(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
(焼成用セッター10の構成)
図1は、焼成用セッター10の斜視図である。
図2は、
図1のA−A断面図である。
【0010】
焼成用セッター10は、焼成対象である被焼成物(不図示)を電気炉等で焼成する際に、被焼成物を載置するためのトレーである。被焼成物は特に限られないが、被焼成物としては、セラミック電子部品(例えば、セラミックコンデンサー、多層セラミック基板など)の一部を構成する成形体が挙げられる。成形体は、単層又は多層のグリーンシートによって構成されていてもよい。
【0011】
焼成用セッター10は、基材11と、被覆層12とを備える。
【0012】
基材11は、板状に形成される。基材11は、第1主面11S、第2主面11T、及び側面11Uを有する。第1主面11Sは、第2主面11Tの反対側に設けられる。第1主面11S上には、被覆層12が配置される。第2主面11Tは、焼成用セッター10の裏面である。側面11Uは、第1主面11S及び第2主面11Tそれぞれの外縁に連なる。
【0013】
基材11を平面視した場合の形状及びサイズは特に制限されず、被焼成物の形状及びサイズに対応していればよい。基材11の厚みは特に制限されず、被焼成物の重量に応じて設定することができる。
【0014】
基材11は、セラミックスを主成分とする。本実施形態において、組成物Xが物質Yを“主成分とする”とは、組成物X全体のうち、物質Yが70vol%以上を占めることを意味する。
【0015】
基材11を構成するセラミックスとしては、酸化物セラミックス又は非酸化物セラミックスを用いることができる。酸化物セラミックスとしては、例えばアルミナ(Al
2O
3)、ムライト(3Al
2O
3−2SiO
2)、ジルコニア(ZrO
2)、酸化マグネシウム(MgO)、及びイットリア(Y
2O
3)などが挙げられる。非酸化物セラミックスとしては、例えば、炭化珪素(SiC)、窒化珪素(Si
3N
4)、及び窒化アルミニウム(AlN)などが挙げられる。
【0016】
基材11は、緻密体または多孔質体である。基材11の気孔率は特に制限されないが、例えば0%以上60%以下とすることができる。基材11の気孔率は、アルキメデス法によって測定することができる。
【0017】
基材11は、焼結助材として酸化物、ガラスを含有していてもよい。
【0018】
被覆層12は、基材11上に配置される。本実施形態において、被覆層12は、基材11の第1主面11Sの全部を覆うように配置されている。ただし、被覆層12は、基材11の第1主面11Sのうち一部のみを覆うように配置されていてもよい。また、被覆層12は、基材11の第1主面11Sだけでなく、側面11Uの全部又は一部を覆っていてもよい。
【0019】
被覆層12は、被焼成物を載置するための載置面10Sを形成する。載置面10Sは、焼成用セッター10の表面である。本実施形態において、被覆層12は、載置面10Sの全部を形成している。ただし、被覆層12は、載置面10Sの一部のみを形成していてもよい。被覆層12が載置面10Sの一部のみを形成する場合、載置面10Sの残りの部分は基材11によって形成される。このように、載置面10Sの少なくとも一部は、被覆層12によって形成されている。このことは、被覆層12が載置面10Sの少なくとも一部に露出しているといってもよい。なお、被覆層12が載置面10Sの一部にのみ露出する場合であっても、載置面10Sは平面状に形成されることが好ましい。
【0020】
被覆層12は、セラミックスを主成分とする。被覆層12を構成するセラミックスとしては、基材11の主成分として用いることのできるセラミックスを使用することができる。被覆層12を構成するセラミックスの基本組成は、基材11を構成するセラミックスの組成と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0021】
被覆層12は、基材11に含まれない遷移元素(以下、「遷移元素」と略称する場合がある。)及び基材11に含まれない希土類元素(以下、「希土類元素」と略称する場合がある。)の少なくとも一方を含有する。遷移元素としては、例えば、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、銅(Cu)、及びチタン(Ti)などが挙げられるが、これに限られるものではない。希土類元素としては、例えば、ランタン(La)、セリウム(Ce)、及びガドリニウム(Gd)などが挙げられるが、これに限られるものではない。
【0022】
本明細書において、「基材11に含まれない」とは、対象物質が全く含まれていない場合(すなわち、対象物質がEDS分析で全く検出されない場合)だけでなく、対象物質を不可避的に不純物として含む場合を包含する概念である。具体的には、0wt%より大きく0.5wt%未満の範囲で対象物質を含む場合、当該対象物質は「基材11に含まれない」ということができる。
【0023】
被覆層12は、遷移元素及び希土類元素の一方のみを含有していてもよいし、遷移元素及び希土類元素の両方を含有していてもよい。被覆層12は、遷移元素を1種のみ含有していてもよいし、2種以上の遷移元素を含有していてもよい。被覆層12は、希土類元素を1種のみ含有していてもよいし、2種以上の希土類元素を含有していてもよい。被覆層12は、遷移元素及び希土類元素の少なくとも一方を化合物として含有していてもよい。遷移元素及び希土類元素の少なくとも一方は、主成分のセラミックスと固溶体を形成していてもよいし、主成分のセラミックスとともに化合物を構成していてもよい。
【0024】
被覆層12における基材11に含まれない遷移元素及び基材11に含まれない希土類元素の含有率は、10wt%以上である。これによって、載置面10Sに露出する被覆層12の色合いを基材11と異ならせることができる。具体的には、L*a*b*色空間(JIS8781-4:2013)において、被覆層12の色合い(ΔL*
1, Δa*
1, Δb*
1)と基材11の色合い(ΔL*
2, Δa*
2, Δb*
2)との色差ΔE*ab≧0.5とすることができる。この時、色差ΔE*abは下記の式(1)で与えられる。
【0025】
ΔE*ab=[(ΔL*)^2+(Δa*)^2+(Δb*)^2]^(1/2) ・・・(1)
【0026】
式(1)において、ΔL*、Δa*、Δb*は、以下の通り定義される。
ΔL*=ΔL*
1-ΔL*
2
Δa*=Δa*
1-Δa*
2
Δb*=Δb*
1-Δb*
2
【0027】
色合いの測定方法については、分光測色計(例えばCM−700d、コニカミノルタ製)を用い、基材11および被覆層12の色合いをL*a*b*色空間において測定し、任意の各5点においてL*、a*、b*を各々算術平均した値を該当部の色合いとする。色差ΔE*abは、測定した色合いから、上記式により求められる。
【0028】
このように、被覆層12の色合いと基材11の色合いとの色差ΔE*abを0.5以上にすることにより、焼成時、作業者が載置面10Sを容易に識別することができるので、効率的に焼成作業を行うことができる。
【0029】
被覆層12における基材11に含まれない遷移元素及び基材11に含まれない希土類元素の含有率は、35wt%以上であることがより好ましい。これにより、被覆層12の色合いと基材11の色合いとの色差ΔE*abを3.5以上にできるため、載置面10Sが更に容易に識別しやすくなる。
【0030】
本明細書において、「被覆層12における基材11に含まれない遷移元素及び基材11に含まれない希土類元素の含有率」とは、被覆層12が含有する基材11に含まれない遷移元素の含有率と、被覆層12が含有する基材11に含まれない希土類元素の含有率とを足し合わせた合計含有率である。従って、例えば、基材11に含まれない遷移元素を被覆層12が含有していない場合、「被覆層12における基材11に含まれない遷移元素及び基材11に含まれない希土類元素の含有率」は、被覆層12が含有する基材11に含まれない希土類元素の含有率と同じである。
【0031】
また、「被覆層12が含有する基材11に含まれない遷移元素の含有率」とは、被覆層12が2種以上の遷移元素を含有する場合、すべての遷移元素の含有率を足し合わせた合計含有率である。同様に、「被覆層12が含有する基材11に含まれない希土類元素の含有率」とは、被覆層12が2種以上の希土類元素を含有する場合、すべての希土類元素の含有率を足し合わせた合計含有率である。
【0032】
被覆層12における基材11に含まれない遷移元素及び基材11に含まれない希土類元素の含有率は、被覆層12の断面をEDSで解析することによって取得することができる。具体的には、被覆層12を厚み方向に5等分する4箇所において、基材11に含まれない遷移元素及び基材11に含まれない希土類元素の含有率をEDSで測定し、その測定値の平均値を被覆層12における基材11に含まれない遷移元素及び基材11に含まれない希土類元素の含有率とする。
【0033】
なお、被覆層12は、焼結助材として酸化物、ガラスを含有していてもよい。
【0034】
被覆層12の厚みは特に制限されないが、例えば3μm以上300μm以下とすることができる。被覆層12の気孔率は特に制限されないが、例えば0%以上60%以下とすることができる。被覆層12の気孔率は、アルキメデス法によって測定することができる。
【0035】
ここで、
図2に示すように、被覆層12が形成する載置面10Sは、凹凸を有することが好ましい。これによって、焼成時に載置面10Sと被焼成物との間に微小な隙間を設けることができるため、効率的に被焼成物を脱脂することができる。
【0036】
凸部の高さH1は、3μm以上50μm以下であることが好ましい。凸部間のピッチH2は、10μm以上100μm以下であることが好ましい。厚み方向に垂直な面方向における1mm当たりの凸部の個数は、10個以上100個以下であることが好ましい。凸部の高さH1及び凸部間のピッチH2は、被覆層12の断面を示すSEM画像において無作為に選出した5個の凸部についての測定値を算術平均することによって取得される。面方向における1mm当たりの凸部の個数は、被覆層12の断面を示すSEM画像を5箇所で取得し、各SEM画像を観察して得られる1mm当たりの凸部の個数を算術平均することによって取得される。
【0037】
(焼成用セッター10の製造方法)
基材11は、プレス成形法によって作製することができる。具体的には、まず、主成分としてのセラミックス粉末とバインダー(ポリビニルアルコール)と水を混練して坏土を得る。次に、坏土を油圧プレスで加圧(例えば、10MPa〜100MPa)することによって、基材11の成形体を形成する。
【0038】
基材11は、鋳込み成型法によっても作製することができる。具体的には、まず、主成分としてのセラミックス粉末と酸化物系分散剤と水を混合してスラリーを得る。次に、スラリーを石膏型で鋳込成形することによって、基材11の成形体を形成する。
【0039】
基材11は、テープ成型法によっても作製することができる。具体的には、まず、主成分としてのセラミックス粉末と分散剤と水を混合してスラリーを得る。次に、スラリーをドクターブレード法でテープ成形することによって、基材11の成形体を形成する。
【0040】
被覆層12は、テープ成型法によって作製することができる。具体的には、まず、基材11に含まれない遷移元素及び希土類元素の少なくとも一方を含む材料(例えば、遷移元素及び希土類元素の少なくとも一方を含む酸化物粉末)と分散剤と水を混合してスラリーを得る。この際、遷移元素の添加量を調整することによって、被覆層12における遷移元素の含有率を調整することができる。次に、スラリーをドクターブレード法でテープ成形することによって、被覆層12の成形体を形成する。
【0041】
次に、被覆層12の成形体を基材11の成形体上に配置して焼成(1000℃〜1700℃、1時間〜10時間)することによって、基材11と被覆層12とが形成される。
【0042】
次に、被覆層12の表面に凹凸を形成する場合には、被覆層12の表面にレーザーを用いてエンボス加工を施す。
【実施例】
【0043】
以下、本発明に係る焼成用セッターの実施例について説明するが、本発明は以下に説明する実施例には限定されない。
【0044】
(実施例1〜19)
まず、表1に示す基材の主成分としてのセラミックス粉末とバインダー(ポリビニルアルコール)と水を混練した坏土を油圧プレスで加圧(80MPa)することによって、基材の成形体を形成した。なお、実施例3では、9wt%のCeを添加物として加えた。
【0045】
次に、表1に示す被覆層用の酸化物粉末と分散剤と水を混合したスラリーをドクターブレード法でテープ成形することによって、被覆層の成形体を形成した。実施例2では、被覆層用の酸化物粉末として、基材の主成分と異なる基本組成を有する酸化物粉末を用いたが、実施例2以外では、基材の主成分と同じ基本組成を有する酸化物粉末を用いた。
【0046】
次に、被覆層の成形体を基材の成形体上に配置して共に焼成(1500℃、5時間)することによって、焼成用セッターを形成した。
【0047】
(比較例1〜4)
比較例1〜4では、基材に含まれない遷移元素及び基材に含まれない希土類元素を含まない酸化物粉末を用いて被覆層を形成した以外は、実施例1〜19と同じ手法で焼成用セッターを形成した。
【0048】
(被覆層における基材に含まれない遷移元素及び希土類元素の含有率)
実施例1〜19及び比較例1〜4について、被覆層の断面を厚み方向に5等分する4箇所において、基材に含まれない遷移元素及び基材に含まれない希土類元素の含有率をEDSで測定し、その測定値の平均値を求めた。
【0049】
被覆層における基材に含まれない遷移元素及び基材に含まれない希土類元素の含有率は、表1に示すとおり、被覆膜の材料として用いた酸化物に含まれる基材に含まれない遷移元素及び/又は希土類元素の含有率と同じであった。
【0050】
(被覆層の色合いと基材の色合いとの色差)
実施例1〜19及び比較例1〜4について、分光測色計(CM−700d、コニカミノルタ製)を用い、基材および被覆層の色合いをL*a*b*色空間において測定し、任意の各5点においてL*、a*、b*を各々算術平均した値を該当部の色合いとした。
【0051】
そして、色差ΔE*abを上述した式(1)から算出した。算出結果は、表1に示すとおりである。
【0052】
【表1】
【0053】
表1に示すように、実施例1〜19では、被覆層の色合いと基材の色合いとの色差ΔE*abを0.5以上にすることができたため、焼成用セッターの載置面(本実施例では、被覆層の表面)を容易に識別することができた。このような結果が得られたのは、実施例1〜19の被覆層に基材に含まれない遷移元素及び基材に含まれない希土類元素を10wt%以上含有させたためである。
【0054】
また、表1に示すように、実施例1〜19のうち、基材に含まれない遷移元素及び基材に含まれない希土類元素を35wt%以上含有させたものでは、被覆層の色合いと基材の色合いとの色差ΔE*abを3.5以上にできたため、載置面を更に容易に識別することができた。
【解決手段】焼成用セッター10は、基材11と、被覆層12とを備える。基材11は、セラミックスを主成分とする。被覆層12は、基材11上に形成される。被覆層12は、セラミックスを主成分とし、基材に含まれない遷移元素及び基材に含まれない希土類元素の少なくとも一方を含有する。被覆層12における遷移元素ないし希土類元素の含有率は、10wt%以上である。