特許第6554515号(P6554515)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6554515
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】工作機械の振動検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01H 17/00 20060101AFI20190722BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20190722BHJP
【FI】
   G01H17/00 D
   G01M99/00 A
【請求項の数】12
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-158704(P2017-158704)
(22)【出願日】2017年8月21日
(65)【公開番号】特開2019-35714(P2019-35714A)
(43)【公開日】2019年3月7日
【審査請求日】2017年8月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】514147701
【氏名又は名称】上銀科技股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】馮 倚俊
(72)【発明者】
【氏名】▲呉▼ 旻修
【審査官】 萩田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−276334(JP,A)
【文献】 実開昭62−055131(JP,U)
【文献】 特許第3829924(JP,B2)
【文献】 特開2006−047225(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0041068(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00 − 17/00
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに電気的に連結されたマイクロプロセッサと振動センサーとを備えている検出装置を使って、複数の回転部品を有するフィーダーシステムと前記フィーダーシステムに電気的に連結されたモーターとを備えている工作機械の振動を検出する振動検出方法であって、
前記マイクロプロセッサを使って、前記工作機械の稼働のための定格出力に限られた最大値を有する、前記工作機械の前記回転部品の回転速度の範囲に対応するターゲット周波数範囲を算出するステップ(A)と、
前記振動センサーを用いて前記フィーダーシステムが停止している時の環境ノイズによる振動を検出するステップ(B)と、
前記マイクロプロセッサを用いて前記ステップ(B)で検出された前記フィーダーシステムの振動に基づいて、前記ターゲット周波数範囲に入る複数の周波数領域のノイズ振幅値を有し、かつ、周波数領域で平滑化された平滑化信号を生成して出力するステップ(C)と、
前記マイクロプロセッサを用いて前記ターゲット周波数範囲において前記平滑化信号における最小ノイズ振幅値と対応する周波数を計測周波数として検出するステップ(D)と、
前記マイクロプロセッサを用いて前記計測周波数に基づいて、前記回転部品を前記計測周波数に対応する回転速度で回転させるための前記モーターの回転速度としての参照回転速度を生成して出力するステップ(E)と、
前記モーターを前記参照回転速度で回転駆動して、前記フィーダーシステムの前記複数の回転部品を回転駆動しながら、前記振動センサーを用いて前記フィーダーシステムにおける前記複数の回転部品において測定対象部品として選ばれた1つの振動を検出するステップ(F)と、
前記マイクロプロセッサを用いて前記ステップ(F)で検出された選ばれた1つの前記回転部品が回転している時の振動を表す動的状態振動信号を得るステップ(G)と、
を有することを特徴とする振動検出方法。
【請求項2】
前記ステップ(B)では、更に前記検出装置を用いて、前記フィーダーシステムが停止している時の振動を検出して、前記振動に応じて時間領域振動信号として生成し前記マイクロプロセッサに送信するステップを有し、
前記ステップ(C)では更に、
前記マイクロプロセッサを用いて、フーリエ変換を使用して前記時間領域振動信号を前記ターゲット周波数範囲より大である周波数範囲に分布された周波数領域振動信号に変換するサブステップ(C1)と、
前記周波数領域振動信号の一部の上部包絡線を計算して包絡線信号を算出し、前記周波数領域振動信号の前記一部の対応する周波数範囲は前記ターゲット周波数範囲よりも広いサブステップ(C2)と、
曲線平滑化方法に基づいて前記包絡線信号を平滑化し、平滑化信号を得るサブステップ(C3)とを有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記サブステップ(C3)において前記曲線平滑化方法は、移動平均フィルター又はローパスフィルターを使用して前記包絡線信号を平滑化する方法であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ステップ(A)では更に、
前記マイクロプロセッサを用いて前記モーターの所定最大回転速度に基づいて、第1の限界周波数を算出するサブステップ(A1)と、
前記マイクロプロセッサを用いて、前記フィーダーシステムの送り軸の所定最大許容回転速度に基づいて、第2の限界周波数を算出するサブステップ(A2)と、
前記マイクロプロセッサを用いて、前記送り軸の回転速度に関する所定最小回転速度に基づいて、第3の限界周波数を算出するサブステップ(A3)と、
前記マイクロプロセッサを用いて、前記第1〜第3の限界周波数に基づいて前記ターゲット周波数範囲を算出するサブステップ(A4)とを有し、
前記ターゲット周波数範囲における最大値は前記第1〜第2の限界周波数のいずれかの周波数よりも小又は等しく、前記ターゲット周波数範囲における最小値は前記第3の限界周波数よりも大又は等しいことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記サブステップ(A1)において前記第1の限界周波数を、
【数1】
【数2】
【数3】
によって求め、
但し、f1を前記第1の限界周波数、ωb1を前記モーターの所定最大回転速度、ωm1を前記フィーダーシステムのねじ軸におけるボールの第1の回転速度、Ψを前記フィーダーシステムのナットにおける隣接するボール間の位相角、αを前記ねじ軸のリード角、α0を前記ナットにおいて前記ボールと前記ナットの転動溝との接触角、αiを前記ナットにおいて前記ボールと前記ねじ軸の転動溝との接触角、βを前記ボールのスピン角、rbを前記ナットにおける前記ボールの半径、rmを前記ねじ軸のピッチ半径とすることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記サブステップ(A2)において前記第2の限界周波数を、
【数4】
【数5】
【数6】
によって求め、
但し、f2を前記第2の限界周波数、ωb2を所定最大許容回転速度、ωm2を前記フィーダーシステムのねじ軸におけるボールの第2の回転速度、Ψを前記フィーダーシステムのナットにおける隣接するボール間の位相角、αを前記ねじ軸のリード角、α0を前記ナットにおいて前記ボールと前記ナットの転動溝との接触角、αiを前記ナットにおいて前記ボールと前記ねじ軸の転動溝との接触角、βを前記ボールのスピン角、rbを前記ナットにおける前記ボールの半径、rmを前記ねじ軸のピッチ半径とすることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記サブステップ(A3)において前記第3の限界周波数を、
【数7】
【数8】
【数9】
によって求め、
但し、f3を前記第3の限界周波数、ωb3を所定最小回転速度、ωm3をそれぞれ前記フィーダーシステムのねじ軸におけるボールの第3の回転速度、Ψを前記フィーダーシステムのナットにおける隣接するボール間の位相角、αを前記ねじ軸のリード角、α0を前記ナットにおいて前記ボールと前記ナットの転動溝との接触角、αiを前記ナットにおいて前記ボールと前記ねじ軸の転動溝との接触角、βを前記ボールのスピン角、rbを前記ナットにおける前記ボールの半径、rmを前記ねじ軸のピッチ半径とすることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記ステップ(E)では、前記計測周波数を下記式に代入して前記モーターの前記参照回転速度を算出し、
【数10】
但し、f4を前記計測周波数、ωb4を前記参照回転速度、Ψを前記フィーダーシステムのナットにおける隣接するボール間の位相角、αを前記フィーダーシステムのねじ軸のリード角、α0を前記ナットにおいて前記ボールと前記ナットの転動溝との接触角、αiを前記ナットにおいて前記ボールと前記ねじ軸の転動溝との接触角、βを前記ボールのスピン角、rbを前記ナットにおける前記ボールの半径、rmを前記ねじ軸のピッチ半径とすることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記サブステップ(A1)において前記第1の限界周波数を、
【数11】
によって求め、
但し、f1は前記第1の限界周波数を、ωb1は所定モーター最大回転速度をそれぞれ表し、dをベアリングのボールの直径と、Dをベアリングのベアリングピッチ円直径と、α´をベアリングのボールとベアリングのインナーリングの接触角と、Zをベアリングのボール数とすることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項10】
前記サブステップ(A2)において前記第2の限界周波数を、
【数12】
によって求め、
但し、f2は前記第2の限界周波数を、ωb2は所定最大許容回転速度をそれぞれ表し、dをベアリングのボールの直径と、Dをベアリングのベアリングピッチ円直径と、α´をベアリングのボールとベアリングのインナーリングの接触角と、Zをベアリングのボール数とすることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項11】
前記サブステップ(A3)において前記第3の限界周波数を、
【数13】
によって求め、
但し、f3は前記第3の限界周波数を、ωb3は所定最小回転速度をそれぞれ表し、dをベアリングのボールの直径と、Dをベアリングのベアリングピッチ円直径と、α´をベアリングのボールとベアリングのインナーリングの接触角と、Zをベアリングのボール数とすることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項12】
前記ステップ(E)では、前記モーターの参照回転速度を、
【数14】
によって求め、
但し、f4は前記計測周波数、ωb4は前記参照回転速度をそれぞれ表し、dをベアリングのボールの直径と、Dをベアリングのベアリングピッチ円直径と、α´をベアリングのボールとベアリングのインナーリングの接触角と、Zをベアリングのボール数とすることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出方法に関し、特には、工作機械の振動を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械に装備されたフィーダーシステムは、位置決め精度を高く保持すべく順調に稼働しなければならないため、例えば、その内部構成の摩損等による稼働異常があるかどうかをチェックすることが必要である。例えば、外部の振動センサーによって該フィーダーシステムの振動を検出し、振動信号を生成してマイクロプロセッサに送出し、マイクロプロセッサは入力された振動信号に基づいて該フィーダーシステムの稼働状態を判定する振動検出方法が一般的に使われている。外部の振動センサーによる検出は、工作機械自身の振動や、周囲環境による影響、フィーダーシステムと振動センサーのための電力供給系統による環境ノイズの影響で、検出精度にバラツキが大きく発生し、マイクロプロセッサの判定が狂ってしまう問題点がある。
【0003】
また、ノイズの影響を殆ど受けない工業用振動センサーを用いてフィーダーシステムの振動を検出することによって振動センサーによる振動信号にノイズの影響を及ぼさずその検出にばらつきが生じない方法も使われているが、特殊な振動センサーを使うため、コストを抑えることが困難である問題点がある。
【0004】
また、複数の振動センサーを使ってフィーダーシステムの振動を検出し、複数の振動信号を生成してマイクロプロセッサに送出し、マイクロプロセッサは入力された複数の振動信号に基づき補正信号を取得し、該補正信号に基づいて該フィーダーシステムの稼働状態を判定する方法も知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】台湾特許第400591号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記複数の振動センサーによる振動検出方法は、周囲環境のノイズによる影響を低く抑えようとしているが、複数の振動センサーを使うので、コストも上がってしまうため、なおも改善すべき所がある。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、環境ノイズの影響で検出精度にばらつきを生じることをなくし且つ特殊な振動センサーや複数の一般用の振動センサーを用いる必要もなくコストを低く抑えることができる工作機械の振動を検出する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、互いに電気的に連結された、マイクロプロセッサと振動センサーとを有する検出装置を使って、互いに電気的に連結された、複数の回転部品を有するフィーダーシステムとモーターとを備えている工作機械の振動を検出する振動検出方法であって、前記マイクロプロセッサを使って、前記工作機械の稼働のための定格出力に限られた最大値を有する回転速度に関するターゲット周波数範囲を算出するステップ(A)と、前記振動センサーを用いて前記フィーダーシステムが停止している時の環境ノイズによる振動を検出するステップ(B)と、前記マイクロプロセッサを用いて前記ステップ(B)で検出された前記フィーダーシステムの振動に基づいて、前記ターゲット周波数範囲に入る複数のノイズ振幅値を有する平滑化信号を生成して出力するステップ(C)と、前記マイクロプロセッサを用いて前記ターゲット周波数範囲において前記平滑化信号における最小ノイズ振幅値と対応する周波数を計測周波数として検出するステップ(D)と、前記マイクロプロセッサを用いて前記計測周波数に基づいて前記モーターに関する参照回転速度を生成して出力するステップ(E)と、前記モーターによって前記フィーダーシステムの前記複数の回転部品を前記参照回転速度で回転駆動しながら、前記振動センサーを用いて前記フィーダーシステムの前記複数の回転部品から測定対象部品として選ばれた1つの前記回転部品の振動を検出するステップ(F)と、前記マイクロプロセッサを用いて前記ステップ(F)で検出された前記フィーダーシステムの前記回転部品の振動を表す動的状態振動を得るステップ(G)とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る方法で得られた計測周波数による参照回転速度で回転されている工作機械のフィーダーシステムの振動を、振動センサーによって検出すると、環境ノイズによる影響を低く抑えることができ、検出された動的状態振動信号がより精確であり、検出精度にばらつきを生じることがなくなる。また、環境ノイズによって検出装置の判定が影響されてしまうことを避けることができるので、従来のように一般用の振動センサーより高価な特殊な工業用センサー又は複数の一般用センサーを使用することなく、単一のセンサーを用いれば良い。従って、検出コストを低く抑えることができる。
【0010】
本発明の他の特徴および利点は、添付の図面を参照する以下の実施形態の詳細な説明において明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る方法を実行するための検出装置と工作機械の構成の一例を示すブロック図である。
図2】工作機械のフィーダーシステムにおける複数の回転部品を示すブロック図である。
図3】複数の回転部品の連結状態を示す図である。
図4】本発明に係る方法のフローを示す。
図5】本発明に係る方法においてターゲット周波数範囲を算出するサブステップのフローを示す。
図6】フィーダーシステムにおけるねじ軸の複数のボールを説明する図である。
図7】ボールの隣接状態を説明する図である。
図8】フィーダーシステムにおけるボールと転動溝との接触状態を説明する図である。
図9】本発明に係る方法において平滑化信号を算出するサブステップのフローを示す。
図10】検出装置によって計測された振動信号(時間領域振動信号)のノイズ振幅の経時変化を示すグラフである。
図11図10のノイズ振幅の周波数に対しての変化を示すグラフである。
図12図11の一部を拡大して示すグラフである。
図13図12において得られた平滑化信号を示すグラフである。
図14】ベアリングと振動センサーとが連結された状態を示す図である。
図15】複数のボールとベアリングとの接触状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る振動検出方法の実施例について図面を参照して説明する。
(実施例)
図1は、本発明に係る方法を実行するための検出装置1と検出装置1によって振動状況が検出される工作機械2を示している。工作機械2は概ね、互いに電気的に連結された、フィーダーシステム21とモーター22とコントローラ23とを備えている。フィーダーシステム21は、回転する部材(以下、「回転部品」という)や回転しない部材を備えて直線運動をするものであり、図2に示されたように、回転部品は、送り軸(図示せず)と、送り軸のねじ軸に設けられたベアリング(図示せず)と、アクチュエーターと、カップリングデバイス等であり、回転しない部材は、ガイドレールである。ねじ軸はボールねじ、ベアリングはナットである。ナットはねじ軸に設けられ、複数のボールを有する。
【0013】
モーター22は、カップリングデバイスを介してフィーダーシステム21の送り軸のねじ軸及びコントローラ23の間に電気的に連結され、コントローラ23から制御信号を受信し、送り軸のねじ軸を該制御信号に相関する参照回転速度で回転駆動する。
【0014】
検出装置1は、フィーダーシステム21が稼働された時、フィーダーシステム21における複数の回転部品における1つを測定対象部品としてその振動状況を検出し、該測定対象部品に摩損などの異常があるかどうかを判定する。この例では、検出装置1は、互いに電気的に連結された、振動センサー11とマイクロプロセッサ12とを備えている。なお、振動センサー11は、一般のセンサーである。
【0015】
振動センサー11は、例えば接着剤等による接着法、ねじ等による固定法、磁石による吸着法によってフィーダーシステム21の測定対象部品に電気的に連結されるように取り付けられている。
【0016】
マイクロプロセッサ12は、振動センサー11及びコントローラ23の間に電気的に連結されている。振動センサー11は、測定対象部品の振動を検出し、振動信号を生成し、マイクロプロセッサ12へ送信する。マイクロプロセッサ12は、受信された振動信号に基づいてフィーダーシステム21の測定対象部品の稼働状態を判定する。
【0017】
この例では、振動センサー11が工作機械自身の振動や、周囲環境による影響、フィーダーシステム21と振動センサー11のための電力供給系統による環境ノイズの影響を受けて振動信号にばらつきが生じる。本発明に係る振動検出方法を実行して検出装置1がフィーダーシステム21に異常があるかを検出する。
【0018】
次に、上記のように構成された工作機械2に適用された検出装置1を使って実行される本発明に係る方法について図面を参照して説明する。上記のように、工作機械2は、フィーダーシステム21とフィーダーシステム21に電気的に連結されたモーター22とを備えている。検出装置1は、振動センサー11とマイクロプロセッサ12とを備えている。振動センサー11は、フィーダーシステム21の送り軸の測定対象部品であるねじ軸に電気的に連結されている。この例では、振動センサー11を用いてフィーダーシステム21の送り軸の測定対象部品であるねじ軸の稼働状態を検出する。
【0019】
ステップS31では、マイクロプロセッサ12を用い、工作機械2の稼働のための回転速度に関するターゲット周波数範囲を算出する。また、工作機械2の稼働のための回転速度は、出荷前に与えられた定格出力に制限され、ターゲット周波数範囲に係わる最大値を有する。
【0020】
この例では、ステップS31は更に下記のサブステップを有する。
【0021】
サブステップS311では、マイクロプロセッサ12を用い、モーター22の所定最大回転速度に基づいて、ねじ軸が対応する第1の限界周波数を算出する。また、モーター22の所定最大回転速度は、出荷前に与えられた定格出力に制限されている。
【0022】
具体的には、マイクロプロセッサ12は下記のようにねじ軸が対応する第1の限界周波数を計測する。
【0023】
【数1】
【0024】
【数2】
【0025】
【数3】

なお、f1を第1の限界周波数、ωb1をモーター22の所定最大回転速度、ωm1をねじ軸におけるボールがねじ軸を回す第1の回転速度(図6)、Ψをフィーダーシステム21のナットにおける隣接するボール(図7)間の位相角、αをねじ軸のリード角、α0をナットにおけるボールとナットの転動溝(図8)との接触角、αiをナットにおけるボールとねじ軸の転動溝(図8)との接触角、βをボールのスピン角、rbをナットにおけるボールの半径、rmをねじ軸のピッチ半径(pitch circle)とする。Ψ、α、α0、αi、β、rb、rmは送り軸の規格表から得られるものである。
【0026】
計算の際、マイクロプロセッサ12によって式(3)からr/r値が得られる。そして、式(3)によるr/r値とモーター22の所定最大回転速度ωb1を式(2)に入れてねじ軸におけるボールの第1の回転速度ωm1を算出する。そして、ねじ軸におけるボールの第1の回転速度ωm1を式(1)に入れて、第1の限界周波数f1を算出する。なお、モーター22の所定最大回転速度ωb1を例えば3000rpmとする。
【0027】
サブステップS312では、マイクロプロセッサ12を用い、フィーダーシステム21の送り軸のねじ軸の所定最大許容回転速度に基づいて、ねじ軸が対応する第2の限界周波数を算出する。また、フィーダーシステム21の送り軸のねじ軸の所定最大許容回転速度は、出荷前に与えられたねじ軸のパラメータ(例えば、長さ等)及び該ねじ軸を支持する構成に制限されている。
【0028】
具体的には、マイクロプロセッサ12は下記のように第2の限界周波数を計測する。
【0029】
【数4】
【0030】
【数5】

但し、Ψ、α、α0、αi、β、rb、rmは前記式(1)〜(3)に用いられたものと同様である。f2を第2の限界周波数、ωb2を所定最大許容回転速度、ωm2をねじ軸におけるボールの第2の回転速度とする。
【0031】
計算の際、マイクロプロセッサ12によって、式(3)と所定最大許容回転速度ωb2を式(5)に入れて第2の回転速度ωm2を算出する。そして、第2の回転速度ωm2を式(4)に入れて、第2の限界周波数f2を算出する。なお、所定最大許容回転速度ωb2を例えば4276rpmとする。
【0032】
サブステップS313では、マイクロプロセッサ12を用い、所定最小回転速度に基づいて、ねじ軸が対応する第3の限界周波数を算出する。また、所定最小回転速度は、ユーザーの計測要求及び測定対象部品の出荷時付与値に制限されている。測定対象部品が異なると、所定最小回転速度が異なる。
【0033】
具体的には、マイクロプロセッサ12は下記のように第3の限界周波数を計測する。
【0034】
【数6】
【0035】
【数7】
但し、Ψ、α、α0、αi、β、rb、rmは前記式(1)〜(3)に用いられたものと同様である。f3を第3の限界周波数、ωb3を所定最小回転速度、ωm3をねじ軸におけるボールの第3の回転速度とする。
【0036】
計算の際、マイクロプロセッサ12によって、式(3)と所定最小回転速度ωb3を式(7)に入れて第3の回転速度ωm3を算出する。そして、第3の回転速度ωm3を式(6)に入れて、第3の限界周波数f3を算出する。なお、モーター22の所定最小回転速度ωb3を例えば1000rpmとする。また、モーター22の所定最大回転速度ωb1、所定最大許容回転速度ωb2、所定最小回転速度ωb3のそれぞれの単位がrpm(回転毎分)の場合、対応する式(2)、式(5)、式(7)に代入する際に、回転毎秒に変換しなければならない。
【0037】
サブステップS314では、マイクロプロセッサ12を用い、第1〜第3の限界周波数f1、f2、f3に基づいて前記ターゲット周波数範囲を得る。
【0038】
より具体的には、ターゲット周波数範囲における最大値は第1〜第2の限界周波数f1、f2のいずれかの周波数よりも小又は等しい、ターゲット周波数範囲における最小値は第3の限界周波数f3よりも大又は等しいとする。一例としては、式(1)〜(7)により第1の限界周波数f1が580Hz、第2の限界周波数f2が827Hz、第3の限界周波数f3が193Hzとそれぞれ得られるため、ターゲット周波数範囲は193Hz〜580Hzであると得られる。
【0039】
以上のようにしてステップS31にて工作機械2の稼働のための回転速度に関するターゲット周波数範囲が算出される。
【0040】
ステップS32では、検出装置1によって、フィーダーシステム21におけるねじ軸が回転せずに停止している時の振動を検出して、該振動に応じて時間領域振動信号として生成しマイクロプロセッサ12に送信する。図10は、検出された時間領域振動信号を示している。
【0041】
ステップS33では、マイクロプロセッサ12により、ステップS32で受信した時間領域振動信号に基づいて、環境ノイズに関する平滑化信号を得る。該平滑化信号はターゲット周波数範囲に分布された複数のノイズ値を有する。
【0042】
この例では、ステップS33は更に下記のサブステップを有する(図9参照)。
【0043】
サブステップS331では、マイクロプロセッサ12を用いて、フーリエ変換を使用して時間領域振動信号を周波数範囲に分布された周波数領域振動信号に変換する。また、周波数領域振動信号は静的状態周波数範囲に分布され、該静的状態周波数範囲はターゲット周波数範囲よりも広い。図11は、図10の時間周波数振動信号による周波数領域振動信号を説明している。図11から静的状態周波数範囲は0〜1000Hzとなっていることが分かる。
【0044】
サブステップS332では、マイクロプロセッサ12を用い、周波数領域振動信号についての一部(本実施例では193〜580Hz)の対応する周波数範囲の上部包絡線を計算して包絡線信号を算出する。本例では、図12に示されたように、該周波数領域振動信号の一部と対応する周波数範囲はターゲット周波数範囲を超えて跨っている。
【0045】
サブステップS333では、マイクロプロセッサ12を用い、カーブを平滑化する曲線平滑化方法に基づいてサブステップS332で算出された包絡線信号を平滑化し、平滑化信号(図13参照)を得る。なお、カーブを平滑化する曲線平滑化方法は、移動平均フィルター又はローパスフィルターを使用してデータを平滑化する方法である。本例では、移動平均フィルターを使用してカーブを平滑化している。より具体的には、ユーザーにより設定された所定領域範囲(例えば±15Hz)に基づいて、包絡線信号のエネルギースペクトルを移動平均化して平滑化信号を算出する。
【0046】
以上のようにしてステップS33にて環境ノイズに関する平滑化信号が算出される。
【0047】
ステップS34では、マイクロプロセッサ12を用いて、ターゲット周波数範囲において平滑化信号における複数のノイズ振幅値において最小値が対応する周波数を計測周波数として求める。該計測周波数は平滑化信号における複数のノイズ振幅値の最小値に対応しており、例えば図13を参照すると、270Hzである。
【0048】
ステップS35では、マイクロプロセッサ12を用いて、ステップS34で得られた計測周波数に基づいてモーター22の参照回転速度を最適回転速度として算出する。
【0049】
この例では、f4を計測周波数値、ωb4を参照回転速度とそれぞれすると、参照回転速度ωb4を下記のように求められる。
【0050】
【数8】


但し、Ψ、α、α0、αi、β、rb、rmは前記式(1)〜(3)に用いられたものと同様である。また、この式(8)において求められた参照回転速度ωb4の単位は、回転毎秒(rev/s)である。
【0051】
ステップS36では、マイクロプロセッサ12を用いてステップS35で算出された該参照回転速度を含む信号をコントローラ23へ出力する。コントローラ23は入力された該参照回転速度に基づいてモーター制御信号を生成してモーター22に出力する。モーター22は入力されたモーター制御信号に基づいてフィーダーシステム21の送り軸におけるねじ軸等複数の回転部品をモーター制御信号に対応の参照回転速度で回転駆動させる。なお、ガイドレールはモーター22によって回転駆動されないことは言うまでもない。
【0052】
ステップS37では、モーター22がモーター制御信号に基づいてフィーダーシステム21のねじ軸を参照回転速度ωb4で回転駆動させる一方、振動センサー11が回転しているねじ軸の振動を検出する。
【0053】
ステップS38では、マイクロプロセッサ12を用いて該ねじ軸が回転している時の振動を検出した結果に基づいて動的状態振動信号を得る。
【0054】
図13は平滑化信号の波形を示している。図13中、縦軸は、ねじ軸が工作機械2自身の振動、外部環境又は商用電源の影響によって発生したノイズの大きさを指す。図13から計測周波数が270Hzであり、計測周波数と所定領域範囲(本実施例では±15Hz)とによる合計を参照計測周波数範囲、即ち270−15〜270+15=255〜285Hzとして得られている。
【0055】
このように計測周波数値が対応したノイズが最小であり、参照計測周波数範囲における対応するノイズは他の周波数範囲が対応したノイズよりも小である。これによって、フィーダーシステム21のねじ軸が該計測周波数に基づいて得られた参照回転速度で回転された時、振動センサー11が検出されたノイズが最小であることを推定することができる。他例では、計測周波数を中心とした範囲におけるある一つの周波数で該参照回転速度を算出することが可能である。これによって振動センサー11が検出されるノイズが相対的に小であることを確保することができる。
【0056】
なお、この例ではフィーダーシステム21の送り軸の測定対象であるねじ軸の稼働状態を検出することを説明したが、これに制限されない。他の例としては、検出装置1を用いてねじ軸のベアリングを検出対象として本発明に係る方法を実行してもよい。
【0057】
具体的には、図14に示されるように、振動センサー11はねじ軸のベアリングに電気的に連結されるように取り付けられている。また、第1〜第3の限界周波数及び参照回転速度は、上記の例と違って、下記のように求められる。
【0058】
具体的には、サブステップS311〜S314では、マイクロプロセッサ12を用いて対応する限界周波数と計測周波数をそれぞれ算出する。
【0059】
サブステップS311では、下記の(式9)により第1の限界周波数f1を算出する。
【0060】
サブステップS312では、下記の(式10)により第2の限界周波数f2を算出する。
【0061】
サブステップS313では、下記の(式11)により第3の限界周波数f3を算出する。
【0062】
【数9】
【0063】
【数10】
【0064】
【数11】
そして、ステップ35では、マイクロプロセッサ12を用いて下記の(式12)により参照回転速度ωb4を算出する。
【0065】
【数12】
但し、f1は第1の限界周波数を、f2は第2の限界周波数を、f3は第3の限界周波数を、f4は計測周波数をそれぞれ表し、ωb1はモーター22の所定ー最大回転速度を、ωb2はモーター22の送り軸の最大許容回転速度を、ωb3は所定最小回転速度を、ωb4は参照回転速度をそれぞれ表し、dをベアリングのボールの直径と、Dをベアリングのピッチ円直径と、α´をベアリングのボールとベアリングのインナーリング(図15)の接触角と、Zをベアリングのボール数とする。 d、D,α´、Zは送り軸の規格表から得られるものである。
【0066】
なお、モーター22の所定最大回転速度ωb1、所定最大許容回転速度ωb2、所定最小回転速度ωb3の単位がrpm(回転毎分)である場合、対応する式(9)、式(10)、式(11)に代入する際に、回転毎秒に変換しなければならない。また、参照回転速度ωb4の単位は、回転毎秒(revolutions per second,rps)である。
【0067】
上記のように、参照回転速度を算出したことで、モーター22によってフィーダーシステム21が該参照回転速度で回転駆動される。このように、ノイズ影響を低く抑えることができる状態で振動センサー11がベアリングの振動を検出する。
【0068】
本発明に係る方法の効果を帰納すると下記の通りである。
【0069】
(1)本発明に係る方法によれば参照回転速度を得ることができることによって、フィーダーシステム21が該参照回転速度で回転されると、フィーダーシステム21は環境ノイズによる影響を低く抑えることができる。また、振動センサー11が該参照回転速度で回転されているフィーダーシステム21における測定対象部品の振動を検出する時、環境ノイズによる影響を避けることができ、検出された動的状態振動信号がより精確である。従って、マイクロプロセッサ12がフィーダシステム21の測定対象が異常であるかどうかの判定を正しく行うことができ、検出精度を良好に保つことができる。
【0070】
(2)環境ノイズによってマイクロプロセッサ12の判定が影響されてしまうことを避けることができるので、本発明に係る方法を実行するにあたって振動センサー11は従来のように一般用センサーより高価な特殊な工業用センサー又は複数の一般用センサーを使用することなく、単一のセンサーを用いれば良い。従って、検出コストを低く抑えることができる。
【0071】
以上、本発明に係る方法についてはいくつの実施例を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明に係る振動検出方法は、工作機械の振動の変化に適応して検出する検出装置に有用である。
【符号の説明】
【0073】
1 検出装置
11 振動センサー
12 マイクロプロセッサ
2 工作機械
21 フィーダーシステム
22 モーター
23 コントローラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15