特許第6554382号(P6554382)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6554382
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】力覚提示装置
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/01 20060101AFI20190722BHJP
   H02K 49/00 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   G06F3/01 560
   H02K49/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-202568(P2015-202568)
(22)【出願日】2015年10月14日
(65)【公開番号】特開2017-76209(P2017-76209A)
(43)【公開日】2017年4月20日
【審査請求日】2018年10月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100149870
【弁理士】
【氏名又は名称】芦北 智晴
(72)【発明者】
【氏名】赤岩 修一
【審査官】 木村 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−31976(JP,A)
【文献】 特開2009−66686(JP,A)
【文献】 特開2014−112413(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F3/01
3/048−3/0489
H02K49/00−51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作ユニットおよび従動ユニットを備える力覚提示装置であって、
前記操作ユニットは、
操作者の操作によって変位する変位部を有する操作部と、
前記変位部の変位動作に連動して回転する回転部を有し、供給される電流値の大きさに応じた強さの磁場を内部に封入された磁気粘性流体に付与して、当該電流値の大きさに応じた回転抵抗を前記回転部に付与するように構成された回転抵抗発生部と、
前記変位部の変位量を検出する変位量検出部と、
を含み、
前記従動ユニットは、
前記変位量検出部で検出された変位量に応じて出力軸の回転角を変位させるモータと、
前記モータの出力軸の回転動作に連動して回転する入力回転部を有し、供給される電流値の大きさに応じた強さの磁場を内部に封入された磁気粘性流体に付与して、当該電流値の大きさに応じたトルクを前記入力回転部から出力回転部に伝達可能に構成された磁気粘性流体継手部と、
前記出力回転部の回転に連動して変位する従動部と、
を含み、
前記入力回転部と前記出力回転部の回転速度を検出し、これらの回転速度差をゼロに近づけるように、前記磁気粘性流体継手部に供給する電流値を制御するとともに、前記磁気粘性流体継手部に供給する電流値と同じ電流値を前記回転抵抗発生部に供給する制御部と、
を備えることを特徴とする力覚提示装置。
【請求項2】
請求項1に記載の力覚提示装置において、
前記操作ユニットの操作部の前記変位部は、操作者の正逆方向への操作により正逆方向へ変位するものであり、
前記操作ユニットの変位量検出部は、前記変位部の正逆方向への変位を検出するものであり、
前記制御部は、前記操作ユニットの変位量検出部が逆方向への変位を検出した場合に、前記磁気粘性流体継手部および前記回転抵抗発生装置の双方への電流供給を停止する、
ことを特徴とする力覚提示装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の力覚提示装置において、
前記操作部の変位部は、操作者の操作によって相対的に開閉回動する一対の把持部を構成するものであり、前記従動部は、前記出力回転部の回転と連動して相対的に開閉回動する一対のアームを構成するものである、
ことを特徴とする力覚提示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操作者の手元から離れた場所にある物体の力覚を操作者の指先等に提示する力覚提示装置に関する。特に、磁気粘性流体を利用した力覚提示装置に関する。
【0002】
この種の技術は、例えば特許文献1に開示されている。同文献に開示された力覚提示装置は、主に、操作ユニットと従動ユニットで構成されている。操作ユニットは、操作部と、操作部の開閉操作に抗力を付与する回転抵抗発生部(同文献では「回転抵抗発生装置」と称している。)と、操作部の操作量を検出するエンコーダとを備えている。回転抵抗発生部は磁気粘性流体および磁気粘性流体に磁場を付与する電磁石で構成され、電磁石に供給される電流値に応じた抗力が操作部の開閉操作に付与される。一方、従動ユニットは、上記エンコーダで検出された操作量に応じて開閉回動する一対のアーム部と、アーム部が物体を掴むときに発生する反力を検出する反力検出部とを備えている。そして、反力検出部が検出する反力の大きさに応じた値の電流が回転抵抗発生部に供給されることにより、操作者の手元から離れた場所にある物体の力覚が操作者の指先に提示されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−031976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記力覚提示装置では、アーム部が物体を掴むときに発生する反力をひずみゲージ(特許文献1では圧力センサ)で検出し、ひずみゲージから得られる検出値に対して、予め定めた換算情報(特許文献1の図5(a))に基づき換算処理を行って得られる値の電流を操作ユニットの回転抵抗発生部に供給するようにしている。
【0005】
しかしながら、上記換算情報には、磁気粘性流体の温度変化による影響が加味されていないことから、気温が所定温度(例えば20℃)と大きく異なる場合(例えば、35℃、5℃など)には、実際に物体を掴んだときに指先が感じる力覚と、上記力覚提示装置を介して指先が感じる力覚との間に顕著な差が生じてしまうことがある。また、正確な換算情報を得るには多くの実績データの蓄積が必要となるため、換算情報の作成に多くの時間と労力を費やさなければならない。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みて創案されたものであり、操作者の手元から離れた場所にある物体の力覚を操作者の指先等に提示する力覚提示装置において、ひずみゲージおよびこれに係る換算情報を使用しなくても、当該物体の力覚をリアルに提示することが可能な力覚提示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の力覚提示装置は、操作ユニットおよび従動ユニットを備える。前記操作ユニットは、操作者の操作によって変位する変位部を有する操作部と、回転抵抗発生部と、前記変位部の変位量を検出する変位量検出部と、を含む。前記回転抵抗発生部は、前記変位部の変位動作に連動して回転する回転部を有し、供給される電流値の大きさに応じた強さの磁場を内部に封入された磁気粘性流体に付与して、当該電流値の大きさに応じた回転抵抗を前記回転部に付与するように構成されたものである。一方、前記従動ユニットは、前記変位量検出部で検出された変位量に応じて出力軸の回転角を変位させるモータと、磁気粘性流体継手部と、前記出力回転部の回転に連動して変位する従動部と、を含む。前記磁気粘性流体継手部は、前記モータの出力軸の回転動作に連動して回転する入力回転部を有し、供給される電流値の大きさに応じた強さの磁場を内部に封入された磁気粘性流体に付与して、当該電流値の大きさに応じたトルクを前記入力回転部から出力回転部に伝達可能に構成されたものである。更に本装置は、前記入力回転部と前記出力回転部の回転速度を検出し、これらの回転速度差をゼロに近づけるように、前記磁気粘性流体継手部に供給する電流値を制御するとともに、前記磁気粘性流体継手部に供給する電流値と同じ電流値を前記回転抵抗発生部に供給する制御部を備える。
【0008】
かかる構成を備える力覚提示装置によれば、ひずみゲージおよびこれに係る換算情報を使用しなくても、従動部に接する物体の力覚を操作ユニットにおいて操作者にリアルに提示することが可能となる。
【0009】
例えば、前記操作ユニットの操作部の前記変位部は、操作者の正逆方向への操作により正逆方向へ変位するものであり、前記操作ユニットの変位量検出部は、前記変位部の正逆方向への変位を検出するものであり、前記制御部は、前記操作ユニットの変位量検出部が逆方向への変位を検出した場合に、前記磁気粘性流体継手部および前記回転抵抗発生装置の双方への電流供給を停止する、ものとすることができる。
【0010】
かかる構成を備える力覚提示装置によれば、操作ユニットの操作部の変位部が逆方向へ操作された場合に、前記磁気粘性流体継手部および前記回転抵抗発生装置の双方への電流供給が停止されるので、操作ユニットの操作部の変位部と従動ユニットの従動部とを容易に手で動かすことができるようになる。
【0011】
例えば、前記操作部の変位部を、操作者の操作によって相対的に開閉回動する一対の把持部を構成するものとし、前記従動部を、前記出力回転部の回転と連動して相対的に開閉回動する一対のアームを構成するものとすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る力覚提示装置によれば、ひずみゲージおよびこれに係る換算情報を使用しなくても、従動部に接する物体の力覚を操作ユニットにおいて操作者にリアルに提示することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態に係る力覚提示装置の従動ユニットを示す部分断面図である。
図2】本発明の実施の形態に係る力覚提示装置の操作ユニットを示す部分断面図である。
図3】本発明の実施の形態に係る力覚提示装置の操作ユニットを示す平面図である。
図4図1のA部拡大図である。
図5】本発明の実施の形態に係る力覚提示装置の制御系を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係る力覚提示装置について図面を参照しつつ説明する。本実施形態に係る力覚提示装置は、操作ユニット10(図2参照)、従動ユニット20(図1参照)、制御部80(図5参照)等で構成されている。この力覚提示装置では、操作者が操作ユニット10を操作することで、遠隔にある物体1をこれらのユニット10,20を介して疑似的に掴むことができる。以下、各ユニット10,20等について詳細に説明する。
【0015】
<操作ユニット>
操作ユニット10は、図2および図3に示すように、回転抵抗発生部50、操作部12、回転量検出部14、ケーシング16等で構成されている。
【0016】
回転抵抗発生部50は、内部に封入された磁気粘性流体に付与する磁場の強さを変化させることにより、回転軸(回転部)51の回転抵抗を変化させる。回転軸51は、後述する第2把持部12bの回動動作に連動して一体に回転する。この回転抵抗発生部50の具体的な構成例については後に詳述する。
【0017】
操作部12は、操作者の操作によって変位する変位部を有する。本実施形態では、操作部12は、操作者の指をそれぞれ挿入可能な第1把持部12aおよび第2把持部12bを備えており、第2把持部12bが上記変位部に該当する。第1把持部12aは、ケーシング16に対して固定されているが、第2把持部12bは、その基部が回転自在にケーシング16に支持された支軸17に固定されているため、その支軸17を中心として回動可能となっている。これら第1把持部12aおよび第2把持部12bは、はさみの把持部と同様の動作を行う。図2および図3に例示する各把持部12a,12bは楕円リング状に形成され、その両側部の上面に壁部12c1〜12c4が立設されたものとなっている。したがって、操作者は隣接する壁部12c2,12c3同士を指先で掴むこと等によりこの操作部12を操作することも可能である。
【0018】
回転量検出部14としては、例えばエンコーダが使用される。この回転量検出部14は、第2把持部12bの支軸17および前記回転軸51の回転量(基準位置からの回転角)を検出し、検出された回転量の情報は、後述する制御部80に入力される。なお、支軸17の上記基準位置は、図3の実線で示すように、把持部12a,12b同士が全閉した位置にあるときの支軸17の回転位置となる。
【0019】
ケーシング16は、例えば図2および図3に示すように、円筒部材16aと、円筒部材16aの両端開口を塞ぐように設けられた円板部材16b,16cと、円筒部材16aの内部中間位置に嵌入固定された円板部材16dとで構成されている。円板部材16b,16dには、支軸17が挿通した軸穴が形成されており、支軸17はこれら軸穴に対してベアリング19を介して回転自在に支持されている。また、円板部材16cには円柱状凹部が形成されており、この凹部に回転抵抗発生部50が嵌入固定されている。符号18は、支軸17と回転軸51を回転一体に接続するカップリングである。なお、ケーシング16の下部の円板部材16cには非磁性体が用いられることが望ましい。
【0020】
次に、回転抵抗発生部50の具体的な構成例を図2に基づいて説明する。同図に示す回転抵抗発生部50は、回転軸51、円板52、ヨーク54,55、コイル57、磁気粘性流体58、ケーシング56等で構成されている。
【0021】
回転軸51は、その端部が円板52の裏面52bの中心部に垂直に接続されている。回転軸51はベアリング59を介してヨーク55に設けられた軸穴60に回転自在に支持されている。なお、回転軸51には非磁性体が用いられることが望ましい。
【0022】
円板52は、磁性体からなり、回転軸51と一体に軸線回りに回転可能となっている。これに対し、ケーシング56、ヨーク54,55等は所定場所に設置ないし固定され回転しないようになっている。
【0023】
ヨークは、当然に磁性体からなり、第1ヨーク54および第2ヨーク55で構成されている。第1ヨーク54は、円板52の表面52aに対して微小隙間を介して対向する対向面54aを有する円板状のもので構成されている。この第1ヨーク54は、円筒状のケーシング56に嵌め込まれて固定されている。
【0024】
第2ヨーク55は、円板52の裏面52bに対して微小隙間を介して対向する対向面55aを有する。この第2ヨーク55は、回転軸51を通すための軸穴60を有し、コイル57を配設するための環状の溝55bも有している。この第2ヨーク55は、円筒状のケーシング56の内側に嵌め込まれて固定されている。
【0025】
符号61は、非磁性体からなる球体であり、第1ヨーク54の中心部に形成された凹部と、円板52の中心に形成された貫通穴と、回転軸51の端面の中心に形成された凹部とで形成されるスペースに収容されている。この球体61は、第1ヨーク54と円板52との隙間の設定を容易にするためのものであり、球体61の直径によって、当該隙間が定まる。
【0026】
コイル57は、第2ヨーク55に形成された溝55bに沿って配設されている。このコイル57には、図示しない電流供給装置により任意値の電流が供給されるようになっている。
【0027】
磁気粘性流体58は、円板52と、第1ヨーク54および第2ヨーク55との隙間に封入されている。この磁気粘性流体58は、磁性粒子を分散媒に分散させてなる液体であり、特にその磁性粒子がナノサイズの金属粒子(金属ナノ粒子)からなるものが使用できる。磁性粒子は磁化可能な金属材料からなり、金属材料に特に制限はないが軟磁性材料が好ましい。軟磁性材料としては、例えば鉄、コバルト、ニッケル及びパーマロイ等の合金が挙げられる。分散媒は、特に限定されるものではないが、一例として疎水性のシリコーンオイルを挙げることができる。磁気粘性流体における磁性粒子の配合量は、例えば3〜40vol%とすればよい。磁気粘性流体にはまた、所望の各種特性を得るために、各種の
添加剤を添加することも可能である。
【0028】
上記構成を備える回転抵抗発生部50において、コイル57に電流が印加されると、矢印Pに示す方向に沿って円板52、第1ヨーク54、第2ヨーク55内に磁路が形成される。この磁路は、円板52の表面52aと第1ヨーク54の対向面54aとの隙間や、円板52の裏面52bと第2ヨーク55の対向面55aとの隙間に介在する磁気粘性流体58を貫通する。これにより、磁気粘性流体58には、磁場の強さに応じた粘度(ずり応力)が発現し、円板52とヨーク54,55との間での伝達トルクが磁場の強さに応じて大きくなり、その結果、回転軸51の回転抵抗もコイル57に印加される電流値に応じて大きくなる。
【0029】
<従動ユニット>
次に、従動ユニット20について説明する。従動ユニット20は、図1に示すように、モータ24、磁気粘性流体継手部70、従動部22等で主に構成されている。
【0030】
モータ24は、例えばエンコーダを内蔵したサーボモータからなり、その出力軸24aを制御部80(図5参照)から指示される回転角となるように変位(回転)させる。図1に示す例では、モータ24の出力軸24aは、カップリング27を介して中間シャフト71に回転一体に接続されている。中間シャフト71はケーシング25にベアリングを介して回転自在に支持されている。
【0031】
磁気粘性流体継手部70は、図4に示すように、中間シャフト71(モータ24の出力軸24a)とともに回転する入力回転部72と、出力回転部73と、入力回転部72と出力回転部73との間にトルク伝達可能に介在する磁気粘性流体74と、を有し、供給される電流値の大きさに応じた強さの磁場を、当該磁気粘性流体71に付与するように構成されている。本実施形態では、磁気粘性流体継手部70として、既述した回転抵抗発生部50と同じ構成のものを使用して、前記回転軸51に対応する部分を中間シャフト71とし、前記ヨーク54の中心に出力シャフト75を回転一体に接続したものとしている。なお、図4においては、図2に示す回転抵抗発生部50と同様の構成については同符号を付している。回転抵抗発生部50の円板52は、磁気粘性流体継手部70の入力回転部72に相当し、回転抵抗発生部50のヨーク54,55は、磁気粘性流体継手部70の出力回転部73に相当する。
【0032】
従動部22は、図1に示すように、出力シャフト75および出力回転部73の回転に連動して変位するものであり、本実施形態では、ケーシング25に固設されたサブケーシング26の先端部に設置されている。この従動部22は、それぞれ基端部がサブケーシング26に軸支された一対のアーム22A,22Bで構成されている。これらのアーム22A,22Bは互いに対称形状をしており、基端部を中心に回動することで先端部同士が接近離反する。そして、これらの先端部同士の間に所定の大きさの物体1を挟持できるようになっている。図1に示す例では、アーム22A,22Bの基端部に、互いに噛合したギヤ23A,23Bが固設されており、一方のギヤ23Bに出力シャフト75の動力が歯車機構28を介して伝達される。よって、出力シャフト75が正方向に回転すると、その回転動力がアーム22A,22Bの回動動作に変換され、当該アーム22A,22Bは、互いに先端部を接近させる方向に回動する。また、出力シャフト75が逆方向に回転すると、その回転動力がアーム22A,22Bの回動動作に変換され、当該アーム22A,22Bは、互いに先端部を離反させる方向に回動する。
【0033】
なお、図1に例示する歯車機構28は、出力シャフト75の先端部に設けられたかさ歯車28aと、紙面に直交する方向に回転軸を有し、前記かさ歯車28aと噛合したかさ歯車28bと、前記ギヤ23Bと回転一体に設けられ、前記かさ歯車28bと噛合したかさ歯車28cとで構成されている。このかさ歯車28cは、一般的なかさ歯車であってもよいが、図1に示す例では、一般的なかさ歯車の全歯数のうちの一部の歯数部分(例えば全歯数の1/5の歯数部分)を切り出したものとなっている。なお、かさ歯車28b,28cは、サブケーシング26に回転自在に支持されている。
【0034】
本実施形態では、操作ユニット10(図3参照)の第2把持部12bの回動中心から操作力が入力される所定の力点12b1までの回動半径R1と、アーム22A,22Bの回動中心から先端部の物体1を掴む位置までの回動半径R2がほぼ同一寸法とされている。また、第2把持部12bの回転角(回転量)とモータ24の回転角(回転量)とが一致するように、モータ24の回転角(回転量)が制御されるようになっている。更に、中間シャフト71と出力シャフト75とが一体に回転すると仮定した場合に、2つの把持部12a,12bの相対的な回動角(回動量)と、2つのアーム22A,22Bの相対的な回動角(回動量)とが一致するように、歯車機構28、ギヤ23等におけるギヤ減速比が設定されている。
【0035】
なお、本実施形態では、アーム22A,22Bが閉回動する際に、物体1から反力を受けていない場合は、入力回転部72と出力回転部73は基底トルクにより一体回転するようになっている。ここで、基底トルクとは、磁気粘性流体に磁場を印加していないときに、入力回転部72と出力回転部73の間で伝達可能なトルクである。
【0036】
<制御部>
図5に、力覚提示装置の制御系のブロック図を示す。制御部80は、例えば、マイクロコンピュータ等で構成される。この制御部80には、操作ユニット10の回転量検出部14から第2把持部12bの回転に関する情報と、モータ24の内蔵エンコーダ24bからモータ24の出力軸24aの回転に関する情報と、従動ユニット20の出力シャフト75に設けられた従動部エンコーダ83から出力シャフト75の回転に関する情報とが入力される。制御部80はこれらの入力情報に基づいて、モータ24の回転制御と、回転抵抗発生部50のコイル57および磁気粘性流体継手部70のコイル57に供給する電流値の制御を行う。
【0037】
制御部80が行うモータ24の回転制御は、操作ユニット10の回転量検出部14の出力信号から検出される支軸17の回転角(回転量)に応じて、サーボモータであるモータ24の出力軸24aを回転させる制御である。本実施形態では、制御部80は、支軸17の回転角(回転量)とモータ24の出力軸24aの回転角(回転量)を一致させる制御を行う。
【0038】
制御部80が行う磁気粘性流体継手部70へ供給する電流値の制御は、モータ24の回転速度N1(=入力回転部72の回転速度)から出力シャフト75の回転速度N2(=出力回転部73の回転速度)を差し引いて得られる差回転速度ΔNをゼロに近づけるフィードバック制御により行われる。また、回転抵抗発生部50へは、磁気粘性流体継手部70へ供給する電流値と同じ値の電流が供給される。したがって、差回転速度ΔNが正値であればその大きさに応じて、磁気粘性流体継手部70のコイル57に供給される電流値が上昇し、磁気粘性流体74の粘度も上昇することから、差回転速度ΔNはゼロ近傍に抑制される。差回転速度ΔNが0になれば、磁気粘性流体継手部70コイル57に供給される電流値は維持される。
【0039】
その後、操作者が操作ユニットの把持部12a,12b同士を開く操作を行った場合、制御部80は、そのこと(支軸17、回転軸51の逆方向への回転)を回転量検出部14の出力情報を介して検出し、直ちに、磁気粘性流体継手部70および回転抵抗発生部50のコイル57への電流の供給を停止する。
【0040】
次に、以上のように構成された触覚提示装置の使用形態の一例について説明する。まず、手動にて従動ユニット20のアーム22A,22Bを開き、アーム22A,22Bの先端部の間に、この間より小さな物体1(例えば球状の物体1)を配置する。また、操作ユニット10の把持部12a,12bもアーム22A,22Bの先端部の間と同程度に開いた状態にする。
【0041】
次に、上記状態から、操作者により把持部12a,12b同士を接近させる操作がなされると、第2把持部12bが図3の2点鎖線で示す位置から実線で示す位置に向かって支軸17を中心に時計方向に回動する。この第2把持部12bの回動に伴って、支軸17が回転すると、制御部80によって、支軸17の回転角(回転量)とモータ24の出力軸24aの回転角(回転量)とを一致させようとする制御が実行され、モータ24の出力軸24aは、支軸17と同じ量だけ回転する。
【0042】
このとき、磁気粘性流体継手部70の入力回転部72と出力回転部73との間の伝達トルクは、基底トルク以下であるため、入力回転部72と出力回転部73とは一体に回転し、アーム22A,22Bの先端部間の距離は把持部12a,12b間の距離とシンクロするように小さくなる。
【0043】
その後、アーム22A,22Bの先端部が物体1を掴み始めると、その後は、アーム22A,22Bが物体1から反力を受けるため、アーム22A,22Bと機械的に繋がった出力回転部73を回転させるために必要なトルクが基底トルクを上回り、入力回転部72と出力回転部73との間で回転速度差(差回転速度ΔN)が生じようとする。しかし、制御部80は、その差回転速度ΔNをゼロに近づけるように、磁気粘性流体継手部70コイル57に供給する電流値を上昇させ、同じ値の電流を回転抵抗発生部50にも供給する。その結果、回転抵抗発生部50によって第2把持部12bを操作する操作者の指先に操作抗力が付与され、従動ユニット20のアーム22A,22Bによって掴まれている物体1の力覚が操作者の指先に提示される。
【0044】
その後、操作者が第2把持部12bを第1把持部12aから離反する方向に回動操作すると、制御部80は、回転量検出部14の出力情報からそのことを検出し、磁気粘性流体継手部70および回転抵抗発生部50のコイル57への電流供給を停止する。これにより、把持部12a,12b、アーム22A,22Bを容易に手で開くことができるようになる。
【0045】
以上の説明から明らかなように、本発明の実施形態に係る力覚提示装置によれば、従来例に係る力覚提示装置のひずみゲージおよびこれに係る換算情報を使用しなくても、従動ユニット20のアーム22A,22Bに掴まれている物体1の力覚を操作ユニット10において操作者にリアルに提示することが可能である。また、操作ユニット10と従動ユニット20のおかれる温度環境が同じであれば、操作ユニット10において提示される力覚が温度による悪影響を受けることは殆どない。
【0046】
<他の実施形態>
既述した実施形態では、第2把持部12bの回動中心から操作力が入力される所定の力点12b1までの回動半径R1とアーム22A,22Bの回動中心から先端部の物体1を掴む位置までの回動半径R2とがほぼ同一寸法とされ、第2把持部12bの回転角(回転量)とモータ24の回転角(回転量)とが一致するように、モータ24の回転角(回転量)が制御されるものであったが、上記寸法、制御はこれに限定されない。例えば、上記回動半径R1と上記回動半径R2とを相違させ、第2把持部12bの回転角(回転量)とモータ24の回転角(回転量)とを相違させたものであっても、歯車機構28、ギヤ23等におけるギヤ減速比を適宜設定することにより、従動ユニット20のアーム22A,22Bによって掴まれている物体1の力覚を操作ユニットを操作する操作者の指先に提示することは可能である。
【0047】
また、既述した実施形態では、モータ24にエンコーダ24bが内蔵されていたが、エンコーダが内蔵されていないモータを使用する場合は、中間シャフト71にエンコーダを取り付けることにより、既述した実施形態と同様の制御を実施することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、例えば、操作者の手元から離れた場所にある物体の力覚を操作者の指先等に提示する力覚提示装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 物体
10 操作ユニット
12 操作部
12a 第1把持部
12b 第2把持部(変位部)
14 回転量検出部(変位量検出部)
17 支軸(変位部の変位動作に連動して回転する回転部)
20 従動ユニット
22 従動部
22A,22B アーム
24 モータ
24a 出力軸
24b モータ内蔵エンコーダ
50 回転抵抗発生部
51 回転軸(変位部の変位動作に連動して回転する回転部)
58 磁気粘性流体
70 磁気粘性流体継手部
72 入力回転部
73 出力回転部
74 磁気粘性流体
80 制御部
83 従動部エンコーダ
図1
図2
図3
図4
図5