(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
  車体、前記車体に設けたフロント作業装置、前記フロント作業装置を駆動する複数の油圧アクチュエータ、前記フロント作業装置の姿勢を検出する姿勢検出器、油圧ポンプ、パイロットポンプ、前記油圧ポンプから対応する油圧アクチュエータに供給される作動油の流れを制御する複数のコントロールバルブ、対応する油圧アクチュエータの動作を指示する油圧信号を操作に応じて生成する操作レバー装置、前記操作レバー装置及び対応するコントロールバルブの油圧駆動部を接続する複数のパイロットライン、前記複数のパイロットラインのうち少なくとも1つに設けた比例電磁弁、並びに前記姿勢検出器の検出信号を基に前記比例電磁弁を制御して前記フロント作業装置の動作を制限する制限指令値を演算するフロント制御装置を備えた作業機械において、
  前記パイロットラインにおける前記比例電磁弁の上流側及び下流側の部分を接続するバイパスラインと、
  前記バイパスラインに設けた開閉弁であるバイパス弁と、
  前記フロント制御装置の制御を入り切りする信号を出力するスイッチと、
  入力装置と、
  前記入力装置を介して入力された前記スイッチからの信号が前記フロント制御装置による制御を入り状態とする入り信号か切り状態とする切り信号かを判定する入り切り判定装置と、
  前記入り切り判定装置で前記スイッチから入力された信号が前記切り信号であると判定された場合に前記バイパス弁を開く開指令信号を生成し、前記入り信号であると判定された場合に前記バイパス弁を閉じる閉指令信号を生成する開閉指令装置と、
  前記開閉指令装置で生成した前記開指令信号又は閉指令信号を前記バイパス弁に出力する出力装置と
を備えた作業機械。
【発明を実施するための形態】
【0010】
  以下に図面を用いて本発明の実施形態を説明する。
 
【0011】
  (第1実施形態)
  1−1  作業機械
  
図1は本発明の第1実施形態に係る作業機械の外観を表す斜視図である。本実施形態ではフロント作業装置の先端のアタッチメントとしてバケット23を装着した油圧ショベルを作業機械の例として説明する。但し、バケット以外のアタッチメントを備える油圧ショベルやブルドーザ等の他種の作業機械にも本発明は適用され得る。以降、運転席に着いた操作者から見て前側(
図1中の左上側)、後側(同右下側)、左側(同左下側)、右側(同右上側)を油圧ショベルの前、後、左、右とし、それぞれ単に前側、後側、左側、右側と記載する。
 
【0012】
  同図に示した油圧ショベルは、車体10及びフロント作業装置20を備えている。車体10は、走行体11及び車体本体12を備えている。
 
【0013】
  走行体11は、本実施形態では無限軌道履帯を有する左右のクローラ(走行駆動体)13を備えており、左右の走行モータ35により左右のクローラ13をそれぞれ駆動することで走行する。走行モータ35には例えば油圧モータが用いられる。
 
【0014】
  車体本体12は、走行体11上に旋回装置(不図示)を介して旋回可能に設けた旋回体である。車体本体12の前部(本実施形態では前部左側)には、操作者が搭乗する運転室14が設けられている。車体本体12における運転室14の後側には、エンジンや油圧駆動装置等を収容した動力室15が、最後部には機体の前後方向のバランスを調整するカウンタウェイト16が搭載されている。車体本体12を走行体11に対して連結する旋回装置には旋回モータ34(
図2)が含まれており、旋回モータ34によって走行体11に対して車体本体12が旋回駆動される。旋回モータ34には例えば油圧モータが用いられる。
 
【0015】
  フロント作業装置20は土砂の掘削等の作業を行なうための装置であり、車体本体12の前部(本実施形態では運転室14の右側)に設けられている。このフロント作業装置20は、ブーム21、アーム22及びバケット23を備えた多関節型の作業装置である。ブーム21は、左右に延びるピン(不図示)によって車体本体12のフレームに連結され、またブームシリンダ31によっても車体本体12と連結されている。ブームシリンダ31の伸縮に伴って車体本体12に対してブーム21が上下に回動する構成である。アーム22は、左右に延びるピン(不図示)によってブーム21の先端に連結され、またアームシリンダ32によってもブーム21と連結されている。アームシリンダ32の伸縮に伴ってブーム21に対してアーム22が回動する構成である。バケット23は、水平左右に延びるピン(不図示)によってアーム22の先端に連結され、またバケットシリンダ33によってもアーム22と連結されている。バケットシリンダ33の伸縮に伴ってアーム22に対してバケット23が回動する構成である。ブームシリンダ31、アームシリンダ32及びバケットシリンダ33はフロント作業装置20を駆動する油圧シリンダである。
 
【0016】
  また、油圧ショベルには、位置や姿勢に関する情報を検出する検出器が適所に設けられている。例えば、ブーム21、アーム22及びバケット23の各回動支点にはそれぞれ角度検出器8a〜8cが設けられている。角度検出器8a〜8cは、フロント作業装置20の位置と姿勢に関する情報を検出する姿勢検出器として用いられ、それぞれブーム21、アーム22及びバケット23の回動角を検出する。その他、車体本体12には、傾斜検出器8d、測位装置9a,9b(
図4)、無線機9c(
図4)、油圧駆動装置30(
図2)、コントローラユニット100(
図4等)が備えられている。傾斜検出器8dは、車体本体12の前後方向及び左右方向の少なくとも一方の傾斜を検出する車体本体12の姿勢検出手段として用いられる。測位装置9a,9bには例えばRTK−GNSS(Real Time Kinematic - Global Navigation Satellite System)が用いられ、測位装置9a,9bによって車体10の位置情報が取得される。無線機9cは、基準局GNSS(不図示)からの補正情報を受信するものである。測位装置9a,9b及び無線機9cは車体本体12の位置や向きを検出する手段である。更には、運転室14内の操作パネル(不図示)や操作レバー装置51〜54(
図2等)のいずれか1つのレバー部には、フロント制御装置120の制御を入り切りするスイッチ7(
図3参照)が設けられている。油圧駆動装置30やコントローラユニット100については次に説明する。
 
【0017】
  1−2  油圧駆動装置
  
図2は
図1に示した油圧ショベルに備えられた油圧駆動装置をコントローラユニットとともに示す図である。説明済みのものについては、同図において既出図面と同符号を付して説明を省略する。
 
【0018】
  油圧駆動装置30は、油圧ショベルの被駆動部材を駆動する装置であって動力室15に収容されている。被駆動部材には、フロント作業装置20(ブーム21、アーム22及びバケット23)並びに車体10(クローラ13及び車体本体12)が含まれる。この油圧駆動装置30は、油圧アクチュエータ31〜34、油圧ポンプ36、コントロールバルブ41〜44、パイロットポンプ37、操作レバー装置51〜54、フロント制御用油圧ユニット60等を含んでいる。
 
【0019】
  1−2.1  油圧アクチュエータ
  油圧アクチュエータ31〜34は、ブームシリンダ31、アームシリンダ32、バケットシリンダ33及び旋回モータ34の総称である。走行モータ35は
図2では図示省略してある。ブームシリンダ31、アームシリンダ32、バケットシリンダ33及び旋回モータ34のうち複数を挙げる場合に、「油圧アクチュエータ31〜34」、「油圧アクチュエータ31,32」等と総称で記載する場合がある。油圧アクチュエータ31〜35は、油圧ポンプ36から吐出される作動油により駆動される。
 
【0020】
  1−2.2  油圧ポンプ
  油圧ポンプ36は油圧アクチュエータ31〜34等の駆動源となる可変容量型ポンプであり、原動機17により駆動される。本実施形態における原動機17は内燃機関等の燃焼エネルギーを動力に変換するエンジンである。
図2では油圧ポンプ36を1個のみ図示しているが、複数個設けられる場合もある。油圧ポンプ36から吐出された作動油は吐出配管36aを流れ、コントロールバルブ41〜44を経由してそれぞれ油圧アクチュエータ31〜34に供給される。油圧アクチュエータ31〜34からの各戻り油は、それぞれコントロールバルブ41〜44を介して戻り油配管36bに流れ込んでタンク38に戻される。吐出配管36aには、吐出配管36aの最高圧力を規制するリリーフ弁(不図示)が設けられている。
図2では図示していないが走行モータ35も同様の回路構成で駆動される。走行体11の前後の少なくとも一方に排土板を設けた場合、ブレーカ等のアクチュエータを持つアタッチメントをバケット23に代えてフロント作業装置20に装着した場合には、排土板やアタッチメントの油圧アクチュエータも同様の回路構成で駆動される。
 
【0021】
  1−2.3  コントロールバルブ
  コントロールバルブ41〜44のうち、コントロールバルブ41はブームシリンダ用、コントロールバルブ42はアームシリンダ用、コントロールバルブ43はバケットシリンダ用、コントロールバルブ44は旋回モータ用である。走行モータ用のコントロールバルブは図示省略してある。コントロールバルブ41〜44は油圧ポンプ36から対応する油圧アクチュエータに供給される作動油の流れ(方向及び流量)を制御する油圧駆動式の流量制御弁であり、それぞれ油圧信号が入力される油圧駆動部45,46を備えている。コントロールバルブ41〜44は油圧駆動部45又は46に油圧信号が入力されると図中で左行又は右行し、油圧信号の入力が停止されるとバネの力で中立位置に復帰する構成である。例えばブームシリンダ用のコントロールバルブ41の油圧駆動部45に油圧信号が入力されると、
図2においてコントロールバルブ41のスプールが油圧信号の大きさに応じた距離だけ右行する。これにより、油圧信号に応じた流量でブームシリンダ31のボトム側油室に油圧ポンプ36からの作動油が供給され、油圧信号の大きさに応じた速度でブームシリンダ31が伸長しブーム21が上がる。
 
【0022】
  1−2.4  パイロットポンプ
  パイロットポンプ37はコントロールバルブ41〜44等の制御弁の駆動源となる固定容量型ポンプであり、油圧ポンプ36と同じく原動機17により駆動される。このパイロットポンプ37の吐出配管であるポンプライン37aはロック弁39を通った後、複数に分岐して操作レバー装置51〜54及びフロント制御用油圧ユニット60の各弁に接続している。
 
【0023】
  なお、ロック弁39は本例では電磁切換弁であり、その電磁駆動部は運転室14(
図1)に配置されたゲートロックレバー(不図示)の位置検出器と電気的に接続している。ゲートロックレバーは寝かせた閉鎖姿勢で操作者の降車を妨げるように運転席の乗降側に設置されたバーであり、降車するにはゲートロックレバーを引き上げて運転席に対する乗降部を開放しなければならないようになっている。ゲートロックレバーのポジションとして、寝かせた姿勢を操作系の「ロック解除位置」、引き上げた姿勢を操作系の「ロック位置」と記載する。ゲートロックレバーのポジションは位置検出器で検出され、位置検出器からロック弁39に対してゲートロックレバーのポジションに応じた信号が入力される。ゲートロックレバーがロック位置にあればロック弁39が閉じてポンプライン37aが遮断され、ロック解除位置にあればロック弁39が開いてポンプライン37aが開通する。ポンプライン37aが遮断された状態では、操作レバー装置51〜54の元圧が断たれるので、操作の有無に関わらずコントロールバルブ41〜44には油圧信号が入力されなくなる。つまり操作レバー装置51〜54による操作が無効化され、旋回や掘削等の動作が禁止される。
 
【0024】
  1−2.5  操作レバー装置
  操作レバー装置51〜54は、それぞれ対応する油圧アクチュエータ31〜34の動作を指示する油圧信号を操作に応じて生成し出力するレバー操作式の操作装置であり、運転室14(
図1)に備えられている。操作レバー装置51〜54のうち、操作レバー装置51はブーム操作用、操作レバー装置52はアーム操作用、操作レバー装置53はバケット操作用、操作レバー装置54は旋回操作用である。油圧ショベルの場合、一般に操作レバー装置51〜54は十字操作式のレバー装置であり、前後方向への傾倒操作で1つの油圧アクチュエータの動作を、左右方向への傾倒操作で別の油圧アクチュエータの動作を指示できる構成となっている。従って、4つの操作レバー装置51〜54は2つずつ2つのグループに区分され、各グループで1本のレバー部を共用する。従って、操作レバー装置51〜54のレバー部は右手操作用と左手操作用の合計2本であり、前述したスイッチ7をレバー部に設ける場合、2本のレバー部のうちの少なくとも一方に設けることになる。走行用の操作レバー装置は図示省略してある。
 
【0025】
  ブーム操作用の操作レバー装置51は、ブーム上げ指令用の信号出力弁51a及びブーム下げ指令用の信号出力弁51bを備えている。信号出力弁51a,51bの入力ポート(一次側ポート)にはポンプライン37aが接続している。ブーム上げ指令用の信号出力弁51aの出力ポート(二次側ポート)はパイロットライン51a1,51a2を介してブームシリンダ用のコントロールバルブ41の油圧駆動部45に接続している。ブーム下げ指令用の信号出力弁51bの出力ポートはパイロットライン51b1を介してコントロールバルブ41の油圧駆動部46に接続している。例えば操作レバー装置51をブーム上げ指令側に倒すと信号出力弁51aが操作量に応じた開度で開く。これによりポンプライン37aから入力されたパイロットポンプ37の吐出油が、信号出力弁51aで操作量に応じて減圧されてコントロールバルブ41の油圧駆動部45に対する油圧信号として出力される。なお、パイロットライン51a1,51b1にはそれぞれ圧力検出器6a,6bが設けられており、信号出力弁51a,51bが出力する圧力信号の大きさ(圧力値)が圧力検出器6a,6bで検出されるようになっている。
 
【0026】
  同様に、アーム操作用の操作レバー装置52は、アームクラウド指令用の信号出力弁52a及びアームダンプ指令用の信号出力弁52bを備えている。バケット操作用の操作レバー装置53は、バケットクラウド指令用の信号出力弁53a及びバケットダンプ指令用の信号出力弁53bを備えている。旋回操作用の操作レバー装置54は、右旋回指令用の信号出力弁54a及び左旋回指令用の信号出力弁54bを備えている。信号出力弁52a,52b,53a,53b,54a,54bの入力ポートは、ポンプライン37aに接続している。アーム操作用の操作レバー装置52の信号出力弁52a,52bの出力ポートは、それぞれパイロットライン52a1,52b1を介してアームシリンダ用のコントロールバルブ42の油圧駆動部45,46に接続している。バケットクラウド指令用の信号出力弁53aの出力ポートは、パイロットライン53a1,53a2を介してバケットシリンダ用のコントロールバルブ43の油圧駆動部45に接続している。バケットダンプ指令用の信号出力弁53bの出力ポートは、パイロットライン53b1,53b2を介してコントロールバルブ43の油圧駆動部46に接続している。旋回操作用の操作レバー装置54の信号出力弁54a,54bの出力ポートは、それぞれパイロットライン54a1,54b1を介して旋回モータ用のコントロールバルブ44の油圧駆動部45,46に接続している。操作レバー装置52〜54の油圧信号の出力原理はブーム操作用の操作レバー装置51と同様である。
 
【0027】
  なお、本実施形態においては、パイロットライン51a2,51b1,52a1,52b1,53a2,53b2,54a1,54b1の途中にシャトルブロック47が設けられている。操作レバー装置51〜54から出力された油圧信号が、このシャトルブロック47を介して油圧ポンプ36のレギュレータ48にも入力されるようになっている。シャトルブロック47の詳細構成は省略するが、油圧信号がシャトルブロック47を介してレギュレータ48に入力されることにより、油圧ポンプ36の吐出流量が油圧信号に応じて制御されるようになっている。
 
【0028】
  1−2.6  フロント制御用油圧ユニット
  フロント制御用油圧ユニット60は、操作レバー装置51〜53から出力される油圧信号を状況に応じて増減圧し、フロント作業装置20が掘削目標面を越えて掘削等しないようにするためのハードウェアである。フロント制御用油圧ユニット60はコントローラユニット100からの信号で駆動される。
 
【0029】
  図3はフロント制御用油圧ユニットの油圧回路図である。同図において他図面と同符号を付した要素は、他図面で図示された要素と同様の要素である。フロント制御用油圧ユニット60は、減圧用の比例電磁弁61b,62a,62b,63a,63b、増圧用の比例電磁弁71a,73a,73b、遮断弁70、バイパス弁81b,82a,82b,83a,83b及びシャトル弁91〜93を備えている。
 
【0030】
  ・シャトル弁
  シャトル弁91〜93は高圧選択弁であり、それぞれ2つの入口ポートと1つの出口ポートとを備えている。シャトル弁91の一方の入口ポートはパイロットライン51a1を介してブーム上げ指令用の信号出力弁51aに、他方の入口ポートは信号出力弁を介さずポンプライン37aを介してパイロットポンプ37に接続している。シャトル弁91の出口ポートは、パイロットライン51a2を介してブームシリンダ用のコントロールバルブ41の油圧駆動部45(ブーム上げ側)に接続している。シャトル弁92の一方の入口ポートはパイロットライン53a1を介してバケットクラウド指令用の信号出力弁53aに、他方の入口ポートは信号出力弁を介さずポンプライン37aを介してパイロットポンプ37に接続している。シャトル弁92の出口ポートは、パイロットライン53a2を介してバケットシリンダ用のコントロールバルブ43の油圧駆動部45(バケットクラウド側)に接続している。シャトル弁93の一方の入口ポートはパイロットライン53b1を介してバケットダンプ指令用の信号出力弁53bに、他方の入口ポートは信号出力弁を介さずポンプライン37aを介してパイロットポンプ37に接続している。シャトル弁93の出口ポートは、パイロットライン53b2を介してバケットシリンダ用のコントロールバルブ43の油圧駆動部46(バケットダンプ側)に接続している。
 
【0031】
  ・減圧用比例電磁弁
  比例電磁弁61b,62a,62b,63a,63bはノーマルオープンタイプの比例弁であり、消磁されると最大開度となり、コントローラユニット100からの信号により励磁されると信号の大きさに比例して開度を低下させる(閉じてゆく)。これらはいずれも対応する信号出力弁のパイロットラインに設けられており、掘削目標面よりも下側を掘削することを抑制するために、対応する信号出力弁から出力された油圧信号の最大値をコントローラユニット100からの信号に従って制限する役割を果たす。
 
【0032】
  具体的には、比例電磁弁61bは、ブーム下げ指令用の信号出力弁51bのパイロットライン51b1上に設けられていて、コントローラユニット100の信号S61bに従ってブーム下げ指令用の油圧信号の最大値を制限する。比例電磁弁62aはアームクラウド指令用の信号出力弁52aのパイロットライン52a1上に設けられていて、コントローラユニット100の信号S62aに従ってアームクラウド指令用の油圧信号の最大値を制限する。比例電磁弁62bはアームダンプ指令用の信号出力弁52bのパイロットライン52b1上に設けられていて、コントローラユニット100の信号S62bに従ってアームダンプ指令用の油圧信号の最大値を制限する。比例電磁弁63aはバケットクラウド指令用の信号出力弁53aのパイロットライン53a1上に設けられていて、コントローラユニット100の信号S63aに従ってバケットクラウド指令用の油圧信号の最大値を制限する。比例電磁弁63bはバケットダンプ指令用の信号出力弁53bのパイロットライン53b1上に設けられていて、コントローラユニット100の信号S63bに従ってバケットダンプ指令用の油圧信号の最大値を制限する。
 
【0033】
  ・増圧用比例電磁弁
  比例電磁弁71a,73a,73bはノーマルクローズタイプの比例弁であり、消磁されると最小開度(ゼロ開度)となり、コントローラユニット100からの信号により励磁されると信号の大きさに比例して開度を上昇させる(開いてゆく)。これらはいずれもシャトル弁に繋がるポンプライン37aに設けられており、操作レバー装置をバイパスして操作レバー装置の操作に依存しない油圧信号をコントローラユニット100の信号に従って出力する役割を果たす。比例電磁弁71a,73a,73bからシャトル弁91〜93の他方側の入口ポートに入力される油圧信号は、シャトル弁91〜93の一方側の入口ポートに入力される操作レバー装置51,53からの油圧信号に干渉する。操作レバー装置51,53から出力される油圧信号よりも高圧の油圧信号を出力し得る点で、本願明細書では比例電磁弁71a,73a,73bを増圧用の比例電磁弁と称する。
 
【0034】
  具体的には、比例電磁弁71aはシャトル弁91に繋がるポンプライン37a上に設けられていて、コントローラユニット100の信号S71aに従ってブーム自動上げ動作用の油圧信号を出力する。仮にブーム下げ操作が行われていても、コントロールバルブ41の油圧駆動部45に入力される油圧信号よりも比例電磁弁71aから油圧駆動部46に入力される油圧信号が大きければ、強制的にブーム上げ動作が行われる。この比例電磁弁71aは、掘削目標面より下側を掘削している際等に機能する。
 
【0035】
  比例電磁弁73aはシャトル弁92に繋がるポンプライン37a上に設けられていて、コントローラユニット100の信号S73aに従ってバケットクラウド動作を指令する油圧信号を出力する。比例電磁弁73bはシャトル弁93に繋がるポンプライン37a上に設けられていて、コントローラユニット100の信号S73bに従ってバケットダンプ動作を指令する油圧信号を出力する。比例電磁弁73a,73bの出力する油圧信号はバケット23の姿勢を補正する信号である。これら油圧信号がシャトル弁92,93で選択されてコントロールバルブ43に入力されることで、掘削目標面に対して一定の角度となるようにバケット23の姿勢が補正される。
 
【0036】
  ・遮断弁
  遮断弁70はノーマルクローズタイプの電磁駆動式の開閉弁(電磁切換弁)であり、消磁されると全閉し(ゼロ開度となり)、コントローラユニット100からの信号を受けて励磁されると開く。この遮断弁70はポンプライン37aにおけるシャトル弁91〜93に繋がる支流の分岐部とロック弁39(
図2)との間に設けられている。コントローラユニット100からの指令信号により遮断弁70が閉じると、操作レバー装置51,53の操作によらない油圧信号の生成、出力が禁止される。
 
【0037】
  ・バイパス弁
  バイパス弁81b,82a,82b,83a,83bはノーマルオープンタイプの電磁駆動式の開閉弁(電磁切換弁)であり、消磁されると全開状態となり、コントローラユニット100からの信号を受けて励磁されると全閉する(ゼロ開度となる)。本実施形態では、これらは遮断弁70と信号線を共用しているので開閉状態が遮断弁70と逆になる。バイパス弁81b,82a,82b,83a,83bは、それぞれ減圧用の比例電磁弁61b,62a,62b,63a,63bと並列回路を構成するように設けられている。例えばブーム下げ指令用の信号出力弁51bのパイロットライン51b1には比例電磁弁61bの上流側及び下流側の部分を接続して比例電磁弁61をバイパスするバイパスライン81Bが接続されている。バイパス弁81bはこのバイパスライン81Bに設けられている。
 
【0038】
  同様にアームクラウド指令用の信号出力弁52aのパイロットライン52a1には比例電磁弁62aをバイパスするバイパスライン82Aが接続されていて、このバイパスライン82Aにバイパス弁82aが設けられている。アームダンプ指令用の信号出力弁52bのパイロットライン52b1には比例電磁弁62bをバイパスするバイパスライン82Bが接続されていて、このバイパスライン82Bにバイパス弁82bが設けられている。バイパス弁83aを設けたバイパスライン83Aは、比例電磁弁63aを迂回してバケットクラウド指令用の信号出力弁53aのパイロットライン53a1,53a2を連絡している。バイパス弁83bを設けたバイパスライン83Bは、比例電磁弁63bを迂回してバケットダンプ指令用の信号出力弁53bのパイロットライン53b1,53b2を連絡している。
 
【0039】
  1−2.7  コントローラユニット
  
図4はコントローラユニットの機能ブロック図である。同図に示したように、コントローラユニット100は、入力装置110、フロント制御装置120、バイパス弁制御装置130及び出力装置170等の機能部を備えている。以下、各機能部について説明する。
 
【0040】
  ・入力装置/出力装置
  入力装置110はセンサ類等からの信号を入力する機能部である。この入力装置110には、圧力検出器6a,6b、スイッチ7、角度検出器8a〜8c、傾斜検出器8d、測位装置9a,9b、無線機9c等からの信号が入力される。
 
【0041】
  出力装置170は、フロント制御装置120及びバイパス弁制御装置130で生成された指令信号をフロント制御用油圧ユニット60に出力し、対応する弁を制御する機能部である。制御対象となり得る弁は、比例電磁弁61b,62a,62b,63a,63b,71a,73a,73b、バイパス弁81b,82a,82b,83a,83b及び遮断弁70である。
 
【0042】
  ・フロント制御装置
  フロント制御装置120は、角度検出器8a〜8c及び傾斜検出器8dの信号を基に、掘削目標面を越えて(掘削目標面の下側を)掘削しないようにフロント作業装置20の動作を制限する制限指令値を演算する機能部である。フロント制御とは、掘削目標面とバケット23の特定点との距離や油圧アクチュエータ31〜33の伸縮速度等によってフロント制御用油圧ユニット60を制御する制御の総称である。例えば、減圧用の比例電磁弁61b,62a,62b,63a,63bのうちの少なくとも1つを制御し、掘削目標面近傍で油圧アクチュエータ31〜33のうちの少なくとも1つの動作を減速させる制御もフロント制御の1つである。増圧用の比例電磁弁71a,73a,73bのうちの少なくとも1つを制御し、掘削目標面の下側を掘削してしまっている場面で強制的にブーム上げ動作をするブーム自動上げ制御や、バケット23の角度を一定に保ったりする制御もフロント制御に含まれる。その他いわゆるブーム下げ停止制御やバケット増圧制御等も含まれる。また、減圧用の比例電磁弁61b,62a,62b,63a,63bのうちの少なくとも1つと、増圧用の比例電磁弁71a,73a,73bのうちの少なくとも1つとを複合的に制御するものもフロント制御に含まれる。更には、本願明細書では、フロント作業装置20の描く軌跡を一定の軌跡に制御するいわゆる軌跡制御もフロント制御の1つとする。フロント制御装置120の詳細については説明を省略するが、このフロント制御装置120には、例えば特開平8−333768号公報や特開2016−003442号公報等の公知技術が適宜適用できる。
 
【0043】
  ・バイパス弁制装置
  
図5はバイパス弁制御装置の機能ブロック図である。同図に示したように、バイパス弁制御装置130は、入り切り判定装置131及び開閉指令装置137を備えている。
 
【0044】
  入り切り判定装置131は、入力装置110を介して入力されたスイッチ7からの信号がフロント制御装置120による制御を入り状態とする入り信号か切り状態とする切り信号かを判定する機能部である。
 
【0045】
  開閉指令装置137はバイパス弁81b,82a,82b,83a,83bを開く開指令信号、及び閉じる閉指令信号を選択的に生成する機能部である。具体的には、スイッチ7から入力された信号が切り信号であると入り切り判定装置131で判定された場合、開閉指令装置137で開指令信号が生成される。反対に、スイッチ7から入力された信号が入り信号であると入り切り判定装置131で判定された場合、開閉指令装置137で閉指令信号が生成される。
 
【0046】
  なお、本実施形態ではバイパス弁81b,82a,82b,83a,83bと遮断弁70の開閉状態が逆の関係であり、バイパス弁81b等をノーマルオープンタイプ、遮断弁70をノーマルクローズタイプとしている。これにより、バイパス弁81b等と遮断弁70の信号線を共用することで、遮断弁70を閉じる信号として上記開指令信号を、遮断弁70を開く信号として上記閉指令信号を兼用している。バイパス弁81b,82a,82b,83a,83bはノーマルオープンタイプの電磁弁であるため、開指令は消磁、閉指令は励磁ということになる。従って、バイパス弁制御装置130で閉指令信号が生成された場合には、出力装置170を介してバイパス弁81b等の電磁駆動部に励磁電流が出力され、開指令信号が生成された場合には、励磁電流の出力が停止される。本実施形態では、こうした電磁駆動部の励磁及び消磁を、出力装置170からの閉指令信号及び開指令信号の出力と扱う。
 
【0047】
  1−3  動作
  
図6はバイパス弁制御装置によるバイパス弁の開閉制御の手順を表すフローチャートである。運転中、バイパス弁制御装置130は
図6の手順を所定の処理サイクル(例えば0.1s)で繰り返し実行している。まず、入力装置110を介してスイッチ7の信号を入力し(ステップS101)、それが入り信号であるか切り信号であるかを入り切り判定装置131で判定する(ステップS102)。スイッチ7の信号が切り信号であれば、バイパス弁制御装置130は開閉指令装置137で開指令信号を生成し、出力装置170を介して開指令信号を出力することでバイパスライン81B等を開通させ、
図6の手順を終了する(ステップS103)。スイッチ7の信号が入り信号であれば、バイパス弁制御装置130は開閉指令装置137で閉指令信号を生成し、出力装置170を介して閉指令信号を出力することでバイパスライン81B等を遮断し、
図6の手順を終了する(ステップS104)。
図6の手順により、スイッチ7を操作してフロント制御の機能を入り状態にするとバイパス弁81b,82a,82b,83a,83bが閉じ、バイパスライン81B,82A,82B,83A,83Bが遮断される。反対に、スイッチ7を操作してフロント制御の機能を切り状態にするとバイパス弁81b,82a,82b,83a,83bが開き、バイパスライン81B,82A,82B,83A,83Bが開通する。
 
【0048】
  1−3.1  フロント制御の有効時
  例えば操作レバー装置51でブーム下げ操作が行われた場合、ブーム下げ指令用の信号出力弁51bが操作量に応じて開き、パイロットライン51b1を介してブームシリンダ用のコントロールバルブ41の油圧駆動部46に油圧信号が入力される。これによりブームシリンダ31が収縮し、ブーム下げ動作が実行される。フロント制御の機能が入り状態の場合、バケット23の掘削目標面との距離や下降速度によっては、フロント制御装置120から出力される制限指令値により比例電磁弁61bの開度が抑えられ、油圧信号の最大値が制限される。比例電磁弁61bの開度で規定される制限値を超えている場合、油圧信号はパイロットライン51b1を流通する過程で比例電磁弁61bにより制限値に減圧される。その結果、操作量に応じた本来の速度よりもブーム下げ動作が減速され、掘削目標面よりも下側にバケット23が進入することが抑制される。フロント制御の機能が入り状態の場合はバイパスライン81Bが遮断されているので、信号出力弁51bから出力される圧力信号の全量が迂回することなく比例電磁弁61bを通過し、バイパスライン81Bを省略した場合と同様のフロント制御機能が働く。
 
【0049】
  減圧用の比例電磁弁と並列にバイパス弁を設けた他のパイロットラインに圧力信号を出力する操作(アームクラウド、アームダンプ、バケットクラウド、バケットダンプの各操作)についても同様である。
 
【0050】
  1−3.2  フロント制御の無効時
  例えば操作レバー装置51でブーム下げ操作が行われた場合、ブーム下げ指令用の信号出力弁51bが操作量に応じて開く。フロント制御機能が切り状態の場合、バケット23の位置等によらず比例電磁弁61bは最大開度となるが、バイパスライン81Bが開通しているので信号出力弁51bから出力される圧力信号はパイロットライン51b1及びバイパスライン81Bに分流する。パイロットライン51b1及びバイパスライン81Bを流れる油圧信号が、その後合流してブームシリンダ用のコントロールバルブ41の油圧駆動部46に入力される。
 
【0051】
  減圧用の比例電磁弁と並列にバイパス弁を設けた他のパイロットラインに圧力信号を出力する操作(アームクラウド、アームダンプ、バケットクラウド、バケットダンプの各操作)についても同様である。
 
【0052】
  1−4  効果
  フロント制御機能を搭載しない油圧ショベル(ここでは便宜的に「標準機」と記載する)と比較して、本実施形態の作業機械では比例電磁弁61b等の圧力損失の分だけパイロットラインを流れる油圧信号の損失が増す。従って、フロント制御の機能をオフにした際、比例電磁弁61b等の開度こそ最大開度となるが、比例電磁弁61b等の圧力損失が油圧信号に作用し、操作レバー装置51〜53の操作に対する油圧アクチュエータ31〜33の動作の応答性が標準機より低下する。
 
【0053】
  そこで本実施形態においては、比例電磁弁61b等を迂回するバイパスライン81B等及びこれらを開閉するバイパス弁81b等を設け、フロント制御の機能が切り状態の時にはバイパスライン81B等が開通するように構成した。フロント制御の機能が切り状態の場合、バイパス弁81bが開くことで油圧信号の流路の合計開口面積がバイパス弁81b等の開口面積分だけ増加する。これにより比例電磁弁61b等の圧力損失が及ぼす油圧信号への影響を抑制することができ、フロント制御用の比例電磁弁61b等を備えながら、バイパス弁81b等を開通させることで標準機と同等又はそれに近い応答性を確保することができる。よって、操作レバー装置51〜53の操作に対する油圧アクチュエータ31〜33の動作の応答性とフロント制御機能を両立させることができる。
 
【0054】
  また、バイパスライン81B等の開通時には油圧信号の損失が軽減されるので、フロント制御機能を搭載した油圧ショベルのエネルギー効率の向上にも貢献し得る。
 
【0055】
  加えて、操作レバー装置51〜54のいずれかのレバー部にスイッチ7が設けられているので、運転席14から状況を確認しつつフロント作業装置20の操作をしながらバイパス弁81b等の開閉動作を容易に切り換え操作することができる。
 
【0056】
  (第2実施形態)
  本実施形態が第1実施形態と相違する点は、フロント制御機能が入り状態でもフロント作業装置20が掘削目標面から一定距離離れている場合にバイパス弁81b,82a,82b,83a,83bが自動的に開くように構成した点である。この制御を実現するために、本実施形態ではバイパス弁制御装置に変更が加えられている。本実施形態のバイパス弁制御装置について次に説明する。
 
【0057】
  2−1  バイパス弁制御装置
  
図7は本発明の第2実施形態に係る作業機械に備えられたバイパス弁制御装置の機能ブロック図である。
図7において既出の要素には既出図面と同符号を付して説明を省略する。
図7に示したバイパス弁制御装置130Aは、入り切り判定装置131及び開閉指令装置137に加え、記憶装置132、距離演算装置133、距離判定装置134、速度演算装置135及び速度判定装置136を備えている。また、開閉指令装置137には自動開閉指令装置138が含まれている。
 
【0058】
  ・記憶装置
  記憶装置132は各種情報を記憶する機能部であり、設定距離記憶装置141、設定速度記憶装置142、掘削目標面記憶装置143及び機体寸法記憶装置144を含んでいる。設定距離記憶装置141は、フロント作業装置20の特定点Pと掘削目標面Sとの距離Dについて予め定めた設定距離D0(>0)を記憶した記憶領域である。設定速度記憶装置142は、特定の油圧アクチュエータ(例えばブームシリンダ31)の動作速度Vについて予め定めた設定速度V0(>0)を記憶した記憶領域である。掘削目標面記憶装置143は、掘削目標面Sを記憶した記憶領域である。掘削目標面Sは、油圧ショベルで掘削形成する(造形する)目標地形であり、車体本体12を基準とする座標系で手動設定したものが記憶される場合もあるし、地球座標系の三次元位置情報で予め記憶されている場合もある。掘削目標面Sの三次元位置情報は、掘削目標面Sをポリゴンで表した地形データに位置データを付した情報であり、予め作成されたものである。機体寸法記憶装置144は、フロント作業装置20及び車体本体12の各部寸法が記憶した記憶領域である。
 
【0059】
  ・距離演算装置
  距離演算装置133は、入力装置110を介して入力された角度検出器8a〜8cの検出信号を基にフロント作業装置20の特定点Pと掘削目標面Sとの距離Dを演算する機能部である。距離Dの演算の例については後で説明する。
 
【0060】
  ・距離判定装置
  距離判定装置134は、距離演算装置133で演算された特定点Pと掘削目標面Sとの距離Dが設定距離記憶装置141から読み出した設定距離D0よりも大きいか否かを判定する機能部である。
 
【0061】
  ・速度演算装置
  速度演算装置135は、入力装置110を介して入力された圧力検出器6a,6bの信号を基に特定の油圧アクチュエータ、本例ではブームシリンダ31の動作速度V(伸縮速度)を演算する機能部である。例えば、速度演算装置135には、ブームシリンダ用のコントロールバルブ41の流量特性(流通させる作動油の流量と開度の関係等)を記憶した記憶部が含まれている。コントロールバルブ41の開度は圧力検出器6a,6bで検出されたコントロールバルブ41への油圧信号の大きさと対応する関係にある。このことに基づき、コントロールバルブ41の流量特性と圧力検出器6a,6bの信号とを基にブームシリンダ31の動作速度Vが速度演算装置135で演算される。なお、速度演算装置135では、圧力検出器6a,6bの信号のうち大きい方を選択して演算の基礎としてブームシリンダ31の動作速度を演算する。どちらの信号を演算の基礎としたかにより、演算される動作速度Vが、ブームシリンダ31の伸長速度であるのか収縮速度であるのかが区別される。言うまでもないが、例えばブーム下げ指令用の圧力信号を検出する圧力検出器6bの信号を基に演算された動作速度Vは、ブーム下げ動作に対応するブームシリンダ31の収縮速度である。そして、ブームシリンダ31の収縮方向を動作速度Vの正方向にとり、伸長速度は負の速度として扱う。
 
【0062】
  ・速度判定装置
  速度判定装置136は、速度演算装置135で演算されたブームシリンダ31の動作速度Vが設定速度記憶装置142から読み出した設定速度V0よりも大きいか否かを判定する機能部である。
 
【0063】
  ・開閉指令装置
  本実施形態の開閉指令装置137に含まれる自動開閉指令装置138は、フロント制御機能が入り状態でも一定条件下で開指令信号を生成する機能部である。自動開閉指令装置138が開指令信号を生成する条件は次の3つである。
(第1条件)スイッチ7の信号が入り信号であること;
(第2条件)距離判定装置134から入力される判定信号が特定点Pと掘削目標面Sとの距離Dが設定距離D0より大きいとの判定結果を表す信号であること;
(第3条件)速度判定装置136から入力される判定信号が特定の油圧アクチュエータ(本例ではブームシリンダ31)の動作速度Vが設定速度V1より小さいとの判定結果を表す信号であること:
  第1条件を満たすことで開閉指令装置137において自動開閉指令装置138の機能が入り状態となり、自動開閉指令装置138の処理が実行される。その上で第2条件及び第3条件が満たされると、自動開閉指令装置138で開指令信号が生成される。要するに、自動開閉指令装置138による処理と合わせて、開閉指令装置137では、第1〜第3の条件が同時に満たされる場合及びフロント制御の機能が切り状態である場合に開指令信号が生成され、それ以外の場合には閉指令信号が生成される。
 
【0064】
  その他のハードウェアについては、本実施形態の作業機械は第1実施形態の作業機械と同様の構成である。
 
【0065】
  2−2  特定点と掘削目標面との距離の演算例
  
図8は距離演算装置による作業装置の特定点と掘削目標面との距離の演算方法の説明図である。
図8ではフロント作業装置20の動作平面(ブーム21等の回動軸に直交する平面)を直交方向(ブーム21等の回動軸の延在方向)から見ている。油圧アクチュエータ31〜33については繁雑防止のため図示省略してある。
 
【0066】
  図8において特定点Pはバケット23の先端(爪先)の位置に設定してある。特定点Pは代表的にはバケット23の先端に設定されるが、フロント作業装置20における他部位に設定しても良い。距離演算装置133には、角度検出器8a〜8cが入力装置110を介して入力され、掘削目標面記憶装置143から掘削目標面Sの情報が入力される。その他、地球座標系で距離Dを演算する場合には、傾斜検出器8dの検出信号、測位装置9a,9bによって取得された車体10の位置情報、及び無線機9cで受信された補正情報も入力装置110を介して距離演算装置133に入力される。地球座標系で距離Dを求める場合、距離演算装置133では、測位装置9a,9bの位置情報を補正情報で補正して車体10の位置や向きを演算し、傾斜検出器8dの信号により車体10の傾斜を演算する。
 
【0067】
  掘削目標面Sはフロント作業装置20の動作平面との交線で定義され、車体10の位置、向き、傾斜等の情報と合わせて地球座標系で掘削目標面Sと車体10との位置関係が把握される。掘削目標面Sから上側の領域が、特定点Pの移動が是とされる掘削領域として規定される。掘削目標面Sは、例えば油圧ショベルを基準とするXY座標系における少なくとも1本の直線式で一旦規定される。XY座標系は例えばブーム21の回動支点を原点とする直交座標系であり、原点を通って車体本体12の旋回中心軸に平行に延びる軸をY軸(上方向が正方向)、このY軸に対して原点で直交して前方に延びる軸をX軸としている(前方向が正方向)。なお掘削目標面Sを手動設定した場合には、掘削目標面Sと車体10との位置関係は既知である。
 
【0068】
  XY座標系で規定された掘削目標面Sは、自己を一軸(Xa軸)とする原点Oの直交座標系であるXaYa座標系で改めて規定される。言うまでもないが、Ya軸は原点OでXa軸に直交する軸である。Xa軸は前方向を正方向、Ya軸は上方向を正方向とする。
 
【0069】
  距離演算装置133では、機体寸法記憶装置144から読み出したフロント作業装置20の寸法データ(L1,L2,L3)、角度検出器8a〜8cで検出された回動角α,β,γの各値を用いてバケット特定点Pの位置を計算する。特定点Pの位置は、例えば油圧ショベルを基準とするXY座標系の座標値(X,Y)として求める。特定点Pの座標値(X,Y)は下記の式(1)と式(2)より求まる。
 
【0070】
  X=L1・sinα+L2・sin(α+β)+L3・sin(α+β+γ)…(1)
  Y=L1・cosα+L2・cos(α+β)+L3・cos(α+β+γ)…(2)
  L1はブーム21とアーム22の回動支点間の距離、L2はアーム22とバケット23の回動支点間の距離、L3はバケット23の回動支点と特定点Pとの距離である。αはY軸(原点から上側に延びる部分)とブーム21とアーム22の回動支点を通る直線l1(原点からアーム22の回動支点側に延びる部分)との挟角である。βは直線l1(アーム22の回動支点から原点と反対側に延びる部分)とアーム22とバケット23の回動支点を通る直線l2(アーム22の回動支点からバケット23の回動支点側に延びる部分)との挟角である。γは直線l2(バケット23の回動支点からアーム22の回動支点と反対側に延びる部分)と特定点Pを通る直線l3との挟角である。
 
【0071】
  距離演算装置133は、以上のようにXY座標系で規定した特定点Pの座標値(X,Y)をXaYa座標系の座標値(Xa,Ya)に変換する。こうして求められた特定点PのYaの値が、特定点Pと掘削目標面Sとの距離Dの値である。距離Dは、特定点Pを通って掘削目標面Sに直交する直線と掘削目標面Sとの交点から特定点Pまでの距離であり、Yaの値の正負を区別する(つまり掘削領域で距離Dは正の値となり、掘削目標面Sより下側の領域では負の値となる)。
 
【0072】
  2−3  バイパス弁開閉制御
  
図9は本実施形態におけるバイパス弁制御装置によるバイパス弁の開閉制御の手順を表すフローチャートである。運転中、バイパス弁制御装置130Aは
図9の手順を所定の処理サイクル(例えば0.1s)で繰り返し実行する。
 
【0073】
  ・ステップS201
  バイパス弁制御装置130Aは
図9の手順を開始すると、まずステップS201で入力装置110を介してスイッチ7、角度検出器8a〜8c、圧力検出器6a,6bの各信号を入力する。この例では掘削目標面Sと機体との位置関係は既知の情報として説明するが、例えば前述したように地球座標系で機体と掘削目標面Sの位置関係を演算する場合には、合わせて測位装置9a,9bや無線機9c、傾斜検出器8dの信号も入力する。
 
【0074】
  ・ステップS202→S205
  続いて、バイパス弁制御装置130Aは、スイッチ7の信号が切り信号であるかどうかを判定し(ステップS202)する。切り信号である場合、バイパス弁制御装置130Aは、開閉指令装置137により開指令信号を出力し(ステップS205)、バイパス弁81b,82a,82b,83a,83bを開く。ステップS202,S205は、
図6のステップS102,S103と同様の手順である。
 
【0075】
  ・ステップS202→S203→S204→S205
  スイッチ7の信号が入り信号である場合、バイパス弁制御装置130Aは、ステップS203に手順を移し、距離演算装置133で掘削目標面Sと特定点Pとの距離Dを演算し、速度演算装置135でブームシリンダ31の動作速度Vを演算する。ステップS204に手順を移すと、バイパス弁制御装置130Aは、設定距離記憶装置141から読み出した設定距離D0よりも距離Dが大きいかどうかを距離判定装置134で判定する。設定距離D0は正の値で距離Dの正負も前述したように区別されるので、ここでは特定点Pが掘削領域内にあって掘削目標面Sから設定距離D0より離れているかが判定される。同時に、バイパス弁制御装置130Aは、設定速度記憶装置142から読み出した設定速度V0よりも動作速度Vが小さいかどうかを速度判定装置136で判定する。設定速度V0は正の値で動作速度Vの正負も前述したように区別されるので、ここではブームシリンダ31が設定速度V0を超える速度で収縮していないかが判定される。判定の結果、D>D0でかつV<V0の場合(つまりステップS202,S204で上記第1〜第3条件が満たされた場合)、バイパス弁制御装置130AはステップS205に手順を移して自動開閉指令装置138により開指令信号を出力する。
 
【0076】
  ・ステップS202→S203→S204→S206
  ステップS202,S203,S204の手順を実行し、D>D0でかつV<V0の条件が満たされない場合、バイパス弁制御装置130AはステップS204からステップS206に手順を移す。ステップS206に手順を移すと、バイパス弁制御装置130Aは自動開閉指令装置138により閉指令信号を出力し、バイパス弁81b,82a,82b,83a,83bを閉じる。ステップS206は、
図6のステップS104に対応する手順である。
 
【0077】
  なお、本実施形態の電気回路は
図3に示した通りであるため、設定距離D0はフロント制御装置120による比例電磁弁61b等の制御が実行判断の閾値に合わせてある。つまり、距離Dが設定距離D0以下の場合、バイパス弁81b等が閉じると同時に遮断弁70が開き、フロント制御装置120により比例電磁弁61b等が距離D等に応じて励磁される(開度が変更される)。反対に、距離Dが設定距離D0を超えている場合、バイパス弁81b等が開くと同時に遮断弁70が閉じ、比例電磁弁61b等も消磁される。
 
【0078】
  2−4  効果
  本実施形態においても、スイッチ7でフロント制御の機能を入り状態にするか切り状態にするかでバイパス弁81b,82a,82b,83a,83bが開閉するので、第1実施形態と同様の効果が得られる。加えて、特定点Pが掘削目標面Sから設定距離D0を超えて離れていて、ブームシリンダ31が設定速度V0を超える速度で収縮していない場合には、フロント制御の機能が入り状態でもバイパス弁81b,82a,82b,83a,83bが開く。つまり、掘削目標面Sからバケット23が遠く、フロント作業装置20の動作状況を考慮しても、直ちにバケット23が掘削領域外に進入する恐れがないような場合には、フロント制御の機能が入り状態でも自動的に応答性を優先される。これにより作業効率の更なる向上が期待できる。
 
【0079】
  (その他)
  第2実施形態においては、D>D0でかつV<V0の場合にステップS204で第1〜第3条件が満たされ、フロント制御の機能が入り状態でもバイパス弁81b等が開くようにした構成を例示した。しかし、動作速度Vに関する上記第3条件は省略しても良い。つまり、フロント制御の機能が入り状態でも、距離Dが設定距離D0を超えていれば(第1条件及び第2条件が満たされていれば)、
図10に示したように動作速度Vによらずバイパス弁81b等が開く構成としても良い。
図10はバイパス弁81b等に対する指令信号と距離Dとの関係を表しており、距離Dが設定距離D0を超えている場合には動作速度Vによらず開指令信号が出力され、設定距離D0以下の場合には動作速度Vによらず閉指令信号が出力される例である。この場合でも特定点Pが掘削目標面Sから離れていてバケット23が掘削領域外に逸脱する可能性が低い状況で作業効率を向上させることができ、制御が簡略化できるメリットもある。また、設定速度記憶装置142、速度演算装置135、速度判定装置136を省略し得る。
 
【0080】
  また、第2実施形態ではブームシリンダ31の伸縮速度を油圧アクチュエータの動作速度Vとして演算する場合を例に挙げて説明したが、アームシリンダ32やバケットシリンダ33の伸縮速度を動作速度Vとしてバイパス弁81b等の開閉判断に加味しても良い。勿論、油圧アクチュエータ31−33のうち複数を選択してその動作速度Vを加味する構成としても良い。また、一又は複数の油圧アクチュエータの動作速度Vから特定点Pの移動速度を演算し、掘削目標面Sに垂直な成分を抽出して掘削領域における特定点Pの掘削目標面Sへの接近速度を演算することができる。単に油圧アクチュエータの動作速度Vを考慮するのではなく、これを特定点Pの掘削目標面Sへの接近速度に変換して判断の基礎とすることも考えられる。
 
【0081】
  なお、距離演算装置133や速度演算装置135に相当する機能部はフロント作業装置120にも備えられ得る。その場合には、フロント制御装置120で演算された距離Dや動作速度Vをバイパス弁制御装置130Aの距離判定装置134や速度判定装置136に入力するように構成しても良い。
 
【0082】
  また、バイパス弁81b,82a,82b,83a,83bと遮断弁70の信号線を共用し、この信号線に励磁電流を流すことでバイパス弁81b等と遮断弁70を同時に制御する構成を例示したが、バイパス弁81b等と遮断弁70とは信号線を別にしても良い。信号線を別にした場合、フロント制御装置120による比例電磁弁61b等の開度変更の実行・非実行を判断するための特定点Pと掘削目標面Sとの距離(D1とする)とは異なる値に設定距離D0を設定することができる。但し、比例電磁弁61b等で圧力信号の最大値を制限する状況ではバイパス弁81b等は閉じていなければならないため、0<D1≦D0が条件である。また、バイパス弁81b,82a,82b,83a,83bについて、複数のグループに分けてそれぞれ設定距離D0を異なる値に設定しても良い。また、バイパス弁81b,82a,82b,83a,83bは全てが必要なわけでは必ずしもなく、これらのうちから必要なものを少なくとも1つ選択して実装すれば良い。また、説明した例ではブーム上げ指令用のパイロットライン51a1,51a2には比例電磁弁及びバイパス弁を設けていないが、必要があればパイロットライン51a1,51a2にも比例電磁弁やバイパス弁は設けられる。
 
【0083】
  また、バイパス弁81b,82a,82b,83a,83bは電磁弁ではなく油圧駆動式の開閉弁であっても良い。例えばバイパス弁81b,82a,82b,83a,83bの油圧駆動部にスイッチ7を経由してポンプライン37aを導き、スイッチ7でポンプライン37aが開閉されるように構成すれば、バイパス弁81b等を油圧駆動式の開閉弁としても回路は成立する。
 
【0084】
  減圧用の比例電磁弁61b,62a,62b,63a,63b及びバイパス弁81b,82a,82b,83a,83bをノーマルオープンタイプ、増圧用の比例電磁弁71a,73a,73b及び遮断弁70をノーマルクローズタイプとした場合を例示した。このノーマルオープンタイプ及びノーマルクローズタイプの適用の区別は必要時にのみ励磁電流を流せば済む点で好ましいが、ノーマルオープンタイプ及びノーマルクローズタイプの適用関係を逆にしても励磁及び消磁のタイミングを逆転させれば回路は成立する。
 
【0085】
  また、フロント制御用に減圧用の比例電磁弁61b,62a,62b,63a,63b及び増圧用の比例電磁弁71a,73a,73bを設けた場合を例示して説明したが、これら全てが必要なわけでは必ずしもない。これらのうち少なくとも1つ(例えばブーム下げ指令用の油圧信号を減圧する比例電磁弁61bが)あればフロント制御の一種が実行され得る。操作レバー装置51〜54の油圧信号を減圧する比例電磁弁を少なくとも用いた作業機械であれば、その比例電磁弁と並列回路を構成するようにバイパス弁が設けられるので、本発明の適用対象となり得る。
 
【0086】
  また、油圧アクチュエータの動作速度Vを圧力信号の大きさを基に演算する場合を例に挙げて説明したが、例えば角度検出器8a〜8cの信号の変化率を基にしても油圧アクチュエータの動作速度Vを求めることができる。例えば角度検出器8aの信号の変化率を基にしてブームシリンダ31の伸縮速度を求めることができる。油圧アクチュエータ31〜33のストローク量を検出するストローク検出器やブーム21、アーム22及びバケット23の傾斜角を検出する傾斜角検出器を利用しても油圧アクチュエータの動作速度Vを求め得る。
 
【0087】
  また、原動機17にエンジンを用い、エンジンで油圧ポンプ36等を駆動する一般的な油圧ショベルを例に挙げて説明したが、エンジン及び電動機を原動機として油圧ポンプ36等を駆動するハイブリッド式の油圧ショベルにも本発明は適用可能である。その他、電動機を原動機として油圧ポンプを駆動する電動式の油圧ショベル等にも本発明は適用可能である。