【文献】
TATSUO HASHIMOTO,ACE2 LINKS AMINO ACID MALNUTRITION TO MICROBIAL ECOLOGY AND INTESTINAL INFLAMMATION,NATURE,2012年 1月 1日,VOL:487, NR:7408,PAGE(S):477 - 481,URL,http://dx.doi.org/10.1038/nature11228
【文献】
ANDREWS, C. N. et al.,Alimentary Pharmacology and Therapeutics,2011年,Vol. 34, Issue 3,pp. 374-383
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ニコチンアミドを含み、前記ニコチンアミドが下部小腸において、好ましくは回腸終末部、結腸またはその両方において選択的に放出される、請求項1または2に記載の医薬組成物。
腸内微生物叢に有益な影響を及ぼすために5−アミノサリチル酸とニコチンアミドとの組合せを含み、回腸終末部、結腸またはその両方において局部的に有効であるように前記活性物質を選択的に放出する、請求項3に記載の医薬組成物。
下部小腸において、好ましくは回腸終末部および/または結腸において特定の局所に有効であるように前記活性成分を遅延放出する、経口投与用に製剤化された、請求項1から4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
下部小腸において、好ましくは回腸終末部および/または結腸において特定の局所に有効であるように前記活性成分を制御放出する、経口投与用に製剤化された、請求項1から4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
小腸の炎症性疾患および/または大腸の疾患の治療または予防のため、ならびに/または腸内微生物叢内の変化および/または腸内微生物叢と腸との相互作用の低下から生じる他の疾患の治療または予防のための、好ましくは経口投与用に、より好ましくは遅延放出または制御放出で製剤化される、請求項1から6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
大腸の炎症性疾患または回腸嚢炎の治療のための、結腸または回腸嚢における(新)直腸投与用((neo)rectal administration)の、請求項1から4および7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
経口適用が、最終剤形あたりニコチンアミド1〜3000mgおよび5−アミノサリチル酸1〜3000mgの活性物質含量で実施されることを特徴とし、好ましくは、経口適用が、最終剤形あたりニコチンアミド10〜1000mgおよび5−アミノサリチル酸10〜1500mgの活性物質含量で実施されることを特徴とする、請求項7に記載の医薬組成物。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の核心は、腸内微生物叢に有益な影響を及ぼすために、(i)ニコチン酸(NA:nicotinic acid);ニコチンアミド(NAM:nicotinamide);動物の体内(たとえば人の体内)の中でニコチンアミドに変換される化合物、たとえばイノシトールヘキサニコチナート;ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD:nicotinamide adenine dinucleotide);ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP:nicotinamide adenine dinucleotide phosphate);NADまたはNADPの生合成における中間体から選択される1または2以上の活性物質を、(ii)5−ASAまたは代謝して5−ASAになる化合物と組み合わせて含む、医薬組成物または処置レジメンである。本発明による医薬組成物は、腸内微生物叢に有益な影響を及ぼすように製剤化されるのが好ましい。医薬剤形は、下部小腸において、好ましくは回腸終末部、結腸またはその両方において放出(たとえば部分的に放出、選択的に放出)するように、任意選択で遅延放出用に設計される。
【0013】
本明細書で使用する場合、「下部小腸」とは小腸の後半部であり、「回腸終末部」とは回腸の後半部である。
【0014】
種々の制御放出および遅延放出製剤を使用して、下部小腸および/または結腸内にニコチンアミドを局部的放出すると、腸内微生物叢(腸内のすべての微生物、特に細菌の全体)に影響を及ぼすことによって驚くべき抗炎症効果があることが以前に示されている(PCT/EP2013/062363)。この驚くべき効果の裏にある機序は、ニコチンアミドが誘導して腸内の抗微生物ペプチドの分泌パターンを変化させ、これが正常で健康な腸内微生物叢の維持および/または再生を支えていることがその後に示された(Hashimotoら、2012、Nature 487:477)。Hashimotoらは、マウスにおけるトリプトファンの吸収不良によって、刺激源のデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)で誘発した大腸炎の重症度が著しく増加することを示した。トリプトファンまたはニコチンアミドの栄養素補充をすると、大腸炎におけるこの増加が防止された。Hashimotoらは、重度の大腸炎に対する感受性が増加した原因は、消化管の微生物叢が変化したことであり、この変化した微生物叢を他のマウスに移植すると、レシピエントにおいても大腸炎の重症度が増加することを実証した。消化管の微生物叢内の有害な変化の原因は、一定の抗微生物ペプチド(AMP)、特にα−ディフェンシンの量が大いに低下することであり、回腸終末部の上皮細胞におけるその発現は、トリプトファンまたはニコチンアミドが誘導するmTORシグナル伝達によって大部分が制御されていることがわかった。
【0015】
本発明者らは、今般、ニコチンアミドと5−ASAとの組合せが驚くべき優れた抗炎症効果を有することを認識した。この優れた効果は、2種の活性成分の効果の相加および/またはこれらの成分の相乗効果に起因すると考えられる。本発明による医薬組成物の投与後に変化した腸内微生物叢は、炎症促進効果が少ないか、または抗炎症性となり、このため、ヒトにおけるクローン病または潰瘍性大腸炎などのIBD、または他の哺乳動物におけるIBD(たとえばイヌにおける慢性の特発性大腸炎)の症状に明らかな低減をもたらし、かつ/またはこれを支援する。
【0016】
したがって、本明細書で使用する場合、「腸内微生物叢に有益な影響を及ぼす」とは、健康に、特に本明細書に記載する疾患および状態のうち1または2以上に有益な効果を与える、腸内微生物叢内の変化をもたらすことを指す。たとえば、有益な効果とは、病原細菌の数の低減、病原細菌対有益な細菌の比の低減、微生物叢の多様性の増加、微生物叢が腸内に誘発する炎症の量の低減、および微生物叢のエンテロタイプ(たとえばBacteroides、PrevotellaおよびRuminococcusに関連するエンテロタイプ)における病理学的な変化の部分的または完全な回復に結びついている。炎症性腸疾患において一般に病原性とみなされる細菌には、たとえば、侵入特性または毒性因子のあるEnterobacteriaceae(たとえばEscherichia coli)、硫化物を生成するDesulfovibrio菌種、および侵入特性のあるFusobacterium菌種が含まれる。一般に有益であるとみなされる細菌には、Lactobacillus属、Bifidobacterium属およびFaecalibacterium属からの種、たとえばL.casei、L.plantarumおよびF.prausnitziiが含まれる。炎症性腸疾患における消化管の微生物叢の最近の概要については、Manichanhら、2012、Nat.Rev.Gastroenterol.Hepatol.9:599を参照されたい。
【0017】
慢性腸炎症は結腸癌の発症リスクを大いに高めるため(レビューについては、たとえばUllman & Itzkowitz 2011、Gastroenterology 140:1807を参照)、本発明による組成物を使用すると、慢性または再発性の腸炎症の症例において結腸癌の予防にもなる。
【0018】
正常な消化管の微生物叢の確立もしくは再建、または有益な細菌の補充による治療介入は、多種多様な疾患モデルおよびそれぞれのヒト疾患において有効であることがわかっている。たとえば、Olszakら(Science 2012、336:489)は、最近、IBDまたは喘息の無菌マウスモデルの患部器官におけるインバリアントナチュラルキラーT細胞の病理学的な滞留が、新生仔マウスに正常な微生物叢をコロニー形成することによって防止することができることを実証した。種々の疾患において、諸研究は、一定のプレバイオティクス、プロバイオティクスまたはシンバイオティクスの有益な効果を実証している。たとえば、lactobacilliは肥満症において血中コレステロールレベルを低下させることができるが、その機序はまだ完全に明らかではない(Caesarらによるレビュー、2010、J.Intern.Med.268:320)。炎症性腸疾患において、一部のプロバイオティクス、たとえばVSL#3(Bifidobacterium breve、Bifidobacterium longum、Bifidobacterium infantis、Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus paracasei、Lactobacillus delbrueckii ssp.bulgaricusおよびStreptococcus thermophilusの混合物)が、数が限られた臨床研究において使用され、成功している。少なくとも数菌種の細菌を補充することが、通常、有意な治療有益性を提供するために必須であるようである。複雑な細菌による介入の目覚ましい有効性を示す最近の例は、Clostridium difficileに対する糞便移植の使用成功例である(van Noodら、2013、New Engl.J.Med.368:407)。しかし、本発明は、腸自体のシグナルメカニズム(mechanims)を利用して、内因性でそれ故に固有の消化管の微生物叢に有益な影響を及ぼし、理想的には正常化することによる、微生物生態系の完全な移植よりも微妙な手法を使用する。
【0019】
腸内微生物叢内の病理学的な変化は、アトピー性障害由来の他の多数の疾患においても、炎症性要素を伴う代謝性疾患においても、その原因となり得るため、かかる疾患の治療および/または予防も本発明の範囲内である。特に、次の疾患がかかる適応症の例である。
− 皮膚:アレルギー、アトピー性湿疹、乾癬、
− 肺:嚢胞性線維症、喘息、COPD、
− 血管:冠状動脈性心疾患、動脈硬化症、アテローム性動脈硬化症、
− 内分泌系:糖尿病、脂肪症。
【0020】
好ましい実施形態において、本発明は、腸粘膜および腸内微生物叢、腸炎症に局所的に影響を及ぼすための、5−ASAとニコチンアミド(および関連活性物質)との組合せの特定の局部的使用、および腸粘膜の直接的な治療に関する。局部的に効能があるように、少なくともNA/NAM−活性化合物(特にNAM)を使用するのが好ましいが、多くの場合、局部的に効能があるように、NA/NAM化合物と5−ASAの両方を使用する方がより一層好ましい。
【0021】
本明細書で使用する場合、「局部的有効性」という用語は、薬理学的意味で局部的効果を指し、したがって、医薬品の全身的ではなく局所的な標的を指す。したがって、局所的有効性とは、たとえば、医薬品がその直接的な治療効果および/または予防効果を送達し、循環系には入らないか、または低度しか入らず、たとえば、それにより、全身作用を全く起こさないか、または低度しか起こさないような位置への、特異的または選択的な活性物質の局所的な治療および/または予防を意味する。この点で、本発明の局部的有効性は、経腸(消化管内)投与および血管内/静脈内(循環系に注射)投与とも対照をなす。高い全身アベイラビリティを狙う組成物と比較すると、組成物の局部的有効性は、活性物質の全身のレベルが増加するまでの潜伏時間が長いという特徴もあり得る。かかる局部的放出の潜伏時間は、当技術分野で公知の腸管輸送時間と相互に関連付けることができる(たとえば、Davisら、1986、Gut 27:886;Evansら、1988、Gut 29:1035;Kararli、1995、Biopharm.Drug Dispos.16:351;Sutton、2004、Adv.Drug、Deliv.Rev.56:1383を参照)。たとえば、胃内容排出については時間が可変であるが(剤形および給餌状態に依存し、1時間未満〜10時間超の範囲である)、その後、小腸管輸送時間はむしろ一定で、通常、製剤および試験全体にわたって3〜4時間である(Davisら、1986、Gut 27:886)。したがって、絶食患者における例示的な潜伏時間は少なくとも2時間であろう。この時点で製剤が下部小腸に到達し、全身のレベルが上昇し始める。特に、本発明の内容において、局部的有効性とは、好ましくは、活性物質(たとえば、NA/NAM成分)および/またはその代謝生成物の、血中レベルおよび/または血漿レベルおよび/または血清レベルが、投与前に同一人物で測定したレベルより2桁オーダー(好ましくは1桁オーダー)分高いレベルを超えないことを意味する。その代わりにまたは追加として、局部的有効性は、同様に、同様の条件で、純粋に(製剤化せずに)投与された同量の活性剤に対して、血中レベルおよび/または血漿レベルおよび/または血清レベルが少なくとも50%、60%、70%、80%、90%または95%以上さえも低減されるという観点で表すことが可能である。
【0022】
本発明によれば、医薬組成物がただ1つの調製物中に5−ASA成分とNA/NAM成分の両方を含むことが好ましいが、各々が処置レジメンの下で一緒に投与されるべき活性成分のうち一方のみ(5−ASA成分またはNAM/NA成分)を含む、2つの別個の医薬(pharamaceutical)組成物を有するのが有益な場合がある。かかる一揃いの医薬組成物(処置レジメンの下で一緒に投与されるべき)も、本出願の定義により、本発明による医薬組成物であることに留意されなければならない。
【0023】
この点で、本発明は、本発明の活性物質の組合せ調製物、たとえば、5−ASA成分とNA/NAM成分との可変用量の組合せまたは固定用量の組合せも含む。本明細書に記載する組合せは、同一のまたは別個の剤形中に存在することができ、同時にまたは順次に投与することができる。同一の剤形中であっても、5−ASA成分とNA/NAM成分とは物理的に隔離されていてもよい。
【0024】
本明細書で使用する場合、「可変用量の組合せ」という用語は、2種以上の活性物質の薬物/薬物の組合せを指し、それによって、これらの物質の各々が別個の医薬組成物の形態、たとえば2つの単一剤形で適用され、この別個の医薬組成物は、連続のまたは後続の投与レジメンにより、一緒に投与することができる。たとえば、任意の好適な投与量の5−ASAの医薬組成物は、連続してまたは後続で、任意の好適な投与量のニコチンアミドの別個の医薬組成物と一緒に投与することができる。したがって、1つの活性物質、たとえば5−ASAの可変の投与量は、別の活性物質、たとえばニコチンアミドの可変の投与量と組み合わすことができる。このような可変用量の組合せは、従来から入手可能な医薬組成物を使用することができ、配合により特別仕様にした多剤併用によって実現することもできる。
【0025】
可変用量の組合せとは対照的に、固定用量の組合せは配合剤であり、これは、2種以上の活性医薬成分、たとえば活性物質を、一定の各固定用量で製造、流通される単一剤形中に組み合わせて含む製剤のことである。固定用量の組合せは、主に、薬物(活性物質)および各投与量の所定の組合せを有する量産品のことを指す(配合により特別仕様にした多剤併用とは対照的に)。
【0026】
この局部的使用は当該活性物質の従来の使用とは大きく異なる。従来、これらの物質は吸収され、全身的に作用することになっていた。ニコチンアミド(ならびに本明細書に記載する他の化合物)は、その新規な抗炎症効果および/またはその腸内微生物叢を改変する効果のゆえに、5−ASAと組み合わせて小腸および/または大腸の炎症性疾患を処置するための活性物質として好適である。具体的な状態には、腸炎症の処置、結腸癌の予防、ならびに腸内微生物叢内の変化および/または腸内微生物叢と腸との相互作用の低下から生じる他の疾患の治療または予防が含まれる。好ましくは、これらの活性物質および組合せは、可能な限り最大量の活性物質を、上部小腸において身体に吸収されないように保護し、むしろ、改変しようとする腸内微生物叢が位置する下部小腸および/または結腸、好ましくは回腸終末部および/または結腸内に放出(たとえば制御放出および/または遅延放出)する薬理学的な製剤で使用される(たとえば活性物質は下部小腸および/または結腸、好ましくは回腸終末部および/または結腸に選択的に放出される)。
【0027】
一実施形態において、ニコチンアミド(または関連化合物)は、腸粘膜に局所的に(局部的に)影響を及ぼすように投与され、5−ASA(または関連化合物)は、胃、小腸または大腸(たとえば結腸)のいずれかですべてがまたは一部が放出されるように投与される。5−ASAは、たとえば、エチルセルロースコーティング(たとえばPENTASA)、マルチマトリックス技術(たとえばLIALDA)、および腸溶コーティング(たとえば、APRISO、ASACOL、ASACOL HDにおけるようなメタクリル酸ポリマーおよびコポリマー)など、既知の製剤に従って、放出を制御するように製剤化することもできる。
【0028】
したがって、とりわけ、本明細書に記載する組合せは、クローン病、潰瘍性大腸炎、回腸嚢炎、大腸のさらなる慢性疾患または大腸の炎症、空置腸管に発生する腸炎(diversion colitis)、感染性腸炎、抗生物質関連の下痢症、たとえばC.difficile関連の下痢症、感染性大腸炎、憩室炎、および照射、抗生物質、化学治療薬、医薬製品または化学物質によって形成される炎症の治療のため、結腸癌の予防のため、ならびに腸内微生物叢内の変化および/または腸内微生物叢と腸との相互作用の低下から生じる他の疾患の治療または予防のために、薬剤中に使用されるのに好適である。
【0029】
特許請求した物質は、ヒトおよび他の哺乳動物の両者において、特に家畜および有用な動物において、発生源が同じ疾患の治療または予防に等しく使用可能である。かかる動物の例には、限定する目的はないが、イヌ、ネコ、ウマ、ラクダまたはウシがある。
【0030】
活性物質、すなわち、ニコチンアミドは、市場で入手可能ないずれの形態でも使用することができ、たとえばMerck KgaA製のものがある。
【0031】
ニコチン酸またはニコチンアミドに加えてNA/NAM成分として、他の関連化合物を、本明細書に記載する発明において活性物質として使用することができる。たとえば、人または動物の体内で、これらの作用剤のうちの1つに(たとえば加水分解、代謝によって)変換される化合物、たとえばニコチン酸エステル(たとえばイノシトールヘキサニコチナート)が好適である。さらに、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)またはNADリン酸(NADP)の合成中の中間体、たとえばN−ホルミルキヌレニン、L−キヌレニン、3−ヒドロキシ−L−キヌレニン、3−ヒドロキシアントラニラート、2−アミノ−3−カルボキシムコン酸セミアルデヒド、キノリナートおよびβ−ニコチナートD−リボヌクレオチドを使用することができる。さらなる例にはNADおよびNADPが含まれる。
【0032】
5−ASAに加えて5−ASA成分として、他の関連化合物を、活性物質として本明細書に記載する発明に使用することができる。たとえば、人または動物の体内で、5−ASAに(たとえば加水分解、代謝によって)変換される化合物、たとえばプロドラッグであるスルファサラジンおよびバルサラジドが好適である。
【0033】
5−ASAおよびニコチンアミド(または上記の他の物質のうち1つ)の組合せを含有する医薬組成物は、好ましくは経口投与(たとえば活性物質の遅延放出で)することができ、経直腸適用方式(たとえば浣腸剤または坐剤)でも好ましく投与することができる。活性物質、特にニコチンアミドの送達部位は、炎症過程を抑制するために、好ましくは小腸の下部および/または結腸であり、このため、たとえばニコチンアミドでのペラグラの治療のために、生体における極大の吸収および代謝(要するに全身性の効果)を追求する適用方式とは基本的に異なる。さらに、本発明による投与方式および本発明による投与量は、たとえばもっと大用量のニコチンアミドの全身投与に関して記載したとおり、副作用の発現の確率を最小限に抑える。
【0034】
回腸終末部および/または結腸において、腸内微生物叢に対する抗炎症性効果および/または改変効果を有する、活性組合せの経口投与製剤を製造するため、このように制御放出方式および/または遅延放出方式を使用することは、有利である。従来の最適なニコチンアミドの補充のための(場合により、やはり遅延)放出方式、たとえばペラグラの症例における放出方式とは対照的に、本発明の一定の実施形態は、胃および小腸の上部における吸収を部分的にまたは実質的に回避する。
【0035】
クローン病または潰瘍性大腸炎を処置するには、経口および/または経直腸(たとえば浣腸剤として)の適用方式が好適である。潰瘍性大腸炎の症例における回腸嚢炎を処置するには、経直腸適用(たとえば浣腸剤として)が好ましい。これは、上記の経口製剤、たとえば遅延放出調製物の経口投与によっても支援することができる。他の任意の形態の大腸炎の対症療法には、腸内微生物叢を治療的に改変するために、経口および経直腸適用の両方を選ぶことができる。経口適用は、特に潰瘍性大腸炎の症例における結腸癌の予防のため、ならびに腸内微生物叢内の変化および/または腸内微生物叢と腸との相互作用の低下から部分的にまたは実質的に生じる他の疾患の治療および/または予防のために好ましい。
【0036】
経口投与には、特殊なガレヌス製剤(galenics)により活性物質の放出を制御し、かつ/または遅延させる特定の剤形(いわゆる制御放出、緩効性放出または遅延放出の各形態)が特に好適である。かかる剤形は、単純な錠剤およびコーティング錠、たとえばフィルム錠または糖衣錠とすることもできる。錠剤は通常丸いか、または両凸である。分離することができる細長い錠剤の形態も使用可能である。さらに、顆粒剤、長球型剤(spheroids)、ペレット剤またはマイクロカプセル剤が使用可能であり、これらは適宜小袋またはカプセルに充填される。
【0037】
「遅延放出」という用語は、好ましくは、時間を遅らせてから活性成分を放出する医薬製剤に関する。一定の実施形態において、遅延は、製剤中の活性物質の少なくとも一部が下部小腸(たとえば回腸終末部)および/または結腸で放出されれば十分である。
【0038】
「制御放出」という用語は、好ましくは、1または2以上の活性成分を、長時間にわたって(時間依存性放出)および/または一定の生理的条件下で(たとえばpH依存性放出)放出または送達する医薬製剤またはその成分を指す。一定の実施形態において、その時間または生理的条件(たとえばpH)による放出は、製剤中の活性物質の少なくとも一部が下部小腸(たとえば回腸終末部で)および/または結腸で放出されれば十分である。
【0039】
遅延および/もしくは遅延放出ならびに/または制御放出は、たとえば、胃液に対して抵抗性があり、pHに依存して溶解するコーティング材によって、微細セルロースおよび/またはマルチマトリックス(MMX:multi matrix)技術を用いて、種々の担体マトリックスまたはこれらの技術の組合せを使用して、有利に実現される。その例として、制御放出および/または遅延放出のために、アクリルポリマーおよび/またはメタクリラートポリマーを種々の混合物で含有するフィルムコーティング材が含まれる。たとえば、活性物質を、従来の微結晶セルロースもしくはゼラチンのマトリックスまたはMMX技術で含有することができ、活性物質を遅延放出させる材料でこれをコーティングする。活性物質は、既知の方法を用いてコーティングされる大容量カプセル(たとえば内容量0.68mlのゼラチンカプセル)に入れて投与することができる。好適なコーティング材は、水不溶性ワックス、たとえばカルナウバロウ、および/もしくはポリマー、たとえばポリ(メタ)アクリラート[たとえば、ポリ(メタ)アクリラート製品目録で商標名Eudragit(登録商標)のもの、特にEudragit(登録商標)L30D−55(メタクリル酸を官能基として有するアニオン性ポリマーの水性分散液)、Eudragit(登録商標)L100−55(メタクリル酸およびアクリル酸エチル系のアニオン性コポリマーを含有する)、Eudragit(登録商標)L100もしくはL12,5もしくはS100もしくはS12,5(メタクリル酸およびメタクリル酸メチル系のアニオン性コポリマー)、またはEudragit(登録商標)FS30D(アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルおよびメタクリル酸系のアニオン性コポリマーの水性分散液);Evonik Industries AG、Essen、Germany]ならびに/または水不溶性セルロース(たとえばメチルセルロース、エチルセルロース)である。必要に応じて、水溶性ポリマー(たとえばポリビニルピロリドン)、水溶性セルロース(たとえばヒドロキシプロピルメチルセルロースまたはヒドロキシプロピルセルロース)、乳化剤および安定化剤(たとえばポリソルベート80)、ポリエチレングリコール(PEG)、ラクトースまたはマンニトールをコーティング材料中に含有させることもできる。
【0040】
たとえば、Eudragit(登録商標)S化合物とL化合物との組合せ(たとえばEudragit(登録商標)L/S100)は、回腸終末部で生じるpH>6.4で、本発明による活性物質の制御放出を実現する。Eudragit(登録商標)調製物およびその(FS、L、SおよびRの各化合物)混合物を、活性物質の包装にさらに使用することも考えられ、したがって、胃腸管全体の選択された部分での局部的使用を、一定のpH値で制御放出によって実現することができる。ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)カプセルおよびより最近になって開発されたEudragit(登録商標)ポリマーを用いた腸溶性を目的とする系統的な研究が、Coleらによって、2002(Int.J.Pharm.231:83)の中で発表された。
【0041】
医薬組成物は、さらなる医薬品添加剤物質、たとえば結合剤、充填剤、滑剤、滑沢剤および流動制御剤を含有することもできる。本発明による化合物は、適宜、さらなる活性物質および医薬組成物に慣用の添加剤、たとえば、タルク、アラビアガム、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、カカオ脂、水性および非水性担体、動物または植物由来の脂質成分、パラフィン誘導体、グリコール(特にポリエチレングリコール)、種々の可塑剤、分散剤、乳化剤および/または防腐剤と一緒に製剤化することができる。
【0042】
経直腸適用のための浣腸剤または坐剤を製造するために、活性物質の調製物を好適な溶媒に溶解し、既知の製薬法に従ってさらに加工して浣腸剤または坐剤にすることができる。
【0043】
ニコチンアミドおよび関連活性物質については、最終剤形中の活性物質の含量は、経口投与の場合は1〜5000mg、たとえば1〜3000mg、好ましくは10〜1000mgであり、浣腸剤および/または坐剤は10mg〜5000mgの量の活性物質を含有することができる。炎症性疾患の強さおよび重症度に依存して、剤形は1日1回もしくは数回、または医師が選ぶ別の投与レジメンで投与される。成人のニコチンアミドの1日用量は、通常、50mg〜2g、たとえば50〜200mgまたは500mg〜2gである。
【0044】
5−ASAについては、最終剤形中の活性物質の含量は、経口投与の場合は1〜5000mg、1〜3000mg、好ましくは10〜1500mgであり、浣腸剤および/または坐剤は10mg〜5000mgの量の活性物質を含有することができる。炎症性疾患の強度および重症度に依存して、剤形は1日1回もしくは数回、または医師が選ぶ別の投与レジメンで投与される。成人の5−ASAの1日用量は、通常、500mg〜5g、たとえば1〜4.8gである。
【0045】
本明細書で使用する場合、「処置(treatment)」、「処置する(treat)」および「処置している(treating)」という用語は、本明細書に記載するとおりの疾患もしくは障害、またはこれらの1もしくは2以上の症状発現の抑制、緩和、遅延、またはそれらの進行の抑制を指す。一部の実施形態では、処置は、1または2以上の症状が発症してから施してもよい。他の実施形態では、処置は、症状がなくても施してもよい。たとえば、処置は、感受性のある個体に、症状が発現する前に(たとえば、症状の経歴に照らして、かつ/または遺伝的もしくは他の感受性因子を考慮して)施してもよい。処置は、症状が回復した後に、たとえばその再発の防止または遅延のために継続することもできる。
【0046】
本明細書で使用する場合、「予防」および「防止する」という用語は、未処置の対照集団と比較しての、疾患もしくは障害、またはその1もしくは2以上の症状発現の遅延、またはそれらの進行の可能性の低減を指す。
【0047】
本明細書に記載する発明のさらなる態様は、処置対象の個体の遺伝的および/または微生物学的データおよび特定のニーズに基づく、特許請求した薬剤の効率的な使用である。すべてのタイプの疾患(特に、腸内微生物叢と腸との相互作用が低下している疾患も)に対する個体の遺伝的素因、および薬理遺伝学についての新たな洞察は、次のことを示している。すなわち、根拠に基づく個別化医療(関連リスク遺伝子と、さらには薬剤および/もしくはその代謝生成物および/もしくはその下流エフェクターと相互作用する、たとえば細胞表面受容体、輸送タンパク質、代謝酵素またはシグナル伝達タンパク質をコードする遺伝子との、遺伝学的分析を含む)は、本明細書に記載する薬剤の、使用の種類、投与方式、使用時間、用量および/または投与レジメンに関して、情報および改善を提供することができる、ということである。この個別化処置により利益を受けることができる個体には、血清トリプトファンが減少した個体、B
0AT1(たとえば腸上皮細胞の)およびB
0AT1多型の発現が変化した個体が含まれる。これは、特に糞便試料が微生物叢内の変化を示している場合に、腸内微生物叢の分析に同様に適用される。したがって、本発明は、本発明による薬剤に特に感受性のある個体を識別するため、および/または本発明による薬剤の使用を個体の事情に適合させるために好適な、遺伝学的および/または微生物学的試験方法の使用も含む。本発明は、個体の遺伝学的および微生物学的特性に依存する、種々の投与方式での種々の物質と組み合わせた5−ASA(ニコチンアミドならびに/または関連活性物質)の使用も特に含む。これらの目的のために、実験室試験および/または好適な試験キット、さらには医師、ユーザーおよび/または患者が利用することになる測定方法、器具および/またはキットを使用して、たとえば糞便試料を採取したり、血液、尿または他の体液中の適切なパラメーターを分析したりすることが可能である。
【実施例】
【0048】
本発明の教示を有利に発展させ、さらに発展させる種々の可能性がある。このため、代表して本発明を説明する以下の実施例について記載する。
【実施例1】
【0049】
腸上皮を標的として5−ASAとニコチンアミド(NAM)とを送達するための制御放出製剤中に両物質を組み合わせた効果の特性を明らかにするために、試験を、マウスのデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)大腸炎モデルで実施した。この試験において、制御放出顆粒製剤を2種の異なる用量で試験した(30mg/kgおよび60mg/kg)。5−ASAの代表的な制御放出製剤として、5−ASA顆粒剤(PENTASA(登録商標);Ferring Pharmaceuticals、Saint−Prex、Switzerland)を、単独と、NAM顆粒剤と組み合わせての両方で使用した。
【0050】
NAMの制御放出製剤は、25%ニコチンアミド、70%第二リン酸カルシウムおよび5%ポビドンK30の粒状体である。平均粒径は234μmとした。次に粒状体をエチルセルロース7でフィルムコーティングして、30%重量増加し、平均粒径を640μmにした。ふるい分けをして径が355μm未満の粒子を除去した。対照顆粒剤ではNAMを同量の第二リン酸カルシウムに置換した。
【0051】
雄C57BL/6Jマウス(特定病原体未感染;Charles River Laboratories、Saint−Germain−sur−l’Arbresle、France)を>12週齢で試験設備に入れ、1週間順化させた。順化段階中の食餌は、SAFE製(Scientific Animal Food and Engineering、Augy、France)の食餌A4とした。順化の後、食餌を、トリプトファンもニコチン酸もニコチンアミドも不含の、Ssniff製(Soest、Germany)の特別仕様の食餌(Trp/Nia/NAM不含の食餌)に変更した。Trp/Nia/NAM不含の食餌を粉末として得て、これを使用して、顆粒剤なし(対照)、NAM顆粒剤、5−ASA顆粒剤、またはNAM顆粒剤と5−ASA顆粒剤との組合せのいずれかを伴う飼料ペレットを調製した。顆粒剤を食餌中に均質に分散した。長さ約2cmで直径1cmの飼料ペレットを最小限の量の滅菌水で形成し、単回使用のアリコートにして−20℃で凍結して貯蔵し、毎日新たに解凍してマウスに給餌した。飼料ペレットの顆粒剤含量は、体重30gおよび1日3gの飼料摂取を基準に計算して、次のように定義した。
【0052】
5−ASA顆粒剤(5−ASAの標的用量:150mg/kg体重、5−ASA含量:52%):飼料3g中5−ASA4.5mgが必要、飼料3g中顆粒剤8.65mgが必要、飼料1kgにつき顆粒剤2.88gを添加。他の顆粒剤の固定用量を同様に計算した。
【0053】
NAM顆粒剤(NAMの標的用量:30または60mg/kg体重、NAM含量:19.1%):30mg/kgNAMには、飼料1kgにつき顆粒剤1.57g、60mg/kgNAMには、飼料1kgにつき顆粒剤3.14g、120mg/kgNAMには、飼料1kgにつき顆粒剤6.28g。
【0054】
顆粒剤含有または不含でTrp/Nia/NAM不含の食餌を、マウスを処分するまで施した。Trp/Nia/NAM不含の食餌開始の10日後、マウスに1.5%DSS(TDB Consultancy、Uppsala、Sweden)の飲料水溶液で5日間負荷し、さらに3日間通常の飲料水を与えた後に処分した。
【0055】
処置レジメンを、それぞれマウス15匹ずつの6グループで実施し、次のように処置した。
グループ1:対照飼料
グループ2:食餌中NAM顆粒剤(最終用量:30mg/kg体重)。
グループ3:食餌中NAM顆粒剤(最終用量:60mg/kg体重)。
グループ4:食餌中5−ASA顆粒剤(最終用量:150mg/kg体重)。
グループ5:食餌中NAM顆粒剤(最終用量:30mg/kg体重)プラス食餌中5−ASA顆粒剤(最終用量:150mg/kg体重)。
グループ6:食餌中NAM顆粒剤(最終用量:60mg/kg体重)プラス食餌中5−ASA顆粒剤(最終用量:150mg/kg体重)。
【0056】
処分の後、Dielemanら、1998(Clin.Exp.Immunol.114:385)に従って、炎症および結腸病変の評価を組織学的レベルで実施した。スコアには次のパラメーター、すなわち、炎症の重症度、その伸展(波及の百分率)および結腸全体にわたる陰窩損傷の存在が含まれる。
【0057】
図1に示すように、NAM顆粒剤または5−ASA顆粒剤での単剤治療は、組織学的改善の傾向を導いたのみであったが、それらを組み合わせると、有意な治療効果が得られ(*、30mg/kgのNAMプラス5−ASAでp=0.04;**、60mg/kgのNAMプラス5−ASAでp=0.005)、このむしろ厳しい設定において2種の活性物質を組み合わせた治療効果を示した。投与用量がDSS大腸炎モデルに対して最適用量になると、5−ASA単独の効果が改善したことは驚くべきことである。
【実施例2】
【0058】
第2のより大規模な試験では、マウスのDSS大腸炎モデル(実施例1を参照)にNAMおよび5−ASAの制御放出顆粒剤を再度使用して、1つの低用量(30mg/kg)のNAMの抗炎症特性を確認し、第1の試験では投与しなかった2種の高投与量(120または240mg/kg)を調査した。
【0059】
特に、この第2の試験は、最適用量以下の5−ASA顆粒剤(最適用量である150mg/kgではなく75mg/kg)と組み合わせたNAMの潜在的相乗的抗炎症特性を調査することを狙いとした。
【0060】
実施例1に記載した第1の試験とのきわめて重要な1つの違いは、正常レベルのトリプトファン、ニコチン酸およびニコチンアミドを含む正常な飼料(SAFEの食餌A4;Scientific Animal Food and Engineering、Augy、France;実施例1を参照)をマウスに与えた事実であった。したがって、この第2の試験で観察されたいずれの効果も、NA/NAM/Trpを欠乏させたマウスへのNAMの補充によるものではあり得ない。
【0061】
1.材料および方法
1.1.試験システムおよび実験計画
本試験では、実施例1と同様のC57BL/6JマウスのDSS大腸炎モデルを使用したが、ある軽微な改変をした。すなわち、2.5%DSSを使用してより強度なDSS負荷を施した。動物を1週間順化させてその微生物叢を安定化させ、以下の表1に示すように異なる9グループに無作為化し、その後、異なる食餌で10日間維持(−10日目〜−1日目)してからDSSの飲料水溶液によって大腸炎を誘発し(0日目〜6日目)、その後、正常な飲料水での洗い出し期間(6日目〜9日目)とした。全グループに2.5%DSSを与えた。
【0062】
【表1】
【0063】
1.2.投与、飼料および活性物質の詳細
【表2】
【0064】
5−ASA顆粒剤は、実施例1と同様とした。その5−ASA含量は52%(顆粒1粒の重量は0.5mgで、5−ASAを0.26mg含有)であった。5−ASA顆粒剤を通常の飼料と混合して単回使用の飼料アリコートの調製物とし、これを−20℃で凍結貯蔵し、毎日マウスに給餌する前に解凍した。飼料アリコートの5−ASA含量は0.75mg/g飼料または1.5mg/g飼料とし、これにより、それぞれ、5−ASAの1日摂取量は2.25mgまたは4.5mg(飼料3g中)、5−ASAの用量は75または150mg/kg体重(マウス30gにつき)となった。5−ASAを1日あたり所望の用量で投与するためには、マウスに、5−ASA含量52%の5−ASA顆粒剤を約2倍量投与しなければならなかった(すなわち、5−ASA用量を150mg/kg体重または4.5mg/マウスにするには、1日顆粒剤摂取量を288mg/kgまたは8.65mg/マウスにする必要があった)。したがって、飼料を、飼料kgあたり顆粒剤2.88g(150mg/kg用量の場合)または1.44g/kg(75mg/kg用量の場合)で調製した。
【0065】
本実施例のNAM顆粒剤は、実施例1と同じ製造元が、類似の製剤(直径:0.355〜0.500mm;NAM含量:19.1%)に製造した。3種類の飼料を、上記の5−ASA顆粒剤を有する飼料と類似の方法で調製した。NAMを1日あたり所望の用量で投与するためには、マウスに、NAM含量19.1%の顆粒剤を約5倍量投与しなければならなかった(たとえば、NAM用量を30mg/kg体重またはNAMを0.9mg/マウスにするには、1日顆粒剤摂取量を157mg/kgまたは4.71mg/マウスにする必要があった)。したがって、3種の用量グループ用の飼料調製を次のように実施した:30mg/kg用量グループ用に飼料kgあたり顆粒剤1.57g、120mg/kg用量グループ用に飼料kgあたり顆粒剤6.28g、および240mg/kg用量グループ用に飼料kgあたり顆粒剤12.56g。
【0066】
対照グループ用に、顆粒剤不含の飼料を、調製物による人為的結果を排除するために上記の顆粒剤含有飼料調製物と同様に加工した。
【0067】
1.3.分析および疾患活動性指数パラメーターのスコア付け
安楽死させた後、結腸を分析し、疾患活動性指数(DAI;スコア0〜9)を、Melgarら、2005(Am.J.Physiol.Gastrointest.Liver Physiol.288:G1328)に基づき、適応したDAIシステムを使用してスコア付けした。可視の血液は観察されなかったため、Melgarらによる血液スコア付けパラメーターを、ColoScreen試験(Helena Laboratories、Beaumont、TX、USA)によって検出された便潜血の信号強度のスコア付けに変えた。この信号強度スコア付けは、試料の素性に対して盲検化された研究者2名が独立に実施した。
【0068】
【表3】
【0069】
1.4.統計分析
2種の独立試料について、StatXactソフトウェア(Cytel、Cambridge、MA、USA)で、Anova Testを使用して、すべての比較を分析した。差違については、p値が<0.05の場合に統計的に有意であると考えた。
【0070】
2.結果および結論
死亡の記録はなかった。
【0071】
150mg/kgの5−ASAの用量グループは、先行技術によるこのモデルでの最適処置の代表であり、参照処置グループとしての役目をした。
【0072】
図2に示すように、疾患活動性指数は、すべての処置によってきわめて有意に(p<0.0001)低減した。興味深いことに、5−ASAの用量を75から150mg/kgに2倍にすると、DAIが大いに低減したが、NAM処置は30から240mg/kgまで、DAIにおいて用量反応を示さなかった。これは、実施例1に記載した第1の試験の所見とよく一致していた。しかし、最適用量以下である75mg/kgの5−ASAと組み合わせた異なる用量のNAMは、一貫して、すべてのパラメーターにおいて(
図3)逆用量効果を示し、30mg/kgのNAMと75mg/kgの5−ASAとの最適組合せは、30mg/kgのNAM単独または75mg/kgの5−ASA単独のベースラインと比較して有意差が高かった。これは、単なる相加効果を超えるこれまで知られていなかった有効性の真に相乗的な機序を示すものである。次の表4では、対照グループと比較したDAIの改善百分率を要約している。
【0073】
【表4】
【0074】
表5は、対照グループ(DSS)のベースライン、30mg/kgのNAM単独(NAM30)、75mg/kgの5−ASA単独(5−ASA75)または150mg/kgの5−ASA単独(5−ASA150、現時点で最新技術の参照処置として)に対する最も有効な組合せ処置(30mg/kgのNAMおよび75mg/kgの5−ASA;NAM30+5−ASA75と略記)のp値を列挙している。
【0075】
【表5】
【0076】
DAIのきわめて有意な低減は、腸炎症を判定するための以下の3つの重要なパラメーターに基づくものであった:
【0077】
1.炎症、潰瘍および/または浮腫の存在および量を表す肉眼での炎症スコアは、すべての処置が、ある程度強力に、きわめて有意に(p<0.0001)、DSSが誘発した炎症を低減したことを示した(
図3A)。ここで、NAMにはわずかに用量依存的な効果が観察されたが、5−ASAの2種の用量は差違を示さなかった。他のパラメーターと同様に、すべてのベースラインと比較して、30mg/kgのNAMと75mg/kgの5−ASAとの最適組合せに、有意で相乗的な改善が検出された(
図3A;表5)。
【0078】
2.糞便の硬さ(下痢)は異なる用量のNAMでも75mg/kg用量の5−ASA単独でもほとんど改善されず、150mg/kgの5−ASAでの最適処置のみが有意な効果を示した(
図3B)。対照的に、NAMと75mg/kgの5−ASAとの異なる組合せは有意な逆用量依存効果を示し、すべてのベースラインと比較して、30mg/kgのNAMと75mg/kgの5−ASAとの最適組合せにはきわめて有意な相乗的優位性があるという結果になった(
図3B;表5)。このグループでは、マウスの糞便は正常でさえあった。
【0079】
3.剖検当日、各マウスについて便中血液の存在を分析した。可視の血液は観察されなかったため、潜血の存在を測定した。対照DSSグループでは、すべてのマウスの便に潜血が見られた(
図3C)。予想どおり、その最適投与量である150mg/kgで投与した5−ASAに、対照マウスと比較して強い有意な効果が観察された(便中血液があるマウス53%vs.100%)。DAIスコア付けのために試験した他のパラメーターと同様に、きわめて有効な150mg/kgの5−ASAを除くすべてのベースラインと比較して、30mg/kgのNAMと75mg/kgの5−ASAとの最適組合せに有意な相乗的改善値が測定された(
図3C;表5)。
【0080】
まとめると、第1の試験(実施例1)で観察された低用量(30mg/kg)でのNAMの防護の有効性が確認され、明らかに最適用量以下の5−ASA(75mg/kg)と異なる用量のNAMとの組合せは、すべての関連ベースラインよりきわめて有意で、劇的ですらある相乗的改善を導いた。NAMの用量相関は逆であったため、観察された相乗作用は追加用量効果によるものではなく、最も有意的な意味で驚くべき相乗作用である。さらに、本発明の製剤および組合せは、正常レベルのトリプトファンおよび/またはNAおよび/またはNAM入りの飼料と一緒にしてさえも活性があるという事実(cf.実施例1)は、NAMおよび/またはNAMと5−ASAとの組合せの防護の有効性は、単に食餌にNAMを補充したことによるものではないことを明白に示している。
【0081】
上記の実施例は本発明を説明する役目をするが、その範囲を限定するものではない。