(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第一電極;光電変換層として薄膜の第一半導体層を含む第一光電変換ユニット;および光電変換層として第二半導体層を含み、前記第一光電変換ユニットと直列接続された第二光電変換ユニット、をこの順に備える多接合光電変換装置の製造方法であって、
第一光電変換ユニット上に、分離溝により離間された複数の領域にパターニングされた第一電極を設ける工程;および
第一電極の1つの領域と第二光電変換ユニットとの間に逆バイアス電圧を印加して、第一半導体層に存在するリークを除去する工程、を有し、
前記第二光電変換ユニットに、前記第一光電変換ユニットよりも大きな光電流が発生するように優先的に光を照射した状態で、前記逆バイアス電圧の印加が行われる、多接合光電変換装置の製造方法。
前記第一光電変換ユニット上に電極層を製膜後、前記電極層にレーザ光を照射することにより前記分離溝が形成され、複数の領域にパターニングされた前記第一電極が形成される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の多接合光電変換装置の製造方法。
前記第一光電変換ユニット上に電極層を製膜後、前記電極層のパターンエッチングにより前記分離溝が形成され、複数の領域にパターニングされた前記第一電極が形成される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の多接合光電変換装置の製造方法。
前記第一光電変換ユニット上にマスクを被覆した状態で電極層を製膜することにより、マスクに被覆された領域に前記分離溝が形成され、複数の領域にパターニングされた前記第一電極が形成される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の多接合光電変換装置の製造方法。
前記リークを除去する工程を実施後に、互いに離間された前記第一電極の複数の領域を電気的に接続する工程をさらに有する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の多接合光電変換装置の製造方法。
前記分離溝内に導電性材料を充填後に、前記第一電極の複数の領域に跨るように、前記第一電極上に導電性材料が設けられる、請求項11または12に記載の多接合光電変換装置の製造方法。
前記第一電極の複数の領域に跨るように、前記第一電極上に導電性材料が設けられることにより、前記第一電極の複数の領域が電気的に接続される、請求項10に記載の多接合光電変換装置の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本発明の一実施形態にかかる多接合光電変換装置100の平面図であり、
図2は、
図1のA−A線における断面図である。本発明の光電変換装置は、第一光電変換ユニット10と第二光電変換ユニット20とが積層され、直列接続された多接合光電変換装置である。
【0024】
多接合光電変換装置100は、第一光電変換ユニット10上に第一電極51を有する。第一電極51は、ストライプ状にパターニングされており、第二方向(y方向)に延在する分離溝59により離間され、第一方向(x方向)に沿って並ぶ帯状の小面積領域51a〜51iに分割されている。各帯状領域51a〜51i上には、第二方向に延在するフィンガー電極71a〜71iが設けられている。フィンガー電極71a〜71iは、フィンガー電極上に設けられた導電性の配線材(インターコネクタ)81を介して電気的に接続されている。多接合光電変換装置100に設けられたインターコネクタ81を、隣接する光電変換装置と電気的に接続することにより、光電変換装置のモジュール化が行われる。
【0025】
[光電変換ユニットの構成]
図3は、第一光電変換ユニット10と第二光電変換ユニット20とが積層された多接合ユニットの一形態を表す模式的断面図である。第一光電変換ユニット10側の表面には第一電極50が設けられており、第二光電変換ユニット20側の表面には第二電極55が設けられている。
【0026】
第一光電変換ユニット10は、光電変換層11として薄膜の第一半導体層を含む。第一半導体層は光を吸収して、光キャリアを発生させる。第一半導体層11を構成する薄膜としては、非晶質シリコンや微結晶シリコン等のシリコン系半導体薄膜、CISやCIGS等の化合物半導体薄膜、有機半導体薄膜、有機無機ハイブリッド半導体薄膜等が挙げられる。
【0027】
有機無機ハイブリッド半導体として、ペロブスカイト型結晶構造の感光性材料を含有するペロブスカイト薄膜が用いられてもよい。ペロブスカイト型結晶材料を構成する化合物は、一般式R
1NH
3M
1X
3またはHC(NH
2)
2M
1X
3で表される。式中、R
1はアルキル基であり、炭素数1〜5のアルキル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。M
1は2価の金属イオンであり、PbやSnが好ましい。Xはハロゲンであり、F,Cl,Br,Iが挙げられる。なお、3個のXは、全て同一のハロゲン元素であってもよく、複数のハロゲンが混在していてもよい。
【0028】
ペロブスカイト型結晶材料を構成する化合物の好ましい例として、式CH
3NH
3Pb(I
1−xBr
x)
3で(ただし、0≦x≦1)表される化合物が挙げられる。ペロブスカイト材料は、ハロゲンの種類や比率を変更することにより、分光感度特性を変化させることができる。ペロブスカイト半導体薄膜は、各種のドライプロセスや、スピンコート等の溶液製膜により形成できる。
【0029】
光電変換層11としてペロブスカイト半導体薄膜を有する光電変換ユニット10は、電荷輸送層14,15を有する。電荷輸送層14、15は、一方が正孔輸送層であり、他方が電子輸送層である。
【0030】
正孔輸送層の材料としては、例えば、ポリ−3−ヘキシルチオフェン(P3HT)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等のポリチオフェン誘導体、2,2’,7,7’−テトラキス−(N,N−ジ−p−メトキシフェニルアミン)−9,9’−スピロビフルオレン(Spiro−OMeTAD)等のフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール等のカルバゾール誘導体、トリフェニルアミン誘導体、ジフェニルアミン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアニリン誘導体等が挙げられる。電子輸送層の材料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム等の金属酸化物が挙げられる。
【0031】
第一光電変換ユニット10が、pin接合を含むシリコン系薄膜光電変換ユニットである場合、第一半導体層11は真性(i型)シリコン系薄膜である。シリコン系薄膜としては、非晶質シリコン、非晶質シリコン合金、微結晶シリコン、微結晶シリコン合金等が挙げられる。シリコン合金としては、シリコンカーバイド、シリコンオキサイド、シリコンナイトライド、シリコンゲルマニウム等が挙げられる。第一光電変換ユニット10がpin接合を含む場合、導電型半導体層14,15は、一方がp型であり他方がn型である。
【0032】
第一半導体層11は、ペロブスカイト結晶材料やシリコン系材料に限定されず、光電変換層として使用可能な各種の半導体薄膜を使用できる。第一半導体層11に隣接する電荷輸送層や導電型半導体層14,15は、光電変換層の材料等に応じて適宜に選択できる。
【0033】
第二光電変換ユニット20は、光電変換層21として第二半導体層を含む。第二半導体層は光を吸収して、光キャリアを発生させる。第二半導体層21は、第一半導体層11と異なるバンドギャップを有する。そのため、第一半導体層11と第二半導体層21とは、異なる波長範囲に分光感度特性を有する。したがって、光電変換層として第一半導体層11を含む第一光電変換ユニット10と、光電変換層として第二半導体層21を含む第二光電変換ユニット20とが積層された積層光電変換ユニットでは、より広い波長の光を光電変換に寄与させることができる。第一半導体層11が第二半導体層21よりも広いバンドギャップを有する場合、第一光電変換ユニット10側が受光面となる。
【0034】
第二半導体層21は、半導体薄膜でも半導体基板でもよい。半導体薄膜の例は前述の通りである。半導体基板としては、単結晶シリコン、多結晶シリコン等のシリコン基板や、ゲルマニウム、窒化ガリウム等の結晶半導体基板が挙げられる。
【0035】
第二半導体層21が単結晶シリコン基板である場合、第二光電変換ユニット20としては、第一導電型単結晶シリコン基板の受光面側に第二導電型の拡散層を設けた拡散型セルや、第一導電型単結晶シリコン基板の両面にシリコン系薄膜を設けたヘテロ接合セル等が挙げられる。
【0036】
第二半導体層21として単結晶シリコン基板を用い、単結晶シリコン基板の表裏にシリコン系薄膜を備えるヘテロ接合セル20は、導電型シリコン系薄膜24,25を有する。単結晶シリコン基板21は、p型でもn型でもよい。正孔と電子とを比較した場合、電子の方が移動度が大きいため、n型単結晶シリコン基板を用いた場合は、特に変換特性に優れる。導電型シリコン系薄膜24,25は、一方がp型シリコン系薄膜であり、他方がn型シリコン系薄膜である。
【0037】
第二光電変換ユニット20は、第一光電変換ユニット10と直列接続されている。そのため、導電型シリコン系薄膜24,25の導電型は、第一光電変換ユニット10と第二光電変換ユニット20とが同一の整流方向を有するように選択される。例えば、第一光電変換ユニット10がペロブスカイトセルであり、第一電極51側の電荷輸送層14が正孔輸送層、第二光電変換ユニット20側の電荷輸送層15が電子輸送層である場合、第二光電変換ユニット20は、第一光電変換ユニット10側の導電型シリコン系薄膜24がp型、他方の導電型シリコン系薄膜25がn型である。第一光電変換ユニットが第一電極51側からpinあるいはpnの半導体接合を有する場合も同様である。
【0038】
単結晶シリコン基板21と導電型シリコン系薄膜24,25との間には、真性シリコン系薄膜22,23が設けられていることが好ましい。単結晶シリコン基板の表面に真性シリコン系薄膜が設けられることにより、単結晶シリコン基板への不純物の拡散を抑えつつ表面パッシベーションを有効に行うことができる。単結晶シリコン基板21の表面に真性シリコン系薄膜22,23としては真性非晶質シリコン薄膜が設けられることにより、単結晶シリコン基板21の表面に対する高いパッシベーション効果が得られる。
【0039】
第一光電変換ユニット10と第二光電変換ユニット20との間には中間層13が設けられてもよい。中間層13は、積層された2つの光電変換ユニット間のバンドギャップ調整や、キャリアの選択的移動、トンネル接合の形成、波長選択反射等の目的で設けられる。中間層の構成は、光電変換ユニット10,20の種類や組み合わせ等に応じて選択される。第一光電変換ユニット10と第二光電変換ユニット20との界面に設けられた導電型半導体層(または電荷輸送層)15,24に中間層としての機能を持たせることにより、中間層を省略することもできる。
【0040】
第一光電変換ユニット10側表面の第一電極50、および第二光電変換ユニット20側表面の第二電極55は、光生成キャリアを有効に取り出すために、光電変換ユニット上の略全面に設けられていることが好ましい。受光面側の表面に設けられる電極は透明電極であることが好ましい。すなわち、第一光電変換ユニット10が受光面側のトップセルである場合、第一電極50は透明電極であることが好ましい。裏面側の電極は透明電極でも金属電極でもよい。透明電極の材料としては、ITO、酸化亜鉛、酸化スズ等の金属酸化物が好ましく用いられる。金属電極の材料としては、銀、銅、アルミニウム等が好ましく用いられる。
【0041】
[多接合光電変換装置の製造方法]
本発明の製造方法では、第一光電変換ユニットと第二光電変換ユニットとが積層された積層ユニットの第一光電変換ユニットの表面にパターニングされた第一電極が設けられ、これらのパターニングされた電極が電気的に分離された状態で、逆バイアス処理が行われる。
【0042】
<実施形態1>
以下、
図4A〜Fを参照して、
図1,2に示す多接合光電変換装置100の製造方法の一実施形態を説明する。
【0043】
(多接合光電変換ユニットの準備)
まず、
図4Aに示すように、第一光電変換ユニット10と第二光電変換ユニット20とが積層され直列接続された積層ユニット101を準備する。第二光電変換ユニット20の光電変換層がシリコン基板等の半導体基板である場合は、第二光電変換ユニット20上に、第一光電変換ユニット10を積層形成することが好ましい。
【0044】
第二光電変換ユニットの光電変換層としてシリコン基板等の半導体基板が用いられる場合、光電変換層にはピンホール等は存在しない。一方、第一光電変換ユニット10の光電変換層は薄膜であるため、製膜時に不可避的にピンホール等の欠点が発生する。
【0045】
(電極の形成)
図4Bに示すように、第一光電変換ユニット10上に、第一電極51が形成される。第一光電変換ユニットにピンホール等の欠点が存在すると、この欠点部分に第一電極の導電性材料が接触したり、導電性材料がピンホール内に埋め込まれることにより、リーク箇所が形成される。
【0046】
第一電極51は、分離溝59により離間されてパターニングされ、複数の領域51a〜51iを有する。パターニングされた電極の形成方法としては、製膜時にパターニングする方法、および電極層を形成後に分離溝を形成してパターニングを行う方法が挙げられる。パターニングされた電極を形成する方法としては、第一光電変換ユニット10上の分離溝59形成領域にマスクを被覆した状態で製膜を行う方法が挙げられる。電極層を形成後に分離溝59を形成する方法としては、ウェットエッチング等により分離溝形成領域の電極層を除去する方法(パターンエッチング)や、電極層にレーザ光を照射する方法等が挙げられる。
【0047】
第二光電変換ユニット20側の表面には第二電極(不図示)が設けられてもよい。逆バイアス処理の際に第二光電変換ユニット20側から光照射が行われる場合、第二電極は透明電極であることが好ましい。第二光電変換ユニットに光を到達させることが可能であれば、第二電極として金属電極が設けられていてもよい。例えば、透明電極上に、フィンガー電極やバスバー電極等のパターニングされた金属電極が設けられていてもよい。また、逆バイアス処理後に透明電極上に金属電極を設けて、第二電極を透明電極と金属電極との積層構成としてもよい。
【0048】
図4Cに示すように、パターニングされた第一電極51の各領域上に、フィンガー電極71が設けられる。フィンガー電極は、光電変換層から第一電極51に到達したキャリアを外部に取り出すために設けられる。また、本実施形態では、フィンガー電極71が逆バイアス処理時の給電用電極として用いられる。第一電極51が透明電極である場合、金属のフィンガー電極71が設けられることにより、電極の面内での電位差が低減される。そのため、逆バイアス処理の際に、電極51a〜iのそれぞれにおいて、全域にわたって均一な電圧を印加可能であり、給電点からの距離に関わらず均一にリークを除去できる。
【0049】
フィンガー電極の材料としては、銀、銅、アルミニウム等の低抵抗の金属材料が好ましく用いられる。フィンガー電極は、導電性ペーストを印刷する方法や、めっき法等により、パターン状に形成される。
【0050】
フィンガー電極71は、第一電極51の複数の領域51a〜iが電気的に分離された状態を維持するように設けられる。すなわち、フィンガー電極71は、分離溝59とオーバーラップしないように設けられる。
図1に示すように、フィンガー電極71は、分離溝59と平行に延在するように設けられることが好ましい。
【0051】
(逆バイアス処理)
第一光電変換ユニット10上に設けられた第一電極51が複数の領域51a〜iに分離された状態で、逆バイアス処理により、第一光電変換ユニット10のリーク除去が行われる。
図4Dは、逆バイアス処理工程の概念図である。
【0052】
図4Dに示す形態では、第一電極51の各領域に設けられたフィンガー電極71のそれぞれが、配線91を介して電源90と接続されており、第二光電変換ユニット20が配線92を介して電源90と接続されている。
図3に示す積層形態のように、第二光電変換ユニット20の表面に第二電極55が形成されている場合は、第二電極に配線92が接続されることが好ましい。電源90は、複数の配線91a〜iのうち、任意の配線に電力を供給できるように構成されている。
【0053】
逆バイアス処理の際に、第一光電変換ユニット10と第二光電変換ユニット20との積層体に、光源99から光が照射される。光源99は、第二光電変換ユニット20の光電変換層である第二半導体層が吸収可能な波長範囲の光を出力し、かつ第二光電変換ユニットに対して均一に光を照射可能なものであれば、特に限定されない。光源としては、LEDやハロゲンランプ等が挙げられる。光源はパルス光源でもよい。光源99と積層ユニットとの間に波長選択フィルター(不図示)を配置することにより、光電変換ユニットに照射される光の波長範囲を調整してもよい。
【0054】
光源99からの光は、第一光電変換ユニット10よりも第二光電変換ユニット20に優先的に照射される。すなわち、第二光電変換ユニット20に、第一光電変換ユニット10よりも大きな光電流が発生するように光照射が行われる。例えば、第一光電変換ユニットでの吸収が小さく、第二光電変換ユニットでの吸収が大きい波長の光を照射することにより、第二光電変換ユニットへの優先的な光照射を行い得る。例えば、ペロブスカイト半導体層は、800nmよりも長波長の光をほとんど吸収しないため、第一光電変換ユニット10としてペロブスカイトセル、第二光電変換ユニット20として結晶シリコンセルを含む多接合ユニットに、波長800nmよりも長波長の赤外光を照射することにより、第二光電変換ユニットに優先的に光を照射できる。
【0055】
また、光源99として白色光源を用いる場合でも、第二光電変換ユニット(結晶シリコンセル)20側から光を照射すれば、ほとんどの光は結晶シリコンセル20の結晶シリコン基板で吸収され、ペロブスカイトセル10には到達しないため、結晶シリコンセルに優先的に光を照射できる。このように第一光電変換ユニット10の第一半導体層が、第二光電変換ユニット20の第二半導体層よりもバンドギャップが広い場合、すなわち、第一光電変換ユニット10がトップセル、第二光電変換ユニット20がボトムセルである多接合ユニットでは、第二光電変換ユニット20側(発電時の裏面側)から光を照射することにより、第二光電変換ユニットに優先的に光を照射できる。
【0056】
第二光電変換ユニットに優先的に光を照射して光キャリアを発生させた状態で、電源90から、積層ユニットへの逆バイアス電圧の印加が行われる。第一電極側がp型半導体(または正孔輸送層)である場合、すなわち積層ユニットがpフロント型の場合は、第一光電変換ユニット10上の第一電極51がマイナス、第二光電変換ユニット20側がプラスとなるように電圧が印加される。nフロント型の場合は、第一電極51がプラス、第二光電変換ユニット20側がマイナスとなるように電圧が印加される。
【0057】
逆バイアス電圧の印加により、第一光電変換ユニットのリーク箇所に局所的に電流が流れ、第二光電変換ユニットで生成した光キャリアと再結合する。そのため、第二光電変換ユニットに優先的に光を照射した状態で、逆バイアス電圧を印加することにより、光電変換ユニット10,20を挟持する表裏の電極間に電流が流れる。第二光電変換ユニットは光照射により光電流が流れているため、面内の全体に電流が流れるのに対して、第一光電変換ユニットは逆バイアス電圧により電流が流れている状態である。そのため、第一光電変換ユニットでは、リーク発生箇所に局所的に電流が流れて発熱が生じ、リーク箇所が酸化や溶融により絶縁化されるため、リークが除去される。
【0058】
本発明においては、複数の領域に分割された第一電極51a〜iの特定の領域と第二光電変換ユニットとの間に逆バイアス電圧が印加される。前述のように、電源90は、複数の配線91a〜iのうち、任意の配線に電圧を印加できるように構成されているため、複数の領域に分割された第一電極の特定の領域と第二光電変換ユニットとの間に、選択的に逆バイアス電圧を印加できる。
図4Eは、第二光電変換ユニット20側から光を照射した状態で、フィンガー電極71aに接続された配線91aと配線92との間に逆バイアス電圧を印加して、電極51aの下に存在する第一光電変換ユニットの領域10aにおけるリークを除去する場合を模式的に表している。
【0059】
この場合、図中で9個の領域51a〜hに区切られた第一電極51の中で、電極51aに電圧が印加される。第二光電変換ユニット20と電極51aとの間に電圧が印加されているため、電極51aの下に存在する第一光電変換ユニットの領域10aに存在するリーク箇所に、局所的に逆バイアス電流が流れ、領域10aのリークが除去される。一方、第一光電変換ユニット10の領域10a以外の領域には、逆バイアス電圧が印加されていないため、リーク箇所が存在しても逆バイアス電流は流れず、リークは除去されない。
【0060】
電源90から配線91aを介して電極51aに電圧を印加してその直下の領域10aのリークを除去後、配線91b〜iを介して、電極51b〜iに順次電圧を印加することにより、各小面積領域下に存在する光電変換ユニットのリークの除去が行われる。
【0061】
光電変換ユニットの全面に多数存在するリーク箇所を一度に除去しようとすると、それぞれのリーク箇所にリーク除去に必要な逆バイアス電流を流す必要があるため、合計電流量が大きくなり、ピンホールの拡大や素子の破壊を招く可能性がある。これに対して、本発明では、小面積に区切られた電極51aに選択的に逆バイアス電圧を印加することにより、電極51aの直下の領域のリークを選択的に除去するため、合計電流量が過大となることがなく、ピンホールの拡大や素子の破壊を抑制できる。
【0062】
分離溝により離間された複数のセルが面方向に直列接続されてアレイを形成している場合、逆バイアス電流が直列接続されたアレイ全体に流れるため、位置選択的なリーク除去が困難である。特定の領域のリークを除去するためには、当該特定領域の光電変換ユニットが抵抗として振る舞わないように、リークを除去する領域に選択的に光を照射して光電流を発生させ、リーク部分に集中的に逆バイアス電流を流す必要がある。そのため、光源と多接合光電変換ユニットとの相対的な位置調整が必要となる。これに対して、光電変換ユニットが分離されておらず、電極のみが離間された状態で逆バイアス処理が行われる本発明の方法では、逆バイアス電圧を印加する領域を変更する際に、光源との相対的な位置合わせを必要としない。そのため、小面積に分離された複数の領域を順次逆バイアス処理する際の作業性に優れている。
【0063】
また、本発明の方法では、光電変換層をパターニングする必要がないため、光電変換層の受光面積の減少がない。そのため、発電量が大きく、かつ薄膜のリークによる特性低下が抑制された多接合光電変換装置が得られる。
【0064】
(第一電極の電気的接続)
逆バイアス処理により第一光電変換ユニットのリークを除去後に、互いに離間された第一電極の複数の領域51a〜51iを電気的に接続することが好ましい。互いに離間された第一電極を電気的に接続する方法としては、分離溝59に導電性材料を充填して、小面積に分離された電極51a〜51iを導通させる方法や、複数の領域に跨るように、第一電極上に導電性材料を設ける方法が挙げられる。
【0065】
複数の領域に跨るように第一電極上に設けられる導電性材料としては、各種の電極材料やインターコネクタ等の配線材が挙げられる。これらの導電性材料は、第一電極51に接するように設けられてもよく、他の電極等を介して電極51と導通するように設けられてもよい。集電ロスを低減するために、第一電極上に設けられる導電性材料は、低抵抗の金属材料であることが好ましい。
【0066】
図4Fでは、第一電極51上のフィンガー電極71に、隣接するセルを電気的に接続するためのインターコネクタ81が接続されることにより、分離溝59により互いに離間された第一電極の複数の領域51a〜51iが電気的に接続される。フィンガー電極71とインターコネクタ81とは、はんだや導電性接着剤等を用いて電気的に接続される。
【0067】
フィンガー電極71とインターコネクタ81との接続作業時に、はんだや導電性接着剤等の導電性材料が流れ出して第一電極51を離間する分離溝内に入り込むと、導電性材料が光電変換ユニットと接触して、リーク等の不具合の原因となり得る。特に、分離溝59が第一光電変換ユニット10の内部にまで到達している場合は、分離溝内に導電性材料が入り込むとリークが致命的となる場合があるため、導電性材料が分離溝内に入り込むことがないように留意する必要がある。
【0068】
<実施形態2>
図5に示す実施形態のように、導電性部材の接続前に、分離溝59内に絶縁材料を充填して、光電変換ユニット10と導電性材料との接触を防止してもよい。
図5A〜Fは、本発明の製造方法の一形態の工程概念図である。この形態では、分離溝59内に絶縁材料を充填後に、インターコネクタ81が設けられる。まず、第一光電変換ユニット10と第二光電変換ユニット20との積層ユニット111を準備する。この積層ユニットは、
図4Aの積層ユニット101と同様である。
【0069】
次に、第一光電変換ユニット10上に第一電極層が形成され、レーザ光LBを照射することにより分離溝59が形成され、第一電極が複数の小面積領域にパターニングされる。電極層を電気的に離間するためには、電極51と光電変換ユニット10との界面に到達するように分離溝を形成する必要がある。界面部分で分離溝の形成を止めることは困難であるため、電極を確実に分離するために、
図5Bに示すように光電変換ユニット10に達するように、分離溝59が形成される。分離溝59は、第二光電変換ユニット20には到達していないことが好ましい。
【0070】
分離溝形成後、第一電極51上にフィンガー電極71が形成される(
図5C)。その後、上述の実施形態と同様、光源99から第二光電変換ユニット20に優先的に光を照射しながら、逆バイアス電圧を印加することにより、第一光電変換ユニット10のリークが除去される(
図5D)。
【0071】
その後、第一電極の複数の領域に跨るように、導電性材料が設けられることにより、第一電極の複数の領域が電気的に接続される。第一電極の複数の領域に跨るように設けられる導電性材料としては、インターコネクション用の配線材(インターコネクタ)や、バスバー電極等が挙げられる。
図5Fでは、複数のフィンガー電極71がインターコネクタ81により接続された例が示されている。
【0072】
本実施形態では、第一電極の複数の領域に跨るインターコネクタやバスバー電極が設けられる前に、
図5Eに示すように、絶縁層61が形成され、分離溝59が絶縁材料で充填される。分離溝59内に絶縁材料が充填されることにより、レーザ加工等により形成された分離溝が光電変換ユニット10に到達している場合でも、光電変換ユニットの露出部分が絶縁材料で保護される。そのため、バスバー電極を構成する金属材料や、インターコネクタの接続に用いられる導電性材料が、分離溝に入り込んで光電変換ユニット10と接触することがなく、導電性材料に起因するリークの発生が抑制される。
【0073】
絶縁層61は、インターコネクタ81が設けられる領域下の分離溝内を絶縁材料が充填するように設けられればよい。
図6は、
図5Eの積層ユニット115の平面図であり、分離溝59と直交する方向に延在する帯状に絶縁層61が設けられている。フィンガー電極71は絶縁層61に埋設されずに露出している。
【0074】
図5Fに示すように、フィンガー電極71上に、インターコネクタ81が設けられることにより、複数のフィンガー電極が電気的に接続される。インターコネクタ81は、絶縁層61よりも小さな幅で、絶縁層形成領域内に設けられることが好ましい。絶縁層61をインターコネクタ81よりも大きな幅で形成しておくことにより、インターコネクタ接続時の分離溝への導電性材料の入り込みをより確実に防止できる。
【0075】
図6では、絶縁層61が帯状に設けられた形態が図示されているが、パターニングされた第一電極を電気的に接続するためのバスバー電極やインターコネクタが設けられる領域下の分離溝に絶縁材料が充填されていれば、絶縁層の形状は特に限定されない。例えば、分離溝内に絶縁材料が充填されていれば、第一電極51上には絶縁材料は設けられていなくてもよい。また、絶縁材料が光透過性であれば、フィンガー電極71の形成領域以外の全面に、絶縁層が設けられてもよい。
【0076】
図5では、逆バイアス処理後に、分離溝59内に絶縁材料を充填する実施形態が示されているが、逆バイアス処理前に分離溝内への絶縁材料の充填が行われてもよい。
【0077】
<実施形態3>
上記の各実施形態では、互いに離間された第一電極51の複数の領域のそれぞれに設けられたフィンガー電極71を、インターコネクタやバスバー電極を介して接続することにより、第一電極の複数の領域が電気的に接続される。別の実施形態として、第一電極51を離間していた分離溝内に、金属や導電性酸化物等の導電性材料を充填することにより、第一電極の複数の領域が電気的に接続されてもよい。
【0078】
図7A〜Eは、導電性酸化物により分離溝59を充填することにより、第一電極の複数の領域の電気的接続が行われる実施形態の工程概念図である。
【0079】
まず、
図4Aと同様に第一光電変換ユニット10と第二光電変換ユニット20との積層ユニット121を準備し(
図7A)、
図4Bと同様に分離溝59によりパターニングされた第一電極51を形成する(
図7B)。本実施形態では、逆バイアス処理によるリーク除去後に分離溝内に導電性材料が充填されるため、分離溝59は、第一光電変換ユニット10の内部に到達していないことが好ましい。したがって、マスク製膜やパターンエッチングにより分離溝59が形成されることが好ましい。
【0080】
第一光電変換ユニット10上にパターニングされた第一電極51が設けられた状態で、逆バイアス処理によるリーク除去が行われる(
図7C)。この形態では、第一電極51上に金属電極が設けられていないため、第一電極51上に、電源90からの配線93が接続される。光源99から第二光電変換ユニット20に優先的に光を照射しながら、逆バイアス電圧を印加することにより、第一光電変換ユニット10のリークが除去される。
【0081】
第一電極51と配線との電気的接続を容易とするために、配線93の先端にはプローブ電極96が設けられていてもよい。プローブ電極の形状は特に限定されないが、板状であれば、第一電極とプローブ電極との接触面積が大きく面内の電位が均一となるため、印加電圧を均一化できる。
【0082】
逆バイアス処理によるリーク除去後に、分離溝59内に導電性材料が充填され、第一電極の複数の領域が電気的に接続される。
図7Dでは、パターニングされた第一電極51上に透明導電層52が製膜されることにより、分離溝59内に、透明導電層を構成する透明導電性材料が充填される。透明導電層52は、パターニングされず、第一電極51上および分離溝59上の全面に形成されることが好ましい。
【0083】
分離溝59内に導電性材料を充填後、さらに、逆バイアス電圧の印加によるリークの除去(第二逆バイアス処理)が行われてもよい。
図7Cに示すように、パターニングされた電極51の各領域に、順次逆バイアス電圧を印加して第一光電変換ユニット10のリークを除去することにより、第一電極51形成領域下の光電変換ユニット10のリークが除去される(第一逆バイアス処理)。一方、分離溝59形成領域下では、逆バイアス処理が行われていないため、リーク箇所が残存している場合がある。分離溝内に導電性材料を充填した後に、配線92を介して電源90と電気的に接続された第二光電変換ユニットと、配線94を介して電源90と電気的に接続された第一電極51との間に、逆バイアス電圧を印加して第二逆バイアス処理を行うことにより、分離溝59形成領域下の第一光電変換ユニットに残存しているリークを除去できる。分離溝59内に導電性材料を充填後の第二逆バイアス処理では、第一逆バイアス処理と同様、光源99から第二光電変換ユニット20に優先的に光を照射しながら、逆バイアス電圧の印加が行われる。
【0084】
第一電極51の複数の領域は電気的に接続されているため、第二逆バイアス処理では、第一光電変換ユニット10上の全領域に逆バイアス電圧が印加される。面内での電位差を小さくするために、
図7Eに示すように、配線94に接続された金属板97を介して、逆バイアス電圧の印加が行われてもよい。また、透明導電層52上に、フィンガー電極やバスバー電極等の金属電極を設けた後に、逆バイアス電圧を印加することにより、面内の電位差を低減してもよい。
【0085】
先の第一逆バイアス処理により、第一電極51形成領域下の第一光電変換ユニット10のリークはで除去されているため、分離溝59内に導電性材料を充填後の第二逆バイアス処理では、面内全体に逆バイアスが印加されても、分離溝形成領域に残存するリーク箇所に電流が流れるのみである。そのため、過大な電流を流すことなく、分離溝形成領域下のリークを除去可能である。
【0086】
全面に逆バイアス電圧を印加した場合に、リーク除去のための合計電流量が過大となることを防止するために、第二逆バイアス処理におけるリーク除去対象領域の面積は、分離溝により離間された第一電極51の1つの領域の面積と同程度であることが好ましい。リーク除去対象領域の面積は、導電性材料が充填された分離溝の面積の合計と略等しい。第一電極51がストライプ状にパターニングされている場合は、第一電極の1つの領域の幅Wと、分離溝の幅x
1〜x
8の合計が略等しいことが好ましい。具体的には、分離溝の幅の合計は、第一電極の1つの領域の幅Wの2倍以下が好ましい。
【0087】
第二逆バイアス処理におけるリーク除去対象領域の面積が、第一電極51の1つの領域の面積と同程度であれば、第二逆バイアス処理での合計電流量が、第一逆バイアス処理における各電極領域への逆バイアス電圧印加時の電流量と同等であるため、リーク除去のために過大な電流を流す必要がない。
【0088】
第二バイアス処理後に、フィンガー電極やバスバー電極等の金属電極の形成が行われてもよく、金属電極とインターコネクタとの接続が行われてもよい。
【0089】
<実施形態4>
図8A〜Dは、金属材料により分離溝59を充填することにより、第一電極の複数の領域の電気的接続が行われる実施形態の工程概念図である。まず
図7A〜Cと同様に、第一光電変換ユニット10と第二光電変換ユニット20との積層ユニットの準備、分離溝59によりパターニングされた第一電極51の形成、および第一逆バイアス処理(
図8A)が実施される。
【0090】
第一逆バイアス処理後に、分離溝59内に金属材料が充填される。
図8Bでは、分離溝59内を充填するようにフィンガー電極73が形成される。
図9は、分離溝内を充填するようにフィンガー電極73a〜hが設けられた
図8Bの積層ユニット136の平面図である。フィンガー電極73は、分離溝59の略全長にわたって形成されることが好ましい。また、フィンガー電極73は、分離溝59よりも広幅に形成されることが好ましい。フィンガー電極73が分離溝よりも広幅に形成されることにより、分離溝59内に金属材料を充填して、パターニングされた第一電極の各領域間が電気的に接続されるとともに、フィンガー電極と第一電極との接触面積を増大させ、キャリア収集効率を向上できる。
【0091】
フィンガー電極を形成後、フィンガー電極73と直交方向に延在するバスバー電極77が形成される(
図8C)。
図10は、バスバー電極77形成後の積層ユニット137の平面図である。フィンガー電極73a〜h上に、バスバー電極77a〜cが設けられることにより、複数のフィンガー電極が電気的に接続される。バスバー電極の材料としては、銀、銅、アルミニウム等の低抵抗の金属材料が好ましく用いられる。バスバー電極は、印刷法やメッキ法等により形成される。なお、
図8BおよびCでは、フィンガー電極73を形成後にバスバー電極77を形成する例を示したが、バスバー電極は、フィンガー電極と同時に形成されてもよい。
【0092】
バスバー電極を形成後、上記実施形態3と同様、光源99から第二光電変換ユニット20に優先的に光を照射しながら第二逆バイアス処理を行い、分離溝59形成領域下の光電変換ユニット10の残存するリークが除去されてもよい。
図8Dでは、電源90からの配線95がバスバー電極77に接続されている。この形態では、バスバー電極77からフィンガー電極71に供電が行われることにより、フィンガー電極71と第二光電変換ユニットとの間に逆バイアス電圧が印加され、フィンガー電極71形成領域(分離溝59形成領域)下の第一光電変換ユニットに残存しているリークが除去される。
【0093】
第二バイアス処理は、バスバー電極の形成前に行われてもよい。この場合、電源90からの配線をフィンガー電極71と接続して給電を行ってもよく、配線に接続された金属板等を、複数のフィンガー電極と接触させて、フィンガー電極への給電を行ってもよい。
【0094】
バスバー電極77上にインターコネクタが設けられてもよい。バスバー電極と電気的に接続されたインターコネクタを、隣接する光電変換装置と電気的に接続することにより、光電変換装置のモジュール化が行われる。
【0095】
上記実施形態1〜4はいずれも例示であり、各実施形態の多接合光電変換装置を構成する電極や導電性材料等の構成要素や工程等を適宜に組み合わせて本発明の製造方法を実施できる。
【0096】
本発明の方法により第一光電変換ユニットの薄膜光電変換層のリークが除去された他接合光電変換装置は、実用に際して、封止材により封止して、モジュール化されることが好ましい。光電変換装置のモジュール化は、適宜の方法により行われる。例えば、インターコネクタを介して隣接するセル同士を電気的に直列または並列に接続した後、封止材およびガラス板により封止が行われる。