(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ヒドラジン化合物が、2−ヒドラジノベンゾチアゾール及び/又はアセトンベンゾチアゾリル−2−ヒドラゾンであることを特徴とする請求項1に記載のスチールコード被覆用ゴム組成物。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0017】
本実施形態に係るスチールコード被覆用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対して、モノメタクリル酸亜鉛及び/又はジメタクリル酸亜鉛を0.1〜5質量部、並びに、下記式(1)で表される化合物及び下記式(2)で表される化合物からなる群より選択された少なくとも1種のヒドラジン化合物を0.1〜5質量部含有するものである。
【0019】
当該ゴム組成物において、ゴム成分として用いられるジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)などが挙げられる。これらジエン系ゴムは、いずれか1種を単独で、又は2種以上ブレンドして用いることができる。上記ゴム成分は、好ましくは、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、又はこれらの2種以上のブレンドである。
【0020】
本実施形態に係るゴム組成物には、モノメタクリル酸亜鉛及び/またはジメタクリル酸亜鉛(以下、メタクリル酸亜鉛という)を配合する。すなわち、メタクリル酸亜鉛は、モノメタクリル酸亜鉛単独でも、ジメタクリル酸亜鉛単独でも、モノメタクリル酸亜鉛とジメタクリル酸亜鉛との併用でもよい。また、モノメタクリル酸亜鉛としては、特に限定されないが、下記式(3)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。すなわち、式中のX(対イオン)としては、特に限定されず、例えば、水酸化物イオンまたはハロゲン化物イオンが挙げられ、水酸化物イオンを好ましく用いることができる。
【0022】
また、ジメタクリル酸亜鉛は、下記式で表される。
【0024】
メタクリル酸亜鉛の配合量(2種以上併用する場合は合計量)は、ジエン系ゴム100質量部に対して、0.1〜5質量部であり、1〜5質量部であることが好ましい。0.1質量部以上であることにより湿熱接着性が改善し、5質量部以下であることにより、湿熱接着性改善の効果が十分に得られ、かつ上記ヒドラジン化合物との併用により耐屈曲疲労性の悪化を抑えることができる。
【0025】
ジエン系ゴムに対して、メタクリル酸亜鉛を配合することにより、湿熱接着性を改善することができるが、その理由は次のように考えられる。すなわち、メタクリル酸亜鉛のカルボン酸イオンは亜鉛イオンよりもコード表面の鉄イオンとの方が、親和力が強いため接着力が改善すると考えられる。一方で、亜鉛イオンを介したイオン架橋に伴い弾性率が増加し、耐屈曲疲労性が悪化すると考えられる。
【0026】
本実施形態で用いる上記ヒドラジン化合物において、上記式(1)で表される化合物は、ベンゾチアゾールとヒドラジンが結合した基本骨格を持つヒドラジン化合物である。上記式(1)中のR
1〜R
3は、それぞれ独立に選ばれる水素原子又は直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を示す。アルキル基の炭素数は特に限定されないが、炭素数1〜5のアルキル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数1〜3である。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、又はn−ペンチル基等が挙げられる。
【0027】
上記式(1)で表されるヒドラジン化合物としては、特に限定されないが、例えば下記式で表される2−ヒドラジノベンゾチアゾールを好ましく用いることができる。
【0029】
上記式(2)で表される化合物は、ベンゾチアゾールとヒドラゾンが結合した基本骨格を持つヒドラジン化合物である。上記式(2)中のR
4は、直鎖状又は分岐状のアルキリデン基を示す。アルキリデン基の炭素数は特に限定されないが、炭素数1〜5のアルキリデン基であることが好ましく、より好ましくは炭素数2〜4である。アルキリデン基の具体例としては、メチリデン基、エチリデン基、プロピリデン基、プロパン−2−イリデン基、ブチリデン基等が挙げられる。R
5は、水素原子又は直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を示す。アルキル基の炭素数は特に限定されないが、炭素数1〜5のアルキル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数1〜3である。アルキル基の具体例は、上記式(1)中のR
1〜R
3と同じである。
【0030】
上記式(2)で表されるヒドラジン化合物としては、特に限定されないが、例えば下記式で表されるアセトンベンゾチアゾリル−2−ヒドラゾンを好ましく用いることができる。
【0032】
上記式(1)又は(2)で表されるヒドラジン化合物は、いずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0033】
上記ヒドラジン化合物の配合量(2種以上併用する場合は合計量)は、ジエン系ゴム100質量部に対して、0.1〜5質量部であり、1〜5質量部であることが好ましい。0.1質量部以上であることにより、耐屈曲疲労性が改善し、5質量部以下であることにより、耐屈曲疲労性改善の効果が十分に得られ、かつ湿熱接着性の悪化を抑えることができる。メタクリル酸亜鉛の配合により、耐屈曲疲労性は悪化するが、ヒドラジン化合物と併用することにより、湿熱接着性改善の効果と耐屈曲疲労性改善の効果がともに得られる。
【0034】
メタクリル酸亜鉛と上記ヒドラジン化合物の配合割合(メタクリル酸亜鉛/ヒドラジン化合物の質量比)は、特に限定されないが、湿熱接着性改善の効果と耐屈曲疲労性改善の効果とのバランスの観点から1/5〜5/1であることが好ましい。
【0035】
本実施形態に係るゴム組成物には、補強性充填剤を配合することができる。
【0036】
補強性充填剤としては、カーボンブラック及び/又はシリカを用いることが好ましい。すなわち、補強性充填剤は、カーボンブラック単独でも、シリカ単独でも、カーボンブラックとシリカの併用でもよい。好ましくは、カーボンブラック、又はカーボンブラックとシリカの併用である。補強性充填剤の配合量は、特に限定されず、例えば上記ジエン系ゴム100質量部に対して10〜150質量部であることが好ましく、より好ましくは20〜100質量部であり、さらに好ましくは30〜80質量部である。
【0037】
上記カーボンブラックとしては、特に限定されず、公知の種々の品種を用いることができる。カーボンブラックの配合量としては、ジエン系ゴム100質量部に対して20〜100質量部であることが好ましく、より好ましくは40〜80質量部である。補強性充填剤中のカーボンブラックの割合は、70質量%以上であることが好ましい。
【0038】
シリカとしても、特に限定されないが、湿式沈降法シリカや湿式ゲル法シリカなどの湿式シリカが好ましく用いられる。シリカを配合する場合、ジエン系ゴム100質量部に対して10〜50質量部であることが好ましく、より好ましくは15〜50質量部である。
【0039】
シリカを配合する場合、スルフィドシラン、メルカプトシランなどのシランカップリング剤を併用することが好ましく、その配合量はシリカ配合量に対して2〜20質量%であることが好ましい。
【0040】
本実施形態に係るゴム組成物には、メチレン受容体とメチレン供与体を配合することができる。メチレン受容体の水酸基とメチレン供与体のメチレン基とが硬化反応することで、ゴムとスチールコードの接着性を高め、タイヤ走行に伴う負荷や発熱による接着性の劣化を抑制することができる。
【0041】
メチレン受容体としては、フェノール類化合物、又はフェノール類化合物をホルムアルデヒドで縮合したフェノール系樹脂が用いられる。該フェノール類化合物としては、フェノール、レゾルシンまたはこれらのアルキル誘導体が含まれる。アルキル誘導体には、クレゾール、キシレノールといったメチル基誘導体の他、ノニルフェノール、オクチルフェノールといった比較的長鎖のアルキル基による誘導体が含まれる。フェノール類化合物は、アセチル基等のアシル基を置換基に含むものであってもよい。
【0042】
また、フェノール類化合物をホルムアルデヒドで縮合したフェノール系樹脂には、レゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂、フェノール樹脂(即ち、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂)、クレゾール樹脂(即ち、クレゾール−ホルムアルデヒド樹脂)等の他、複数のフェノール類化合物からなるホルムアルデヒド樹脂が含まれる。これらは、未硬化の樹脂であって、液状又は熱流動性を有するものが用いられる。
【0043】
これらの中でも、ゴム成分や他の成分との相溶性、硬化後の樹脂の緻密さ及び信頼性の見地から、メチレン受容体としてはレゾルシン又はレゾルシン誘導体が好ましく、特には、レゾルシン、又はレゾルシン−アルキルフェノール−ホルマリン樹脂が好ましく用いられる。
【0044】
これらメチレン受容体の配合量としては、特に限定しないが、ジエン系ゴム100質量部に対して1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは1〜4質量部である。
【0045】
上記メチレン供与体としては、ヘキサメチレンテトラミン又はメラミン誘導体が用いられる。該メラミン誘導体としては、例えば、メチロールメラミン、メチロールメラミンの部分エーテル化物、メラミンとホルムアルデヒドとメタノールの縮合物等が用いられ、その中でもヘキサメトキシメチルメラミンが特に好ましい。
【0046】
メチレン供与体の配合量としては、特に限定しないが、ジエン系ゴム100質量部に対して0.2〜20質量部であることが好ましく、より好ましくは1〜8質量部である。
【0047】
本実施形態に係るゴム組成物には、スチールコードとの接着性向上剤として有機酸コバルト塩を配合してもよい。有機酸コバルト塩としては、例えば、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、オレイン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ロジン酸コバルト、ホウ酸コバルト、マレイン酸コバルトなどが挙げられ、これらの中でも加工性の点からナフテン酸コバルト、ステアリン酸コバルトが特に好ましい。有機酸コバルト塩の配合量としては、特に限定しないが、ジエン系ゴム100質量部に対し、金属分換算で0.03〜0.50質量部であることが好ましい。
【0048】
本実施形態に係るゴム組成物には、上記した各成分に加え、通常のゴム工業で使用されているプロセスオイル、亜鉛華、ステアリン酸、軟化剤、可塑剤、ワックス、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤などの配合薬品類を通常の範囲内で適宜配合することができる。
【0049】
上記加硫剤としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などの硫黄成分が挙げられ、特に限定するものではないが、その配合量はジエン系ゴム100質量部に対して1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは2〜8質量部である。また、加硫促進剤の配合量としては、ジエン系ゴム100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0050】
当該ゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練し調製することができる。例えば、第一混合段階(ノンプロ練り工程)で、ジエン系ゴムに対し、メタクリル酸亜鉛、及びヒドラジン化合物とともに、加硫剤及び加硫促進剤を除く他の添加剤を添加して混練し、次いで、得られた混合物に、最終混合段階(プロ練り工程)で加硫剤及び加硫促進剤を添加して混練することにより、ゴム組成物を調製することができる。
【0051】
当該ゴム組成物は、空気入りタイヤのベルト層やカーカス層において、補強材として使用されるスチールコードの被覆(トッピング)ゴムとして用いられる。すなわち、ベルトコード及び/又はカーカスコードの被覆用ゴム組成物として用いられる。該ゴム組成物は、常法に従い、スチールカレンダーなどのトッピング装置によりスチールコードトッピング反を製造し、これをベルト層及び/又はカーカス層として用いて、未加硫タイヤを作製し、常法に従い加硫成形することにより空気入りタイヤを製造することができる。
【0052】
空気入りタイヤとしては、乗用車用タイヤでも重荷重用タイヤでもよく、特に限定され
ない。なお、空気入りタイヤの構造自体は周知であり、特に限定されない。一般には、空
気入りタイヤは、左右一対のビード部及びサイドウォール部と、左右のサイドウォール部
の径方向外方端部同士を連結するように両サイドウォール部間に設けられたトレッド部と
を備え、左右一対のビード部間にまたがって延びる少なくとも1層のカーカス層を備える
。カーカス層は、トレッド部からサイドウォール部をへて、両端がビード部にて係止され
ており、上記各部を補強するものである。また、ベルト層は、トレッド部におけるカーカ
ス層の外周側においてトレッドゴムとの間に、通常2層以上にて設けられており、カーカ
ス層の外周でトレッド部を補強するものである。本実施形態において、上記ゴム組成物を
スチールコードの被覆ゴムに用いる場合、ベルト層とカーカス層のうちのいずれか一方に
適用してもよく、双方に適用してもよい。
【実施例】
【0053】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従い、まず、第一混合段階で、硫黄と加硫促進剤を除く成分を添加混合し(排出温度=160℃)、次いで、得られた混合物に、最終混合段階で硫黄と加硫促進剤を添加混合して(排出温度=90℃)、ゴム組成物を調製した。
【0055】
表1中の各成分の詳細は以下の通りである。
【0056】
・天然ゴム:RSS#3
・カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シースト300」
・老化防止剤:フレキシス(株)製「サントフレックス6PPD」
・レゾルシン:住友化学工業(株)製「レゾルシン」
・ヘキサメトキシメチルメラミン:三井サイテック(株)製「サイレッツ963L」
・ステアリン酸コバルト:JX日鉱日石エネルギー(株)製「ステアリン酸コバルト」(Co含有率9.5質量%)」
・ホウ酸亜鉛:ボラックス社製「ファイヤーブレイクZB EF」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華3号」
・モノメタクリル酸亜鉛:クレイバレー社製「SR709」(対イオン=水酸化物イオン)
・ジメタクリル酸亜鉛:川口化学工業(株)製「アクターZMA」
・ヒドラジド化合物:東京化成工業(株)製「3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ヒドラジド」
・ヒドラジン化合物A:東京化成工業(株)製「2−ヒドラジノベンゾチアゾール」
・ヒドラジン化合物B:東京化成工業(株)製「アセトンベンゾチアゾリル−2−ヒドラゾン」
・硫黄:フレキシス(株)製「ミュークロンHS OT−20」
・加硫促進剤:大内新興化学工業 (株)製「ノクセラーDZ−G」
【0057】
得られた各ゴム組成物を用いて、ゴム−スチールコード複合体の未加硫試料を作製した。詳細には、ベルト用スチールコード(3×0.20+6×0.35mm構造、銅/亜鉛=64/36(質量比)、付着量5g/kgの真鍮めっき)を12本/25mmの打ち込み密度で平行配列したものの両面を、上記各ゴム組成物からなる厚さ1mmのゴムシートを用いて被覆し、この2枚をコードが平行になるように積層した剥離接着試験用の未加硫試料を作製した。得られた未加硫試料を用いて、湿熱接着性を評価した。評価方法は次の通りである。
【0058】
・湿熱接着性:上記未加硫資料を室温にて24時間放置した後、150℃×30分の条件で加硫し、加硫した試験片を105℃の飽和蒸気内で96時間放置した後、島津製作所(株)製オートグラフ「DCS500」を用いて2層のスチールコード間の剥離試験を行い、剥離後のスチールコードのゴム被覆率を目視にて観察し、0〜100%で評価した。比較例1のゴム被覆率を100とした際の指数で表示し、数値が大きいほど湿熱接着性に優れることを示す。
【0059】
また、得られた各ゴム組成物について、耐屈曲疲労性を評価した。評価方法は次の通りである。
【0060】
・耐屈曲疲労性:JIS K6260に準拠し、150℃×30分の条件で加硫した試験片について、デマチャ屈曲試験機を用い、亀裂成長回数を測定した。比較例1の亀裂成長回数を100とした際の指数で表示し、数値が大きいほど耐屈曲疲労性に優れることを示す。
【0061】
【表1】
【0062】
結果は、表1に示す通りであり、比較例1と比較例2,3との対比より、ジエン系ゴムに対して、メタクリル酸亜鉛を配合することにより、湿熱接着性は改善するが、耐屈曲疲労性は悪化することが認められた。また比較例1と比較例5,6の対比より、ジエン系ゴムに対して、上記ヒドラジン化合物を配合することにより、耐屈曲疲労性は改善するが、湿熱接着性が悪化することが認められた。
【0063】
実施例1〜6と比較例1,4,7〜10との対比より、ジエン系ゴム100質量部に対して、メタクリル酸亜鉛を0.1〜5質量部、上記ヒドラジン化合物を0.1〜5質量部配合することにより、耐屈曲疲労性、湿熱接着性をともに改善する効果が認められた。