(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
摩擦による係合及び/又は形状の噛み合わせによる係合で掘削孔に留付けされた、拡張性ボルト又はアンダーカットシステムにより留付けが形成される従来の留付け技術に加え、先行技術から知られる化学的な留付け技術では、モルタル組成物で充填された掘削孔にアンカーロッド又はその他の留付け要素が挿入され、モルタル組成物の硬化後に固定される。これらの種類の複合アンカーの優位性は、これらが選択された留付け要素とは無関係に、総じて拡張圧の影響を受けず、それ故軸方向及びエッジ間隔が小さくて済むことにある。
【0003】
先行技術として既知のアンカー手段、特にアンカーロッドは複合拡張アンカーと呼ばれ、固着領域として、アンカーロッドのシャフトから形成される区分であって、複数の拡張部分を有する。これらのアンカーロッドの場合、モルタル化合物が硬化した状態における力の伝達は、一方では掘削孔の壁とモルタル化合物の間の複合モルタルの接着効果を通じて発生し、もう一方では拡張部分を介した拡張効果により発生する。拡張効果によりアンカーロッドに応力が働いている際には、それに作用する法線力(引張力)が径方向に働く膨張力に変換され、この留付けのための配置は後に拡張膨張することができ、部材の引張領域又はひびの入ったコンクリートにも適用することができる。
【0004】
既知の複合拡張アンカーの短所は、非常に強い膨張力がある程度作用するため、縁に近い留付け物には条件的にしか適さないことである。
【0005】
さらに、アンカー手段を確実に留付けるため、複合アンカーでは、硬化性モルタル組成物の導入前に、掘削孔を時間をかけて清掃する必要があり、そのため作業環境はごみで汚染されてしまう。清掃を行わない又は清掃が不十分な場合は負荷荷重に悪影響を与える。最も好ましくない状況、特に掘削孔の壁と硬化したモルタル化合物との間に掘削孔のごみが多くある状況では、応力が作用した際にアンカーロッドはモルタルシェルの付着した状態で掘削孔から抜き出し得る。
【0006】
さらに、アンカー手段を化学的に留付ける際、そのアンカー手段を留付けるために掘削孔の充填に使用することができる既知のモルタル組成物は、その多くがパーツキットとも呼ばれることがある2成分モルタル系留付け材の有機系又は無機系がベースのものであり、鉱物質の面(被留付け面)におけるアンカー手段の化学的留付けを良好にするための硬化過程を開始するため、使用前又は塗布中にその各成分がそれぞれ混合されるようになっている。例えば、ラジカル重合性樹脂をベースとする有機系組成物は迅速な硬化が望ましい場合に使用される。しかし、かかる組成物は環境を汚染し、高価で、環境及び取り扱う人に潜在的に有害及び/又は危険となることが一般的に知られているばかりか、そのことを明確に表記しなければならない場合も多い。さらに、有機系組成物は、強い太陽光線に晒されて熱を持つ場合又は温度が上昇する場合に安定性が大きく低下する。
【0007】
これらの弱点を克服するため、アルミナセメントをベースとする主に無機質の留付け材が開発された。アルミナセメントの主たる構成要素はモノカルシウムアルミネートであり、最終製品として長期間に渡って高水準の機械的性能を発揮するため、建築及び建設業界で広く用いられている。さらに、アルミナセメントは、塩基に耐性があり、ポルトランドセメントより速く最大強度に達し、硫酸塩溶液に耐えることができる。そのため、アルミナセメント系の留付け材は、化学的な留付けの分野で好適に用いられる。
【0008】
例えば、特許文献1が記載する既知の無機系留付け材は、すぐに使用が可能な状態にある2成分系留付け材である。特許文献1の留付け材は、ホウ酸とその塩により抑制される水相アルミナセメントをベースとする部分Aと、硬化過程を開始するための部分Bとを含む。部分Bの開始剤は、リチウム塩のみでできており、混合後5分以内にアルミナセメントを硬化させる。さらに、特許文献2は、凝固が阻害(set-inhibited)された水性の高アルミナセメント組成物と、再活性剤組成物とを含む、2成分系留付け材を開示している。凝固阻害剤(set inhibitor)はホウ酸であり、再活性剤組成物はリチウム塩を含む。
【0009】
しかし、ホウ酸又はその塩に抑制(retard)されたこれらのアルミナセメント水性懸濁液は、使用前に保管するための安定度を十分な時間保てないことが多い。さらに、ホウ酸は極めて毒性が強く、生態毒性でもある。特許文献3には、リンを含む化合物によって阻害(inhibit)され、十分な時間高温で保管が可能な、アルミナセメント及び/又はスルホアルミン酸カルシウムセメントを含む安定化された水性懸濁液が記載されている。
【0010】
しかし、鉱物質の面におけるアンカー段の化学的留付けには、5分未満の硬化といった迅速な硬化が必ずしも必要とされるわけではない。さらに、ほとんどの既知の留付け材において、生成される組成物の実用的な用途の大半で流動性が欠如している。このような先行技術の組成物はしばしば、比較的短時間で亀裂が発生する傾向がある。
【0011】
さらに、ねじ付きアンカーロッド等の従来のアンカーロッドを用いた留付けは、上述の通り、未清掃及び亀裂の入った掘削孔及び縁に近い留付けにおいては、高い定格荷重(load rating)及び低い膨張圧が実現されないことが知られている。
【0012】
そのため、アルミナセメント及び環境、健康、安全性、取扱い、保存時間、及びモルタルの凝固と硬化の良好なバランスにおいて先行技術のシステムよりも優れたアンカー手段をベースとする留め付けシステムであって、未清掃及び亀裂の入った掘削孔及び縁に近い部分の留付けであっても高い定格荷重及び低い膨張圧を実現するものが必要とされている。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明では、以下の用語と定義が用いられる。
【0022】
本発明において、単数形である「a」及び「an」という用語は、内容から明確ではない限り、それぞれ複数の状況も網羅している。従って、「a」又は「an」という用語は、明確な記載がない限り、「1つ以上」又は「少なくとも1つ」を意味する用語である。
【0023】
本発明における「アルミナセメント」という用語は、主に水硬性カルシウムアルミネートから成るカルシウムアルミネートセメントを指す。代替の用語としては、「高アルミナセメント」又はフランス語の「Ciment fondu」がある。カルシウムアルミネートセメントの主な有効成分は、モノカルシウムアルミネート(セメント化学者が用いる記号では、CaAl
2O
4、CaO・Al
2O
3、又はCA)である。
【0024】
本発明における「保存可能期間(shelf life)」という用語は、成分が多少なりとも個体物の流体水性懸濁液の形態にあり、凝固や反応性の低下を引き起こさずに機械的手段によって水性懸濁液の状態に戻る時間を指す。
【0025】
本発明における「開始剤」という用語は、特定の化学反応を開始させる化学環境を変化させる化合物又は組成物を指す。本発明において、開始剤はモルタル懸濁液のpH値を変化させ、よって最終混合物における水硬性結合材が遮断されない(de-blocking)。
【0026】
本発明における「抑制剤(retarder)」という用語は、特定の化学反応を遅延させるために化学環境を変化させる化合物又は組成物を指す。本発明において、抑制剤はモルタル懸濁液のカルシウムアルミネートセメントの水分保持性能を変化させ、よって最終混合物における水硬性結合作用を遅延させる。
【0027】
本発明において、「初期凝固時間」という用語は、成分Aと成分Bの混合物が混合後に凝固を開始する時間を指す。混合後のある期間、混合物は多少なりとも個体物のペースト又は流体水性懸濁液としての形態を保つ。
【0028】
本発明は、アルミナセメントがベースの、すぐに使用が可能な状態にある2成分モルタル系留付け材である
接着系アンカーと、取付領域と、掘削孔へ挿入可能且つ円錐形で軸方向に並んで配置された複数の拡張部を備えた形状の固着領域とを備えたアンカーロッドと、を備えたアンカー手段の化学的留付けのための留付けシステムに関する。
【0029】
特に、本発明の留付けシステムのアルミナセメントをベースとした、すぐに使用が可能な状態の2成分モルタル系留付け材は、硬化性水相アルミナセメント成分Aと、硬化過程を開始するための水相状態にある開始剤成分Bとを含み、さらに成分Aは、リン酸、メタリン酸、亜リン酸、ホスホン酸から成る群から選択される少なくとも1つの遮断剤、少なくとも1つの可塑剤及び水を含み、成分Bは開始剤と、少なくとも1つの抑制剤(retarder)と、少なくとも1つの鉱物充填剤と、水とを含む。開始剤は、アルカリ及び/又はアルカリ土類金属塩の混合物を含み、該少なくとも1つの抑制剤はクエン酸、酒石酸、乳酸、サリチル酸、グルコン酸、及びこれらの混合物から成る群から選択され、鉱物充填剤は石灰充填剤、砂、鋼玉石、ドロマイト、耐アルカリグラス、砕石、砂利、小石、及びこれらの混合物から成る群から選択される。
【0030】
本発明の留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Aは、水相アルミナセメント(CA)又は水相スルホアルミン酸カルシウムセメント(CAS)をベースとする。本発明で用いることができるカルシウムアルミネートセメントは、迅速な凝固及び硬化、硫酸カルシウムと混合した際の迅速な乾燥及び収縮補償、並びに優れた耐腐食及び耐収縮性を特徴とする。本発明において使用に適したこのようなカルシウムアルミネートセメントとしては、例えばターナルホワイト(登録商標)(ケルネオス社、フランス)がある。
【0031】
成分Aがアルミナセメント(CAC)と硫酸カルシウム(CaSO
4)の混合物を含む場合、水分保持中にエトリンジャイト(ettringite)の生成が迅速になされる。コンクリート化学では、(CaO)
6(Al
2O
3)(SO
3)
3・32H
2O又は(CaO)
3(Al
2O
3)(CaSO
4)
3・32H
2Oの一般式で表されるヘキサカルシウムアルミネートトライサルフェートハイドレートは、カルシウムアルミネートと硫酸カルシウムの反応により生成され、迅速な凝固及び硬化並びに収縮補償を招来することもあれば、又は膨張を招来することさえある。硫酸塩の含有量の漸増により、収縮補償を実現することができる。
【0032】
本発明の留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Aは、成分Aの全重量に対して、少なくとも約40wt.−%、好ましくは少なくとも約50wt.−%、より好ましくは少なくとも約60wt.−%、最も好ましくは少なくとも約70wt.−%、約40wt.−%乃至約95wt.−%、好ましくは約50wt.−%乃至約85wt.−%、より好ましくは約60wt.−%乃至約80wt.−%、最も好ましくは約70wt.−%乃至約75wt.−%.のアルミナセメントを含む。
【0033】
本発明の態様において、留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Aは、成分Aの全重量に対して、少なくとも約20wt.−%、好ましくは少なくとも約30wt.−%、より好ましくは少なくとも約40wt.−%、最も好ましくは少なくとも約50wt.−%、約20wt.−%乃至約80wt.−%、好ましくは約30wt.−%乃至約70wt.−%、より好ましくは約35wt.−%乃至約60wt.−%、最も好ましくは約40wt.−%乃至約55wt.−%のアルミナセメントを含み、また成分Aの全重量に対して、少なくとも約5wt.−%、好ましくは少なくとも約10wt.−%、より好ましくは少なくとも約15wt.−%、最も好ましくは少なくとも約20wt.−%、約1wt.−%乃至約50wt.−%、好ましくは約5wt.−%乃至約40wt.−%、より好ましくは約10wt.−%乃至約30wt.−%、最も好ましくは約15wt.−%乃至約25wt.−%の硫酸カルシウム、好ましくは硫酸カルシウム半水化物を含む。本発明の留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の態様において、成分AのCaSO
4/CAC比は35:65以下とすべきである。
【0034】
本発明の留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Aに含まれる遮断剤は、リン酸、メタリン酸、亜リン酸、ホスホン酸から成る群から選択され、好ましくはリン酸又はメタリン酸、最も好ましくはリン酸、特にリン酸の85%水溶液である。成分Aは、成分Aの全重量に対して、少なくとも約0.1wt.−%、好ましくは少なくとも約0.3wt.−%、より好ましくは少なくとも約0.4wt.−%、最も好ましくは少なくとも約0.5wt.−%、約0.1wt.−%乃至約20wt.−%、好ましくは約0.1wt.−%乃至約15wt.−%、より好ましくは約0.1wt.−%乃至約10wt.−%、最も好ましくは約0.3wt.−%乃至約10wt.−%の該遮断剤を含む。態様において、留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Aは、成分Aの全重量に対して、約0.3wt.−%乃至約10wt.−%のリン酸の85%水溶液を含む。好ましくは、アルミナセメント及び/又はスルホアルミン酸カルシウムセメントの水硬性結合材の総重量に対する含有量が50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%以上又は100%である。
【0035】
本発明の留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Aに含まれる可塑剤は、低分子(LMW)ポリアクリル酸系ポリマー、ポリホスホネートポリオックス及びポリカーボネートポリオックス群からの流動化剤、ポリカルボキシレートエーテル群からのエタクリル流動化剤、及びこれらの混合物から成る群から選択され、例えば、エタクリル(登録商標)G(コーテックス社、アルケマグループ、フランス)、アキューマ(登録商標)1051(ローム・アンド・ハース社、イギリス)、又はシーカ(登録商標)、ビスコクリート(登録商標)−20HE(シーカ社、ドイツ)といった可塑剤である。適した可塑剤は市販されている。留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Aは、成分Aの全重量に対して、少なくとも約0.2wt.−%、好ましくは少なくとも約0.3wt.−%、より好ましくは少なくとも約0.4wt.−%、最も好ましくは少なくとも約0.5wt.−%、約0.2wt.−%乃至約20wt.−%、好ましくは約0.3wt.−%乃至約15wt.−%、より好ましくは約0.4wt.−%乃至約10wt.−%、最も好ましくは約0.5wt.−%乃至約5wt.−%.の該可塑剤を含む。
【0036】
本発明の態様において、留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Aは以下の特性の何れか1つ又は組み合わせをさらに含む。
【0037】
成分Aは、増粘剤をさらに含んでよい。本発明で使用が可能な増粘剤は、キサンタンガム、ウェランガム、又はDIUTAN(登録商標)ガム(シーピー・ケルコ社、アメリカ)等の有機物、澱粉由来エーテル、グアー由来エーテル、ポリアクリルアミド、カラギーナン、寒天、粘土等の鉱物、及びこれらの混合物から成る群から選択してよい。適した増粘剤は市販されている。成分Aは、成分Aの全重量に対して、少なくとも約0.01wt.−%、好ましくは少なくとも約0.1wt.−%、より好ましくは少なくとも約0.2wt.−%、最も好ましくは少なくとも約0.3wt.−%、約0.01wt.−%乃至約10wt.−%、好ましくは約0.1wt.−%乃至約5wt.−%、より好ましくは約0.2wt.−%乃至約1wt.−%、最も好ましくは約0.3wt.−%乃至約0.7wt.−%の該増粘剤を含む。
【0038】
成分Aは、抗菌剤又は殺菌剤をさらに含んでよい。本発明に用いることができる抗菌剤又は殺菌剤は、メチルイソチアゾリノン(MIT)、オクチルイソチアゾリノン(OIT)、ベンゾイソチアゾリノン(BIT)、及びこれらの混合物等のイソチアゾリノン群の化合物から成る群から選択してよい。適した抗菌剤又は殺菌剤は市販されている。特筆すべきは、エコサイドK35R(プロギブン社、フランス)及びニュオセプトOB03(アッシュランド社、オランダ)である。成分Aは、成分Aの全重量に対して、少なくとも約0.001wt.−%、好ましくは少なくとも約0.005wt.−%、より好ましくは少なくとも約0.01wt.−%、最も好ましくは少なくとも約0.015wt.−%、約0.001wt.−%乃至約1.5wt.−%、好ましくは約0.005wt.−%乃至約0.1wt.−%、より好ましくは約0.01wt.−%乃至約0.075wt.−%、最も好ましくは約0.015wt.−%乃至約0.03wt.−%の抗菌剤又は殺菌剤を含む。本発明の態様において、留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Aは、成分Aの全重量に対して、約0.015wt.−%乃至約0.03wt.−%のニュオセプトOB03を含む。
【0039】
本発明の別の態様において、留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Aは少なくとも1つの充填剤、特に有機充填剤又は鉱物充填剤を含む。本発明に用いることができる充填剤は、石英粉末、好ましくは平均粒子サイズ(d50%)が約16μmの石英粉末、石英砂、粘土、飛灰、フュームシリカ、カーボネート化合物、顔料、酸化チタン、光充填剤、及びこれらの混合物から成る群から選択してよい。適した鉱物充填剤は、は、市販の製品である。特筆すべきは、石英粉末ミリシルW12又はW6(クオーツヴェルケ社、ドイツ)である。留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Aは、成分Aの全重量に対して、少なくとも約1wt.−%、好ましくは少なくとも約2wt.−%、より好ましくは少なくとも約5wt.−%、最も好ましくは少なくとも約8wt.−%、約1wt.−%乃至約50wt.−%、好ましくは約2wt.−%乃至約40wt.−%、より好ましくは約5wt.−%乃至約30wt.−%、最も好ましくは約8wt.−%乃至約20wt.−%の該少なくとも1つの充填剤を含む。
【0040】
留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Aに含まれる水分は、成分Aの全重量に対して、少なくとも約1wt.−%、好ましくは少なくとも約5wt.−%、より好ましくは少なくとも約10wt.−%、最も好ましくは少なくとも約20wt.−%、約1wt.−%乃至約50wt.−%、好ましくは約5wt.−%乃至約40wt.−%、より好ましくは約10wt.−%乃至約30wt.−%、最も好ましくは約15wt.−%乃至約25wt.−%.である。
【0041】
可塑剤、増粘剤、及び抗菌剤又は殺菌剤が含まれていても、留付けシステムの2成分モルタル系留付け材のセメント成分Aの全体的な無機的性質は変わらない。
【0042】
アルミナセメント又はスルホアルミン酸カルシウムセメントを含む留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Aは水相の状態で、スラリー又はペーストの形態であると好ましい。
【0043】
本発明の留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Bは、開始剤と、少なくとも1つの抑制剤と、少なくとも1つの鉱物充填剤と、水とを含む。初期の凝固時間を少なくとも5分とするための十分な処理時間を確保するため、モルタル組成物の早期の硬化を防ぐ少なくとも1つの抑制剤は、開始剤成分とともに、特定の濃度で用いられる。
【0044】
留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Bに含まれる開始剤は、アルカリ及び/又はアルカリ土類金属塩の混合物を含む活性剤成分と促進剤成分を含む。
【0045】
特に、活性剤成分は、水酸化物、塩化物、硫酸塩、リン酸塩、一水素リン酸塩、二水素リン酸塩、硝酸塩、炭酸塩、及びこれらの混合物から成る群から選択される少なくとも1つのアルカリ及び/又はアルカリ土類金属塩を含む。活性剤成分は、好ましくはアルカリ又はアルカリ土類金属塩、より好ましくは水酸化カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、若しくはリン酸カルシウム等のカルシウム金属塩、水酸化ナトリウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム若しくはリン酸ナトリウム等のナトリウム金属塩、又は水酸化リチウム、硫酸リチウム、炭酸リチウム、若しくはリン酸リチウム等のリチウム金属塩であって、最も好ましくは水酸化リチウムである。本発明の1つの好ましい態様において、留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Bで用いられる水酸化リチウムは、水酸化リチウムの10%水溶液である。
【0046】
留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Bは、成分Bの全重量に対して、少なくとも約0.01wt.−%、好ましくは少なくとも約0.02wt.−%、より好ましくは少なくとも約0.05wt.−%、最も好ましくは少なくとも約1wt.−%、約0.01wt.−%乃至約40wt.−%、好ましくは約0.02wt.−%乃至約35wt.−%、より好ましくは約0.05wt.−%乃至約30wt.−%、最も好ましくは約1wt.−%乃至約25wt.−%の該活性剤を含む。特定の好ましい態様において、活性剤は水と、水酸化リチウムとを含む。留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Bの水含有量は、成分Bの全重量に対して、少なくとも約1wt.−%、好ましくは少なくとも約5wt.−%、より好ましくは少なくとも約10wt.−%、最も好ましくは少なくとも約20wt.−%、約1wt.−%乃至約60wt.−%、好ましくは約5wt.−%乃至約50wt.−%、より好ましくは約10wt.−%乃至約40wt−%、最も好ましくは約15wt.−%乃至約30wt.−%である。留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Bの水酸化リチウム含有量は、成分Bの全重量に対して、少なくとも約0.1wt.−%、好ましくは少なくとも約0.5wt.−%、より好ましくは少なくとも約1.0wt.−%、最も好ましくは少なくとも約1.5wt.−%、約0.1wt.−%乃至約5wt.−%、好ましくは約0.5wt.−%乃至約4wt.−%、より好ましくは約1.0wt.−%乃至約3wt.−%、最も好ましくは約1.5wt.−%乃至約2.5wt.−%である。態様最も好ましい態様において、留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Bは、成分Bの全重量に対して、約2.0wt.−%乃至約20wt.−%の水酸化リチウムの10%水溶液を含む。
【0047】
促進剤成分は、水酸化物、塩化物、硫酸塩、リン酸塩、一水素リン酸塩、二水素リン酸塩、硝酸塩、炭酸塩、及びこれらの混合物から成る群から選択される少なくとも1つのアルカリ及び/又はアルカリ土類金属塩を含む。促進剤成分は、好ましくはアルカリ又はアルカリ土類金属塩、さらに好ましくは水溶性のアルカリ又はアルカリ土類金属塩、より好ましくは水酸化カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、ギ酸カルシウム、若しくはリン酸カルシウム等のカルシウム金属塩、水酸化ナトリウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、塩化ナトリウム、ギ酸ナトリウム、若しくはリン酸ナトリウム等のナトリウム金属塩、又は水酸化リチウム、硫酸リチウム、硫酸リチウム一水和物、炭酸リチウム、塩化リチウム、ギ酸リチウム、若しくはリン酸リチウム等のリチウム金属塩であって、最も好ましくは硫酸リチウム又は硫酸リチウム一水和物である。留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Bは、成分Bの全重量に対して、少なくとも約0.01wt.−%、好ましくは少なくとも約0.05wt.−%、より好ましくは少なくとも約0.1wt.−%、最も好ましくは少なくとも約1.0wt.−%、約0.01wt.−%乃至約25wt.−%、好ましくは約0.05wt.−%乃至約20wt.−%、より好ましくは約0.1wt.−%乃至約15wt.−%、最も好ましくは約1.0wt−%乃至約10wt.−%の該促進剤を含む。
【0048】
本発明の留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Bの特定の好ましい態様において、水酸化リチウムの10%水溶液/硫酸リチウム又は硫酸リチウム一水和物の比は7/1又は6/1である。
【0049】
本発明の留付けシステムの2成分モルタル系の成分Bに含まれる該少なくとも1つの抑制剤は、クエン酸、酒石酸、乳酸、サリチル酸、グルコン酸、及びこれらの混合物から成る群から選択されるが、クエン酸と酒石酸の混合物が好ましい。留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Bは、成分Bの全重量に対して、少なくとも約0.1wt.−%、好ましくは少なくとも約0.2wt.−%、より好ましくは少なくとも約0.5wt.−%、最も好ましくは少なくとも約1.0wt.−%、約0.1wt.−%乃至約25wt.−%、好ましくは約0.2wt.−%乃至約15wt.−%、より好ましくは約0.5wt.−%乃至約15wt.−%、最も好ましくは約1.0wt.−%乃至約10wt.−%の該抑制剤を含む。
【0050】
本発明の留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Bの特定の好ましい態様において、クエン酸/酒石酸の比は1.6/1である。
【0051】
本発明の留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Bに含まれる該少なくとも1つの鉱物充填剤は、石灰充填剤、砂、砕石、砂利、小石、及びこれらの混合物から成る群から選択されるが、様々な炭酸カルシウム等の石灰充填剤が好ましい。該少なくとも1つの鉱物充填剤は、石灰充填剤又は石英粉末ミリシルW12又はW6(クオーツヴェルケ社、ドイツ)、石英砂等の石英充填剤から成る群から選択することが好ましい。留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Bの該少なくとも1つの鉱物充填剤は、炭酸カルシウム又は炭酸カルシウムの混合物が最も好ましい。留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Bは、成分Bの全重量に対して、少なくとも約30wt.−%、好ましくは少なくとも約40wt.−%、より好ましくは少なくとも約50wt.−%、さらにより好ましくは少なくとも約60wt.−%、最も好ましくは少なくとも約70wt.−%、約30wt.−%乃至約95wt.−%、好ましくは約35wt.−%乃至約90wt.−%、より好ましくは約40wt.−%乃至約85wt.−%、さらにより好ましくは約45wt.−%乃至約80wt.−%、最も好ましくは約50wt.−%乃至約75wt.−%の少なくとも1つの鉱物充填剤を含む。該少なくとも1つの鉱物充填剤は、アルミナセメントの粒子サイズを補完する粒子サイズを持つように選択される。
【0052】
該少なくとも1つの鉱物充填剤の平均粒子サイズは最大500μmであることが好ましく、より好ましくは最大400μm、最も好ましくは最大350μmである。
【0053】
本発明の特定の好ましい態様において、成分Bに含まれる該少なくとも1つの鉱物充填剤は、3つの異なる炭酸カルシウム、具体的には複数種のオミアカルブ(登録商標)(オムヤインターナショナル社、ドイツ)等の炭酸カルシウム細骨材の混合物である。第1の炭酸カルシウムは約3.2μmの平均粒子サイズ(d50%)を有し、45μm篩上で残分0.05%(ISO787/7に基づいて決定)を有することが最も好ましい。第2の炭酸カルシウムは約7.3μmの平均粒子サイズ(d50%)を有し、140μm篩上で残分0.5%(ISO787/7に基づいて決定)を有する。第3の炭酸カルシウムは約83μmの平均粒子サイズ(d50%)を有し、315μm篩上で残分1.0%(ISO787/7に基づいて決定)を有する。本発明の成分Bの態様において、第1の炭酸カルシウム/第2の炭酸カルシウム/第3の炭酸カルシウムの比は、1/1.5/2、1/1.5/2、又は1/1.4/2.2である。
【0054】
本発明の特定の好ましい別の態様において、成分Bに含まれる該少なくとも1つの鉱物充填剤は3つの異なる石英充填剤の混合物である。第1の石英充填剤は、約240μmの平均粒子サイズ(d50%)を有する石英砂であることが最も好ましい。第2の石英充填剤は、約40μmの平均粒子サイズ(d50%)を有する石英粉末である。第3の石英充填剤は、約15μmの平均粒子サイズ(d50%)を有する石英粉末である。本発明の成分Bの特定の好ましい態様において、第1の石英充填剤/第2の石英充填剤/第3の石英充填剤の比は、3/2/1である。
【0055】
本発明の態様において、留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Bは以下の特性の何れか1つ又は組み合わせをさらに含むと都合がよい。
【0056】
成分Bは、増粘剤をさらに含んでよい。本発明に用いられる増粘剤は、ベントナイト、二酸化ケイ素、石英、アルカリ可溶性又は膨潤性の乳化剤等のアクリレートをベースとする増粘剤、フュームシリカ、粘土、及びチタンキレート剤から成る群から選択してよい。特筆すべきは、ポリビニルアルコール(PVA)、疎水性変性アルカリ可溶性エマルジョン(HASE)、HEURとして知られる先行技術である疎水性変性エチレンオキサイドウレタンポリマー、ヒドロキシメチルセルロース(HMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、疎水性変性ヒドロキシエチルセルロース(HMHEC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(SCMC)、カルボキシメチル2−ヒドロキシエチルセルロースナトリウム、2−ヒドロキシプロピルメチルセルロース、2−ヒドロキシエチルメチルセルロース、2−ヒドロキシブチルメチルセルロース、2−ヒドロキシエチルエチルセルロース、2−ヒドロキシプロピルセルロース、アタパルジャイトクレー、及びこれらの混合物等のセルロース系増粘剤である。適した増粘剤は、オプティゲルWX(BYKケミー社、ドイツ)、レオレート1(エレメンティス社、ドイツ)、アクリゾールASE−60(ダウ・ケミカル社)等の市販の製品である。成分Bは、成分Bの全重量に対して、少なくとも約0.01wt.−%、好ましくは少なくとも約0.05wt.−%、より好ましくは少なくとも約0.1wt.−%、最も好ましくは少なくとも約0.3wt.−%、約0.01wt.−%乃至約15wt.−%、好ましくは約0.05wt.−%乃至約10wt.−%、より好ましくは約0.1wt.−%乃至約5wt.−%、最も好ましくは約0.3wt.−%乃至約1wt.−%の該増粘剤を含む。
【0057】
抑制剤及び増粘剤が含まれていても、留付けシステムの2成分モルタル系留付け材のセメント成分Bの全体的な無機的性質は変わらない。
【0058】
開始剤と抑制剤とを含む留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Bは水相の状態で、スラリー又はペーストの形態であると好ましい。
【0059】
留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分BのpH値は10以上であることが好ましく、より好ましくは11以上、最も好ましくは12以上、特にpH値の範囲は10乃至14、好ましくは11乃至13である。
【0060】
留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の2つの成分に対する水の割合、具体的には成分Aと成分Bに対する水の割合は、成分Aと成分Bの混合により得られた物質において、水とアルミナセメントの比(W/CAC)又は水とスルホアルミン酸カルシウムセメントの比(W/CAS)が1.5未満、好ましくは0.3乃至1.2、最も好ましくは0.4乃至1.0になるように選択されることが特に好ましい。
【0061】
さらに、留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Bに対するリチウムの割合は、成分Aと成分Bの混合により得られた物質において、リチウムとアルミナセメントとの比(Li/CAC)及びリチウムとスルホアルミン酸カルシウムセメント(Li/CAS)の比が0.05未満、好ましくは0.001乃至0.05、最も好ましくは0.005乃至0.01になるように選択されることが特に好ましい。
【0062】
さらに、留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Bにおける抑制剤の割合は、成分Aと成分Bの混合により得られた物質において、クエン酸/酒石酸とアルミナセメントの比及びクエン酸/酒石酸とスルホアルミン酸カルシウムセメントが0.5未満、好ましくは0.01乃至0.4、最も好ましくは0.1乃至0.2になるように選択されることが特に好ましい。
【0063】
最も好ましい態様において、留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Aは以下の成分を含むか、以下の成分から成る。
70乃至80wt.−%のアルミナセメント、又は40乃至60wt.−%のアルミナセメントと15乃至25wt.−%の硫酸カルシウム、
0.5乃至1.5wt.−%のリン酸、
0.5乃至1.5wt.−%の可塑剤、
0.001乃至0.05wt.−%の抗菌剤又は殺菌剤、
任意に5乃至20wt.−%の鉱物充填剤、
15乃至25wt.−%の水。
【0064】
好ましい態様において、成分Bは以下の成分を含むか、以下の成分から成る。
0.1wt.−%乃至4wt.−%の水酸化リチウム、
0.1wt.−%乃至5wt.−%の硫酸リチウム又は硫酸リチウム一水和物、
0.05wt.−%乃至5wt.−%のクエン酸、
0.05wt.−%乃至4wt.−%の酒石酸、
35wt.−%乃至45wt.−%の第1の鉱物充填剤、
15wt.−%乃至25wt.−%の第2の鉱物充填剤、
10wt.−%乃至20wt.−%の第3の鉱物充填剤、
0.01wt.−%乃至0.5wt.−%の増粘剤、
15wt.−%乃至25wt.−%の水。
【0065】
最も好ましい態様において、留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Bは以下の成分を含むか、以下の成分から成る。
1.5wt.−%乃至2.5wt.−%の水酸化リチウム、
1wt.−%乃至4wt.−%の硫酸リチウム又は硫酸リチウム一水和物、
1wt.−%乃至3wt.−%のクエン酸、
0.5wt.−%乃至2wt.−%の酒石酸、
35wt.−%乃至45wt.−%の第1の鉱物充填剤、
15wt.−%乃至25wt.−%の第2の鉱物充填剤、
10wt.−%乃至20wt.−%の第3の鉱物充填剤、
0.01wt.−%乃至0.5wt.−%の増粘剤、
15wt.−%乃至25wt.−%の水。
【0066】
最も好ましい別の態様において、留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Bは以下の成分を含むか、以下の成分から成る。
3wt.−%乃至4wt.−%の水酸化リチウム、
1wt.−%乃至10wt.−%の硫酸リチウム又は硫酸リチウム一水和物、
1wt.−%乃至5wt.−%のクエン酸、
1wt.−%乃至3wt.−%の酒石酸、
25wt.−%乃至35wt.−%の第1の鉱物充填剤、
15wt.−%乃至25wt.−%の第2の鉱物充填剤、
10wt.−%乃至20wt.−%の第3の鉱物充填剤、
0.01wt.−%乃至0.5wt.−%の増粘剤、
30wt.−%乃至40wt.−%の水。
【0067】
別の最も好ましい態様において、成分Bは以下の成分を含むか、以下の成分から成る。
0.2wt.−%乃至1.5wt.−%の水酸化リチウム、
0.1wt.−%乃至1.0wt.−%の硫酸リチウム又は硫酸リチウム一水和物、
0.1wt.−%乃至1.0wt.−%のクエン酸、
0.1wt.−%乃至0.5wt.−%の酒石酸、
35wt.−%乃至45wt.−%の第1の鉱物充填剤、
15wt.−%乃至25wt.−%の第2の鉱物充填剤、
10wt.−%乃至20wt.−%の第3の鉱物充填剤、
0.01wt.−%乃至0.5wt.−%の増粘剤、
15wt.−%乃至25wt.−%の水。
【0068】
本発明の留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Aは、以下の通り生成することができる。リン光体(phospher)を含む遮断剤に水を混ぜ、混合物のpH値を約2にする。可塑剤を加えて、混合物を均質にする。撹拌速度を増加させると同時にアルミナセメント予備混合するとともに、硫酸カルシウムと鉱物充填剤を任意に予備混合し、段階的に混合物に加えると、結果的に生成される混合物のpH値は約4となる。最後に、増粘剤及び抗菌/殺菌剤を加え、混合物が完全に均質化するまで混ぜる。
【0069】
本発明の留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Bは、以下の通り生成することができる。促進剤を活性剤の水溶液で溶解し、続いて抑制剤を加えて混合物を均質化する。撹拌速度を増加させると同時に、混合物が均質化するまで充填剤を段階的に加える。最後に、混合物が完全に均質化するまで増粘剤を加える。
【0070】
留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分A及び成分Bは水相の状態で、スラリー又はペーストの形態であると好ましい。特に、留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分A及び成分Bは、それぞれの組成においてペースト状から流体状である。1つの好ましい態様において、留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分A及び成分Bはペースト状であり、よって2つの成分が混合される際の垂れを防ぐ。
【0071】
留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Aと成分Bの重量比(A/B)は7/1乃至1/3が好適であるが、3/1が好ましい。混合物は、75wt.−%の成分Aと25wt.−%の組成であることが好ましい。代替の態様においては、混合物は25wt.−%の成分Aと75wt.−%の成分Bの組成である。
【0072】
留付けシステムの2成分モルタル系留付け材は鉱物の性質を有し、他の作用剤の追加の増粘剤の影響を受けない。
【0073】
2成分モルタル系留付け材の保存可能期間は各成分の個別の保存可能期間によって決まり、特に留付け材を保管と供給の遅れから保護するために成分A及び成分Bの保存可能期間は常温で少なくとも6カ月である。成分A及び成分Bが個別に少なくとも6カ月安定していることが最も好ましい。成分A及び成分Bは、40℃で水分が蒸発しないように密閉された容器に保管され、一定期間経過後には、流動性、均質性、沈降の有無、及びpH値の変化を確認する。全ての成分の特性に6か月間変化がなければ、保存可能期間は40℃で少なくとも6か月である。
【0074】
本発明の留付けシステムの2成分モルタル系留付け材は、2つの成分である成分Aと成分Bの混合後、初期凝固時間が少なくとも5分、好ましくは少なくとも10分、より好ましくは少なくとも15分、最も好ましくは少なくとも20分で、特に5分乃至25分の範囲内、好ましくは10分乃至20分の範囲内であることが好ましい。
【0075】
留付けシステムの多成分モルタル系留付け材、特に2成分モルタル系留付け材では、セメント成分Aと開始剤成分Bの体積比が1:1乃至7:1であり、3:1であると好ましい。別の態様において、セメント成分Aと開始剤成分Bの体積比は1:3乃至1:2である。
【0076】
分けて製造された後、留付けシステムのモルタル系留付け材の成分A及び成分Bは別々の容器にいれられる。その後機械装置によって容器から押し出され、混合器を介して案内される。本発明の留付けシステムの2成分モルタル系留付け材は、好ましくはすぐに使用が可能な状態にある留め付け材であって、成分A及び成分Bがお互いに分離された状態で多室(multi-chamber)カートリッジ及び/又は多室シリンダ等の多室機器又は2成分カプセル、好ましくは2室カートリッジ又は2成分カプセルに収容される。多室系の留め付け材は、硬化性成分Aと開始剤成分Bを分離する2つ以上の箔袋を備えることが好ましい。混合機、好ましくは静的混合器(static mixer)により混合される室又は袋の内容物は、掘削孔に注入することができる。多室カートリッジ、ペール若しくは複数組のバケツを組み合わせてもよい。
【0077】
理論にとらわれることなく、留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Aに含まれる遮断剤は、水中でのカルシウムアルミネートの可溶を阻害し、よって混合物を硬化させることとなるセメントの水和を防ぐ。開始剤成分Bを追加すると、pH値が変化し、コンクリート成分Aがなくなり、カルシウムアルミネートの水和反応が発生する。この水和反応がアルカリ金属塩、特にリチウム塩により触媒、加速されるため、初期凝固時間は5分未満である。急速な硬化時間(初期凝固時間)を抑制するため、本発明の留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Bに含まれる少なくとも1つの抑制剤は、成分Aと成分Bの混合後、初期凝固時間が少なくとも5分、好ましくは少なくとも10分、より好ましくは少なくとも15分、最も好ましくは少なくとも20分で、特に5分乃至25分の範囲内、好ましくは10分乃至20分の範囲内になるように選択されることが好ましい。
【0078】
特に留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分Bにおける鉱物充填剤の役割は、機械的強度に係る最終的な性能及び長期的耐久性を調節することである。充填剤を最適化することによって、アルミナセメントの水和を効率的かつ迅速にできるように、水/アルミナセメント比を最適化することができる。
【0079】
本発明のアンカー手段の化学的留付けのための留付けシステムは
接着系アンカーを備え、さらにアンカーロッドを備える。このアンカーロッドは、取付(attachment)領域と、掘削孔へ挿入可能且つ円錐形で軸方向に並んで配置された複数の拡張部を備えた形状の固着(anchoring)領域とを備える。拡張部の直径は、アンカーロッドの前方自由端の方向に増加することが好ましい。さらに、複数の拡張部のそれぞれの間の距離は、留付け領域の長手方向に亘り該一定であることが好ましい。
【0080】
未清掃及び/又は亀裂の入った掘削孔に用いられる際に必要となるのは、複合拡張アンカーとモルタル化合物の形状同士の噛合による接続であって、接着による接続ではない。複合拡張アンカーが動定格荷重を達成し、未清掃及び/又は亀裂の入った掘削孔で引き続き拡張するためには、拡張区分を囲うモルタルシェルをこじ開けることが必要である。これは、モルタルシェルが接着又は摩擦による接続によりアンカーロッドの拡張区分に付着しない場合のみに可能となる。
【0081】
そのため、固着領域が硬化性モルタル化合物に対して非粘着面を持てば都合がよい。この目的のため、本発明の留付けシステムのアンカーロッドの固着領域は、モルタル化合物に対して非粘着のケース又は被覆が設けられていることが好ましい。結果的に、開口亀裂において、アンカーロッドを引張荷重でモルタルシェルから切り離し、軸方向に動かすことができる。変位中に、引張力の方向の亀裂から拡張するモルタルシェルと固着領域との間の領域に円錐形の拡張部が滑動し、形状同士の噛合による伸張がアンカーロッドとモルタルシェルの間で再び生じる。さらに引張荷重を増加させることにより、円錐形の拡張部の表面により径方向力が発生し、硬化モルタルシェルが破壊される。これによって、アンカーロッドを掘削孔の壁に対して拡張させることができ、掘削孔の壁とモルタルシェルとの間で形状同士の噛合が再発生する。従って、掘削孔の壁とモルタルシェルの間のごみの層にもかかわらず、アンカーロッドは部材中で力を生じさせることができる。この継続的に拡張する機能により、アンカーロッドはコンクリートの引張領域及び亀裂での使用に適している。継続的な拡張により、本発明の留付けシステムのアンカーロッドは、未清掃又は清掃が不十分な掘削孔でも使用が可能である。
【0082】
そのため、本発明の留付けシステムのアンカーロッドの好ましい態様において、複数の拡張部のそれぞれの表面は被覆を備えている。
【0083】
粗いねじの表面は、光沢ニッケルめっき及び/又はクロムめっきを施すこともできれば、又は、例えば、ワックスのような合成ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン、シリコーンポリマー等のその他の離型剤及び/又は潤滑油で被覆することもできる。又は、例えば電解研摩により、表面に電気化学めっきを施すこともできる。
【0084】
本発明の留付けシステムのアンカーロッドの特定の好ましい態様においては、複数の拡張部のそれぞれの表面は、光沢ニッケルめっき及び/又はクロムめっきが施されている。本発明の留付けシステムのアンカーロッドの態様において、複数の拡張部のそれぞれの表面は、電気化学めっき又は電解研摩が施されている。
【0085】
掘削孔の底部から開口部へのモルタルの流動を確保するとともに、アンカーロッド設置の際の空気の混入を避けるため、円錐形の拡張部が設けられるべきであるが、これは特に例えば流路等、小さな環状の隙間があり、
接着系アンカー等無機モルタル化合物を通過させる手段が備えられている場合である。円錐形の拡張部の流路はお互いにずれるように配置されることが好ましく、アンカーロッドの固着領域の周りを螺旋状に配置されることが特に好ましい。これにより、円錐形の拡張部の表面が最も一様且つ完全に湿潤化されることが確実となる。アンカーロッドが配置された際に円錐形の拡張部の間に閉じ込められ得る如何なる空気も流路を介して掘削孔の開口部まで上向きに押上げられる。流路の寸法は、大きな抵抗に遭うことなく無機モルタル化合物が通り流れることができるように設定しなければならない。これにより、アンカーロッドの挿入に伴う抵抗も低下する。結果として、硬化性モルタル化合物により固着領域が最も完全な湿潤状態となる。
【0086】
従って、本発明の留付けシステムのアンカーロッドの複数の拡張部のそれぞれは、
接着系アンカーといったモルタル化合物の通路を備えている。該通路は、流路であることが特に好ましい。
【0087】
さらに、本発明の留付けシステムのアンカーロッドの複数の拡張部のそれぞれは、固着領域沿いを螺旋状又は垂直に通ることが好ましい。本発明の留付けシステムのアンカーロッドの特定の好ましい態様において、円錐形の拡張部がお互いに接続され、固着領域沿いを螺旋状に通り、粗いねじに相当するねじ状の形状が得られる。このため、形状として、無機モルタル化合物を通過させる手段を設ける必要がない。従って、構成部材に荷重を加えるために円錐形の表面が完全に使用可能になり、定格荷重(load rating)が向上する。
【0088】
本発明の留付けシステムのアンカーロッドは、固着領域が最適に設計されており、掘削孔の清掃に時間をかける必要はなく、他の拡張アンカー又は複合拡張アンカーと比べて、定格荷重を犠牲にして留付け部を縁の近くに配置する必要はない。さらにアンカーロッドは、亀裂があるコンクリートと亀裂のないコンクリートの両方で使用が可能で、高い定格荷重を実現する。
【0089】
アルミナセメントがベースで、すぐに使用が可能な状態にある2成分モルタル系留付け材である
接着系アンカーと、取付領域と固着領域とを備えたアンカーロッドとを備えたアンカー手段の化学的留付けのための留付けシステムは、以下の通り適用される。
【0090】
アンカーロッドを挿入する前に掘削孔を2成分モルタル系留付け材で充填することにより、固着領域から硬化性モルタル化合物への形状同士の噛合による接続が形成される。掘削孔の直径は、固着領域の最大直径よりも大きくなるように選択し、その全ての側面が硬化性モルタル化合物に囲まれるようになることが好ましい。円錐形の拡張部の最大外径は、掘削孔の直径より約0.2mm小さくなるように選択されることが好ましい。さらに、円錐形の拡張部の応力を受ける断面は、アンカーロッドの応力を受ける断面にほぼ対応する。
【0091】
本発明の留付けシステムで留付けのための配置を形成するには、所要の深さ及び所要の直径を有する掘削孔を最初に形成する。次に、掘削孔を適量の硬化性の無機モルタル化合物で充填し、固着領域を前向きにしてアンカーロッドを掘削孔に挿入する。特に、円錐形の拡張部が螺旋状のであるため、掘削孔の開口部の方向におけるモルタル化合物の最適な流れが確保される。モルタル化合物が硬化後には、アンカーロッドへの荷重が最大荷重水準へと増加し得る。このように、アンカーロッドの設置工程が既知の方法で実施される。
【0092】
円錐形の拡張部の応力を受ける断面は、取付領域の円筒シャフト又は接続ねじ等、他のアンカー部材の応力を受ける断面に少なくとも対応することが好ましく、それによりアンカーロッドの早期の金属破壊を防ぐことができる。応力下にあるアンカーロッドが継続して拡張できるという優位性により、本発明の留付けシステムのアンカーロッドは部材の引張領域又はひびの入った掘削孔に設置することができる。さらに、アンカーロッド設置前に時間をかけて掘削孔を清掃する必要はない。固着領域の形状、正確には固着領域の断面形状が最適化されているため、部材の縁に近い領域においても一体化したアンカーロッドの定格荷重の増加が達成される。
【0093】
所要の清掃工程(例えば、掘削孔の吹き出し、掻き出し、及び再度の吹き出し)を省くと、塗布に伴う安全性、アンカーロッドの設置が大幅に迅速化される。アンカーロッドの設置に必要な追加の清掃器具はなく、周辺の空気及びユーザーは孔から噴き出すごみ又は掃除の際のごみのさらなる影響を受けない。
【0094】
特に、本発明のアンカー手段の化学的留付けのための留付けシステムは、煉瓦、コンクリート、透水性コンクリート、又は自然石からできた構造物等の鉱物質の面を対象として用いられる。そこでは、留付けシステムの2成分モルタル系留付け材の成分は、例えば、静的混合器の使用、カートリッジ若しくはプラスチックの袋の破壊、又は多室ペール又は複数組のバケツ内の成分の混合によって事前に混合される。
【0095】
この留付けシステムは、室温以上又は約80℃以上の高温での耐加重の増加及び/又は硬化状態での付着応力の増加のための留付けに用いることができる。温度耐性の増加は、強い太陽光線に晒される状況下又は温度が上昇する状況下での正面固定物の掘削孔領域の温度等、高温での留付けのための操作能力の向上につながる。この
接着系アンカーは本質的に鉱物組成物であるため、付けは毒性がはるかに少なく、ほとんど環境汚染を引き起こさないだけでなく、先行技術に基づく既知の留付けシステムよりも費用対効果に優れた生産が可能であり、よって未清掃及び亀裂の入った掘削孔及び縁に近い留付けにおいて高い定格荷重及び低い膨張圧を実現し、先行技術の既知の留付けシステムよりも優れている。
【0096】
以下の実施例では、本発明の範囲を限定することなく本発明を説明する。
【実施例】
【0097】
1.
接着系アンカーの成分A及び成分Bの生成
【0098】
接着系アンカーのセメント成分A及び開始剤成分Bは、最初に表1及び表2にそれぞれ示す構成要素の混合によって生成される。与えられる比率は、wt.−%で表す。
【0099】
成分Aの混合の一般的要領は、以下の通り。必要な水量を重み付けし、ミキシングボールに水を入れる。pH値が約2になるまで撹拌下でリン酸をゆっくりと加え、可塑剤を加えて100rpm乃至200rpmで2分間均質化する。ターナルホワイト(登録商標)と充填剤を大きなバケツで予備混合し、塊化を防ぐために200rpmでゆっくりと撹拌する間にこの混合物を段階的に加え、撹拌速度を4000rpmに増加させる。得られるpH値は約4。増粘剤をゆっくりと加え、最後には抗菌剤又は殺菌剤を加え、5分間5000rpmで均質化を行う。
【0100】
【表1】
【0101】
成分Bの混合の一般的要領は、以下の通り。硫酸リチウムを水酸化リチウムの10%水溶液に溶解し、引き続きカルボン酸をこの混合液で溶解し、少なくとも30分間500rpmで十分に均質化する。5分間で撹拌速度を2000rpmに増加させる間に充填剤又は充填剤混合物を段階的に加え、10分間2000rpmで継続的に均質化する。最後に撹拌中に増粘剤を加え、3分間で撹拌速度を2500rpmに増加させる。最後に、5分間均質化を継続する。
【0102】
【表2】
【0103】
2.締結要素の形状に基づく機械的性能の判定
【0104】
別々に生成された後、セメント成分Aと開始剤成分Bは高速混合器で3:1の体積比で混合され、C20/25コンクリート又はC50/60コンクリートに形成された直径が14mmの掘削孔に注入する。掘削孔は、ハンマードリルにより形成され、さらに空気圧縮による清掃か又は清掃無しで形成された(表3)。
【0105】
【表3】
【0106】
硬化されたモルタル組成物の荷重値は、留付け深72mmの円錐形のアンカーロッド(本発明の実施例2乃至5)及び従来のねじ付きアンカーロッド(比較例)を、それぞれ状態の異なるコンクリートC20/25又はC50/60の清掃済み又は未清掃の直径14mmの掘削孔に挿入して求めた。
【0107】
平均破壊荷重は、高強度の鉄棒に強力に支持されたアンカーロッドを水圧工具で中心から引き抜くことにより判定される。それぞれの状況で、3つのアンカーロッドは固定されており、それらの荷重値は24時間の硬化後に平均値として判定される。終局破壊荷重は、接着力として計算され、表4に単位N/mm
2で示されている。
【0108】
【表4】
【0109】
表4に見られる通り、本発明の全ての留付けシステムは硬化から24時経過後も接着力が大きい。従来のねじ付きアンカーロッドを用いた比較例のシステムは接着力が非常に低い一方で、円錐形の要素を用いると、清掃済みの状態で2倍、未清掃の状態で4倍の接着力を示した。
【0110】
加えて、抑制剤としての有機酸を含まない
接着系アンカーを備えた比較例のシステムは、初期凝固時間が5分未満である他、取扱時間が不足していたため、どの掘削孔に注入することも、金属要素を定着させることも可能ではなかったことは明記すべきである。さらに、有機樹脂をベースとする注入モルタルと比較すると、注入モルタルは高温下では接着力は高いが、許容範囲を超えるほどの大きな荷重値の減少が発生し、有機系では250℃でゼロに近づくこともある一方、本発明の実施例では接着力が増加した。さらに、エトリンジャイト系のスラリーは、水を含む場合及びダイアモンド掘削孔で高い性能を発揮する。
【0111】
3.未清掃掘削孔での硬化時間に基づく機械的性能の判定
【0112】
成分A1と成分A2は成分B1と3:1の比で混合され、乾燥したコンクリートC20/25及びC50/60(表3で状態を参照)の未清掃の14mmの掘削孔で埋設深72mmにおいて円錐形のアンカーロッドで硬化し、異なる時間間隔において室温で水圧工具を用いて引き抜いた(表5)。
【0113】
【表5】
【0114】
表5に見られる通り、硬化後には著しい効果が表れ、1か月後には初期値がほぼ2倍に増加し、未清掃の掘削孔では大きな硬化後の効果が見られる。
【0115】
上記から分かる通り、本発明の留付けシステムは、硬化速度及び機械的強度が有機系留付けシステムと同等であるものの、その本質的な鉱物組成により毒性がはるかに少なく、ほとんど環境汚染を引き起こさないだけでなく、先行技術に基づく既知のシステムよりも費用対効果に優れた生産が可能である。さらにこの留付けシステムは、未清掃及び亀裂の入った掘削孔及び縁に近い留付けで高い定格荷重及び低い膨張圧を実現し、先行技術の既知の系よりも優れている。