特許第6554047号(P6554047)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6554047流体デバイス用シリコーン部材およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6554047
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】流体デバイス用シリコーン部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/00 20060101AFI20190722BHJP
   G01N 35/08 20060101ALI20190722BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20190722BHJP
   B81C 1/00 20060101ALI20190722BHJP
   B81B 1/00 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   B01J19/00 321
   G01N35/08 A
   G01N37/00 101
   B81C1/00
   B81B1/00
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-36782(P2016-36782)
(22)【出願日】2016年2月29日
(65)【公開番号】特開2017-154036(P2017-154036A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2018年11月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】岡下 勝己
(72)【発明者】
【氏名】林 翔太
【審査官】 菊地 寛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−198592(JP,A)
【文献】 特開2007−216123(JP,A)
【文献】 特開2008−043883(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/121310(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/00
B81B 1/00
B81C 1/00
G01N 35/08
G01N 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーン製の一体物であり、流体と接触する一面は、該流体の一部を捕捉するための凹部と、それ以外の流路部とからなり、
該凹部の少なくとも一部は親水性であり、該一部以外の該凹部および該流路部は疎水性であることを特徴とする流体デバイス用シリコーン部材。
【請求項2】
前記凹部のうち親水性の前記一部の表面には、親水層が配置されている請求項1に記載の流体デバイス用シリコーン部材。
【請求項3】
前記親水層は、有機成分を含むケイ素酸化物膜である請求項2に記載の流体デバイス用シリコーン部材。
【請求項4】
前記流路部の表面には、疎水層が配置されている請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の流体デバイス用シリコーン部材。
【請求項5】
前記疎水層は、フッ素樹脂膜である請求項4に記載の流体デバイス用シリコーン部材。
【請求項6】
請求項1に記載の流体デバイス用シリコーン部材の製造方法であって、
一面に凹部を有するシリコーン製の基材に対して、該一面をプラズマCVD法およびプラズマ照射の少なくとも一方により処理することにより、該一面全体に親水層を形成する親水化工程と、
該一面のうち該凹部以外の該親水層の表面に疎水層を形成する疎水化工程と、
を有することを特徴とする流体デバイス用シリコーン部材の製造方法。
【請求項7】
前記親水化工程は、前記プラズマCVD法により、前記一面全体の表面に有機成分を含むケイ素酸化物膜を形成する工程である請求項6に記載の流体デバイス用シリコーン部材の製造方法。
【請求項8】
前記疎水化工程は、転写法により疎水性樹脂膜を形成する工程である請求項6または請求項7に記載の流体デバイス用シリコーン部材の製造方法。
【請求項9】
前記疎水性樹脂膜は、フッ素樹脂膜である請求項8に記載の流体デバイス用シリコーン部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な流路を有する流体デバイスに有用なシリコーン部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板内に微細な流路が形成されているマイクロ流体デバイスを用いると、反応、抽出、分離、測定などの各種操作を、極めて少量の試料で短時間に行うことができる。基板の材料としては、ガラスが一般的である。しかしながら、ガラス製の基板に微細な流路を形成するには、フォトリソグラフィおよびドライエッチングなどの工程が必要である。このため、基板の製造に時間がかかり生産性が低い。また、基板がガラス製の場合、焼却による廃棄ができないという問題もある。そこで、ガラスに代わる材料として、微細加工が容易であり、光透過性、耐薬品性に優れるという理由から、シリコーンが注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−181407号公報
【特許文献2】国際公開第2008/065868号
【特許文献3】特開2013−202000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ガラス製の基板と比較して、シリコーン製の基板は、水に対する親和性が低い。このため、流路に親水性溶液を流した場合、流れ性の悪さから、所望の操作を正確に行えないおそれがあった。また、基板上に形成された凹部に、捕捉したい成分が入りにくいという問題があった。したがって、シリコーン製の基板を用いる場合には、表面に親水性を付与する処理が施される(例えば、特許文献1、2参照)。
【0005】
しかしながら、従来の方法においては、凹部を含む基材表面全体を親水化する。この場合、流れ性は改善されるが、捕捉したい成分が凹部以外にも付着しやすくなる。このため、試料のロスが大きく、分析精度が低下するおそれがある。
【0006】
例えば、特許文献3には、貫通孔を有する上部プレートと平板状の下部プレートとが上下方向に積層して接合されてなるマイクロ化学デバイスが記載されている。特許文献3のデバイスにおいては、上部プレートの貫通孔と下部プレートの表面とで凹部が形成されている。そして、上部プレートの材質をシリコーンにし、下部プレートの材質をシリコーン以外の樹脂にすることにより、凹部の底面と側面との表面状態を異ならせている。しかしながら、特許文献3に記載のデバイスを製造するためには、二種類のプレートを製造する必要があり、さらにはそれを接合する工程が必要である。接合するには、位置合わせや、種々の処理が必要である。このため、製造工程が煩雑であり、コスト高になる。
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、凹部の少なくとも一部のみが親水性を有する流体デバイス用シリコーン部材、およびその容易な製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記課題を解決するため、本発明の流体デバイス用シリコーン部材(以下、単に「本発明のシリコーン部材」と称する場合がある)は、シリコーン製の一体物であり、流体と接触する一面は、該流体の一部を捕捉するための凹部と、それ以外の流路部とからなり、該凹部の少なくとも一部は親水性であり、該一部以外の該凹部および該流路部は疎水性であることを特徴とする。
【0009】
本発明のシリコーン部材は、シリコーン製の一体物である。すなわち、複数の部材が積層または接合されて形成されるのではなく、シリコーンから一体的に形成される。このため、複数の部材を組み合わせる場合と比較して、製造が容易である。また、目的に応じて、大きさや形状が異なる様々な凹部のパターンを、容易に形成することができる。
【0010】
本発明のシリコーン部材は、流体と接触する一面を有し、当該一面は、該流体の一部を捕捉するための凹部と、それ以外の流路部とからなる。ここで、凹部の少なくとも一部は親水性であり、それ以外の一面(当該一部以外の凹部および流路部)は疎水性である。凹部の全部が親水性である場合には、流路部のみが疎水性になる。よって、捕捉したい成分を、凹部以外に付着させることなく確実に捕捉することができる。これにより、試料のロスを少なくし、分析精度を向上させることができる。なお、本明細書においては、JIS R3257:1999に準じて測定された水接触角が80°未満の場合を親水性、80°以上の場合を疎水性と定義する。
【0011】
(2)本発明のシリコーン部材の製造方法の一例として、本発明の流体デバイス用シリコーン部材の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」と称する場合がある)は、一面に凹部を有するシリコーン製の基材に対して、該一面をプラズマCVD法およびプラズマ照射の少なくとも一方により処理することにより、該一面全体に親水層を形成する親水化工程と、該一面のうち該凹部以外の該親水層の表面に疎水層を形成する疎水化工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
親水化工程において、基材の一面をプラズマCVD(化学気相蒸着)法およびプラズマ照射の少なくとも一方により処理することにより、一面が改質され、あるいは一面に薄膜が形成されて、あるいはその両方により、一面に親水層を形成することができる。その後、疎水化工程において、凹部以外の親水層の表面に疎水層を形成することにより、凹部以外の表面、すなわち流路部を疎水性にすることができる。このように、本発明の製造方法によると、凹部のみが親水性を有する形態の本発明のシリコーン部材を、容易かつ短時間に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のシリコーン部材を備える流体デバイスの透過上面図である。
図2】同流体デバイスのII−II断面図である。
図3】同流体デバイスのIII−III断面図である。
図4】同流体デバイスの下側部材の製造における親水化工程の概略図である。
図5】同流体デバイスの下側部材の製造における疎水化工程の概略図である。
図6】同流体デバイスの製造における積層工程の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、本発明のシリコーン部材およびその製造方法の一実施形態を示す。図1に、本発明のシリコーン部材を備える流体デバイスの透過上面図を示す。図2に、同流体デバイスのII−II断面図を示す。図3に、同流体デバイスのIII−III断面図を示す。本実施形態において、本発明のシリコーン部材は、流体デバイスの下側部材として具現化されている。
【0015】
図1図3に示すように、流体デバイス1は、上側部材10と、下側部材20と、を有している。上側部材10と下側部材20とは上下方向に積層されている。上側部材10は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)製であり、長方形板状を呈している。上側部材10の下面には、上側凹部11が形成されている。上側部材10の前端部には、導入孔12が穿設されている。導入孔12は、上側部材10を上下方向に貫通している。
【0016】
下側部材20は、PDMS製であり、長方形板状を呈している。上側部材10の下面と、下側部材20の上面と、により流路14が区画されている。流路14の上流端は、導入孔12と連通している。流路14の下流端には、後面に開口する排出口13が配置されている。
【0017】
下側部材20の上面の中央付近には、7本の溝状の下側凹部21が形成されている。下側凹部21は、各々、左右方向に延びる直線状を呈している。下側凹部21は、各々、前後方向に所定の間隔で離間して平行に配置されている。下側凹部21の上下方向断面は矩形状を呈している。流路14を区画する下側部材20の上面は、下側凹部21と、それ以外の流路部22と、からなる。
【0018】
下側凹部21の表面には、親水層210が配置されている。親水層210は、有機成分を含むケイ素酸化物膜である。これにより、下側凹部21は、側面および底面の全てにおいて親水性を有している。なお、親水層210は、下側凹部21を含む下側部材20の上面全体に配置されている。
【0019】
流路部22の表面には、疎水層220が配置されている。疎水層220は、フッ素樹脂膜である。疎水層220は、親水層210の上面を覆うように配置されている。これにより、流路部22は疎水性を有している。本実施形態において、流路14を区画する下側部材20の上面は、親水性の下側凹部21と、疎水性の流路部22と、から構成されている。
【0020】
導入孔12から注入された流体は、流路14を流れて排出口13から排出される。例えば、試料として親水性溶液を流した場合、下側凹部21が親水性を有しているため、当該溶液の一部を確実に下側凹部21に捕捉することができる。一方、流路部22は疎水性を有している。このため、当該溶液が流路部22に付着しにくい。したがって、試料のロスが低減され、分析精度が向上する。
【0021】
流体デバイス1の製造方法は、以下の通りである。図4に、流体デバイスの下側部材の製造における親水化工程を示す。図5に、流体デバイスの下側部材の製造における疎水化工程を示す。図6に、上側部材と下側部材との積層工程を示す。
【0022】
まず、図4に示すように、下側部材20となる基材20Aの一面200Aに、シラン系ガスを含む雰囲気中でマイクロ波プラズマPを照射して、一面200Aに、有機成分を含むケイ素酸化物膜を形成する。これにより、凹部21Aを含む一面200A全体に親水層210が形成される。次に、図5に示すように、基材20Aを反転させて、親水層210が形成された一面200Aをスタンプ部材30に押しつける。スタンプ部材30には、フッ素樹脂液300が含浸されている。これにより、基材20Aの凹部21A以外の親水層210の表面に、フッ素樹脂液が付着する。その後、付着したフッ素樹脂液を乾燥させて、凹部21A以外の親水層210の表面に、疎水層としてのフッ素樹脂膜を形成する。このようにして、図6に示すように、親水層210と疎水層220とを有する下側部材20が製造される。それから、図6中、白抜き矢印で示すように、上側部材10と下側部材20とを重ね合わせて、前出図2に示す流体デバイス1が製造される。
【0023】
以上、本発明のシリコーン部材を備える流体デバイスの一実施形態を示したが、流体デバイスの構成は、上記形態に限定されない。例えば、本発明のシリコーン部材に積層される相手部材の材質は、PDMSの他、フッ素樹脂、ガラスなどでもよい。相手部材の形状、大きさなども何ら限定されない。本発明のシリコーン部材と相手部材とは、単に積層させるだけでもよいが、接着剤などを用いて接着してもよい。
【0024】
また、本発明の流体デバイス用シリコーン部材およびその製造方法は、上記形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。次に、本発明のシリコーン部材およびその製造方法について詳しく説明する。
【0025】
<流体デバイス用シリコーン部材>
本発明のシリコーン部材は、シリコーン製の一体物であり、流体と接触する一面は、該流体の一部を捕捉するための凹部と、それ以外の流路部とからなる。流体の種類は、特に限定されない。流体は、親水性でも疎水性でもよい。例えば、一面上に親水性の流体が流れると、当該流体の一部は凹部に捕捉される。流体の一部は、流体そのものの一部でもよく、流体に含まれている特定の物質のみでもよい。
【0026】
凹部の大きさ、形状、配置形態は、特に限定されない。例えば、凹部は、溝状でも窪み状でもよい。凹部の深さ方向の断面は、正方形、長方形、台形などの矩形状、半円、楕円などの曲面状、V字状などであればよい。凹部の少なくとも一部は親水性を有する。すなわち、凹部の全体が親水性でもよく、凹部の形状により底面のみが親水性でもよく、側面の一部が親水性でもよい。なお、凹部の全部が親水性である場合には、流路部のみが疎水性になる。
【0027】
親水性を有する凹部の表面には、親水層が配置される。親水層は、表面の改質により形成されたものでもよく、表面に成膜して形成されたものでもよい。例えば、表面を改質して、水酸基、アミノ基、C−N結合、C=O結合、アミド結合(O=C−N)などが付与された形態が挙げられる。また、表面に、有機成分を含むケイ素酸化物膜、チタン酸化物などの親水性の薄膜が形成された形態が挙げられる。親水性の薄膜は単分子膜であってもよい。なお、表面の改質のみにより形成された親水層は、有機溶剤と長時間接触すると膨潤するおそれがある。よって、親水層としては、親水性の薄膜が望ましい。
【0028】
凹部のうち親水性を有しない部分と流路部とは、疎水性を有する。疎水性は、シリコーン自体が有する疎水性でもよく、表面の改質や、表面への成膜により付与されたものでもよい。後者の場合、表面には疎水層が配置される。疎水層は、流路部の表面に配置されることが望ましい。疎水層としては、フッ素樹脂膜、シリコーン膜などの疎水性の薄膜が好適である。
【0029】
<流体デバイス用シリコーン部材の製造方法>
本発明の流体デバイス用シリコーン部材の製造方法は、親水化工程と、疎水化工程と、を有する。以下、各工程を説明する。
【0030】
[親水化工程]
本工程は、一面に凹部を有するシリコーン製の基材に対して、該一面をプラズマCVD法およびプラズマ照射の少なくとも一方により処理することにより、該一面全体に親水層を形成する工程である。
【0031】
一面に凹部を有する基材は、シリコーンの射出成形などにより製造すればよい。また、基材を成形した後に一面を加工して凹部を形成してもよい。
【0032】
一面全体に親水性を付与する親水化処理は、プラズマCVD法およびプラズマ照射の少なくとも一方により行う。いずれの方法においても、所定のガス雰囲気中でプラズマを発生させる。プラズマの発生方法は、特に限定されない。例えば、高周波(RF)電源を用いたRFプラズマや、マイクロ波電源を用いたマイクロ波プラズマなどを採用すればよい。処理圧力は、1〜100Pa程度にすればよい。
【0033】
例えば、テトラエトキシシラン(TEOS)ガスおよびアルゴンガスの雰囲気中で、マイクロ波プラズマを照射して、有機成分を含む親水性のケイ素酸化物膜を形成するとよい(プラズマCVD法)。また、エチレンジアミン、ジエチルアミン、アンモニアなどのアミンガスと、アルゴン、窒素などのキャリアガスとの雰囲気中でマイクロ波プラズマを照射して、基材の一面に親水性の官能基を付与してもよい。
【0034】
[疎水化工程]
本工程は、親水化処理した一面のうち該凹部以外の該親水層の表面に疎水層を形成する工程である。本工程により、凹部以外の一面、すなわち流路部に、疎水性が付与される。疎水層の形成方法は特に限定されない。例えば、親水層の表面を改質したり、表面に疎水性樹脂膜を形成すればよい。疎水性樹脂膜としては、例えば、フッ素樹脂膜、シリコーン膜などが挙げられる。疎水性樹脂膜の形成方法としては、親水層が形成された基材の表面を、疎水性樹脂液を有する部材に押し当てて、疎水性樹脂液を親水層の表面に転写させる転写法が好適である。
【実施例】
【0035】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0036】
<シリコーン部材の製造>
[実施例1]
前出図1図3に示した下側部材と同じ形状のシリコーン部材を製造した。凹部の前後方向長さ(幅)は6μm、左右方向長さは5mm、深さは10μm、凹部と凹部との間隔は10μmである(図1参照)。
【0037】
まず、PDMSを射出成形して、上面に所定の凹部を有する板状の基材を製造した。次に、基材の上面全体に有機成分を含むケイ素酸化物膜をマイクロ波プラズマCVD法により形成した。成膜は、アルゴンガス10PaおよびTEOSガス1.0Paの雰囲気で、マイクロ波の周波数を2.45GHz、出力電力を1kWとして行った。成膜時間は60秒間とした。形成された有機成分を含むケイ素酸化物膜(親水層)の厚さは75nmであった。続いて、厚さ0.2mmの板状のメラミンフォーム製のスタンプ部材に、フッ素樹脂液(旭硝子(株)製「CYTOP(登録商標)」)を1mL含浸させた。そして、基材の上面をスタンプ部材に押しつけて、凹部以外の部分にフッ素樹脂液を転写した。その後、室温下にて30分間乾燥させて、凹部以外の部分にフッ素樹脂膜(疎水層)を形成した。得られたシリコーン部材を実施例1のシリコーン部材と称す。
【0038】
[実施例2]
実施例1で使用したのと同じ基材の上面に、マイクロ波プラズマ処理によりアミノ基を付与した。アミノ基が付与された上面は親水層になる。マイクロ波プラズマ処理は、アルゴンガス10Paおよびエチレンジアミンガス1.0Paの雰囲気で、マイクロ波の周波数を2.45GHz、出力電力を1kWとして行った。処理時間は60秒とした。続いて、基材の上面を、実施例1で使用したスタンプ部材に押しつけて、凹部以外の部分にフッ素樹脂液を転写した。その後、室温下にて30分間乾燥させて、凹部以外の部分にフッ素樹脂膜(疎水層)を形成した。得られたシリコーン部材を実施例2のシリコーン部材と称す。
【0039】
[比較例1]
凹部以外の部分にフッ素樹脂膜を形成しない点以外は、実施例1と同様にしてシリコーン部材を製造した。得られたシリコーン部材を比較例1のシリコーン部材と称す。比較例1のシリコーン部材においては、上面全体(凹部を含む)に有機成分を含むケイ素酸化物膜(親水層)が形成されている。
【0040】
[比較例2]
実施例1で使用した基材そのものを、比較例2のシリコーン部材とした。
【0041】
<水接触角の測定>
製造したシリコーン部材の上面の水接触角を測定した。水接触角は、凹部とそれ以外の平坦部との二箇所について測定した。平坦部には、後述する流体デバイスにおける流路部が含まれる。水接触角の測定は、JIS R3257:1999に準じて行った。本実施例においては、測定対象の表面に水を2μl滴下して、水が接触してから1分以内の水接触角を測定した。表1に、水接触角の測定結果を示す。
【表1】
【0042】
表1に示すように、実施例1のシリコーン部材においては、凹部の水接触角は60°であり、平坦部の水接触角は110°であった。これにより、実施例1のシリコーン部材の凹部は親水性を有し、平坦部は疎水性を有することが確認された。実施例2のシリコーン部材においては、凹部の水接触角は10°未満であり、平坦部の水接触角は110°であった。これにより、実施例2のシリコーン部材の凹部は親水性を有し、平坦部は疎水性を有することが確認された。一方、比較例1のシリコーン部材においては、凹部および平坦分の両方の水接触角が60°であり、上面全体が親水性を有することが確認された。また、比較例2のシリコーン部材においては、凹部および平坦部の両方の水接触角が110°であり、上面全体がPDMS由来の疎水性を有することが確認された。
【0043】
<流体デバイスの製造>
製造したシリコーン部材を用いて、前出図1図3に示した形態の流体デバイスを製造した。製造した流体デバイスの前後方向長さは50mm、左右方向長さは10mmである(図1参照)。上側部材については、別途PDMSを射出成形して製造した。流路を区画する上側凹部の深さは150μmである。製造したシリコーン部材(下側部材)の上面に上側部材を積層して両者を接合した。このようにして製造された流体デバイスを、シリコーン部材の番号に対応させて、実施例1の流体デバイスなどと称す。
【0044】
<性能評価>
[評価方法]
流体デバイスの流路に試液を流し、凹部における捕捉性を評価した。まず、水性染料(シャチハタ(株)製「スタンプインキS−1」)10mLと、純水5mLと、エタノール5mLと、を混合して試液を調製した。次に、流体デバイスの導入孔より、試液4μLをマイクロピペットを用いて注入した。それから、流体デバイスの前端を持ち上げ、水平から30°傾けて、流路の試液を排出口から排出した。その後、下側部材(シリコーン部材)の凹部と流路部とにおける残留物を確認した。残留物の確認は、(株)キーエンス製のデジタルマイクロスコープ「VHX−100」を用いて行い、染料成分残渣が観察されれば残留物あり、観察されなければ残留物なしとした。そして、凹部に残留物があり、かつ流路部に残留物がない場合のみを捕捉性良好と評価し、それ以外は捕捉性不良と評価した。なお、湿度50%環境下における水蒸発速度は0.07μL/分である。このため、試液中の水は蒸発するため残留しない。
【0045】
[評価結果]
先の表1に、凹部の捕捉性の評価結果をまとめて示す。表1に示すように、実施例1、2の流体デバイスにおいては、凹部に残留物があり、かつ、流路部に残留物がなかった。すなわち、実施例1、2の流体デバイスにおいては、いずれも捕捉性が良好(表1中、〇印で示す)であることが確認された。これに対して、比較例1の流体デバイスにおいては、凹部だけでなく流路部にも残留物があった。これは、試料が流路部に付着しやすいことを意味するため、捕捉性は不良(表1中、×印で示す)と判断した。また、比較例2の流体デバイスにおいては、凹部に残留物がなかった。この場合、試料の一部を捕捉することができないため、捕捉性は不良と判断した。
【符号の説明】
【0046】
1:流体デバイス、10:上側部材、11:上側凹部、12:導入孔、13:排出口、14:流路、20:下側部材(流体デバイス用シリコーン部材)、20A:基材、21:下側凹部、21A:凹部、22:流路部、200A:一面、210:親水層、220:疎水層、30:スタンプ部材、300:フッ素樹脂液、P:マイクロ波プラズマ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6