(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る電気化学セル用金属部材の一例である集電部材を用いたセルスタック装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0020】
図1及び
図2に示すように、セルスタック装置100は、燃料マニホールド200と、複数の燃料電池セル300と、を備えている。
【0021】
[燃料マニホールド]
図3に示すように、燃料マニホールド200は、燃料ガス(例えば、水素など)を各燃料電池セル300に分配するように構成されている。燃料マニホールド200は、中空状であり、内部空間を有している。燃料マニホールド200の内部空間には、導入管201を介して燃料ガスが供給される。燃料マニホールド200は、互いに間隔をあけて並ぶ複数の挿入孔202を有している。各挿入孔202は、燃料マニホールド200の天板203に形成されている。各挿入孔202は、燃料マニホールド200の内部空間と外部に連通する。
【0022】
[燃料電池セル]
図2に示すように、各燃料電池セル300は、燃料マニホールド200から延びている。詳細には、各燃料電池セル300は、燃料マニホールド200の天板203から上方(x軸方向)に延びている。すなわち、各燃料電池セル300の長手方向(x軸方向)は、上方に延びている。各燃料電池セル300の長手方向(x軸方向)の長さは、100〜300mm程度とすることができる。
【0023】
各燃料電池セル300の基端部は、燃料マニホールド200の挿入孔202に挿入されている。各燃料電池セル300は、接合材101によって挿入孔202に固定されている。燃料電池セル300は、挿入孔202に挿入された状態で、接合材101によって燃料マニホールド200に固定されている。接合材101は、燃料電池セル300と挿入孔202の隙間に充填される。接合材101としては、例えば、結晶化ガラス、非晶質ガラス、ろう材、及びセラミックスなどが挙げられる。結晶化ガラスとは、全体積に対する「結晶相が占める体積」の割合(結晶化度)が60%以上であり、全体積に対する「非晶質相及び不純物が占める体積」の割合が40%未満のガラスである。このような結晶化ガラスとしては、例えば、SiO
2−B
2O
3系、SiO
2−CaO系、又はSiO
2−MgO系が挙げられる。
【0024】
各燃料電池セル300は、長手方向(x軸方向)及び幅方向(y軸方向)に広がる板状に形成されている。各燃料電池セル300は、配列方向(z軸方向)に間隔をあけて配列されている。隣り合う2つの燃料電池セル300の間隔は特に制限されないが、1〜5mm程度とすることができる。隣り合う2つの燃料電池セル300は、集電部材310によって電気的に接続されている。複数の燃料電池セル300が集電部材310で接続されることによってセルスタックが形成されている。集電部材310の構成については後述する。
【0025】
燃料電池セル300は、複数の発電素子部10と、支持基板20とを備える。
【0026】
[支持基板]
図4に示すように、支持基板20は、支持基板20の長手方向(x軸方向)に沿って延びる複数のガス流路21を内部に有している。各ガス流路21は、支持基板20の基端側から先端側に向かって延びている。各ガス流路21は、互いに実質的に平行に延びている。なお、基端側とは、ガス流路のガス供給側を意味する。具体的には、燃料マニホールド200に燃料電池セル300を取り付けた場合において、その燃料マニホールド200に近い側を意味する。また、先端側とは、ガス流路のガス供給側とは反対側を意味する。具体的には、燃料電池セル300を燃料マニホールド200に取り付けた場合において、その燃料マニホールド200から遠い側を意味する。例えば、
図2に示す例では、下側が基端側であり、上側が先端側となる。
【0027】
図5に示すように、支持基板20は、複数の第1凹部22を有する。本実施形態において、各第1凹部22は、支持基板20の両主面に形成されているが、一方の主面にだけ形成されていてもよい。各第1凹部22は支持基板20の長手方向において互いに間隔をあけて配置されている。
【0028】
支持基板20は、電子伝導性を有さない多孔質の材料によって構成される。支持基板20は、例えば、CSZ(カルシア安定化ジルコニア)から構成され得る。或いは、支持基板20は、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成されてもよいし、NiO(酸化ニッケル)とY
2O
3(イットリア)とから構成されてもよいし、MgO(酸化マグネシウム)とMgAl
2O
4(マグネシアアルミナスピネル)とから構成されてもよい。支持基板20の気孔率は、例えば、20〜60%程度である。
【0029】
[発電素子部]
各発電素子部10は、支持基板20に支持されている。本実施形態において、各発電素子部10は、支持基板20の両主面に形成されているが、一方の主面にだけ形成されていてもよい。各発電素子部10は、支持基板20の長手方向において、互いに間隔をあけて配置されている。すなわち、本実施形態に係る燃料電池セル300は、いわゆる横縞型の燃料電池である。長手方向に隣り合う発電素子部10は、インターコネクタ31によって互いに電気的に接続されている。
【0030】
発電素子部10は、燃料極4、電解質5、及び空気極6を有している。また、発電素子部10は、反応防止膜7をさらに有している。
【0031】
[燃料極]
燃料極4は、電子伝導性を有する多孔質の材料から構成される焼成体である。燃料極4は、燃料極集電部41と燃料極活性部42とを有する。
【0032】
燃料極集電部41は、第1凹部22内に配置されている。詳細には、燃料極集電部41は、第1凹部22内に充填されており、第1凹部22と同様の外形を有する。燃料極集電部41は、第2凹部411及び第3凹部412を有している。第2凹部411内には、燃料極活性部42が配置されている。また、第3凹部412には、インターコネクタ31が配置されている。
【0033】
燃料極集電部41は、電子伝導性を有する。燃料極集電部41は、燃料極活性部42よりも高い電子伝導性を有していることが好ましい。燃料極集電部41は、酸素イオン伝導性を有していてもよいし、有していなくてもよい。
【0034】
燃料極集電部41は、例えば、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成され得る。或いは、燃料極集電部41は、NiO(酸化ニッケル)とY
2O
3(イットリア)とから構成されてもよいし、NiO(酸化ニッケル)とCSZ(カルシア安定化ジルコニア)とから構成されてもよい。燃料極集電部41の厚さ、及び第1凹部22の深さは、50〜500μm程度である。
【0035】
燃料極活性部42は、酸素イオン伝導性を有するとともに、電子伝導性を有する。燃料極活性部42は、燃料極集電部41よりも酸素イオン伝導性を有する物質の含有率が大きい。詳細には、燃料極活性部42における、気孔部分を除いた全体積に対する酸素イオン伝導性を有する物質の体積割合は、燃料極集電部41における、気孔部分を除いた全体積に対する酸素イオン伝導性を有する物質の体積割合よりも大きい。
【0036】
燃料極活性部42は、例えば、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成され得る。或いは、燃料極活性部42は、NiO(酸化ニッケル)とGDC(ガドリニウムドープセリア)とから構成されてもよい。燃料極活性部42の厚さは、5〜30μmである。
【0037】
[電解質]
電解質5は、燃料極4上を覆うように配置されている。詳細には、電解質5は、あるインターコネクタ31から隣のインターコネクタ31まで長手方向に延びている。すなわち、支持基板20の長手方向(x軸方向)において、電解質5とインターコネクタ31とが交互に連続して配置されている。電解質5は、支持基板20の第1及び第2主面を覆うように構成されている。
【0038】
電解質5は、イオン伝導性を有し且つ電子伝導性を有さない緻密な材料から構成される焼成体である。電解質5は、例えば、YSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)から構成され得る。或いは、電解質5は、LSGM(ランタンガレート)から構成されてもよい。電解質5の厚さは、例えば、3〜50μm程度である。
【0039】
[反応防止膜]
反応防止膜7は、緻密な材料から構成される焼成体である。反応防止膜7は、電解質5と空気極活性部61との間に配置されている。反応防止膜7は、電解質5内のYSZと空気極6内のSrとが反応して電解質5と空気極6との界面に電気抵抗が大きい反応層が形成される現象の発生を抑制するために設けられている。
【0040】
反応防止膜7は、希土類元素を含むセリアを含んだ材料から構成されている。反応防止膜7は、例えば、GDC=(Ce,Gd)O
2(ガドリニウムドープセリア)から構成され得る。反応防止膜7の厚さは、例えば、3〜50μm程度である。
【0041】
[空気極]
空気極6は、電子伝導性を有する多孔質の材料から構成される焼成体である。空気極6は、電解質5を基準にして、燃料極4と反対側に配置されている。空気極6は、空気極活性部61と空気極集電部62とを有している。
【0042】
空気極活性部61は、反応防止膜7上に配置されている。空気極活性部61は、酸素イオン伝導性を有するとともに、電子伝導性を有する。空気極活性部61は、空気極集電部62よりも酸素イオン伝導性を有する物質の含有率が大きい。詳細には、空気極活性部61おける、気孔部分を除いた全体積に対する酸素イオン伝導性を有する物質の体積割合は、空気極集電部62における、気孔部分を除いた全体積に対する酸素イオン伝導性を有する物質の体積割合よりも大きい。
【0043】
空気極活性部61は、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O
3(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)から構成され得る。或いは、空気極活性部61は、LSF=(La,Sr)FeO
3(ランタンストロンチウムフェライト)、LNF=La(Ni,Fe)O
3(ランタンニッケルフェライト)、又は、LSC=(La,Sr)CoO
3(ランタンストロンチウムコバルタイト)等から構成されてもよい。空気極活性部61は、LSCFから構成される第1層(内側層)とLSCから構成される第2層(外側層)との2層によって構成されてもよい。空気極活性部61の厚さは、例えば、10〜100μmである。
【0044】
空気極集電部62は、空気極活性部61上に配置されている。また、空気極集電部62は、空気極活性部61から、隣の発電素子部に向かって延びている。燃料極集電部41と空気極集電部62とは、発電領域から互いに反対側に延びている。発電領域とは、燃料極活性部42と電解質5と空気極活性部61とが重複する領域である。
【0045】
空気極集電部62は、電子伝導性を有する多孔質の材料から構成される焼成体である。空気極集電部62は、空気極活性部61よりも高い電子伝導性を有していることが好ましい。空気極集電部62は、酸素イオン伝導性を有していてもよいし、有していなくてもよい。
【0046】
空気極集電部62は、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O
3(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)から構成され得る。或いは、空気極集電部62は、LSC=(La,Sr)CoO
3(ランタンストロンチウムコバルタイト)から構成されてもよい。或いは、空気極集電部62は、Ag(銀)、Ag−Pd(銀パラジウム合金)から構成されてもよい。空気極集電部62の厚さは、例えば、50〜500μm程度である。
【0047】
[インターコネクタ]
インターコネクタ31は、支持基板20の長手方向(x軸方向)に隣り合う発電素子部10を電気的に接続するように構成されている。詳細には、一方の発電素子部10の空気極集電部62は、他方の発電素子部10に向かって延びている。また、他方の発電素子部10の燃料極集電部41は、一方の発電素子部10に向かって延びている。そして、インターコネクタ31は、一方の発電素子部10の空気極集電部62と、他方の発電素子部10の燃料極集電部41とを電気的に接続している。インターコネクタ31は、燃料極集電部41の第3凹部412内に配置されている。詳細には、インターコネクタ31は、第3凹部412内に埋設されている。
【0048】
インターコネクタ31は、電子伝導性を有する緻密な材料から構成される焼成体である。インターコネクタ31は、例えば、LaCrO
3(ランタンクロマイト)から構成され得る。或いは、インターコネクタ31は、(Sr,La)TiO
3(ストロンチウムチタネート)から構成されてもよい。インターコネクタ31の厚さは、例えば、10〜100μmである。
【0049】
[集電部材]
図6に示すように、隣接する2つの燃料電池セル300(第1燃料電池セル300a及び第2燃料電池セル300b)は、集電部材310によって電気的に接続される。集電部材310は、第1燃料電池セル300aと第2燃料電池セル300bの間に配置される。集電部材310は、支持基板20の両主面に配置された複数の発電素子部10のうち、最も基端側に配置された基端側発電素子部10aよりも基端側に配置されている。
【0050】
集電部材310は、第1燃料電池セル300a及び第2燃料電池セル300bそれぞれの基端側に接合される。詳細には、集電部材310は、導電性接合材102を介して、第1燃料電池セル300aの基端側発電素子部10aから延びる電気的接続部110と、第2燃料電池セル300bの基端側発電素子部10aから延びる空気極集電部62とに接合される。なお、この第1燃料電池セル300aと、導電性接合材102と、集電部材310とで、電気化学セル組立体を構成している。
【0051】
導電性接合材102としては、周知の導電性セラミックス等を用いることができる。例えば、導電性接合材102は、(Mn,Co)
3O
4、(La,Sr)MnO
3、及び(La,Sr)(Co,Fe)O
3などから選ばれる少なくとも1種によって構成することができる。
【0052】
図7は、集電部材310の斜視図である。
図7では、集電部材310が第1燃料電池セル300aに接合された状態が示されている。
図7では、第2燃料電池セル300bが省略されているが、実際には第1燃料電池セル300aと対向するように第2燃料電池セル300bが配置されている。
【0053】
集電部材310は、板状である。例えば、集電部材310は、折り曲げ加工された金属板(例えば、ステンレス板)によって構成することができる。集電部材310は、第1接合部311、第2接合部312、第1連結部313、及び第2連結部314を有する。
【0054】
第1接合部311は、第1燃料電池セル300aに接合される。詳細には、第1接合部311は、導電性接合材102によって、第1燃料電池セル300aの基端側発電素子部10a(
図6参照)から延びる電気的接続部110に接合される。なお、電気的接続部110は、第1接続部111と第2接続部112を有している。第1接続部111は、上述したインターコネクタ31と同様の構成及び材質とすることができる。また、第2接続部112は、上述した空気極集電部62と同様の材料から構成することができる。第2接続部112は、第1接続部111と電気的に接続されており、下方へと延びている。
【0055】
第1接合部311は、平板状に形成される。本実施形態において、第1接合部311は、幅方向に延びる矩形に形成されているが、第1接合部311の形状に特に制限はなく、三角以上の多角形、円形、楕円形、或いは、これら以外の複雑形状であってもよい。
【0056】
第1接合部311には、複数の第1貫通孔315が形成される。各第1貫通孔315には、導電性接合材102が充填されている。これによって、第1燃料電池セル300aに対する第1接合部311の接合力を向上させることができる。導電性接合材102は、各第1貫通孔315から外側に突出していてもよく、さらに第1接合部311の外表面上に広がっていてもよい。
【0057】
本実施形態において、各第1貫通孔315は、幅方向に沿って延びる矩形状に形成されているが、各第1貫通孔315の形状に特に制限はなく、円形、楕円形、三角以上の多角形、又は、これら以外の複雑形状であってもよい。また、本実施形態では、3個の第1貫通孔315が設けられているが、第1貫通孔315の個数及び位置は適宜変更可能である。
【0058】
第2接合部312は、第1接合部311と電気的に接続される。第2接合部312は、第2燃料電池セル300bに接合される。詳細には、第2接合部312は、導電性接合材102によって、第2燃料電池セル300bの基端側発電素子部10a(
図6参照)から延びる空気極集電部62に接合される。第2接合部312は、配列方向において第1接合部311と対向する。
【0059】
第2接合部312は、平板状に形成される。本実施形態において、第2接合部312は、第1接合部311と同様の形状を有しているが、第1接合部311と異なる形状であってもよい。第2接合部312の形状に特に制限はなく、三角以上の多角形、円形、楕円形、或いは、これら以外の複雑形状であってもよい。
【0060】
第2接合部312には、複数の第2貫通孔316が形成される。各第2貫通孔316には、導電性接合材102が充填されている。これによって、第2燃料電池セル300bに対する第2接合部312の接合力を向上させることができる。導電性接合材102は、各第2貫通孔316から外側に突出していてもよく、さらに第2接合部312の外表面上に広がっていてもよい。
【0061】
本実施形態において、各第2貫通孔316は、幅方向に沿って延びる矩形状に形成されているが、各第2貫通孔316の形状に特に制限はなく、円形、楕円形、三角以上の多角形、又は、これら以外の複雑形状であってもよい。また、本実施形態では、3個の第2貫通孔316が設けられているが、第2貫通孔316の個数及び位置は適宜変更可能である。
【0062】
第1及び第2連結部313,314は、それぞれ第1接合部311と第2接合部312とに連結される。本実施形態において、第1及び第2連結部313,314は、それぞれ湾曲しているが、これに限られない。第1及び第2連結部313,314は、それぞれ平板状であってもよいし、少なくとも1箇所で屈曲する形状であってもよい。
【0063】
また、本実施形態では、第1及び第2連結部313,314が、集電部材310の両端部に配置されているが、第1及び第2連結部313,314の位置は特に制限されない。
【0064】
[接合部の断面形状]
図8は、
図7のA−A断面の拡大図である。
図8では、第1接合部311のうち、隣り合う第1貫通孔315間の部分の断面図を示している。
【0065】
集電部材310の第1接合部311は、第1主面Sa1、第2主面Sa2、及び一対の側面Sa3を有する。なお、第1接合部311が、本発明の本体部に相当する。第1接合部311の厚さは、例えば、0.1〜2.0mm程度である。
【0066】
第1接合部311の第1主面Sa1は、第1燃料電池セル300a側を向いている。第1接合部311の第1主面Sa1は、第1燃料電池セル300aに導電性接合材102を介して接合される。
【0067】
第2主面Sa2は、第1主面Sa1と反対側を向いている。すなわち、第2主面Sa2は、第1燃料電池セル300aと第2燃料電池セル300bとの間の空間を向いている。なお、第1燃料電池セル300aと第2燃料電池セル300bとの間など、燃料電池セル300の外側面に空気などの酸化剤ガスを流す際、第2主面Sa2は、この酸化剤ガスが流れる空間を向いている。
【0068】
第2主面Saの面積は、第1主面Sa1の面積よりも小さい。例えば、第2主面Sa2の面積は、第1主面Sa1の面積の50.00〜99.99%程度とすることができる。ここで、第1主面Sa1又は第2主面Sa2の面積とは、
図9に示すように、一対の側面Sa3に囲まれた部分(
図9の網掛け部分)における面積を言う。また、第1主面Sa1の面積に対する第2主面Sa2の面積の割合は、例えば、次のようにして求めることができる。まず、一対の側面Sa3に囲まれた部分を、側面Sa3が延びる方向(y軸方向)に沿って10等分したそれぞれの位置において、
図10に示すような第1主面Sa1及び第2主面Sa2と直交する断面(xz断面)を作成する。この9個の断面のそれぞれにおいて、第1主面Sa1の長さL1及び第2主面Sa2の長さL2を測定する。そして、この第1主面Sa1の各長さL1の平均値に対する、第2主面Sa2の長さL2の平均値の割合を、第1主面Sa1の面積に対する第2主面Sa2の面積の割合とする。
【0069】
一対の側面Sa3は、第1接合部311の厚さ方向(z軸方向)に延びる面である。各側面Sa3は、第1主面Sa1と第2主面Sa2との間を延びている。各側面Sa3は、第2主面Sa2に向かって互いに近付くように傾斜している。例えば、側面Sa3と第1主面Sa1とがなす角度αは、45.0〜89.9度程度とすることができる。このように、第1主面Sa1,第2主面Sa2、及び一対の側面Sa3によって囲まれた第1接合部311の断面形状は、台形状となっている。
【0070】
側面Sa3と第2主面Sa2とがなす角度βは、鈍角である。具体的には、側面Sa3と第2主面Sa2とがなす角度βは、90.1〜135.0度程度とすることができる。なお、
図8に示す側面Sa3は、第1貫通孔315を画定する内壁面である。
【0071】
なお、角度α及び角度βの測定方法は、例えば、上述した第1主面Sa1の面積に対する第2主面Sa2の面積の割合を求める際に取得した断面から求めることができる。詳細には、各断面において、第1主面Sa1及び側面Sa3をそれぞれ最小二乗法で近似した直線を求め、この各直線がなす角度の平均値を角度αとする。同様に、各断面において第2主面Sa2及び側面Sa3をそれぞれ最小二乗法で近似した直線を求め、この各直線がなす角度の平均値を角度βとする。
【0072】
側面Sa3は、第1領域R1と第2領域R2とを有している。第1領域R1は、側面Sa3のうち、第1主面Sa1側の領域である。すなわち、第1領域R1は、側面Sa3のうち、第1燃料電池セル300a側の領域である。特に限定されるものではないが、例えば、第1領域R1は、側面Sa3のうち、10〜90%程度の範囲を占めている。
【0073】
第2領域R2は、側面Sa3のうち、第2主面Sa2側の領域である。すなわち、第2領域R2は、側面Sa3のうち、第1燃料電池セル300aから離れた側の領域である。特に限定されるものではないが、例えば、第2領域R2は、側面Sa3のうち、10〜90%程度の範囲を占めている。
【0074】
第1接合部311は、Cr(クロム)を含有する合金材料によって構成される。このような金属材料としては、Fe−Cr系合金鋼(ステンレス鋼など)及びNi−Cr系合金鋼などを用いることができる。第1接合部311におけるCrの含有割合は特に制限されないが、4〜30質量%とすることができる。
【0075】
第1接合部311は、Ti(チタン)やAl(アルミニウム)を含有していてもよい。第1接合部311におけるTiの含有割合は特に制限されないが、0.01〜1.0at.%とすることができる。第1接合部311におけるAlの含有割合は特に制限されないが、0.01〜0.4at.%とすることができる。第1接合部311は、TiをTiO
2(チタニア)として含有していてもよいし、AlをAl
2O
3(アルミナ)として含有していてもよい。
【0076】
なお、第2接合部312、第1連結部313、及び第2連結部314も第1接合部311と同様の材料によって構成することができる。
【0077】
集電部材310は、被覆層317を有している。被覆層317は、第1接合部311、第2接合部312,第1連結部313,及び第2連結部314を覆っている。このように被覆層317が第1接合部311、第2接合部312、第1連結部313、及び第2連結部314を覆うことによって、これらからのCrの揮発を抑制することができる。この結果、各燃料電池セル300の空気極6におけるCr被毒を抑制する。
【0078】
詳細には、被覆層317は、第1接合部311の第1主面Sa1、第2主面Sa2、及び側面Sa3上に形成されている。被覆層317の厚みは特に制限されないが、例えば1.0〜200μmとすることができる。
【0079】
側面Sa3上において、第1領域R1における被覆層317の厚さと、第2領域R2における被覆層317の厚さとは互いに異なっていてもよい。例えば、第2領域R2における被覆層317の厚さは、第1領域R1における被覆層317の厚さよりも厚い。この場合、第2領域R2における被覆層317の厚さは、1.1〜200μm程度とし、第1領域R1における被覆層317の厚さは、1.0〜100μm程度とすることができる。第1領域R1における被覆層317の厚さに対する、第2領域R2における被覆層317の厚さの割合は、1.1〜50程度とすることができる。なお、被覆層317の厚さは、例えば、被覆層形成用スラリーを塗布する際の厚みを調整することによって、第2領域R2における厚さを第1領域R1における厚さよりも厚く調整することができる。
【0080】
第1領域R1における被覆層317の厚さは、次のようにして測定することができる。まず、第1接合部311を樹脂埋めした後に第1主面Sa1と平行に機械研磨する。詳細には、第1接合部311の厚さTの2.5%(T/40)ずつ3回に分けて第1主面Sa1側から研磨する。そして、3回の研磨ごとに、SEM観察することで得られた断面形状から画像処理によって、任意の10箇所において被覆層317の厚さを測定する。そして、この計30点の被覆層317の厚さの平均値を、第1領域R1における被覆層317の厚さとする。
【0081】
また、第2領域R2における被覆層317の厚さは、次のようにして測定することができる。まず、第1接合部311を樹脂埋めした後に第2主面Sa2と平行に機械研磨する。詳細には、第1接合部311の厚さTの2.5%(T/40)ずつ3回に分けて第2主面Sa2側から研磨する。そして、3回の研磨ごとに、SEM観察することで得られた断面形状から画像処理によって、任意の10箇所において被覆層317の厚さを測定する。そして、この計30点の被覆層317の厚さの平均値を、第2領域R2における被覆層317の厚さとする。
【0082】
被覆層317を構成する材料としては、セラミックス材料を用いることができる。セラミックス材料の具体的な種類は、適用箇所に応じて適宜選択することができる。本実施形態では、集電部材310に導電性が求められるため、セラミックス材料としては、LaおよびSrを含有するペロブスカイト形複合酸化物、Mn,Co,Ni,Fe,Cu等の遷移金属から構成されるスピネル型複合酸化物などを用いることができる。ただし、被覆層317は、Crの揮発を抑制できればよく、その構成材料はセラミックス材料に限られない。
【0083】
導電性接合材102は、被覆層317を介して、第1接合部311の第1主面Sa1の全体を覆うとともに、側面Sa3を覆っている。なお、導電性接合材102は、被覆層317を介して、側面Sa3のうち第1領域R1を主に覆っている。そして、導電性接合材102は、側面Sa3のうち、第2領域R2側の一部のみを覆っている。もしくは、導電性接合材102は、第2領域R2を覆っていない。
【0084】
以上、集電部材310の第1接合部311の構成について説明したが、この構成は、集電部材310の第2接合部312にも適用することが好ましい。
【0085】
(実施形態の変形例)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0086】
変形例1
上記実施形態では、本発明に係る電気化学セル用金属部材の実施形態である集電部材310を横縞型の燃料電池セルに適用した場合について説明したが、いわゆる縦縞型の燃料電池セルなどにも適用することができる。縦縞型の燃料電池セルは、導電性の支持基板と、支持基板の一主面上に配置される発電部(燃料極、固体電解質層及び空気極)と、支持基板の他主面上に配置されるインターコネクタとを備える。また、本発明に係る電気化学セル用金属部材は、燃料電池のほか、固体酸化物型の電解セルを含む固体酸化物型の電気化学セルにも適用可能である。
【0087】
変形例2
上記実施形態において、第1及び第2接合部311,312は、第1及び第2連結部313,314によって連結されることとしたが、これに限られない。集電部材310は、電気的に接続された第1及び第2接合部311,312を有していればよく、第1及び第2接合部311,312の連結手段は制限されない。例えば、第1及び第2接合部311,312は、3つ以上の連結部によって連結されていてもよいし、1つの連結部によって連結されていてもよい。
【0088】
変形例3
第1接合部311は、第1貫通孔315を有していなくてもよい。この場合、第1接合部311の側面Sa3は、第1接合部311の外縁を構成する側面である。第2接合部312も同様に第2貫通孔316を有していなくてもよい。
【0089】
変形例4
集電部材310は、酸化膜をさらに有していてもよい。例えば、第1接合部311は、酸化膜によって覆われており、その酸化膜の上から被覆層が覆っていることが好ましい。例えば、第1接合部311は、酸化クロム膜によって覆われている。酸化クロム膜は、酸化クロムによって構成される。酸化クロム膜の厚みは特に制限されないが、例えば0.5〜10μmとすることができる。この場合、被覆層317は、酸化クロム膜上に形成される。
【0090】
変形例5
本発明の電気化学セル用金属部材は、集電部材310に限定されない。例えば、本発明の電気化学セル用金属部材は、配列方向の端部に配置される燃料電池セルから電流を取り出すための端部集電部材であってもよい。
【0091】
変形例6
図11に示すように、第1領域R1における被覆層317の厚さは、第2領域R2における被覆層317の厚さよりも厚くなるように構成されていてもよい。この場合、第1領域R1における被覆層317の厚さは、1.1〜200μm程度とし、第2領域R2における被覆層317の厚さは、1.0〜100μm程度とすることができる。第2領域R2における被覆層317の厚さに対する、第1領域R1における被覆層317の厚さの割合は、1.1〜50程度とすることができる。
【0092】
変形例7
第1接合部311の側面Sa3において、第2領域R2における表面粗さは、第1領域R1における表面粗さよりも大きくすることができる。詳細には、第2領域R2における算術平均粗さは、第1領域R1における算術平均粗さよりも大きくすることができる。この構成によれば、側面Sa3において、第1領域Sa1よりも第2領域Sa2の方に重点的に被覆層317が形成されやすくなる。
【0093】
例えば、ブラスト加工によって、第2領域R2における算術平均粗さを、第1領域R1における算術平均粗さよりも大きくすることができる。詳細には、
図12に示したように、第1接合部311の第2主面Sa2をマスキングし、第2主面Sa2側を上にした状態で斜め上方から研磨材を打ち付ける。なお、
図12の矢印は研磨剤の吐出方向を示している。このブラスト加工によって、第2領域R2における算術平均粗さを、第1領域R1における算術平均粗さよりも大きくすることができる。なお、特に限定されるものではないが、側面Sa3の第2領域R2における表面粗さは、第1及び第2主面Sa1,Sa2の表面粗さよりも大きい。
【0094】
例えば、第2領域R2における算術平均粗さは、0.12〜10μm程度であり、第1領域R1における算術平均粗さは0.10〜2.0μm程度である。また、第1領域R1における算術平均粗さに対する第2領域R2における算術平均粗さの比率は1.2〜30程度とすることが好ましい。
【0095】
なお、以下のようにして、第1領域R1の表面粗さを測定することができる。まず、第1接合部311を樹脂埋めした後に第1主面Sa1と平行に機械研磨する。詳細には、第1接合部311の厚さTの2.5%(T/40)ずつ3回に分けて第1主面Sa1側から研磨する。そして、3回の研磨ごとに、SEM観察することで得られた断面形状から画像処理によって第1領域R1における表面粗さ(算術平均粗さ)を測定する。そして、この3つの表面粗さ(算術平均粗さ)を平均した値を第1領域R1の表面粗さとすることができる。
【0096】
また、以下のようにして、第2領域R2の表面粗さを測定することができる。まず、第1接合部311を樹脂埋めした後に第2主面Sa2と平行に機械研磨する。詳細には、第1接合部311の厚さTの2.5%(T/40)ずつ3回に分けて第2主面Sa2側から研磨する。そして、3回の研磨ごとに、SEM観察することで得られた断面形状から画像処理によって第2領域R2における表面粗さ(算術平均粗さ)を測定する。そして、この3つの表面粗さ(算術平均粗さ)を平均した値を第2領域R2の表面粗さとすることができる。
【0097】
変形例8
図13は、第1接合部311の側面Sa3の拡大図である。
図13に示すように、第1接合部311は、第1領域R1と第2領域R2との間に形成される段差部318を有している。段差部318は、第2主面Sa2が向く方向(
図13の上方向)を向いている。この場合、側面Sa3は、第2主面Sa2に向かって互いに近付くように傾斜していてもよいし、傾斜していなくてもよい。
【0098】
段差部318は、例えば、1〜400μm程度の段差(x軸方向の寸法)である。段差部318は、側面Sa3が延びる方向(y軸方向)において、連続して延びていてもよいし、断続的に形成されていてもよい。この段差部318は、例えば、所望の段差形状が付与された金型によりプレス加工することによって形成することができる。
【0099】
図14に示すように、側面Saにおいて第1領域R1と第2領域R2とが互いに重複するように段差部318が構成されていてもよい。詳細には、側面Sa3と直交する方向(x軸方向)に沿って側面Sa3を見た場合において、第1領域R1の第2主面Sa2側の端部R11と、第2領域R2の第1主面Sa1側の端部R21とが互いに重複するように段差部318が構成されている。
【解決手段】電気化学セル用金属部材310は、本体部311及び被覆層317を備えている。本体部311は、第1主面Sa1、第2主面Sa2、及び一対の側面Sa3を有する。第1主面Sa1は、電気化学セル300a側を向いている。第2主面Sa2は、第1主面Sa1と反対側の主面である。被覆層317は、本体部311を覆っている。第2主面Sa2の面積は、第1主面Sa1の面積よりも小さい。