(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
架橋されたシリコーン構造を含み、下記方法により測定されるゲル分率が70%以上95%以下であり、かつ下記方法により測定される膨潤度が260%以下であることを特徴とするシリコーン系粘着剤組成物。
(ゲル分率)
トルエンにシリコーン系粘着剤組成物を常温で1日間浸漬したときの不溶解分の比率である、下記式によってゲル分率を得る。
ゲル分率(%)=(C/A)×100%
A:シリコーン系粘着剤組成物の初期質量
C:トルエン浸漬後のシリコーン系粘着剤組成物の乾燥質量(乾燥条件:130℃、2時間)
(膨潤度)
トルエンにシリコーン系粘着剤組成物を常温で1日間浸漬したときのトルエンの吸収による膨潤比率である、下記式によって膨潤度を得る。
膨潤度(%)=((B―A)/A)×100%
A:シリコーン系粘着剤組成物の初期質量
B:トルエン浸漬後のシリコーン系粘着剤組成物の膨潤質量
樹脂フィルムがポリイミド(PI)フィルム、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)フィルム、ポリエチレンテレフタラート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、ポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム、ポリアミドイミド(PAI)フィルム、ポリエーテルスルフォン(PES)フィルム、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルムのいずれかを含む請求項6記載の粘着テープ。
【背景技術】
【0002】
シリコーン系粘着剤組成物は、耐熱性、耐寒性、耐候性、電気絶縁性及び耐薬品性に優れている。さらにシリコーン系粘着剤層を有する粘着テープは、特に高温環境で使用しても剥離時に糊残りしにくい。したがって、そのような粘着テープは、例えば耐熱ガラス等の部材の表面処理工程やガラスウエハー等の半導体部品の製造工程において、部材や部品の保護、マスキング、仮固定、搬送時固定等の用途に広く利用されている。
【0003】
従来、糊残りしにくいシリコーン系粘着剤組成物や粘着テープは数多く研究されてきた。例えば特許文献1では、250℃〜290℃での糊残り性試験において糊残りがないシリコーン粘着剤組成物が開示されている。
【0004】
特許文献2では、半導体部品の製造工程において260℃でリフローした際の粘着力の上昇が小さく、部品への転写異物(糊残り)も少ない表面保護用粘着テープが開示されている。
【0005】
以上の特許文献のうち、特許文献1及び特許文献2は半導体部品の製造工程において使用される粘着テープに関するものであり、その使用環境の温度は250℃〜290℃又は260℃が想定されている。しかし、近年の半導体部品の製造工程やその他のプロセスにおいては290℃を超える温度(例えば300℃)で粘着テープが使用されることもある。そして従来の一般的な粘着テープをそのような高い温度環境で使用すると剥離時に糊残りが発生し易い。また、糊残りしにくいタイプの従来の粘着テープ(特許文献1及び特許文献2など)であっても、想定以上の高い温度環境で使用すると剥離時に糊残りが発生する恐れがある。しかも想定以上の高い温度に曝されることで粘着力が上昇し、剥離に要する力が大きくなってしまう傾向にある。そして、被着体(例えば耐熱ガラス、ガラスウエハー)が薄くて割れ易い形状や材質からなる場合は、剥離時に大きな力がかかり割れてしまう恐れがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、290℃を超える高い温度(例えば300℃)で使用したときの従来の粘着テープの上述の課題を解決する為の開発を行った。すなわち本発明の目的は、高温環境(例えば300℃)で使用しても剥離時に糊残りせず、軽い力で剥離できるシリコーン系粘着剤組成物及び粘着テープを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、シリコーン系粘着剤層のゲル分率と膨潤度のバランスが、高温環境(例えば300℃)で使用した際の剥離時の糊残り、剥離力などの諸性能と関係していることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、架橋されたシリコーン構造を含み、下記方法により測定されるゲル分率が70%以上95%以下であり、かつ下記方法により測定される膨潤度が260%以下であることを特徴とするシリコーン系粘着剤組成物である。
(ゲル分率)
トルエンにシリコーン系粘着剤組成物を常温で1日間浸漬したときの不溶解分の比率である、下記式によってゲル分率を得る。
ゲル分率(%)=(C/A)×100%
A:シリコーン系粘着剤組成物の初期質量
C:トルエン浸漬後のシリコーン系粘着剤組成物の乾燥質量(乾燥条件:130℃、2時間)
(膨潤度)
トルエンにシリコーン系粘着剤組成物を常温で1日間浸漬したときのトルエンの吸収による膨潤比率である、下記式によって膨潤度を得る。
膨潤度(%)=((B―A)/A)×100%
A:シリコーン系粘着剤組成物の初期質量
B:トルエン浸漬後のシリコーン系粘着剤組成物の膨潤質量
【0010】
さらに本発明は、基材の少なくとも片面に上記粘着剤組成物からなる粘着剤層を有する粘着テープある。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高温環境(例えば300℃)で使用しても剥離時に糊残りせず、軽い力で剥離できるシリコーン系粘着剤組成物及び粘着テープが提供される。特に、本発明の粘着テープは上記特定の粘着剤層を有するので、例えば耐熱ガラス等の表面処理工程やガラスウエハー等の半導体部品の製造工程において高温(例えば300℃)で加熱されたとしても、工程後の剥離時に糊残りせず、軽い力で剥離できる。本発明の粘着テープは、このような点で非常に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<粘着剤組成物>
本発明の粘着剤組成物は、シリコーン系粘着剤を主成分として含む粘着剤組成物である。本発明の粘着剤組成物のゲル分率は70%以上95%以下であり、好ましくは70%以上90%以下、より好ましくは70%以上85%以下である。また、本発明の粘着剤組成物のトルエンに対する膨潤度は260%以下であり、好ましくは250%以下、より好ましくは240%以下である。ゲル分率及び膨潤度の具体的な測定方法は、後述する実施例の欄に記載する。一般に、膨潤度は粘着剤組成物の架橋密度に依存する。架橋密度が高い場合はトルエンに浸漬しても粘着剤を構成する三次元に架橋されたポリマー鎖が広がりにくく、膨潤度は低くなる。一方、架橋密度が低い場合はポリマー鎖が広がりやすく膨潤度は高くなる。
【0014】
ゲル分率と膨潤度が本発明の特定の範囲内であれば、高温環境(例えば300℃)で使用しても糊残りせず、軽い力で剥離できる。ゲル分率が70%未満であると、被着体への接着力が強固になるため剥離に要する力が大きくなり、かつ凝集力不足による糊残りが発生しやすくなる。一方、ゲル分率が95%を超えると、高温環境下で粘着剤に含有されるシリコーンゴムが酸化劣化しやすくなり、糊残りも発生しやすくなる。また、ゲル分率が70%以上95%以下の範囲内であっても、膨潤度が260%を超えると、架橋密度が低いことに起因した凝集力不足による糊残りが発生しやすく、かつ剥離に要する力が大きくなる。
【0015】
本発明に用いるシリコーン系粘着剤の具体例としては、主にシリコーン生ゴム(D単位[(CH
3)
2SiO]からなる構造を有するポリジメチルシロキサンの長鎖の重合体)とMQレジン(M単位[(CH
3)
3SiO
1/2]とQ単位[SiO
4/2]からなる構造を有する3次元構造のシリコーンレジンの重合体)を含有する粘着剤が挙げられる。このようなシリコーン生ゴムとMQレジンを含有する粘着剤は、シリコーン生ゴム単体に比べて粘着性に優れる。また、粘着剤中のシリコーン生ゴムとMQレジンの比率を変えることで粘着力・保持力・タック等の基本的な粘着物性をコントロールすることができる。シリコーン系粘着剤は、その硬化機構により、付加硬化型、過酸化物硬化型に大別される。
【0016】
付加硬化型シリコーン系粘着剤は、例えば、アルケニル基を含有するシリコーン生ゴムからなる主剤と、MQレジンと、SiH基を含有するポリオルガノシロキサンからなる架橋剤とを含む。そして、白金触媒下で加熱して架橋反応させることにより硬化する。アルケニル基を含有するシリコーン生ゴムは、代表的には、ケイ素原子に結合したアルケニル基(例えばビニル基)を1分子中に少なくとも2個有するポリオルガノシロキサンである。SiH基を含有するポリオルガノシロキサンは、代表的には、ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に少なくとも2個有するポリオルガノシロキサンである。一般に、付加硬化型シリコーン系粘着剤においては、シリコーン生ゴムに対するMQレジンの配合比率を低くしたり、あるいはシリコーン生ゴム(及び/又はMQレジン)中のアルケニル基の含有比率を高くするとゲル分率が高くなる傾向にある。また一般に、シリコーン生ゴム(及び/又はMQレジン)中のアルケニル基の含有比率を高くすると膨潤度が低くなる傾向にある。したがって、付加硬化型シリコーン系粘着剤を用いて本発明の特定のゲル分率及び膨潤度を有する粘着剤組成物を得る方法としては、例えば、シリコーン生ゴムに対するMQレジンの配合比率とシリコーン生ゴム(及び/又はMQレジン)中のアルケニル基の含有比率を適宜調整する方法がある。ただし、本発明の粘着剤組成物はこのような調整方法で得たものに限定されない。
【0017】
過酸化物硬化型シリコーン系粘着剤は、例えば、アルケニル基を含有しないシリコーン生ゴムからなる主剤と、MQレジンとを含む。そして、硬化剤として過酸化ベンゾイル等の過酸化物を添加し、溶媒を除去した後、高温で加熱することで硬化する。一般に、過酸化物硬化型シリコーン系粘着剤においては、シリコーン生ゴムに対するMQレジンの配合比率を低くしたり、過酸化物の添加量を多くするとゲル分率が高くなる傾向にある。また一般に、過酸化物の添加量を多くすると膨潤度が低くなる傾向にある。したがって、過酸化物硬化型シリコーン系粘着剤を用いて本発明の特定のゲル分率及び膨潤度を有する粘着剤組成物を得る方法としては、例えば、シリコーン生ゴムに対するMQレジンの配合比率と過酸化物の添加量を適宜調整する方法がある。ただし、本発明の粘着剤組成物はこのような調整方法で得たものに限定されない。
【0018】
シリコーン系粘着剤は2種以上を組み合わせて使用しても良い。特に本発明の粘着剤組成物は、架橋硬化された付加硬化型シリコーン粘着剤を含むことが好ましい。なお、シリコーン粘着剤の架橋硬化反応は通常加熱によって行うが、粘着剤や硬化剤の種類によっては縮合反応や紫外線照射でも架橋硬化が可能である。付加硬化型シリコーン粘着剤を使用する場合においては、SiH基を含有したポリオルガノシロキサンからなる架橋剤の量を適宜調整してもよい。
【0019】
また2種以上のシリコーン系粘着剤の混合物を用いて本発明の特定のゲル分率及び膨潤度を有する粘着剤組成物を得ることもできる。具体的には、例えばゲル分率及び膨潤度が比較的高いシリコーン系粘着剤と、ゲル分率及び膨潤度が比較的低いシリコーン系粘着剤とを適当な比率で混合して架橋硬化することにより、ゲル分率及び膨潤度が本発明の範囲内となる粘着剤組成物を得ることができる。ただし、本発明の粘着剤組成物はこのような方法で得たものに限定されない。
【0020】
本発明の粘着剤組成物には、各種特性の向上を目的として添加剤を添加しても良い。添加剤の具体例としては、カーボンブラック、シリカ等の無機充填剤;シリコーンレジン、ポリジメチルシロキサン、ポリジメチルフェニルシロキサン等のポリオルガノシロキサン;フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤等の酸化防止剤;シランカップリング剤が挙げられる。ただし添加剤の種類や量は、発明の効果が損なわれないよう適宜選定する必要がある。
【0021】
<粘着テープ>
本発明の粘着テープは、基材の少なくとも片面に以上説明した本発明の粘着剤組成物からなる粘着剤層を有する粘着テープであり、代表的には、基材フィルムの片面又は両面にその粘着剤層を有する粘着テープである。粘着剤層の厚さは特に限定されないが、好ましくは5〜100μm、より好ましくは5〜75μm、特に好ましくは5〜50μmである。
【0022】
本発明の粘着テープは、基材の片面に本発明の粘着剤組成物からなる粘着剤層を有し、もう一方の面に従来の粘着剤組成物からなる粘着剤層を有する両面粘着テープであっても良い。例えば、高温環境で使用しても軽い力で剥離できる本発明の粘着剤組成物からなる粘着剤層をガラス等の部品側に貼り付け、固定力に優れる従来の粘着剤組成物からなる粘着剤層をキャリア(搬送体)側に貼り付けて使用すると、工程後の部品の剥離時に両面テープはキャリア側に残り、部品側には残らない。
【0023】
粘着剤層は、粘着剤組成物を架橋硬化反応させることにより形成できる。例えば、粘着剤組成物を基材上に塗布し、加熱又は縮合反応や紫外線照射により架橋硬化させて基材上に粘着剤層を形成できる。また、粘着剤組成物を離型紙又はその他のフィルム上に塗布し、加熱又は縮合反応や紫外線照射により架橋硬化させて粘着剤層を形成し、この粘着剤層を基材の片面又は両面に貼り合せることもできる。
【0024】
塗布の際の粘着剤組成物の粘度を下げる為に、溶剤を添加しても良い。溶剤の具体例としては、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤;ヘキサン、オクタン、イソパラフィン等の脂肪族系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸イソブチル等のエステル系溶剤;ジイソプロピルエーテル、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶剤が挙げられる。
【0025】
塗工方法は特に限定されず、公知方法を用いれば良い。その具体例としては、コンマコーター、リップコーター、ロールコーター、ダイコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、キスコーター又はグラビアコーターを用いた塗工;スクリーン塗工;浸漬塗工;キャスト塗工が挙げられる。
【0026】
基材は特に限定されないが、フィルム状の基材が好ましい。特に、高温下で処理可能な耐熱性の高い樹脂フィルムが好ましい。その具体例としては例えば、ポリイミド(PI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の樹脂フィルムが挙げられる。これらのフィルムを単層、または2層以上の積層フィルムとして使用することができる。中でもポリイミドフィルムが好ましい。基材の厚さは特に制限されないが、好ましくは5〜200μm、より好ましくは5〜160μm、特に好ましくは5〜130μmである。
【0027】
さらに、基材の粘着剤層を設ける面には、必要に応じて易接着処理を施しても良い。易接着処理としては、例えば、プライマー処理、コロナ処理、エッチング処理、プラズマ処理、サンドブラスト処理などが挙げられる。
【0028】
本発明の粘着テープには剥離ライナーを設けても良い。剥離ライナーとは、粘着テープの粘着剤層を保護する為のものであり、貼り付け直前に剥離し、粘着剤を露出させて被着体に粘着テープを貼り付ける。剥離ライナーの種類は特に限定されず、公知の剥離ライナーを使用できる。その具体例としては、上質紙、グラシン紙、合成樹脂フィルム等の基材の表面に離型剤処理を施したものが挙げられる。離型剤処理には、例えばフッ素置換アルキル変性シリコーン樹脂等の離型剤を用いれば良い。特に、シリコーン系粘着剤層に積層する剥離ライナーとしては、ポリエチレンタレフタレートフィルムの表面をフッ素置換アルキル変性シリコーン樹脂で離型処理したものが好ましい。また、粘着剤層の粘着性が低い場合は、離型処理の施されていない樹脂フィルムを剥離ライナーとして使用しても良い。その具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレン(PE)フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルムが挙げられる。
【0029】
本発明の粘着テープは、高温環境で使用しても糊残りせず、軽い力で剥離できる。特に、高温環境で使用後の粘着力が適度に低ければ、軽い力で容易に剥離できる。具体的には、本発明の粘着テープの下記方法により測定される300℃加熱後粘着力が、好ましくは0.70N/10mm以下、より好ましくは0.50N/10mm以下である。より詳細な測定条件は、後述する実施例の欄に記載する。
(300℃加熱後粘着力)
20mm幅の粘着テープを耐熱ガラス板に貼り付け、300℃で1時間加熱し、その後冷却し、300mm/分の速度で180°の角度でテープを剥離するのに要する力(N/10mm)を測定する。
【0030】
また、本発明の粘着テープの加熱前の粘着力、すなわち下記方法により測定される常温(23℃)での粘着力は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.01N/10mm以上である。
(常温粘着力)
20mm幅の粘着テープを耐熱ガラス板に貼り付け、300mm/分の速度で180°の角度でテープを剥離するのに要する力(N/10mm)を測定する。
【0031】
本発明の粘着テープは、特に高温環境(好ましくは290℃を超え、より好ましくは300℃)で使用される用途に有用である。その具体例としては、耐熱ガラス等の部材の表面処理工程やガラスウエハー等の半導体部品の製造工程において、被着体(例えば耐熱ガラス、ガラスウエハー)の保護、マスキング、仮固定、搬送時固定の用途が挙げられる。
【0032】
ただし、本発明の粘着テープの用途は、上記のような高温環境で使用する用途に限定されるものではない。例えば、近年では各種電子部品の製造工程においてプラズマ処理がなされる場合がある。プラズマ処理の際の温度自体は常温〜120℃程度であるが、その際には粘着テープの端部側面がプラズマに直接曝されることがあり、その影響で端部に糊残りが生じやすくなる。一方、本発明の粘着テープは糊残りしにくいという特性を有するので、プラズマ処理を含む工程に使用した場合であってもその問題を低減できる。すなわち本発明の粘着テープは、温度以外の要因で糊残りの問題が生じるような用途においても非常に有用なのである。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下の記載において「部」は「質量部」を意味する。
【0034】
<実施例1>
まず、付加硬化型シリコーン系粘着剤原液の複数の試作品(I〜IX)を用意した。これら複数の試作品は、シリコーン生ゴムに対するMQレジンの配合比率とシリコーン生ゴム(及び/又はMQレジン)中のアルケニル基の含有比率を適宜変更することによって、後述する方法で測定される架橋硬化後のゲル分率及び膨潤度が様々な値を示すように調整した粘着剤の試作品である。なお、これらの試作品はいずれも共通のMQレジンを用いている。そして本実施例においては、これら複数の試作品のうち、架橋硬化後のゲル分率が81%、膨潤度が247%となる付加硬化型シリコーン系粘着剤原液(I)を選択し、使用した。具体的には、固形分濃度50質量%の付加硬化型シリコーン系粘着剤原液(I)100部、希釈溶剤としてトルエン50部、硬化触媒として白金触媒0.4部を均一に混合し、粘着剤液(1)を得た。
【0035】
次に、プライマー処理した厚さ25μmのポリイミド(PI)フィルムの片面に、粘着剤液を乾燥後の粘着剤層の厚さが30μmになるように塗布し、乾燥炉内で130℃、2分にて硬化・乾燥して粘着剤層を形成した。そして剥離ライナーとして厚さ38μmの未処理のPETフィルムを粘着剤層に貼り合わせ、粘着テープを得た。
【0036】
<実施例2>
先に述べた複数の試作品のうち、架橋硬化後のゲル分率が81%、膨潤度が207%となる付加硬化型シリコーン系粘着剤原液(II)(固形分濃度50質量%)を選択し、粘着剤原液(I)の代わりに使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で粘着剤液(2)を調製し、粘着テープを作製した。
【0037】
<実施例3>
先に述べた複数の試作品のうち、架橋硬化後のゲル分率が89%、膨潤度が222%となる付加硬化型シリコーン系粘着剤原液(III)(固形分濃度50質量%)を選択し、粘着剤原液(I)の代わりに使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で粘着剤液(3)を調製し、粘着テープを作製した。
【0038】
<実施例4>
先に述べた複数の試作品のうち、架橋硬化後のゲル分率が73%、膨潤度が211%となる付加硬化型シリコーン系粘着剤原液(IV)(固形分濃度50質量%)を選択し、粘着剤原液(I)の代わりに使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で粘着剤液(4)を調製し、粘着テープを作製した。
【0039】
<比較例1>
先に述べた複数の試作品のうち、架橋硬化後のゲル分率が96%、膨潤度が333%となる付加硬化型シリコーン系粘着剤原液(V)(固形分濃度50質量%)を選択し、粘着剤原液(I)の代わりに使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で粘着剤液(5)を調製し、粘着テープを作製した。
【0040】
<比較例2>
先に述べた複数の試作品のうち、架橋硬化後のゲル分率が90%、膨潤度が329%となる付加硬化型シリコーン系粘着剤原液(VI)(固形分濃度50質量%)を選択し、粘着剤原液(I)の代わりに使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で粘着剤液(6)を調製し、粘着テープを作製した。
【0041】
<比較例3>
先に述べた複数の試作品のうち、架橋硬化後のゲル分率が87%、膨潤度が267%となる付加硬化型シリコーン系粘着剤原液(VII)(固形分濃度50質量%)を選択し、粘着剤原液(I)の代わりに使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で粘着剤液(7)を調製し、粘着テープを作製した。
【0042】
<比較例4>
先に述べた複数の試作品のうち、架橋硬化後のゲル分率が97%、膨潤度が240%となる付加硬化型シリコーン系粘着剤原液(VIII)(固形分濃度50質量%)を選択し、粘着剤原液(I)の代わりに使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で粘着剤液(8)を調製し、粘着テープを作製した。
【0043】
<比較例5>
先に述べた複数の試作品のうち、架橋硬化後のゲル分率が96%、膨潤度が201%となる付加硬化型シリコーン系粘着剤原液(IX)(固形分濃度50質量%)を選択し、粘着剤原液(I)の代わりに使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で粘着剤液(9)を調製し、粘着テープを作製した。
【0044】
<粘着剤組成物のゲル分率及び膨潤度>
実施例及び比較例で得た粘着剤液(1)〜(9)をそれぞれ、剥離ライナー上に乾燥後の厚さが150μmになるように塗布した。続いて、乾燥炉で加熱し硬化・乾燥して粘着剤組成物とし、これをサンプルとした。この際の加熱温度は130℃、2分である。
【0045】
得られたサンプルを50mm×50mmに断裁し、剥離ライナーを剥離し、シート状の粘着剤組成物からなる測定用サンプルを得た。この測定用サンプルの初期質量(A)(=膨潤前の粘着剤組成物の質量)を測定した。そしてこの測定用サンプルを、初期質量(A)の250倍量以上のトルエンに常温(23℃)で1日間浸漬し膨潤させた。浸漬後に測定用サンプルを取り出して膨潤質量(B)(=トルエンで膨潤した粘着剤組成物の質量)を測定した。さらにこの測定用サンプルを、130℃の乾燥機で2時間乾燥させて吸収した溶媒を除去し、乾燥質量(C)(=乾燥した粘着剤組成物の質量)を測定した。粘着剤組成物のゲル分率及び膨潤度を下記式によって得た。
ゲル分率(%)=(C/A)×100
膨潤度(%)=((B―A)/A)×100%
【0046】
<常温(23℃)の対ガラス粘着力>
20mm幅に裁断した粘着テープを耐熱ガラス板に貼り付け、重さ2kgのゴム層で被覆されたローラーで1往復させて圧着し、23℃環境で30分放置した。その後、引張試験機を用いて300mm/分の速度で180°の角度でテープを剥離するのに要する力を測定した。
【0047】
<300℃加熱後の対ガラス粘着力・剥離のしやすさ・糊残り性>
20mm幅に裁断した粘着テープを耐熱ガラス板に貼り付け、重さ2kgのゴム層で被覆されたローラーで1往復させて圧着し、300℃の乾燥機中に1時間放置した。これを取り出して室温(23℃)で放冷した。その後、引張試験機を用いて300mm/分の速度で180°の角度でテープを剥離するのに要する力(粘着力)を測定した。また、その測定値に基づき、剥離のしやすさを以下の基準で評価した。
○:測定値が0.70N/10mm以下
×:測定値が0.70N/10mmより高い
【0048】
さらに上記の試験において、剥離後の耐熱ガラス板への糊残りの有無を目視で確認し、以下の基準で評価した。
○:糊残り無し
×:糊残り有り
【0049】
以上の各測定の結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
<評価結果>
表1に示すように、実施例1〜4の粘着テープは、300℃で加熱した後に剥離しても糊残りせず、かつ粘着力の上昇が適度に抑制されているので軽い力(すなわち0.70N/10mm以下)で剥離できるものであった。
【0052】
比較例1の粘着テープは、ゲル分率が高くかつ膨潤度が高い(すなわち架橋密度が低い)ので糊残りが発生した。
【0053】
比較例2の粘着テープは、ゲル分率は本発明の範囲内であるものの膨潤度が高い(すなわち架橋密度が低い)ので糊残りが発生した。また、比較例1よりもゲル分率が低いので、300℃加熱後の粘着力の上昇が比較例1よりも大きくなった。このような高い粘着力では、剥離に要する力が大きくなってしまう。
【0054】
比較例3の粘着テープは、比較例2の粘着テープと同様に、ゲル分率は本発明の範囲内であるものの膨潤度が高い(すなわち架橋密度が低い)ので糊残りが発生した。ただし、比較例2の粘着テープと比べると膨潤度は低めであるので、300℃加熱後の粘着力の上昇は大きくない。
【0055】
比較例4、5の粘着テープは、膨潤度は本発明の範囲内であるものの、ゲル分率が高いので糊残りが発生した。