特許第6554294号(P6554294)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6554294トロイダル無段変速機及び航空機用駆動機構一体型発電装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6554294
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】トロイダル無段変速機及び航空機用駆動機構一体型発電装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 15/38 20060101AFI20190722BHJP
   H02K 7/10 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   F16H15/38
   H02K7/10 A
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-46285(P2015-46285)
(22)【出願日】2015年3月9日
(65)【公開番号】特開2016-166641(P2016-166641A)
(43)【公開日】2016年9月15日
【審査請求日】2018年3月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】今井 秀幸
【審査官】 塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−051658(JP,A)
【文献】 特開2003−065408(JP,A)
【文献】 特開2003−240081(JP,A)
【文献】 特開2015−007464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 15/38
H02K 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向配置される入力ディスク及び出力ディスクと、
前記入力ディスクと前記出力ディスクとの間に傾転可能に挟まれ、前記入力ディスクの回転駆動力を傾転角に応じた変速比で前記出力ディスクに伝達するパワーローラと、
傾転軸線と同軸状に配置された一対の枢軸部、及び、傾転軸線方向において前記一対の枢軸部の間に位置して前記パワーローラが回転自在に取り付けられる本体部を有するトラニオンと、
前記一対の枢軸部に外嵌される軸受と、
前記パワーローラから見て前記本体部と反対側において前記傾転軸線方向に延びて前記トラニオンに連結されるビームと、
前記トラニオン及び前記パワーローラに油を供給する油路と、を備え、
前記一対の枢軸部が、前記本体部から前記傾転軸線方向と垂直な突出方向に突出し、前記油路は、前記一対の枢軸部のうちの一方である第1枢軸部の内部で前記突出方向に延びる第1枢軸油路を有し、
前記ビームが前記一対の枢軸部に挿入される連結具で前記一対の枢軸部と連結され、
前記第1枢軸油路および前記連結具が前記軸受の径方向内側に位置する、トロイダル無段変速機。
【請求項2】
前記ビームが、前記一対の枢軸部の内面と前記傾転軸線方向に重ねられ、前記連結具が前記傾転軸線方向に挿入される、請求項1に記載のトロイダル無段変速機。
【請求項3】
前記一対の枢軸部は、前記内面の前記突出方向における先端部を前記傾転軸線方向の外側にオフセットすることで形成される一対の段差面を有し、
前記ビームが前記突出方向において前記段差面に重ねられる、請求項2に記載のトロイダル無段変速機。
【請求項4】
前記連結具は、前記ビームに挿入される非ねじ部を有し、
前記一対の枢軸部の各々が、単一の前記連結具で前記ビームに連結される、請求項3に記載のトロイダル無段変速機。
【請求項5】
前記一対の枢軸部の各々が、1つの前記連結具で、前記ビームに連結され、
前記一対の枢軸部に対応した一対の前記連結具が、前記傾転軸線及び前記突出方向に垂直な前記トラニオンの幅方向における前記枢軸部の中央部で、同軸状に配置される、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のトロイダル無段変速機。
【請求項6】
前記油路は、前記本体部の内部で前記傾転軸線方向に延びる本体油路を有し、前記軸受の一部が前記本体油路に対して前記突出方向において外側に位置する、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のトロイダル無段変速機。
【請求項7】
前記トラニオンは、前記本体部の内面に開口する取付孔を有し、前記パワーローラは、前記取付孔に回転可能に挿入される取付軸を介して前記本体部に取り付けられ、
前記取付孔及び前記第1枢軸油路は、前記傾転軸線から前記傾転軸線方向及び前記突出方向に垂直な前記トラニオンの幅方向の一方側に偏在し、
前記油路は、前記本体部の内部で前記傾転軸線方向に延び、前記第1枢軸油路の前記突出方向における基端部を前記取付孔に連通させる本体油路を含む、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のトロイダル無段変速機。
【請求項8】
前記油路は、前記第1枢軸油路の前記突出方向における先端部と連通し、前記第1枢軸部の内面に開口して前記パワーローラの周面と対向する第1ノズルと、前記一対の枢軸部のうちの他方である第2枢軸部の内面に開口して前記パワーローラの周面と対向する第2ノズルと、前記第1枢軸油路の前記突出方向における基端部から前記本体部及び前記第2枢軸部の内部を通って前記第2ノズルに接続される分配油路と、を含む、請求項5乃至7のいずれか1項に記載のトロイダル無段変速機。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載のトロイダル無段変速機と、
航空機のエンジン回転軸から取り出される回転動力を前記トロイダル無段変速機に入力する入力機構と、
前記トロイダル無段変速機の出力で駆動される発電機と、を備える、航空機用駆動機構一体型発電装置。
【請求項10】
前記入力機構が、前記エンジン回転軸から取り出された回転動力が入力される装置入力軸と、前記装置入力軸の回転を前記トロイダル無段変速機に伝達するギヤ対とを備え、
前記装置入力軸が、前記トロイダル無段変速機の軸方向と平行であり、
前記トロイダル無段変速機の前記傾転軸線が、前記装置入力軸と前記トロイダル無段変速機における回転軸とを結ぶ直線の延在方向と非垂直である、請求項9に記載の航空機用駆動機構一体型発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロイダル無段変速機及び航空機用駆動機構一体型発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トロイダル無段変速機の変速比は、入力ディスクと出力ディスクの間に介在するパワーローラを傾転させることで、連続的に変更される。特許文献1では、パワーローラが、一対の枢軸を有するトラニオンに取り付けられ、枢軸の中心線周りに傾転するように案内される。トラニオンは、パワーローラを支持する支持板部、及びその両端部に形成された一対の折れ曲がり壁部を有する。折れ曲がり壁部の先端部同士は、連結部材を介して連結される。ピンが折れ曲がり壁部に挿入されることで、折れ曲がり壁部が連結部材と連結される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−202062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ピンによる連結部材と折れ曲がり壁部との連結信頼性を得るには、折れ曲がり壁部が十分に大きい厚さ(枢軸の中心線方向における寸法)を有することを求められる。一対の枢軸は、このような折れ曲がり壁部の外側面から枢軸の中心線方向に突出する。したがって、トラニオンが枢軸の中心線方向に大きい。
【0005】
そこで本発明は、トロイダル無段変速機のトラニオンの小型化を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るトロイダル無段変速機は、互いに対向配置される入力ディスク及び出力ディスクと、前記入力ディスクと前記出力ディスクとの間に傾転可能に挟まれ、前記入力ディスクの回転駆動力を傾転角に応じた変速比で前記出力ディスクに伝達するパワーローラと、傾転軸線と同軸状に配置された一対の枢軸部、及び、傾転軸線方向において前記一対の枢軸部の間に位置して前記パワーローラが回転自在に取り付けられる本体部を有するトラニオンと、前記パワーローラから見て前記本体部と反対側において前記傾転軸線方向に延びて前記トラニオンに連結されるビームと、を備え、前記一対の枢軸部が、前記本体部から前記傾転軸線方向と垂直な突出方向に突出し、前記ビームが前記一対の枢軸部に挿入される連結具で前記一対の枢軸部と連結される。
【0007】
前記構成によれば、一対の枢軸部がビームを介して連結され、そのための連結具が枢軸部に挿入される。即ち、一対の枢軸部がビームとトラニオンとの連結信頼性を得るために必要となる連結具の取り付け部を兼ねる。このため、一対の枢軸部と傾転軸線方向に隣接して分厚い壁を設けずにすみ、トラニオンを傾転軸線方向に小型化できる。
【0008】
本発明の一態様に係る航空機用駆動機構一体型発電装置は、前述のトロイダル無段変速機と、航空機のエンジン回転軸から取り出される回転動力を前記トロイダル無段変速機に入力する入力機構と、前記トロイダル無段変速機の出力で駆動される発電機と、を備える。
【0009】
前記構成によれば、トラニオンの小型化に伴い、駆動機構一体型発電装置の他の構成要素とトロイダル無段変速機の間に余地を創生できる。他の構成要素を余地に配置することができ、他の構成要素をトロイダル無段変速機に近づけることができるため、駆動機構一体型発電装置の小型化に資する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、トロイダル無段変速機のトラニオンを小型化できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る駆動機構一体型発電装置の動力伝達経路を模式的に表す概要図である。
図2】トロイダル無段変速機の構成を示す図である。
図3】パワーローラ及びトラニオンの断面図である。
図4図4A図3のA−A線に沿ったトラニオンの断面図、図4B図4AのB−B線に沿ったトラニオンの断面図、図4C図4BのC−C線に沿ったトラニオンの断面図、図4D図4BのD−D線に沿ったトラニオンの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して実施形態について説明する。
【0013】
なお、本書における「垂直」は略垂直を含む概念である。単に「平行」、「直交」及び「ねじれの位置」という場合も同様である。
【0014】
図1に示すように、駆動機構一体型発電装置(Integrated Drive Generator:以下、「IDG」という)1は、発電機3をトロイダル無段変速機(以下、「変速機」という)10と共に収容するケーシング2を備えている。IDG1は航空機の交流電源に用いられ、ケーシング2は航空機のエンジンに取り付けられる。
【0015】
変速機10は、互いに同軸に配置されて相対回転可能な変速機入力軸11及び変速機出力軸12を備えている(以下、2軸11,12の回転軸を「変速機軸心A1」という)。
【0016】
変速機入力軸11は入力機構4を介してエンジン回転軸に接続される。入力機構4は、エンジン回転軸から取り出された回転動力が入力される装置入力軸4a、及び装置入力軸4aの回転を変速機入力軸11に伝達するギヤ対4bを含む。ギヤ対4bは、装置入力軸4aと一体回転する伝達ギヤ5a、及び伝達ギヤ5aと噛合され変速機入力軸11と一体回転する変速機入力ギヤ5bから構成される。装置入力軸4aは変速機10の軸方向と平行であり、ギヤ対4bは平行軸ギヤ対である。変速機出力軸12は動力伝達機構6(例えば、平行軸ギヤ列)を介して発電機入力軸7に接続される。
【0017】
装置入力軸4aの一部、ギヤ対4b、動力伝達機構6、及び発電機入力軸7もケーシング2に収容される。IDG1の1以上の補機(例えば、オイルポンプ)が、入力機構4又は動力伝達機構6から取り出された回転動力に基づき駆動されてもよい。
【0018】
エンジン回転軸から取り出された回転動力は入力機構4を介して変速機入力軸11に入力される。変速機10は、変速機入力軸11の回転を変速して変速機出力軸12に出力する。変速機出力軸12の回転は動力伝達機構6を介して発電機入力軸7に出力される。発電機入力軸7が回転すると、発電機3は、発電機入力軸7の回転速度に比例した周波数で交流電力を発生する。変速機10の変速比は、エンジン回転軸の回転速度の変動に関わらず発電機入力軸7の回転速度を適値(機内電装品の作動に適した周波数(例えば、400Hz)と対応する値)に保つように連続的に変更される。これにより、周波数が一定の適値に保たれる。
【0019】
変速機10は、ハーフトロイダル型且つダブルキャビティ型であり、入力ディスク13及び出力ディスク14を2組備えている。入力ディスク13は、変速機入力軸11の外周面上に、変速機入力軸11と一体回転するよう設けられる。出力ディスク14は、変速機出力軸12の外周面上に、変速機出力軸12と一体回転するよう設けられる。一組のディスク13,14は、変速機10の軸方向に互いに対向配置され、2軸11,12よりも径方向外方で変速機軸心A1の周方向に連続する円環状のキャビティ15を1つ形成する。2組の入力ディスク13及び出力ディスク14ひいては2つのキャビティ15が、変速機10の軸方向に並べられる。
【0020】
変速機10は中央入力型である。変速機出力軸12が、中空の変速機入力軸11内に挿通され、変速機入力軸11から両側に突出する。2つの出力ディスク14は変速機出力軸12の2つの突出部に分かれて配置される。2つの入力ディスク13は変速機入力軸11上で背中合わせに配置される。変速機入力ギヤ5bは、変速機入力軸11の外周面上に設けられ、2つの入力ディスク13間に配置される。動力伝達機構6の上流端を構成する要素(例えば、平歯車)は、変速機出力軸12の一方の突出部の外周面上に設けられ、この突出部上の出力ディスク14を基準にして変速機10の軸方向において入力ディスク13と反対側に配置される。
【0021】
変速機10は、複数のパワーローラ16及び複数のパワーローラ16と一対一で対応する複数のトラニオン20を備える。複数のパワーローラ16は同じ構造を有し、複数のトラニオン20は同じ構造を有する。複数(例えば2つ)のパワーローラ16が、1つのキャビティ15内に変速機軸心A1の周方向に等間隔をあけて配置される。パワーローラ16は支持部18を介して対応するトラニオン20に対して回転軸線A2周りに回転可能に支持される。トラニオン20は、ケーシング2に対し、傾転軸線A3周りに傾転可能且つ傾転軸線A3の方向(以下、「傾転軸線方向X」という)に変位可能に支持される。傾転軸線A3は変速機軸心A1とねじれの位置にあり、回転軸線A2は傾転軸線A3と垂直である。
【0022】
ケーシング2は多目的で用いられる油を貯留している。例えば、油は、パワーローラ16と入力ディスク13との接触部(以下、「入力接触部」という)、及びパワーローラ16と出力ディスク14との接触部(以下、「出力接触部」という)にトラクションオイルとして供給される。パワーローラ16は、クランプ機構(図示せず)で発生される変速機10の軸方向の強いクランプ力によってディスク13,14に高圧で押し付けられる。それにより高粘度の油膜が、入力接触部及び出力接触部に形成される。クランプ機構が油圧式である場合、油はクランプ機構に作動油として供給される。
【0023】
変速機入力軸11が回転すると、入力ディスク13が回転駆動され、パワーローラ16が入力接触部で生じる油膜の剪断抵抗で回転軸線A2周りに回転駆動される。パワーローラ16が回転すると、出力ディスク14が出力接触部で生じる油膜の剪断抵抗で回転駆動され、変速機出力軸12が回転駆動される。トラニオン20及びこれに取り付けられているパワーローラ16が傾転軸線方向Xに移動すると、パワーローラ16の傾転軸線A3周りの回転角(以下、「傾転角」という)が変更され、変速機10の変速比が傾転角に応じて連続的に変更される。このように、変速機10では、回転動力がトラクションドライブにより変速機入力軸11から変速機出力軸12へと伝達される。パワーローラ16は、入力ディスク13と出力ディスク14との間に傾転軸線A3の周りに傾転可能に挟まれ、入力ディスク13の回転駆動力を傾転角に応じた変速比で変速して出力ディスク14に伝達する。
【0024】
図2に示すように、トラニオン20は、同軸状に配置された一対の枢軸部21,22、及び回転軸線A2周りに回転自在にパワーローラ16が取り付けられる本体部23を有する。枢軸部21,22の中心線は傾転軸線A3上に位置し又は傾転軸線A3を構成する。本体部23は、傾転軸線方向Xにおいて一対の枢軸部21,22の間に位置する。以下、枢軸部21,22の一方を「第1枢軸部21」、他方を「第2枢軸部22」という。
【0025】
第1枢軸部21は軸受25を介して第1ヨーク27の貫通穴29に嵌め込まれ、第2枢軸部22は軸受26を介して第2ヨーク28の貫通穴30に嵌め込まれる。一対のヨーク27,28は、ケーシング2(図1参照)に取り付けられる。トラニオン20は、ヨーク27,28を介し、傾転軸線A3周りに回転(揺動、傾転又は角変位)可能且つ傾転軸線方向Xに変位可能にケーシング2に支持される。このように、一対の枢軸部21,22は、軸受25,26に挿通される軸頸であり、(軸受25,26と共に)一対のヨーク27,28に嵌め込まれる部分である。
【0026】
ヨーク27,28は、トラニオン20の総数と同数の貫通穴29,30を有する。全てのトラニオン20は、傾転軸線A3が互いに平行となるように、傾転軸線方向Xの一方側で第1ヨーク27に支持されて他方側で第2ヨーク28に支持される。
【0027】
トラニオン20及びこれに取り付けられているパワーローラ16は、IDG1の油圧駆動機構31によって傾転軸線方向Xに変位するよう駆動される。油圧駆動機構31は、例えば複数のトラニオン20と一対一で対応する複数の油圧シリンダ32によって構成される。
【0028】
油圧シリンダ32は、シリンダ本体33、ピストン34及びロッド35を有する。シリンダ本体33は、傾転軸線A3と直交する取合面36上に固定される。取合面36は、第1ヨーク27を基準として傾転軸線方向Xにおいて変速機軸心A1と反対側に配置され、シリンダ本体33は取合面36を基準として傾転軸線方向Xにおいて第1ヨーク27と反対側に配置される。油圧シリンダ32は、例えば複動片ロッド型であり、ピストン34は、シリンダ本体33の内空間に傾転軸線方向Xに往復動可能に配置され、内空間がピストン34により2つの油室33a,33bに区画される。ロッド35は、一端部でピストン34に固定され、他端部で第1枢軸部21に固定される。ケーシング2(図1参照)に貯留されている油は、油室33a,33bに油圧駆動機構31の作動油として供給される。油室33a,33bへの供給油圧に応じて、ピストン34が傾転軸線方向Xに移動し、ロッド35がピストン34の動作に応じて傾転軸線方向Xに進退する。トラニオン20及びパワーローラ16が連動して傾転軸線方向Xに移動し、傾転角及び変速機10の変速比が連続的に変更される。
【0029】
以下、図3及び4A−Dを参照して、トラニオン20及びその周辺の構造について説明する。
【0030】
一対の枢軸部21,22は、円筒状であり、本体部23の傾転軸線方向Xの両端部から傾転軸線A3に垂直な方向(以下、「突出方向Z」という)に突出するように立設している。トラニオン20は、一対の枢軸部21,22及び本体部23で囲まれるローラ収容空間20aを形成し、パワーローラ16はローラ収容空間20aに配置される。
【0031】
以下、一対の枢軸部21,22及び本体部23の表面のうち、パワーローラ収容空間20aに面してパワーローラ16と対向するものを「内面」という。枢軸部21,22においては、傾転軸線方向Xにおいて内面と反対の面を「外面」という。本体部23については、内面と突出方向Zにおいて反対の面を「外面」という。傾転軸線方向Xにおいてトラニオン20の傾転軸線方向Xの中心に近い側を「内側」、この中心から遠い側を「外側」という。突出方向Zにおいて本体部23の外面に近い側を「基端側」、本体部23から遠い側を「先端側」という。傾転軸線方向Xにも突出方向Zにも垂直な方向をトラニオン20の「幅方向Y」という。本体部23の内面は、概略XY方向に広がる平面であり、突出方向Zは、本体部23の高さ又は厚さ方向に相当する。
【0032】
図3に示すように、パワーローラ16は半球形状であり、湾曲した周面43を有する。支持部18の支軸45がパワーローラ16の一端面42に開口する円孔44に挿入され、パワーローラ16は軸受48,49により支持部18に対して回転可能に支持される(支軸45及び円孔44の中心線が回転軸線A2を構成する)。軸受48(例えば、ラジアル針状ころ軸受)は支軸45と円孔44の内周面との間に介在している。支軸45は円盤状のフランジ47の一端面から垂直に突出する。軸受49は、パワーローラ16で内輪を構成しフランジ47で外輪を構成したスラスト転がり軸受であり、軸受49の転動体がパワーローラ16の一端面42とフランジ47の一端面の間に挟持される。
【0033】
支持部18はフランジ47の他端面から垂直に突出する取付軸46を有し、取付軸46が本体部23に形成された取付孔52に挿入されることで、パワーローラ16が本体部23に取り付けられてローラ収容空間20aに配置される。取付孔52は、突出方向Zに延びる非貫通穴で、本体部23の内面に開口する。回転軸線A2は、突出方向Zと平行に向けられる。取付軸46は回転軸線A2に対して偏心し、取付孔52に回転可能に挿入される。取付孔52は、傾転軸線A3から見て幅方向Yの一方側に偏在している(図4B参照)。
【0034】
パワーローラ16がトラニオン20に取り付けられた状態において、フランジ47の他端面が本体部23の内面と対向する。支持部18は軸受50,51によって本体部23に対して回転可能に支持される。軸受50(例えば、スラスト針状ころ軸受)がフランジ47の他端面と本体部23の内面の間に介在し、軸受51(例えば、ラジアル針状ころ軸受)が取付軸46と取付孔52の内周面との間に介在する。
【0035】
本体部23は傾転軸線方向Xに比較的長寸で幅方向Yに比較的短寸である。枢軸部21,22の内面同士の間隔はパワーローラ16の最大直径(例えば、一端面42の直径)よりも僅かに大きい(図4B参照)。パワーローラ16は傾転軸線方向Xにおいて枢軸部21,22の間に配置され、周面43が枢軸部21,22の内面と対向する(図3参照)。幅方向Yは、変速機軸心A1(図1参照)と平行又は傾転角に応じて変速機軸心A1に対して若干傾斜している。パワーローラ16は、周面43とディスク13,14(図1参照)との接触のため、本体部23から幅方向Yにおいて両側へ部分的に突出している(図4B参照)。
【0036】
一対の枢軸部21,22は、傾転軸線方向Xに延びるビーム54を介して連結される。ビーム54の傾転軸線方向Xにおける一端部は、第1連結具55で第1枢軸部21に取外し可能に連結され、ビーム54の傾転軸線方向Xにおける他端部は、第2連結具56で第2枢軸部22に取外し可能に連結される。第1連結具55及び第2連結具56は単一であり、各枢軸部21,22は、一点止めでビーム54に連結される。
【0037】
ビーム54が一対の枢軸部21,22に連結された状態において、パワーローラ16が突出方向Zにおいて本体部23とビーム54の間に配置され、ビーム54はパワーローラ16から見て本体部23とは反対側に配置される。ビーム54はトラニオン20に連結されてトラニオン20を補強する。例えば、トラニオン20がパワーローラ16からのスラスト荷重を受け、それにより一対の枢軸部21,22の先端部が傾転軸線方向Xの内側に撓もうとするとき、ビーム54で弾性変形を抑制できる。
【0038】
ビーム54の一端部は、第1枢軸部21の内面に傾転軸線方向Xに重ねられる。第1連結具55は傾転軸線方向Xに挿入される。
【0039】
第1枢軸部21の内面は、突出方向Zにおける先端部で、傾転軸線方向Xの外側に僅かにオフセットされている。第1枢軸部21は、内面の突出方向Zにおける基端部(以下、「内面基端部」という)を内面の突出方向Zにおける先端部(以下、「内面先端部」という)に連続させる段差面57を有し、段差面57は、内面先端部の内面基端部に対する僅かなオフセット分だけ傾転軸線方向Xに延びている。段差面57は、例えば幅方向Yに直線的に延びている。ビーム54の一端部は、第1枢軸部21の内面に重ねられる際、突出方向Zにおいて段差面57にも重ねられる。ビーム54の一端部は、突出方向Zにおける基端部(本体部23に近い側)で、段差面57及び内面先端部と整合する形状に形成されている。ビーム54の一端部は、突出方向Zにおいて基端側に向かうほど幅方向Yに拡がり、突出方向Zにおける基端縁部が、例えば幅方向Yに直線的に延びている。
【0040】
第1枢軸部21は傾転軸線方向Xに貫通した挿通穴59を有する。挿通穴59は、傾転軸線方向Xにおける内側部分を外側部分よりも小径とした段付き穴であり、内側部分で雌ねじが形成されている。ビーム54の一端部は傾転軸線方向Xの外側の端面に開口して傾転軸線方向Xに延びる挿入孔61を有する。挿入孔61は挿通穴59よりも小径である。
【0041】
第1連結具55は、頭部55a、雄ねじ部55b及び非ねじ部55cを有する。非ねじ部55cは、円形断面を有して雄ねじ部55bよりも小径である。例えば、ねじ先が棒先又はとがり先に形成されたねじが第1連結具55であってもよい。
【0042】
雄ねじ部55bは挿通穴59の内側部分と螺合され、頭部55aは挿通穴59の段差に突き当てられる。頭部55aは挿通穴59に没入され、第1枢軸部21の外面から突出しない。非ねじ部55cは、挿通穴59から突出して挿入孔61に挿入される。雄ねじ部55bが第1枢軸部21と螺合されるので、第1連結具55が第1枢軸部21の外面から脱落するのを防止できる。非ねじ部55cがビーム54に挿入されるので、ビーム54は、挿入孔61及び非ねじ部55cの案内を受け、第1連結具55及びこれと螺合された第1枢軸部21に対し傾転軸線方向Xに相対移動できる。このように、本実施形態においては、第1連結具55の少なくとも一部が、第1枢軸部21の内部に位置している。すなわち、第1ヨーク27の貫通穴29に嵌め込まれた状態では、第1連結具55の少なくとも一部が、貫通穴29の内部に位置することとなる。
【0043】
ビーム54の他端部、第2枢軸部22及び第2連結具56も、上記同様に構成されている。符号56aは頭部、56bは雄ねじ部、56cは非ねじ部、58は段差面、60は挿通穴、62は挿入孔である。
【0044】
連結具55,56は同軸状に配置され、挿通穴59,60及び挿入孔61,62も同軸状に配置される。これらの中心線は、傾転軸線A3から突出方向Zにおける先端側に離れた位置で傾転軸線A3と平行に延び、各枢軸部21,22の幅方向Yにおける中央部を通過している(図4A及びC参照)。
【0045】
トラニオン20は、第1枢軸部21の外周面より突出し、傾転軸線A3と直交する突当て面63を有する。突当て面63は、円環状であり、第1枢軸部21の直径と同寸の内径、及びこれよりも僅かに大きい外径を有する。突当て面63は、第1枢軸部21の突出方向Zの基端部では、本体部23の外面と第1枢軸部21の外周面との間の段差によって構成される。トラニオン20は、第1枢軸部21のうち先端側の内側に、第1枢軸部21と連続した薄壁65を有する。薄壁65は、傾転軸線方向Xに見て半円形状であり、この薄壁65によって、突当て面63が、第1枢軸部21の先端側の内側に形成され、無端円環状になる。
【0046】
軸受25は、傾転軸線方向Xの外側から第1枢軸部21に外嵌される。取付けの際、軸受25は、スペーサ67を介して突当て面63に傾転軸線方向Xに重ねられ、傾転軸線方向Xに位置決めされる。更に、円盤状の軸受押え69が第1枢軸部21の外面に取り付けられる。これにより、軸受25の脱落を防止でき、また、挿通穴59が閉塞される。
【0047】
第2枢軸部22も、上記同様に構成されている。符号64は突当て面、66は薄壁、68はスペーサ、70は軸受押えである。
【0048】
変速機10は、トラニオン20及びパワーローラ16に油を供給する油路80を備えている。油路80は、第1流入油路81(図3及び4A参照)、第2流入油路82(図3及び4A参照)、第1枢軸油路83(図4A及びB参照)、第1ノズル84(図4A及びB参照)、第2ノズル85(図4B及びC参照)、分配油路86(図4A−C参照)、本体油路87(図4A−C参照)、第2枢軸油路88(図4B及びC参照)、及びローラ油路89(図4B及びD参照)を含む。
【0049】
第1流入油路81は、ロッド35内に形成され、傾転軸線方向Xに延びている。第2流入油路82は、第1枢軸部21内で幅方向Yに延び、傾転軸線A3付近で第1流入油路81と連通される。第1枢軸油路83は、第1枢軸部21の内部で突出方向Zに延びる。第1枢軸油路83は、突出方向Zにおける中間部で第2流入油路82と連通される。第1ノズル84は、第1枢軸油路83の突出方向Zにおける先端部と連通され、第1枢軸部21の内面に開口してパワーローラ16の周面43と対向する。このように、本実施形態においては、第2流入油路82と枢軸油路83とが、第1枢軸部21の内部に位置している。すなわち、第1ヨーク27の貫通穴29に嵌め込まれた状態では、幅方向Yに延びる第2流入油路82と、突出方向Zに延びる枢軸油路83とが、貫通穴29の内部に位置することとなる。
【0050】
第2ノズル85は、第2枢軸部22の内面に開口してパワーローラ16の周面43と対向する。分配油路86は、第1枢軸油路83の突出方向Zにおける基端側にある基端部から本体部23及び第2枢軸部22の内部を通って第2ノズル85に接続される。
【0051】
分配油路86は、本体部23の内部に形成された本体油路87、及び第2枢軸部22の内部に形成される第2枢軸油路88を含み、第1枢軸油路83は本体油路87と連通され、本体油路87は第2枢軸油路88と連通される。
【0052】
本体油路87は、第1本体油路87a、第2本体油路87b及び分岐本体油路87cを含む。第1本体油路87aは、本体部23の内部で傾転軸線方向Xに延び、第1枢軸油路83の突出方向Zにおける基端部を取付孔52に連通させる。
【0053】
取付孔52は傾転軸線A3から幅方向Yの一方側に偏在している。また、第1枢軸部21は、突出方向Zにおける先端部に、第1連結具55が挿通される挿通穴59を有する。そこで、第1枢軸油路83は、取付孔52と同様に、傾転軸線A3から幅方向Yの一方側に偏在しており、傾転軸線A3とねじれの位置にある。
【0054】
第2本体油路87bは、取付孔52を第2枢軸油路88と連通させる。分岐本体油路87cは、第1本体油路87aの途中から分岐して突出方向Zに延び、本体部23の内面に開口する。
【0055】
ローラ油路89は、第1ローラ油路89a及び第2ローラ油路89bを含む。第1ローラ油路89aは、フランジ47の他端面及び支軸45の端面に開口し、支持部18の内部で回転軸線A2の方向に延びる。第2ローラ油路89bは、第1ローラ油路89aの途中から分岐して回転軸線A2と略直交する方向に延びる。
【0056】
油路80は、ドリルなどの工具でトラニオン20及び支持部18に穿孔加工を施し、それにより形成された長穴内の要所にプラグ91−95(図4A−C参照)を設けることによって構成される。
【0057】
図4Aに示すように、プラグ91は、第2流入油路82を構成するため第1枢軸部21に形成された非貫通長穴の開口端を閉塞する。プラグ92は、第1枢軸油路83を構成するため第1枢軸部21に形成された非貫通長穴の開口端を閉塞する。これら開口端は、第1枢軸部21の外周面に配置され、プラグ91,92は、第1枢軸部21に外嵌される軸受25、及び軸受25が内嵌される第1ヨーク27(図3参照)で半径方向外周側から覆われる。
【0058】
図4Bに示すように、プラグ93は、第1本体油路87aを構成するため本体部23に形成された長穴の開口端を閉塞する。この開口端は、第1枢軸部21の外面に配置され、プラグ93は軸受押え69で傾転軸線方向Xの外側から覆われる。プラグ94は、第2本体油路87bを構成するため本体部23に形成された長穴の開口端を閉塞する。この開口端は、第2枢軸部22の外面に配置され、プラグ94は軸受押え70で傾転軸線方向Xの外側から覆われる。
【0059】
図4Cに示すように、プラグ95は、第2枢軸油路88を構成するため第2枢軸部22に形成された非貫通長穴の開口端を閉塞する。この開口端は、第2枢軸部22の外周面に配置され、プラグ95は、第2枢軸部22に外嵌される軸受26、及び軸受26が内嵌される第2ヨーク28(図3参照)で半径方向外周側から覆われる。
【0060】
ケーシング2(図1参照)に貯留されている油は、第1流入油路81及び第2流入油路82を介し、第1枢軸油路83に流入する。油は、第1枢軸油路83内で突出方向Zの先端側に流れ、第1ノズル84から周面43であって入力接触部及び出力接触部のうち一方の近傍に吹き付けられる。油は、第1枢軸油路83内で突出方向Zの基端側へ流れ、分配油路86を通流し、第2ノズル85から周面43であって入力接触部及び出力接触部のうち他方の近傍に吹き付けられる。ノズル84,85は、パワーローラ16の周面43の接線方向に油を噴出する。このようにして、油がパワーローラ16にトラクションオイルとして供給される。
【0061】
分配油路86では、油は、第1本体油路87aから取付孔52内の軸受51に潤滑油として供給される。取付孔52からの流出油が、第2本体油路87b及び第2枢軸油路88を介して第2ノズル85に供給される。油は、分岐本体油路87cを介し、軸受50に潤滑油として供給される。軸受50に供給された油は、第1ローラ油路89aを介して軸受48に潤滑油として供給され、第2ローラ油路89bを介して軸受49に潤滑油として供給される。
【0062】
上記構成では、変速機10が、傾転軸線A3と同軸状に配置された一対の枢軸部21,22、及び傾転軸線方向Xにおいて一対の枢軸部21,22の間に位置してパワーローラ16が取り付けられる本体部23を有するトラニオン20を備える。一対の枢軸部21,22が、本体部23から傾転軸線方向Xと垂直な突出方向Zに突出する。ビーム54が一対の枢軸部21,22に挿入される連結具55,56で一対の枢軸部21,22と連結される。即ち、一対の枢軸部21,22がビーム54とトラニオン20との連結信頼性を得るために必要となる連結具55,56の取り付け部を兼ねる。このため、一対の枢軸部21,22と傾転軸線方向Xに隣接する分厚い壁を設けなくてもよくなる。その結果、トラニオン20を傾転軸線方向Xに小型化できる。
【0063】
薄壁65,66は、主として軸受25,26を位置決めするという機能を果たすことを期待される。薄壁65,66の傾転軸線方向Xの寸法は、期待された機能に応じて極力小さく定められる。例えば、薄壁65,66の傾転軸線方向Xの寸法は、枢軸部21,22の傾転軸線方向Xの寸法の20%未満である。
【0064】
ビーム54が、一対の枢軸部21,22の内面と傾転軸線方向Xに重ねられ、連結具55,56が傾転軸線方向Xに挿入される。これにより、軸受25,26が枢軸部21,22に外嵌され、傾転軸線方向Xと直交する方向(すなわち、枢軸部21,22の径方向)に連結具55,56を挿入することが困難であっても、ビーム54を枢軸部21,22に連結することを実現できる。一対の枢軸部21,22が互いに向き合うように撓もうとする際に、連結具55,56に過大な剪断荷重が作用せず、連結信頼性が高い。
【0065】
一対の枢軸部21,22は、内面の突出方向Zにおける先端部を傾転軸線方向Xの外側にオフセットすることで形成される一対の段差面57,58を有し、ビーム54が突出方向Zにおいて段差面57,58に重ねられる。ビーム54を枢軸部21,22の内面に重ねた状態に簡単に位置決めでき且つ簡単にその状態を維持でき、連結具55,56のセット作業を簡便に行うことができる。
【0066】
連結具55,56は、ビーム54に挿入される非ねじ部55c,56cを有し、一対の枢軸部21,22の各々が、単一の連結具55,56でビーム54に連結される。これにより、ビーム54が連結具55,56及び枢軸部21,22に対して傾転軸線方向Xに相対移動できるので、トラニオン20からの力をビーム54にスムーズに伝達できる。第1連結具55及び第2連結具56が単一であって非ねじ部55c,56cがビーム54に挿入される場合、ビーム54が連結具55,56の中心線周りに回転するおそれがある。本実施形態では、ビーム54が段差面57,58に重ねられることで、このような回転を規制できる。
【0067】
枢軸部21,22は、本体部23から突出し、その先端部でビーム54と傾転軸線方向Xに重ねられた状態で連結される。枢軸部21,22は、パワーローラ16が突出方向Zにおいて本体部23とビーム54の間に配置されるために十分大きな径を有する。
【0068】
図3及び4Dに示すように、本体部23は、取付孔52が形成されている高背部23aと、高背部23aを基準として幅方向Yの両側に位置する一対の低背部23b,23cとを有する。一対の低背部23b,23cは、高背部23aよりも薄肉であり(突出方向Zにおける寸法が短い)、本体部23の外面は、高背部23aと低背部23b,23cの間で段差がついている。高背部23aは、傾転軸線方向Xにおいて取付孔52から離れるほど薄肉となる傾斜部23d,23eを有している。本体部23の余肉が極力除去されるので、トラニオン20を軽量化できる。
【0069】
油路80は、第1枢軸部21の内部で突出方向Zに延びる第1枢軸油路83を含む。第1枢軸油路83により、傾転軸線A3から突出方向Zに離れた部位に油を供給できる。第1枢軸油路83を直線的に形成できるので、穿孔加工を簡便に行える。なお、第1流入油路及び第2流入油路も直線的に形成されるので、油を第1枢軸油路83に導くまでの油路も簡便に製作できる。
【0070】
トラニオン20は、本体部23の内面に開口する取付孔52を有し、パワーローラ16は、取付孔52に回転可能に挿入される取付軸46を介して本体部23に取り付けられる。取付孔52及び第1枢軸油路83は、傾転軸線A3から幅方向Yの一方側に偏在している。油路80は、本体部23の内部で傾転軸線方向Xに延び、第1枢軸油路83の突出方向Zにおける基端部を取付孔52に連通させる本体油路87(特に、第1本体油路87a)を含む。第1枢軸油路83を取付孔52と同方向に偏在させることで、第1枢軸油路83及び本体油路87(特に、第1本体油路87a)を直線的に形成でき、穿孔加工を簡便に行える。また、第1枢軸油路83の突出方向Zの長さが枢軸部21,22の直径よりも短くなり、穿孔加工を簡便に行える。
【0071】
一対の枢軸部21,22の各々が、単一の連結具55,56でビーム54に連結され、一対の連結具55,56が幅方向Yにおける枢軸部21,22の中央部で同軸状に配置される。連結具55,56がこのように配置されることで、ビーム54を1点止めであっても安定的に枢軸部21,22に連結できる。前述のとおり、このように配置してもビーム54の回転を規制できる。第1枢軸油路83は幅方向Yに偏在しているので、挿通穴59は第1枢軸油路83と干渉しない。
【0072】
油路80は、第1ノズル84、第2ノズル85、及び第1枢軸油路83の突出方向Zにおける基端部から本体部23及び第2枢軸部22の内部を通って第2ノズル85に接続される分配油路86を含む。ビーム54を用いず本体部23の内部を用いて油を第2ノズル85まで分配する。このため、ビーム54の幅及び高さを油路がない分小さくして小型化及び軽量化を図りながら、ビーム54に必要な剛性を確保できる。ノズル84,85は、枢軸部21,22の内面に開口している。枢軸部21,22が大きな径を有することで内面は比較的広く確保されている。このため、ノズル84,85の開口位置を枢軸部21,22の内面上で自由に選択しやすくなり、パワーローラ16の周面43への給油最適化が図られる。
【0073】
以上のように、本実施形態に係る変速機10では、トラニオン20が傾転軸線方向Xに小型化される。それに伴い、一対のヨーク27,28を傾転軸線方向Xにおいて互いに近付けることができる。
【0074】
図2を参照して、これに伴い、取合面36を第1ヨーク27と共に変速機軸心A1に近づけることができる。これにより、変速機10が全体として傾転軸線方向Xにコンパクトになる。
【0075】
この変速機10を組み込んだIDG1において、例えば、装置入力軸4aは変速機軸心A1と平行であり、装置入力軸4aと変速機軸心A1とを結ぶ直線Lの延在方向は、傾転軸線A3と非垂直、更に言えば略平行である場合、第2ヨーク28が変速機軸心A1に近付くことで、第2ヨーク28と装置入力軸4aの間のスペースが拡大する。そこで、このスペースを埋めるように装置入力軸4aを変速機軸心A1に近づけてギヤ対4bを小径化できる。これにより、IDG1がコンパクトになり且つ軽量になる。
【0076】
上記実施形態は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0077】
例えば、非ねじ部55cは非円形断面を有してもよい。段差面57,58が、幅方向Yに直線的に延びるのは一例で、傾転軸線方向Xに見て連結具55,56の中心線を中心とする円弧状でなければ回り止めの機能を果たせる。第1連結具55はビーム54と螺合してもよい。ビーム54の一端部が複数の第1連結具55で第1枢軸部21と連結されてもよい。ビーム54が一対の枢軸部21,22に傾転軸線A3と直交する方向(枢軸部21,22の径方向)に重ねられ、連結具55,56が当該方向に挿入されてもよい。この場合、ビーム54の一端部は、軸受25や第1ヨーク27の貫通穴29に整合する形状に形成されていてもよい。ビーム54の他端部、第2連結具56及び第2枢軸部22についても同様である。
【0078】
また、トラニオン20に対する油の供給は第2枢軸部22から行ってもよい。この場合、幅方向Yに延びる第2流入油路82に相当する油路が、第2枢軸部22内に形成される。
【0079】
変速機は、中央入力型に代えて中央出力型でもよい。中央出力型では、変速機入力軸が中空の変速機出力軸に挿通されて両側に突出し、入力側要素と出力側要素との配置関係が中央入力型と逆になる。変速機は、ダブルキャビティ型に代え、1組の入力ディスク及び出力ディスクを備えるシングルキャビティ型でもよい。
【0080】
また、入力ディスクと出力ディスクとに対するトラニオン(傾転軸線)の配置は、有効に動力伝達ができる限り、変更可能である。例えば、傾転軸線は、変速機軸心に垂直な平面において、変速機軸心を中心とする所定の大きさの仮想円に接していれば、適宜変更可能である。
【0081】
変速機は、ハーフトロイダル型に代えてフルトロイダル型でもよく、その際、パワーローラが円盤状に形成されてもよい。
【0082】
装置入力軸は変速機軸心と直交し又はねじれの位置にあってもよく、ギヤ対は交差軸ギヤ又は食い違い軸ギヤでもよい。
【0083】
なお、前述した実施形態に示したトロイダル無段変速機は、航空機用発電装置への用途に限定されず、その他の用途の発電装置や、自動車または各種産業機械への用途で使用してもよい。
【符号の説明】
【0084】
1 駆動機構一体型発電装置(IDG)
3 発電機
4 入力機構
4a 装置入力軸
4b ギヤ対
10 トロイダル無段変速機
13 入力ディスク
14 出力ディスク
16 パワーローラ
20 トラニオン
21,22 枢軸部
23 本体部
46 取付軸
52 取付孔
54 ビーム
55,56 連結具
55c,56c 非ねじ部
57,58 段差面
80 油路
83 第1枢軸油路
84 第1ノズル
85 第2ノズル
86 分配油路
87 本体油路
A1 変速機軸心
A2 回転軸線
A3 傾転軸線
X 傾転軸線方向
Y 幅方向
Z 突出方向
図1
図2
図3
図4