特許第6554032号(P6554032)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6554032
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】小型滑走艇
(51)【国際特許分類】
   B63B 35/73 20060101AFI20190722BHJP
   B63B 1/20 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   B63B35/73 H
   B63B1/20
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-248326(P2015-248326)
(22)【出願日】2015年12月21日
(65)【公開番号】特開2017-114141(P2017-114141A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年6月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 広徳
(72)【発明者】
【氏名】新城 外志夫
(72)【発明者】
【氏名】金森 稔
【審査官】 福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第07240632(US,B1)
【文献】 特開2012−188119(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101554918(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 35/73
B63B 1/20 − 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デッキ及びハルを有する船体を備え、
前記デッキの後部には、ライダーが立つための床面を有するスタンディングデッキが形成されており、
前記ハルは、下方に向いた底面と、左右方向外方に向いた側面とを有し、
前記底面は、その左右方向の幅が前記底面の前後方向の中央部から後部に向けて狭くなる形状を有し、
前記ハルの前後方向の中央部において、前記側面は、上側面と、前記上側面と前記底面との間に位置する下側面とを有し、
前記下側面の前側領域は、前記上側面及び前記底面に連続しており、
前記下側面の前記前側領域と前記底面とは、後方から見た断面視で鈍角を形成するように互いに接続され、かつ、前記下側面の鉛直線に対する傾斜角は、前記上側面の鉛直線に対する傾斜角よりも大きい、立ち乗り式の小型滑走艇。
【請求項2】
前記下側面の鉛直方向長さは、前記上側面の鉛直方向長さより短い、請求項1に記載の立ち乗り式の小型滑走艇。
【請求項3】
前記上側面と前記下側面との間の境界線は、後方かつ上方に向けて斜めに延びている、請求項1又は2に記載の立ち乗り式の小型滑走艇。
【請求項4】
前記底面は、前記底面の中央部から後端に向けて延び且つ後方から見た断面視で上方に窪んだ案内溝面を有し、
前記底面は、前記下側面と前記案内溝面との間に位置する横端底面を有する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の立ち乗り式の小型滑走艇。
【請求項5】
前記底面の前記後部の左右方向の幅は、前記底面の左右方向の幅の最大値の90%以下である、請求項1乃至4のいずれかに記載の立ち乗り式の小型滑走艇。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、換気ダクトを有する小型滑走艇に関する。
【背景技術】
【0002】
ジェット推進型の小型滑走艇では、ハル及びデッキにより囲まれたエンジンルームにエンジンが配置され、エンジンにより駆動されるウォータジェットポンプでハルの吸水口から吸い込んだ水を加圧し、ポンプノズルから後方へ噴射して船体を推進させる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6779474号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、小型滑走艇では、ハンドルの操作によるポンプノズルの方向変更と同時に、船体をロール方向に傾けて旋回すると円滑に旋回できる。しかし、船体を傾ける際に船体が水面から受ける圧力が高いと、ライダーが船体を円滑に傾けることができず、ライダーの意に反して旋回半径が大きくなってしまう。
【0005】
そこで本発明は、小型滑走艇の旋回性能を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る小型滑走艇は、デッキ及びハルを有する船体を備え、前記ハルは、下方に向いた底面と、左右方向外方に向いた側面とを有し、前記底面は、その左右方向の幅が前記底面の前後方向の中央部から後部に向けて狭くなる形状を有し、前記ハルの前後方向の中央部において、前記側面は、上側面と、前記上側面と前記底面との間に位置する下側面とを有し、前記下側面と前記底面とは、後方から見た断面視で鈍角を形成するように互いに接続され、かつ、前記下側の鉛直線に対する傾斜角は、前記上側面の鉛直線に対する傾斜角よりも大きい。
【0007】
一般的に、小型滑走艇の旋回時には、ハルの側面と底面との間の屈曲した接続部において水面から受ける圧力が局所的に高くなり、船体をロール方向に傾けにくくなる。しかし、前記構成によれば、ハルの前後方向の中央部においては、ハルの側面が上側面と下側面とを有し、下側面と底面とが鈍角を形成するように互いに接続され、かつ、ハルの側面において下側面の鉛直線に対する傾斜角が上側面の鉛直線に対する傾斜角より大きいので、小型滑走艇の旋回時にハルの側面と底面との接続部の屈曲度が緩やかになり、かつ、ハルの側面と水との接触面積が多くなる。よって、船体をロール方向に傾けながら旋回するときに、ハルの前後方向の中央部における側面と底面との接続部が水面から受ける局所的な圧力が分散され、船体をロール方向に傾けやすくなる。また、ハルの底面の左右方向の幅が後方にいくにつれて狭くなるので、船体をロール方向に傾けながら旋回するときに、船尾を沈ませた状態で船尾を左右方向にスライドさせやすくなる。以上のように、ハルの前後方向中央部の形状と後端部の形状との相互作用により、小型滑走艇の旋回性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、小型滑走艇の旋回性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態の小型滑走艇の概略側面図である。
図2図1に示す小型滑走艇のハルを斜め左下方から見た斜視図である。
図3図2に示すハルの底面図である。
図4図2に示すハルの側面図である。
図5図4のV−V線断面図である。
図6図4のVI−VI線断面図である。
図7図4のVII−VII線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。なお、以下の説明で用いる方向の概念は、小型滑走艇1に搭乗したライダーから見た方向を基準とする。
【0011】
図1は、実施形態の小型滑走艇1の概略側面図である。図1に示すように、小型滑走艇1は、ライダーが立った状態で運転する立ち乗り式の小型滑走艇である。小型滑走艇1は、内部にエンジンルームRが形成された船体2を備える。船体2は、ハル3と、ハル3を上方から覆うデッキ4とを有する。ハル3とデッキ4との接続ラインはガンネルライン5と呼ばれる。エンジンルームRには、エンジン6が配置される。エンジン6の出力軸には船体2内を後方に延びるプロペラシャフト7が接続される。プロペラシャフト7で駆動されたウォータージェットポンプ(図示せず)によりハル3の吸水口21(図2参照)から吸入した水を加圧及び加速し、船体2の後端部に取り付けられたジェットノズル8から水を噴射することで、推進力が発生する。
【0012】
デッキ4の後部には、エンジンルームRよりも後方において、ライダーが立つための平坦な床面を有するスタンディングデッキ4aが形成される。スタンディングデッキ4aはエンジンルームRの上端より低い位置に配置される。スタンディングデッキ4aの左右両側には上方に突出する側壁部であるデッキフィン4bが形成されている。デッキ4には、エンジンEの上方に配置されてエンジンルームRに連通するメンテナンス開口(図示せず)が形成される。デッキ4には、メンテナンス開口を上方から覆うエンジンフード9が着脱可能に取り付けられる。
【0013】
デッキ4の上面には、メンテナンス開口の前方にてヒンジ部材10が固定され、ヒンジ部材10にハンドルポール11の前端部が左右方向に延びる軸線回りに回動自在に取り付けられる。ハンドルポール11の後端部には、バー式の操舵ハンドル12が設けられる。エンジンフード9の上面の左右方向中央には、前後方向に延びる溝部(図示せず)が形成され、ハンドルポール11は、ライダーが操舵ハンドル12を握っていない状態では当該溝部に設置される。ライダーは、スタンディングデッキ4aに立ち、操舵ハンドル12を握ってハンドルポール11を上方に持ち上げて艇1を操縦する。
【0014】
図2は、図1に示す小型滑走艇1のハル3を斜め左下方から見た斜視図である。図3は、図2に示すハル3の底面図である。図4は、図2に示すハル3の側面図である。図5は、図4のV−V線断面図である。図6は、図4のVI−VI線断面図である。図7は、図4のVII−VII線断面図である。図2乃至7に示すように、ハル3は、下方に向いた底面20と、左右方向外方に向いた側面30とを有する。本実施形態では、前後方向から見て、鉛直面よりも水平面に近い傾斜、即ち、水平面に対する角度が0°〜45°の面が底面20であり、水平面よりも鉛直面に近い傾斜、即ち、水平面に対する角度が45°〜90°の面が側面30である。また本実施形態では、面の角度は、前後方向から見た断面視で、一対の屈曲部で挟まれた領域の各点の接線角度の平均を意味する。
【0015】
底面20は、その後部中央に吸水口21が形成される。底面20は、後方から見た断面視で上方に向けて弧状に窪んだ一対の案内溝面22を有する。一対の案内溝面22は、吸水口21の左右両側において底面20の中央部20aから後端に向けて前後方向に延びる。底面20は、側面30と案内溝面22に連続した状態で側面30と案内溝面22との間に位置した前後方向に延びる横端底面23を有する。底面20は、その左右方向の幅が底面20の前後方向の中央部20aから前部20cに向けて狭くなる形状を有する。更に、底面20は、その左右方向の幅が底面20の前後方向の中央部20aから後部20bに向けて狭くなる形状を有する。具体的には、底面20の後部20bの左右方向の幅W2は、底面20の中央部20aにおける左右方向の幅の最大値W1の90%以下80%以上である。なお、本実施形態では、ハル3の前後方向の前端位置を0%位置とし且つハル3の前後方向の後端位置を100%位置として前後方向位置を定義したときに、中央部20aは、少なくともハル3の40%位置から55%位置までの範囲を含む。
【0016】
側面30は、ハル3の前後方向の中央部において、上側面31と、上側面31と底面20との間に位置する下側面32とを有する。下側面32の前側領域32aは、上側面31及び底面20に連続する。下側面32の前側領域32aと底面20とは、後方から見た断面視で鈍角を形成するように互いに接続される。下側面32の鉛直線に対する傾斜角は、上側面31の鉛直線に対する傾斜角よりも大きい。下側面32の鉛直方向長さL2は、上側面31の鉛直方向長さL1より短い。上側面31と下側面32との間の境界線B1は、後方かつ上方に向けて斜めに延びている。
【0017】
上側面31の後側領域31aは、後方かつ上方に向けて斜めに延びている。上側面31の後側領域31aは、後方にいくにつれて上下方向寸法が徐々に小さくなる形状を有する。下側面32の後側領域32bは、後方かつ上方に向けて斜めに延びている。下側面32の後側領域32bは、後方にいくにつれて上下方向寸法が徐々に小さくなる形状を有する。下側面32の後側領域32bは、左右方向外方、後方かつ下方に向いている。即ち、下側面32の後側領域32bは、その法線が左右方向外方、後方かつ下方に向くように上側面31に対して傾斜している。
【0018】
側面30は、ハル3の後部において後側面33を有する。後側面33の鉛直線に対する傾斜角は、下側面32の鉛直線に対する傾斜角よりも小さい。ハル3の後部における後側面33は、ハル3の中央部における上側面31及び下側面32よりも左右方向内側に位置する。後側面33の前側領域33aは、前方かつ下方に向けて斜めに延びている。後側面33の前側領域33aは、前方にいくにつれて上下方向寸法が徐々に小さくなる形状を有する。後側面33の前側領域33aは、下側面32の後側領域32bと前後方向位置が重なり、下側面32の後側領域32bの下側に位置する。下側面32と後側面33との間の境界線B2は、後方かつ上方に向けて斜めに延びている。
【0019】
以上に説明した構成によれば、ハル3の前後方向の中央部においては、ハル3の側面30が上側面31と下側面32とを有し、下側面32と底面20とが鈍角を形成するように互いに接続され、かつ、ハル3の側面30において下側面32の鉛直線に対する傾斜角が上側面31の鉛直線に対する傾斜角より大きい。よって、小型滑走艇1の旋回時にハル3の側面30と底面20との接続部の屈曲度が緩やかになり、かつ、ハル3の側面30と水との接触面積が多くなる。よって、船体2をロール方向(左右方向)に傾けながら旋回するときに、ハル3の前後方向の中央部における側面30と底面20との接続部が水面から受ける局所的な圧力が分散され、船体2をロール方向に傾けやすくなる。また、ハル3の底面20の左右方向の幅が後方にいくにつれて狭くなるので、船体2をロール方向に傾けながら旋回するときに、船尾を沈ませた状態で船尾を左右方向にスライドさせやすくなる。以上のように、ハル3の前後方向中央部の形状と後端部の形状との相互作用により、小型滑走艇1の旋回性能を向上させることができる。
【0020】
また、下側面32の後側領域32bは、後方かつ上方に向けて斜めに延びているので、船体2をロール方向に徐々に傾ける際の抵抗の変動を低減することができる。また、下側面32の後側領域32bは、左右方向外方、後方かつ下方に向いているので、船体2をロール方向に傾けながら走行するときに下側面32に押された水が円滑に流れ、小型滑走艇1の旋回性能を更に向上させることができる。また、下側面32の鉛直方向長さL2は、上側面31の鉛直方向長さL1より短いので、小型滑走艇1の直進時における左右方向振動を上側面31により十分に抑制することができる。
【符号の説明】
【0021】
1 小型滑走艇
2 船体
3 ハル
4 デッキ
20 底面
20a 中央部
20b 後部
22 案内溝面
23 横端底面
30 側面
31 上側面
32 下側面
33 後側面
B1,B2 境界線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7