(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る流体分離装置の第1実施形態を、
図1から
図3を参照しながら説明する。
図1に示すように、本実施形態の流体分離装置1は、海底E1よりも下方の地中E2に埋蔵されたメタンハイドレート(第一流体の水和物)W1から気体であるメタンガス(第一流体)W2を回収するものである。海底E1の水深は、例えば1000m程度である。
海底E1の数百m下方には、粘土層E4と砂層E5とが上下に交互に重なるように形成されている。メタンハイドレートW1は、砂層E5に含まれている。
海底E1から下方に向かって延びる生産井E6が掘られる。生産井E6は、下方の端部が砂層E5に達するように形成されている。
【0020】
本流体分離装置1は、内部にメタンガスW2及び水を収容するセパレータ(分離槽)10と、流体分離装置1を駆動するポンプ(昇圧部)25と、ポンプ25が発生する熱で熱媒体(第二流体)W3を加熱するとともに、熱媒体W3によりセパレータ10内のメタンハイドレートW1を加熱してセパレータ10内のメタンハイドレートW1を分解する加熱部35と、セパレータ10、ポンプ25、及び加熱部35を制御する制御部50とを備えている。
なお、熱媒体W3は水及び砂W6を含む。
【0021】
セパレータ10は、鉄鋼等で上下方向に長い球殻状に形成された槽本体11を有している。槽本体11は、自身の長手方向が上下方向にほぼ平行になるように配置されている。槽本体11の上部の内面には、下方に向かうにしたがって槽本体11の中心軸に近づくように傾斜した板部材12が取付けられている。槽本体11内の下部には、下方に向かうにしたがって内径が小さくなる漏斗状の案内部材13が取付けられている。
槽本体11の長手方向の中間部には、槽本体11の外周面を覆う管状部材36が取付けられている。管状部材36は、槽本体11と同軸に配置されている。管状部材36は、上端部及び下端部において、槽本体11との間で水密に封止されている。
管状部材36と槽本体11とで、いわゆる二重菅構造になっている。
【0022】
槽本体11における管状部材36よりも上方には、吸入管(供給配管)15、給水管16、及び第一排出管17が接続され、槽本体11に吸入管15、給水管16、及び第一排出管17が連通している。吸入管15の先端部は、生産井E6に挿通されている。生産井E6内において、吸入管15と生産井E6との間は、蓋であるパッカー18で封止されている。槽本体11に形成された吸入管15の開口15aは、槽本体11内の後述する運転上限液面L1よりも上方であって、板部材12に対向するように配置されている。
吸入管15には、リモート開閉弁15b及び緊急開閉弁15cが設けられている。後述するようにセパレータ10内の圧力を低下させることで、生産井E6で産出される生産流体W5が吸入管15内に吸引される。生産流体W5には、メタンガスW2及び水だけでなく砂W6が含まれている。
【0023】
リモート開閉弁15bは、遠隔操作により吸入管15内を生産流体W5が流れる開状態と、吸入管15内を生産流体W5が流れない閉状態とに切替えることができる。緊急開閉弁15cは、リモート開閉弁15bがリモートで制御できなくなったときに吸入管15にロボット等を近づけて吸入管15を閉状態にさせるためのものである。
給水管16には、リモート開閉弁16a及び緊急開閉弁16bが設けられている。
第一排出管17には、流量計17a、リモート流量調整弁17b、緊急開閉弁17c、及びリモート開閉弁17dが設けられている。
流量計17aは、第一排出管17内を流れるメタンガスW2の流量を測定する。リモート流量調整弁17bは、遠隔操作により第一排出管17内を流れるメタンガスW2の流量を調整することができる。
【0024】
槽本体11における管状部材36よりも上方及び下方には、連結管20の端部がそれぞれ接続されている。連結管20の上部には、緊急開閉弁20a、20bが、連結管20の下部には緊急開閉弁20c、20dがそれぞれ設けられている。
連結管20には、液面計20e及び圧力・温度計20fが設けられている。
液面計20eは、槽本体11内の水の液面の上下方向の位置を測定する。液面の位置は、上方の運転上限液面L1から下方の運転下限液面L2の間で制御される。液面L1、L2は、上下方向において管状部材36が占める範囲の間に設定される。
圧力・温度計20fは、連結管20を介して槽本体11内の圧力及び温度を測定する。
セパレータ10は、海底E1上に配置されている。
【0025】
ポンプ25は、熱媒体W3を搬送するために熱媒体W3の圧力を高くするためのものであり、図示しない回転翼等を有するポンプ本体25aと、回転翼を回転させるためのモータ25bとを有する。モータ25bは公知の構成のものであり、モータ25bは動作するときに熱を発生する。モータ25bには、モータ25bの外面を覆うカバー37が取付けられている。モータ25bとカバー37との間には隙間T1が形成されている。カバー37には、隙間T1を流れる熱媒体W3の圧力及び温度を測定する圧力・温度計37aが設けられている。
海底E1のような高圧の環境下では、熱媒体W3を海底E1に排水するときに熱媒体W3の圧力を海底E1の圧力以上に高める必要がある。
ポンプ本体25aに接続された第一接続管28は、槽本体11における案内部材13の内径が小さくなった部分に接続されている。ポンプ25は、第一接続管28及び後述する第二排出管29に設けられる。
第一接続管28には、圧力・温度計28aが設けられている。圧力・温度計28aは、第一接続管28内を流れる熱媒体W3の圧力及び温度を測定する。
【0026】
ポンプ本体25aには、第二排出管29が接続されている。第二排出管29には、圧力・温度計29a、逆止弁29b、リモート流量調整弁29c、流量計29d、緊急開閉弁29e、及びリモート開閉弁29fがポンプ本体25a側からこの順で設けられている。
逆止弁29bは、ポンプ本体25a内から外部への流体の流れを許容し、外部からポンプ本体25a内への流体の流れを規制する。
カバー37には、分岐管39、第二接続管(戻り配管)40、及び第三接続管41が接続されている。
分岐管39は、第二排出管29における流量計29dと緊急開閉弁29eとが設けられた間の部分に接続されている。分岐管39にはリモート開閉弁39aが設けられている。
【0027】
第二接続管40は、槽本体11に接続されている。第二接続管40の開口40aは、セパレータ10内の運転上限液面L1よりも上方に、板部材12に対向するように形成されている。第二接続管40には、リモート流量調整弁40b、流量計40c、逆止弁40dが設けられている。逆止弁40dは、カバー37内から槽本体11内への流体の流れを許容し、槽本体11内からカバー37内への流体の流れを規制する。第三接続管41は、管状部材36の上部に接続されている。
第二接続管40は、カバー37の隙間T1を流れる熱媒体W3を槽本体11内に供給する。
管状部材36の下部には、第三排出管43が接続されている。第三排出管43には、逆止弁43a、緊急開閉弁43b、及びリモート開閉弁43cが設けられている。
逆止弁43aは、管状部材36内から外部への流体の流れを許容し、外部から管状部材36内への流体の流れを規制する。
管状部材36、カバー37、第二接続管40、及び第三接続管41で前述の加熱部35を構成する。
【0028】
制御部50は、図示はしないが演算素子、メモリー、及び制御プログラム等で構成されている。制御部50は、流量計17a、29d、40c、液面計20e、圧力・温度計20f、28a、29aから送信された測定結果を受信する。
制御部50は、上記の測定結果に基づいて、リモート開閉弁15b、16a、17d、29f、39a、43c、リモート流量調整弁17b、29c、40bを制御する。
なお、
図1では制御部50とリモート開閉弁15b等とを接続する配線の図示は省略している。
【0029】
ここで、メタンハイドレートの相平衡曲線について説明する。
図2において、横軸はメタンハイドレート、メタンガス、及び水の温度を表し、縦軸はメタンハイドレート、メタンガス、及び水の圧力を表す。縦軸の圧力は図の下側に向かうにしたがって高くなる。
図中に相平衡曲線L4を示す。相平衡曲線L4よりも圧力が高い側の領域R1では、メタンハイドレートが安定して存在する。相平衡曲線L4よりも圧力が低い側の領域R2では、メタンハイドレートはメタンガスと水とに分解する。
水の比重は約4℃で最も大きくなるので、海底における水の温度は約4℃の場合が多い。例えば、水深1000mの海底での圧力は、水の密度により異なるが約10.1MPa(メガパスカル)(=約100atm)である。以下では、圧力を絶対圧で表す。
すなわち、水深1000mの海底は、温度が約4℃で圧力が約10.1MPaである状態R3となり、領域R1内にある。この状態R3において、メタンと水が存在すれば、メタンは気体ではなくハイドレートとして存在する。
【0030】
次に、以上のように構成された流体分離装置1を用いた本実施形態の流体分離方法の作用について説明する。
図3は本発明の第1実施形態における流体分離方法を示すフローチャートである。なお、流体分離装置1の周囲には約4℃の海水がある。
予め、緊急開閉弁15c、17c、20a、20b、20c、20d、29e、43bは開状態になっている。リモート開閉弁17d、29fは、開状態である。リモート流量調整弁17b、29c、40bは閉状態である。リモート開閉弁15b、16a、39a、43cは、閉状態である。
このとき、槽本体11内の液面は、運転上限液面L1と運転下限液面L2との間にあるもとする。また、槽本体11内の圧力は外部の圧力より低い目標圧力の許容誤差内に設定されているものとする。
【0031】
まず、分解工程(
図3に示すステップS1)において、流体分離装置1を起動すると、制御部50はモータ25bを駆動してリモート流量調整弁29cの上流側の第二排出管29内の圧力を昇圧させる。圧力・温度計29aの圧力値が外部環境の圧力以上となった時点で、流量計29dの測定値をもとに所定量の流量が第二排出管29内に流れるようにリモート流量調整弁29cの開度を設定する。
これにより、槽本体11内の海水等を、第一接続管28、ポンプ本体25a、及び第二排出管29を介して海底E1に排出する。このとき、モータ25bは熱を発生する。
【0032】
また、制御部50は、槽本体11内の液面が下がり運転下限液面L2に達するまでにリモート開閉弁15bを開状態にして生産流体W5を槽本体11内に流入させる。圧力・温度計20fの計測値をもとに、槽本体11内の圧力が所定値の許容誤差内に収まるようにリモート流量調整弁17bの開度を設定する。これにより、第一排出管17を通してメタンガスW2を下流側に送る。
ここで、生産井E6内の滞留水は、外部の圧力より低い槽本体11内の圧力が吸入管15を介して伝播されることで槽本体11内に汲み上げられる。滞留水の汲み上げにより、パッカー18で密閉された生産井E6内の圧力が減圧する。この減圧の効果が、粘土層E4と砂層E5からなる地盤に伝わる。砂層E5に介在するメタンハイドレートW1の周辺の圧力を下げることで、メタンハイドレートW1を
図2における状態R5から状態R6に変化(分解)させる。メタンハイドレートW1の分解を促し、メタンガスW2の生産につながる。
【0033】
生産流体W5は、メタンガスW2と滞留水もしくはメタンハイドレートW1の分解水等が含まれる混層流として低圧環境下の槽本体11内に流入する。これにより、気体の膨張と相まって混層流の見かけ速度は数〜数10m/sに達することが予想される。この生産流体をセパレータ10内の板部材12に当てることで流速を低減するとともに流れの向きを下方に変える。
【0034】
また、槽本体11内の温度は、メタンハイドレートW1が存在している地盤の海底E1温度約11℃とは異なり、海底E1の周辺海水に常時さらされている。このため、槽本体11内の温度は、周辺の海水の温度と同程度の約4℃である。分解した水とメタンガスW2は、状態R6から状態R7に変化し、再度メタンハイドレート環境領域R1になる。水とメタンガスW2が接触する界面では、メタンハイドレートW1が再生成される。
また、吸入管15の一部を構成する海底E1に横たわった海底配管は、槽本体11と同じ環境下にある。このため、生産流体W5が吸入管15を通る間に、一部の水とメタンガスW2が接触する界面においてメタンハイドレートW1が再生成される場合もある。
これら再生成されたメタンハイドレートW1は、熱媒体W3の浮力により熱媒体W3の液面で浮く。
【0035】
吸入管15の開口15aが熱媒体W3の液面よりも下方である場合には、熱媒体W3内に供給されたメタンガスW2は熱媒体W3内を通って液面まで上昇する。メタンガスW2が上昇する間にメタンガスW2と水とが接触するため、メタンガスW2と水との接触時間が長くなる。
これに対して本実施形態では、吸入管15の開口15aは運転上限液面L1よりも上方に形成されているため、生産流体W5は速い速度をもって熱媒体W3に流入し、第一流体と水との接触時間が短い。
メタンガスW2は、槽本体11の上方から第一排出管17を通して下流の工程に送られ回収される。
熱媒体W3の一部は、槽本体11の下方から連結管20内を流れる。熱媒体W3は連結管20を通して槽本体11の上方から供給され、槽本体11内を循環する。
以上で分解工程S1を終了し、ステップS3に移行する。
【0036】
ステップS3では、槽本体11内の圧力が比較的低い第一の圧力範囲内であるか否かを判断する。第一の圧力範囲は、例えば3.8MPa未満である。ここで3.8MPaは、メタンハイドレートの4℃における平衡圧力である。ステップS3でYesと判断した場合には、ステップS5に移行する。一方で、ステップS3でNoと判断した場合には、ステップS7に移行する。
この例では、槽本体11内の圧力が第一の圧力範囲内であるとし、ステップS5に移行する。
【0037】
次に、熱媒体排出工程(ステップS5)において、制御部50は、リモート開閉弁29fを開状態にしたままにする。リモート開閉弁39a、43cを閉状態にしたままにする。
熱媒体W3は、槽本体11の下方から第一接続管28を通してポンプ本体25a内を流れ、第二排出管29から海底E1に排出される。
そして、熱媒体排出工程S5を終了し、本流体分離方法の全ての処理を終了する。
【0038】
ステップS7では、槽本体11内の圧力が第一の圧力範囲よりも高い第二の圧力範囲内であるか否かを判断する。第二の圧力範囲は、例えば3.8MPa以上4.7MPa未満である。ここで4.7MPaは、メタンハイドレートの6℃における平衡圧力である。ステップS7でYesと判断した場合には、ステップS9に移行する。一方で、ステップS7でNoと判断した場合には、ステップS11に移行する。
この例では、槽本体11内の圧力が第二の圧力範囲内であるとし、ステップS9に移行する。
【0039】
次に、第一加熱工程(ステップS9)において、制御部50は、リモート開閉弁39a、43cを開状態にする。すると、第一接続管28、ポンプ本体25a、及び第二排出管29内を流れた熱媒体W3の一部は、第二排出管29から海底E1に排出される。第二排出管29内を流れた熱媒体W3の残部は、分岐管39を通してカバー37内の隙間T1を流れる。モータ25bが発生する熱で、隙間T1を流れる熱媒体W3が加熱される。熱媒体W3は、第三接続管41を通して管状部材36内を流れる。リモート流量調整弁40bは閉状態であるため、熱媒体W3は第二接続管40内を流れない。なお、リモート開閉弁29fを閉状態にして、第二排出管29内を流れた熱媒体W3の全てをセパレータ10内を加熱するために用いてもよい。
熱媒体W3により、槽本体11内が間接的に加熱される。熱媒体W3の液面の高さが制御しやすいため、メタンガスW2を回収しやすい。槽本体11内が加熱されることで、槽本体11内のメタンハイドレートW1がメタンガスW2及び水に分解される。槽本体11内で加熱されたメタンガスW2は、前述のように第一排出管17を通して流れる。槽本体11内で加熱された熱媒体W3は第一接続管28及びポンプ本体25a内を流れ、一部が海底E1に排出され、残部が管状部材36内を流れる。
そして、第一加熱工程S9を終了し、本流体分離方法の全ての処理を終了する。
【0040】
第二加熱工程(ステップS11)では、槽本体11内の圧力が第二の圧力範囲よりも高い第三の圧力範囲内となる。第三の圧力範囲は、例えば4.7MPa以上5.1MPa未満である。ここで5.1MPaは、メタンハイドレートの7℃における平衡圧力である。
制御部50は、流量計40cの測定結果に基づいてリモート流量調整弁40bの開度を調節する。
すると、第二排出管29内を流れ、モータ25bにより加熱された熱媒体W3は、第三接続管41内だけでなく第二接続管40内を流れる。第二接続管40内を流れる熱媒体W3は、第二接続管40の開口40aから槽本体11内に供給される。槽本体11内に供給され熱媒体W3は、板部材12に当たることで流速が低下するとともに流れの向きを下方に変えて落ちる。第二接続管40の開口40aは運転上限液面L1よりも上方に形成されているため、熱媒体W3の液面で浮くメタンハイドレートW1に熱媒体W3がかかりやすい。
槽本体11内のメタンガスW2及び熱媒体W3をモータ25bにより加熱された熱媒体W3で直接的に加熱するため、モータ25bにより加熱された熱媒体W3の熱が効率的にメタンガスW2及び熱媒体W3に伝達される。
槽本体11内で加熱されたメタンガスW2は、前述のように第一排出管17を通して流れる。熱媒体W3は第一接続管28及びポンプ本体25a内を流れ、一部が海底E1に排出され、残部が槽本体11内に供給される。
そして、第二加熱工程S11を終了し、本流体分離方法の全ての処理を終了する。
【0041】
このように、制御部50は、槽本体11内の圧力が高くなるのにしたがって、メタンハイドレートW1を加熱する加熱量を増加させる。
なお、流体分離装置1を駆動する駆動部は、ポンプ25以外に、図示はしないがメタンガスW2等のガスを昇圧させるサブシーコンプレッサや、リモート開閉弁15b等を駆動するモータを含む。すなわち、ポンプ25のモータ25bが発生する熱に代えて、サブシーコンプレッサやリモート開閉弁15b等のモータが発生する熱で熱媒体W3を加熱してもよい。
【0042】
ここで、流体分離装置の加熱量のシミュレーション結果及び想定される運転につて説明する。
シミュレーションの条件は、ガスの生産レートが大気圧下で約20000m
3/日であり、水の生産レートが約200m
3/日であると仮定した。海底に設置したセパレータ内の圧力は、3.5〜4.0MPaであると仮定した。
【0043】
シミュレーションの条件として下記のように設定した。
(1)生産流体
・セパレータ内に流入する生産流体の温度:4℃
・生産流体に含まれるガス量:20000m
3/日
・生産流体に含まれる水量 :200m
3/日
・水の密度 :ρ=1000kg/m
3
・水の比熱 :Cp=4.2kJ/(kg・℃)
(2)ポンプに用いられているモータ
・消費電力 :200kw
・効率 :80%
(3)熱交換効率
・カバー :80%
・管状部材を用いて間接的に加熱(熱媒体の移送時のロスを含む。以下、間接加熱方式と称する):60%
・第三接続管を通してセパレータ内に熱媒体を供給し直接的に加熱(熱媒体の移送時のロスを含む。以下、直接加熱方式と称する):90%
(4)メタンハイドレートの平衡圧力:相平衡曲線から読み取ると、4℃、6℃、7℃のときの平衡圧力はそれぞれ3.8MPa、4.7MPa、5.1MPaである。
(5)周辺海水環境
・水深 :1000m
・水温 :4℃
【0044】
モータの消費電力200kwは、一般的に当該水量を差圧10MPa分昇圧するのに必要なモータの電力である。
モータの効率を80%とし、モータの消費電力の20%が熱として発生するとする。カバーの熱交換効率を80%としたため、モータが発生する熱のうち80%がカバー内を流れる熱媒体により回収される。
間接加熱方式の熱交換効率を60%としたため、この場合には、熱媒体により回収された熱量のうちの60%によりセパレータ内の熱媒体が加熱される。
直接加熱方式の熱交換効率を90%としたため、この場合には、熱媒体により回収された熱量のうちの90%により、セパレータ内の熱媒体が加熱される。
【0045】
シミュレーションした結果、モータで加熱された熱媒体を全て間接加熱方式に用いた場合には、生産流体の温度が1.97℃上昇することが分かった。すなわち、4℃だった生産流体の温度が約6℃になる。
モータで加熱された熱媒体を全て直接加熱方式に用いた場合には、生産流体の温度が2.96℃上昇することが分かった。すなわち、4℃だった生産流体の温度が約7℃になる。
【0046】
シミュレーション結果から、流体分離装置が想定される運転条件は以下のようになる。
・条件1:セパレータ内の圧力が3.8MPa未満の場合
セパレータ内は再ハイドレート化する環境でないため、セパレータ内を加熱する必要は無い。
・条件2:セパレータ内の圧力が3.8MPa以上4.7MPa未満の場合
間接加熱方式でセパレータ内を加熱することでセパレータ内の水を4℃から6℃に昇温する。この昇温により、セパレータ内が再ハイドレート化する環境から外れる。
・条件3:セパレータ内の圧力が4.7MPa以上5.1MPa未満の場合の場合
直接加熱方式でセパレータ内を加熱することでセパレータ内の水を4℃から7℃に昇温する。この昇温により、セパレータ内が再ハイドレート化する環境から外れる。
・条件4:セパレータ内の圧力が5.1MPa以上の場合
直接加熱方式に加えてヒータを併用することで、セパレータ内の水を昇温する。この昇温により、セパレータ内を再ハイドレート化する環境から外す。
【0047】
セパレータ内の圧力は例えば3.5〜4.0MPaとなる場合には、上記の運転条件の内、条件1及び2で運転すればセパレータ内を再ハイドレート化する環境から外すことができることが分かった。
【0048】
以上説明したように、本実施形態の流体分離装置1及び流体分離方法によれば、ポンプ25が発生する熱でメタンハイドレートW1を分解するため、新たな薬剤やエネルギーを供給する必要が無く、セパレータ10内のメタンハイドレートW1を効率的に分解することができる。
陸上や洋上への生産流体の圧送のための昇圧機が海底に設置されたり、また油混じりの分離水を地中に戻すための昇圧機などが設置されている。これら機器にはモータがあり、冷却のために周辺海水との熱交換を積極的に行っている。
また、メタンハイドレート開発ではメタンハイドレートW1の圧力を下げることでメタンガスW2を分離する減圧法の適用も検討されている。減圧法では、生産井内を減圧するための汲み出しポンプであるポンプ25が必要である。
本発明で利用する熱源はこれら機器の排熱である。この排熱を回収し、流体分離装置1に供給することでハイドレート化を防止しようとするものである。
本流体分離装置1及び流体分離方法によれば、ハイドレート化を防止するとともに、特許文献2のようなインヒビター法における薬剤の供給を不要とすることができるため、特許文献2の課題を解決することができる。
【0049】
駆動部が、ポンプ25を備える。ポンプ25は熱媒体W3を海底E1に排水する第一接続管28に設けられるため、ポンプ25のモータ25bが発生する熱を熱媒体W3に伝達させることで、熱媒体W3を効率的に加熱することができる。
熱媒体W3は水を含む。水和物となったメタンハイドレートW1がセパレータ10内にあるため、例えば回収するメタンガスW2に加熱された熱媒体W3を混合させても、メタンガスW2に熱媒体W3以外の流体を混合させる場合に比べて、メタンガスW2に与える影響を抑えることができる。
加熱部35は第二接続管40を有する。これにより、槽本体11内のメタンガスW2及び水を熱媒体W3で直接的に加熱するため、熱媒体W3の熱を効率的にメタンガスW2及び水に伝達させることができる。
第二接続管40の開口40aは、セパレータ10内の運転上限液面L1よりも上方に形成されている。開口40aから供給された熱媒体W3が開口40aから下方に落ちる際に、浮いているメタンハイドレートW1にかかりやすくなり、メタンハイドレートW1を効果的に加熱することができる。
【0050】
加熱部35は、メタンハイドレートW1を間接的に加熱する。熱媒体W3の液面の高さが制御しやすいため、メタンガスW2を回収しやすくなる。
吸入管15の開口15aは、セパレータ10内の運転上限液面L1よりも上方に形成されている。セパレータ10内で分解したメタンガスW2と水との接触時間が短くなるため、メタンガスW2が再ハイドレート化するのを抑制することができる。
制御部50は、セパレータ10内の圧力が高くなるのにしたがって、メタンハイドレートW1を加熱する加熱量を増加させる。これにより、メタンハイドレートW1が分解する温度が高くなるのに応じてメタンハイドレートW1の温度を高くし、メタンハイドレートW1を確実に分解させることができる。
【0051】
なお、本実施形態ではセパレータ10内を間接的に加熱するために管状部材36を用いた。しかし、セパレータ10内を間接的に加熱するためには、加熱された熱媒体W3を流すための配管を、槽本体11の外周面に螺旋状に設けてもよいし、槽本体11内に配置してもよい。
【0052】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について
図4を参照しながら説明するが、前記実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
なお、本実施形態において、流量計、液面計、開閉弁、圧力・温度計、及び流量調整弁等の配置は第1実施形態と同様なので、
図4中への記載及び説明を省略する。
図4に示すように、本実施形態の流体分離装置2では、セパレータ10の槽本体11の外周面及び底面が管状部材55に覆われている。槽本体11と管状部材55との間には隙間T2が形成されている。セパレータ10及び管状部材55の下部は、地中E2に埋設されている。一般的に、地中E2の温度は海底E1の水の温度に比べて高い。また、海底E1ではセパレータ10に対して海水が流れているのに対して、地中E2ではセパレータ10に対して周辺の土は動かない。このことにより、地中E2の方が保温効果が高い。
【0053】
槽本体11の上部には、下方に向かって曲げられた吸入管15の端部が挿通されている。吸入管15の端部は、槽本体11内の液面L10よりも上方に配置されている。
槽本体11の上部には、下方に向かって曲げられた第一接続管56が挿通されている。第一接続管56の端部は、槽本体11内の液面L10よりも下方に配置されている。第一接続管56は、ポンプ本体25aに接続されている。
管状部材55の上部には、第三排出管43が接続されている。
カバー37に接続された第三接続管58は、管状部材55に接続されている。第三接続管58から分岐した分岐管59は、槽本体11内に挿通されている。分岐管59の端部は、槽本体11内の液面L10よりも上方に配置されている。
流体分離装置2は、図示しない制御部により制御される。
【0054】
このように構成された流体分離装置2の作用について説明する。
制御部がモータ25bを駆動すると、生産井E6内から吸入管15を通して槽本体11内に生産流体W5が供給される。このとき、吸入管15のサイフォンの原理によりモータ25bの消費電力が抑えられる。
槽本体11内で、生産流体W5は、メタンガスW2と熱媒体W3とに分解する。
メタンガスW2は、槽本体11の上方から第一排出管17を通して下流の工程に送られる。
熱媒体W3は、第一接続管56を通してポンプ25のポンプ本体25aに供給される。熱媒体W3の一部は、第二排出管29から海底E1に排出される。熱媒体W3の残部は、分岐管39を通してカバー37内の隙間T1を流れ、モータ25bが発生する熱で加熱される。
【0055】
加熱された熱媒体W3は、第三接続管58内を流れる、第三接続管58内を流れる熱媒体W3の一部は、槽本体11と管状部材55との間を流れ、第三排出管43から海底E1に排出される。熱媒体W3の一部は、槽本体11内に供給された生産流体W5を間接的に加熱する。
第三接続管58内を流れる熱媒体W3の残部は、分岐管59を通して槽本体11内に供給される。槽本体11内に供給された熱媒体W3は、生産流体W5を直接的に加熱する。
【0056】
以上説明したように、本実施形態の流体分離装置2によれば、セパレータ10内にメタンハイドレートW1がある場合でもこのメタンハイドレートW1を効率的に分解することができる。
さらに、海底E1の水の温度に比べて地中E2の温度が高いため、セパレータ10内のメタンハイドレートW1が加熱されやすくなる。
【0057】
以上、本発明の第1実施形態及び第2実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。さらに、各実施形態で示した構成のそれぞれを適宜組み合わせて利用できることは、言うまでもない。
例えば、前記第1実施形態及び第2実施形態では、熱交換性能を上げるために、カバー37や管状部材36、55を覆うように断熱材を取付けてもよい。
【0058】
第二流体は水及び砂W6を含む熱媒体W3であるとしたが、第二流体は海水であってもよい。
実施形態では、メタンハイドレートW1は海底E1よりも下方の地中E2に埋蔵されているとした。しかし、メタンハイドレートW1は湖底よりも下方の地中E2に埋蔵されているとしてもよいし、海底又は湖底に設けられるとしてもよい。
第一流体がメタンガスW2で、第一流体の水和物がメタンハイドレートW1であるとした。しかし、第一流体がガスで第一流体の水和物がガスの水和物であるとしてもよい。ガス田においてはガスが採取され、油田においてはガス及び油が採取される。すなわち、本実施形態の流体分離装置及び流体分離方法は、ガス田及び油田においても好適に用いることができる。