特許第6554436号(P6554436)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6554436
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】エレベーターの冠水退避運転システム
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/02 20060101AFI20190722BHJP
   B66B 5/00 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   B66B5/02 G
   B66B5/00 G
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-60380(P2016-60380)
(22)【出願日】2016年3月24日
(65)【公開番号】特開2017-171465(P2017-171465A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2018年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】特許業務法人 武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一朗
【審査官】 加藤 三慶
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−124150(JP,A)
【文献】 特開2004−099301(JP,A)
【文献】 特開平05−254752(JP,A)
【文献】 特開2000−335843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 1/00− 1/52
B66B 5/00− 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物に設けられたエレベーターと、前記エレベーターに対して異常の有無を検出する監視端末と、通信回線を介して前記監視端末と遠隔的に接続される監視センター内に設けられた運転指令装置とを備え、
前記エレベーターは、昇降路と、前記昇降路内を昇降する乗りかごと、前記乗りかごの運行を制御する制御装置とを有し、
前記運転指令装置は、前記エレベーターの機器が冠水しないように、前記乗りかごを予め指定された階へ退避させる冠水退避運転を、前記制御装置に対して指令するエレベーターの冠水退避運転システムにおいて、
前記エレベーターの管理者が使用する端末を備え、
前記エレベーターは、前記制御装置に通信接続され、前記端末と無線通信を行う通信装置を有し、
前記端末は、前記冠水退避運転の開始指令を生成する開始指令生成部を有し、
前記制御装置は、前記運転指令装置からの前記冠水退避運転の開始指令に従って実施した前記冠水退避運転を解除した後、前記冠水退避運転の開始指令を前記端末から前記通信装置を介して受信したとき、前記冠水退避運転を再開させる冠水退避運転再開部と、を含み、
前記運転指令装置は、前記制御装置に対して行った開始指令により前記冠水退避運転が開始された場合、前記端末に当該冠水退避運転の開始を通知し、当該冠水退避運転が解除された場合、前記端末に当該冠水退避運転の解除を通知する、
ことを特徴とするエレベーターの冠水退避運転システム。
【請求項2】
請求項1に記載のエレベーターの冠水退避運転システムにおいて、
前記端末は、前記冠水退避運転の解除指令を生成する解除指令生成部を有し、
前記制御装置は、前記冠水退避運転の実施中に、前記冠水退避運転の解除指令を前記端末から前記通信装置を介して受信したとき、前記冠水退避運転を停止させる冠水退避運転停止部を含むことを特徴とするエレベーターの冠水退避運転システム。
【請求項3】
請求項1に記載のエレベーターの冠水退避運転システムにおいて、
前記エレベーターは、
前記昇降路の下部に形成されたピットと、
前記ピット内に設けられ、前記ピット内への浸水を検出する浸水検出器とを有し、
前記冠水退避運転再開部は、前記運転指令装置からの前記冠水退避運転の開始指令に従って実施される前記冠水退避運転解除された後、前記浸水検出器によって前記ピット内への浸水が検出されたとき、前記冠水退避運転を再開させることを特徴とするエレベーターの冠水退避運転システム。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のエレベーターの冠水退避運転システムにおいて、
前記端末は、
当該端末に対して予め割り当てられ、前記エレベーターを識別する識別情報を記憶する記憶部と、
前記開始指令生成部によって前記冠水退避運転の開始指令が生成されたとき、当該冠水退避運転の開始指令と共に、前記記憶部に記憶された前記識別情報を前記通信装置に送信する送信部とを有し、
前記エレベーターは、当該エレベーターに対して予め設定された前記識別情報と、前記端末から前記通信装置を介して受信した前記識別情報とを照合し、これらの識別情報が互いに一致するか否かを判断する照合装置を有し、
前記冠水退避運転再開部は、前記照合装置によって前記各識別情報が互いに一致すると判断された場合に、前記冠水退避運転を再開させることを特徴とするエレベーターの冠水退避運転システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーターの機器の冠水を防止するための冠水退避運転を実施するエレベーターの冠水退避運転システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、建物に設けられたエレベーターは、地震が発生したときにその揺れを感知する地震感知器やドアの動作を制御するドア制御装置等の各種の機器を備えており、これらの機器で乗りかごの運行やドアの動作を制御することにより、エレベーターを利用する乗客に対して円滑なサービスを提供している。
【0003】
しかし、上述したエレベーターに備えられる機器は昇降路や乗りかごに設置されているので、仮にエレベーターが台風等の風雨にさらされ、昇降路内に水が入り込んだ場合には、エレベーターの機器が冠水して正常に動作しなくなる虞がある。この場合には、ドアが開かなくなって乗客が乗りかご内に閉じ込められたり、あるいは乗りかごが停止して乗客がエレベーターを利用できなかったりする等の不都合が乗じる。
【0004】
万一、このような不都合が生じた場合には、従来より顧客からのオンコールや監視端末からの発報によってエレベーターに異常が生じた旨の情報をエレベーター保守会社のサービス拠点へ伝達し、伝達を受けた専門技術者が当該現場へ出動するようにしている。そして、専門技術者は、昇降路内の排水作業、冠水した機器の水分除去作業、又は冠水した機器の部品を新しいものと交換する交換作業等を行った後、当該エレベーターの点検運転を行って安全を確保してからエレベーターを通常運転に切り替えて復旧作業を完了している。
【0005】
したがって、昇降路内の水が入り込んでエレベーターの機器が冠水した場合には、エレベーターのサービス性が著しく低下し、煩雑な復旧作業を必要とするので、昇降路内への浸水によるエレベーターへの影響をできる限り抑えられるシステムや方法が要望されている。
【0006】
そこで、このような要望に対して、例えば、下記の特許文献1に示す遠隔監視センターシステムが提案されている。この特許文献1の従来技術は、エレベーターに対して異常の有無を検出する監視端末を備え、エレベーターは、昇降路及びかごに設けられた機器と、乗り場呼び又はかご呼びの登録に応じてかごの運行を制御する制御装置と、この制御装置に対してかごの運行を制限するように指示する運行制限装置とを有し、監視センター装置は、各ビルが過去に風水害の被害を受け、浸水した階床を示す浸水階情報及び冠水した機器を示す冠水機器情報を記録する風水害被災情報データベースと、浸水階情報及び冠水機器情報に基づいて、運行制限装置にかごの運行を指令する運行指令装置とを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−124150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した特許文献1の従来技術では、台風や集中豪雨等で冠水が予想される場合に、監視センターの運転指令装置がエレベーターを制御し、乗りかごを予め指定した上層階等に退避させた後、一定時間の間、サービスを休止する。この状態においては、エレベーターは、現在時刻が監視センターで設定された運転方式の変更の終了時刻になるまで待機するか、あるいは現在時刻がその終了時刻の前であっても、台風や集中豪雨等の大雨による浸水の可能性がなくなったと判断された場合に、エレベーターを管理する管理者がパーキングスイッチを投入して即遮断させるオン/オフを行うことにより、エレベーターのサービスの休止を即時に終了させて通常運転に戻すことができる。
【0009】
しかし、特許文献1の従来技術では、エレベーターが通常運転に復旧された後に、例えば、建物の地域の河川が増水し、道路上に雨水が溢れることによって当該建物に浸水の可能性が生じた場合や、昇降路に大量の水が浸入してしまった場合等のように、緊急を要する場合のエレベーターの運転については考慮されていない。そのため、エレベーターの機器の冠水に対する被害を十分に抑制できないことが懸念されている。
【0010】
本発明は、このような従来技術の実情からなされたもので、その目的は、エレベーターの機器の冠水に対する被害を十分に抑制することができるエレベーターの冠水退避運転システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明のエレベーターの冠水退避運転システムは、建物に設けられたエレベーターと、前記エレベーターに対して異常の有無を検出する監視端末と、通信回線を介して前記監視端末と遠隔的に接続される監視センター内に設けられた運転指令装置とを備え、前記エレベーターは、昇降路と、前記昇降路内を昇降する乗りかごと、前記乗りかごの運行を制御する制御装置とを有し、前記運転指令装置は、前記エレベーターの機器が冠水しないように、前記乗りかごを予め指定された階へ退避させる冠水退避運転を、前記制御装置に対して指令するエレベーターの冠水退避運転システムにおいて、前記エレベーターの管理者が使用する端末を備え、前記エレベーターは、前記制御装置に通信接続され、前記端末と無線通信を行う通信装置を有し、前記端末は、前記冠水退避運転の開始指令を生成する開始指令生成部を有し、前記制御装置は、前記運転指令装置からの前記冠水退避運転の開始指令に従って実施した前記冠水退避運転を解除した後、前記冠水退避運転の開始指令を前記端末から前記通信装置を介して受信したとき、前記冠水退避運転を再開させる冠水退避運転再開部と、を含み、前記運転指令装置は、前記制御装置に対して行った開始指令により前記冠水退避運転が開始された場合、前記端末に当該冠水退避運転の開始を通知し、当該冠水退避運転が解除された場合、前記端末に当該冠水退避運転の解除を通知する、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明のエレベーターの冠水退避運転システムによれば、エレベーターの機器の冠水に対する被害を十分に抑制することができる。前述した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1実施形態に係るエレベーターの冠水退避運転システムの運用形態を示す図である。
図2】本発明の第1実施形態に係るエレベーターの冠水退避運転システムの主な機能を示す機能ブロック図である。
図3図1に示すエレベーターの構成を示す全体図である。
図4図1に示す制御装置の主な機能を示す機能ブロック図である。
図5図1に示す携帯端末の主な機能を示す機能ブロック図である。
図6】本発明の第1実施形態に係るエレベーターの冠水退避運転システムにおける制御処理の流れを示すシーケンス図である。
図7】本発明の第1実施形態に係る制御装置によるエレベーターの運転の制御処理の流れを示すフローチャートである。
図8】本発明の第1実施形態に係る携帯端末による冠水退避運転の開始指令及び解除指令の生成処理の流れを示すフローチャートである。
図9図8に示す携帯端末による冠水退避運転の開始指令及び解除指令の生成処理において、携帯端末の表示部に映し出される画面を示す図である。
図10】本発明の第1実施形態に係る照合装置によるエレベーターの識別IDの照合処理の流れを示すフローチャートである。
図11】本発明の第2実施形態に係るエレベーターの構成を示す全体図である。
図12】本発明の第2実施形態に係る制御装置によるエレベーターの運転の制御処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るエレベーターの冠水退避運転システムを実施するための形態を図に基づいて説明する。
【0015】
[第1実施形態]
図1は本発明の第1実施形態に係るエレベーターの冠水退避運転システムの運用形態を示す図、図2は本発明の第1実施形態に係るエレベーターの冠水退避運転システムの主な機能を示す機能ブロック図、図3は本発明の第1実施形態に係るエレベーターの構成を示す全体図である。
【0016】
本発明の第1実施形態に係るエレベーターの冠水退避運転システムは、例えば図1図2に示すように、4階建て(図3参照)の建物100に設けられたエレベーター101と、このエレベーター101に対して異常の有無を検出する監視端末102と、この監視端末102と一般公衆回線(通信回線)104を介して遠隔的に接続される監視センター103とを備えている。
【0017】
図3に示すように、エレベーター101は、昇降路11と、この昇降路11の上部に配置された機械室12と、昇降路11の各階の乗り場13に開閉可能に設けられた乗り場ドア14と、昇降路11内を昇降する乗りかご15と、この乗りかご15に開閉可能に設けられた乗りかごドア16と、昇降路11及び乗りかご15に設けられた機器とを備えている。
【0018】
このエレベーター101の機器は、例えば、乗り場ドア14が閉扉したことを検出するドアスイッチ17と、乗りかご15上に設けられ、乗りかごドア16と乗り場ドア14の開閉動作を駆動するドア駆動装置18とを含んでいる。また、エレベーター101は、乗りかご15に主ロープ21を介して連結され、錘となる金属片を積層状態で積み重ねられることによって乗りかご15と釣合いをとるカウンタウェイト22と、機械室12に設けられ、乗りかご15及びカウンタウェイト22を昇降させる巻上機23とを備えている。
【0019】
さらに、エレベーター101は、各階の乗り場13に設けられ、乗りかご15を呼び寄せ走行させる乗り場釦(図示せず)と、乗りかご15内に設けられ、乗りかご15を目的階へ走行させるかご呼び釦(図示せず)と、機械室12に設置され、乗り場呼び又はかご呼びの登録に応じて、乗りかご15の運行を制御する制御装置24と、この制御装置24に通信接続され、後述の携帯端末25と無線通信を行う無線通信装置26(図1参照)とを備えている。
【0020】
制御装置24は、図示されないが、乗りかご15の運行を制御するための各種の演算を行うCPU(Central Processing Unit)、CPUによる演算を実行するためのプログラムを格納するROM(Read Only Memory)やHDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置、及びCPUがプログラムを実行する際の作業領域となるRAM(Random Access Memory)を含むハードウェアと、記憶装置に記憶され、CPUにより実行されるソフトウェアとから構成されている。
【0021】
そして、これらのハードウェアとソフトウェアが協働することで制御装置24としての機能が実現されることにより、制御装置24からの運転制御指令に従って、巻上機23が駆動して乗りかご15が昇降路11内を昇降するようになっている。なお、制御装置24の機能を示す具体的な構成については、後で詳細に述べる。
【0022】
前述の携帯端末25及び無線通信装置26は、制御装置24と同様に、CPU、ROMやHDD等の記憶装置、及びRAMを含むハードウェアと、記憶装置に記憶され、CPUにより実行されるソフトウェアとからそれぞれ構成されている。携帯端末25は、エレベーター101を管理する管理者105が携帯するスマートフォンやタブレット等のモバイル端末である。なお、携帯端末25の機能を示す具体的な構成については、後で詳細に述べる。
【0023】
無線通信装置26は、Bluetooth(登録商標)、FeliCa(登録商標)、及びNFC(Near Field Communication)(登録商標)等のインタフェースを用いて携帯端末25と無線通信の接続を確立する。この無線通信装置26は、例えば、1階の乗り場13の乗り場釦が設置された壁内に設けられ、後述の照合装置27と一体に構成されている。
【0024】
この照合装置27は、制御装置24と同様に、CPU、ROMやHDD等の記憶装置、及びRAMを含むハードウェアと、記憶装置に記憶され、CPUにより実行されるソフトウェアとからそれぞれ構成されている。また、照合装置27は、制御装置24と無線通信装置26との間の通信を中継し、エレベーター101の識別情報としての識別IDを照合する。
【0025】
監視端末102は、制御装置24と同様に、CPU、ROMやHDD等の記憶装置、及びRAMを含むハードウェアと、記憶装置に記憶され、CPUにより実行されるソフトウェアとから構成されている。また、監視端末102は、機械室12に設置され、図示しない通信ケーブル等を介して制御装置24と通信接続されている。そして、監視端末102は、エレベーター101の運転状態を監視し、エレベーター101の故障や閉じ込め等の異常が発生した場合に、その異常を監視センター103に通知する。
【0026】
監視センター103は、PC(Personal Computer)等の情報処理装置31と、監視端末102と一般公衆回線104を介して通信接続され、エレベーター101の運転を指令する運転指令装置32と、携帯端末25とメール通信網(図示せず)を介して通信接続され、エレベーター101の運転状態を示す運転情報を携帯端末25に電子メールで通知する電子メール通信装置33とを含んで構成されている。
【0027】
これらの情報処理装置31、運転指令装置32、及び電子メール通信装置33は、制御装置24と同様に、CPU、ROMやHDD等の記憶装置、及びRAMを含むハードウェアと、記憶装置に記憶され、CPUにより実行されるソフトウェアとからそれぞれ構成されている。情報処理装置31は、運転指令装置32が取得した情報の表示を行ったり、マウスやキーボード等の入力装置(図示せず)を介してエレベーター101の運転情報の取得や運転制御指令の要求を受け付けたりする機能を有している。
【0028】
運転指令装置32は、情報処理装置31からの要求に応じて、監視端末102からエレベーター101の運転情報を取得すると共に、エレベーター101の運転制御指令を監視端末102に送信する。この運転制御指令としては、例えば、エレベーター101を通常運転させる通常運転の指令、エレベーター101の機器が冠水しないように、乗りかご15を予め指定された階(例えば、最上階)へ退避させる冠水退避運転の開始指令、及び冠水退避運転を停止させる冠水退避運転の解除指令がある。
【0029】
電子メール通信装置33は、運転指令装置32によってエレベーター101の運転制御指令が監視端末102に送信された後、現在のエレベーター101の運転状態を示す電子メールの内容を自動で作成し、作成した電子メールを携帯端末25に送信する。
【0030】
このような構成のエレベーター101の冠水退避運転システムにおいては、エレベーター101が冠水退避運転を実施した後、建物100が浸水する可能性がなくなると、監視センター103からの冠水退避運転の解除指令に従って、制御装置24がエレベーター101の運転を冠水退避運転から通常運転に復帰させることになる。しかし、台風等による大雨が止んでも、数日間は河川の増水が続くことが多いので、その周辺の地域にある建物は再び浸水する可能性が生じる。
【0031】
そこで、本発明の第1実施形態に係るエレベーター101の冠水退避運転システムは、エレベーター101の機器が冠水するのを防止するために、建物100内において、エレベーター101の管理者105が携帯する携帯端末25からエレベーター101に冠水退避運転を再び実施させるように構成している。以下、そのような本発明の第1実施形態の特徴をなす具体的な構成について、図4図5を用いて詳細に説明する。
【0032】
図4は制御装置24の主な機能を示す機能ブロック図である。
【0033】
図4に示すように、制御装置24は、通信部241、記憶部としての情報データベース(以下、便宜的に情報DBと称する)242、及び処理部243を含んで構成されている。通信部241は、制御装置24が無線通信装置26や監視端末102等の外部の機器と通信し、各種の情報やデータの入出力を行う。情報DB242は、通信部241が受け取った各種の情報を記憶しており、これらの情報は、処理部243による制御処理において使用される。また、情報DB242は、建物100内のエレベーター101に対して予め設定された識別IDを記憶する。
【0034】
処理部243は、通信部241を介して監視端末102や携帯端末25から受信した運転制御指令に従って、エレベーター101の運転を制御する処理を行う。また、処理部243は、運転指令装置32からの冠水退避運転の開始指令に従って実施した冠水退避運転を解除した後、冠水退避運転の開始指令を携帯端末25から無線通信装置26を介して受信したとき、冠水退避運転を再開させる冠水退避運転再開部243Aと、冠水退避運転の実施中に、冠水退避運転の解除指令を携帯端末25から無線通信装置26を介して受信したとき、冠水退避運転を停止させる冠水退避運転停止部243Bとを含んでいる。
【0035】
図5図1に示す携帯端末25の主な機能を示す機能ブロック図である。
【0036】
携帯端末25は、通信部251、操作部252、表示部253、記憶部としての情報DB254、及び処理部255を含んで構成されている。通信部251は、携帯端末25が無線通信装置26等の外部の機器と通信し、各種の情報やデータの入出力を行う。また、通信部251は、後述の開始指令生成部255Aによって冠水退避運転の開始指令が生成されたとき、当該冠水退避運転の開始指令と共に、情報DB254に記憶された識別IDを無線通信装置26に送信する送信部として機能する。
【0037】
操作部252は、各種のハードボタンやタッチパネル等、エレベーター101の管理者105が携帯端末25に情報を入力するための入力装置である。表示部253は、各種の情報を表示し、管理者105がエレベーター101の運転の状態等を確認するための視覚的ユーザインタフェースである。
【0038】
情報DB254は、通信部251が受け取った各種の情報を記憶しており、これらの情報は、処理部255による制御処理において使用される。また、情報DB254は、携帯端末25に対して予め割り当てられ、エレベーター101を識別する前述の識別IDを記憶する。
【0039】
処理部255は、冠水退避運転の開始指令を生成する開始指令生成部255Aと、冠水退避運転の解除指令を生成する解除指令生成部255Bとを有しており、管理者105が操作部252を用いて入力した情報に従って、これらの開始指令生成部255A及び解除指令生成部255Bの各処理を実行する。なお、携帯端末25と同様の機能を有していれば、携帯端末25を固定端末に置き換えたり、無線通信装置26を有線通信装置に置き換えて固定端末と接続したりしても、本発明の効果は奏する。
【0040】
次に、本発明の第1実施形態に係るエレベーター101の冠水退避運転システムの制御処理について、詳細に説明する。以下の内容は、監視センター103からの運転制御指令に従って、エレベーター101が冠水退避運転を実施してから通常運転に復帰するまでの一連の制御処理を、図6のシーケンス図に基づいて示している。
【0041】
図6に示すように、例えば、監視センター103の管轄となる地域の建物100に対して、大雨等による浸水の可能性がある場合、監視センター103のオペレーターは、当該建物100に設置されたエレベーター101の運転状態を確認するために、情報処理装置31を用いてエレベーター101の運転情報の取得を運転指令装置32に要求する。
【0042】
続いて、運転指令装置32は、情報処理装置31からの要求に応じて、エレベーター101の運転情報を取得するための運転情報取得指令を生成し、生成した運転情報取得指令を監視端末102に送信する(ステップ(以下、Sと記す)601)。次に、監視端末102は、運転指令装置32から運転情報取得指令を受信すると、エレベーター101の現在の運転状態を取得し、エレベーター101の運転情報を運転指令装置32に送信する(S602)。
【0043】
次に、運転指令装置32は、監視端末102からエレベーター101の運転情報を受信すると、エレベーター101の運転情報を情報処理装置31に表示する(S603)。そして、監視センター103のオペレーターが、情報処理装置31の表示画面からエレベーター101の運転状態を確認すると、エレベーター101のサービスを休止させる休止時間を情報処理装置31に登録する(S604)。
【0044】
そして、運転指令装置32は、エレベーター101の冠水退避運転の開始指令を生成し、生成した冠水退避運転の開始指令を監視端末102に送信する(S605)。次に、監視端末102は、運転指令装置32から冠水退避運転の開始指令を受信すると、この冠水退避運転の開始指令をそのままエレベーター101の制御装置24に転送する(S606)。
【0045】
次に、制御装置24は、監視端末102から冠水退避運転の開始指令を受け取ると、冠水退避運転の開始指令に従って、エレベーター101に対して冠水退避運転を実行させる(S607)。すなわち、制御装置24は、巻上機23を駆動して乗りかご15を予め指定された階へ退避させた後、乗りかご15を停止して乗り場ドア14及び乗りかごドア16を開扉した状態にし、情報処理装置31で登録された休止時間が経過するまでの間、乗りかご15の運行を制限する。
【0046】
次に、監視端末102は、エレベーター101の運転方式が変更されたと判断すると、エレベーター101の運転状態を再度取得し、エレベーター101の運転情報を運転指令装置32に送信する(S608)。次に、運転指令装置32は、監視端末102からエレベーター101の運転情報を受信すると、エレベーター101の運転情報を情報処理装置31に表示すると共に(S609)、その運転情報を電子メール通信装置33に渡す。
【0047】
監視センター103の電子メール通信装置33は、運転指令装置32からエレベーター101の運転情報を受け取ると、エレベーター101の冠水退避運転を開始する旨、休止時間、及び後述の認証キーが記載された電子メールを自動で作成し、その電子メールをエレベーター101の管理者105が携帯する携帯端末25に送信する(S610)。
【0048】
その後、制御装置24は、情報処理装置31で登録された休止時間が経過した、すなわち、現在時刻が冠水退避運転の終了時刻になったと判断すると、乗りかご15の運行の制限を解除し、エレベーター101の運転を冠水退避運転から通常運転に復帰させる(S611)。また、制御装置24は、現在時刻が冠水退避運転の終了時刻になる前に、冠水退避運転の開始指令のときと同じように、運転指令装置32から監視端末102を経由して冠水退避運転の解除指令を受け取った場合にも、エレベーター101の運転を冠水退避運転から通常運転に復帰させる(S611)。
【0049】
次に、監視端末102は、エレベーター101の運転方式が変更されたと判断すると、エレベーター101の運転状態を再度取得し、エレベーター101の運転情報を運転指令装置32に送信する(S612)。次に、運転指令装置32は、監視端末102からエレベーター101の運転情報を受信すると、エレベーター101の運転情報を情報処理装置31に表示すると共に(S613)、その運転情報を電子メール通信装置33に渡す。
【0050】
そして、電子メール通信装置33は、運転指令装置32からエレベーター101の運転情報を受け取ると、エレベーター101の通常運転への復帰が完了した旨が記載された電子メールを自動で作成し、その電子メールをエレベーター101の管理者105が携帯する携帯端末25に送信する(S614)。このようにして、エレベーター101が冠水退避運転を実施してから通常運転に復帰するまでの制御処理が完了する。
【0051】
次に、本発明の第1実施形態に係る制御装置24によるエレベーター101の運転の制御処理について、図7のフローチャートに基づいて詳細に説明する。
【0052】
図7に示すように、まずは、制御装置24は、監視センター103から冠水退避運転の開始指令を受信したか否かを確認する(S701)。このとき、制御装置24は、監視センター103から冠水退避運転の開始指令を受信したことを確認すると(S701/YES)、後述のS704の処理が行われる。
【0053】
S701において、制御装置24は、監視センター103から冠水退避運転の開始指令を受信していないことを確認すると(S701/NO)、携帯端末25から冠水退避運転の開始指令を受信したか否かを確認する(S702)。このとき、制御装置24は、携帯端末25から冠水退避運転の開始指令を受信していないことを確認すると(S702/NO)、S701からの処理が繰り返される。
【0054】
S702において、制御装置24は、携帯端末25から冠水退避運転の開始指令を受信したことを確認すると(S702/YES)、携帯端末25からの冠水退避運転の開始指令に含まれる認証キーが情報DB242に記憶された認証キーと一致するか否かを判断する(S703)。
【0055】
ここで、情報DB242の認証キーは、図6に示すS605及びS606の処理において、監視センター103から監視端末102を経由して制御装置24に送信される冠水退避運転の開始指令に含まれており、制御装置24が受け取ってから一定の期間の間、有効となる。これにより、エレベーター101の管理者105以外の者によってエレベーター101の運転方式が変更されるのを未然に防止することができる。
【0056】
S703において、制御装置24は、携帯端末25からの冠水退避運転の開始指令に含まれる認証キーが情報DB242に記憶された認証キーと一致しないと判断すると(S703/NO)、S701からの処理が繰り返される。一方、S703において、制御装置24は、携帯端末25からの冠水退避運転の開始指令に含まれる認証キーが情報DB242に記憶された認証キーと一致したと判断すると(S703/YES)、エレベーター101の運転を通常運転から冠水退避運転に変更し、エレベーター101の冠水退避運転を実施する(S704)。
【0057】
そして、制御装置24は、監視センター103又は携帯端末25から受信した冠水退避運転の開始指令に含まれるサービスの休止時間を確認し、現在時刻が冠水退避運転の終了時刻になったか否かを判断する(S705)。このとき、制御装置24は、現在時刻が冠水退避運転の終了時刻になったと判断すると(S705/YES)、後述のS709の処理が行われる。
【0058】
S705において、制御装置24は、現在時刻が冠水退避運転の終了時刻になっていないと判断すると(S705/NO)、監視センター103から冠水退避運転の解除指令を受信したか否かを確認する(S706)。このとき、制御装置24は、監視センター103から冠水退避運転の解除指令を受信したことを確認すると(S706/YES)、S709の処理が行われる。
【0059】
S706において、制御装置24は、監視センター103から冠水退避運転の解除指令を受信していないことを確認すると(S706/NO)、携帯端末25から冠水退避運転の解除指令を受信したか否かを確認する(S707)。このとき、制御装置24は、携帯端末25から冠水退避運転の解除指令を受信していないことを確認すると(S707/NO)、S705からの処理が繰り返される。
【0060】
S707において、制御装置24は、携帯端末25から冠水退避運転の解除指令を受信したことを確認すると(S707/YES)、携帯端末25からの冠水退避運転の解除指令に含まれる認証キーが情報DB242に記憶された認証キーと一致するか否かを判断する(S708)。
【0061】
S708において、制御装置24は、携帯端末25からの冠水退避運転の解除指令に含まれる認証キーが情報DB242に記憶された認証キーと一致しないと判断すると(S708/NO)、S705からの処理が繰り返される。一方、S708において、制御装置24は、携帯端末25からの冠水退避運転の解除指令に含まれる認証キーが情報DB242に記憶された認証キーと一致したと判断すると(S708/YES)、エレベーター101の運転を冠水退避運転から通常運転に変更し、エレベーター101の通常運転を実施する(S709)。このような処理により、制御装置24によるエレベーター101の運転の制御処理が完了する。
【0062】
次に、本発明の第1実施形態に係る携帯端末25による冠水退避運転の開始指令及び解除指令の生成処理について、図8のフローチャートに基づいて詳細に説明する。その際、以下の内容を分かり易くするために、図9を適宜参照しながら説明する。
【0063】
図9は携帯端末25の表示部253に映し出される画面を示す図であり、(a)図はエレベーター101の冠水退避運転の開始又は解除を選択するサービスメニュー画面、(b)図は処理対象となるエレベーター101を選択するエレベーター選択画面、(c)図は冠水退避運転を開始する際の条件及び認証キーを入力する開始入力画面、(d)図は冠水退避運転を解除する際の認証キーを入力する解除入力画面をそれぞれ示す図である。
【0064】
図8に示すように、まずは、携帯端末25は、図6に示すS610において、監視センター103から電子メールを受信すると(S801)、エレベーター101の管理者105は、この電子メールの内容から冠水退避運転の対象となるエレベーター101及びサービスの休止時間を把握することができる。その際、管理者105は、電子メールの内容からエレベーター101の運転を制御するのに必要な認証キーを取得することができる。
【0065】
次に、携帯端末25は、予めインストールされた冠水退避運転を制御するためのアプリケーションを起動し、図9(a)に示すサービスメニュー画面を表示部253に表示する(S802)。そして、携帯端末25は、管理者105によって冠水退避運転の解除が選択されたか否かを判断する(S803)。
【0066】
このとき、管理者105が、建物100の地域の浸水状況から当該建物100が浸水する可能性が低いと判断し、監視センター103で登録されたサービスの休止時間が経過するよりも早くエレベーター101の運転を通常運転に復旧させる場合には、操作部252を用いて冠水退避運転の解除を選択する。
【0067】
これにより、S803において、携帯端末25は、管理者105によって冠水退避運転の解除が選択されたと判断すると(S803/YES)、図9(b)に示すエレベーター選択画面を表示部253に表示する(S804)。その後、管理者105が、操作部252を用いて冠水退避運転の解除対象となるエレベーター101を選択すると、携帯端末25は、選択されたエレベーター101の無線通信装置26との接続を行う(S805)。
【0068】
次に、携帯端末25は、図9(d)に示す解除入力画面を表示し(S806)、管理者105からの認証キーの入力を受け付け(S807)、解除入力画面の「実行」釦が押下されたか否かを判断する(S808)。このとき、携帯端末25は、解除入力画面の「実行」釦が押下されていないと判断すると(S808/NO)、S808の処理が繰り返される。
【0069】
S808において、携帯端末25は、解除入力画面の「実行」釦が押下されたと判断すると(S808/YES)、携帯端末25の情報DB254に予め記憶されたエレベーター101の識別ID及び認証キーを含む冠水退避運転の解除指令を生成し、当該冠水退避運転の解除指令を無線通信装置26に送信する(S809)。これにより、無線通信装置26を介して受信した照合装置27によってエレベーター101の識別IDの照合が行われる。
【0070】
一方、S803において、携帯端末25は、管理者105によって冠水退避運転の解除が選択されていないと判断すると(S803/NO)、管理者105によって冠水退避運転の開始が選択されたか否かを判断する(S810)。ここで、監視センター103からの冠水退避運転の実施が一度行われた後に、管理者105が、建物100の地域の浸水状況から当該建物100が浸水する可能性が高いと判断した場合には、操作部252を用いて冠水退避運転の開始を選択する。
【0071】
これにより、S810において、携帯端末25は、管理者105によって冠水退避運転の開始が選択されたと判断すると(S810/YES)、図9(b)に示すエレベーター選択画面を表示部253に表示する(S811)。一方、S810において、携帯端末25は、管理者105によって冠水退避運転の開始が選択されていないと判断すると(S810/NO)、S803からの処理が繰り返される。
【0072】
S811の処理の後、管理者105が、操作部252を用いて冠水退避運転の対象となるエレベーター101を選択すると、携帯端末25は、選択されたエレベーター101の無線通信装置26との接続を行う(S812)。続いて、携帯端末25は、図9(c)に示す開始入力画面を表示し(S813)、管理者105からのサービスの休止時間の入力を受け付ける(S814)。
【0073】
そして、携帯端末25は、管理者105からの認証キーの入力を受け付け(S815)、開始入力画面の「実行」釦が押下されたか否かを判断する(S816)。このとき、携帯端末25は、開始入力画面の「実行」釦が押下されていないと判断すると(S816/NO)、S816の処理が繰り返される。
【0074】
S816において、携帯端末25は、開始入力画面の「実行」釦が押下されたと判断すると(S816/YES)、携帯端末25の情報DB254に予め記憶されたエレベーター101の識別ID及び認証キーを含む冠水退避運転の開始指令を生成し、当該冠水退避運転の開始指令を無線通信装置26に送信する(S817)。これにより、無線通信装置26を介して受信した照合装置27によってエレベーター101の識別IDの照合が行われる。このような処理により、携帯端末25による冠水退避運転の開始指令及び解除指令の生成処理が完了する。
【0075】
次に、本発明の第1実施形態に係る照合装置27によるエレベーター101の識別IDの照合処理について、図10のフローチャートに基づいて詳細に説明する。
【0076】
図10に示すように、まずは、照合装置27は、携帯端末25から無線通信装置26を介して冠水退避運転の開始指令又は解除指令を受信したか否かを判断する(S1001)。このとき、照合装置27は、冠水退避運転の開始指令及び解除指令のいずれも受信していないと判断すると(S1001/NO)、S1001の処理が繰り返される。
【0077】
S1001において、照合装置27は、冠水退避運転の開始指令又は解除指令を受信したと判断すると(S1001/YES)、制御装置24からエレベーター101の識別IDを取得し、このエレベーター101の識別IDと、受信した冠水退避運転の開始指令又は解除指令に含まれるエレベーター101の識別IDとが互いに一致するか否かを判断する(S1002)。
【0078】
このとき、照合装置27は、各識別IDが互いに一致しないと判断すると(S1002/NO)、冠水退避運転の開始指令又は解除指令を制御装置24に送信せずに、エレベーター101の識別IDの照合処理を終了する。
【0079】
一方、S1002において、照合装置27は、各識別IDが互いに一致したと判断すると(S1002/YES)、冠水退避運転の開始指令又は解除指令を制御装置24に送信し、エレベーター101の識別IDの照合処理を終了する。これにより、エレベーター101の運転方式の変更を、当該エレベーター101の管理者105に限って許可することが可能となるので、携帯端末25、無線通信装置26、及び制御装置24間における通信の誤作動を減少させることができる。
【0080】
このように構成した本発明の第1実施形態に係るエレベーター101の冠水退避運転システムによれば、エレベーター101の運転が冠水退避運転から通常運転に復帰した後であっても、建物100内において、エレベーター101の管理者105が携帯端末25を使用し、冠水退避運転の開始指令を携帯端末25から無線通信装置26を介して制御装置24に送信することにより、管理者105の判断でエレベーター101の冠水退避運転を再度実施させることができる。これにより、緊急を要する場合に、エレベーター101の運転を迅速に切り換えて適切な対応を図ることができるので、エレベーター101の機器の冠水に対する被害を十分に抑制することができる。
【0081】
また、本発明の第1実施形態に係るエレベーター101の冠水退避運転システムは、エレベーター101が冠水退避運転を実施した後、サービスの休止時間が経過する前であっても、管理者105が携帯端末25を使用し、冠水退避運転の解除指令を携帯端末25から無線通信装置26を介して制御装置24に送信することにより、管理者105の判断でエレベーター101の冠水退避運転を途中で停止させることができる。したがって、エレベーター101の機器が冠水する可能性が低いにも拘わらず、エレベーター101の休止状態が不必要に継続されるのを防止することができる。これにより、エレベーター101の稼働効率を高めることができる。
【0082】
[第2実施形態]
図11は本発明の第2実施形態に係るエレベーター101の構成を示す全体図である。
【0083】
本発明の第2実施形態に係るエレベーター101の冠水退避運転システムは、上述した第1実施形態の構成に加え、図11に示すように、エレベーター101が、昇降路11の下部に形成されたピット28と、ピット28内に設けられ、ピット28内への浸水を検出する浸水検出器としての浸水検出センサ29とを有している。この浸水検出センサ29は、機械室12に設置された制御装置24に通信接続されている。
【0084】
そして、図4に示す制御装置24の冠水退避運転再開部243Aは、運転指令装置32からの冠水退避運転の開始指令に従って実施した冠水退避運転を解除した後、浸水検出センサ29によってピット28内への浸水が検出されたとき、冠水退避運転を再開させるようにしている。その他の第2実施形態の構成は、上述した第1実施形態と同様であり、第1実施形態と同一又は対応する部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0085】
次に、本発明の第2実施形態に係る制御装置24によるエレベーター101の運転の制御処理について、図12のフローチャートに基づいて詳細に説明する。なお、図12に示すS701〜S709の処理は、第1実施形態で述べた図7のS701〜S709の処理と同様であるので、これらの詳細な説明については省略する。
【0086】
図12に示すように、まずは、制御装置24は、ピット28内の浸水検出センサ29から検出信号を受信したか否かを確認する(S1201)。このとき、制御装置24は、浸水検出センサ29から検出信号を受信したことを確認すると(S1201/YES)、S704の処理が行われる。S1201において、制御装置24は、浸水検出センサ29から検出信号を受信していないことを確認すると(S1201/NO)、S701の処理が行われる。
【0087】
このように構成した本発明の第2実施形態に係るエレベーター101の冠水退避運転システムによれば、上述した第1実施形態と同様の作用効果が得られる他、ピット28内に浸水検出センサ29を設置し、この浸水検出センサ29によってピット28内への浸水が検出されたとき、冠水退避運転を再開させるようにしているので、ピット28内に一定量の水が入り込んだ場合に、乗りかご15を予め指定された階へ強制的に退避させることができる。これにより、仮にエレベーター101の管理者105が、不在等の理由で建物100の周辺の地域の浸水状況から冠水退避運転の実施の可否を判断できなくても、急な増水に伴うピット28内への浸水に十分に対応することができる。
【0088】
なお、上述した本実施形態は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。
【符号の説明】
【0089】
11…昇降路、15…乗りかご、17…ドアスイッチ(機器)、18…ドア駆動装置(機器)、24…制御装置、25…携帯端末(端末)、26…無線通信装置(通信装置)、27…照合装置、28…ピット、29…浸水検出センサ(浸水検出器)、31…情報処理装置、32…運転指令装置、33…電子メール通信装置
100…建物、101…エレベーター、102…監視端末、103…監視センター、104…一般公衆回線、241…通信部、242…情報DB、243…処理部、243A…冠水退避運転再開部、243B…冠水退避運転停止部、251…通信部(送信部)、252…操作部、253…表示部、254…情報DB(記憶部)、255…処理部、255A…開始指令生成部、255B…解除指令生成部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12