比較した。
【0068】
ここで、前記4つの組構成(a),(b),(c),(d)は次の様である。
組構成(a)は、
図7(1)の形態で、突起4a、4bの幅t=1.5でSW+平W+0.5tW型R付き(第1の実施例のワッシャー)の組み合わせ
組構成(b)は、
図7(1)の形態で、突起4a、4bの幅t=1.5で平W+0.5tW型R付き+平Wの組み合わせ
組構成(c)は、
図7(1)の形態で、突起4a、4bの幅t=0.8でSW+平W+0.5tW型R付きの組み合わせ
組構成(d)は、
図7(2)の形態で、突起4a、4bの幅t=0.8で平W+0.5tW型R付き+SWの組み合わせ
【0069】
上記組み合わせタイプについて、基準の組合せ構成(s)をボルト20にSWと平Wを
挿入して板材10に、標準トルク24.5Nmで締め付けたものと、各組み合わせタイプも同様に標準トルク値で締め付けられたものに、振動を加えた後の緩解トルク値を測定し、基準となる基準緩解トルク値とのトルク値の低下率の比較を行い判定した。
【0070】
試験前の締め付けトルク値(A)、試験後の解トルク値(B)とすると、トルク低下(C)は、(A)−(B)である。従って、トルク低下率%(D)は、{(A)−(B)/(A)}×100で表される。
【0071】
各サンプルタイプについて、3個ずつ測定してそれぞれの平均値で比較を行った。
【0072】
基準の組合せ構成(s)のトルク低下率%(D)は、平均値10.74%であった。これに対し、組構成(a)のトルク低下率%(D)は、平均値17.11%であった。組構成(b)のトルク低下率%(D)は、平均値19.76%であった。
【0073】
さらに、組構成(c)のトルク低下率%(D)は、平均値12.44%であった。組構成(d)のトルク低下率%(D)は、平均値22.80%であった。
【0074】
図8は、かかる試験結果のグラフであり、緩解トルクの低下率の離散をグラフで示している。
【0075】
通常振動試験後のトルク低下率は、一般的に10%から20%程度と言われている。かかる通常値の範囲から上記サンプル組構成(a)(b)(c)は、一般的に許容できる緩解トルク値であることが理解でき、特に、サンプル組構成(c)は、基準値(s)に近く、本発明のボルト締め忘れ防止部材1を挿入することによる緩解トルク低下の影響は少ないと考えられ十分に本発明の目的を達成できるものであることが理解できる。
【0076】
図9は、本発明に従うボルト締め忘れ防止部材の第2の実施例の斜視写真である。
【0077】
図10は、本発明に従うボルト締め忘れ防止部材の第2の実施例の上面側写真である。
【0078】
第2の実施例も金属製であり、ボルトのネジ部が挿入されるボルト通し孔2を有する平坦矩形部2Aと、前記平坦矩形部2Aに連なる両延伸部3A,3Bは、断面が略V字状を成している。端辺側のV字を成す角部は鋭角に形成されている。
【0079】
前記両端辺側の少なくとも先端部には上面側にカラー塗装がされている。カラー塗装は、夜間作業での視認を高めるために、好ましくは、蛍光塗料であることが有利である。
【0080】
さらに、ボルト締め忘れ防止部材1がネジ締めにより延伸される場合に、延伸をスムースに導くための複数の切欠き窓4が延伸部3A,3Bと平坦矩形部2Aとの境界領域に設けられている。
【0081】
さらに、延伸部3A,3BのV字状の曲がりを形成する領域部分にも複数の切欠き窓7が設けられている。この延伸部3A,3Bに設けられる複数の切欠き窓7は、延伸をスムースに導く目的と、更に、被締結構造体との接触を高め、ネジ締め後の緩み防止、即ち緩解率を低くすることに寄与することができる。
【0082】
図11及び
図13は、上記ボルト締め忘れ防止部材1の延伸部3A,3Bについて
図2で示した仮止め状態Iと、本締め完了の状態IIIを説明する図である。
【0083】
図11は、
図2の仮止め状態Iを示す上面模式図であり、座金22とボルト締め忘れ防止部材1の関係を示す図であり、座金22を実線で、ボルト締め忘れ防止部材1を破線で示している。
図12は、
図2の仮止め状態Iを示し、
図11に対応する側面模式図である。
【0084】
ボルト締め忘れ防止部材1は、座金22と板材10との間に配置され、仮止め状態Iでは上面から見たとき座金22に隠れて視認することができない。
【0085】
図12では、ボルト締め忘れ防止部材1の上面側が、座金22に向かうように配置している[
図12(1)]が、表裏反対にしてボルト締め忘れ防止部材1の上面側が、板材(被締結構造体)10に向かうように配置してもよい。
【0086】
ここで、延伸部3A,3Bの先端部の強度を高めることが必要な場合は、
図12(2)に示す様に延伸部3A,3Bの先端部に折り曲げ部31A,31Bを設けることも可能である。
【0087】
図13は、
図2の本締め完了の状態IIIを示す上面模式図であり、座金22とボルト締め忘れ防止部材1の関係を示す図であり、本図においても座金22を実線で示し、座金22により隠れているボルト締め忘れ防止部材1の部分を破線で示している。
図14は、
図2の本締め完了の状態IIIを示し、
図13に対応する側面模式図である。
【0088】
図14に示されるように、ボルトの本締めにより、ボルト締め忘れ防止部材1は、平坦矩形部2Aと延伸部3A,3Bとの境界領域及び、延伸部3A,3Bの略V字状を成す領域の角度が広げられ、ボルト締め忘れ防止部材1は、平坦に延伸される。
【0089】
ボルト締め忘れ防止部材1の平坦にされた状態の長さは、座金22の直径より大きい。したがって、平坦にされたボルト締め忘れ防止部材1の延伸部3A,3Bの対応する先端部分5A、5Bが座金22の外側に突き出る。このとき、先端部分5A、5Bがカラー塗装されているので、延伸部3A,3Bが延伸されて対応する先端部分5A、5Bが座金22の外側に突き出ている状態、従って、ボルトの本締めが完了していることを容易に確認することが出来る。
【0090】
ここで、
図14では、ボルト締め忘れ防止部材1の上面側が、座金22に向かうようにしているが、第1の実施例と同様に、ボルト締め忘れ防止部材1の上面側が、板材(被締結材)10に向くように配置することも可能である。
【0091】
次に本発明者等は、本発明のボルト締め忘れ防止部材1の介在による締め付けトルク値の低下の影響の有無を、第2の実施例についても比較試験により確認した。
【0092】
比較例として、スプリングワッシャーと平ワッシャ(座金)を、ボルトナットによりトルク24.5Nmで締め付け、振動を加えた後の緩解トルク(ネジ緩みに要するトルク)を測定した。
【0093】
振動を加えた後の緩解トルクは、22.25Nmであった。従って、トルク低下率は、9.2%{=(24.5-22.25)/24.5×100}である。
【0094】
一方、スプリングワッシャーと平ワッシャー(座金)に本発明のボルト締め忘れ防止部材20を加えて、同じボルトナットによりトルク24.7Nmで締め付け、振動を加えた後の緩解トルクを測定した。
【0095】
この時の振動を加えた後の緩解トルクは、22.70Nmであった。従って、トルク低下率は、8.1%{=(24.7-22.70)/24.7×100}であった。
【0096】
通常振動試験後のトルク低下率は、10%から20%の範囲内で低下すると理解されている。
【0097】
したがって、本発明の第2の実施例のボルト締め忘れ防止部材1を使用してのトルク低下率は、比較例より低く、締め付けトルクは、通常理解されている10%から20%の範囲内より、更に低い値に維持出来ることが確認された。
【0098】
さらに、別の実施例について以下に説明する。
図15は、本発明に従うボルト締め忘れ防止部材の第3の実施例の上面写真である。
【0099】
この実施例も第1、第2の実施例と同様に、ボルト締め忘れ防止部材1は、座金22と被締結構造体(板材10)との間に配置して使用される。
【0100】
この第3の実施例では、ボルト締め忘れ防止部材1は、金属製であり、上下に異なる大きさの開口を有して、円錐台状をなしている。
【0101】
前記円錐台状の下側円周辺上に第1の間隔Aで、第1の長さの複数の切り込み部30と、前記第1の間隔Aの間に、前記第1の長さより短い第2の長さの複数の切り込み部31を有している。
【0102】
さらに、前記円錐台状の上側円周辺上には、前記第2の長さの複数の切り込み部31に対応する間隔で、複数の切り込み部32を有している。
【0103】
第1の長さの複数の切り込み部30と第2の長さの複数の切り込み部31は、頂点が円錐台状の下側円周辺端に位置するような三角形を成している。複数の切り込み部32は、略台形状の切り欠きである。
【0104】
さらに、前記円錐台状の少なくとも下側円周辺部は、カラー塗装がされている。
【0105】
第3の実施例のボルト締め忘れ防止部材1は、第1の実施例と同様に座金22と被締結構造体10との間に挿入される。
【0106】
図16は、座金22から見た図であり、
図2のIの状態に対応し、第3の実施例のボルト締め忘れ防止部材1に置き換えたときの上面模式図である。座金22とボルト締め忘れ防止部材1の関係を示し、座金22を実線で、ボルト締め忘れ防止部材1を破線で示している。
図17は、
図2の仮止め状態Iに相応し、
図16に対応する側面模式図である。
【0107】
図16,
図17において、ボルト締め忘れ防止部材1は、上面から見たとき座金22により隠されて視認することができない。ボルト締め忘れ防止部材1は、座金22と板材(被締結構造体)10との間に配置されている。
【0108】
図18は、
図2のボルト締め完了の状態IIIに対応し、第1,又は第2の実施例のボルト締め忘れ防止部材1を置き換えたときの上面模式図である。座金22とボルト締め忘れ防止部材1の関係を示し、本図においても座金22を実線で、ボルト締め忘れ防止部材1の座金で隠されている部分を破線で示している。
【0109】
図19は、
図4、
図5のボルト締め完了の状態IIIに対応し、
図18に対応する側面模式図である。
【0110】
図19に示されるように、それぞれ三角形状の第1の長さの複数の切り込み部30と第2の長さの複数の切り込み部31の三角形の頂点が、ボルトの本締めにより開いて広げられ、ボルト締め忘れ防止部材1は、平坦に延伸される。
【0111】
平坦に変形され広げられたボルト締め忘れ防止部材1の周端部のカラー塗装されている部分が前記座金22の周辺より外側に突き出る。これにより、ボルトの本締めが容易に確認できる。第3の実施例においても、カラー塗装が蛍光塗料である場合、夜間の作業においても容易にボルトの本締めが確認できる。
【0112】
ここで、ボルト締め完了の確認方法として、複数のボルトネジの締め付け完了を順次目視により点検することを想定できるが、締め付け個所が多数に渉る場合、あるいは、夜間作業における確認作業が必要となる場合は、順次目視により点検することは、極めて難しい作業になる。
【0113】
かかる不都合に対する対応として、デジタルカメラ等の撮像装置により撮影しておくことにより、一括して所定範囲のボルト締め状態を記録しておくことができる。この記録を後に判断することにより容易にボルト締め完了の確認作業を行える。
【0114】
また、夜間においては、座金22の端部からはみ出したボルト締め忘れ防止部材1のカラー部分を撮影記録することが可能であるので、ボルトの締め付けの完了を後に容易に確認できる。