特許第6554029号(P6554029)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6554029摩擦撹拌点接合装置及び摩擦撹拌点接合方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6554029
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】摩擦撹拌点接合装置及び摩擦撹拌点接合方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20190722BHJP
【FI】
   B23K20/12 342
   B23K20/12 364
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-228691(P2015-228691)
(22)【出願日】2015年11月24日
(65)【公開番号】特開2017-94354(P2017-94354A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2018年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】大橋 良司
(72)【発明者】
【氏名】三宅 将弘
(72)【発明者】
【氏名】小林 良崇
(72)【発明者】
【氏名】樫木 一
【審査官】 黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−25317(JP,A)
【文献】 特開2013−86175(JP,A)
【文献】 特開2009−241085(JP,A)
【文献】 特開2007−144478(JP,A)
【文献】 特開2006−326664(JP,A)
【文献】 米国特許第8011560(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の板材を摩擦撹拌点接合する摩擦撹拌点接合装置であって、
ツールを前記板材に向けて進退させる進退駆動器と、
前記ツールを回転させる回転駆動器と、
前記進退駆動器及び前記回転駆動器を制御する制御器と、を備え、
前記制御器は、
前記ツールを回転させた状態で前記ツールに前記板材を加圧させて前記ツールを前記板材に押し込む接合制御と、
前記接合制御中の前記回転駆動器の電流値及び前記接合制御中の駆動時間を用いて算出される積算値が目標値に達したと判定されると、前記ツールを前記板材から離間させる離間制御と、を実行する、摩擦撹拌点接合装置。
【請求項2】
前記制御器は、前記電流値と前記駆動時間と前記接合制御中の前記ツールの回転数との積を用いて前記積算値を算出する、請求項1に記載の摩擦撹拌点接合装置。
【請求項3】
前記制御器は、前記接合制御中に前記板材に押し込む前記ツールの温度に応じて前記目標値を変更する、請求項1又は2に記載の摩擦撹拌点接合装置。
【請求項4】
一対の板材を摩擦撹拌点接合する方法であって、
回転駆動器により回転させたツールに前記板材を加圧させて前記ツールを前記板材に押し込む接合工程と、
前記接合工程中の前記回転駆動器の電流値及び前記接合工程中の前記回転駆動器の駆動時間を用いた積算値を算出する積算値算出工程と、
前記積算値が目標値に達したと判定されると、前記ツールを前記板材から離間させる離間工程と、を備える、摩擦撹拌点接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦撹拌点接合装置及び摩擦撹拌点接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一対の板材を互いに接合する方法として、摩擦撹拌点接合法(Friction Spot Joining)が知られている。この方法で一対の板材を接合する場合には、例えば特許文献1に開示されるように、重ね合わされた一対の板材に摩擦撹拌点接合装置のツールを回転させながら押し込み、接合完了後に引き抜く。これにより、一対の板材は、摩擦撹拌点接合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3471338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一対の板材を摩擦撹拌点接合する場合において、接合点数の増加に伴ってツールの表面状態が変化したり、板材の表面状態が各接合位置で異なるためにツールと板材との摩擦係数が変動すると、板材へのツールの押込み時間やツールによる板材の攪拌状態が変化して接合品質にばらつきを生じたり、ツールが過熱されることによりツールが過度に摩耗してツールの寿命が短縮したりすることがある。
【0005】
そこで本発明は、一対の板材を摩擦撹拌点接合する場合において、ツールや板材の状態が変化しても、接合品質のばらつきやツールの過熱を抑制することにより、オペレータが接合装置を調整する負担を軽減しながら、接合品質を安定化させると共にツールの長寿命化を図れるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、一対の板材を摩擦撹拌点接合する摩擦撹拌点接合装置であって、ツールを前記板材に向けて進退させる進退駆動器と、前記ツールを回転させる回転駆動器と、前記進退駆動器及び前記回転駆動器を制御する制御器と、を備え、前記制御器は、前記ツールを回転させた状態で前記ツールに前記板材を加圧させて前記ツールを前記板材に押し込む接合制御と、前記接合制御中の前記回転駆動器の電流値及び前記接合制御中の駆動時間を用いて算出される積算値が目標値に達したと判定されると、前記ツールを前記板材から離間させる離間制御と、を実行する。
【0007】
上記構成によれば、前記電流値及び前記駆動時間を用いて算出される前記積算値が目標値に達したと判定されると、ツールが板材から離間されるので、各接合位置において、ツールに板材を加圧させてツールを板材に押し込み始めてからツールを板材から離間させるまでの間にツールから板材に投入される入熱量が均一化され、ツールで板材を摩擦撹拌する撹拌度合のばらつきが抑えられる。これにより、一対の板材を摩擦撹拌点接合する際にツールや板材の状態が変化しても、板材へのツールの押込み時間やツールによる板材の攪拌状態が変化して接合品質にばらつきを生じたり、ツールが過熱されることによりツールが過度に摩耗してツールの寿命が短縮したりするのを防止できる。よって、オペレータが、このような接合品質のばらつきやツールの過熱を抑制するために接合装置を調整する負担を軽減しながら、接合品質を安定化できると共にツールの長寿命化を図れる。
【0008】
前記制御器は、前記電流値と前記駆動時間と前記接合制御中の前記ツールの回転数との積を用いて前記積算値を算出してもよい。これにより、例えば、接合制御時のツールの回転数を増大させた場合には、前記駆動時間が短縮されて各接合位置でツールから板材に投入される入熱量が均一化され、ツールが過熱されるのを抑制できる。
【0009】
前記制御器は、前記接合制御中に前記板材に押し込む前記ツールの温度に応じて前記目標値を変更してもよい。これにより、各接合位置で板材にツールを押し込むツールの温度が異なっていても、目標値を変更することで接合中及び接合後のツールの温度を更に安定させることができる。
【0010】
本発明の一態様は、一対の板材を摩擦撹拌点接合する方法であって、回転駆動器により回転させたツールに前記板材を加圧させて前記ツールを前記板材に押し込む接合工程と、前記接合工程中の前記回転駆動器の電流値及び前記接合工程中の前記回転駆動器の駆動時間を用いた積算値を算出する積算値算出工程と、前記積算値が目標値に達したと判定されると、前記ツールを前記板材から離間させる離間工程と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、一対の板材を摩擦撹拌点接合する場合において、ツールや板材の状態が変化しても、接合品質のばらつきやツールの過熱を抑制することにより、オペレータが接合装置を調整する負担を軽減しながら、接合品質を安定化させると共にツールの長寿命化を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係る摩擦撹拌点接合装置の機能ブロック図である。
図2図1の摩擦撹拌点接合装置が備える接合ユニットの側面図である。
図3図1の摩擦撹拌点接合装置の動作フローチャートである。
図4】(a)〜(c)は図1の摩擦撹拌点接合装置を用いた摩擦撹拌点接合の各工程を説明する断面図である。
図5】ツールの回転数とツール回転用モータの電流値との各時間変化を示す図である。
図6】変形例の摩擦撹拌点接合装置が備える接合ユニットの側面図である。
図7】比較例のツールの温度とピン部の径との各変化を示す図である。
図8】比較例の接合強度と残存板厚との各変化を示す図である。
図9】実施例のツールの温度とピン部の径との各変化を示す図である。
図10】実施例の接合強度と残存板厚との各変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態)
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0014】
図1は、実施形態に係る摩擦撹拌点接合装置1(以下、接合装置1と称する。)の機能ブロック図である。図2は、図1の接合装置1が備える接合ユニット2の側面図である。図1及び2に示すように、接合装置1は、接合ユニット2、多関節ロボット3、及び制御装置4を備える。接合ユニット2は、フレーム部5、ユニット本体部6、及び裏当部7を有する。
【0015】
フレーム部5は、一例として、側面視においてC字状又は逆C字状の外観形状を有し、ユニット本体部6と裏当部7とに接続されると共に、多関節ロボット3に支持される。ユニット本体部6は、回転軸部9、ツール11、ツール移動用モータM1(進退駆動器)、及びツール回転用モータM2(回転駆動器)を有する。回転軸部9は、ユニット本体部6の筐体から裏当部7に向けて延び、裏当部7に接近又は離間可能に設けられる。ユニット本体部6の筐体から遠位に位置する回転軸部9の軸方向一端には、ホルダが設けられ、ツール11を着脱可能に保持している。
【0016】
ツール11は、ツール本体部11a、ピン部11b、及びショルダー部11cを有し、板材W2の板材W1とは反対側の面に接触又は離間可能に設けられる。ピン部11bは、ツール本体部11aから裏当部7に向けて突出し、ショルダー部11cに囲まれている。ピン部11bの周面は、一例として平坦であるが、螺子切りが形成されていてもよい。
【0017】
各モータM1,M2は、ユニット本体部6の筐体に内蔵される。ツール移動用モータM1が駆動されると、回転軸部9の軸方向に、回転軸部9及びツール11が、板材W1,W2に向けて進退される。また、ツール回転用モータM2が駆動されると、回転軸部9及びツール11が、回転軸部9の軸線周りに回転される。各モータM1,M2の各駆動は、制御装置4に制御される。
【0018】
裏当部7は、板材W1,W2を挟んでツール11と向き合うように配置され、一例としてフレーム部5からユニット本体部6に向かって延びる円筒状の外観形状を有し、板材W1を下方から支持する。フレーム部5から遠位に位置する裏当部7の軸方向一端の先端部は、板材W1の板材W2とは反対側の面に接触する。
【0019】
多関節ロボット3は、ロボット用モータM3を有し、接合ユニット2を所定位置に移動させる。ロボット用モータM3の駆動は、制御装置4により制御される。ロボット用モータM3は、複数のモータを含んでいてもよい。
【0020】
制御装置4は、CPU、ROM、及びRAM等を備えたコンピュータであり、接合ユニット2と多関節ロボット3との各動作を制御する。制御装置4は、入力器12及び制御器13を有する。入力器12は、オペレータが入力する情報を受け付ける。前記ROMには、所定の制御プログラムが格納される。前記RAMは、入力器12を介して入力される設定情報を記憶可能に構成される。前記設定情報には、例えば、板材W1,W2の各板厚値の情報と、板材W1,W2の各接合位置の情報とが含まれる。
【0021】
制御器13は、前記制御プログラムに基づいて、各モータM1〜M3を制御する。また、制御器13は、前記制御プログラムに基づいて、後述するように積算値Pを算出し、積算値Pが目標値PTargetに達したか否かの判定等を行う。
【0022】
次に、接合装置1を用いて、鋼からなる板材W1,W2を複数の接合位置で連続して摩擦撹拌点接合する方法を例示する。図3は、図1の接合装置1の動作フローチャートである。図3に示すように、接合装置1と板材W1,W2とを位置合わせする工程(ステップS1)、ツール11で板材W1,W2を加圧する工程(ステップS2)、制御器13が、電流値が閾値Iに達したか否かを判定する工程(ステップS3)、制御器13が、接合制御中に積算値Pの算出を開始する工程(ステップS4)、制御器13が、接合制御中の積算値Pが目標値PTargetに達したか否かを判定する工程(ステップS5)、ツール11を板材W1,W2から離間させる離間工程(ステップS6)、及び制御器13が、全ての接合位置で点接合が完了したか否かを判定する工程(ステップS7)が順に行われ、板材W1,W2に残余の接合位置がある場合には、ステップS1が再び行われる。
【0023】
図4の(a)〜(c)は、図1の接合装置1を用いた摩擦撹拌点接合の各工程を説明する断面図である。図5は、ツール11の回転数とツール回転用モータM2の電流値との各時間変化を示す図である。図5では、ツール11の回転数の時間変化を曲線L1で示し、ツール回転用モータM2の電流値の時間変化を曲線L2で示している。曲線L1に示すように、ツール11が板材W2に接触するとき(時刻t1)から接合制御が完了するとき(時刻t3)までのツール11の回転数は、略一定値となるように初期設定されているが、これに限定されない。また、板材W1,W2の材料は、鋼以外の材料(例えば、アルミニウム等)でもよい。また、接合する板材の枚数は、2枚のみに限定されず、3枚以上でもよい。
【0024】
最初にオペレータは、入力器12を介して前記設定情報を接合装置1に入力し、板材W1,W2を重ねた状態で所定の治具に保持させる。そして、図4(a)に示すように、制御器13は、接合ユニット2を1の接合位置に対応する位置まで移動させ、板材W2側にツール11、板材W1側に裏当部7がそれぞれ配置されるように、裏当部7の先端部で板材W1を支持させる(ステップS1)。
【0025】
次いで図4(b)に示すように、制御器13は、各モータM1,M2を制御することにより、ツール11を回転させた状態でツール11に板材W1,W2を加圧させてツール11を板材W1,W2に押し込んで摩擦撹拌する接合制御を実行する。図5に示すように、ここでは、時刻t0にツール11を回転開始させるように、制御器13がツール回転用モータM2を制御する。また、時刻t1に回転中のツール11を板材W2に接触させてピン部11bの先端部で板材W1,W2を加圧させることで接合制御を開始するように、制御器13が各モータM1,M2を制御する(ステップS2)。時刻t2にピン部11bが板材W1,W2に押し込まれて、ツール11が回転しながら板材W1,W2を加圧することにより、ツール11と板材W1,W2との間で摩擦熱が生じ、ツール11から板材W1,W2に入熱される。これにより、ツール回転用モータM2により回転させたツール11に板材W1,W2を加圧させてツール11を板材W1,W2に押し込む接合工程が行われ、板材W1,W2が摩擦撹拌点接合される。
【0026】
制御器13は、ツール回転用モータM2の回転軸を回転させるために必要な電流値(以下、単にツール回転用モータM2の電流値と称する。)が閾値Iに達したか否かを判定する(ステップS3)。ここでは閾値Iは、ピン部11bが板材W1,W2に押し込まれるとき(時刻t2)のツール回転用モータM2の電流値に相当するように予め設定される。ステップS3において、制御器13は、ツール回転用モータM2の電流値が閾値Iに達したと判定した場合、接合制御中のツール回転用モータM2の電流値と接合制御中のツール回転用モータM2の駆動時間とを用いた積算値Pの算出を開始する(ステップS4)。これにより、接合制御中に制御器13が積算値Pを算出する積算値算出工程が行われる。
【0027】
積算値Pは、一例として、接合制御中のツール回転用モータM2の電流値と接合制御中のツール回転用モータM2の駆動時間と接合制御中のツール11回転数との積を用いて算出される。ここでは、積算値Pは、閾値Iに達した以後のツール回転用モータM2の電流値Iから一定値Iを差し引いた差分電流値I(I−I=I)と、電流値Iが閾値Iに達した以後のツール回転用モータM2の駆動時間ΔTと、電流値Iが閾値Iに達した以後のツール11の回転数Nとの積の値として算出される(I×ΔT×N=P)。一定値Iは、ここでは閾値Iに設定されている。
【0028】
図5に示すように、この場合、ツール回転用モータM2の電流値と接合制御の経過時間(駆動時間)との関係を表すグラフでは、差分電流値Iと駆動時間ΔTとの積は、ツール回転用モータM2の電流値が閾値Iを超える範囲で曲線L2に規定される面積Sで表され、積算値Pは、面積Sと回転数Nとの積の値で表される(S×N=P)。なお、一定値Iは、閾値I以外でもよく、0でもよい。積算値Pは、接合制御中にツール11から板材W1,W2に投入される入熱量と共に増大する。
【0029】
また、ツール移動用モータM1の回転数を検出するエンコーダを接合装置1に設け、制御器13が、ツール移動用モータM1の回転数によりツール11の位置情報を取得してもよい。この場合、制御器13は、ステップS3で、接合制御中にツール11が板材W2に押し込まれ始めるときのツール11の位置情報を前記エンコーダにより検知したか否かを判定し、前記位置情報を検知したと判定した場合に、ステップS4で、積算値Pの積算を開始してもよい。
【0030】
また、ステップS3を省略し、制御器13が、ツール11と板材W2との接触以後のツール回転用モータM2の電流値と前記接触以後のツール回転用モータM2の駆動時間と前記接触以後のツール11の回転数との積の値として積算値Pを算出してもよい。この場合、例えば、ツール11の加圧力を検出する荷重検出部を裏当部7等に設け、この荷重検出部の出力信号を制御器13に入力することで、制御器13は、ツール11が板材W2に接触するタイミングを検知できる。
【0031】
制御器13は、接合制御中の積算値Pが目標値PTargetに達したか否かを判定する(ステップS5)。制御器13は、ステップS5において、積算値Pが目標値PTargetに達した(時刻t3参照)と判定した場合、接合制御を完了し、図4(c)に示すように、モータM1を制御して、ツール11を板材W1,W2から離間させる離間制御を実行する(ステップS6)。これにより、前記離間工程が行われる。
【0032】
目標値PTargetは、適宜設定が可能である。接合制御中のツール回転用モータM2の電流の閾値I、接合制御中のツール11の回転数、及び接合制御中のツール11の加圧力は、ツール11の表面の材料、ツール11の表面や内部の各種特性(摩擦係数や熱伝導率等)、ツール11の寸法や形状、及び板材W1,W2の材料や寸法等に応じて設定される。従って、例えば事前の実験によって、板材W1、W2がツール11で適切に点接合されるツール回転用モータM2の電流の閾値I、ツール11の回転数、及びツール11の加圧力を初期設定して、目標値PTargetを設定することが望ましい。
【0033】
なお、板材W1,W2の各板厚方向でのツール11の板材W1,W2に対する最終到達位置を初期設定し、前記荷重検出部を用いて、ツール11が板材W2に接触してから前記最終到達位置に到達するまでのツール回転用モータM2の電流値とツール回転用モータM2の駆動時間とツール11回転数との積の値を計算することにより、目標値PTargetを設定してもよい。
【0034】
また、例えば、制御装置4と有線又は無線で通信可能に接続された外部制御装置が、積算値Pを積算してもよい。また、ステップS5では、例えば、接合制御中の積算値Pが目標値PTargetに達したか否かを前記外部制御装置が判定してもよい。この場合、ステップS5において、前記外部制御装置は、接合制御中の積算値Pが目標値PTargetに達したと判定した場合、制御器13に離間制御を実行させることができる。
【0035】
制御器13は、1の接合位置で離間制御が完了すると、全ての接合位置で板材W1,W2の点接合が完了したか否かを判定する(ステップS7)。ステップS7において、板材W1,W2の全ての接合位置での点接合が未だ完了していないと制御器13が判定した場合、次の接合位置にツール11が移動するように制御器13がロボット用モータM3を制御することで、ステップS1が再び行われる。ステップS7において、板材W1,W2の全ての接合位置での点接合が完了したと制御器13が判定した場合、図3に示す動作フローが終了する。
【0036】
以上に説明したように、接合装置1では、接合制御中の積算値Pが目標値PTargetに達したと判定されると、ツール11が板材W1,W2から離間されるので、各接合位置において、ツール11に板材W1,W2を加圧させ始め或いはツール11を板材W1,W2に押し込み始めてから、ツール11が板材W1,W2から離間されるまでの間に、ツール11から板材W1,W2に投入される入熱量が均一化され、板材W1,W2がツール11で摩擦撹拌される撹拌度合のばらつきが抑えられる。これにより、板材W1,W2を摩擦撹拌点接合する際に、ツール11の表面状態の変化やツール11と板材W1,W2との摩擦係数の変動により、板材W1,W2へのツール11の押込み時間やツール11による板材W1,W2の攪拌状態が変化して接合品質(例えば、板材W1,W2の接合部の外観品質や、板材W1,W2の各接合位置に形成されたピン穴の内部に残存する部分の板厚(以下、残存板厚と称する。)や、接合強度等)にばらつきを生じたり、ツール11が過熱されることによりツール11が過度に摩耗してツール11の寿命が短縮したりするのを防止できる。よって、オペレータが接合品質のばらつきやツール11の寿命の短縮を防止するために接合装置1を調整する負担を軽減しながら、接合品質を安定化できると共にツール11の長寿命化を図れる。
【0037】
また、板材W1,W2がツール11で摩擦撹拌される撹拌度合のばらつきが抑えられるので、例えば、板材W1,W2を複数の接合位置で連続して摩擦撹拌接合する場合でも、高温に加熱されて板材W1,W2に押し込まれ易くなったツール11が次の接合位置で板材W1,W2に過度に押し込まれるのを防止でき、接合品質のばらつきを抑えて接合品質を安定化できると共に、ツール11が過熱されて摩耗するのを防止してツール11の長寿命化を図れる。
【0038】
ここで、ツール11で板材W1,W2を摩擦撹拌して接合する時間を予め一律に初期設定して、単に前記時間が終了したと制御器が判定したときに接合工程を終了する場合には、ツール11によって適切な摩擦攪拌や接合が出来ていなくても、接合工程が終了される可能性がある。また、板材W1,W2に押し込まれるピン部11bの板材W1,W2に対する最終到達位置を予め一律に初期設定して、単にピン部11bが最終到達位置に到達したと制御器が判定したときに接合工程を終了する場合には、例えば、ピン部11bが摩耗や損傷を生じたことにより適切な摩擦撹拌や接合が出来ていなくても、接合工程が終了される可能性がある。
【0039】
これに対して接合装置1では、各接合位置において、モータM2の電流値の閾値Iをピン部11bが板材W1,W2に押し込まれるときの電流値に相当するように予め設定し、接合制御中の積算値Pが目標値PTargetに達したか否かを制御器13が判定することで、板材W1,W2が規定値以上のツール回転用モータM2のトルクでツール11により適切に摩擦撹拌されているか否かを確認でき、板材W1,W2を接合しながら接合品質を管理できる。
【0040】
また、積算値Pを、接合制御中のツール回転用モータM2の電流値と、接合制御中のツール回転用モータM2の駆動時間と、接合制御中のツール11の回転数Nとの積を用いて算出することにより、例えば、接合制御でのツール11の回転数Nを増大させた場合には、接合制御中のツール回転用モータM2の駆動時間が短縮されて各接合位置でツール11から板材W1,W2に投入される入熱量が均一化されるので、ツール11が過熱されるのを抑制できる。
【0041】
なお、例えば、前記エンコーダを接合装置1に設け、各接合位置で、接合制御中にツール11に板材W1,W2を加圧させてツール11を板材W1、W2に押し込むときのツール移動用モータM1の回転数が一定になるように、制御器13がツール移動用モータM1を更に制御してもよい。これにより、板材W1,W2の各接合位置での残存板厚を更に均一化し、板材W1,W2の接合品質を高めることができる。
【0042】
以下、変形例について、実施形態との差異を中心に説明する。
【0043】
(変形例)
図6は、変形例の接合装置1が備える接合ユニット2の側面図である。この変形例の接合装置1は、ツール11の温度(ここではピン部11bの先端部付近の表面温度)を測定可能な温度計30を備える。温度計30は、一例として放射温度計であり、接合ユニット2のフレーム部5に固定されている。温度計30の測定値は、制御器13に監視されている。
【0044】
この変形例の接合装置1では、制御器13は、接合制御中に板材W1,W2に押し込むツール11の温度に応じて目標値PTargetを変更する。具体的に制御器13は、各接合位置での接合制御中にツール11を板材W1,W2に押し込む直前に、温度計30で測定したピン部11bの表面温度に応じて目標値PTargetを変更する。具体的に制御器13は、各接合位置での接合制御中にツール11を板材W1,W2に押し込む直前に、温度計30で測定したピン部11bの表面温度が閾値Tよりも高い場合には、目標値PTargetを元の設定値よりも小さい値(例えば、元の設定値の70%以上90%以下の範囲の値)に設定し、閾値Tよりも低い場合には、目標値PTargetを元の設定値よりも大きい値(例えば、元の設定値の110%以上130%以下の範囲の値)に設定する。閾値T、Tは、適宜設定できる。事前の実験によって、閾値Tは、例えば、板材W1,W2の残存板厚が所定の第1板厚値未満となるときのピン部11bの表面温度に設定でき、閾値Tは、例えば、板材W1,W2の残存板厚が所定の第2板厚値を超えるときのピン部11bの表面温度に設定できる。
【0045】
このように、接合制御中に板材W1,W2に押し込む直前のツール11の温度に応じて目標値PTargetを変更することで、各接合位置でツール11を板材W1,W2に押し込む直前のツール11の温度が異なっていても、接合中および接合後のツール11の温度を更に安定させることができる。
【0046】
別の変形例の接合装置1では、積算値Pは、接合制御中のツール回転用モータM2の電流値と接合制御中のツール回転用モータM2の駆動時間との積の値で算出される。積算値Pは、一例として、差分電流値Iと駆動時間ΔTとの積の値で算出される(I×ΔT=P)。この変形例では、積算値Pは、図5の面積Sで表される。
【0047】
このように積算値Pを算出することで、積算値Pの算出方法を簡略化でき、制御器13の演算の負荷を軽減できる。この変形例の接合装置1は、例えば、接合制御中のツール11の回転数Nが一定に設定される場合等、回転数Nが、ツール11から板材W1,W2に投入される入熱量の変化に影響を比較的与えにくい場合において、特に良好に用いることができる。
【0048】
(確認試験)
実施例及び比較例の各接合装置を用いて、板材W1,W2を複数の接合位置で連続して摩擦撹拌点接合したときのツール11の温度、ピン部11bの径、板材W1,W2の接合強度、及び板材W1,W2の残存板厚の各変化を調べた。
【0049】
実施例の接合装置では、ピン部11bに被膜部を形成したツール11で板材W1、W2が適切に点接合されるように、ツール回転用モータM2の電流の閾値I、ツール11の回転数、及びツール11の加圧力を初期設定した。積算値P及び目標値PTargetは、閾値Iに達した以後のツール回転用モータM2の電流値及び前記電流値が閾値Iに達した以後のツール回転用モータM2の駆動時間の積の値に設定した。比較例の接合装置では、実施例と同様のツール11を用い、実施例と同様に、ツール11の回転数、ツール11の加圧力、及びツール11に板材W1,W2を加圧させ始めてからツール11を板材W1,W2から離間させるまでの時間(以下、接合時間と称する。)を初期設定した。板材W1,W2の接合強度は、JIS Z 3140規格に規定されるせん断引張強度試験により測定した。ツール11の温度は、放射温度計で測定した。
【0050】
図7は、比較例のツール11の温度とピン部11bの径との各変化を示す図である。図8は、比較例の接合強度と残存板厚との各変化を示す図である。図7及び8では、各接合位置でのツール11の温度、ピン部11bの径、板材W1,W2の接合強度、及び板材W1,W2の残存板厚の各値を相対値で表示している。
【0051】
図7及び8に示すように、比較例のツール11の温度及び板材W1,W2の接合強度は、試験開始から接合スポット数が100を超える付近までの間に急激に増大した後、減少し、接合スポット数が1000を超える付近から概ね緩やかに増大することが確認された。また、比較例のピン部11bの径は、試験開始から接合スポット数が100を超える付近までの間に増大し、その後に減少することが確認された。また、比較例の残存板厚は、試験開始から接合スポット数が100を超える付近までの間に急激に減少した後、増大し、接合スポット数が1000を超える付近から減少することが確認された。
【0052】
このような試験結果が得られた理由の一つとして、比較例では、ツール11の状態が変化しているにもかかわらず、各接合位置で、同じ接合時間で摩擦撹拌点接合を実施したことが原因と考えられる。具体的には、試験開始から接合スポット数が100を超える付近までの間では、ツール11の過熱による熱膨張とツール11の慣らしとツール11の摩擦係数の増大とが進行し、その後、接合スポット数が1000までの間は、ツール11の摩擦係数の減少が進行し、接合スポット数が1000を超える付近から、ピン部11bに形成された被覆部が剥離してピン部11bの摩耗が進行し、ピン部11bが板材W1,W2に押し込まれ易くなったことが考えられる。
【0053】
図9は、実施例のツール11の温度とピン部11bの径との各変化を示す図である。図10は、実施例の接合強度と残存板厚との各変化を示す図である。図9及び10では、図7及び8と同様に、ツール11の温度、ピン部11bの径、板材W1,W2の接合強度、及び板材W1,W2の残存板厚の各変化を示している。図9及び10に示すように、実施例では、当該試験範囲において、ツール11の温度、ピン部11bの径、接合強度、及び残存板厚のいずれもが、比較例に比べて安定していることが確認された。
【0054】
このような試験結果が得られた理由の一つとして、実施例では、試験開始後にツール11の熱膨張、慣らし及び摩耗係数の増大等がある程度生じても、各接合位置でツール11が板材W1,W2に押し込まれ始めてからツール11から板材W1,W2に投入される入熱量が均一化されたために、ツール11で板材W1,W2を摩擦撹拌する撹拌度合のばらつきが抑えられて板材W1,W2の接合状態が安定し、ツール11の温度及び板材W1,W2の残存板厚が均一化されたことが考えられる。
【0055】
また試験結果から、実施例では、複数の接合位置で板材W1,W2を連続的に摩擦撹拌点接合する際、オペレータが接合装置を調整する手間を軽減して、接合品質を安定化できると共にツール11の長寿命化を図れることが分かった。
【符号の説明】
【0056】
P 積算値
Target 目標値
M1 ツール移動用モータ(進退駆動器)
M2 ツール回転用モータ(回転駆動器)
W1,W2 板材
1 接合装置
11 ツール
13 制御器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10