(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ドレンドラムからの水蒸気凝縮液の排出量を制御するためのLIC制御装置、及び/又は、前記ドレンドラムから前記水蒸気凝縮液を選択的に排出するためのスチームトラップを更に含む、請求項1又は2に記載の芳香族ポリカーボネートの製造装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について、詳細に説明するが、本発明は下記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0012】
本実施形態の芳香族ポリカーボネートの製造方法は、重合器内で芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとの反応により芳香族ポリカーボネートを製造する方法であって、90〜220℃のジアリールカーボネートを、目標とする芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとの仕込みモル比(以下、単に「仕込みモル比」という。)から求められるジアリールカーボネートの全供給量の75〜99質量%、混合槽に供給する工程(A)と、工程(A)の後に、芳香族ジヒドロキシ化合物を、135〜220℃の液温に調整した混合槽に供給する工程(B)と、工程(B)の後に、混合槽内の仕込みモル比が所定の範囲内になるように、ジアリールカーボネートを混合槽に更に供給し、溶解混合物を調製する工程(C)とを含むものである。
図1は本実施形態の芳香族ポリカーボネートの製造方法に用いられる製造装置の一例を示すフロー図である。以下、このフロー図を参照しながら、本実施形態の芳香族ポリカーボネートの製造方法についてより詳細に説明する。
【0013】
工程(A)は、90〜220℃のジアリールカーボネートを、目標とする仕込みモル比から求められるジアリールカーボネートの全供給量の75〜99質量%、混合槽に供給する工程である。
図1において、原料のジアリールカーボネートは、貯蔵タンク10に溜められている。その貯蔵時の温度は、ジアリールカーボネートの熱変性を避ける観点から、82〜120℃が好ましい。ジアリールカーボネートの全供給量は、予定している仕込みモル比(すなわち、目標とする仕込みモル比)から求められた、ジアリールカーボネートの仕込み予定量である。その全供給量のうち、75〜99質量%のジアリールカーボネートが、貯蔵タンク10から混合槽7への移送配管に設けられたジアリールカーボネートの計量器13で計量されながら、貯蔵タンク10からジアリールカーボネートの予熱器11へ移送ポンプ(図示せず。)で移送され、予熱器11によって90〜220℃に予熱されて、混合槽7へ供給される(以下、この供給を「大供給」という。)。このときのジアリールカーボネートの温度を90℃以上にすることにより、ジアリールカーボネートが液状になって移送が容易になり、かつジアリールカーボネートを受け入れた混合槽7を短時間で所定の温度に調整できるという効果があり、220℃以下にすることにより、得られる芳香族ポリカーボネートの変色を防止できるという効果が奏される。
混合槽7は、好ましくは撹拌翼(符号は付していない。)を備えており、好ましくはその撹拌翼がジアリールカーボネート中に完全に浸漬した状態になった時点で、混合槽7内での撹拌が開始される。
【0014】
芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとの反応にエステル交換触媒を用いる場合、工程(A)の後であって後述の工程(B)の前に、エステル交換触媒を混合槽7に添加する工程を更に含むと好ましい。芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとを混合する前に、エステル交換触媒をジアリールカーボネートに混合することにより、分子量分布の広がりをより抑制できると共に、得られる芳香族ポリカーボネートの射出成形時において金型でのモールドデポジットの発生を更に防止でき、また、芳香族ポリカーボネート中にゲル状の高分子量体が生成することもより抑制できる。
【0015】
工程(B)は、工程(A)の後に、混合槽7に芳香族ジヒドロキシ化合物を供給する工程である。工程(B)において、混合槽7の内部に収容したジアリールカーボネートを含む液の液温は135〜220℃に調整されている。例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物は、バケットコンベア1を用いて、その前段に位置する芳香族ジヒドロキシ化合物の貯槽(例えば貯蔵ホッパー。図示せず。)又は芳香族ジヒドロキシ化合物の製造設備(図示せず。)から、ロードセル3で計量されながら、独立架台(後述の
図2に、独立架台20として例示。)に設置された芳香族ジヒドロキシ化合物用の計量槽2に供給される。ここで、「独立架台」とは、混合槽7を直接又は間接的に支持するための基礎とは独立した基礎に支持された架台を意味する。「間接的」な支持の例としては、混合槽7を設置した架台を支持することが挙げられる。計量槽2が独立架台に設置されることにより、混合槽7から計量槽2に伝えられる振動をより抑制することができる。次に、ロータリーバルブ5を用いて、計量槽2から、135〜220℃の液温に調整された混合槽7へ芳香族ジヒドロキシ化合物を供給する。芳香族ジヒドロキシ化合物の供給量は、予定されている仕込み量の全量である。次に、芳香族ジヒドロキシ化合物に混入して混合槽7内に持ち込まれる酸素や水分を除去するため、混合槽7内の雰囲気を酸素及び水蒸気とは異なるガス(好ましくは窒素等の不活性ガス)によって置換する(以下、このガスを「置換ガス」という)。計量槽2への芳香族ジヒドロキシ化合物の供給量は、供給前後の計量槽2の質量差から求められる。なお、置換ガスとして窒素等の不活性ガスを用いる場合のその純度は、特段の断りがない限り、99.999質量%以上が好ましく、99.9999質量%がより好ましい。また、以下、窒素等の不活性ガスを「不活性ガス」という。
【0016】
工程(C)は、工程(B)の後に、混合槽7内の仕込みモル比が所定の範囲内になるように、ジアリールカーボネートを混合槽7に更に供給し、溶解混合物を調製する工程である。上記仕込みモル比を所定の範囲内にするように、混合槽7に追加で供給するジアリールカーボネートの量を決定する。
例えば、所定の仕込みモル比になるように、工程(B)で実際に混合槽7に供給した芳香族ジヒドロキシ化合物量を基に、ジアリールカーボネートの追加の供給量が求められる。次に、貯蔵タンク10から混合槽7への移送配管に設けられたジアリールカーボネートの計量器13で計量されながら、必要量のジアリールカーボネートが、移送ポンプによって貯蔵タンク10から予熱器11へ移送される。さらにジアリールカーボネートは、その予熱器11で予熱され、135〜220℃の液温に調整された混合槽7へ供給される(以下、この供給を「小供給」という。)。
この工程(C)により、溶解混合物における仕込みモル比が所定の範囲内に調整される。ここで、仕込みモル比の「所定の範囲」とは、目標とする仕込みモル比の値(目標値)とその目標値からの変動幅を合わせた範囲であり、特に限定されないが、例えば、仕込みモル比の目標値が、0.9〜1.3であってもよく、1.0〜1.25の範囲内であるとより好ましい。また、仕込みモル比の目標値からの変動幅は、例えば、±0.003以内であってもよく、±0.0015以内であると好ましい。
【0017】
なお、本明細書中、「溶解混合物」は、混合槽で少なくともジアリールカーボネートと芳香族ジヒドロキシ化合物とが溶解混合されたものであり、そこに他の任意成分、例えばエステル交換触媒が溶解混合されていてもよい。また、「反応混合物」は、溶解混合物が後述の溶解混合物貯槽において160〜220℃で1〜12時間保持されたものである。さらに、本実施形態では、反応混合物を重合して、数平均分子量(以下、「Mn」と表記する。)400以上のプレポリマー又はポリマーを得る工程を「重合工程」という。ここで、「プレポリマー」とはMnが400〜7000のもの、「ポリマー」とはMnが7000を超えるものをいう。
【0018】
本実施形態においては、
図1に示すように、それぞれ溶解混合物貯槽12A及び12Bにおける、工程(D−1)及び工程(D−2)をバッチ式に進めることが好ましい。すなわち、工程(D−1)においては、工程(C)により調製された溶解混合物を、135〜220℃で第1の溶解混合物貯槽12Aに供給して、その溶解混合物貯槽12A内で溶解混合物を160〜220℃で1〜12時間保持して、所定の平衡反応率の第1の反応混合物を得る。さらに、工程(E−1)において、その第1の反応混合物を重合工程へ供給する。
一方、工程(D−2)においては、溶解混合物が溶解混合物貯槽12A内に保持されている間及び/又は第1の反応混合物が重合工程へ供給されている間に、工程(C)により調製された溶解混合物を、135〜220℃で第2の溶解混合物貯槽12Bに供給して、その溶解混合物貯槽12B内で溶解混合物を160〜220℃で1〜12時間保持して、所定の平衡反応率の第2の反応混合物を得る。
次に、工程(E−2)において、第1の溶解混合物貯槽12A中の第1の反応混合物が所定量まで減少した時点で、工程(D−2)で得られた第2の反応混合物の重合工程への供給が開始される。さらに、溶解混合物が溶解混合物貯槽12B内に保持されている間及び/又は第2の反応混合物が重合工程へ供給されている間に、工程(D−1)を進める。重合工程への反応混合物の供給は、上記操作を交互に繰り返すことによって連続的に行うことができる。
ここで、「平衡反応率」は、平衡に達した溶解混合物における芳香族ジヒドロキシ化合物の転化率を意味する。また、「所定量」とは、予め決められた量であり、例えば、溶解混合物貯槽を正常に運転するのに保証された量であってもよく、より具体的には、溶解混合物貯槽から反応混合物を移送するのに用いられる移送ポンプのキャビテーションを抑制できる量であってもよい。
【0019】
溶解混合物の調製をより安定かつ容易にするため、混合槽7と溶解混合物貯槽12A及び12Bのそれぞれとの容量をほぼ同量にして、混合槽7内で調製した溶解混合物のほぼ全量を溶解混合物貯槽12A又は12Bへ供給することがより好ましい。ここで、「全量」とは、溶解混合物貯槽12A又は12Bへの溶解混合物の供給が始まってから混合槽7がほぼ空の状態になるまでに溶解混合物貯槽12A又は12Bに供給された溶解混合物の量を意味する。例えば、溶解混合物貯槽12A又は12Bへの溶解混合物の供給が始まってから、混合槽7の槽底(ボトム)に設けられたレベル(液面)スイッチが作動して混合槽7から溶解混合物貯槽12A又は12Bに溶解混合物を移送するための移送ポンプ8A(詳細は後述する。)が停止するまでの量であり、あるいは、溶解混合物貯槽12A又は12Bへの溶解混合物の供給が始まってから上記移送ポンプ8Aのアンダーカレント(電流値)を検知してその移送ポンプ8Aが停止するまでの量である。混合槽7のボトムのレベルスイッチから移送ポンプ8Aまでの間(移送ポンプ8Aの吸込側(サクション)配管を含む。)には、少量の溶解混合物が残存した状態であってもよい。
溶解混合物貯槽12A及び12B間の切り替えは、上記プレポリマー又はポリマーへの重合速度に合わせて、重合工程を連続的に進めることができるように適切に管理されることが好ましい。また、溶解混合物貯槽12A及び12Bは、プロセスの流れに対して並列に2基以上設けられていればよく、さらにプロセスの流れに対して直列方向に2基以上設けられていてもよい。
【0020】
以下、本実施形態の芳香族ポリカーボネートの製造方法及びその製造方法に用いる製造装置について、その製造装置に含まれ得る各機器を中心にして、さらに詳細に述べる。
【0021】
[ジアリールカーボネートの計量]
本実施形態では、仕込みモル比の精度を高めるために、混合槽7へのジアリールカーボネートの供給量を、1回目(大供給)は目標とする仕込みモル比から求めたジアリールカーボネートの供給量の75〜99質量%に留める。大供給の量は80〜95質量%が好ましく、85〜95質量%がより好ましい。大供給の量をジアリールカーボネートの全量を一度に供給しないことにより、芳香族ジヒドロキシ化合物を混合槽7に供給した後、実測した芳香族ジヒドロキシ化合物の供給量を基に、2回目(小供給)の供給量を調整できるようになり、仕込みモル比の精度を高くすることができる。大供給の量が99質量%以下の場合は、小供給での調整がより容易になる。また、大供給の量が75質量%以上であれば、ジアリールカーボネートを供給した後の混合槽7における液面が、一般的な混合槽の撹拌翼よりも高くなるため、撹拌機の破損を防止できる。また、大供給の量が75質量%以上であれば、芳香族ジヒドロキシ化合物を混合槽7に供給した時に発生する芳香族ジヒドロキシ化合物の塊を防止できる。さらに、大供給の量が75質量%以上であれば、混合槽7内に内部コイルが設けられている場合に、その内部コイルに付着した芳香族ジヒドロキシ化合物が変色することを防止することもできる。
【0022】
[ジアリールカーボネートの計量器13]
ジアリールカーボネートの計量には計量器13が用いられ得る。計量器13としては、例えば、超音波式流量計、渦流量計、容積式流量計、面積式流量計及びコリオリ式積算流量計等の、公知の流量計が挙げられ、積算流量計であることが好ましい。コリオリ式積算流量計は精度が高いのでより好ましい。
計量器13は、配管に設置すると、外部からの振動などの影響を受けて、計量(秤量)精度が低下しやすいので、秤量精度の高いものが好ましい。具体的には、計量器13の秤量精度が、±0.5質量%以内であることが好ましく、±0.25質量%以内であることがより好ましい。配管に計量器13を設置した後の秤量精度が、±0.15質量%以内であれば、さらに好ましい。また、計量器13は、配管に沿って0.5m以上の間隔で2台以上設置することが好ましい。計量器を2台以上設置する場合、秤量精度が同じ計量器を用いることが好ましく、1台を主の計量器にして、その他の計量器でバックチェックすることが好ましい。さらに、計量器間の計量誤差が大きくなった時や、主として用いる計量器が故障した時は、受け入れを停止するインターロックを設けたり、それに加えて又はそれに代えて、他のバックチェック用の計量器を設置して、芳香族ポリカーボネートの製造装置の運転を管理するために用いられるDCS(分散制御システム)の表示画面上、又は、バックチェック用の計量器の内部で切り替え可能にすることも好ましい。また、混合槽7に設置されている液面計で、計量器をバックチェックしてもよい。
【0023】
[ジアリールカーボネートの予熱器11]
本実施形態の製造装置には、貯蔵タンク10と混合槽7との間にジアリールカーボネートの予熱器11を設けることができる。予熱器11としては、公知の加熱器を用いることができ、例えば、二重管式熱交換器及び多管式熱交換器が挙げられ、また、ジアリールカーボネートの移送配管を二重管式熱交換器にして予熱器11として用いてもよい。ジアリールカーボネートが、予熱器11で90〜220℃、好ましくは100〜210℃、より好ましくは110〜200℃に加熱又は温度保持されて混合槽7に供給される。予熱器11のフランジ部は、ジアリールカーボネートがフランジの隙間に滞留しない構造であることが好ましい。
【0024】
予熱器11による加熱及び温度保持の熱源としては、例えば、ホットオイルボイラーとの間で循環されるホットオイル、及びスチームが挙げられる。熱源としてスチームを用いる場合、ジアリールカーボネートを混合槽7に受け入れる(供給する)間は、予熱器11内のジアリールカーボネートの温度及び/又は予熱器11の出口配管内のジアリールカーボネートの温度を温度制御(TIC制御方式)してもよい。また、ジアリールカーボネートを混合槽7に受け入れた後は、TIC制御方式から予熱器11の熱源(例えば、スチーム)側の圧力を制御する圧力制御(PIC制御方式)へ切り替えてもよい。あるいは、ジアリールカーボネートの混合槽7への受け入れ時と受け入れ停止時とで、温度センサーを、配管内のジアリールカーボネートの温度センサーから予熱器11の表面温度又は内温を検知する温度センサーに切り替えるTIC制御方式を用いてもよい。
また、計量器13及びジアリールカーボネートの移送ポンプの保温に用いる熱源としては、110〜200℃のスチームであることが好ましく、予熱器11の熱源は120〜220℃のスチームであることが好ましい。
【0025】
貯蔵タンク10と混合槽7との間に予熱器11が設けられる場合、ジアリールカーボネートは、その予熱器11で加熱されるので、貯蔵タンク10の温度を混合槽7における所望の温度まで高くする必要がない。また、ジアリールカーボネートの流動性を確保すると共に、その変色を防止する観点から、貯蔵タンク10と混合槽7との間の移送配管及び予熱器11の温度のうち少なくとも一方又は両方を82〜120℃に下げることもできる。この場合は、混合槽7自体を135〜220℃に加熱できるよう、加熱手段を付帯する必要がある。
【0026】
[芳香族ジヒドロキシ化合物の計量]
混合槽7に供給する芳香族ジヒドロキシ化合物の計量方法としては、例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物の貯蔵ホッパー(図示せず。)の質量を、その貯蔵ホッパーから混合槽7に芳香族ジヒドロキシ化合物を供給する前後で測定して、混合槽7へ供給された芳香族ジヒドロキシ化合物の実際の供給量を求める方法が挙げられる。あるいは、
図1に示すように、後述のロードセル3が設置された計量槽2に供給予定量又は供給予定量よりも多い芳香族ジヒドロキシ化合物を受け入れ、不活性ガスで雰囲気中の酸素及び水分を置換した後、ロードセル3の指示値に従って所定量を混合槽7に供給して、その供給前後の計量槽2の質量差から混合槽7へ供給された芳香族ジヒドロキシ化合物の実際の供給量を求める方法が挙げられる。
しかしながら、いずれの方法によっても、計量槽2やロードセル3が、風や外部の振動、外気温度などの外的な影響を受ける架台に設置されている場合は、計量精度が悪くなるおそれがある。そのような外的な影響を極力排除して、芳香族ジヒドロキシ化合物の計量精度をさらに向上する観点から、独立架台20に設置された計量槽2を用い、計量槽2に2点以上の測定点を有するロードセル3が設けられていることが好ましい。
【0027】
バケットコンベア1と計量槽2との間の配管、及び、芳香族ジヒドロキシ化合物を計量槽2から混合槽7へ供給する配管の少なくとも一部として、計量槽2がバケットコンベア1や混合槽7からの振動の影響を受け難くする観点から、フレキシブルチューブ6を用いることが好ましい。さらには、それらの配管に均圧配管(図示せず。)を接続することが好ましい。均圧配管を設けることにより、計量槽2へ供給された芳香族ジヒドロキシ化合物の質量をより正確に測定できるようになる。均圧配管は、フレキシブルチューブ6のジャバラ部に芳香族ジヒドロキシ化合物の粉末が滞留することを防ぐため、上記配管との接続部分に挿入管を備えたフレキシブルチューブを備えることが好ましい。さらには、均圧配管がフレキシブルチューブを備える場合、そのフレキシブルチューブのジャバラ部を不活性ガスでパージできるようにすることも好ましい。フレキシブルチューブ6及び均圧配管におけるフレキシブルチューブの材質は、計量槽2と同等の耐圧性を有するものであればよく、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)及びSUS(ステンレス鋼)が好ましい。
【0028】
好ましい芳香族ジヒドロキシ化合物の計量方法を以下に示す。すなわち、独立架台20に設置された、2点以上の測定点を有するロードセル3が設けられた計量槽2に、供給予定量の芳香族ジヒドロキシ化合物を受け入れる。次に、不活性ガスで計量槽2の中の雰囲気に含まれる酸素及び水分を置換する。次いで、混合槽7へ芳香族ジヒドロキシ化合物を供給する直前に、ロードセル3で計量槽2を計量し、その後、芳香族ジヒドロキシ化合物を全量、混合槽7へ供給する。次に、計量槽2のコーン部に取り付けた電動バイブレーター及び/又はエアーノッカーを作動させて、コーン部に付着した芳香族ジヒドロキシ化合物を混合槽7へ剥落させる。すなわち、計量槽2に対して混合槽7は、鉛直方向の下側に位置する。次に、空になった計量槽2の質量をロードセル3で計量して、混合槽7への芳香族ジヒドロキシ化合物の供給前後の質量差から、芳香族ジヒドロキシ化合物の実際の供給量を求める。さらに、混合槽7の液面計の指示値で芳香族ジヒドロキシ化合物の供給量をバックチェックすることもできる。
【0029】
[独立架台20]
図2は本実施形態に係る独立架台の一例を模式的に示す図である。
図2に示す例では、計量槽2を収容する建屋は、独立架台20とその外側に設けられた風よけ架台(図示せず。)の二重構造以上になっており、かつ独立架台20の基礎と風よけ架台の基礎が、それぞれ独立に設置された構造であることが好ましい。基礎を独立にすることによって、独立架台20に対する振動などの外的な影響を極力排除できる。さらに、独立架台20に対する外的な影響を一層防ぐために、配管、電気及び計装ケーブルダクトの支持部(サポート)が風よけ架台に接続されていることも好ましい。さらに、風よけ架台と独立架台20を跨ぐケーブル(電線等)が、柔軟性を有するものであることも好ましい。風よけ架台の壁、窓、ドアなどは、外部から風が入り難い構造であることも好ましい。さらに、風よけ架台の外部にさらに壁を設けることで、外気温の影響を少なくすることもできる。計量槽2は、ロードセル3を介して独立架台20に設置されている。独立架台20に設置されたロードセル3は、外部の振動などの影響を受けないため、ロードセル3を計量槽2に取り付けた状態の秤量精度を±0.15質量%以内にすることもできる。
【0030】
[芳香族ジヒドロキシ化合物の計量槽2]
芳香族ジヒドロキシ化合物を受け入れたときの空間容積を確保して、芳香族ジヒドロキシ化合物の粉末が飛散するのを抑制する観点、及び減圧や窒素置換に要する時間を短くする観点から、計量槽2の容量は、受け入れる芳香族ジヒドロキシ化合物の容量の1.5〜2.5倍が好ましく、1.5〜2.2倍がより好ましい。計量槽2の容量は、好ましくは250m
3以下、より好ましくは150m
3以下である。計量槽2を250m
3以下にすることで、設置する架台に必要な強度が大きくなりすぎたり、計量槽2を設置する建屋を非常に大きくしなければならなくなったりするのを防ぐことができる。
【0031】
計量槽2の圧力を混合槽7の圧力より高くして、計量槽2から混合槽7に不活性ガスを流れやすくすることによって、ジアリールカーボネート及び芳香族ジヒドロキシ化合物、並びに、場合によっては芳香族モノヒドロキシ化合物が配管等に付着することを防ぐことが好ましい。この場合、計量槽2の圧力は、混合槽7の圧力よりも高ければよく、計量槽2を混合槽7よりも高い位置(すなわち、鉛直方向の上側)に設置する場合は、0.1〜1000kPaGが好ましく、0.1〜500kPaGがよりに好ましく、0.05〜20kPaGがさらに好ましい。計量槽2から混合槽7へ芳香族ジヒドロキシ化合物を気力輸送する場合の計量槽2の圧力は、50〜1000kPaGが好ましい。計量槽2の圧力はPIC制御で調整して、所定の範囲内(計器の精度などによって変動幅が変わるが、例えば、設定が6kPaGの場合は±0.01kPaGから±0.05kPaG)に保持することが好ましい。芳香族ジヒドロキシ化合物を計量槽2に受け入れるときは、シーケンス制御などを用いて、バケットコンベア1の圧力を計量槽2の圧力よりも高くすることが好ましい。なお、本明細書において、単位の末尾に「G」が付されている圧力(例えば「kPaG」など」はゲージ圧力を意味し、単位の末尾に「a」が付されている圧力(例えば「Paa」など。)及び何も付されていない圧力(例えば「kPa」など。)は、絶対圧力を示す。
【0032】
後述する各重合器の圧力制御をより容易にする観点から、混合槽7へのジアリールカーボネートの受け入れから溶解混合物貯槽12A又は12Bにおいてエステル交換反応が平衡に到達するまでの溶解混合物の調合時間を、好ましくは12時間以内、より好ましくは8時間以内にすることが望ましい。そのような調合時間にするためには、芳香族ジヒドロキシ化合物が、計量槽2の受け入れ口で受け入れられてから排出口で排出されるまでの時間は短い方がよい。そのような観点から、計量槽2の上部と下部に接続される芳香族ジヒドロキシ化合物の受け入れ用配管と排出用配管の大きさは、芳香族ジヒドロキシ化合物の全量が2時間以内に受け入れ又は排出できる配管径にすることが好ましく、1.5時間以内に受け入れ又は排出できる配管径であればさらに好ましい。
【0033】
バケットコンベア1を介して芳香族ジヒドロキシ化合物を計量槽2に受け入れる場合、バケットコンベア1の出口と計量槽2の芳香族ジヒドロキシ化合物の入口手前に設けられてもよいバルブとの接続部は、
図1に図示するようにコーン形状であることが好ましい。接続部のコーン形状は、その頂点の角度が20〜90度であることが好ましく、30〜90度であることがより好ましい。
【0034】
計量槽2の下部もコーン形状であることが好ましい。この場合、計量槽2の下部のコーン形状における頂点の角度は、芳香族ジヒドロキシ化合物が滞留しない角度であればよい。好ましい計量槽2の下部のコーン形状における頂点の角度は20〜75度であり、より好ましくは20〜60度である。計量槽2のコーン形状の下部には、芳香族ジヒドロキシ化合物の粉末が滞留しないように、電動バイブレーター及び/又はエアーノッカーを取り付けることが好ましい。そして、芳香族ジヒドロキシ化合物を混合槽7に全量供給した後、計量槽2の壁面に付着している粉末を剥落させるために、電動バイブレーター及び/又はエアーノッカーにより数秒間から数分間、計量槽2を振動させることが好ましい。また、計量槽2へ芳香族ジヒドロキシ化合物を受け入れる時の衝撃で芳香族ジヒドロキシ化合物が粉化することを防ぐため、計量槽2の内部に、芳香族ジヒドロキシ化合物がその上を滑り落ちるための螺旋状のシューターが設けられてもよい。
【0035】
計量槽2にはベント配管(図示せず。)が接続されてもよく、そのベント配管に圧力制御弁が設けられていてもよい。その圧力制御弁のバイパスには、芳香族ジヒドロキシ化合物を受け入れる時に計量槽2内からガスを抜き出す作業、及び減圧して不活性ガスで置換する作業を考慮して、1〜20インチのボール弁等の自動弁が設けられていることが好ましい。ベント配管の配管径は、減圧にするための時間を想定して決められることが好ましい。
【0036】
計量槽2には、加圧用の不活性ガスを導入するための配管が接続されていてもよく、上記圧力制御弁のバイパスにも、1〜20インチのボール弁等の自動弁が設けられていることが好ましい。6インチ以上の自動弁の作動を早くするために自動弁用の計装エアーのバッファードラムを設けておくことも好ましい。不活性ガスを導入するための配管は、減圧から微加圧までを短時間で行える配管径であることが好ましい。その配管内が減圧にならないように、配管の途中にバッファードラムを設けることがより好ましい。
【0037】
計量槽2のベント配管に接続され得る計器への芳香族ジヒドロキシ化合物の粉末などの侵入を防止するため、その計器の取り付けノズルなどは、ベント配管に対して鉛直方向上側から下向きに垂直に接続することが好ましい。ベント配管に制御弁を設ける場合は、芳香族ジヒドロキシ化合物の粉末がその制御弁に詰まらないようにするため、制御弁の入口側と出口側のフランジ部から先の配管は、鉛直方向の下向きに取り付けられることが好ましい。また、芳香族ジヒドロキシ化合物の粉末などでベント配管が詰まった場合に、不活性ガスを配管内に流して粉末などを除去できるようにすることが好ましい。その場合、不活性ガスをベント配管に供給する配管は、ベント配管に対して鉛直方向上側から下向きに垂直に接続することが好ましい。
【0038】
計量槽2中に存在する酸素及び水分を不活性ガスで置換する場合、計量槽2内を減圧した後又は減圧しながら不活性ガスを計量槽2内に導入してもよい。その際に、芳香族ジヒドロキシ化合物の粉末が計量槽2内で舞い上がり、ベント配管を閉塞させてしまう可能性があるため、計量槽2のベント配管には、芳香族ジヒドロキシ化合物の粉末を除去するバグフィルターが設けられていることが好ましい。計量槽2からバグフィルターまでの配管は、水平方向に対して下向きに30〜90度の角度で設置されることが好ましく、より好ましくは60〜90度である。
【0039】
計量槽2の圧力を制御するために、スプリット制御等が用いられることが好ましい。ベント配管における圧力制御弁の排気能力は、計量槽2の容量の1〜5倍の排気能力(Nm
3/hr)を有することが好ましく、より好ましくは1.5〜3倍である。不活性ガスを供給するための配管にも圧力制御弁が設けられると好ましく、その圧力制御弁は、1時間当たりで計量槽2の容量の0.3〜2倍(Nm
3/hr)の供給能力を有すると好ましい。圧力制御弁の大きさ(内弁の口径)は、ベント配管の圧力制御弁及び不活性ガスを供給する配管の圧力制御弁とも、1/2〜2インチであることが好ましい。スプリット制御を行う場合、不感帯(入力信号が変化しても弁体がそれに伴って動作しない入力信号の範囲)が設けられることも好ましい。
【0040】
混合槽7の鉛直方向上側に計量槽2を設けて、バケットコンベア1で芳香族ジヒドロキシ化合物を計量槽2に受け入れる場合、計量槽2の下側に自動遮断弁である(好ましくは4面シートの)ボール弁4、さらにその下側にロータリーバルブ5(又はスクリューコンベア(図示せず。))を取り付けてもよい。また、ロータリーバルブ5と計量槽2下側のボール弁4との間に短管が設けられてもよい。これらの機器は、計量槽2の好ましくはコーン形状の下部から延びる支持部材で支持されることが好ましい。芳香族ジヒドロキシ化合物を気力輸送によって計量槽2から混合槽7に受け入れてもよい。気力輸送する場合は配管への芳香族ジヒドロキシ化合物粉末の付着を防ぐ観点から、芳香族ジヒドロキシ化合物が凝集したプラグ状態で供給配管内を移動するプラグ輸送が好ましい。また、気力輸送に用いる気体は不活性ガスであることが好ましい。気力輸送する場合、計量槽2から混合槽7への芳香族ジヒドロキシ化合物の輸送方式の一例として、フィーデンサー方式が挙げられる。気力輸送する場合、計量槽2を設置する位置は、混合槽7の上部より鉛直方向上側でも下側でもよい。
【0041】
[ロードセル3]
計量槽2に設けられ得るロードセル3は、上述のように2点以上の測定点を有する2点式以上であることが好ましく、3点式又は4点式であることがより好ましく、3点式であることが更に好ましい。ロードセル3を計量槽2に取り付けた後の秤量精度は、好ましくは±0.5質量%以内、より好ましくは±0.25質量%以内、さらに好ましくは±0.15質量%以内である。
【0042】
[ボール弁4]
計量槽2の上側及び下側には、芳香族ジヒドロキシ化合物の受け入れ口と排出口があり、その少なくとも一方にボール弁4が設けられていることが好ましい。また、排出口側のボール弁4はフランジに直接取り付けることが好ましい。ボール弁は、ボール弁のボールの裏側に芳香族ジヒドロキシ化合物の粉末が入り込むことを防ぐため、弁シートが4面シートである自動弁であることが好ましい。自動弁のサイズが大きくなっても、より速やかな動作を確保する観点から、計装エアーのバッファードラムが設けられることも好ましい。ボール弁4は、計量槽2の上部又は下部から延びる支持部材によって支持されることが好ましい。
【0043】
ボール弁4と接続する配管は、芳香族ジヒドロキシ化合物が付着しても溶融するように、40〜160℃に加熱することが好ましい。また、ボール弁4に対する不活性ガスを用いたパージ処理は、芳香族ジヒドロキシ化合物がボール弁4に付着することを防止できるので好ましい。
【0044】
[ロータリーバルブ5]
ロータリーバルブ5(又はスクリューコンベア)は、芳香族ジヒドロキシ化合物を混合槽7へなるべく一定速度で供給する観点から好ましい。そのロータリーバルブ5(又はスクリューコンベア)の出口には、短管及び/又はフレキシブルチューブ6が取り付けられてもよい。フレキシブルチューブ6は、内挿管(図示せず。)を備えたものが好ましい。内挿管が備えられたフレキシブルチューブ6を使用する場合、内挿管と配管の壁面とが接触することを防ぐため、フレキシブルチューブ6に接続する配管が、レデューサーであることも好ましい。フレキシブルチューブ6から混合槽7の上部ノズルまでの配管の傾斜角度は、水平方向に対して30〜90度が好ましく、60〜75度がさらに好ましい。短管及びフレキシブルチューブ6を含む計量槽2から混合槽7までの配管の径は、計量槽2で計量した芳香族ジヒドロキシ化合物の全量を0.25〜2時間で混合槽7へ供給できるような径であることが好ましい。
【0045】
ロータリーバルブ5の軸部に、不活性ガスを導入するための配管(図示せず。)が接続されていてもよい。ロータリーバルブ5の軸部からの空気の漏れ込み、及び、軸部と本体との隙間へ芳香族ジヒドロキシ化合物の粉末が入ることを防ぐため、ロータリーバルブ5のプロセス側と大気側の両方に不活性ガスを流せるようにすることが好ましい。不活性ガスのパージ量は、好ましくは0.1〜20Nm
3/hr、さらに好ましくは0.3〜10Nm
3/hrである。軸部と本体との隙間へ芳香族ジヒドロキシ化合物の粉末が入ることを防ぐため、ロータリーバルブの軸受け側の両側に、横板が取り付けられた構造も好ましい。
【0046】
[芳香族ジヒドロキシ化合物の混合槽7への供給]
芳香族ジヒドロキシ化合物を混合槽7に供給する工程(B)において、混合槽7へ供給された芳香族ジヒドロキシ化合物が、混合槽7の気相部を通過する速さを制御することは、芳香族ジヒドロキシ化合物が、混合槽7に接続され得るベント配管へ飛散することを防ぐ観点から好ましい。芳香族ジヒドロキシ化合物は、ガス(好ましくは不活性ガス)に同伴させることで混合槽7に供給することができる。例えば、混合槽7にガスを吹き込み、そのガスに同伴させることで芳香族ジヒドロキシ化合物を混合槽7に供給することができる。本実施形態では、芳香族ジヒドロキシ化合物を混合槽7へ供給するときのガスの線速(以下、「混合槽供給ガス線速」という。)を下記のように定義する。
混合槽供給ガス線速(m/sec)=(混合槽7に供給されるガスの最大流量(Nm
3/sec))÷(混合槽7におけるガス流の断面積(m
2))
ここで、「混合槽7に供給されるガスの最大流量」は、「混合槽7に吹き込まれるガスの最大流量」であってもよく、例えば、混合槽7内の圧力を制御するために、圧力制御弁が設けられたガスのベント配管を備える場合は、その圧力制御弁におけるガスの最大流量で確認することができる。なお、「最大流量」とは、各時点の流量のうちの最大流量を指す。また、「混合槽7におけるガス流の断面積」は、ガスが流通する領域におけるガスの流通方向に直交する断面積を意味し、混合槽7が直胴部を有し、その直胴部の一端から他端にガスが流通する場合は、その直胴部の軸方向に直交する断面の断面積を指す。混合槽供給ガス線速は0.005〜0.05m/secであることが好ましい。混合槽供給ガス線速を0.005〜0.05m/secに制御することで、芳香族ヒドロキシ化合物の粉末を混合槽7の液相により効率よく落下させ、ベント配管への飛散をより抑制することができる。混合槽供給ガス線速が0.05m/sec以下であると、混合槽7から排出される不活性ガスに同伴された芳香族ジヒドロキシ化合物の粉末が、ベント配管に入り込むことをより有効に防ぐことができ、ベント配管の閉塞や仕込みモル比が目標から外れるなどの問題をより抑制することができる。
【0047】
芳香族ジヒドロキシ化合物の混合槽7への供給が終了する時、計量槽2を加圧していたガスが、一気に混合槽7へ流れ込む(吹き抜け)状態になる。吹き抜け状態になると、計量槽2の圧力が、一時的に混合槽7と同圧〜(同圧+0.05kPa)になりやすくなる。適切な吹き抜け状態を達成することによって、計量槽2から混合槽7に芳香族ジヒドロキシ化合物を供給するための配管(以下、単に「芳香族ジヒドロキシ化合物の供給配管」という。)に一時的に付着した芳香族ジヒドロキシ化合物を、混合槽7へより確実に収容することが可能になり、さらに、混合槽7から飛散したジアリールカーボネートや芳香族モノヒドロキシ化合物及びそれらの溶解混合物が、芳香族ジヒドロキシ化合物の供給配管に付着することも防止できる。よって、吹き抜け状態のガス流量を制御することは重要である。
【0048】
しかしながら、吹き抜け状態のガス流量は、芳香族ジヒドロキシ化合物の混合槽7への供給方法(設備)、計量槽2の圧力やロータリーバルブ5等のクリアランス、芳香族ジヒドロキシ化合物の供給配管の配管径、ガスの供給量によって変化する。そこで、本実施形態では、混合槽7に芳香族ジヒドロキシ化合物の供給配管における吹き抜け状態でのガス線速(以下、「吹き抜けガス線速」と言う。)を下記のように定義する。
吹き抜けガス線速(m/sec)=(芳香族ジヒドロキシ化合物の供給配管におけるガス流量(Nm
3/sec))÷(芳香族ジヒドロキシ化合物の供給配管の断面積(m
2))
上記ガス流量は、例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物の供給配管が接続されている混合槽7上部から延びるノズルの混合槽7側の最初のノズルのフランジ部(第1フランジ部)を、計量槽2の容量と同量の不活性ガスが1分間で吹き抜けると仮定した時のガス流量であり、その場合、上記供給配管の断面積は、上記第1フランジ部の内径から求められる断面積である。
【0049】
計量槽2から、気力輸送によって芳香族ジヒドロキシ化合物を混合槽7へ供給する場合の吹き抜けガス線速は、0.1〜500m/secであると好ましく、1〜300m/secであるとより好ましく、20〜200m/secであるとさらに好ましい。計量槽2からロータリーバルブ5などを使用して芳香族ジヒドロキシ化合物を混合槽7へ供給する場合の吹き抜けのガス線速は、1〜100m/secが好ましく、2〜60m/secがより好ましく、4〜35m/secがさらに好ましい。吹き抜けのガス線速が0.1〜500m/secの範囲であれば、芳香族ジヒドロキシ化合物の供給配管に付着した芳香族ジヒドロキシ化合物の粉末を、より有効かつ確実に混合槽7へ剥落させることが可能になり、ジアリールカーボネートや芳香族モノヒドロキシ化合物が供給配管に付着することもさらに防止できる上に、芳香族ジヒドロキシ化合物の全量を混合槽7に供給するのに必要なガス線速をより確実に確保することができる。芳香族ジヒドロキシ化合物及びジアリールカーボネートが芳香族ジヒドロキシ化合物の供給配管に付着を防止することは、混合槽7内の溶解混合物における仕込みモル比を所定の範囲に保つことに対して有効である。
さらに、吹き抜け状態が短時間であれば、仕込みモル比を所定の範囲に保つ効果が一層発現されるので、吹き抜けの時間は、好ましくは0.01〜8分間、より好ましくは0.1〜5分間、さらに好ましくは0.2〜3分間である。
【0050】
吹き抜け状態で混合槽7の圧力が上昇したときに、吹き抜けた不活性ガスを排出するため、ベント配管の圧力制御弁のバイパスにボール弁タイプの遮断弁を設けることも好ましい。
【0051】
混合槽7に供給される前の芳香族ジヒドロキシ化合物は、上述のように固体の粉末状であってもよいが、液状であってもよい。芳香族ジヒドロキシ化合物が液状の場合、コリオリ式積算流量計等で芳香族ジヒドロキシ化合物を計量することによって、計量槽2を用いずに、混合槽7に供給された芳香族ジヒドロキシ化合物の質量を直接秤量することができる。芳香族ジヒドロキシ化合物が液状の場合、混合槽7へ芳香族ジヒドロキシ化合物を供給しないときは、その着色を防ぐために、芳香族ジヒドロキシ化合物の貯槽と芳香族ジヒドロキシ化合物の蒸留系との間に循環ラインを設けて、芳香族ジヒドロキシ化合物がそれらの貯槽と蒸留系との間を循環していることが好ましい。この場合、芳香族ジヒドロキシ化合物の貯槽に芳香族ジヒドロキシ化合物を戻すための配管が、芳香族ジヒドロキシ化合物の貯槽の入口の直前に接続されることも好ましいし、その配管は可能な限り短いことが望ましい。
【0052】
芳香族ジヒドロキシ化合物が液状の場合、混合槽7の入口のバルブは、三方弁(例えば、L型三方弁及びT型三方ポリマー弁)であることも好ましく、芳香族ジヒドロキシ化合物の供給配管が、均一に加熱できる二重管であることが好ましい。
【0053】
[混合槽7]
混合槽7には、必要に応じて、混合槽7内に設けられた内部コイル、混合槽7の外側に設けられた外部ジャケット又は混合槽7の外側に設けられた外部コイルなどの加熱手段、攪拌装置、並びに、溶解混合物を循環したり移送したりするための移送ポンプ8Aが設けられている。混合槽7は、芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとを溶解して溶解混合物を調製する槽、あるいは、芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとにエステル交換触媒を添加して一部又はほぼ全てを反応させて溶解混合物を調製する槽である。混合槽7は単独で用いてもよいし、複数用いてもよい。混合槽7に設けられる攪拌装置としては、より均一な溶解混合物が得られる機能を有するものであれば、公知の撹拌槽及び撹拌翼を用いることができる。また、常温の(つまり固体である)芳香族ジヒドロキシ化合物を混合槽7に供給して混合槽7中でジアリールカーボネートと混合する際に、芳香族ジヒドロキシ化合物の供給速度が高くなるほど、吸熱を伴う芳香族ジヒドロキシ化合物の溶融によって混合槽7の内温が低下しやすくなる。その結果、ジアリールカーボネートが析出したり芳香族ジヒドロキシ化合物が完全に溶融しなかったりする可能性もある。これを防ぐ観点から、混合槽7の外部に二重管式や多管式の熱交換器(図示せず。)を設けて、その熱交換器と混合槽7との間で、芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートと芳香族モノヒドロキシ化合物と必要に応じてエステル交換触媒とを含む内容物を循環させて、その内容物の液温を所望の温度に調整してもよい。
【0054】
芳香族ジヒドロキシ化合物を混合槽7に供給する際に、芳香族ジヒドロキシ化合物の一部が未溶融のスラリー状態であると、エステル交換反応が均一に進行しない可能性がある。混合槽7における液温が135℃以上であれば、芳香族ジヒドロキシ化合物が混合槽7内でスラリー状態になることを防げ、220℃以下であれば、芳香族ジヒドロキシ化合物の着色を防止できる。そこで、混合槽7の内容物の液温が135〜220℃に調整される。混合槽7内の液温は、より好ましくは140〜210℃であり、さらに好ましくは145〜200℃である。
【0055】
混合槽7における芳香族ジヒドロキシ化合物の供給口の近傍に、供給配管への塊になった芳香族ジヒドロキシ化合物、飛散したジアリールカーボネート、反応により生じた芳香族モノヒドロキシ化合物の蒸気が付着することを防ぐ観点から、4面シートのボール弁(図示せず。)が取り付けられることが好ましい。混合槽7内でジアリールカーボネートと反応により生じた芳香族モノヒドロキシ化合物との蒸気が、ボール弁の取り付けノズルに流れ込んで付着することを防ぐため、その取り付けノズルに不活性ガスを常時流すことが好ましい。取り付けノズルに流す不活性ガスの流量は1〜5Nm
3/hrが好ましい。
【0056】
芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとを混合槽7に受け入れる時に、混合槽7の気相部の圧力が上昇する。上昇した圧力を低下させるため、混合槽7は、不活性ガスなどを速やかに混合槽7外へ排出させるためのベント配管が設置されることが好ましい。混合槽7から後述のスクラバー9に至るまでの間では、ベント配管を45〜220℃に加熱することが好ましく、45〜190℃に加熱することがより好ましく、45〜160℃に加熱することがさらに好ましい。そのベント配管の温度を45℃以上にすることで、芳香族モノヒドロキシ化合物の固化をより抑制することができる。ベント配管の温度を220℃以下にすることで、ベント配管で着色した芳香族ジヒドロキシ化合物が混合槽7へ逆流して、芳香族ポリカーボネートの品質低下につながることをより有効に防止することができる。
【0057】
芳香族ジヒドロキシ化合物がベント配管から混合槽7へ逆流することを防止するため、混合槽7のベント配管は、垂直に上方に延びた後、水平方向に対して0.05度以上の角度になるように下向きに延び、そのベント配管の出口ノズルより鉛直方向下側に設けられたスクラバー9に接続されることが好ましい。
【0058】
スクラバー9をスクラビング液が循環するエジェクター方式にすると、混合槽7から延びるベント配管をわずかに減圧にできるので、芳香族モノヒドロキシ化合物、ジアリールカーボネート及び芳香族ジヒドロキシ化合物の蒸気又は凝縮液がベント配管内に滞留し難くなり、好ましい。
【0059】
混合槽7への芳香族ジヒドロキシ化合物の供給が終了した後、及び/又は、ジアリールカーボネートの小供給の後、芳香族ジヒドロキシ化合物に同伴して混合槽7に混入した酸素及び水分を除去するため、混合槽7の内容物を不活性ガスでバブリングすることも好ましい。不活性ガスのバブリング流量は、1時間当たりで混合槽7の容量の0.01〜0.5倍の流量(Nm
3/hr)であることが好ましく、より好ましくは0.05〜0.4倍、さらに好ましくは0.1〜0.25倍である。バブリングする時間は5分間以上が好ましく、後述の溶解混合物貯槽12A及び/又は12Bへ溶解混合物を移送する直前までバブリングを続けることが好ましい。
【0060】
混合槽7がジアリールカーボネートを受け入れる温度によっては、混合槽7の液面が上昇し、撹拌が開始されるまでに混合槽7内の液温が低下する可能性がある。混合槽7内の液温が低下した場合、ガスの供給量(置換ガス及び芳香族ジヒドロキシ化合物を混合槽7に供給するために用いられるガスの総量)が少ないと混合槽7が減圧になる。混合槽7が減圧になることを防止するため、混合槽7内の液温を制御する温度制御方式(TIC制御方式)と熱源として用いられる得るスチームの圧力を制御する圧力制御方式(PIC制御方式)に切り替えることが好ましい。あるいは、混合槽7が減圧になることを防止するため、混合槽7が、圧力制御弁が設けられたガスのベント配管を備える場合は、その圧力制御弁の供給能力を大きくすることやガスの圧力制御弁を二重に設けることも好ましい。
【0061】
混合槽7の加熱手段の熱源にはスチームを用いるのが好ましい。好ましい加熱手段としては、内部コイル、外部ジャケット及び外部コイルが挙げられる。これらはいずれかを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。内部コイルを用いる場合、内部コイルは2〜6重に配されることが好ましい。
【0062】
混合槽7へ芳香族ジヒドロキシ化合物を供給する時や混合槽7の液温を昇温する時は、熱源にスチームを用いる場合、加熱手段、特に内部コイル及び/又は外部ジャケットのスチームと混合槽7内の温度との温度差が大きくなりやすいため、水蒸気凝縮液(以下、「スチームドレン」ともいう。)が大量に発生しやすくなる。スチーム及びスチームドレンは、好ましくはスチーム回収設備を含むスチーム回収系に戻される。スチーム回収設備は、スチーム及びスチームドレンを回収して、再び加熱手段の熱源として用いるために、必要に応じて加熱・加圧する設備である。スチームドレンをスチーム回収系に戻そうとする場合、スチーム回収系の圧力よりもスチームドレンの圧力が低いと、それらの間に位置するスチームトラップではスチームドレンをスチーム回収系へ戻せない場合がある。その際、スチームドレンがスチーム回収系に合流する箇所近くでスチームハンマーが起こりやすくなる。スチームハンマーが頻繁に起こると、加熱手段を破損させる可能性があるので、そのような破損を防止するため、例えば、下記の方法を採用することができる。なお、「スチームトラップ」は、混在するドレン及びスチームからドレンを選択的に捕集するものである。
【0063】
ここで、
図3は、混合槽7の加熱手段(例えば、内部コイル及び/又は外部ジャケット又は外部コイル。以下、これらをまとめて「内部コイル等」という。)の熱源としてスチームを用いた場合に、複数のスチーム配管が、混合槽7からの出口からスチーム及びスチームドレンを回収するスチームドレン排出設備内のドレンドラムに各々独立に接続する態様の一例を模式的に示す図である。また、
図4は混合槽7の加熱手段の熱源としてスチームを用いた場合に、複数のスチーム配管の一部が、混合槽7からの出口の後に合流し、スチームドレン排出設備内のドレンドラムに接続する態様の一例を模式的に示す図である。
図4において、合流した後のスチーム配管の径は、合流する前のスチーム配管の径の例えば2〜20倍である。これらの
図3及び4は、加熱手段としていずれも内部コイル及び外部ジャケットを用いた場合のものである。
(1)内部コイルとして複数のスチーム配管があり、それらが混合槽7からの出口で合流していない場合は、それらの配管をスチームドレン排出設備21内のスチームドレンのドレンドラム22へそれぞれ独立に接続する(
図3を参照)。
(2)内部コイルとして複数のスチーム配管があり、それらが混合槽7からの出口に接続したスチームドレン排出設備21内で合流して1つの径大配管を形成し、その径大配管がドレンドラム22に接続する場合は、径大配管の径を内部コイルの各スチーム配管の径の例えば2〜20倍にする(
図4を参照)。
(3)内部コイルの混合槽7への入口よりも前段及び混合槽7からの出口よりも後段からそれぞれ約1コイル分の配管用鋼管に用いられるパイプの肉厚を厚くする(例えば、パイプの肉厚寸法で用いられるスケジュール番号でSch10からSch160にする)。
(4)混合槽7からの出口近くの内部コイルの径をレデューサーで1.2〜4倍に大きくする。
【0064】
スチームドレンの排出をより容易にして、スチームドレンがスチームコイル内に蓄積し難くなるようにするため、上述のうち、(1)及び(2)の方法がより好ましい。
内部コイル等からのスチームドレンを大型のドレンドラムに回収する場合、そのドレンドラムの容量は、1時間当たりのスチームの最大供給量(トン/hr;内部コイル、外部ジャケット及び外部コイルで用いられるスチームの合計量として。)の0.001〜0.4倍が好ましく、さらに好ましくは0.0025〜0.2倍である。
【0065】
ドレンドラム22内の圧力がスチーム回収設備(例えば
図3及び
図4において符号24で示す。)の圧力よりも低い場合は、スチーム及びスチームドレンを排水溝25又は地下に設けられた大気圧のドレンドラム(図示せず。)へ排出することが好ましい。一方、ドレンドラム22内の圧力がスチーム回収設備24の圧力よりも高くなる場合は、スチーム及びスチームドレンをスチーム回収設備24側に排出することが好ましい。
【0066】
混合槽7の内部コイル等のスチーム出口からスチーム及びスチームドレンを回収する場合、地下ドラムなどにスチームドレンを受け入れた後に、ポンプで回収系に送ることが好ましく、その場合、スチーム出口の配管にドレンドラムを設けるとスチームドレンをより効率よく排出・回収できるので好ましい。ドレンドラムからのスチームドレンの排出は、ドレンドラムにおけるLIC(Level Indication Control)でその排出量を制御するか、及び/又は、スチームトラップ(例えば
図3及び
図4において符号23で示す。)を経由することがより好ましい。上記LIC制御(及びその制御に用いるLIC制御装置)を用いると、大量のスチームドレンが発生した場合、ドレンドラムが満杯になる前にスチームドレンを系外に排出でき、内部コイル等の中にスチームドレンが残り難くなるため、スチームハンマーによる内部コイル等の破損をより確実に防止できる。また、スチームトラップ23を用いて、スチーム回収設備24のスチーム圧力よりも高い圧力でスチームドレンを回収すれば、熱の損失がより少なく、かつより簡便な設備になる。また、LIC制御とスチームトラップ23とを併用すると、スチーム回収設備24のスチーム圧力よりも、スチームドレンの圧力が低いときは系外へ排出し、スチームドレンの圧力が高いときは、スチームトラップ23でスチームドレンをスチーム回収設備24へ戻すことができるので、さらに好ましい。
【0067】
内部コイルは、それを固定するための支持部(以下、「サポート」という。図示せず。)が設けられていると好ましい。そのサポートは、バッフルを兼ねており、3箇所以上設けることか好ましい。内部コイルは、そのサポートに固定されている部分及びその部分から内部コイルの延びる方向に沿って20〜30cmの領域では、パイプの中を内部コイルが通る形態にすることが好ましい。これにより、内部コイルをサポートへ固定するためのUボルトを用いて、内部コイルが破損することを防止できるので好ましい。内部コイルの固定に用いるUボルトはダブルナットであって、かつサポートに溶接されたものであると好ましい。さらに、内部コイルからスチームが漏洩した場合に混合槽7の圧力が上昇するので、内部コイル内へのスチームの供給を停止するインターロックを設けておくことも好ましい。
【0068】
[スクラバー9]
スクラバー9は、スクラビング液を循環させて、蒸気を吸収する一般的な補集システムである。例えば、スクラバー9は、鉛直方向のほぼ中央部に混合槽7の頂部より延びたベント配管が接続された縦型の槽であって、槽の上部には蒸気を吸収した後のガスを排出するための排気管が接続されている。スクラバー9の態様としては、例えば、充填塔、エジェクター、回転噴霧塔及びベンチュリーが挙げられる。スクラバー9からの排気管は、大気に直接開放されていてもよいし、他の設備からのベント配管と接続されていてもよい。あるいは、混合槽7の頂部より延びたベント配管内にスクラビング液を循環させることによって、発生する蒸気を吸収してもよい。この場合、例えば、スクラビング液を冷却するための熱交換器がスクラビング液の循環ラインに設けられており、循環するスクラビング液の温度は0〜115℃に冷却されてスクラバー9に戻される。
【0069】
スクラビング液は、特に限定はないが、例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物及び/又はジアリールカーボネートを溶解又は分解吸収できる揮発性の低い溶媒、あるいは、蒸気を冷却固化できる低温の液体である。スクラビング液としては、例えば、芳香族モノヒドロキシ化合物、ジアリールカーボネート、アルキルアリールカーボネート、水、水酸化ナトリウム水溶液、エチレングリコール及びトリエチレングリコールが挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0070】
スクラビング液には、芳香族ジヒドロキシ化合物を含有させてもよく、スクラビング液に含有させる化合物とそれらの割合を選択することによって、スクラビング液の融点を低下させ、循環するスクラビング液の温度を低下させることもできる。例えば、芳香族モノヒドロキシ化合物の1種であるフェノール(以下、「PH」と表記する。)が約45質量%、アルキルアリールカーボネートの1種であるメチルフェニルカーボネート(以下、「MPC」と表記する。)が約54質量%、芳香族ジヒドロキシ化合物の1種であるビスフェノールA(以下、「BPA」と表記する。)が約1質量%以下の混合物は、0℃でも凝固しない。また、MPCとPHとの混合物は、PHが95質量%以下なら40℃では凝固しない。芳香族モノヒドロキシ化合物をスクラビング液として用いる場合、循環液の温度は好ましく42〜115℃、より好ましくは42〜85℃、さらに好ましくは42〜75℃、特に好ましくは42〜70℃である。また、BPAを5質量%以下含むMPCとPHとの混合液をスクラビング液として用いる場合、スクラビング液の温度は、好ましくは0〜115℃、より好ましくは0〜85℃、さらに好ましくは0〜35℃、特に好ましくは0〜20℃である。
【0071】
スクラビング液をスクラバー9内に噴霧供給することにより、蒸気とスクラビング液とをより十分に接触させて、芳香族モノヒドロキシ化合物、ジアリールカーボネート、及び芳香族ジヒドロキシ化合物の蒸気を捕集する方法も好ましい。芳香族ジヒドロキシ化合物等がスクラビング液に完全に溶解しない場合は、スクラバー9からのスクラビング液の移送ラインに設けられ得る移送ポンプ、及び/又は、循環ラインに設けられ得る循環ポンプの吸込側に設けたサクションフィルターで、未溶解物を除去することも好ましい。重合工程で副生する芳香族モノヒドロキシ化合物をスクラビング液として用いる場合、芳香族モノヒドロキシ化合物に水分や芳香族ジヒドロキシ化合物が含まれることがある。その場合は、水及び芳香族ジヒドロキシ化合物等の高沸成分を分離できる蒸留塔で芳香族モノヒドロキシ化合物を蒸留することが好ましい。
【0072】
スクラビング液中の芳香族ジヒドロキシ化合物又はジアリールカーボネートの濃度が一定以上になった場合は、スクラビング液の一部を連続的に抜き取りながら、新たなスクラビング液を加えて、スクラバー9を連続的に運転することが好ましい。スクラビング液の一部を連続的に抜き取る方法としては、例えば、スクラバー9の槽底(ボトム)にある液の液面レベルを所定の狭い範囲内(例えば、スクラバー9内のスクラビング液がスクラバー9を運転できる範囲で最も少ない場合のスクラビング液の液面レベルを0%とし、最も多い場合のスクラビング液の液面レベルを100%とした場合に、0%〜100%のうちの任意の±1%以内)に保持するようにスクラビング液の一部を抜き取るレベルコントロール方式、及び、上記のスクラビング液の液面レベルを10〜90%の間で制御するセミバッチ方式が好ましい。
【0073】
[移送ポンプ8A]
移送ポンプ8Aは、混合槽7から抜き出された溶解混合物を再び混合槽7へ戻すように循環させたり、溶解混合物を溶解混合物貯槽12A又は12Bへ移送したりするものである。移送ポンプ8Aは、未溶融の芳香族ジヒドロキシ化合物がその移送ポンプ8Aに吸い込まれた場合、未溶融の芳香族ジヒドロキシ化合物を粉砕できる機構を有するポンプであることが好ましい。
【0074】
移送ポンプ8Aの吸込側には、サクションストレーナが設けられていることが好ましい。サクションストレーナを交換又は掃除するとき、付着した溶解混合物を芳香族モノヒドロキシ化合物で洗浄できるように、芳香族モノヒドロキシ化合物を供給するための配管が移送ポンプ8Aに接続されていてもよい。混合槽7へ最初にジアリールカーボネートを供給するときに、ジアリールカーボネートの一部が、移送ポンプ8Aの吸込側配管に混入する可能性があるので、溶解混合物を混合槽7から溶解混合物貯槽12A又は12Bへ移送する前に、混合槽7及び移送ポンプ8A間で短時間の循環運転を行ってから、溶解混合物を混合槽7から溶解混合物貯槽12A又は12Bへ移送することによって、吸込側配管へのジアリールカーボネートの残存を抑制することもできる。
【0075】
移送ポンプ8A本体の温度は、キャビテーション及び液封を防止するため、溶解混合物の温度よりも低いことが好ましい。混合槽7から溶解混合物貯槽12A又は12Bへの溶解混合物の移送配管は、溶解混合物の着色、変質及び液封を防止するため、溶解混合物の温度よりも低い温度のスチーム又は熱媒ボイラーから供給される熱媒油で加熱されることも好ましい。
【0076】
移送ポンプ8Aの空運転を防止するため、混合槽7の槽底に接続された配管に設けられたレベルスウィッチ(LIS)で混合槽7槽底の液面レベルの低下を検知し、移送ポンプ8Aが自動で停止することが好ましい。同様に移送ポンプ8Aの空運転を防止するため、移送ポンプ8Aの電流値の低下を検知して、自動で停止することも好ましい。溶解混合物貯槽12A及び/又は12Bの液面レベルが想定より高くなることや、溶解混合物貯槽12A及び/又は12Bの圧力が異常に上昇することを防止するため、インターロックによって移送ポンプ8Aを停止することも好ましい。
【0077】
[溶解混合物貯槽12A及び12B]
溶解混合物貯槽12A及び12Bは、混合槽7で調製された溶解混合物を所定の平衡反応率になるまで反応させるための貯槽である。溶解混合物は、溶解混合物貯槽12A及び12B内で、好ましくは160〜220℃の液温で1〜12時間保持される。上記液温は、好ましくは160〜220℃、より好ましくは160〜210℃、更に好ましくは180〜200℃である。また、上記保持する時間は、好ましくは1〜12時間、より好ましくは1.2〜8時間、更に好ましくは1.5〜6時間である。溶解混合物を平衡反応率に到達した反応混合物にするためには、160℃以上で1〜12時間保持することが好ましい。平衡反応率に到達した反応混合物を後述の撹拌槽式第1重合器14へ供給すると、プレポリマー及び/又はポリマーのMn、及び/又は、ポリマー末端水酸基比率(以下、「OH%」と表記する。)が大きく変動するのをより抑制でき、後述のメイン重合器18A及び18Bの運転圧力を調整するのがより容易になるため、好ましい。また、220℃以下で保持すると最終製品である芳香族ポリカーボネートが着色し難いので好ましい。反応混合物が平衡反応率に到達したか否かを確認するには、反応混合物を採取して下記実施例に記載の方法に準拠して測定すればよい。
【0078】
また、後述のように、溶解混合物が溶解混合物貯槽12A及び12B内で不活性ガスによりバブリングされる場合や、溶解混合物貯槽12A及び12Bに備えられ得る計器や攪拌機のメカニカルシールが少量の不活性ガスでパージされる場合、用いられた不活性ガスは溶解混合物貯槽12A及び12Bから系外に排出される。その際、副生する芳香族モノヒドロキシ化合物が不活性ガスに同伴して系外に排出されることがある。排出された芳香族モノヒドロキシ化合物の量が多くなって、エステル交換反応が想定以上に進行するのを抑制する観点から、上記保持する時間は12時間以下であることが好ましい。これにより、溶解混合物貯槽12A及び12Bから排出される芳香族モノヒドロキシ化合物の量をより抑制することができる。
【0079】
溶解混合物貯槽12A及び12Bは、内部コイル及び/又は外部ジャケット、エステル交換触媒を添加するための添加用ノズル、攪拌装置、並びに溶解混合物の平衡反応率を測定するためのサンプリング(採取)用ノズルのうち少なくとも1つを備えていることが好ましい。また、溶解混合物貯槽12A及び12B中の溶解混合物を不活性ガスでバブリングすることは、芳香族ジヒドロキシ化合物に同伴して混入した水分を除去する観点から好ましい。溶解混合物貯槽は、好ましくは図示するように2基以上設けられ、好ましくは2基又は3基設けられる。これにより、2基以上のうち一部の溶解混合物貯槽に溶解混合物を供給し、そこで得られた反応混合物をプレポリマー又はポリマーを得るための重合工程に供給する間に、他の一部の溶解混合物貯槽に溶解混合物を供給し、そこで反応混合物を得ることができる。その後、最初の一部の溶解混合物貯槽での反応混合物の量が所定量まで減少したら、他の一部の溶解混合物貯槽で得られた反応混合物をプレポリマー又はポリマーを得るための重合工程に供給することができる。そして、その間に、他の一部の溶解混合物貯槽に溶解混合物を供給し、そこで反応混合物を得ることができる。このようにして、重合工程に反応混合物を供給する溶解混合物貯槽を繰り返し切り替えることで、装置全体として連続的に運転することが可能になるので好ましい。
【0080】
溶解混合物貯槽12A及び/又は12B内の圧力を調整するため、溶解混合物貯槽12A及び/又は12Bの上部には、不活性ガスを導入する配管及び不活性ガスを排出するベント配管が設けられていてもよい。図示するように2基以上の溶解混合物貯槽を用いる場合は、複数のベント配管を均圧配管で接続してもよい。溶解混合物貯槽のベント配管は、溶解混合物貯槽からベント配管の出口に向かって、少なくともその一部が下向きに延びて、スクラバーに接続されていることが好ましい。これにより、ベント配管から排出された不活性ガスに同伴し得る芳香族モノヒドロキシ化合物が溶解混合物貯槽に逆流するのをより効率的に防ぐことができ、スクラバーにより芳香族モノヒドロキシ化合物を吸収することができる。溶解混合物貯槽に接続されるスクラバーは、図示するように混合槽7と同じスクラバー9を用いてもよいし、別のスクラバーを設けてもよい。溶解混合物貯槽の熱源にスチームを用いる場合、スチームの出口の配管は混合槽の熱源にスチームを用いる場合と同様にすることが好ましい。
【0081】
[移送ポンプ8B、8C]
移送ポンプ8B及び8Cは、溶解混合物貯槽12A及び12Bから抜き出された反応混合物を再び溶解混合物貯槽12A及び12Bへ戻すように循環させたり、反応混合物を撹拌槽式第1重合器14へ移送したりするものである。移送ポンプ8B及び/又は8Cは、その吸込側のサクションフィルターに芳香族モノヒドロキシ化合物を供給するための配管(図示せず。)を接続して、移送ポンプ8B及び/又は8Cのサクションストレーナを交換又は掃除するとき、付着した溶解混合物を芳香族モノヒドロキシ化合物で洗浄できるようにすることが好ましい。移送ポンプ8B又は8Cがキャビテーションを起こすことをより有効に防ぐため、溶解混合物貯槽12A及び12B間の切り替えは、それらの貯槽のうち移送ポンプにより反応混合物を流出している一方の貯槽に収容された液の液面レベルが、そこに受け入れた溶解混合物の量の10質量%に対応するレベル以下になったときに他方の貯槽から流出できるように移送ポンプを切り替えることが好ましい。移送ポンプを切り替える目安となる液面レベルは、受け入れた溶解混合物の量の5質量%に対応するレベル以下がより好ましい。
【0082】
[反応混合物の濾過用フィルター(図示せず)]
溶解混合物貯槽12A及び12Bと撹拌槽式第1重合器14の間には、反応混合物中の異物を除去するためのフィルターエレメントが装着されたフィルターが設けられていてもよい。このフィルターによって反応混合物中の異物が除去される。フィルターは、直列に1基以上設けられていてもよく、孔径が同じ又は異なるフィルターが2基以上設けられることがより好ましい。さらに、フィルターエレメントが閉塞しても、撹拌槽式第1重合器14への反応混合物の供給を停止しないよう、予備のフィルターを並列に設けることも好ましい。
【0083】
使用するフィルターエレメントは、キャンドルタイプ、デイスクタイプのどちらでも好ましい。フィルターエレメント内部の構造材は、金網、金属焼結体、金属繊維、パンチングメタルなどが使用でき、単独又はいずれかを組み合わせたものを使用できる。フィルターエレメントの孔径は、濾過精度が98%以上の0.25〜50μmを使用することが好ましく、孔径の大きいものを上流に、孔径の小さいもの下流に使用することがより好ましい。
フィルターエレメントの表面を加熱及び/又は酸で処理してもよい。また、フィルターエレメントを使用する前に、フィルターエレメントに付着している微量の酸成分などの反応阻害物質を中和したり、表面の吸着酸素や油分を除去するために、1〜1000ppmのアルカリ水(例えば、水酸化カリウム水溶液)及び/又は45〜180℃の芳香族モノヒドロキシ化合物を添加した溶解混合物で洗浄することも好ましい。
【0084】
フィルターエレメントを固定するときに使用するガスケットの材質は、耐熱温度が220℃以上のものが好ましい。また、芳香族ジヒドロキシ化合物、芳香族モノヒドロキシ化合物、ジアリールカーボネートと接触しても劣化しないものが好ましい。
【0085】
未溶解物をより少なくする観点から、溶解混合物貯槽12A及び12Bから撹拌槽第1重合器14に反応混合物を移送する移送配管は、スチームトレース及び/又は二重管式により、その中の反応混合物の温度低下を抑制することが好ましい。さらに、その移送配管が二重管式の場合、反応混合物の予熱器として用いることができ、熱源が熱媒ボイラーから供給される熱媒油又はスチームであることも好ましい。
【0086】
[反応混合物の流量調節計(図示せず)]
撹拌槽式第1重合器14の反応混合物の入口には、反応混合物の供給量を調整する流量調節計が設けられると好ましい。その流量調節計は、反応混合物の流量調節弁と積算流量計(図示せず。)とを組み合わせたものが好ましく、ジャケットが付帯しているとより好ましい。反応混合物の流量調節弁は、撹拌槽式第1重合器14の側面であって、その重合器内にある液相部の液面の位置に設けられることが好ましい。反応混合物の供給量は、上記積算流量計(後述の反応混合物の予熱器が備えられる場合はその手前に設けられる。)で測定され、流量調節弁で所定の範囲内の流量に制御される。
【0087】
[反応混合物及びプレポリマーの予熱器(図示せず)]
溶解混合物貯槽12A又は12Bから撹拌槽式第1重合器14まで反応混合物を供給する供給配管に、反応混合物の予熱器を設けることができる。反応混合物の予熱器は、反応混合物を溶解混合物貯槽12A又は12B中の温度以上、撹拌槽式第1重合器14での反応温度以下に加熱できることが好ましい。反応混合物の予熱器は、撹拌槽式第1重合器14で蒸発する芳香族モノヒドロキシ化合物の量の0〜50質量%を蒸発できる熱量を与えられるものであることが好ましい。
【0088】
撹拌槽式第1重合器14から撹拌槽式第2重合器15までプレポリマーを供給する供給配管に、プレポリマーの予熱器を設けることができる。プレポリマーの予熱器は、撹拌槽式第2重合器15で蒸発する芳香族モノヒドロキシ化合物の量の0〜50質量%を蒸発できる熱量を与えられるものであることが好ましい。
【0089】
[撹拌槽式第1重合器14、撹拌槽式第2重合器15]
撹拌槽式第1重合器14及び撹拌槽式第2重合器15は、反応混合物からMnが400〜7000のプレポリマーを製造する設備である。撹拌槽式重合器の形式は、撹拌翼の回転軸が垂直方向である公知の竪型反応器であると好ましい。
【0090】
ジアリールカーボネートの混合槽7への供給開始から、反応混合物の撹拌槽式第1重合器14への供給終了までの時間は、エステル交換反応によって生成した芳香族モノヒドロキシ化合物が系外に排出されることに伴い反応混合物中の芳香族ジヒドロキシ化合物の濃度が変動することを防ぐ観点から、好ましくは1〜24時間、より好ましくは2〜12時間、さらに好ましくは3〜8時間である。
【0091】
撹拌槽式第1重合器14は、好ましくは、内温210〜240℃、圧力6.65〜13.3kPa(50〜100Torr)で連続運転される。撹拌槽式第1重合器14の出口におけるプレポリマーのMnは400〜1200であると好ましい。撹拌槽式第1重合器14における、反応混合物及びプレポリマーの滞留時間は1.5時間以内が好ましい。
【0092】
撹拌槽式第1重合器14で製造されたプレポリマーは、撹拌槽式第1重合器14のボトムに接続された配管に設けられた移送ポンプ(図示せず)で連続的に撹拌槽式第2重合器15に移送される。移送ポンプの形式としては、例えばギヤポンプが挙げられる。撹拌槽式第1重合器14から撹拌槽式第2重合器15までのプレポリマーの移送配管の途中に予熱器を設けて、プレポリマーを210〜275℃に加熱してもよい。また、その移送配管には固形分を除去するためのフィルターが設けられてもよい。
液封及び反応混合物の着色をより有効かつ確実に防ぐために、溶解混合物貯槽12A又は12Bから撹拌槽式第1重合器14までの配管及びフィルターは、それら自体の温度を、それらと接触する反応混合物の温度と同じに又は低くすることが好ましい。
【0093】
撹拌槽式第2重合器15は、好ましくは、内温240〜275℃、圧力1.3〜3.99kPa(10〜30Torr)で連続運転される。撹拌槽式第2重合器15の出口におけるプレポリマーのMnは2000〜7000であると好ましい。
【0094】
各重合器のボトムに設けられているプレポリマー又はポリマーの抜出しと移送を行うための移送ポンプの回転数と吐出圧、及び/又は吐出配管に設けられた粘度計、及び/又は重合器のプレポリマー又はポリマーの入口の圧力などで、各重合器の分子量を確認できることが好ましい。
【0095】
[不活性ガス吸収設備(図示せず)]
本実施形態の製造装置は、プレポリマーやポリマーに不活性ガスを吸収させるための不活性ガス吸収設備を、撹拌式第1重合器14と撹拌式第2重合器15との間、及び/又は、撹拌式第2重合器15と後述のメイン重合器16との間に備えてもよい。不活性ガス吸収設備は、例えば、国際公開第99/64492号に記載されているエステル交換反応を促進するために、プレポリマーやポリマーに不活性ガスを吸収させる。不活性ガス吸収設備としては、例えば、内部にワイヤー及び/又は金網が設けられている竪型筒槽(例えば、竪型円筒槽)並びに撹拌槽が挙げられる。
【0096】
[メイン重合器16、18A及び18B]
メイン重合器16、18A及び18Bは、撹拌式第2重合器15から供給されるプレポリマーから、Mnが4000〜30000のプレポリマー及びポリマーを製造するための重合器である。これらのメイン重合器16、18A及び18Bの形式としては、例えば、ワイヤーや金網にプレポリマーやポリマーを沿わせながら落下させて重合する公知のワイヤー式竪型筒槽(例えば、竪型円筒槽)、及び、撹拌翼の回転軸が水平方向である横型重合槽などの公知の横型重合器が挙げられる。メイン重合器16、18A及び18Bは、それぞれ1基以上であって、全てワイヤー式竪型筒槽又は全て横型重合槽でもよいし、ワイヤー式竪型筒槽と横型重合槽とを組み合わせてもよい。メイン重合器の基数は特に限定されず、図示するように3基であってもよいが、好ましくは2〜6基である。
図1に示すように、本実施形態の製造装置が、メイン重合器16、18A及び18Bを備える場合、メイン重合器16における温度及び圧力は、所望のプレポリマー及びポリマーが得られる範囲であれば特に限定されないが、好ましくは、温度が240〜300℃、圧力が990〜20Paaである。また、メイン重合器18A及び18Bにおける温度及び圧力は、所望のプレポリマー及びポリマーが得られる範囲であれば特に限定されないが、好ましくは、温度が250〜300℃、圧力が500〜20Paaである。
【0097】
[装置の材質など]
本実施形態で用いられる各機器や装置の材質は公知のものであればよく、例えば、18−8ステンレスとも呼ばれるオーステナイト系ステンレス鋼が好ましい。具体例としては、SUS302、SUS304、SUS304L、SUS309S、SUS310S、SUS316、SUS316L、SUS317、SUS321及びSUS347が挙げられる。より好ましい材質は、SUS304及びSUS316である。また、これらのステンレス鋼に、更にニオブやバナジウムを含ませてもよい。それらの金属元素をステンレス鋼に含ませる方法としては、例えば、溶融鋼にそれらの金属を添加したり、イオンエッチングや蒸着などの方法で添加したりする方法が挙げられる。ステンレス鋼の中に含まれるニオブ及びバナジウムの合計含有量は10〜1000ppmが好ましい。
【0098】
貯蔵タンク10からメイン重合器18A及び18Bまでの配管及び機器の金属表面は、バフ仕上げされていてもよい。それらの金属表面の表面粗度は、好ましくは50μm以下、より好ましくは10μm以下である。配管及び機器の金属表面は、金属表面に付着している汚れ、オイル、及び反応阻害物(例えば、酸など)、並びに金属表面の吸着酸素を除去するため、薬品、温水、希薄アルカリ、並びに、芳香族モノヒドロキシ化合物、ジアリールカーボネート、及び芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとの溶融混合物からなる群より選ばれる1種以上により洗浄されることも好ましい。
【0099】
[芳香族ジヒドロキシ化合物]
本実施形態に係る芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、特許文献1に記載されている芳香族ジヒドロキシ化合物が用いられる。特に好ましい芳香族ジヒドロキシ化合物は、BPAである。さらに、芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種のみを単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0100】
[ジアリールカーボネート]
本実施形態に係るジアリールカーボネートとしては、例えば、特許文献1に記載されているジアリールカーボネートが用いられる。特に好ましいジアリールカーボネートはジフェニルカーボネート(以下、「DPC」と表記する。)である。ジアリールカーボネートは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、ジアリールカーボネートには、末端変換や分子量調節のために、PH、t−ブチルフェノール及びクミルフェノール等の芳香族モノヒドロキシ化合物を含有させてもよい。
【0101】
[芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとの仕込みモル比]
混合槽7内に仕込まれる芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとのモル比、すなわち仕込みモル比は、目的とする芳香族ポリカーボネートのMnやOH%、用いられる芳香族ジヒドロキシ化合物及びジアリールカーボネートの種類、重合温度、並びにその他の重合条件によって決定される。より良好な重合反応を実現し、かつ着色や耐熱性の低下を更に有効に防止する観点から、所定の範囲内の仕込み比は、芳香族ジヒドロキシ化合物の仕込み量に対するジアリールカーボネートの仕込み量として、モル基準で、1.05〜1.30であると好ましく、より好ましくは1.05〜1.25、更に好ましくは1.05〜1.20である。ジアリールカーボネートの仕込み量(モル比)が1.05以上であると、着色や耐熱性を更に向上させることができ、1.30以下であると、重合反応がより進行しやすくなる。
【0102】
[多官能化合物]
さらに、目的とする芳香族ポリカーボネートに分岐構造を付与するために、多官能化合物を用いてもよい。多官能化合物としては、例えば、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、及び4−[4−[1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチル]−α,α−ジメチルベンジル]フェノールが好ましく用いられる。多官能化合物の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物100モル%に対して0.2〜1.0モル%が好ましく、0.2〜0.9モル%がより好ましく、0.3〜0.8モル%がさらに好ましい。
【0103】
[エステル交換触媒]
本実施形態では、芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとの重合反応に、エステル交換触媒を用いなくてもよいが、重合速度を高めるため、必要に応じて、例えば、特許文献1に記載されているエステル交換触媒を用いてもよい。エステル交換触媒を用いる場合、エステル交換触媒は1種を単独で又2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、エステル交換触媒の使用量は、実用上より良好な重合反応を実現し、かつ着色や耐熱性の低下を更に有効に防止する観点から、原料の芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、好ましくは50〜300ppb、より好ましくは60〜200ppb、さらに好ましくは70〜150ppbである。
【0104】
エステル交換触媒はそのまま添加してもよいし、水、芳香族モノヒドロキシ化合物及びジアリールカーボネートなどで希釈してもよい。ただし、水を用いると重合反応で副生する芳香族モノヒドロキシ化合物中へ水が混入する可能性がある。
また、添加するエステル交換触媒の好ましい形態として、粉末又は錠剤(タブレット)が挙げられ、市販のものをそのまま用いてもよい。エステル交換触媒を添加する方法としては、例えば、粉末状の芳香族ジヒドロキシ化合物及び/又はジアリールカーボネートにエステル交換触媒を添加して圧縮し固めたものを製造装置内に投入する方法、圧縮成型した芳香族ジヒドロキシ化合物及び/又はジアリールカーボネートからなる容器内にエステル交換触媒を添加し、その容器ごと製造装置内に投入する方法、窒素グローブ中で溶融した芳香族ジヒドロキシ化合物及び/又はジアリールカーボネートを開口部の径が底部の径よりも大きくなるようテーパー形状になっているSUS製の容器に収容し、その中にエステル交換触媒を添加し冷却することで固化したものを製造装置内に投入する方法、芳香族ポリカーボネートからなる容器(芳香族ポリカーボネートからなるフイルムによる包装を含む。)の中にエステル交換触媒を添加し、その容器ごと製造装置内に投入する方法が挙げられる。上述の方法によると、芳香族ジヒドロキシ化合物、ジアリールカーボネート、芳香族ポリカーボネートからなる容器が、製造装置内で溶融したジアリールカーボネート、溶解混合物及びプレポリマーに添加されると直ちに溶解されるので、特に混合槽7、溶解混合物貯槽12A及び12B、並びに撹拌槽式第1重合器14において、反応の進行が遅くなった時に、一度に多量のエステル交換触媒を添加することが可能となり、有効である。また、固体の触媒について、計算で求めた添加量を正確に計量するためには粉砕などを行う必要があるので、粉砕等の操作を行わないで、計算値よりも0〜100mg過剰に仕込むことも好ましい。なお、本段落において、芳香族ジヒドロキシ化合物及びジアリールカーボネートは、本実施形態の製造方法において原料として用いられるものであると好ましい。
【0105】
エステル交換触媒は、ノズルを介して、製造装置内に添加されてもよい。エステル交換触媒を添加するのに用いられるノズルは、混合槽7、溶解混合物貯槽12A及び12B、撹拌槽式第1重合器14、並びに、撹拌槽式第2重合器15のうちから選ばれる1種以上の機器の上部に設けられることが好ましい。そのノズルの大きさは2〜4インチであると好ましく、ノズルにはボール弁を取り付けてもよく、その上側に、圧力計、ベント配管、及び不活性ガスを供給する配管等が付設した短管を取り付けることも好ましい。短管に不活性ガスを供給する配管を付設して、エステル交換触媒を供給する場合、不活性ガスを供給する配管からノズルを設けた槽に向けての不活性ガスの流れを生じさせることで、芳香族モノヒドロキシ化合物の短管への付着を防止することも好ましい。ジアリールカーボネート、芳香族モノヒドロキシ化合物、及び、芳香族ジヒドロキシ化合物の粉末の付着を抑制するように、常時、エステル交換触媒を添加するノズルの下部に、不活性ガスを流すことも好ましい。エステル交換触媒を供給するためのフランジは、簡単に開放できるサニタリー方式のフランジタイプのクリップで止めることができるものが好ましい。また、エステル交換触媒を自動的に供給することも好ましい。さらに、エステル交換触媒が、混合槽7と溶解混合物貯槽12A又は12Bとを接続する移送配管の途中で溶解混合物に添加されてもよく、及び/又は、溶解混合物貯槽12A又は12Bと撹拌槽式第1重合器とを接続する移送配管の途中で、反応混合物に添加されてもよい。
【0106】
[触媒失活剤]
本実施形態において、例えば、特許文献1に記載されている公知の触媒失活剤を用いてもよい。触媒失活剤の使用量は、エステル交換触媒1モル当たり0.5〜50モルの割合が好ましく、より好ましくは0.5〜10モルの割合で、さらに好ましくは0.8〜5モルの割合である。触媒失活剤は、例えば、押出機において添加される。
【0107】
[添加剤、その他]
最終のメイン重合器18A及び18Bで得られた芳香族ポリカーボネートは、溶融した状態で、メイン重合器18A及び18Bから、その後段の機器19A及び19Bに送り出されてもよい。後段の機器19A及び19Bとしては、従来、溶融した芳香族ポリカーボネートを受け入れる機器であれば特に限定されず、例えば、押出機、ペレタイザー、篩分機、乾燥機、サイロ及び包装機などが挙げられる。例えば、溶融した芳香族ポリカーボネートを押出機に供給し、押出機において、ABSやPET等の他の樹脂や、耐熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、難燃剤等の添加剤、有機系や無機系の顔料や染料、金属不活性化剤、帯電防止剤、滑剤、造核剤等の任意の添加剤を混合してもよい。これら他の樹脂及び任意の添加剤は単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。さらに、本実施形態によって製造される芳香族ポリカーボネートは、例えば、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、及び1,10−デカンジオール等の脂肪族ジヒドロキシ化合物(ジオール);例えば、コハク酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、シクロヘキサンカルボン酸、及びテレフタル酸等のジカルボン酸類;並びに、例えば、乳酸、P−ヒドロキシ安息香酸、及び6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸等のオキシ酸類を含有してもよい。
【0108】
また、撹拌槽式第1重合器14、撹拌槽式第2重合器15、メイン重合器16、18A及び18Bで副生し得るPHを、移送ポンプ17によって回収してもよい。
【0109】
以上の記載から明らかなとおり、本実施形態の製造方法によると、連続的に芳香族ポリカーボネートを製造することができる。本実施形態の製造方法により得られた芳香族ポリカーボネートは、所定の成形工程を経て成形品とすることができる。成形工程は、公知の成型工程であればよく、例えば、成型工程において、射出成形機、押出成形機、ブロー成型機及びシート成形機等を用いて、芳香族ポリカーボネート成形して成形品を得ることができる。得られた成形品は、自動車、電気、電子、OA、光メディア、建材及び医療等の幅広い用途として利用できる。
【0110】
本実施形態によると、製造時の運転条件の制御が容易で、着色が少ない芳香族ポリカーボネートを効率よく製造する方法を提供することができる。また、混合槽内に設置した加熱用コイルの内部にスチームを多量に流すことによって、混合槽内の温度調整を迅速に行うことができる。
【実施例】
【0111】
以下、本発明について、具体的な実施例及び比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0112】
実施例及び比較例において適用した各特性の測定方法について、以下に記載する。
【0113】
(1)平衡反応率
溶解混合物貯槽から採取した反応混合物0.5gと、内標物質としてフェニルウレタン0.05gとを、40mLのTHFに溶解し、それを試料とした。その試料に含まれる各成分の量を、超高速液体クロマトグラフィー装置(製品名「ACQUITY UPLC」、ウォーターズ社製)を用いて測定し、その測定結果に基づいて平衡反応率を導出した。なお、溶離液としては、蒸留水とアセトニトリルとからなる混合溶離液を用いた。また、測定条件は、まず、カラム温度を40℃にし、混合溶離液中の蒸留水とアセトニトリルとの比率(蒸留水/アセトニトリル)を80/20にして測定を開始し、測定開始1.5分後より、4.5分かけて蒸留水/アセトニトリルの比率を30/70にグラジエントし、その比率を2分間保持し、その後、2分かけて蒸留水/アセトニトリルの比率を0.1/99.9にグラジエントし、その比率を0.9分間保持し、その後、0.1秒かけて蒸留水/アセトニトリルの比率を80/20にする条件とした。また、カラムとして、上記超高速液体クロマトグラフィー装置用のHSS T3(1.8μm、長さ100mm)のカラムを用いた。
各成分の検出は、検出波長254nmのUV検出器を用いて行った。内標物質の吸光係数より試料における反応混合物中の未反応の芳香族ジヒドロキシ化合物の量を求め、仕込んだ芳香族ジヒドロキシ化合物の量(仕込んだ各原料の総量を0.5gに換算した場合の芳香族ジヒドロキシ化合物の量)から未反応の芳香族ジヒドロキシ化合物の量を差し引くことで、芳香族ジヒドロキシ化合物の反応転化率を求め、この数値を平衡反応率とした。例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物としてBPAを用い、ジアリールカーボネートとしてDPCを用いたときは、下記式からBPAの反応転化率を求めた。
A=サンプル量(0.5g)×(BPAの仕込み量)/(BPAの仕込み量+DPCの仕込み量)
(ここで、Aは仕込んだ各原料の総量を0.5gに換算した場合のBPAの量(g)を示す。)
BPAの反応転化率(%)=[(A−試料中の未反応のBPA量(g))/A]×100
【0114】
(2)数平均分子量(Mn)
Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した。溶媒としてテトラヒドロフランを用い、ゲルとしてポリスチレンゲルを用い、標準単分散ポリスチレンの較正曲線から下記式による換算分子量較正曲線を用いて求めた。
MPC=0.3591×MPS
1.0388
(ここで、MPCはポリカーボネートの分子量、MPSはポリスチレンの分子量を示す。)
【0115】
(3)メルト・インデックス(MI)
MI(g/10min)は、ISO 1133に準拠し、300℃、1.2kg荷重の条件にて測定した。MIが大きいほど流動性に優れることを意味する。
【0116】
(4)ポリマー末端水酸基比率(OH%)
OH%は、芳香族ポリカーボネート0.3gを5mLの重水素置換クロロホルムに溶解し、23℃で
1H−NMR装置(日本電子株式会社製、製品名「EX−400」)を用いて末端基を測定し、全末端数に対する水酸基末端の割合として算出した。
【0117】
(5)色相(b
*値)
実施例及び比較例により製造した芳香族ポリカーボネートを用い、バレル温度300℃、金型温度90℃の条件にて、直径5.5cm、厚さ3.2mmの円盤状の試験板を射出成形した。
色彩計として、JIS Z8722に準拠した分光測光器を用いて上記試験板の色度を測定した。色調は、JIS Z8729に準拠したCIELAB法(Commission Internationale de l‘Eclairage 1976 L
*a
*b
* Diagram)表色系である、黄色度の指標であるb
*値で示した。
具体的には、測定の基準とするb
*値が1.97である白板上に、上記試験板を載置し、反射法にて試験板のb
*値を測定した。
【0118】
<実施例1>
図1に示す製造装置を用いた。より詳細には、混合槽7として、3.8m径、内容量80m
3の2段のパドル翼が設置された竪型撹拌槽を用いた。混合槽7の上部には、フランジ部の内径が400mmである芳香族ヒドロキシ化合物を投入するための配管ノズルが接続されていた。
図2に示す独立架台20に、内容量90m
3の計量槽2及びロードセル3が設置されていた。独立架台20は独立した基礎の上に建てられており、フレキシブル性を有する電気配線、計装のケーブル、及び配管が設置されていた。風よけ架台(図示せず)は、独立架台20の外側に、独立架台20の基礎とは別に独立して作られた基礎の上に建てられた建屋であり、配管等のサポートが取り付けられていた。計量槽2には排気量150Nm
3/hの、計量槽2内部のガスを排出することにより内圧を制御するためのベント用制御弁が接続されていた。
【0119】
混合槽7内に設けられた内部コイルのスチーム出口と外側に設けられた外部ジャケットのスチーム出口には、
図3に示したスチームドレン排出設備21(破線で囲まれている部分)が設置されていた。内容量0.5m
3のドレンドラム22には、並列に設けられた18トン/hrの処理能力を持つスチームトラップ23が接続されていた。スチームドレン排出設備21内にある内部コイルのスチーム出口における配管径は1.5インチ、外部ジャケットのスチーム出口における配管径は2.5インチ、ドレンドラム22の出口の配管径は6インチ、スチームトラップ23から排水溝25までの配管の配管径は6インチ、スチームトラップ23からスチーム回収設備24までの配管の配管径は4インチであった。ドレンドラム22内のスチームドレンのレベルコントロール(LIC制御)の設定値(SV値)は3%であった。また、スチームドレン排出設備21は、該設備21内の温度よりもスチームドレンの温度が低いときは、ドレンドラム22の大気側へスチームを排出する機能を有している。スチームトラップ23のスチーム出口は、圧力が約0.4MPaG(約140℃)のスチーム回収設備24に接続されている。
【0120】
ロードセル3の精度のチェックは、20kgの分銅50個と水を用いて行った。水を計量する秤は最大1500kgの計量台秤(計量精度:0.02%以下)を用いた。計量槽2に水50トンを1トンずつ入れて、ロードセル3の指示値と投入した水の積算値の誤差が、±0.15質量%以内であることを確認した。ロードセルとしては、3点式のCC21 Capacity:36tf(製品名、大和製衡株式会社製)を用いた。計量槽2が独立架台20に設置されているため、風や外部の振動があっても、ロードセル3の指示値は変動しなかった。
【0121】
ジアリールカーボネートの計量器13としてコリオリ式積算流量計を用いた。ジアリールカーボネートの計量器13の精度チェックのために、計量槽2に水を50トン収容し、ジアリールカーボネートの計量器13に水を充填後、精度が確保されている流量で、10トンずつ、水を抜き出してロードセル3の指示値と計量器13の指示値が一致することを確認した。次に、計量器13を経由して計量槽2に水を50トン充填し、1トンずつ秤で計量しながら水を抜き出し、秤の積算値とロードセル3の指示値が一致していることを確認した。上記操作を2回実施したところ、計量器13の精度は±0.15質量%以内だった。
【0122】
次いで、計量槽2を乾燥させて、窒素置換した。バケットコンベア1を用いて、ロードセル3の指示値が約22.5トンになるまで、計量槽2にBPAを供給した。
【0123】
DPCの貯蔵タンク10内で120℃に維持されていたDPCを、予熱器11で160℃に昇温し、BPA22.5トンに対してDPC及びBPAの合計の仕込みモル比が1.17になるようDPCの仕込み予定量を算出した。その仕込み予定量の94.29質量%(23.3トン)のDPCを混合槽7へ供給した(大供給)。
【0124】
次いで、エステル交換触媒として、市販の水酸化カリウム(1級試薬(純度85%))の錠剤をBPA22.5トンに対してカリウム原子換算で約120質量ppbになるように添加した。
【0125】
計量槽2内のBPAを窒素置換し、窒素置換された混合槽7へ0.75時間かけて全量供給した。BPA供給中、圧力制御(PIC制御)によって、芳香族ジヒドロキシ化合物の計量器2の内圧を7kPaG、混合槽7の内圧を6kPaGに保持した。混合槽7の内部コイル、及び外部ジャケットに200℃のスチームを0.1〜8トン/hr供給して、混合槽7内の液温を140〜160℃に保持した。計量槽2からBPAを供給する間の混合槽7の気相部のガス線速は、0.04m/sec以下であった。供給終了時の吹き抜けのガス線速は12m/secで、吹き抜け時間は3分であった。
【0126】
BPAの供給前後のロードセルの指示値の差22.5トン(実供給量)に対して、所望のBPAとDPCとの仕込みモル比になるよう、追加分のDPC供給量を計算し、計算で求めた1.41トンのDPCを混合槽7へ供給(小供給)した。その後、混合槽7内の液温を195℃に昇温した。
図3に示したスチームドレン排出設備21を設置したことによって、溶解混合物の液温を195℃に昇温する途中、混合槽7内の内部コイルでスチームハンマーが発生しなかった。また、スチームドレンの排出も順調であった。
【0127】
溶解混合物を調合後、0.75時間かけて、溶解混合物を内部容量80m
3の溶解混合物貯槽12Aへ供給し、その中を195℃で保持した。溶解混合物を溶解混合物貯槽12Aに供給後、直ちに混合槽7内の液温を約160℃に下げ、再び、仕込み予定量の94.29質量%(23.3トン)のDPCを混合槽7に供給し、上記と同様にして溶解混合物を調合した。
【0128】
溶解混合物貯槽12A内で3.9時間保持されて、平衡反応率80%に達した反応混合物を、流量12トン/hrで、溶解混合物貯槽12Aと撹拌槽式第1重合器14との間に直列に配置して設けられた孔径の異なる2個のポリマーフィルター(図示せず。上流側の孔径が5μm、下流側の孔径が2.5μm)で濾過した。濾過後の反応混合物を、予熱器(図示せず。)で加熱し、撹拌槽式第1重合器14へ供給した。予熱器出口の液温は200℃であった。
【0129】
溶解混合物貯槽12A中の反応混合物のレベルが所定値よりも低下した時点で、撹拌槽式第1重合器14へ反応混合物を供給する供給元を溶解混合物貯槽12Aから溶解混合物貯槽12Bに切り替えた。撹拌槽式第1重合器14への反応混合物の供給は、供給元の溶解混合物貯槽12Aと12Bを3.9時間毎に交互に切り替える操作を繰り返すことによって連続的に行われた。
【0130】
溶解混合物を混合槽7から溶解混合物貯槽12A又は12Bに供給して、そこで3.9時間保持している間(撹拌槽式第1重合器14へ供給を開始する直前まで)、4Nm
3/hrで窒素バブリングを行った。
【0131】
撹拌槽式第1重合器14及び撹拌槽式第2重合器15で、減圧下で撹拌を行い、発生するPHを除去しながら反応混合物を重合させて、プレポリマーを得た。そのときの撹拌槽式第1重合器14の温度は220℃、圧力は9.3kPaであり、撹拌槽式第2重合器15の温度は268℃、圧力は2.66kPaであった。撹拌槽式第1重合器14の液面レベルはボトムのギヤポンプでLIC制御により調整し、反応混合物の供給量はFIC制御により調整した。撹拌槽式第2重合器15の液面レベルは、ボトムのギヤポンプでLIC制御により調整した。また、撹拌槽式第1重合器14、撹拌槽式第2重合器15、メイン重合器16、メイン重合器18A及びメイン重合器18Bで副生するPHを、副生フェノール回収設備及び移送ポンプ17によって回収し、DPC製造工程(図示せず)の原料として用いた。
【0132】
得られたプレポリマーを、撹拌槽式第2重合器15のボトムに接続された配管に設けられたギヤポンプによって、連続的にメイン重合器16に移送し、そこで、減圧下で更に重合した。メイン重合器16の温度は270℃、圧力は600Paaであった。
【0133】
メイン重合器16で重合したポリマーを、メイン重合器18A及び18Bへ連続的に供給し、そこでMIが22±0.3g/10minの芳香族ポリカーボネートを製造した。芳香族ポリカーボネートの製造量は、1時間あたり6.6トンであった。メイン重合器18A及び18Bの温度は270℃、圧力は140±2Paaであった。製造条件を表1に示す。また、運転を開始してから1000時間後、10000時間後における芳香族ポリカーボネートの特性評価結果を表1に示す。
【0134】
<実施例2>
混合槽7内に設けられた内部コイルのスチーム出口と、外側に設けられた外部ジャケットのスチーム出口に、
図4に示したスチームドレン排出設備21が設置された装置を用いた以外は、実施例1と同様にして芳香族ポリカーボネートを製造した。内部コイルのスチーム出口の配管径は1.5インチ、内部コイルのスチーム出口からドレンドラム22へ接続する配管のうち、ドレンドラム22へ直接接続する径大配管の径は10インチ、外部ジャケットのスチーム出口の配管径は2.5インチ、ドレンドラム22の出口の配管径は6インチ、スチームトラップ23から排水溝25までの配管の径は6インチ、スチームトラップ23からスチーム回収設備24までの配管の径は4インチであった。
図4に示したスチームドレン排出設備21を設置したことによって、混合槽7内の液温を195℃に昇温する途中、混合槽7内の内部コイルでスチームハンマーが発生しなかった。また、スチームドレンの排出も順調であった。結果を表1に示す。
【0135】
<実施例3>
内部コイルのスチーム出口からドレンドラム22へ接続する配管のうち、ドレンドラム22へ直接接続する径大配管の径を10インチから3インチに変更した以外は、実施例2と同様にして芳香族ポリカーボネートを製造した。BPAを混合槽7へ供給中、DPCの小供給中、及び混合槽7内の液温を195℃に昇温中に、内部コイルでスチームハンマーが発生したが、内部コイル等の破損が発生しなかったため、そのまま運転を継続した。結果を表1に示す。
【0136】
<比較例1>
スチームドレン排出設備21のドレンドラム22を、液面計を設けた2.5インチのパイプに変更して、内部コイルの複数のスチーム出口の配管がそれぞれ独立に上記2.5インチのパイプに接続されていた以外は実施例1と同様にして、芳香族ポリカーボネートを製造した。DPCの小供給中、及び混合槽7内の液温を195℃に昇温中に、ドレンドラム22の代わりに設けた2.5インチのパイプ内が満杯になり、混合槽7内の設けられた内部コイルでスチームハンマーが激しく発生した。そのまま運転を継続したが、5500時間後、混合槽7の内部コイルの一部に亀裂が発生したため、混合槽7の内部コイル及び外部ジャケットへのスチームの供給を停止した。引き続き、混合槽7内の溶解混合物の全量を溶解混合物貯槽12A及び12Bに供給してから混合槽7の運転を停止した。撹拌槽式第1重合器14からメイン重合器18A、18Bまでの反応混合物、プレポリマー及びポリマーのほぼ全量が排出されるまで運転を続けた後、全系の運転を停止した。混合槽7の運転停止後から全系の運転を停止するまでの間に得られたポリマーには、5500時間までと比較してMIの変動と色相の悪化が見られた(MIが22±0.3から23±1、b
*値が1.2から1.5になった。)。結果を表1に示す。
【0137】
<比較例2>
内部コイルのスチーム出口からドレンドラム22へ接続する配管のうち、ドレンドラム22へ直接接続する径大配管の径を10インチから2.5インチに変更した以外は、実施例2と同様にして芳香族ポリカーボネートを製造した。DPCの小供給中、及び混合槽7内の液温を195℃に昇温中に、混合槽7内に設けられた内部コイルでスチームハンマーが激しく発生した。そのまま運転を継続したが、6000時間後、混合槽7の内部コイルの一部に亀裂が発生したため、混合槽7の内部コイル及び外部ジャケットへのスチームの供給を停止した。引き続き、混合槽7内の溶解混合物の全量を溶解混合物貯槽12A及び12Bに供給してから混合槽7の運転を停止した。撹拌槽式第1重合器14からメイン重合器18A、18Bまでの反応混合物、プレポリマー及びポリマーのほぼ全量が排出されるまで運転を続けた後、全系の運転を停止した。混合槽7の運転停止後から全系の運転を停止するまでの間に得られたポリマーには、6000時間までと比較してMIの変動と色相の悪化が見られた(MIが22±0.3から23±1、b
*値が1.2から1.4になった。)。結果を表1に示す。
【0138】
【表1】