(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6554416
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】ろう付け後に優れた耐食性を有するストリップ
(51)【国際特許分類】
C22C 21/00 20060101AFI20190722BHJP
C22F 1/04 20060101ALI20190722BHJP
F28F 21/08 20060101ALI20190722BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20190722BHJP
【FI】
C22C21/00 E
C22C21/00 J
C22F1/04 Z
F28F21/08 B
!C22F1/00 606
!C22F1/00 623
!C22F1/00 627
!C22F1/00 640A
!C22F1/00 651A
!C22F1/00 683
!C22F1/00 685Z
!C22F1/00 686A
!C22F1/00 691B
!C22F1/00 694A
【請求項の数】25
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-524226(P2015-524226)
(86)(22)【出願日】2013年7月26日
(65)【公表番号】特表2015-529747(P2015-529747A)
(43)【公表日】2015年10月8日
(86)【国際出願番号】SE2013050932
(87)【国際公開番号】WO2014017976
(87)【国際公開日】20140130
【審査請求日】2016年5月20日
(31)【優先権主張番号】1250901-4
(32)【優先日】2012年7月27日
(33)【優先権主張国】SE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】512069256
【氏名又は名称】グランジェス・スウェーデン・アーべー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アンデシュ・オスカーション
(72)【発明者】
【氏名】スコット・ハラー
(72)【発明者】
【氏名】ベヴィス・ハッチンソン
【審査官】
鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−158769(JP,A)
【文献】
特表2005−523164(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第02065180(EP,A1)
【文献】
伊藤泰永、外1名,アルミニウムろう付における侵食について,住友軽金属技報,日本,1989年 4月,Vol.30 No.2,Page.103-113
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00 − 21/18
C22F 1/04 − 1/057
F28F 21/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムベースの合金のコア、並びに、前記コア及びAl−Siベースのクラッドの間に位置するように構成される中間層を含む、耐食性ストリップであって、
前記中間層が、重量百分率で、
Si≦0.9%;
Fe≦0.7%;
Cu≦0.5%;
Mn=0.5〜1.8%;
Mg≦0.7%;
Zn≦4.0%;
Ni≦1.5%;
0.05〜0.2%のZr、Ti及び/又はCr;
それぞれ0.05%以下及び合計で0.15%以下である不可避不純物元素;及び
残部であるAl;
からなる組成を有し、
ろう付け後に前記コアが前記中間層より不活性であるように、前記コアの組成及び前記中間層の組成が選択され、
ろう付け後に前記中間層が、P−集合組織{110}<111>成分の少なくとも50%の体積分率を示すように前記中間層の組成が選択され、ろう付け後の前記中間層の平均粒径が、少なくとも100μmである、耐食性ストリップ。
【請求項2】
アルミニウムベースの合金のコア、並びに、前記コア及びAl−Siベースのクラッドの間に位置するように構成される中間層を含む、耐食性ストリップであって、
前記中間層が、重量百分率で、
Si≦0.7%;
Fe≦0.7%;
Cu≦0.5%;
Mn=0.5〜1.8%;
Mg≦0.7%;
Zn≦4.0%;
Ni≦1.5%;
0.05〜0.2%のZr、Ti及び/又はCr;
それぞれ0.05%以下及び合計で0.15%以下である不可避不純物元素;及び
残部であるAl;
からなる組成を有し、
ろう付け後に前記コアが前記中間層より不活性であるように、前記コアの組成及び前記中間層の組成が選択され、
前記中間層が、P−集合組織{110}<111>成分の少なくとも50%の体積分率を示し、ろう付け後の前記中間層の平均粒径が、少なくとも100μmである、請求項1に記載の耐食性ストリップ。
【請求項3】
前記中間層が、1%以下のZnを含む、請求項1又は2に記載の耐食性ストリップ。
【請求項4】
前記中間層が、0.5%以下のZnを含む、請求項3に記載の耐食性ストリップ。
【請求項5】
前記コアが、重量百分率で、
Si≦1.0%;
Fe≦0.7%;
Cu≦1.0%;
Mn=0.5〜1.8%;
Mg≦0.7%;
Zn≦0.5%;
Ni≦1.5%;
0.05〜0.2%のZr、Ti及び/又はCr;
それぞれ0.05%以下及び合計で0.15%以下である不可避不純物元素;及び
残部であるAl;
からなる組成を有する、請求項1から4の何れか一項に記載の耐食性ストリップ。
【請求項6】
前記コアのSi含有量が、0.15%以下である、請求項5に記載の耐食性ストリップ。
【請求項7】
4〜13%のSiを含むアルミニウムろう付け材料であるAl−Siベースのクラッドを含む、請求項1から6の何れか一項に記載の耐食性ストリップ。
【請求項8】
1〜4%のSiを含むアルミニウム合金であるAl−Siベースのクラッドを含む、請求項1から6の何れか一項に記載の耐食性ストリップ。
【請求項9】
取り付けられた各中間層の厚さが、前記ストリップの総厚の2〜20%の間である、請求項1から8の何れか一項に記載の耐食性ストリップ。
【請求項10】
前記中間層が、最終状態において、30〜400nmの範囲の直径を有する粒子の、少なくとも1×106から20×106粒子/mm2の範囲の分散質粒子密度でMnリッチの粒子を含む、請求項1から9の何れか一項に記載の耐食性ストリップ。
【請求項11】
ろう付け後の前記中間層の平均粒径が、少なくとも150μmである、請求項1から10の何れか一項に記載の耐食性ストリップ。
【請求項12】
コア、並びに前記コア及びAl−Siベースのクラッドの間に位置するように構成される中間層を含む耐食性ストリップの製造方法であって、
前記方法が、
アルミニウムベースの合金のコアインゴットを提供する段階;
前記コアインゴットに中間層を付ける段階であって、
前記中間層が、重量百分率で、
Si≦0.9;
Fe≦0.7%;
Cu≦0.5%;
Mn=0.5〜1.8%;
Mg≦0.7%;
Zn≦4.0%;
Ni≦1.5%;
0.05〜0.2%のZr、Ti及び/又はCr;
それぞれ0.05%以下及び合計で0.15%以下である不可避不純物元素;及び
残部であるAl;
からなる組成を有し、前記コアが、ろう付け後に前記中間層より不活性である段階;
30〜400nmの範囲の直径を有する粒子の1×106から20×106粒子/mm2の範囲の分散質粒子密度を有して、最終状態において、分散質粒子が前記中間層に形成されるように、少なくとも前記中間層を380〜520℃の温度に予備加熱する段階;
コア及び中間層を有するストリップを得るために熱間圧延をする段階;
前記中間層の再結晶化を引き起こす最終的な熱処理の後に、前記中間層が、少なくとも90%の高さまで減少するように、前記得られたストリップを冷間圧延する段階;
前記中間層の再結晶化なしに焼き戻しすることによって前記中間層の材料を軟化させる目的で最終送出調質まで前記冷間圧延されたストリップを200〜500℃で少なくとも10分間熱処理する段階であって、前記中間層のP−集合組織{110}<111>成分が、ろう付け後に少なくとも50%の体積分率を示すように前記中間層の組成が選択され、ろう付け後の前記中間層の平均粒径が、少なくとも100μmである段階;
を含む、耐食性ストリップの製造方法。
【請求項13】
コア、並びに前記コア及びAl−Siベースのクラッドの間に位置するように構成される中間層を含む耐食性ストリップの製造方法であって、
前記方法が、
アルミニウムベースの合金のコアインゴットを提供する段階;
前記コアインゴットに中間層を付ける段階であって、
前記中間層が、重量百分率で、
Si≦0.7%;
Fe≦0.7%;
Cu≦0.5%;
Mn=0.5〜1.8%;
Mg≦0.7%;
Zn≦4.0%;
Ni≦1.5%;
0.05〜0.2%のZr、Ti及び/又はCr;
それぞれ0.05%以下及び合計で0.15%以下である不可避不純物元素;及び
残部であるAl;
からなる組成を有し、前記コアが、ろう付け後に前記中間層より不活性である段階;
30〜400nmの範囲の直径を有する粒子の1×106から20×106粒子/mm2の範囲の分散質粒子密度を有して、最終状態において、分散質粒子が前記中間層に形成されるように、少なくとも前記中間層を380〜520℃の温度に予備加熱する段階;
コア及び中間層を有するストリップを得るために熱間圧延をする段階;
前記中間層の再結晶化を引き起こす最終的な熱処理の後に、前記中間層が、少なくとも90%の高さまで減少するように、前記得られたストリップを冷間圧延する段階;
前記中間層の再結晶化なしに焼き戻しすることによって前記中間層の材料を軟化させる目的で最終送出調質まで前記冷間圧延されたストリップを200〜500℃で少なくとも10分間熱処理する段階であって、前記中間層のP−集合組織{110}<111>成分が、ろう付け後に少なくとも50%の体積分率を示すように前記中間層の組成が選択され、ろう付け後の前記中間層の平均粒径が、少なくとも100μmである段階;
を含む、請求項12に記載の耐食性ストリップの製造方法。
【請求項14】
前記得られたストリップの冷間圧延が、少なくとも95%の高さまで低減された前記中間層をもたらす、請求項12又は13に記載の耐食性ストリップの製造方法。
【請求項15】
前記得られたストリップの冷間圧延が、少なくとも99%の高さまで低減された前記中間層をもたらす、請求項12又は13に記載の耐食性ストリップの製造方法。
【請求項16】
コア合金が、重量百分率で、
Si≦1.0%;
Fe≦0.7%;
Cu≦1.0%;
Mn=0.5〜1.8%;
Mg≦0.7%;
Zn≦0.5%;
Ni≦1.5%;
0.05〜0.2%のZr、Ti及び/又はCr;
それぞれ0.05%以下及び合計で0.15%以下である不可避不純物元素;及び
残部であるAl;
からなる組成を有する、請求項12から15の何れか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記コアのSi含有量が0.15%以下である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記中間層が、中間層インゴットとして提供され、前記コアインゴットに取り付けられ、あるいは、前記コアインゴットに直接鋳造される、請求項12から17の何れか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記コアインゴット、あるいは前記中間層が取り付けられた前記コアインゴットが、前記熱間圧延の前に520℃以下の温度で均質化に晒される、請求項12から18の何れか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記コアインゴットが、前記熱間圧延の前に520℃を超える温度で均質化に晒される、請求項12から18の何れか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記中間層に分散質粒子を形成するように熱間圧延の前に、少なくとも前記中間層が、400〜520℃の温度に予備加熱される、請求項12から20の何れか一項に記載の方法。
【請求項22】
30〜400nmの直径を有する粒子の、1×106〜20×106粒子/mm2の範囲の分散質粒子密度が得られるように、前記予備加熱の温度及び時間が制御される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
ろう付け後における前記中間層の平均粒径が、少なくとも100μmであるように制御される、請求項12から22の何れか一項に記載の方法。
【請求項24】
ろう付け製品の製造における、請求項1から11の何れか一項に記載の耐食性ストリップの使用。
【請求項25】
請求項1から11の何れか一項に記載の耐食性ストリップを含むろう付けされた熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、概して、ろう付け後に優れた耐食性を有し、特に熱交換器に使用されるチューブ及び/又はプレートで作られる部品などの、ろう付けによる部品を製造するためのストリップに関連する。チューブ又はプレートは、用途に応じて、ろう付けクラッドの有無にかかわらず与えられ得る。
【0002】
本明細書はまた、このようなストリップを製造する方法に関連する。
【背景技術】
【0003】
シート厚さの低減及び/又はろう付けされたアルミニウム熱交換器に対する厳しい腐食環境における新規な用途は、より複雑な材料が、ろう付けされた最終的な製品における改善された耐食性能を有するこれらの製品に使用されることを要求する。ろう付けされる前にユニットを組み立てる種々の部品の1つの又は幾つかの側部に付けられている金属フィラーによって接合が生成されることが、これらの製品において一般的である。最も一般的な構成は、溶融していないコア及びAl−Si合金からなるクラッドを有する圧延ストリップを使用することである。このクラッドは、通常、約600℃におけるろう付け中に溶融する約4〜13%のシリコンを含む。接合は、所望の接続部位への金属フィラーの毛細管流動によって生成し、凝固して個々の部品間に固体の金属結合を形成する。
【0004】
ろう付けされた熱交換器は、共にろう付けされたチューブ、フィン、プレート等の種々の部品からなる。種々の合金が、一般的にチューブ、プレート等に使用され、これらの部品は、しばしば電気化学的に犠牲的なフィンによって腐食から保護される。ある用途及び熱交換器の一部においては、これは十分ではないが、チューブ/プレートは、それら自体に非常に良好な耐食性能を必要とする。熱交換器のための種々のデザインは、チューブ、フィン等において種々の方法を使用し得、ろう付けクラッドは、何れか一方に付けられ得る。しばしば、ろう付けクラッドは、チューブ及びプレート材料に付けられる。
【0005】
種々のタイプの部品において種々の合金を使用する理由は、ろう付けされた熱交換器において、通常、フィンを犠牲にすることによってチューブ及びプレートの穴開きに対する腐食を避けるために、種々のフィン、チューブ及びプレート部品において種々の合金を選択する必要があるということである。種々の合金の使用は、しばしば、例えばろう付けされた熱交換器などの他の部品と比較して十分なレベルまでそれらの腐食電位を低減させるためにフィンをZnと合金化することによって行われる。このような結論において、チューブ及びプレートに使用される材料は、通常、それらの腐食電位を増加させる目的で、Mn及びCuの添加物を有する。
【0006】
現在の更なる試みは、自動車市場における軽量部品を製造することである。従って、多くの研究は、他の製品及び製造特性を犠牲にすることなく、より薄いストリップ材料を使用することによって、熱交換器の重量を低減させる能力に向けられている。このようにすることを可能にするために、一般的に使用される材料に比べて、依然として十分な耐食特性を有しながらも、より高いろう付け後の強度を有する新規な材料を生成することが必要である。チューブ及びプレートにおいて、これは、それらが、通常、他の部品よりも高い腐食電位を有することによって熱交換器の他の部品によって犠牲的に保護されるべきであることを意味する。ろう付け後の高い強度を達成することは、耐食性及びろう付け中における液体コア浸透を危うくすることなく、相当に複雑である。液体コア浸透は、ろう付け製品の耐食性を劇的に減少させる。これらの要求が新規な材料によって相変わらず満たされない場合のみ、これは、ろう付け後における高い強度を有するより薄いチューブの使用を可能にし、それによって現在使用されている製品と比較して重量を低減させる。
【0007】
所謂長寿命の合金は、コアの中心よりも表面において低い腐食電位を生成することによってろう付け後に犠牲的な表面層を生成することによって改善された耐食性能を与えるために開発されている。これらの合金は、基本的に、腐食特性が非常に大きいチューブ及びプレート用途を対象としている。表面におけるより低い腐食電位は、コアの表面よりもコアの中心における固溶体中のより多いマンガン及び銅の存在のためである。これは、コア組成及びその前の工程と共に、特にコア及びろう付けクラッドの間のシリコン及び銅の拡散のためである。犠牲表面はまた、ろう付け中にコア中心に向かって拡散する亜鉛でクラッド層を合金化することによって生成され得る。ろう付け後の表面におけるより高い亜鉛レベルは、コア中心と比較して犠牲的である。この原理は、溶融していないクラッドによる水側腐食保護及び溶融ろう付けクラッドの両方に使用される。
【0008】
一般的に、ストリップ材料は、成形前に種々のテンパーに送られ得る。最初にH1X(例えば、H14又はH16)の変形条件に送られ、より少ない程度にH2X(例えばH24又はH26)の変形条件に送られた場合、これは、成形性問題を引き起こし得る。Oテンパーに送られ、ろう付け前に変形された場合、問題は、乏しいろう付け性能及びろう付け後の非常に乏しい腐食性能を与えるろう付け中に、所謂液膜移動(LFM)を有して起こる。ろう付け中における液体コア浸透は、ろう付け性能及びろう付け後の性能、すなわち腐食性能を低下させる。これらの問題は、最終製品に使用される最終ゲージが薄くなればなるほど、より厳しくなる。特に、ろう付け後における非常に良好な腐食性能に対する非常に強い要求を満たすことが難しい。
【0009】
多層コンセプトは、利用可能であり、ろう付け中にろう付けクラッドからコアが保護されなければならない、及び/又は、ろう付け後の腐食保護が改善されなければならない。
【0010】
米国特許第6,555,251号に開示された前述の方法において、四層の材料が作られ、中間層は、コア材料よりも高いSiの含有量を有する。しかしながら、この材料は、十分な耐食性及びろう付け浸透に対する抵抗性を有しない。
【0011】
熱交換器用のストリップ又はシートを製造する他の方法は、0.5%以下のFe、1.0〜1.8%のMn、0.3〜1.2%のSi、0.3%以下のMg、0.1%以下のCu、0.1%以下のZn、0.1%以下のTi、0.05〜0.4%のCr+Zr、0.15%以下のSn、残部のアルミニウム及び不可避不純物を含み、SnとSiの比(%)が0.03以上である合金が開示されている米国特許第6,743,396号において知られる。インゴットが鋳造され、続いて最大で12時間、520℃未満の温度で予備加熱されて初期圧延され、250℃以上の温度で最終的な熱間圧延で2から10mmの厚さまで熱間圧延される。最終的な焼鈍しは、材料が完全に又は実質的に再結晶化されることを意味する少なくとも300℃の温度で行われる。この文献には、ろう付け中におけるコア浸透について言及がなく、ろう付け後における耐腐食性が言及されていない。高い最終焼鈍し温度は、通常、本発明者による発明の詳細な説明に従って完全に又は部分的に再結晶化された構造体を与える。中間層としてのこの材料の使用についても言及がない。
【0012】
製造業者がダウンゲージする必要がある場合に、既に周知の方法に従って製造された材料の実際の試験において、アルミニウムストリップの特性が特定の用途において不十分であることが示されている。これは、特に、この材料の液体コア浸透に対する低い感受性及び高い耐食性と結び付けられたろう付け後の高い強度に当て嵌まる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第6,555,251号明細書
【特許文献2】米国特許第6,743,396号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、ろう付けされた部品又は製品の製造の用途を対象とするストリップ材料であり、前記ストリップ材料は、ろう付け後に優れた耐食性を有する。このストリップは、第1に、クラッドチューブ及びクラッドプレートを対象とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的は、独立請求項1に記載の耐食性ストリップ及び独立請求項15に記載の耐食性ストリップの製造方法によって達成される。実施形態は、従属請求項によって定義される。
【0016】
本発明は、優れたろう付け性能を有すると共にろう付け後における優れた腐食特性及び高い強度を有することによって、従来技術の問題を解決する。
【0017】
本発明は、優れたろう付け性能を有すると共にろう付け後における優れた腐食特性及び高い強度を有することによって、従来技術の問題を解決する。同時に、本発明によるストリップは、形成可能性が非常に高いものであり得る。本発明によるストリップは、種々の形成及びろう付けサイクルにおけるろう付け中に全てのタイプの液体コア浸透に対して極めて抵抗性である。その理由は、本発明によって定義される中間層の制御された特徴である。
【0018】
ストリップは、コアを含む。前記コアは、以下では中間層として示される介在層を有して一側又は任意に両側にあるクラッドである。あるいは、中間層は、ろう付けを有するクラッドではない。
【0019】
本発明による耐食性ストリップは、アルミニウムベースの合金のコア、並びに、コア及び任意のAl−Siベースのクラッドの間に位置するように構成される中間層を含む。中間層は、必須的に以下の組成を有する(重量百分率で):
Si≦0.9%、適切には≦0.7%、好ましくは0.1〜0.55%、
より好ましくは0.15〜0.40%;
Fe≦0.7%、好ましくは≦0.5%、より好ましくは≦0.3%;
Cu≦0.5%、好ましくは≦0.2%、より好ましくは≦0.1%、最も好ましくは≦0.05%;
Mn=0.5〜1.8%、好ましくは0.7〜1.7%、より好ましくは0.9〜1.6%;
Mg≦0.7%、好ましくは≦0.3%、より好ましくは≦0.15%、最も好ましくは≦0.05%;
Zn≦4.0%、好ましくは≦1.0%、より好ましくは≦0.5%、最も好ましくは≦0.1%;
Ni≦1.5%、好ましくは≦1.0%、より好ましくは≦0.5%;
それぞれ0.3%以下及び合計で0.5%以下、それぞれ0.05%以下及び合計で0.15%以下である、不可避不純物元素の周期律表のIVb、Vb及び/又はVIb族から選択される元素;
残部であるAl。
【0020】
コアは、それぞれコア及び中間層の組成を適切に選択することによって達成されるろう付けの後における中間層より不活性である。さらに、中間層は、集合組織成分の少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも70%、最も好ましくは少なくとも85%の体積分率を示す。
【0021】
一実施形態によれば、集合組織成分は、P−集合組織{110}<111>、立方{001}<100>、回転立方{001}<110>又は{001}<310>及びゴス集合組織{011}<100>成分、好ましくはP−集合組織{110}<111>からなる群から選択される1つである。
【0022】
中間層が、特定の集合組織成分を有するという事実は、相対的に溶融浸透に対して抵抗性であるタイプの粒界をもたらし、そのため、ろう付け中において液体コア浸透に対する良好な抵抗性を有するストリップをもたらす。
【0023】
本発明によるストリップは、
アルミニウムベースの合金のコアインゴットを提供する段階;
コアインゴットに中間層を取り付ける段階;
任意に、中間層にAl−Siクラッドを取り付ける段階であって、中間層が、重量百分率で、必須的に、
Si≦0.9%、適切には≦0.7%、好ましくは0.1〜0.55%、より好ましくは0.15〜0,40%;
Fe≦0.7%、好ましくは≦0.5%、より好ましくは≦0.3%;
Cu≦0.5%、好ましくは≦0.2%、より好ましくは≦0.1%;最も好ましくは≦0.05%;
Mn=0.5〜1.8%、好ましくは0.7〜1.7%、より好ましくは0.9〜1.6%;
Mg≦0.7%、好ましくは≦0.3%、より好ましくは≦0.15%、最も好ましくは≦0.05%;
Zn≦4.0%、好ましくは≦1.0%、より好ましくは≦0.5%、最も好ましくは≦0.1%;
Ni≦1.5%、好ましくは≦1.0%、より好ましくは≦0.5%;
それぞれ0.3%以下及び合計で0.5%以下、それぞれ0.05%以下及び合計で0.15%以下である、不可避不純物元素の周期律表のIVb、Vb及び/又はVIb族から選択される元素;
残部であるAl;
からなる組成を有し、コアが、ろう付け後に中間層より不活性である段階;
任意に、中間層が取り付けられたインゴットを予備熱処理に晒す段階;
コア及び中間層を有するストリップを得るために熱間圧延をする段階;
中間層の再結晶化を引き起こす最終的な熱処理の後に、中間層が、少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97.5%の高さまで減少するように、得られたストリップを冷間圧延する段階;
中間層の再結晶化なしに焼き戻しすることによって材料を軟化させる目的で
最終送出調質まで冷間圧延されたストリップを熱処理する段階;
を含む方法によって生成され得る。
【0024】
中間層は、例えば中間層インゴットとして提供され、コアインゴットに取り付けられ、あるいは、コアインゴットに直接鋳造され得る。
【0025】
ろう付け中における中間層材料の再結晶化における正味の駆動力の非常に正確な制御によって、ろう付け中における液体コア浸透の例外的に低い感受性が得られることが見出されている。再結晶化のために正味の駆動力は、蓄えられた変形から、粒子の数密度によって与えられる遅延圧力を引いたものによって生成される駆動力である。本発明によるストリップ材料は、ろう付け前における再結晶化なしに中間層の正確な低温変形に加えて、組成の組合せによってろう付け中における材料の再結晶化のための正確な正味の駆動力を得る。高程度の正確性はまた、再結晶化のために制御された遅延を供給する粒子の数密度及び繰り返しサイズを実現するために、鋳造プロセス及び熱処理において必要である。
【0026】
本発明の一実施形態によれば、コアは、必須的に(重量百分率で)、
Si≦1.0%、好ましくは≦0.5%、より好ましくは≦0.3%、最も好ましくは≦0.15%;
Fe≦0.7%、好ましくは≦0.5%、より好ましくは≦0.3%;
Cu≦1.0%、好ましくは0.1〜1.0%、より好ましくは0.3〜0.9%;最も好ましくは0.3〜0.7%;
Mn=0.5〜1.8%、好ましくは0.7〜1.7%、より好ましくは0.9〜1.6%;
Mg≦0.7%、好ましくは≦0.5%、より好ましくは≦0.3%;
Zn≦0.5%、好ましくは≦0.3%、より好ましくは≦0.1%、最も好ましくは≦0.05%;
Ni≦1.5%、好ましくは≦1.0%、より好ましくは≦0.5%;
それぞれ0.3%以下及び合計で0.5%以下、それぞれ0.05%以下及び合計で0.15%以下である、不可避不純物元素の周期律表のIVb、Vb及び/又はVIb族から選択される元素;
残部であるAl;
からなる組成を有する。
【0027】
さらなる実施形態によれば、ろう付け後における中間層の平均粒径は、少なくとも100μm、好ましくは少なくとも150μm、より好ましくは少なくとも250μm、さらに好ましくは少なくとも300μm、最も好ましくは少なくとも400μmであるように制御される。
【0028】
さらなる実施形態によれば、中間層は、
最終状態において、30〜400nmの範囲の直径を有する粒子の、少なくとも1×10
6から20×10
6、好ましくは1.3×10
6から10×10
6、最も好ましくは1.4×10
6から7×10
6粒子/mm
2の範囲の分散質粒子密度でMnリッチの粒子を含む。
【0029】
他の実施形態によれば、ストリップの特性は、追加的に、最終的な熱処理後に(焼き戻しによって材料を軟化させる目的で)、冷間圧延、テンションレベリング、及びあるレベルの低温作業を与える他の同様の方法によって改善され得、ここで、コアは、0.05〜20%、好ましくは0.05〜15%、より好ましくは0.05〜10%、最も好ましくは0.05〜5%の範囲の低温作業で再結晶化しない。このように、中間層の粒径は、追加的に調整され得る。得られた材料は、良好なろう付け性能及び例外的にろう付け後における高い耐食性及びろう付け中における液体コア浸透に対する低い感受性を有する独特の組合せで、ろう付け後に高い強度を有し得る。同時に、
最終送出調質の良好な成形性は、達成され得る。コアが犠牲的に保護されるように、介在層は、材料のコア層に対して調整され得る腐食電位を有する。
【0030】
本発明はまた、ろう付けされた製品の製造における耐食性ストリップの使用と共に、耐食性ストリップを含むろう付けされた熱交換器を提供する。
【0031】
ストリップは、あらゆるろう付け方法、特に制御雰囲気ろう付け法(CAB:Controlled Atmosphere Brazing)によって製品を作るために使用される。しかしながら、適切な量のマンガンを含むろう付け合金の使用は、真空ろう付けにおいても本発明によるシートの使用を可能にし得る。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、45日間のSWAAT後における本発明による材料の積層された試片の断面を示し、(a)は、0.15mmの試料3a、(b)は0.20mmの試料3b、(c)は、0.25mmの試料3cである。
【
図2】
図2は、60日間のSWAAT後における本発明による材料の積層された試片の断面を示し、(a)は、0.15mmの試料3a、(b)は0.20mmの試料3b、(c)は、0.25mmの試料3cである。
【
図3】
図3は、74日間のSWAAT後における本発明による材料の積層された試片の断面を示し、(a)は、0.15mmの試料3a、(b)は0.20mmの試料3b、(c)は、0.25mmの試料3cである。
【
図4】
図4は、黒色で満たされた集合組織{110}<111>を従う粒子及び薄い灰色で満たされた全ての他の集合組織成分を有する粒子で示された、本発明による中間層を示す。画像の高さスケールは、視覚的明確性のために幅スケールと異なる。その高さは、約20μmである。
【
図5】
図5は、本発明による中間層のODF(方位分布関数)を示す。
【
図6】
図6は、比較材料で作られた中間層のODFを示す。
【
図7】
図7は、ろう付け前に軽く焼鈍しされて4%伸ばされている比較材料を示すろう付け後の粒子の微小構造画像を示す。中間層を有する側部は、液膜移動を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、特定の好ましい実施形態を参照して以下に詳細に記載されるだろう。しかしながら、本発明が、開示された特定の実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲の範疇で変更し得ることに留意されるべきである。
【0034】
本発明によるストリップは、良好な穴あけ抵抗の形態のろう付け後における優れた耐食性、及び、ろう付け中における液体コア浸透に対する非常に低い感受性を有する。ストリップはまた、
最終状態における良好な成形特性、及び/又は、使用されるコア材料の化学的性質/製造方法に依存した、ろう付け後における高い強度が備えられ得る。
【0035】
ストリップの製造は、数段階で行われる。一実施形態によれば、ストリップは、第1にクラッドのスラブ、中間層及びコア材料の鋳造によって生成される。最外層のクラッドスラブ材料は、次いで、適切なプレートの厚さへのブレークダウン圧延の前に、標準的な工業的操作及び手順に従って剥がされ、予備加熱され、ここで適当な長さに切断される。中間層材料は、剥がされ、520℃以下、380℃以上の温度まで予備加熱され、適切なプレート厚さへのブレークダウン圧延の前の温度で1〜24時間、浸され、ここで適当な長さに切断される。次いで、中間層プレートは、例えばコア/中間層界面の長い側面に沿った溶接等の適切な取付方法を用いて一側又は両側においてコアに取り付けられる。それに続いて、第2のプレート、例えばろう付けプレートは、例えばろう付け/中間層界面の長い側面に沿った溶接を用いて中間層プレートに取り付けられる。任意に、中間層プレートは、それに取り付けられる第2のプレートなしに取り付けられる。任意に、第2のプレートは、第2のプレート及びコアの間の中間層なしに一側に取り付けられ得る。
【0036】
ろう付け金属浸透に対する抵抗性をさらに改善するために、コアは、520℃以下、好ましくは490℃未満、より好ましくは460℃未満の温度で不均質化又は均質化され得る。
【0037】
高い成形性が望まれる場合、コアは、520℃を超える、より好ましくは550℃を超える、最も好ましくは580℃を超える、さらに好ましくは600℃を超える温度で均質化され得る。
【0038】
ろう付け中の液体コア浸透に対する高い抵抗性は、一部、ろう付け中に生じる再結晶化後の非常に大きい粒径を有する中間層の結果である。これは、ストリップを製造する際における中間層の再結晶化なしに、中間層の化学的組成及び熱処理並びに冷間変形の程度の組合せによって得られる。本発明の一実施形態によれば、ろう付け後の中間層の平均粒径は、少なくとも100μm、好ましくは少なくとも150μm、より好ましくは少なくとも250μm、さらに好ましくは少なくとも300μm、最も好ましくは少なくとも400μmである。熱間圧延前における鋳造及び熱処理の製造段階は、繰り返し可能な大きなツェナードラッグを実現するように制御される。ろう付けクラッドがろう付け中に溶融すると、中間層の平均粒径が非常に大きくなり、ほんの僅かな粒界が存在するという結果になる。
【0039】
さらに、ろう付け中の液体コア浸透に対する高い抵抗性はまた、粒界が、液体コア貫通に対して感受性がない特定のタイプであるという事実の結果である。このような粒界は、特定のタイプの結晶配向のみが存在する、非常に強い集合組織を有する材料内に生成される。集合組織成分を示す中間層材料の体積百分率は、少なくとも30%、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上、最も好ましくは85%以上である。{110}<111>として定義されるP−集合組織は、このような集合組織の好ましい例である。液体コア浸透が、介在層の強いP−集合組織に伴って増加することが見出されている。P−集合組織は、2つの対称的な変形体を有する。各変形体内の粒子は、低い角度特性の粒界のみを有し、これらは、耐溶融浸透性である。2つの理想的なP−配向の間の方位の不一致は、溶融浸透に対する他の高い角度の境界よりも感受性が低い対の特性を有する。P−集合組織の体積分率が高くなればなるほど、液体粒界浸透に対する抵抗性が良好になる。本発明に含まれる他のタイプの集合組織は、立方{001}<100>、回転立方{001}<110>又は{001}<310>及びゴス集合組織{011}<100>を含む。そのため、中間層の集合組織は、ろう付け操作の残りの部分の間に液体コア浸透に対するストリップの非常に低い感受性をもたらす。
【0040】
多数の小さな粒子が再結晶化のための駆動圧力を妨害する一方で、高い変形の程度は、駆動力を増加させる。駆動力が、圧下率、特に冷却還元が増加するに伴って増加するが、焼き戻し中における回復によって低減される。製造段階の種々のステージにおいて中間層の良好な材料特性を達成するために、駆動力及び遅延圧力を量的に制御することは非常に重要である。従って、好ましくは、小さな分散質粒子の量は、主にその化学組成物と組み合わせて熱間圧延の前に550℃未満まで、好ましくは380〜520℃、より好ましくは450〜520℃、最も好ましくは470〜520℃まで、コアスラブ、中間層クラッド及び任意のろう付けクラッドからなるパッケージの予備加熱によって制御されるべきである。あるいは、中間層スラブは、コアスラブへの取付の前にこれらの温度において熱処理されていてもよい。目的温度に達する際の温度における含浸時間は、1〜24時間である。粒子の数密度は、再結晶化を妨げる遅延圧力に比例する。
【0041】
このような再結晶化が起こる場合に中間層の再結晶化を引き起こす最後の加熱処理の後に、中間層は、鋳造されたままであるか、圧延によって少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97.5%、最も好ましくは少なくとも99%まで高さが低下した熱間圧延状態のままである。冷間圧延されたストリップは、その後、中間層合金の再結晶化なしに焼き戻すことによって材料を軟化させる目的で、
最終送出調質まで熱処理される。生じた変形の程度が、中間層を再結晶化する熱処理による上述の制限以下まで低下されないことは重要である。しかしながら、コアは、最終状態において再結晶化され又は再結晶化され得ない。
【0042】
液体コア浸透に対する高い抵抗性はまた、ろう付け中又は最終的な焼き戻し中におけるろう付けクラッド(又は、他のタイプのアルミニウム−シリコンクラッド)から中間層へのシリコンの拡散の結果である。当然ながら、ろう付けクラッドは、ストリップの用途によって、ストリップ自体、又はストリップがろう付けされるべき部品に取り付けられるものであり得る。中間層へのシリコン拡散は、過剰にマンガンと結合し、粒子構造の発展の制御に必要な微細なMnリッチ粒子の非常に高い数密度を生成する。そのため、中間層の組成はまた、このような粒子がろう付け中に形成されることができることを保証するために重要である。
【0043】
本発明による耐食性ストリップは、コア及び中間層を含み、ろう付け後のコアは、中間層より不活性である。これは、中間層が、コアに比べて電気化学的に犠牲的であり、腐食電位がコア及び中間層の間にあることを意味する。孔食及び貫通腐食に対するストリップの抵抗性は、非常に高くなる。これは、ストリップのそれぞれの層の適切な化学組成及び処理を選択することによって達成される。
【0044】
上述の通り、本発明によるストリップは、コア及び中間層を含む。ろう付けクラッド、又は、他のタイプのアルミニウム合金ベースのクラッドは、中間層がコア及びクラッドに挟まれるように、適切に中間層の上部に付けられ得る。あるいは、ろう付け後に、結合後のコア及びろう付けクラッドの間に中間層が位置するように、ろう付けクラッドは、ストリップがろう付けされる成分に存在し得る。
【0045】
ストリップはまた、本発明の範囲から逸脱することなく必要であれば追加の層を含み得る。例えば、中間層は、コアの両側に位置し得、又は幾つかの他のタイプの層は、中間層が存在する側に対向するコアの側に存在し得る。このような他のタイプの層の例は、例えば、自動車用途のヒーター又はラジエーターの水側から孔食の傾向を低減する水側クラッドである。中間層を有するクラッドがない側が非腐食環境に面し、極度の耐食性は、シートのその側部において必要とされないことを予想することができ、従って、CABのフラックスレスのろう付けに使用される層などのろう付けクラッド又はろう付けラミネートを付け得る。
【0046】
本発明の好ましい実施形態によれば、中間層は、コアに直接隣接し、すなわち、コア及び中間層の間に他の層が存在しない。
【0047】
中間層の化学的性質の効果は、より詳細に以下に記載される。中間層の組成及び種々の合金組成の効果は、より詳細に以下に記載される。
【0048】
分散質粒子中及び固溶体中のMnは、ろう付け後の強度を増加させる。さらに、Mnは、制御され、液体コア浸透に対する感受性を低減させるための粒子構造制御に必要な繰り返し可能な多数の粒子を生成するために使用される。本発明によって提供される中間層の含有量は、少なくとも0.5%であり、最大で1.8%であり、特に本発明によるストリップの強度を支持する。Mn含有量が少なくとも0.7%であり、最大で1.7%である場合、より好ましくはMn含有量が0.9〜1.6%である場合、最適化された特性は、確実に実現され得る。
【0049】
Feは、凝固中に大きな金属間構成粒子の形成のリスクを増加するので、主に負の影響を有し、その含有量は、材料中のMnの使用及び量の制限を避けるために、0.7%を超えてはいけない。好ましくは、Feは、0.5%以下、より好ましくは0.3%以下に限られる。
【0050】
Siは、Mnの溶解度を減少させ、Mnと結合した高い密度の分散質粒子を生成する。幾分かのSiはまた、固溶体に存在し得る。固溶体中及び分散質粒子中の両方において、Siが強度のために加えられる。非常に高いレベルのSiは、ろう付け中に液体コア浸透のリスクを増加させる。中間層のSi含有量は、0.9%以下、適切には0.7%以下、好ましくは0.1〜0.55%、より好ましくは0.15〜0.40%であるべきである。
【0051】
本発明の中間層へのIVb、Vb又はVIb族の元素又はこれらの元素の組合せの付加によって、これらの元素の幾つかが微細な分散質粒子の数密度を増大させるので、さらに強度は改善され得る。加えられた場合、凝固中に形成される粗い構成粒子の形成を避けるために、これらの元素の個々の含有量は、0.3%以下であり、これらの要素の合計が0.5%以下であるべきである。このような粒子は、本発明によって生成されるストリップの成形性及び強度に負の影響を与える。IVb、Vb又はVIb族の元素の含有量は、好ましくは、0.05〜0.2%であるべきである。一実施形態によれば、Zr、Ti及び/又はCrは、これらの元素から分散質形成元素として使用され、好ましくは、0.05〜0.2%、より好ましくは0.1〜0.2%の範囲である。さらに、Mn及びFeと組み合わせて、Cr及び/又はTiは、非常に粗い構成粒子をもたらし得る。従って、本発明によって使用される合金において、Cr又はTiが加えられると、Mn含有量は、上述の範囲のより低い領域にあるべきである。
【0052】
Cuの含有量は、本発明の中間層において最大で0.5%、好ましくは0.2%以下、より好ましくは0.1%以下、最も好ましくは0.05%以下に制限される。Cuは強度を増加させるが、より積極的な腐食電位、すなわちより“不活性な”材料をもたらす。従って、コアの組成に依存して、中間層のCu含有量は、中間層が所望の腐食保護を与えるようにコア及び中間層の間の所望の腐食電位差が実現されることを保証するために十分に低く維持されるべきである。
【0053】
少量のMgは、強度増加要素として本発明による中間層に加えられ得る。しかしながら、MgがCABのろう付け性に非常に強い負の影響を与えるので、マグネシウムの含有量は、0.7%以下、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.15%以下、最も好ましくは0.05%以下に制限される。さらに、それは、ろう付け温度におけるその材料の初期の溶融の危険性を増加させる。しかしながら、真空中でのMgのろう付けは、接合を成功裏に形成するために必要であり、従って、真空ろう付け目的において、0.7%までのMgのレベルは、本発明の一実施形態に従って許容される。
【0054】
Znは、中間層材料の腐食電位を低下させるために加えられ得、それによってコア材料にカソード防食を与える。使用されるZnの含有量は、通常、4.0%に制限され、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.5%以下、最も好ましくは0.1%以下である。しかしながら、何れの場合においても、ろう付け後に中間層が適切にコアより電気化学的に不活性であるように、コア及び中間層の間の腐食電位差が適合することが必要である。
【0055】
中間層はまた、中間層の特性を低下させることなく1.5%以下のNiを含み得る。しかしながら、一実施形態によれば、Ni含有量は、1.0%以下、好ましくは0.5%以下である。一実施形態によれば、中間層は、基本的にNiがない。
【0056】
中間層内のSnの含有量は、圧延時の問題を避けるために、好ましくは0.009%以下に維持されるべきである。
【0057】
本発明による取り付けられた各中間層の厚さは、好ましくは、ストリップの総厚の2〜20%の範囲である。
【0058】
コアの化学的性質の効果は、以下に検討される。コアの組成は、少なくともろう付け後にコアが中間層より不活性であるように選択される。
【0059】
好ましくは、本発明によるストリップのコアは、重量百分率で、必須的に、
Si≦1.0%、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.3%以下、最も好ましくは0.15%以下;
Fe≦0.7%、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.3%以下;
Cu≦1.0%、好ましくは0.1〜1.0%、より好ましくは0.3〜0.9%、最も好ましくは0、3〜0.7%;
Mn=0.5〜1.8%、好ましくは0.7〜1.7%、より好ましくは0.9〜1.6%;
Mg≦0.7%、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.3%以下;
Zn≦0.5%、好ましくは0.3%以下、より好ましくは0.1%以下、最も好ましくは0.05%未満;
Ni≦1.5%、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.5%未満;
それぞれ0.3%以下及び合計で0.5%以下、それぞれ0.05重量%以下及び合計で0.15%以下である、不可避不純物元素の周期律表のIVb、Vb及び/又はVIb族から選択される元素;
残部であるAl;
からなる組成を有する。
【0060】
既に検討されたように、コアが、ろう付け後の中間層より不活性であり、そのため、可能な各組合せにおける中間層の正確な組成に依存するように、コアの組成は、以上に与えられた組成の範囲内において適切に選択される。しかしながら、種々の層の組成が、どのようにコア及び中間層の腐食電位の差を達成するように選択され得るかは、当業者の一般的な技術的知識の範囲内である。当然ながら、ろう付け工程は、中間層へのシリコンの拡散のために、コア及び中間層の間の腐食電位の差異に影響を与える。中間層及びコアの化学組成は、ろう付け中に相互拡散によって影響を受ける。コア及び中間層の両方はまた、例えば中間層の厚さ全体にわたって種々の化学組成の勾配を示す。しかしながら、注意深い制御によって、コアがろう付け後にも中間層より不活性であることが保証される。
【0061】
クラッド層の厚さ及びクラッド組成の効果は、Al−Siベースのクラッドが存在する実施形態において、さらに以下で検討される。
【0062】
本発明によって生成されるストリップのろう付けにおいて、ろう付けクラッド層の厚さは、コア/中間層パッケージの一側又は両側において好ましくはストリップの総厚の2%から20%である。対象の合金は、市販の純粋なAl合金(AA1XXX、Si=0〜0.5%)ベースの一般的な保護クラッドに加えて、例えば、AA4343、AA4045又はAA4047などのAl−Si(Si=4〜13%)ベースの一般的なろう付け合金、及び、約1%、2%又は3%のSiのSi含有量を有するAl合金などの、これらの合金の改良版(Si=0.5〜4%、又は、Si=0.6〜3%)である。更にはろう付け後における表面腐食電位を修正するために、0.5%、1%、2%及び3%の添加を含み、4%までの量のZnを任意に加えることもでき、湿潤を容易にするために任意に0.2%までのBiを加えることもできる。真空ろう付けのために、クラッドは、酸化物の破砕の目的で、少なくとも0.5%で、1%まで、又は1.5%又は2.0%まで、又は2.5%までのMgを含み得る。クラッドは、好ましくは圧延ボンディングを用いて付けられる。
【0063】
(実施例)
(実験の詳細)
全ての材料は、実験室規模で鋳造され、剥がされ、コア材料は、500℃において2時間程度熱処理され、続いて、適切な厚さに圧延される前に徐冷された。本発明による全ての材料は、実験室規模で鋳造され、剥がされ、500℃において2時間程度予熱処理され、続いて、適切な厚さに圧延される前に徐冷された。ろう付けクラッド、中間層及びコア合金は、正確な厚さが達成されるまで実験室冷間圧延を用いて、コア、中間層及びろうを冶金学的に結合することを容易にするために焼き戻しされた。焼き戻しは、フルスケールの圧延の際の任意なものである。
【0064】
0.3mmの層厚を有する材料積層体は、“H24テンパー”を得るために250〜300℃の範囲の適切な温度で焼鈍しされた。使用された熱速度は、浸漬温度まで50℃/hであった。所定温度における2時間の滞留時間が使用され、続いて、室温まで50℃/hで冷却された。中間層の再結晶化が生じることのない総還元率は、全ての試料において99%を超えるものであった。
【0065】
CABろう付けシミュレーションは、フラックスなしの不活性雰囲気中において23分間で室温から600℃まで加熱し、滞留時間を3分間に設定し、440℃程度まで強制炉冷却し、続いて空気中で自然冷却することによって行った。
【0066】
発光分析(OES)を用いて測定された材料の化学組成(重量%)は、表1に示される。光学顕微鏡によって測定された製造されたままの材料の厚さ及び材料の組合せは、表2に与えられる。集合組織調査のために光学顕微鏡(LOM)又は後方散乱電子検出(EBSD)を備える走査型電子顕微鏡(SEM)での観察の前における標準的な実験手順を行う前に、構造解析のために、材料は、載置され、粉砕され、研磨され、エッチングされ、陽極酸化処理され、引張試験は、ろう付け前及びろう付け後に長手方向において行われた。
【0067】
SWAAT腐食試験は、重金属なしに、ASTM G85−02、Annex A3に従って行われた。合成的な海洋水溶液は、ASTM D1141に従って作られたが、pH調整のために、それは、酢酸の添加後に行われ、1MのNaOHの溶液は、pH2.9を達成するために使用された。試料は、試験チャンバーから引き出され、洗浄され、電光板を用いて腐食性能のチェックをされた。穴が開くまでの時間(TTP)が記録された。
【0070】
(実施例1)腐食性能に関する中間層の影響
SWAAT試験の結果は、上記の表2に与えられる。中間層より不活性である全ての材料は、優れた耐食性能を示す。1つの中間層及びコアの組合せ、すなわち材料番号9は、ろう付け後に中間層より不活性であるコアを有さず、腐食性能は、非常に乏しい。
【0071】
本発明によって生成された中間層を有する材料は、中間層を有しない同一のコア材料の材料と比較される。
【0072】
本発明による中間層を有する材料の腐食性能は、中間層がない材料と比べて非常に改善される。これを示すために、表2からの抜粋が表3にある。
【0074】
(実施例2)中間層の厚さの影響
中間層の厚さは、所望の結果を与えるために制御される必要がある1つのパラメータである。薄過ぎる中間層クラッドは、当然ながら、ろう付け後に十分な良好な特性を与えない。厚過ぎる中間層クラッドは、必須的に、中間層なしでコアとして作用し、孔食の可能性は、劇的に増加し、ろう付けされた生成物の耐食性を低減さえし得る。すなわち、中間層が厚過ぎる場合、コア及び中間層の間の腐食電位の差によって得られる利点は、ストリップに影響をほとんど与えない。
【0075】
穴が開くまでの時間を調べることだけではなく、穴開きが起こる傾向、例えば、所定の試料サイズにおける穴の数及び一般的な腐食形状を調べることも重要である。一般的には、穴開け及び粒間腐食が、ろう付けされた生成物の寿命に負の影響を与え得る一方で、一般的な表面攻撃を用いた側方腐食形状は、有益である。
【0076】
以下の表4において、3つの異なる厚さを有する積層された材料の腐食評価は、検討され得る。評価は、60×110mm
2の面積の試料片のSWAAT試験の45、60及び74日後において行われた。SWAAT後のこれらの片の部分は、サンプル材料3a、3b及び3cに対して
図1、2及び3において見られ、ここで3cは、最も厚い中間層を有し、3aは、最も薄い中間層を有する。より厚い中間層が、有害な腐食に対する良好な抵抗性、及び、より薄いものにより有益な腐食モードを与えることが明らかである。しかしながら、ここに開示された最も薄い中間層でさえも、中間層がない等価な材料と比べて顕著な改善を与える。実施例1を参照されたい。
【0078】
(機械的特性)
実験室で圧延された材料の機械的特性は、表5に与えられる。
【0080】
(実施例3)
表2の合金組合せ7による材料組合せを有するろう付けシートは、以上に記載された実験の詳細に従って調製された。ろう付け後に、材料は、長手方向に載置され、粉砕され、非常に微細に研磨され、EBSD測定のための良好な表面を得易くするために電解研磨された。中間層の再結晶化集合組織は、EBSDを用いて測定された。全部で150mmの中間層の長さは、集合組織解析のための良好な統計を保証するために調査された。
【0081】
中間層は、全く溶解がなく溶融フィラー浸透に耐え、中間層の粒子は、大きかった。{110}<111>集合組織が中間層を支配し、61%の体積分率が得られたことが見出された。この集合組織を有する材料の平均粒径は、302μmであった。
図4において、中間層は、黒色で満たされた{110}<111>集合組織を有する粒子で表され、全ての他の集合組織成分を有する粒子は、薄い灰色で満たされた。
図5において、この材料のODF(方位分布関数)が示される。
【0082】
(比較例1)
このシートの組合せは、合金Aに従うろう付け合金、合金Gに従う中間層、及び合金Iに従うコアであった。中間層は、層の組立、予備加熱及びクラッドシートを与えるための共圧延の前に、10時間、600℃で均質化された。ろう付け後に、材料は、実施例3と同一の方法で処理され、解析された。中間層は、顕著な溶解を有さずに溶融フィラーに耐え、中間層の粒子は、100μm未満であった。{110}<111>集合組織成分において、集合組織が非常に弱く、約5%以下の体積分率が得られることが見出された。
図6は、比較の中間層材料におけるODFを示す。
【0083】
(比較例2)
合金Aに従うろう付け、及び、合金Iに従うコアの一側及びコアの他側における合金Eに従う中間層の材料の組合せは、合金Aに従うろう付けを有するクラッドである。個々の材料は、比較例1のように加熱され、圧延され、コア及びろう付けに加えて中間層を再結晶化するための、380℃における最終的な弱い焼鈍しが行われた。次いで、材料は、個々の成形操作をシミュレーションするために2〜10%の若干の変形に晒された。最後に、材料は、上述のように、ろう付け工程に晒された。ろう付け後に、材料は、中間層材料の液膜移動又は溶解として示される、中間層及び溶融ろう付け金属の間に顕著な相互作用を示した。
図7を参照されたい。それによって、実質的に中間層の機能を取り除く。
【0084】
本発明による腐食抵抗ストリップは、ろう付け製品、特に熱交換器のろう付け部品の製造における使用のためのものである。このような部品が、本発明の範囲から逸脱することなく、チューブ、タンク、プレート等を含むあらゆる形態であることが、当業者には容易に明らかであろう。