特許第6554144号(P6554144)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6554144
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】養魚方法及びワムシの生産方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/10 20170101AFI20190722BHJP
   A23K 50/80 20160101ALI20190722BHJP
   C12N 1/12 20060101ALI20190722BHJP
   A01K 61/20 20170101ALI20190722BHJP
   A23K 20/20 20160101ALI20190722BHJP
   A23K 10/16 20160101ALI20190722BHJP
【FI】
   A01K61/10
   A23K50/80
   C12N1/12 A
   A01K61/20
   A23K20/20
   A23K10/16
【請求項の数】7
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-117287(P2017-117287)
(22)【出願日】2017年6月14日
(65)【公開番号】特開2019-37(P2019-37A)
(43)【公開日】2019年1月10日
【審査請求日】2017年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000105051
【氏名又は名称】クロレラ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156959
【弁理士】
【氏名又は名称】原 信海
(72)【発明者】
【氏名】丸山 功
(72)【発明者】
【氏名】中村 寿雄
【審査官】 門 良成
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−087274(JP,A)
【文献】 特開昭62−123128(JP,A)
【文献】 特開2001−161348(JP,A)
【文献】 国際公開第2003/055330(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/089864(WO,A1)
【文献】 特開2000−175680(JP,A)
【文献】 国際公開第96/017526(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/058063(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/00
A23K 10/00−50/00
C12N 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚類の卵を孵化させて得られた仔魚に餌料としてワムシを与えて育成した後、適宜の餌料を与えて成魚まで育成する場合、
ヨウ素を含有させたクロレラを生産するクロレラ生産工程と、
得られたクロレラを前記ワムシの餌料として与えて、ヨウ素を含有させたワムシを生産するワムシ生産工程と、
得られたワムシを前記仔魚の餌料として与えて、仔魚を育成する仔魚育成工程と
を実施するに際し、
前記クロレラ生産工程は、
クロレラを適宜の培地で培養する培養工程と、
培養したクロレラを濃縮する濃縮工程と、
得られたクロレラの濃縮物にヨウ素を予め定めた濃度になるように添加して当該クロレラにヨウ素を吸収させるヨウ素吸収工程と
をこの順に実施してヨウ素を含有した生きたクロレラを得、
前記ワムシ生産工程は、
ワムシを培養する培養液中に存在するワムシの密度を測定し、
得られた密度に基づいて、前記培養液中の全ワムシが単位期間当たりに摂取できるクロレラの量を求め、
求めたクロレラの量になるように、前記クロレラ生産工程で得られたクロレラを前記単位期間内で複数回に分けてワムシに与える折に、
前記クロレラ生産工程で得られたクロレラに含有されたヨウ素の量を測定しておき、
ワムシに与えたクロレラの量に基づいて、ワムシに含有されたヨウ素の量を求め、
求めたヨウ素の量が予め定めた値を超えるまで前記ワムシ生産工程を継続する
ことを特徴とする養魚方法。
【請求項2】
前記濃縮工程では、培養したクロレラを乾燥質量として50g/L以上180g/L以下になるように濃縮する請求項1記載の養魚方法。
【請求項3】
前記ヨウ素吸収工程では、0.08mmol/L以上40mmol/L以下の濃度になるようにヨウ素をクロレラの濃縮物に添加する請求項2記載の養魚方法。
【請求項4】
前記ヨウ素吸収工程は、クロレラにヨウ素を吸収させる処理の温度が5℃以上15℃以下であり、当該処理の時間が6時間以上168時間以下である請求項1から3のいずれかに記載の養魚方法。
【請求項5】
クロレラを給餌して、仔魚に餌料として与えるためのヨウ素を含有したワムシを生産するに当たって、
クロレラを適宜の培地で培養する培養工程と、
培養したクロレラを濃縮する濃縮工程と、
得られたクロレラの濃縮物にヨウ素を予め定めた濃度になるように添加して当該クロレラにヨウ素を吸収させるヨウ素吸収工程と
をこの順に実施してヨウ素を含有した生きたクロレラを得、
ワムシを培養するための培養液中に存在するワムシの密度を測定する密度測定工程と、
得られた密度に基づいて、前記培養液中の全ワムシが単位期間当たりに摂取できるクロレラの量を求めるクロレラ摂取量算定工程と、
求めたクロレラの量になるように、前記ヨウ素を含有した生きたクロレラを前記単位期間内で複数回に分けてワムシに与える給餌工程と
を実施する折に、
前記ヨウ素を含有したクロレラに含有されたヨウ素の量を測定しておき、
ワムシに与えたクロレラの量に基づいて、ワムシに含有されるヨウ素の量を求め、
求めたヨウ素の量が予め定めた値を超えるまで前記密度測定工程から前記給餌工程までの各工程を実施する
ことを特徴とするワムシの生産方法。
【請求項6】
前記濃縮工程では、培養したクロレラを乾燥質量として50g/L以上180g/L以下になるように濃縮する請求項5記載のワムシの生産方法。
【請求項7】
前記ヨウ素吸収工程では、0.08mmol/L以上40mmol/L以下の濃度になるようにヨウ素をクロレラの濃縮物に添加する請求項5又は6記載のワムシの生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、孵化させた仔魚を成魚へ育成する養魚方法、及びクロレラを給餌して前記仔魚の餌料として使用するワムシを生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
魚類を養殖する養魚方法として、捕獲した天然の稚魚に人工配合飼料を与えて成魚まで育成する方法と、親魚から採取した卵を孵化させて仔魚を得、得られた仔魚に給餌して稚魚まで育成し、この稚魚を更に成魚まで育成する方法とが実用化されているが、後者の養魚方法にあっては、仔魚の消化管が未分化であり、消化能が非常に低いため、仔魚に人工配合飼料を与えることができない。そのため、多くの場合、孵化仔魚の餌料として動物プランクトンであるワムシが使用されている。
【0003】
ところで、ヨウ素は甲状腺ホルモンに含まれる成分であり、脊椎動物にあっては必須の微量ミネラルである。この甲状腺ホルモンは、全身の代謝を向上させるホルモンであるため、魚類の正常な成長を図るには必要量のヨウ素を与えることが重要である。そのため、孵化させた仔魚のステージからヨウ素を与えることが望ましいが、前述したように仔魚には人工配合飼料を与えることができないため、仔魚にヨウ素を与えることは困難であった。
【0004】
一方、仔魚の餌料として使用されているワムシは海水中で培養することから、その体内には海水由来のヨウ素が存在し、かかるワムシが与えられた仔魚にあってはヨウ素の欠乏が生じる恐れがないと考えられてきた。しかしながら、本発明者らが検討したところ、海水中で培養したワムシに含有されるヨウ素の量は0.2〜1.1ppmと少なく、またその含有量には大きなバラツキが存在しているという結果が得られ、かかる結果より、仔魚にヨウ素の欠乏が生じている可能性があるという知見に達した。
【0005】
前述したように、仔魚には人工配合飼料を与えることができないため、ヨウ素含有量を増大させたワムシを餌料として適用することができれば、仔魚のヨウ素欠乏を回避することができる。そのため、後記する非特許文献1には、培養を終了する3時間前に培養液にヨウ化ナトリウムを添加することによって、ヨウ素の含有量を増大させたワムシを得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ana Rita A Riberiro,Laura Riberio,Maria R Dinis & Mari Moren,”Protocol to enrich rotifer (Brachionus plicatillis) with iodine and selenium”,Aquaculture Research,2011,42,p1737−p1740
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1に開示された方法にあっては、ワムシの培養液にヨウ化ナトリウムを添加するため、ワムシに利用されないヨウ化ナトリウムが培養液に多量に残存することとなり、ヨウ化ナトリウムの利用効率が低いという問題があった。これに対して、ワムシの培養初期の時点で、培養液にヨウ化ナトリウムを添加することが考えられるが、特に培養初期にあっては、ヨウ化ナトリウムはワムシの生育を阻害するため、その添加量は可及的に少なくしなければならず、所要量のヨウ素を含有するワムシを得ることができない。
【0008】
更に、従来方法によって得られたワムシにあっては、仔魚に給餌すべく養魚中の海水に播いた場合、当該ワムシが海水と接触した直後からヨウ素含有量が急激に減少してしまい、仔魚に捕食される際のワムシに所要量のヨウ素が含有されていない恐れがあるという知見も得られている。
【0009】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであって、仔魚に所要量のヨウ素を与えて魚類を養殖する養魚方法、及びクロレラを給餌して前記仔魚の餌料として使用するワムシを生産する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係る養魚方法は、魚類の卵を孵化させて得られた仔魚に餌料としてワムシを与えて育成した後、適宜の餌料を与えて成魚まで育成する場合、ヨウ素を含有させたクロレラを生産するクロレラ生産工程と、得られたクロレラを前記ワムシの餌料として与えて、ヨウ素を含有させたワムシを生産するワムシ生産工程と、得られたワムシを前記仔魚の餌料として与えて、仔魚を育成する仔魚育成工程とを実施することを特徴とする。
【0011】
前述したように、仔魚に給餌すべくワムシを海水中へ投入すると、ヨウ素の含有量が漸次減少するという知見が得られており、かかるワムシのヨウ素含有量が減少する現象は、前述した非特許文献1に開示された方法で培養されたワムシ、即ち培養を終了する3時間前に培養液にヨウ化ナトリウムを培養液中に添加する方法で培養されたワムシにおいて顕著であり、海水に投入後略3時間で当初のヨウ素含有量の1/12以下に減少し、海水に投入後略6時間後では殆どヨウ素を含有していない程に減少するのである。
【0012】
これに対して、本発明者らが鋭意検討した結果、ヨウ素を含有させたクロレラを給餌して育成したワムシにあっては、海水に投入した後にワムシのヨウ素含有量が減少するものの、投入後略3時間経過した後であっても投入前のヨウ素含有量の略半量が残存しているという知見を得て本発明を完成するに至った。ここで、ヨウ素としては、単体のヨウ素、ヨウ素化塩、ヨウ素酸塩等を用いることができるが、クロレラに対する悪影響が少ないヨウ化カリウムといったヨウ素化塩、又はヨウ素酸カリウムといったヨウ素酸塩が好適である。
【0013】
すなわち、本発明の養魚方法にあっては、魚類の卵を孵化させて得られた仔魚に餌料としてワムシを与えて育成した後、適宜の餌料を与えて成魚まで育成する場合、ヨウ素を含有させたクロレラを生産するクロレラ生産工程と、得られたクロレラを前記ワムシの餌料として与えて、ヨウ素を含有させたワムシを生産するワムシ生産工程と、得られたワムシを前記仔魚の餌料として与えて、仔魚を育成する仔魚育成工程とを実施するのである。
【0014】
仔魚であっても給餌されてから3時間も経過すれば、給餌されたワムシの大部分を摂食することができ、従って有効なヨウ素量が含有されたワムシが仔魚に摂食されるため、必要量のヨウ素を仔魚に確実に供給することができる。
【0015】
一方、前述した非特許文献1に開示された方法で培養されたワムシにあっては、ヨウ素含有量の減少速度が大きいため、有効なヨウ素量が含有されたワムシが仔魚に摂食される確率が低く、必要量のヨウ素が仔魚に供給されない。
【0016】
これに対して、非特許文献1に開示された方法によって、ワムシに含有させるヨウ素の量を増大させることが考えられるが、高濃度のヨウ素をワムシの培養液に添加すると、ワムシの活性が低下して仔魚に摂食されない恐れがあるのに加え、ワムシに吸収されずに培養液中に残存するヨウ素が大量に発生するため、ヨウ素の利用効率が著しく低下する。しかしながら、前述した本発明に係る方法では、ヨウ素を含有したクロレラをワムシに餌料として与えるため、ワムシの培養液にヨウ素を添加する必要がなく、従って比較的濃度が高いヨウ素を、活性を低下させることなく、高い利用効率でワムシに含有させることができる。
【0017】
ところで、ワムシを大量培養するために、従来よりナンノクロロプシス又はパン酵母が使用されていたが、前者にあってはナンノクロロプシスを大量培養することが困難であり、また後者にあってはワムシの増殖に必要な栄養素の含有量が不足する場合があり、ワムシの大量へい死を招来することがあった。しかしながら、クロレラにあっては、大量培養の方法も確立されており、またワムシの増殖に必要な栄養素も略十分に含有しているため、ワムシの餌料として適している。
【0018】
更に、本発明に係る養魚方法は、前記クロレラ生産工程は、クロレラを適宜の培地で培養する培養工程と、培養したクロレラを濃縮する濃縮工程と、得られたクロレラの濃縮物にヨウ素を予め定めた濃度になるように添加して当該クロレラにヨウ素を吸収させるヨウ素吸収工程とをこの順に実施してヨウ素を含有した生きたクロレラを得ることを特徴とする。
【0019】
本発明の養魚方法にあっては、前述したクロレラ生産工程は、クロレラを適宜の培地で培養する培養工程と、培養したクロレラを濃縮する濃縮工程と、得られたクロレラの濃縮物にヨウ素を予め定めた濃度になるように添加して当該クロレラにヨウ素を吸収させるヨウ素吸収工程とをこの順に実施してヨウ素を含有した生きたクロレラを得る。このように、クロレラの濃縮物にヨウ素を添加するため、クロレラの培地にヨウ素を添加する場合に比べて、ヨウ素の使用量を少なくすることができ、従ってヨウ素の利用効率が高い。一方、クロレラの濃縮物にあっては、各クロレラ細胞間の相互作用によって、添加されたヨウ素の濃度が比較的高い場合であっても、個々のクロレラ細胞の活性に影響が及び難く、従って、ヨウ素を含有されたクロレラがワムシに摂食されない等、餌料としての機能が低下する虞がない。
【0020】
)本発明に係る養魚方法は、前記濃縮工程では、培養したクロレラを乾燥質量として50g/L以上180g/L以下になるように濃縮することを特徴とする。
【0021】
本発明の養魚方法にあっては、前述した濃縮工程では、培養したクロレラを乾燥質量として50g/L以上180g/L以下になるように濃縮する。濃縮されたクロレラの濃度が乾燥質量として50g/L未満の場合、クロレラにヨウ素を包含させる際に、ヨウ素の利用効率が低く、濃縮されたクロレラの濃度が乾燥質量として180g/Lを超えると、クロレラの濃縮物の流動性が低いため、クロレラの回収率が低下するとともに、取り扱いが困難になって作業に支障を来す。これに対して、濃縮したクロレラの濃度を乾燥質量として50g以上180g以下/Lになした場合、クロレラの濃縮物が適当な流動性を備えるため、高い回収率で容易に取り扱うことができ、ヨウ素の利用率も高い。
【0022】
)本発明に係る養魚方法は、前記ヨウ素吸収工程では、0.08mmol/L以上40mmol/L以下の濃度になるようにヨウ素をクロレラの濃縮物に添加することを特徴とする。
【0023】
本発明の養魚方法にあっては、前述したヨウ素吸収工程では、0.08mmol/L以上40mmol/L以下の濃度になるようにヨウ素をクロレラの濃縮物に添加する。ヨウ素を添加する濃度が0.08mmol/L未満の場合、仔魚に必要な量のヨウ素を与えられない恐れがあり、ヨウ素を添加する濃度が40mmol/Lを超える場合、クロレラの細胞に悪影響を及ぼす虞がある。これに対して、ヨウ素を添加する濃度が0.08mmol/L以上40mmol/L以下である場合、クロレラに悪影響を及ぼすことなく、仔魚に必要な量のヨウ素を与えることができる。一方、(4)本発明に係る養魚方法は、前記ヨウ素吸収工程は、クロレラにヨウ素を吸収させる処理の温度が5℃以上15℃以下であり、当該処理の時間が6時間以上168時間以下であることを特徴としており、これによってクロレラに与えるダメージを可及的に低減し、クロレラの活性低下を回避することができる。
【0024】
更に、本発明に係る養魚方法は、前述した(1)における前記ワムシ生産工程は、ワムシを培養する培養液中に存在するワムシの密度を測定し、得られた密度に基づいて、前記培養液中の全ワムシが単位期間当たりに摂取できるクロレラの量を求め、求めたクロレラの量になるように、前記クロレラ生産工程で得られたクロレラを前記単位期間内で複数回に分けてワムシに与えることを特徴とする。
【0025】
本発明の養魚方法にあっては、ワムシ生産工程は、ワムシを培養する培養液中に存在するワムシの密度を測定する。単位量のワムシが単位期間当たりに摂取できるクロレラの量は定まっている。例えば、ワムシが無理なく安定して1日に摂取できるクロレラの量は、乾燥質量として略0.6μg/ワムシ個体である。そこで、得られた密度に基づいて、前記培養液中の全ワムシが単位期間当たりに摂取できるクロレラの量を求める。そして、求めたクロレラの量になるように、前述したクロレラ生産工程で得られたヨウ素を含有するクロレラを、単位期間内で複数回に分けてワムシに与える。
【0026】
このように、培養液中の全ワムシが単位期間当たりに摂取できるクロレラの量を求め、求めたクロレラの量になるように、ヨウ素を含有するクロレラを単位期間内で複数回に分けてワムシに与えるため、ワムシにクロレラを給餌する都度、給餌されたクロレラの全量がワムシに迅速に残さず摂食される。従って、クロレラ、延いてはヨウ素の利用効率が高く、またワムシに含有されるヨウ素の量を比較的正確に求めることができる。一方、仮に給餌したクロレラが摂食されずにワムシの培養液中に残存した場合、当該培養液が経時的に汚染されて行くが、前述した如く、クロレラの全量が残さず摂食されるため、培養液が汚染されることもない。
【0027】
加えて、本発明に係る養魚方法は、前述した(1)における前記クロレラ生産工程で得られたクロレラに含有されたヨウ素の量を測定しておき、ワムシに与えたクロレラの量に基づいて、ワムシに含有されたヨウ素の量を求め、求めたヨウ素の量が予め定めた値を超えるまで前記ワムシ生産工程を継続することを特徴とする。
【0028】
本発明の養魚方法にあっては、前記クロレラ生産工程で得られたクロレラに含有されたヨウ素の量を測定しておく。一方、ワムシに与えたヨウ素を含有するクロレラの量と、ワムシに含有されたヨウ素の量との間には直線的な比例関係が存在することが分かっている。そこで、ワムシに与えたクロレラの量に基づいて、ワムシに含有されたヨウ素の量を求めることができる。これによって、ワムシに含有されたヨウ素の量を、当該ワムシを分析することなく求めることができる。そして、求めたヨウ素の量が予め定めた値を超えるまで前述したワムシ生産工程を継続する。これによって、仔魚に十分量のヨウ素をワムシを介して確実に与えることができる。
【0029】
一方、本発明に係るクロレラの生産方法は、餌料として仔魚に与えるためのヨウ素を含有したワムシを生産すべく、当該ワムシに給餌するためのクロレラを生産する場合、クロレラを適宜の培地で培養する培養工程と、培養したクロレラを濃縮する濃縮工程と、得られたクロレラの濃縮物にヨウ素を予め定めた濃度になるように添加して当該クロレラにヨウ素を吸収させるヨウ素吸収工程とをこの順に実施してヨウ素を含有した生きたクロレラを得ることを特徴とする。
【0030】
本発明のクロレラの生産方法にあっては、餌料として仔魚に与えるためのヨウ素を含有したワムシを生産すべく、当該ワムシに給餌するためのクロレラを生産する場合、前述したようにクロレラを適宜の培地で培養する培養工程と、培養したクロレラを濃縮する濃縮工程と、得られたクロレラの濃縮物にヨウ素を予め定めた濃度になるように添加して当該クロレラにヨウ素を吸収させるヨウ素吸収工程とをこの順に実施してヨウ素を含有した生きたクロレラを得る。従って、前同様、クロレラの培地にヨウ素を添加する場合に比べて、ヨウ素の使用量を少なくすることができ、従ってヨウ素の利用効率が高い。一方、クロレラの濃縮物にあっては、各クロレラ細胞間の相互作用によって、添加されたヨウ素の濃度が比較的高い場合であっても、個々のクロレラ細胞の活性に影響が及び難く、従って、ヨウ素を含有されたクロレラがワムシに摂食されない等、餌料としての機能が低下する虞がない。
【0031】
本発明に係るクロレラの生産方法は、前記濃縮工程では、培養したクロレラを乾燥質量として50g/L以上180g/L以下になるように濃縮することを特徴とする。
【0032】
本発明のクロレラの生産方法にあっては、前述した濃縮工程では、培養したクロレラを乾燥質量として50g/L以上180g/L以下になるように濃縮するため、前同様、クロレラの濃縮物が適当な流動性を備え、高い回収率で容易に取り扱うことができ、ヨウ素の利用率も高い。
【0033】
本発明に係るクロレラの生産方法は、前記ヨウ素吸収工程では、0.08mmol/L以上40mmol/L以下の濃度になるようにヨウ素をクロレラの濃縮物に添加することを特徴とする。
【0034】
本発明のクロレラの生産方法にあっては、前述したヨウ素吸収工程では、0.08mmol/L以上40mmol/L以下の濃度になるようにヨウ素をクロレラの濃縮物に添加するため、前同様、クロレラに悪影響を及ぼすことなく、仔魚に必要な量のヨウ素を与えることができる。
【0035】
)本発明に係るワムシの生産方法は、クロレラを給餌して、仔魚に餌料として与えるためのヨウ素を含有したワムシを生産するに当たって、クロレラを適宜の培地で培養する培養工程と、培養したクロレラを濃縮する濃縮工程と、得られたクロレラの濃縮物にヨウ素を予め定めた濃度になるように添加して当該クロレラにヨウ素を吸収させるヨウ素吸収工程とをこの順に実施して、ヨウ素を含有した生きたクロレラを得、ワムシを培養するための培養液中に存在するワムシの密度を測定する密度測定工程と、得られた密度に基づいて、前記培養液中の全ワムシが単位期間当たりに摂取できるクロレラの量を求めるクロレラ摂取量算定工程と、求めたクロレラの量になるように、前記ヨウ素を含有した生きたクロレラを前記単位期間内で複数回に分けてワムシに与える給餌工程とを実施する
ことを特徴とする。
【0036】
本発明のワムシの生産方法にあっては、クロレラを給餌して、仔魚に餌料として与えるためのヨウ素を含有したワムシを生産するに当たって、クロレラを適宜の培地で培養する培養工程と、培養したクロレラを濃縮する濃縮工程と、得られたクロレラの濃縮物にヨウ素を予め定めた濃度になるように添加して当該クロレラにヨウ素を吸収させるヨウ素吸収工程とをこの順に実施して、ヨウ素を含有した生きたクロレラを得、ワムシを培養するための培養液中に存在するワムシの密度を測定する密度測定工程と、得られた密度に基づいて、前記培養液中の全ワムシが単位期間当たりに摂取できるクロレラの量を求めるクロレラ摂取量算定工程と、求めたクロレラの量になるように、前記ヨウ素を含有した生きたクロレラを前記単位期間内で複数回に分けてワムシに与える給餌工程とを実施するため、前同様、ワムシにクロレラを給餌する都度、給餌されたクロレラの全量がワムシに迅速に残さず摂食され、従って、クロレラ、延いてはヨウ素の利用効率が高く、またワムシに含有されるヨウ素の量を比較的正確に求めることができる。一方、仮に給餌したクロレラが摂食されずにワムシの培養液中に残存した場合、当該培養液が経時的に汚染されて行くが、前述した如く、クロレラの全量が残さず摂食されるため、培養液が汚染されることもない。
【0037】
更に、本発明に係るワムシの生産方法は、前記ヨウ素を含有したクロレラに含有されたヨウ素の量を測定しておき、ワムシに与えたクロレラの量に基づいて、ワムシに含有されるヨウ素の量を求め、求めたヨウ素の量が予め定めた値を超えるまで前記密度測定工程から前記給餌工程までの各工程を実施することを特徴とする。
【0038】
本発明のワムシの生産方法にあっては、前述したヨウ素を含有したクロレラに含有されたヨウ素の量を測定しておき、ワムシに与えたクロレラの量に基づいて、ワムシに含有されるヨウ素の量を求め、求めたヨウ素の量が予め定めた値を超えるまで前記密度測定工程から前記給餌工程までの各工程を実施するため、前同様、ワムシに含有されたヨウ素の量を、当該ワムシを分析することなく求めることができ、また、仔魚に十分量のヨウ素をワムシを介して確実に与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明に係る養魚方法の手順を示すフローチャートである。
図2図1に示したクロレラ生産工程の詳細な実施手順を示すフローチャートである。
図3図1に示したワムシ生産工程の詳細な実施手順を示すフローチャートである。
図4図3に示したクロレラの給餌手順を説明するフローチャートである。
図5図1に示した仔魚育成工程の詳細な実施手順を示すフローチャートである。
図6】クロレラの濃縮物にヨウ化カリウムを添加した後にヨウ素含有量を経時的に測定した結果を示すヒストグラムである。
図7】ヨウ素含有クロレラをワムシに与えてヨウ素含有ワムシを生産した結果を示すグラフである。
図8】ヨウ素含有クロレラをワムシに与えてヨウ素含有ワムシを生産した結果を示すグラフである。
図9】本発明に係る方法で生産したヨウ素含有ワムシ(A)と、非特許文献1に開示された方法で生産したヨウ素含有ワムシ(N)とを各別の水槽の海水中に投入してから3時間及び6時間経過後に、各ワムシのヨウ素含有量を測定した結果を示すヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明に係る養魚方法等を図面に基づいて詳述する。
なお、本実施の形態で説明する養魚方法等は、本発明の趣旨を説明する一例であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲での変形や改造を含むことはいうまでもない。
【0041】
図1は本発明に係る養魚方法の手順を示すフローチャートである。
図1に示したように、本養魚方法は主な3つの工程、即ち、所要量のヨウ素を含有するクロレラを生産するクロレラ生産工程(ステップS1)、得られたクロレラを餌量として、所要量のヨウ素を含有するワムシを生産するワムシ生産工程(ステップS3)、及び得られたワムシを餌量として仔魚する仔魚育成工程(ステップS5)を含んでいる。以下、各工程について詳述する。
【0042】
(クロレラ生産工程)
図2図1に示したクロレラ生産工程の詳細な実施手順を示すフローチャートである。ここで、クロレラとしては種々の種を用いることができ、例えばブルガリカス種(vulgaris)、ソロキニアナ種(sorokiniana)、ケセリ種(kessleri)等、クロレラ属に分類されるものであれば、その種及び株に拘わらずいずれも使用することができる。
【0043】
本培養に先立って、クロレラの種培養を行う(ステップS11)。種培養は例えば次のようにして実施する。すなわち、適宜容量の培地が入った坂口フラスコ内に、保存用スラントからクロレラを1白金耳取って接種し、2000lux程度から3000lux程度までの適宜の照度下、25℃程度から35℃程度までの適宜の温度で、3日間程度から10日間程度振盪培養する。ここで、培地はクロレラを培養できるものであれば特に限定されず、例えばグルコース40g/L、リン酸第一カリウム1.0g/L、硫酸マグネシウム1.0g/L、Fe(III)-EDTA15mg/L、微量ミネラルA5(10倍濃度)1ml/L、亜セレン酸ナトリウム24μg/L、尿素3.0g/L、ビタミンB12 100μg/Lの組成でpH7.0に調整した培地を用いることができる。ここで、微量ミネラルA5は、純水1000ml中、HBO2.86g、MnCl・4HO1.81g、ZnSO・7HO0.22g、CuSO・5HO0.08g、NaMoO0.021gの組成とすることができる。
【0044】
クロレラの種が得られると、次に本培養を次のようにして実施して、培養量をスケールアップさせる(ステップS12)。すなわち、適宜容量の培養タンクに前同様の培地を投入して滅菌し、培養温度まで冷却しておく。この培養タンクに前述したように得られた種を無菌的に接種し、通気を行いつつ、25℃程度から35℃程度までの適宜の温度で、4日程度撹拌培養する。なお、培養途中に、ドコサヘキサエン酸といった高度不飽和脂肪酸を添加するとよい。
【0045】
なお、更にスケールアップが必要な場合は、より容量が大きい培養タンクを用いて前同様に培養を行い、順次クロレラの培養量を増大させてもよい。
【0046】
このようにして所要量のクロレラが培養されると、固液分離して培養したクロレラを濃縮する(ステップS13)。培養して得られたクロレラの濃縮は例えば連続遠心分離機によって行うことができるが、濾過によって実施してもよい。濃縮した後のクロレラの濃度は乾燥質量として50g/L以上180g/L以下に調整するとよい。クロレラの濃度が乾燥質量として50g/L未満の場合、後述する如くクロレラにヨウ素を包含させる際に、ヨウ素の利用効率が低く、クロレラの濃度が乾燥質量として180g/Lを超えると、クロレラの濃縮物の流動性が低いため、クロレラの回収率が低下するとともに、取り扱いが困難になって作業に支障を来す。これに対して、濃縮した後のクロレラの濃度を乾燥質量として50g以上180g以下/Lに調整した場合、クロレラの濃縮物が適当な流動性を備えるため、高い回収率で容易に取り扱うことができ、ヨウ素の利用率も高い。
【0047】
次に、クロレラの濃縮物にヨウ素を添加することにより、当該ヨウ素をクロレラ内に吸収させる(ステップS14)。ここで、ヨウ素としては、単体のヨウ素、ヨウ素化塩、ヨウ素酸塩等を用いることができるが、クロレラに対する悪影響が少ないヨウ化カリウムといったヨウ素化塩、又はヨウ素酸カリウムといったヨウ素酸塩が好適である。
【0048】
具体的には、ステップS13で得られたクロレラの濃縮物に対して、ヨウ素の濃度が0.08mmol/L以上40mmol/L以下、より好ましくは0.8mmol/L以上40mmol/L以下となるように添加する。ヨウ素を添加する濃度が0.08mmol/L未満の場合、仔魚に必要な量のヨウ素を与えられない恐れがあり、ヨウ素を添加する濃度が40mmol/Lを超える場合、クロレラの活性に悪影響を及ぼす虞がある。これに対して、ヨウ素を添加する濃度が0.08mmol/L以上40mmol/L以下である場合、クロレラに悪影響を及ぼすことなく、仔魚に必要な量のヨウ素を与えることができる。更に、ヨウ素を添加する濃度が0.8mmol/L以上の場合、仔魚に必要な量のヨウ素をより確実に与えることができるという利点があるため好適である。
【0049】
クロレラの濃縮物にヨウ素を添加してから6時間以上、好ましくは24時間以上、更に好ましくは48時間以上、クロレラの濃縮物を撹拌し、ヨウ素をクロレラに吸収させる。このとき、クロレラの濃縮物は5℃以上15℃以下の温度に保持することによって、クロレラに与えるダメージを可及的に軽減することができる。なお、クロレラの濃縮物にヨウ素を添加してヨウ素をクロレラに吸収させる処理は168時間を上限とするとよい。かかる処理が168時間を超えるとクロレラの活性が低下する虞があるからである。
【0050】
このような処理を施すことによって、クロレラ乾燥質量(g)当たり1ppm程度以上800ppm程度以下、より好ましくは15ppm程度以上500ppm程度以下のヨウ素を含有するクロレラの濃縮物を得ることができる。
【0051】
そして、クロレラの濃縮物にその数倍量の水を投入して撹拌洗浄し、ステップS13と同様に固液分離してクロレラを再濃縮する(ステップS15)。
【0052】
このようにしてヨウ素を吸収したクロレラの濃縮物が得られると、クロレラのヨウ素含有量を測定した(ステップS16)後に、4℃以下の冷蔵保存によって、当該クロレラの濃縮物を保存する(ステップS17)。なお、クロレラのヨウ素含有量は例えば、当該ロットから採取したクロレラの濃縮物を凍結乾燥させた後、酸又はアルカリにて可溶化して得たサンプルを誘導結合プラズマ質量分析計で分析すること(ICP−MS法)によって測定することができる。
【0053】
(ワムシ生産工程)
図3図1に示したワムシ生産工程の詳細な実施手順を示すフローチャートである。ここで、ワムシとしてはシオミズツボワムシ(Brachionus)を用いることができる。
【0054】
適当な容量の培養槽に、培養液として海水又は人工海水を満たしておき、そこに、例えば継代培養により保存しているワムシを、10個体/mlから500個体/ml程度の密度になるように接種する(ステップS31)。なお、培養液の温度は10℃以上35℃以下に保持し、培養液中には適量の通気を行う。次に、ステップS1で生産したクロレラを給餌する(ステップS32)。
【0055】
図4図3に示したクロレラの給餌手順を説明するフローチャートである。
給餌は次のように実施する。すなわち、培養槽から予め定めた単位容量の培養液を採取してそこに存在するワムシの個体数を計測し、ワムシの密度を測定する(ステップS321)。ワムシが無理なく安定して1日に摂取可能なクロレラの量は略0.6μg(1個体当たり)であるので、測定して得られたワムシの密度から1日に給餌するクロレラの全量を算定する(ステップS322)。
【0056】
本発明に係る方法では、ワムシへのクロレラの給餌は、1日当たり複数回に分けて行うため、給餌時刻及び1回当たりの給餌量を決定する(ステップS323,S324)。そして、給餌時刻であるか否かを判断し(ステップ325)、給餌時刻である場合、1回分の量のクロレラを給餌する(ステップS326)。なお、給餌に際しては、クロレラと共に、パン酵母、ビタミン及び/又は脂肪酸といった他の栄養素を混合してもよい。
【0057】
次に、図3に示したように、1日に与えたクロレラの全量、前述したクロレラのヨウ素含有量(乾燥質量当たり)、ワムシの密度及びワムシの育成日数から、ワムシのヨウ素含有量(乾燥質量当たり)を算定し(ステップS33)、得られた値が予め定めたヨウ素含有量に達したか否かを判断する(ステップS34)。ここで、例えば、ヨウ素を44ppm(乾燥質量当たり)含有するクロレラをワムシに、1日に0.6μg(1個体当たり)となるように給餌する条件でワムシを培養した場合、1日間(24時間)程度から3日間程度の培養期間で所要のヨウ素含有量に達したワムシを得られることが分かっている。かかる関係からワムシのヨウ素含有量を算定することができる。
【0058】
ステップS34でワムシのヨウ素含有量が予め定めた値に達したと判断されるまでステップS32及びステップS33の操作を繰り返す。そして、ワムシのヨウ素含有量が予め定めた値に達したと判断されると、仔魚の餌料として使用することが可能となる。ここで、仔魚の餌料として使用することが可能となるのは、ヨウ素含有量が5ppm(乾燥質量当たり)程度になったワムシである。
【0059】
ワムシは培養液を交換することなく同じ培養液で5日間程度は培養することができるため、培養を開始してから所定日数経過したか否かを判断し(ステップS35)、所定日数経過していない場合は、仔魚の餌料として使用を開始し(ステップS36)、ステップS32の操作に戻ってクロレラを給餌し、ワムシの培養を継続する。
【0060】
一方、ステップS35で、培養を開始してから所定日数経過したと判断された場合、当該ワムシは餌料として適さない可能性が高いため、当該ロットにおけるワムシの培養を終了し、ワムシが残存した場合は廃棄する。従って、仔魚の育成量及び育成スケジュールに応じて、培養槽を使用する個数、及び各培養槽でのワムシの培養スケジュールを策定しておくとよい。これによって、高い活性のワムシを用いて仔魚に給餌することができる。
【0061】
なお、本実施の形態では、ワムシの生産をバッチ式に実施する場合について説明したが、本発明はこれに限らず、半連続式に実施してもよい。この場合、例えば、前記ステップS36で仔魚の餌料として使用を開始した後、培養槽中のワムシを一時的に捕獲して、培養槽内の培養液の略半量を廃棄する。そして、廃棄量に相当する量の新しい培養液を培養槽内へ充填し、この培養槽内へ捕獲したワムシを戻した後、前同様、クロレラを給餌する。かかる操作を連日実施するのである。これによって、ワムシをより効率的に生産することができる。
【0062】
(仔魚育成工程)
図5図1に示した仔魚育成工程の詳細な実施手順を示すフローチャートである。
このようにして所要のヨウ素含有量のワムシの生産を行う一方、目的とする親魚から採取した卵を受精させ、得られた受精卵を適当な容量の育成槽内に満たされた海水又は人工海水中に浮遊又は沈降させて、当該受精卵を孵化させる(ステップS51)。
【0063】
孵化した仔魚は、1日〜2日程度経過した後からワムシを摂食することができるため、そのタイミング以降、1日当たり複数の回数で、1受精卵当たり数百〜数千個体のワムシを仔魚に与える(ステップS52)。ここで、1受精卵当たりに給餌するワムシの個体数は、孵化してからの経過時間が短いほど相対的に少なくし、孵化してからの経過時間が長くになるに従って相対的に多くするとよい。また、ワムシを給餌する1日当たりの回数は、孵化してからの経過時間が短いほど相対的に多くし、孵化してからの経過時間が長くになるに従って相対的に少なくするとよい。なお、ワムシを給餌するに先立って、海水中に、仔魚に摂食されていないワムシが残存する場合、当該ワムシを濾別しておくとよい。後述するように、ワムシを海水中へ投入すると、ヨウ素の含有量が漸次減少するからである。
【0064】
本発明者らが鋭意検討した結果、仔魚に給餌すべくワムシを海水中へ投入すると、ヨウ素の含有量が漸次減少するという知見が得られた。ワムシのヨウ素含有量が減少する現象は、前述した非特許文献1に開示された方法で培養されたワムシ、即ち培養を終了する3時間前に培養液にヨウ化ナトリウムを添加する方法で培養されたワムシにあって顕著であり、海水に投入後略3時間で当初のヨウ素含有量の1/12以下に減少し、海水に投入後略6時間後では殆どヨウ素を含有していない。
【0065】
これに対して、前述した如き本発明方法によって得られたワムシにあっては、ワムシのヨウ素含有量が減少するものの、海水に投入後略3時間経過した後であっても当初のヨウ素含有量の略半量が残存している。仔魚であっても給餌されてから3時間も経過すれば、給餌されたワムシの大部分を摂食することができ、従って有効なヨウ素量が含有されたワムシが仔魚に摂食されるため、必要量のヨウ素を仔魚に確実に供給することができる。
【0066】
一方、前述した非特許文献1に開示された方法で培養されたワムシにあっては、ヨウ素含有量の減少速度が大きいため、有効なヨウ素量が含有されたワムシが仔魚に摂食される確率が低く、必要量のヨウ素が仔魚に供給されない。そのため、ワムシに含有させるヨウ素の量を増大させることが考えられるが、高濃度のヨウ素をワムシの培養液に添加すると、ワムシの活性が低下して仔魚に摂食されない恐れがあるのに加え、ワムシに吸収されずに培養液中に残存するヨウ素が大量に発生するため、ヨウ素の利用効率が著しく低下してしまうのである。
【0067】
孵化してから配合飼料を消化できるように成育するまで魚種に応じた所定の日数を要する。そのため、ワムシの給餌が終了する都度、当該所定の日数に達したか否かを判断し(ステップS53)、所定の日数に達したと判断するまでステップS52及びステップS53の操作を繰り返すことによって仔魚を育成する。
【0068】
このようにして、仔魚が配合飼料を消化できるまで成育すると、図1に示したように、成育した魚体をより広い生簀に移し、魚種に対応した微粒子の配合飼料及びワムシより大型の動物プランクトンであるアルテミアといった生餌を与えて稚魚へ育成し、更には成魚まで育成する(ステップS7)。
【実施例】
【0069】
次に、比較試験等を行った結果について説明する。
【0070】
(実施例1)
ヨウ素を含有させたクロレラを生産した結果について説明する。
図6はクロレラの濃縮物にヨウ化カリウムを添加した後にヨウ素含有量を経時的に測定した結果を示すヒストグラムであり、縦軸はクロレラのヨウ素含有量を、横軸はヨウ化カリウムを添加してからの経過時間をそれぞれ示している。
【0071】
ここで、クロレラの濃縮物は次のようにして調製した。
すなわち、クロレラ(Chlorella Vulgaris)の保存スラントから1白金耳取って、坂口フラスコ内の培地に無菌的に接種し、28℃、3000luxの光照射下で7日間、種培養を行った。なお、培地としては、クロレラを培養できる組成であれば特に限定されないが、例えば、グルコースが40g/L、リン酸一カリウムが1.0g/L,硫酸マグネシウムが1.0g/L、Fe・EDTAが15mg/L、前述した組成の微量ミネラルA5(×10)が1ml/L、亜セレン酸ナトリウムが24μg/L、尿素が3.0g/L、ビタミンB12が100μg/L、pH7.0のものを用いた。
【0072】
10Lの容量のジャーファーメンター内に前同様の組成の培地6Lを調整しておき、種培養して得られた培養液を無菌的に接種し、35℃、通気量6L/分、撹拌速度300rpmの条件下で4日間、本培養を行った。なお、培養中に高度不飽和脂肪酸(ドコサヘキサエン酸60%濃度)を1.5g/Lとなるように添加した。本培養が終了した後、培養液を遠心分離機に供給して固液分離してクロレラの濃縮物を得、これに水を加えて洗浄し、再び遠心分離機にて固液分離する操作を数回繰り返し、100g/Lとなるように濃縮したクロレラの濃縮物を得た。
【0073】
このようにして得られたクロレラの濃縮物を撹拌しつつ5℃に保ち、ヨウ化カリウムを4mmol/Lの濃度となるように添加混合し、直ちに一部を採取して遠心分離によりヨウ化カリウム溶液を除去し、得られたクロレラの沈降物に純水を加えて分散・洗浄して再び遠心分離する操作を4回繰り返し、得られたクロレラの沈降物を零時の試料とした。一方、残りのクロレラの濃縮物については、ヨウ化カリウムを添加してから6時間、24時間、48時間、72時間経過した後に、前同様の操作を行って、それぞれの経過時間における試料とした。そして、各試料を凍結乾燥し、ICP−MS法によって各試料のヨウ素含有量を測定した。なお、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP−MS)にはアレンジ・テクノロジー社製の7700X型を用いた。
【0074】
図6から明らかなように、濃縮されたクロレラに5℃でヨウ素を吸収させると、ヨウ素の含有量は零時から24時間までは緩やかに上昇し、24時間から48時間までは急激に上昇し、48時間から72時間までは含有量の上昇が徐々に頭打ちになっていた。すなわち、各バーの頂点を結ぶとシグモイド状のカーブのグラフが得られた。この結果より、5℃の環境下では、48時間から72時間程度の間、クロレラにヨウ素を吸収させると、ヨウ素の含有量が多いクロレラを得ることができることが分かる。
【0075】
なお、前同様に濃縮したクロレラに6時間、ヨウ素を吸収させる操作を、25℃、15℃でそれぞれ行ったところ、前者におけるクロレラのヨウ素含有量(乾燥質量当たり)は18.4ppmであり、後者におけるクロレラのヨウ素含有量(乾燥質量当たり)は15.1ppmと、処理温度が低くなるに連れてヨウ素含有量が低下したものの、図6に示した6時間におけるクロレラのヨウ素含有量(乾燥質量当たり)である13.4ppmより、いずれも高い値であった。つまり、処理温度が高いほど、クロレラに含有されるヨウ素の量も多くなっていた。
【0076】
ただし、高い活性のクロレラを得るためには、処理温度を5℃程度に保持することが好ましく、従って、処理温度を5℃程度に保持し、処理時間を48時間から72時間程度とするのが好ましい。
【0077】
(実施例2)
次に、実施例1で得られた濃縮クロレラに与えるヨウ素の濃度の影響を検討した結果について説明する。
【0078】
実施例1で説明した操作と同じ操作を行ってクロレラの濃縮物を得た。この濃縮クロレラから同量ずつ6つの容器に分注してそれぞれ5℃に保持した。次に、対照を除く各容器にヨウ化カリウムを、0.8mmol/L、4mmol/L、8mmol/L、40mmol/L、80mmol/Lになるように添加し、撹拌しつつ48時間処理した。なお、対照としてヨウ化カリウムを添加せずに同様の操作を行った。その後、各容器内のクロレラを平板希釈法によってプレート内の平板培地に塗布し、各プレートを培養器内に保管して平板培養を行った。そして、各プレートの平板培地に生育したコロニー数を計測した。その結果を次の表に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
上表から明らかなように、ヨウ素の濃度が0〜40mmol/Lまでの場合、1ml当たりのコロニー数に差が見られず、従ってこの濃度範囲のヨウ素は濃縮クロレラに影響を及ぼしていない。これに対して、ヨウ素の濃度が80mmol/Lの場合、1ml当たりのコロニー数に有意な減少が認められており、この濃度のヨウ素は濃縮クロレラに悪影響を及ぼしていた。
【0081】
(実施例3)
次に、実施例1で説明したようにして生産したヨウ素含有クロレラをワムシに与えて、ヨウ素含有ワムシを生産した結果について説明する。
【0082】
図7及び図8は、ヨウ素含有クロレラをワムシに与えてヨウ素含有ワムシを生産した結果を示すグラフであり、いずれも縦軸はワムシの乾燥質量当たりのヨウ素含有量を、横軸はクロレラの乾燥質量当たりのヨウ素含有量をそれぞれ示している。また、図7はヨウ素源としてヨウ化カリウムを用いた結果を、図8はヨウ素源としてヨウ素酸カリウムを用いた結果をそれぞれ示している。なお、クロレラとして、図7ではクロレラ・ブルガリス(Chlorella vulgaris)を、図8ではクロレラ・ソロキニアナ(Chlorella sorokiniana)を用いており、一方、いずれもシオミズツボワムシ(Brachionus)を用いた。
【0083】
試験は次のようにして行った。
すなわち、実施例1で説明した操作と同じ操作を行ってクロレラの濃縮物を得た。この濃縮クロレラから同量ずつ5つの容器に分注してそれぞれ5℃に保持した。次に、対照を除く各容器にヨウ素源を、0.8mmol/L、4mmol/L、8mmol/L、40mmol/Lになるように添加し、48時間撹拌してクロレラにヨウ素を吸収させた。なお、対照としてヨウ化カリウムを添加せずに同様の操作を行った。その後、各容器内の濃縮クロレラを純水で4回洗浄した後、各容器内の濃縮クロレラを一部採取してそれぞれ凍結乾燥し、実施例1と同様、ICP−MS法によって各試料のヨウ素含有量を測定した。
【0084】
次に、25Lの容量のパンライト水槽を5つ用意しておき、各水槽に海水を20Lずつ貯留させ、28℃の水温で通気量5L/分に保った。各水槽にワムシを500個体/mlの密度になるように投入して育成を開始し、育成開始時及び育成開始から16時間経過後に、前記各容器内から濃縮クロレラを、ワムシ1個体当たり乾燥物換算で0.6μgのクロレラとなるように採取し、対応する水槽内のワムシに給餌し、24時間まで育成した。そして、目開きが100μmのプランクトンネットにて各水槽内のワムシを各別に収穫し、純水で洗浄した後に凍結乾燥し、実施例1と同様、ICP−MS法によって各試料のヨウ素含有量を測定した。なお、24時間育成して得られたワムシの個体数は、いずれのクロレラを給餌した場合にあっても1400〜1500個体/mlと略同じであった。
【0085】
図7及び図8から明らかなように、いずれのヨウ素源であっても、クロレラのヨウ素含有量と、当該クロレラが給餌されたワムシのヨウ素含有量との間には、直線的な比例関係が見られた。
【0086】
(実施例4)
本発明者らが鋭意検討したところ、ヨウ素を含有したワムシが海水に投入されると、ヨウ素含有量が経時的に低下するという知見を得たため、ワムシにヨウ素を含有させる方法の違いにより、海水に投入されたワムシのヨウ素含有量がどのように低下するのかを検討した結果について説明する。
【0087】
ヨウ素を含有するワムシを生産する方法としては、本発明に係る方法と、前述した非特許文献1に開示された方法とを用いた。
【0088】
すなわち、本発明に係る方法では、実施例1と同様の操作を行って得られた濃縮クロレラを5℃になし、ヨウ化カリウムを30mmol/Lになるように添加して48時間撹拌し、濃縮クロレラにヨウ素を吸収させた。その後、濃縮クロレラを純水で4回洗浄してヨウ素含有濃縮クロレラを得た。なお、得られた濃縮クロレラに含有されたヨウ素の量を前同様にして測定したところ、乾燥質量当たり505ppm(=0.050ng/μg)であった。一方、25Lの容量のパンライト水槽に海水を20L貯留させ、26℃の水温で通気量5L/分に保った。この水槽にワムシを500個体/mlの密度になるように投入して育成を開始し、育成開始時及び育成開始から16時間経過後に、ヨウ素含有濃縮クロレラを、ワムシ1個体当たり乾燥物換算で0.6μgのクロレラとなるように水槽内のワムシに給餌し、24時間まで育成してヨウ素含有ワムシを得た(本発明例1)。
【0089】
これに対し、非特許文献1に開示された方法では、50Lの容量のパンライト水槽に海水を40L貯留させ、26℃の水温で通気量5L/分に保った。この水槽にワムシを250個体/mlの密度になるように投入するとともに、DHAセルコ(インベ・アクアカルチャ社製)をワムシ1個体当たり1.0μgとなるように添加し、更に、ヨウ化ナトリウムをワムシ1個体当たり0.26μgとなるように添加して育成を開始し、育成開始から3時間経過後に、プランクトンネットによってワムシを回収して育成を終了し、ヨウ素含有ワムシを得た(比較例1)。
【0090】
このようにして得られたワムシに投与したヨウ素量、及び、ワムシのヨウ素含有量は次の表の通りである。なお、各試料のヨウ素含有量は、実施例1と同様、ICP−MS法によって測定した。
【0091】
【表2】
【0092】
前表から明らかなように、本発明例1のヨウ素の投与量は比較例1のヨウ素の投与量の略1/700であったが、得られたワムシのヨウ素含有量は本発明例1及び比較例1のいずれも略同じ値であった。このように本発明に係る方法では、少ないヨウ素投与量で所要のヨウ素含有量のワムシを生産することができ、非常に高い効率でワムシにヨウ素を含有させることができたことが分かる。
【0093】
このようにしてヨウ素含有ワムシが得られると、複数の25Lの容量のパンライト水槽に海水をそれぞれ20L貯留させ、25℃の水温で通気量1L/分に保っておき、各水槽に前述した本発明例1に係るワムシ及び比較例1に係るワムシを各別に、500個体/mlの密度になるように投入し、投入してから3時間及び6時間経過後に、各水槽から一部のワムシを採取し、実施例1と同様、ICP−MS法によって各試料のヨウ素含有量を測定した。
【0094】
その結果を図9に示した。なお、図9中、Aは本発明例1に係るワムシのヨウ素含有量を、またNは比較例1に係るワムシのヨウ素含有量をそれぞれ示している。また、各ワムシを海水に投入する前のヨウ素含有量も示した。
【0095】
図9から明らかなように、海水に投入する前にあっては、本発明例1に係るワムシのヨウ素含有量も比較例1に係るワムシのヨウ素含有量も同程度であったが、比較例1に係るワムシのヨウ素含有量は、海水にワムシを投入してから3時間経過すると海水に投入する前の略10%以下にまで低下しており、6時間経過後では海水に投入する前の略3%以下にまで低下していた。
【0096】
これに対し、本発明例1に係るワムシのヨウ素含有量は、海水にワムシを投入してから3時間経過後であっても海水に投入する前の略55%が残存しており、6時間経過後でも、比較例1に係るワムシの海水に投入してから3時間経過のヨウ素含有量より高い値であった。
【0097】
このように、直接的にヨウ素を含有させた比較例1のワムシにあっては、海水に投入した後、急激にヨウ素含有量が低下するため、かかるワムシを給餌された仔魚にあっては必要量のヨウ素を摂取できない虞がある。これに対して、より高濃度のヨウ素を含有させたワムシを生産しておくことが考えられるが、高濃度のヨウ素はワムシに悪影響を与えるため、より高濃度のヨウ素を含有するワムシの生産には限度がある。
【0098】
一方、本発明例1に係るワムシにあっては、海水にワムシを投入してから3時間経過後であっても海水に投入する前の半分を超える濃度のヨウ素が含有されているため、かかるワムシを給餌された仔魚にあっては十分量のヨウ素を摂取することができるものと考えられる。
【0099】
(実施例5)
次に、本発明に係る方法と、前述した非特許文献1に開示された方法とでそれぞれ生産したヨウ素含有ワムシを用いて仔魚を育成した結果について説明する。
【0100】
本発明に係る方法にあっては、実施例1で説明した操作と同様の操作を行って所要量のクロレラの濃縮物を得、これを2分割して、一方にはヨウ化カリウムを2mmol/Lになるように添加し、他方にはヨウ化カリウムを8mmol/Lになるように添加して、5℃で48時間撹拌した後、水洗・濃縮してヨウ素含有クロレラを得た。ここで、2mmol/Lで処理して得られた低濃度ヨウ素含有クロレラのヨウ素含有量は44ppm(乾燥質量当たり)であり、8mmol/Lで処理して得られた高濃度ヨウ素含有クロレラのヨウ素含有量は159ppm(乾燥質量当たり)であった。そして、低濃度ヨウ素含有クロレラ及び高濃度ヨウ素含有クロレラを各別に用い、実施例3で説明した操作と同様の操作を行って、ヨウ素含有ワムシをそれぞれ得た。得られたワムシのヨウ素含有量は、低濃度ヨウ素含有クロレラを用いた場合は4.7ppm(乾燥質量当たり)であり、高濃度ヨウ素含有クロレラを用いた場合は18.3ppm(乾燥質量当たり)であった。前者のヨウ素含有ワムシを本発明例2、後者のヨウ素含有ワムシを本発明例3とした。
【0101】
一方、実施例1で説明した操作と同様の操作を行ってクロレラの濃縮物を得、得られた濃縮クロレラをヨウ素を吸収させることなく用いて、実施例3で説明した操作と同様の操作を行って、ヨウ素を含有させていないワムシを得、これを対照例とした。得られたワムシのヨウ素含有量は0.6ppm(乾燥質量当たり)であった。
【0102】
また、実施例4の比較例1で説明した操作と同様の操作を行って、ワムシに直接ヨウ化ナトリウムを吸収させてヨウ素含有ワムシを生産し、これを比較例2とした。なお、ヨウ化ナトリウムはワムシを育成させる海水に0.02μg/ワムシ個体となるように添加した。得られたワムシのヨウ素含有量は4.9ppm(乾燥質量当たり)であった。
【0103】
このようにして得られたワムシを用いて、次のように仔魚を育成した。
すなわち、真鯛(Pagurus maijor)から採取した卵を受精させた後、塩分濃度32pptの海水100Lをそれぞれ貯留させた複数の水槽に、前記受精卵を10個/Lとなるように投入し、19℃の水温で、50ml/分の通気及び1日当たり12時間・1000luxの光照射を行った。受精卵が孵化してから2日目からワムシを5〜10個体/mlになるように、一日当たり2回給餌し、真鯛の仔魚を22日間育成した。なお、孵化後5日目から50ml/分の潅水を行った。
【0104】
そして、各水槽から無作為に採取した10尾について全長、頭長、尾鰭鰭条数、生存率を求めた。また、各水槽から無作為に50尾を採取し、5秒間外気中に露出させた後に各水槽の海水中へ戻し、24時間後の生存率を測定して活力とした。得られた各結果を次の表に示す。
【0105】
【表3】
【0106】
表の本発明例2及び本発明例3から明らかなように、本発明に係る方法で生産されたヨウ素含有ワムシを給餌して仔魚を育成した場合、ワムシに含有されたヨウ素量の大小に拘わらず、得られた仔魚の全長、頭長、尾鰭鰭条数、生存率、活力のいずれにおいても有意差は認められなかった。前述した如く、本発明例2で用いたワムシのヨウ素含有量は4.7ppm(乾燥質量当たり)であり、本発明例3で用いたワムシのヨウ素含有量は18.3ppm(乾燥質量当たり)であるが、本発明に係る方法で生産されたヨウ素含有ワムシにあっては、ヨウ素含有量が少なくとも4.7ppm(乾燥質量当たり)程度であれば、仔魚の成長にとって十分量のヨウ素を仔魚に与え得ることが分かる。
【0107】
これに対して、比較例2から明らかなように、ワムシに直接ヨウ化カリウムを吸収させて生産したヨウ素含有ワムシを給餌した場合、得られた仔魚の全長、頭長、尾鰭鰭条数、生存率、活力は、ヨウ素を含有させていないワムシを給餌した対照例の仔魚より大きい値であったものの、いずれも、本発明例2及び本発明例3の仔魚に比べて有意に低い値であった。比較例2で用いたワムシのヨウ素含有量は4.9ppm(乾燥質量当たり)であり、本発明例2で用いたワムシのヨウ素含有量の4.7ppm(乾燥質量当たり)より高い値であったが、実施例4で示したように、ワムシに直接ヨウ化カリウムを吸収させて生産したヨウ素含有ワムシにあっては、それを給餌すべく海水に投入した直後から急激にヨウ素の含有量が低下するため、海水に投入されてから仔魚に捕食されるまでの間にヨウ素の含有量が必要以上低下し、仔魚に十分量のヨウ素が与えられないためであるものと考えられる。
【符号の説明】
【0108】
S1 ステップ1
S3 ステップ3
S5 ステップ5
S33 ステップ33
図1
図2
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図9